追悼:ヴォーン・オリバー
もうすぐ正月という12月30日にイギリスのデザイナー、ヴォーン・オリバー死去の知らせが届きました。62歳という僕とほぼ同年齢で、死因は脳出血のようです。 |
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ヴォーン・オリバー(Vaughan Oliver)は1957年、イギリスのちょうど真ん中へんにあるイングランド北東部ダラムで生まれました。本人曰く「なんにもない退屈な田舎町の、ただの労働者階級のガキだった」そうで、アーティスティックなものはすべてレコードジャケットから学んだといいます。ニューカッスル・アポン・タインのポリテクニック(現ノーザンブリア大学)でデザインを専攻したのち、1982年にロンドンに出て、発足したばかりの4ADで専属デザイナーとして最初の契約社員になりました。僕が初めてヴォーンに会ったころも、仕事場は4ADの一室にありました。大竹くんと遊びに行ったのですが、お土産に持っていったシャグズのLPだかCDだかをかけたところ、あちこちの部屋から「止めてくれ!」と悲痛な叫びが上がったのも楽しい思い出です。 |
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これからお読みいただくように、ヴォーン・オリバーは2018年に大部の作品集『Vaughan Oliver: Archive』を出版しますが、それ以前にも数冊のカタログが出ています。といっても彼の業績から言えば少なすぎるのですが、ヴォーンはあくまでもジャケットやポスターのような仕事が好きで、立派な作品集で自分の仕事をひけらかすようなことに、まったく興味を持たなかったのでしょう。 |
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アルバムやCDはもちろんとして、いまもネット書店などでいくつかヴォーンの仕事を探すことができますが、ひとつ挙げれば23 Envelope / v23 の1988年から94年までの仕事をまとめた、1994年ロサンジェルスでの展覧会に際して制作された大判の作品集『This Rimy River』があります。いま手元にはヴォーンからもらった限定400部の特装版があり(通常の版に金と黒2色の大胆な文字版を乗せたもの、1996年刊)、僕には大切な一冊ですが、のちに一般書籍として販売された並装版はいまもネットで入手可能。デザインから音が立ち上がってくるような、あの時代ならではのブリティッシュ・カルチャーの感性のカタマリを、この機会にもういちどじっくり味わっていただけたらと願います。 |
book アーカイヴ:ヴォーン・オリバーと音の夢 |
CDにデザインの余地がないとは言わないけれど、やはり30センチx30センチのLPジャケットには有無を言わせない押し出しがあって、若いころに夢中になった音楽の記憶には、LPジャケットの印象がこびりついている。そして僕がジャケットのデザインを思い返すとき、浮かんでくる多くはイギリスの音なのだ。ブリティッシュ・ロックの時代は、ブリティッシュ・ロック・デザインの時代でもあった。 |
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ヴォーン・オリバーの作品をまとめた本はこれまで数冊発表されているが、この10月には決定版ともいえる『Vaughan Oliver: Archive』が2冊組ボックスセットとして、ロンドンのユニット・エディションズから刊行された。ずいぶん前に刊行のためのキックスターター・サイトが立ち上がって、それから長い制作期間を経ての、待望のリリースである。今回はその刊行を記念して、内容の詳しい紹介と、大竹伸朗によるトリビュートの文章をお送りする。『Archive』は限定900部。興味を持たれた方は、急ぎ出版社サイトに注文していただきたい。 |
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ヴォーン・オリバーは1957年、イングランド北東部のセッジフィールドに生まれた。ニューカッスルの美術学校を卒業後、4ADの創設者アイヴォ・ワッツ=ラッセルと出会う。写真家ナイジェル・グリアソンと「23エンヴェロプ」と名づけたユニットで4ADのビジュアルを手がけるようになり、1988年からは「V23」というデザインチームを率いて、盟友クリス・ビッグらと現在まで活動を続けている。ちなみに2000~01年にかけて刊行した全20巻の「ストリート・デザイン・ファイル」のシリーズロゴや、『Frozen BEAUTIES 日本映画黄金時代のスティル・フォトグラフィ』などのデザインも、クリス・ビッグが手がけてくれたものである。 |
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今回リリースされた『Vaughan Oliver: Archive』は、これまでのデザイン作品を収めた「Materials and fragments」(オールカラー、432ページ)と、デザインの源泉となったビジュアル素材を集めた「Remnants and desires」(モノクロ、164ページ)が、シルクスクリーン刷りのボックスに収められたセットになっている。「Materials and fragments」にはこれまでのレコード、CDジャケットやポスター、販促資料などさまざまなデザインが、年代別でもアーティスト別でもなく、「彩色の炎」「暗闇の視線」「動物と自然」「メランコリーの解剖学」などと、曲のタイトルか短編集の目次のようなシリーズに区分けされて収められている。2冊目の「Remnants and desires」には、こんな写真があのデザインのもとになったのか!と驚くようなイメージの断片や、これまでスタジオの外には出ることのなかった素材がコラージュカタログのように集められていて、独立したアートブックとして読むこともできる。 |
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『Archive』の冒頭にはこんな引用が掲げられていた―― |
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[Archive 誌上プレビュー] |
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路ツボの友、ヴォーン・オリバー |
文:大竹伸朗 |
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「4AD」と聞くと個人的には「This Mortal Coil」名義の初アルバム「It'll End in Tears」がまっさきに思い浮かぶ。 |
出版前、刊行遅れの通知メールが何度か届いた。 |
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ヴォーンとはいつ、どのように出会ったのだろう? |
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ロンドンを頻繁に訪れていた80年代、いろいろなことがこの先に向けてゆっくりと確実に動き始めている・・・当時はそんなまったく根拠のない思い込みだけで過ごしていたような気がする。 |
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70年代後半を象徴するレコードレーベル、ラフ・トレードやスティッフ、ファクトリーから届く音楽に対する自分自身の反応も80年あたりを境に徐々に変化していった。 |
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作品集に収録されたインタビューページの記述によると、85年初頭ロンドンICAでの個展開催時期にアーティストのラッセル・ミルズを通してヴォーンと出会った、とある。自分自身に明確な記憶はない。 |
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作品制作のため東京と宇和島との行き来が始まった80年代後半、ボストンの新鋭バンド、「スローイング・ミュージス」の2ndアルバム用の絵をヴォーンから依頼された。初耳のバンドだったが、届いたカセットの音楽と彼との初仕事に興味がわきやることにした。 |
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以前ヴォーンが東京で個展を開いたときだったか、新宿の裏通りを2人で歩いた。 |
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「路上にもツボがある」・・どこであれヴォーンと街中を歩くといつもそんなことを思う。 |
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BOOKS
ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)
ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。
本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。
旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。
ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)
稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。
1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!
ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)
プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。
これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。
ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)
書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい
電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。
ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)
伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!
かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。
ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)
――ラブホの夢は夜ひらく
新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!
ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)
――秘宝よ永遠に
1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!
捨てられないTシャツ
70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。
圏外編集者
編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。
ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014
こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。
独居老人スタイル
あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。
ヒップホップの詩人たち
いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。
東京右半分
2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!