ワタノハスマイルが気づかせてくれたもの
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長くイタリアに住む友人から、ある日Facebookでメッセージが来た――「こんな展覧会、知ってる?」と。大震災で壊滅的な被害にあった宮城県石巻市の小学校で、山積みにされたガレキをつかって、子供たちがこんなにおもしろい作品をつくっていて、それがもう日本中を巡回していることを、僕はうかつにもまったく知らなかった。 |
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その小学校の名前を取って「ワタノハスマイル」と呼ばれるプロジェクトは、今週25日からイタリアに渡って展覧会を開催する。僕にとってはヴェニス・ビエンナーレとかより、はるかに興味深いその展覧会のために、石巻の子供たちを連れて渡航する準備で忙しい主催者の犬飼ともさんから、お話を聞くことができた。 |
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「立体イラストレーター」と名乗る犬飼ともさんは1979(昭和54)年、山形県寒河江市に生まれた。県内随一のサクランボ産地として知られ、詩人の黒田喜夫やや写真家の鬼海弘雄を生んだ土地でもある寒河江市で、実家はお米屋さんだった。
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東京にいるころはパソコンで絵を描いてたんですね。でも寒河江に帰ってきて、せっかく自然の豊かな場所にいるんだから、なにか自然を活かした作品をつくりたくなったんです。コンピュータの画面だけで完結してるのに、なんだかリアリティが感じられなくなってきて。
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そんな犬飼ともさんの、ある意味ではのどかな日常を一変させたのが2011年3月11日の東日本大震災だった。 |
寒河江はぜんぜん被害なかったんですが、とにかくニュース映像とか見てショックを受けて。それでなにかできないかと思って、すぐに今回のプロジェクトの構想を練ったんです。1週間もかからなかったぐらい。
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最初に行ったときは、それはもう・・石巻から渡波に向かう道沿いの、ガレキの山を見ただけでショックすぎて、帰りたくなりましたから。いちおうプロジェクトの構想とかはあったんですが、自分でも「あのガレキを子供たちに触らせるのなんて、ぜったい無理。自分でも、とても触れない」と思っちゃいました。それまでの生活の痕跡というか、気配がぜんぶこびりついてるんですから。
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犬飼さんたちは、震災被害の対処に追われてオトナたちにかまってもらえない、子供の居場所をつくることから動き始める。 |
とにかくまず、子供たちと遊んでいようと。それで、避難所になっている教室のひとつを借りて、遊び部屋に変えたんですね。子供たちが思いきり遊べるスペースがなかったので。そうしたら避難所生活の子供だけじゃなくて、津波被害を逃れた家に帰ってる子も遊びに来るようになりました。 |
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まずはガレキから探してきたオモチャで遊んだり、一緒にサッカーしたり。そのうちにそろそろいいかなと思って、まずは僕が自分でガレキの中からモノを拾ってきて、それでオブジェを作りだしたんですね。強制するのとかは、ぜったいイヤでしたから。そしたら、それを見ていた子供たちが、僕もやりたい、わたしもやりたいって加わってきて。下は小学校2年生から、上は中学校2年生まで、20名ぐらいの美術好きな子が集まったんです。それで4月の下旬ですが、2日間かけて一気にぜんぶで100体ほどのオブジェをつくりました。
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「ワタノハスマイル」と命名された犬飼さんたちと渡波の子供たちのプロジェクトは、4月末の「山形まなび館」での初展覧会を皮切りに、いままで日本全国13ヶ所をを巡回してきた。東京でも昨秋に西麻布ギャラリー・ル・ベイン、東武百貨店池袋店、東京新丸ビルなどで展示があったので、ご覧になった方があるかもしれない。そしてこの展覧会ははじめての外国展として、来たる3月25日からイタリア・ローマ郊外のザガーロ市に行くのは前述したとおり。 |
みんなでオブジェをつくったのは、ほんとにものがない時期でしたから、それがよかったんだとつくづく思います。石巻は特にメディアでもよく取り上げられましたから、夏ぐらいになると大量の救援物資が届くようになったんですね。ボランティアもすごく増えたし、オモチャなんかふんだんすぎるくらいに。そうすると子供たちのほうが・・・ちょっとワガママになってくるというか。オモチャもちょっと遊んで、飽きると捨てちゃったり。ボランティアもちやほやしますから、かえって荒れたり、多動症気味になったりする子供が増えてきた時期があったんです、実は。それで僕も、かなり悩んだ時期がありました・・。でもいまは、支援もボランティアも来ないので(笑)、かえって子供たちも安定してますねぇ。 |
僕自身の乏しい経験から言っても、今回の震災ではマスコミにすごく取り上げられて、援助も潤沢だった場所と、ほとんど無視されていた場所があった。でも、「ボランティアがあまり行かないところのほうが、実は復興が早かったりもするんです」という犬飼さんの言葉は、深く考えさせられた。テレビや新聞雑誌にはけっして載らないけれど、犬飼さんと同じような経験をしたボランティアや報道関係者も、けっこういるのではないか。 |
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震災から1年経ったいま、犬飼ともさんはイタリアの展覧会から帰ってきたら、石巻に移住する計画なのだという。 |
「山形から石巻までは車で2時間とかですから、いまでも週にいちどは渡波に通って、とにかく子供たちと遊んでます。これからは居を定めて、まだまだ大量に残されているガレキを使って自分でもオブジェをつくりたいと。それと同時に、子供たちの作品をきちんと展示できる常設の場所をなんとか設立して、日本中から学校の課外授業とかで子供たちに来てもらって、2万個のオブジェをつくって展示する。それが目標なんです! |
去年の3月11日以来、ほんとうにたくさんのアーティストが被災地を訪れて、コンサートを開いたり、炊き出しをしたり、あるいは支援物資を贈ったり、さまざまなボランティア活動をしてきたことを僕らはよく知っている。でも、持ちこむものはたくさんあっても、そこにいる人間たちからの、そこにあるものを使っての発信は、はるかに少ない。「たとえばガレキがこんなにあるんだから、流木で写真のフレームをつくるとか、そういうのがたくさん出てくるかと思ってたんですけど、意外に少ないんですね」と、犬飼さんも不思議がる。 |
私たちは渡波小学校の校庭に流れ着いた町のカケラ(ガレキ)を使ってオブジェを作りました。 |
ワタノハスマイルのウェブサイトには、こんなふうに書かれている。いまだ市街各地にそびえたつ、だれもが言葉を失うしかない、圧倒的な負の巨塊としてのガレキの山。それを、たとえ部分的ではあっても、楽しげな作品の素材に見立てる発想の転換。これをアートと言わずして、なんと呼ぶべきか。 |
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「被災地」とひとくくりで語られる場所からの、豊かなクリエイティビティの発露を、ひとりでも多くのみなさんに見ていただけたらと、僕も願う。NPO法人としてのワタノハスマイルは、まだまだ展覧会開催の問い合わせを受け付けているようなので、興味のある方はぜひ彼らのウェブサイトからコンタクトしていただきたい。ちなみにこれだけ楽しい展覧会を、これだけ続けてきて「美術業界からの反応はゼロ」だとか・・・溜息。 |
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ワタノハスマイル http://www.watanohasmile.jp/ |
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「町のカケラ達― ワタノハスマイル展」 |
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BOOKS
ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)
ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。
本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。
旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。
ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)
稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。
1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!
ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)
プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。
これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。
ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)
書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい
電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。
ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)
伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!
かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。
ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)
――ラブホの夢は夜ひらく
新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!
ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)
――秘宝よ永遠に
1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!
捨てられないTシャツ
70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。
圏外編集者
編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。
ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014
こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。
独居老人スタイル
あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。
ヒップホップの詩人たち
いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。
東京右半分
2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!