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バックナンバー:2016年11月16日 配信号 収録

art 手芸のアナザーサイド 1 山さきあさ彦の「山ぐるみ」


「手芸」という言葉に引かれるひとと、惹かれるひとと、ロードサイダーズ界隈にはどちらが多いだろうか。

おかんアート系はともかくとして、「手編みのセータ-」みたいな普通の手芸をこのメルマガで取り上げようと思うことはなかったが、アウトサイダー・アーティストには布や糸や毛糸を素材に、すごくおもしろい作品をつくるひとがたくさんいる。そしてこのところやけに気になるのが、アウトサイダーとは言わないまでも、図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、セルフトート=自分でてきとうに縫ったり編んだりしている、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品。今週と来週の2回にわたって、ふたりの作家による手芸のそんなアナザーサイドを紹介してみたい。


個展「ぐるみよがり」@京都トランスポップギャラリー、2016年8月23~28日

「山ぐるみ」と名づけられた奇妙でポップなオブジェというのか、人形というのか、立体作品をつくりつづけている山さきあさ彦に、京都のギャラリーで開かれた展覧会で出会えたのがこの夏のこと。それまでネットで彼の作品はいくつか見ていたが、実物の存在感は写真の印象とはまるで違っていて、その場でお願いして後日、修学院離宮近くのアパートでお話を聞かせてもらった。部屋には展示会から返ってきたばかりという作品がベッドの上にずらっと並んで、眩しいほどカラフルだった。


京都市内のアトリエ。床に銀色のシートを敷いているのは「防寒」のため。


作業デスクまわり、懐かしいMacが、作品とフィットしてる気が。


裁縫箱




ファブリーズして陰干し中の作品たち

山さきあさ彦は1979年高知県佐川町生まれ、37歳のアーティストである。ネットで見つけた自己紹介には、こんなふうに書かれていた――

単純でアナログな図画工作的手法を活かした、独自の(間の抜けた)センスで描かれる作品群はファンシーかつサイケデリック。
2006年頃より、裁縫を表現手段に取り入れた「山ぐるみ」の制作を開始し、それらを用いたワークショップやパフォーマンス、国内ローカル~海外での作品発表など、その活動は多岐に渡りつつある。趣味は飲酒。


「山ぐるみ」を着用した山さきさん。これで踊ったりもする。

小さいころから絵は好きで、おじいさんと母親も絵を描いていたこともあって、絵描きになりたいと漠然と思ってました。あとは漫画の影響が大きいですね、ドラゴンボールやキン肉マンなどの全盛期でしたから。

中1から高1までは柔道をやってたんです、それも小林まこと先生の『柔道物語』の影響で。それが高1で初めてライブに行って。忌野清志郎のコンサート・ツアー、そこでドハマリしちゃいました、「見てしまった」感があった。で、すぐにバンド活動を始めたりして。

そこから滋賀の雄琴にある成安造形大学に進学しました、イラストレーション科です。京都の市内に一軒家を友達と3人で借りて、バイトしながらフリーペーパーをつくったり、展覧会を開いたりして楽しくやってたんですが、2年で賃貸契約が終了してそのまま解散。ひとり暮らしを始めました。そのほうが制作に集中できるって気づいて。


膨大な量のスケッチブックが大切に取ってあった。

「山ぐるみ」を始めたのは、いまから10年くらい前です。グループ展で一緒になった作家がぬいぐるみをつくっていて、それがざくざくした作り方でかっこいいなと思ったのがきっかけで。それまでは針と糸を扱ったこともなかったので、最低限の技術でできることを自分で考えてきました。ちゃんとした作り方の本を読んでも、ワケわからないし。実はミシンを買ったのも最近で、「なんて便利なんだ!」って驚いたくらいですから。

もともと僕はドローイングやコラージュの平面作品をずっとつくっていたので、いまのはそれが布になっただけというか、コラージュの延長という感覚ですね。生地屋を回ったり、ウィンドウ・ディスプレーをしているひとからわけてもらった生地を使って、とにかく「針が通れば縫える!」という気合いで(笑)。だから布地も別にビンテージとか年代物とかぜんぜん関係なくて、いろんなものをミックスして新しいものができたらと思ってるんです。音楽や映画の作りかたと一緒ですよね。








平面時代の作品。キャンバスにコラージュ。これが立体になっただけ、というのがよくわかる。

京都の展覧会の会場でかかっていた音楽は、カタコト日本語で奇妙な流行歌を歌って一世を風靡した外人歌手バートン・クレーンのCDだった。そんな奇妙な選曲が、真っ白いおしゃれな画廊空間で、こんなにポップな色彩の立体作品と一緒になって、少しも変に思えないところが、山さきさんのセンスなのかもしれない。

「山ぐるみ」をつくるようになってからは、ぬいぐるみばかりずっとやってますという山さきさん。当然ながら生活は成り立たなかったので、「エロビデオの試写室で10年くらい働いてた」そうだが、いまはそんな楽しいバイトをしなくても暮らしていけるようになった。

個展やグループ展のほか、京都の若い職人たちと一緒にデパートの催事に参加して、ワークショップを開く機会も増えてきたそうだが、「そういうところでやってると、かならず手芸が得意なおばちゃんがやってきて、意見されるんです(笑)」。型紙なし、ほぼすべて手縫いで、手を動かしながら「こんな布を組み合わせてこんな形にしたら」と、コラージュ感覚で造型していく「山ぐるみ」は、もしかしたら手芸上手なひとほどショッキングに見えてしまうのかもしれない。


展示風景




ぬいぐるみを装着した山ぐるみワンピース














すっぽり被る仮面






帰り際に山さきさんは、「ワークショップのときはこんなの配ってるんです」という、布にプリントされた『カンタンぐるみの一応マニュアル』を見せてくれた。「どんな形のぐるみをつくるか、大体のデザインを下描き等をして決めます。何も決めずにいきあたりばったりも楽しいですよ!」というところから始まって、「ハサミで腕の形を整え綿を詰めて、その穴を縫い付けて閉じれば・・あなただけの『MYぐるみ』のできあがり!」まで、たったの8工程。難しい図とか、一切なし! 


プロというのはいつも難解に、ハードルを上げることで自分の存在意義をアピールしようとするけれど、こんなふうに極限までハードルを低くしてもらうと、山さきさんの作品を鑑賞したり購入したりするだけではなく、自分も手を動かしたくなってくる。


仕事場に常駐する不動のオールスターたち。後列大:くるみちゃん、中列向かって右(黄):キミー、左(白):チャッポ、前列(ピンク):くるミニちゃん

作品世界に閉じていくのではなく、作品を通して外側に開いていく、そういうスタンスというかアティチュードが滲み出る、それが「山ぐるみ」の易しさであり、優しさなのだろう。


山ぐるみ/山さきあさ彦 公式サイト:https://ac.auone-net.jp/~asahiko/

[山さきあさ彦/山ぐるみ・誌上作品展]












































































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天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
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――秘宝よ永遠に

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すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

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