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AFTER HOURS
編集後記

2018年07月11日 Vol.315

今週も最後までお付き合いありがとうございました。オトナっぽい号になりましたが(笑)、気に入ってもらえた記事、あったでしょうか。

いつもメルマガは記事を全部終えて、この編集後記を書くのがゴール間近の楽しみな時間なのですが、今週はなに書こう・・・と思っていたところに、またも訃報が。先日のニューサザエ紫苑ママに続いて、日本キャバレー業界の帝王として君臨してきた福富太郎さんが亡くなっていたというニュースが届きました。ご病気で療養中だったのが、5月29日に亡くなられたそうです。昭和6年生まれなので、87歳だったでしょうか。

本メルマガ読者なら、近代日本画コレクターとしての福富太郎さんの活動に親しんでいた方もいらっしゃると思います。僕がお会いできたのは2009年前後、『東京右半分』の取材で北千住ハリウッドに行ったのがきっかけで、それから2、3度お話しただけですが、一時は「所得番付日本一」というほどの頂点に登りつめた成功者でありながら、驚くほど丁寧で、物腰の柔らかい応対をしていただいたのが、強く印象に残っています。


福富さんには3冊ほどの著書もありますが、なかでも1994年に河出書房新社から文庫で出版された『昭和キャバレー秘史』は、福富さんの自伝であるとともに、昭和のキャバレー文化をきちんと俯瞰できる、いまだほとんど唯一の情報源。この機会に、ぜひお読みください。

追悼の意を込めて、『東京右半分』の取材で書いた文章に少し手を入れたものを載せておきます。福富さんはいなくなってしまいましたが、北千住と赤羽のハリウッドは変わらず営業中なので、こちらもいまのうちに探訪していただきますよう! もう、東京都内で純粋なキャバレーの雰囲気を味わえるのは、この2軒だけになってしまいましたし。

http://www.hollywood.ne.jp/index.html


北千住ハリウッド探訪記

ロンドン、ハワイ、ハリウッド・・・これ、みんな昭和30~40年代に最盛期を迎えた、日本のキャバレー・チェーンの名前である。思えばそれは、外国の地名がまだ、夢を誘ってくれる時代でもあった。

日本におけるキャバレー、というか欧米の「cabaret」と日本の「キャバレー」はぜんぜん別物なので、これはもう日本独自の社交遊興施設と呼んでいいと思うのだが、その源流をたどると明治時代のカフェに行き着く。しかしながら現在のようなダンスフロアと洋装のホステスという組み合わせの店舗が生まれたのは、太平洋戦争の敗戦からわずか13日目に発足したRAA=(進駐軍用)特殊慰安施設協会という、「日本婦女子の純血が性に飢えた進駐軍兵士らに損なわれ」ぬよう設立された、「性の防波堤」だった。

食堂部、慰安部などと並んで設けられたキャバレー部によって、その年の11月には銀座松坂屋地下に<オアシス・オヴ・ザ・ギンザ>なるダンスホールがオープン。相前後して開かれた新しいスタイルの店舗によって、日本人は「明るく楽しく飲んで踊る」楽しみに目覚めたのだった。

昭和6年、東京・大井町に生まれ、中学2年で敗戦を経験、のちに「キャバレー太郎」と呼ばれることになったキャバレー王・福富太郎さんが、喫茶店や中華料理屋の住み込みを経て、苦労の末に最初のハリウッドを開店したのが昭和35(1960)年3月。いま新橋駅西口のニュー新橋ビルがある場所にできた<踊り子キャバレー 新橋ハリウッド>がそれである。

今年がキャバレー人生50周年となる福富さんの波乱の人生は、すでに著書などでよく知られているが、新橋に続いて昭和38年には池袋ハリウッドをオープン。ビルの2階から5階まで4フロアを使った初の立体店舗で、敷地1,000坪、ホステス800人という大型店だった。

翌年にはいま博品館になっている銀座8丁目角にビル一棟丸ごと、1階から5階までを使った銀座ハリウッドを開店。これも延床面積1,000坪、ホステスも1,000人近い、超大型キャバレーとして大評判になった。ひと晩にお客さんが1,500人も押しかけ、並んで入れなくて大騒ぎという状態が、よくあったという。

しかしオイルショック、風営法改正、そしてディスコやスナックなど、夜遊びの業態変化に伴って、キャバレーは昭和39年のオリンピックあたりから数を減らしていった。昭和52年の時点で東京都内には700軒のキャバレーがあったというが、いまはいったいどれくらい生き残っているだろうか。最盛期には数十店舗あった福富さんのハリウッドも、いまは赤羽、北千住の2店舗しか残っていない。北区と足立区。現代のキャバレーは、やっぱり東京右半分が似合うのだろうか。

風営法でキャバレーは店舗面積が66平米以上、ダンスフロアがそのうち5分の1以上なくてはならず、明るさも厳しく定められている。いまや生バンドに合わせてホステスと踊る、というような業態の店が、この時代に大流行というのは考えにくいのだが、いま2店舗残るハリウッドも、覗いてみると意外なほど混み合っている。

昔ながらのオヤジ天国系飲み屋横丁に、最近は若者系のお洒落店がちらほろ目立つようになって、これから雰囲気が変わっていきそうな北千住駅前。駅から歩いて1分もかからない、格好のロケーションにそびえるのがハリウッド北千住店。4階がキャバレー・ハリウッドで、5階が「ニューマブハイ」という名のフィリピンパブになっている。

ハリウッド北千住店がオープンしたのは1970年11月、大阪万博の年だ。直通エレベーター前でお客を待つ、制服姿のスタッフに料金を確認、エレベーターに乗り込んで5階で扉が開くと、「いらっしゃいませ!」の合唱とともに、エントランス脇の祭り太鼓がドドンと打ち鳴らされる。ひとり客なら1回、ふたりなら2回。これがハリウッド全店に共通の、名物ウェルカム・サービスだ。しかも平日の夜、早い時間だというのに満席に近い繁盛ぶり。「正直、驚きました」と言ったら、「いやあ、きょうは平日ですから、週末はもっと混んで、並んでいただくこともありますよ」と店長さんに教えられた。

広々として、しかしボックスのあいだは高めの仕切りで、お客さん同士が見えにくく配慮されている席に案内されると、さっそくホステスさんがやってくる。初めてなら馴染みのホステスさんを指名するわけにもいかないから、店の人にお任せすると、こちらに合ってそうな子を選んでくれる。そのホステスさんが、平日でも50~60人、週末ともなれば80~90人は出勤しているというから、このご時世でたいしたものだ。年齢も20代から60代まで(!)豊富に取りそろえてるので、どんな客層にも対応可。だってお客さんは70代、80代の人もいるのだから、あんまり年のちがう子が来ても、話題も合わないし。こういうところが、キャバクラとちがって楽しいんですね。
 
「どんなお客さんが来るの、年配の人が多いから、遊び方もゆったりしてるんでしょ?」と、隣に座ってくれた子たちに聞いてみたら、「いーえ! 男の人は60代になっても、70代になってもいっしょ、だいたい7割のお客さんは、わたしたちを口説くために来てるんですから」と意外なお答え。入店する前にちゃっかり結婚指輪を外してくるひとも少なくないらしいが、「ゴルフとかしてるひとだと、焼けてないからわかっちゃうんですよねー、すぐに」(笑)。

キャバレーだから、ちゃんとダンスフロアもあるし、生バンドも入っているし、毎日のように演歌歌手やコメディアンのショータイムもある。「でもいまは、踊りに来るお客さんもずいぶん減ったし、歌手のひとが歌ってても、あんまり真剣に聴いてくれるお客さんがいないから、かわいそうになっちゃう」そう。そんな店じゃないのに、女の子が座ろうとすると、サッと手をお尻の下に伸ばしてきたりするお客さんも珍しくないそうで、ほんとにしょうがないですねー、いくつになっても、男という動物は。

そんなバカ話に興じて、なぜかキャバレーにはどこもつきものの、おいしいカツサンドを頬張って(ちなみに北千住店では、ほかにイカの一夜干しとかがおすすめだそうです)、ナマの歌も聴いて、気が向いたら同じフロアにあるカラオケ・コーナーにホステスさんともども移動して歌いまくって、それでお会計のほうは、7時までに来店して制限2時間の「セブンコース」なら、おひとりさま5250円! しかも焼酎・ウイスキーのいずれかボトル1本、またはビール2本に、お料理1品付き! キャバクラなんかで、こっちの財布しか興味ないのが見え見えのキャバ嬢の、こっちが話し合わせてご機嫌とって、それで何万円も取られるより、ぜんぜんいいでしょ! 

プロの歌手のステージを眺めたり、華麗なダンスなんてできないけれど、思い切ってチークを踊ってもらったり。あっというまに時間が来て、ほんとに看板どおりの明朗会計。ホステスさんにコートを着せてもらって、「また来てくださいねー」とかエレベーターまで送られて、それでおしまい。こういうふうにフトコロの心配もなく、下心もなく、ハードな営業もなく、ただ楽しく女のひととお酒を飲んで遊べる場所って、久しぶりに来た気がした。毎晩ハリウッドで飲んでるお客さんたちも、みんなこういう、アットホームな遊び方が好きなんだろう。

ちなみにハリウッド・グループ総帥である福富太郎さんのオフィスも、このビルの上階にあって、いまだによく、店に降りてきてはお客さんに挨拶して回ったり、飲んだりしてる。「キャバレーは広い敷地が必要で、100坪の土地に5億、10億はかかるから、今後の拡大はなかなか厳しいでしょう。でもキャバレーの数自体が減っているから、その風情を求めてうちに来るお客さんはまだまだ多いよ」と、福富さんは話してくれた。この人が元気なうちはハリウッドの灯も消えないだろうけれど、古き良きキャバレーの風情をじっくり楽しめるのもいまのうち。まだ行ったことない人は、急いだほうがいいと思います。

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編集後記バックナンバー

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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