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周回遅れのトップランナー

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。現代美術ではなく、かといって日展のような伝統(?)美術でもない。自分だけの絵を、自分だけで描きつづけて数十年・・・

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周回遅れのトップランナー:仲村寿幸

2008年春、渋谷のポスターハリス・ギャラリーという小さな画廊から来た展覧会案内には驚かされた。展覧会のタイトルは『擬似的ダリの風景』。仲村寿幸というアーティスト名にはまったく聞き覚えがなく、時代感覚を超越したような、ばりばりのシュールな絵にも興味がわいたし、「初個展―苦節30年、積年の思念が遂に成就」というサブタイトルにも惹かれたが、それよりもなによりも、葉書に刷られた「作品管理者求む、全作品寄贈します!」という一行に度肝を抜かれたのだった。

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ワタノハスマイルが気づかせてくれたもの

大震災で壊滅的な被害にあった宮城県石巻市の小学校で、山積みにされたガレキをつかって、子供たちがこんなにおもしろい作品をつくっていて、それがもう日本中を巡回していることを、僕はうかつにもまったく知らなかった。 その小学校の名前を取って「ワタノハスマイル」と呼ばれるプロジェクトは、今週25日からイタリアに渡って展覧会を開催する。僕にとってはヴェニス・ビエンナーレとかより、はるかに興味深いその展覧会のために、石巻の子供たちを連れて渡航する準備で忙しい主催者の犬飼ともさんから、お話を聞くことができた。

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周回遅れのトップランナー 川上四郎

冬の陽が明るい畳敷きの一室で、目の前にずらりと絵画作品と写真プリントを並べて、ニコニコしている小柄な老人。絵も写真もずっとアマチュアでやってきた彼の作品を、名前を知るひとはいないだろう。でもいま、こうやって畳に座ってお茶を飲みながら見せてもらってる絵にも、写真にもオリジナルとしか言いようのない感覚があふれていて、画用紙やプリントをめくる手が止められない。だれも知らない場所で、だれも知らないひとが紡ぎ出す、だれも見たことのない世界・・・。

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妄想芸術劇場:ぴんから体操展に寄せて

僕らが考えるプロフェッショナルなアーティストとは180度異なる創作の世界に生きる表現者が、それもメディアの最底辺にこれだけ存在していること。それをいままでほとんどだれも認識せず、もちろん現代美術界からも、アウトサイダー・アート業界からも完全に無視され、投稿写真マニアからさえ「自分たちより変態なやつら」と蔑視されながら、いまも生きつづけ、描きつづけていること。妄想芸術劇場とは、そうした暗夜の孤独な長距離走者を追いかける試みである。そして、そんな報われることのない長距離走の、もっとも伝説的なランナーをひとり挙げるとすれば、「ぴんから体操」であることに異議を唱える愛読者はいないだろう。

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おとなしい顔の魔界都市:広島県福山市アウトサイダー・アート紀行

「占」「占」「占」「占」「ピタリ当たる」「神界」「大天国」「的あたーれ」・・・独特の丸文字と原色の描き文字看板で、初めて見るひとをギョッとさせ、見慣れたひとの目を伏せさせずにはおかない、あまりにインパクト充分な木造モルタル家屋が、サウナとパチンコ屋のあいだに挟まって、きょうも精一杯の自己主張を繰り広げている。ここが福山きっての裏名物『占い天界』(正式名称・新マサキ占術鑑定所)だ。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 1

今週、来週の2回にわたって、そのドクメンタの「理想と現実」、「コンセプトとリアリティ」を、僕なりに考えながらリポートさせていただく。その1回目は、56の国・地域から約190人/組が参加したなかで、唯一の日本人アーティストとなった大竹伸朗の作品『モンシェリ:スクラップ小屋としての自画像』を、作家本人の言葉を交えながらたっぷりご紹介しよう。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 2

先週に続いてお送りする「ドクメンタ13」リポート。今週は広大な会場を歩き回りながら(これから訪れるひとには自転車レンタルを強くおすすめしておく)、なにを見て、なにを考えたのかをなぞってみようと思う。

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日本でいちばん展覧会を見る男

日本でいちばん展覧会に行ってるひとって、だれだろう。僕はこのひとだと思う――山口“Gucci”佳宏、通称「グッチ」さん。でも、彼は美術評論家でもなければ学芸員でも画商でも、美術運送業者でもない。グッチさんはレゲエ・ミュージックに長く関わってきた、生粋の音楽業界人なのだ。グッチさんが行った展覧会を数えると、ここ5年間でこういう数字になる・・2007年 539、2008年 724、2009年 1106、2010年 585、2011年 677

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軽金属の娼婦たち

いっとき、日本でだれよりもよく知られたイラストレーターで、いまはほとんど雑誌でも広告でも作品を見ることのなくなってしまったひと、それが空山基(そらやま・はじめ)である。「ソラヤマ」の名前を知らない世代でも、あのメタリックなアンドロイド美女のイメージは、どこかでいちどは見たことがあるだろう。空山さんはいま、商業イラストレーションではなく、オリジナルのドローイングを国内・海外のギャラリーで展示販売する、画家としての活動に集中している。

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黄昏どきの路上幻視者(ROADSIDE SENDAIから)

(前略)ここ数年、ようやく日本ならではのグラフィティの進化形が出てきたように思える(僕が不勉強だっただけかもしれないが)。たとえば北の国・札幌からザ・ブルーハーブが、まったく新しい日本語のラップを突きつけたように、ほかのどこにもないようなストリート・アートのかたちを提示する作家のひとり。それが仙台のSYUNOVEN=朱乃べんだ。道端の廃屋や、小屋の壁に描かれたSYUNOVENの絵を見て、「グラフィティ!」と思うひとは、もしかしたら少ないかもしれない。それほど彼の描く形象はユニークで、アメリカン・グラフィティとはかけ離れたテイストで、描かれた場の持つ雰囲気と呼応した土着のパワーを湛えている。

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アートと地獄とメイドとクソゲー:福岡辺境不思議旅

「妄想のパラダイス」とサブタイトルがついた不思議博物館を、ひと言であらわすのは難しい。「館長」と呼ばれる造形作家・角孝政(すみ・たかまさ)さんの立体作品とコレクションを集めたミュージアムであり、同時に「不思議子ちゃん」と名づけられた女の子たちが迎えてくれる、メイドカフェでもある。「日本一有名なクソゲー」を、特製巨大コントローラーで遊べる場所でもある。とりあえずは、公式ウェブサイトに記された館長本人による説明と、全貌図解をご覧いただきたい。

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金いろのエキゾチカ――芸術と芸能のミッシングリンク

「まあ、金粉ショーがやりたくて、混浴ゴールデンナイトを企画したぐらいですから!」と笑う佐東さんは、京都を拠点とする暗黒舞踏グループの雄・白虎社に創立時から解散まで在籍したコア・メンバー。同じ白虎社仲間の水野立子さんとともに、今回のショーの構成や、ダンサーの演技指導を手がけた。「いまではほかに見れる場所もないし、僕と水野で20年ぶりぐらいに、思い出そうと思って踊ってみたら、完璧に全部、からだが覚えてたんですよね!」という佐東さん。公的機関の助成金や企業のメセナ活動がほとんど存在していなかった1970~80年代には、白虎社のような舞踏カンパニーにとって、公演費用やカンパニーの維持経費のために、金粉やセミヌードのショーを仕立てて、日本各地の温泉場やクラブ、キャバレーを「営業」して回るのが、ごくふつうのことだったのだ。

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グラフィティがかき乱す台北のランドスケープ

昨年10月3日号で、仙台在住のグラフィティ・アーティスト「SYUNOVEN=朱乃べん」を紹介した。彼の作品はアメリカ発のグラフィティという表現が、ようやく日本独自の進化を遂げつつあることの優れた一例だった。この正月に台北で出会ったグラフィティ・アーティスト「CANDY BIRD」の活動もまた、台湾の風土にあわせて独自の進化を遂げつつある、新たなエネルギーをいきなり突きつけられるようで、すごく興味深い。中国本土(台湾ふうに言えば大陸)でも台湾でも、現代美術の世界では基本的にコンセプチュアルな作家、作品が大多数で、キャンディ・バードのようなストリート・レベルのアーティストが、いまどれくらい増えてきているのか、僕はまだ調査不足でわからない。でも、なにかが起こっている感触は、確実にある。それはこれから長い時間をかけて探っていくことになるだろうが、まずはそのイントロダクションとして、キャンディ・バードの作品世界をご覧いただきたい。

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焼きつけられた記憶――大竹伸朗『焼憶』展

焼きものの町・常滑が生み出したもっとも有名な製品は土管(陶製土管)で、一時は全国の上下水道のかなりの部分に常滑製の土管が使用されていたという。セントレア開業に伴って周辺地域は大規模な再開発が進んだが、常滑の中心部は陶業華やかなりしころの面影、街並みがかなり昔のままに残っていて、最近は日帰りお出かけスポットとして若い層にも人気を博しているようだ。常滑の陶業を代表する企業がLIXIL(元INAX)。そのLIXILが常滑市内に開いている「INAXライブミュージアム」で、今週土曜日から6月9日まで、大竹伸朗による『焼憶(やきおく)』展が開催される。今週はいち早くその展示紹介と、常滑の町めぐりをお送りしたい。まずは大竹伸朗本人による、本メルマガのための書き下ろしテキストをお読みいただきたい――。

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ノリに巻かれた寿司宇宙

「デコ弁」が流行っているらしい。僕がもし小学生で、母親が忙しくて白飯にハンバーグ乗せただけ、みたいな弁当しか作ってくれなかったら、恥ずかしくてみんなの前でフタ開けられないくらいに・・・いまのお母さんは大変だ。雑誌やネットで見るデコ弁は、たしかにものすごく凝った出来で、芸術的とさえ言えるものもある。下手したら「これもクール・ジャパン」とか文科省が売り物にしちゃいそうな。パンにピーナツバター塗るか、ハム挟んだサンドイッチをジップロックに入れただけ、みたいなランチで親も子も満足してる外国人にとっては、はるか想像の彼方にある東洋の新たな神秘、それがデコ弁なのだろう。

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六畳間のスクラップ宇宙

数か月にいちど、岐阜県内の消印を押した分厚い封筒がうちに届く。中にはいつも近況を書いた短い手紙と、写真の束が入っている。サービスサイズのプリントに写っているのは、風景でも人物でもない。数十枚のスクラップブックのページを複写したものだ。山腰くんがこんな手紙を送ってくれるようになってから、もう何年たつだろう。岐阜市に住むこの青年はアルバイトの毎日を送りながら、ひっそりと、膨大な量のスクラップブックを作り続けて倦むことがない。どこにも発表することのないまま。ずっと前から見てみたかった彼の生活空間とスクラップ制作の現場を、ようやく見せてもらうことができた。そして招き入れられた小さな空間と、しまい込まれたスクラップブックのボリュームは、僕の想像をはるかに超える密度の、いわば切り抜かれた女体のブラックホールだった。

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シャム双生児の夢

ヒトの頭をした犬がいる。水頭症の子供がいる。シャム双生児がいる・・・鵜飼容子の描く画面、立体の造形は、現代美術画廊のホワイトキューブ空間に、どこかの時代からいきなりワープしてきた見世物小屋のようだ。場末の奇形博物館のようだ。そしてそれらは確かに不気味だけれど、同時にどこか神々しくもある。かつてさまざまな文明で、奇形や不具の人間が「神に愛でられた存在」であったように。鵜飼容子は1966(昭和41)年生まれ、46歳の画家だ。生まれ育った鎌倉の地で、週の半分は通いの仕事で生活を支えながら、静かに絵を描いて暮らしている。

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ワタノハスマイルふたたび

去年の3月21日に配信した『ワタノハスマイル』を、覚えていらっしゃるだろうか。まだ読んでいないかたは、ぜひサイトのバックナンバー・ページからご一読いただきたい。3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、避難所となった宮城県石巻市の渡波小学校で、子どもたちが瓦礫から拾い上げたゴミでつくりあげた、それは魔法のようなアートが誕生した瞬間だった。「ワタノハスマイル」のオーガナイザーとなった、山形県出身の絵本作家・犬飼ともさんは、思いがけず全国からイタリアまでを回ることになった展覧会に際して、こんなふうに書いていた――。

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祈りの言葉が絵になるとき

メールマガジンで楽しいのは、小さな記事がときには思わぬ発見に結びついて、それをすぐにまた掲載できるところだ。担当編集者との打ち合わせとか、会議とか、そういうのをぜんぶすっ飛ばして。今年の2月6日号で、小さな展覧会の告知記事を掲載した。『アートリンク:奈良県障害者芸術祭』というそれは、障害者とアーティストが手を組んで作品をつくる、ユニークな試みだった。その参加作家である黒瀬正剛さんからある日、薄いパンフレットが届いた。黒瀬さんが企画を手伝った、地元のアマチュア・アーティストの展覧会カタログだそうで、表紙には穏やかな表情の仏画と、「伊東龍宗 Tatsumune Ito」という作家名だけが記されている。

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死刑囚の表現・展

すでにツイッターやFacebookでご存知の方もいらっしゃるだろうが(そして美術メディアは例によって完全無視だが)、今月20日から6月までの2ヶ月間、広島県福山市の鞆の津ミュージアムで、『極限芸術 ― 死刑囚の表現 ―』と題された展覧会が開催される。鞆の津ミュージアムは、去年僕も展覧会やトークで参加させてもらった、アウトサイダー・アートを専門に扱う新しいミュージアム。そしてこの展覧会は、個人的に今年いちばん重要な美術展になるはずだ。タイトルどおり、この展覧会はいま日本国内に130余名いる死刑確定者や、すでに刑を執行された受刑者による絵画展だ。ロードサイダーズ・ウィークリーでは去年の10月17日配信号で同じ広島県内、広島市郊外のカフェ・テアトロ・アビエルトで開催された『死刑囚の絵展』をリポート、予想以上に大きな反響をいただいた。そのとき展示された作品は40数点だったが、今回鞆の津ミュージアムに展示される作品は総数300点以上になるという。同種の展覧会でも最大規模であることは間違いない。

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ガラクタ山の魔法使い

隅田川に近い浅草橋の裏のビル。階段を上がった先の奥の部屋。展覧会なのに、カメラのISO感度を6400ぐらいに上げないと撮れなそうな暗い部屋の中で、もじゃもじゃの髪ともじゃもじゃのヒゲの男が、机にかがみこんで作業に没頭していた。ここ、展覧会場ですよね・・・。「マンタム」という不思議な名前を持つ彼は、古物商=古道具屋でありながら、自分のもとに集まってくるガラクタを素材に、なんともユニークな立体作品をつくりあげるアーティストでもある。そしてシュールで、魔術的でもある彼のオブジェが詰まった展示空間に足を踏み入れること、それはまるでヤン・シュヴァンクマイエルかブラザース・クェイのアニメの中にワープしてしまうような、不思議な体験でもある。

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少女の深海――高松和樹のハイブリッド・ペインティング

探査船の強いライトに照らされて、闇の中で白く浮かび上がる生命体のように、濃紺の深海にたゆたう少女たち。高松和樹がたった2色で描き出す緻密な仮想現実は、見たこともない世界と、ひどく親しげな既知感を同時に抱え込んで、見るもののこころをざわつかせる。どこか懐かしい未来の風景のように。通常のキャンバスではなく、運動会のテントなどに使われるターポリンという防水加工された白布をベースに、3DCGで制作されたイメージを野外用顔料でプリントし、その上からアクリル絵具で筆描きを重ねていくという、デジタルとアナログのハイブリッドのような特殊な技法で生み出される画面。それは少女や物体など描かれたモチーフと、画面に目を近づけてみるとベロアのようにザラリとして見えるマチエールのニュアンスが呼応することで、平面でありながら深い奥行きに、僕らを誘い込んでいく。

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瀬戸の花婿――女木島・高松・丸亀「大竹伸朗祭」

いよいよ夏会期が20日からスタートした瀬戸内国際芸術祭2013。夏休みに向けて全島制覇に意欲を燃やしつつ、フェリーの時刻表とにらめっこでスケジュールを熟慮している方も多いのではないか。本メルマガではすでに芸術祭の春会期に合わせて女木島の『女根』を6月12日号でリポートした。その記事末でも触れ、すでに多くのアート・メディアで取り上げられているように、先週からは女木島の『女根』に加え、芸術祭夏会期とタイミングをあわせて高松市美術館では『憶速 OKUSOKU / VELOCITY OF MEMORY』、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では『ニューニュー NEWNEW』と、3つの展覧会が同時オープン、常設展示である直島の『直島銭湯 I♥湯』と『家プロジェクト・はいしゃ』をあわせれば、ほとんど「瀬戸内・夏の大竹祭り」状態となっている。

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ひとりきりの極楽浄土

鞆の津ミュージアムが今月17日から、またもやいっぷう変わったグループ展『ようこそ鞆へ! 遊ぼうよパラダイス』という、タイトルだけではまったく内容のわからない展覧会を開催する。狭い意味でのアウトサイダー・アートを踏み越える意欲的な企画が続く鞆の津ミュージアム。特定の美術館ばかり優遇しているようで恐縮だが、どんな公立美術館よりも「攻めてる」んだからしょうがない。今週はこの展覧会のコンテンツを、オープンに先駆けてたっぷりご紹介しよう。

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モンマルトルのアウトサイダー

パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック・・・そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの日暮里というか・・・。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。パリきってのアウトサイダー・アート専門美術館だ。

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百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業

その名前も知らなければ、作品も知らない。でも、たまたま見た一枚の作品写真が妙に気になって、頭の隅にこびりついて、そのもやもやがだんだん大きくなって、どうしようもなくなる――そういう出会いが、ときどきある。だれかがネットに上げた江上茂雄さんの絵が、僕にとって久しぶりのそんなもやもやだった。江上茂雄さんは熊本県荒尾市に住む、なんと101歳の現役画家、それもアマチュア画家だ。荒尾に隣接する大牟田市と、田川市で小さな展覧会が開かれていて、さらに10月からは福岡県立美術館で、アマチュア画家には異例の大規模な個展が開かれるという。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 1

ヴェネツィアはとてもむずかしい街だ、とりわけカメラマンにとっては。だれが、どこを、どう撮っても美しく、同じになってしまう。飲み込まれてしまうのは簡単で、飲み込むのはとてつもなく困難だ。20代からいままでイタリアには数え切れないほど行ってきたが、ヴェネツィアだけは敬して遠ざける、みたいなところがあって、この11月に会期終了直前のビエンナーレを訪れたのが、実は人生初のヴェネツィア体験だった。現代美術は好きだけれど、どんどん難解になっていくハイ・アートの世界観と、大物キュレイターとギャラリストのパワーゲームみたいな巨大イベントには興味が持てなくて、これまでヴェネツイア・ビエンナーレを筆頭とする有名な国際的美術展には、ほとんど食指が動かないままだった。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 2

先週に続いてお送りするヴェネツィア・ビエンナーレ報告・後編。ビエンナーレ史上最年少ディレクターとなったマッシミリアーノ・ジオーニによる企画展示『The Encyclopedic Palace = 百科事典としての宮殿』の、ふたつの会場のうち、先週はジャルディーニの作品群をピックアップして紹介した。今週はもうひとつのメイン会場となった、元国立造船所アルセナーレでの展示から、本展の特徴であるアウトサイダー・アーティストたちの作品を中心にお見せする。ちなみに13世紀に建造されたアルセナーレは、長さ300メートルという巨大な縦長の建造物である。

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神の9つの眼――ジョン・ラフマンの『The Nine Eyes of Google Street View』

今年もいろいろな写真集を紹介してきた。影響をうけるのがイヤだから、現役の写真家の本はなるべく買いたくないけれど、写真家でも編集者でもある身としては、どうしても手にとってしまう本もある。その中で、実は今年いちばんショックを受けた写真集を、今年最後のメルマガで紹介したい。発売は2011年なので、もうご存じの方もいらっしゃるだろうが、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)というカナダのアーティストによる『The Nine Eyes of Google Street View』だ(Jean Boîte Éditions, 2011)。

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仮装の告白

まさかこんなのは日本で出ないだろうと、海外旅行先で買い求めた分厚い本が、ある日突然、翻訳されて書店の店頭に並んでびっくり、ということが最近増えてきた。制作経費のかさむ作品集を出版するにあたって、何カ国かの出版社と前もって出版契約を結ぶケースが増えてきたせいかと思うが、つい先ごろ青幻舎から日本語版が出た『ワイルドマン(Wilder Mann)』も、「まさかこんな本が!」と驚かされた一冊。シャルル・フレジェ(Charles Freger)という若手フランス人写真家の作品集で、原本はドイツ語版、英語版とも2012年に発表されている。

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琵琶湖のほとりのアウトサイダー・アート・フェス

京都駅から東海道本線新快速でわずか35分、琵琶湖東岸に面した滋賀県近江八幡(おうみはちまん)。国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)に指定された美しい街並みで知られる、県内屈指の観光地だ。メンタームを生んだ近江兄弟社の創立者であり、日本における近代西洋建築の立役者のひとりでもある、ウィリアム・メレル・ヴォーリズがこよなく愛した土地としても有名。そして近江八幡はまた、アウトサイダー・アートのファンにとっては京都よりはるかに重要な地でもある。

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世界に取り憑くこと――宇川直宏と根本敬の憑依芸術

今年1月から3月頭にかけて、ふたつの展覧会が開かれた。そのふたつは場所の空気も、観客のテイストも微妙に異なるものだけれど、僕にとってはかなり共時感覚を持って眺めることができたので、ここにまとめて報告したい。そのふたつとは『宇川直宏 2 NECROMANCYS』(@白金・山本現代)と、『根本敬 レコードジャケット展』(@両国・RRR)である。DOMMUNEと因果鉄道、その両者を結ぶものは「憑依」だった・・・。

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ヤンキーの教え

去年『極限芸術~死刑囚の表現』展で話題を呼んだ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。もともとアウトサイダー・アート専門の小さな美術館として開館したが、アウトサイダー・アート=障害者の芸術、というステレオタイプの思い込みを嘲笑うように、美術館という枠のギリギリを綱渡りする挑戦的な企画を連発。小規模ながら、いま日本でもっとも攻撃的な美術館のひとつだ。今週土曜日(4月26日)から鞆の津ミュージアムでは『ヤンキー人類学』というタイトルの、一大ヤンキー絵巻が展開される。「日本人はヤンキーとファンシーでできている」と言われるように、すでに絶滅危惧種だとされながら、エクザイルや氣志團を見てもわかるように、我らがこころのうちに根深く取りつく「ヤンキー的なるもの」。それをさまざまな角度から掘り起こそうという、挑発精神に満ちた企画だ――。

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ロッキン・ジェリービーンの下腹部直撃画

(前略)ディスコじゃなくてクラブ。小箱じゃなくて大箱。それもダンス・ミュージックじゃなくてロック。でもライブハウスじゃなくて、居心地よく爆音を楽しめる店! という場所がほしくて、MILKには「ロッククラブ」という肩書をつけたが、店名の「みるく」はもちろん精液のことだったし、ロゴもコンドームを想起させる、要するにロック・ミュージックの持つセクシーさを強調したい気持ちを、たっぷり込めたつもりだった。そのMILKで一時期、こちらの気分にずっぽりハマるグラフィックをつくっていてくれたのが、ロッキン・ジェリービーンである。

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濾過された記憶――ヨコハマトリエンナーレ2014と大竹伸朗

『ヨコハマトリエンナーレ2014』がいよいよ8月1日からスタートする。「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」と題された今回の「横トリ」は、アーティスティック・ディレクターに森村泰昌を迎え、65組の作家が参加するという。すでに週末の予定に組み込んでいるひともいらっしゃるだろう。横トリの第1回で、僕は鳥羽秘宝館の一部を再現展示したのだったが、あれが2001年だから、すでに13年前・・・。今回は今年5月21日配信号の記事『移動祝祭車』で紹介した、やなぎみわによる台湾製ステージ・トレーラーなど、本メルマガ好み(笑)の作品がいろいろ見れそうで楽しみだが、まずは直前レビューとして、参加作家のひとりである大竹伸朗の新作『網膜屋/記憶濾過小屋(Retinamnesia Filtration shed)』を紹介しよう。

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超老花壇

去年春の『極限芸術~死刑囚の表現~』展、今年春の『ヤンキー人類学』でもおなじみ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。そもそも地元福山で、知的障害者のための施設を運営する団体が2012年に開いたアウトサイダー・アート・ミュージアムだが、最近ではこのミュージアム自体が美術業界のアウトサイダー・アート化している気が・・・。というわけで他の美術メディアはいざしらず、本メルマガでは何度も取り上げている鞆の津ミュージアムで、今週土曜日(16日)から始まる、またもエクストリームな展覧会が『花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~』。読んで字のごとく(笑)、己の信ずるままに孤独な創作活動を続けてきた老人たちを集めた、いわばアウトサイダー・アート界のお達者クラブ・ミーティングだ。最年少(!)の蛭子能収(67歳)から、最年長のダダカン(94歳)まで、12人の有名・無名作家たちが選ばれ、それぞれ辿り着いた極点を僕らに見せてくれる。

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鎮魂の光束――池田亮司『SPECTRA LONDON』

開戦百周年となる今年はヨーロッパ各地で無数のイベントが開かれている。イギリスでは開戦時の外務大臣だったエドワード・グレイ子爵の有名な言葉――「灯火がいま、ヨーロッパのあらゆる場所で消えようとしている。我らの生あるうちに、その灯火をふたたび見ることはかなわないであろう」――をもとに、イギリス全土で8月4日の夜10時から11時までの1時間、家やオフィスや店の明かりをひとつだけ残してすべて消そうという『LIGHTS OUT』なるプロジェクトがあり、それにあわせて4人のアーティストがロンドンでインスタレーションを展開。そのなかでもっとも話題を集めたのが、池田亮司による『SPECTRA』だった。

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異形の王国――開封! 安田興行社大見世物展

絶滅危惧というよりも、もはや臨終の瞬間を迎えつつある、しかもこれまでほとんど語られることのなかった昭和のストリート・カルチャー、それが見世物芸だ。そしてきのう(8月26日)からわずか12日間だけ、かつて祭りの場に輝いた見世物小屋の、息苦しくも妖しく美しい世界のカケラが銀座の地下空間に甦っている。ヴァニラ画廊でスタートしたばかりの『開封! 安田興行社大見世物展』である。「最後の見世物芸人」と言われる安田里美を追い続け、唯一の評伝である『見世物稼業――安田里美一代記』(新宿書房刊、2000年)の著者でもある鵜飼正樹さんによって、この展覧会は監修され、僕も少しだけお手伝いさせてもらった。

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コンセプトの海の彼方に――大竹伸朗と歩いたヨコハマトリエンナーレ

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が8月1日から開催中だ(11月3日まで)。本メルマガではオープン直前の7月23日配信号で、大竹伸朗の新作を中心に紹介した。すでに会場でご覧になったかたもいらっしゃるだろう。(中略)トリエンナーレ開始直後、レコーダー片手に大竹くんとふたりで会場を回ったウォーキングツアー・リポートを今週はお伝えしてみたい。当然ながら客観的なガイドではないし、僕らが思うベストなんとか、ですらない。ぶらぶらと歩き回りながら目に留まった作品、こころに引っかかった作家についての雑談の記録にすぎない。はなはだ不完全なガイドではあるけれど、僕らふたりと一緒に会場を歩いているような気分になってもらえたら、そして展覧会に行きたくなってムズムズしてくれたら、それだけでうれしい。

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ハッシュタグが広げるアートスケープ——#BCTIONの廃ビル・アート・プロジェクト

2012年10月3日号『黄昏どきの路上幻視者』で紹介して以来、折にふれて連絡を取り合っている仙台のグラフィティ・アーティストSYUNOVENから、久しぶりにメールが来た——「先週東京に行ってて、麹町のビルの中に絵を描いてたんですよ」。ふーん、いいじゃない・・・って、ええーっ! 麹町って、僕が住んでるとこなんですけど。で、詳しく場所を聞いたら、家から歩いて2、3分のとこなんですけど。(中略)BCTION(ビクション)と名づけられたそのプロジェクトは、取り壊しを待つ9階建てのオフィスビル全館を使って、およそ80組のアーティストが自由にペインティングやインスタレーションを展開する、期間限定のアート・イベントだ。各フロア約116坪というたっぷりしたスペースに、さまざまなアートワークが展開し、観客はエレベーターや階段でフロアからフロアへと自由に歩き回り、作品を鑑賞できる。

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AKITA HEART MOTHER——東北おかんアート・オデッセイ

告知でもお知らせしてきたように、ただいま「大館・北秋田芸術祭2014」の一環として、鷹巣駅前の空家を使っておかんアート写真&作品展を開催中だ(11月3日まで)。しかし最寄りの大館能代空港は、ANA便が毎日2本のみの競争ゼロ・高値安定。しかも大館〜北秋田間の数カ所に散らばる展示は鉄道、バスなどの公共機関が限られているため、レンタカー以外で短時間で周回するのがかなり困難。というわけでアクセスに難ありで諦めかけているかたも多いと思われるので、今週は誌上展覧会を街歩きスナップとともにお届けしたい。

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電気画帖13 ロンドン・コーリング・アゲイン(画・文:大竹伸朗 写真:大竹伸朗/大竹彩子)

先月の告知でお伝えしてきたように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗個展『Shinro Ohtake』が開催中だ(12月12日まで)。今週のロードサイダーズ・ウィークリーでは作家本人に連載中の「電気画帖」特別版として、写真と絵と文章によるロンドン滞在記を制作してもらった。このあとの展覧会リポートとあわせてお読みいただけたら幸いである。

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ヘタウマの現在形

パリについでフランス第2の座をリヨンと争う重要な都市であり、地中海で最大の貿易港でもあるマルセイユ。告知でお伝えしてきたように、そのマルセイユと、同じ南仏のセットの2会場で『MANGARO』『HETA-UMA』と名づけられた、日本のサブカルチャーをまとめる、というよりもリミックスする重要な展覧会が開催中だ。フランスに日本の漫画好きが多いことはよく知られているが、この展覧会の舞台にパリではなく、かつて日本人にとって「初めてのヨーロッパ」だったマルセイユが選ばれたことも、出展作家のひとりである根本敬の言う「因果」のひとめぐりだろうか。

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生きて痛んで微笑みがえし——小松葉月のパーソナル・アート・ワールド

今年2月26日号で紹介した、川崎市岡本太郎美術館が主催する岡本太郎現代芸術賞。よくある現代美術コンペとは一味違う、コンセプトよりもエモーショナルな感性が評価された作家が多く選ばれていたが、そのなかに特別賞を受賞した小松葉月さんの『果たし状』という大作があった。一見、学校の教室のようなインスタレーション。壁には習字やお絵かきの作品が貼り込まれ、大きな黒板、それに中央に据えられた巨大な台座(玉座?)には、学校用の勉強机と椅子が据えられて、そのありとあらゆる表面に小さなニコニコマークがびっしり描き込まれている。そして机にはセーラー服に防空頭巾をかぶった作家本人が座り、開館時間のあいだじゅうずっと、机上に広げたノートや教科書に、これもびっしり、本人が「ニコちゃん」と呼ぶ、ニコニコマークを描きつづけていた。

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小山田二郎という奇跡

先月なかばの日曜日、府中で取材があった僕は撮影を終えて、京王線府中駅にいた。ふと駅構内のポスターを見ると、府中市美術館で「生誕100年 小山田二郎」展開催中とあるではないか! 同行編集者にむにゃむにゃ言い訳して急いでバスに乗って、無事に展覧会を鑑賞することができた。危ない・・・こうやってどれだけ、知らないうちに重要な展覧会を見逃しているのだろう。本メルマガを始めて間もなく、2012年2月8日配信号で、府中市美術館で開催していた『石子順造的世界』展について書いたのだが、そのときに同時開催されていた小山田二郎展にも少しだけ触れたことがあった。1914年に中国安東県(現遼寧省丹東市)で生まれた小山田二郎は、去年が生誕100年にあたっていて、この展覧会も去年11月8日にスタート。

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カウガール・ラプソディ

明治・大正期の洋風建築、それに漫画ファンには石ノ森章太郎と大友克洋の出身地としても知られる登米の旧市街から、北上川沿いに走ったはずれにある集落が津山町。人口3000人ほどの小さな町だ。クルマで数分も走れば通りすぎてしまう町の、静かな住宅の離れに建つアトリエで、山形牧子さんが待っていてくれた。山形さんのことを教えてくれたのは仙台の友人だった――「河北新報(仙台の地元紙)に、すごく不思議な絵が載ってました、牛と女のひとが宴会してるんです!」 津山町で主婦として暮らしながら、牛と女の絵ばかり描いている、彼女は奇妙なアマチュア・ペインターなのだった。

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灰色の壁の少女

日本においてもグラフィティはれっきとした犯罪だ。軽犯罪法1条33号にある「工作物等汚わい罪」がそれで、「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者」に対して、拘束または科料の支払いが規定されている。また、地方自治体が独自の落書き禁止条例をもうけている場合も多い。だから、これまでこのメルマガで何人かのグラフィティ・アーティストを取り上げてきたが、本名や顔写真を出せないこともあった。今回紹介する福岡のKYNE(キネ)もそうした厳しい環境の中で、アクティブであり続けようとしている若いアーティストだ。

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頭上ビックバン!――帽子おじさん宮間英次郎 80歳記念大展覧会

本メルマガ読者にはもう説明の必要がない「帽子おじさん」宮間英次郎。その波乱に満ちた生涯は、宮間さんの発見者ともいうべき畸人研究学会の海老名ベテルギウス則雄さんの筆により、昨年9月に3回にわたって集中連載した。1934年生まれ、つまり去年80歳を迎えてますます元気いっぱいな宮間さんの、満を持した個展が今月21日から恵比寿NADiffで開催される。展覧会にあわせて畸人研究学会は久々の自主制作新刊『畸人研究30号 特集:宮間英次郎さん傘寿記念』を刊行。これは去年メルマガで連載した内容を、さらにボリュームアップした決定版になるはずだ。展覧会を畸人研究学会と一緒に構成させてもらう僕にとっても、去年5月の『独居老人スタイル展』に続いての、NADiffお達者くらぶ展シリーズ(笑)。クールなアートブックショップには申し訳ないが、老いてますます盛んな現役アウトサイダー・アーティストのほとばしるエネルギーを、過密な展示空間で体感していただけたら幸いである。

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光彩のスクラッチ――Liquidbiupilのアナログ・ライティング・アート

1960年代から70年代に最盛期を迎えた「リキッド・ライティング」を甦らせている若いライティング・アーティストがいると聞いて、耳を疑ったのが数年前のこと。ただ、そのころはライティングどころか、暗すぎて写真も撮れないようなヒップホップのライブにばかり行っていたので、なかなか巡りあうことができず、ようやく一昨年アシッド・マザーズ・テンプルのライブ会場で会えたのが、「Liquidbiupil」(リキッドビウピル)というライティングのチームだった。「Liquid」を裏返してつなげたという風変わりな名前を持つLiquidbiupilは佐藤朗と清水美雪、ふたりのライティング・アーティストによるユニットである。往年そのままに複数台のオーバーヘッドプロジェクターを駆使し、あたかも光と色をスクラッチするように、ライブハウスにサイケデリックな光の空間をつくりあげるスタイルは、アシッド・マザーズ・テンプルのようなバンドからノイズ、さらに演劇の舞台にまで起用され、注目を集めている。

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猫塊の衝撃

新宿から京王線で約30分、稲城は多摩ニュータウンの東端に位置する、静かなベッドタウンだ。改札口で僕を待っていてくれたのが、先日の「ヴァニラ画廊大賞 2014」で大賞を獲得したアーティスト・横倉裕司さんだった。いかにもニュータウンらしい駅前を抜けて鶴川街道を渡ると、景色は突然、のどかな田舎ふうになってくる。代々続いているらしい農家や、放し飼いのニワトリが地面を突ついてる果樹園のあいだを抜けて歩いた先に、空き地に適当に建てられたような、家屋とも倉庫とも言いがたい平屋の建物が数軒かたまっている。そのひとつが、横倉さんが友人とシェアしているアトリエだった。

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墓前報告――〈無名芸術家之墓〉(文:青木淳悟)

新宿2丁目のお座敷があるへんてこなバーで、僕と彼の仲間たちは数冊のファイルを前に興奮していた。収められた数十枚の作品は、どれも一見素朴派と言えそうな画風でありながら、よく見ると女性のお尻がやけに強調されたり、グラビアの写真が切り抜いてコラージュされていたり。どこへ向かおうとしているのかよくわからないままに、激しい熱量を帯びた画面なのだった。ファイルを持ってきてくれたのは青木淳悟さん。2003年に『四十日と四十夜のメルヘン』で新潮新人賞を獲得したのを皮切りに、2012年には『わたしのいない高校』で三島由紀夫賞を受賞した注目の若手小説家。現在も『新潮』に連作『学校の近くの家』を連載中である。実はこの絵の作者は亡くなった青木さんのお父さんで、それも亡くなってから初めて、こんな絵をこんなにたくさん描いていたと家族も知ったというのだった。

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銀河の中に仮名の歓喜  ――福田尚代の美術と回文

ヘンリー・ダーガーの部屋を撮影した写真を集めたマニアックな資料集『HENRY DARGER’S ROOM』や、青森のボロ布を集めた『BORO』を僕と一緒に出版した小出由紀子さんは、東京神田に残る典雅な戦前建築・丸石ビル内に「YUKIKO KOIDE PRESENTS」という、他に日本でほとんど例のないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリーを運営している。その画廊から去年の冬、『福田尚代作品集 2001-2013』という小さな作品集が出版されて、出版記念展も開かれた。美術界ではすでに高い評価を得ながら、これが最初の単独作品集という、もっともっと知られるべきアーティストであり、同時に奇跡的な回文作家でもあるという、多面的な制作活動に長く静かに従事してきた福田尚代さん。今週は埼玉県内のご自宅を訪問してうかがったお話に加えて、公式サイトに掲載されている興味深い年譜や、ツイッター上でのメッセージなどもミックスしながら、彼女の制作の軌跡を辿ってみたい。

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雪より出でよ蓮の花――金谷真のロータス・ペインティング

メールマガジンを始めてからFacebookでこまめに投稿を書いたり、いろんなひとの投稿を読むようになって(なにしろ個人アカウントの友達が5000人の上限に達してるくらいなので)、そうするとFacebookはTwitterとちがって実名だから、「ネット上での思わぬ再会」というようなことが、わりとよく起きたりする。いまから2ヶ月くらい前、「秋田で絵の展覧会やります」というお知らせ投稿に、ふと目が止まった。そこには大きなキャンバスに蓮の絵を描いている画家の写真が添えられていて、彼は蓮の絵だけをずーっと描いているらしいのだが、どうも「金谷真」という名前に見覚えがある。なんだか気になってプロフィールをチェックしたら、「1977年、雑誌POPEYE創刊と同時に専属イラストレーターになる」という一行があって・・・ええ~っ、それは僕がPOPEYE編集部にいたころ、いつも顔を合わせていたイラストレーターの金谷さんなのだった。

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プラスチックの壺中天

すでにご存知のかたも、コンプリートしたくて何千円も散財したかたもいらっしゃるだろう、大竹伸朗のガチャガチャ=「ガチャ景」が先月発売され、直島銭湯や各地のアートブックショップに販売機が設置されている。全6種類、各500円。計3000円でコンプリートできればラッキーだが、なかなかそうはいかなかったりして、ずっとむかしのゲームセンターで味わったような「悔しいから取れるまでぶっこむ」感を、ひさびさに思い出させてくれる。6種類それぞれの「作品」には解説がつけられているのだが、今回は僕がそれを書かせてもらった。あらためてじっくり、ひとつずつの作品についての思い出を聞いて、それを文章に起こしてある。

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夜をかける少女

函館湾に面して、函館市の西隣にある北斗市。来年3月にはここに北海道新幹線の新函館北斗駅が開業予定(当面、北海道側のターミナル駅)・・・という情報が信じられないほど、眠るように静かな住宅地と田畑が交じり合うランドスケープが広がっている。観光地としてはトラピスト修道院があり、三橋美智也や『フランシーヌの場合』の新谷のり子の出身地でもあるのだが。2006年の町村合併で北斗市になる前は上磯町(かみいそちょう)と呼ばれていた、函館から20キロほどのベッドタウン。いかにも漁村らしい風情を残した海辺の集落の、浜からほんの数メートルという家屋の前に、強い浜風に飛ばされそうな風情で、高誠二(たか・せいじ)さんが待っていてくれた。

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春画展、東京の前に福岡で!

来る9月19日から東京・目白台の永青文庫で開かれる展覧会『世界が、先におどろいた。春画 Shunga』のニュースを、すでに耳にしたひとも少なくないだろう。ふりかえれば2013年10月から翌1月までロンドン大英博物館で開催された『Shunga sex and pleasure in Japanese art』が、約9万人の来場者を集める大ヒットとなりながら、肝心の日本への巡回(というか里帰り)がかなわず、恥ずかしい思いをしていた多くの美術ファンにとって、永青文庫での展覧会開催はうれしいニュース。大英博物館の展覧会の巡回ではなく、おもに国内のコレクションによる永青文庫独自の展覧会になるようだが、すでに記者会見も開かれ、「日本初の春画展」として話題を集めている。しかし永青文庫の展覧会の1ヶ月以上前に、実は日本で初めて公立美術館で多数の春画が系統だって展示される、画期的な展覧会が開催されることは、あまり話題になっていない。それが福岡市美術館で8月8日から開かれる『肉筆浮世絵の世界 ―美人画、風俗画、そして春画―』である。

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精液と糞尿のスペース・オデッセイ  ――三条友美「少女裁判」によせて

「百日紅」はふつう「さるすべり」と読むが、この店は「ひゃくじつこう」。見かけも、ドアを開けても一見ふつうの喫茶店だが、展示のラインナップは耽美、フェティッシュ、グロテスク、そしてエロチカに特化した、きわめてビザールかつ「喫茶店らしくない」メニューだ。今年4月末から5月にかけては伝説のエロ劇画家ダーティ・松本の個展が開催され、上品なインテリアと着物姿のママさんと、ハーブティーの香りと(この店はハーブティーが売り!)、股縄バレリーナのようなどエロ展示作品とのミスマッチに絶句させられた。そのカフェ百日紅で8月20日から2週間だけ開催されるのが、ダーティ・松本展以上にどエロでグロテスクで、ミスマッチ感にあふれること確実なハードコア・エクジビション『三条友美 処女個展 少女裁判』である。劇画家・三条友美のことを、どう説明したらいいだろう。知っているひとはずっと静かに愛読してきたろうし、知らないひとは一生知らないままで終わるはずの、まさしく孤高の漫画家にして、エログロ官能劇画のダークスター。すでにキャリア40年近くにおよぶ大御所でありながら、本名も年齢も顔写真も非公開、インタビューすらめったにないというミステリアスな存在。

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詩にいたる病  ――安彦講平と平川病院の作家たち

薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された数枚の絵。それは白地の大きな画面に、Tシャツやズボンなどの洋服が黒い縁取りを伴う白ヌキの平面として浮かび上がる図柄なのだったが、一見エアブラシかパソコンの切り抜き処理のように思えるその画面は、よく見ればすべて鉛筆で洋服の周囲を塗りこめた「切り抜きふう手描き絵画」だった。杉本たまえさんという、その作家に出会ったのは今年3月、近江八幡NO-MAが主催した大規模な展覧会『アール・ブリュット☆アート☆日本』の会場だった。たくさんの出品作家のうちでも、彼女のことが強くこころにひっかかって、東京に帰ってから調べてみると、2009年に第1回展を開催以来、1~2年に一度開かれる『心のアート展』という展覧会に何度も出品していて、ちょうど今年も6月17日から5日間、池袋の東京芸術劇場で開かれることがわかった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 05 稲村米治(文:櫛野展正 写真:都築響一)

都心から60キロの場所にある群馬県の東の端・群馬県邑楽郡板倉町。東武日光線「板倉東洋大前駅」付近は開発が進んでいたニュータウンの面影が残り、街のほとんどは広大な農地がいまも広がっている。遠くに見える浅間山を横目にのどかな田園風景を車で走ること10分、とある民家の床の間に飾られていたのは、高さ80cmほどのガラスケースに入った武者人形だった。目を凝らして見ると、驚くべきことに、カブトムシやクワガタムシやコガネムシなど同じ種類のたくさんの昆虫の死骸が左右対称にピンで付けられている。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・後編

先週に続いて、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会のリポート後編をお送りする。パリで発のアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年の第1回、2013年の第2回展に続く、本展が第3回。もとは市場だったという大きな建築の2フロアに、60名以上の作家によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている。今週は2階フロアに展示されている作家のうちから、個人的に気になった作品を紹介してみる。展覧会は3月まで続くので、機会があればぜひ会場に足を運んでいただきたい。先週書いたように、アートを金持ちのおもちゃではなく、ほんとうに生あるものにしたいと願う人間たちが、いまこんな最前線にいるのだということを体感していただきたいから。

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機械仕掛けの見世物小屋――ジルベール・ペールのアトリエから

先週まで2週にわたって、パリのアル・サンピエールで開催中の展覧会『HEY! ACT III』についてお伝えしてきた(『モンマルトルのベガーズ・バンケット 前・後編』)。60名以上によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている中で、ひときわ奇妙なユーモアを漂わせ、動きのある作品を出展していた数少ない作家がジルベール・ペール。1947年生まれ、みずからを「エレクトロメカノマニアック=電気機械マニア」と呼ぶ、風変わりなフランス人アーティストである。現代美術でもあるけれど、機械による演劇でもあり、スペクタクル=見世物でもある彼の作品に、これまで日本ではほとんど接するチャンスがなかった。今週はパリ郊外のアトリエを訪ね、インタビューを交えながら過去20年以上にわたる作品群を紹介してみたい。

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単眼少女たちのいるところ

この夏のもっとも暑かったころ、ろくに冷房の効かない幕張メッセのワンフェス会場に充満する甘酸っぱいオタク臭に意識を失いかけながら、まるで知らないアニメのフィギュアが何百と並ぶ展示に辟易としはじめたころ、ひとつのブース前で動けなくなった。だれもいないテーブルの上に、美少女の被り物が置いてあるのだが、それは巨大な一つ目の美少女なのだ。そこだけひんやりとした空気が流れるようでもある、一つ目小僧ならぬ一つ目小娘に見とれていると、ブースの主の仲間らしき男子が、「いまいないんですけど、こんなのもあります」と薄手の写真集を見せてくれた。『chimode』というタイトルのそれを購入して帰ったものの、表紙からしてあまりのインパクトに「だれがこんなのつくってるんだろう!」と会ってみたい気が抑えられなくなって、連絡をとってみた。作者の小沢団子(おざわ・だんご)さんは、被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい女の子だった。

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明るさも暗さも底なしの国で――BEAUTÉ CONGO展@パリ・カルティエ財団

先週、ふたつの展覧会を観に、パリに行ってきた。今週、来週とその紹介をしたいのだが、今週はまずカルティエ財団で開催中の『BEAUTÉ CONGO 1926-2015 CONGO KITOKO』にお連れする。アフリカというと、どうしてもプリミティブ・アートに偏った紹介になりがちだが、本展はタイトルどおりコンゴの近代美術を体系的に展示する、画期的な展覧会である。ちなみにタイトルにある「KITOKO」とはコンゴの言葉(リンガラ語)で「美しい」「きれい」などを広くあらわす表現。「かわいい」や「おいしい」にも使えるそうなので、覚えておくといつか役に立つかも。

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花咲く娼婦たちのかげに――オルセー美術館『華麗と悲惨:売春のイメージ』展

先月2回にわたって紹介したアウトサイダー/ロウブロウ・アートの展覧会『HEY!』に、見世物小屋絵看板コレクションで参加した折り、ちょうどオープニングがあるというので楽しみにしていたのが、オルセー美術館の『Splendeurs et misères, Images de la prostitution 1850-1910』という展覧会だった。ご承知のとおりオルセー美術館はセーヌ河畔近くの、もともと駅舎兼ホテルだった巨大な建物を改造した、19世紀美術に特化した美術館。正確には二月革命の1848年から第一次大戦勃発の1914年までの期間を扱い、それ以前はルーブル、以降はポンピドゥ・センターという区分になっている。特に印象派のコレクションが有名で、パリ有数の観光名所として日本からの観光客にもおなじみ。本メルマガではちょうど1年前の2014年11月19日配信号で『サド展』を紹介したが、それに続く意欲的というか、挑戦的な企画展が今回の『Splendeurs et misères』だ。

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フランス式グラフィティの教え

この原稿を書いている最中にパリの同時多発テロ第一報が、つけっぱなしのテレビから流れてきた。土曜日早朝、CNNのライブ・ニュースで、しばらく画面に釘付けになるしかなかったが、そのあと日本の地上波を見てみて、あまりの軽い扱いように、ふたたびのけぞった。現場に突っ込んでいく取材力がないのと(土曜日で支局員はお休み?笑)、掘り下げていけば当然ながら、集団的自衛権が抱え込む危険に言及しなくてはならないからだろうけれど。こんなタイミングで、パリの街のガイドのような記事を書くのはどうかとも思ったが、こんなときだからこそ書くべきかとも思い、そのまま進めることにした。日本ではいまだ「落書き」扱いのグラフィティだが、それがきわめて先鋭的なメッセージを発信するメディアとなり得ることを、記事から読み取っていただけたらうれしい。文中でも触れるが、いまごろパリの街角では、テロの犠牲者たちに捧げるグラフィティが、爆発的なスピードで生まれているはず。都市の生命力とは、そういうエネルギーのことを言うのだろう。高層ビルの数とか、巨大店舗の売上高とかではなくて。

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八潮秘宝館、開張!

告知でお知らせしたように11月13~15日の3日間、稀代のラブドール・コレクターであり、ご本人によれば「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴(ひょうどう・よしたか)が、「自宅秘宝館」として『八潮秘宝館』を一般公開。全国から50人以上のマニアが拝観に訪れたという。兵頭さんが初めて本メルマガに登場してくれたのは2012年3月21日配信号。『人形愛に溺れて』と題したその記事は、葛飾区内の古びたアパートの一室に構築された、驚異の変態人形空間訪問記だった。

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修羅の果ての島で――焼き絵師・元心作品展

ハンダゴテのような電熱ペンを使って、板を焦がすことで絵柄を描いていくウッドバーニングというクラフトがある。古くから世界中で親しまれてきた技法だが、その電熱ペンを使って木片ではなく皮革に絵を描く「焼き絵作家」が、元心(げんしん)である。すでに本メールマガジン購読者にはおなじみのカフェバー浅草・鈴楼で、その作品展『LEATHER ART GENSHIN』が昨年末から開催中だ。ヌメ革独特の肌に描かれるのは浮世絵の美人や役者絵、相撲取りといった伝統的図柄から、虎、犬、猫、昆虫など、身の回りの生き物たちまでさまざま。中には春画を題材にしたものもある。作品の多くは色紙大くらいだが、2メートルを超える一枚革に観音や仙人を焼き描いた大作にも挑戦している。

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焼き芋とストリート・アート

とてつもないデコトラならぬデコ・セダンが真冬の、東京の夜をクルーズしている。トヨタの誇る社長車センチュリーの屋根にド派手なデコレーションを光らせ、後部に伸びた竹ヤリから白煙をモクモク吹き出しながら・・・。秋葉原で、原宿で、代官山で、その勇姿を見て呆然としたひとも、思わず駆け寄ったひともいるだろう。デコ・セダンの名は「金時」、大阪のアーティスト・ユニット「yotta(ヨタ)」が仕掛ける「アートとしての焼き芋屋活動」である。すでに多くのメディアにも取り上げられているyottaは、木崎公隆と山脇弘道によるユニット。2010年に移動焼き芋屋・金時をスタートさせて以来、今年も3月末の焼き芋シーズン終了まで、東京の街なかで夜ごと焼き芋を売り歩いている。

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皮膚という衣装のために――八島良子の映像をめぐって

先週、東京六本木の国立新美術館では「文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が開催されていた(2月3~14日)。1997年の設立以来、今年が19回目になるメディア芸術祭は、その名のとおり文化庁が主催する「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」(公式サイトより)。国内最大級のアート・デザイン系コンペであることは間違いない。しかし今年の芸術祭アート部門で、審査委員会推薦作品に選ばれながら、展示されなかった作品があった。八島良子の映像インスタレーション『Limitations』である。

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月夜の浜の少女時代

本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で、今週月曜日から『沈黙する聖少女。宮トオル遺作展』が開催中である。「宮トオル」という名前を聞いて、「ああ、あの作家ね」とうなづく美術ファンが、どれくらいいるだろうか。僕も不勉強で、初めて聞く名前だった。イラストレーターから画家に転身し、亡くなるまでずっとひとりの、というか同じ顔の少女を宮トオルは描きつづけた。徳之島という南の島に生まれ育った彼の画面には、奄美大島でだれにも評価されない絵を描きつづけた田中一村の光と闇が見える気もするし、飽くことなく描いた少女の表情には、斎藤真一が描いた瞽女の静謐さが滲み出ているようにも見える。そして宮トオルの絵はだれにも似ていないし、どんなトレンドにも流派にも属していない。そういう、ひとりだけの絵を描いて彼は生き、死に、忘れられた。

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破壊せよ、と動画は叫ぶ――冠木佐和子のアニメーション・サイケデリア

昨年はアウトサイダー映像作家・伊勢田勝行監督のアニメに打ちのめされたが、またひとり、僕らがふつうに思う「アニメ」のイメージを激しく逸脱する、オリジナリティのかたまりのような作品を生み出す作家に出会うことができた。冠木佐和子(かぶき・さわこ)――1990年生まれ、まだ25歳の若手映像作家である。冠木さんがどんなひとなのか紹介する前に、とにかくまずはこの一本を見てほしい。『肛門的重苦 Ketsujiru Juke』、2013年に多摩美術大学の卒業制作として発表された、2分56秒の作品だ。

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『針工場』――豊島に大竹伸朗の新作を訪ねて

今年は瀬戸内国際芸術祭の開催年だ。2010年、2013年に続く3回目。4月17日までの春会期にいち早く訪れたかたもいらっしゃるだろう。直島、小豆島と並んで多くの作品が集まる豊島(てしま)には大竹伸朗の新作『針工場』が完成。直島の『直島銭湯I♥湯』『はいしゃ/舌上夢/ポッコン覗』女木島『女根/めこん』に次ぐ4つめのプロジェクトとなった。

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死刑台のギャラリー――極限芸術2~死刑囚は描く~

広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」を、これまで本メルマガでは何回も紹介してきた。全国各地に続々と誕生しつつあるアウトサイダー・アート/アールブリュット関連展示施設のうちで、ほとんど唯一「障害者」という枠組みをあえて逸脱しようとする姿勢が際立つ、本来的なアウトサイダー精神に深く共感したからだった。ヤンキーにスピリチュアル系、ただ単に「我が道を行く」変人表現者まで――福祉施設を母体に持ちながら、それはどんな公立美術館も手をつけない、ひりつくリアリティに満ちた企画で、だからこそ全国から熱心な来館者たちを集めていたのだが、そのキュレーションの中心にいたのが櫛野展正だった。本メルマガでも「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載している櫛野くんが、昨年末で鞆の津ミュージアムを離れ、同じ福山市内に開いたのが「クシノテラス」。その第1回目の本格的な展示として、『極限芸術2~死刑囚は描く~』が先月末から開催中だ(8月29日まで)。

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太陽と大地と人形の国――ネック・チャンドのロックガーデン訪問記

コルビジェのキャピトル・コンプレックスに隣接する広大な彫刻庭園が「ネック・チャンドのロックガーデン」である。ル・コルビュジエではなくて、実はこのロックガーデンが見たくて、僕はここまで来たのだった。アウトサイダーアート/アールブリュット・ファンにとって、生涯でいちどは訪れなくてはならない場所が、2カ所ある。そのひとつはフランス・オートリーヴの「郵便配達夫シュヴァルのパレ・イデアル(理想宮)」、そしてもうひとつがネック・チャンドのロックガーデンだ。

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神は局部に宿る!

日本を訪れる外国人観光客は、氾濫する性的イメージにいきなり圧倒される。通りにはみ出す風俗看板に、路傍でチラシを配るメイド少女に、DVD屋のすだれの奥に、コンビニの成人コーナーにあふれ匂い立つセックス。そしてハイウェイ沿いに建つラブホテルの群。この息づまる性臭に、暴走する妄想に、アートを、建築を、デザインを語る人々はつねに顔を背けてきた。超高級外資系ホテルや貸切離れの高級旅館は存在すら知らなくても、地元のラブホテルを知らないひとはいないだろうに。現代美術館の「ビデオアート」には一生縁がなくても、AVを一本も観たことのない日本人はいないだろうに。そして発情する日本のストリートは、「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」だらけなのに。

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美青年の園で(文:ドキドキクラブ)

東京都心部から30分ほど、私鉄沿線の静かな郊外駅に、織部佳積さんが待ってくれていた。織部さんを僕に引き合わせてくれたのは、本メルマガ2014年11月26日号『瞬間芸の彼方に』で紹介したドキドキクラブくんだった。取材以来、仲良くしてもらっているので「くん」づけで呼ばせてもらうが、ドキドキくんはもうずいぶん前に、アート系のイベントで織部さんと知り合い、ひそかにその制作活動に注目してきたのだという。「こんな絵を描いてるひとなんですよ」と、携帯で見せてくれた作品の不思議さに心惹かれて、きょうは織部さんが住むアパートまで連れてきてもらったのだった。

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ストリート・オブ・クエイ

東京都心部から約1時間、逗子駅に降り立つとすでにバス乗り場に並ぶ長い列ができている。ふだんは静かなビーチタウンが、この時期になると週末平日を問わず大混雑。「濡れた水着のままで乗車しないでください」「カバー無しでモリはは持ち込まないように」などと注意書きが貼られた超満員のバスに揺られ、ようやくほとんどの乗客が降りたあと、美術館前のバス停で下車。海の家の楽しげな音が風に乗って聞こえる神奈川県立近代美術館・葉山では『クエイ兄弟――ファントム・ミュージアム』が開催中だ(10月10日まで)。ここに来るのは一日がかりになってしまうのだが、これほど重要な展覧会を本メルマガ読者には見逃してもらいたくなくて、夏休みが明けて葉山の混雑がなくなるのを待てず、いち早くご紹介することにした。

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京都マネキン慕情

京都近美で企画展と平行して、常設展エリアである「コレクション・ギャラリー」で今週日曜まで開催中なのが「キュレトリアル・スタディズ11:七彩に集った作家たち」。このままだとあまり知られないまま終わってしまいそう。でも個人的にはとても興味深い企画だったので、遅ればせながら紹介させていただく。「七彩」とは京都に本社を置くマネキンの会社である。創業者が彫刻家の向井良吉(洋画家の向井潤吉は兄)ということもあって、かなり芸術的な気風にあふれた会社であり、多くのアーティストが集まってマネキン制作に協力したり、顧客への贈呈品を手がけたりしていた。この小さな展覧会はそんな、いかにも京都らしい七彩という会社の歩みとアーティストたちの関わりを見せるとともに、美術館のあちこちに七彩のマネキンを配置して、知らずにやってきた観覧者を驚かせるという変化球的な楽しみを併せ持った、ユニークな企画だ。

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パリのビート・ジェネレーション

ジャック・ケルアックの『路上』が発表されたのは1957年だから、今年が60周年になる。訳者の青山南さん(※新訳『オン・ザ・ロード』訳者)によれば、ビート・ジェネレーションとは「だまされてふんだくられて精神的肉体的に消耗している世代」と訳されるそうだが、公式にビート・ジェネレーションが生まれたのは1944年、アレン・ギンズバーグとウィリアム・バロウズとジャック・ケルアックがニューヨークのコロンビア大学で知り合ったときとされている。そして2016年のいま、パリのポンピドゥ・センターでは『ビート・ジェネレーション ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ』展が開催中だ(10月3日まで)。どうしても行きたかったけれど時間がやりくりできず、かわりに本メルマガに寄稿してくれているパリ在住の飛幡祐規さんに見てきてもらった。

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レペゼン小倉のストリート・アーティスト、BABU

今月末の会期終了まで10日あまりとなった福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産』展。1990年代に『珍日本紀行』で日本中を巡っていた時代から、つい最近までの九州ネタをぎゅうぎゅうに詰め込んである中でもっとも新しい、というか最近の出会いだったのが、会場奥に設けた奇妙なスケートボード作品群。暴走族単車に畳、果ては琴まで(!)、なんにでもホイールをつけてスケートボードにしてしまう、恐るべき改造マニアによる作品だが、そのアーティストが「BABU(バブ)」。小倉を拠点に活動するストリート・アーティストであり、スケートボーダーであり、彫師でもある。そしてそのアトリエは偶然にも、見世物小屋絵看板の伝説的な絵師だった志村静峯の「大衆芸術社」があったのと同じ、小倉の中島本町にある。

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軽金属の妖精たち

最初に見たときはCGかと思った。それも初歩的な。緑の木々や、夜景に浮かぶメタリックなかたまり。球形や円錐やカプセルを組み合わせてつくられた、アニメのロボットのような、生き物のような。それがCGではなくて金属による立体作品だと知ってまず驚き、それがまだほとんど知られていない若い女性作家によるものだと知って、さらに驚いた。服部美樹は1983年生まれ、33歳のアーティストである。「作品はほとんど自宅にあります」というので、さっそくお邪魔した東京都心に近い、こんな場所にこんな家屋が!と目を疑う一軒家が、服部さんのアトリエ兼住居だった。聞けば築70年というから、終戦直後に建てられたそのままで、ビルの谷間に生き延びてきたことになる。

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版画壁――シンガポールの大竹伸朗展

東南アジア最重要都市のひとつでありながら、東南アジア・フリークにはもっとも人気のないデスティネーション、それがシンガポールだ。マーライオンやナイトサファリ、みたいな定番観光地とショッピング。ひたすら清潔な街並みと欧米並みの物価・・・アジアの混沌に浸りたい旅人にとっては物足りないイメージしかないのだろうが、シンガポールは21世紀に入って「アートによる観光立国」を目指し、新たな美術館建設やビエンナーレの開催など、矢継ぎ早に大胆なプロジェクトを実現させている。「カネはあるけど文化はない」というイメージも今は昔。ソウルと並んで、アジアのアート・ハブを目指す競争の先頭を競っているのが、現在のシンガポールでもある。10月27日からは5回目となるシンガポール・ビエンナーレが始まったばかりだが(来年2月26日まで)、それに先行して9月末から11月5日までシンガポールSTPIで開催中なのが大竹伸朗展『Paper ― Sight』。会期末ぎりぎりになってしまい申し訳ないが、今週は作家自身による制作日記も含めて、このユニークな展覧会の模様をお伝えする。

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手芸のアナザーサイド 1 山さきあさ彦の「山ぐるみ」

「手芸」という言葉に引かれるひとと、惹かれるひとと、ロードサイダーズ界隈にはどちらが多いだろうか。おかんアート系はともかくとして、「手編みのセータ-」みたいな普通の手芸をこのメルマガで取り上げようと思うことはなかったが、アウトサイダー・アーティストには布や糸や毛糸を素材に、すごくおもしろい作品をつくるひとがたくさんいる。そしてこのところやけに気になるのが、アウトサイダーとは言わないまでも、図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、セルフトート=自分でてきとうに縫ったり編んだりしている、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品。今週と来週の2回にわたって、ふたりの作家による手芸のそんなアナザーサイドを紹介してみたい。

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手芸のアナザーサイド 2 ミクラフレシアと「ニット・オア・ダイ」

先週の「山ぐるみ」に続いてお送りする、セルフトート手芸の最前線。図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、自分でてきとうに縫ったり編んだり、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品のつくり手たち。今週は東京在住のアーティスト「ミクラフレシア」をご紹介する。世界最大の花にして毒々しい臭いを放つラフレシアと、ご自身の名前である「ミカ」を組み合わせたというミクラフレシア。怪獣、妖怪、巨大蛸、蛾、異形の人間・・・ふつうの手芸のかわいさとはかけ離れた物体でありながら、だれもがまず「かわいい!」と口走ってしまうにちがいない、キュートとグロテスクとシュールが鍋で煮詰められたような、なんとも不思議な立体作品を生み続けている手芸作家だ。

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ホームレス排除アートをめぐって

すでにFacebookページを読んでくれたかたもいらっしゃるでしょうが、ずっと前にブログで書いた「ホームレス排除アート」の記事が、すごい数のリーチになってます。もともとはツイッターからですが、リツイート数を見たテレビ局から、たぶん「ホームレス 排除 アート」とかで検索して探し当てたのでしょう、「写真使わせてほしい」との連絡があり、それで2009年のブログ記事をメルマガ事務局のほうでFacebookページにアップしたのが経緯。ホームレス排除アートについてはもともと、『ART iT』という美術誌の連載で2004年に書いたもの。それが2009年になって『現代美術場外乱闘』という単行本に収められたので、「そういえばあれからどうなったのかな?」という確認もしたくて排除アートがあった場所を再訪、ブログに書いたのでした。

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ピエール・ユイグの映像が異界へと僕らを・・・

2012年からスタートしたこのメールマガジンも、来週号で6年目に突入。年を追うごとに肥大化しているのはご存じのとおりだが、毎週というペースでこれだけ長々と書いていても、紹介しきれないイベントがたくさんある。いま表参道のエスパス・ルイ・ヴィトン東京で開催されているピエール・ユイグ展も今年6月から前期が始まり、9月末からは後期になっているのに、2017年1月9日に閉幕する直前での紹介になってしまった。すでにご覧になったかたもいらっしゃると思うが、こんなタイミングでの掲載をお許しいただきたい。ピエール・ユイグ(Pierre Huyghe)は1962年パリ生まれの現代美術家。映像とインスタレーションをおもな活動領域として、1990年代末から頭角をあらわし、2001年にはすでにフランス代表としてヴェネツィア・ビエンナーレに出展、審査員特別賞を受賞している、ベテラン・アーティストである。

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ファンタジーの戦争と、現実の戦争のはざまで――生頼範義展に寄せて

年末のばたばたをやりくりして慌ただしく宮崎を訪れたのは、アートセンターで開催中の『生頼範義展III THE LAST ODYSSEY』を、どうしても観ておきたかったから。生頼範義(おおらい・のりよし)は書籍カバーや挿絵、映画ポスターなどの分野で活躍したイラストレーター。1935年兵庫県明石市に生まれ、2015年に宮崎で亡くなったばかりである。享年79歳だった。『宮本武蔵』をはじめとする吉川英治の多くの著作や、平井和正の『ウルフガイシリーズ』『幻魔大戦』、小松左京の『日本沈没』、創元SF文庫の『レンズマン・シリーズ』などの小説類がある。ジョージ・ルーカスから依頼を受けた『スターウォーズ 帝国の逆襲』の国際版ポスターや、1984年の復活以来の『ゴジラ』シリーズなど、多くの映画ポスターもある。

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エレクトロメカノマニアック――パリのジルベール・ペール展

もうこのメルマガではおなじみの、パリのアウトサイダー・アート専門美術館アレサンピエールで、ジルベール・ペール展が開催中だ。2015年10月21日配信号で、この不思議なアーティストのアトリエ訪問記『機械仕掛けの見世物小屋』を掲載したが、今回は満を持しての大規模個展。サブタイトルを「L'ÉLECTROMÉCANOMANIAQUE」=エレクトロ+メカ+マニアックと題したこの展覧会は、アレサンピエールの広い2フロアをまるごと使った、ペールの集大成ともいえるコレクション。当初は去年9月から今年2月までの予定だったが、好評につき4月23日まで延長が決まっている。トレンディな現代美術でもなければ、ノスタルジックな古典美術でもない。機械仕掛けの楽しさと、見世物小屋のブラックユーモアが渾然一体となって、しかし総体として「アート」としか表現しようのない、素晴らしくチャーミングな体験空間になっている。

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聖アドルフの脳内宇宙展

最近は閉幕間際の展覧会紹介が多くて申し訳ないが、今週末(2月26日)まで『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』展が兵庫県立美術館で開催中だ。ただし、本展はこのあと名古屋市美術館、東京駅ステーションギャラリーと巡回するので、神戸展に間に合わないかたはぜひ、名古屋か東京でご覧いただきたい。名古屋展では僕もトークさせていただく予定になっている。アール・ブリュット/アウトサイダー・アートの先駆的存在として、アドルフ・ヴェルフリはもっとも有名な作家のひとり。本メルマガでも2015年3月4日配信号で、滋賀県近江八幡での展覧会を紹介したが、それほど重要な作家であるにもかかわらず、今回の展覧会がヴェルフリの大規模な個展としては、日本で初めてとなる。

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ここにも板極道あり――藤宮史の木版漫画

いま、漫画家のデジタル化はどれくらい進んでいるのだろう。紙にペンで描くひとと、タブレットを使うひとはどれくらいの割合なのだろうか。激変する漫画の作画環境のなかで、というか外側で、なんと木版画で漫画を描き続ける作家がいる。藤宮史(ふじみや・ふひと)、52歳。昨年秋に2冊目の商業出版による作品集『木版漫画集 或る押入れ頭男の話』を発表。その原画(つまり版画)を抜粋して展示する展覧会が、いま中野区新井薬師前のギャラリー「35分」で開催中だ。まずコンテを描き、それをトレーシングペーパーに写し、それを版木に写して彫り、摺り、できあがった版画にテキストを貼り込んでようやく版下が完成、印刷に入るという、まるで時代に逆行する「コストパフォーマンスの悪い」(本人談)やりかたで、もう10年間も漫画をつくってきた藤宮さんとは、いったいどんなひとなのだろう。今年で22年目という阿佐ヶ谷のはずれのアパート(六畳と台所、風呂無し)に訪ね、お話をうかがうことができた。

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小松家の大移動展

2014年12月17日号で、小松葉月という風変わりなアーティストを紹介した(『生きて痛んで微笑みがえし――小松葉月のパーソナル・アート・ワールド』)。1991年生まれの小松さんは当時、多摩美術大学の学生だったが、あれから大学院に進み、ちょうど院を卒業する時期を迎えている。そんなタイミングで「展覧会を開くので、見に来てください」とお誘いを受けた。どこの画廊か美術館かと思ったら、場所は「自宅」。3月12日から16日までの5日間だけ。それも招待客のみで、何人招いたのか聞いてみたら、「ぜんぶで4人」! 『小松家 大移動展』と題された、その風変わりな展覧会を拝見に、実家でもある湘南の瀟洒なお宅を再訪した。

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チンコマン襲来!――石川次郎フランス巡回展

それがアートでも音楽でも文学でもいいのだけれど、メールマガジンで取り上げる創作者の多くは、世間にあまり認知されていないひとびとだ。そこには「こんな才能が埋もれていた!」という発見のうれしさもあるけれど、「こんな才能がどうして埋もれたままなのか!」という憤りのほうが大きい場合もたくさんある。漫画というジャンルでずいぶん前から気になっていて、世間にもっと認知されない理由が理解できない才能の持主が、石川次郎だ。僕が石川次郎と書くと、編集者としての師匠であり『トゥナイト2』の次郎さんでもあるほうを思われる方が多いだろうが、今回の石川次郎は1967年生まれ、今年50歳になる同姓同名の漫画家。2014年フランスのマルセイユ/セットで開催された『マンガロ』『ヘタウマ』展(2014年11月12日号参照)で、ようやく知り合うことができた。

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妄想版・夜の昭和史

描くもの、書くもののイメージと、本人の見かけがかけ離れているというのはよくあること。僕もそう言われることが多いが、2016年に『女たちの夜』というZINEのような作品集を、作者である吉岡里奈そのひとから手渡されて、「え、これ描いたんですか?」と、かなりとまどったのを覚えている。目の前に広げられたお色気熟女(とオヤジ)がプンプン振りまく昭和の匂いと、目の前にいる華奢な女の子の見かけが、どうしてもうまく合わさらなかったからだ。2015年に初作品集である『女たちの夜』を、2016年には「日本一展覧会を観る男」として本メルマガでもおなじみの山口“グッチ”佳宏プロデュースによる小作品集シリーズ「ミッドナイト・ライブラリー」で『eat it』を発表した吉岡里奈が、この5月23日から『女體名所案内』という、これまた昭和の夜の匂いにまみれた絵画展を開催する。

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かずおさんのこと

名古屋駅から近鉄に乗って約1時間、三重県の津駅に降り立つと、改札口でふたりが待っていてくれた。不思議な女性の絵ばかり描いているひと、と聞いて会ってみたくなった「かずお」さんと、彼を紹介してくれた画家の倉岡雅(くらおか・まさし)さんだった。とりあえず駅前の喫茶店に入って、テーブルいっぱいに画用紙を広げながら、かずおさんが次々に見せてくれる絵・・・それらは激しい色遣いで描かれた女性たちが、激しい色彩の背景に浮かんで、サイケデリックなトリップ感を放射しながら、同時に一種病的な圧迫感も漂わせる。それが目の前で微笑みながらコーヒーを啜っている無口な本人の印象となかなかフィットしなくて、僕にかずおさんのことをもっと知りたくさせるのだった。

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心のアート展・印象記

2009年の第1回以来、8年で6回目となる今回の展覧会は、東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)に加盟する29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示された。芸術劇場のギャラリーはアートに特化した展示室ではないのだが、広い空間を埋めた多量の作品群は圧倒的なエネルギーに満ちて、観終わるころにはかなりの疲労感を覚えるほどだった。回を重ねるごとに病院やスタッフ、また会場を訪れる作家たちが刺激しあってなのか、過去3回ほどの展覧会を観ている僕の目にも参加作品全体のレベルアップが顕著で、それは「アート」と「アウトサイダー・アート」の区別をますます無意味に感じさせる体験でもあった。短い開催期間で、観に行けなかったかたたちのために、今週は『第6回 心のアート展』から印象に残った作家と作品を紹介させていただく。

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銅版画家・小林ドンゲ

会期終了間近の紹介になってしまい恐縮だが、佐倉市立美術館でいま『収蔵作品展 小林ドンゲ――初期版画を中心として』が開催中だ(7月17日まで)。千葉の佐倉にはDIC川村記念美術館や国立歴史民俗博物館もあるので、休日の展覧会巡りで訪れるひともいるだろう。小林ドンゲという不思議な響きの名前を持つ銅版画家は、そんなによく知られているわけではないと思うけれど、古くからのファンも、若い世代の支持者もいて、2004年には同じ千葉県の菱川師宣記念館で大規模個展が、また2015年には銀座ヴァニラ画廊でも展覧会が開かれている。堀口大學の詩集の装丁なども手がけたので、文学からドンゲの仕事を知ったファンもいるかもしれない。

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嫌われしものの美

それは縦横70センチほどの絵だった。銅色で覆われた画面の中央に、なんの鳥だろう、崩れかけた死骸がある。その周囲をびっしり取り巻く点々は、目を近づけてみれば無数の蛆虫なのだった。言葉で説明するとグロテスクに聞こえるが、その光景に気持ち悪さは微塵もなく、むしろ命のかけらが鳥から蛆虫へと受け渡されようとする瞬間の、ある種の神々しさがそこには漂っているようだった。蛆虫、アリ、ムカデ、ユスリカ・・・そういう「嫌われもの」を好んで画題に取り上げ、緻密な日本画で表現する作家、それが萩原和奈可(はぎわら・わなか)である。萩原さんを知ったのは、本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊が主催する公募展の審査で、『HEROES』と題された鳥の死骸と蛆虫の作品に出会ったときだった。第5回を迎えた2017年度の「公募・ヴァニラ大賞」で、僕は萩原さんの作品を「都築響一賞」に選び、他の作品も見たくなって彼女が両親と暮らす茨城県龍ケ崎市の家にお邪魔させてもらうことにした。

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札幌国際芸術祭フリンジ・ツアー

いつのまにか夏といえば芸術祭の季節になってしまった。今年も横浜トリエンナーレをはじめ、大小さまざまのアートフェスがスタート。すでに夏休みの予定に組み入れているかたも多いだろう。先週号の告知でお伝えしたように、札幌国際芸術祭2017も8月6日から始まっている。いまは亡き北海道秘宝館の写真と動画展示という小さな企画で僕も参加、先週の開幕直前に設営がてら会場のいくつかを回ってみたので、気になった展示のいくつかをご紹介してみたい。第1回の2014年から3年ぶりとなる今年の第2回・札幌国際芸術祭。前回はゲストディレクターに坂本龍一を迎え、なにかと派手なイメージだったが、今回のゲストディレクターは大友良英。

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鉄彫家・藤井健仁のメタルマシン・ミュージック

何年かにいちど「日展」に足を運ぶたびに、いちばん興味をそそられるのが彫刻部門だ。広い展示室がまるで、公園から集められてきた男女像が詰め込まれた倉庫というか、彫刻の森状態になっていて、その大半はブロンズ像なのだが、あるときそれがブロンズではなく「ブロンズ加工」されたFRP(強化プラスチック)なのだと気づいて啞然とした。ブロンズは制作が大変だが、FRPの表面にブロンズ加工すれば簡単だし、扱いも楽ということらしい。FRPの生地のままにしておいたら、ずっとかっこいいのにと思ったが、彫刻業界では素材による上下関係があるようで、ブロンズや大理石といった高価な素材が立派で、コンクリートやプラスチックなど、僕らの日常になじみ深い素材は一段劣る扱いを受けてきた気がする。鉄もまた、日常ありふれたマテリアルでありながら、彫刻業界ではマイナーな素材だ。その鉄を使って、これもかつてはメインだったが、現代美術のなかではもはやマイナーな彫像や人形をつくり続けている鉄彫作家が藤井健仁(ふじい・たけひと)だ。

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短距離走者の孤独――岸本清子展に寄せて

かつては名古屋経済の重鎮たちの邸宅が並び、シロガネーゼならぬシラカベーゼ(どちらも死語)の発祥地でもある名古屋屈指の高級住宅街・橦木町。「文化のみち」と名付けられた風情ある一画にある小さな画廊Shumoku Galleryで、『岸本清子展』が開催されている(9月30日まで)。岸本清子(きしもと・さやこ)は1939年名古屋市生まれ。多摩美大在学中から「ネオ・ダダイズム・オルガナイザー」グループ唯一の女性作家としてスキャンダラスな活動を繰り広げ、40代からは名古屋に拠点を移して、闘病生活を送りながら激しい創作活動を続けたが、1988年に49歳の短い生涯を閉じている。

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周回遅れのトップランナー

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。 孤高と言うより孤独。天才と言うより異才。これはどこかの地方の、どこかの片隅で、きょうも黙ってひとりだけの作品世界を産みつづけるアーティストたちの物語である。

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石子順造的世界:府中市美術館にて開催中

1970年代に『ガロ』を読みふけった世代にはおなじみ、石子順造は『キッチュ論』、『コミック論』などで知られた美術評論家であり漫画評論家。漫画にアングラ芸術、街場のデザインなど、当時見向きもされなかったストリート・レベルのアートの価値を積極的に評価した、先駆的な存在でした。昭和52(1977)年に、わずか49歳で亡くなっているので、もちろんお会いしたことはないけれど、業績を見てみれば僕の大師匠というか・・・。

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人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記

オープニングの夜だったか、トークショーのときだったか、いろんなお客さんに写真とラブドールの説明をしていたときに、じっとドールを見つめている、というか睨めまわしているひとりの男性が目に止まった。さっそく近づいていって、「これがオリエント工業という会社の最高級ラブドールで、お値段70万円・・」と得意になって説明しようとしたら、「知ってます、持ってますから」と返されてギャフン。それが「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴さんとの出会いだった。

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刑務所博物館で身もこころもヒンヤリ

Corrections Museum 廊下に沿った舎房を覗いてみると・・そこにはとんでもない拷問を受けている受刑者たち(のマネキン・・もちろん!)がいた。籐で編んだ巨大なボール(セパタクローで使うような)に囚人を入れ(しかもボールの内部には無数の釘が突き出している)、それを象に蹴らせる! なんてイマジネーション豊かすぎる拷問器具が、マネキン込みで展示されていて、迫力満点。こうした拷問は政令によって1934年に廃止されるまで行われていたというから・・恐ろしいですねえ。

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『バッタもんのバッタもん』でバッタバタ

この展覧会のことを取り上げたのは、企画自体がおもしろいこともあるんですが、2010年神戸での展示がルイ・ヴィトン社の抗議にあって中止になったように、今回も参加作品の一部にギャラリー側からクレームがつき・・・結果として「ブラックボックス」と岡本さんが名づけた、モザイクをかけたように見える箱の中に展示することになったという、「またかよ!」な顛末を聞いたから。 その、問題の作品とは「アンパンもん」と「せんともん」。

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三上正泰の、なんでもボールペン

昨年11月から今年2月まで、花巻の「るんぴにい美術館」という、小さなアウトサイダー・アート・ギャラリーのグループ展に参加しました。場所が岩手県なので、ご覧になれた方は多くないでしょうが、参加アーティストの中には初めて作品を見ることができた地元の作家もいて、僕としては興味津々。なかでも三上正泰さんの作品には目が釘付けになり、急いで模造紙を買ってきて、写真撮らせてもらいました。

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鞆の浦おかんアート紀行

今回の展覧会では、先週ご紹介した福山のアウトサイダー・ルポルタージュのほかに、鞆の浦で出会ったカリスマ・おかんアーティストたちとその作品群も展示される。アート・ギャラリーで「おかんアート」が、ファインアートに混じって展示されるのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。規模は小さいが、実家の茶の間やスナックのカウンターとかではなく、ギャラリーという展示空間でどう見えるのか、僕としても興味津々だ。

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ドクメンタ13 日本からは大竹伸朗が参加して、6月9日より開催!

ドイツ連邦共和国のほぼ真ん中に位置するカッセル。フランクフルトからICE(インターシティ・エクスプレス=特急)で約1時間半ほどで到着するこの古都は、5年にいちど開かれる現代美術の祭典「ドクメンタ」の開催地として、あまりにも有名である。 実は今回のドクメンタ13には、日本から大竹伸朗が選ばれ、参加している。そこでロードサイダーズ・ウィークリーでは大竹伸朗に依頼し、今回のプロジェクトの制作ノートを連載してもらうことになった。

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特別集中連載: カッセルでの日々 2 (写真・文 大竹伸朗)

去年同様降り立ったフランクフルト空港で印象的だったのはいろいろな公共機器のデザインがクールでカッコいいこと、イギリスとも違う鉄壁のジャーマンセンス。しかしここにハマっていくと嫌みな「江戸っ子自慢」に似た妙な「ヨーロッパコンセプトかぶれ」「臭いアートセンス野郎」「一見進化系パソコン常備携帯バカ」「欧米語るがお前には黒船は永久にやって来ない野郎」へ急接近する危険性もあるので要注意だ。ドイツの時刻表よりオレは北千住のスナック看板を信じる!

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特別集中連載:カッセルでの日々 3 (写真・文 大竹伸朗)

滞在場所であるアパートとドクメンタ本部、森の設置場所の位置関係もきちんと把握できないまま毎朝チャリ発進の日々が始まった。日本とくらべると真冬に近い気候の中、時にロンドンの遠い日々を時に別海での忘却の彼方が頭をよぎり樫の巨木元とにかく終わりの見えない作業に突入した。「小屋作品」の最終形はここカッセルで何を拾うかにすべてがかかっている。

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特別集中連載:カッセルでの日々4 (写真・文 大竹伸朗)

カッセルの路上ゴミ神様に身を委ねる日々においては、常に進行形の未知の作品に思いを向けていれはいいかというとそういう理屈にはならない。あまり思いつめるとカスばかりつかむことになる。そこには「間」といいますか見て見ぬ振りをするというのか本当は凄く欲しいのだがその思いをゴミ神様に察せられるとスルリと逃げてしまうと申しますか、ゴミとの微妙な距離感、気持ちの駆け引き、無言の折り合いが必須となる。

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特別集中連載:カッセルでの日々5 (写真・文 大竹伸朗)

ということで、「カッセルでの日々」5回目最終回です。 (中略)ドイツから帰国して2週間あまり、この回の写真の日々からすでにかなりの時間が経ってしまったような、夢の中の出来事であったような不思議な気持ちです。2カ月あまりのチャリの日々と屋外作業のツケか筋肉痛の回復が非常にとてつもなく遅い、というか原因はひとつだけど。がもちろん当然とてもいい経験をさせていただけたと感謝しています。

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新連載:日日 (大竹伸朗)

「気分」という言葉から人は何を思うのだろう、時々そんなことを考える。「気持ち」といってしまうと若干杓子定規な印象とでもいうのかどこかあたりさわりのない距離感を感じてしまう。が「気分」だと心の中に風船がユラユラ揺れ動いているような、問いつめられても笑っていればいいようなそんな気楽な印象が個人的にはある。例えば「携帯」というやつ、自分にとってこれが「気分」とは相性がいい。

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日日2 宇和島のぼり屋ブルース(大竹伸朗)

カッセルから帰国後、宇和島での初仕事は「布染め」で始まった。現在来春刊行予定の「ジャパノラマ完全版作品集」を制作中で、限定版の200部カバーをすべて異なる手染めの布で覆うというのが目的だ。染めの作業には近所の老舗「黒田のぼり店」の仕事場を御借りしている。200部+予備分カバーの布にはおおよそ巾70cmの綿布で合計100mほどを1人で染める必要があり黒田さんから不定期に「仕事場空いとるで~来るなら朝から来てや~!」との御声がかかれば極力駆けつけ作業にかかることにしている。

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夭折の天才少年画家・沼祐一

会場は老若男女の山下清ファンで、オープン早々にもかかわらず驚くほど混み合っていた。『山下清とその仲間たち』と題されているように、本展は山下清を中心に、八幡学園で育った子供たちの作品が展示されているのだが、もちろん多くの入館者のお目当ては山下清。でも僕としては山下清はもちろん大好きだけれど(容姿も似てるし)、なかなか原画を見る機会のない他の入園児童たち、なかでも「沼祐一」という名の少年にすごく興味があった。以前に本の図版で見ただけで、原画はいちども見たことがなかったが、そのクオリティの高さには衝撃を受けていたので・・。

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夜露死苦現代詩2.0 最終回 レイトのアートワーク

文芸誌『新潮』で去年初めから連載してきた、日本語ラップの詩人たちを訪ね歩く旅「夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち」が、昨日発売の第15回で最終回を迎えました。これから単行本化の作業に入りますので、お楽しみにお待ちください。THA BLUE HERBにはじまって、B.I.G. JOE、鬼、田我流、RUMI、TwiGy、ANARCHY、TOKONA-X、小林勝行、チプルソ、ERA、志人、NORIKIYO、ZONE THE DARKNESSと、個性的なラッパーたちをたくさん紹介してきましたが、最終回を飾ってくれた「レイト」も、これまでの14人に負けず劣らずの超個性派。いままで登場したなかでもっとも詩的な感性にあふれたリリックを書くひとりです――。

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旅のついでに展覧会めぐり

まだまだ猛暑のただ中ではありますが、先週から各地でちょっとストレンジ・テイストな展覧会がスタートしたり、もうすぐ始まったりします。もう夏休み終わっちゃった! という方も多いでしょうが、ここでまとめてご紹介しておきます。場所は広島、山口、滋賀、東京・・どれかひとつでも、どこかで巡り会えますように。まずは以前、僕もオープニングのグループ展『リサイクルリサイタル』に参加した、広島県福山市の鞆の津ミュージアムでは、先週土曜日から『万国モナリザ大博覧会』なる展覧会を開催中。ちょうど空山基さんのハードコアなモナリザをお見せしたばかりですが――

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オリンピックの芸術競技

オリンピック開催ごとにトリビア・クイズなんかに出てくるが、かつてオリンッピックには「芸術競技」という部門があったのをご存じだろうか。 近代オリンピックの父・クーベルタン男爵の提唱で始まった初期のオリンピック規約には、「スポーツと芸術の部門で競技を行わなくてはならない」と定められていたそうだ。もともとスポーツを文化、芸術、さらには信仰の発露としてとらえた古代ギリシア人の精神に則って再興された近代オリンピックだから、芸術競技が設けられたのもおかしくない。

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おかんアートの陰影(ROADSIDE SENDAIから)

このメールマガジンでも、これまでたびたび取り上げてきた「おかんアート」。最近はいろいろな町に行くたびに、その土地のカリスマ・おかんアーティストを探すのがお約束のようになってしまっている。すでに何度か書いたが、おかんアートとは―― メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、もうひとつ、もしかしたら正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォームがある。それが「おかんアート」。その名のとおり、「おかあさんがつくるアート」のことだ。

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伊達政宗歴史館と仙台武家屋敷(ROADSIDE SENDAIから)

今回ご紹介するのは「みちのく伊達政宗歴史館」と「仙台武家屋敷」という、なかなかレアな観光教育施設。伊達政宗歴史館は仙台のお隣、松島の美しい海岸沿いにあるのですが、津波の被害を受けて1階部分が泥で埋まってしまい、スタッフやボランティアの懸命の努力により、震災から1ヶ月半ほどで再開にこぎ着けたという蝋人形館。いっぽう仙台武家屋敷&人間教育館のほうは、かなり前に『BQ』という民放デジタル放送番組で1年以上放映された、映像版『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』でも取材・放映した、仙台きっての隠れB級スポットだったのですが、それがそのあとも脚光を浴びるケースはほぼなく・・・こちらも震災による地震で甚大な被害を受け、無期限休館中。

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死刑囚の絵展リポート

執行日はだれにも――肉親にも、本人にすら――事前に明かされることはなく、その日の朝に声をかけられて(朝食後だという)、初めて「きょう死ぬんだ」とわかる仕組みになっている。毎日、毎日、ときには何十年も・・・そうやって自分が死ぬ日を待つ日々。死刑には賛成派も反対派もいるだろうけれど、これを精神的な拷問と言わずして、なんと言うのだろうか。そういう極限の状態に置かれている日本の死刑囚たちがつくりだす、極限の芸術作品。それを集めた小さな展覧会が広島で開かれたというニュースを、今月初めのメルマガでお伝えした。幸運にも展覧会に駆けつけることができたので、今回はその模様をリポートしたい。

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めくるめく70年代の記憶と再生

1956年に生まれた僕は、1970年に中学3年生だった。その年、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンがドラッグで命を落とし、三島由紀夫が割腹自殺し、赤軍派は日本航空のよど号を乗っ取って、あしたのジョーになろうと北朝鮮に向かった。その年に大阪のはずれでは「人類の進歩と調和」をうたった万国博覧会が開催され、6400万人以上の入場者を集めていた。いま北浦和の埼玉県立近代美術館で『日本の70年代 1968-1982』という展覧会が開かれている(11月11日まで)。

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ソウル日日:신로 오타케(大竹伸朗展)ソウル・ダイアリー1

11月23日から来年の1月20日までソウル市の三清洞に位置するアートソンジェセンターで韓国での初個展が始まる。あえてこの時期の初ソウル展で「日本景」展示となりました。 来る前の一抹の不安はどこそこ、韓国の皆さんにはとても熱く心底親切に協力していただき感謝の毎日です。今回の展覧会は、1階にポスター13点と本、先日のメルマガに登場したエディションノルトによるドクメンタ(13)出品作『モンシェリ/スクラップ小屋としての自画像』制作過程映像を、2階に20歳から30代にかけて、また最新作である「時憶シリーズ」8点を含む「コラージュ作品」42点、最新未発表スクラップブック3冊、3階に新作を含むジャパノラマシリーズ105点、そして制作中のネオンによる新作、合計150点以上の作品で構成します。「路上」から生まれ対極に位置する「内側と外側の景」による初めての試みです。

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大竹伸朗展速報

先週号でお伝えしたように、この24日から韓国ソウルで『大竹伸朗展』が開幕した。場所はアートソンジェ・センター。東京で言えば表参道と原宿をいっしょにしたような、ファッショナブルな街・三清洞にあるアートスペースの、1階から3階まで、全館を使った大規模な個展だ。2010年に光州ビエンナーレに参加して以来、韓国では2度目の展覧会になる大竹伸朗。しかし意外にも、海外での個展は1985年にロンドンICAで開いて以来、なんと27年ぶりの2回目。そして今回は、以前のロンドン展とは比較にならない、スケールアップしたボリュームのソロ・エクジビションである。本メルマガでは先週の、アーティスト本人による『ソウル日日』に続いて、今週は展覧会のリポート、そして来週にはふたたび本人による第2弾リポートを、動画を交えながらお送りする予定だ。

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ソウル日日:신로 오타케(大竹伸朗展)ソウル・ダイアリー2

約3週間のソウル滞在から戻った。今回は作品設置に加えネオン管による現地制作があり通常よりチト長めの滞在になった。二十歳から今年までに制作した作品百数十点を広いフロア2つを使っての展示になりました。 今回の展覧会は現地制作のネオン管新作を含め「路上」が軸となるテーマで組み立てました。路上に物質として落ちているモノによるコラージュ的作品と、路上に非物質として捨てられた音や光、また捨てられた気配をモチーフに描いた「ジャパノラマ・シリーズ」という自分の中で対極に位置する作品をあえて2フロアに分けて展示してみた。 年末から正月明け、航空運賃の安くなる極寒のソウルに是非とも足を運んでみて下さい。

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新宿にゾンビ来襲! @新宿秘宝館

すでに告知しているとおり、先週土曜日からギャラリー新宿座において、『新宿秘宝館』が開催されています。土曜日の初日には、あいにくの雨模様にもかかわらず、100人以上のお客さまが来てくれました。どうもありがとう! 新宿秘宝館:みんな嘘っぱちばかりの世界だった 甲州行きの終列車が頭の上を走ってゆく 百貨店の屋上のように寥々とした全生活を振り捨てて 私は木賃宿の蒲団に静脈を延ばしている――かつて旭町と呼ばれた新宿4丁目の木賃宿で、林芙美子は放浪記にこう書いた。JRとタカシマヤの澄まし顔に、道の向かいから思いきり毒づいているような、すえた昭和の匂いがいまだ漂う一角。そんな場所で、昭和の秘宝をいま開陳できる幸せを思う。

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追悼・嶋本昭三

今週金曜日(2月15日)からニューヨークのグッゲンハイム美術館で、大規模な具体展が始まる。『GUTAI: SPLENDID PLAYGROUND』というタイトルそのままに、破天荒なエネルギーが炸裂した具体美術協会の全貌が、アメリカのハイアート・シーンにどう受け取られるのか、興味津々だ。考えてみればいまからもう30年あまり前、僕がBRUTUS誌で具体の特集を作ったころ、資料を集めるのはほんとうに大変だった。おそらく戦後の日本美術で唯一、国際的な評価を受けたムーヴメントであったのに、当時の東京の現代美術業界で具体は「関西ローカルで、ずっと前に終わったもの」として、ひどく不当な扱いしかされていなかったことを思い出す。

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グラフィティの進化系――KaToPeの幻想世界

北千住駅を西口に降りる。駅前の居酒屋街やキャバレー・ハリウッドの看板にこころ引かれつつも商店街を直進、宿場通りを右に折れてずーっと歩いていくと、小さな立ち飲み屋が見つかるはずだ。地下鉄の乗り入れや大学の進出で、このところ急に若者系の店が目立つようになった北千住の、新しい空気を象徴するようなこの店、『八古屋』と書いて「やこや」と読ませる。もともとは古着屋だったが、2010年に立ち飲み屋になった。「ものすごく狭いけど、ものすごく安くて、築地から仕入れてくる突き出しとかものすごく美味しくて、お客さんも地元のラッパーとかいろいろで、ものすごくおもしろい絵も飾ってあるんです」という、若い友人からの断りようのないお誘いを受けて、ある晩うかがってみると・・・そこに飾られていたのがKaToPeの作品だった。

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銀座6丁目のフェティッシュ宇宙

このメルマガではすでにおなじみの銀座ヴァニラ画廊。現代とか古典とか、プロとかアマとか関係なく、とにかく「フェティッシュ」という一点に絞ってアーティストを選び、展示を続けている珍しいギャラリーだ。そのヴァニラ画廊が昨年、初の公募展を開催。その受賞者展が今月1日から13日まで開催中である。美術評論家・美術史家の宮田徹也さん、ギャラリー・オーナーの内藤巽さんと共に、僕も審査にあたったこの公募展。最初は告知コーナーで触れるくらいにしておこうと思ったが、さすがにヴァニラらしいビザールな作品が集まったので、ここでちらりと紹介してみたい。第一次審査を通過した33作品の中から、今回は大賞1名、審査員それぞれの賞が1名ずつ計3名、さらに奨励賞が3名選ばれた。今回の受賞者展では各賞の受賞作品と、第一次審査通過作品も併せて展示されるという。

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蛍光色の夢精――『女根』と女木島をめぐる旅

3年にいちど開かれる瀬戸内国際芸術祭。その夏会期が7月20日から始まる(9月1日まで)。すでに夏休みを利用しての、芸術祭ツアー計画を立てている方も多いだろう。前回の2010年から、さらに拡大した規模で拡大される今回の芸術祭。よほど緻密に計画を立てないと、短時間でいくつもの会場を回るのは不可能だし、そもそもいくつもの島をフェリーで巡らなくてはならず、会場によっては入場制限もあったり、なかなか事前の予定どおりにスケジュールを消化することは難しい。これから行こうという方には、なるべく余裕を持ったスケジュールで、「ここだけは!」という展示を数カ所選んで回ることをおすすめする。

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追悼・東健次と『虹の泉』

東健次さんに初めて会ったのは2003年のことだった。三重県山中に『虹の泉』と名づけた、とてつもない彫刻庭園を独力で築いている作家がいると聞き、当時連載していた美術雑誌『PRINTS 21』のために取材に伺ったのだった。翌年、今度は珍日本紀行の特選名所をハイビジョン・ムービーで撮り下ろす民放BSの深夜番組『BQ』のために再訪。まったく落ちないペースと、変わらぬエネルギーに驚嘆したものだったが・・・それから約10年。あれからどうなったろう、と進行具合を気にしながらも、なかなか訪問できずにいるうちに、つい先ごろ、東さんをずっと支えてきた奥様から「完成直前に東健次が亡くなりました」とのお知らせをいただいた。この5月22日に、74歳の生涯を閉じられたのだという。

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殺戮の造形  ――モザンビークの武器彫刻

駅から歩く距離を考えると(特に炎天下)気持ちが萎えるが、それでもときどきは行っておきたい大阪万博公園内の国立民族学博物館。常設展示を見て回るだけでも、丸一日かけられる規模のコレクションだが、ここはまた時々すごく興味深い企画展を開催していて、しかも東京にいるとそれがなかなか伝わってこなくて、つい見逃してしまうことが少なくない。その民博で現在開催中なのが『武器をアートに』(11月5日まで)。「モザンビークにおける平和構築」という、いかめしいサブタイトルがついているが、これは長く内戦が続いてきたモザンビークでの、武器を使ったアート(立体作品)の展覧会。展示の規模は小さいが、非常に見応えのあるコレクションだ。

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裸女の溜まり場――よでん圭子のアナクロ・ヌード・ペインティング

今年の春、銀座ヴァニラ画廊の公募展審査をしていたときのこと(2013年4月2日配信号に掲載)。いかにもフェティッシュな若い作家たちの絵画や立体が並ぶ中で、ひとつだけ異彩を放つ、不思議に古風なヌードの油絵が目に留まった。「よでん圭子」さんという女性画家の作品で、くすんだグレーの肌の裸女たちが、画面上にのびやかに配置されている。古典的な構成と技法と、ぜんぜん古典的じゃない風合いを兼ね備えた、それはなんとも評価しがたい絵だった。フェチやSM系に特化した専門画廊(!)であるヴァニラに、こういう作品を送ってくるとは、いったい本気なのだろうか、意図的に狙ってるのだろうか、それとも・・・。

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大竹伸朗・秋の陣

高松市美術館の『憶速』が9月1日で無事終了し、しかし丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での『ニューニュー』はまだまだ続行中(11月4日まで)、ヴェニス・ビエンナーレも続行中(11月24日まで)、瀬戸内国際芸術祭での女木島インスタレーション『女根』は、10月5日からの秋会期が迫るなか、さらにパワーアップ中。そして東京のタケニナガワ・ギャラリーではあらたな展覧会が9月8日にスタートしたばかり(10月26日まで)・・・。2013年の大竹伸朗祭りは、まだまだ大団円を迎えそうにない。

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天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険

101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんに荒尾でお会いした翌日、福岡市に戻ってもうひとり、ずっとお会いしたかったアマチュア画家にお目にかかることができた。モンド画伯・・・こちらは10歳のアーティストである。モンド画伯――本名・奥村門土くん――は福岡の小学4年生、先月10歳になったばかりだ。3人兄弟の長男である門土くんのお父さんは、福岡の音楽シーンでは知らぬもののないミュージシャンであり、イベントオーガナイザーでもある「ボギー」さん。公式サイトの自己紹介によれば――

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死刑囚の絵 2013

告知でお知らせしてきたとおり、先週土曜日(10月12日)、新宿区四谷区民ホールで『響かせあおう 死刑廃止の声 2013』が開催された。世界死刑廃止デーである10月10日にあわせ、死刑廃止運動を続ける「FORUM 90」が毎年主催している集会で、今年で9回目になるという。午後1時に始まった集会は、田口ランディさんによる「死刑囚からの手紙」朗読、元冤罪死刑囚・免田栄さんのお話などに続いて、「シンポジウム・死刑囚の表現をめぐって」が開かれた。これは本メルマガで紹介してきた死刑囚の絵画を含む、小説、短歌、俳句など死刑囚自身による表現活動を世に出してきた大道寺幸子基金によるもので、7名の選考委員によって選ばれた2013年度の優秀作品が発表・講評される、年にいちどの貴重な機会である。

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芸術はいまも爆発しているか――岡本太郎現代芸術賞展

岡本太郎美術館では現在、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞展」を開催中(~4月6日まで)。今年が17回目、780点の応募作品が集まったというこの公募展は、「芸術は爆発である!」精神を大事にしてます、と学芸員が強調するように、ふつうの現代美術館の公募展とは、ちょっと毛色の異なる作品が集まるので見ていて楽しい。今年は、本メルマガでも2012年6月20日配信号「突撃! 隣の変態さん」で紹介したラバー・アーティスト「サエボーグ/saeborg」が、グランプリである岡本太郎賞の次点にあたる岡本敏子賞を獲得したというので、軽い気持ちで出かけてみたら、ほかのアーティストたちの作品もすごくおもしろかったので、展示されている入賞作品20点のうちから、いくつか選んで紹介してみよう。

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絵という鏡――岩瀬哲夫の絵画

すでにいまから1年前になるが、2013年4月3日号(061)で銀座ヴァニラ画廊の公募展「第1回ヴァニラ大賞」の記事を配信、そこで入賞した愛知県在住の画家・よでん圭子さんについては、9月18日号(083)で詳しく紹介した。今年も「第2回ヴァニラ大賞展」が今月17日から開催中(29日まで)。前回に負けず劣らずのエクストリームな作品群が顔を揃えているので、銀座におでかけの際はぜひ立ち寄っていただきたいが、そのなかで特にこころ惹かれ、「都築響一賞」に選ばせてもらったのが岩瀬哲夫さん。若いアーティストがほとんどのなかで、64歳というベテランで、聞けば画家が本業でもないという・・・。

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グロテスクのちから アニー・オーブと甲斐庄楠音

今週は僕自身も少しだけ関係のある、東京と京都のふたつのアートスペースで開かれている展覧会をご紹介する。ひとつめは、先週号の告知でも少しだけ書いたように、上野稲荷町ガレリア・デ・ムエルテで開催中の『ザ・ディープ・ダーク・ウッズ/アニー・オーブ展』。ハードコア、ブラックメタルなど、異端の音楽に特化したレコード、CDショップと、そうしたテイストのジンやTシャツなどのグッズ、さらには展示スペースを併せ持つ、この小さな店については、『東京右半分』で読んでいただけたかたもいらっしゃるかもしれない。

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時をかけるアーティスト

滋賀県近江八幡に残る昭和初期の町家をそのまま使ったアウトサイダー・アート・ミュージアムNO-MA(正式名称はボーダレス・アートミュージアムNO-MA)。本メルマガでも前回の『アール・ブリュット☆アート☆日本』を含め何度か紹介しているが、2004年の開館以来、今年が10周年にあたるという。日本におけるアウトサイダー・アート展示施設として、草分けのミュージアムである。そのNO-MAで今月27日まで開催されているのが、『Timeless 感覚は時を越えて』と題されたグループ展。

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宮間英次郎物語——鳥取アール・ブリュット展に寄せて

『そこにある美術—アール・ブリュット—展』と題されたこの展覧会は、先週土曜日(9日)に米子市美術館でオープン(9月28日まで)。そのあと倉吉博物館、鳥取県立博物館と、ほぼ2ヶ月かけて県内3会場をめぐるという、珍しいスタイルの巡回展でもある。(中略)そして今展覧会の参加者のひとりであり、こちらもすでに読者にはおなじみの「帽子おじさん」宮間英次郎さんが、今年は80歳の誕生日を迎える! もう20年以上、宮間さんの活動を20年間以上見守り、陰で支えてきた畸人研究学会では、傘寿を記念して宮間さんの長い人生をまとめた『宮間英次郎物語』を年末までに発行予定。その前哨戦としてロードサイダーズ・ウィークリーではこれから3週にわたって、ダイジェスト版の『宮間英次郎物語』をお送りする。

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宮間英次郎物語 2(文:海老名ベテルギウス則雄 写真:海老名ベテルギウス則雄、都築響一)

先週に続いてお送りする「帽子おじさん」宮間英次郎の人生いろいろ物語。西成のドヤ暮らしで身も心もすさむうち、競艇と痴漢行為に溺れるようになってしまった、30代の宮間さん。そして長い苦しみの日々を経て「帽子」という表現手段に出会う、運命のドラマが展開していく!

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ちり積もらせ宇宙となす——大竹伸朗展@パラソル・ユニット

日本語を話すときはどうとでもつくろえるけれど、外国語を話すときって、そのひとの人柄がすごく出るような気がする。僕はよく「日本語も英語も同じように話してる」と言われて、それは流暢とかではぜんぜんなく、だらだらと抑揚なく言葉を垂れ流しているというだけのこと。大竹くんの英語は、いつもちょっと考えながら、短いセンテンスがブツッブツッと積み重なっていく感じで、それがなんだかスクラップブックや大きなキャンバスにいろんなブツを次から次へと貼り重ねていく感じにすごく似ていて、ひとりで納得したりするのだが、そんな変なことを考えているは僕だけだろう。すでにお読みいただいているように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗展が開催中だ。

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老ファイターの城

『MANGARO』『HETA-UMA』展の準備中、マルセイユに滞在していた僕に、デルニエ・クリのスタッフたちがひとつプレゼントを用意していてくれた。「キョーイチはきっとこういうのが好きだろう」と、この地方でもっとも有名なアウトサイダー・アーティストの家に連れて行ってくれたのだ。マルセイユ市街から車で1時間足らず、オーバーニュという小さな町の、そのまた外れの小さな村に、ただ一軒だけ、とてつもなくカラフルで過剰な装飾に覆われた家がある。村の交差点に面して、見落としようのない外観・・・それがダニエル・ジャキ(Danielle Jacqui)の住む家だった。

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われらの内なるサドへ——オルセー・サド展へのイントロダクション

SMといえば長く秘められた欲望であったはずだが、いつごろから「わたし、ドMなの」なんて、日常会話でさらっと言われちゃう時代になったのだろう。「SM=サディズム/マゾヒズム」という概念を生み出したといってもいいサド侯爵(マルキ・ド・サド)の、今年は没後200周年にあたる。サドは1740年にパリで生まれ、1814年にパリ郊外のシャラントン精神病院で亡くなった——「我が名が世人の記憶から永遠に消し去られることを望む」という有名な遺言とともに。サドの生きた18世紀後半はフランス革命、アメリカ独立戦争、そして産業革命が進行した激動の時代だった。そうした時代に、人生の3分の1を監獄や精神病院に幽閉されながら書き残された数々の傑作は、後の世に計り知れない影響を与えたわけだが、その没後200周年にあたっていま、パリのオルセー美術館で大規模なサド展『サド——太陽を攻撃する』が開催中である(2015年1月25日まで)。

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ウルトラの星のしたで

『ウルトラQ』から『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』など、特撮変身ヒーローの生みの親であるアーティスト/デザイナー、成田亨の画期的な回顧展『成田亨 美術/特撮/怪獣』が、いま福岡市美術館で開催中だ(2月11日まで)。昨年夏に富山県立近代美術館で始まった本展は福岡のあと、成田亨のデザイン原画を所蔵する青森県立美術館に巡回する(4月11日〜6月7日)。東京での展示はなし。福岡の会期に間に合わないと、展示作品数700点に及ぶこの回顧展を体験するには青森に行くしかない。成田亨は1929(昭和4)年、神戸で生まれた。1歳になる前に、父母の出身地であった青森県に転居。そこで囲炉裏の炭をつかんでしまい左手を火傷、生涯癒えることのない傷を負い、「右手だけで描ける」絵がこころの拠り所となったという。

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近江八幡の乱――『アール・ブリュット☆アート☆日本2』観覧記

先週の告知で少しだけお知らせしたが、日本のアウトサイダー・アートの聖地とも言うべき滋賀県近江八幡市でいま、『アール・ブリュット☆アート☆日本2』が開催中である。日本で最初のアウトサイダー・アート専門展示施設「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を中心に、市街6ヶ所の町家や美術館、資料館、さらに商店のウインドウや店内にまで拡張した展覧会は、出展作家70数名、作品数1200点以上という大規模なもの。「2」とついているのは、「1」が昨年開催されたからで、その模様は本メルマガ2014年3月19日号で詳細にリポートした。初回に劣らず、アウトサイダー・アート/アール・ブリュット・ファンなら必見の充実した内容なので、今年もぜひ見逃すことなく、ゆっくり時間を取って訪れていただきたい。

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新連載! アウトサイダー・キュレーター日記(写真・文:櫛野展正)

先月の『スピリチュアルからこんにちは』展でも紹介した、本メルマガではおなじみの広島県福山市・鞆の津ミュージアム。死刑囚の絵からヤンキーまで、従来の「アウトサイダー・アート」の枠から大きく踏み出した、挑発的な展覧会を連発してきたキュレーターが櫛野展正だ。展覧会の企画を組み立てるプロセスで、多くの「アウトサイドに生きる創作者たち」と出会ってきた櫛野さん。これから毎月ひとりずつ、そのリアルな出会いの旅を誌上で再現していただく。第1回めは現在開催中の『スピリチュアルからこんにちは』展でも大きくフィーチャーされている、創作仮面館だ。

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84歳の新人アーティスト

教えてくれるひとがあって、ト・オン・カフェの前に立ち寄ったのがギャラリー犬養という場所。こちらはなんと築100年以上という民家をそのままカフェとギャラリーに改造。4年前にオープンしたばかりにはとうてい見えない、ビルの谷間の路地裏に隠れた、そこだけ時間の止まったような場所だった。オーナーであるアーティストの犬養康太さんの一族ゆかりの家というギャラリー犬養。和洋折衷の2階建て木造家屋の各部屋が、極力オリジナルの風合いを残しながらカフェや展示空間に当てられている。ゆったりお茶や酒を楽しむだけでも快適だろうが、今回の目的は開催中だった『山本英子展』を見るため。

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アウトサイダー・キュレーター日記 03 酒井寅義(写真・文:櫛野展正)

源泉数、湧出量ともに日本一を誇る温泉地「別府」。多くの観光客でにぎわう別府駅から電車で3分。別府南部に位置する「東別府駅」は1911年に開業、当時のままの古い木造駅舎が残る風情ある駅だ。そこから徒歩圏内にある「浜脇温泉」は、別府八湯のひとつに数えられ、地元の人たちを中心に愛され続けている。そんな昔ながらの街並みの中に「酒井理容店」はある。理容店といっても外側に看板が出ているわけでもなく、営業中はサインポールがクルクルと回っているだけ。ただ、このサインポールの中で回っているのは、よく目にするあの赤・青・白の模様ではなく、デコレーションされた不気味な仮面や人形なのだ。店主の酒井寅義さんは、1936年生まれの79歳。いまも現役でひとりお店に立ち続けている。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 01 名倉要造

先週お送りした安彦講平さんと平川病院の作家たちの物語、いかがだったろうか。今週からは予告のとおり、ひとりずつ作家たちの人生と作品を紹介していく。そのトップバッターが名倉要造。1946年生まれ、今年69歳。安彦さんとはもう40年以上、作家の中でもいちばん長い付き合いだという。2004年に発行された『名倉要造作品集』(夜光表現双書、行人舎刊――この双書は安彦さんらが立ち上げた自費出版プロジェクト)のなかで、安彦さんはこんなふうに名倉さんのことを紹介してる――。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 02 江中裕子

東京八王子の精神科病院・平川病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の名倉要造に続いて、今週は江中裕子の作品を見ていただく。〈造形教室〉を取材した8月19日号の記事『詩にいたる病』で、トップに置いた夏目漱石のコラージュ肖像画、その作者が江中裕子さんだ。安彦さんによれば、平川病院の入院中に出会った江中さんは、小さいころから家庭内の葛藤に巻き込まれ、小学生時代からいじめにも遭い、就職した会社の過酷な仕事環境によって精神に変調をきたし、入院こそしていないものの、いまだに通院が欠かせない状態だという。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 04 保護室の壁画

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今週は1980年代に安彦さんによって記録された、貴重な作品をご覧いただく。この連載を始めるにあたって参考にさせてもらった著書『“癒し”としての自己表現』(2001年、エイブル・アート・ジャパン)の中で、とりわけ印象的だった箇所がある。それは閉鎖病棟の保護室に収容された重症患者が、差し入れられた絵の具を使って部屋中を絵で埋め尽くしたという、ちょっとした「事件」だった。病院側からすれば、それは困惑せざるを得ないエピソードだったろうが、彼(書中では「Iさん」と呼ばれている)の作品を見た安彦さんは、エネルギーの迸りに驚愕、その場で申し出て写真とビデオによる撮影記録を残すことになった。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・前編

すでに告知でお知らせしてきたように、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会が開かれている(来年3月13日まで)。昨年秋の南仏における『MANGARO』『HETA-UMA』展に続き、見世物小屋の絵看板コレクションで僕も参加しているこの展覧会は、パリで発行されているアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年に第1回が開催され、2013年の第2回展は本メルマガの2013年8月21日号で紹介している。その記事の中で『モンマルトルのアウトサイダーたち』と題して、こんなふうにアル・サンピエールと『HEY!』のことを書いた――

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 08 杉本たまえ

8月にこの短期集中連載を始めたときに、そのきっかけとなった作品との出会いのことを書いた。それは近江八幡NO-MAが主催した『アール・ブリュット☆アート☆日本』展の、会場のひとつとなった薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された杉本たまえの作品だった。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はその杉本たまえの作品を紹介する。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 09 佐藤由幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は佐藤由幸の作品を紹介する。平川病院の〈造形教室〉を初めて訪れたとき、すらっとした青年が大きなスケッチブックを、はにかみながら見せてくれた。柔らかな物腰と、紙の上に描かれている激しい感情の表出。そのギャップの大きさに驚いた。それが佐藤由幸さんだった。佐藤由幸、1973年生まれというから42歳になるはずだが、とてもそんな歳には見えない、若々しいルックスである。

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秘密の小部屋とエロティック・プリント

オルセー美術館で古き良き時代のフレンチ・エロに浸ったあとは、ぜひ立ち寄っていただきたい店がある。いや、娼館じゃなくて。ラーメン屋に安居酒屋(安くないが)、焼肉屋が軒を連ね、なんだか日本のどこかの駅前飲み屋街の様相を呈しつつあるパリ・オペラ座かいわい。その裏手のシャバネ通り(rue Chabanais)に店を構えるのが『Au Bonheur du Jeur(オウ・ボヌール・ドゥ・ジュール)』だ。ここは19世紀から20世紀前半の、エロティックなビンテージ写真プリントや素描、版画を専門に扱う画廊であり、またそうしたコレクションを書籍として発表する出版社でもある。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 12 堀井正明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。最終回となる今回は12人目の作家・堀井正明の作品を紹介する。最初にお断りしておくと、堀井正明は〈造形教室〉に属する作家ではなかった。しかし僕が〈造形教室〉の活動を知るきっかけとなった、今年6月の『第5回 心のアート展』で特集コーナーが設けられ、それは前年の作家本人の急逝を受けてであること。そして『心のアート展』実行委員である平川病院〈造形教室〉のスタッフが、残された膨大な作品群の整理・保管に関わるようになったこと。さらにこの連載1回目で紹介した名倉要造の展覧会が9月まで開催されていた宮城県黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、彼の全作品を保管することになり、そのお披露目展覧会『堀井正明回顧展 昇華する魂~絵が生きる事のすべてだった~』が、いま始まったばかりであること。そうした経緯を踏まえ、8月末から3ヶ月間にわたった連載の最後を、堀井正明と開催中の回顧展紹介で締めさせていただくことにした。

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アウトサイダー・キュレーター日記 10 にがおえコインランドリー(写真・文:櫛野展正)

東京の京成小岩駅から徒歩10分。葛飾区鎌倉にある「にがおえコインランドリー」と看板を掲げた小さな店舗には、鉛筆で忠実に描かれた有名人の似顔絵が床から壁に至るまでぎっしりと貼り巡らされている。中にはバイク事故直後の北野武や、和歌山カレー砒素事件の林眞須美死刑囚の似顔絵も。「それも有名人には違いないからね」。声のする方へ振り向くと、隣の自宅に住む似顔絵の作者・菅野武志(すがの・たけし)さんが顔をのぞかせた。

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軽金属のマリリン

長年のファンにとっては空山基の「新境地」とも言える作品群は、これまでたびたび個展や、イラストレーター団体の展覧会などで発表されてきたが、意外にも「初めての全点描きおろし」という個展が今週土曜(1月30日)から、渋谷のNANZUKA(ナンヅカ)で開催される。『女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。』という奇妙なタイトルの展覧会は、マリリン・モンローをモデルにした新作ドローイング15点に、SORAYAMAの名を世界に知らしめた「セクシーロボット」シリーズの立体作品を加えたもの。

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バロン吉元の脈脈脈

いまから50年前に小学生だったころは(涙)、少年マガジンやサンデーにどっぷり浸っていたのが、そういう少年誌を卒業する中学~高校生になると、漫画アクションやビッグコミックのような青年漫画誌にハマるのが、僕らの時代の男子定番コースだった。当時の漫画アクションには『ルパン三世』『子連れ狼』『博多っ子純情』など、年の離れた兄貴が教えてくれるオトナの味、みたいな名作が揃っていたが、その中でも印象深かったのがバロン吉元の『柔侠伝』。連載の始まった1970年に割腹自殺を遂げた三島由紀夫の楯の会の人たちも、連合赤軍の人たちもみんな大好きで読んでいたという(鈴木邦男さんのブログより)。「我々はあしたのジョーである」と言い残して日航機をハイジャック、北朝鮮に去った赤軍派の言葉を引用するまでもなく、当時の漫画、とりわけ青年誌の劇画群は、単なるエンターテイメントであることをはるかに超えた、リアルな「若者の声」だった。

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本歌の判らぬ本歌取り――根本敬のブラック アンド ブルー

かつて本メルマガでも展覧会として紹介した、根本敬による歴史的名盤レコード・ジャケットの再解釈ともいうべき作品群が、ようやく作品集として発表される。『ブラック アンド ブルー』と題される本書には、2013年のスタートからすでに東京、大阪で6回にわたって開催されている連続展示で発表された、約170枚にのぼる作品が収められている。そのほとんどがだれでも知っている名盤である「原盤」が、根本敬的としか言いようのないスタイルで徹底的に再解釈され、時には本歌の判らぬ本歌取りのごとき新たなオリジナリティを持って、僕らの感覚を混乱させる。

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もうひとつの『リリーのすべて』

最近忙しすぎて映画館にちっとも行けてないと愚痴をこぼしたら、「60歳になったんだから安くなるじゃない!」と教えられ、「シニア割」という言葉が生まれて初めて現実的に・・・しかしほんとに安い! ロードショーの通常大人料金が1800円なのに、シニアは1100円だから。で、さっそく行ってきたのが『リリーのすべて』。先週末に上映開始したばかりで、本年度アカデミー賞4部門にノミネート、アリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞(実質的には主演だが)を獲得した話題の新作だ。もう観たかたもいらっしゃるだろうか。『リリーのすべて』は性同一障害に苦しみ、世界最初期の性転換手術(性別適合手術)を受けて、男性画家アイナー・ヴェイナーから「リリー・エルベ」という女性になった主人公と、その妻でやはり画家だったゲルダの半生をめぐる物語である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 14 西本喜美子(写真・文:櫛野展正)

衝撃的な写真を目にした。お婆さんがゴミ袋をかぶって可燃ゴミとして処分されていたり、車に轢かれたりしている。どう考えても尋常ではない。けれど、それがセルフポートレート写真だと気付いたとき、一気に笑みがこぼれてしまった。作者の西本喜美子さんは、現在87歳。熊本県熊本市にあるエレベーター付きの一戸建て住宅で、感情認識パーソナルロボット「Pepper」と暮らしている。

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北国のシュールレアリスト――「上原木呂2016」展によせて

上原木呂(うえはら・きろ)という、変わった名前を目にしたのは、『独居老人スタイル』で仙台のダダカンの取材をしていたころだった。ダダカンさんと長く親交を結び、2008年には東京で開催された『鬼放展――ダダカン 2008・糸井寛二の人と作品』を企画制作するいっぽう、自身もアーティストとしてマックス・エルンストやヤン・シュヴァンクマイエルと合同展を開き、おまけに新潟の老舗蔵元として日本酒の醸造や、地ビール第一号であるエチゴビールの生みの親でもあるという。しかも経歴は蔵元の跡取りなのに芸大に進学。すぐに中退してチンドン屋に入り、そこからイタリア・ローマに渡って古典仮面劇の道化役者として活躍。フェリーニの知遇を得たり、マカロニ・カンフー・アクション映画に多数出演したり!という日々を送った後に帰国。蔵元の五代目社長として家業を盛りたてつつ、コラージュや水墨画などの制作にも熱心に取り組み続け、社長業を退いた数年前からはツイッターで毎日、水墨画の仏画をアップ。「朝と晩と1時間ぐらいで、毎日30枚くらいは描きますかねえ・・・あと水彩とかいろいろ、大小あわせれば年に3万点くらいは作ってます」という、68歳にして恐るべき創作意欲の持ち主なのだ。

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『僕的九州遺産』開幕!

先週、誌上プレビューした福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産 My private Kyushu』、先週土曜日になんとか無事、開幕できました! 福岡という展覧会は初めての場所で、どれだけのひとが来てくれるかと心配でしたが、おかげさまで10月1日のオープニングは大盛況。一時は入場制限がかかるほど、たくさんのお客様が来てくれました。ほんとうにありがとう! 展示内容については先週号で詳しく紹介したので、もう繰り返しませんが、今週は会場をご案内します。

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東京・東と西のロウブロウ

高級割烹の職人が遊びで牛丼作っても似合わないように、ハイエンド・オーディオショップの試聴室でゴリゴリのラップをかけても気持ちよくないように(ちがうか?)、ロウブロウ・アートには銀座や表参道の高級アートギャラリーよりも、やっぱり得体の知れない(失礼!)場末のスペースがしっくりくる。ちょうどいま、これまで本メルマガで紹介してきたアーティストの小さな展覧会が、東京の東側と西側で開催中。急いでハシゴしてきたので、急いでご報告する!

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水枕 氷枕

いかにも金沢らしい築百年という町家。浅野川に面したその家の1階は、2万冊を超える蔵書が並ぶ私設図書館。2階に上がれば畳敷の展示室。ホワイトキューブの美術館やギャラリーとはかけ離れた、ゆったりと静かな空間で福田尚代展『水枕 氷枕』が開催中だ(11月21日まで)。本メルマガ2015年5月20日号で紹介した福田さんは、アーティストであり回文作家でもある。1967年、埼玉県浦和市生まれ。東京芸大・油絵科から大学院で学び、アメリカ・ワシントン州の森の中の小さな町で暮らしたのちに帰国。市役所、プラネタリウム、絵画教室、郵便局・・・いろいろな仕事で生計を立てながら、ずっと制作を続けている。

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ブラック・イズ・ビューティフル?

ケ・ブランリ美術館でいま開催中の展覧会が『カラーライン(The Color Line)』。カラーラインとはボクシング界で、白人チャンピオンが黒人挑戦者との対戦を拒否できたシステムで、アメリカにおける人種差別を象徴する言葉になっている。そう、この展覧会は19世紀の奴隷制廃止から現代にいたるまでの、アメリカの人種差別の歴史のなかで黒人(アフリカ系アメリカ人)たちが生み出してきたアートを俯瞰する、非常にユニークで、しかもトランプ大統領当選という絶妙のタイミングに(結果的に)リンクしてしまった、挑発的な企画でもある。今回は本メルマガでもおなじみ、パリ在住の作家・飛幡祐規(たかはたゆうき)さんにお願いして、展覧会を観てきていただいた。会期は来年1月17日まで。クリスマス~正月にパリ旅行を考えている方は、ぜひ足を運んでいただきたい。

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ウーフではない井上洋介

この夏『神は局部に宿る』展を開いた渋谷アツコバルーで、いま『井上洋介 絵画作品展』が開催されている(12月25日まで)。会期末ぎりぎりになってしまったが、見逃すにはあまりに惜しい機会なので、急いでご紹介したい。井上洋介は画家・イラストレーター・絵本作家という肩書きになっているが、多くのひとにとっては童話『くまの子ウーフ』の絵で知られているだろう(文:神沢利子)。だれが描いたのか名前は知らなくても、ウーフの絵を見ただけで胸がキュッとなる読者が、たくさんいるのではなかろうか。『くまの子ウーフ』の世代ではまったくない僕にとって、井上洋介はまず、お茶の水の「レモン画翠」の挿画のひとだった。創業が大正期にさかのぼるというレモン画翠は、お茶の水がちゃんとした学生街だった時代に、画材店と喫茶店が一緒になった、すごくお洒落な場所だった。井上さんは劇団・天井桟敷の美術担当をしていたこともあって、レモンの広告で見ていたイラストレーションは、絵本とはまたちがう味の、アイロニーやユーモアやエロティシズムを濃厚に漂わせたオトナの世界観でもある。

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手芸のアナザーサイド 3 小嶋独観子と「ミシン絵画」

11月の「山ぐるみ/山さきあさ彦」「ミクラフレシア」に続いて送る、セルフトート手芸の最前線。今回ご紹介する小嶋独観子は、本メルマガ読者ならもうおなじみのひともいるかもしれない。独観子さんはご主人の小嶋独観さんと一緒に、日本各地からアジアの辺境まで足を伸ばした珍寺&珍スポット巡りの成果をまとめたウェブサイト『珍寺大道場』を、もう20年あまりも運営。日本における珍スポット発掘のパイオニア的存在として、そのスジでは知らぬもののないベテラン探検一家なのだ。その独観子さんが去年あたりから爆発的に発表を続けているのが、「変態手芸って言われます」という刺繍の作品群。本メルマガでも2015年第1回の展覧会を告知したが、それから今年5月に京都展、6月と12月に東京展と、立て続けに作品展を開催してきた。当初は独観さんによる珍寺写真展の一部、という扱いだったが、回を重ねたいまでは完全に「独観子展」状態。

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「媚び」の構造

異常な絵を見た。『萬婆羅漢図』と題されたその絵は、一見よくある羅漢図なのだが、よく見ると羅漢さまたちの足下には5人ほどのマンバギャルが群れている。マンバだから「萬婆」。マンバたちはガラケーの画面を羅漢さんに見せたり、脱色した髪にコテを当てたり、マックシェイクを地面に置いてタバコを吸ったりしていて、仙境と渋谷センター街が合体した趣でもある。そして不思議に違和感がない。日本的な羅漢図の持つデコラティブな画面と、マンバのデコラティブな存在感が、ひとつのイメージに統合されているからだろうか。作者の近藤智美(こんどう・さとみ)さんは自身がもともとマンバで、引退後はキャバ嬢から「軟禁経験」などを経て、独学で展覧会を開くようになったアーティストと聞いて、ますます興味をひかれ、新宿歌舞伎町そばのアトリエにうかがわせてもらった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 25 梶田三雄(写真・文:櫛野展正)

名古屋駅から電車で8分。たどり着いた南荒子駅の周辺は、あちこちに畑が残り、とても穏やかな町並みが広がっている。駅の最寄りにあるのが、一軒家を改築した美術館『小さな美術館かじた』だ。駐車場のユニークな庭木や「美術は心の栄養」「人生助け合い」など標語の入った手作り看板が楽しい。玄関を開けると、年配のお客さんたちの談笑が聞こえてきた。その中心にいたのが、館長の梶田三雄(かじた・みつお)さんだ。梶田さんは、昭和15年に愛知県知多郡美浜町上野間で5人兄弟の三男として生まれた。長男が一男(かずお)、次男が次男(つぎお)、梶田さんが三番目だから三雄(みつお)なのだとか。

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房総の三日月

千葉県市原市、と言われてピンとくるひとはどれくらいいるだろうか。ジェフユナイテッド? ぞうの国? 鉄ちゃんなら可愛らしい小湊鐵道を思い出すかもしれない。房総半島のほぼ中央に位置する市原市は、市制施行50周年を記念して2014年にアートイベント「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開催。いま、その2回目となる「いちはらアート×ミックス2017」が開かれている。別に国際的ならいいというわけではないけれど、今回は外国からの参加作家がロシア人アーティストひとりだけという、ぐっとドメスティックな顔ぶれ。車なら東京都心から1時間半足らずなのに、点在する会場を電車とバスを乗り継いで回るのはかなり困難が伴うアクセスの不便さ。正直言って町おこしアートイベントの典型的な失敗例というか・・・あまりお勧めできるような内容ではないのだが、にもかかわらず今週みなさまをお連れするのは、唯一の外国人参加作家であるレオニート・チシコフ(Leonid Tishkov)を紹介したいから。

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リボーンアートフェス・フリンジ・ツアー

先々週に特集したばかりの札幌国際芸術祭をはじめ、8月は各地でアートフェス真っ盛り。横浜トリエンナーレのようなメジャー級から、町おこしサイズのイベントまで大小さまざまだが、東日本大震災で被災した石巻市では「リボーンアート・フェスティバル(Reborn-Art Festival 2017)が開催中だ。9月10日までと会期終了が近づいたタイミングではあるが、札幌と同じくロードサイダーズらしいフリンジ系をめぐる駆け足ツアーに、今週はお連れしたい。「アートと音楽と食で彩る新しいお祭り」・・・のキャッチフレーズに惹かれるかは微妙なところだが、リボーンアート・フェスが気になったのは、このメルマガで何度かフィーチャーした北九州小倉在住のアーティスト/スケートボーダー/彫り師であるBABUが参加すると聞いたのがきっかけだった。

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ことばの彫刻家、荒井美波

なにもこのタイミングを見計らったわけではないが、いま阿佐ヶ谷のTAVギャラリーでは、藤井健仁とは対照的な、やはり金属を使った立体作品の展覧会が開かれている。荒井美波『行為の軌跡III』、恵比寿トラウマリスから3年ぶりの個展だ。いまは残念ながらなくなってしまった、美大の卒業制作を対象にした公募展「三菱ケミカル・ジュニア・デザイナーズ・アワード」で、2013年の佳作を受賞したのが荒井さんだった。僕も審査員をつとめていて、審査会場で作品と出会ったのだったが、「デザイン」と言えるかどうかは別にして、その発想とセンスには一同唸らされた。

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そう来たかラッシーくん!

今年6月、金沢21世紀美術館で『川越ゆりえ 弱虫標本』展の公開対談をしたときのこと。終了後にそのまま机を寄せ集めて懇親会が始まって、しばらくしたら「私の作品、見てもらえませんか」と話しかけられた。へ~、どんな絵描かれるんですかと聞いたら、「いえ、自分が描くんじゃなくて、いろんなアーティストのかたにお願いして描いてもらってるんです」という。アーティストにコミッション! 一見、ごくふつうの主婦という感じの方なのに・・・とびっくりしていると、葉書をちょっと大きくしたくらいの紙束をリボンで閉じた画集?を手渡された。表紙には『ラッシーくん作品集』と書かれている。ラッシーくんって? 「あ、うちの愛犬なんです。いろんなアーティストのかたに、ラッシーくんをモチーフに描いてもらったコレクションなんです」と言われ、絶句したまま開いてみると、まさに! 油絵に水彩画、木彫にペーパークラフトまで、さまざまなラッシーくんアートが何十点も集められ、しかもそのほとんどの作品写真が、本物のラッシーくんと一緒に写されている。

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ログズ・ギャラリーの「農民車ショー」

ログズ・ギャラリーから久しぶりに届いた新しいプロジェクトのニュース、それが「農民車ショー」です。3月16日から25日まで、大阪市内で開かれた展覧会には残念ながら参加できなかったのですが、東京展への期待を込めて、ここにプロジェクトの紹介をさせてもらいます。 「農民車」という言葉は、僕も知りませんでしたが、淡路島の一部の地域でだけ使用されている、独特な手作り車両のこと。

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妄想芸術劇場・ぴんから体操展、開催決定!

毎回告知欄でもお伝えしている「VOBO 妄想芸術劇場」を読んでいただいている方にはおなじみかと思いますが、我が国最強(最狂?)の素人露出投稿雑誌『ニャン2倶楽部』および『ニャン2倶楽部Z』の投稿イラストページで、創刊当初の1990年ごろから、もう20年以上も作品を発表しつづけてきた伝説の投稿職人「ぴんから体操」の展覧会を、ついに開催できることになりました。

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反抗者としてのガリ版画家

福井良之助の孔版画は、そのガリ版による版画です。ガリ版といえば、ラフなタッチが良くも悪くも特徴なのに、彼の作品は「これがガリ版!」と声を上げずにいられない、すばらしく精緻な版画に仕上がっています。僕も最初に見たときは「ガリ版」というのが信じられず、孔版という言葉をまちがって覚えていたのかと焦りました。

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日日 3 美は断面に宿る(大竹伸朗)

知らない街中を歩いているとグッと心を持っていかれる「ブツ」にときどき出会う。例えば煙突、看板、壁、鉄柱、鉄橋、窓枠、道を歩いていれば誰でも目にするものだ。個人的には時間を経た古いものに惹かれることが多いがペンキ塗り立てのギラギラでペラペラなブツのことも多々あり、それらの「ブツ底」には一筋縄では行かない共通項が潜んでいる。四の五の言わず仰ぎ見るブツをとりまく空間ごとスパッと切り取って持ち帰りたい! お宝との遭遇時には言葉にならないため息混じりの衝動がクックックと込み上げる。

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日日4 美が足元にあり(大竹伸朗)

気がつけばいつの間にやら9月だ。今年から来年にかけて展覧会がたて込んでいてそれに伴う移動が多いためかことのほか時間感覚が妙だ。11月23日にスタートするソウルでの個展に始まり今後10カ月間にグループ展含め個展が断続的に続く。いや有り難いかぎり、すべて全力で切り抜けたいと肝に銘じています。ドイツのカッセルにて6月9日にスタートしたドクメンタも中旬に終了、それにあわせて再び現地で解体作業が始まる。今回現地に2カ月滞在制作した作品「モンシェリ/スクラップ小屋としての自画像」も、完成当初は終了と同時に解体廃棄の可能性もあったがなんとか持ち帰る流れにはなり、今から前向きに作品の行く末を探っていこうと思っている。

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ドクメンタ(13)カッセル後始末記(大竹伸朗)

今回ドクメンタでは、設置場所や制作プロセス等自分自身初めて経験することが多く、またそれに伴う不安も大きかったので現地でのそんなダイレクトな人々の反応は心に染むものがあった。多くの観光客でごった返していたカッセルの街も、ドクメンタ展の終了と同時、見事に人足がパタッとなくなり再びオープン前の普通の田舎街にもどった光景も忘れられない。今回は6月の短期連載「カッセル制作日記」に引き続き、続編「カッセル後始末記」として読んでいただけると幸いです。

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未来の油彩画展――あるホームレス画家の心象風景

年末もおしつまった今月28日から31日のカウントダウンまで、たった3日間だけ開かれる、小さな展覧会をお知らせする(30日は休廊)。展覧会の主は横浜で『ビッグ・イッシュー』を売って生計を立てている路上生活者、ピエトロ-L-キクタ画伯である。キクタさんのことを教えてくれたのは、日本近代美術思想史を専門にする研究者の宮田徹也さんだった。横浜のなかでもっとも昭和の匂いを残し、暗闇の似合う街でもある野毛の名物酒場・旧バラ荘で、宮田さんはピエトロ-L-キクタ展を2011年に企画。今回の展覧会はキクタ画伯にとって2度目の、ホームグラウンド横浜での展示となる。

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石巻だより――ワタノハスマイル新作展

昨年の3月21日配信号で大きな反響を呼んだ「ワタノハスマイル」の主宰者・犬飼ともさんから、うれしいお知らせが届いた。ワタノハのメンバーたちによる新作がもう120点あまりもたまって、来週から新作展ツアーが始まるというのだ。前の記事を読んでいただいた方はご存じかと思うが(未読の方はバックナンバー・ページからぜひ!)、「ワタノハスマイル」とは2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の、渡波(わたのは)小学校で避難所生活を強いられていた子供たちが、校庭に山積みされた廃材を使って作りだした作品群を発表するプロジェクト。

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根本敬のいない場所

東京都中央区勝どき橋。かつては下町の風情と倉庫街が入り混じる、東京湾岸埋め立て地らしい景観が広がっていたが、いまは地下鉄の延伸と高層マンション建設ラッシュで、大きく様変わりしつつある「ウォーターフロント」地区でもある。その勝どき橋エリアに残る倉庫の、2フロアをギャラリー空間にした「@btf」で、今月1日からスタートしたのが蛭子能収と根本敬による二人展『自由自在(蛭子能収)と臨機応変(根本敬)の勝敗なき勝負』。いまどき珍しいほど徹底したおしゃれ空間で、もっとも異質で浮きまくるふたりの奇才がぶちかます、渾身のアート・コラボレーションとは――

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渋谷で混浴

先々週のメルマガで告知していた『混浴ゴールデンナイトin東京』、4月12日に大盛況のうちに終了しました。渋谷のサラヴァ東京で夜6時半からと9時半からの2回公演だったのですが、両方とも満員御礼という・・・ぜひ定例化してほしいですね。昨秋に別府のアートイベント『混浴温泉世界』で披露され、大反響を巻き起こした「金粉ショー」を含む『混浴ゴールデンナイト』の、東京での一夜限りの特別興行。別府からやってきた混浴温泉世界の女性スタッフ3人のユニット「なみなみガールズ」による微笑ましいイントロで開幕。あとは立て続けにフラメンコの吉田久美子、人間ドッグ・オーケストラ、大人ディスコあけみの吟子(withソワレ、多田葉子、北園優)、そしてトリの「TheNOBEBO」による金粉ショーと、パフォーマンス・アートとエンターテイメントの境界線上を行きつ戻りつする刺激的なステージが堪能できました。

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日日:女根(大竹伸朗)

2010年夏に初めて訪れた香川県の女木島にある休校状態の女木小学校。それから今年の瀬戸内国際芸術祭に向けて、中庭を作品化するプロジェクトがぼんやりとスタートした。この3月20日に展覧会は始まりその作品を「女根/めこん」と名付けた。作品はまだ未完成、今年夏と秋2回のオープンに向けて再び女木島での作業が始まる。香川県高松港から定期船「めおん」で20分北に位置し、鬼が島としても知られる女木島。その鷲ヶ峰展望台(標高188m)から高松を望む。春は瀬戸内の島々に咲く桜をグルリ360度見渡せる絶景が立ち現れる。画面中央右の緑色の屋根が「女根/めこん」(以降「女根」)のある女木小学校。チラリと椰子がのぞく。

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ぴんから体操新作展に寄せて

先週の告知でお知らせしたとおり3月3日(雛祭り!)から銀座ヴァニラ画廊で、『ぴんから体操展 妄想芸術劇場2』と『兵頭喜貴写真展 模造人体シリーズ第5弾 「さらば金剛寺ハルナとその姉妹―愛の玩具たち』という、ふたつのきわめてビザールな展覧会が同時開催される。本メルマガでもすでに2012年3月21日号で特集した兵頭喜貴の(「人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記」)、2年ぶりとなる新作インスタレーション展については、前回の展覧会のあと突如として難病や数々の難問に直面し、厳しい日々を送ってきた作家の復活展でもあり、僕も公開対談に参加させてもらう予定。同時にこちらも2年ぶりとなる伝説の投稿イラスト職人「ぴんから体操」原画展も、久方ぶりに原画と向き合える貴重なチャンスであり、とりわけアウトサイダー・アート・ファンには見逃せない企画になるはずだ。

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追悼――101歳のアマチュア画家・江上茂雄

先週2月27日の西日本新聞の夕刊に、小さな死亡記事が掲載された。本メルマガの去年10月2日号で特集したばかりの、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんの死亡記事だった。「26日午前9字14分、老衰のため福岡市東区の老人ホームで死去、101歳」――地元以外で、どれくらいのひとがこのニュースを知っただろうか。江上茂雄さんは生涯アマチュアを通した、生粋の「日曜画家」だった。ほとんど注目されることもなく、自分だけの絵を描きつづけ、最晩年の去年、101歳にして福岡県立美術館で大回顧展を開催。その取材で秋に荒尾にうかがったときはまだお元気で、家族が同居をすすめても「絵を描くのにはひとりのほうがいいですから」と独居を貫き、ひとりでご飯を食べて絵を描く日々を過ごしていた。

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宮間英次郎物語 3(文:海老名ベテルギウス則雄 写真:海老名ベテルギウス則雄、都築響一)

ついに最終章となる「帽子おじさん」宮間英次郎の人生いろいろ物語。長い苦しみの日々の果てに「帽子」というユニークな表現手段に出会い、日本を代表するアウトサイダー・アーティストとして輝く大団円をお送りする!

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老遊女 05 デッドボールで没収試合! 前編(文:中山美里 写真:谷口雅彦)

『デッドボール』という有名な風俗店がある。『地雷! レベルの低さ日本一』が店のキャッチコピー。地雷…つまり、デブ、ブス、ババアばかりが集まった風俗店なのである。この店の存在を知ったのは、3年以上前のこと。夜の世界でこまごまとした仕事をしている知人から取材をしないかと教えられたのだが、当時、ちょうどアダルト業界のことをある程度自由に書かせてもらえる連載が一気に2つなくなってしまったところで、書ける媒体がなかった。取材したい気持ちは山々だったのだが、その希望は叶えられなかった。そのため、教えられたホームページを見るだけだったのだが、一度見始めたら非常に癖になるのだ。なぜなら「この人たち、本当に風俗嬢なんだろうか?」という面々がずらり。

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アウトサイダー・キュレーター日記 02 小林一緒(写真・文:櫛野展正)

昨年12月、埼玉県浦和市の埼玉会館で『うふっ。どうしちゃったの、これ!? えへっ。こうしちゃったよ、これ!! 無条件な幸福』という展覧会を観に行った。これは埼玉県障害者アートフェスティバルの一つとして企画された展覧会で、5回目を迎える。障害のある人たちの作品群が並ぶ会場を歩いていると、隅の方に展示されていた奇妙なイラストに目が留まった。『俺の日記』と題されたその作品は、ルーズリーフやノートに弁当やラーメンなど実に美味しそうな料理のイラストが描かれている。料理の名前や値段、そして食材と共に、画面の余白に書き添えられた「旨イッ!!」という感想。これは、実際に食べた料理をイラストと感想で記録した絵画だった。展覧会場で身震いがして、僕はその作者を追いかけた。

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家族という作品

ハルカス、ミオ、ルシアス、フープ、キューズ、ベルタ・・・これ、何語かおわかりだろうか。実はどこの国でもない、大阪の下町・阿倍野のゲートウェイである天王寺駅周辺に林立する商業ビルの名前である。いつのまに、こんなことに・・・。天王寺駅からチンチン電車(阪堺電車)の軌道に添って一路南下、阪神高速松原線が上空を通る阿倍野交差点を過ぎると、やっと昔ながらの、いかにも大阪の下町らしい風景が広がって、ほっと一息つけるようだ。「このあたりまでは、まだ再開発の波が押し寄せてきてないんです」と教えてくれたのが、高橋静香さん。彼女が代表をつとめる、築70年の長屋を改造したというアートスペース「あべのま」で今開催中なのが、『あべのま1周年記念展 祖父と祖母と父と母と姉と妹といつものこと』という、長いタイトルの展覧会だ。

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組み立て式の女――植野康幸『現代女子図絵』

神田駅前に広がる混沌空間を抜けた先にある丸石ビルは1931(昭和6)年竣工、有形文化財に指定されている美しい西洋風建築。その3階にある日本に数少ないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリー「YUKIKO KOIDE PRESENTS」では、いま『植野康幸 現代女子図絵展』を開催中だ(25日まで)。植野康幸(うえの・やすゆき)は1973年生まれ。1歳になっても言葉を発せず、重度の自閉症と診断される。大阪市立難波特別支援学校を卒業し、アトリエ・コーナスに通うようになった。

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“癒し”としての自己表現展・報告

8月18日号から11月25日号まで短期集中連載した『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』。先に告知したとおり、その締めくくりともいえる展覧会『第22回“癒し”としての自己表現展』が、先週2日から6日までの5日間、八王子市芸術文化会館いちょうホールで開催された。これまで紹介してきた平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加したこの展覧会を、今週は駆け足で振り返ってみたい。『“癒し”としての自己表現展』では毎回、簡素な冊子が準備されているが、その中に収められている各作家自身によるテキストがいつも非常に興味深いので、そちらも併せて紹介させていただく。

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昭和の夜の匂いにむせて

渋谷アツコバルーで開催中の展覧会『神は局部に宿る』は、おかげさまで連日盛況が続いているが、来てくれるひとの約8割が女性客。ラブホに秘宝館、イメクラにラブドールという内容なのに。入口でコンドームを渡され、カウンターではピンクローターとか売ってるのに。昭和をまったく知らない世代にとっての「昭和のエロ」「昭和のお色気」が、いかに「カワイイ」ものに見えるのかを今回は思い知らされた。当時を知るものにとって、それは「イカガワシイ」ものであったり、「下品」なものであったりしたのだが、世代がめぐるうちに、「品」も微妙な変化を遂げるのかもしれない。酸っぱいワインが、いつのまにか芳醇な香りを放つように。先週の記事『ミッドナイト・ライブラリー』でも紹介したが、新進イラストレーター・吉岡里奈の個展『食と女と女と夜と』が、渋谷HMVで始まっている(7月11日まで)。

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道との遭遇・仙台編

仙台国分町のはずれに『Holon』という小さなギャラリーがあるのをご存じだろうか。スケートボード・ショップ『gostraight』の端っこを区切ったような、廊下に見えなくもない狭小スペースだ。本メルマガでは2012年10月3日号で紹介したスケーター/グラフィティ・アーティスト「朱のべん Syunoven」が運営するこのマイクロ・ギャラリーは、2012年のオープン以来これまでさまざまに挑戦的な、非営利というより実に非営利的な企画展を開いてきた。そのholonが4年間の活動の集大成ともいうべき特別企画展『道との遭遇』を開催中だ(1月15日まで)。

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監禁されたラブドール

去年の夏、渋谷アツコバルーで開いた展覧会『神は局部に宿る』。関連企画として同じビルの地下にあるサラヴァ東京で開催したイベントで、可愛らしいラブドールと一緒に登場した女の子を覚えているひともいるだろう。その展覧会の最終日近く、車椅子にラブドールを乗せて、自分もウェディングドレスに身を包んで展覧会場に突然乱入、「響一さんの子供よ!」と叫んで暴れた寸劇?を目撃してしまったひともいるだろう。あのときの女の子が「ひつじちゃん」だ。ちなみにラブドールのほうは「ましろ(魔白)ちゃん」。製造元のオリエント工業も、「おそらく唯一の女性ドール・オーナーでしょう」と太鼓判(?)の、エキセントリックな「自称・永遠の13歳」である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 30 井脇満敏(写真・文:櫛野展正)

宮崎駅から電車に揺られること1時間。緑と清流と温泉の町、宮崎県日南市北郷町にやってきた。無人駅となっている北郷駅から5分程歩いたところに、魚やモアイ像、二宮金次郎像などのイラストが外壁に描かれた家がある。中を覗くと、雑多な品が並ぶ庭先に2体の人型のオブジェが見えた。「これは僕の両親がモデルでね、チェーンソーでつくったものなの」と中から声をかけてきたのが、作者の井脇満敏さんだ。井脇さんの車に乗って、しばらく県道33号線を走っていると道沿いの切り開いた斜面に並ぶ無数の作品群が目に飛び込んでくる。着物姿の女性や動物に富士山、そして作業する人の姿まで…これら全て井脇さんが木を切り倒しチェーンソーで加工した作品で、「井脇アート」と命名している。

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心のアート展2017

2015年秋に『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』と題したシリーズを掲載した。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で開かれている〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載だったが、その〈造形教室〉の作家たちと知り合うきっかけになったのが、『心のアート展』という大きなグループ展だった。東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)が主催する、協会員65病院に入院・通院している、あるいはしてきた患者による公募展。今月末からその第6回となる『心のアート展 「臨“生”芸術宣言! ~生に向き合うことから~」』が池袋で開催される。今回は29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示されるという。広く知られてはいないが、アウトサイダー/アールブリュットの領域で、『心のアート展』は東京で最大規模の公募展なのだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 31 安達則子(写真・文:櫛野展正)

広島県尾道市にある千光寺公園には、プロポーズにふさわしいロマンチックな名所として「恋人の聖地広場」に認定された場所がある。平成26年には、「恋人の聖地広場」から「恋人の広場」に名称変更し、約1000万円の事業費が投じられ整備された。敷地内にはハート形の大小の花壇が計10台設置されているが、千光寺公園内のメインの通りから外れているため、未だ知名度も低く訪れる人もまばらだ。そんな「恋人の広場」の対面には、奇妙な飾りのある家が建っている。近づいてみると、入り口の門のところには、ピンク色や花柄を主体とした装飾が施され歓迎ムードを漂わせているものの、足元の案内板に目をやると「Here is a Private house」の文字が記されている。立ち入りを拒否しているのか歓迎しているのか分からない状況だか、僕は勇気を出して歩みを進めた。雑多な品が並ぶ庭を抜け、インターホンを押すと、ロングヘアーにピンクの衣装が周囲の景観とマッチした女性が現れた。彼女こそ、この作品群の生みの親・安達則子さんだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 33 けうけげん(写真・文:櫛野展正)

僕の人生で不可欠なものの一つに「笑い」がある。小さい頃から『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)や『8時だョ!全員集合』(TBS)に夢中になり、あの時代の誰もがそうであったように、学生時代は「ダウンタウン」の影響を大いに受けた。そこから過去の漫才やコント番組を見返すようになり、本格的にネタを作ることこそ無かったものの、今でも頻繁に若手芸人やネタ番組をチェックしているし劇場にも時々足を運んでいる。最近、お笑い芸人の方々とトークライブで共演させていただいているのも、そうした憧れの気持ちが根底にはある。そんな僕が、最近「この人には勝てない」と感服してしまうほどの熱量を持ったお笑い好きの若者と出会った。待ち合わせ場所の「せんだいメディアテーク」にやってきてくれたのは、「けうけげん」と名乗る25歳の青年だ。

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薬師丸郁夫のサイケデリカ・アイランド

リボーンアート・フェスティバルの会場となっている牡鹿半島の沖合には3つの島があることで知られている。いちばん有名なのが金華山で、島全体が黄金山神社の神域。恐山、出羽三山と並ぶ奥州三霊場のひとつとされている。次に有名なのが田代島で、島民が百人を下回る小さな島でありながら「ネコの島」として多くのメディアに取り上げられるようになった。そして田代島のすぐそばにあるのが網地島(あじしま)。こちらも最盛期には3000人あまりだった島民数が、現在では約300人、平均年齢73歳という典型的な限界集落島。鮎川港からフェリーで15分、石巻港からも1時間という近さでありながら、小中学校もコンビニもない静かな島だ。鮎川港から小さなフェリーに乗って、網地島の長渡(ふたわたし)港に降り立つ。斜面に沿ってのびる住宅街を歩いていくと、すぐに見えるのが「美術館すぐそこ→」と書かれた立札。その先の民家が「薬師丸郁夫美術館」だった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 33 岩崎風水(写真・文:櫛野展正)

通称「ビックリ箱」と呼ばれる部屋を描いた絵画。「ビックリ箱」とは刑務所用語で、受刑者は面会や診察の待ち時間の際、この白塗りの電話ボックスのような鍵のかかった個室で待機しなければならない。隣に誰が入っているのかも分からないし話をすることも出来ない。絵の中には、若者から腰の曲がった老人まで描かれている。彼らの服装は、運動靴にスリッパ、作業服に半袖など様々だ。「衣類のラインナップを全部描こうと思って。ゴムの草履は舎房で履くやつで、累進処遇が上位の人は優遇措置として、スリッパを買うことが出来るんです。端の老人は、1年間懲罰や事故がなかった時に貰える無事故賞が右腕に付いてて、これは23年間無事故が続いたということ。無期懲役の人の場合、40年無事故賞を集めた強者もいました。」

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湘南ミュージアム・トリップ

横なぐりに近い大雨の日曜日、横須賀線を降りて鎌倉駅に降り立つと、傘を握りしめた勇敢な観光客がひしめきあっていた。人力車の兄ちゃんも、びしょびしょになりながら客引きに声を嗄らしている。こんな日に人力車に乗るひとなんて、いるのだろうか。おばあちゃんの、とは言わないまでも、おばちゃんの原宿みたいな土産物屋街を抜けて、鶴岡八幡宮の脇を歩くこと約15分。まず右手に神奈川県立近代美術館・鎌倉館が見えて、それを過ぎてもう少し歩くと、反対側に鎌倉別館という小ぶりな建物に辿り着く。

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『つくることが生きること』の空虚

先週のメルマガで特集したワタノハスマイルの新作が展示されている、神田3331の東日本大震災復興支援『つくることが生きること』東京展に行ってきた。もともと錬成中学校という千代田区の公立中学校だった建物の、1階展示室の主なエリアを使った広い展示空間に、大震災で肉親を失った畠山直哉さんや、建築写真で知られる宮本隆司さんをはじめとする多数のアーティスト、研究者が参加した合同展である『つくることが生きること』。大きな期待を持って会場に足を踏み入れ、最初に感じたのは――静かすぎ! という抑えきれない苛立ちだった。

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スピリチュアルから最後のこんにちは

毎週のようにいろいろな展覧会を紹介してきて、なるべくなら毎回ちがう場所での企画を選びたいけれど、どうしても登場回数が多くなる美術館やギャラリーが出てきてしまう。本メルマガでは銀座ヴァニラ画廊と並んでヘヴィロテ度が高いかもしれない(笑)、福山県の鞆の津ミュージアム。このほど開館3周年を迎えて、いま開催中なのが『スピリチュアルからこんにちは』である。「ポニョの舞台になった町」といえば聞こえがいいが、なかなか訪れるのに気合いが必要なロケーション。しかも私立という立場でありながら、後述のように1年目から「死刑囚の絵」、2年目に「ヤンキー」と来て、今度は「スピリチュアル」・・・その企画力と実現力において、現在の日本でもっともエクストリームなミュージアムであることは間違いない。

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ラバーの炎にくるまれて

先週号の告知でお知らせしたラバー造形作家サエボーグの『HISSS』。2014年の岡本太郎現代芸術賞における岡本敏子賞・受賞展として、今週末まで青山の岡本太郎記念館で展覧会を開催中。日曜の会期末まで、これから毎日2回、着ぐるみならぬ「火ぐるみ」がインスタレーション内をうごめく予定だという。僕も先週見学に行ってみたら、予想以上にビザールかつパワフルな作品に仕上がっていたので、写真だけでもお見せしたく、もういちど紹介させていただく。

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おかんアートという時限爆弾

先週のメルマガで告知したように、21日の日曜から神戸ギャラリー4で待望の『おかんアート展』がスタート。今週土曜(27日)には僕もトークをやらせていただく。ご存知のように毎週、メルマガを配信したあと、「今週はこんな記事があります」というようなお知らせをFacebookページで掲載するのだが、6月17日にアップした「おかんアート展」情報は、なんといままでのリーチ数(読んだひとの数)が2万872人! これだけの人数がメルマガ購読してくれたら、どんだけ楽かと思うと・・・涙。でも、ここまで多くの興味がおかんアートに寄せられているというのは、書いているほうとしても完全に予想外。現代美術が行き詰まっているせいなのか、世の中が行き詰まっているせいなのか。ひたすら明るくハッピーなおかんアートは、もしかしたら思いもかけぬ起爆剤になってくれるのかもしれない。

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ずぼらなノンケの中年人形

今年4月8日配信号で「猫塊の衝撃」として紹介した、巨大な猫の球をロウ人形で作った横倉裕司さんは、2014年のヴァニラ大賞・大賞受賞者だった。「エロティック、フェティッシュ、サブカルチャーのアートに特化した」銀座ヴァニラ画廊の公募展には、かなり風変わりな作品が集まってくる。美術評論家の南嶌宏、美術史研究家の宮田徹也両氏とともに審査員をつとめる僕にとっても、毎年楽しみな仕事だが、来週8月31日から1週間だけ開催されるのが、『第三回ヴァニラ画廊大賞・審査員賞受賞者展』。今回は南嶌宏賞の松本潤一さん、宮田徹也賞のT.HAMAさん、ヴァニラ症の田村幸久さん、それに都築響一賞の柴田高志さんの4名による合同展覧会だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 06 滝本淳助(写真・文:櫛野展正)

滝本淳助という名前に、すぐに反応できる人はどれほどいるだろう。カメラマンで、1988年から2年ほど出演した『タモリ倶楽部』のコーナー「東京トワイライトゾーン」では、『孤独のグルメ』の漫画原作者・久住昌之さんとともにレギュラー出演。当時「VOW」に先駆けて街中にある「トワイライトなモノ」を紹介し、話題となった。その後は、その独特の思考や言葉遣いを取り上げた久住さんとの共著『タキモトの世界』が復刊を果たす。そんな滝本さんも現在61歳。東京都渋谷区の甲州街道に面した立派な自宅マンションで静かに暮らしている。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 05 本木健

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。教室の参加者たちによる展覧会で、毎回ひときわ暗い色調の大きな画面で壁を埋める、本木健(もとき・たけし)の作品を研修は紹介する。水道の蛇口を止めたはずなのに、灰皿の吸い殻を捨ててはずなのに、ドアの鍵を締めたはずなのに、また確認せずにはいられない。だれにも多少はそういう経験があるかと思うが、本木さんはその不安と恐怖が日常生活に支障をきたすほど悪化した、重度の強迫性障害に長年苦しんできた。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 06 奥村欣央

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はそのなかでも異色の作家、奥村欣央(おくむら・よしお)の作品を紹介する。奥村欣央は1965年生まれ、東京都立芸術高校の日本画科を卒業した、つまり専門のトレーニングを積んだアーティストである。そして実は、安彦さんの〈造形教室〉のメンバーでもない。足立区が主催する、区内の精神科病院や障害者施設を紹介する催しでの作品展示コーナーで安彦さんと奥村さんは1997年に出会い、それからは毎年の『“癒やし”としての自己表現展』での常連参加アーティストとなっている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 08 飯島純子(写真・文:櫛野展正)

鮮やかな色彩の絵画に出会った。皮膚のしわが大胆にデフォルメされ、画面の端に大きく描かれた「JuNKO」のサイン。何より、アクリル絵の具と一緒にラメやシャドーが画面に塗りこめられている。ぼくは今まで、こんな風に直接化粧が絵に施された絵画を見たことが無い。この絵の作者に会うため、茨城に飛んだ。都心から約40キロに位置する茨城県つくばみらい市。江戸時代の探検家・間宮林蔵の出身地としても知られるこの場所は、ことし開業10周年を迎えた首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの誕生に伴い開発が進んだニュータウンが広がっている。駅からほど近い住宅街の一角で、作者の飯島純子さんは父親と暮らしていた。1973年に茨城県筑波郡伊奈町小張(現在のつくばみらい市陽光台)で生まれた飯島さんは、現在41歳。これまで5箇所の病院を渡り歩き「強制退院になったこともあった」と語る。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 11 松本作和子

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。大詰めが近づいた今回は11人目の作家・松本作和子の作品を紹介する。松本さんの作品に出会ったのは、先週の石澤孝幸と同じく、今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』だったが、「このひとはプロのイラストレーターか漫画家だったのが、たまたまこころを病んでここにいるのではないか?」と思わせてしまうような、達者な筆使いだった。

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大竹伸朗の壷中天

展覧会は作品が勝負である。広告費の大小は関係ない――と言うのは正論かもしれないが、半分しか正しくない。作品をつくるのはアーティストだが、作品を広めるのはキュレーターやスタッフたちの役目だ。予算の多い少ないとは別の次元で、「ひとりでも多くのひとに見てほしい!」という運営側のエモーションが、展覧会の成否を左右した例をこれまでたくさん見てきた。そして貧弱な広報が、せっかくの作品を暗闇に追いやってしまった例も、あまりにたくさん見てきた。三田の慶應義塾大学アート・センターではいま、『SHOW-CASE project No. 3 大竹伸朗 時憶/フィードバック Time Memory/Feedback』と題された展覧会が開催中である(2016年1月29日まで)。

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「えびすリアリズム」対談報告!

昨年末のメルマガでお知らせしたように、ただいま渋谷パルコで『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』が開催中だ(18日まで)。いまや「バスに乗って旅行してるおじさん」という認識しかない人たちも少なくない蛭子能収の、実はきわめてシュールでポップなアーティストとしての側面を垣間見ることができる、これは貴重な東京初の展覧会である。1月2日には僕がお相手させてもらったトークもあって、満員御礼の盛況だった。予約開始から2日たたずに定員に達してしまい、「行きたかったのに予約できず!涙」という連絡をたくさんいただいたので、今週は展覧会を紹介しがてら、対談の模様を要約して誌上再現してみたい。

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アウトサイダー・キュレーター日記 11 田中拓治(写真・文:櫛野展正)

正直、こんなに寒いとは思ってもみなかった。人生で初めて訪れた北海道。「札幌時計台」や「旭山動物園」など名だたる観光名所をすっ飛ばしてやってきたのは、札幌市営地下鉄南北線の幌平橋駅。そこからビュウビュウと寒風の吹きすさぶ中、鼻水を垂らしながら向かった住宅はゴウゴウガラガラと大きな音を立てていた。風が通り抜けると、家の周囲を囲むように設置された色鮮やかな玩具が回りだす。これは、この家に住む田中拓治さんがつくったオブジェだ。昭和14年生まれの田中さんは現在76歳。十勝の河西郡芽室町で8人兄弟の4番目として生まれた。

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アウトサイダー・キュレーター日記 12 辻修平(写真・文:櫛野展正)

気になるWEBサイトを見つけてしまった。サイト内にはショッキングピンクを基調とした作品が多数掲載されているが、クリックすることを躊躇してしまうような良い意味で素人臭いデザインが、一層ビザールな雰囲気を醸し出している。後日、まるで何かに引き寄せられるかのように、僕はあのサイトの主に会いに東京へ向かっていた。東武鉄道伊勢崎線の竹ノ塚駅から徒歩15分。東京都足立区にある入り組んだ路地の一角に、周囲の集合住宅とは明らかに異彩を放つ建物「あさくら画廊」はある。入口にまで多数のオブジェが侵食し、入ることを誰もが躊躇する奇抜な外観。ここまでショッキングピンクが多用されるとファンタジーを通り越して、もはや狂気さえ感じてしまう。恐る恐る入口の扉を開けると、中から出てきたのは意外にも同年代の男性の姿だった。

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箱の中のアート・オペレッタ

パリ左岸、オデオンからセーヌ河にかけての界隈には、大小さまざまな画廊が集まっている。それも現代美術ばかりではなく、古典から特異なテイストで珍品を集めるギャラリーまでいろいろで、外から覗いて歩くだけで楽しい。そのなかでも比較的新顔ながら、いっぷう変わったテイストで、パリの変人たちの収集癖をうずかせているのが「Galerie Da-end」。パリ在住のファッション写真家として知られる七種諭(さいくさ・さとし)とパートナーのディエム・クインが、2010年から開いているギャラリーだ。ちなみに「Da-end」は日本語の「楕円」から採ったそう。画廊の常識である「ホワイトキューブ」の真逆を行く暗く塗った壁に、小さな開口部。画廊というよりも、どこかの国の驚異の部屋=キャビネット・オブ・キュリオシティーのような、秘密めいた雰囲気の空間で、「奇態」と「エロティシズム」と「グロテスク」の香りを漂わせる作品ばかりを展示している。

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ストレンジャー・ザン・ミュージアム――5月の特殊展覧会ガイド

連休中に、といってもすでに後半戦だけど、ゆっくり展覧会を巡ってみようと考えてるひともいらっしゃるだろう。先週のメルマガでは埼玉県立近代美術館の『ジャック=アンリ・ラルティーグ展』という、とびきりエレガントな写真展を紹介したが、今週はがらりと趣を変えて! エロだったりグロだったりファンキーだったり、とにかくふつうの美術館ではぜったい扱わないような、ビザールな展覧会を3つまとめてご紹介する。銀座のフェティッシュ専門ギャラリー、新宿二丁目のバー、京都の古書店・・・場所もさまざま、展示内容もさまざま。

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絶滅サイト 04「巨大ラジコン戦車」~「日本全国街並風景」(文:ハマザキカク)

8分の1から4分の1スケールの超巨大ラジコン戦車を扱ったサイト。4分の1のものは、実際の戦車と見間違えるほどのインパクト。実際に砲弾が発射されそうな勢いである。置き場所に困るが、これは金持ちだったら絶対欲しくなる。実際にトップページで「各著名人や中東の王族達も、当RC戦車を非常にインパクトがあり実際に力強く可動する、最高の嗜好品として購入している」と記載されている。値段は50万から160万ほど。「あらゆる戦車を再現させます。新モデルご希望の際はご相談下さい」とあり、オーダーメイドだったのだろうか。しかし会社名の「DOMUS INC」で検索すると、代金を振り込んだのに納品されないと訴える被害者による告発サイトもあり、現在行方不明のようだ。実際に購入した人のレポートもあるのでビジネスが行き詰まったのだろうか。一時期は『ホビージャパン』等の雑誌でも紹介されていただけに残念である。

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アウトサイダー・キュレーター日記 15 小林伸一(写真・文:櫛野展正)

横浜市の西区と保土ケ谷区をまたにかける洪福寺松原商店街。ダンボールを屋根に積み上げた光景が名物の外川商店をはじめ、あたたかい下町人情が漂い、「ハマのアメヨコ」としていつも賑わいをみせている。その商店街の中にある総菜店「京町屋」で、なぜかいつも自分のメガネを中性洗剤で洗ってもらっているという人に出逢った。この店の常連でもある小林伸一さんだ。そのメガネは、とても変わっている。レンズはセロハンテープで固定され、耳にかける部分は何重にもガムテープが巻かれていた。

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狂気の先にあるなにか――シリアルキラー展によせて

5月11日配信号では福山クシノテラスで開催中の死刑囚の絵画展を紹介したが、今週ご紹介するのはアメリカ・イギリスのシリアルキラーの作品ばかりを集めたという、恐ろしくも貴重な展覧会。本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で6月9日にスタートする。セルフポートレートから手紙、資料など、200点以上が展示予定だという。『ROADSIDE USA』の取材でアメリカを走りはじめた1999~2000年ごろ、サンディエゴからハリウッドの片隅に移って間もない『ミュージアム・オブ・デス』に偶然出会った。ギロチンから電気椅子にいたる処刑道具や拷問道具、手術器具、事故の現場写真やビデオ・・といった「死」の匂いにまみれた展示物の中で、チャールズ・マンソンをはじめとする、アメリカのシリアルキラーたちの作品に対面したのが、僕にとっての「シリアルキラー作品体験」の初めだった。当時はスマホなんて便利なモノはなかったので、彼らがどんな大罪を犯したのか、ごく有名な数人をのぞいて、その場で知ることはできなかった。けれど、展示されている絵画が秘めた狂気の痕跡に――とりわけジョン・ゲイシーのピエロに――心臓がギュッとなったのをよく覚えている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 18 鈴木敏美(写真・文:櫛野展正)

唐突だが、僕はテレビ番組やアニメに登場する「巨大ロボット」が苦手だ。現実離れしているからなのだろうか、自分でも理由はよく分からない。小さいころ見ていたテレビの戦隊ヒーロー物でも、巨大ロボットが出てくるとチャンネルを変える始末。だから、「新世紀エヴァンゲリオン」や「進撃の巨人」も未だにじっくり見たことがない。そんなロボット音痴な僕が今回訪ねたのは、1979年に誕生し、ロボットアニメ変革の先駆けとも評される、あの「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツを自作している人だ。やってきたのは、青森県上北郡おいらせ町。太平洋に面し、町の東西には十和田湖を源流とする奥入瀬(おいらせ)川が流れている。レンタカーで国道338号線を走っていると、どう考えても見落としようのない外観が現れた。ガンダムに登場する10体ほどのモビルスーツが立ち並ぶのは、「スズキ理容」と看板を掲げる理容院の敷地だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 19 熊澤直子(忍者ブキミ丸)(写真・文:櫛野展正)

高知県には、「藁工ミュージアム」というアール・ブリュット美術館がある。そのため高知を訪れる機会も多いのだが、市内を歩いていると自転車に乗った風変わりな「パンダ」をよく目にすることがあった。もちろん、それは動物ではなく、手製のパンダの被り物をした人間だ。その人は、ファンキーな見た目と、いつどこに現れるかわからない神出鬼没さから、「忍者ブキミ丸」と呼ばれている。すれ違った時の声の感じから、どうやら女性のようだ。どうしても彼女に会いたくなって、後日僕は再び高知にやってきた。高知駅から車を走らせること約10分、閑静な住宅街のなかに彼女の自宅はある。しばらく外で待っていると、派手にデコレーションされた自転車をこいで「忍者ブキミ丸」はやってきた。

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アウトサイダー・キュレーター日記 20 今井豊一(写真・文:櫛野展正)

勇気を出してインターホンを押すと、ドイツの模型メーカー「メルクリン」による機関車模型が陳列された玄関に、ひとりの小柄な男性が現れた。その人が案内してくれた部屋に入ると、天井からたくさんの模型飛行機が吊り下がっている。「21歳のころから、趣味で飛行機の模型を作っとった。ラジコンは10年くらい前からや。黄色のんは、材料から自分で作って、スイスで自分が乗った飛行機やねん。プロペラのついとるんが、好きやねんな。」そう語るのは、今井豊一(いまい・とよかず)さん。1930年生まれの86歳だ。大阪市中央区船場で4人兄弟の長男として生まれた今井さんは、小学校のころから木を削って船を作るなど、工作の得意な少年だった。

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アウトサイダー・キュレーター日記 21 野村一雄(写真・文:櫛野展正)

いまや3億2000万人が利用するソーシャルメディアのひとつTwitter。国内では3500万人が利用し、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』がテレビ放映されると「バルス」とツイートすることが流行したり、地震や台風の際にはTwitterで救助を求めたりするなど、ライフラインツールとしても不可欠なメデイアのひとつになっている。そんなTwitterのタイムラインに、ある日こんな興味深いツイートが流れてきた。「30年前、父が7年と数ヶ月の歳月をかけて描いたA1サイズの迷路を、誰かゴールさせませんか。#娘として困惑してる #この才能を他の場面で活かせなかったのか――」

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アウトサイダー・キュレーター日記 22 金山勝茂(写真・文:櫛野展正)

地方の道路を走れば、よく目にするもののひとつに、道沿いに立つ交通安全人形がある。「飛び出し坊や」と呼ばれる既成の人形がお馴染みだが、田舎に行けば行くほど、個人レベルでそうした人形を手作りしている人たちは多い。今回は、そんな交通安全人形の作り手に会うため、広島県福山市から電車を乗り換えること5時間強(遠かった…)、長崎県平戸市を訪れた。歴史の教科書で、誰もが必ずその名前を目にしたことがある平戸市。16 世紀にはポルトガル船が来航し、キリスト教伝来の窓口にもなった異国文化が息づく港町だ。レンタカーで県道を走っていると、交差点に平戸の歴史や伝統とは無縁の奇妙なオブジェの乱立するスポットが現れた。敷地内には、「交通安全」と書かれた電波塔や、自転車に乗ったミッキーマウス、そして映画『スター・ウォーズ』に登場するC-3POとR2-D2など様々なキャラクターを模したオブジェが点在し、既にパラレルワールドと化している。

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アウトサイダー・キュレーター日記 23 北 浩子(「Hair & facial ciel」オーナー)(写真・文:櫛野展正)

やってきたのは、兵庫県西宮市にある阪急夙川駅。駅から程近い高級住宅街が立ち並ぶ住宅街の一角に、今回の取材先であるヘアサロン「Hair & facial ciel(シエル)」はある。この店は、外観からして凄い。とにかく目立ちまくっているのだ。まず、入り口には、懐かしいテレビ番組『ザ・ベストテン』を模した手書きの順位表が貼られ、開放的な大きな窓には、お立ち台ギャルの手書きイラストが大きく描かれている。柱の横についたスピーカーまで手作りだから驚きだ。「Hair & facial ciel」という看板がなければ、ここが美容室だとすぐに認識することは難しいかもしれない。

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アウトサイダー・キュレーター日記 24 唐崎歩美(写真・文:櫛野展正)

福岡のギャラリールーモで開催され、今年の夏に大きな話題を呼んだ展覧会『悶絶!! 桃色秘宝展』。入場無料ということもあって、SNSで評判となり、会期延長にもなったこの展覧会で展示されていたのは、エロ雑誌やエロ雑貨にピンク映画のポスターなど「昭和のエロス」だった。そうしたエログッズを収集・展示していたのが、奇書ハンターとして知られる唐崎歩美さんだ。唐崎さんは、昭和63年、北九州市小倉にある銀行員の両親の元で生まれた。

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上野と木場で展覧会めぐり

派手に宣伝されているわけではないけれど、見逃しておきたくない展覧会をふたつ、急いで紹介しておきたい。まずは来週27日から29日にかけての週末3日間だけ、上野の東京藝大キャンパスで開催される『LANDSCAPE』展。ランドスケープ=風景をテーマに、今日的なランドスケープのありようを探るグループ展として2016年から北九州のギャラリーSOAPを皮切りに、中国の合肥、上海、バンコクと巡回して開催された『ホテルアジアプロジェクト:ランドスケープ』展と連動した企画。もうひとつご案内したい展覧会は、東京都現代美術館に近い木場のアース+ギャラリーで開催中の『尾角典子展 The interpreter』。尾角典子(おかく・のりこ)は長くロンドンを拠点に活動するアーティスト。2015年にイギリス中部の都市ダービーに招待されて制作したシリーズが、今回展示されている『The interpreter』だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 26 武装ラブライバー(写真・文:櫛野展正)

数年前からTwitterで目にするようになって、ずっと気になっていた。その姿は、画面の中で見るたびに進化し続け、どこか異国の民族衣装やRPGゲームのラスボスのようにも見えるし、そのファサード感は絢爛豪華な祭りの山車のようでもある。これは『ラブライブ! School idol project』のグッズを身にまとった男性の姿だ。2010年にゲーム雑誌の読者参加企画として始まった『ラブライブ!』は、9人の女子高生で構成されるスクールアイドルグループが学校統廃合の危機を救うために全国大会優勝を目指す物語で、メディアミックス作品として社会現象を巻き起こしている。そのファンは、「ラブライバー」と呼ばれており、中でも「武装」と称される好きなキャラのグッズで全身を囲った人たちは全体の1割ほど存在する。

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アウトサイダー・キュレーター日記 28 佐藤 和博(写真・文:櫛野展正)

クリスチャン・ラッセンの代名詞とも言えるイルカの絵が胴体に描かれた「こけし」。アンバランスな和洋折衷の雰囲気が、笑いを誘う。ユーモアたっぷりで、どこか批評性に富んだ本作の作り手は、著名な現代美術家ではなく、秋田県に暮らす佐藤和博さんの手によるものだ。日本有数の豪雪地帯のひとつ、秋田県横手市。冬になると「かまくら」で有名になるこの街で、佐藤さんは水道や給排水などの設備工事会社「佐藤施設工業」を営んでいる。社内に一歩足を踏み入れると、たくさんの絵が事務所に飾られていた。社長である佐藤さんが全て描いたものだ。奥から出てきた佐藤さんに「先に見るべさ」と案内されたのが、会社事務所と自宅の間に立つ建つ二階建ての大きな蔵だ。

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八潮秘宝館 春の一般公開!

「秘宝館が絶滅寸前」と嘆く諸氏は多いけれど、ならば自宅に秘宝館をつくればいいだけ!という、日本でおそらくただひとりの勇者・兵頭喜貴さん。すでに本メルマガではおなじみだが、自宅を開放する『八潮秘宝館』の4回目となる「春の一般公開」が今月末からの黄金週間に開催される。昨年、ロケーション撮影中に大規模な盗難に遭ったものの、同志の支援により別府秘宝館に展示されていた蝋人形3体が参加し、これまでとはまたひと味違ったインスタレーション空間に仕上がっている。

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アウトサイダー・キュレーター日記 29 一ツ柳 外史春(写真・文:櫛野展正)

改札に石像の模型が鎮座する駅にやってきた。岡本太郎が「こんな面白いもの見たことがない」と絶賛したその像は、『万治の石仏』という名で親しまれ、街の観光名所になっている。ここは長野県のほぼ中央に位置する下諏訪郡下諏訪町。かつては中山道と甲州街道の合流地で宿場町として栄えた温泉宿も多い。駅から国道沿いを少し歩いたところにあるのが、今回の目的地「ヘア・サロン ヒトツヤナギ」。すぐ下にあるのが「海のジオラマ ヒトツヤナギ」の看板だ。ここは、細密なジオラマを制作する店主が営む理容院として知られている。階段を上がり店の扉を開けると、さっそく大きなアクリルケースに入ったジオラマが迎えてくれた。3台ある散髪台のうち、ひとつは作業台となっている。待合いの席で、お客さんとコーヒーを飲みながら談笑しているのが店のオーナー、一ツ柳外史春(ひとつやなぎ・としはる)さんだ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 34 馬田亮一(写真・文:櫛野展正)

佐賀県大和町にある「巨石パーク」。静かな森に10m以上の巨石群が17基も点在し、いまや佐賀県を代表するパワースポットになっている。佐賀駅からその「巨石パーク」に向かう途中、国道263号線沿いで異彩を放つ建物に遭遇した。たくさんの廃材や廃物が幾重にも重なり構成されたその建築物は、一見すると廃墟のようでもあるし、どこか異国の要塞のようでもある。入り口にはコンクリートや茶器やガラスなどを組み合わせて制作されたシーサーがこちらを見据えている。その周りの黒板にはポップな社会風刺の言葉が書かれており、どうやらアートハウスのようだ。道路沿いに車を止め、中に入って呼びかけてみた。「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか」。

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樹海の因果――根本敬ゲルニカ計画

先週日曜日(10月1日)、羽田空港に近い京浜島の須田鉄工所で、『鉄工島フェス』が開催された。石野卓球、七尾旅人などが演奏したステージの背景として掲げられていたのが根本敬の『樹海』、5月末から4ヶ月の時間をかけて描き上げられた349×777cmの大作だった。京浜島は東京都大田区に属する小さな人工島。羽田空港に向き合う「つばさ公園」は、旅客機の離着陸が間近に見られる聖地として飛行機マニアにはよく知られている。かつては鉄工所をはじめとする工場や物流基地として繁栄したが、近年では廃棄物処理場やリサイクルセンターが集まる地域となりつつあり、再活性化が望まれてきた。寺田倉庫が2016年に立ち上げたオープンアトリエ「BUCKLE KÔBÔ」(バックルコーボー)もその試みのひとつ。

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中華街に甦る衛生展覧会

かつて「衛生展覧会/博覧会」という見世物があったことを、ビザール系がお好きな方ならご存じだろう。あくまでも庶民啓蒙の体裁を取りながら、その実は人体解剖模型から病理標本に瓶詰め畸形児まで、おどろおどろしい雰囲気に満ちた猟奇的な見世物催事である。いまから半世紀以上前に消滅した衛生展覧会が、11月の2週間だけ、横浜中華街の小さなギャラリーに甦る。SNSによる相互監視密告システムが張り巡らされたこのご時世に、こんなに不穏な展覧会を企画したのは骨董屋でありオブジェアーティストでもあるマンタム。本メルマガ2013年5月15日号で厚木市内の魔窟を紹介した、フェティッシュ/ビザール界の怪人である。

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大竹伸朗展 ニューニュー:カタログ発表記念、プレゼント企画!

2013年7月から11月まで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された『大竹伸朗展 ニューニュー』。そのカタログが、なんと展覧会から1年以上たった今月、ようやく完成! デザイン・制作はもちろん、新潟・浦佐をベースにユニークなマイクロ・パブリッシング活動を続けるエディション・ノルトによるものだ。エディション・ノルトに関しては本メルマガの2012年11月7日号で詳しく紹介したが、端正なデザインと手づくり感覚をミックスさせた、独自の美学が際立つエディトリアルデザイン・スタジオである。今回のカタログも、さすがにノルトらしく、いくつかのサイズの紙束を二つ折りにして重ねたような、軽い印象でありながら、中を開いていくたびに驚きがあらわれる、これまで見たことのないような構造になっている。

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我らいまだ非現実の王国に

いまからちょうど8年前になる。ヘンリー・ダーガーの部屋の写真を相次いで見る機会があって、どうしても本にしたくて、友人の小出由紀子さんとインペリアルプレスという、ふたりだけの極小出版社を設立、『HENRY DARGER’S ROOM ― 851 WEBSTER』という写真集を自費出版した。「851WEBSTER」というのは、ダーガーが住んでいたシカゴのアパートの住所だった。その後のインペリアルプレスは、お互い忙しさにかまけているうちに新刊を出すこともないまま、ついに昨年末で会社を清算、いまは手元に残った在庫を細々と売っている状態で・・・溜息。その『HENRY DARGER’S ROOM』に写真を提供していただいた北島敬三さんの写真展『ヘンリー・ダーガーの部屋』が先週末から、西新宿のエプサイト・ギャラリーで開催中だ(3月12日まで)。

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たまにはアートフェアも

いまさら説明するまでもないが、展覧会とアートフェアのちがいは、展覧会がアートを展示する場所であるのに対して、フェアはアートの「見本市」、つまりアートを売り買いする場所ということ。アートを鑑賞するのではなくて、売ったり買ったりできるひとが集まるのがアートフェアだ。その最大のものであるスイスのアート・バーゼルなどは、いまやマイアミや香港でもフェアを開催。世界中からお金持ちと、お金持ちを探すお金持ち画廊が集結する。日本でも「アートフェア東京」という美術見本市が2005年から開かれていて、今年が10回目。好き嫌いとかではないけれど、売り買いの場という性格から、これまで本メルマガでは取り上げないでいたが、今年はメルマガでも紹介したアーティストの作品がいくつか出品されるので、この機会にさらりと紹介させていただく。

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アウトサイダー・キュレーター日記 04 三浦和香子(写真・文:櫛野展正)

北陸新幹線の開通によって、すっかり身近になった北陸地方。富山県の高岡駅から氷見線に乗り換えると、迎え入れてくれたのが「忍者ハットリくん列車」だ。外装から車内の内装にいたるまで「忍者ハットリくん」のラッピングで包まれた列車に、堂々と大人が乗りこむのはどこか恥ずかしく、ハットリくんの「次は~でござる」という観光アナウンスにそっと耳を傾けながら、美しい海岸線に沿って走ること約30分。たどり着いたのが、終点の氷見駅だ。漁業の町として知られる人口5万人ほどの富山県氷見市は、藤子不二雄A先生の出身地ということもあり、代表作の一つ「忍者ハットリくん」の登場キャラクターが街の至るところに(なんとタクシーにも!)点在し、街全体がA先生のワンダーランドと化している。

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開催中&まもなく開催の展覧会、一挙紹介

9月になると展覧会が集中するのは、やっぱり「芸術の秋」だからなのか・・こっちは「食欲」だけど。本メルマガで紹介してきた作家たちを中心に、今週は3本の展覧会をまとめて紹介します!/村上仁一『雲隠れ温泉行』@ガーディアン・ガーデン/三条友美 処女個展 少女裁判@カフェ百日紅/横倉裕司展「輪郭を描く」@ヴァニラ画廊

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 03 石原峯明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の江中裕子に続いて、今週は石原峯明の作品を見ていただく(先週までは「平川病院の」と連載タイトルをつけていたが、これから東京足立病院でおもに制作する作家も紹介していく予定なので、今週から変更させていただいた)。まず、予備知識なしにこの絵を見ていただきたい。鮮やかな色彩と、ピカソやホアン・ミロを思わせるような画想が、100号(162x130センチ)の大画面に踊っている。これが76年間の人生のうち、のべ40年近くを精神病院で暮らした男の、死の4年前、72歳で描いた作品だと、だれが想像できようか。

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アウトサイダー・キュレーター日記 07 西川正之(写真・文:櫛野展正)

三重県伊勢市にある近鉄宇治山田駅。真向かいにある明倫商店街のすぐそばには、読売ジャイアンツ草創期に活躍した投手・沢村栄治の生家跡地がある。そんな名投手を生み出したこの地で、本物そっくりな立体凧を制作し続けている西川正之さんを訪ねた。西川正之さんは昭和20年、三重県多気郡明和町に生まれた。あるとき、次男だった父親の「田舎におったんではいかん」という一言で、伊勢市常磐町の呉服屋へ家族で丁稚奉公に。そこの呉服屋を間借りして暮らしていたが、西川さんが小学校5年生のころ父親が独立。宇治山田駅前にある明倫商店街の中に店を構えた。いまはシャッター商店街だが、当時は夜9時半まで商売するほど賑やかだったそうだ。両親が共働きで、4つ下の妹は祖母の家で暮らしていたため、小学校から帰ると自分で鍵を開けて帰宅する日々だったという。そんな西川さんの趣味は、絵を描くことだった。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 07 島崎敏司

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は島崎敏司(しまざき・さとし)の作品を紹介する。島崎敏司は1957年、八王子生まれ。1988年に丘の上病院に入院したというから、31歳のときだったろうか。しかし4年にわたる入院期間のうちに、「絵を描こう」とは思いもしなかった。初めて画用紙に向かうことになったのは、退院後にデイケアに通うようになって2年近くたってからのこと。いったい彼の内面に、そのときどんな衝動が生まれたのだろう。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 10 石澤孝幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は石澤孝幸の作品を紹介する。今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』を取材させてもらったのが、この連載のきっかけになったことは前に書いたが、そのときに石澤さんの作品も見て、そのあと八王子の平川病院を訪れてみると、〈造形教室〉の片隅に立てたイーゼルの前で、展覧会で見たのとそっくりな絵に向かっている石澤さんがいた。不思議に思ってスタッフの方に聞いてみると、それはそっくりな新作ではなくて、展覧会に出した作品に、さらに手を入れているのだという。

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アウトサイダー・キュレーター日記 09 黒川 巌(写真・文:櫛野展正)

全国各地のアウトサイダー・アーティストたちを取材していると、取材を拒否されるケースも少なくない。今回ご紹介する黒川巌(くろかわ・がん)さんもそのひとりだ。かつて、彼の自宅兼アトリエが「2ちゃんねる」で「お化け屋敷」などと酷評を受け、それがきっかけで、2012年に「日刊SPA!」の取材を一度受けてしまった結果、若者たちが毎夜家の周りを取り囲み、自宅周辺にタバコの吸殻を撒き散らしたり庭に卵を投げ込んだり、ひどいときは二階の窓ガラスを投石で割られたこともあったという。黒川さんは、その後一切の取材を拒否。今回、何度かの交渉により特別に取材させていただくことができた。おそらく彼にとって最後の取材となる。

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上野都美館でプロ・アマ美術散歩

なにか展覧会を見に行って、そのまま帰ればいいのに、ふらふら常設展示コーナーに足を踏み入れて、そこで思わぬ作品と出会うことがよくある。サイトウケイスケという若い画家に教えられて先週、東京都美術館に行った。彼が参加する『東北画は可能か?』というグループ展が、2週間だけ開かれているという。東京都美術館=都美館は企画展と同時に、いつも大小たくさんの公募展や貸しギャラリー展が開催されている、言ってみれば東京最大級の貸し画廊でもある。久しぶりに上野公園を横切って都美館に着いてみたら、平日の午前中なのにものすごい人混みで驚いたが、それは東北画じゃなくてモネ展を見に来たひとたちだった。ついこのあいだ、印象派と娼婦の関係に焦点を当てたオルセー美術館の展覧会を記事にしたばかりなので、ちょっと好奇心が湧く。入場を待つ列に並んでいる善男善女は、どんなモネを期待しているのだろう。モネ展の雑踏をぐっと回りこみ、地下3階まで降りたギャラリーBで『東北画は可能か?』は静かに開いていた。

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えびすリアリズムの奇跡

もっとも新春にふさわしくないというべきか、ふさわしいというべきか、判断に迷う展覧会が元旦(!)1月1日から渋谷パルコで開催される。『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』――そう、蛭子能収の絵画作品展だ。いまや「バスに乗って(大した感動もないまま)旅行するひと」「使い勝手のいい変人おやじ」というテレビ的イメージが完全に定着してしまった蛭子さんだが、つい先日のNHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史II」でも力説したように、私見では1970~80年代ヘタウマ・カルチャーを体現する最重要アーティストのひとりである。当時、『地獄に堕ちた教師ども』(1981年)を代表とする初期の蛭子漫画に計り知れない影響を受けた若者が、(僕を含め)どれほどいたろうか。

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アウトサイダー・キュレーター日記 13 爆弾さん(写真・文:櫛野展正)

全国各地の表現者を求めて取材を続けていると、拒否されることだってある。今回取り上げるのは岡山に暮らす路上生活者だ。彼はこれまでメディアの取材は一切断ってきた。自分の人生が一変するような高額報酬でもない限り、決して首を縦には降らない。考えてみれば無理もない。取材によって名が知れ渡ることは、路上生活者にとって、ともすると嘲笑の対象となり、自分の身に危険が及ぶことも想定されるからだ。今回は何度かお会いすることにより、特別に取材を受けていただくことができた。林央子の著書をもとに開催された展覧会『拡張するファッション』を香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で見た帰りに、岡山駅でデザイナーズ・ブランドの変形服を着用したような出で立ちの路上生活者に遭遇した。それは展覧会で見たどの衣服よりも刺激的な風貌だった。本名や生年月日は非公開。通り名で「爆弾さん」と呼ばれている。以前、体験ノンフィクション漫談芸人・コラアゲンはいごうまんの漫談で紹介されたこともあり、岡山ではちょっとした有名人だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 16 藤沢正広(写真・文:櫛野展正)

「本人がちょっと難しい人でね。恥ずかしがり屋というか、取材とか嫌みたいで、約束してもすっぽかしちゃうの。自分の個展のときも、オープニングにも出ずに、すぐ帰っちゃうくらいだからね」。電話口の相手は、「ギャラリー・マルヒ」のオーナー・鴻池綱孝さんだ。ここは東京都文京区。職人の町として知られる根津の路地に「ギャラリー・マルヒ」はある。東京芸大近くで20年以上営業を続けるアンティークショップ「EXPO」のオーナーでもある鴻池さんが代表を務めるギャラリーだ。大正時代の質屋をリノベーションしたこの場所で、ことしの4月23日から15日間だけ開催されていた展覧会があった。藤沢正広さんによる初めての個展『野良サイダー』だ。

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アウトサイダー・キュレーター日記 17 橋本晁光(写真・文:櫛野展正)

高知市からレンタカーで北上すること約1時間、たどり着いたのは、高知県長岡郡本山町。ここは、高知県のほぼ中央に位置し、中心部を吉野川が流れる水と緑に恵まれた人口4000人ほどの小さな町だ。国道439号線沿いにあるブルースマン・藤島晃一さんが経営する『CAFE MISSY SIPPY』でお腹を満たしたあと、さらなるワインディングロードを突き進み、今回僕がやってきたのは高角集落の入り口にある「極楽入口」という黄色の大きな看板が掲げられた場所。いかにも怪しげな匂いがプンプンするが、何かに導かれるように矢印に沿って山肌の長いカーブを曲がると、深い緑と美しい田園風景に囲まれた山間の小さな集落の中に手作りのテーマパークが現れる。まず、目に飛び込んでくるのが道沿いに立ち並ぶ大きな巨石の数々だ。入口の大きな石の看板には「田園自然石アート ストーンロード」の文字が。その下には作者の「モイア橋本」という名前が刻まれているが、「極楽入口」とあっただけに、それはどこかの神様の名前にも思えてくる。

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死刑囚の絵展@宮城・にしぴりかの美術館

すでに何度か本メルマガで取り上げた宮城県黒川郡大和町の『にしぴりかの美術館』で、11月21日から死刑囚の絵展が開催されている。死刑囚の絵画作品については、もう何度も紹介してきた。今年の春から夏にかけては広島県福山市のクシノテラスで、また来年夏には『神は局部に宿る』の渋谷アツコバルーでも大規模な展覧会が予定されていて、これまでの死刑廃止運動の一環としての展示とは、また別の角度から光を当てる企画が増えているのは、すごく有意義な流れだと思う。『命みつめて ~描かずにいられない』と題された本展には、これまでどおり「FORUM90/死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」によってコレクションされてきた、2005年から15年までの作品から80点を選んで展示されている。キュレーションを担当したのは、こちらも本メルマガで連続掲載した高尾・平川病院〈造形教室〉の運営にあたる宇野学さん。これまでの死刑囚の絵展が、参加したすべての作家によるコレクションの全容を見せようとしてきたのに対して、今回は数人の作家に特に力点を置いた展示になっていて、そのアプローチも興味深い。

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アウトサイダー・キュレーター日記 27 中條狭槌(写真・文:櫛野展正)

群馬県西部にある甘楽郡。近くには工場見学などが楽しめる無料のテーマパーク「こんにゃくパーク」があり、少し足を伸ばせば世界文化遺産に登録された富岡製糸場にも近い。そんな小さな田舎町に、ひときわ異彩を放つ不思議な場所がある。「アートランド竹林の風」「ナニコレ珍庭園」「ふれあいセンター銘酒館」「名勝楽賛園」などいくつものサイケデリックな手書き看板が掲げられ、周囲にはたくさんの廃品が並べられたその場所は、見所満載で眺めているだけでも時間を忘れてしまうほどだ。道路を挟んだ向かいの家には、「中條家」と大きな文字で書かれた同様の装飾が施されており、ここが作者の家であることは明らかだ。

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シリアルキラー、ふたたび!

昨年6月に銀座ヴァニラ画廊で開催された『シリアルキラー展』は予想以上の観客を集め、アメリカのシリアルキラーが日本でこんなに人気とは!と驚かされたが、同じヴァニラで今年も第2回目の『シリアルキラー展』が、それも今回は前後期にわけて2ヶ月におよぶ展覧会となって還ってきた。タイトルにあるように、今回展示される作品群も日本国内の収集家「HN」氏によるコレクションである。

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福田尚代『海のプロセス――言葉をめぐる地図』

本メルマガ2015年5月20日号『銀河の中に仮名の歓喜』で紹介した、現代美術作家であり驚異の回文作家でもある福田尚代さん。いま、上野の東京都美術館で開催中のグループ展『海のプロセス――言葉をめぐる地』に、4人のアーティストのひとりとして参加しています。『エンドロール』と名づけられたその作品。ずっと以前に都美術館で使われていたという木枠の古風なショーケースを覗き込んでみると、内部には幾層にも重なる、極小の点が打たれた紙が。福田さんによればそれらは、亡くなってしまった大切なひとたちの手紙やメール、日誌などに記された言葉を書き写していったものだそう。

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アウトサイダー・キュレーター日記 32 スギノイチヲ(写真・文:櫛野展正)

2017年4月の時点で、全世界の月間アクティブ利用者数が7億人を突破したInstagram。プロではない人たちもスマートフォンで自分の表現を容易に発表できる手軽さから、ますます人気を集めている。膨大な量の写真がタイムラインの海をスクロールしていく中で、「おじコス」とハッシュタグの付いた投稿に目が止まった。よく見ると、タモリや会田誠など自らの顔を著名人に扮して投稿した写真で、つげ義春や浦沢直樹など随分マニアックな人たちの顔真似もある。それからしばらくして、クシノテラスに「フォローしてくれてありがとうございます」とやって来てくれたのが、作者のスギノイチヲさんだった。商業デザイン会社で常務取締役を務めるスギノさんは、現在51歳。職場がクシノテラスの近所だったこともあって会話が弾み、後日福山市内の高台が一望できるご自宅でお話を伺うことができた。

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極限芸術~死刑囚は描く~@アツコバルー

先日はオリエント工業40周年記念展で話題を集めた渋谷アツコバルーが、ラブドールに続いて開催する展覧会が『極限芸術~死刑囚は描く~』。昨年、広島県福山市クシノテラスで開かれた展示の東京バージョンで、作品の選択はアツコバルーのスタッフによる独自のものになるそう。しかしラブドールから死刑囚の絵・・・「生と死」ならぬ「性と死」、振り切ってるなあ。死刑囚の絵について、このメルマガで最初に取り上げたのは2012年、広島のアピエルトという小さな劇場で開かれた展示の紹介だった。いま、日本には125人の死刑囚がいるのだが(2017年7月現在)、その中には数十年も獄中で「その日」が来るのを待っているひともいれば、死刑確定から数年のうちに執行されてしまうひともいる。

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DOMMIUNEスナック芸術丸「セルフィー・レボリューション」、読者限定再配信!

DOMMUNEの開局以来、もう6年半にわたって続けさせてもらってるご長寿番組『スナック芸術丸』。5月12日に生配信したばかりの「第三十七夜~セルフィー・レボリューション」を、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、早くも再配信してもらえることになりました。宇川くん、ありがとう!当夜ご覧いただいたみなさまはすでにご存じでしょうが、このところメルマガで集中的に紹介してきた、自撮りアマチュア・フォトグラファーの奥深き世界を、一挙紹介した異例のプログラム。2月10日号のホタテビキニの主・田岡まきえ(現在はマキエマキと改名・・・ホタテビキニ持参!)、4月13日号の露光零の二大巨頭がそろい踏み。さらに87歳の西本喜美子さんを紹介してくれた、福山市クシノテラスの櫛野展正さんも新発見の自撮り作品を携えて遠路参加という豪華版...

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アンドロイドとスケーター

今月から来月にかけてロードサイダーズにはおなじみの顔ぶれによる展覧会が続けて開催されるので、ここでまとめて紹介させていただく。先週土曜日(5月20日)から渋谷アツコバルーで始まったのが、『オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」』。僕は初日が開館してすぐの時間に寄ったのだけど、すでに大盛況。初日でこれだから、会期末が近づいてきたらいったいどれだけ混雑するのか・・・くれぐれも早めのご来場をオススメします。去年の『神は局部に宿る』展でもおなじみの会場には、1982年製の「面影」から2010年代のシリコン製新作までの新旧ラブドールが勢揃いして壮観。知っているひとがみればそれは「ラブドール」だけど、知らないひとにとっては異様な趣の現代彫刻展覧会に見えるかもしれない。

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『BABU展覧会 愛』、無事開幕!

先週告知した新宿ビームスギャラリーでの『BABU展覧会 愛』、先週金曜日に無事開幕、日曜日には僕とのトークもあり、おかげさまで満員の盛況でした。本メルマガ読者ならとうにおなじみでしょうが、BABUは北九州小倉をベースに活動するストリートアーティスト/スケーター/彫り師。東京ではスケーター仲間など、一部のひとにしか知られていないのではと思いましたが、展覧会場は終始たくさんのお客さんで賑わい、うれしい驚きでした。BEAMSという東京有数のお洒落スポットに、こんなキナ臭い空間ができてしまったというのが、なんたって最高ですよね。

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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