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「大阪式」に生きるということ

いまからもう10年以上前のこと、大阪の小さな写真専門学校でトークに招かれ、そこは写真館の跡継ぎ養成みたいな地味な学校だった。学生寮があるというので、「寮の中を撮影させてくれるなら」という交換条件で引き受けたトークを終えたあと、生徒たちの緊張感のないポートフォリオを見せられて、そのなかでひとりだけ、きわだってヘンテコで輝いていたのが梅佳代だった。

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うれし恥ずかし駅前彫刻

ある日、友人から届いた封書には「都築くんならこういうの好きかと思って・・」というメッセージとともに、小さな手づくり雑誌が2冊入っていた。『駅前彫刻』と『駅前彫刻2』と題されたそれは、名前のとおり駅前や公園や道端に、だれにも気にされないままひっそりたたずむ、ブロンズや石の彫刻作品を撮影した写真集だった。

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センター街のロードムービー

印画紙の上にあらわれ消える男女たち。それはいまから数年前、日本でいちばんスリリングな夜があった時代の渋谷センター街に、生きていた男の子と女の子たちだ。焦点の合った主人公と、その向こうのぼやけた街並み。鮮やかで、しかもしっとりしたカラー(それはウォン・カーウェイの撮影監督だったクリストファー・ドイルや、ベンダースやジム・ジャームッシュのロビー・ミューラーのような色彩感覚)。1枚1枚のプリントに閉じ込められた、なんとも言えない、あの時代の空気感。そしてこの素晴らしい写真を撮った鈴木信彦さんは、プロの写真家ではなく、仕事をしながら週末渋谷に通うだけのアマチュア・カメラマンなのだという・・。

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痛車賛歌――坂口トモユキのデジタル細密画

「いたしゃ」と言われて「イタ車」を連想するのか、「痛車」を連想するのか、君はどちらのタイプだろうか。痛車とは、ご存じ車体にアニメやゲームのキャラのイラストを貼りつけた、ヲタク活動の一環。以前は週末の秋葉原名物だったりしたが、最近では全国各地の街角で見かけることが少なくない。その痛車の名作群を2009年から撮影しつづけている、坂口トモユキさんの写真集『痛車Z』が12月6日に発売され、併せて中野ブロードウェイ内のギャラリーで写真展も今月末から開かれる。坂口トモユキさんは1969年生まれの写真家。東京近郊の住宅地を深夜に撮影して回った『HOME』を2008年に発表する。僕が坂口さんの名前を知ったのも、その年の木村伊兵衛賞審査会場で写真集を見たときだった。

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ブローニュの森の貴婦人たち――中田柾志の写真世界1

深い緑の森の夜、フラッシュに浮かび上がる挑発的な女。ビニールの花のごとく地面を覆う使用済みのコンドーム・・・。パリ、ブローニュの森にあらわれる娼婦たちの生態である。パリ市街の西側に広がるブローニュの森。凱旋門賞のロンシャン競馬場や、全仏オープンのロランギャロスも含むこの広大な森林公園が、昔から娼婦や男娼の巣窟としても有名だったことを知るひとも少なくないだろう。そういえばあの佐川一政が、死姦し食べ残した遺体を捨てようとしたのも、この森のなかだった。陽と陰がひとつの場所に、こんなふうに混在するのがまた、いかにもパリらしいというか。

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隣人。―― 北朝鮮への旅

去年末、北朝鮮を撮影した写真集が出版された。タイトルは『隣人。――38度線の北』。撮影したのは初沢亜利(はつざわ・あり)という日本人のカメラマンだ。北朝鮮の写真と言われただけで、思い浮かぶイメージはいろいろあると思う。でもこの本の中にはボロボロの孤児も、こちらをにらみつける兵士も、胸をそらした金ファミリーの姿もない。 そもそも隠し撮りではなく、真っ正面から撮影されたイメージは、遊園地でデートする若いカップルであったり、卓球に興じる少年であったり、ファストフード店で働く女性や、海水浴場でバーベキューを楽しんだり、波間に寄り添う中年夫婦だったりする。言ってみればごくふつうの国の、ごくふつうの日常があるだけで、でもそれが他のあらゆる国でなく、「北朝鮮」という特別な国家のなかで撮影されたというだけで、この本は特別な重みをたたえている。

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刺青の陰影 2

052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。その続編として先週に引き続き、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。1966(昭和41)年に発表された写真集『刺青』(図譜新社刊、英語解説ドナルド・リチー)に掲載された写真群と、江戸下町の粋を体現するような、刺青愛好家の聞き書きをあわせてお楽しみいただきたい。今回ご紹介するのは、浮世絵摺師の北島ひで松さん。浅草生まれの浅草育ちで、日本一の浮世絵摺師と言われた人物だ。森田一朗さんは、北島ひで松さんのことをこんなふうに紹介している――

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つくりもののまこと――『日本映画 スチル写真の美学』展によせて

「ハリスさんも死んだ、鶴さんも死んだ、今度はわたしの番なんだ・・」と絶唱するのはご存知『お吉物語』だが、先月末でシネパトスが死んで、5月末でテアトルシネマが死んで、銀座の映画館もどうなっちゃうんだろう・・・涙。そのテアトルシネマから首都高の下をくぐってすぐ、京橋のフィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター)は、銀座エリアに残された数少ない映画ファンの聖地である。過去の名作や埋もれた作品の上映はもちろん、展覧会もなかなかおもしろいフィルムセンター。先月末まで開催していた『西部劇(ウェスタン)の世界 ポスターで見る映画史 Part1』も楽しかったが、今月16日からは『映画より映画的! 日本映画 スチル写真の美学』と題された非常に珍しい、そして個人的に思い入れの深い展覧会がスタートする――。

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拳闘家と写真家――ふたりのファイターによせて

梅小路公園には去年、京都水族館がオープン。これまで京都市民には場末扱いされてきた下京区への、ひとの流れの変化を呼び起こしているが、先週土曜日にはこの京都水族館のすぐおとなりに、小さなギャラリーがひっそりオープンした。『trace』という名の、三角屋根の古い倉庫を改造したギャラリーは、写真家であり美術作家でもある山口和也が開いたもの。そのこけら落とし企画として5月12日までのほぼ1ヶ月間、山口さんが6年間にわたって撮影し続けてきたプロボクサー小松則幸の写真展を開催している。

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一夜漬けの死体――川本健司の「よっぱらい天国」

新宿でも、渋谷でも池袋でもどこでもいい。東京の夜の街を初めて歩く外国人がいきなり度肝を抜かれるもの――それは道端に倒れている人間たちだ。あっちにもこっちにも、街路樹の根本にもビルの入口にも、ぐったりとからだを横たえて動かないひとたちがいる。それは人体というより、薄暗がりのなかの小さな障害物だ。ニューヨークだってロンドンだってパリだって、バンコクだってマニラだって道に倒れている人間はいっぱいいるが、東京の場合はそれがスーツ姿のサラリーマンだったり、ミニスカートの女子だったりする。で、事情を知らない外国人は「東京はなんてタフな場所だ!」と驚いたり、「死んでるんじゃないの?」とオロオロしたりするのだが、「いや、酔っぱらってるだけだよ」と聞かされて二度びっくり。「財布やカバンを盗られないのか!」「レイプされないのか!」と、こんどは「東京って、なんて安全な場所なんだ」と感心したりする。

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笑う流れ者――アンダーグラウンド・フォトグラファー木股忠明の世界

仙台、新宿ゴールデン街、神奈川県綱島・・・同時多発的に小さな写真展が、ひっそりと開かれている。『笑う流れ者木股忠明の思いで』――ひっそりすぎて、そんな展覧会があることすら知らないひとがほとんどだろうし、木股忠明という写真家の名前も、よほど詳しいひとでないと聞いたことがないだろう。写真に詳しいひとですらなく、アンダーグラウンド・ミュージック・ワールドによほど詳しいひとでないかぎり。1970年代末期から80年代にかけて、日本の音楽業界がインディーズ・ブームというものに(ニューウェーブと呼ばれるようにもなったが)浮き立っていたころ、それとは一線を画した場所で、ずーっと小さくて暗い片隅で、ふつふつとうごめくエネルギーがあった。

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GABOMIという名の「そのまま」写真

長崎、広島、高松・・・路面電車の走っている街とは、たいてい気が合う。先々週のメルマガで紹介した、女木島の『女根』を取材に行ったときのこと。島から高松港に帰ってきて、市内をぶらぶらしてみようと、高松の路面電車「ことでん」の駅に歩いて行ったら、切符売り場の壁に異様なポスターが貼ってあった。仏生山温泉というらしい、檜造りの気持ちよさそうな大浴場に、ことでんの運転手さん、車掌さんたちが制服を着て、制帽もかぶって、白い手袋はめて、裸足で、風呂に浸かって遊んでいる。服をびしょびしょにして、湯けむりのなかで、気持ちよさそうに。

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写狂仙人の教え――福田満穂コレクション

先週木曜日には渋谷のギャラリー「アツコ・バルー」、そして日曜に山口湯田温泉からDOMMUNE「女将劇場生配信」で、偶然にも続けて山口県の知られざるアーティストの紹介をすることができた。渋谷で展示中の画家・田上允克、萩の仲村寿幸など、すでに本メルマガでインタビューを掲載したアーティストたちと並んで、特に反応が強かったのが、山口市在住のアマチュア・フォトグラファー福田満穂さん。あくまでストレートでありながら、どこかファニー、しかもビザール。見れば見るほど不思議な作風は、笑いの裏にひそむ乱調の美を感じさせてやまない。

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路上の神様 ――石倉徳弘のポートレイト・フォトグラフィ

たとえばダイアン・アーバスがフリーキーな被写体を通して、フリーキーな自分自身を撮影していたように、鬼海弘雄が浅草の人間模様のなかに自分のかけらを見つけようとしているように、優れたポートレイトは被写体を通して撮影者を浮かび上がらせずにおかない。そうでなければ、ポートレイトはただの顔かたちのサンプル集になってしまう。不思議なポートレイトのシリーズを見る機会があった。写っているのは似合わないスーツや改造制服に身を固めた少年だったり、見るからにオヤジでしかない女装家だったり、売れてなさそうなミュージシャンだったり、変な入れ墨の変な外人だったり、ホームレスだったり。

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『張り込み日記』

「事実は小説より奇なり」という、言い古された格言の英語は「Truth is stranger than fiction」だが、ときとしてそれが「事実のほうがフィクションよりストレンジ」というより、「事実のほうがフィクションよりフィクシャス=フィクションっぽい」という意味ではないかと、思いたくなってしまうことがある。とりわけ、超一級のドキュメンタリー写真を眼にしたときには。『張り込み日記』という作品集は中年と若手、ふたりの男たちが街を歩きまわる写真で、すべてのページが構成されている。このふたりは刑事なのだ。

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閉じかけた世界のなかへ

だれかがFacebookでシェアしてくれた1枚の画像があまりに美しかったので、写真集を探してAmazonには見つからなかったけれど、写真家本人のサイトで直販しているのを見つけ、すぐに注文のメールを書いてPayPalで代金を送金。そのまま出張に出かけ、数日後に帰宅したらもう、カリフォルニアから大きな包みが玄関に届いていた。『ECHOLILIA』(エコリリア)というその大判の写真集は、サンフランシスコ在住の写真家ティモシー・アーチボールドが、自閉症である息子イライジャーと向きあい、写真という手段でその閉ざされたこころとつながりあおうと試みた、果敢な挑戦と、ほとんどスピリチュアルな表現の記録である。

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ODO YAKUZA TOKYO――アントン・クスターズの歌舞伎町アンダーワールド

自費出版だというその写真集の噂を聞いたのは、2012年の初めごろだったと思う。Amazonなどの通販サイトには出まわらず、本人のウェブサイトから直接注文するしかないと知り、ベルギーの振込先にPayPalで送金、数週間後に届いたのが『ODO YAKUZA TOKYO』という大判の写真集だった。「ODO」とは「王道」のこと。そして「YAKUZA」と「TOKYO」はもちろん・・・これはベルギー人の若き写真家アントン・クスターズが新宿歌舞伎町で活動する、ある組の日常を撮影した写真集なのだ。「YAKUZA」という、とりわけ外国人にとってはもっともミステリアスな日本文化の一側面に深く寄り添いながら、あくまで客観的にその姿を捉えることに成功した、きわめて稀な作品である。

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挟む女

いつまでたっても好きになれないセレブな街・広尾の通りに面して、新しくできた小さなギャラリー。ショウアン(Gallery Show-an)というその場所は、ガラスドアを開けるとなぜか、ぎょっとするほど大きなカリントウや、おいしそうなあんず大福を並べた和菓子屋で、壁の向こうがギャラリー空間。そのギャラリーで昨年末の6日間だけ、大福を買いに来たセレブ奥様が卒倒しそうな展覧会が開かれた。『ハサマレル男達』は、文字どおり「挟まれた男たち」。肌もあらわな太ももに顔をギューッと挟まれて、ぐちゃっと変形したところをアップで撮られた、もだえ顔の写真展なのだ。

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夜をスキャンせよ

レコード棚の前、ベッドの上、仕事場のMacに向かって・・・さまざまな場所で寛ぐ、よく見ると目だけが真っ白のひとびと。いや、よく見なくてもいきなり白目に目が行ってしまうのは、「目は口ほどに物を言う」からなのだろうか。そういえば前に会った歌舞伎町のデジタル写真館のオーナーは、ホストを撮るうえで最大のポイントは「目ぢから」だと言ってたっけ。そういう職業写真作法に対する、これは皮肉たっぷりのツッコミなのか・・・などと妄想をふくらませてしまうのが、1月15日配信号の後記で紹介した沼田学の写真展『界面をなぞる2』だった(~1月22日まで@新宿眼科画廊)。

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『そこへゆけ』――ストリートスケープのねじれ

2013年10月9日配信号で紹介した渡部雄吉の『張り込み日記』は、去年紹介したうちで、もっとも反響の大きかった写真集のひとつだった。発行元となったROSHIN BOOKSは斉藤篤という写真好きの青年によって、「この本を世に出したいために」設立されたマイクロ・パブリッシャーだったが、幸いにも『張り込み日記』は噂が噂を呼んで程なく完売――悔し涙にくれたひとも多いかと思うが、この4月1日に第2版が発売されるそう! 急いで予約すべし。そのROSHIN BOOKSが満を持して2月に発表したばかりの2冊めのプロジェクトが『そこへゆけ』。『張り込み日記』の渡部雄吉は大正生まれ、1993年に亡くなっている歴史上の写真家だが、『そこへゆけ』の作者・佐久間元(さくま・げん)はまだ34歳という若手。これが初の写真集という、意表を突いた展開である。

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私をデートにつれてって――櫻井龍太と陽性のエロ

オフ会当日に櫻井くんを紹介されたとき、説明されたのが「この子、オッパイ写真家やから」。なんでも友達や恋人のオッパイをいろんな場所で撮影したシリーズが秀逸だそうで、それは見たいじゃないですか! というわけでケイタタさんは急いで写真展を企画、僕はメルマガでインタビューさせてもらった。1983年生まれ、5月29日で31歳になるという櫻井龍太は、「10代のころから女性の裸を撮りつづけてきた」という、筋金入りのヌード・フォトグラファーだった。

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移動祝祭車  ――沈昭良の『SINGERS & STAGES』

台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)の『STAGE』シリーズを最初に見たのは、2006年新宿のPLACE Mギャラリーだったと思う。1968年台南市生まれ、新聞社で働いたあとフリーの写真家となり、日本工学院で学んだ経歴もあって日本語は完璧。そして本人いわく「時代遅れのドキュメンタリー・フォトグラファー」である沈昭良は、台湾各地の庶民の暮らしに密着した写真を長いあいだ撮りつづけてきた。冠婚葬祭や催し物の場所で、荷台が開けばステージに変身する、「ステージ・トラック」を舞台として繰り広げられる移動ショー劇団。それを台湾では「台湾綜芸団(タイワニーズ・キャバレー)」と呼ぶそうだが、2010年ニコンサロンでの展覧会に続いて、2011年末に出版された彼の写真集『STAGE』については、本メルマガの2012年5月23日号(020)でも紹介している。

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カーブサイドの誘惑

「なかなかない珍しいもの」よりも、「ありすぎて見えないもの」や「ありふれてバカにされているもの」に目を向けていきたいという思いが高まったのは、いまから十数年前のことで、それはやはり珍日本紀行で日本の田舎を何年間も走り回った影響だったのかもしれないが、その思いが募って出版にこぎつけたのが『ストリート・デザイン・ファイル』という、全20巻のデザイン・ブックだった。20巻の中にはラブホテル、大阪万博、暴走族の単車、デコトラ、メキシコのプロレス仮面、中国の文革グッズなど、世界各地でバカにされていた日常のデザインが詰め込まれていたが、そのなかでもひときわ、現地のインテリに徹頭徹尾バカにされていて、個人的には大好きな一冊に仕上がったのが『The German Soul 小人の国』という、ドイツの庶民に絶大な人気を持つ焼物の小人たち――白雪姫と七人の小人の、あの森の小人――を探し歩いた写真集だった。

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モノクロームの伝説

日本海に面した鳥取県の小さな町・赤崎(現・琴浦町)。8月20日配信号の編集後記で、海に面して約2万の墓が並ぶ花見潟墓地の幻想的なお盆の風景を紹介したばかり。その赤崎を訪れた目的が、今年4月末に開館した『塩谷定好写真記念館』だった。鳥取で写真、となると自動的に植田正治の名前が出てくる。植田正治はすでに米子近くの伯耆町に立派な美術館があり、訪れたことのあるひとも多いだろう。一般にはあまり馴染みのない名前かもしれないが、塩谷定好(しおたに・ていこう)は「植田正治の先輩」として山陰の写真界では古くから知られてきた、伝説のアマチュア写真家である。

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東京のマルコビッチの穴

不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。木原悠介は1977(昭和52)年生まれ、36歳の新しい写真家だ。中野区新井薬師の、潰れた写真屋を改造した「スタジオ35分」という小さなギャラリーで、今年8月末から9月初めの9日間だけ開かれた『DUST FOCUS』が、人生初めての個展だった。

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夜のコンクリート・ジャングル

公園の遊具にこころ惹かれるオトナはけっこういる。「タコ公園」とか「クジラ公園」とか、遊具の名前で通称される公園も少なくない。平日の午後、あるいは深夜に酔って帰る道すがら、ふと目にする、ひと気のない公園にうずくまるコンクリートの巨大な物体。かすかな哀愁と不気味さを漂わせながら、ただそこにあるなにか。それをずっと撮り続けているのが木藤富士夫(きとう・ふじお)だ。木藤さんの写真を最初に見たのは、けっこう前だったと思うが、それは絶滅危惧種となりつつあるデパートなどの屋上遊園地を撮影したシリーズだった。小さな自費出版の写真集に収められたそれらは、よくある廃墟写真とはちがって、まだ営業中なのにもかかわらず、ごく近い将来の廃園を予感させるような諦観が漂っていた。単なる昭和ノスタルジーとはひと味違う、明るいディストピアのようなニュアンスが画面に滲んでいた。

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からだとからだと写真の関係

(前略)偏狭なこころの病気がこの国の一部をむしばみつつあるいっぽうで、いまアート・ワールドでは若い中国人アーティストたちの勢いが止まらない。現代美術の最前線でもそうだし、写真の世界でもそれは同じだ。以前にもちょっと触れた東京のアートブック・フェアで、刺青にボディピアスばりばりの女性がひとりで座っているブースがあった。聞けば台湾からの参加だという彼女が、ずらりと並べたアート・ジンのなかで、これはすごいですよと教えてくれたのが、『SON AND BITCH』と題された箱入りの写真集だった。中を開いてみると、日本のアートっぽい写真どころではないハードコアなポートレートが満載。そして作者の任航(Ren Hang=レン・ハン)はここ数年、世界各地のグループ展でその作品をよく目にする、注目の若手写真家なのだった。

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シンパシー・フォア・ザ・デッド——倉谷卓の写真について

先月(1月21日号)に倉谷卓写真展『Ghost’s Drive』の告知記事を掲載したのを、気づいていただけたろうか。会場となった日本橋茅場町の森岡書店は小さな展示スペースだったが、山形県内のユーモラスなお盆の風習を記録したシリーズはすごく興味深かった。『Ghost’s Drive』展とほぼ同時期に京橋の72ギャラリーでも、『カーテンを開けて』と題された別の写真展が開かれていることを知って、そちらにも足を伸ばし、本人とお話することができた(1月21日〜2月1日まで開催)。

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駅もれ考現学(写真・文:萩原幸也)

「駅もれ」という言葉をご存知だろうか。駅で漏れるから「駅もれ」。駅構内で漏水が起きているときに、急場しのぎとしてビニールやホースなどで漏水を床やバケツに誘導する、その対処法を「駅もれ」と言うのである。日本中でこの「駅もれ」という言葉が通用しているわけではない。駅構内での漏水だけに、まず駅があって、それも多くの利用者がいる駅であって、さらに地下駅のほうが漏水は多いので地下鉄や地下駅があるところ=クルマ社会の田舎ではなく都会にしか、「駅もれ」は見ることができない。しかも、それは見られるためのものではない。むしろ駅の関係者にとっては見られたくないお漏らし、それが「駅もれ」である。

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自然が超自然になるとき――遠藤湖舟写真展によせて

身近に見つけた美しい自然の表情、動植物や天体、そして作品集の帯文は平山郁夫・・・このメルマガともっとも相性が悪い(笑)写真の数々が、目の前に開かれている。今月末から日本橋高島屋で写真展を開く、遠藤湖舟の作品だ。いわゆる「美しい風景」にこころ惹かれないのはなぜだろうと、ときどき考える。写真としてだけではなく、その場に立つことを含めて。夕陽に輝く富士山を眺めても、夜のグランドキャニオンで星々に包まれても、オレゴンの森深くで緑の濃さに窒息しそうになっても、ハワイの海にぷかぷか浮きながらコバルトブルーの空を眺めても。あ〜きれいだな〜とは思うけれど、5分で飽きてしまう。カメラを向けることも、ほとんどない。

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近世店屋考、ふたたび

いまから3年ほど前、鳥取市の図書館で僕は『近世店屋考』というモノクロームの写真集に出会い、その一冊が池本喜巳(いけもと・よしみ)さんへと導いてくれた。本メルマガの2012年9月12日号で特集した『近世店屋考』は、山陰地方の片隅に隠れるように生きてきた昔ながらの商店を撮影した、派手さのかけらもない写真集だったが、予想外の反響をもらい、スタートからまだ半年ちょっとだったメルマガ制作に大きな励ましを得た。それから鳥取に行くたびに池本さんは僕にこの、日本有数に地味な、でも日本有数に暮らしやすい地方のことを教えてくれた。「店屋考はまだ撮ってるんだよ」と会うたびに言いながら、池本さんはなかなかその成果を見せてくれなかったのだったが、今月20日から銀座ニコンサロン、そのあと大阪ニコンサロンで、その『近世店屋考』の新成果が披露される。

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踊る水中花

池谷友秀という写真家がいる。「水中写真家」ではないけれど、人間のからだと水を組み合わせた、というより溶け合わせた写真をずっと撮っていて、その最新写真展がいま銀座ヴァニラ画廊で開催中だ(7月18日まで)。もちろん、その作品はバンコクのゲイお魚ショーなんかよりはるかに美しい。こんな書き出しをして申し訳なかったが、水というのは不思議な視覚効果があって、人間を地上とはまた別の生きものとして見せてくれる気がする。水中で光が屈折するように、常識にとらわれていた僕たちの見方をも、水は微妙に屈折させてくれるようなのだ。今回展示されている「BREATH」「MOON」というふたつのシリーズは、いずれも水中や水面上で撮影された、おもに裸の人体である。モデルは美少女だったり暗黒舞踏家だったり、身体障害者だったりするのだが、地上で見ればほとんどまったく異質なはずの人間たちが、水中で浮遊したり泡に包まれているうちに、深い部分でひとつに結ばれた存在であるように見えてくる。

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写真の寝場所

早稲田大学キャンパスを取り巻く牛込から西早稲田周辺には、東京都心部のエアポケット的な空気感がある。たいした再開発が進行中なわけでもなく、昔からの家並みや入り組んだ細い道が残っていて、都心部なのに交通の便がそれほどよくないことも関係しているのだろうが、やや取り残された感が漂う。それが独特の居心地良さにつながっている。路地の奥、迷路のような住宅街のなかに、2階建ての銭湯がある。松の湯、昔から早稲田の学生に愛されてきた銭湯だ。1階はいまも盛業中だが、2階はすでに営業終了、銭湯の造作を残したまま、ギャラリー・スペースとして活用されている。そこで6月の1週間、開催されていたのが大阪の写真家・赤鹿麻耶による『ぴょんぴょんプロジェクト vo.1「Did you sleep well?」』という奇妙なタイトルの、奇妙な展覧会だった。

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佐世保の夜の女と男――松尾修『誰かのアイドル』

見るだけで行った気になる写真と、見てるうちに行きたくてたまらなくなる写真がある。この6月に発表されたばかりの写真集『誰かのアイドル』をAmazon経由で手に入れて(自主制作なのでウェブか限られた書店でしか手に入らない)、僕は眼を見張るというより腰が浮く思いで、ウズウズを抑えかねた。『誰かのアイドル』は佐世保出身の写真家・松尾修が個人で進める「サセボプロジェクト」の、2冊めとなる出版物。去年(2014)11月には『坂道とクレーン』と名づけられたタブロイド式の写真集を、1冊めに発表している。

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日々、常に――オカダキサラの日常写真

東京都心部でもっとも東に位置する街のひとつ、南葛西。旧江戸川を隔てた対岸はディズニーランドのある浦安・舞浜という、トーキョー・イーストエンドである。1980年代に建設された戸数900近い巨大団地にオカダキサラは生まれ、いまも住んでいる。1988年生まれ、27歳の写真家だ。

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渋イケメンの国から

美しさに絶句する写真集もあれば、刺激的な内容に絶句する写真集もある。でも、「なぜこれが一冊の本に!」と存在自体に絶句する写真集にはなかなか出会わない。そんな驚きで、久しぶりにフラフラな気持ちにさせてくれたのが『渋イケメンの国――無駄にかっこいい男たち』だった。著者である三井昌志はもう十数年間、アジアを中心に長い旅を続けて、その道程で撮影した写真を本にまとめたり、CDーROMにして自分のサイトで販売して生計を立てている「旅の写真家」である。2010年にはバングラデシュで購入したリキシャ(三輪自転車タクシー)に乗って、日本一周6600kmを走破するプロジェクトも達成している。過去の作品には『アジアの瞳』『美少女の輝き』『スマイルプラネット』など7冊の写真集があり、その幾冊かは旅行本を専門にする書店などで見た覚えがあるが、「渋イケメン」にフォーカスした写真集はさすがに初めて。おそらく類書もゼロだろう。

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自撮りのおんな

「セルフィー」という英語すら普通に通用する時代になって、世にはさまざまな自撮り写真があふれているが、先週出会った「自撮り写真家」田岡まきえには、ひさびさに興奮させられた(いろんな意味で)。トークに来てくれた田岡さんは慎ましやかで可愛らしい奥様、という雰囲気を漂わせていたが、抱えていたポートフォリオを見せてもらうと、そこにはスケスケ・セーラー服やホタテビキニ!を着用したり、なにも着用していなかったりする田岡さんが、手にカメラのリモコンを持った「自撮り熟女グラビアモデル」になっているのだった。田岡まきえは1966年大阪生まれ。今週ちょうど50歳になったところだという。

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ストレンジ&ファミリアー――外国人が見た英国式日常

アート・ファンのみならずクラシック音楽ファンにも、演劇ファンにもおなじみのロンドン・バービカンセンター。地味な高層住宅群に囲まれた地味な建築に、初めて訪れるひとはいささか拍子抜けするかもしれないが、1982年の完成以来、現在でもヨーロッパ最大級の複合文化施設である。バービカンのアートギャラリーで先週スタートしたばかりの展覧会が『Strange and Familiar』。「Britain as Revealed by International Photographers =世界各国の写真家によってあらわにされた英国」と付けられた副題のとおり、イギリス人ではない写真家たちによって捉えられたイギリス、という興味深いテーマ設定。そのキュレーションを担当したのがストレンジ・フォトの元祖であり、「カスハガ」をはじめとする珍物収集狂でもあるマーティン・パーとなれば、さらに興味が湧くはずだ。

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「流しの写真屋」の見た新宿

竹橋の東京国立近代美術館ではいま『安田靫彦展』が開催中だが、同時に所蔵作品展として『MOMATコレクション 特集「春らんまんの日本画まつり』も開催中。これが「日本画まつり」というタイトルとはうらはらに、佐伯祐三からパウル・クレーにいたる油絵あり、高村光太郎やロダンの彫刻あり、戦争画あり、岡本太郎やピカソもあり・・・と、ぜんぜん「春らんまん」らしくないラインナップで充実。その展示の一室にあてられているのが、『渡辺克巳「流しの写真屋」の見た新宿』だ。ご承知の方もすでに多いだろう、渡辺克巳は近年、急速に再評価が進んでいる昭和のストリート・フォトグラファー。1941年に岩手県盛岡市に生まれ、高校卒業後いちどは国鉄に就職するが、20歳で上京。写真館で技術を学んだのち、1965年から新宿で「1ポーズ3枚200円」で写真を撮って翌日プリントを渡す「流しの写真屋」を始める。

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美脚の自撮り宇宙

去年9月、恒例の「東京アートブックフェア」がちょうどフランス出張と重なって、行けずに悔しがっていたら、「こんなおもしろいの見つけました」と持ってきてくれたひとがいた。『巨大娘』と『美脚星人』という2冊の写真集である。『美脚星人』から見てみると、いきなり表紙がピンヒール姿の美脚。しかも下半身だけで、上半身がない! それがコラージュかフォトショップ加工かと思いきや、上半身を絶妙の角度に曲げて、それを三脚に据えたカメラを使って自撮りしてるという!(写真集の最後にも「これらの写真は修正して上半身を消したのではありません。ポーズや角度を試行錯誤して撮りました」と、ちゃんと記されている)そして『巨大娘』のほうは、自分の足によって踏みつぶされそうな風景や「小人」を、なんと自撮り棒とスマホを使って撮影したシリーズ。そう、例の自撮り棒を頭上ではなく、地面すれすれに下げて撮影するという、こちらも意表を突いたスタイルなのだ。

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ブルジョワジーの豊かな愉しみ――写真展「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」

これまで何度も展覧会が開かれて、日本でも人気の高いジャック=アンリ・ラルティーグの写真展が埼玉県立近代美術館で開催中だ(5月22日まで)。プロフェッショナルとは「レベルの高い写真を撮るひと」、アマチュアとは「そこまでいかないひと」と思われるようになったのは、19世紀にさかのぼる写真の歴史の上で、実はここ数十年のことにすぎない。日本でも東京や関西、鳥取など各地の裕福な趣味人が「芸術写真」を戦前に育んできたように、かつてプロとは依頼されて人物や風景を撮る「写真師」であり、高価なカメラ機材を購入して「好きなものを好きなように撮る」のはアマチュアの特権だった。

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映画館からフィルムが消える日に

京橋の近代美術館フィルムセンターでは、『写真展 映画館――映写技師/写真家 中馬聰の仕事』を開催中である。この展覧会についてはきちんと紹介したいと思っていて、そろそろというタイミングで、イギリスでやはり消えゆくフィルム上映の映画館と映写技師を撮影してきたリチャード・ニコルソンの作品を知ることができた。まったくの偶然だが洋の東西で同じく、「フィルム」という映画のよろこびのオーラをまとったメディア――その終焉を見据えるふたりの写真家を今回は同時に紹介する。ひとつのテーマが、視点によってこんなふうに異なる作品に結実する、というおもしろさとあわせ、ご覧いただけたら幸いである。

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羽永光利アーカイブ展――ある写真家の時代遺産

もっと早く紹介するつもりが、会期終了直前にずれ込んでしまったけれど、いま東京目黒区祐天寺のギャラリーAOYAMA | MEGUROでは、『羽永光利アーカイブ展』を開催中だ。羽永光利、という写真家をどれだけのひとが知っているだろう。本メルマガではおなじみ、『独居老人スタイル』でもフィーチャーした仙台のダダカンの、若き日の「殺すな」とかかれた書を持って歩く姿を撮った写真家が、羽永光利である。1933年生まれということは、戦争まっただ中に少年時代を送った羽永光利は、戦後しばらくたった1956年になって文化学院に入学。卒業後はアート・フォトグラフィを目指すが、1962年からは作品制作と平行して、フリーランス・カメラマンとして前衛アーティストたちの記録を雑誌などで発表するようになる。1981年からは新潮社の写真雑誌『フォーカス』の立ち上げに参加。その後、国内外の写真展に参加したり個展を開いていたが、1999年に死去。2014年になって、AOYAMA | MEGUROTOとぎゃらり壷中天によって、あらたな紹介が始まった。つまり死後15年も経ってから、いわば「再発見」された写真家、それが羽永光利なのだ。

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Campus Star ―― 制服から透けて見えるなにか

中田柾志の写真と出会ったのは2012年ごろ。最初に見たのは、パリ・ブローニュの森の奥で客を引く娼婦たちを撮影したポートレートだった。木立の陰に潜んだ獣のように生命力に満ちた、ときに高貴にすら見えるその姿に魅了され、本人に会ってみると、ほかにもさまざまなシリーズを手がけていることが分かり、本メルマガでは2013年の1月に、3週連続で紹介させてもらった。その中にはフランクフルトの娼館街「エロスセンター」の、娼婦たちの部屋を撮ったシリーズがあったし、素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを撮影した「モデルします」、世界でいちばんセクシーな学生服といわれるタイの女子大生のぴちぴち制服シリーズなど、エロと社会性が絶妙の割合で配合された膨大な作品がたくさんあって、どうしてこれほど興味深い写真が一冊の写真集にも、写真雑誌の特集にすらなっていないのか、僕には理解できなかった。

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時速250キロの車窓から

世の中にはいろんな職業があるが、増田貴大の仕事は「毎日2回、新大阪と広島を新幹線で往復すること」。病院から検査機関に送られる血液検体を運ぶための「荷運び屋」である。いつものように荷物を持って窓際の席に座って、外の景色を見ていたら、こちらに向かって手を振る親子連れが見えた。「いい絵だなあ、これを写真に撮ったら、いい作品になるだろうなあ」と思ったのが、それまでカメラマンを目指したものの上手くいかず、30歳を過ぎてもフリーターのような生活に甘んじていた生活の転機になった。次の日からカメラを持って新幹線に乗るようになって、撮りためた車窓からの風景はこの9月に新宿コニカミノルタプラザで『車窓の人々』と題した写真展になり、ビジュアルアーツフォトアワード2016で大賞を獲得、来年1月には初写真集も発売される。

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菊地智子が歩くチャイニーズ・ワイルドサイド vol.1 重慶と夜のクイーンたち(写真:菊地智子 インタビュー:茅野裕城子)

菊地智子さんは1973年生まれ、武蔵野美術大学空間デザインかを卒業したあと、香港を経て1999年から北京に在住というから、もう17年間も北京をベースに写真を撮っていることになる。2006年からドラァグクイーンの撮影を始め、そのシリーズ『I and I』で2013年には第38回・木村伊兵衛写真賞も受賞した。年末から今月にかけて一時帰国した菊地さんにお願いして、ロードサイダーズ・ウィークリーではこれから数回にわたって、菊地智子によるドキュメンタリー・シリーズをお届けする。掲載は不定期になってしまうが、とりわけ隣国であるこの国では、予断と偏見に満ちたイメージばかりが先行する、中国という巨大な国家の「もうひとつのリアリティ」を知っていただけたらうれしい。その第一弾となる今回は、『I and I』のテーマとなった、重慶を中心とする中国全土のクイーンたちをめぐるドキュメンタリーをお見せする。聞き手は、かつて僕自身の中国珍スポット取材を手伝って、重慶にも同行してくれた小説家・茅野裕城子さんにお願いした。写真作品とインタビューが織りなす物語を、じっくりご覧いただきたい。

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食に淫する女と男

先日、早稻田大学に呼ばれて、トークのあと学食の一角に机を並べて、居残ってくれた学生たちと話していたとき、「こんなの作ってるんです」とZINEを渡してくれた子がいた。イチゴをくわえた唇が大写しになった表紙には『食に淫する』というタイトルがついていて、ページをめくるとケーキや果物を頬張って、ぐちゃぐちゃになった口中がアップになっていたりして、非常に汚く、どぎつく、美しくもある。ウェット&メッシーと言ってしまえばそれまでだけど、それだけでは片付けられない、視覚と触覚と味覚を混ぜ合わせた複雑な快楽のような、甘みと深みがとろとろと画面から流れ落ちている。

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いま、そこにある異景

ラルフ・ユージーン・ミートヤードという写真家の不思議な作品を初めて見たのはいつだったろうか。モノクロームの画面の、一見どこにでもあるようなアメリカの郊外風景でありながら、その登場人物たちがハロウィーンのような不気味な画面をつけ、しかしこちらを怖がらせようとするふうでもなく、ただそれが自分の顔であるようにたたずみ、こちらをまっすぐ見ている。怖がらせようとしていないのが、よけい怖い。ひどい悪夢から目が覚めて、まだ現実とのあいまいな境界に意識があるような、落としどころのない気持ちにさせられる。その写真家の名前がミートヤード(Meatyard=肉の庭!)だと知って、さらに不思議な気持ちになったのを覚えている。この3月から5月初めまで、サンフランシスコのフランケル・ギャラリーでミートヤードの写真展『American Mystic』が開催された。観に行くことはできなかったが、展覧会に際して発行された作品集を入手できたので、小さな紹介を試みてみたい。

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異郷のモダニズム――満州写真展に寄せて

この3月に『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』展記念トークをやらせてもらった名古屋市美術館で、いま『異郷のモダニズム―満州写真全史―』という珍しい展覧会が開催中だ(6月25日まで)。会期末近くになってしまったけれど、これだけまとまった規模のコレクションはなかなか見られないと思うので急いで紹介させていただきたい。ご存じのとおり「満州」とは20世紀初めの日露戦争終結から、第二次世界大戦で日本が敗戦するまでの期間、中国東北部に存在した国家・・・であり幻の国家でもある。

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アメリカの『ねじ式』

以前このメルマガで『ヤング・ポートフォリオ』という企画展を紹介した清里フォトアートミュージアムで、いま『Flash! Flash! Flash! エジャートン博士、O.ウィンストン・リンク、ERICの写真』という、なかなか変化球の展覧会が開催中だ(12月24日まで)。この3人の名前だけでピンと来るひとはかなりの写真通だろう。ハロルド・エジャートン博士は、ストロボの発明者として有名。撮影に25年間を費やしたという「ミルククラウン」や、リンゴを突き抜ける弾丸の写真は、いちどは見たことあるひとも多いはずだ。

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鳥取の店構え

こないだ鳥取の図書館で、鳥取市内の繁華街の写真を探していたときのこと。地元史の棚で、ペーパーバックの地味な写真集が目にとまった。『池本喜巳写真集 近世店屋考』――なにげなく手にとってパラパラしてみたら、それは鳥取県内の昔ながらの商店をモノクロームで撮影した記録だった。床屋、米屋、金物屋、時計屋、荒物屋、酒屋、駄菓子屋・・・大型カメラでじっくりきっちり、構図を固めて写し取られた空間と人物たち。1983年から2005年というから、20年間以上にわたって収集された鳥取の商店は、どれも数十年の歴史を経てきたものばかりだ。それは昭和そのものにも見えるし、いまでも地方の旧道を走っていると、カーブを曲がった先にひょっと現れそうでもある。

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海女の群像

写真って、どう撮るかよりも、撮らせてもらえるまでにどう持っていくかの勝負なのかも、と思うことがよくある。親しくなって、いい顔をしてもらうとかじゃない。カメラを持った他人がその場にいることが、だれの気にもならなくなって、気配を消せるところまで持っていけたら、それはもう撮影の大半を終えたも同然、ということがよくある。このほど10年ぶりに再刊されたという『海女の群像』という写真集を見た。撮影者の岩瀬禎之さんは1904(明治37)年生まれ。すでに2001(平成13)年に97歳で亡くなられているが、千葉・御宿の地で江戸時代から続く地酒「岩の井」蔵元として酒造りに励みながら、長く地元の海女たちを写真に収めてきた。

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可愛くて、やがて恐ろしき堕落部屋

今週あたり全国の書店に行き渡っているだろう、話題の写真集がある。先行販売している一部書店やネットでは、すでにかなり盛り上がっているその一冊は『堕落部屋』という。デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集だ。実はこの本、僕がオビを書かせてもらっている。ほかの文筆業の方々はどうなのかわからないが、僕にとって他人の本のオビを書くというのは、けっこうプレッシャーのかかる仕事で、ごく親しいひとの本以外はなるべく受けたくない。だから自分の本のオビも、かならず自分で書く。でも、この川本史織という若い写真家の作品集は、ゲラを見せてもらった時点で、なんとかキャッチーなオビを書いてあげたい、という気持ちになった。

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刺青の陰影 1

先月から今月にかけて、052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。今週と来週はその続編として、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。森田さんが刺青を撮りはじめたのは1960年代。サーカスについて回り始めるより前のことだった――。“僕はね、ひとにどんどん近づいてって、話を聞くのが好きなんですよ。それであるとき、風呂屋に行って、隣にいたひとをぱっと見たら、素晴らし彫りものをしていてね。それで思わず「これ、水滸伝じゃないですか」って聞いたんです。『張順の浪切り』っていう図柄だったんだけど、本人はそれを知らなかったのね。それで「あんた詳しいな」ってことになって、仲良くなって家に遊びに行かせてもらったりしてたんです。

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海辺にて――デレク・ジャーマンへの旅

来週月曜(11日)まで、そのタカシマヤ美術画廊で開催されているのが『高橋恭司 “ブルーブルー” ―デレク・ジャーマンの庭―』という写真展だ。亡くなったのが1994年だから、もうすぐ没後20年になるデレク・ジャーマン。「映画監督・舞台デザイナー・作家・園芸家」などとウィキには書かれているが、みなさんにとってデレク・ジャーマンとは、どんな存在だったのだろう。最初から最後まで画面が青一色だった、あまりに異色な遺作『ブルー』を思い出すひともいるだろうし、かつて日本でも彼の庭園を紹介する本の翻訳版が出たことから、おしゃれな園芸家として知っているひともいるだろう。

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梅佳代展オープン!

先週土曜日から初台の東京オペラシティ・アートギャラリーで始まった『UMEKAYO 梅佳代展』。すでにチェックしたというひともいるでしょう。これまでの彼女の展覧会の中でも最大規模の、そして現代日本のポップ・カルチャーにおける写真表現の最前線をあらわにする、絶対注目の大規模展覧会です――こんなこと言うと、生真面目なアート・フォトグラフィ信奉者に怒られそうですが。梅佳代についてはもう説明の必要がないと思うので、ここでは書きません。1981年に石川県で生まれ、2002年に大阪の日本写真映像専門学校を卒業。2006年に初写真集『うめめ』を発表して一躍注目を集め、翌年には木村伊兵衛写真賞を受賞(このときは僕が審査員でした)。それからの活躍はご存知のとおりです。

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駅という名の広場があった――新宿駅と上野駅の写真集をめぐって

1969年、僕は中学生だった。テレビでは東大安田講堂の攻防戦がニュースで流れ、海の向こうではウッドストックに数十万人の若者が集い、19歳の永山則夫が米軍基地から盗んだピストルで4人を殺し、アームストロング船長たちが月面を散歩し、映画館には『真夜中のカウボーイ』や『イージーライダー』を観る列ができて、パチンコ屋からは『夜明けのスキャット』や『ブルー・ライト・ヨコハマ』や『人形の家』が流れていた年。そして1969年は駅が「広場」であることをやめ、「通路」になってしまった年でもあった。1969年の半年間ほど、毎週土曜夜の新宿駅西口地下は、数千人に及ぶ若者たちが集まって、身動きがとれないほどだった。ギターを抱えてフォークソングを歌う者たち。ヘルメットに拡声器で反戦と大学解体を叫ぶ者たち。ジグザグデモをくりかえす者たち。そこはまさに、毎週末に出現する祝祭空間であり、緊張と怒りに満ちた磁場でもあった。

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優雅なファッションが最高の復讐である――ダニエル・タマーニとコンゴのサプール

イタリア人の写真家であるダニエル・タマーニは、もともと美術史を専攻していたが、数年前から写真の世界に身を投じ、当時住んでいたロンドンや、パリのアフリカ人コミュニティにとりわけ興味をもつようになった。2006年、もとはフランスが宗主国だったコンゴ共和国を旅した彼は、首都ブラザヴィルで、異様なまでにスタイリッシュに着飾った男たちと出会う。それはフランス語で「サプール(sapeur)」と呼ばれる、ヨーロッパ的なダンディズムを中央アフリカの地で体現した、ダニエルにとってまったく未知のグループだった。

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鳥取発・昭和行き――池本喜巳、ふたつの写真展

1944年に鳥取市で生まれた池本さんは、大阪の写真学校で学んだあと、帰郷して写真の仕事に従事するかたわら、故・植田正治のアシスタントを20年間にわたって勤めてきた。今年が生誕100年となる植田正治の、写真家としての素顔をもっともよく知る人物のひとりでもある。この10月下旬から11月初めにかけて東京で、池本喜巳さんによるふたつの小さな写真展が開催される。ひとつは自身のシリーズ『そでふれあうも』(@元赤坂Niiyama's Gallery)、もうひとつは植田正治のポートレートを集めた『素顔の植田正治』(@下目黒Gallery Cosmos)。

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はだかの領分――大崎映晋写真展

東京日本橋の裏通りに、書画用の特殊な和紙・大濱紙(おおはまし)を製造販売する小さな店『かみ屋』がある。その地下にあるギャラリー『KAMIYA ART』でひっそり開催されているのが『美しき海女――大崎映晋写真展』だ。大崎映晋(おおさき・えいしん)という名前に、どれくらいのひとがピンと来るだろうか。大崎さんは「水中写真家・水中考古学者・海女文化研究家」という肩書を持つ、日本における水中写真のパイオニア。1920(大正9)年生まれというから現在93歳という年齢で、いまも元気に活動を続けている。そして今回の写真展は、大崎さんがその生涯をかけて記録してきた海女たちの、いまではもう見ることのできない、裸の肌で海に生きてきた姿である。

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情色情――タイワニーズ・エロチカ

沈昭良に続いて、今週はもうひとつ台湾から写真の話題をお伝えしたい。台北に親しんでいる旅行者なら、華山1914文創園区という場所をご存知だろうか。「台北の秋葉原」と呼ばれる光華商圏のそばにある華山1914文創園区は、もともと1914(大正3)年、日本の台湾統治時代に建設された清酒工場「芳醸社」が、戦後台湾の専売公社として清酒、梅酒の製造を行ってきたあと、1987年に閉鎖。長らく廃墟化していたところに、アーティストや演劇人たちが注目するようになって、活動場所として活用されるようになった。

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抗体――アントワーヌ・ダガタ

最初に見た瞬間――多くのひとがそう思うだろうが――これってカメラで描いたフランシス・ベーコンじゃないか!と僕も思った。ブレというのは写真家にとっていつも魅力的な要素だが、これだけシャープにブレをエネルギーの表現につなげている写真家って、いまいるだろうか。いま渋谷で開催されている『アントワーヌ・ダガタ 抗体(Anticorps)』は、今年もっとも重要な写真展のひとつになるはずだが、それにしてはメディアの無関心さが目立つ。

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新宿砂漠

渡辺眸(わたなべ・ひとみ)という写真家をご存知だろうか。1942年東京生まれ。70年代からインド、ネパールへの度重なる旅を記録した、数冊の写真集で知られるようになったベテラン・フォトジャーナリストだが、ちょっとちがうジャンルで脚光を浴びたのが2007年に新潮社から発売された『東大全共闘1968-1969』だった。あの安田講堂がバリケード封鎖されていたとき、たまたま友達の彼が東大全共闘代表の山本義隆だったことで、着替えを届けに行く彼女についていき、そのままバリケード内に籠城。外側からの報道写真ではなくバリケードの中から、闘争の内側からの唯一の記録が、渡辺さんによって撮影されることになった。その渡辺眸さんが当時撮影した、こちらは新宿の街頭の記録『1968新宿』がこのほど発売(街から舎刊)、いま新宿ニコンサロンで展覧会を開催中だ(8日まで、このあと大阪に巡回)。

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浅草サンバカーニバル 2014 前編

いまから2年前、2012年6月13日配信号で「山谷に生きる男たち」のポートレートを見せてくれた、多田裕美子という写真家がいる。浅草生まれの浅草育ち、いまも浅草で暮らし、働き、毎晩飲んでる多田さんも、やっぱりサンバカーニバルにはほとんど興味がなかったそうだが、なんと今年オフィシャル・カメラマンを依頼されて、「どうだった?」と聞いてみたら、「それが、予想外におもしろくて!」と興奮気味。そこで今週と来週、内側から見た浅草サンバカーニバルをリポートしてもらうことにした。毎年、完全にワンパターンの報道でしか僕らが知ることのなかった浅草サンバカーニバル。露出度マックスのお姉ちゃんたちが踊りまくるだけ、という一般常識をはるかに超えて、「本場ブラジル」のコピーにとどまらない、独自の進化をいまや遂げつつあることに僕も、みなさんの多くも驚くはずだ。

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浅草サンバカーニバル 2014 後編

先週に続いてお送りする、内側から覗いた浅草サンバ物語。先週の写真で、ブラジルとはまたちがう独自の進化(深化)を遂げつつある、浅草サンバの熱量を感じ取っていただけたろうか。今週はそんな浅草サンバを生み出した立役者のひとり、いかにも浅草的な生き様を教えてくれるオトコ、モロハシさんをご紹介する。

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ポルノ映画館の片隅で——エンヴァー・ハーシュのレーパーバーン

今年6月18日配信号で、『カーブサイドの誘惑』と題した記事をお送りした。それはバンコクの路上で見つけた、壊れてパイプだけになった椅子とか、ビールケースに棒を挿しただけの「駐車禁止」サインとか、「美」や「伝統」のカケラもない、しかしある種の美しさにあふれたオブジェのコレクションだった。それを撮ったのがハンブルク在住のエンヴァー・ハーシュという写真家だ。1969年ハンブルク生まれ、イギリスのアートスクールで学んだあと、ずっとハンブルクを拠点に活動を続けている、生粋のハンブルクっ子であるエンヴァーは、学生のころからもちろんレーパーバーンに出入りしていて、「クラブとかライブハウスとか、ビール飲んだりとか・・・とにかくよく来てたよ」。

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金子山の風景

大手出版社が軒並み出展する東京国際ブックフェアが年々先細りで、自費出版・ジンが中心の東京アートブックフェアが年々拡大中という、わかりやすい変化のただ中にある日本の出版界。僕のところにも毎月いろいろな自費出版のお知らせが来て、うれしくもあり焦りもしという状態だ。今週は対照的な、でもどちらも熱い2冊の手作り写真集を紹介する。まずお見せするのは「金子山」という、いちど聞いたら忘れられないヘンな名前の写真家が発表した『喰寝』——これで「くっちゃね」と読ませる。サイズは文庫版、しかし548ページ! 厚さ5センチ近くという、僕の文庫よりヘヴィで(笑)、しかもオールカラー。初版500部で、価格3500円・・・売り切れても赤字なのでは? 完全に収支計算間違ってる気がする。

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曲芸のタブロー——芦沢武仁の辺境写真紀行 01

自主運営ギャラリーは東京では、僕の遊び場である四谷3丁目〜新宿2丁目あたりに密集しているので、よく足を運ぶけれど、このメルマガを始めるようになってから、意外な発見があるのは、むしろメーカー・ギャラリーのほうが多かったりもする。富士山、高山植物、蒸気機関車、子供、祭り・・・あいかわらずのカメラおやじネタも多いが、ときに目を見張る高純度の作品が隠れていたりもする。年配の常連客ばかりに独占させておくには惜しすぎる、貴重な出会いが待っていたりもする。今年の9月3日号では渡辺眸の写真展『1968 新宿』を紹介したが、同じ新宿ニコンサロンでこの9月末から10月中旬にかけて開かれたのが芦沢武仁(あしざわ・たけひと)による『曲芸のタブロー』だった。

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昭和の終わりの新宿で

せっかく南新宿のことを書いたので、新宿の話題をもうひとつ。去年3月19日号で、『新宿が生きていたころ——昭和40年代新宿写真展』という展覧会の紹介記事を掲載した。新宿歴史博物館で開かれたこの写真展は、新宿がたぶんいちばんエネルギッシュだった時代を、豊富な写真コレクションでたどる、地味だけれど貴重な企画だった。その新宿歴史館でいま、前回の続編となる『写真展 新宿50−60年代<昭和>の終わりの新宿風景』と題された展覧会が開催中だ(2月22日まで)。

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ダンシングベアー——芦沢武仁の辺境写真紀行 03(写真・文:芦沢武仁)

世界の辺境を旅する写真家・芦沢武仁の短期集中連載、最終回となる第3話ではトルコとブルガリアから、熊遣いのルポルタージュをお送りする。いまから30年近くも前に、イスタンブールで出会った熊遣いに魅せられた芦沢さんは、それから6回にわたって、消えゆく大道芸を追いかける旅に出るのだった・・・。

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テンダーロインをレアで

あれは鞆の津ミュージアムが開館したときだったから2012年、いまから3年前のことだ。展覧会に参加した縁でトークに招かれて、終わった後に参加してくれたひとたちとおしゃべりしていたとき、ちょっと・・・ではなくて、いかにも一癖ありそうな革ジャン姿の青年が近寄ってきて、僕に聞いた――「都築さん、サンフランシスコのリサーチって知ってますか」? リサーチ=『RE/Search』は1980年代から90年代にかけてサンフランシスコで発行されてきた、元祖オルタナティブ・マガジンで、その後のZINEをはじめとする世界のオルタナ系出版に決定的な影響を与えた、最重要雑誌である。もちろん、僕も含めて。その『RE/Search』という名前が、こんな場所で、こんな若い日本人の口から出るなんて・・・一瞬、30年前にぐいっと引き戻されたような、目眩に近い感覚に襲われた。弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)は鞆津のある福山に暮らす若い写真家。

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地べたからパリを眺めてみれば

おもしろそうな展覧会があると聞けば、どこへでも走っていきたいが、さすがにニューヨークやパリやロンドンに「じゃあ明日行ってきます」というわけにはいかなくて、悔しい思いが日々募る。先月もパリでものすごく興味深い写真展があるのを知って悶絶、本メルマガで去年オルセー美術館のサド展などを取材していただいた、パリ在住の作家・飛幡祐規(たかはたゆうき)さんにさっそくリポートをお願いした。パリ市庁舎の建物を囲む柵をギャラリー代わりに、つまり屋外で開催されたこの展覧会は、パリのホームレスたちが撮影した作品を集めた写真展なのだ。

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サラの魔法

1970年代、写真界のスターといえば、それはいまのようなアート・フォトグラファーではなく、疑いもなくファッション・フォトグラファーだった。デザイン界のスターがファッション・デザイナーであり、グラフィック界のスターがアーティストでなくイラストレーターで、メディア界のスターがファッション・マガジンであったのと同じように。そういうキラ星のようなファッション・フォトグラファーのなかで、アヴェドンやヘルムート・ニュートンのような評価を、少なくとも80年代後半以降の日本では受けることがなかったが、70年代当時にコアなファッション業界人からオシャレ少年少女まで、もっとも熱狂的な人気を誇ったのは、実はサラ・ムーンだったのではないか。

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雑種のしあわせ――佐々木まことの動物写真

『ジワジワ来る関西奇行』で毎回、「こんな関西もありか!」と驚かせてくれる吉村智樹さん。ずいぶん前からの知り合いだが、連載をお願いすることになって久しぶりに話しているうちに出てきた名前が「佐々木まこと」という動物写真家だった。佐々木さんは写真集『ぼく、となりのわんこ。』を、吉村さんが編集を担当して2005年に発表しているのだが、いまは古本を探すしかないし、早く2冊めをつくりたいけれど、「なかなか進まないんですよ~」と苦笑。最近は写真集も難しいしねと相槌を打ったら、「そうじゃなくて、粗選びして渡してくれと佐々木さんに言ってるんですが、ぜんぜん送ってこなくて」という。訳を聞いてみたら、「犬猫写真だけで100万カット以上あるので、そこから100枚とかチョイスするのが大変すぎるらしくて」と言われて絶句。1万枚に1枚か・・・(笑)。いったいどんな写真家なんだろうと、堺市のご自宅を訪ねてみた。

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湯けむりの彼岸に――『雲隠れ温泉行』と村上仁一の写真

温泉が好きで、日本はもとより外国の温泉にもずいぶん入ってきたが、日本の田舎の、どうってことない温泉場に漂う独特の「彼岸感」は、ほかの国にはなかなか見つからない。いくらおしゃれな建築にしようが高級エステや豪華料理を入れようが、そんなことで真の「非日常」を演出できはしない。非日常はすぐそこに、日常のすぐ裏側にびたっとくっついているものだから。・・・そんなことを思い浮かべながら村上仁一の『雲隠れ温泉行』を2007年に初めて見て、最初はそれが現代の、若手写真家による作品とは信じられなかった。荒れたモノクロの画面は1960年代のコンポラ写真のようでもあり、ときに戦前のアマチュア写真家の作品のようでもあり、しかしそれが弱冠30歳の写真家であるという事実。それは本人の、というよりも日本の温泉が、どんなに近代化されようが拭い落とすことのできない、時代を超越した「彼岸感」にまみれたままであることを、確信させてくれるのでもあった。

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シカの惑星

『渋イケメン』と同じく、こちらも誤解されがちなタイトルと裏腹にシャープな視点を持った写真集『しかしか』をご紹介する。「ねこ派? いぬ派? しか派! フシギでカワイイしかの魅力に迫る」なんていう女子っぽい帯文にだまされないように。タイトルどおり、シカを撮った写真集ではあるけれど、ここにあるのはかなりシュールでダークな光景だ。見方によっては『猿の惑星』ならぬ『シカの惑星』という映画のスチル写真集のようでもあるし、ここにいるシカたちは「バンビ」のイメージとはまるで別種の、人間と野生の境界線を自由に行き来する、しぶとく不可解な生物にも見えてくる。みずからを「シカ写真家」と名乗る著者の石井陽子さんは1962年生まれ。53歳でのこれが初写真集だ。

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浅草暗黒大陸

広島県福山市の若き写真家・弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)が、2000年代のサンフランシスコ・アンダーグラウンド・シーンを撮影した写真展『SAN FRANCISCO』を、2015年4月8日号で紹介した(『テンダーロインをレアで』)。その展覧会と同じ新宿のギャラリーPLACE Mで今月11日から、こんどは「浅草」をテーマにした写真展が開催される。弓場井さんは1980年広島県生まれ。2003年から2008年までサンフランシスコの元祖オルタナティブ・マガジン『RE/Search』編集部で住み込みインターンとして生活。そのとき撮影された作品が去年の展覧会だったわけだが、サンフランシスコから帰国後は東京・浅草に居を移し、ホッピー通りにある煮込み屋で働きながら、「いつもポケットにコンパクトカメラを忍ばせて、仕事までの道すがら、休憩中、そして仕事中に撮影した」のが今回の作品群。

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東京の穴ふたたび

2014年11月26日号『東京のマルコビッチの穴』で紹介した「ダクト・フォトグラファー」木原悠介のの写真展が、東京中目黒ポエティックスケープで始まっている(8月6日まで)。木原さんの写真に出会ってから、まだ2年にもならないけれど、最初からそのミステリアスな画面には強く引き込まれるなにかがあった。記事のなかで、僕は木原さんをこんなふうに紹介させてもらった――不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。

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築地魚河岸ブルース

いよいよ今年、もう待ったなしの築地魚河岸はどうなるのだろうか。本メルマガ2014年2月12日号『夜をスキャンせよ』で紹介した「白目写真」の沼田学による新作展が、1月6日から歌舞伎町の新宿眼科画廊で開催される。タイトルは『築地魚河岸ブルース』、築地に働く男たちを定点観測のように記録したシリーズだ。これまで築地をテーマにした写真は数えきれないほど発表されてきた。日本だけでなく、海外の写真家による写真集もたくさんある。先日も本橋成一による15年間の築地通いの成果をまとめた『築地魚河岸ひとの町』が日英バイリンガルで出版されたばかりだし(朝日新聞出版社)、いざ移転となればこれからもさまざまなメディアで、多くの作品が発表されていくのだろう。

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『NOZOMI』増田貴大写真集、発売!

去年11月9日号で特集した「新幹線車窓写真家」増田貴大の初作品集が、めでたく発売になった。『NOZOMI』・・・いいタイトルだなあ。『時速250キロの車窓から』と題した記事を読んでくれたかたはおわかりだろうが、増田さんは検査用の血液検体を運ぶという珍しい仕事で、新大阪と広島のあいだを毎日2往復しながら、乗車中ずっとデッキに立って、窓に貼りついて景色を撮影している。それだけでは生活が成り立たないので、「午前中、あべのハルカスで医療フロアへの案内看板持ちもやってるんです。朝9時から12時までハルカスで、そこから急いで新大阪に移動して、新幹線に乗って。家に帰れるのは夜11時ごろになっちゃうので、車窓写真しか撮れないです」。

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追悼 レン・ハン

すでにSNSなどでニュースを知ったかたもいらっしゃるだろうが、2月24日、中国の写真家・任航 (Ren Hang=レン・ハン)が亡くなった。レン・ハンは本メルマガの2014年12月10日配信号で特集した、中国写真界の若きスターだった。記事中で書いたが、その秋の東京アートブックフェアで、台湾から参加したブースでレン・ハンの写真集『SON AND BITCH』を見つけ、衝撃的な内容に驚愕。さっそく北京在住のジャーナリスト、吉井忍さんにお願いしてインタビューしてもらったのだった。それから2年と少し、レン・ハンはヨーロッパ各地で大きな展覧会を続けざまに開催。タッシェンから分厚い作品集が発売され、いまこの時もストックホルムの写真美術館フォトグラーフィカで個展が始まったばかりである。それなのに自殺してしまった彼は、まだ30歳の若さだった。

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遺された家の記憶

かつて「グラフ雑誌」というものがあった。「アサヒグラフ」「毎日グラフ」など、アメリカの「LIFE」を範とするグラフ・ジャーナリズムは20世紀の報道媒体として重要な役割を果たしてきたのだが、そうしたグラフ誌が全滅してしまった現在、とりわけ硬派なドキュメンタリー・フォトグラファーにとっては厳しい状況が続いている。ネットがあるじゃないかと言っても、個人での発信は影響力でも経済力でも全国誌とは比べものにならないし、セールスが期待できない写真集を出そうという出版社は減るばかりだ。そんな現状でときたま、時間をかけて丁寧につくられたドキュメンタリー作品に出会うと、背筋が伸びる思いがする。『遺された家』は奈良県在住の写真家・太田順一が去年12月に発表した写真集だ。大阪の朝鮮人コミュニティ、沖縄人コミュニティ、ハンセン病療養所など、入り込むことすら簡単ではないテーマばかりを選び、「歩いてなんぼ」と通い詰めて本にまとめてきた太田さんにとって、これは久しぶりの写真集になる。

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佐藤信太郎 『東京 I 天空樹 Risen in the East』

『東京 I 天空樹』には2008年12月、まだ更地だった段階から、2011年8月、すっかり完成した姿が隅田川の花火と並んで見えた夜まで、52景のスカイツリーが記録されている。そこに、ありがちな「真下から仰ぎ見るスカイツリーの威容」なんてカットは1枚もない。あるときは近くから、あるときはすごく遠くから撮影されているのは、「風景の中のスカイツリー」だ。

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石川真生『港町エレジー』

ここにあるのは『日の丸を視る目』のような明確な社会派メッセージではなく、おのれの肉体にすべてをかけて生きる男たちの圧倒的な存在感に、目を見張る女性写真家のまなざしです。撮影されたのはいまから20年以上前ということになりますが、これが50年前でも、いまでもたぶん変わらないであろう、フリチンの生き様。モノクロームの画面から匂い立つような、男臭さ。

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地霊:多田裕美子と山谷の男たち

仕事にあぶれた男たちが道ばたにうずくまる山谷の通りを、まるで山谷っぽくない、若い女の子がカメラを提げて歩いて行く。後ろに続くのは重そうなカメラバッグや三脚や、背景布を担いだ、いかにも山谷の男たち。ちょっと変わった一行は、山谷の中心である玉姫公園に到着すると、慣れた手つきで黒い背景布を広げ、カメラをセットし、植え込みの一角に板を立てる。その板にはこんな文句が書かれていた――

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大阪式とベルギー式

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで開催中の『大阪式 コノハナ/24区』。以前にこのメルマガでも紹介した、大阪出身の写真家・谷本恵さんの、4回目となる『大阪式』です(以前の記事は1月18日号参照)。今回は天王寺エリアを離れ、これまたディープな大阪湾に面した此花区に遠征。いつものように、なんとも言えないリアル・ナニワ・スタイルをキャッチしていて、見てるだけで大阪下町世界にワープさせられる気分です。添えられたテキストも、渋い人情味満点で、ホロリとなりますよ~。

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阿片とオヤジと制服たち――中田柾志の写真世界2

先週に続いてお送りする写真家・中田柾志のストレンジ・ドキュメンタリー・ワールド。今週はラオス、キューバ、タイの3ヶ所でまとめられたシリーズをご紹介しよう。アルバイトで生活費を稼ぎながら、テーマを熟考しては旅に出る生活を繰り返してきた、43歳の知られざる写真家。そのエネルギッシュな視覚の冒険をお楽しみいただきたい。 なお、本稿は先週書いたように前後編にわけてお送りするはずだったが、あまりにも紹介したい作品が多いので! 次週もまた別のシリーズをお見せする予定、お楽しみに。

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共犯者をさがして ―― 中田柾志の写真世界3

2週にわたってお送りしてきた中田柾志のビザール・ドキュメンタリー。最後になる今週は、2006年から現在まで続行中のプロジェクト「モデルします」をご紹介する。素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを、中田さんはすでに数十名撮影してきた。その写真プリントと、応募してきた彼女たちの自己評価というか、自己アピールをセットにした作品群。プロのモデルのように美形でもなければ、スタイルも並みか、並み以下。そんな女の子たちが、自分を撮影モデルとして、会ったこともない人間にみずから売り込むという、それ自体がきわめて異常なシチュエーション。

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サーカスが街にいたころ

昨年12月5日配信号の『捨てる神と拾う神――森田一朗すてかんコレクション』をご記憶だろうか。それは昭和の時代の、無名の作者たちによる優れたストリート・デザインだったが、コレクションの主である森田一朗さんは、市井の人間を長く撮りつづけてきたドキュメンタリー・フォトグラファーである。品川区にある森田さんのご自宅には、ほんの少し前に過ぎ去ってしまった時代の日本人と、その生活の記憶が、膨大なネガとプリントになって保存されている。これから数回にわたって、その貴重なストックの一端を見せていただこうと思う。まず今週、来週はサーカスのお話から。

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サーカスが街にいたころ 2

先週に続いてお送りするドキュメンタリー・フォトグラファー、森田一朗さんのサーカス・コレクション。ご自宅に眠る膨大なコレクションから、先週紹介できなかったぶんを、森田さんご自身が『藝能東西』誌に寄稿した文章とあわせてご覧いただく。春になるとサーカスが街にやってきていた時代があった。モノクロームの画面から滲み出る、興奮と哀愁と自由の空気を胸いっぱいに吸い込んでいただきたい。

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つくりもののまこと――伝説のスチルマン井本俊康さんに聞く

これまでほとんどまったく脚光を浴びることのなかったスチルマンをフィーチャーした、貴重な機会となる今回の展覧会。『Frozen Beauties 日本映画黄金時代のスティル・フォトグラフィ』(2000年、Asupect刊)に掲載した、僕のロビーカード・コレクションも展示されているが、今週は全盛期の日活で活躍したスチルマン・井本俊康(いもと・としやす)さんのお話を伺ってみよう。東京品川区の静かな住宅街に奥様とふたりで暮らす井本さんは、日活時代に石原裕次郎の作品だけで33本、吉永小百合を24本、会社を離れてフリーになり、引退するまで実に380本もの映画スチルを手がけた、伝説のカメラマンである――。

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新連載! 隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 01(ケイタタ)

日下慶太さんという若い大阪人と会えたのは、偶然見たブログがきっかけだった。ちょうど大阪出張があったので、すぐに連絡を取って通天閣下で待ち合わせ。新世界市場というシャッター商店街にある、彼と友人たちのアジトでおしゃべりしているうちに、こんな連載を始めてもらうことになった。 彼のブログには、こんな自己紹介が載っている――大阪生まれ 大阪在住。 ロシアでスパイ容疑で拘束、アフガニスタンでタリバーンと自転車を二人乗りなど、世界をフラフラとしながら広告代理店に入社。コピーライターとして 勤務する傍ら、写真家、執筆家、セルフ祭顧問として活動をしている。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 02(ケイタタ)

おっ、打ち切りにならずにすんだぜ『隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス』。これで読み切りじゃなくて正々堂々「連載」と言えるやん。第2回はつい先日が敬老の日だったということで老人特集でお送りします。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 06 寝てる人 晩秋編(ケイタタ)

今週は『寝てる人 晩秋編』。10月2日配信のvol.085にて『寝てる人 初秋篇』を書いたのだが、今回は『晩秋編』である。寝てる人の写真がたくさんありすぎて「秋1つ」では収まり切らないボリュームだったのである。正直に言おう、ネタ切れが怖いので2つに分けておきたかったという事情もないことはなかった。まあ能書きはこれぐらいにして『隙ある風景 晩秋編』。49枚寝ている人だけ。見ている間にあなたも眠ってしまうはず。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 07 サラリーマン(ケイタタ)

今回のテーマは「サラリーマン」。日常の仕事の中で、そして、通勤途中でサラリーマンを見るたびに、サラリーマンというのはどこか違う生物のように感じてきました。それは街中でホームレスの人々を見たときに自分とは違う種族の人間だと思うような感覚と近いもの。今日はその隙あるサラリーマンの姿を写真と言葉で表現していきたいと思います。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 08 2013年を振り返って(ケイタタ)

いよいよ年の瀬となりました。今年9月より始まった『隙ある風景』もみなさんのおかげで無事年を越せそうです。今回は、今年最後の記事ということで2013年を「隙」とともに振り返って行こうと思います。

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暴走の原点――『スペクター1974―1978』

ピンパブさすらいびとの比嘉健二さんは、暴走族文化を語る上で外すことのできないキーパースンでもある。『ナックルズ』をはじめとする若者系実話誌を生み出し、それ以前に僕も毎号欠かさず愛読していたレディース雑誌『ティーンズロード』の生みの親でもあった。その比嘉さんが10年以上の時間をかけて、昨年10月にようやく世に出した写真集がある。一般書店にはほとんど並んでいないので、知る人は少ないかもしれない。箱入り・上製本でずっしり重いその写真集は、『スペクター1974―1978』と名づけられている。言うまでもなく、日本暴走族文化の原点ともいうべき伝説のグループ「スペクター」を捉えた、奇跡的な写真集だ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 10 ノマド(ケイタタ)

今回のテーマは「ノマド」。そう、いま流行のノマドスタイルです。オフィスという場所に縛られずnomad=遊牧民のように自由に働く様をぜひご覧ください。

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5000人の花嫁花婿――統一教会・合同結婚式写真集

「統一教会」という言葉に、みなさんはどんなイメージを想起するだろう。原理研究会、霊感商法、マインドコントロール・・・いかがわしい新宗教の代表的存在、という受け止め方がほとんどではないか。1992年に桜田淳子が合同結婚式に参加したことから、一時はかなりマスコミを賑わわせたが、このところほとんど目にすることはなかった。おととし2012年には教祖の文鮮明が亡くなっているのだが、それもたいして報道されずに終わった気がする。そのいっぽうで最近、書店には並ばないかたちで2冊の「統一教会写真集」が、実は東京の出版社から発行されているのをご存知だろうか。ひとつは2012年9月15日に執り行われた文鮮明の葬儀の模様を収めた『慟哭』(写真:酒井透、大洋図書刊、2013年)であり、今回紹介するもう一冊がこの7月に出版されたばかりの『WORLD WIDE WEDDING』。こちらは今年2月に挙行された合同結婚式の模様を、ふたりのカメラマンが捉えたA4版上製本の豪華写真集だ。

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浴槽というモノリス

ご承知のとおり僕はよくトークをやるけれど、それはなにも人前で話すのが好きとかではなくて(ほんとに!)、トークの場でいろんなひとと知り合えるから。終わったあとに「うちのそばにもこんな場所がある、こんなひとがいる」と教えてくれたり、「こんな絵を描いてるんです、写真を撮ってるんです」と作品を見せてもらえることがたくさんあり、それはネットよりもずっと貴重な情報やアドバイスになってくれる。牧ヒデアキという写真家とも、そうやって知り合った。牧さんは1971年生まれ。三河湾に面した愛知県西尾市で、建築設計の仕事をしながら、ずっと写真を撮っている。あるトークのあとで分厚いアルバムを見せてもらったのだが、そこには路傍に打ち捨てられたポリやステンレスの浴槽ばかりが写っていた。

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陽性のエロティシズム・フォトグラフィ

11月のパリといえば、「パリ写真月間」の季節でもある。ひと月でおよそ100もの写真関連展示が開かれるというが、とりわけ毎年グランパレで開催される『パリ・フォト』(今年は11月13〜16日)の期間には、世界中から写真関係者、キュレイター、ギャラリストが集う。その週にあわせて多くの展覧会が集中するが、ルーブル地下のカルーセル・デュ・ルーブルで開かれた「フォトフィーヴァー・パリ 2014」に出展した作家のひとりが、フレデリック・フォントノワ。1963年パリに生まれ、いまもパリで制作を続ける、写真とビデオにまたがる映像作家である。少し前から作品を紹介する機会を待っていたのだが、オルセーの『サド』展と奇妙にリンクする部分もあり、今回続けて、飛幡祐規さんにインタビューをお願いして掲載することにした。

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家の記憶——芦沢武仁の辺境写真紀行 02(写真・文:芦沢武仁)

世界の辺境を旅する写真家・芦沢武仁の短期集中連載・第2話。先々週のインドの旅芸人たちのルポルタージュに続き、今週はルーマニア・マラムレシュの暮らしをご紹介する。ウクライナと国境を接するルーマニア北部のトランシルヴァニア地方マラムレシュは、世界遺産に登録された木造聖堂群で知られる、豊かな伝統に支えられた美しいエリア。時間の止まったような村々を訪ね歩くうちに、人々の暮らしに魅せられた芦沢さんは、2009年から11年まで3度にわたってマラムレシュを訪れることになった・・・。

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林忠彦の戦後

林忠彦といえば、瞬間的に頭に浮かぶのは銀座の酒場でご機嫌の太宰治だったり、汚部屋で原稿用紙に向かう坂口安吾だったりする。その林忠彦が1955年にアメリカを訪れ、大量のスナップ写真を残していたことを、今回初めて知った。7月31日に出版されたばかりの写真集『AMERICA 1955』がそれで、品川のキャノンギャラリーではそのプリントと、林忠彦の代表作のひとつである『カストリ時代』のシリーズを並置した、興味深い構成の展覧会が開催中だ。

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昭和の終わりの新宿で

新宿区三栄町、といっても地元の人間以外にはイメージが浮かばないだろう。JR.四ッ谷駅から徒歩約10分、市ヶ谷の防衛省方面に下る坂道の途中にある、静かな住宅街にあるのが新宿歴史博物館。本メルマガではすでに2014年3月19日号で『新宿・昭和40年代 ―熱き時代の新宿風景―』、2015年1月7日号で『新宿・昭和50―60年代 <昭和>の終わりの新宿風景』と、ふたつの新宿風景写真展を紹介してきた。新宿歴博では2010年から新宿の風景写真展を連続開催してきたそうだが、その総まとめとして、太平洋戦争終戦から昭和の終わりまでの変遷を写し取った、約100枚のプリントによる『戦後昭和の新宿風景 1945―1989』を開催中だ(6月12日まで)。

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トーキョー・ハロウィーン

10月30日深夜、福岡空港から地下鉄に乗って天神駅で降りようとしたら、ナース・コスチュームのゾンビがひとりで、ぽつんとホームに立っていた。きょうは31日。いまごろ渋谷の交差点は大変な賑わいになっているのだろうか。「バカやってるいまどきの若者たち」を探して、マスコミがぎらついた眼(とレンズ)で走り回ってるのだろうか。キリスト教徒でもなんでもない日本の子供(とママ)への新規市場開拓として導入されたはずのハロウィンが、こんなに異常な、日本独特の盛り上がりを見せるようになってもう数年が経つ。いったいこの事態を誰が予測しただろう。

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「ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!」追補

先週お伝えした、兵庫県立美術館でのアドルフ・ヴェルフリ展と同時に開催されている『小企画 ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!』展。「収蔵品によるテーマ展示」室のひとつで開催されている写真展だ。ヴェルフリ展は先週末で終了してしまったが(3月7日より名古屋市美術館に巡回)、ハナヤ勘兵衛ののほうは3月19日まで開催中。ここに掲載した以外にも、特に戦後期のスナップがたくさん見られるので、この機会にぜひご覧いただきたい。

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刺青村長!

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで今月28日から開催されるのが、片山恵悟さんの『刺青村長』。「刺青村長、変態村の住人たちの、歌と踊りのしつこい饗宴!」というキャッチコピーもイカレてますが、写真もすごい・・見ておわかりのとおり。片山さんは本業が雑誌編集者。それも『実話マッドマックス』『劇画マッドマックス』両誌の編集長という、なかなかスリリングな誌面の責任編集を長く続けているので、その人脈と度胸とエネルギーは大したもの。東京の、いちばんディープなアンダーグラウンド・シーンに案内してくれます。

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記憶の島

川崎の生田緑地にある岡本太郎美術館で、いま『記憶の島――岡本太郎と宮本常一が撮った日本』という展覧会が開催中です(10月8日まで)。宮本常一(みやもと・つねいち)は偉大な民俗学者であり、僕のこころの師匠でもあるというか・・『土佐源氏』のような物語を、死ぬまでにひとつでいいから書いてみたいというのが夢でもあり。宮本常一は1907(明治40)年、岡本太郎は1911(明治44)年生まれ。ふたりは同時代人でもありました。そして岡本が華々しく活躍しながら、美術業界からは常に一歩引いた目で見られてきたように、宮本もまた民俗学の本流であった柳田国男派から長らく、徹底的に冷ややかな目で見られてきた、アウトサイダー的な存在でもありました。

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連載:スナックショット 13 長野2(平田順一)

寒中お見舞い申し上げます、どうも平田です。今年もぐっと胸にくるような街角、時空を超越したような酒場を求めて歩き回りますので、よろしくお付き合い願います。今回のスナックショットは長野県北信地方、15年前冬季オリンピックの舞台となった長野県の北部です。長野県は首都圏から割と近いわりに気候・風土が関東平野と異なるので、夏は避暑、冬はスキーやスノーボードで活況を呈しており、そのどちらにも縁がない自分も足繁く訪れている。

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ガラパゴス・シティ、大阪

昔は憧れて京都に住んでみたこともあるけれど、いまは仕事に行くにも、遊びで行くにも、京都より大阪のほうが百倍好きだったりする。一見、なんの変哲もない、なんの風情もない大阪の街を歩いていて、突然に出くわす人々や風景。そこには同じ日本でありながら、明らかに東京とも、京都とも、ほかのどこともちがう、大阪っぽいとしか言いようのないノリというか、グルーヴというか、そういう異質な空気感が確実にある。だから僕にとっての大阪のイメージは、ここだけがどこか別な方向への進化を辿っているとしか思えない、ガラパゴス的な印象の場所でもある。そういう大阪の空気をすごくうまく捉えている、若い写真家が谷本恵さんだ。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 03 寝てる人 初秋編(ケイタタ)

今回は「寝てる人 初秋編」。このテーマ、実は連載のきっかけとなったものなのである。今夏に行なわれたFREEDOMMUNEに行った私は、自身のブログ「隙ある風景」で明け方に踊り疲れてあちこちで寝ている人の写真をアップしたところ(http://keitata.blogspot.jp/2013/07/blog-post_3409.html)、同じくFREEDOMMUNEに出演していた都築氏の目にとまることとなり「一度会いませんか」とTwitterにメッセージが来たのであった。「寝てる人」は都築さんのリクエストでもあった。さあ、満を持してお送りしよう。「寝てる人 初秋編」。コレクションは大量にあるので、初秋に撮ったものに限ってセレクトした。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 05 ファッション(ケイタタ)

前回は「読書の秋・食欲の秋」がテーマでしたが、おっと何かを忘れていたじゃないか、そうだ、ファッションの秋だ、ということで今回は「ファッション」をテーマにお送りしよう。

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写ルンです革命

先月紹介して好評を得た、木原悠介によるダクト内部写真。あれがすべて「写ルンです」で撮影されたことを、ご記憶だろうか。1986年に富士フィルムが発売した「写ルンです」は、誕生からもうすぐ30年。デジカメ、携帯全盛期の現在でも富士をはじめ、いくつかのメーカーから「レンズ付きフィルム」として販売されている。いまから30年後のデジカメがどうなってるかなんて、想像できるだろうか。USBもSDカードもそのころにはとうに消滅して、常に新しい媒体に移し続けないかぎり、30年前(つまり現在)の写真は見ることすらできないはずだ。レンズ付きフィルムはまた、世界でいちばんタフなカメラでもある。電池も充電も必要としない。モーターのような駆動系も電子回路も組み込まれていないから、どんな場所でもとにかくシャッターを押せば「写ルンです」。

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新宿でロックと白目の写真展!

いま新宿でふたつの楽しい写真展が開催中だ。まずひとつめは新宿ビームス6階のBギャラリーで開かれている、『MUSIC LIFE PHOTO EXHIBITION〜長谷部宏の写真で綴る洋楽ロックの肖像〜』展。『ミュージックライフ』といえばオールド・ロック・ファンは涙なしに語れない、ロック創成期から続いてきた音楽誌。1951年にスタートして、惜しくも1998年に休刊してしまったが、2011年からは『MUSIC LIFE plus』というKindle版の電子雑誌として復活。値段の200円ちょっととお手頃なので、興味あるかたはAmazonのサイトで「ミュージックライフ」と検索してみてほしい。で、今回の写真展は、そのミュージックライフ誌の専属カメラマンを長く勤めた長谷部宏さんによる、ロック史をいろどる貴重なショットを一同に展示したもの

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北京銀山

いま発売中の写真雑誌『IMA』では「ドキュメンタリーの新境地」という特集が組まれているが、その中で僕も北京在住のフランス人、トーマス・サルヴィンの作品群を紹介してる。といってもサルヴィンは写真家ではなく、リサーチャーでありコレクターでもある。彼があるとき、北京で行き当たった膨大なネガの山から発掘されたイメージの集成、それがサルヴィンの写真集『Beijing Silvermine=北京銀山』なのだ。いつもなら告知コーナーでお知らせするのだが、サルヴィンが掬い上げたイメージがとても興味深いので、ここで記事としてほんの一部分を、文章の抜粋とともに紹介したい。興味を持ってくれたら、『IMA』にはもっと多くの図版が掲載されているので、ぜひご一読を。

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写真のマジック・リアリズム――『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を見て

フライヤーを壁に貼っておいても、グーグルカレンダーに書き込んでおいても、なかなか気になる展覧会ぜんぶには行ききれない。この11月8日で終わってしまうクリスティーナ・デ・ミデルの写真展『ブッシュ・オブ・ゴースツ』も、ほんとうはもっと早い時期に紹介しておきたかったが果たせず、ぎりぎりのタイミングでのお知らせになってしまった。クリスティーナ・デ・ミデルは1975年スペイン生まれ、メキシコ在住の写真家である。彼女の作品に出会ったのは数年前になるのだが、それは『The Afronauts』と名づけられた奇妙なシリーズだった。「アフロノーツ」は「アフリカ」と「アストロノーツ」を混ぜあわせた造語。

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雑種のしあわせ、ふたたび――佐々木まことの動物写真2016

ちょうど1年前の2015年5月27日号で、大阪の動物写真家・佐々木まことの紹介記事『雑種のしあわせ』を掲載した。本メルマガで『ジワジワ来る関西奇行』を連載してくれている吉村智樹さんの編集で、2005年に発売された小さな写真集『ぼく、となりのわんこ。』を見たのがきっかけだったが、その佐々木さんが毎年参加している『大阪写真月間』と、同時期開催の『日本猫写真協会展』に、今年も選りすぐりの犬猫写真を出品するとのお知らせをいただいた。

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どこまでいくのかマキエマキ

今年2月10日号で『自撮りのおんな』として紹介した「50歳人妻セルフポートレートフォトグラファー」、マキエマキ(田岡まきえ)さんが、いま新作写真展を東京・入谷のバーで開催中だ(18日=今週土曜日まで!)。バー「Lucky Dragon えん」でマキエさんが個展を開くのは2回目。去年の展覧会タイトルは「J'ai 50ans」(私は50歳)だったけど、今年のタイトルは「Ju suis toute chaude」。マキエさん本人の和訳によれば「アタシ、もう、熱いのよ~ん♡」ということで、その急速なレベルアップぶりがタイトルからも見て取れるというもの。

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女子部屋――川本史織と女の子たち

ずっと昔、こんなふうに中国が開ける前の北京に通っていた時期があった。そのころ北京でいちばん大きな書店に行くと、一冊の本に群がる男たちを仏頂面の店員がにらんでいて、いったいなにを見てるのかと思ったら、それはデッサン用の「人体ポーズ集」だった。なぜそれが?と手に取ってみると、小汚い白黒印刷のページには、ちょっとくたびれた全裸の白人モデルがいろんなポーズを取っていて、ようするに北京の男たちはそれをエロ本(というものは存在しなかったから)に代わる貴重なネタとして凝視していたのだった。2013年1月に川本史織の『堕落部屋』という写真集を紹介したことがある。「デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集」と書かせてもらったが、その川本さんの第二弾写真集が『作画資料写真集 女子部屋』というので、もう20年以上も前の北京の思い出が甦ったのだった。

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移動キャバレーの誘惑――沈昭良写真展『STAGE』

これまでも本メルマガで何度か取り上げた台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)によるステージ・トラックの写真展『STAGE』が、いま東京虎ノ門の台湾文化センターで開催中だ(10月28日まで)。台湾式ステージ・トラックの再解釈とも言える、やなぎみわのステージ・トレーラー・プロジェクトをご存じのかたもいらっしゃると思うが、今回展示されるステージ・トラックは、2006年から2014年までに撮影されたものだという。

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食卓の虚実

シャネルにプラダ、マックイーンにラガーフェルドと、世界のハイファッション・メゾンを顧客に持つ超売れっ子でありながら、いつもちょいブラックで悪戯っぽいテイストを忘れないノーバート・ショーナーという写真家がいる。本メルマガでは2012年7月18日号で作品集『Third Life』を取り上げ、そのときは代官山蔦屋書店で一緒にトークもした。古い友人である、そのノーバートが久しぶりに東京でいま写真展を開催中(5月21日まで)。『NEARLY ETERNAL』と題された今回の展覧会は、なんと食品サンプルがテーマ。たしかに「ニアリー・エターナル=ほとんど永久」・・・。

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サードライフにようこそ

古くからの友人でノーバート・ショルナーという写真家/映像作家がいます。ドイツ出身、1989年にロンドンにやってきて、当時最先端だった『FACE』や『i-D』誌で、いきなり活躍しはじめました。僕が知り合ったのもそのちょっと後ぐらいですが、ヴォーグをはじめとする世界中のハイファッション誌で、シャネルにプラダ、マックイーンまでトップデザイナーのファッションを撮影するような超売れっ子でありながら、いつも画面にはちょいブラックで悪戯っぽいテイストが見え隠れしていて、すごく好きなフォトグラファーでした。

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浅草スモーキン・ブギ

先月末から2回にわたって「浅草サンバカーニバル」をリポートしてくれた、浅草のオフィシャル・フォトグラファー多田裕美子さん。本場リオとはまたちがう、ガラパゴス的進化を遂げつつあるカーニバルの実態に、びっくりしたひとも多いのでは。その多田さんが、「タバコを吸うひと」をテーマに撮りためた写真展を、やっぱり浅草で開くことになった。僕の住んでいる東京千代田区では、もう路上でタバコを吸っただけで罰せられるようになったくらい、いまや喫煙者は社会の害悪あつかいだ。そう考えるとタバコを吸うひとたちもまた、いつか消えゆくマイノリティなのかもしれない。タバコの煙のように・・・。

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リリックとしてのポートレート——石川竜一写真展のために

絵や写真を見てくれ、と訪ねてきてくれるひとはずいぶんいる。いい、悪いなんて決められないし、大したアドバイスもできない。「がんばって続けてください」ぐらいしか言えることはないけれど、ただひとつ確かなのは「ものすごくたくさん持ってくるひとに、おもしろくないのはない」という経験則だ。ある日、沖縄から来たという青年が戸口に立っていた。すらっとした長身、端正な顔立ち。赤い革ジャンにシベリアに行くみたいな帽子を被って、露出計付きのいかついハッセルブラッドを首から下げて、ものすごく大きなリュックを背負っている。招き入れると席につくまもなく、テーブルにどさどさと分厚いポートフォリオを積み上げて、「見てください」とつぶやき、あとは黙ってこっちをじっと見ていた。

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GABOMIの光

高松の路面電車「ことでん」や、香川のロードサイドをめぐる『高松アンダーグラウンド』の連載で、本メルマガでもおなじみの写真家GABOMI。ここ数年はドキュメンタリー・スナップと平行して、実験的な作品制作にも意欲的だった彼女が、きょう(3月2日)から銀座・資生堂ギャラリーで個展を開く。「shiseido art egg」と名づけられた、新進アーティストをピックアップする公募連続企画の一環として開催される今回の展覧会。

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渋イケメン集合!

2015年12月23日号で取り上げた写真家・三井昌志の展覧会『渋イケメンの国』が今週13日から1週間、銀座キャノンギャラリーで開催される。1年前に発表された写真集『渋イケメンの国――無駄にかっこいい男たち』の、まずタイトルにやられ、写されたまさしく「無駄にかっこいい男たち」の存在感にやられたひとは、僕以外にもたくさんいるだろう。記事の中で三井さんをこんなふうに紹介した――

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『羽永光利一〇〇〇』刊行記念展

去年8月17日号で紹介した写真家・羽永光利の作品集『羽永光利一〇〇〇』がついに完成、そのお披露目を兼ねた展覧会が恵比寿ナディッフで開催される。戦中世代である羽永は文化学院卒業後、アート・フォトグラフィーを目指しつつ、フリーランス・カメラマンとして前衛アーティストたちの記録を雑誌などで発表するようになる。1981年からは新潮社の写真雑誌『フォーカス』の立ち上げに参加。その後、国内外の写真展に参加したり個展を開いていたが、1999年に死去。2014年になって、AOYAMA | MEGUROTOとぎゃらり壷中天によって、あらたな紹介が始まった。つまり死後15年も経ってから「再発見」された写真家だ。

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ロック・スターズ・イン・ジャパン!

『ミュージックライフ』といえばオールド・ロック・ファンは涙なしに語れない、ロック創成期から続いてきた音楽誌。1951年にスタートして1998年の休刊にいたるまで、一時は日本最大の洋楽専門誌だった。そのミュージックライフ誌の専属カメラマンを長く勤めた長谷部宏さんによる、ロック史をいろどるアーティストたちの貴重な「来日ショット」ばかりを一同に展示した楽しい写真展、『ROCK STARS WILL ALWAYS LOVE JAPAN ~日本を愛したロックスター~』が開催中だ。本メルマガでは2015年1月14日号で新宿ビームスBギャラリーでの展覧会を紹介していて(偶然にも、そのとき一緒に取り上げたのが沼田学写真展『界面をなぞる』だった)、ちょうど2年ぶりの告知となる。

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サンフランシスコの裏側で

2015年4月8日号で弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)という写真家を紹介した(『テンダーロインをレアで』)。サンフランシスコのアンダーグラウンドの最底辺まで、広島県福山市出身の若者が降りていったことがまず驚きだったし、そのハードエッジな画面にみなぎる「ITバブル」以前のサンフランシスコの空気感が、懐かしくもうれしくもあった。その弓場井宜嗣が2年ぶりに新宿の写真ギャラリー「PLACE M」で、『SAN FRANCISCO #2』と題した個展を開催、同時に写真集もリリースする。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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