ニュー・シャッター・パラダイス 34 スルスル~看板 (写真・文:オカダキサラ)
都心部の街並みは広告で構成されているようなもので、カメラのシャッターを適当に切っても必ずどこかに看板が映り込んでいます。 一つ一つのキャッチコピーは秀逸なのに、多くの人は一顧だにしません。 宣伝効…
photography 走り続ける眼 |
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どうしたら写真家になれるんですか、とよく聞かれる。そんなのこっちが知りたいけれど、写真ギャラリーでのグループ展→個展→アート系出版社から写真集発売、というよくある流れの外側で、ちょっと前まで考えもつかなかったやりかたで活動する写真家が現れてきた。今週・来週と2回にわたって、最近出会ったユニークなスタイルの写真家をふたり紹介したい。 |
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種田山頭火を放浪の俳人と呼び、山下清を放浪の画家と呼べるならば、天野裕氏(あまの・ゆうじ)は放浪の写真家である。 |
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声をかけてくれるひとがいて、僕が天野さんの「ひとり展覧会」に行ったのは新宿の喫茶店。僕の前にも何人か「客」がいたのだろう、うずたかく吸い殻が積み上がった灰皿と分厚いプリントの束が置かれたテーブルで、天野さんは何杯目かのコーヒーを飲んでいた。 |
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寒そうな海、フロントグラスに滲むテールライト、パンツを下ろした女の子、ぼやけた花、散らかった部屋、からまる舌、闇、光・・・それは旅情などという甘い語感ではとうていあらわせない、圧倒的にリアルな旅の時間の集積であり、乾いた日常であり、いつまでも終わらない旅であり、でもたしかにそこには「情」の気配もあるのだった。 |
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天野裕氏は1978年生まれ、39歳の写真家である。生まれも育ちも大牟田で、写真をやるまでは「女の子に食わせてもらってたんです」という。 |
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18歳でブラジルに単身サッカー留学して、3部リーグに入りました。まあ家と食事と、あとはお小遣い程度をもらうくらい。でも半年くらいして、試合中に膝を大怪我しちゃった。骨にヒビが入って、膝の皿が割れて、靱帯も切れて・・・。それで帰国して、けっこう大手術になって、普通に歩けるまで2年くらいかかりました。 |
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うちは母親がずっと飲み屋をやって生計を立ててたんですが、もうサッカーはできないので、店を手伝いつつ、店の女の子の家でヒモ生活をするようになった。だから仕事は店と、家事手伝い(笑)。あとスケートボードもやってましたが、大牟田では2、3人しかスケーターがいなかったし。20歳のころから、10年ぐらいそんな生活をしてましたね。 |
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大牟田の夜に溶け入るような10年間のあと、天野さんに転機が訪れたのはちょうど30歳になるころだった。 |
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30になったあたりで、女と別れて、食えなくなっちゃったんです。で、どうしようかというときに、それまでやってきたサッカーや格闘技と対極にあるものをやってみようと、選んだのが写真でした。カメラさえあれば始められるし、シャッターを押せば写るっていうスピード感がよかった。 |
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大牟田って福岡までちょっと距離あるし、写真の仕事は東京にしかないだろうと、最初から思ってた。でもこういうやり方なら、まだだれもやってないだろうし、自分で稼げるから、これが俺の写真展なんだって言い張って。この町ではこういうふうにしかできないし、まず地元で試したかったのもあるし。 |
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写真を始めてすぐ、大牟田で「俺の写真展」を開きながら、平間至が主宰する塩竃フォトフェスティバルに応募、2008年にいきなり特別賞、2009年には大賞を獲得する。キャリアとしては順調なスタートのようだが、それから3年後の2012年に突然、天野さんは旅の生活を始めることになった。 |
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そのころは神戸に住んでたんです。やっぱり夜の商売してる女の子のところに1年くらい。それでね、街を歩いてると、かわいい女の子とか出会うじゃないですか。でも彼女が隣にいると撮影もできない。とうとう彼女に土下座して、「どうしても写真やりたいから別れてくれ」ってお願いしたんです。それで軽自動車だけもらって、車中泊で旅するようになりました。鹿児島から仙台までをひたすら往復・・・最初の2年くらいはいちども大牟田に帰らなかった。ずっと下道を走って、その日の気分と疲労度で「きょうはこれくらいでいいかな」と思ったら、その町に泊まる。食事はコンビニかファミレス。寝るときだけ高速に乗って、サービスエリアで。 |
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ちょうどそのあたりはツイッターが盛んになってたので、いまこの町にいますってツイートするようになりました。いまだにフォロワーは100に届かないくらいだけど、たくさんのひとがリツイートしてくれるので、いまもメインの発信はツイッター。で、とにかく毎日が出会いですから。写真好きのひとだけじゃなくて、いろんなひとが見に来てくれたり、「うちの町に来て」と連絡くれたりします。見せる場所もファミレスに喫茶店、スナック、公園、車の中・・・もうどこでも。こないだは50代くらいの、飲み屋をやってるおばさんが連絡くれて、そこに見せに行ったし。 |
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(見せる)料金は一冊千円です。それにプリントを欲しいといってくれるひともいて、その売り上げでやってかなきゃならないんだけど、ほんとにギリギリではありますね。あと、ZINEを販売することもあって、一部しかないのに「あります」とか言って、急いで作って売ったりもする。 |
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そうやって旅を続けながら写真を撮り溜め、一冊が300枚ほどという分厚い写真集がもう5冊完成。「だいたい2年に一冊のペース」で、いまは6冊目の途中だそう。できあがった写真集には『LUZES』(ポルトガル語で「光たち」)、『ARGA』(「あーが」――方言で「こんちくしょう」)、『KORM』(荒夢)など、ストリート・テイストな題名がつけられ、分厚いプリントが女物のストッキングで束ねられている――「これがいちばん傷まなくていいんです」。 |
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旅生活を始める直前の2011年、天野さんは当時茅場町にあった森岡書店で珍しく展覧会を開いているが、そのときも会場に2冊の写真集を持ち込み、テーブルと椅子を置いて、座って見てもらうスタイルだった。また、この5月からは有料の写真配信サイト・月刊デジタルファクトリーで『鋭漂の夜』と名づけられたシリーズを掲載開始、すでに4冊が配信されている。ただ、モニター上で1枚ずつ見るのと、目の前にドンと置かれるプリントの束では熱量にそうとう差があるので、ウェブ写真集で興味を持ったら、ぜひツイッター・アカウントをフォローするなどして、1対1のリアルな観賞体験を目指してほしい。 |
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とにかくその活動スタイルの特異さに話題が集中しがちだが、天野裕氏の本質がその写真の中にしかないのは言うまでもない。 |
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それは優劣ではもちろんない。ふたりの写真家がカメラを眼として、差し伸べる手の延長として世界と関わり合う――日々新たなよろこびや悲しみや怒りや欲情に翻弄されながら――そのありようのちがいだ。異なる言葉でつづられた、世界の片隅に希望を探す旅の記録だ。 |
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今年4月号の文芸誌『新潮』に、『あの日言わなかったさよならのかわりに』と題された天野さんのエッセイが載っている。脈打つビートが背後に聞こえる良質のラップ・リリックのような文章の最後は、こんなふうに結ばれていた―― |
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あたらしい街には必ず可愛い女の娘がいてあたらしい風景がある |
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だからこそ、車の距離計の数字がカチリと回るごとに増え続ける天野裕氏の写真は、カメラでつづられた『オン・ザ・ロード』なのだ。 |
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天野裕氏ツイッター・アカウント:@mariachocolat |
都心部の街並みは広告で構成されているようなもので、カメラのシャッターを適当に切っても必ずどこかに看板が映り込んでいます。 一つ一つのキャッチコピーは秀逸なのに、多くの人は一顧だにしません。 宣伝効…
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ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。
本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。
旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。
1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。
これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい
電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!
かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

――ラブホの夢は夜ひらく
新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

――秘宝よ永遠に
1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!