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バックナンバー:2018年05月02日 配信号 収録

book 人生はキャバレーだった――『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』刊行に寄せて


グランドキャバレー ミス大阪

今年1月に銀座の『白いばら』が閉店してからというもの、ちょっとしたキャバレー再評価ブームが起きているようで、ロードサイダーズにもPDF版電子書籍『キャバレー・ベラミの踊り子たち』の写真貸出依頼がけっこう来たりする。書店に行けば往年の有名キャバレーのオーナーや支配人、名物ホステスさんの回想録などが数冊見つかるが、それではキャバレーという空間そのものを記録した書籍がどれくらいあるかというと、ほとんどない。だって、キャバレーそのものがもう、ほとんどないから。なくなってから惜しまれる秘宝館や見世物小屋やオールド・スタイルのラブホテルと同じように、キャバレーもなくなってから惜しまれつつある昭和のポピュラー・カルチャーの仲間入りを果たしたのだろう。「ライフ・イズ・ア・キャバレー」と歌ったのはライザ・ミネリだったが、キャバレーのことも過去形で語らなくてはならない時代がもうそこまで来ている、そういうタイミングでこの3月に『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』という写真集が出版されたのには驚いた。


『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』(グラフィック社刊)

各地に残るキャバレー、ダンスホールなど昭和の歓楽遺産をまとめた写真集。
美しい調度品やインテリアからは古き良き「非日常」を愛でられる。
戦後から最盛期を経て、現在まで生き残ってきた各店のナイトスポットストーリーは必読。
(Amazon内容紹介より)

2017年8月の閉店直前に取材できた蒲田『レディタウン』に捧げられた序章に始まって、東京赤羽と北千住の『ハリウッド』から熊本八代の『白馬』まで、現在も営業を続けるキャバレー10軒。日比谷の『東宝ダンスホール』と鶯谷『新世紀』のダンスホール2軒。イベント会場として生き残っている鶯谷『東京キネマ倶楽部』や大阪『ユニバース』など4軒。さらにはキャバレーのマッチ・コレクションやソファ、壁、照明などディテールに関するコラムも交えて、本書はいま日本に残るキャバレーのもっとも詳細なビジュアル資料コレクションといえる。いったい、どんなキャバレー・マニアがこんな本をつくったのかと思ったら、編集した西村依莉(にしむら・えり)さんはキャバレー全盛期にはむろん生まれていない、この本で取材するまでキャバレーで遊んだこともない、お酒すらあまり飲めないという若い女性編集者なのだった。
















キャバレー白馬(熊本八代)






ダンスホール新世紀(東京鶯谷)

西村さんは出版社勤務を経て2012年にフリーの編集者・ライターとして独立するとともに、東京から福岡に移住。福岡で知る人ぞ知るリトルプレス『福岡ついで観光』『中洲ついで観光』などを刊行してきた。2015年に東京に戻ってからは、これまで70年代の床材を集めた『足の下のステキな床』や、「東京ビルさんぽ」の一員として『いいビルの世界 東京ハンサム・イースト』の2冊を発表。レトロでかわいい、という視点で昭和の都市文化が残してきたデザイン・エレメントをすくい上げる、『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』は3冊目の作品集になる。


私は出身が土佐清水という、すごくひなびた漁村だったんです。商店街も寂れてて、地元民にはそれが日常の風景だったけど、都会の人間にはそれが珍しかったりおもしろかったり、かわいらしく見えるものだと、外に出てから再発見するようになったんですね。

自分では体験してない昭和の世界をかわいいとかおもしろいとか思うのは、なんでかというと・・・1990年代に私は10代を過ごしてたわけですが、そのころ雑誌をいちばん読んでた時期で、それが60年代とか70年代のリバイバル期だったんです。だから雑誌というフィルターを通した60、70年代文化に憧れたこともあります。憧れすぎて文化服装学院で服装史を学ぶことになって、そのころ歌舞伎町の風林会館にあった元キャバレーの『ニュージャパン』にイベントで行ったりして、キャバレー空間というものを知るようになったんです。

女だし、お酒もそんなに飲めないので、キャバレーに遊びに行くということはもちろんなくて、クラブイベントだとか、映画や漫画でキャバレー文化というものを知ったわけです。あとは支配人とかホステスさんが書いた本を読んで、こんな場所やドラマがあったんだ・・・と想像するくらいで。

いちど福岡に移住して、2015年に東京に帰ってきて、自分が好きな古い建物や店があまりになくなっているに愕然としたのが、床や古いビルの本をつくるきっかけでした。キャバレーもまさに絶滅危惧種ですよね。それで2017年の7月から取材を始めて、5ヶ月間で16軒を回ることができました。ちょうど銀座の『白いばら』閉店の発表があったときで、もう取材を受け付けてもらえなかったのがすごく悔しかったけど、巻頭に載せた蒲田の『レディタウン』も撮影してすぐに閉店しちゃったし、ほんとにギリギリのタイミングで本が成立した気がします。取材を通してずいぶんたくさん、キャバレー業界のひとにお会いしてきましたが、この本には八代の白馬のママさんと、広島の桃太郎グループの会長さんと、90歳代のひとがふたりも入ってますから。












赤羽ハリウッド






北千住ハリウッド

夜空にきらめくネオンサイン、大シャンデリアに照らされたダンスフロア、臙脂のベルベットに白いレースがかぶさったソファ席、壁の装飾、階段の手すりの造作・・・全景から細部まで、ほとんど建築資料集のように端正に、丁寧に撮影された写真の集積(撮影:奥川純一)。しかしそこにはキャバレーの夜の主役たる酔客も、ホステスもダンサーもバンドマンも登場しない。キャバレーと同じくらい、キャバレー空間に展開する人間模様に惹かれる僕は、取材でもなるべく人物を入れ込んで撮影してきたので、それが興味深くて、4月3日のDOMMMUE『スナック芸術丸』にお呼びしたときも、西村さんに尋ねてみた。

人物を入れなかったのは、ひとが入るとやっぱり、そっちに目が行っちゃいますから。今回はキャバレーの建物やディテール、あの空気感を主役にしたかったんです。空間としての華やかさとか、賑やかさ。ディテールのデラックス感、ムード・・・私と同じくカメラマンにとってもキャバレー遊びは未知の世界だったので、ふたりとも同じテンションで楽しめた高揚感。そういう感覚を表現したかったんです。

水割りの香りも、安香水も匂わず、ありふれた口説き文句や営業トークや、生バンドのダンスミュージックも聞こえないこの本は、そのとおりキャバレーの空間そのものが主役であって、それはそれでとてつもなく貴重な、ビジュアルによる時代の証言であるにちがいない。






グランドガーデン天守閣(大阪京橋)

キャバレーのことを書いたり話すようになって、「女の子だけでも遊びに行っていいんでしょうか?」と、よく聞かれるようになった。今回の取材でキャバレー遊びを知ることになった西村さんに感想を聞いてみると――

まず、予想以上に気前がいい場所だと思いました(笑)。セット料金で、お酒もいっぱい飲めるし。女の子たちもざっくばらんで、いろんな話ですごく盛り上がって、楽しかった。キャバレーはお客さんの高年齢化が経営難につながってる面がありますけど、もしかしたら女の子こそ楽しめる場所なのかもと思って。

確かに。キャバレーは気になるけど行くチャンスがない女の子たちのために、ガールズ・ナイトとかやったらいいかも! まあその前に男たちが、奥さんやガールフレンドと一緒に、キャバレーに遊びに行くようになればいいんですけどね。
















グランドキャバレー ミス大阪(大阪千日前)








ミス・パール(大阪千日前)

このあと、取材を通して西村さんが体験した「こぼれ話」をお読みいただくが、いまやキャバレー事情通となった西村さんが気にしているのが、札幌のキリンビール園(本館・中島公園店)。ここは1974年にオープンした「東北以北最大のキャバレー」と言われた『ミカド』だった建物を、86年の閉店後そのまま引き継いで誕生したビール園である。巨大な吹き抜け空間はキャバレー時代そのままの雰囲気だったが、今年9月末で閉店が決定。インバウンド狙いのホテルか複合商業施設になってしまう前に、こちらもぜひ足を運んでいただきたい。


『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』こぼれ話

文:西村依莉

作っている書籍の発売日が半年以上先だと、なんとなくのんびり構えてしまう。3月に発売した『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』は私にとって、制作期間がとても長い本だった。素晴らしい空間を自分が見てみたい、という興味からスタートしたため、本の焦点は基本的に建物や空間について。ただやはり、それに付随する人もすごく魅力的で、本には書ききれなかった、取材時のこぼれ話のようなものをつらつらと、書かせてもらいます。

動き始めたのは2017年の7月。餃子を食べたくて、蒲田へ行った時のこと。滅多に行かない土地で待ち合わせをする時は、できるだけ早めに行って散策するのが楽しみで、そうだ、せっかくだから『レディタウン』の前を通ってみよう、とJR蒲田駅西口すぐのビルの入り口へと向かった。


大きく掲げられているネオン看板の写真を撮っていると、そこにいたフィッシングベストを着たおじさんが声をかけてきた。下のパチンコ屋の客だと思っていたので(すみません)油断していた私は、「勝手に写真撮ったらダメ!」と怒られるのかとドキドキしていると、

「もう来月で閉店しちゃうんだよ。店の中、見たい? 営業前だから中の見学させてあげるよ」

と呑気そうに言った。

取材させてもらう気満々だった私としては「本が出る頃には、どころか来月閉店!? まさかこんなタイミングで! うそうそ、やだやだ、でも思いがけずロケハンができる! 嬉しい、でもいや」と焦りと喜びと悲しさと好奇心をない交ぜに、運よく見学させてもらえることになった。




空間としてのキャバレーは、10年以上前に『ニュージャパン』『クラブハイツ』『東京キネマ倶楽部』をイベントがあった時に、遊びに行って体験していたものの、改めてじっくりと見るキャバレーの印象は、月並みな言葉だけれど、非日常の異空間。舞台セットやスタジオではない、リアルに稼働している作り込まれた空間が、こんな古い雑居ビルの中にあるなんて! そのギャプや、2フロアに渡る広い客席と3つのシャンデリアのある、こってりとした空間に酔いそうになった。そして視点を一歩ずらすとそこここに見える、ゆるさ。かつては格調高く見えていたかもしれない、妙に殺伐としたクロークや雑多にものが置かれたステージは、経年から来る哀愁が漂っていた。まだ全然使えるのに! と思わせる客席とは裏腹に、非常階段や厨房はなかなか味のある感じ。






無くなってしまう直前の姿をなんとしてでも本に収めたい! その思いをおじさんに伝えると、

「夕方くらいなら社長いるからさ、事務所に電話してみてよ! とりあえず俺からも忘れなかったら言っとくよ」

と相変わらず呑気そうに言われた。自分が持つ夜の店のイメージを払拭するカジュアルな対応で拍子抜けしたが、いったいどんな強面に対応されるのだろう、と少し及び腰だった部分もあったので、背中を押してもらえた気分。せっかくだし、取材前に一度客としてキャバレー体験もしよう! と思い、取材に前後して何度か足を運んだけれど、閉店前にお別れに来る常連客と、駆け込み客による大盛況で、全く入れず。その度に餃子を食べに行ったため、蒲田の餃子屋に少しだけ詳しくなれた。

レディタウンの取材が8月2日に決まり、勢いで7月中に取材をお願いしたのが『ダンスホール新世紀』と『東京キネマ倶楽部』。同じ建物内にあり、同じ会社が運営しているので、同じ日に撮影となった。営業前の『ダンスホール新世紀』、その後『東京キネマ倶楽部』を各1時間ずつ。

基本的にはキャバレーの空間の本なので、建物そのものや内装について聞くつもりだったけれど、誰も何もよくわからない、と言う。とりあえず一番勤続年数が長い人、というOさんが、

「建物のことって言ったって全然難しいことはわかんないよ。アタシの名前、出さないでね、誰が読んでるやらわかんない!」

と言いながらも応じてくれた。勤続年数が長い割に、ここで働いていることをあまり知られたくないらしい。いろいろと話を聞いてみるものの、Oさんの話はとてもあやふや。なんとなく聞きたいことは聞けたけど、Oさんも私も果たしてこんな感じの話でいいのかな、といった顔で会話をしていた。それもそのはず、よくよく聞けばOさんは『ダンスホール新世紀』で働き始めたのは「ほんの20年くらい前」(ほんの……?)で、その前は『東京キネマ倶楽部』の前身だったキャバレー『ワールド』で長く働いていたという。肝心の『東京キネマ倶楽部』は、キャバレー時代のことはよくわからないという方が対応してくれていたため、取材前からキャバレー時代の話は諦めていたので、思いがけず『ワールド』時代の話をOさんに聞けたのはラッキーだった。

他の従業員は「まさかそんなわけない」と言ってたけれど、後で聞けばOさんは『ワールド』でホステスをしていたそう。謙遜なのかはわからないけど「別に売れっ子なんかじゃなかったわよ!」とかつての日々を自慢もせず、照れて笑うあたり、むしろ結構人気だったのでは、という気がした。


撮影終了後、『ダンスホール新世紀』の店長が親切にも屋上へ案内してくれた。間近で見る塔屋看板や見晴らしの良さに大興奮だったが、それ以上に興奮したのが、屋上へ出るドアの前に、置かれていた店のソファ。

「同じものは今手に入らないし、汚れや破損はできるだけ修復して使うようにしているけれど、大量の血がついちゃって使えないからこの3脚は廃棄ですね」

という説明に、めくるめく痴情のもつれ的ドラマを妄想せずにはいられなかった。実際は、単に酔っ払いが転んでたくさん血が出た、ということだったけれど……。


その後事務所で、毎月発行しているゲストやバンドのスケジュールを記載した『新世紀ミュージックガイド』の1960年代からのバックナンバーを見せてもらった。

「最初にファイルに保存し始めた人が、すごく几帳面に整理して日付入りで残していたんです。今はもう何のために、と思いながらも一応引き継いで残しているんです」

などと素っ気ないことを言う。

ここに限らず取材させてもらった店の従業員は皆、店に対してドライな感じだけど、私たちが異常なほど興奮して「ここがいい、そこがいい、あそこもいい」と喜びまくる様子に、少し呆れつつもちょっと嬉しそう。誇りを持って働いているんだな、と感じて私達も嬉しくなる、という喜びがループすることの多い取材だった。『足の下のステキな床』『いいビルの世界 ハンサムイースト』を作った時にも、話を聞くと「古いだけだよ」と言いつつ、思い入れたっぷりのエピソードを聞かせてもらえることが多かったが、この本の取材でもまた、そういうツンデレな惚気を聞かせてもらえることが多かった。

ツンデレではなく、誇り高く語ってくれたのは『クリフサイド』。責任者の方は、連絡を取れるチャンスが週に数回、16時から17時の間だけというレアキャラ。


横浜の格調高きダンスホール。ネットで検索すると情報もちらほら出てくるし、個人的にも大好きな横浜の情報サイト『はまれぽ』で、以前取材していた記事を読み込んでいたので、イメージトレーニングはできていたつもりだったけれど、いざ行ってみると、きらびやか、とは別種の空間。どちらかというと厳かな雰囲気。『ダンスホール新世紀』にすっかり当てられていたので、同じダンスホールでも地味だな、というのが正直な感想だったけれど、戦後のダンスホールやキャバレーが出てくる映画の雰囲気がなんとなく感じ取れる。鼻腔をつくカビ臭さに、どことなく冷んやりした空気。撮影やイベント会場としてコンスタントに使用されているという話だが、使われなくなった施設の匂いが充満していたのが印象的だった。






空調も古いまま(でもルックスは◎! 上の下手な写真は個人的な趣味で私が撮ったもの)だし、サイトもダンスホールとして営業していた数年前から更新されていない感じ。このまま老朽化を理由になくなってしまったらどうしよう……。この本の中で唯一、取材をしている時になくなるのでは、と不安になった店だったが、余計な心配だった。






今年に入ってから、ものすごくしっかりとした、お洒落なサイトにリニューアルされていたので、たぶん『クリフサイド』は静かにやる気に満ちているのだと思う。

やる気に満ち溢れたキャバレーといえば『日本一 桃太郎』だ。西日本で一番店舗数が多いキャバレーチェーンと謳っているけれど、今や日本で一番店舗数が多いはず。『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』では紹介できていないけれど、名古屋あたりで展開する『キャバレー花園』で7店舗、『日本一 桃太郎』は8店舗(2018年4月現在)。『日本一 桃太郎』を経営している森川観光グループは、『熟年倶楽部』(!)など、他にも様々な業態の店を持っていて、アポイントをとっている段階で、キャバレーって、ナイトクラブやスナックなどとどう違うんだっけ、線引きが段々曖昧になってくる。




対応は森川会長自ら。私のようなわけのわからない小娘にも、申し訳ないほど腰が低く、丁寧にやり取りをしてくれた。ただし、毎日11時過ぎに出社し、16時前には帰ってしまうので、案外タイミングが難しい。少しずつ話を進め、9月に博多、11月に福山、三原、徳山の店舗を取材させてもらうことになった。

9月の博多を経て、11月の瀬戸内3店の取材で、「ゆっくりうちの温泉につかって、美味しいものも食べて帰ってください」と招待してくれた、森川観光グループが持つ『みはらし温泉』(三原市にある、見晴らしのいい温泉……)の部屋は、作り込まれた昭和のラブホテルだった。もちろん褒め言葉です。


そこは『みはらし温泉』最高ランクの“デラックスルーム”で、会長室の内装とそっくり。壁紙から家具まで、パステルカラーのロココ調。なるほど、これが森川会長の考える極上の概念か……。なんてかわいらしい人なんだろう! と感激したが、店にも部屋にも会長室にも、たくさん置いてあった森川会長の伝記を読むと、それはそれはハードボイルドな内容で、かわいらしさとはかけ離れたものだった。


『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』でも少し触れているけど、

・ 職人をしていたはずの盲目の兄が、いつの間にか莫大な借金
・ 返済のためになぜか青線宿を経営していたがままならず自殺
・ 国鉄職員だった森川会長が仕事を辞めて、代わりに返済
・ キャバレーを始めるとライバル店に名指しでケンカを売られる(もちろん売られたケンカは買い、そして勝つ)
・ 暴力団に絶対に屈しない宣言をし、店の2階に警察を常駐させる
etc……

ざっとエピソードを挙げただけでもセンセーショナル! 読めば読むほど、とにかく部屋のセンスとのギャップが激しい。

さらにはホテルの従業員たちは、「国鉄の職員だった会長が、今はJRの線路の上に御殿を建てたんですよ」と、笑いながら話す。鉄板のジョークのようで、従業員と雑談をしていると、決まり決まってそう言われた。要するに線路はトンネルに潜り、そのトンネルの上に家を建てていたのだった。

『日本一 桃太郎』もかなり強烈だったけれど、『みはらし温泉』は、全てが吹き飛ぶインパクトだった。“デラックスルーム”自体は2名で1泊6500円~。めちゃくちゃリーズナブルだと思う。GW後半は『日本一 桃太郎』で遊んで『みはらし温泉』の“デラックスルーム”に泊まって、森川観光グループをどっぷり堪能してみてはどうでしょう。

ちなみに『日本一 桃太郎』において、三原店が一番「キャバレーとはなんぞや!?」と自問してしまう、混沌を味わえる空間。ビルもかわいい!






旅つながりで、本には掲載出来ていないキャバレーだった空間をもうひとつ。北海道は札幌にある『キリンビール園 本館 中島公園店』はキャバレー『ミカド』だった場所を生かして営業している。内装は一新(とはいえ、『キリンビール園』になってからも随分経つので燻された感じ)していて、『ミカド』時代の面影は構造くらいだけど、スケールの大きさだけでも感じることができる。

ここも今年の9月いっぱいで閉店、建物自体、取り壊される予定だそう。札幌は今、桜が咲きつつあるちょうどいい季節。ハイシーズンと駆け込み需要の前に、ぜひ訪れてほしい。





付録:キャバレー本、さらに!

前述のようにキャバレー業界人が思い出を語った本は何冊かあり、「通史」としてもハリウッド・グループ総帥の福富太郎さんによる『昭和キャバレー秘史』(文春文庫PLUS)があるが、建築インテリア・デザインの観点からキャバレー空間を記録した書籍は今回の『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』以外、僕が知るかぎりほとんど存在していない。「ほとんど」というのは、かつて『建築寫眞文庫』があったから。

文筆業でも写真家でもない、建築家であり数寄屋研究家だった北尾春道という稀代の趣味人たったひとりの人間によって取材、撮影、編集、デザインされ、昭和28(1953)年から45(1970)年まで、17年間にわたって出版された全145巻の『建築寫眞文庫』(彰国社刊)について、ここで詳述する余裕はとてもないけれど、1954(昭和29)年に発行された『キャバレー』(vol.14)と『ナイトクラブ』(vol.15)には、それぞれ9軒のキャバレーと8軒のナイトクラブの写真が、ときに平面図と共に収録されていて、モノクロ図版ながらキャバレー全盛期の空気感を伝える資料として貴重である。


『キャバレー』の冒頭には、北尾氏によるこんな解説があり、キャバレーという社交場の性格がよく表現されている――

都市構成の要素としてその繁栄と魅力が結集されているものに繁華街なる名称がある。即ち商店街、飲食店街、娯楽街等の盛り場を総称するもので、現代文化思潮風俗の諸相が最も鮮明に流動展開している。その繁華街の中にあって最も近代的な色調や構想のもとに都人の愛と歓楽を呼ぶ社交施設にキャバレーがある。それは他の料亭や社交喫茶、サロン、バー、ナイトクラブ等と共にジャズとネオン、酒と美女、魅力と香りと味の交錯を現出してまさに近代人の官能をそそってはいるが、キャバレーはまた別趣な意味に於て現代の新しい一つの社交形態をも構成して所謂国際的な親睦施設の線にまで到達している感がある。

もっとも近代的! 都人の愛と歓楽! 国際的な親睦施設! 最先端であり、最盛期であった時代のキャバレーとは、そういう場所だったのだ。

『キャバレー』は概説に続いて、各店舗の紹介に移るあいだに「キャバレー12章」と題された、キャバレー遊び方ガイドみたいなページが挟み込まれている。それがあまりにおもしろいので、ここに載録しておく。「踊っている時は他のことは余り考えないのがよろしい仏家でいう『無我の境』に入るべきである。」とか・・・絶妙すぎる解説を、ぜひ画像を拡大してお読みいただきたい。




『建築寫眞文庫』はいまから半世紀以上前に出版されたまま、ほとんど忘れられた存在となっていたので、出版元の彰国社を口説き落として2009年に『Showa Style 再編・建築写真文庫』と名づけた800ページを超える本を出させてもらった。145巻の『建築写真文庫』から商業・公共建築に分類される79巻を選び、再編集したこの本では、『キャバレー』『ナイトクラブ』からも数十枚の写真を選んで載せている。オリジナルの『建築寫眞文庫』は古書でもなかなか入手困難だが、再編版建築写真文庫のほうは現在も販売中なので、ご覧いただきたい。なお、発売当時に作成した内容紹介ブログがまだ生きてるので(!)、興味あるかたはこちらもどうぞ。


『Showa Style 再編・建築写真文庫』(彰国社刊)

建築写真文庫・紹介ブログサイト:http://showastyle.blogspot.jp/

『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』の最後を飾ったのは山形県酒田市の『白ばら』。1958年に創業され、2015年末に閉店してしまったたが、地元有志の再生プロジェクトによってクラウドファンディングが立ち上げられ、2017年末に飲食店として再スタートを切っている。

同じ山形県の山形市小姓町には、かつて『ソシュウ』という名のグランドキャバレーがあった。いまはその面影もない寂しさだが、かつては仙台国分町と並ぶ東北有数の繁華街だったという小姓町で、ひときわ輝く存在だった『ソシュウ』は1957(昭和32)年開店。1984(昭和59)年に閉店しているが、そのステージには淡谷のり子、黛ジュン、欧陽菲菲ら歌謡スターや、アート・ブレーキーなどのジャズミュージシャンも上がったという。

その小姓町の全盛期をまったく知らないまま、30歳で会社を辞めて料理店を始めた渡辺大輔さんが、地元の人たちから『ソシュウ』のことを聞いて興味を持ち、かつての関係者からお客さんまで24人の「ソシュウにまつわる物語」を聞き取って一冊にまとめた自費出版本が『キャバレーに花束を 小姓町ソシュウの物語』。

こちらは写真集ではなく読み物だが、キャバレーが夜の街でもっともきらめいていた時代から、その最後まで、あたかもひとりの偉大なパーソナリティの栄枯盛衰を眺めるように読み取れる。自費出版だが中野タコシェ、吉原カストリブックストアなどの書店やオンラインショップでも入手可能。全国各地の有志の手で、こんなふうにキャバレー文化の掘り起こしが進むことを願いたい!


『キャバレーに花束を 小姓町ソシュウの物語』
(傑作屋刊/自費出版 https://kessakuya.thebase.in/

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ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

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かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
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円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
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捨てられないTシャツ

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あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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