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バックナンバー:2022年06月22日 配信号 収録

book 探すのをやめたときに見つけたもの

今年1月22日(土)から 4月10日(日)まで渋谷公園通りギャラリーで開催された「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」。いま考えるとオミクロン株が猛威を振るうさなかに、よく全日程無事に開催できたものだと思うけれど(中止になった展覧会もたくさんあったし)、同時期に制作していた作品集がようやく完成。今月30日あたりから書店に並ぶはず(Amazonなどではすでに予約開始)! 書名は「Museum of Mom's Art 探すのをやめたときに見つかるもの」。あえて「おかんアート」という言葉を入れなかったのは、展覧会でプチ炎上したからとかではなくて(笑)、公園通りギャラリーでの展覧会とはまた別物の作品集として見てもらえたら、という思いも込めている。


おかんの辞書に断捨離はない! 来るものは拒まず、去るものも去らせない。とりあえず取っておけば、いつか役に立つ。そしてある日、おかんにひらめきの瞬間が訪れる――アレをああやったら、かわいいのできるやん! こうしておかんアートは生まれた(たぶん)。

どこにでもあって、だれからもリスペクトされることなく、作者本人もアートとはまったく思わず、売ったり買ったりもできず、しかしもらえることはよくあり、しかももらってもあまりうれしくない。ファインアート界どころか、アウトサイダー・アート界からも「これはアートじゃないでしょ!」と蔑まれる、究極にダサいアートフォーム。

ハイブロウでも、ローブロウですらない、ノーブロウの明るい衝撃。コンセプトでも反抗でもない、約350点にのぼる「手を動かす純粋なよろこび」が君を微笑ませ、涙ぐませる。ラブホテルから散らかった部屋まで「マスメディアには取り上げられない、どこにでもあるもの」を追いかけた半生の到達点がここにあった。

難しいことが高級なことだと僕らは教えこまれてきた。全国各地で、それどころか世界のいろんな場所で今日も、いまこの瞬間にも何万人ものおかんたちが、おしゃべりしたりテレビ観たりしながらカエルやロールちゃんや、キューピーの服をつくっている。ふだん接している難解な現代美術の外側に、こんなに見晴らしのいい広がりがあったとは。

おかんアートは小さな知性への大きな一撃なのか。
(裏表紙のステートメントより)












本書のために書いたあとがきに、僕がおかんアートにのめり込むようになった経緯を少し詳しく記しているけれど、過去の原稿を入れたハードディスクを「おかんアート」という言葉でスキャンしてみたら、最初期の原稿が2011 年、ウェブ版アートマガジン「ART iT」の連載だった。その翌年には広島県福山市の鞆の津ミュージアム開館記念展「リサイクルリサイタル」で地元のカリスマおかんアーティストたちを取材、作品展示をしているので、もう10年以上おかんアートを追いかけてきたことになる。調べたかぎりでの語源と思われる2チャンネルのスレッド「「脱力のオカンアートの世界」が2003年に生まれて、たぶんその数年後にスレッドを見始めているので、おかんアートともずいぶん長い付き合いになった。














「TOKYO STYLE」をはじめとして、これまでつくってきたたくさんの本はほぼすべて、実際の取材や撮影をする前は「これが一冊の本にまとまるか」はまったく未知数で、最初の数人、数件と出会ううちに「これは本になりそう!」とか「本にしないと!」と根拠のない使命感にひとり盛り上がるものだった。でも「おかんアート」だけは、ずいぶん長く取材を続けてきながら、まあ小さな展示はできるけど、公園通りで実現したような大がかりな展覧会はできると思えなかったし、ましてや分厚い作品集は想像ができなかった、というか完成までの絵図が描けなかった。

たいていのテーマは「よく知ってるひと」「少し知ってるひと」「ぜんぜん知らないひと」が世に混在していて、そのどれかの層に喜んでもらえるはずなのだが、おかんアートに関しては「ものすごくよく知ってるひと」と「ぜんぜん知らないひと」の2種類しか世に存在しない。しかも「ものすごくよく知ってるひと」は、「ぜんぜん知らないひと」より人数で言えば比べものにならないくらいたくさんいるうえに、僕の本を手に取ってくれてきたひとたちとはちょっと違う層であるとも思っていた。それがいきなり大きな展覧会になり、分厚い作品集になり。おかんアートがこんなふうにフィーチャーされることに驚いたひとも多かったろうが、いちばん驚いたのは僕だった。














ある高名な建築家と話していて、そのひとは超富裕層の住宅設計を得意とするのだが、建物やインテリアのデザインだけじゃなくて、壁に掛けるアートも自分が選ぶんだ!と教えてくれた。超富裕層って絵も専門家に選んでもらうのか、と嫌みを言いそうになった。

建築デザインを引き立てるアートもあれば、ぶち壊しにするアートもある。かつてアウトサイダー・アートに夢中になり始めたころ、その不穏なエネルギーは空間になじむのか、それとも違和感を放射するのか、微妙な立ち位置にあった。でも、これだけアウトサイダー・アートが一般的になると、たとえば安藤忠雄ふうのクールなコンクリート空間に、コルビジェの家具なんかと一緒にヘンリー・ダーガーの絵が掛かっていたとして、たとえそれが全裸少女の大量虐殺シーンであっても、違和感はまったくないだろう。うわ、お金持ち!とか思うだけで。いまやアウトサイダー・アートは、ハイエンド・アート業界的にはすっかりインサイドなのだから。

それではいま、そこにひとつあるだけで、お洒落な空間が台無しになってしまうようなものって、あるだろうか……と考えるうちに行き当たったのが「おかんアート」だった。










メインストリームのファインアートから離れた極北で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、正反対の極南で優しく育まれているアートフォーム、それがおかんアート。その名のとおり「おかあさんがつくるアート」である(正確には「おばあさん」だけど)。

どこにでもあって、だれからもリスペクトされることなく、作者本人もアートとはまったく思わず、売ったり買ったりもできず、しかしもらえることはよくあり、しかももらってもあまりうれしくない。アウトサイダー・アート界からすら「これはアートじゃないでしょ!」と蔑まれる、究極にダサいアートフォーム。それがおかんアートであることに、異論を唱えるひとは少ないだろう。ちょっとだけ想像してほしい――コンクリート打ちっ放しやホワイトキューブのギャラリーみたいな部屋に、カラフルな軍手人形がちょこんと置かれていたら。それがたったひとつあるだけで、隅々まで気を配られたお洒落な空間はぶち壊しになるはずだ。

ラブホテルから散らかった部屋まで、「マスメディアには取り上げられないけれど、どこにでもあるもの」をこれまで半生かけて取材してきた。おかんアートもグッドテイストでも、意識高くもない。でも「世の中の大部分はこっちだ!」という自信は、今回がいちばんある。

「えーっ、これウチのおかあちゃんそっくり!」「うちの実家にもある!」と思うひとが、ずいぶんいるだろう。そう、数えきれないほどのカリスマおかんアーティストが、日本のすみずみにいて、きょうも楽しく手を動かしている。だれにも気に留められず、自分でもアーティストだなんて思ってもいないまま。

そういうおかんたちを、「余計なもんばっかり作って」と上から目線で眺めるか、「なんだかすごく楽しそう!」と下から目線で眺めるかによって、僕ら自身の日々の暮らしも、ずいぶんちがったものになるはずだ。
(序文より)










作品集の内容は公園通りギャラリーでの展示の順番にほぼ沿っていて――

1 そこにあるものを使う 断捨離よりも「いつか役に立つ!」
2 デザインよりも素材感が大事
3 飾りじゃなくて生活用品 かわいいけれど役にも立ちます
4 ご利益をあなどるなかれ
5 もうひとつの折り紙宇宙
6 小さいからかわいい、小さいからたくさんできる
7 おかんにも推しキャラあり

というそれぞれの章のあいだに、たくさんのコラムを添えてある。そして最後の章として、公園通りギャラリーでの共同キュレーターだった神戸・下町レトロに首っ丈の会・会長の山下香さんと、11ページにのぼる「おかんアートの現在・過去・未来」と題した長い対談を掲載した。地元のおかんアーティストたちと長く関わり,サポートを続けている山下さんの、おかんアートへの眼差しはもちろん、アーティストたちの人柄から世間への受容のありようまで、さまざまな思いをたっぷり語ってもらえたのが、僕としてもひとつの区切りをつけられた気持ちで、なによりうれしかった。










あとがきでも書いたけれど、アーティストにとっていちばんうれしいのは「こんな表現、見たことなかった!」と観るひとに感じてもらえることだろう。でも今回だけは「これ、見たことある! うちにもある!」という反応がいちばん多くて、それが本書をまとめた側としてはいちばんうれしい感想だ。驚かれるのではなく、共感されること。作り手と受け手のどちらかが上から目線になったり下から目線になったりするのではなく、同じレベルの目線で交感できること。それだけを目指して僕らは展覧会をつくり、この本をつくった。

ページをめくって出会う、発見の喜びを損ないたくないので、これ以上の詳しい説明はしないでおく。展覧会のグラフィックと同様、本書も若生友見さんによるポップでカラフルなデザイン。書店でも目立つと思うので、よかったら手に取ってみてください。そして、そのうちの何人かでも、いてもたってもたまらなくなって手芸店に走ってくれたら、なおうれしい!




Museum of Mom’s Art 探すのをやめたときに見つかるもの
著者:都築響一
編集:五十嵐健司
デザイン:若生友見
体裁:B5判変形/広開本/窓付きスリーブケース装
頁数:232頁
定価:3,000円+税


[刊行記念トークのお知らせ]

すでに告知セクションでお知らせしてきましたが、刊行記念トークの第一弾!が7月2日に金沢・石引パブリックで開催されます。前にもトークに呼んでいただいたことがあるインディーズ・ブックストアで、同じケンエレブックスの『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』のスピンオフ「ローカル・ネバダイ」の金沢編も手がけてくれたお店でもあります。

オンライン配信もありますが、地元のみなさまでタイミングが合うかたは、ぜひ会場にお越しください! ただ定員が15名ということなので、来店参加ご希望のかたは早めにお申し込みを!

そして……まだ詳細が未定ですが、トーク翌日の7月3日(日)、金沢周辺の特選珍スポットへの遠足も企画中! こちらもお楽しみに!


都築響一『Museum of Mom's Art 』刊行記念トーク ~おかんアートが日本を救う~
7月2日(土)19:30 ~21:30
@金沢・石引パブリック
来店参加/オンライン視聴あり
イベント詳細はこちらから:
https://ishipub.com/event/トークイベント-都築響一-おかんアートが日本を救う/
予約:https://ishipub0702.peatix.com/

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ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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