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バックナンバー:2014年10月22日 配信号 収録

photography 浴槽というモノリス


ご承知のとおり僕はよくトークをやるけれど、それはなにも人前で話すのが好きとかではなくて(ほんとに!)、トークの場でいろんなひとと知り合えるから。終わったあとに「うちのそばにもこんな場所がある、こんなひとがいる」と教えてくれたり、「こんな絵を描いてるんです、写真を撮ってるんです」と作品を見せてもらえることがたくさんあり、それはネットなどよりはるかに貴重な情報やアドバイスになってくれる。

牧ヒデアキという写真家とも、そうやって知り合った。

牧さんは1971年生まれ。三河湾に面した愛知県西尾市で、建築設計の仕事をしながら、ずっと写真を撮っている。あるトークのあとで分厚いアルバムを見せてもらったのだが、そこには路傍に打ち捨てられたポリやステンレスの浴槽ばかりが写っていた。


さすがに都心部ではめったに見ないが、郊外や田舎道の脇には、青やベージュや銀色の浴槽がよく転がっている。

分解して自然に還ることを断固として拒むような、無骨で、無愛想で、本来あるべき風呂場という場所から引きずり出された四角い浴槽。ときには水草や金魚の棲家となっていることもあるが、大半はふてぶてしい違和感をにじませながら、汚れた雨水をはらんで、ただそこにある。たぶん、いつまでも。


浴槽で湯に浸かり、洗い場で体を洗う、という入浴スタイルが欧米にはないのだから、ああいう浴槽というのはおそらく昭和の日本が生み出したものだろう。そのせいなのか、あのプラスティックな、あるいは鈍い銀色の四角いカタマリは、日本の田舎の風景に、実にすんなり溶け込んでいるようにも見える。薄汚れた軽トラックや、傷ついた安全坊やと同じくらい。


アルバムを見せてもらってからしばらくして、牧さんから「小さな写真集をつくりました」という連絡が来た。2009年から『Re-Bath』『B’s inner life』『Pair-B』と、少しずつスタイルを変えながらずっと「路傍の浴槽」にこだわってきた牧さんの、最初の作品集となる『Re-Bath』は、蛇腹折りした経本のささやかなコレクション。これを自分のウェブサイトと、恵比寿NADiffや中野タコシェなど、いくつかの書店で販売している。


『Re-Bath』私家版写真集 (500円+税)

今回は特にお願いして、牧さん自身によるテキストを書いていただいた。風変わりで、寂しくて、可愛らしい写真とともにお読みいただきたい。


浴槽と牧さん

2009年に写真家 雜賀雄二氏のワークショップに通い、写真と向き合い始めました。

私自身はもともと自然と人工素材のせめぎ合いや馴染みに興味を持っていました。またどこにでもあるような普遍的な状況の中に潜む異様さを、写真であぶり出したいとも思っていました。


悩みながら写真を撮り続けていたのですが、ある日いつも見ていたはずの道端や畑に置かれている浴槽(風呂桶)がとても異様なモノであることに気づきました。それから、歩いている時も車に乗っている時も電車に乗っている時も、野にある浴槽を観察し始めました。そのうちに100Mくらい先の小指の爪くらいの大きさの浴槽にも反応するようになり、新幹線で名古屋から東京まで乗車している間のそこかしこにも浴槽が野に存在していることを知りました。




そしてこの浴槽をどのように写真にすべきか考えました。風景に馴染んでいるようで馴染めていない浴槽、本来の浴槽としての役目を終えながらも再利用され、まるで余生を謳歌しているかのような浴槽には、曇天の柔らかい光の中で草の枯れた冬の風景の中で撮影するのが最もふさわしいのではないかと思い至りました。気候上、冬の曇天はあまり期待できないこともあり、晴天や雨天の日にはロケハンをし、曇天の日に撮影をするというスタイルで冬の間に撮影を続けました。






浴槽は極めて耐久性の高い人工素材でつくられていますので、簡単に朽ち果てることができず土に還ることもできません。野に捨てられているように再利用されている浴槽の中には、その悲しい性にもかかわらず水を張り静かに空を讃えるモノ、やさぐれているモノ、拷問を受けているかのようなモノ、いろいろな表情が見てとれました。

私は眼も頭も心も出来るだけまっさらにして、それぞれのモノたちと対峙し撮影しようと努めました。そうしないとそれぞれの浴槽が心を開いてくれず、とてもデリケートで大切な部分が逃げていってしまう気がしたからです。








そうして一歩ひいて、たたずまいを撮ったシリーズが『Re-Bath』になります。

それぞれの浴槽の秘めている心もよう(内面世界)を撮ったシリーズが『B’s inner life』 になります。この2種類の写真を2009年12月から3月までの間に8000枚以上撮影しました。






その後、浴槽の置かれた状況の中で、写真で浴室として捉えなおしたシリーズが『Pair-B』になります。近しい要素を持つモノを浴室でいうところの右勝手・左勝手として組んであります。2011年3月から6月にかけて6000枚程度撮影しました。

リサイクルという言葉もありますが、これらの浴槽の再利用は単純にリサイクルと呼べないのではないかと思っています。住宅の建替えやリフォームにより造り付けの浴槽がユニットバスに変わったりして不要となり、浴槽の機能性・耐久性・耐候性から捨てるように再利用され続けています。




実はこの状況というのは、浴槽の種類から時代の変遷を、再利用のされ方から人間の営みを、野ざらしの状態や変化できない素材から人類のしてきた事と向かっている方向を、それぞれに表しているのではないでしょうか? このような多様な側面が道端や畑の浴槽に凝縮されており、これらの浴槽を通して日本の文化や日本という国のある一面が透けてみえるような気がしています。


なお11月25日からは東京のギャラリー・ニエプスで展覧会も予定されている。ギャラリーの壁面にプリントとして並ぶとどう見えるのか、こちらも楽しみだ。

牧ヒデアキ写真展
11月25日~30日
新宿区四谷4丁目ギャラリー・ニエプス
https://niepce-tokyo.net/


帯を書かせてもらいました

牧ヒデアキ 公式サイト:https://makira.jp/
(写真集の注文もこちらから)

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ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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