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AFTER HOURS
編集後記

2016年04月06日 Vol.206

今週も最後までお付き合いありがとうございました。先週が第5水曜でお休みだった分、今週は書きたいことがありすぎて困りました。気に入ってもらえた記事、あったでしょうか。トークの告知もいろいろあるので、どこかでお会いできたらうれしいです。


ふたりぼっちの闘いを続ける坂館長と中本尚子さん

すでにツイッターやFacebookでご存じの方もいらっしゃるでしょうが、札幌が誇るビザール・ロードサイド・アトラクション「レトロスペース・坂会館」が、いよいよ閉館間際に追い込まれているようで、4月1日の朝日新聞道内版に大きな記事が出て、僕もコメントしました。


ウェブ版の記事がこちらで読めます:https://asahi.com/articles/ASJ3Y7VDLJ3YIIPE03G.html

いまからちょうど1年前の2015年4月あたりに、坂会館と経営側の対立が表面化。閉館の危機という噂が流れて、本メルマガでも4月22日配信号で緊急特集。そのときはこんなふうに書きました――

『珍日本紀行』の取材で初めてレトロスペースを訪れたのが1999年。もう15年以上のお付き合いになる。館長・坂一敬(さか・かずたか)さんには、ご自身の半生を『巡礼/珍日本超老伝』でも語っていただいた。北海道秘宝館がすでに閉館し、去年は札幌市民の憩いの場・喫茶サンローゼすすきの店も閉店。このうえレトロスペースまでなくなってしまったら、いったい札幌でどこに遊びに行けばいいのだろう。もはや自信を持って推薦できるスポットは「滝野霊園」ひとつになってしまう・・。

というわけで、とりあえず館長にお話を伺おうと先週末、急いで札幌に行ってきた。ちなみに『珍日本紀行』で取り上げた北海道のスポットのうち、すでにカナディアンワールドはテーマパーク営業を終了、石川コレクションは閉館、小樽のキャバレー現代、札幌リズム社もすでに消滅、北の京芦別は宗教施設になってしまっている・・・。

未見の方のために、まずはレトロスペース・坂会館の説明を、簡単にしておこう。札幌市内、地下鉄二十四軒駅から徒歩10分ほどの通り沿いに面した、ビスケットの坂栄養食品・本社工場の一角にレトロスペース・坂会館はある。開館したのが1994年だから、すでに20年を超えていまも存続中である。

「いままでも折にふれて『出て行け』というようなことはあったんですが、この2月末から急に、嫌がらせが激しくなったんです」と話してくれたのは坂館長と、副館長としてレトロスペースを支える中本尚子さん。中本さんは今年でレトロスペース勤務が17年め。坂館長とふたりきりで、ずっとこの奇跡的なミュージアムを守ってきた。

アルファベット型の「しおA字フライ」など、北海道民なら知らぬ者のないビスケットを製造している坂ビスケットは、正式名称を坂栄養食品という。明治44年に士別で創業した澱粉工場が前身で、坂館長の父・一長さんの代となった終戦後にビスケット製造を開始。お父さんのあとを弟さんが継ぎ、いまは坂館長の従兄弟となる社長が、ビスケット製造販売を引き継いでいる。

館長は取締役の一員として製造ラインの統括を担当しつつ、会社とは離れた独自のプロジェクトとしてレトロスペースを維持運営してきた。しかし「いかがわしい水着のマネキンを飾るような展示は困る」という、コレクションの価値を認識しない会社側の思惑と、文化資源としてのレトロスペース維持に注力する坂館長との、感情的にもこじれた対立が長く続いてきた。その冷戦状態がここにきて、にわかに表面化してきたという経緯である。

「それでも、こちらも大株主なので、会社として合法的にレトロを潰す、ということは難しい。だから実力行使というか、ちょくちょく乗り込んできて、『こんないかがわしいものは近所迷惑だ』『こんなとこがあるからビスケットが売れないんだ』と、激しい口調で言われるんです」と中本さん。かつてレトロの2階にはビキニを着せたマネキンが並び、それが曇りガラス越しに見えるのも楽しかったが、そのマネキンも3月に「勝手に2階に上がられて、窓際から降ろされちゃったんです」。まったく覚えのない産廃業者から、「不要品、どんなものでも即日、引き取りに伺います」というFAXが突然来たりするというから、実際、かなり対立が先鋭化しているようでもある。


2階の窓にマネキンが見えていたころの坂会館(2005年撮影)

あれから1年経ったいま、朝日新聞記事によれば「4月中に(建物を取り壊し)更地にする、との話があった」そう。坂館長と電話で話してみると、「自分から閉めはしませんから」と、いつものように淡々とした話しぶりだったけれど、坂館長を長年にわたって支えてきた副館長の中本尚子さんも、すでに会社を解雇され、失業給付を受けながらボランティアで会館に通う日々だというので、かなり秒読み態勢に入っているようでもあります。

新聞のコメントでは一部が紹介されましたが、ここに僕が書いた全文を載せておきます。ほんとうに閉館してしまってから「行きたかった」とかツイートしてもなんにもならないので、未体験の方はいますぐにでも札幌に飛んでいただきたいと切に願います。

だれもが価値を認めるものは値段がつく。それは収集品であると同時に商品だから。でもだれも価値を認めないものにこそ、時代の記憶は染みつく。それを坂一敬さんだけがわかっていて、だから坂館長は札幌のドン・キホーテだった。

入場無料にこだわり、防犯カメラも鏡も設けず、業者にいくら万引きされても「学生運動に身を捧げてきたのに、それはできませんから」と警察の助けを借りようとせず、拾いものや貰いものばかりでの展示を貫き通し、そうして風車に負けたドン・キホーテのように、坂さんは札幌に負けた。

もし坂会館が閉じてしまったら、「行っとけばよかった」みたいなツイートがあふれるのだろうが、もう遅い。あの空間に並べられて、そこに坂さんがいたからこそ、あのコレクションは生きていたのだから。

仮に坂会館のコレクションがどこかほかの場所に移されたとしても、あの空間に封じ込められていた昭和の空気感は、もうけっして再現できない。

行政の支援も、クラウドファンディングも、坂会館を生き延びさせはしないだろう。それは坂一敬という希有な北海道人の、きわめてパーソナルで無謀な冒険だったのだから。

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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