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AFTER HOURS
編集後記

2021年11月03日 Vol.475

今週も最後までお付き合い、ありがとうございました! 細江栄光さんの展覧会は僕にとって「眼福」としか言いようのない体験だったし、「TOKYO ATOM」の新連載は、これから40回、毎週続くかと思うと……プレッシャーでいっぱいです!

Facebookページにもちょっと書きましたが、コロナもやわらいだ先週末はいろんな展覧会、イベントが重なる中で、東京アートブックフェアにも行かず、3331アートフェアにもT3フォトフェスにも行かず。なにをしてたかといえば……

嶋暎子展@世田谷美術館分館

「あなたの知らないよし子さんの世界」展@東陽町ダウンタウンレコード

デルニエクリ販売所@吉祥寺111 THR丰ONE

大竹伸朗展@狸穴タケニナガワギャラリー

選挙

今井次郎展@池袋ポポタム

BULLET HOLES COUNTRY@新大久保アースダム

「1991年の若者たちがタックアウトしたTシャツを2021年の君たちは」高畑鍬名展

JANUS 青木大祐展@新宿眼科画廊

という、怒濤のギャラリーめぐりでした。2日間で2万歩ぐらい歩いたかも。ほんとはゆったり見るべきだけど、大竹伸朗展をのぞけばどれも会期3日とかせいぜい1週間の短い展示ばかり。これでもいくつか、見たかった展示に間に合わなかったので、時間がいくらあっても足りない。

大規模なアートフェアを嫌う気持ちはもちろんないけれど、ロードサイダーズとしてはだれにも知られず3日で終わる展示のほうに行っておきたいし。おかげですごく収穫あったので、これから徐々に紹介していけると思います。

そのなかでひとつだけ紹介しておくと、新大久保のライブハウス・アースダムでは10月29~31日の3日間、「BULLET HOLES COUNTRY」と題した、映画上映+トーク企画がありました。

「BULLET HOLES COUNTRY」は、現在ミャンマーで起きているクーデターとそれらへ抗議運動の状況を紹介し、情報や意見を交換しながら、アート通じたアクションを起こすことを目的としたプロジェクトです。

2021年2月、世界中で新型コロナウィルスの蔓延と影響が懸念されるなか、ミャンマーでは、軍によるクーデターが起こりました。そしてその後から現在に至るまで、市民による抗議運動が続けられています。この一連の運動は「Spring Revolution(春の革命)」と呼ばれており、不買運動やボイコットを行う「市民不服従運動」をはじめとするさまざまなかたちのアクションが起きています。一方で、それら市民の抗議運動に対する弾圧も続けられています。民主化を訴えながら、軍のクーデターと不当な弾圧に抗議するジャーナリスト、アーティスト、映画監督など抗議に関わったたくさん人々が罪なく拘束され、時には暴力を受けたりする事態も起きています。

「BULLET HOLES COUNTRY」では、クーデターとその後の抗議運動を含めた「今ミャンマーで起きていること」を共有し、その情報や意見を交換し合う場を作りながら、ミャンマーの状況に対してアート/表現で呼応することを目指します。
(展覧会サイトより)

すっかりコロナ前に戻ったかのような新大久保は、全盛期の原宿竹下通りなみの大混雑。まっすぐ歩くのも難しいほどの人混みでしたが、大通りに面したビル地下のアースダムは、僕が行ったときには観客十数人。1階の韓国ファストフード屋に並んでる人数にも満たない寂しさでしたが……絵画作品展示とともに、若いドキュメンタリー映画作家・久保田徹の作品『Punk Save the Queen』も上映されていて、充実した時間を過ごせました。偶然ひとり知人に会ったのですが、彼はわざわざ岐阜から「これは見ないと」と思って来たそうで、そういう熱心なひとたちに支えられてのイベントでもありました。


























『Punk Save the Queen』はそのタイトルから察せられるとおり、ミャンマーのパンクミュージックシーンを捉えた記録映画です。ミャンマーのパンクについてはすでに日本でもブログなどで紹介されたり、音源が発売されたりしているので、ご存じのかたもいらっしゃるでしょう。

映画は2018年に撮られていて、つまり国軍によるクーデターの前ですが、民主化に進んでいたミャンマーですら、緊張感を持たざるを得ない状況の中で活動を続ける若いパンク・キッズたちを追っています。

映画のなかではいくつかのバンドが登場し、「これはパンクというよりフォークロックでは」というようなグループがあったり、全体的にすごく稚拙だったり、純粋に音楽として鑑賞するにはちょっと……と思わされます。熱帯の国なのに、欧米のパンク・ファッションそのままの鋲打ち革ジャン姿に、違和感を覚えるひともいるかもしれない。

でも、観ているうちに思ったのは、そういうのはもうどうでもいいということ。「演奏は下手、でも言いたいことも怒りも不安も悲しみもいっぱいあって」というのが、そもそもパンクなのだし。

その演奏やファッションだけを見たら欧米の真似っこにすぎないかもしれないけれど(日本だってそうだし)、けっきょくスタイルというのは目的ではなくて、生きざま=アティチュードを包む器なのだから。

上映後には久保田監督と、イベント主催者でジャーナリストの北角裕樹さん、それに現在アメリカにいるパンクバンドのメンバーもつないでのトークがありました。僕は次の予定があって中座しなくてはならなかったのが残念でしたが、今年のクーデターが起きてから、パンクスたちがどうサバイブしているのか、すごく気になります。

久保田徹・公式サイト:https://torukubota.myportfolio.com/

「BULLET HOLES COUNTRY」:
https://mathuzarzwal.jp/?fbclid=IwAR1fB10mqBBQz8M7TrfVBNJo7XK9MuMYtjb-O7t2HO3hzhqhri6b_l_BzYA

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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