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AFTER HOURS
編集後記

2025年10月22日 Vol.666

今週も最後までお付き合いありがとうございました。「777」号まで生き延びられるかはわからないけれど、なんとなくめでたい気分の「666」号。気に入ってもらえた記事、ありましたか。世界のいろんな果てからの物語が、今週も集まってきました。中国映画の字幕でおなじみの水野衞子さんによる「抗日映画鑑賞記」と、もう41回目になる関上武司さんの「中国珍奇遊園地紀行 黒龍江省後編」では、期せずして(ほんとに!)ハルビンの七三一部隊の記念館が登場!(ちなみに関上さんは『中国抗日博物館大図鑑』も発表済み 2021年パブリブ刊)。 

そしてこれまで隔週でお送りしてきた多田麻美さんの「ユーラシア後ろ歩き」は今回で完結でした。42回の連載で名の知れた観光地も、世界遺産とかもぜんぜん出てこない旅行記でしたが、毎回連れて行ってくれる「どうってことない場所」に秘められた物語が、僕は大好きでした。毎回見せてくれた美術家ニコライ・レーリヒの作品とあわせて、変な言い方だけどすごく「ためになった」連載でもありました。多田さん、ほんとにありがとう!

そしてそして!今週25日の土曜日からは、原宿のヒステリックグラマーにて、「STORY OF みるく」が始まります!

恵比寿みるく30周年記念特別展覧会
"STORY OF みるく"

1995年、まだ何もなかった恵比寿の片隅に
“エロとロック”を掲げて生まれたクラブ「みるく」
2007年に幕を閉じるまで、
音楽・アート・ファッションが交差する熱狂の場として
多くの人々を惹きつけました。
今回の展覧会では、
みるくが2万部発行していたフリーペーパー『TOKYO ATOM』を中心に、
写真・映像・資料を通して、その歴史を振り返ります。
(リリースより)

ロードサイダーズ・ウィークリーでは2021年11月3日号から2022年9月7日号まで「おかえり TOKYO ATOM」と題して、編集長マーク・ロビンソンのテキストを添えて、1998年4月発行のゼロ号から2001年8月発行の最終号まで、全41冊のページすべてをスキャンして完全誌上再現しました。


恵比寿にあった「みるく」という店を覚えているひとが、どれくらいいるだろうか。
大学生のころPOPEYE編集部で働き始めて、編集者として最初に担当したのがディスコ・コーナー。当時いちばん勢いのあった新宿ツバキハウスで、店長だった佐藤俊博さんと仲良くなって一緒に遊んでるうちに、新しい店を開くたびに「どんな店がいいと思う?」と相談を受けて、それがイメージをつくる仕事になった。これまでずいぶんたくさんの佐藤さんの店に関わらせてもらったうち、1989年に開店した芝浦GOLDのあと、1994年に乃木坂に「ORANGE」という小ぶりなロックバーをつくり、それを発展させて大がかりな店になったのが1995年にオープンした恵比寿のみるくだった。
「みるく」と敢えてひらがなで書いたのは、その店名が牛乳ではなく精液をイメージしてほしかったからで(なのでロゴデザインもコンドームぽかった)、僕が描いたみるくはダンスに特化したクラブではなくて、生演奏のロックを主体とした、あくまでもロッククラブ。普通のライブハウスのように演奏が終わったら終了とかではなくて、演奏の前も後も、深夜まで寛いで遊べて、メインフロアでライブをやっていても、ほかの部屋では勝手に飲んで騒いだり、小声で口説いたりできる、そういうロッククラブだった。
みるくが始まってから3年後に、それまでのフライヤーでは飽き足らなくなって、文庫本サイズの小冊子『TOKYO ATOM』が創刊された。まだZINEという言葉がなかった時代、『TOKYO ATOM』はフリーペーパーという名のとおり無料の冊子だったけれど、毎月の発行部数はなんと2万部! 都内はスタッフが配り歩いたし、全国に宅配便で送っていたので、覚えてるひと、何冊か取っておいてくれているひともいるだろう。
みるくが閉店するのは2007年のことだったが、ぜんぶで12年間の営業のうち、98年から2001年までの4年間、41冊の『TOKYO ATOM』がリリースされた。
『TOKYO ATOM』の編集長はマーク・ロビンソンというオーストラリア人ジャーナリスト。みるくのクリエイティブ・ディレクターであり、「ママ」でもあった塩井るりの夫だった(当時)。
このあいだ倉庫の荷物を整理していたら『TOKYO ATOM』のバックナンバーの束がどさっと出てきて、思わず読んでいるうちに(文字が小さすぎて肉眼ではほぼ判読不可能だったが)、いろんな記憶があふれてきた。
みるくに怖々足を踏み入れた若い子たち、まだ子どもすぎて行けなかった子たち、たくさんの「当時の若者」からみるくのこと、『TOKYO ATOM』のことを聞かれることがよくある。「GOLD」のこともよく聞かれるけれど、あれはもう30年以上前なので、音楽が好きなほとんどのひとにとっては、みるくのほうがずっとリアリティがあるはずだ。
(2021年11月3日号の記事より)

今回の展覧会は、その『TOKYO ATOM』を中心に、30年前に恵比寿の片隅に生まれ、消えていったあのエネルギーの残像を蘇らせようという試みです。みるくのママだった塩井るりは、こんなステートメントを書いてくれていますーー

恵比寿みるく1995-2007
東京ナイトライフのキングであったエラ・インターナショナルの佐藤俊博が、都築響一と共に『エロとロック」をテーマにオープンしたロッククラブ。
90年代半ばから多くの才能ある無名のアーティストや多種多様な人材を一つの場所に集結させてライブやイベントを週7日間、12年間休みなく繰り広げた。
その夜々のエネルギーを全身で体感した記憶は多くの人々の脳裏に刻まれ、唯一無二の空間として東京のロッククラブの歴史にその名を刻んだ。
この展示は、元みるくで働いていたスタッフが50歳を迎え当時を振り返り「最新かつ不動であったみるくの存在、また激しく奇妙で温かかった人々の感覚」を次世代に届けたいという思いに発端し、若い世代のアーティスト達を巻き込んだ共同作業で実現するに至った。
この展示により、恵比寿みるくを中心とするカルチャーの歴史を紐解きながら、赤裸々な人間の在り方や他者との交わりの美しさ、自己肯定感をインスパイアできればと願う。
















12年間にわたって地下の空間で繰り広げられた感動的なバカ騒ぎを、手作りの小さな展示ひとつで再現できるとはもちろん思いません。でも、あのころよりはるかに「まともであること」を暗黙のうちに求められるようになった2025年のいま、SNSの相互監視がなかった幸福な時代だからこそ爆発できたエネルギーのカケラだけでも、次の世代に手渡しできたらと思わずにいられないのです。

「あのころはよかった」みたいなノスタルジーではなくて、これから生まれてきてほしいバカ騒ぎの場へとバトンを渡したくて、当時のスタッフたちが右往左往しながら手作りで準備してきた展覧会。それが"STORY OF みるく"です。


恵比寿みるく30周年記念特別展覧会 "STORY OF みるく"
10月25日(金)~11月9日(土)
@HYSTERIC GLAMOUR SHIBUYA 入場無料!
渋谷区神宮前6丁目23-2
https://share.google/HRy7k0ubyJrNr2d4p
みるく公式Instagram:
https://instagram.com/ebisumilk/p/DOvKybJEcc4/
HYSTERIC GLAMOUR:https://hystericglamour.jp/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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