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AFTER HOURS
編集後記

2024年05月15日 Vol.597

今週も最後までお付き合いありがとうございました。
今週トップにした堀江由莉さんは、前にロードサイダーズで取り上げた写真家・沼田学さんの紹介でした。よくインタビューで「どこからいろんなネタを探してくるんですか」と聞かれるのですが、メルマガも13年目ともなると前に取材で知り合ったひとたちが、バトンを渡すように新しい才能を紹介してくれることがだんだん増えてきたのが、いちばんうれしい! 長く続けるって、そういうことでもありますね。

2022年9月7日号で「立ち上がる石の群れに」と題して、チンコ型の石(本人いわく「根石」)を多摩川の川べりで集めて作品として展示するアーティスト、久保田弘成を紹介したのを覚えてるでしょうか。久保田さんの「作品」は大道芸術館のショップでも数本(笑)展示販売しているので、見てくれたかもいらっしゃるかと。

その久保田さんが7月7日まで、東京都西多摩郡檜原村で約1300本!の根石を一気に並べた「石を立てる 根石院展」を開催中です。

とはいえ檜原村(ひのはらむら)と言われてもピンと来ないひとが大多数かもしれません。檜原村は島嶼部を除いた本土にある東京都唯一の村。人口2,000人足らず。村の9割以上が森林。電車の駅はないので、公共交通機関で行こうとすると・・・・・・

「東京駅 → JR中央線(約50分)→ 立川駅 → JR青梅線(約12分)→ 拝島駅 → JR五日市線(約18分)→ 武蔵五日市駅 → 西東京バス(約20分)→ 檜原村

まさしく東京最後の秘境! 近年はその環境に惹かれた若いナチュラリストも移住しているようで(ラッパーの志人さんも移住していたはず)、そんな檜原村に2022年に誕生したのが会員制の滞在型ワーキングスペース「Village Hinohara」。公式サイトを拝見するかぎり、なかなか意識高い系の空気感が漂ってきますが、よりによってこんな場所にチンコ型の石が1300本以上並ぶとは!笑 観に行くのもかなり気合いがいるし。あいかわらず無茶しますね~。


久保田さんは根石にハマる以前、東欧の大衆車トラバントとか漁船とか(すべて実物)を台座に設置して、エンジンでぐるぐる回転させる・・・・・・という、意味不明だがパワーだけはみなぎる展示を世界各地で披露したりしてきました。(作品にこめられた思いは2022年の記事中でがっつり語ってくれているので、ぜひご一読を)。


《Berlin Hitoritabi》2012年
女子美術大学卒業制作選抜展「女子美スタイル」におけるパフォーマンス

そんな久保田さんが根石に取り組むきっかけは――

もともと歴史が趣味で、週末に郷土資料館とか行くのが好きだったんですね。長野の田舎でもけっこう道端に土器のかけらとか落ちてたし。それで縄文土器とか見ているうちに、縄文石棒に執着するようになったんです。この多摩地域でもけっこう出てるから。それでいやがる家族を資料館とかに連れていっているうちに、ある日子どもが「パパはチンコ型の石が好きだ」と思ったらしくて「チンコ型の石見つけてきたよ」って俺にくれたんです。それで、え!と思って(笑)。これか、求めていたのは!って。俺も真似してみようと集め始めたのが43歳くらいだから、4年前ですね。子どもがくれた石はマンガみたいなチンコで、「なんじゃこれ、俺を馬鹿にしてんのか」って最初は思ったけど、これを突き詰めたらおもしろいかなって見てるうちに思うようになって。

それから多摩川に朝でかけて河原で石を拾うようになりました。でも、石を拾ってるとけっこう声かけられるんですよ。それでチンコ型の石を……とは言えないから「水槽に入れる石を探してて」とか言ってると、じいさんたちがけっこう集まってきたり。それで2018年に銀座のギャラリーで「根石院 / 石を愛する」っていう個展を開きました(ギャラリー那由他)。「そんなもん売れるわけない」ってみんなに言われたし、家族も「拾ってきただけの石を売るなんて、そんなことしていいの」って犯罪者というか、ペテン師的な反応だったんだけど、10個ぐらい売れたんです。

最初は石のかたちを見てほしかったので、土台は地味で目立たないグレーにしてたけど、だんだん土台に色とかつけたほうが石を見てくれることがわかって。石ってけっこうストイックなので、これをずっと見てろと言われるとけっこう苦しいというか。台を含めてぜんぶグレーのぼんやりしたのだと、あんまりひきつけられない。見飽きるし、我慢して見ないとならない。でも土台をカラフルにすると、石に飽きたら土台を見たりと、目線を行ったり来たりしながらじっくり鑑賞してもらえるってわかってきた。チンコのかたちも立ってるだけじゃなくフニャチンもあるし、じっくり見てるうちに、正面はここしかないと見えてくるんです。

まあでも、まんまつげ義春の『無能の人』的な、寂しい雰囲気じゃないですか(笑)。石を拾ってきて土台をつくって立てたりしてるのを見て、家族は「うちのお父さん、あたまおかしくなってきた……」みたいな。でも石拾いに行くと家族に言うと「は~?」って感じなので、朝4時とかに起きて多摩川に行って拾って、家族が起き出す前に帰ってきて何事もなかったかのように振る舞うという。家族はいまだに俺のアートに理解がないから、売れたときにはめちゃくちゃ驚いてました。ほんと、『無能の人』と同じ展開ですよね(笑)。
(2022年の記事より)


アトリエにて、2022年

7月6日から20日までは馬喰横山のMIDORI.so galleryを会場にしたサテライト展示もあるそうですが、ここはやはり久保田さんの根性に応えて!檜原村のメイン会場に遠足したいところですよね。週末にはトークセッションも設定されていて、6月1日には久保田さんと僕の対談もあります!

展覧会詳細はInstagramで確認してほしいですが、いま見ていたら「登山と根石鑑賞と温泉を合わせた超欲張りコース」なんてのも提案されていて!笑 


JR武蔵五日市駅→荷田子バス停→臼杵山→市道山→笹平バス停(VillageHinoharaまですぐ)
4時間10分の登山。数馬の湯(笹平バス停より奥)、瀬音の湯(荷田子バス停付近)で温泉も入れる

ということなので、ありあまる体力をもてあましてるアートファンは、チャレンジしてみてはいかがでしょうか!

久保田弘成 「根石院展 『石を立てる~Standing stones』」
~7月7日(日)まで開催中
@檜原村 Village Hinohara
https://villagehinohara.tokyo/

盆栽教室(講師:盆栽家 葉住直美) 
日時: 5月18日(土)14:00~
会場: Village Hinohara

トークセッション「石を買う、ということ」
日時: 6月1日(土)17:00~
会場: Village Hinohara
ゲスト: 都築響一(写真家・編集者)

トークセッション「東独の大衆車トラバント」
日時: 6月9日(土)17:00~
会場: Village Hinohara
ゲスト: 神保匠吾(DRIVETHRU)

トークセッション「秋川の地質と石」
日時: 6月29日(土)17:00~
会場: Village Hinohara
ゲスト: 秋川流域ジオの会会長 青谷知己(戸倉しろやまテラスジオ情報室)

サテライト展示:
7月6日(土)~20日(土)
@日本橋横山町 MIDORI.so gallery
https://midori.so/

根石院:https://instagram.com/konseki_in/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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