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AFTER HOURS
編集後記

2021年04月07日 Vol.447

今週も最後までお付き合いありがとうございました。先週が第5水曜でお休みだったうえに、不気味に感染者増加しつつもなんだか緩い「コロナ慣れ」のなか、展覧会やトークのイベントも徐々に増えてきて、お知らせも増えてきました。そして今回から毎週!お送りする新連載「編み物☆堀ノ内の肖像編み物」、実は準備にかなり時間をかけての、満を持したスタート。来週からの展開をお楽しみに。

先週はいま一部で話題のドキュメンタリー映画『迷子になった拳』を観ました。すでにご覧になったかたも多いでしょうが、ミャンマーの格闘技ラウェイに挑む日本人選手たちを追った、今田哲史監督の作品です。

拳にはパンテージのみを巻き、通常格闘技の禁じ手がほとんど許される「地球上で最も危険な格闘技」と言われるミャンマーの伝統格闘技・ラウェイ。その一方で、最後まで立っていれば“ニ人の勇者”として讃えられる神聖な「最も美しい格闘技」でもある。そんなラウェイに挑戦する日本人たちを通して、「人はなぜ戟うのか?」と言う答えの無い問いに挑んだのは「熊笹の遺言」(2004)の今田哲史監督。2016年から、ラウェイに挑戟する選手や大会関係者を追う。そこにいたのは、体操選手の夢敗れた金子大輝や、出戻りの渡慶次幸平など、いわゆる“格闘技エリート”の姿はなく“迷子”の人々だった。ミャンマーラウェイの高い壁に挑む彼らの頬に流れるのは、血か汗か涙か……? スポーツドキュメンタリーの枠を超えた、ヒューマン・ドキュメンタリーの傑作、ここに爆誕! (公式サイトより)

ボクシングでもプロレスでも、K-1のようなメジャー格闘技でもなく、隣国タイのムエタイでもなく、ラウェイという格闘技マニア以外には未知のジャンル。それも『ロッキー』やミッキー・ロークの『レスラー』みたいな感動ドラマではなくドキュメンタリー。かなりハードル高いはずなのに、ネットだけでなくマスメディアでも異例の扱いで取り上げられていて、そのあたりにも興味がありました。

今田哲史は2004年に日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作として、群馬県のハンセン病療養所で暮らす人々の現在を追った『熊笹の遺言』を発表、注目を集めます。卒業後はカンパニー松尾などが所属するアダルトビデオメーカー、ハマジム (HMJM)に参加。タートル今田という監督名で、カンパニー松尾流のハメ撮りスタイルの作品を10年間にわたって撮りつづけてきました。『迷子になった拳』はハマジムを離れたあとで監督した、16年ぶりの劇場公開作品となります。

作品の内容については、すでに多くの記事が出ているので詳述しませんが、日本の格闘技業界のはぐれもの、おちこぼれ的な、しかし闘うことをやめられない男たちが本場ミャンマーのラウェイ文化に飛び込み、でもそれがすんなり成功するはずもなく、長く苦しい日々のなかで挫折したり成長したりしていく、その記録です。

映画好きなのか、ドキュメンタリー好きなのか、格闘技好きなのか。観るひとによってこの映画はずいぶん異なる印象をもたらすはずですが、僕が最初に思ったのは「すごくAV的だな~」ということでした。

ネットフリックスやYouTubeの普及などもあって、いまの時代はドキュメンタリー映画というものに、急速に目が肥えてきた時代なのかもと思うときがあります。大きな予算と最新の撮影機材・技術と、練りに練った脚本と美しい映像と。そういう新感覚のドキュメンタリー映像が、いまはテレビの地上波以外にいくらでも観る機会ができてきた。

『迷子になった拳』はそういう、ネットフリックス的なドキュメンタリーとはぜんぜんちがいます。たぶん監督ひとりがカメラを持って被写体を追いかけて。もちろん基本の構想はあるだろうけれど、さまざまな出来事の流れのままに物語も流れていくような、複雑さを極力排した構成で。そして、そうした映像にかぶさる監督自身のモノローグが、それこそAVそのままにテロップとして画面に乗っていく。ハメ撮り系のAVを観てきたひとには、もしかしたら妙に懐かしい気持ちにもなりそう。

いちおう脚本どおりに女優や男優たちが演技する普通のAVとちがって、カンパニー松尾さんやタートル今田さんたちがつくってきた「ハメ撮り」は監督と女優、たったふたりの究極のプライベートの記録、1時間か2時間という束の間の、激しい恋愛です。カメラが回る瞬間に始まって、ストップボタンが押された瞬間に終わって、何事もなかったように別れていく、からだとからだの恋。

ハメ撮りの現場においては監督と女優のふたりともがファイターで、ホテルのベッドがリングなわけですが……『迷子になった拳』にもそういう、レンズを通した親密な、でも必要以上には被写体の奥深くに入り込もうとしない距離感があるようで、それが僕には「AVっぽい」表現方法というかスタンスに感じられたのでした。

今回は監督ご本人とはうまくタイミングが合わなくてお話できなかったのですが、『迷子になった拳』をつくるにあたって、今田さんには「これまでつくってきたAVとはまったく異なる表現のスタイルを追求しよう」という意志も、撮影前に練りに練った脚本を書いて完璧なドラマに仕立てようという目論見もなかった気がします。

この映画に流れているのは、そんなことよりもいま目の前にどうしても追いかけたい出来事や人物があって、カメラを掴んで一緒に走っていかないと間に合わない、という切迫感。それはもしかしたら重厚なドキュメンタリー映画ファンにとっても、劇的なドラマやカタルシスを求める格闘技ファンにとっても物足りないポイントかもしれないけれど、僕にとってはそういう今田監督のフットワークの軽み、絶妙な距離感が、なんだか心地よくもありました。

『迷子になった拳』は全国各地の映画館で上映中、東京は吉祥寺アップリンクで4月9日から。ミャンマーが悲劇に見舞われているいま、あの国の、素の空気感をたっぷり味わえる機会でもあります。

https://lostfist.com/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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