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AFTER HOURS
編集後記

2025年11月05日 Vol.667

今週も最後までお付き合いありがとうございました! 気に入ってもらえた記事、あったでしょうか。

ロードサイダーズ・ウィークリーも年明けで15周年。これまで3,000以上の記事を配信してきて、そのなかにはアート関係もけっこう(というかすごく)、多いので、時が経つにつれて、記事で取り上げた作家の展覧会お知らせがたくさん届くようになりました。なるべく拝見に伺うようにしているのですが・・・うれしい悲鳴というか。

先々週は庄司朝美さんの横浜市民ギャラリーあざみ野での展覧会を紹介しましたが、いま歌舞伎町の新宿眼科画廊では、青木大祐「MERISIS」展が開催中。11月5日、きょうまで!

写真プリントを寒天培養基に浸けて人為的にカビを生やし、それをまた写真に撮るという(じゃないとどんどんカビに覆われてしまうから)きわめてユニークな作品をつくりつづけている青木さん。その仕事は「Outsider Photography in Japan ゆびさきのこい」でたっぷり紹介しました。

年にいちど、新宿眼科画廊で個展を続けている青木さん、今回の新作はなんとカラヴァッジョをテーマにしたシリーズです。

(カラヴァッジョ)の光と闇は、腐敗と再生の象徴でもあり、人間の真実に深く迫るものでした。
私もまた、固定された「美」を疑い、カビという有機的な存在を使って作品をつくっています。
骸の上に繁殖したカビは新しい生命を生み出し、光と闇、生と死の境界を曖昧にしてくれる。
その曖昧さは、「シュレーディンガーの猫」のように、生と死が観測されるまで共存している状態に似ています。美と醜もまた、見る人によって揺れ動く、不確定なものだと思うのです。
私の作品はセルフポートレートですが、そこにあるのは個人としての「私」ではなく、
ただの肉体、つまり容器のような存在です。
カビを媒介にした身体は、生と死、腐敗と再生の間を行き来する“観測される前の身体”であり、そこに私は美のゆらぎを感じています。
(展覧会サイトより)






制作を重ねてきて、写真の技術というより、カビの培養コントロール技術が上達しているそう! 絵具で描いたように見事にモチーフと重なり合う白カビ。見たただけではこれがカビとはわからないかも。青木さんは来場者ひとりひとりに丁寧に説明していました。

青木さんの展覧会にはいつも、写真好きのほかに食品メーカーでカビの研究をしているひととか、多彩なお客さんが来てくれるそう。たしかに、こんなに風変わりな作品もなかなか観る機会はないと思うので、もし、これを読んでて今日時間がある!というかたは、歌舞伎町に駆けつけてください。


青木さん、展覧会場にて

青木 大祐 MERISIS
2025年10月31日(金)~11月5日(水)
12:00~20:00(水曜日~17:00) ※木曜日休廊
「MERISIS」
青木大祐
入場無料
スペースO
https://gankagarou.com/show-item/202510aokidaiyuu/

そして来週からは、札幌で葛西由香さんの展覧会が始まります。今年2月12日号「等身大の生活画」で紹介した葛西さんは、札幌を拠点に制作を続ける日本画家。とはいえその描くものはいわゆる花鳥風月とはかけ離れた、、イヤフォンのケーブルが絡まったところとか、使い古しのティーバッグとか、たこ足配線とか・・・これ以上ないほど日常的な場面ばかり。それが日本画という技法の特性とあいまって、いわく言いがたい親しげで静謐な時間を表している気がします。大道芸術館にも、ショートケーキを食べるのに外す透明プラスチックのフィルム(業界用語ではケーキフィルムなどと呼ばれるそう)に、こびりついたクリームをフォークでこそげ取る場面を描いた作品を飾らせてもらったばかりです!


公益財団法人 道銀文化財団が主催する道銀芸術文化奨励賞受賞記念という今回の個展は――

札幌大通公園すぐそばのらいらっく・ぎゃらりいでの個展です。
ギャラリーは街中のビルの1階にあり、周辺はお仕事で通りかかる方も多い印象があったので、場所にちなんで忙しい現代人の丁寧(になりきれない)な生活を題材にした絵を並べようと思っています。


葛西由香《豊かであること》2024 年 大道芸術館で展示中!

とのことで、これまたなんてことない日常をユーモラスに切り取る、葛西さんの温かい視線が楽しめそう! もちろん僕も観に行くつもりです。こうしたギャラリー展覧会の多くは、公立美術館とちがって1週間、長くても2週間ほどで終わってしまうことがほとんどなので、どうしても取りこぼしがち。もう、見つけた瞬間に予定表に書き込む!気がついたらとにかく行く!というフットワークを徹底するしかないですよねえ。言うは易しだけど・・・。


第34回 道銀芸術文化奨励賞受賞記念
「葛西由香展」

11月19日(水)-12月1日(月)
10:00-18:00(最終日-17:00)
らいらっく・ぎゃらりい
札幌市中央区大通西2丁目5番地 ほくほく札幌ビル1階
地下鉄大通駅18番出口
https://dogin-bunkazaidan.org/newsdetail.html?id=295
https://instagram.com/kasai_yuka_/

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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