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AFTER HOURS
編集後記

2024年08月21日 Vol.609

今週も最後までお付き合いありがとうございました。暑苦しいなかで毎週肥大化を続けるメルマガ・・・・・・ここまで辿り着いていただいて感謝です!

ほんとは8月初めに出したかったのですが、『TOKYO STYLE』と『ゆびさきのこい』の話をやっと書けて、ほっと一息。今週木曜(22日)の代官山蔦屋書店から始まって、27日(火)のDOMMUNEスナック芸術丸、9月6日(金)の京都蔦屋書店と、刊行記念トークがこれからどんどん入ってきます。10月は広島や福岡にも行けるかも! どこかの書店でお会いできたらうれしいです。「ウチにも!」という書店のみなさまも、ぜひお便りください。

ほっと一息と言えば、僕の20代をつくってくれた恩人でもある新谷雅弘さんと堀内誠一さんの展覧会を、ようやく先週と今週で紹介できて、肩の荷がおりた気分。展覧会を見て回りながら、いろんな思い出が甦ってきたのはもちろんですが、あれから40数年経って、おふたりの展覧会の記事を自分のメールマガジンで書くことになるとは・・・・・・人生、どんな展開が待っているのか、ほんとにわからないですね!

堀内さんの展覧会にはロゴデザインや、初期の『ブルータス』も何冊か展示されていて、なかには僕が一緒についていかせてもらった海外取材の特集号もあったので、懐かしさひとしお。


で、いま書店に並んでる『ブルータス』は「こんなTシャツ、欲しかった。」というTシャツ特集。それで・・・・・・僕にも原稿依頼が来たんですよね。Tシャツについてはもうさんざん書いてきたけれど『ブルータス』だし、と原稿書いて送って、しばらくしたら・・・・・・そう、ご想像のとおり(笑)、修正依頼が来たんです! 誤字脱字や事実関係の誤り以外の修正は受けたくないので、お断りしてけっきょく掲載されず。まさに「ブルータスよ、お前もか」ですが!せっかく書いたので、ここに貼り付けさせてください――

捨てられないTシャツ

「もう着ないけどなんか捨てられないTシャツって、あるよね~」みたいな酒の席のおしゃべりから、70枚の「捨てられないTシャツ」にまつわる物語を70人の持主に紹介してもらう連載を自分のメールマガジン「ロードサイダーズ・ウィークリー」で連載し、それが2017年に単行本になった。そのあと「なんでウチにも声かけてくれなかったの!」とたくさんのひとに怒られ、それならと「自分でTシャツの写真撮ってテキスト書いて、#捨てられないTシャツってハッシュタグつけてインスタに上げて」と頼んだら、たちまちインターネット上の増補拡大版というか展覧会が誕生。そのときつくづく思ったのは、どのTシャツにもすごく濃密な物語がこびりついていること、それでいて自分がそのTシャツを欲しいかというと一枚も欲しいものがなかったことだった。
ふつうの衣服は値段が高いものや有名ブランド(と一目瞭然)のものがヨシとされるが、Tシャツに限ってはそうとも限らず、むしろ「ひとと被らないもの」「これまで見たことないもの」のほうがずっとヨシとされる。気になるTシャツというのは、単なる白TにBALENCIAGAとかGUCCIとか大書されて何万円もするようなのではなくて、ヨシなのかダメなのか判断に迷うTシャツからほのかに発散される、着用する本人の確固たる意志や、根拠のない自信や、なによりも個人的な記憶の強度である。それが「追っかけしてたころの黒歴史を物語るツアーT」でも「別れたマッチョ男が忘れていった体臭付きアバクロT」でも、「ビリに近い順位だったけどなんとか完走できたマイナーなマラソン大会参加記念T」でも。マイナーなミュージシャンのTシャツを着ていたら、「僕も好きなんです!」と声をかけられた経験のあるひと、いるでしょ。
もともとは何度か着たら捨てられるだけの下着だったTシャツが、あらゆるファッション・アイテムのなかでもたぶん唯一、コミュニケーション・ツールだったり、忘れていた記憶へのリブート・スイッチになれたりする。高いか安いか、レアかどうかなんて関係ない。そのひとの人生にどれだけ密着し、生きざまと並走しているかを示すのがTシャツという「メディア」なのだ。

たった900字ほどの、この短文のどこが編集部のお気に召さなかったのか、わかります? そう、「BALENCIAGAとかGUCCIとか」という一節が、「両社ともうちのクライアントなので、“高級ブランド”とかに直してください」というお願いでした。そんなこと、僕が「ハイ、ハイ」って了承すると思ってたんでしょうかねえ。なめられてるのかな?笑

マガジンハウスの雑誌黄金時代の思い出を辿りながら、ちょうど新谷さんと堀内さんの記事を全力で書いているときにこんなことがあったのは、変な言い方だけど、なんだか「もういいよ」って肩を叩かれたような気分でもありました。

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編集後記バックナンバー

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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