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AFTER HOURS
編集後記

2015年04月08日 Vol.159

今週も最後までお付き合いありがとうございました。おいしそうなのからエグいのまでいろいろでしたが、お口にあった記事、ありましたか? ご感想、Facebookページでお待ちしてます!

今週取り上げた横倉裕司さんは多摩美術大学卒業ですが、先週はメルマガの去年12月17日号で取り上げ、大きな反響をいただいたアーティスト、小松葉月の多摩美工芸科卒業にあわせた個展を見てきました。3月26日から4月1日までのわずか1週間。滑り込みセーフで、ほんとうによかった!



会場となったのは東日本橋、といってもピンと来ないだろうけど、地下鉄の駅で言えば馬喰横山の「DESK/okumura」という不思議なギャラリー。時の止まったような路地裏の、しばらく閉店したままだったという食堂を借りた奥村直樹さんが、そこで暮らしながら内装を手直しして、自分や他のアーティストたちに展示の場所を提供しているという、見るからにオルタナティブな(笑)スペースです。



奥村さんが学校の先輩ということでこの個展が実現したそうですが、倒壊寸前に見えなくもないギャラリーのガラスドアを恐る恐る開けると、1階のカウンターがそのまま展示スペースになっていて、急な階段を上がった2階がメインの展示室。奥村さんはその上の3階に暮らしている。



で、今週は「見逃した!」というみなさまのために、写真だけでもご紹介を。2階に上がって、いきなり空間を塞ぐようにそびえる作品が、小松さんの「卒制」。あまりの大きさに、いくつかに分解して作り、窓から搬入して室内で組み立てたというけれど、制作作業のほとんどは自室ですませ、サイズの大きい焼き物だけ学校に持っていって焼いたそう。思い出してください、あの小松さんの部屋を! あそこでこれが作られたのかと思うと、感無量というか・・・。





作品のボリュームはものすごいけれど、細部を見ていくと極小の「ニコちゃん」がびっしりと刻み込まれ、描き込まれて、その膨大な集積がこの塊に結実してるのがわかって目眩がしてくる。ほんとうにすごい。ちなみに構造物の上部は焼き物で、下部のカラフルな部分は着古した洋服を小さく切り刻んで、縫い合わせたもの。取材記事を呼んでくれた方はおわかりでしょうが、小松さんは極度の潔癖症に長く悩まされてきたので、「家に洋服はいっぱいあるんです・・・」。

卒業制作だから担当教官の講評があるはずなので、「反応どうだった?」と聞いたら、黙って下を向いたあと、「汚いって言われました」と小さな声で教えてくれた。

え、汚い? どこが?「あと、布を使ったりしてるから、火を通してないものは陶芸じゃないとも言われちゃって」。ほんとにもう・・・。なんとか無事に多摩美の工芸科陶芸専攻を卒業した小松さんは、この春から大学院に進む。なのでこれ以上書かないでおくけど、多摩美、大丈夫? 終わりすぎてない?




































大作をじっくり味わって、1階に下りてカウンター上の小品を眺めながら、「小松さん、これ売ってるの?」と何気なく聞くと、「いえ、売りません」と激しく首を振る。「ひとつひとつ意味があるので、売れないんです」というので教えてもらった――たとえば窓際の、ニコちゃんをびっしりくっつけた深めの器は「お父さんのため。お父さんはイカが大好きなので、イカを盛るお皿にって作ったんです。でも重いのとでこぼこなので、1回しか使ってないですけど」。その隣の黒光りする塊は「おばあちゃんのための花瓶。おばあちゃんは花がすごく好きなので、花瓶をつくったんですけど、重すぎて水を入れて運べないって(笑)」。カラフルなニコちゃんの平皿に見えるのは、「お母さんのため。お母さんはパッチワークが好きだったんで(小松さんはお母さんを中2のときになくしている)、これなら喜んでくれるかなって」。



















小松さんの卒業制作はすでにギャラリーから運びだされ、家にしまいこまれている。僕らがもういちど対面できるのは、いつの日になるだろう。

僕も実は小学校から大学まで、学生時代を通じて「恩師」と呼べるような先生との出会いはいちども、ひとりもなかった。美術もそうだし、ほかの分野もそうだろうけれど、創作の世界で「先生に褒められる」って、もしかしたらすごく危険な兆候で、先生の罵声こそがいちばんの賞賛と激励なのかもしれない。

このメルマガではこれからも、そんな孤独な長距離走者としてのアーティストたちを、全力で応援していきます。



DESK/okumura:http://ki4four.wix.com/deskokumura

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おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

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1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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