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AFTER HOURS
編集後記

2017年05月24日 Vol.261

今週も最後までお付き合い、ありがとうございました! いろいろ詰め込んでお届けしましたが、どれかひとつでも気に入ってもらえた記事があったらうれしいです。来週は5回目の水曜でメルマガをお休みさせていただくので、この機会に読みきれてない記事など、受信箱やアーカイブ・サイトから漁っていただけますよう。

https://roadsiders.com/backnumbers/

先週もあいかわらずバタバタ働いているときに、「バスキアの作品がオークションに出て、ゾゾタウンの前澤友作さんが123億円で落札!」というニュースを見ました。IT長者って、すごいんだなあ・・・。

ジャン=ミシェル・バスキアについて解説する必要はないだろうけれど、1960年ブルックリンに生まれたバスキアは、もともと友達と「SAMO」(same oldから)というグラフィティのユニットをつくって、地元では70年代末からけっこう有名になってました。

そのあと画家に転身して、1981年ソーホーのギャラリー、アニナ・ノゼイで個展デビュー。数年のうちにトップ・アーティストに登りつめ、そうして1988年、年の離れた盟友ウォーホルが死んだ1年後に、たった27歳で亡くなり、「27クラブ」の一員となってしまうわけです――ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーンらとともに。

バスキアがアニナ・ノゼイ所属になったのは1980年のことで、ちょうどその年に創刊されたBRUTUS誌の取材でニューヨークに通っていた僕が、初めてバスキアに会ったのもそのアニナ・ノゼイ・ギャラリーの広い地下室でした。

高さ2メートル近くあるキャンバスを何枚も並べて、いっぺんに筆を入れながら、冷えたピザをかじったりしていたバスキアは、そのとき20歳になるかならないかだったはず。ちょっと近寄りがたい雰囲気だったけど、話してみるとすごく気さくで、それからいろんな場所で会うようになって、実は東京にも何度も来ています。最初のうちはファッション・モデルの友人にくっついてきて、モデル事務所が借りたアパートに居候していたのが、いつのまにかホテル・オークラが定宿になっていたりして・・。

1980年に暗い地下室で見たバスキアの絵には、もちろん一気にこころをつかまれてしまったけれど、当時麻布のボロアパートでひとり暮らしを始めたばかりの僕に、そんな大きな絵は買えっこない。でもいくらくらいするんだろうと聞いてみたら、「どれでも2000ドル」と言われて一瞬迷い・・・でも買わなかったんですねえ。20万円というお金が、当時の自分にはポンと出せなかった。あのときに5~6枚でも買っておけば、いまごろ数百億円・・・笑 こうしてカネのないやつはいつも負け、カネのあるやつはいつも勝つというわけです。


1981年、つまりバスキアがデビューした年にMTVでリリースされた、ブロンディの『ラプチャー』。DJ役で出演してるのが、アート界に登場したばかりのバスキア! いま見るとめっちゃショボいビデオではあるけれど、貧乏で、個性しかウリがなかった若者ばかりが集まっていたイーストヴィレッジの空気感が凝縮されてるようで、個人的にかなりグッとくる映像です。

生きているうちにバスキアはすでに大家だったけれど、死んで30年たったいま、自分の絵が1億ドルすると聞いたら、どんな顔するだろう。今回1億1050万ドル(約123億円)で売れた絵は、1982年だからごく初期の作品です。ニュースによると、もともと収集家が1984年に1万9000ドルで購入したものとありますが、描かれた82年にはその数分の一の価格だったはず。

30年かそこらで20万円が100億円に化けるというと・・・いったい何倍になるのか計算するのも面倒だけど、アートの世界にはこういうことがたまにあるのも事実。でもほとんどの場合、そういう「評価(価格)の高騰」というのは、アーティスト本人に関係ないんですよね。ゴッホだってそうだったし。

あのとき買っとけば・・・というのは何度も経験したし、今回のバスキアもその極端な例で、悔しくないと言えばウソになるけれど、でもそんなに悔しくもない。だって億の単位の作品収集はカネの勝負でしかないけれど(評価はとっくに定まっててリスクはないから)、万の単位の作品収集は眼の勝負でしかないし、そこにはリスクしかないから。

100億円の絵を描く作家や、絵を買えるひとを友だちに持てたらいいかもしれない。でもそれより、20万円で大好きな絵を描く作家をたくさん友だちに持つほうが、はるかにうれしい。いくらそんなこと言っても「100億円出せない貧乏人の遠吠え」にすぎないことは重々承知、でもこのメルマガでは100億円じゃなく20万円の最高の作品と作家たちを、これからもどんどん紹介していきたいと思ってます。

次回のロードサイダーズ・ウィークリーは6月7日配信、お楽しみにお待ちください!

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編集後記バックナンバー

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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