• TOP
  • 編集後記

AFTER HOURS
編集後記

2012年02月08日 vol.006

このメルマガの、最後の行まできっちり読んでくれたかたはお気づきでしょうが、先週からちょっと珍しい注意書きが加わりました――「メルマガに掲載される記事の著作権は発行責任者に帰属しますが、ツイッター、Facebook、ブログでの引用やご意見は、おおいに歓迎いたします」。そうなんです、このメルマガ、みなさんのSNSやブログとかで、どんどん引用してくれてかまわないんです。ま、全文引用されても困るけど、どうせ長すぎるし(笑)。

一昨年も、去年も、そして今年も日本では「電子書籍元年」と騒がれて、しかしいつも空振りというか、まったく盛り上がりに欠ける状態のまま、現在にいたってるのはご存じのとおり。その、いちばんの問題は「どんなフォーマットで配信するべきか」という・・中味じゃなくて梱包をめぐるバカみたいな議論なのですが、それをさらに突き詰めていくと著作権保護=コピーガードという問題が浮上してきます。つまり、電子書籍は売りたいけど、簡単にコピーされても困るし、という業界のホンネがそこには図太く横たわってるわけです。

でもこれって、昔どっかで聞いたことありません?・・そう、音楽の世界で、まったく同じことが10年近く前にありましたよねえ。パソコンでの複製を防ぐべく、いわゆる「CCCD」というコピーガードを施したCDを、ソニーやエイベックスが発売したの、覚えてます? で、結果は・・もちろん大失敗。いまやiTunesでわかるように、僕らが日常聴いている音源には、それがCDであろうとダウンロードであろうと、コピーガードなんてかかってません。けっきょく、タダでコピーするだけのひとは、どんな防止策を取ったとしても、しょせん自費で買ったりしないってことです。

それを、出版社のお偉いさんたちはいまだに理解してないわけですが、街の現場ではすでにみんなわかってます。というのも、この10年かそこらで大きく変わってきた書店の形態が、まさにそれなんじゃないかと思うんです。

昔の本屋は、立ち読みしてると奥からオヤジが出てきて、わざとらしくハタキでパタパタしたりしたでしょ。でも、いまの書店は椅子やソファや、喫茶コーナーまで置いたりして、ゆっくり試し読みしてもらって、気に入ったら買ってもらうというスタイルに変わってきました。それは書店が、「立ち読みだけのひとはどうせ買わない」と、しっかりわかってきたからです。

で、いまだに電子書籍のフォーマットとかで会議ばかりしてるオッサンとか、超ベストセラー作家が寄り集まって「自炊代行業者許さん」とか息巻いてるのとか、ああいうのが僕には昔の本屋のオヤジのハタキ・パタパタに見えてしょうがないんですね。もうそんなことやってる場合じゃなくて、椅子もソファもスターバックスもある書店を目指せよと。

なので、どれか展覧会を見に来てくれたひとはおわかりでしょうけど、僕は自分の展覧会でも写真撮影オーケーにしてますし、このメルマガも「引用上等」、そして自分の本は、それを自分でやろうと代行業者に頼もうと、どんどん自炊してくれってスタンスです。 いままでも何回か書いてますが、僕の文章や写真は「作品」じゃありません。あくまでも「報道」です。秘宝館の写真を展覧会で見せたとして、それを「美しいプリントですね」と誉められるより、「ここ、行ってみたいです!」と言われるほうが、百倍うれしい。それがたとえば、同じロウ人形館の写真を撮っている杉本博司さんと僕の写真のちがいでもあります(値段も1万倍ぐらいちがいますが・・涙)。だからこそ、複製することでその情報が役に立つのであれば、そして知るべき情報がそれぞれの手で拡散していくのであれば、僕としてはもう大歓迎です。

つくり手それぞれで考え方はちがうのでしょうが、デジタルの時代になって、僕は「著作権」というものに対して、もっと緩やかな考え方が必要な時期に来ているのではないかと思ってます。キャンバスに描かれる油絵とちがって、パソコン上に描かれる絵に「サイズ」という概念が本質的に存在しないように、デジタルで作られる書籍や雑誌に、昔ながらの流儀がそのまま当てはまると思うのは幻想でしかありません。あの、なんの意味もない電子書籍の「紙の本のページをめくるスタイル再現機能」みたいに。

このメルマガを作るにあたって、ふつうに考えれば、これだけのボリュームだから、PDFやドットブック、ePubのような電子書籍フォーマットを使って、有料でダウンロードしてもらう方法もあるわけです(これだけ画像が多いと、既存のメルマガ配信システムでは扱ってもらえないので)。

でも僕にとっては、メールという形式がいちばん魅力的でした。それはパソコン、iPad、スマホ・・いろんなデバイスで見られて、そのデバイスごとに見えかたがちがってくるからです。

いま、電子書籍を作る現場のひとたちが、いちばん苦労している点のひとつが、「どんなデバイスで見ても、いっしょのデザインで見られること」です。でも、それって僕にはほとんど興味がないというか、「デジタルっぽくない」気すらする。ちゃんとしたコンテンツ(内容)があって、それがそれぞれのデバイスによって、ゆるやかにフィットしながら、スクロールするにつれて見えてくる。水がいろんなかたちのグラスに注がれるように。そういうスタイルのほうが、僕にははるかに魅力的に思えます。だから僕はメールという形式を選んだのだし、書いたことがなんの制約(プロテクト)もないまま、興味を共有するひとたちのあいだにどんどん拡散していくことを想像するほうが、はるかに刺激的です。

このメルマガは、まだまだ小さな規模の、言うなればマイクロメディアにすぎません。気に入ってもらえた記事や、友達に教えてあげたいことがあったら、どんどん引用して、どんどん広めてください。そうやって巡り巡って、偶然読んだだれかのブログとかで自分の記事が引用されてたら、すごくうれしいし!

  • TOP
  • 編集後記

AFTER HOURS BACKNUMBERS
編集後記バックナンバー

FACEBOOK

BOOKS

ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

SHOPコーナーへ


捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

amazonジャパン


圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

amazonジャパン


ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

amazonジャパン


独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

amazonジャパン


ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

amazonジャパン


東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

amazonジャパン


東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

amazonジャパン