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AFTER HOURS
編集後記

2012年08月15日 vol.031

先週土曜日の夜は幕張メッセで開催されたFREEDOMMUNEに参加してきました。会場まで足を運んでくれた方、ネット配信で参加してくれた方、みなさまどうもありがとう! 会場への来場者1万4千人、Youtubeでの視聴者は72万人だったそうです! 歴史的な一夜でしたね。


幕張メッセに行くたびに気になる「駅前彫刻」。エロでしかないでしょ、これ

トークのお相手をしてくれた大根仁監督のお話も、すごく興味深かったし。大根さんの映画やテレビドラマでは、いつも音楽がもうひとりの主役のように重要な役割を果たしているのですが、実は監督としての初仕事が「宮沢りえのカラオケ映像で、曲は小室哲哉だった」というのには、びっくりしました。ちょうど会場のメインステージでは、小室さんが演奏中だったし!

灰野敬二にケン・イシイ、名盤解放同盟、メルツバウにデヴィ夫人まで! さらに夏目漱石の脳みそまで! とんでもないラインナップは、出演者/観客というふつうのフェスの図式とはひと味ちがう、DOMMUNEという体験を共有しあってきた仲間たちの巨大なオフ会という雰囲気で、素晴らしいものがありました。宇川くん、ほんとにとんでもない場をつくりだしてしまったものだと、あらためて感動します。

大根さんと僕の出番は深夜1時半ごろからだったのですが、早めの夜には会場に着いて、けっきょく朝までたっぷり遊んで帰りました。いろんなステージで、いろんなアーティストのパフォーマンスやトークを楽しめたのですが、個人的にもっとも印象的だったのは小室哲哉さん。ちょうど自分のトークと時間が重なって、ちょっとしか見れなかったのがめちゃくちゃ残念でした。

今回のFREEDOMMUNEでトリをつとめたのは、ドイツが生んだ偉大なテクノ・ミュージシャン、マニュエル・ゲッチングだったわけですが、小室哲哉のステージでの観客のノリは、はっきり言ってゲッチングをはるかに凌駕する、最強のエネルギーに満ちてました。

去年のDOMMUNEと原宿ラフォーレに続いて、僕が小室さんのパフォーマンスを見るのは3回目なのですが、やっぱり大観衆の前に立つとパワーが倍加されるのか、幕張でのステージは前の2回よりもさらに印象的。僕も熱狂する観客に加わりながら、その場にいられたことの幸運をかみしめたりしてました。


いまや多くのDJがD=ディスクすら操らず、ノートパソコンにかがみ込んでるだけ、客席から見えるのはMacのフタとDJの頭頂部とヘッドフォンのみというなかで、小室哲哉は「こんなにほんとに必要なの!?」と言いたくなるほど、ずらりとキーボードなどの機材を並べて、ケレン味満点のプレイスタイル。そしておそらく、当夜登場したなかで唯一、化粧したDJだったはず。

DOMMUNEに集まる、つまりはかなり音楽的な感性が鋭い若者たちのなかには、完全に小室哲哉世代でありながら、当時の日本全国すみずみにまで垂れ流されていた小室サウンドに背を向けて、ここまで来たというひとが少なくないでしょう。そういうひとたちが、イロモノ目線の興味半分でフロアに集まって、いざ音が出ると思わず腕を振り上げ、熱狂してしまうという・・それっていったい、なんなんでしょうか。

いま小室哲哉が(とりあえずステージ上で)つくりあげようとしている音。その核となるビートは、明らかに1990年代の「小室ファミリー」時代から進歩しています。ハードだし、クリスプだし。でも、そこに乗せられるメロディ。これが独特の哀愁を醸し出すんですね~。

荒っぽくまとめればダンス・ミュージックはディスコの時代から、ハウスにいたって「メロディを捨てること」で新たな境地に達したわけですが、そういう流れの中で、いま小室哲哉がつくろうとしている音は、すごく不思議に聞こえます。ダンス・ミュージックのグローバルな流れが確固としてあるなかで、日本的としか言いようのないメロディラインをビートに加味することで、グローバルには通用しないかもしれないけれど、ローカルには圧倒的な説得力を持つ、ようするにガラパゴス的な日本の現在進行形ダンス・ミュージックのかたち(誉めすぎ?)。

思えば小室サウンドとは、本来的に家でステレオに向かって聴くのでもなく、ウォークマンで歩きながら聴くのでもなく、クルマの中で聴くのがいちばんしっくりくる、90年代日本のドライビング・ミュージックでした。そしてそれは言うまでもなく、都会的でもなければ自然志向でもない、サバービア=郊外文化としての音楽です。考えてみればX JAPANと並んで、小室ファミリーは究極のヤンキー・ミュージックでもあったんですね。そういえば小室さん、府中出身だし・・。

僕自身はまったく小室ファミリーの音で育った世代ではないので、いま20代後半から30代のひとたちの、小室サウンドへの反応を共有することはできません。でも、『ゲット・ワイルド』のフレーズが流れたとたんの、フロアの凄まじい熱狂を目にすると、マニュエル・ゲッチングがつくりだす緻密な音楽芸術とはまったく別種の、プリミティブな土着のエネルギーを感じないわけにはいかない。

現代美術でも現代文学でも、現代建築でも、とにかくいまや「グローバルであること」が最高の評価なわけですが、そのいっぽうで「ローカルならではのチカラ」もありうるはず。一時は日本でもっとも成功したサウンドメイカーであった小室哲哉が、いま幸か不幸か芸能界のくびきから逃れた自由な場所でやろうとしていること。もし「日本人」という名の部族があるのだとしたら、それは最高のジャパニーズ・トライバル・ミュージックであるのかもしれません。


【データダウンロード】D1.pdf(194KB/PDF)


入場無料という信じられないイベントだったFREEDOMMUNE。「東日本大震災復興支援フェス」という思いを来年につなげるために、ウェブサイトから寄付を。特典として、宇川くんがデザインしたロゴの完全セットがダウンロードできます!

http://www.dommune.com/

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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