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AFTER HOURS
編集後記

2019年02月20日 Vol.344

今週も最後までお付き合いありがとうございました。見方によってはかなりエロだったりグロだったりの号になりましたが、気に入っていただけたでしょうか。しかし中国のタトゥー・シーン、ほんとに盛り上がってますね!

これまでも神戸を中心に、関西エリアのアンダーグラウンドな人脈をメルマガで掘り起こし寄稿してくれてきたヤマモトヨシコさんが、先日ご自身のフェイスブックであの「一番先生」の動画をアップ! 僕もシェアさせてもらいましたが、もうご覧になりましたか。


ヤマモトヨシコさんはアーティスト活動のかたわら、神戸三宮の歴史的建造物チャータードビル内にギャラリー7(毎年番号がひとつずつ増えていく)を運営。僕もトークに何度か招いてもらって、一番先生との対談イベントを開いたこともあります。というか、ヤマモトさんに「なにかトークイベントの希望ありますか」と聞かれたときに、僕が一方的に興味を持っていた一番先生を招きたいと言ったら、さっそく先生を探し出してくれたのでした。去年3月28日号の特集『一番先生、降臨!』と併せて、ご覧いただけたらうれしいです。ほんとに、こういうひとを東京オリンピック開会式でフィーチャーしてほしいもんですねえ。


https://roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=1285

一番先生はヲタ芸の導師ともいうべき孤高の存在ですが、今週の告知でも紹介している月刊誌EX大衆の「IDOL STYLE」。今回は大石理乃さんというソロアイドルを紹介してるんですが、これも取材しててかなりおもしろかった!

地上であれ地下であれ、ほとんどのアイドルは「運営」というプロダクションがついていて、要するにオトナがプロデュースするので、多かれ少なかれ似通った存在感になってしまう。それがひとりでアイドル活動しているセルフ運営になると、ワクが外れて自由気ままにできることになって(もちろんそのぶん大変ですが)、大石さんも「こういうことやってるアイドルがいるのか!」と驚かされました。熱烈ファンの「ほりえもん」さんの言葉を引くと――

ライブで「リクエストに応えるからお金ちょうだい」って500円とか払わせたり。一番ひどかったのは、ライブ中に口を付けたお酒をオークションして、それが最終的に1万円でファンに売れたっていう(笑)。あと大石さんがヲタクの汗臭いのが嫌だから、300円かなんかの投げ銭で、大石さんがファブリーズをかけてくれるっていうのもあった。「脇あげて」ってシャーシャー。「後ろ向いて」って言ってシャーシャー(笑)。ヲタクはMな人が多いんで、そういうふうに振り回されるのが楽しい人もいるし、そこで離れていく人もいるんですよ、やっぱり。それを楽しめる人と、この人は人格がおかしいんだって引いちゃう人が。


自室でくつろぐ大石理乃さん

記事では字数の関係で書き切れなかったけど、ほかにも――

・自分の私服を「買ったけどあんまり似合わなかったから」とかでライブ会場に持ってきて売りつける。
・客からリクエストを募って、「あれやって」と言われたら、「じゃあこのCD-Rの何番だからPAさんに渡してきて」と、客にCD-Rを運ばせる。
・「この中で童貞のひと、手を挙げて」みたいにステージから童貞いじりでおもしろがったり、卑猥なポーズや下ネタ連発で共演のアイドルをビビらせる。

というような振り切れよう。けど、そこで食いついてくる中年オヤジが近寄りすぎたら、容赦なく切る・・・地下アイドル・シーンが、こんなフリーキーな状況になっているとは!

そんな大石理乃さんの活動で、いちばん驚かされたのが「無音CD」。現物を見せてもらったんですが、ほんとにただの白いCD-Rに「500円 無音」「1000円 無音」とか手書きされてるだけ。これはなにかというと、アイドルはライブあとの物販が勝負で、一緒にチェキを撮っていくら、というふうに稼ぐわけですが、CDショップとかのインストアライブでは、チェキなどの物販は原則禁止。ショップにはお金が入らないですからね。CDを売って、その売り上げをお店と半々にするというのがふつうです。そこで大石さんが思いついたのが「無音CD」。ほりえもんさんに解説してもらうと――

流れとしては音源を送るっていうのを最初にやったのが、岬たんっていうtasotokyoのシンガーソングライターで、その日に演奏した音源を、自分でパソコンを持参してて、CD-Rに焼いて売ってたんですよね。それを大石さんは、CD焼くのは面倒くさいし、パソコンも持ってないし、どうしようと思ったときに、スマホで録音しておいて、メアドを教えてもらって、あとでメアドにm4aっていう形式で送るという。それで最初は1曲5000円とか言ってて、それは高えーよって(笑)。大石さんはそれが適正価格だと思ったのか、「いやいや、絶対に高いから。ホント1000円にして」って言って。それで2回目から1000円に値下げ。いちおう客の注文に、柔軟に対応するんです(笑)。たまに「それは安いでしょ」って怒ってるけど。「いや、ちょっと金銭感覚が変ですよ」って(笑)。


これが現物の「無音CD」!

いま無音CDってやってるのは、インストアだとお店に利益がないからチェキはダメなんです。それでCDを売らなきゃということで、CDにサインとか特典つけたり。でもライブに来るヲタクはみんな持ってる、全部1枚ずつぐらいは。そうすると、もう買わないんですよね。私は情けで買いますけど、でもだいたいは見るだけで買わないから、「なんで売れないんだろう?」みたいな。「それは大石さん、やっぱり2枚とか買わないですよ。買ってあげるのも大変なんだし、持ってて余っちゃうし」。「そんなんだったらもう、CD-R売ればいいんじゃない? で、あとで音源を送って自分で焼いてもらえばいいじゃない」って、そこで大石さんが考えついたんです。たぶん本当にはインストアでCD-Rは売れないと思うんですけど。それまで音源を1000円で売るのはやってたけど、無音CDを売りますというのでバズったんですね。それに大石さんのファンって楽曲派みたいな人が多いんです、やっぱり音楽が好きで。だからライブだとレアな曲とか、CDに入ってない曲もやったりするので、そういう音源だとすごいお得ですし。1000円でライブ音源20分だったり、場合によっては30分40分だったり、けっこうコスパもいいんですよ。


ほりえもんさんのチェキ・アルバムから。大石さん、チェキでも大サービス。しかし運営がいないので、客たちがチェキを借りて自分で撮るのだそう。

ジョン・ケージは練り上げられた知的探求の成果として『4分33秒』を「作曲」し、1952年ニューヨークでの初演があったわけで、立派なCDや「トリビュート盤」まで出てますが、2019年の極東では「めんどくさい」とかの理由で無音CDがお店で売られるという・・・ポピュラー・カルチャーって、こういうふうに意識高い系をうっちゃるパワーを秘めてるんだよなあ。もっとも、ほりえもんさんによれば、「実際はお金払っても、CD-Rを持ち帰るひとはあんまりいないんですけどね」。じゃあなんで払うの?と聞いたら、「だってお布施ですから」。なるほど・・・アイドル宇宙の深淵を、またひとつ覗いた気持ちになりました。

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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