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AFTER HOURS
編集後記

2014年09月10日 Vol.131

今週も最後までお付き合いありがとうございました。気に入っていただけた記事、あったでしょうか。

今週から始めた宮間英次郎物語、著者の海老名さんとふたりで、実はずいぶん前から聞き書きに通っていたのですが、どう発表していいものか迷っているうちに、時間が経ってしまいました。もちろん宮間さんご本人の許諾をいただいた、これは公式の記録ということになります。

来週の第2回ではさらに宮間さんの隠れた一面を描く(暴く)ことになるので、「おもしろ帽子おじさん」とファンになっていた方々は、驚かれることでしょう。

アウトサイダー・アートをずっと追いかけてきて、よく直面するのは、アウトサイダー・アーティスト=純粋で汚れを知らない人間、という思い込みです。

レヴィ=ストロースの『野生の思考』を持ち出すまでもなく、「ノーブル・ソバージュ=高貴な野蛮人」が、汚れのない自由な作品をつくるという安直な発想が、アウトサイダー・アートに関してはいつも見え隠れします。現場にいるひとたちはもちろん、そんなんじゃないとわかってはいるけれど、なかなかそれが外部に伝わらない。

僕は昔から山下清が好きでしたが、それは作品もそうだけれど、日記を読んでみて、彼が別にちぎり絵をつくるのがなにより好き、とかではなくて、学園の先生に言われたから仕方なくやるとか、放浪の最中に絵を描けばご飯が恵んでもらえるとか、そういうシビアな計算のうえで、言うなれば「ちゃっかり」絵を描いていた――そういうズルさと巧妙さから、あんな美しい作品が生まれたという、その一点になにより惹かれたのでした。

宮間さんの帽子は見ていて楽しいし、あんなおじいさんがあんな帽子を被って、しかも女装でうろうろ街を歩いていて、気軽に写真も撮らせてくれたら、それは愉快な存在でしょう。でも、そんなふうになったのは、宮間さんがなにも「天真爛漫」だったからじゃない。それどころか爛漫とはほど遠い、想像するのも辛いほど曲がりくねった暗い道を歩いてこざるを得なかった、その長く苦しい時間があったからこそ生まれたものであること。それを知ってほしくて、こういうかたちで掲載することを決意しました。来週、再来週と、その彷徨える魂の軌跡を、一緒に歩いてもらえたらうれしいです。

長くなってしまいましたが、告知で書いたように、来週水曜(19日)のDOMMUNEスナック芸術丸のオリエンテーションとして、去年8月に書いた早川義夫さんの記事の短縮版を、このあとつけておきます。僕がもっとも敬愛するアーティストのひとりである早川さんの素晴らしさを、これを機会に来週のDOMMUNEで一緒に実感していただけたらなによりです。

それではまた来週!

ROADSIDE RADIO:早川義夫ソロ・ライブ


先週のロードサイド・ラジオは、7月28日に神田の試聴室という小さなライブ・スペースで開かれたばかりの、早川義夫さんのソロ・ライブをお送りしました。

早川さんはジャックスの時代から現在のソロ活動まで、僕がもっとも尊敬するミュージシャンのひとりなので、この番組で取り上げられることはすごくうれしいというか、光栄です。

早川義夫さんは1947年、東京に生まれました。いま65歳です。

1965年に和光高校の同級生同士でナイチンゲイルというバンドを結成。翌年、ジャックスと改名。67年から本格的な活動開始します。

1968年9月 - ファーストアルバム『ジャックスの世界』を発表。しかしタイトル曲『からっぽの世界』の冒頭、「僕、唖になっちゃった」という歌詞が問題になって、長らく廃盤状態のままでした(いまではちゃんとCD化されています)。

1969年8月にジャックスは解散、その直後の10月 にセカンドアルバム『ジャックスの奇蹟』が発表されましたが、たった2年余りの活動期間。「売れなかったのが解散の理由」とご本人が書いているとおり、商業的には成功から程遠かったのですが、『からっぽの世界』『マリアンヌ』『時計を止めて』『ラブ・ゼネレーション』などなど、数多くの名曲と、後のミュージシャンたちに決定的な影響を残したのは御存知のとおり。


解散後、早川さんはレコード・ディレクターとなって、岡林信康などを担当。同時期にソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』を発表します。いまもよく歌われる『サルビアの花』は、このアルバムに収録されていました。

ところがディレクター業を早川さんは1、2年で切り上げてしまい、音楽業界を完全に離れて、1972年に川崎市内に早川書店を開店することになります。

そうして1994年、なんと23年ぶりに音楽活動を再開。現在までに7枚のアルバムを発表。ライブDVDもありますし、書籍も――

ラブ・ゼネレーション 1972年
ぼくは本屋のおやじさん (1982年)
たましいの場所 (2002年)
日常で歌うことが何よりステキ (2010年)
いやらしさは美しさ (2011年)

と、冊数を重ねています。

早川義夫さんにとって、音楽から遠ざかっていた20数年間というは、どういう時間だったのでしょう。『たましいの場所』のなかで、こんなふうに書いています――

解散後2年ほど、僕は制作の仕事に就いたが向いてないことを悟り、23歳から24年間本屋で働いた。音楽も聴かず楽器も触らず、昔のことはいっさい振り返らなかった。音楽を中途半端でやめてしまった気持ち悪さと悔しさみたいなものが入り混じっていた。達成感も満足感もない。もしも喋るとすれば言い訳しかなかった。

早くおじいさんになりたかった。しかし、このまま歳をとりいざ死ぬ時、自分の体はちゃんと燃えないのではないかと思った。骨以外のものが残ってしまうような気がした。もう一度最初から歌おう。今度こそ悔いの残らぬように歌いたいと思った。


過去を恥ずかしがらずにするためには、あれで良かったのだと思うためには、やり残したことをやらなければならない。あのころと僕は何も変わっていない。いったい僕は何を歌いたかったのだろう。沈黙していた数十年間、実は歌っていたんだと思えるように歌いたかった。

こうして早川さんは長い長いインターバルのあとに、もういちど歌いはじめます。そうして生まれてくるのが、たとえば先ほどお送りした「パパ」のような、圧倒的にリアルな歌詞を持った歌でした。

二人のことは誰にも内緒だよ
特にママには秘密だよ
僕は君の父親のふりをして
君は僕の娘のふりをして
二人で一つのベッドにもぐりこみ
体を温める

外を歩く時は腕を組み
映画を見ながらも触れ合って
少年のような恥じらいと
老人のようないやらしさで
優しく翼広げて
心の中をなめあう

ものすごくいやらしくて、そのいやらしさを突き抜けた美しさにあふれていて・・・こんなふうに自分のこころのうちをさらけ出せるアーティストって、いまいるでしょうか。


『たましいの場所』のなかで、早川さんはこんなふうにも書いています――

なぜ、歌を作るのだろう。なぜ歌を歌うのだろう。言いたいことが言えて、やりたいことがやれて、吐き出せていれば歌は作る必要はない。語っても語っても言いそびれてしまうことや、心の底にくすぶっているものが歌になって生まれてくるのだと思う。本当のこと、言ってはいけないこと、言わなければよかったと思うようなこと、いや、やはりきちんと伝えておかなければならないことが歌われるべきことなのだと思う。

たとえば、歌を作るとき、僕の場合、作り話はできないから、実際にあったこと、経験したことしか書けない。だから、非常に恥ずかしい。それも、恋愛中は、歌など作る必要はないから、日常が歌っているようなものだから、すべてが終わったあとだ。だから、暗い。過去形になる。

歌は、悲しいから歌うのだと思っている。寂しいから、歌うのだ。人とは、違うから歌うのだ。何かが、欠けているから歌うのだ。もしも、楽しいのなら、もしも、幸せなら、満足しているなら、精神が健康ならば、なにも、わざわざ歌を作って人前で歌うことはない。すでにもう、日常で音楽が鳴り響いているのだから。


ゆえに、歌うことが偉いわけでも、ましてや、かっこいいわけでもない。歌わざるを得ないのである。たとえば、あの人から、ボクシングを奪ってしまったら、ただの不良少年になってしまうように、音楽を奪ってしまったら、犯罪者になってしまうように、小説を奪ってしまったら、狂ってしまうように、そんなところから、音楽とかボクシングとか小説は、出発しているのではないだろうか。

音楽を手段としてではなく、音楽を目的にしている人だけが、悲しみを表現できる。悲しみは作り出せない。悲しみは張り付いてしまったものだ。染み付いてしまったものだ。隠すことも、ごまかすこともできない。にじみ出てしまうのである。

もしかすると、変である。奇妙である。異常である。病気である。しかし、悲しみは、悲しいだけではない。美しい。色っぽい。人を慰め、そして、元気づける。

ライブが終わって会場が明るくなって、お客さんが出口に向かうと、ドアを開けた路上に早川さんが立っていて、ほんとうにひとりひとりに「ありがとう」と声をかけながら握手していたのが、すごく印象的でした。


『パパ』早川義夫+佐久間正英 2009.6.6 鎌倉歐林洞ギャラリーサロン

早川義夫・公式サイト:http://www15.ocn.ne.jp/~h440/

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
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編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
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編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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2012年、東京右傾化宣言!
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576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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