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AFTER HOURS
編集後記

2012年12月19日 vol. 047

今週もお付き合いありがとう! 表向きは教育県とか言いながら、実は連れ出し系タイパブの密集地帯だったりする長野県の奥深さを、スナックショットから感じていただけたでしょうか。平田さんの連載は原稿をもらうたびに、僕をものすごく落ち着かなくさせるというか、いますぐ車に乗って、どっか遠くに行きたくさせてくれます。

このあいだ石巻のデッドヘッズ・カフェ『ルーツ』の記事を書いたおかげで、去年買いながら積んだままになっていた『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP刊)を、ようやく読むことができました。発売当時、けっこう話題になった本なので、すでにチェック済みの方もいるはず。

で、おもしろいなあ、やっぱり! タイトルで引き気味だったひともいるでしょうが(僕も最初はそうでした)、中味は充実。かなりビジネス寄りに引っ張った内容ではありますが、それがふつうのビジネス書みたいに嫌みじゃない。しかも2時間ぐらいで読めちゃう分量です。

読んでもらえればわかるのですがグレイトフル・デッドという、ビートルズやストーンズと同じくらい古いバンドが、ジョン・レノンやポール・マッカートニーやミック・ジャガーみたいなスーパースターもいないのに、唯一無二の存在として半世紀近く信仰(ほとんど)されてきたこと。その核心にはよそと正反対のことをやる「コントラリアン・マーケティング」があると、著者は言います。

たとえばアルバムを売るためのライブではなく、ライブを中心に活動すること。そのチケットは自分たちで直接、ファンに売ること。そしてなにより、ライブ会場での録音を許す、というかむしろ奨励して、それをファン同士で交換してもらうことによって、巨大なコミュニティを築いていくこと――これって、いまのインターネットをめぐる状況そのままですよね! ただグレイトフルデッドは、こういうことをすべて、いまから40年以上前にやってたわけです。

で、読んでいてドキッとしたのは、これって僕がいま、メルマガでやっていることとまったく同じじゃないかと! 毎号、最後に書いているように、このメルマガのすべての記事は、引用上等! ツイッターでもFacebookでもブログでも、どんなボリュームであれ、自由に引用してもらってかまいません。記事を売ったり、本をつくったり、みたいに商売にさえしないでもらえれば。

それに、僕は写真の展覧会も開くのですが、それが大きな美術館であろうと小さな画廊であろうと、写真も動画もすべて撮影自由にしています。

コピープロテクトをかけるとか、画像の上にクレジットを薄く乗せるとか(よくありますよね!)、そういうセコい手段で小さな資産を守るよりも、どんなかたちでもいいから、なるべく情報を拡散させたい。だって、みんなに知ってもらいたいから僕は取材してるのであって、「作品」をつくろうという意識で写真撮ったり、文章書いてるわけではないですから。だれが撮ったか、なんてどうでもいい。だれを、どこで、なぜ撮ったかのほうが、僕にははるかに重要です。それがささやかな収入につながっていければ、それでいいじゃないかと。

ただコントラリアン・マーケティングというのは、「逆張り」とはちがうはず。みんなのやらないことをやるのが成功の秘訣、とは限らない。グレイトフルデッドは最初から逆張りを考えて、よそとちがうやりかたをやってきたのではないでしょう。あくまでも最初に「自分たちの音楽はこういうふうに聴いてほしい」という理念があって、それがたまたま業界の常識と正反対だったというだけのこと。そして、その理念を貫きとおす勇気があったということでしょう。

このメルマガをスタートするときに、本書を読んでいたわけではありませんが、今回の読書体験は、締め切りに追われまくる僕をずいぶん勇気づけてくれました。デッドのアイデアを、いちいち企業の成功パターンに当てはめていく書きかたに違和感を覚えるひともいるでしょうが、いまなにかを始めようとしているひとには、なによりの応援歌になるかもしれません。

今年もあと1号、来週も盛りだくさんでお送りします。お楽しみに! そしてメリー・クリスマス!


グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ [単行本]

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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