• TOP
  • 編集後記

AFTER HOURS
編集後記

2013年10月02日 Vol.085

今週も最後までお付き合いいただいて・・・お疲れさまでした! 長かったですね~~、笑。

江上茂雄さんとモンド画伯、ふたりのアーティストにお会いしたのが、先週の水、木曜日。それが1週間足らずで記事として配信できちゃうのだから、ネットってすごいというか、怖いというか。

なので先週は福岡に行って、中原昌也トークもして、死刑囚展も見て、さらに告知でお知らせした現在開催中のシリーズ「サウンド・ライブ・トーキョー」のうち、原宿VACANTで28日夜に開かれた、「ラジカセ・メロトロン化計画featuring嶺川貴子」にも行ってきました。


これがラジカセ・メロトロン、世界に一台!

会場の大きな壁面には、一面に貼り付けられた総計50台ものラジカセ! これぞ現代日本が誇る「ラジカセ博士」&「ラジカセ再生工場・工場長」である松崎順一さんが、数年間にわたって育んできたアイデアの、ひとつの到達点なのです。

ラジカセ愛が嵩じて、デザイン・アンダーグラウンドなる工房を、足立区花畑の団地に開いた松崎さん。『ラジカセのデザイン!』という著書もあるし、僕も『東京右半分』で詳しく紹介したので、ご存じの方も多いはず。その松崎さんとラジカセの物語を、以前こんなふうに書いたことがあります――。

 「パキスタン人が盗難車を集めてこっそり輸出」とか「大量の自転車が万景峰号に積まれて北朝鮮に」なんて事件が話題になるたびに、出てくるのが「ヤード」という存在である。山奥や休耕地の一角を高い塀で囲んで、廃棄された自動車、自転車、家電製品などを集めて海外に送る一時的な集積地だ。
 中東から東南アジアまで、各国からバイヤーが出入りするヤードで、発展途上国向けの家電製品としてもっとも人気が高いのは、テレビでも冷蔵庫でもなく、ラジカセなのだという。まだ電気の来ていないような地域でも、ラジカセなら電池で作動するから、それでラジオを聴くというのだ。ラジオで音楽やニュース番組を聴くだけなら1ヶ月ぐらいは電池が持つラジカセは、そういう地域に暮らす人々にとって、外界との貴重なコミュニケーション・ツールである。
 タイやベトナムの街角で、CDと並んでカセットがドンと積まれているのを見たことがあるひとも多いだろう。アメリカヤヨーロッパのミュージック・ショップでも、まだまだCDと同時にカセット版を発売する新譜がたくさんある。このウェブサイトを見ているような方は、いまやCDすら買うことなく、ダウンロードばっかりというタイプかもしれないが、日本だって演歌業界、カラオケ業界においては、いまだにカセットテープが重要な位置を占めている。演歌専門のレコード店に行けば、いまでもCDと並んでカセットのミュージック・テープが売られているし、店頭には録音用の空テープが山積みされている。
 レコード店主によれば、カラオケの練習をするのに「1小節巻き戻す」といった細かい操作にCDプレイヤーを使うのはとても無理で、特に年配のお客さんにはカセットが好まれているのだという。たしかにそのとおりで、操作性のインターフェイスという観点からすれば、現在のCDプレイヤーやMP3プレイヤーよりも、アナログなカセットのほうが、はるかに優れている。しかもCDやMP3データは、1ヶ所でも1破損すればデータ全体が読み取れなくなってしまうが、テープだったらつなげばいいだけのこと。
 カセットを聴くのに必要なのが、ラジカセだ。1960年代末に日本で生まれた偉大な発明であるラジカセ。ちなみに「ラジカセ」という名称を最初に使ったのは、カーステレオやカーナビ、レーザーディスクも世界に先駆けて商品化したパイオニアだと言われている。
 ラジオが聴けて、カセットがかけられて、録音もできて、AC電源でも乾電池でも駆動するラジカセは、音楽が室内に縛りつけられることから一歩先に進んだ、画期的な技術だった。もしかしたらウォークマンよりもノートパソコンよりも、ましてやiPodなんかよりも、はるかに。
 1980年代のアメリカにおいて、創生期のヒップホップ・シーンを支える存在として「ブームボックス」、「ゲットー・ブラスター」などと呼ばれ愛されたのを、覚えている方もいらっしゃるだろう。音楽をストリートに持ち出すこと。自分だけのサウンドシステムを持ち歩けること。ヒップホップ・カルチャーの誕生は、ラジカセなくしてはありえなかったかもしれない。
 そして1970年代から80年代にかけて、世界を席巻したラジカセはほとんどすべて日本製だった。サウスブロンクスでは日本製のラジカセを黒人たちが肩に担ぎ、北京では特権階級のアパートでラジカセから流れるムード・ミュージックに合わせて社交ダンスに興じるひとたちがいた。
 そんなラジカセが、いまでは「CDやMP3プレイヤーを買えない、使いこなせない」、テクノロジー弱者のための“貧者のオーディオ”に成り下がり、あまりに子供っぽく見にくいデザインの商品だけが、かろうじて電器屋の片隅に置かれているのは、こころ痛む光景である。
 1970年代から80年代にかけてラジカセが世界を席巻した時代の、重厚かつ硬質なデザインを懐かしむ声は少なくない。実は欧米にもアジア諸国にも、熱狂的なラジカセ・コレクターがたくさんいて、修理用のパーツも海外のほうがずっと入手しやすかったりする。
 自動車などと同じく、現在の家電はブラックボックスと化し、どこかが壊れたら「修理」ではなく「交換」するだけ。でもラジカセはテープが回っているのも、駆動部分も内部の配線もぜんぶが目に見えて、そして手を加えることが可能な「メカ」であることに、まず魅力がある。いま使っているiPodを30年後まで修理して使いつづけることは考えられないが、ラジカセならそれが充分可能なのだ。
 現在の音楽ディバイスに較べ、ラジカセは異常なまでに大きくて、重い。それが音の良さにもつながっているし、インテリアとしても成立しうる。そしてカセットテープはどんなハードディスクやCDRよりも安定して長持ちする記憶媒体だし、自分で録音することも容易だ。世界中のどこを旅しても、店頭で買えるCDは商品としてパッケージされた音楽だろうが、フリーマーケットなどではわけがわからないカセットテープが投げ売りされていて、そういうのを聴いてみると、ただのおしゃべりや声のメッセージ、自然音などがそのまま録音されていることがある。あるいは自分なりのコンピレーションに、手書きの曲目リストを小さな字で書き込んであるテープだったり。そういう、生活の匂い、テープを作った人間の息づかいが感じ取れるのは、カセットテープというメディアならではの特性だ。
 いま、古物店やフリーマーケットでかっこいいラジカセを見つけても、たぶんそのほとんどはまともに動かないし、メーカーのサービスセンターに持ち込んで修理してもらえるわけでもない。ほしいけど、飾っておくだけじゃなあ・・と購入を躊躇した経験を持つ方もいると思う。でも、最近では70年代、80年代の黄金期のラジカセに魅せられたひとたちが、独自の修理・再販ショップを立ち上げるようにもなってきた。東京・足立区のデザイン・アンダーグラウンドは、そういう「ラジカセ再評価ムーブメント」の先頭に立つ個人工房だ。
 自分たちが生み出しておいて、その真の価値を認識しないまま捨て去ることが、もしかしたら世界中でいちばん得意な日本という国。失われたラジカセ文化もまた、その不幸な犠牲者なのだった。
 (ArtIt Webより)

最近ではカセットの良さを再認識した、若いアーティストたちがカセットで新譜をリリースすることも増えてきています。そうしたなかで松崎さんが、足立区の片隅でコツコツと製作してきた「ラジカセ・メロトロン」は、50台のラジカセの、ひとつひとつに音源のテープを入れ、それをキーボードで操作することによって、往年のメロトロンを現代に蘇らせた、アナログのサンプリング再生マシンが生み出されたわけでした。


いずれも年代物のラジカセ。主力機はちょうど40年ほど前のものだという

今回そのラジカセ・メロトロンを駆使してパフォーマンスをしてくれたのは、嶺川貴子さん。先日DOMMMUNEで拝見したばかりですが、ライブはほんとうに久しぶりでした。終わったあとでちょっとお話したら、今回使用した音源は、嶺川さん自身が録音、用意したものだそうで、「まるで自分で新しい楽器を作ってるみたいでした」と楽しそう。ほんとにそうですよね! 


演奏する嶺川さんの後方には、機械の動作を見守る松崎さんが控える

ライブの際には、まず嶺川さんが1台のラジカセの前でスティックを叩いたり、チューブをぐるぐる回して出てくる音を録音し、それを壁のラジカセに挿入、演奏に使用するという、アナログ感満載のパフォーマンスもありました。松崎さんのほうは「もっと台数を増やして、もっと完成度を上げて、いろんな場所でやりたいんです!」と意気軒昂。

デジタルとは微妙に異なる、温かい音色がなんともいえないラジカセで構築する、ゆったりと豊かな音場。ラジカセは出力が小さいので、50台合わせても爆音にはほど遠いのですが、それがなんだか蓄音機でSPレコードを聴いているようでもあって、会場の壁を外に広げていくような感覚でもありました。








長く鳴らしたい音は、鍵盤に金属製の錘を置く!

今回は特別に松崎さん、嶺川さん、VACANTから許可をいただいたので、当日の演奏の短いダイジェストを、読者限定でお送りします! 静かに、穏やかに、お楽しみください。


ラジカセ・メロトロン化計画@原宿VACANT、2013年9月28日より。照明インスタレーションは堀尾寛太さん

「サウンド・ライブ・トーキョー」は今週末までプログラムが続行中。週末にかけては鶯谷の東京キネマ倶楽部で『倉地久美夫+マヘル・シャラル・ハシュ・バズ』、上野の東京文化会館で『飴屋法水+工藤冬里』などという、かなり興味深いライブもあるので、ぜひご参加を。


Sound Live Tokyo 2013:http://www.soundlivetokyo.com/

松崎順一/DESIGN UNDERGROUND : http://www.dug-factory.com/


『Tropical Circle』は、13年ぶりとなる嶺川貴子と、Dustin Wongの共作による新譜

  • TOP
  • 編集後記

AFTER HOURS BACKNUMBERS
編集後記バックナンバー

FACEBOOK

BOOKS

ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

SHOPコーナーへ


ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

SHOPコーナーへ


圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

amazonジャパン


ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

amazonジャパン


独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

amazonジャパン


ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

amazonジャパン


東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

amazonジャパン


東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

amazonジャパン