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AFTER HOURS
編集後記

2018年08月01日 Vol.318

今週も最後までお付き合いありがとうございました。新連載を含め、長い記事が集まりましたが、気に入っていただけたでしょうか。渡辺豪さんとフリート横田さんの新連載「赤線酒場xヤミ市酒場」は、いままでありそうでなかったジャンルのトラベル・ストーリー。これからだいたい月にいちどのペースで掲載を予定しています。赤線&ヤミ市ファンのみなさま、ご期待ください! 興味を持ってもらえたら、ぜひ記事中で紹介した酒場にも足を伸ばしていただけますよう。そして好評連載中の、安田理央さんの「日本エロ雑誌創刊号コレクション」は今週お休みをいただき、来週に第4回を掲載予定。1980年代後半のエロ雑誌爛熟期に突入するはずなので、僕も原稿を読ませてもらうのが待ちきれません!


先週土曜日(7月28日)は神保町大学で「Welcome to Hell 地獄の歩き方」のトーク。おそらく日本でただひとり、タイですらだれもいないんじゃないかという、タイの田舎の地獄寺をアカデミズムの立場から研究する「地獄ちゃん」との2時間トーク。その日はちょうど迷走台風が東京をヒットした日で、開始時刻あたりには大雨。チケットは早々と売り切れだったものの、いったい何人来てくれるんだろう・・・と心配しながら、僕もゴム長着用で会場に向かったのですが、なんと満席! ま、テーマも地獄だし!笑 さすがマニアさんは大雨ぐらいものともせず。夕方5時から8時近くまで、大盛り上がりのうちに無事終了しました。現在、早稻田大学の博士課程に在学中の地獄ちゃんですが、「指導教官からも、ほぼ放置状態(笑)」という孤高の研究に打ち込む日々。先行研究すらないしね。そのエネルギッシュなフィールドワークの成果は、ツイッターでもチェックできるので、フォローよろしくお願いします。

タイの地獄寺 @jigokudera
わたしの研究目標は、地獄寺を珍スポットという観点からだけではなく、宗教的・社会的また政治的な要因が複合してうまれたひとつの「現象」として、また地獄表現の系譜において看過することのできないものだと捉え、学問の世界でその地位を確立させることに尽きます。
(ツイートより)

そして翌29日の日曜日は台風一過、猛暑がぶりかえす中を、代々木公園の「台湾フェスタ2018」へ。ご存じのかたも多いかと思いますが、代々木公園では毎週のようにいろんな国のイベントが組まれていて、僕もアジア圏のフェスタにはけっこう遊びに行ってるんですが、今回のお目当ては台湾の屋台料理・・・じゃなくて「電音三太子」!


電音三太子については、2013年1月16日号の後記で書いたほか、同年10月16日号では「電音三太子、世界を行く!」と題した記事で、三太子の扮装(重量17キロ!)を抱えて世界中をめぐり、三太子パフォーマンスを繰り広げている呉建衡(ウー・ジェンヘン)さんもインタビュー付きで紹介しています。




台湾の現代大衆文化を象徴する存在であり、意識高い系のインテリ台湾人にはけっして歓迎されない電音三太子。今回はビーフンで有名な新竹からのチームが初来日ということで、これは「暑いから無理」とか言ってる場合ではありません。


新竹の三太子チームは、聞けばなんと全員女子による編成だとか。あの重い衣装で、たぶんステージ上は40度を超すんじゃないかという暑さのなか、独特のちゃらいテクノにあわせて軽快なパフォーマンス。おまけに最後には客席に降りてきて記念撮影までしてくれるサービス付き。「子供さんたちのために」やってくれたらしいですが、子供を押しのける勢いでオトナたちも群がって(含む自分)、興奮のひとときでした。


2013年の記事では、電音三太子をこんなふうに説明しています――

台湾は韓国と並んで、激しい受験戦争で知られています。小学校どころか幼稚園から塾通いという子供もたくさんいて、日本よりもはるかにタフな環境で、子供たちは日々戦ってます。で、当然ながら脱落者も出てくる。その受験戦争から落ちこぼれた子供たちはどこへ行くのかと思って、現地の友達に聞いてみたら、「お祭りで踊るんです」と!

お祭りで踊らないか、と先輩や友人から誘いがかかると、台湾ではそれが不良化への重要な第一歩だそう。誘いかけるのはだいたい街の不良グループで、子供の親たちは「うちの子が祭りの踊りに誘われた、どうしよう」とオロオロするのだとか。

お祭りで練り歩く若者たちを見てみると、たしかに黒の革ジャンやジャージをワルな感じで着こなしているタイプが多く、ちょっとヒップホップというか、ギャングスタな雰囲気。なかでも人気なのは「かぶりもの」を身につけた神様役で、顔が見えないという利点を活かし、廟会で踊りまくるのがお約束。

聞いたところでは、そういう神様役のうちでも、最近は「電音三太子」と呼ばれるキャラが大人気だとか。三太子とは「ナタ」とも呼ばれる道教の少年神で、「蓮の花や葉の形の衣服を身に着け、乾坤圏(円環状投擲武器)や混天綾(魔力を秘めた布)、火尖鎗(火を放つ槍)などの武器を持ち、風火二輪(二個の車輪の形をした乗り物。火と風を放ちながら空を飛ぶ)に乗って戦う」(wikipediaより)のだそう。

「電音」とは、漢字から察せられるようにテクノ系のダンスミュージック。なので「電音三太子」とは、ちゃらいテクノ・ディスコに乗って、廟会や各種イベントで踊りまくる、新たなタイプのパフォーマーなんですね。youtubeでも、いっぱい動画がアップされてます。


電音三太子「BOBEE 保庇」演出


2012屏東萬丹元宵節/電音三太子


保庇正妹團:台版AKB48-大甲鎮瀾宮記者會 2011.5.28
こちらは台湾版AKB48との競演!

不良のダンスといえば、我が国では「よさこいソーラン」にとどめをさすわけですが、「電音三太子」はその台湾版なのかも。ドロップアウトと音楽とダンスが結びつくなんて、ちょっとうれしいというか。横浜中華街とかでも、ぜひ一大パフォーマンスを披露していただきたいものです! 台湾、やっぱりいいなあ。

会場を包む臭豆腐の香りと、三太子のテクノミュージックと、暑さで朦朧となってるうちに、またすぐ台湾に行きたくなりました。


ちょうど来週は、台湾の話題もメルマガで掲載予定。お楽しみにお待ちください!

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

特設販売サイトへ


ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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ROADSIDE BOOKS
書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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