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都築 響一

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Wasabi~裏長屋の変身アトリエ

上野と浅草のちょうど中間にある台東区松が谷。日本一の調理道具街・合羽橋があることで知られる松が谷は、その便利なロケーションにもかかわらず、地下鉄の最寄り駅(銀座線稲荷町/田原町)から徒歩十数分という

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周回遅れのトップランナー 田上允克 [前編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。現代美術ではなく、かといって日展のような伝統(?)美術でもない。自分だけの絵を、自分だけで描きつづけて数十年・・・

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「大阪式」に生きるということ

いまからもう10年以上前のこと、大阪の小さな写真専門学校でトークに招かれ、そこは写真館の跡継ぎ養成みたいな地味な学校だった。学生寮があるというので、「寮の中を撮影させてくれるなら」という交換条件で引き受けたトークを終えたあと、生徒たちの緊張感のないポートフォリオを見せられて、そのなかでひとりだけ、きわだってヘンテコで輝いていたのが梅佳代だった。

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interview

烈伝・ニッポンの奇婦人たち 1 旅館『西の雅・常盤』女将 宮川高美 前編

テレビの旅行番組やバラエティなどでもおなじみの『女将劇場』。番組で観たことある、という方もいるだろう。温泉に入るよりも、これを見たさにわざわざ湯田温泉に来る客も大勢いる、いまや当地きっての名物だ。そして有名になればなるほど、地元の人間からは「イロモノ」として一歩引かれた視線を浴びつづける、孤高の存在でもある。

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烈伝・ニッポンの奇婦人たち 1 旅館『西の雅・常盤』女将 宮川高美 後編

365日休みなし、毎晩8時45分からたっぷり1時間半にわたって繰り広げられる女将劇場。先週はそのステージの様子をお伝えしたが、今週は女将劇場の演出家であり、舞台監督であり、主役でもある大女将・宮川高美さんのインタビューをお送りしよう。老舗旅館の娘に生まれながら、これでもかというぐらいの、苦労と試練の連続。

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福岡郊外に隠された匠の理想宮・・ 鏝絵美術館探訪記

「鏝絵」・・・「ウナギ絵」じゃありません、これで「こて絵」と読む。「鏝」とは左官屋さんが漆喰を塗るのに使う、あのコテ。したがって「こて絵」とは漆喰を素材にして、こてで描かれたレリーフ様の半立体美術作品である。 こて絵といえばまっさきに名前が挙がるのが、「伊豆の長八」こと入江長八。幕末から明治にかけて活躍した稀代のこて絵師であり、伊豆松崎には石山修武の設計になる『伊豆の長八美術館』があるので、訪れた経験のある方も多かろう。

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烈伝・ニッポンの奇婦人たち 2 切腹アーティスト 早乙女宏美 [前編]

早乙女宏美はおそらく日本でただひとりの「切腹パフォーマンス・アーティスト」である。そしてピンク映画からSMビデオまで、数々の映像で男たちを魅了してきた伝説の女優であり、SMショーの花形であり、作家でもある。業界では知らぬもののない存在でありながら、一般のメディアからは不当に過小評価されつづけてきた、アンダーグラウンドのミューズ。その劇的な半生をこれから2週にわたってご紹介する。

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烈伝・ニッポンの奇婦人たち 2 切腹アーティスト 早乙女宏美 [後編]

1983(昭和58)年、新宿東口の伝説的“ポルノデパート”ファイブ・ドアーズで働きはじめた早乙女宏美、ちょうど20歳になったころだった。ノーパン喫茶ふうのラウンジにテレフォンセックス、ポラロイド撮影など「5つのコーナー」にわかれていたファイブ・ドアーズは、ビニ本やピンク映画に女優さんを供給するプロダクション部門も持っていて、早乙女さんはそこに所属、本格的に雑誌モデルの仕事を始めるようになっていた。

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いちばん近くて遠い街 釜山逍遙 前編

それまでも急ぎ旅の途中で立ち寄ることはあったけれど、初めてきちんと釜山を体験することができたのは2006年の春だった。芸術新潮誌の韓国特集のために、福岡からフェリーで釜山入り、帰りは飛行機で成田に帰ってくるというルートで、1週間ほど滞在、ひとりでひたすら街を歩き回った。当時使いはじめたばかりのデジカメと、木製の大型カメラを改造した手づくり針穴写真機を背負って。

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周回遅れのトップランナー:仲村寿幸

2008年春、渋谷のポスターハリス・ギャラリーという小さな画廊から来た展覧会案内には驚かされた。展覧会のタイトルは『擬似的ダリの風景』。仲村寿幸というアーティスト名にはまったく聞き覚えがなく、時代感覚を超越したような、ばりばりのシュールな絵にも興味がわいたし、「初個展―苦節30年、積年の思念が遂に成就」というサブタイトルにも惹かれたが、それよりもなによりも、葉書に刷られた「作品管理者求む、全作品寄贈します!」という一行に度肝を抜かれたのだった。

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art

ワタノハスマイルが気づかせてくれたもの

大震災で壊滅的な被害にあった宮城県石巻市の小学校で、山積みにされたガレキをつかって、子供たちがこんなにおもしろい作品をつくっていて、それがもう日本中を巡回していることを、僕はうかつにもまったく知らなかった。 その小学校の名前を取って「ワタノハスマイル」と呼ばれるプロジェクトは、今週25日からイタリアに渡って展覧会を開催する。僕にとってはヴェニス・ビエンナーレとかより、はるかに興味深いその展覧会のために、石巻の子供たちを連れて渡航する準備で忙しい主催者の犬飼ともさんから、お話を聞くことができた。

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南国地獄をあとにして・・・

地獄はおのれの内にある・・のかもしれないが、外にもあるんだな! というわけで先週日曜の深夜、浅草キッド(水道橋博士・玉袋筋太郎)のおふたりと、江口ともみさん(つまみ枝豆夫人でもありますね)という豪華メンバーとともに、タイの地獄寺&特選珍スポットを巡った『別冊アサ秘ジャーナル』、ご覧いただけたでしょうか。深夜とはいえ、あの内容で90分とは・・プロデューサーも賭けに出ましたねえ。あれ全部、2泊3日の弾丸ツアーで撮影しちゃったのだから、テレビってほんとに大変です。

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圏外の街角から:福岡県大牟田市

長らく扉を閉ざしていた『富士』を改装して、ライブスペース『大牟田ふじ』として甦らせたのが、ディレクターを務める竹永省吾さんだ。僕は去年の秋に大牟田を訪れて知り合ったばかりなのだが、こんな寂れた街にライブハウス! という驚き以上に、オープン当初から灰野敬二、渋谷慶一郎、さらには海外からバリバリのハードコア、ノイズ系アーティストを呼んで、地元のバンドとカップリングさせるという無謀というか、東京でもなかなかない先鋭的なブッキングに度肝を抜かれたのだった。

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art

周回遅れのトップランナー 川上四郎

冬の陽が明るい畳敷きの一室で、目の前にずらりと絵画作品と写真プリントを並べて、ニコニコしている小柄な老人。絵も写真もずっとアマチュアでやってきた彼の作品を、名前を知るひとはいないだろう。でもいま、こうやって畳に座ってお茶を飲みながら見せてもらってる絵にも、写真にもオリジナルとしか言いようのない感覚があふれていて、画用紙やプリントをめくる手が止められない。だれも知らない場所で、だれも知らないひとが紡ぎ出す、だれも見たことのない世界・・・。

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マイ・フェバリット・オールド・バンコク 1

先月はこのメルマガで、タイの田舎の地獄庭園や個性的なミュージアムをご紹介した。タイ好きな方ならご存じだろうが、いまバンコクは、かつての東京のような激変の最中にある。というわけで古き良き東南アジアの都市風景を形成してきた「バンコクらしいバンコク」がどんどん消えていくいま、ショッピングやグルメやエステはちょっと置いといて、フィフティーズからセヴンティーズあたりの風情を残す、貴重な現存スポットを歩いてみてはいかがだろうか。

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art

妄想芸術劇場:ぴんから体操展に寄せて

僕らが考えるプロフェッショナルなアーティストとは180度異なる創作の世界に生きる表現者が、それもメディアの最底辺にこれだけ存在していること。それをいままでほとんどだれも認識せず、もちろん現代美術界からも、アウトサイダー・アート業界からも完全に無視され、投稿写真マニアからさえ「自分たちより変態なやつら」と蔑視されながら、いまも生きつづけ、描きつづけていること。妄想芸術劇場とは、そうした暗夜の孤独な長距離走者を追いかける試みである。そして、そんな報われることのない長距離走の、もっとも伝説的なランナーをひとり挙げるとすれば、「ぴんから体操」であることに異議を唱える愛読者はいないだろう。

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interview

コラアゲンはいごうまんの夜

このメルマガで、お笑いを取り上げることはほとんどありません。つまり、僕自身はそれほど現在のお笑いシーンに興味がないのですが、久しぶりに、このひとはすごい! と脱帽する才能にめぐりあいました。それが「コラアゲンはいごうまん」という、奇妙な芸名のコメディアンです。ご存じの方もいると思いますが、コラアゲンはワハハ本舗所属の「体験型ドキュメンタリー芸人」です。

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travel

圏外の街角から:神戸市稲荷市場

三ノ宮からJR神戸線の下り電車に乗ると、数分で着いてしまうのが神戸駅。名前が示唆するように、東海道線の終点駅であり、山陽本線の始点駅である神戸駅は、かつて神戸の鉄道網の中心だった。しかし時は過ぎ・・神戸駅を南下したあたりにあった兵庫港から、神戸港に物流の中心が移ったのと同じく、ひとの流れが三ノ宮側に傾いてしまった現在、東京駅や大阪駅のような感覚で神戸駅に初めて降り立つものは、だれしもが「ここが神戸の中心!?」と絶句するはずだ。

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art

おとなしい顔の魔界都市:広島県福山市アウトサイダー・アート紀行

「占」「占」「占」「占」「ピタリ当たる」「神界」「大天国」「的あたーれ」・・・独特の丸文字と原色の描き文字看板で、初めて見るひとをギョッとさせ、見慣れたひとの目を伏せさせずにはおかない、あまりにインパクト充分な木造モルタル家屋が、サウナとパチンコ屋のあいだに挟まって、きょうも精一杯の自己主張を繰り広げている。ここが福山きっての裏名物『占い天界』(正式名称・新マサキ占術鑑定所)だ。

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book

春の書評特集

身軽になりたい、モノに埋もれたくないと思っても、いつのまにか溜まってしまう本や雑誌。なかなか新聞や雑誌では紹介されない、でもみんなに知ってほしい新刊を、これから「書評特集」として、年に何度かまとめてレビューしたいと思います。だいたい500字とか1000字とかしかくれない新聞や雑誌の新刊紹介で、気に入った本のちゃんとした紹介なんてできるわけないし! というわけで、今回は4冊の写真集を選んでみました。

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突撃! 隣の変態さん 1 チェリスQ

都内某所、私鉄沿線の駅を降りて商店街を抜けた先に「チェリスQ」の基地がある。屋根裏部屋を使った、立つどころか四つん這いでないと入ることも動くこともできない、その超高密度空間に案内されて、僕はしばし言葉を失った・・。 チェリスさんは「美少女系ドーラーコスプレイヤー&美脚着ぐるみパフォーマー」だ。大型美少女仮面を頭からかぶり、からだにはコスチュームをまとって、イベントに出没したりパフォーマンスを展開する「着ぐるみマニアさん」のなかでも、知らぬもののないベテランのひとりである。

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art

大竹伸朗展@富山県立美術館

昨年11月に東京国立近代美術館でスタートした大竹伸朗展が、今年5~7月の松山市・愛媛県美術館を経て、8月5日から富山市・富山県美術館で始まった。3カ所を巡回する今回の展覧会の、これが大団円の地となる。 ゴールデンウィークに始まった松山展に続いて、夏休みと重なるタイミングで展覧会が開かれる富山県美術館は、2017年に開館した新しい美術館。「富山県美術館 アート&デザイン(TAD)」という名称のとおり、アートとデザインの領域をまたぐ活動を展開する珍しい美術館だ。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 1

今週、来週の2回にわたって、そのドクメンタの「理想と現実」、「コンセプトとリアリティ」を、僕なりに考えながらリポートさせていただく。その1回目は、56の国・地域から約190人/組が参加したなかで、唯一の日本人アーティストとなった大竹伸朗の作品『モンシェリ:スクラップ小屋としての自画像』を、作家本人の言葉を交えながらたっぷりご紹介しよう。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 2

先週に続いてお送りする「ドクメンタ13」リポート。今週は広大な会場を歩き回りながら(これから訪れるひとには自転車レンタルを強くおすすめしておく)、なにを見て、なにを考えたのかをなぞってみようと思う。

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photography

うれし恥ずかし駅前彫刻

ある日、友人から届いた封書には「都築くんならこういうの好きかと思って・・」というメッセージとともに、小さな手づくり雑誌が2冊入っていた。『駅前彫刻』と『駅前彫刻2』と題されたそれは、名前のとおり駅前や公園や道端に、だれにも気にされないままひっそりたたずむ、ブロンズや石の彫刻作品を撮影した写真集だった。

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interview

突撃! 隣の変態さん 3 ラバーマン

フェティッシュ・イベント「デパートメントH ゴムの日スペシャル」で、スレンダーな肢体にぴたぴたのラバーをまとう美男美女がステージを埋める中、際だって異彩を放っていたのがこのひと、「ラバーマン」だった。 フェティッシュ、ビザールというファッショナブルな言葉よりも、「異形」という漢字がいちばんよく似合う、それはただひとり異界に君臨する孤独な王の風情だった。台車の玉座と、ガスマスクの王冠と、ラバーの王衣にくるまれた・・・。

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art

日本でいちばん展覧会を見る男

日本でいちばん展覧会に行ってるひとって、だれだろう。僕はこのひとだと思う――山口“Gucci”佳宏、通称「グッチ」さん。でも、彼は美術評論家でもなければ学芸員でも画商でも、美術運送業者でもない。グッチさんはレゲエ・ミュージックに長く関わってきた、生粋の音楽業界人なのだ。グッチさんが行った展覧会を数えると、ここ5年間でこういう数字になる・・2007年 539、2008年 724、2009年 1106、2010年 585、2011年 677

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fashion

池袋のラバー女神たち

5月6日=「ゴムの日」にちなんだ、フェティッシュ・イベント「デパートメントH ラバーマニア大集合」編リポートを、5月9日配信号でお届けしたが、そのステージで大フィーチャーされたのが池袋に拠点を置くラバー・ファッション工房『KURAGE』。この2月にはNHKの「東京★カワイイTV」でも特集されたので、番組で見た!という方も多いのでは。そのKURAGEが新店舗開設を記念して、いま東新宿軍艦ビル内のワンルーム・ギャラリー『どっきん実験室』にて、初の展覧会を開催中だ(7月28日まで)。

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女性のようにオシッコできたら―― 岡田快適生活研究所の孤独な挑戦

松山空港に着いて外に出てみると、空気が煙って見えるほどの豪雨だった。とりあえずタクシーに乗り込み、グーグルの地図を見せると、ほんの10分ほどで指定された住所に着いたのだが・・そこは田んぼが広がる中の一軒家。ここがほんとにそうなの? タクシーの運転手さんも、「確かめるまで待っててあげましょうか」と心配顔だ。岡田快適生活研究所――いま性同一障害のひとや、女装子さんたちの注目を集める「ペニストッキング」をはじめとする、素晴らしく独創的なラインナップのスーパー特殊下着を次々に開発・販売しているメーカーが、東京でも大阪でもなく、松山の市中ですらなく、失礼ながらこんな場所にあって、こんなに普通の家から日本全国に送り出されているとは、だれが想像できようか・・。

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travel

みちのく路の特殊美術喫茶・ブルボン

福島県いわき市・・県内最大の都市であり、東北全体でも仙台に次いで第2の人口を誇っているが、いかんせん知名度の低さはいなめない。先週号の編集後記でも触れたように、去年の大震災では死者310名、家屋の全半壊が数万軒にのぼる甚大な被害を出しながら、石巻などのようにマスコミに取り上げられる機会もほとんどないまま。福島第一、第二原発から30~70キロ圏内にあることで、なかなか観光客も戻ってこない。スパリゾートハワイアンズも、ようやく2月に全面再開したのに。 そのように地味なイメージを払拭できないいわき市ではあるが、珍スポット・ハンターたちには広く知られた名所がある。市内中心部、平(たいら)1丁目交差点近くにある『喫茶ブルボン』だ。

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バンコク猟盤日記

来週はお盆! 夏休み! メルマガに休みはないけど・・・。というわけで、来週はタイで夏休みを過ごそうというひともいるでしょう。羨ましい・・・。 ご飯にショッピングにエステ、いろんな計画を立てているみなさまに、今回はタイのレコード屋めぐりをおすすめする「バンコク猟盤日記」。タイ語が読めなくても、タイの音楽にまったくなじみがなくても、ジャケットを見ているだけでうっとりしてしまう、タイ製アナログ盤の魅力をご紹介しよう。僕がタイに通いはじめたのは、いまから10年ぐらい前。そして2004年から数年間は、年に何回もバンコクに通う「ハマリ状態」に。

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圏外の街角から:鳥取市若桜通り

鳥取駅から県庁に向かって北に真っ直ぐのびる本通り(若桜通りとも)が、鳥取市のメインストリート。その両側と、左右にのびる商店街が、かつては鳥取市の買い物需要を一手に引き受けていた。本通りあたりの街並みは、実は近現代建築史の分野ではよく知られた存在なのだという。鳥取市は太平洋戦争最中の1943年に、死者1210人を出した大地震と、戦後間もない1952年の「鳥取火災」と呼ばれる、市内全世帯の約半数を焼失した大惨事によって、市内中心部の歴史的な街並みをほとんど失ってしまった。

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art

軽金属の娼婦たち

いっとき、日本でだれよりもよく知られたイラストレーターで、いまはほとんど雑誌でも広告でも作品を見ることのなくなってしまったひと、それが空山基(そらやま・はじめ)である。「ソラヤマ」の名前を知らない世代でも、あのメタリックなアンドロイド美女のイメージは、どこかでいちどは見たことがあるだろう。空山さんはいま、商業イラストレーションではなく、オリジナルのドローイングを国内・海外のギャラリーで展示販売する、画家としての活動に集中している。

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interview

突撃! 隣の変態さん 4 円奴

男に生まれて、ゲイになって、女装子になって、ついに本物の女になったひと。グラフィックデザイナー、イラストレーター、キャラクターデザイナーで、パフォーマーでありダンサーで、女装サロン・オーナーで、そうしていまは画廊経営者でもあるひと。こんな経歴の持主って、ものすごく複雑で、ものすごく純粋なのにちがいない。このメルマガでも以前に紹介した歌舞伎町職安通り・軍艦ビル内のギャラリー「どっきん実験室」を運営する円奴(まるやっこ)は、そんなふうにユニークな存在だ。

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夏の終わりの絶叫体験

まだバブルの酔いから日本中が覚めきらなかった1992(平成4)年、後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ)で『ルナパーク』というイベントが始まった。そのルナパーク内で異彩を放っていたのが、お化け屋敷だった。『麿赤児のパノラマ 怪奇館』と名づけられたそのお化け屋敷は、それまで常識だった場面ごと、部屋ごとに怖がらせるスタイルではなく、屋敷全体にひとつのストーリーを設定し、そのストーリーにお客さんが能動的に関わっていくという、考えてみればかなり現代演劇的なアプローチで、すごく新鮮だった記憶がある。

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food & drink

ロボットレストランというお祭り空間

新宿歌舞伎町の中心部、区役所裏の超一等地に、ロボットレストランがいきなり姿をあらわしたのがこの7月のこと。大通りを走り回るロボット・カーに度肝を抜かれ、道端で配られたティッシュの「オープン迄にかかった総費用・総額100億円」の文言に二度ビックリ。で、ロボットレストランというから、ロボットがサービスしてくれる、未来型ハイテク・レストランかと思いきや、肌もあらわなセクシー美女たちが踊ってくれる「ロボット&ダンスショー」が楽しめる、シアター形式の店だという・・・。ほとんどワケのわからないまま、この夏の東京の、夜の話題を独占した感のあるロボットレストラン。

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art

黄昏どきの路上幻視者(ROADSIDE SENDAIから)

(前略)ここ数年、ようやく日本ならではのグラフィティの進化形が出てきたように思える(僕が不勉強だっただけかもしれないが)。たとえば北の国・札幌からザ・ブルーハーブが、まったく新しい日本語のラップを突きつけたように、ほかのどこにもないようなストリート・アートのかたちを提示する作家のひとり。それが仙台のSYUNOVEN=朱乃べんだ。道端の廃屋や、小屋の壁に描かれたSYUNOVENの絵を見て、「グラフィティ!」と思うひとは、もしかしたら少ないかもしれない。それほど彼の描く形象はユニークで、アメリカン・グラフィティとはかけ離れたテイストで、描かれた場の持つ雰囲気と呼応した土着のパワーを湛えている。

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food & drink

日曜日のゾンビーナ

うららかな秋日和のサンデー・アフタヌーン。六本木ミッドタウンの前は、お洒落な犬を連れたお洒落なカップルや、高そうな乳母車を押す高そうな外国人カップルが、ほがらかに行き交ってる。ミッドタウンの正面にはメルセデスベンツのショールーム。そのおとなり、飲食ビルの2階の、とある店。ほがらかな気分でドアを押し開けると・・・いきなりゾンビが襲ってきた! 「いらっしゃい~~」とくぐもった声を出しながら、ぶらぶら腕を伸ばして迫ってくる・・・ああ気持ち悪い! 知る人ぞ知る六本木の隠れフェティッシュバー「CROW」を舞台に、毎月最終日曜日に開かれているのが「ソンビバー」だ――。

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photography

センター街のロードムービー

印画紙の上にあらわれ消える男女たち。それはいまから数年前、日本でいちばんスリリングな夜があった時代の渋谷センター街に、生きていた男の子と女の子たちだ。焦点の合った主人公と、その向こうのぼやけた街並み。鮮やかで、しかもしっとりしたカラー(それはウォン・カーウェイの撮影監督だったクリストファー・ドイルや、ベンダースやジム・ジャームッシュのロビー・ミューラーのような色彩感覚)。1枚1枚のプリントに閉じ込められた、なんとも言えない、あの時代の空気感。そしてこの素晴らしい写真を撮った鈴木信彦さんは、プロの写真家ではなく、仕事をしながら週末渋谷に通うだけのアマチュア・カメラマンなのだという・・。

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アートと地獄とメイドとクソゲー:福岡辺境不思議旅

「妄想のパラダイス」とサブタイトルがついた不思議博物館を、ひと言であらわすのは難しい。「館長」と呼ばれる造形作家・角孝政(すみ・たかまさ)さんの立体作品とコレクションを集めたミュージアムであり、同時に「不思議子ちゃん」と名づけられた女の子たちが迎えてくれる、メイドカフェでもある。「日本一有名なクソゲー」を、特製巨大コントローラーで遊べる場所でもある。とりあえずは、公式ウェブサイトに記された館長本人による説明と、全貌図解をご覧いただきたい。

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travel

札幌迷走紀行・前編 ある秘宝館の最後

北海道秘宝館が危ないらしいと聞いたのは、もう数年前のこと。毎日開館していたのが、いつのまにか週末だけになり、動いていた展示物は、メンテナンスがまったくされないために徐々に動きを止めて、そのうちに冬期は閉館、ほかの季節も「基本は週末開館だが、行ってみないとわからない(ウェブサイトもなし)」という状態に陥っていった。館を任されていた女館長さんは、札幌市内のスナックのママも兼ねていて、そっちのほうが忙しくて秘宝館まで手が回らない、という状態でもあった。そしてこの秋。久しぶりに札幌を訪れてみると、「秘宝館が廃墟になってしまっている」という悲しい情報が。

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痛車賛歌――坂口トモユキのデジタル細密画

「いたしゃ」と言われて「イタ車」を連想するのか、「痛車」を連想するのか、君はどちらのタイプだろうか。痛車とは、ご存じ車体にアニメやゲームのキャラのイラストを貼りつけた、ヲタク活動の一環。以前は週末の秋葉原名物だったりしたが、最近では全国各地の街角で見かけることが少なくない。その痛車の名作群を2009年から撮影しつづけている、坂口トモユキさんの写真集『痛車Z』が12月6日に発売され、併せて中野ブロードウェイ内のギャラリーで写真展も今月末から開かれる。坂口トモユキさんは1969年生まれの写真家。東京近郊の住宅地を深夜に撮影して回った『HOME』を2008年に発表する。僕が坂口さんの名前を知ったのも、その年の木村伊兵衛賞審査会場で写真集を見たときだった。

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金いろの夜――別府湯けむりアート紀行

いつまでも若くはいられない。老いた都市から都市へと旅していると、人間の歳のとりかたにいろいろあるように、町の老いかたにもいろいろあるのだと実感する。たとえば温泉町で、僕が知るかぎりいちばん往生際が悪いのは熱海で、いちばんさっぱり枯れているのが別府だ。別府というのはつくづく不思議な町だ。日本有数の温泉地で、観光客も国内外からそうとう訪れているはずなのに、駅前から海に向かって延びるメインストリートは人影まばら。お土産屋は20年も30年も前の品物を平気で並べているし、商店街は見事なまでのシャッター通りと化している。一歩裏道に入れば、住宅と飲食店と風俗店がぐちゃぐちゃに混じり合い、ゾーニングという概念が存在しないかのようだ。

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金いろのエキゾチカ――芸術と芸能のミッシングリンク

「まあ、金粉ショーがやりたくて、混浴ゴールデンナイトを企画したぐらいですから!」と笑う佐東さんは、京都を拠点とする暗黒舞踏グループの雄・白虎社に創立時から解散まで在籍したコア・メンバー。同じ白虎社仲間の水野立子さんとともに、今回のショーの構成や、ダンサーの演技指導を手がけた。「いまではほかに見れる場所もないし、僕と水野で20年ぶりぐらいに、思い出そうと思って踊ってみたら、完璧に全部、からだが覚えてたんですよね!」という佐東さん。公的機関の助成金や企業のメセナ活動がほとんど存在していなかった1970~80年代には、白虎社のような舞踏カンパニーにとって、公演費用やカンパニーの維持経費のために、金粉やセミヌードのショーを仕立てて、日本各地の温泉場やクラブ、キャバレーを「営業」して回るのが、ごくふつうのことだったのだ。

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捨てる神と拾う神――森田一朗すてかんコレクション

捨てられてしまうもの、忘れられてしまうものを集め、記録するようになってずいぶんたつが、その道の大先輩であるひとりが森田一朗さんだ。森田さんはフリー・カメラマンとして自分の写真を撮るとともに、昔の写真や絵葉書など、明治から昭和にかけてのヴィジュアル・ヒストリーの収集でも知られている。ずいぶん前に(調べてみたら1998年だった)、筑摩書房の『明治フラッシュバック』というシリーズで『サーカス』『ホテル』『遊郭』『働く人びと』という4冊の貴重な資料集を出していて(いずれも絶版)、そのテーマの選び方からも森田さんの、街とひとを見つめる目線が伝わってくる。

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travel

石巻のグレイトフルデッド

3.11をめぐる報道で、もっとも頻繁に取り上げられた土地のひとつが宮城県石巻だろう。石巻を「いしまき」と読んでしまうひとも、これでいなくなったにちがいない。石巻湾に面し、旧北上川の河口に沿って広がる石巻市が、地震と津波で壊滅的な被害を受けたのはご承知のとおり。宮城県復興庁のデータによれば死者3486人、行方不明者462人、住宅・建物の全半壊は3万3378戸。ひとつの市で、3000人以上が命を落とし、3万もの建物が壊れてしまったことになる・・すぐ北隣に位置する女川原発が無事だったのが、信じられないくらいだ。そして震災から1年9ヶ月がたった現在、石巻がどうなったかといえば、いまだに被害の惨状は生々しいまま。道路や空き地のガレキはさすがに片付けられたけれど、それは集積所に集められただけのことだ。街を歩けばあいかわらず崩れたまま、空き地のままの地所が目立つ。

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music

8トラックのエロ 前編

民放FMでなにがきらいかって、いまだにはびこるバイリンガル臭いアナウンサー(と言えばいいのに、ナビゲイターとか自称したり)。でも、もっときらいなのが、あのラジオドラマ仕立てのコマーシャルだ。長くて、気取ってて、くだらなくて、中途半端で、構成作家のしたり顔がうかんできて思わず運転中に暴れたくなるような。いま、『肉の悶え』という世にも不思議なCDを聴きながら、僕はラジオドラマの黄金時代のことを思い出す。映像のともなわない、音声だけのドラマ。声とBGMがつむぎだす、ゆたかな世界のことを。そういえばかつて聞き書きに通った稀代の性豪「安田老人」も、「(性行為を記録した)ビデオより、カセットテープのほうがずっと刺激的です」と言い切っていたっけ。

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music

8トラックのエロ 後編

『ヒゲの未亡人』なる不思議なユニットを岸野雄一さんと展開するミュージシャン、ゲイリー芦屋さんが甦らせた8トラック・エロテープの奥ヒダ世界を、先週はご紹介した。すでに100本以上のテープを収集してきたゲイリーさんの手元には、手づくりCD-R『肉の悶え』には収録されていないものの、そのジャケット(というかボックス)・デザインだけで溜息連発の、珠玉のコレクションが秘蔵されている。Macもアドービもなかった手描き時代の、無名のデザイン美学を今回はいきなり、たっぷりお見せしよう。ゲイリーさんのご厚意によって先週号にアップしたCD-Rの冒頭部分を、もういちど載せておくので、なるべく大きな音量でプレイしながらの鑑賞をおすすめする!

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travel

ロードサイド台湾1:八卦山南天宮

日本の地方を回りはじめたのは『週刊SPA!』誌で1993年から1998年まで続いた連載『珍日本紀行』がきっかけだった。その連載では正月、ゴールデンウイーク、夏休みなどの連休シーズンにあわせて『珍世界紀行』という特別版を発表していて、それが2004年には『珍世界紀行 ヨーロッパ編』として一冊にまとまり(2009年文庫化・筑摩書房)、同時にSPA!の連載が終わってまもなくの2000年からは『月刊TITLE』誌(文藝春秋・・すでに廃刊)で『珍世界紀行 アメリカ編』が始まって、2007年まで続いたこの連載は2010年に分厚い単行本になった(アスペクト刊)。同時にSPA!誌の海外特別編でいくつか取り上げたアジアの珍名所探訪は、2006年から07年にかけて『月刊パパラッチ』(双葉社刊)の連載に引き継がれたが、こちらもあえなく休刊・・涙。

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photography

ブローニュの森の貴婦人たち――中田柾志の写真世界1

深い緑の森の夜、フラッシュに浮かび上がる挑発的な女。ビニールの花のごとく地面を覆う使用済みのコンドーム・・・。パリ、ブローニュの森にあらわれる娼婦たちの生態である。パリ市街の西側に広がるブローニュの森。凱旋門賞のロンシャン競馬場や、全仏オープンのロランギャロスも含むこの広大な森林公園が、昔から娼婦や男娼の巣窟としても有名だったことを知るひとも少なくないだろう。そういえばあの佐川一政が、死姦し食べ残した遺体を捨てようとしたのも、この森のなかだった。陽と陰がひとつの場所に、こんなふうに混在するのがまた、いかにもパリらしいというか。

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lifestyle

追悼・浅草のチェリーさん

浅草を歩くと、いつもそのひとがいた。六区のマクドナルドあたりに、小さなからだを独特のセンスの服で包んで、ふらふらと立っていたり、道端に座り込んでいたり。チェリーさんとも、さくらさんとも、あるいはただ「おねえさん」とも呼ばれてきたそのひとは、道行く男たちに声をかけ、からだを売る、いわゆる「立ちんぼ」だった。だれかに声をかけたり、かけられたりしているところを見たことは、いちどもなかったけれど。ほとんど浅草の街の風景の一部と化していた彼女が、亡くなったらしいと聞いたのは去年の年末のことだった。

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隣人。―― 北朝鮮への旅

去年末、北朝鮮を撮影した写真集が出版された。タイトルは『隣人。――38度線の北』。撮影したのは初沢亜利(はつざわ・あり)という日本人のカメラマンだ。北朝鮮の写真と言われただけで、思い浮かぶイメージはいろいろあると思う。でもこの本の中にはボロボロの孤児も、こちらをにらみつける兵士も、胸をそらした金ファミリーの姿もない。 そもそも隠し撮りではなく、真っ正面から撮影されたイメージは、遊園地でデートする若いカップルであったり、卓球に興じる少年であったり、ファストフード店で働く女性や、海水浴場でバーベキューを楽しんだり、波間に寄り添う中年夫婦だったりする。言ってみればごくふつうの国の、ごくふつうの日常があるだけで、でもそれが他のあらゆる国でなく、「北朝鮮」という特別な国家のなかで撮影されたというだけで、この本は特別な重みをたたえている。

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グラフィティがかき乱す台北のランドスケープ

昨年10月3日号で、仙台在住のグラフィティ・アーティスト「SYUNOVEN=朱乃べん」を紹介した。彼の作品はアメリカ発のグラフィティという表現が、ようやく日本独自の進化を遂げつつあることの優れた一例だった。この正月に台北で出会ったグラフィティ・アーティスト「CANDY BIRD」の活動もまた、台湾の風土にあわせて独自の進化を遂げつつある、新たなエネルギーをいきなり突きつけられるようで、すごく興味深い。中国本土(台湾ふうに言えば大陸)でも台湾でも、現代美術の世界では基本的にコンセプチュアルな作家、作品が大多数で、キャンディ・バードのようなストリート・レベルのアーティストが、いまどれくらい増えてきているのか、僕はまだ調査不足でわからない。でも、なにかが起こっている感触は、確実にある。それはこれから長い時間をかけて探っていくことになるだろうが、まずはそのイントロダクションとして、キャンディ・バードの作品世界をご覧いただきたい。

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焼きつけられた記憶――大竹伸朗『焼憶』展

焼きものの町・常滑が生み出したもっとも有名な製品は土管(陶製土管)で、一時は全国の上下水道のかなりの部分に常滑製の土管が使用されていたという。セントレア開業に伴って周辺地域は大規模な再開発が進んだが、常滑の中心部は陶業華やかなりしころの面影、街並みがかなり昔のままに残っていて、最近は日帰りお出かけスポットとして若い層にも人気を博しているようだ。常滑の陶業を代表する企業がLIXIL(元INAX)。そのLIXILが常滑市内に開いている「INAXライブミュージアム」で、今週土曜日から6月9日まで、大竹伸朗による『焼憶(やきおく)』展が開催される。今週はいち早くその展示紹介と、常滑の町めぐりをお送りしたい。まずは大竹伸朗本人による、本メルマガのための書き下ろしテキストをお読みいただきたい――。

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ノリに巻かれた寿司宇宙

「デコ弁」が流行っているらしい。僕がもし小学生で、母親が忙しくて白飯にハンバーグ乗せただけ、みたいな弁当しか作ってくれなかったら、恥ずかしくてみんなの前でフタ開けられないくらいに・・・いまのお母さんは大変だ。雑誌やネットで見るデコ弁は、たしかにものすごく凝った出来で、芸術的とさえ言えるものもある。下手したら「これもクール・ジャパン」とか文科省が売り物にしちゃいそうな。パンにピーナツバター塗るか、ハム挟んだサンドイッチをジップロックに入れただけ、みたいなランチで親も子も満足してる外国人にとっては、はるか想像の彼方にある東洋の新たな神秘、それがデコ弁なのだろう。

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六畳間のスクラップ宇宙

数か月にいちど、岐阜県内の消印を押した分厚い封筒がうちに届く。中にはいつも近況を書いた短い手紙と、写真の束が入っている。サービスサイズのプリントに写っているのは、風景でも人物でもない。数十枚のスクラップブックのページを複写したものだ。山腰くんがこんな手紙を送ってくれるようになってから、もう何年たつだろう。岐阜市に住むこの青年はアルバイトの毎日を送りながら、ひっそりと、膨大な量のスクラップブックを作り続けて倦むことがない。どこにも発表することのないまま。ずっと前から見てみたかった彼の生活空間とスクラップ制作の現場を、ようやく見せてもらうことができた。そして招き入れられた小さな空間と、しまい込まれたスクラップブックのボリュームは、僕の想像をはるかに超える密度の、いわば切り抜かれた女体のブラックホールだった。

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刺青の陰影 2

052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。その続編として先週に引き続き、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。1966(昭和41)年に発表された写真集『刺青』(図譜新社刊、英語解説ドナルド・リチー)に掲載された写真群と、江戸下町の粋を体現するような、刺青愛好家の聞き書きをあわせてお楽しみいただきたい。今回ご紹介するのは、浮世絵摺師の北島ひで松さん。浅草生まれの浅草育ちで、日本一の浮世絵摺師と言われた人物だ。森田一朗さんは、北島ひで松さんのことをこんなふうに紹介している――

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シャム双生児の夢

ヒトの頭をした犬がいる。水頭症の子供がいる。シャム双生児がいる・・・鵜飼容子の描く画面、立体の造形は、現代美術画廊のホワイトキューブ空間に、どこかの時代からいきなりワープしてきた見世物小屋のようだ。場末の奇形博物館のようだ。そしてそれらは確かに不気味だけれど、同時にどこか神々しくもある。かつてさまざまな文明で、奇形や不具の人間が「神に愛でられた存在」であったように。鵜飼容子は1966(昭和41)年生まれ、46歳の画家だ。生まれ育った鎌倉の地で、週の半分は通いの仕事で生活を支えながら、静かに絵を描いて暮らしている。

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ワタノハスマイルふたたび

去年の3月21日に配信した『ワタノハスマイル』を、覚えていらっしゃるだろうか。まだ読んでいないかたは、ぜひサイトのバックナンバー・ページからご一読いただきたい。3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、避難所となった宮城県石巻市の渡波小学校で、子どもたちが瓦礫から拾い上げたゴミでつくりあげた、それは魔法のようなアートが誕生した瞬間だった。「ワタノハスマイル」のオーガナイザーとなった、山形県出身の絵本作家・犬飼ともさんは、思いがけず全国からイタリアまでを回ることになった展覧会に際して、こんなふうに書いていた――。

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祈りの言葉が絵になるとき

メールマガジンで楽しいのは、小さな記事がときには思わぬ発見に結びついて、それをすぐにまた掲載できるところだ。担当編集者との打ち合わせとか、会議とか、そういうのをぜんぶすっ飛ばして。今年の2月6日号で、小さな展覧会の告知記事を掲載した。『アートリンク:奈良県障害者芸術祭』というそれは、障害者とアーティストが手を組んで作品をつくる、ユニークな試みだった。その参加作家である黒瀬正剛さんからある日、薄いパンフレットが届いた。黒瀬さんが企画を手伝った、地元のアマチュア・アーティストの展覧会カタログだそうで、表紙には穏やかな表情の仏画と、「伊東龍宗 Tatsumune Ito」という作家名だけが記されている。

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石巻のラスタファライ――ちだ原人半生記

石巻ミュージック・シーンの立役者というか、ムードメイカーというか、伝説的存在というか、とにかく石巻の象徴のような存在、それがレゲエ・シンガーである「ちだ原人」だ。そして彼もまた、3.11ですべてを失った被災者のひとりである。これからお送りするのは、この稀有なアーティストの、おそらく初めての包括的なライフ・ヒストリーだ。ものすごくメガ盛りなドレッドヘア、ものすごく日焼けした顔と、うるんだような優しい瞳、夏は半裸体、厳冬期でも足元は素足にゴムゾーリという、いちど見たら忘れられないインパクトを放つ「ちだ原人」は、1958(昭和33)年に石巻市で生まれた。いまも残る生家は日和山(ひよりやま)という小高い丘の麓にあって、周囲を役所の出張所や公民館、学校などに囲まれた、中心部ながら静かな文教地区である。

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死刑囚の表現・展

すでにツイッターやFacebookでご存知の方もいらっしゃるだろうが(そして美術メディアは例によって完全無視だが)、今月20日から6月までの2ヶ月間、広島県福山市の鞆の津ミュージアムで、『極限芸術 ― 死刑囚の表現 ―』と題された展覧会が開催される。鞆の津ミュージアムは、去年僕も展覧会やトークで参加させてもらった、アウトサイダー・アートを専門に扱う新しいミュージアム。そしてこの展覧会は、個人的に今年いちばん重要な美術展になるはずだ。タイトルどおり、この展覧会はいま日本国内に130余名いる死刑確定者や、すでに刑を執行された受刑者による絵画展だ。ロードサイダーズ・ウィークリーでは去年の10月17日配信号で同じ広島県内、広島市郊外のカフェ・テアトロ・アビエルトで開催された『死刑囚の絵展』をリポート、予想以上に大きな反響をいただいた。そのとき展示された作品は40数点だったが、今回鞆の津ミュージアムに展示される作品は総数300点以上になるという。同種の展覧会でも最大規模であることは間違いない。

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つくりもののまこと――『日本映画 スチル写真の美学』展によせて

「ハリスさんも死んだ、鶴さんも死んだ、今度はわたしの番なんだ・・」と絶唱するのはご存知『お吉物語』だが、先月末でシネパトスが死んで、5月末でテアトルシネマが死んで、銀座の映画館もどうなっちゃうんだろう・・・涙。そのテアトルシネマから首都高の下をくぐってすぐ、京橋のフィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター)は、銀座エリアに残された数少ない映画ファンの聖地である。過去の名作や埋もれた作品の上映はもちろん、展覧会もなかなかおもしろいフィルムセンター。先月末まで開催していた『西部劇(ウェスタン)の世界 ポスターで見る映画史 Part1』も楽しかったが、今月16日からは『映画より映画的! 日本映画 スチル写真の美学』と題された非常に珍しい、そして個人的に思い入れの深い展覧会がスタートする――。

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拳闘家と写真家――ふたりのファイターによせて

梅小路公園には去年、京都水族館がオープン。これまで京都市民には場末扱いされてきた下京区への、ひとの流れの変化を呼び起こしているが、先週土曜日にはこの京都水族館のすぐおとなりに、小さなギャラリーがひっそりオープンした。『trace』という名の、三角屋根の古い倉庫を改造したギャラリーは、写真家であり美術作家でもある山口和也が開いたもの。そのこけら落とし企画として5月12日までのほぼ1ヶ月間、山口さんが6年間にわたって撮影し続けてきたプロボクサー小松則幸の写真展を開催している。

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長距離ロッカーの孤独

この3月、札幌の小さな映画館で、あるドキュメンタリー映画が1週間だけ公開された。主人公は札幌在住の、まったく売れない中年ミュージシャン。監督はこれが映画初挑戦という、美容院とスープカレー屋の経営者。いったいこれ以上、地味な組み合わせがあるだろうか・・・。しかしこの映画『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』は、公開直後からなんと連日満員の大盛況。今月30日からは映画館「蠍座」の開館以来、17年間で初めてのアンコール上映が行われるのだという。映画にはほんのときたま、こういう奇跡が起きる。だから信じられるのだけれど、それにしても・・・。『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』とは、こんな映画だ――。

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photography

一夜漬けの死体――川本健司の「よっぱらい天国」

新宿でも、渋谷でも池袋でもどこでもいい。東京の夜の街を初めて歩く外国人がいきなり度肝を抜かれるもの――それは道端に倒れている人間たちだ。あっちにもこっちにも、街路樹の根本にもビルの入口にも、ぐったりとからだを横たえて動かないひとたちがいる。それは人体というより、薄暗がりのなかの小さな障害物だ。ニューヨークだってロンドンだってパリだって、バンコクだってマニラだって道に倒れている人間はいっぱいいるが、東京の場合はそれがスーツ姿のサラリーマンだったり、ミニスカートの女子だったりする。で、事情を知らない外国人は「東京はなんてタフな場所だ!」と驚いたり、「死んでるんじゃないの?」とオロオロしたりするのだが、「いや、酔っぱらってるだけだよ」と聞かされて二度びっくり。「財布やカバンを盗られないのか!」「レイプされないのか!」と、こんどは「東京って、なんて安全な場所なんだ」と感心したりする。

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music

民謡酒場のマスター・オブ・セレモニー

浅草、吉原、向島・・・いま都内に3軒ほどしか残っていない「民謡酒場」という存在を教えてくれたのは、山村基毅さんの『民謡酒場という青春―高度経済成長を支えた唄たち―』(ヤマハミュージックメディア)という一冊の本だった。山村さんによれば、昭和30年代からの高度成長期に東京、それもいまはソープ街として知らぬもののない吉原を中心に、数十軒の民謡酒場が盛業していたのだという。わずかに残っている数軒を、僕は山村さんに案内をお願いして訪ね歩き、それは単行本『東京右半分』に収められたが、そのうち亀戸の『斎太郎』はすでに閉店してしまっている。この記事の最後に東京右半分・民謡酒場探訪記の前説を再録しておくが、山村さんとはしごした店でいちばん興味深かったのは、民謡歌手やお客さんたちよりも、司会者の存在だった。

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ガラクタ山の魔法使い

隅田川に近い浅草橋の裏のビル。階段を上がった先の奥の部屋。展覧会なのに、カメラのISO感度を6400ぐらいに上げないと撮れなそうな暗い部屋の中で、もじゃもじゃの髪ともじゃもじゃのヒゲの男が、机にかがみこんで作業に没頭していた。ここ、展覧会場ですよね・・・。「マンタム」という不思議な名前を持つ彼は、古物商=古道具屋でありながら、自分のもとに集まってくるガラクタを素材に、なんともユニークな立体作品をつくりあげるアーティストでもある。そしてシュールで、魔術的でもある彼のオブジェが詰まった展示空間に足を踏み入れること、それはまるでヤン・シュヴァンクマイエルかブラザース・クェイのアニメの中にワープしてしまうような、不思議な体験でもある。

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photography

笑う流れ者――アンダーグラウンド・フォトグラファー木股忠明の世界

仙台、新宿ゴールデン街、神奈川県綱島・・・同時多発的に小さな写真展が、ひっそりと開かれている。『笑う流れ者木股忠明の思いで』――ひっそりすぎて、そんな展覧会があることすら知らないひとがほとんどだろうし、木股忠明という写真家の名前も、よほど詳しいひとでないと聞いたことがないだろう。写真に詳しいひとですらなく、アンダーグラウンド・ミュージック・ワールドによほど詳しいひとでないかぎり。1970年代末期から80年代にかけて、日本の音楽業界がインディーズ・ブームというものに(ニューウェーブと呼ばれるようにもなったが)浮き立っていたころ、それとは一線を画した場所で、ずーっと小さくて暗い片隅で、ふつふつとうごめくエネルギーがあった。

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travel

高知のデルタ、本山のミシシッピ――藤島晃一・絵と音楽と、女と旅の物語 前編

四国の真ん中をほぼまっすぐ南北に貫いて、高知市と香川県高松市を結ぶ国道32号。高知市内から北に向かい、すぐにのどかな田園地帯に、さらに緑深い山沿いのワインディングロードに入って約1時間。大豊という小さな町から土佐街道に左折し、おどろくほど深い色の吉野川に沿って走って行くと、本山町をすぎたあたりのカーブを曲がったとたん、ものすごくカラフルに塗りこまれた一軒家が視界に飛び込んでくる。かわいらしいシャレコウベの看板脇に書かれている店名は『CAFE MISSY SIPPY』。もちろんアメリカのミシシッピ州と、「ちびちび飲るお姐さん」みたいな英語をかけて、これがアメリカのどこかのカレッジタウンにあればニヤリとするような名前だけど、高知の山中ではちょっと浮いている感じもする。でもとにかく、やっと来れた・・・ここが絵描きで、写真家で、スライドギターの名手でもあるブルースマン・藤島晃一のホームベースなのだ。

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travel

高知のデルタ、本山のミシシッピ――藤島晃一・絵と音楽と、女と旅の物語 後編

先週に続いて高知県本山町からお送りする、絵描きで、写真家で、スライドギターの名手でもあるブルースマン・藤島晃一さんを訪ねる旅。今週の後編では、『CAFE MISSY SIPPY』から道を挟んだ向かいの川沿いにある『Mojoyama Mississippi』で、4月27日に開催されたライブの模様を写真で紹介しながら、稀有なブルースマンの絵と音楽と女の、冒険の旅路をさらに辿ってみよう。高知市内の飲み屋で働くうちに仲良くなったアメリカ人女性にすすめられて、アメリカに渡ることになった藤島さん。彼女のホームグラウンドであるミネアポリスから、高知で帰りを待つ新しい彼女の実家があるオクラホマシティ、さらにはウィスコンシンと巡るうちに、本格的に絵と向かい合う気持ちが固まってきて、「お金貯めて、また絵を描きに戻って来る」ために、とりあえずいちど高知に帰ることになった。

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fashion

21世紀の傾奇者

2014年1月12日の朝、北九州市の中心である小倉の、北九州メディアドーム前は異様な熱気に包まれていた。パンチパーマと並んで(!)小倉が発祥地である競輪用のレーストラックを備えたこの多目的ドームで、きょうは2014年度の成人式が開催されるのだ。毎年、成人の日が近づくと「どこの成人式は荒れる」とか「暴走族が騒いだ」とか、お決まりの話題がマスコミを賑わすが、小倉の成人式はその絢爛豪華にして独創的な衣裳で、ここ数年かなりの注目を集めるようになってきた。式典開始の午前10時前から、ドーム前の広場は人、人、人、色、色、色で埋め尽くされる。カラフルという言葉ではとうてい追いつかない、彩度マックスの色見本がぶちまけられた、巨大なパレット状態だ。

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art

少女の深海――高松和樹のハイブリッド・ペインティング

探査船の強いライトに照らされて、闇の中で白く浮かび上がる生命体のように、濃紺の深海にたゆたう少女たち。高松和樹がたった2色で描き出す緻密な仮想現実は、見たこともない世界と、ひどく親しげな既知感を同時に抱え込んで、見るもののこころをざわつかせる。どこか懐かしい未来の風景のように。通常のキャンバスではなく、運動会のテントなどに使われるターポリンという防水加工された白布をベースに、3DCGで制作されたイメージを野外用顔料でプリントし、その上からアクリル絵具で筆描きを重ねていくという、デジタルとアナログのハイブリッドのような特殊な技法で生み出される画面。それは少女や物体など描かれたモチーフと、画面に目を近づけてみるとベロアのようにザラリとして見えるマチエールのニュアンスが呼応することで、平面でありながら深い奥行きに、僕らを誘い込んでいく。

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photography

GABOMIという名の「そのまま」写真

長崎、広島、高松・・・路面電車の走っている街とは、たいてい気が合う。先々週のメルマガで紹介した、女木島の『女根』を取材に行ったときのこと。島から高松港に帰ってきて、市内をぶらぶらしてみようと、高松の路面電車「ことでん」の駅に歩いて行ったら、切符売り場の壁に異様なポスターが貼ってあった。仏生山温泉というらしい、檜造りの気持ちよさそうな大浴場に、ことでんの運転手さん、車掌さんたちが制服を着て、制帽もかぶって、白い手袋はめて、裸足で、風呂に浸かって遊んでいる。服をびしょびしょにして、湯けむりのなかで、気持ちよさそうに。

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food & drink

ゼン・プッシーが閉じた夜

西荻窪――というより「西荻」という街には、独特の臭みがある。それは新宿とも下北沢とも、高円寺とも吉祥寺ともちがう臭みで、僕は長いこと、それにあまりなじめないでいた。そういう西荻で一軒だけ、ここなら安心して泥酔して気も失えるくらい好きだった店が南口の商店街を抜けた奥にあって、それは『ZEN PUSSY』という、名前からして異常な店だった。屋台みたいな駅前飲み屋街から、住宅街のおしゃれなレストランまで、ありとあらゆるタイプの飲食店がそろう西荻で、ゼン・プッシーはほかのどのタイプにも属さない店だったし、お客さんもほかのどこにも属さないタイプのひとたちだったと思う。

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photography

写狂仙人の教え――福田満穂コレクション

先週木曜日には渋谷のギャラリー「アツコ・バルー」、そして日曜に山口湯田温泉からDOMMUNE「女将劇場生配信」で、偶然にも続けて山口県の知られざるアーティストの紹介をすることができた。渋谷で展示中の画家・田上允克、萩の仲村寿幸など、すでに本メルマガでインタビューを掲載したアーティストたちと並んで、特に反応が強かったのが、山口市在住のアマチュア・フォトグラファー福田満穂さん。あくまでストレートでありながら、どこかファニー、しかもビザール。見れば見るほど不思議な作風は、笑いの裏にひそむ乱調の美を感じさせてやまない。

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travel

雄弁な沈黙――戦争を語りつぐ場所・しょうけい館

夢を見ました 倅(せがれ)の夢を 肩をたたいて くれました 骨になっても 母を忘れぬその優しさに その優しさに 月がふるえる 九段坂(『靖国の母』二葉百合子 作詞・横井弘) 九段といえば靖国神社。その靖国神社に今年も「みたままつり」がやってきた。先週末の13日から16日まで。冬の新宿酉の市と並んで、東京都内では「見世物小屋」が出る唯一の夏祭りということで、毎年楽しみにしているマニアの方も多かろう。日本歌手協会の超ベテラン歌手たちによる、能楽堂での「奉納特別公演」というフリーコンサートが、僕にはいちばんの楽しみだ。

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瀬戸の花婿――女木島・高松・丸亀「大竹伸朗祭」

いよいよ夏会期が20日からスタートした瀬戸内国際芸術祭2013。夏休みに向けて全島制覇に意欲を燃やしつつ、フェリーの時刻表とにらめっこでスケジュールを熟慮している方も多いのではないか。本メルマガではすでに芸術祭の春会期に合わせて女木島の『女根』を6月12日号でリポートした。その記事末でも触れ、すでに多くのアート・メディアで取り上げられているように、先週からは女木島の『女根』に加え、芸術祭夏会期とタイミングをあわせて高松市美術館では『憶速 OKUSOKU / VELOCITY OF MEMORY』、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では『ニューニュー NEWNEW』と、3つの展覧会が同時オープン、常設展示である直島の『直島銭湯 I♥湯』と『家プロジェクト・はいしゃ』をあわせれば、ほとんど「瀬戸内・夏の大竹祭り」状態となっている。

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ひとりきりの極楽浄土

鞆の津ミュージアムが今月17日から、またもやいっぷう変わったグループ展『ようこそ鞆へ! 遊ぼうよパラダイス』という、タイトルだけではまったく内容のわからない展覧会を開催する。狭い意味でのアウトサイダー・アートを踏み越える意欲的な企画が続く鞆の津ミュージアム。特定の美術館ばかり優遇しているようで恐縮だが、どんな公立美術館よりも「攻めてる」んだからしょうがない。今週はこの展覧会のコンテンツを、オープンに先駆けてたっぷりご紹介しよう。

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路上の神様 ――石倉徳弘のポートレイト・フォトグラフィ

たとえばダイアン・アーバスがフリーキーな被写体を通して、フリーキーな自分自身を撮影していたように、鬼海弘雄が浅草の人間模様のなかに自分のかけらを見つけようとしているように、優れたポートレイトは被写体を通して撮影者を浮かび上がらせずにおかない。そうでなければ、ポートレイトはただの顔かたちのサンプル集になってしまう。不思議なポートレイトのシリーズを見る機会があった。写っているのは似合わないスーツや改造制服に身を固めた少年だったり、見るからにオヤジでしかない女装家だったり、売れてなさそうなミュージシャンだったり、変な入れ墨の変な外人だったり、ホームレスだったり。

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モンマルトルのアウトサイダー

パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック・・・そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの日暮里というか・・・。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。パリきってのアウトサイダー・アート専門美術館だ。

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欲望をデザインする職人芸  ――佐々木景のグラフィック・ワーク 前編

いまから10年以上前、『珍日本紀行』の文庫版をつくっているときに、僕は佐々木景という若いデザイナーに初めて会った。「東日本編」「西日本編」の2冊合わせて1100ページを超える膨大なデザイン作業を、数人の若いデザイナーにチームを組んでもらって進めたのだが、そのひとりが彼だった。ひょろっとしたからだに優しい笑みを浮かべて、でも会うたびにタトゥーが増えてシャツから透けて見えていて、人間的にも非常に興味深かった景くんは、それからずっと現在に至るまで「自分のビジュアルアート」と「ハードコア・パンク(バンドのグラフィック)」と「AVパッケージ」という3本の柱を軸に活動を続けてきた。

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レアグルーヴのリアリティ――佐々木景のグラフィック・ワーク 後編

2008年だから、いまからもう5年前になる。現地で撮影した写真で展覧会を、というグループ展に誘われて、インドネシアのジャカルタを初めて訪れた。短期間のうちに何度か通って撮影した写真は、展覧会以外にこれまで発表の機会がなかったので、近いうちに見せられたらと思っているが、「インドネシアといえば、バリ」みたいな薄っぺらい予備知識しかなかった僕にとって、そのころよく通っていたタイのバンコク以上に清濁併せ呑むというか、ブライトサイドとダークサイドが混沌となって交じり合うジャカルタの空気は、ものすごく刺激的だった。

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モッシュピットシティ・ジャカルタ 1

先週はグラフィック・デザイナー佐々木景の作品や、ジャカルタのレトロポップ・スペース「カフェ・モンド」の活動を通して、インドネシアのポップ・カルチャーの片鱗をご紹介した。ちょうど一時帰国中だったカフェ・モンドの泉本さんや景くんから、インドネシアの音楽シーンを教えてもらっていたときのこと、「実はインドネシアって、パンクがすごいんですよ!」と聞いて、びっくりというか耳を疑った。熱帯のインドネシアとパンクス・・・これほど違和感に満ちた組み合わせがあるだろうか。去年12月5日号で紹介した、メキシコシティのゴスをはるかに超えた、それは解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の出会いのようにシュールなミスマッチに思えた。

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モッシュピットシティ・ジャカルタ 2

パンクミュージックによって人生を導かれてきた、フォトジャーナリストの中西あゆみさん。2005年、ひょんなきっかけからジャカルタのパンク・シーンと出会う。運命を悟った彼女は約3年にわたって困難を極めながら、いちおうの取材を終了。しかし「まだ先になにかある」という直感に導かれ、インドネシア最大のパンク・バンドであり、パンク・コミューンでもある「マージナル」の核心に踏み込んでいく。2007年、いまから6年前のことだった。あゆみさんのインドネシア・パンクをめぐる旅の後編は、南ジャカルタにあるマージナルのアジト「タリンバビ」に招かれた日から始まる。

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ふぐりのうた――妄想詩集『エロ写植』

「おりゃあ」「おおおおお」「つああああ」「べむっ」「ひぐっ」「いやあああああ」・・・喘ぎなのか絶叫なのか、絶頂なのか。言葉にならない言葉がページをびっしり埋めている。別のページを開いてみると、そこには「餞別ってこの刀のことだったのね!」「20本も咥えてきたんだーー」「なんであたしと同じなのよ」「これはまさしく俺好みのシチュエーション!!」「あなた本当はやさしい人だって」・・・わけのわからない自動筆記現代詩のような文章が、ずらりと並んでいる。このページだけを見せられて、これがいったいなんなのか、瞬時に理解できるひとがどれくらいいるだろう。

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百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業

その名前も知らなければ、作品も知らない。でも、たまたま見た一枚の作品写真が妙に気になって、頭の隅にこびりついて、そのもやもやがだんだん大きくなって、どうしようもなくなる――そういう出会いが、ときどきある。だれかがネットに上げた江上茂雄さんの絵が、僕にとって久しぶりのそんなもやもやだった。江上茂雄さんは熊本県荒尾市に住む、なんと101歳の現役画家、それもアマチュア画家だ。荒尾に隣接する大牟田市と、田川市で小さな展覧会が開かれていて、さらに10月からは福岡県立美術館で、アマチュア画家には異例の大規模な個展が開かれるという。

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photography

『張り込み日記』

「事実は小説より奇なり」という、言い古された格言の英語は「Truth is stranger than fiction」だが、ときとしてそれが「事実のほうがフィクションよりストレンジ」というより、「事実のほうがフィクションよりフィクシャス=フィクションっぽい」という意味ではないかと、思いたくなってしまうことがある。とりわけ、超一級のドキュメンタリー写真を眼にしたときには。『張り込み日記』という作品集は中年と若手、ふたりの男たちが街を歩きまわる写真で、すべてのページが構成されている。このふたりは刑事なのだ。

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踊る東北御殿――股旅舞踊全国大会・見聞記

海があり、港があり、カモメが飛んで、霧笛が響く・・・船と港が外国に直結する唯一の場所だったころ、日本人のこころを捉えたのが「マドロス」というロマンチシズムだった。マドロス=オランダ語で「船乗り」を意味する言葉が、『憧れのハワイ航路』から『玄海ブルース』、『ひばりのマドロスさん』まで、無数の「マドロス歌謡」を生んで、消えていった。義理と人情の板挟みになりながら、道中合羽と三度笠に憂いを隠し、旅人(たびにん)として流れ流れて・・・「股旅」というキャラクターもまた、戦前から戦後にかけて日本人のこころを激しく揺さぶった、時期もメンタリティもマドロスと奇妙に重なるロマンチシズムのあらわれである。そして股旅は氷川きよしという稀有な歌手によって、この時代に奇跡的に甦ったものの、歌手本人の魅力を超えて「股旅」というロマンが復活したかといえば、そうではない。

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電音三太子、世界を行く!

ものすごくギラギラで、ものすごく大きな被り物をかぶって、ものすごくチープなテクノ・ミュージックに乗って、祭りの爆竹スモークのなかを踊りまくる「電音三太子」。こころある台湾知識人の眉をひそめさせ、祭りに酔う子どもたちを熱狂させる、現代台湾が生んだひとつのカルチャー・アイコンだ。台湾南部・麻豆の地にそびえる珍寺・麻豆代天府を紹介した今年1月16日号のメルマガ後記で、電音三太子を僕はこんなふうに書いた――。

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凍った音楽――東京タワー蝋人形館閉館によせて

今年で開業55周年を迎える東京タワー。5月にはタワー足元にいた南極犬タロ・ジロなど15頭の像を、事もあろうに「東京オリンピックの招致を目指して花壇でシンボルマークをつくるために(新聞報道)」撤去して、抗議が殺到。さらに9月17日にはエレベーターのガラスが鉄板の直撃を受けて割れ、子供が怪我をするという、開業以来初めての深刻な事故が起きて、高さ250メートルにある特別展望台はいまも閉鎖中と冴えない話題が続いている。(中略)そしてなにより3階にあった「東京タワー蝋(ろう)人形館」! 哀愁スポット・マニアで東京タワーを嫌いなひとはいないと思うが、去る9月1日に蝋人形館が43年の歴史に幕を下ろし閉館――というニュースに、ひときわ衝撃を受けた方も多いのではないか。

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閉じかけた世界のなかへ

だれかがFacebookでシェアしてくれた1枚の画像があまりに美しかったので、写真集を探してAmazonには見つからなかったけれど、写真家本人のサイトで直販しているのを見つけ、すぐに注文のメールを書いてPayPalで代金を送金。そのまま出張に出かけ、数日後に帰宅したらもう、カリフォルニアから大きな包みが玄関に届いていた。『ECHOLILIA』(エコリリア)というその大判の写真集は、サンフランシスコ在住の写真家ティモシー・アーチボールドが、自閉症である息子イライジャーと向きあい、写真という手段でその閉ざされたこころとつながりあおうと試みた、果敢な挑戦と、ほとんどスピリチュアルな表現の記録である。

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fashion

下品な装いが最高の復讐である――会津若松のオールドスクール・ヒップホップ・コレクション

いまやFUKUSHIMAは世界共通語になってしまったが、福島県自体は太平洋側の「浜通り」、郡山や福島市がある「中通り」、そして西側の「会津」の3地域にわかれ、それぞれずいぶん異なる風土と歴史を持っている。今年は大河ドラマ『八重の桜』で久々に注目を浴びた、会津地方の中心地・会津若松市。「白虎隊」とか「鶴ケ城」とか「東山温泉」とか、観光要素には事欠かないものの、東北新幹線のルートから外れていることもあって、土地っ子が「若松」と呼び習わす会津若松市の中心部は、驚くほど寂しい雰囲気が漂っている。「大河ドラマが終わったら、どうなっちゃうんだろう」と思いつつシャッター商店街を歩いて行くと、しかしじきに君はもういちど驚くことになる。商店街の裏手はどこも、やたらに飲食店が多い。それもスナックからキャバクラ、風俗店まで、おびただしい数の「夜の店」が密集しているのだ。

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travel

ライフ・イズ・ジルバ!――驚愕のスーパースナック探訪記

「またひとつ、大物を見つけちゃいました!」――このメルマガでもたびたび登場してきた広島県福山市・鞆の津ミュージアムで『極限芸術 死刑囚の絵展』などを企画してきた櫛野くんから、興奮気味のメールが飛び込んできたのがいまから2ヶ月ほど前のこと。ちょうど香川県高松でトークの予定があったので、「ま、瀬戸内海の反対側だし」と無理矢理気味に寄り道。福山駅で櫛野くんのクルマに拾ってもらい向かった先は・・・福山市中心部から北上すること約30分、ものすごくのどかな郊外の、そのまた外れにぽつんとたたずむ倉庫・・・じゃなくて「ジルバ」という名前のスナックだった。

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photography

ODO YAKUZA TOKYO――アントン・クスターズの歌舞伎町アンダーワールド

自費出版だというその写真集の噂を聞いたのは、2012年の初めごろだったと思う。Amazonなどの通販サイトには出まわらず、本人のウェブサイトから直接注文するしかないと知り、ベルギーの振込先にPayPalで送金、数週間後に届いたのが『ODO YAKUZA TOKYO』という大判の写真集だった。「ODO」とは「王道」のこと。そして「YAKUZA」と「TOKYO」はもちろん・・・これはベルギー人の若き写真家アントン・クスターズが新宿歌舞伎町で活動する、ある組の日常を撮影した写真集なのだ。「YAKUZA」という、とりわけ外国人にとってはもっともミステリアスな日本文化の一側面に深く寄り添いながら、あくまで客観的にその姿を捉えることに成功した、きわめて稀な作品である。

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世界を桃色に染めて――本宮映画劇場ポスター・コレクション1

去年8月、筑摩書房のウェブマガジン連載『独居老人スタイル』(12月19日単行本発売!)で取り上げた福島県本宮市の、奇跡の映画館・本宮映画劇場と、館主の田村修司さんの物語を、本メルマガ読者のみなさんはお読みいただけただろうか――。取材時に田村さんから見せてもらった秘蔵ポスター&チラシ・コレクションは記事中でたっぷり紹介したが、今年9月に開催された『アサコレ ASAKUSA COLLECTION』で、さらなる秘蔵コレクションの一部が公開された。「まだこんなにあったんだ!」と衝撃を受けた僕は、取るものもとりあえず本宮を再訪。去年の取材では見ることのできなかった、ウルトラディープなポスター・コレクションに対面し、しばし言葉を失いつつ、汗みどろで複写に没頭した。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 1

ヴェネツィアはとてもむずかしい街だ、とりわけカメラマンにとっては。だれが、どこを、どう撮っても美しく、同じになってしまう。飲み込まれてしまうのは簡単で、飲み込むのはとてつもなく困難だ。20代からいままでイタリアには数え切れないほど行ってきたが、ヴェネツィアだけは敬して遠ざける、みたいなところがあって、この11月に会期終了直前のビエンナーレを訪れたのが、実は人生初のヴェネツィア体験だった。現代美術は好きだけれど、どんどん難解になっていくハイ・アートの世界観と、大物キュレイターとギャラリストのパワーゲームみたいな巨大イベントには興味が持てなくて、これまでヴェネツイア・ビエンナーレを筆頭とする有名な国際的美術展には、ほとんど食指が動かないままだった。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 2

先週に続いてお送りするヴェネツィア・ビエンナーレ報告・後編。ビエンナーレ史上最年少ディレクターとなったマッシミリアーノ・ジオーニによる企画展示『The Encyclopedic Palace = 百科事典としての宮殿』の、ふたつの会場のうち、先週はジャルディーニの作品群をピックアップして紹介した。今週はもうひとつのメイン会場となった、元国立造船所アルセナーレでの展示から、本展の特徴であるアウトサイダー・アーティストたちの作品を中心にお見せする。ちなみに13世紀に建造されたアルセナーレは、長さ300メートルという巨大な縦長の建造物である。

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art

神の9つの眼――ジョン・ラフマンの『The Nine Eyes of Google Street View』

今年もいろいろな写真集を紹介してきた。影響をうけるのがイヤだから、現役の写真家の本はなるべく買いたくないけれど、写真家でも編集者でもある身としては、どうしても手にとってしまう本もある。その中で、実は今年いちばんショックを受けた写真集を、今年最後のメルマガで紹介したい。発売は2011年なので、もうご存じの方もいらっしゃるだろうが、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)というカナダのアーティストによる『The Nine Eyes of Google Street View』だ(Jean Boîte Éditions, 2011)。

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art

仮装の告白

まさかこんなのは日本で出ないだろうと、海外旅行先で買い求めた分厚い本が、ある日突然、翻訳されて書店の店頭に並んでびっくり、ということが最近増えてきた。制作経費のかさむ作品集を出版するにあたって、何カ国かの出版社と前もって出版契約を結ぶケースが増えてきたせいかと思うが、つい先ごろ青幻舎から日本語版が出た『ワイルドマン(Wilder Mann)』も、「まさかこんな本が!」と驚かされた一冊。シャルル・フレジェ(Charles Freger)という若手フランス人写真家の作品集で、原本はドイツ語版、英語版とも2012年に発表されている。

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photography

挟む女

いつまでたっても好きになれないセレブな街・広尾の通りに面して、新しくできた小さなギャラリー。ショウアン(Gallery Show-an)というその場所は、ガラスドアを開けるとなぜか、ぎょっとするほど大きなカリントウや、おいしそうなあんず大福を並べた和菓子屋で、壁の向こうがギャラリー空間。そのギャラリーで昨年末の6日間だけ、大福を買いに来たセレブ奥様が卒倒しそうな展覧会が開かれた。『ハサマレル男達』は、文字どおり「挟まれた男たち」。肌もあらわな太ももに顔をギューッと挟まれて、ぐちゃっと変形したところをアップで撮られた、もだえ顔の写真展なのだ。

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music

踏まれるの待っていたライムが肩に手を回したろ?――「三島a.k.a.潮フェッショナル」というリアル

少し前にNHKの短歌番組に、歌人の斉藤斎藤さんが呼んでくれた。番組で紹介したいラップの曲があればということで、『銀舎利』を前もって推薦。そうしたら担当ディレクターから電話がかかってきて、「三島の赤潮さんから放送の許可をもらえました!」と言われ、しばし絶句・・・もちろんそれは『銀舎利』のラッパー「三島a.k.a.潮フェッショナル」のことだった。「三島」という名前だけではエゴ・サーチしてもなかなか出てこない、インパクトのある芸名をと考えたときに、「潮吹かせるのが得意だから」潮フェッショナルとみずから名づけたという三島a.k.a.潮フェッショナル。2013年7月にリリースされたデビュー・アルバム『ナリモノイリ』で、おそらく去年もっとも話題になったラッパーでありながら、その人となりはクラブに足繁く通うひと握りのファン以外に、まだあまり知られていない。

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travel

マジカル・ベトナム・ツアー

正月休みを利用してベトナムに行ってきた。南北に細長いベトナム、国土面積から言うと、九州を除いた日本とほぼ同じということで、短い旅行で北から南まで旅するのは難しい。今回は数年ぶりになるサイゴン(ホーチミンシティ)と、世界遺産にもなっている中部の古都ホイアンをさらっとめぐって骨休め・・・と思いきや、やっぱり珍スポットやらアウトサイダーやらを探す日々になってしまい・・・さもしくもあわただしい取材旅行になってしまったのはいつものとおり。というわけで、ビーチだのエステだの、エスニック料理だの可愛い雑貨だのじゃないベトナムはないんか! という好き者のみなさまのために、今回はロードサイダーズ風ベトナム・トラベローグをお届けしよう。

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photography

夜をスキャンせよ

レコード棚の前、ベッドの上、仕事場のMacに向かって・・・さまざまな場所で寛ぐ、よく見ると目だけが真っ白のひとびと。いや、よく見なくてもいきなり白目に目が行ってしまうのは、「目は口ほどに物を言う」からなのだろうか。そういえば前に会った歌舞伎町のデジタル写真館のオーナーは、ホストを撮るうえで最大のポイントは「目ぢから」だと言ってたっけ。そういう職業写真作法に対する、これは皮肉たっぷりのツッコミなのか・・・などと妄想をふくらませてしまうのが、1月15日配信号の後記で紹介した沼田学の写真展『界面をなぞる2』だった(~1月22日まで@新宿眼科画廊)。

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lifestyle

ハダカの純心――あるストリッパーと医者の恋物語

いまは一時更新を休んでしまっているが、うちにあふれる本を、探しているひとに直接届けたいという思いから、「e-hondana」という自前のネット古書店を開業して、もう数年になる(近々メルマガのサイトに統合する予定なので、乞うご期待)。そこに出品していた成人映画の資料集を欲しいと連絡してくれたひとがあり、「亡き妻が成人映画に出ていたので、その資料を探しています」と言うので、本を届けがてらお話を聞かせていただくことになったのが、いまから2ヶ月ほど前のこと。行きつけだという、伝説のストリッパー浅草駒太夫の店『喫茶ベル』のカウンターでお会いした...

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lifestyle

ハダカの純心――あるストリッパーと医者の恋物語2

先週の前編に続いて送る医師と、偶然出会ったストリッパー・芦原しのぶ(通称カメ)の、オトナの恋の物語。北の漁港のキャバレーでふたりは知り合い、東京で再会。お互いに惹かれあって、彼女の小さなアパートで『神田川』の歌詞そのままの同棲生活が始まった。そのとき永山さんは26歳、芦原さん30歳。しかし1960年代の東京で、医師とストリッパーという若いふたりの前には、さまざまな困難が待ち受けていた・・・。

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design

ショッピングバッグ・ダディ――BOOKS & PRINTS 紙袋展

かつての繁華街の一角に、築50年以上という古ぼけたビルが建っている。KAGIYA=かぎやビルと呼ばれるその建物は、2012年に地元の不動産会社がオーナーとなって、ギャラリーやセレクトショップの入るトレンディな場所として再生。その2階に入っているのが『BOOKS AND PRINTS』。浜松出身の写真家・若木信吾さんが経営する、ハイエンドなセレクトブック・ショップだ。いかにも昭和らしいビルの階段を上った2階にある店は、建物の躯体を露わにしたクールな内装に、かなりセレクトされた写真集や画集が並べられて、地元には失礼ながら代官山か表参道にありそうな雰囲気。そこで何冊か気になる本を買って、袋に入れてもらったら、白地の紙袋にチャーミングな手描きのイラストが描かれていた。

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photography

『そこへゆけ』――ストリートスケープのねじれ

2013年10月9日配信号で紹介した渡部雄吉の『張り込み日記』は、去年紹介したうちで、もっとも反響の大きかった写真集のひとつだった。発行元となったROSHIN BOOKSは斉藤篤という写真好きの青年によって、「この本を世に出したいために」設立されたマイクロ・パブリッシャーだったが、幸いにも『張り込み日記』は噂が噂を呼んで程なく完売――悔し涙にくれたひとも多いかと思うが、この4月1日に第2版が発売されるそう! 急いで予約すべし。そのROSHIN BOOKSが満を持して2月に発表したばかりの2冊めのプロジェクトが『そこへゆけ』。『張り込み日記』の渡部雄吉は大正生まれ、1993年に亡くなっている歴史上の写真家だが、『そこへゆけ』の作者・佐久間元(さくま・げん)はまだ34歳という若手。これが初の写真集という、意表を突いた展開である。

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art

琵琶湖のほとりのアウトサイダー・アート・フェス

京都駅から東海道本線新快速でわずか35分、琵琶湖東岸に面した滋賀県近江八幡(おうみはちまん)。国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)に指定された美しい街並みで知られる、県内屈指の観光地だ。メンタームを生んだ近江兄弟社の創立者であり、日本における近代西洋建築の立役者のひとりでもある、ウィリアム・メレル・ヴォーリズがこよなく愛した土地としても有名。そして近江八幡はまた、アウトサイダー・アートのファンにとっては京都よりはるかに重要な地でもある。

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movie

デジタル紙芝居としての『燃える仏像人間』

京都駅からJR奈良線で30分足らず、お茶で有名な宇治市の住宅街。ナビを頼りに迷路のような新興住宅地をタクシーで走り、一軒の家の前で停まると、まだ大学生と言っても通るような青年が玄関を開けてくれた。それが去年、アニメ映画界の話題をさらった『燃える仏像人間』の監督・宇治茶さんだった。昨年末には第17回文化庁メディア芸術祭のエンターテイメント部門で、優秀賞を受賞した『燃える仏像人間』については、すでに多くの紹介記事が出ているし、全国の上映イベントで作品を観たひとも少なくないだろう。いわゆる「劇メーション」の手法で制作された、非常に特殊なアニメ作品だ。

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art

世界に取り憑くこと――宇川直宏と根本敬の憑依芸術

今年1月から3月頭にかけて、ふたつの展覧会が開かれた。そのふたつは場所の空気も、観客のテイストも微妙に異なるものだけれど、僕にとってはかなり共時感覚を持って眺めることができたので、ここにまとめて報告したい。そのふたつとは『宇川直宏 2 NECROMANCYS』(@白金・山本現代)と、『根本敬 レコードジャケット展』(@両国・RRR)である。DOMMUNEと因果鉄道、その両者を結ぶものは「憑依」だった・・・。

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music

奇跡の農民楽隊 1

去年インターFMで「ROADSIDE RADIO」という深夜番組をやっていたときに、いちばん取り上げてみたかったのが「北村大沢楽隊」という宮城県石巻のブラスバンドだった。創立が大正14年(89年前!)、その時点で5人のメンバーの平均年齢が80歳近いという、日本最古にして最強の農民ブラバンだった。2005年にリリースされた唯一のCD『疾風怒濤』で、とてつもないサウンドに衝撃を受けた方もいらっしゃるだろう。カウントもなければ出だしもバラバラ、チューニングも合ってない。おもな活動の舞台は演奏会のステージではなく運動会の、徒競走の伴走。そんな農民楽隊がぶっ放す、おそるべき土着のグルーヴ。それは「ブラスバンドのシャグズ」とでも言うべき破壊力で、僕もCDを一聴、いきなりトリコになった。

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music

奇跡の農民楽隊 2(撮影・録音・文 奥中康人)

先週に続いて静岡文化芸術大学・文化政策学部准教授の奥中康人さんによる、北村大沢楽隊のフィールドワーク後編をお届けする。昨年8月30日に逝去された楽隊長・渡辺喜一さんへの貴重なインタビューも含む貴重なリサーチ。じっくりお楽しみいただきたい。

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art

ヤンキーの教え

去年『極限芸術~死刑囚の表現』展で話題を呼んだ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。もともとアウトサイダー・アート専門の小さな美術館として開館したが、アウトサイダー・アート=障害者の芸術、というステレオタイプの思い込みを嘲笑うように、美術館という枠のギリギリを綱渡りする挑戦的な企画を連発。小規模ながら、いま日本でもっとも攻撃的な美術館のひとつだ。今週土曜日(4月26日)から鞆の津ミュージアムでは『ヤンキー人類学』というタイトルの、一大ヤンキー絵巻が展開される。「日本人はヤンキーとファンシーでできている」と言われるように、すでに絶滅危惧種だとされながら、エクザイルや氣志團を見てもわかるように、我らがこころのうちに根深く取りつく「ヤンキー的なるもの」。それをさまざまな角度から掘り起こそうという、挑発精神に満ちた企画だ――。

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photography

私をデートにつれてって――櫻井龍太と陽性のエロ

オフ会当日に櫻井くんを紹介されたとき、説明されたのが「この子、オッパイ写真家やから」。なんでも友達や恋人のオッパイをいろんな場所で撮影したシリーズが秀逸だそうで、それは見たいじゃないですか! というわけでケイタタさんは急いで写真展を企画、僕はメルマガでインタビューさせてもらった。1983年生まれ、5月29日で31歳になるという櫻井龍太は、「10代のころから女性の裸を撮りつづけてきた」という、筋金入りのヌード・フォトグラファーだった。

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art

ロッキン・ジェリービーンの下腹部直撃画

(前略)ディスコじゃなくてクラブ。小箱じゃなくて大箱。それもダンス・ミュージックじゃなくてロック。でもライブハウスじゃなくて、居心地よく爆音を楽しめる店! という場所がほしくて、MILKには「ロッククラブ」という肩書をつけたが、店名の「みるく」はもちろん精液のことだったし、ロゴもコンドームを想起させる、要するにロック・ミュージックの持つセクシーさを強調したい気持ちを、たっぷり込めたつもりだった。そのMILKで一時期、こちらの気分にずっぽりハマるグラフィックをつくっていてくれたのが、ロッキン・ジェリービーンである。

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lifestyle

秘宝館の女

今年の3月、銀座ヴァニラ画廊で兵頭喜貴さんとギャラリー・トークをしたときのこと。「おもしろい女を連れて行きますから」と兵頭さんが言うので楽しみにしていたら、着物姿で、背中に見覚えのある秘宝館のチンマン・マークを背負った女性が現れた・・・「都築さん、これが北海道秘宝館のロウ人形を買った女ですよ」「えっ!」「奥村と申します、よろしくお願いしますぅ(微笑)」「こ、こちらこそ・・・」。奥村瑞恵(みずえ)さん、36歳。パートナーの菊地雄太さんとふたりで「特殊造形製作」という特殊な職業に従事しながら、秘宝館好きが嵩じて、ついに閉館した北海道秘宝館のロウ人形その他を買い取り。現在は自宅に安置、修復に励んでいるという恐ろしい情熱の持主である。ぜんぜん、そんなふうに見えないのに・・・。

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photography

移動祝祭車  ――沈昭良の『SINGERS & STAGES』

台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)の『STAGE』シリーズを最初に見たのは、2006年新宿のPLACE Mギャラリーだったと思う。1968年台南市生まれ、新聞社で働いたあとフリーの写真家となり、日本工学院で学んだ経歴もあって日本語は完璧。そして本人いわく「時代遅れのドキュメンタリー・フォトグラファー」である沈昭良は、台湾各地の庶民の暮らしに密着した写真を長いあいだ撮りつづけてきた。冠婚葬祭や催し物の場所で、荷台が開けばステージに変身する、「ステージ・トラック」を舞台として繰り広げられる移動ショー劇団。それを台湾では「台湾綜芸団(タイワニーズ・キャバレー)」と呼ぶそうだが、2010年ニコンサロンでの展覧会に続いて、2011年末に出版された彼の写真集『STAGE』については、本メルマガの2012年5月23日号(020)でも紹介している。

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紅包場――哀愁の歌謡空間を探して

「台北の原宿」として観光客にもおなじみの西門町(シーメンティン)をぶらぶら歩いていると、やたらケバい顔写真を壁一面に貼り込めた店頭に出くわすことがある。「紅包場(ホンバオツァン)」と呼ばれる台湾ならでは、いや台北ならではのユニークな娯楽施設だ。もともと西門町は日本統治時代初期に、浅草のような日本人向け繁華街としてつくられたエリアだった。ランドマークになっている赤レンガの西門紅楼は、当時の商店街だった建物である。それが第二次大戦後、蒋介石の中華民国・南京国民政府軍の台湾上陸とともに、こんどは大陸からやってきたひとびと(いわゆる外省人)のためのエンターテイメント・タウンになった。そこで地元台湾の歌ではなく、中国大陸の流行歌を聴きながら、外省人たちが故郷を懐かしむ場として生まれたのが、紅包場である。

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極彩色のアーバン・パラダイス――台中に虹の村を訪ねて

台湾中部の台中は台北、高雄に続く台湾第3の都市。台北からも高雄からも高速鉄道で1時間足らず、人口百万人規模の大都市でありながら、どこかリラックスした雰囲気が漂い、一説によると台湾人が住みたい都市ナンバーワン。パイナップルケーキ、タピオカティー、泡沫紅茶など、観光客におなじみの台湾フレイバーも台中起源だというし、アジア最大規模の国立台湾美術館も、台北ではなくこちらにある。急ぎの台湾観光では北部の台北、南部の高雄・台南のあいだで飛ばされてしまいがちだが、台中は観光するにも、のんびりするにも最適。おすすめしたい場所はいろいろあるが・・・そのなかでまあ異色と言ったら、『虹爺爺の村』ほどカラフルに異色なスポットもほかにないだろう。

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花咲く男根の森

ソウル市のバスターミナルから、激走する高速バスに揺られること3時間半。ひなびた町の、ひなびたターミナルにバスは到着した。「三陟」と書いてサムチョクと読む。ソウル―プサンを結ぶ高速鉄道エリアから遠く外れた、朝鮮半島東側に位置する江原道(カンウォンド)の小さな町である。(中略)男根彫刻公園・・・これほど、このメルマガにふさわしい場所があるだろうか!(笑)美しい海岸線を見おろすシンナムの丘に、数百本もの大小さまざまな男根がニョキニョキしてるのは、この地に古くから伝わる奇妙な伝説のおかげだ・・・。

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カーブサイドの誘惑

「なかなかない珍しいもの」よりも、「ありすぎて見えないもの」や「ありふれてバカにされているもの」に目を向けていきたいという思いが高まったのは、いまから十数年前のことで、それはやはり珍日本紀行で日本の田舎を何年間も走り回った影響だったのかもしれないが、その思いが募って出版にこぎつけたのが『ストリート・デザイン・ファイル』という、全20巻のデザイン・ブックだった。20巻の中にはラブホテル、大阪万博、暴走族の単車、デコトラ、メキシコのプロレス仮面、中国の文革グッズなど、世界各地でバカにされていた日常のデザインが詰め込まれていたが、そのなかでもひときわ、現地のインテリに徹頭徹尾バカにされていて、個人的には大好きな一冊に仕上がったのが『The German Soul 小人の国』という、ドイツの庶民に絶大な人気を持つ焼物の小人たち――白雪姫と七人の小人の、あの森の小人――を探し歩いた写真集だった。

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ケチャップとカレー粉の海に溺れて――ベルリン・カリーブルスト食い倒れ旅

まだベルリンが東西に分断されていたあの時代、廃墟のようなクロイツベルクの片隅で、ドラム缶を叩き壊すようなインダストリアル・ミュージックを奏でていたアインシュトゥルツェンデ・ノイバウテン。寒さに凍えながら、ビートに浸っていた黒革の男たち、女たち。深夜の街を、だれもがスーパーのビニール袋にわずかな持ち物を入れて、どこまでも歩いて行くのだったが、そういう夜にからだを温めてくれたオアシスが「インビス」と呼ばれる屋台で、そこではコーラを飲みながら(屋台には酒の販売許可がなかったので)、輪切りにしたソーセージをケチャップとカレー粉をまぜたソースに浸して食べた。「カリーブルスト」との、それが最初の出会いだった。

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ゴミの果てへの旅――村崎百郎館を訪ねて

村崎百郎が亡くなってもうすぐ4年になる。ファンだったという青年に刺殺されたのが2010年7月23日。そして長い準備期間を経て先月末、伊豆高原の『怪しい秘密基地 まぼろし博覧会』内に『村崎百郎館』がようやくオープンした。手がけたのは生前、公私にわたるパートナーだった漫画家の森園みるくと、本メルマガ2013年5月15日号で紹介したユニークな古物商/アーティストであるマンタム、そして多くの友人、ボランティアたちである。2011年の開館以来、珍スポット・ファンにはすでにおなじみとなっている『まぼろし博覧会』。もともとは『伊豆グリーンパーク』という熱帯植物園で、2001年ごろに閉館、放置されていたのを、出版社データハウスの総帥・鵜野義嗣が買い取って、コレクションを展示する場としてオープンさせた巨大施設だ。

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濾過された記憶――ヨコハマトリエンナーレ2014と大竹伸朗

『ヨコハマトリエンナーレ2014』がいよいよ8月1日からスタートする。「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」と題された今回の「横トリ」は、アーティスティック・ディレクターに森村泰昌を迎え、65組の作家が参加するという。すでに週末の予定に組み込んでいるひともいらっしゃるだろう。横トリの第1回で、僕は鳥羽秘宝館の一部を再現展示したのだったが、あれが2001年だから、すでに13年前・・・。今回は今年5月21日配信号の記事『移動祝祭車』で紹介した、やなぎみわによる台湾製ステージ・トレーラーなど、本メルマガ好み(笑)の作品がいろいろ見れそうで楽しみだが、まずは直前レビューとして、参加作家のひとりである大竹伸朗の新作『網膜屋/記憶濾過小屋(Retinamnesia Filtration shed)』を紹介しよう。

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岐阜の小京都にニッポンの安心感を見た!――全日本食品サンプルあーとグランプリin郡上

そろそろ夏休み本番が近づき、準備に余念のないみなさま、いまだノー・アイデアのみなさま、まったく休みの取れないみなさま・・・悲喜こもごもの日々でありましょうか。今週は夏休みに向けた旅特集。しかし北海道だの沖縄だの国内メジャー・デスティネーションの陰で、ほとんど候補に上らないと思われる(失礼!)、中部地区の岐阜県郡上市、関市、愛知県蒲郡市という3地点を取り上げる。こんな夏休み特集、このメルマガだけだろうなあ・・・。それではまず、岐阜県中部の小京都・郡上八幡から。

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超老花壇

去年春の『極限芸術~死刑囚の表現~』展、今年春の『ヤンキー人類学』でもおなじみ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。そもそも地元福山で、知的障害者のための施設を運営する団体が2012年に開いたアウトサイダー・アート・ミュージアムだが、最近ではこのミュージアム自体が美術業界のアウトサイダー・アート化している気が・・・。というわけで他の美術メディアはいざしらず、本メルマガでは何度も取り上げている鞆の津ミュージアムで、今週土曜日(16日)から始まる、またもエクストリームな展覧会が『花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~』。読んで字のごとく(笑)、己の信ずるままに孤独な創作活動を続けてきた老人たちを集めた、いわばアウトサイダー・アート界のお達者クラブ・ミーティングだ。最年少(!)の蛭子能収(67歳)から、最年長のダダカン(94歳)まで、12人の有名・無名作家たちが選ばれ、それぞれ辿り着いた極点を僕らに見せてくれる。

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鎮魂の光束――池田亮司『SPECTRA LONDON』

開戦百周年となる今年はヨーロッパ各地で無数のイベントが開かれている。イギリスでは開戦時の外務大臣だったエドワード・グレイ子爵の有名な言葉――「灯火がいま、ヨーロッパのあらゆる場所で消えようとしている。我らの生あるうちに、その灯火をふたたび見ることはかなわないであろう」――をもとに、イギリス全土で8月4日の夜10時から11時までの1時間、家やオフィスや店の明かりをひとつだけ残してすべて消そうという『LIGHTS OUT』なるプロジェクトがあり、それにあわせて4人のアーティストがロンドンでインスタレーションを展開。そのなかでもっとも話題を集めたのが、池田亮司による『SPECTRA』だった。

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異形の王国――開封! 安田興行社大見世物展

絶滅危惧というよりも、もはや臨終の瞬間を迎えつつある、しかもこれまでほとんど語られることのなかった昭和のストリート・カルチャー、それが見世物芸だ。そしてきのう(8月26日)からわずか12日間だけ、かつて祭りの場に輝いた見世物小屋の、息苦しくも妖しく美しい世界のカケラが銀座の地下空間に甦っている。ヴァニラ画廊でスタートしたばかりの『開封! 安田興行社大見世物展』である。「最後の見世物芸人」と言われる安田里美を追い続け、唯一の評伝である『見世物稼業――安田里美一代記』(新宿書房刊、2000年)の著者でもある鵜飼正樹さんによって、この展覧会は監修され、僕も少しだけお手伝いさせてもらった。

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コンセプトの海の彼方に――大竹伸朗と歩いたヨコハマトリエンナーレ

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が8月1日から開催中だ(11月3日まで)。本メルマガではオープン直前の7月23日配信号で、大竹伸朗の新作を中心に紹介した。すでに会場でご覧になったかたもいらっしゃるだろう。(中略)トリエンナーレ開始直後、レコーダー片手に大竹くんとふたりで会場を回ったウォーキングツアー・リポートを今週はお伝えしてみたい。当然ながら客観的なガイドではないし、僕らが思うベストなんとか、ですらない。ぶらぶらと歩き回りながら目に留まった作品、こころに引っかかった作家についての雑談の記録にすぎない。はなはだ不完全なガイドではあるけれど、僕らふたりと一緒に会場を歩いているような気分になってもらえたら、そして展覧会に行きたくなってムズムズしてくれたら、それだけでうれしい。

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art

ハッシュタグが広げるアートスケープ——#BCTIONの廃ビル・アート・プロジェクト

2012年10月3日号『黄昏どきの路上幻視者』で紹介して以来、折にふれて連絡を取り合っている仙台のグラフィティ・アーティストSYUNOVENから、久しぶりにメールが来た——「先週東京に行ってて、麹町のビルの中に絵を描いてたんですよ」。ふーん、いいじゃない・・・って、ええーっ! 麹町って、僕が住んでるとこなんですけど。で、詳しく場所を聞いたら、家から歩いて2、3分のとこなんですけど。(中略)BCTION(ビクション)と名づけられたそのプロジェクトは、取り壊しを待つ9階建てのオフィスビル全館を使って、およそ80組のアーティストが自由にペインティングやインスタレーションを展開する、期間限定のアート・イベントだ。各フロア約116坪というたっぷりしたスペースに、さまざまなアートワークが展開し、観客はエレベーターや階段でフロアからフロアへと自由に歩き回り、作品を鑑賞できる。

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photography

モノクロームの伝説

日本海に面した鳥取県の小さな町・赤崎(現・琴浦町)。8月20日配信号の編集後記で、海に面して約2万の墓が並ぶ花見潟墓地の幻想的なお盆の風景を紹介したばかり。その赤崎を訪れた目的が、今年4月末に開館した『塩谷定好写真記念館』だった。鳥取で写真、となると自動的に植田正治の名前が出てくる。植田正治はすでに米子近くの伯耆町に立派な美術館があり、訪れたことのあるひとも多いだろう。一般にはあまり馴染みのない名前かもしれないが、塩谷定好(しおたに・ていこう)は「植田正治の先輩」として山陰の写真界では古くから知られてきた、伝説のアマチュア写真家である。

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book

失われたドイツを探して

もう十数年前に、たぶん彼女が東北大学に留学して日本美術史を学んでいたころだったと思うが、ミヒャエラ・フィーザーというドイツ人が訪ねてきたことがあった。珍日本ネタで話が盛り上がり、彼女からはドイツのロードサイド・スポットをいろいろ教えてもらい仲良くなって、そのうち彼女は九州のお寺で1年間を過ごすことになり、帰国してからその体験を『ブッダとお茶を——日本の寺院で過ごした1年』という本にまとめて、それはドイツでベストセラーになった。この春、ベルリンで久しぶりにミヒャエラと会ったら、「最近こういう本を出したの」と、立派なハードカバーの写真集を渡された。『ALTES HANDWERK』——英語だと「OLD HANDCRAFT」ということになる、これは失われた手仕事、仕事場、職業の姿を捉えた写真集なのだ。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む —— ナジャの教え 01

尼崎・塚口に関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかも旧来の気取ったフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがう、「とんでもなくすごい店」があると聞いたのは、つい最近のことだった。なんの変哲もない、目印は「となりがコンビニ」というくらいの、地味なロケーション。すぐ向かいの女子大の学生たちもただ通り過ぎるだけ、派手なオーラのひとつもない店構え。しかしここは夜毎、大阪の中心で新感覚のワインバーを持つ若手ソムリエやシェフから、東京から「ここで飲み食いするために」わざわざ足を運ぶ熱心なファンまでが足を運び、深夜まで椅子の空くことがない。といっても店内の半分はうずたかく積まれたワインのケースで占められてしまって、満席でも20人くらいしか入れないのだが。その店の名は「Nadja(ナジャ)」。シュールレアリスト、アンドレ・ブルトンの記念碑的な小説から名前をとった、その店のオーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米澤伸介さんだ。

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art

AKITA HEART MOTHER——東北おかんアート・オデッセイ

告知でもお知らせしてきたように、ただいま「大館・北秋田芸術祭2014」の一環として、鷹巣駅前の空家を使っておかんアート写真&作品展を開催中だ(11月3日まで)。しかし最寄りの大館能代空港は、ANA便が毎日2本のみの競争ゼロ・高値安定。しかも大館〜北秋田間の数カ所に散らばる展示は鉄道、バスなどの公共機関が限られているため、レンタカー以外で短時間で周回するのがかなり困難。というわけでアクセスに難ありで諦めかけているかたも多いと思われるので、今週は誌上展覧会を街歩きスナップとともにお届けしたい。

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lifestyle

酒と注射針と精液の街で

「セックス、ドラッグ&ロックンロール」という言葉がいまだ有効であるならば、それが世界でもっとも似合う場所はニューヨークでもLAでもロンドンでもなく、ハンブルクであるにちがいない。ベルリンに次ぐドイツ第2の都市であり、ドイツ最大の港を持ち、『ツァイト』『シュピーゲル』『シュテルン』なども本社を構えるメディアの中心であり、人口あたりの資産家の割合がいちばん高い、ドイツでもっとも裕福な都市であるハンブルク。そして市内ザンクトパウリ地区にあるレーパーバーンは、ヨーロッパ最大の歓楽街でもある。歌舞伎町を3倍ぐらいに引き伸ばして、もっとあからさまな売春と、庶民の暮らしをぐちゃぐちゃに混ぜ込んだ、他にほとんど類を見ない、朝から翌朝まで酔っ払ってる街。それがレーパーバーンだ。

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lifestyle

レーパーバーンで『カンパイ』2

「ヨーロッパの歌舞伎町」ハンブルク・レーパーバーンで今夜も、酔っぱらいドイツ人相手に店を開く寿司屋「KAMPAI」。こころ優しき大将・榎本五郎(通称「エノさん」)のドイツ人生劇場、今週は疾風怒濤編! お待たせしました!

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art

ヘタウマの現在形

パリについでフランス第2の座をリヨンと争う重要な都市であり、地中海で最大の貿易港でもあるマルセイユ。告知でお伝えしてきたように、そのマルセイユと、同じ南仏のセットの2会場で『MANGARO』『HETA-UMA』と名づけられた、日本のサブカルチャーをまとめる、というよりもリミックスする重要な展覧会が開催中だ。フランスに日本の漫画好きが多いことはよく知られているが、この展覧会の舞台にパリではなく、かつて日本人にとって「初めてのヨーロッパ」だったマルセイユが選ばれたことも、出展作家のひとりである根本敬の言う「因果」のひとめぐりだろうか。

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fashion

ベイビーたちのマッド・ティーパーティ

『下妻物語』でフィーチャーされたロリータ・ファッション・ブランドが「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト」。いまは亡き『流行通信』の連載『着倒れ方丈記』で取材させてもらったのも2004年だったので、あれからやっぱり10年。そのあいだにベイビーは全国各地に20数店舗を展開、パリ店、サンフランシスコ店に続いて、今年はニューヨークにも店舗をオープンさせている。世間的に話題に上ることは少なくなっても、世界的なレベルでは「ゴスロリ・ネバー・ダイ!」なのだ。そのベイビーが10月19日、新装なった東京ステーションホテルで「お茶会」を開催した。参加費用1万7000円(ただしフルコースの食事にたくさんのお土産つき)、120名の席が予約開始10分間で完売。このお茶会に出席するために、外国から来日したファンもいたという。

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photography

東京のマルコビッチの穴

不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。木原悠介は1977(昭和52)年生まれ、36歳の新しい写真家だ。中野区新井薬師の、潰れた写真屋を改造した「スタジオ35分」という小さなギャラリーで、今年8月末から9月初めの9日間だけ開かれた『DUST FOCUS』が、人生初めての個展だった。

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photography

夜のコンクリート・ジャングル

公園の遊具にこころ惹かれるオトナはけっこういる。「タコ公園」とか「クジラ公園」とか、遊具の名前で通称される公園も少なくない。平日の午後、あるいは深夜に酔って帰る道すがら、ふと目にする、ひと気のない公園にうずくまるコンクリートの巨大な物体。かすかな哀愁と不気味さを漂わせながら、ただそこにあるなにか。それをずっと撮り続けているのが木藤富士夫(きとう・ふじお)だ。木藤さんの写真を最初に見たのは、けっこう前だったと思うが、それは絶滅危惧種となりつつあるデパートなどの屋上遊園地を撮影したシリーズだった。小さな自費出版の写真集に収められたそれらは、よくある廃墟写真とはちがって、まだ営業中なのにもかかわらず、ごく近い将来の廃園を予感させるような諦観が漂っていた。単なる昭和ノスタルジーとはひと味違う、明るいディストピアのようなニュアンスが画面に滲んでいた。

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photography

からだとからだと写真の関係

(前略)偏狭なこころの病気がこの国の一部をむしばみつつあるいっぽうで、いまアート・ワールドでは若い中国人アーティストたちの勢いが止まらない。現代美術の最前線でもそうだし、写真の世界でもそれは同じだ。以前にもちょっと触れた東京のアートブック・フェアで、刺青にボディピアスばりばりの女性がひとりで座っているブースがあった。聞けば台湾からの参加だという彼女が、ずらりと並べたアート・ジンのなかで、これはすごいですよと教えてくれたのが、『SON AND BITCH』と題された箱入りの写真集だった。中を開いてみると、日本のアートっぽい写真どころではないハードコアなポートレートが満載。そして作者の任航(Ren Hang=レン・ハン)はここ数年、世界各地のグループ展でその作品をよく目にする、注目の若手写真家なのだった。

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art

生きて痛んで微笑みがえし——小松葉月のパーソナル・アート・ワールド

今年2月26日号で紹介した、川崎市岡本太郎美術館が主催する岡本太郎現代芸術賞。よくある現代美術コンペとは一味違う、コンセプトよりもエモーショナルな感性が評価された作家が多く選ばれていたが、そのなかに特別賞を受賞した小松葉月さんの『果たし状』という大作があった。一見、学校の教室のようなインスタレーション。壁には習字やお絵かきの作品が貼り込まれ、大きな黒板、それに中央に据えられた巨大な台座(玉座?)には、学校用の勉強机と椅子が据えられて、そのありとあらゆる表面に小さなニコニコマークがびっしり描き込まれている。そして机にはセーラー服に防空頭巾をかぶった作家本人が座り、開館時間のあいだじゅうずっと、机上に広げたノートや教科書に、これもびっしり、本人が「ニコちゃん」と呼ぶ、ニコニコマークを描きつづけていた。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む—— ナジャの教え 02

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎。とびきりのガラの悪さと居心地良さが渾然一体となった、ぬる〜い空気感に包まれたこの地の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかも旧来の気取ったフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがうその店の、オーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米沢伸介さんだ。独自のセレクションのワイン、料理、そして音楽の三味一体がつくりあげる、これまで経験したことのない至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニーによる『ナジャの教え』。第2夜となる今回は、「大地のエロス、海のエロス、野生のエロス」と題した、真冬の夜の官能あふれるハーモニーをお聞かせする。

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travel

パッシングスルー・タウン——ターミナル駅のとなり町 01 小田急線南新宿駅

都心の廃墟には、人里離れた場所の廃墟とは微妙に異なる空気感がある。どろりと粘着質のなにか。だれにも望まれないのではなく、だれからも望まれているのに、ほとんどすべての場合に複雑な権利関係がからんでいるためにーーようするにカネへの執着がからみあって、身動き取れないまま年月を重ねている、欲望の醜いカタマリとしての廃墟。それが僕らのこころをざわつかせる。

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travel

ホノルル旅日記 1:愛と哀しみの理想郷

ワイキキの喧騒を通り過ぎ、ダイヤモンドヘッドを周回する道路に沿って裏側に回ると、そこはブラックポイントと呼ばれるハワイ屈指の超高級住宅街だ。どこにも人影はなく、しかしどこかで見ている監視カメラはたくさんあるにちがいない、曲がりくねった道を辿って海に向かって突き当りまで進む。大きな鉄製のドアがこちらの車のナンバープレートを確認して、音もなく開いた。まるでジャングルに開けたトンネルのように豊かな緑のアプローチを抜けると、そこにシンプルな、落ち着いた白い建物があった。ドリス・デュークの「シャングリ・ラ」だ。テレビで見るような「ハワイの豪邸」とはワケがちがう。かつて「世界一リッチな少女」と呼ばれたドリス・デュークが、この土地に惚れ込み、世界各地で収集した貴重な美術品を持ち込んで住まいにした、ここは桁違いの贅を尽くした、それでいて見事に抑制の効いた、洗練の極みにある空間だ。

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food & drink

ほんやら洞のこと

先週金曜(1月16日)未明に出火、全焼した京都の喫茶店・ほんやら洞については、ツイッターやFacebookなどはもちろん、テレビ、新聞など大手のメディアにも取り上げられて、ちょっと驚いた。開店から42年目の古ぼけた喫茶店の火事、というだけのニュースがこれほど拡散したのは、どのメディアにもほんやら洞ファンがいたのかもしれない。これまで京都には2回住んできたが、最初に引っ越した1980年代末は、雑誌の仕事を離れて一息ついたところで、京都大学の聴講生に申し込んで日本美術史や建築史の授業を取り、そのまま自転車で授業に出てきた寺院を見に行ったりしていた。いまから考えると夢のような日々だったが、通学路にほんやら洞があって、昼飯やコーヒーに寄るようになった。

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travel

ホノルル旅日記2:ロングスのひとたち

化粧品でも着替えでも、ポテチでもビールでもいい、ハワイで日用品が必要なとき、どこへ行ったら・・・「ABCストアがあるでしょ」と言うのはワイキキから一歩も出ない観光客のしるし。ハワイ人にとっては「ロングスがあるでしょ」となるのが正解だ。ロングス・ドラッグスはハワイ最大のドラッグストア・チェーン。一般薬品に処方せん医薬品、化粧品、袋菓子、下着に文房具、ビール、ワイン・・・生鮮食料品以外すべての日用品を扱っている。そして基本的に24時間営業。日本のコンビニよりもはるかに大きくて、スーパーマーケットとはまたちがう。言ってみればマツキヨを巨大にして、ドンキホーテを薄めたみたいな存在だ。

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art

小山田二郎という奇跡

先月なかばの日曜日、府中で取材があった僕は撮影を終えて、京王線府中駅にいた。ふと駅構内のポスターを見ると、府中市美術館で「生誕100年 小山田二郎」展開催中とあるではないか! 同行編集者にむにゃむにゃ言い訳して急いでバスに乗って、無事に展覧会を鑑賞することができた。危ない・・・こうやってどれだけ、知らないうちに重要な展覧会を見逃しているのだろう。本メルマガを始めて間もなく、2012年2月8日配信号で、府中市美術館で開催していた『石子順造的世界』展について書いたのだが、そのときに同時開催されていた小山田二郎展にも少しだけ触れたことがあった。1914年に中国安東県(現遼寧省丹東市)で生まれた小山田二郎は、去年が生誕100年にあたっていて、この展覧会も去年11月8日にスタート。

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photography

シンパシー・フォア・ザ・デッド——倉谷卓の写真について

先月(1月21日号)に倉谷卓写真展『Ghost’s Drive』の告知記事を掲載したのを、気づいていただけたろうか。会場となった日本橋茅場町の森岡書店は小さな展示スペースだったが、山形県内のユーモラスなお盆の風習を記録したシリーズはすごく興味深かった。『Ghost’s Drive』展とほぼ同時期に京橋の72ギャラリーでも、『カーテンを開けて』と題された別の写真展が開かれていることを知って、そちらにも足を伸ばし、本人とお話することができた(1月21日〜2月1日まで開催)。

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travel

パッシングスルー・タウン——ターミナル駅のとなり町 02 東武東上線北池袋駅

急行や準急に駆け込む善男善女を横目に、空席の目立つ普通電車にゆったり着席するはぐれもの、しかしゆったりする間もなく池袋駅を出発してわずか1分! 150円で着いてしまうのが東武東上線・北池袋駅だ。これほど乗り甲斐のない電車旅があろうか。新宿、渋谷と肩を並べる東京屈指のメガタウンでありながら、「トレンディ」という言葉にひとかけらの縁もない池袋。東口に西武、西口に東武という、東京初心者を惑わせる配置。JRに地下鉄に私鉄と全部で8路線が乗り入れ、一日の利用者が250万人以上というカオスそのものの駅構内。『池袋ウエストゲートパーク』から最近の池袋チャイナタウン・マフィア伝説、脱法ハーブ事故まで、「東京一怖い街」というイメージがすっかり定着。新宿ゴールデン街や2丁目のようなカルチャー・ゾーンも皆無。

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art

カウガール・ラプソディ

明治・大正期の洋風建築、それに漫画ファンには石ノ森章太郎と大友克洋の出身地としても知られる登米の旧市街から、北上川沿いに走ったはずれにある集落が津山町。人口3000人ほどの小さな町だ。クルマで数分も走れば通りすぎてしまう町の、静かな住宅の離れに建つアトリエで、山形牧子さんが待っていてくれた。山形さんのことを教えてくれたのは仙台の友人だった――「河北新報(仙台の地元紙)に、すごく不思議な絵が載ってました、牛と女のひとが宴会してるんです!」 津山町で主婦として暮らしながら、牛と女の絵ばかり描いている、彼女は奇妙なアマチュア・ペインターなのだった。

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art

灰色の壁の少女

日本においてもグラフィティはれっきとした犯罪だ。軽犯罪法1条33号にある「工作物等汚わい罪」がそれで、「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者」に対して、拘束または科料の支払いが規定されている。また、地方自治体が独自の落書き禁止条例をもうけている場合も多い。だから、これまでこのメルマガで何人かのグラフィティ・アーティストを取り上げてきたが、本名や顔写真を出せないこともあった。今回紹介する福岡のKYNE(キネ)もそうした厳しい環境の中で、アクティブであり続けようとしている若いアーティストだ。

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art

頭上ビックバン!――帽子おじさん宮間英次郎 80歳記念大展覧会

本メルマガ読者にはもう説明の必要がない「帽子おじさん」宮間英次郎。その波乱に満ちた生涯は、宮間さんの発見者ともいうべき畸人研究学会の海老名ベテルギウス則雄さんの筆により、昨年9月に3回にわたって集中連載した。1934年生まれ、つまり去年80歳を迎えてますます元気いっぱいな宮間さんの、満を持した個展が今月21日から恵比寿NADiffで開催される。展覧会にあわせて畸人研究学会は久々の自主制作新刊『畸人研究30号 特集:宮間英次郎さん傘寿記念』を刊行。これは去年メルマガで連載した内容を、さらにボリュームアップした決定版になるはずだ。展覧会を畸人研究学会と一緒に構成させてもらう僕にとっても、去年5月の『独居老人スタイル展』に続いての、NADiffお達者くらぶ展シリーズ(笑)。クールなアートブックショップには申し訳ないが、老いてますます盛んな現役アウトサイダー・アーティストのほとばしるエネルギーを、過密な展示空間で体感していただけたら幸いである。

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photography

自然が超自然になるとき――遠藤湖舟写真展によせて

身近に見つけた美しい自然の表情、動植物や天体、そして作品集の帯文は平山郁夫・・・このメルマガともっとも相性が悪い(笑)写真の数々が、目の前に開かれている。今月末から日本橋高島屋で写真展を開く、遠藤湖舟の作品だ。いわゆる「美しい風景」にこころ惹かれないのはなぜだろうと、ときどき考える。写真としてだけではなく、その場に立つことを含めて。夕陽に輝く富士山を眺めても、夜のグランドキャニオンで星々に包まれても、オレゴンの森深くで緑の濃さに窒息しそうになっても、ハワイの海にぷかぷか浮きながらコバルトブルーの空を眺めても。あ〜きれいだな〜とは思うけれど、5分で飽きてしまう。カメラを向けることも、ほとんどない。

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archive

クラブハイツ最後の夜

もはやその存在すら本メルマガ内で忘れられつつある、単行本未収録原稿墓場「アーカイブ」。久しぶりにいきます! 今回お送りするのは2009年に『エスクァイア』誌のために書いた、『クラブハイツ最後の夜』。いまからちょうど6年前の出来事だけど、あれから文中にある札幌クラブハイツもすでに閉店してしまったし、「歌舞伎町ルネッサンス」は順調に進行中。コマ劇場跡はもう来月となる2015年4月に、都内最大級のシネコン「TOHOシネマズ新宿」とホテルグレイスリー新宿に生まれ変わって開業予定だ。そんなもん、歌舞伎町じゃなきゃいけないのか! クラブハイツでなじみだったホステスさんたちは、蒲田あたりのキャバレーに流れたりしていったが、もう営業電話もかかってこない。この6年間で銀座がすっかりダメになっていったように、これから東京オリンピックまでの5年間で、歌舞伎町もすっかり去勢されていくのだろうか・・・。

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movie

非現実の映像王国で

「とにかくすごいんです!」と、本メルマガで『案山子X』を連載してくれているai7nさんから伊勢田監督のことを聞いたのは、もう2年ほど前のことだった。アウトサイダーにも絵画とか文学とか建築とか、いろいろな分野があるけれど、「アウトサイダー映像作家」というのは、初めて聞くジャンルでもあった。いつかはお会いしたいと思いながら果たせないでいるうち、この4月に伊勢田監督が「PVデビュー」を飾ることになったと知った。それもプロデュースが、やはり本メルマガで『隙ある風景』をずっと連載してくれて、最近では「商店街ポスター展」でも注目されるケイタタ=日下慶太さん。そしてPVのアーティストは、なんと中田ヤスタカがPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅに続いてデビューさせる期待の新人・三戸なつめだという・・・信じられない。業界的にはかなりのプロジェクトのはずが、こんなふうに決まっちゃっていいんだろうか!(笑)

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art

光彩のスクラッチ――Liquidbiupilのアナログ・ライティング・アート

1960年代から70年代に最盛期を迎えた「リキッド・ライティング」を甦らせている若いライティング・アーティストがいると聞いて、耳を疑ったのが数年前のこと。ただ、そのころはライティングどころか、暗すぎて写真も撮れないようなヒップホップのライブにばかり行っていたので、なかなか巡りあうことができず、ようやく一昨年アシッド・マザーズ・テンプルのライブ会場で会えたのが、「Liquidbiupil」(リキッドビウピル)というライティングのチームだった。「Liquid」を裏返してつなげたという風変わりな名前を持つLiquidbiupilは佐藤朗と清水美雪、ふたりのライティング・アーティストによるユニットである。往年そのままに複数台のオーバーヘッドプロジェクターを駆使し、あたかも光と色をスクラッチするように、ライブハウスにサイケデリックな光の空間をつくりあげるスタイルは、アシッド・マザーズ・テンプルのようなバンドからノイズ、さらに演劇の舞台にまで起用され、注目を集めている。

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art

猫塊の衝撃

新宿から京王線で約30分、稲城は多摩ニュータウンの東端に位置する、静かなベッドタウンだ。改札口で僕を待っていてくれたのが、先日の「ヴァニラ画廊大賞 2014」で大賞を獲得したアーティスト・横倉裕司さんだった。いかにもニュータウンらしい駅前を抜けて鶴川街道を渡ると、景色は突然、のどかな田舎ふうになってくる。代々続いているらしい農家や、放し飼いのニワトリが地面を突ついてる果樹園のあいだを抜けて歩いた先に、空き地に適当に建てられたような、家屋とも倉庫とも言いがたい平屋の建物が数軒かたまっている。そのひとつが、横倉さんが友人とシェアしているアトリエだった。

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fashion

華やかな女豹たちの国

いまからちょうど10年前の2005年に僕は週刊朝日で『バブルの肖像』という連載をしていて、それはいまからちょうど25年前(四半世紀!)のバブル期をうれし恥ずかしく振りかえるシリーズだった(2006年に単行本化)。いまもたまに飲み話に出たりするけれど、あのとき日本に、いったいなにが起こったんだろう。株価が2万円に乗るかどうかぐらいで大騒ぎしている2015年のいまから考えると、それは「不可思議」としか言いようのない時代だった――

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travel

緊急報告:レトロスペース・坂会館、存亡の危機!?

レトロスペースが揺れている。北海道屈指のビザール・ロードサイド・アトラクションとして名高い、札幌のレトロスペース・坂会館。珍スポット・ファンはすでにお聞き及びかもしれないが、今月なかばあたりから「レトロスペースが4月末で閉館か!」とTwitterなどで噂が拡散。レトロスペースや母体となる坂ビスケット本社にも、問い合わせが相次いでいるという。『珍日本紀行』の取材で初めてレトロスペースを訪れたのが1999年。もう15年以上のお付き合いになる。館長・坂一敬(さか・かずたか)さんには、ご自身の半生を『巡礼/珍日本超老伝』でも語っていただいた。北海道秘宝館がすでに閉館し、去年は札幌市民の憩いの場・喫茶サンローゼすすきの店も閉店。このうえレトロスペースまでなくなってしまったら、いったい札幌でどこに遊びに行けばいいのだろう。

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photography

近世店屋考、ふたたび

いまから3年ほど前、鳥取市の図書館で僕は『近世店屋考』というモノクロームの写真集に出会い、その一冊が池本喜巳(いけもと・よしみ)さんへと導いてくれた。本メルマガの2012年9月12日号で特集した『近世店屋考』は、山陰地方の片隅に隠れるように生きてきた昔ながらの商店を撮影した、派手さのかけらもない写真集だったが、予想外の反響をもらい、スタートからまだ半年ちょっとだったメルマガ制作に大きな励ましを得た。それから鳥取に行くたびに池本さんは僕にこの、日本有数に地味な、でも日本有数に暮らしやすい地方のことを教えてくれた。「店屋考はまだ撮ってるんだよ」と会うたびに言いながら、池本さんはなかなかその成果を見せてくれなかったのだったが、今月20日から銀座ニコンサロン、そのあと大阪ニコンサロンで、その『近世店屋考』の新成果が披露される。

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art

銀河の中に仮名の歓喜  ――福田尚代の美術と回文

ヘンリー・ダーガーの部屋を撮影した写真を集めたマニアックな資料集『HENRY DARGER’S ROOM』や、青森のボロ布を集めた『BORO』を僕と一緒に出版した小出由紀子さんは、東京神田に残る典雅な戦前建築・丸石ビル内に「YUKIKO KOIDE PRESENTS」という、他に日本でほとんど例のないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリーを運営している。その画廊から去年の冬、『福田尚代作品集 2001-2013』という小さな作品集が出版されて、出版記念展も開かれた。美術界ではすでに高い評価を得ながら、これが最初の単独作品集という、もっともっと知られるべきアーティストであり、同時に奇跡的な回文作家でもあるという、多面的な制作活動に長く静かに従事してきた福田尚代さん。今週は埼玉県内のご自宅を訪問してうかがったお話に加えて、公式サイトに掲載されている興味深い年譜や、ツイッター上でのメッセージなどもミックスしながら、彼女の制作の軌跡を辿ってみたい。

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art

雪より出でよ蓮の花――金谷真のロータス・ペインティング

メールマガジンを始めてからFacebookでこまめに投稿を書いたり、いろんなひとの投稿を読むようになって(なにしろ個人アカウントの友達が5000人の上限に達してるくらいなので)、そうするとFacebookはTwitterとちがって実名だから、「ネット上での思わぬ再会」というようなことが、わりとよく起きたりする。いまから2ヶ月くらい前、「秋田で絵の展覧会やります」というお知らせ投稿に、ふと目が止まった。そこには大きなキャンバスに蓮の絵を描いている画家の写真が添えられていて、彼は蓮の絵だけをずーっと描いているらしいのだが、どうも「金谷真」という名前に見覚えがある。なんだか気になってプロフィールをチェックしたら、「1977年、雑誌POPEYE創刊と同時に専属イラストレーターになる」という一行があって・・・ええ~っ、それは僕がPOPEYE編集部にいたころ、いつも顔を合わせていたイラストレーターの金谷さんなのだった。

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art

プラスチックの壺中天

すでにご存知のかたも、コンプリートしたくて何千円も散財したかたもいらっしゃるだろう、大竹伸朗のガチャガチャ=「ガチャ景」が先月発売され、直島銭湯や各地のアートブックショップに販売機が設置されている。全6種類、各500円。計3000円でコンプリートできればラッキーだが、なかなかそうはいかなかったりして、ずっとむかしのゲームセンターで味わったような「悔しいから取れるまでぶっこむ」感を、ひさびさに思い出させてくれる。6種類それぞれの「作品」には解説がつけられているのだが、今回は僕がそれを書かせてもらった。あらためてじっくり、ひとつずつの作品についての思い出を聞いて、それを文章に起こしてある。

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art

夜をかける少女

函館湾に面して、函館市の西隣にある北斗市。来年3月にはここに北海道新幹線の新函館北斗駅が開業予定(当面、北海道側のターミナル駅)・・・という情報が信じられないほど、眠るように静かな住宅地と田畑が交じり合うランドスケープが広がっている。観光地としてはトラピスト修道院があり、三橋美智也や『フランシーヌの場合』の新谷のり子の出身地でもあるのだが。2006年の町村合併で北斗市になる前は上磯町(かみいそちょう)と呼ばれていた、函館から20キロほどのベッドタウン。いかにも漁村らしい風情を残した海辺の集落の、浜からほんの数メートルという家屋の前に、強い浜風に飛ばされそうな風情で、高誠二(たか・せいじ)さんが待っていてくれた。

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fashion

雨のなかの涙――山口小夜子展をめぐって

すでに4月11日から始まっていて、今月28日には終わってしまう東京都現代美術館の『山口小夜子  未来を着る人』展。とっくに訪れたかたも多いだろう。なぜこのメールマガジンで取り上げないのか、不審に思っていたかたもいらっしゃるかもしれない。1949年生まれの山口小夜子は1972年にパリ・コレクションに初参加、翌73年には資生堂の専属モデルになった。ちょうどそのころ資生堂のCMやポスターや『『花椿』』誌で存在を知り、70年代末から編集者として外国取材に頻繁に出かけるようになってからは、トレンディな日本人の代表として行く先々でそのイメージに出会ってきた小夜子さんは、僕にとって10代後半から30代までのさまざまな体験と強烈にリンクする存在だった。おまけに2000年代に入ってからは、仕事こそご一緒できなかったものの、数回お会いして、そのいつまでたっても神秘的なルックスと裏腹な、すごくオープンマインドで積極的に若いアーティストたちと関わっていく姿に感銘を受けもした。

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travel

みほとけのテーマパーク

いまから10年くらい前、アジアの珍寺めぐりにハマっていた時期があった。もともと『週刊SPA!』で「珍日本紀行」を連載していたころ、夏休みやGWなどにあわせて「珍世界紀行」もやりたくなって、最初はヨーロッパを中心に回っていたのが、次第に東南アジアにも足が向いていったのが発端だった。当時はネット情報がほとんど存在しなかったので、アジアにどんな珍寺があるのか、事前にはまるでわからなかったが、バンコクで雑誌をぱらぱら見ているうちに、地獄庭園の小さな写真が目に留まり、そこからタイの珍寺めぐりが始まって、しだいにベトナム、ラオス、ミャンマー、中国本土、韓国、そして台湾へと足が向いていったのだった。

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art

春画展、東京の前に福岡で!

来る9月19日から東京・目白台の永青文庫で開かれる展覧会『世界が、先におどろいた。春画 Shunga』のニュースを、すでに耳にしたひとも少なくないだろう。ふりかえれば2013年10月から翌1月までロンドン大英博物館で開催された『Shunga sex and pleasure in Japanese art』が、約9万人の来場者を集める大ヒットとなりながら、肝心の日本への巡回(というか里帰り)がかなわず、恥ずかしい思いをしていた多くの美術ファンにとって、永青文庫での展覧会開催はうれしいニュース。大英博物館の展覧会の巡回ではなく、おもに国内のコレクションによる永青文庫独自の展覧会になるようだが、すでに記者会見も開かれ、「日本初の春画展」として話題を集めている。しかし永青文庫の展覧会の1ヶ月以上前に、実は日本で初めて公立美術館で多数の春画が系統だって展示される、画期的な展覧会が開催されることは、あまり話題になっていない。それが福岡市美術館で8月8日から開かれる『肉筆浮世絵の世界 ―美人画、風俗画、そして春画―』である。

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travel

圏外の街角から:北海道夕張市

ギリシャの財政危機が連日、ニュースになっている。国が倒産する、ということが現実的にいったいどういう事態を招くのか、いまひとつ実感できないけれど、日本にはその見本というか先達というか、先輩がいる。日本で唯一、「財政再建団体」の指定を受けた破綻都市・夕張だ。札幌に出張した翌日、夕方の飛行機までの空いた時間に、久しぶりに夕張の町を巡ってみた。北海道の玄関口である新千歳空港から夕張までは約40キロ、札幌からは約70キロ。しかし交通の便からして、すでに最悪。札幌から1時間40分ほどかかる直通バスが、一日わずか数本。JRも札幌、新千歳どちらからも直通便がなく、乗り換えが必要。特急を使っても2時間以上かかってしまい、けっきょくレンタカーに頼ることになる。

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photography

踊る水中花

池谷友秀という写真家がいる。「水中写真家」ではないけれど、人間のからだと水を組み合わせた、というより溶け合わせた写真をずっと撮っていて、その最新写真展がいま銀座ヴァニラ画廊で開催中だ(7月18日まで)。もちろん、その作品はバンコクのゲイお魚ショーなんかよりはるかに美しい。こんな書き出しをして申し訳なかったが、水というのは不思議な視覚効果があって、人間を地上とはまた別の生きものとして見せてくれる気がする。水中で光が屈折するように、常識にとらわれていた僕たちの見方をも、水は微妙に屈折させてくれるようなのだ。今回展示されている「BREATH」「MOON」というふたつのシリーズは、いずれも水中や水面上で撮影された、おもに裸の人体である。モデルは美少女だったり暗黒舞踏家だったり、身体障害者だったりするのだが、地上で見ればほとんどまったく異質なはずの人間たちが、水中で浮遊したり泡に包まれているうちに、深い部分でひとつに結ばれた存在であるように見えてくる。

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photography

写真の寝場所

早稲田大学キャンパスを取り巻く牛込から西早稲田周辺には、東京都心部のエアポケット的な空気感がある。たいした再開発が進行中なわけでもなく、昔からの家並みや入り組んだ細い道が残っていて、都心部なのに交通の便がそれほどよくないことも関係しているのだろうが、やや取り残された感が漂う。それが独特の居心地良さにつながっている。路地の奥、迷路のような住宅街のなかに、2階建ての銭湯がある。松の湯、昔から早稲田の学生に愛されてきた銭湯だ。1階はいまも盛業中だが、2階はすでに営業終了、銭湯の造作を残したまま、ギャラリー・スペースとして活用されている。そこで6月の1週間、開催されていたのが大阪の写真家・赤鹿麻耶による『ぴょんぴょんプロジェクト vo.1「Did you sleep well?」』という奇妙なタイトルの、奇妙な展覧会だった。

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lifestyle

アナーキーゲイシャ・キス・キス!――エロチカ・バンブーの踊り子半生記 前編(写真:多田裕美子、都築響一)

ラブホテルと外人売春婦と熟女風俗・・・東京でいちばん魑魅魍魎が跋扈する街のひとつである鶯谷に降り立つ。駅から徒歩1分、1969年にできたグランドキャバレー・ワールドは、いまでは東京キネマ倶楽部という名のライブハウスになっているが、5月16日の今夜だけはグランドキャバレーの残り香が、ほんの少し帰ってくる。バーレスクやピンナップ・カルチャーを発信するウェブサイト「BAPS JAPON」5周年イベントとして、人気バーレスク・ダンサーたちが集結する『バーレスク・オー・フューチャラマ(Burlesk-O-Futurama)』が開催されるのだ。

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art

精液と糞尿のスペース・オデッセイ  ――三条友美「少女裁判」によせて

「百日紅」はふつう「さるすべり」と読むが、この店は「ひゃくじつこう」。見かけも、ドアを開けても一見ふつうの喫茶店だが、展示のラインナップは耽美、フェティッシュ、グロテスク、そしてエロチカに特化した、きわめてビザールかつ「喫茶店らしくない」メニューだ。今年4月末から5月にかけては伝説のエロ劇画家ダーティ・松本の個展が開催され、上品なインテリアと着物姿のママさんと、ハーブティーの香りと(この店はハーブティーが売り!)、股縄バレリーナのようなどエロ展示作品とのミスマッチに絶句させられた。そのカフェ百日紅で8月20日から2週間だけ開催されるのが、ダーティ・松本展以上にどエロでグロテスクで、ミスマッチ感にあふれること確実なハードコア・エクジビション『三条友美 処女個展 少女裁判』である。劇画家・三条友美のことを、どう説明したらいいだろう。知っているひとはずっと静かに愛読してきたろうし、知らないひとは一生知らないままで終わるはずの、まさしく孤高の漫画家にして、エログロ官能劇画のダークスター。すでにキャリア40年近くにおよぶ大御所でありながら、本名も年齢も顔写真も非公開、インタビューすらめったにないというミステリアスな存在。

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art

詩にいたる病  ――安彦講平と平川病院の作家たち

薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された数枚の絵。それは白地の大きな画面に、Tシャツやズボンなどの洋服が黒い縁取りを伴う白ヌキの平面として浮かび上がる図柄なのだったが、一見エアブラシかパソコンの切り抜き処理のように思えるその画面は、よく見ればすべて鉛筆で洋服の周囲を塗りこめた「切り抜きふう手描き絵画」だった。杉本たまえさんという、その作家に出会ったのは今年3月、近江八幡NO-MAが主催した大規模な展覧会『アール・ブリュット☆アート☆日本』の会場だった。たくさんの出品作家のうちでも、彼女のことが強くこころにひっかかって、東京に帰ってから調べてみると、2009年に第1回展を開催以来、1~2年に一度開かれる『心のアート展』という展覧会に何度も出品していて、ちょうど今年も6月17日から5日間、池袋の東京芸術劇場で開かれることがわかった。

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travel

ライブ・アット・ニュージンジャーミュージアム

栃木県、というと餃子の宇都宮だったり東照宮の日光だったり、観光スポットはいろいろあるが、宇都宮、小山につぐ第3の都市・栃木市はなんとなく影が薄い。市街中心部には蔵造りの家屋がずらりと並び、なかなか風情もあるのだが・・。そんな栃木市でいま、にわかに注目を集める新観光スポット、それが『岩下の新生姜ミュージアム』。今年6月20日にグランドオープンを迎えたばかりだが、すでにテレビや新聞・雑誌でご覧になったかたも多いのでは。「都築さんにとっては秘宝館みたいなもんでしょ?」とニヤニヤしながら迎えてくれたのが、岩下食品社長兼ミュージアム館長の岩下和了(いわした・かずのり)さん。1966年生まれ、今年49歳の社長さんだ。

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movie

ヴィヴィアン・マイヤーを探して

この数年でもっとも話題になりながら、なぜか日本ではいちども展覧会が開かれず、輸入された写真集は大人気でありながら日本版が出版されることもない、知る人ぞ知る存在だった写真家、それがヴィヴィアン・マイヤーだ。メールマガジンでもずいぶん前から紹介したかったのだが、種々の理由でなかなか実現できないでいた。すでに各メディアで告知記事を読まれた方も多いと思うが、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門(第87回、今年2月開催)にもノミネートされた映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』が、10月10日からの渋谷シアター・イメージフォーラムを皮切りに、各地で公開される。まさに待望!のリリースだろう。

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photography

佐世保の夜の女と男――松尾修『誰かのアイドル』

見るだけで行った気になる写真と、見てるうちに行きたくてたまらなくなる写真がある。この6月に発表されたばかりの写真集『誰かのアイドル』をAmazon経由で手に入れて(自主制作なのでウェブか限られた書店でしか手に入らない)、僕は眼を見張るというより腰が浮く思いで、ウズウズを抑えかねた。『誰かのアイドル』は佐世保出身の写真家・松尾修が個人で進める「サセボプロジェクト」の、2冊めとなる出版物。去年(2014)11月には『坂道とクレーン』と名づけられたタブロイド式の写真集を、1冊めに発表している。

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book

オブジェクト・レッスンズ:科学の墓場から

指名手配の容疑者を探すのに使われるモンタージュ。街頭でよく見かけるあれには写真と似顔絵があるが、実は写真よりも似顔絵のほうが容疑者を見つけやすい、と聞いたことがある。生物図鑑の図版も、いまだに絵のほうが写真より使いやすかったりする。創作活動ではなく、完全に実用的な絵画。それはある意味で視覚的な取捨選択をあらかじめ行うことで、見るものの意識をいくつかの特徴にフォーカスさせる効能があるのだろう。写真のようにすべての部分を等価に写すのではなく、「この部分を注視すべき」と画家が選ぶことによって。『珍世界紀行』などで、これまでヨーロッパの医学標本を何度か紹介してきた。ずっと以前にアートランダム・クラシックスというシリーズで、人体解剖図の画家として有名なジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティの画集を編集したこともある。見てくれたひとはどれくらいいるだろうか。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む ―― ナジャの教え 04

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。独自のセレクションのワイン、料理、音楽の三味一体がつくりあげる至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニー、米沢伸介さんによる『ナジャの教え』。第4夜となる今回はおだやかな秋の宵に、かすかに不穏な空気感をブレンドするミックスを披露してくれた。

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art

モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・後編

先週に続いて、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会のリポート後編をお送りする。パリで発のアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年の第1回、2013年の第2回展に続く、本展が第3回。もとは市場だったという大きな建築の2フロアに、60名以上の作家によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている。今週は2階フロアに展示されている作家のうちから、個人的に気になった作品を紹介してみる。展覧会は3月まで続くので、機会があればぜひ会場に足を運んでいただきたい。先週書いたように、アートを金持ちのおもちゃではなく、ほんとうに生あるものにしたいと願う人間たちが、いまこんな最前線にいるのだということを体感していただきたいから。

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art

機械仕掛けの見世物小屋――ジルベール・ペールのアトリエから

先週まで2週にわたって、パリのアル・サンピエールで開催中の展覧会『HEY! ACT III』についてお伝えしてきた(『モンマルトルのベガーズ・バンケット 前・後編』)。60名以上によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている中で、ひときわ奇妙なユーモアを漂わせ、動きのある作品を出展していた数少ない作家がジルベール・ペール。1947年生まれ、みずからを「エレクトロメカノマニアック=電気機械マニア」と呼ぶ、風変わりなフランス人アーティストである。現代美術でもあるけれど、機械による演劇でもあり、スペクタクル=見世物でもある彼の作品に、これまで日本ではほとんど接するチャンスがなかった。今週はパリ郊外のアトリエを訪ね、インタビューを交えながら過去20年以上にわたる作品群を紹介してみたい。

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art

単眼少女たちのいるところ

この夏のもっとも暑かったころ、ろくに冷房の効かない幕張メッセのワンフェス会場に充満する甘酸っぱいオタク臭に意識を失いかけながら、まるで知らないアニメのフィギュアが何百と並ぶ展示に辟易としはじめたころ、ひとつのブース前で動けなくなった。だれもいないテーブルの上に、美少女の被り物が置いてあるのだが、それは巨大な一つ目の美少女なのだ。そこだけひんやりとした空気が流れるようでもある、一つ目小僧ならぬ一つ目小娘に見とれていると、ブースの主の仲間らしき男子が、「いまいないんですけど、こんなのもあります」と薄手の写真集を見せてくれた。『chimode』というタイトルのそれを購入して帰ったものの、表紙からしてあまりのインパクトに「だれがこんなのつくってるんだろう!」と会ってみたい気が抑えられなくなって、連絡をとってみた。作者の小沢団子(おざわ・だんご)さんは、被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい女の子だった。

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art

明るさも暗さも底なしの国で――BEAUTÉ CONGO展@パリ・カルティエ財団

先週、ふたつの展覧会を観に、パリに行ってきた。今週、来週とその紹介をしたいのだが、今週はまずカルティエ財団で開催中の『BEAUTÉ CONGO 1926-2015 CONGO KITOKO』にお連れする。アフリカというと、どうしてもプリミティブ・アートに偏った紹介になりがちだが、本展はタイトルどおりコンゴの近代美術を体系的に展示する、画期的な展覧会である。ちなみにタイトルにある「KITOKO」とはコンゴの言葉(リンガラ語)で「美しい」「きれい」などを広くあらわす表現。「かわいい」や「おいしい」にも使えるそうなので、覚えておくといつか役に立つかも。

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花咲く娼婦たちのかげに――オルセー美術館『華麗と悲惨:売春のイメージ』展

先月2回にわたって紹介したアウトサイダー/ロウブロウ・アートの展覧会『HEY!』に、見世物小屋絵看板コレクションで参加した折り、ちょうどオープニングがあるというので楽しみにしていたのが、オルセー美術館の『Splendeurs et misères, Images de la prostitution 1850-1910』という展覧会だった。ご承知のとおりオルセー美術館はセーヌ河畔近くの、もともと駅舎兼ホテルだった巨大な建物を改造した、19世紀美術に特化した美術館。正確には二月革命の1848年から第一次大戦勃発の1914年までの期間を扱い、それ以前はルーブル、以降はポンピドゥ・センターという区分になっている。特に印象派のコレクションが有名で、パリ有数の観光名所として日本からの観光客にもおなじみ。本メルマガではちょうど1年前の2014年11月19日配信号で『サド展』を紹介したが、それに続く意欲的というか、挑戦的な企画展が今回の『Splendeurs et misères』だ。

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art

フランス式グラフィティの教え

この原稿を書いている最中にパリの同時多発テロ第一報が、つけっぱなしのテレビから流れてきた。土曜日早朝、CNNのライブ・ニュースで、しばらく画面に釘付けになるしかなかったが、そのあと日本の地上波を見てみて、あまりの軽い扱いように、ふたたびのけぞった。現場に突っ込んでいく取材力がないのと(土曜日で支局員はお休み?笑)、掘り下げていけば当然ながら、集団的自衛権が抱え込む危険に言及しなくてはならないからだろうけれど。こんなタイミングで、パリの街のガイドのような記事を書くのはどうかとも思ったが、こんなときだからこそ書くべきかとも思い、そのまま進めることにした。日本ではいまだ「落書き」扱いのグラフィティだが、それがきわめて先鋭的なメッセージを発信するメディアとなり得ることを、記事から読み取っていただけたらうれしい。文中でも触れるが、いまごろパリの街角では、テロの犠牲者たちに捧げるグラフィティが、爆発的なスピードで生まれているはず。都市の生命力とは、そういうエネルギーのことを言うのだろう。高層ビルの数とか、巨大店舗の売上高とかではなくて。

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art

八潮秘宝館、開張!

告知でお知らせしたように11月13~15日の3日間、稀代のラブドール・コレクターであり、ご本人によれば「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴(ひょうどう・よしたか)が、「自宅秘宝館」として『八潮秘宝館』を一般公開。全国から50人以上のマニアが拝観に訪れたという。兵頭さんが初めて本メルマガに登場してくれたのは2012年3月21日配信号。『人形愛に溺れて』と題したその記事は、葛飾区内の古びたアパートの一室に構築された、驚異の変態人形空間訪問記だった。

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travel

ブルゴーニュのタイムマシン

中世の城、といってもフランスでは珍しくないし、現代に復元された中世の城なんて、さらに珍しくない。でもそれが完全に中世の工法で、当時と同じ素材だけを使用して、もう20年近くもかけて建設中となると、ちょっと話が違ってくる。パリから南下すること200キロ弱。ワインで有名なブルゴーニュ地方でただいま進行中の「ゲドゥロン(Guédelon)」は、中世の城を中世のやりかたで建てる(プロセスを見学する)テーマパークであり、この時代にエコロジーの観点から建築を見直す試みでもある、奇抜にして壮大なプロジェクトだ。

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fashion

捨てられないTシャツ 特別編 捨てられないハイレグ/44歳男性(不動産賃貸業)

1980年代後半から90年代前半に青春、というか青臭い時期を送った人間(つまり現在の中年)にとって、「ハイレグ」とはバブル時代を象徴する単語のひとつだろう。レースクイーンのハイレグ、飯島直子のハイレグ、岡本夏生のハイレグ・・・。どんな体型の女性でも、それなりに足を長く、ウエストをスリムに見せる、それはほとんど「魔法のデザイン」だったが、ハイレグが世の中から消滅して、もうずいぶん時がたつ。バブル経済がダウンしたあとも過激度をアップしていったハイレグ水着が、セクシーさのピークを迎えたのは1999年と一説に言われているが、その反動でレースクイーンの衣装規制が実施されたあたりを境に、ハイレグは急速に水着売り場から姿を消していく。

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photography

日々、常に――オカダキサラの日常写真

東京都心部でもっとも東に位置する街のひとつ、南葛西。旧江戸川を隔てた対岸はディズニーランドのある浦安・舞浜という、トーキョー・イーストエンドである。1980年代に建設された戸数900近い巨大団地にオカダキサラは生まれ、いまも住んでいる。1988年生まれ、27歳の写真家だ。

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photography

渋イケメンの国から

美しさに絶句する写真集もあれば、刺激的な内容に絶句する写真集もある。でも、「なぜこれが一冊の本に!」と存在自体に絶句する写真集にはなかなか出会わない。そんな驚きで、久しぶりにフラフラな気持ちにさせてくれたのが『渋イケメンの国――無駄にかっこいい男たち』だった。著者である三井昌志はもう十数年間、アジアを中心に長い旅を続けて、その道程で撮影した写真を本にまとめたり、CDーROMにして自分のサイトで販売して生計を立てている「旅の写真家」である。2010年にはバングラデシュで購入したリキシャ(三輪自転車タクシー)に乗って、日本一周6600kmを走破するプロジェクトも達成している。過去の作品には『アジアの瞳』『美少女の輝き』『スマイルプラネット』など7冊の写真集があり、その幾冊かは旅行本を専門にする書店などで見た覚えがあるが、「渋イケメン」にフォーカスした写真集はさすがに初めて。おそらく類書もゼロだろう。

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修羅の果ての島で――焼き絵師・元心作品展

ハンダゴテのような電熱ペンを使って、板を焦がすことで絵柄を描いていくウッドバーニングというクラフトがある。古くから世界中で親しまれてきた技法だが、その電熱ペンを使って木片ではなく皮革に絵を描く「焼き絵作家」が、元心(げんしん)である。すでに本メールマガジン購読者にはおなじみのカフェバー浅草・鈴楼で、その作品展『LEATHER ART GENSHIN』が昨年末から開催中だ。ヌメ革独特の肌に描かれるのは浮世絵の美人や役者絵、相撲取りといった伝統的図柄から、虎、犬、猫、昆虫など、身の回りの生き物たちまでさまざま。中には春画を題材にしたものもある。作品の多くは色紙大くらいだが、2メートルを超える一枚革に観音や仙人を焼き描いた大作にも挑戦している。

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焼き芋とストリート・アート

とてつもないデコトラならぬデコ・セダンが真冬の、東京の夜をクルーズしている。トヨタの誇る社長車センチュリーの屋根にド派手なデコレーションを光らせ、後部に伸びた竹ヤリから白煙をモクモク吹き出しながら・・・。秋葉原で、原宿で、代官山で、その勇姿を見て呆然としたひとも、思わず駆け寄ったひともいるだろう。デコ・セダンの名は「金時」、大阪のアーティスト・ユニット「yotta(ヨタ)」が仕掛ける「アートとしての焼き芋屋活動」である。すでに多くのメディアにも取り上げられているyottaは、木崎公隆と山脇弘道によるユニット。2010年に移動焼き芋屋・金時をスタートさせて以来、今年も3月末の焼き芋シーズン終了まで、東京の街なかで夜ごと焼き芋を売り歩いている。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行1 古都の哀愁蝋人形館

朝9時を過ぎても薄暗い街。凍りつく路面を足早に歩く人たちがいる。さらさらとふりかかる雪は、文字どおりパウダーのように服や靴の表面を滑って消え、すでに店を開けているレストランでは半袖シャツのスタッフがテーブルを整え、ビルの壁の電光表示はいまの気温がマイナス20度だと告げていた。サンクトペテルブルク、1月10日。ロシアではクリスマスにあたるというその週に、成田からモスクワを経て僕は、ここにいる。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行2 「ロシアのバスティーユ」で豪華版・見世物小屋めぐり

先週に続いてお送りするロシア冬紀行・第2話、今回訪れるのはエルミタージュ美術館とネヴァ川を挟んで向かい合う、ペトロパヴロフスク要塞である。サンクトペテルブルク観光でも重要な場所であるペトロパヴロフスク要塞。どのガイドブックを見てもかならず「バスチョン」と呼ばれる収容所内部や聖堂が解説されているが、しかし! そういう歴史的に重要な施設の周囲を、数々のB級観光スポットというか、ほとんど見世物小屋のノリに近い常設・仮設展示施設がいくつも取り巻いていることは、まったく語られていない。チープな歴史蝋人形館のほかは、ガイドブックどころかウェブサイトでもほとんど記述が見つからないので、今週はこの「知られざるサンクトペテルブルク最重要B級スポット」を徹底紹介する。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行3 折れた骨の音楽

見たこともない「ビートルズ・ラブソングス」と書かれたアルバムが最前列に陳列してある。片言の英語で店主は「これ、ルーマニアでプレスされたレア盤だから」と教えてくれ、値段も手頃だったので購入。代金を払いながら「ボーン・レコードもある?」と聞くと「ん?」 しかたないので自分の胸のあたりを指さしながら「エックスレイ」と言ってみると、「お~、あるある」とペナペナのソノシートふうの数枚を、奥から引っ張り出してくれた。あぁよかった。これを探しに、真冬のロシアに来たのだから。

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photography

自撮りのおんな

「セルフィー」という英語すら普通に通用する時代になって、世にはさまざまな自撮り写真があふれているが、先週出会った「自撮り写真家」田岡まきえには、ひさびさに興奮させられた(いろんな意味で)。トークに来てくれた田岡さんは慎ましやかで可愛らしい奥様、という雰囲気を漂わせていたが、抱えていたポートフォリオを見せてもらうと、そこにはスケスケ・セーラー服やホタテビキニ!を着用したり、なにも着用していなかったりする田岡さんが、手にカメラのリモコンを持った「自撮り熟女グラビアモデル」になっているのだった。田岡まきえは1966年大阪生まれ。今週ちょうど50歳になったところだという。

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art

皮膚という衣装のために――八島良子の映像をめぐって

先週、東京六本木の国立新美術館では「文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が開催されていた(2月3~14日)。1997年の設立以来、今年が19回目になるメディア芸術祭は、その名のとおり文化庁が主催する「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」(公式サイトより)。国内最大級のアート・デザイン系コンペであることは間違いない。しかし今年の芸術祭アート部門で、審査委員会推薦作品に選ばれながら、展示されなかった作品があった。八島良子の映像インスタレーション『Limitations』である。

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art

月夜の浜の少女時代

本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で、今週月曜日から『沈黙する聖少女。宮トオル遺作展』が開催中である。「宮トオル」という名前を聞いて、「ああ、あの作家ね」とうなづく美術ファンが、どれくらいいるだろうか。僕も不勉強で、初めて聞く名前だった。イラストレーターから画家に転身し、亡くなるまでずっとひとりの、というか同じ顔の少女を宮トオルは描きつづけた。徳之島という南の島に生まれ育った彼の画面には、奄美大島でだれにも評価されない絵を描きつづけた田中一村の光と闇が見える気もするし、飽くことなく描いた少女の表情には、斎藤真一が描いた瞽女の静謐さが滲み出ているようにも見える。そして宮トオルの絵はだれにも似ていないし、どんなトレンドにも流派にも属していない。そういう、ひとりだけの絵を描いて彼は生き、死に、忘れられた。

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travel

圏外の街角から:広島駅前地下広場

ものすごく久しぶりにお送りする「圏外の街角から」。全国に散らばるシャッター商店街を歩く連載だが、今回はちょっと趣向を変えて広島駅前の地下広場にご案内したい。中国地方最大の都市であ広島市。JR広島駅は北口が新幹線口、在来線が南口となっている。南口駅前は現在、大規模再開発が進行中。まことに味気ない広場になっているが、この一帯はもともと原爆で壊滅的な被害を受けたあと、終戦直後から闇市が出現。しだいにいくつかの市場を形成するようになって、「荒神市場」と呼ばれていた。いまも駅を出て左側に歩いて行くと「愛友市場」という名の、当時の面影をそのまま留めた市場が残っている。

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music

辺境のグルーヴ、共産テクノ!

本業は硬派の出版社で編集者を勤めつつ、「珍書プロデューサー」としてもマニアックな書籍をリリースしてきたハマザキさんは、みずから自費出版社「パブリブ」も立ち上げていて、すでにその第一弾として昨年『デスメタル・アフリカ』を刊行しているが、そのパブリブから「今月(2016年3月)に出版する新刊がこれです!」と手渡されたのが『共産テクノ ソ連編』。アフリカのデスメタルの次は、ソ連(ロシアですらなく)のテクノ・・・どれだけケモノ道に分け入っていくつもりだろう。著者の四方宏明(しかた・ひろあき)は序文で「共産テクノ」というものを、「冷戦時代にソ連を中心とした共産主義陣営で作られていたテクノポップ~ニューウェイブ系の音楽」と定義しているが、これはもちろん四方さん自身による造語。日本や欧米の占有物というイメージが圧倒的に強いテクノポップ~ニューウェイブが、共産主義陣営にも存在したという事実すら、これまでほとんど知られてこなかったし、海外を含めてそれらが書籍としてまとめられたこともかつてなかったそう。つまりこれもまた「類書なし」の孤独なトップランナーなのだった。

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lifestyle

25年目のTOKYO STYLE

あれから四半世紀のうちに、僕にもいろいろあったし、部屋主のひとりひとりにもいろいろあったろう。撮影させてもらった人の多くは、あとがきに書いたように付き合いがなくなってしまったり、音信不通だったりしたのだが、このところFacebookなどのSNSや各地のトーク会場、打ち上げの場などで「再会」する機会が増えてきた。お互いの無事を喜び、思い出を懐かしみながら、「四半世紀たったいま、みんなはどういう暮らしをしているのだろう」と気になって、覗き見したくてたまらなくなった。ちょうど25年前に、みんなの暮らしを覗き見したくてたまらなくて、カメラを買いに走ったように。これから毎週、というわけにはいかないけれど、なるべく頻繁に、かつて撮影させてくれたひとたちを訪ねて、いまの暮らしを見せていただこうと思う。「25年目のTOKYO STYLE」がどんなふうになっているのか、ご覧いただきたい。四半世紀を隔てた彼らの昔と今。それは僕ら自身の25年間でもあるはずだから。

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photography

ストレンジ&ファミリアー――外国人が見た英国式日常

アート・ファンのみならずクラシック音楽ファンにも、演劇ファンにもおなじみのロンドン・バービカンセンター。地味な高層住宅群に囲まれた地味な建築に、初めて訪れるひとはいささか拍子抜けするかもしれないが、1982年の完成以来、現在でもヨーロッパ最大級の複合文化施設である。バービカンのアートギャラリーで先週スタートしたばかりの展覧会が『Strange and Familiar』。「Britain as Revealed by International Photographers =世界各国の写真家によってあらわにされた英国」と付けられた副題のとおり、イギリス人ではない写真家たちによって捉えられたイギリス、という興味深いテーマ設定。そのキュレーションを担当したのがストレンジ・フォトの元祖であり、「カスハガ」をはじめとする珍物収集狂でもあるマーティン・パーとなれば、さらに興味が湧くはずだ。

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photography

「流しの写真屋」の見た新宿

竹橋の東京国立近代美術館ではいま『安田靫彦展』が開催中だが、同時に所蔵作品展として『MOMATコレクション 特集「春らんまんの日本画まつり』も開催中。これが「日本画まつり」というタイトルとはうらはらに、佐伯祐三からパウル・クレーにいたる油絵あり、高村光太郎やロダンの彫刻あり、戦争画あり、岡本太郎やピカソもあり・・・と、ぜんぜん「春らんまん」らしくないラインナップで充実。その展示の一室にあてられているのが、『渡辺克巳「流しの写真屋」の見た新宿』だ。ご承知の方もすでに多いだろう、渡辺克巳は近年、急速に再評価が進んでいる昭和のストリート・フォトグラファー。1941年に岩手県盛岡市に生まれ、高校卒業後いちどは国鉄に就職するが、20歳で上京。写真館で技術を学んだのち、1965年から新宿で「1ポーズ3枚200円」で写真を撮って翌日プリントを渡す「流しの写真屋」を始める。

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photography

美脚の自撮り宇宙

去年9月、恒例の「東京アートブックフェア」がちょうどフランス出張と重なって、行けずに悔しがっていたら、「こんなおもしろいの見つけました」と持ってきてくれたひとがいた。『巨大娘』と『美脚星人』という2冊の写真集である。『美脚星人』から見てみると、いきなり表紙がピンヒール姿の美脚。しかも下半身だけで、上半身がない! それがコラージュかフォトショップ加工かと思いきや、上半身を絶妙の角度に曲げて、それを三脚に据えたカメラを使って自撮りしてるという!(写真集の最後にも「これらの写真は修正して上半身を消したのではありません。ポーズや角度を試行錯誤して撮りました」と、ちゃんと記されている)そして『巨大娘』のほうは、自分の足によって踏みつぶされそうな風景や「小人」を、なんと自撮り棒とスマホを使って撮影したシリーズ。そう、例の自撮り棒を頭上ではなく、地面すれすれに下げて撮影するという、こちらも意表を突いたスタイルなのだ。

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破壊せよ、と動画は叫ぶ――冠木佐和子のアニメーション・サイケデリア

昨年はアウトサイダー映像作家・伊勢田勝行監督のアニメに打ちのめされたが、またひとり、僕らがふつうに思う「アニメ」のイメージを激しく逸脱する、オリジナリティのかたまりのような作品を生み出す作家に出会うことができた。冠木佐和子(かぶき・さわこ)――1990年生まれ、まだ25歳の若手映像作家である。冠木さんがどんなひとなのか紹介する前に、とにかくまずはこの一本を見てほしい。『肛門的重苦 Ketsujiru Juke』、2013年に多摩美術大学の卒業制作として発表された、2分56秒の作品だ。

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ブルジョワジーの豊かな愉しみ――写真展「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」

これまで何度も展覧会が開かれて、日本でも人気の高いジャック=アンリ・ラルティーグの写真展が埼玉県立近代美術館で開催中だ(5月22日まで)。プロフェッショナルとは「レベルの高い写真を撮るひと」、アマチュアとは「そこまでいかないひと」と思われるようになったのは、19世紀にさかのぼる写真の歴史の上で、実はここ数十年のことにすぎない。日本でも東京や関西、鳥取など各地の裕福な趣味人が「芸術写真」を戦前に育んできたように、かつてプロとは依頼されて人物や風景を撮る「写真師」であり、高価なカメラ機材を購入して「好きなものを好きなように撮る」のはアマチュアの特権だった。

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『針工場』――豊島に大竹伸朗の新作を訪ねて

今年は瀬戸内国際芸術祭の開催年だ。2010年、2013年に続く3回目。4月17日までの春会期にいち早く訪れたかたもいらっしゃるだろう。直島、小豆島と並んで多くの作品が集まる豊島(てしま)には大竹伸朗の新作『針工場』が完成。直島の『直島銭湯I♥湯』『はいしゃ/舌上夢/ポッコン覗』女木島『女根/めこん』に次ぐ4つめのプロジェクトとなった。

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死刑台のギャラリー――極限芸術2~死刑囚は描く~

広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」を、これまで本メルマガでは何回も紹介してきた。全国各地に続々と誕生しつつあるアウトサイダー・アート/アールブリュット関連展示施設のうちで、ほとんど唯一「障害者」という枠組みをあえて逸脱しようとする姿勢が際立つ、本来的なアウトサイダー精神に深く共感したからだった。ヤンキーにスピリチュアル系、ただ単に「我が道を行く」変人表現者まで――福祉施設を母体に持ちながら、それはどんな公立美術館も手をつけない、ひりつくリアリティに満ちた企画で、だからこそ全国から熱心な来館者たちを集めていたのだが、そのキュレーションの中心にいたのが櫛野展正だった。本メルマガでも「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載している櫛野くんが、昨年末で鞆の津ミュージアムを離れ、同じ福山市内に開いたのが「クシノテラス」。その第1回目の本格的な展示として、『極限芸術2~死刑囚は描く~』が先月末から開催中だ(8月29日まで)。

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太陽と大地と人形の国――ネック・チャンドのロックガーデン訪問記

コルビジェのキャピトル・コンプレックスに隣接する広大な彫刻庭園が「ネック・チャンドのロックガーデン」である。ル・コルビュジエではなくて、実はこのロックガーデンが見たくて、僕はここまで来たのだった。アウトサイダーアート/アールブリュット・ファンにとって、生涯でいちどは訪れなくてはならない場所が、2カ所ある。そのひとつはフランス・オートリーヴの「郵便配達夫シュヴァルのパレ・イデアル(理想宮)」、そしてもうひとつがネック・チャンドのロックガーデンだ。

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travel

海辺の町のロウ人形館

南インド・ケララ州のコーチン(コチ)は、アラビア海に面した大都市。観光のメインとなる旧市街フォートコーチンと川を隔てた、新市街にある「ケララ州で2番目に大きいショッピングモール」というオベロンモールの3階に『スニルズ・セレブリティ・ワックス・ミュージアム(Sunil's Celebrity Wax Museum)』があった。旧市街の美しいポルトガル建築や、『地獄の黙示録』気分に浸れるバックウォーター・クルーズとかを取材しとけばいいものを、なぜに南インドまで来てロウ人形館を・・・と思わなくもないが、ロードサイダーズなんだからしょうがないです!

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lifestyle

25年目のTOKYO STYLE 02 湯浅学

『TOKYO STYLE』が最初の大判写真集として世に出たのが1993年。実際に撮影で東京都内を原チャリで走り回っていたのが1991年あたりだったから、今年はあれからちょうど25年というタイミングで、当時の部屋主たちを再訪する新連載。第1回からちょっと間が空いてしまった第2回は、前回の部屋主・根本敬と共に「名盤解放同盟」を支えてきた盟友でもある音楽評論家・湯浅学宅からお送りする。西麻布・新世界で続けてきた連続企画『爆音カラオケ』でも毎回ゲスト役を務めてくれた湯浅くんは1957年生まれ、いま59歳。来年還暦を迎えることになる。新刊『アナログ穴太郎音盤記』(音楽出版社刊)を出版したばかりの5月半ばの週末、「この日なら家族が揃うから」という文京区・護国寺に近い静かな住宅街の一軒家を訪ねた。

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art

神は局部に宿る!

日本を訪れる外国人観光客は、氾濫する性的イメージにいきなり圧倒される。通りにはみ出す風俗看板に、路傍でチラシを配るメイド少女に、DVD屋のすだれの奥に、コンビニの成人コーナーにあふれ匂い立つセックス。そしてハイウェイ沿いに建つラブホテルの群。この息づまる性臭に、暴走する妄想に、アートを、建築を、デザインを語る人々はつねに顔を背けてきた。超高級外資系ホテルや貸切離れの高級旅館は存在すら知らなくても、地元のラブホテルを知らないひとはいないだろうに。現代美術館の「ビデオアート」には一生縁がなくても、AVを一本も観たことのない日本人はいないだろうに。そして発情する日本のストリートは、「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」だらけなのに。

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photography

映画館からフィルムが消える日に

京橋の近代美術館フィルムセンターでは、『写真展 映画館――映写技師/写真家 中馬聰の仕事』を開催中である。この展覧会についてはきちんと紹介したいと思っていて、そろそろというタイミングで、イギリスでやはり消えゆくフィルム上映の映画館と映写技師を撮影してきたリチャード・ニコルソンの作品を知ることができた。まったくの偶然だが洋の東西で同じく、「フィルム」という映画のよろこびのオーラをまとったメディア――その終焉を見据えるふたりの写真家を今回は同時に紹介する。ひとつのテーマが、視点によってこんなふうに異なる作品に結実する、というおもしろさとあわせ、ご覧いただけたら幸いである。

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music

浜松の演歌王・佐伯一郎物語[前編]

始まりは『ドントパスミーバイ』というラジオ番組だった。根本敬x湯浅学という、商業放送にはあまりに危険な組み合わせによる、めちゃくちゃな(ほんとうに!)番組が2010年の3ヶ月間だけインターFMで放送されていた(もちろん1クールで終了)。そのゲストに呼ばれたときに、スタジオに入っていったらかかっていたのが、「用心棒」という謎の3人組スキンヘッド親父が歌う『MAMA・・・』。それは「都築さんならこの曲だと思って」と説明された曲だったが、どう見ても聴いても、ルックスが似てること以外に共通点はない気がした。それから月日が経ち・・・本メルマガでこれまで浜松祭りのラッパや、宮城の北村大沢楽隊について書いてくれた、静岡文化芸術大学の奥中康人さんと話していたときのこと。「浜松にはこんな演歌の先生がいて、歌謡塾も開いてるんです・・」と、侠気あふれるシングル盤を目の前に積み上げてくれて、そこには「佐伯一郎」という名前が大書されていたのだが、その中になんと「用心棒」のCDシングルも混じっていた。そうか、これも「音楽都市」浜松が生んだ歌だったのか!

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book

夜のアートブックス

きょうは日曜日、グッチ山口さんは、いつものスクーター「グッチモービル」を駆って、いつものように展覧会巡りをしているだろうか。2012年7月11日号で紹介した、毎年1000本以上の展覧会を訪れる「日本でいちばん展覧会を見る男」――山口‘Gucci'佳宏と、音楽業界では最大手印刷所である金羊社が手を組んで、今年初めにスタートさせたZINE形式のアーティストブック・プロジェクトが「ミッドナイト・ライブラリー」だ。2014年から銀座ヴァニラ画廊で個展を続けている波磨茜也香(はま・あやか)を1月に出したのを手始めに、吉岡里奈、写真家のオカダキサラ、長谷川雅子、そして5月には冠木佐和子と、ロードサイダーズでもおなじみの作家たちが含まれたラインナップで、毎月25日に一冊ずつという驚異的なペースで刊行を始めている。

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art

美青年の園で(文:ドキドキクラブ)

東京都心部から30分ほど、私鉄沿線の静かな郊外駅に、織部佳積さんが待ってくれていた。織部さんを僕に引き合わせてくれたのは、本メルマガ2014年11月26日号『瞬間芸の彼方に』で紹介したドキドキクラブくんだった。取材以来、仲良くしてもらっているので「くん」づけで呼ばせてもらうが、ドキドキくんはもうずいぶん前に、アート系のイベントで織部さんと知り合い、ひそかにその制作活動に注目してきたのだという。「こんな絵を描いてるひとなんですよ」と、携帯で見せてくれた作品の不思議さに心惹かれて、きょうは織部さんが住むアパートまで連れてきてもらったのだった。

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book

ROADSIDE LIBRARY 誕生!

ようやくこれをお知らせできる日が来ました。ロードサイダーズ・ウィークリーでは独自の電子書籍シリーズ「ロードサイド・ライブラリー」を今月からスタート。その第一弾として、『秘宝館』をリリースします。特設サイトで今日から予約開始、来週にはお手元に配信できる予定です。『ROADSIDE LIBRARY』は週刊メールマガジン『ROADSIDERS' weekly』から生まれた新しいプロジェクトです。2012年から続いているメールマガジンの記事や、その編集を手がける都築響一の過去の著作など、「本になるべきなのに、だれもしようとしなかったもの」や、品切れのまま古書で不当に高い値段がついているものを中心に、電子書籍化を進めていきます。電子書籍といってもROADSIDE LIBRARYは、Kindle、kobo、iBooksなどの電子書籍用の専用デバイスや読書用アプリケーションに縛られない、PDF形式でのダウンロード提供になります。なのでパソコン、タブレット、スマートフォン、どんなデバイスでも特別なアプリを必要とせずに読んでいただけます。コピープロテクトもかけないので、お手持ちのデバイス間で自由にコピーしていただくことも可能です。

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lifestyle

ラバー・ソウルふたたび

毎年5月6日の「ゴムの日」にあわせて開催される、デパートメントH『大ゴム祭』。言わずと知れた日本でいちばん古くて、いちばん大規模でフレンドリーなフェティッシュ・パーティの、いちばん人気のイベントのひとつだ。本メルマガでも2012年5月9日号、2013年5月8日号と紹介してきたが、ここ2年ほどは開催日に東京にいられなくて取材断念。なので今年のゴム祭(6月4日開催)をまたここで報告できて、ほんとうにうれしい。ちなみにデパHの「大ゴム祭」は今年がすでに7年目。デパH自体、すでに20年以上続いているパーティである。オーガナイザーのゴッホ今泉さんをはじめとする、デパHクルーの献身的な努力には、つくづく頭が下がる。今年のデパHゴム祭も、恒例の全国から集結した「ラバリスト」たちのお披露目、海外公演で大成功を収めたラバー工房・池袋KURAGEのファッションショー、そして今年の目玉はやはり本メルマガでも以前紹介したラバー・アーティスト・サエボーグの大がかりな新作『Pigpen』(豚小屋)。

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music

浜松の演歌王・佐伯一郎物語[後編]

浜松が生んだ偉大な「歌う作曲家」、佐伯一郎。苦難に満ちた少年時代から紆余曲折を経て、1973年にデビューアルバム『逢いたかったぜ』を吹き込み、大ヒットとなったのが36歳のときだった。しかしそこで東京に活動の舞台を移さず、あえて故郷・浜松で音楽活動を続けることを選ぶ。それが浜松ローカルの「歌う作曲家」、佐伯一郎の本格的な始まりとなったまでを先週はお話しした。『逢いたかったぜ』のヒットに先立つ1965年、佐伯さんは市内元浜町に「佐伯一郎音楽事務所」を設立。多くの門弟を育てつつ、オリジナル曲も数多く生み出していく。この時期、名盤解放同盟ファンにはおなじみのマリア四郎にも楽曲を提供しているが、やはり特筆すべきはまず『情熱の波止場』『男ブルース/女ブルース』など、青山ミチに提供した曲が挙げられる。

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art

ストリート・オブ・クエイ

東京都心部から約1時間、逗子駅に降り立つとすでにバス乗り場に並ぶ長い列ができている。ふだんは静かなビーチタウンが、この時期になると週末平日を問わず大混雑。「濡れた水着のままで乗車しないでください」「カバー無しでモリはは持ち込まないように」などと注意書きが貼られた超満員のバスに揺られ、ようやくほとんどの乗客が降りたあと、美術館前のバス停で下車。海の家の楽しげな音が風に乗って聞こえる神奈川県立近代美術館・葉山では『クエイ兄弟――ファントム・ミュージアム』が開催中だ(10月10日まで)。ここに来るのは一日がかりになってしまうのだが、これほど重要な展覧会を本メルマガ読者には見逃してもらいたくなくて、夏休みが明けて葉山の混雑がなくなるのを待てず、いち早くご紹介することにした。

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photography

羽永光利アーカイブ展――ある写真家の時代遺産

もっと早く紹介するつもりが、会期終了直前にずれ込んでしまったけれど、いま東京目黒区祐天寺のギャラリーAOYAMA | MEGUROでは、『羽永光利アーカイブ展』を開催中だ。羽永光利、という写真家をどれだけのひとが知っているだろう。本メルマガではおなじみ、『独居老人スタイル』でもフィーチャーした仙台のダダカンの、若き日の「殺すな」とかかれた書を持って歩く姿を撮った写真家が、羽永光利である。1933年生まれということは、戦争まっただ中に少年時代を送った羽永光利は、戦後しばらくたった1956年になって文化学院に入学。卒業後はアート・フォトグラフィを目指すが、1962年からは作品制作と平行して、フリーランス・カメラマンとして前衛アーティストたちの記録を雑誌などで発表するようになる。1981年からは新潮社の写真雑誌『フォーカス』の立ち上げに参加。その後、国内外の写真展に参加したり個展を開いていたが、1999年に死去。2014年になって、AOYAMA | MEGUROTOとぎゃらり壷中天によって、あらたな紹介が始まった。つまり死後15年も経ってから、いわば「再発見」された写真家、それが羽永光利なのだ。

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Campus Star ―― 制服から透けて見えるなにか

中田柾志の写真と出会ったのは2012年ごろ。最初に見たのは、パリ・ブローニュの森の奥で客を引く娼婦たちを撮影したポートレートだった。木立の陰に潜んだ獣のように生命力に満ちた、ときに高貴にすら見えるその姿に魅了され、本人に会ってみると、ほかにもさまざまなシリーズを手がけていることが分かり、本メルマガでは2013年の1月に、3週連続で紹介させてもらった。その中にはフランクフルトの娼館街「エロスセンター」の、娼婦たちの部屋を撮ったシリーズがあったし、素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを撮影した「モデルします」、世界でいちばんセクシーな学生服といわれるタイの女子大生のぴちぴち制服シリーズなど、エロと社会性が絶妙の割合で配合された膨大な作品がたくさんあって、どうしてこれほど興味深い写真が一冊の写真集にも、写真雑誌の特集にすらなっていないのか、僕には理解できなかった。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.5 ポルノ・ムービーの映像美学――長澤均の欲望博物学

ピンク映画やAVに関する本はいくらでもあるし、本メルマガでも大須蔵人さんに「はぐれAV劇場」を連載してもらっている。でも、まさかこんな本が出るとは思わなかった。『ポルノ・ムービーの映像美学』は、19世紀末の映画草創期から現代まで、約100年間にわたるエロティック映画の歴史を総写真点数534点、38万字を超えるテキストによってひもとく、432ページの超大作だ。これで定価3000円(+税)というのは、どう考えても安すぎる。

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京都マネキン慕情

京都近美で企画展と平行して、常設展エリアである「コレクション・ギャラリー」で今週日曜まで開催中なのが「キュレトリアル・スタディズ11:七彩に集った作家たち」。このままだとあまり知られないまま終わってしまいそう。でも個人的にはとても興味深い企画だったので、遅ればせながら紹介させていただく。「七彩」とは京都に本社を置くマネキンの会社である。創業者が彫刻家の向井良吉(洋画家の向井潤吉は兄)ということもあって、かなり芸術的な気風にあふれた会社であり、多くのアーティストが集まってマネキン制作に協力したり、顧客への贈呈品を手がけたりしていた。この小さな展覧会はそんな、いかにも京都らしい七彩という会社の歩みとアーティストたちの関わりを見せるとともに、美術館のあちこちに七彩のマネキンを配置して、知らずにやってきた観覧者を驚かせるという変化球的な楽しみを併せ持った、ユニークな企画だ。

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パリのビート・ジェネレーション

ジャック・ケルアックの『路上』が発表されたのは1957年だから、今年が60周年になる。訳者の青山南さん(※新訳『オン・ザ・ロード』訳者)によれば、ビート・ジェネレーションとは「だまされてふんだくられて精神的肉体的に消耗している世代」と訳されるそうだが、公式にビート・ジェネレーションが生まれたのは1944年、アレン・ギンズバーグとウィリアム・バロウズとジャック・ケルアックがニューヨークのコロンビア大学で知り合ったときとされている。そして2016年のいま、パリのポンピドゥ・センターでは『ビート・ジェネレーション ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ』展が開催中だ(10月3日まで)。どうしても行きたかったけれど時間がやりくりできず、かわりに本メルマガに寄稿してくれているパリ在住の飛幡祐規さんに見てきてもらった。

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僕的九州遺産 My private Kyushu

すでに告知などでご存じの方もいらっしゃると思うが、今週土曜日(10月1日)から福岡天神アルティアムで、『僕的九州遺産 My private Kyushu』が開催される。会期は月末まで1ヶ月間あるので、もし機会があればご覧いただきたい。「ここがどこだか、道路でわかる。こんな道はほかのどこにもない」というのはリヴァー・フェニックスの『マイ・プライベート・アイダホ』に出てくる台詞だった。僕のオン・ザ・ロードはあんなふうに痛切でも絶望的でもないけれど、それでも山の中の道を走ったり、海辺の町の路地にたたずんでいるとき、「こんな道はほかのどこにもない」感覚を、九州という大きな島は僕にじわりと染みこませてくれる。

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見世物に魅せられて――見世物大博覧会@国立民族学博物館

大阪モノレールを万博記念公園駅で下車。ずいぶん汚れてしまった太陽の塔を横目で見ながら公園をずずっと奥に進むと、国立民族学博物館の大きな建物が見えてくる。通称「ミンパク」ではいま注目の展覧会『見世物大博覧会』を開催中(11月29日まで)。英語のタイトルが「アメイジング・ショウ・テンツ・イン・ジャパン」とされていることからも明らかなように、この珍しい、そして画期的な展覧会は、ショウ・テント=仮設の小屋で営まれてきた見世物の歴史を、江戸時代から平成の現在まで200年あまりにわたって振り返るという、ある意味、国立博物館らしからぬ(?)企画展だ。

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Y氏とめぐる、福岡マジカルミステリーツアー

おかげさまで好評開催中の『僕的九州遺産』展。これから観に行こうというかたもいらっしゃるかと思う。オープニング翌日の10月2日にはバスツアーも開催されたが、そこでツアーコンダクターとして活躍していただいたのが、通称「Y氏」こと山田孝之さん。本業はウェブ関連の会社を運営しながら、これまで福岡を中心とする九州の「B面」の楽しさを紹介する、最強のガイドとして発信を続けてきた。主戦場であるブログ「Y氏は暇人」で2013年からさまざまな調査の成果を発表するとともに、冊子『福岡のB面』『福岡ふしぎ旅』『福岡レトロ旅』などを次々に刊行。昨年末には単行本『福岡路上遺産』(海鳥社刊)も出版しているので、福岡の書店で見つけたひともいるのでは。今回はY氏にお願いして、これまでブログで紹介されたスポットの中から、これから展覧会に来ていただくみなさまのために「福岡に来たなら、これは行っとかないと!」という場所を選び、特選・福岡B面ガイドとして紹介させていただくことにした。

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art

レペゼン小倉のストリート・アーティスト、BABU

今月末の会期終了まで10日あまりとなった福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産』展。1990年代に『珍日本紀行』で日本中を巡っていた時代から、つい最近までの九州ネタをぎゅうぎゅうに詰め込んである中でもっとも新しい、というか最近の出会いだったのが、会場奥に設けた奇妙なスケートボード作品群。暴走族単車に畳、果ては琴まで(!)、なんにでもホイールをつけてスケートボードにしてしまう、恐るべき改造マニアによる作品だが、そのアーティストが「BABU(バブ)」。小倉を拠点に活動するストリート・アーティストであり、スケートボーダーであり、彫師でもある。そしてそのアトリエは偶然にも、見世物小屋絵看板の伝説的な絵師だった志村静峯の「大衆芸術社」があったのと同じ、小倉の中島本町にある。

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art

軽金属の妖精たち

最初に見たときはCGかと思った。それも初歩的な。緑の木々や、夜景に浮かぶメタリックなかたまり。球形や円錐やカプセルを組み合わせてつくられた、アニメのロボットのような、生き物のような。それがCGではなくて金属による立体作品だと知ってまず驚き、それがまだほとんど知られていない若い女性作家によるものだと知って、さらに驚いた。服部美樹は1983年生まれ、33歳のアーティストである。「作品はほとんど自宅にあります」というので、さっそくお邪魔した東京都心に近い、こんな場所にこんな家屋が!と目を疑う一軒家が、服部さんのアトリエ兼住居だった。聞けば築70年というから、終戦直後に建てられたそのままで、ビルの谷間に生き延びてきたことになる。

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photography

時速250キロの車窓から

世の中にはいろんな職業があるが、増田貴大の仕事は「毎日2回、新大阪と広島を新幹線で往復すること」。病院から検査機関に送られる血液検体を運ぶための「荷運び屋」である。いつものように荷物を持って窓際の席に座って、外の景色を見ていたら、こちらに向かって手を振る親子連れが見えた。「いい絵だなあ、これを写真に撮ったら、いい作品になるだろうなあ」と思ったのが、それまでカメラマンを目指したものの上手くいかず、30歳を過ぎてもフリーターのような生活に甘んじていた生活の転機になった。次の日からカメラを持って新幹線に乗るようになって、撮りためた車窓からの風景はこの9月に新宿コニカミノルタプラザで『車窓の人々』と題した写真展になり、ビジュアルアーツフォトアワード2016で大賞を獲得、来年1月には初写真集も発売される。

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art

手芸のアナザーサイド 1 山さきあさ彦の「山ぐるみ」

「手芸」という言葉に引かれるひとと、惹かれるひとと、ロードサイダーズ界隈にはどちらが多いだろうか。おかんアート系はともかくとして、「手編みのセータ-」みたいな普通の手芸をこのメルマガで取り上げようと思うことはなかったが、アウトサイダー・アーティストには布や糸や毛糸を素材に、すごくおもしろい作品をつくるひとがたくさんいる。そしてこのところやけに気になるのが、アウトサイダーとは言わないまでも、図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、セルフトート=自分でてきとうに縫ったり編んだりしている、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品。今週と来週の2回にわたって、ふたりの作家による手芸のそんなアナザーサイドを紹介してみたい。

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art

手芸のアナザーサイド 2 ミクラフレシアと「ニット・オア・ダイ」

先週の「山ぐるみ」に続いてお送りする、セルフトート手芸の最前線。図面を見ながら編んでいくような手芸とはまったく別次元の、自分でてきとうに縫ったり編んだり、ようするに紙やキャンバスと絵の具の代わりに、布や毛糸を使って生み出された「柔らかい立体」としての手芸作品のつくり手たち。今週は東京在住のアーティスト「ミクラフレシア」をご紹介する。世界最大の花にして毒々しい臭いを放つラフレシアと、ご自身の名前である「ミカ」を組み合わせたというミクラフレシア。怪獣、妖怪、巨大蛸、蛾、異形の人間・・・ふつうの手芸のかわいさとはかけ離れた物体でありながら、だれもがまず「かわいい!」と口走ってしまうにちがいない、キュートとグロテスクとシュールが鍋で煮詰められたような、なんとも不思議な立体作品を生み続けている手芸作家だ。

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fashion

お立ち台のシンデレラガール

今週はみなさまをディスコ・トレインに乗せて、1980年代の日本のダンスフロアへとお連れする。2016年のいま、クラブに行くのにお洒落するといっても、せいぜい渋いTシャツを着用するくらいだろうが、当時のディスコはなによりも「男と女の出会いの場」だったから、夜ごと精一杯めかしこむのが当たり前だった。80年代のディスコ・カルチャーが日本独自の発展を遂げた、そのプロセスは装いにもっともよく現れている。ニューヨークともロンドンともパリともちがう、東京(や名古屋や大阪や・・)ならではのディスコ・ファッションのガラパゴス的進化をじっくりご覧いただきたい。現在のクラブと当時のディスコのちがいは、もちろんファッションだけではなかった。覚えているひとにとってはいまも鮮明な思い出だろうし、知らない世代には想像すらできないその差を、いったいどこまで説明したらいいのかわからないけれど・・・とりあえず時代を30年ほど巻き戻して、「今夜はディスコで弾ける!」と決めたハタチそこそこのOLや学生や、新人サラリーマンになったと思ってもらいたい――

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music

欧州生まれの日本育ち、ユーロビートという「帰国音楽」

日曜夜9時の六本木。30年前は十数軒のディスコがひしめきあっていたブロックも、いまは手持ちぶさたな黒人客引きばかりが目立つ。カラオケボックスや相席居酒屋が入る飲食ビルにマハラジャ六本木が「復活」したのは2010年のこと。今夜はそのマハラジャで月イチの定例イベント「SEF DELUXE」が開かれている。SEFとは「スーパー・ユーロ・フラッシュ」の略。エイベックスからいまだに新譜リリースが続いている奇跡のご長寿シリーズ『SUPER EUROBEAT』をかけながら踊りまくるという、オールドスクールにしてダイハードなダンスシーンが、こんな場所で生き残っていたのだった!

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art

ホームレス排除アートをめぐって

すでにFacebookページを読んでくれたかたもいらっしゃるでしょうが、ずっと前にブログで書いた「ホームレス排除アート」の記事が、すごい数のリーチになってます。もともとはツイッターからですが、リツイート数を見たテレビ局から、たぶん「ホームレス 排除 アート」とかで検索して探し当てたのでしょう、「写真使わせてほしい」との連絡があり、それで2009年のブログ記事をメルマガ事務局のほうでFacebookページにアップしたのが経緯。ホームレス排除アートについてはもともと、『ART iT』という美術誌の連載で2004年に書いたもの。それが2009年になって『現代美術場外乱闘』という単行本に収められたので、「そういえばあれからどうなったのかな?」という確認もしたくて排除アートがあった場所を再訪、ブログに書いたのでした。

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ピエール・ユイグの映像が異界へと僕らを・・・

2012年からスタートしたこのメールマガジンも、来週号で6年目に突入。年を追うごとに肥大化しているのはご存じのとおりだが、毎週というペースでこれだけ長々と書いていても、紹介しきれないイベントがたくさんある。いま表参道のエスパス・ルイ・ヴィトン東京で開催されているピエール・ユイグ展も今年6月から前期が始まり、9月末からは後期になっているのに、2017年1月9日に閉幕する直前での紹介になってしまった。すでにご覧になったかたもいらっしゃると思うが、こんなタイミングでの掲載をお許しいただきたい。ピエール・ユイグ(Pierre Huyghe)は1962年パリ生まれの現代美術家。映像とインスタレーションをおもな活動領域として、1990年代末から頭角をあらわし、2001年にはすでにフランス代表としてヴェネツィア・ビエンナーレに出展、審査員特別賞を受賞している、ベテラン・アーティストである。

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travel

圏外の街角から:秋田県能代市

「木都能代」という言葉があるのだという。青森と県境を接する秋田県北部を東から西に流れる米代川(よねしろがわ)の上流で伐採された秋田杉が、かつてはイカダで運ばれて日本海にいたる、その能代市は日本最大の木材集積地だった。いまも川沿いや海岸近くを走ると山積みされた立派な原木が見られるが、それよりも目立つのは風力発電の巨大な風車群。そして「東洋一」とも言われた木都の繁栄は、凄惨なまでのシャッター商店街と化した現在の能代市中心部には、どこにも見つからない・・・・・・。先週号の編集後記にちょこっと書いたように、1泊2日の急ぎ旅で能代に行ってきた。2015年6月24日配信号「雪より出でよ蓮の花」で特集した「蓮の画家」金谷真が、故郷で初めて開いた展覧会「金谷真 蓮画展」の最終日に、なんとか駆け込めたのだった。

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ファンタジーの戦争と、現実の戦争のはざまで――生頼範義展に寄せて

年末のばたばたをやりくりして慌ただしく宮崎を訪れたのは、アートセンターで開催中の『生頼範義展III THE LAST ODYSSEY』を、どうしても観ておきたかったから。生頼範義(おおらい・のりよし)は書籍カバーや挿絵、映画ポスターなどの分野で活躍したイラストレーター。1935年兵庫県明石市に生まれ、2015年に宮崎で亡くなったばかりである。享年79歳だった。『宮本武蔵』をはじめとする吉川英治の多くの著作や、平井和正の『ウルフガイシリーズ』『幻魔大戦』、小松左京の『日本沈没』、創元SF文庫の『レンズマン・シリーズ』などの小説類がある。ジョージ・ルーカスから依頼を受けた『スターウォーズ 帝国の逆襲』の国際版ポスターや、1984年の復活以来の『ゴジラ』シリーズなど、多くの映画ポスターもある。

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シーガイアと高鍋大師の宮崎を訪ねて

先週号でお伝えした、みやざきアートセンターでの生頼範義展を見た翌日、夕方の飛行機までの数時間、宮崎県内を少しだけ回ってみた。展覧会場で出会った地元新聞の記者さんに「シーガイアのオーシャンドームもいよいよ取り壊しです」と教えられて、それまで思い出すこともほとんどなかったのに、急に見ておきたくなって、レンタカーを探して走り回ってみたのだった。もう忘れてしまったひとも多いだろうか、シーガイアはバブル期の日本で生まれた数々の巨大開発のうちでも、最大級のプロジェクトである。宮崎市のビーチフロントに高層ホテル、国際会議場、ゴルフコースなどを備えた総合リゾートとして1994年に開業。なかでも、すぐ目の前が海なのに全天候型ドームに覆われた人工ビーチで一年中遊べるという「オーシャンドーム」は、ギネスブックにも認定された巨大インドア・アミューズメント施設だった。

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君よ知るや北の国――ラトヴィア・リーガ紀行1

イスタンブールを南の「アジアとヨーロッパの結節点」とするならば、東と南にロシア、北に北欧、西に西欧と隣接するバルト3国は「ロシアとヨーロッパの結節点」と表現できる。この正月はラトヴィアのリーガに行ってきた。北からエストニア、ラトヴィア、リトアニアと並ぶバルト3国のうち、ラトヴィアの首都であるリーガは3国で最大の都市。旧市街はまるごとがユネスコの世界遺産に指定されている観光地としても名高い・・・昼でも零下20度ぐらいになる厳冬期に、わざわざ観光に行くもの好きは多くないけれど。

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君よ知るや北の国――ラトヴィア・リーガ紀行2

先週に続いてお送りする「ロシアとヨーロッパの結節点」ラトヴィア・リーガ旅行記。今週はKGBビルとはまた別種のひんやり感をたっぷり味わえる、医療史博物館にお連れする。ユネスコの世界遺産に指定されている旧市街の一角、クロンヴァルダ公園に面して建つ、1879年につくられた大邸宅を転用した医療史博物館。正式名称を「パウルス・ストゥラディンシュ医療史博物館」という。パウルス・ストゥラディンシュ(Pauls Stradins, 1896-1958)はラトヴィアの著名な医師・医学史研究者であり、医学・公衆衛生教育にも力を尽くした人物である。ソヴィエト連邦の侵略を前に、多くの知識人が西欧に逃れるなかで、ストゥラディンシュは愛国心からラトヴィアに残る道を選んだ。スターリン時代には活動を制限された時期が長かったが、スターリンの死去とともに精力的な活動を再開、終生ラトヴィア医学に貢献する人生を送った。

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ベラミの記憶

「黒いダイヤ」と呼ばれた石炭景気のおかげで、明治初期にはひなびた漁村にすぎなかった若松が、ゴールドラッシュならぬコールラッシュ状態で大繁栄したのも今は昔。昭和30年代に入ってエネルギーが石炭から石油中心にシフトするにつれて、若松も徐々にさびれていって、いまではかなり寂しい景色になってしまった。かつては映画館や芝居小屋がたくさん並んで、九州地方屈指の賑やかな繁華街だったと言われても、なかなか想像しにくい。「若松バンド」と呼ばれる海岸沿いに並ぶ大正建築群から、わずかに当時の繁栄ぶりをしのぶばかりである。『ベラミ』というグランドキャバレーが若松にあった、と聞いたのは去年、福岡で『僕的九州遺産』展を開いたときだった。オープニングに来てくれたお客さんから、「ベラミ山荘、もう行きました?」と聞かれて、知らないと言ったら「ええーっ」と驚かれた。キャバレーのベラミはもうとっくになくなったけれど、当時の従業員寮だった不思議な建物が残っていて、そこを買い取ったひとが「ベラミ山荘」と名づけて公開しているという。「知らないなんて・・・」と呆れられて悔しがっていたら、展覧会の関連企画で開催したバスツアーのなかに、気を利かせたスタッフたちがサプライズとしてベラミ山荘も入れてくれていた。

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エレクトロメカノマニアック――パリのジルベール・ペール展

もうこのメルマガではおなじみの、パリのアウトサイダー・アート専門美術館アレサンピエールで、ジルベール・ペール展が開催中だ。2015年10月21日配信号で、この不思議なアーティストのアトリエ訪問記『機械仕掛けの見世物小屋』を掲載したが、今回は満を持しての大規模個展。サブタイトルを「L'ÉLECTROMÉCANOMANIAQUE」=エレクトロ+メカ+マニアックと題したこの展覧会は、アレサンピエールの広い2フロアをまるごと使った、ペールの集大成ともいえるコレクション。当初は去年9月から今年2月までの予定だったが、好評につき4月23日まで延長が決まっている。トレンディな現代美術でもなければ、ノスタルジックな古典美術でもない。機械仕掛けの楽しさと、見世物小屋のブラックユーモアが渾然一体となって、しかし総体として「アート」としか表現しようのない、素晴らしくチャーミングな体験空間になっている。

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art

聖アドルフの脳内宇宙展

最近は閉幕間際の展覧会紹介が多くて申し訳ないが、今週末(2月26日)まで『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』展が兵庫県立美術館で開催中だ。ただし、本展はこのあと名古屋市美術館、東京駅ステーションギャラリーと巡回するので、神戸展に間に合わないかたはぜひ、名古屋か東京でご覧いただきたい。名古屋展では僕もトークさせていただく予定になっている。アール・ブリュット/アウトサイダー・アートの先駆的存在として、アドルフ・ヴェルフリはもっとも有名な作家のひとり。本メルマガでも2015年3月4日配信号で、滋賀県近江八幡での展覧会を紹介したが、それほど重要な作家であるにもかかわらず、今回の展覧会がヴェルフリの大規模な個展としては、日本で初めてとなる。

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photography

食に淫する女と男

先日、早稻田大学に呼ばれて、トークのあと学食の一角に机を並べて、居残ってくれた学生たちと話していたとき、「こんなの作ってるんです」とZINEを渡してくれた子がいた。イチゴをくわえた唇が大写しになった表紙には『食に淫する』というタイトルがついていて、ページをめくるとケーキや果物を頬張って、ぐちゃぐちゃになった口中がアップになっていたりして、非常に汚く、どぎつく、美しくもある。ウェット&メッシーと言ってしまえばそれまでだけど、それだけでは片付けられない、視覚と触覚と味覚を混ぜ合わせた複雑な快楽のような、甘みと深みがとろとろと画面から流れ落ちている。

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art

ここにも板極道あり――藤宮史の木版漫画

いま、漫画家のデジタル化はどれくらい進んでいるのだろう。紙にペンで描くひとと、タブレットを使うひとはどれくらいの割合なのだろうか。激変する漫画の作画環境のなかで、というか外側で、なんと木版画で漫画を描き続ける作家がいる。藤宮史(ふじみや・ふひと)、52歳。昨年秋に2冊目の商業出版による作品集『木版漫画集 或る押入れ頭男の話』を発表。その原画(つまり版画)を抜粋して展示する展覧会が、いま中野区新井薬師前のギャラリー「35分」で開催中だ。まずコンテを描き、それをトレーシングペーパーに写し、それを版木に写して彫り、摺り、できあがった版画にテキストを貼り込んでようやく版下が完成、印刷に入るという、まるで時代に逆行する「コストパフォーマンスの悪い」(本人談)やりかたで、もう10年間も漫画をつくってきた藤宮さんとは、いったいどんなひとなのだろう。今年で22年目という阿佐ヶ谷のはずれのアパート(六畳と台所、風呂無し)に訪ね、お話をうかがうことができた。

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lifestyle

古くて新しい古い家

今年2月8日号で紹介した、北九州市若松のグランドキャバレー・ベラミの物語には、予想以上の反響をいただいた。記事中ではベラミのステージを飾ったダンサーや芸人たちの写真と共に、もともとキャバレーの従業員寮だった「ベラミ山荘」を紹介したが、そのオーナーが文中で「Fさん」と書かせてもらった古家さんだ。と子供3人の家族を支える主婦であり、パートでも働きつつ、古い家を買っては貸している「古家商」を名乗るその活動は(なので「古家」は仮名です)、僕らが抱く「大家さん」の先入観からかけ離れたユニークなスタイルだし、これからの都市型生活への重要な啓示でもある。今週は「古家業」という、文字どおり古くて新しい生活のプラットフォームづくりを紹介させていただく。

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art

小松家の大移動展

2014年12月17日号で、小松葉月という風変わりなアーティストを紹介した(『生きて痛んで微笑みがえし――小松葉月のパーソナル・アート・ワールド』)。1991年生まれの小松さんは当時、多摩美術大学の学生だったが、あれから大学院に進み、ちょうど院を卒業する時期を迎えている。そんなタイミングで「展覧会を開くので、見に来てください」とお誘いを受けた。どこの画廊か美術館かと思ったら、場所は「自宅」。3月12日から16日までの5日間だけ。それも招待客のみで、何人招いたのか聞いてみたら、「ぜんぶで4人」! 『小松家 大移動展』と題された、その風変わりな展覧会を拝見に、実家でもある湘南の瀟洒なお宅を再訪した。

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art

チンコマン襲来!――石川次郎フランス巡回展

それがアートでも音楽でも文学でもいいのだけれど、メールマガジンで取り上げる創作者の多くは、世間にあまり認知されていないひとびとだ。そこには「こんな才能が埋もれていた!」という発見のうれしさもあるけれど、「こんな才能がどうして埋もれたままなのか!」という憤りのほうが大きい場合もたくさんある。漫画というジャンルでずいぶん前から気になっていて、世間にもっと認知されない理由が理解できない才能の持主が、石川次郎だ。僕が石川次郎と書くと、編集者としての師匠であり『トゥナイト2』の次郎さんでもあるほうを思われる方が多いだろうが、今回の石川次郎は1967年生まれ、今年50歳になる同姓同名の漫画家。2014年フランスのマルセイユ/セットで開催された『マンガロ』『ヘタウマ』展(2014年11月12日号参照)で、ようやく知り合うことができた。

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movie

黒点としての『クズとブスとゲス』

最近日本映画が元気だという声をよく聞く。特に若手の作家が目立っていて、それはそのままテレビ界が彼らの才能を活かせないほど凋落しているからでもあるのだろう。ただ、そうした作品にありがちな「日常を淡々と丁寧に描写する」スタイルには、個人的にはほとんど興味が持てなくて(それは小説も同じことだが)、「でもこれだけは絶対観て! わたしもう10回観たから!」と飲み屋のママから熱烈推薦され、上映時間141分という長さにたじろぎながらも観ることになったのが『クズとブスとゲス』だった。奥田庸介という若い監督の『クズとブスとゲス』が公開されたのは2016年。当時一部で話題にもなったので、なにをいまさらと言われるかもしれないが、公開後なかなか映画館にかかる機会がなかったのが、ようやくDVDがリリースされることになった(4月21日TSUTAYA先行でレンタル開始)。

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book

バーコードの隙間から

「アップ・アンド・オーバー」という英語は、少なくなった髪の毛をむりやり頭頂部に広げたヘアスタイル、日本で言う「バーコード・ヘア」を指す。シンガポール、中国、韓国、日本を旅しながら撮りためたバーコード・ヘアの「イイ顔おやじ」が一堂に会した写真集『Up and Over』は2012年に韓国ソウルの出版社から発売された。僕は2、3年前に入手したと思うのだが、その著者であるポール・ションバーガーが新しい作品集をつくるために東京に滞在中、と制作を手伝った中野タコシェの中山亜弓さんから教えてもらい、さっそく会うことにした。ポール・ションバーガーはオーストラリア・シドニー生まれ、今年48歳のアーティストであり、旅人である。

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book

ROADSIDE LIBRARY vol.03 おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち

『秘宝館』『LOVE HOTEL』に続く電子書籍シリーズ「ROADSIDE LIBRARY」第3弾が、ついに来週リリースされる(5月9日予定)。題して『おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち』。そう、今年2月8日号で特集、予想をはるかに上回る反響を呼んだ北九州市若松のグランドキャバレー・ベラミの歴史と、そのステージを飾った踊り子や芸人たちの写真コレクションである。記事でも200点近い宣伝用写真(ブロマイド)をお見せしたが、今回は発掘されたプリントすべて、数にして約1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載、前の2冊に匹敵する約1.8ギガバイト!というメガ・ボリュームのダウンロード版およびUSB版デジタル写真集としてお届けする。

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art

妄想版・夜の昭和史

描くもの、書くもののイメージと、本人の見かけがかけ離れているというのはよくあること。僕もそう言われることが多いが、2016年に『女たちの夜』というZINEのような作品集を、作者である吉岡里奈そのひとから手渡されて、「え、これ描いたんですか?」と、かなりとまどったのを覚えている。目の前に広げられたお色気熟女(とオヤジ)がプンプン振りまく昭和の匂いと、目の前にいる華奢な女の子の見かけが、どうしてもうまく合わさらなかったからだ。2015年に初作品集である『女たちの夜』を、2016年には「日本一展覧会を観る男」として本メルマガでもおなじみの山口“グッチ”佳宏プロデュースによる小作品集シリーズ「ミッドナイト・ライブラリー」で『eat it』を発表した吉岡里奈が、この5月23日から『女體名所案内』という、これまた昭和の夜の匂いにまみれた絵画展を開催する。

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photography

いま、そこにある異景

ラルフ・ユージーン・ミートヤードという写真家の不思議な作品を初めて見たのはいつだったろうか。モノクロームの画面の、一見どこにでもあるようなアメリカの郊外風景でありながら、その登場人物たちがハロウィーンのような不気味な画面をつけ、しかしこちらを怖がらせようとするふうでもなく、ただそれが自分の顔であるようにたたずみ、こちらをまっすぐ見ている。怖がらせようとしていないのが、よけい怖い。ひどい悪夢から目が覚めて、まだ現実とのあいまいな境界に意識があるような、落としどころのない気持ちにさせられる。その写真家の名前がミートヤード(Meatyard=肉の庭!)だと知って、さらに不思議な気持ちになったのを覚えている。この3月から5月初めまで、サンフランシスコのフランケル・ギャラリーでミートヤードの写真展『American Mystic』が開催された。観に行くことはできなかったが、展覧会に際して発行された作品集を入手できたので、小さな紹介を試みてみたい。

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fashion

『捨てられないTシャツ』単行本、できました!

本メルマガで2015年から16年にかけて連載した『捨てられないTシャツ』が、ようやく単行本になりました。今月26~27日ごろには全国の書店に並ぶ予定です! 連載で紹介した69枚、それにスペシャル・ボーナストラックとしてもう1枚、計70枚のTシャツと、70とおりの物語。それに序文と、僕自身の「捨てられないTシャツ」を後記として紹介した、なかなか読みごたえたっぷりの一冊。しかもその文章のほとんどは、Tシャツの持ち主が書いたそのままか、インタビューをまとめただけなので、これまで僕が発表した書籍のうち、「もっとも自分で書いてない本」でもあり!

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travel

気まぐれドライブ・タイランド 1 カンチャナブリで現在進行形の地獄に墜ちる

タイのお寺の「地獄庭園」にハマったのはいまからちょうど10年ほど前だった。バンコクにアパートも借りて、東京から4x5の大判カメラとフィルムを持ち込んで、3年間ほどタイの田舎を走り回っていた。その埃っぽく楽しい旅で見つけた10数カ所の地獄庭園は、2010年に『HELL 地獄の歩き方・タイランド編』(洋泉社刊)という本にまとまって、それからもテレビ番組の取材などで幾度か「大物」地獄庭園を再訪することはあったけれど、自分のなかでは一区切りついた気分だった。このあいだのゴールデンウィークに久しぶりにタイに行くことになって、バンコクから近い田舎で何日か過ごそうと思い調べてみたら、まだ行ったことのない「珍寺」がいくつもあった。

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photography

異郷のモダニズム――満州写真展に寄せて

この3月に『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』展記念トークをやらせてもらった名古屋市美術館で、いま『異郷のモダニズム―満州写真全史―』という珍しい展覧会が開催中だ(6月25日まで)。会期末近くになってしまったけれど、これだけまとまった規模のコレクションはなかなか見られないと思うので急いで紹介させていただきたい。ご存じのとおり「満州」とは20世紀初めの日露戦争終結から、第二次世界大戦で日本が敗戦するまでの期間、中国東北部に存在した国家・・・であり幻の国家でもある。

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travel

気まぐれドライブ・タイランド 3 ナコンパトムの酔狂博物館めぐり

先週紹介したワット・サンプランがあるナコンパトムは、バンコク市内からクルマで1時間ほど、西隣の県になる。タイの伝統文化を観賞するローズガーデンや、ゾウのショーで知られるサンプラン動物園など、団体観光系のスポットが集り、ロウ人形館『ヒューマン・イメジャリー・ミュージアム』、タイの「昭和なつかし館」的な『ハウス・オヴ・ミュージアムス』、『ナショナル・フィルム・アーカイヴ』などがある、見所多いエリアであることも書いた。今週お連れしたいのはそのナコンパトムの、クルマでないとなかなか行きにくい、観光スポットとしてもあまり知られていない、2か所の「酔狂系」(笑)個人ミュージアムであります。『ウッドランド』はその名のとおり、樹木を素材としたさまざまな工芸品を展示する施設・・・というと、よくありがちに聞こえるが、こちらはとにかくその物量とスケールが桁違い。なんでこんなところに?と首を傾げざるを得ない田舎に、ミュージアムとホテルから成る巨大なリゾート施設『ウッドランド・ムアンマイ』として2015年にオープンしたばかり。

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art

かずおさんのこと

名古屋駅から近鉄に乗って約1時間、三重県の津駅に降り立つと、改札口でふたりが待っていてくれた。不思議な女性の絵ばかり描いているひと、と聞いて会ってみたくなった「かずお」さんと、彼を紹介してくれた画家の倉岡雅(くらおか・まさし)さんだった。とりあえず駅前の喫茶店に入って、テーブルいっぱいに画用紙を広げながら、かずおさんが次々に見せてくれる絵・・・それらは激しい色遣いで描かれた女性たちが、激しい色彩の背景に浮かんで、サイケデリックなトリップ感を放射しながら、同時に一種病的な圧迫感も漂わせる。それが目の前で微笑みながらコーヒーを啜っている無口な本人の印象となかなかフィットしなくて、僕にかずおさんのことをもっと知りたくさせるのだった。

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art

心のアート展・印象記

2009年の第1回以来、8年で6回目となる今回の展覧会は、東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)に加盟する29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示された。芸術劇場のギャラリーはアートに特化した展示室ではないのだが、広い空間を埋めた多量の作品群は圧倒的なエネルギーに満ちて、観終わるころにはかなりの疲労感を覚えるほどだった。回を重ねるごとに病院やスタッフ、また会場を訪れる作家たちが刺激しあってなのか、過去3回ほどの展覧会を観ている僕の目にも参加作品全体のレベルアップが顕著で、それは「アート」と「アウトサイダー・アート」の区別をますます無意味に感じさせる体験でもあった。短い開催期間で、観に行けなかったかたたちのために、今週は『第6回 心のアート展』から印象に残った作家と作品を紹介させていただく。

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銅版画家・小林ドンゲ

会期終了間近の紹介になってしまい恐縮だが、佐倉市立美術館でいま『収蔵作品展 小林ドンゲ――初期版画を中心として』が開催中だ(7月17日まで)。千葉の佐倉にはDIC川村記念美術館や国立歴史民俗博物館もあるので、休日の展覧会巡りで訪れるひともいるだろう。小林ドンゲという不思議な響きの名前を持つ銅版画家は、そんなによく知られているわけではないと思うけれど、古くからのファンも、若い世代の支持者もいて、2004年には同じ千葉県の菱川師宣記念館で大規模個展が、また2015年には銀座ヴァニラ画廊でも展覧会が開かれている。堀口大學の詩集の装丁なども手がけたので、文学からドンゲの仕事を知ったファンもいるかもしれない。

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嫌われしものの美

それは縦横70センチほどの絵だった。銅色で覆われた画面の中央に、なんの鳥だろう、崩れかけた死骸がある。その周囲をびっしり取り巻く点々は、目を近づけてみれば無数の蛆虫なのだった。言葉で説明するとグロテスクに聞こえるが、その光景に気持ち悪さは微塵もなく、むしろ命のかけらが鳥から蛆虫へと受け渡されようとする瞬間の、ある種の神々しさがそこには漂っているようだった。蛆虫、アリ、ムカデ、ユスリカ・・・そういう「嫌われもの」を好んで画題に取り上げ、緻密な日本画で表現する作家、それが萩原和奈可(はぎわら・わなか)である。萩原さんを知ったのは、本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊が主催する公募展の審査で、『HEROES』と題された鳥の死骸と蛆虫の作品に出会ったときだった。第5回を迎えた2017年度の「公募・ヴァニラ大賞」で、僕は萩原さんの作品を「都築響一賞」に選び、他の作品も見たくなって彼女が両親と暮らす茨城県龍ケ崎市の家にお邪魔させてもらうことにした。

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札幌国際芸術祭フリンジ・ツアー

いつのまにか夏といえば芸術祭の季節になってしまった。今年も横浜トリエンナーレをはじめ、大小さまざまのアートフェスがスタート。すでに夏休みの予定に組み入れているかたも多いだろう。先週号の告知でお伝えしたように、札幌国際芸術祭2017も8月6日から始まっている。いまは亡き北海道秘宝館の写真と動画展示という小さな企画で僕も参加、先週の開幕直前に設営がてら会場のいくつかを回ってみたので、気になった展示のいくつかをご紹介してみたい。第1回の2014年から3年ぶりとなる今年の第2回・札幌国際芸術祭。前回はゲストディレクターに坂本龍一を迎え、なにかと派手なイメージだったが、今回のゲストディレクターは大友良英。

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photography

走り続ける眼

どうしたら写真家になれるんですか、とよく聞かれる。そんなのこっちが知りたいけれど、写真ギャラリーでのグループ展→個展→アート系出版社から写真集発売、というよくある流れの外側で、ちょっと前まで考えもつかなかったやりかたで活動する写真家が現れてきた。今週・来週と2回にわたって、最近出会ったユニークなスタイルの写真家をふたり紹介したい。種田山頭火を放浪の俳人と呼び、山下清を放浪の画家と呼べるならば、天野裕氏(あまの・ゆうじ)は放浪の写真家である。家を持たない。展覧会を持たない。写真集の出版もない。軽自動車に寝泊まりしながら日本中を走り回り、ツイッターで「きょうはこの町にいます」とつぶやき、喫茶店やファミレスやスナックや公園で「客」を待つ。

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photography

日常の切断面

先週は車中泊で日本中を移動しながら写真を撮り、コンビニでプリントアウトした「写真集」を喫茶店やファミレスやスナックで見せ、その「見料」で制作/生活する写真家・天野裕氏を紹介した。「移動し続けること」が作品の中心にある天野さんとまったく対照的に、今週ご覧に入れるのは「どこにも行けないこと」がユニークな作品に結実している写真家・北村千誉則(きたむら・ちよのり)だ。つい最近、たしかFacebookだったと思うが、なんとも不思議な写真集を紹介する投稿に偶然目が止まった。表紙にはおっさん(たぶん)の口元からこぼれる白米とイクラ1粒が超望遠で捉えられ、『buh___bye』なる不可解なタイトルがついている。説明を読むと、作者はChiyonori Kitamuraというので、日本人だとは思うが名前を聞いたことがないし、発行元の「modes vu」という香港の出版社も知らなかったが、とりあえず購入希望のメッセージを送ってみると、数日後にちゃんとポケットサイズ48ページほどの小さな写真集が自宅に届いた。

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オキナワン・ソウルシスターズ

先々週号の編集後記で少しだけ沖縄・コザのことを書いた。極東最大の空軍基地である嘉手納基地に隣接するコザは、米軍人を対象とするサービス産業で急激に発展した町だったが、いまでは大通りに面した数軒のバーやポールダンス・クラブ、衣料品店などに、最盛期の面影をわずかに見て取れるのみである。1972年の日本復帰前から沖縄は多くの写真家たちを引き寄せてきたわけだが、「沖縄以外のものはそこの土地のひとが撮ればいい」と、生まれ故郷の沖縄にこだわり続けてきた写真家が石川真生(いしかわ・まお)。本メルマガでも沖縄の港町に生きる男たちを捉えた『港町エレジー』を2012年に紹介している(2月15日号参照)。その石川さんが1982年に発表した処女作『熱き日々 in キャンプハンセン!!』(あーまん企画刊)が、35年の歳月を経て『赤花 アカバナー、沖縄の女』と新たなタイトルと編集により、ニューヨークの出版社セッション・プレスから発表された。

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photography

ロバート・フランク 本と映像展

そういえばうちにロバート・フランクの写真集は一冊もなかった、なぜだろう――神戸で開催中のきわめてユニークなロバート・フランク展を観ながら、まずそんなことが頭に浮かんだ。かつて神戸市立生糸検査所だった建物が、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)として生まれ変わった広い空間で、『Robert Frank: Books and Films, 1947-2017 in Kobe』が開催中だ(9月22日まで)。2014年カナダ・ハリファックスで始まり、去年は東京藝術大学でも開催された、世界50ヵ国を巡回中の展覧会「神戸バージョン」である。ただし、この展覧会は白い壁に額装されたオリジナルプリントが整然と並ぶ、普通の写真展ではない。

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鉄彫家・藤井健仁のメタルマシン・ミュージック

何年かにいちど「日展」に足を運ぶたびに、いちばん興味をそそられるのが彫刻部門だ。広い展示室がまるで、公園から集められてきた男女像が詰め込まれた倉庫というか、彫刻の森状態になっていて、その大半はブロンズ像なのだが、あるときそれがブロンズではなく「ブロンズ加工」されたFRP(強化プラスチック)なのだと気づいて啞然とした。ブロンズは制作が大変だが、FRPの表面にブロンズ加工すれば簡単だし、扱いも楽ということらしい。FRPの生地のままにしておいたら、ずっとかっこいいのにと思ったが、彫刻業界では素材による上下関係があるようで、ブロンズや大理石といった高価な素材が立派で、コンクリートやプラスチックなど、僕らの日常になじみ深い素材は一段劣る扱いを受けてきた気がする。鉄もまた、日常ありふれたマテリアルでありながら、彫刻業界ではマイナーな素材だ。その鉄を使って、これもかつてはメインだったが、現代美術のなかではもはやマイナーな彫像や人形をつくり続けている鉄彫作家が藤井健仁(ふじい・たけひと)だ。

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短距離走者の孤独――岸本清子展に寄せて

かつては名古屋経済の重鎮たちの邸宅が並び、シロガネーゼならぬシラカベーゼ(どちらも死語)の発祥地でもある名古屋屈指の高級住宅街・橦木町。「文化のみち」と名付けられた風情ある一画にある小さな画廊Shumoku Galleryで、『岸本清子展』が開催されている(9月30日まで)。岸本清子(きしもと・さやこ)は1939年名古屋市生まれ。多摩美大在学中から「ネオ・ダダイズム・オルガナイザー」グループ唯一の女性作家としてスキャンダラスな活動を繰り広げ、40代からは名古屋に拠点を移して、闘病生活を送りながら激しい創作活動を続けたが、1988年に49歳の短い生涯を閉じている。

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電子書籍版『TOKYO STYLE』、完成!

2016年7月にリリースした『秘宝館』から始まったロードサイド・ライブラリー。『ラブホテル』、『おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち』と続いて、ついに第4弾『TOKYO STYLE』が完成、今週末から始まる「東京アートブックフェア2017」でリリースされる。『TOKYO STYLE』が最初の大判写真集として世に出たのが1993年。実際に撮影で東京都内を原チャリで走り回っていたのが1991年あたりだったから、今年はあれからちょうど25年、四半世紀。世界があれからますます不景気になり、不安定になって、貧富の格差が開いていることだけは確かだ。日本は前よりずいぶん暮らしにくくなったろうし、大災害にも襲われた。同時に多くのひとが前よりずいぶん消費欲にも、所有欲にも、勝ち組を目指そうという野心にも惑わされなくなってきた気がする。

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book

『TOKYO STYLE』、サイトでの販売開始!

先週末に天王洲で開催された「東京アートブックフェア2017」、ものすごい混雑でしたね~。寺田倉庫まで行って、入場制限で入れなかったひともいると思います。運良く入場できたみなさまも含めて、ほんとにお疲れさまでした!ブックフェアのロードサイダーズ・ブースでお披露目した電子書籍版『TOKYO STYLE』が、メルマガのサイトからも購入できるようになりました! ダウンロード版、USB版どちらも、サイトのショップページをご覧ください。

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ドラコニアの国へ――澁澤龍彦展@世田谷文学館

十代に出会って決定的な影響を受け、それから何十年経っても読み飽きることがない、そういう作家にひとりでも出会えたら、それだけで人生はずいぶん幸せになると思う。僕の場合はそれが澁澤龍彦だった。子どものころ、実家のビルの上階に宝石やアクセサリーをテレビや写真の撮影にレンタルする仕事をしていたひとが住んでいて、いろんな雑誌をよくまとめて捨てていた。ある日、その山にあった創刊間もない『an・an』のなかに、シャルル・ペローの童話の訳を見つけたのが澁澤龍彦体験の始まりだったと思う。中学生のころだったが、そこから古本屋を歩き回って、『an・an』に澁澤さんを引き入れたアートディレクターの堀内誠一が、『an・an』以前に澁澤さんと組んで発行した『血と薔薇』を探したり、サドや『O嬢の物語』の濃密なエロティシズムに発熱したりしているうちに、「いま流行ってること」がどんどん、どうでもよくなるひねくれ高校生になったのではなかったか。

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book

奥信濃の鶴と亀

いまから2~3年前、たぶん松本市だったと思うが、いっぷう変わったテイストのフリーペーパーを見つけた。地方出版物はいつも気になるし、どこに出かけてもなるべく本屋に寄ったり、カフェなどのレジそばに積まれているフリーペーパーをチェックするけれど、正直言ってそそられるものに出会う確率は低い。『圏外編集者』でも書いたけれど、ひらがなタイトルのほっこり系か、身内で楽しんでるだけみたいなジンがほとんどだ。そういうなかで何気なく手に取った『鶴と亀』は全ページ異様なテンションで、しかも彩度をギラッと上げた写真に写っているほとんどは、田舎のじいちゃんばあちゃんなのだった。なにこれ? その『鶴と亀』がこのほど第1~5号の総集編となる『鶴と亀 禄(ろく)』として大判の書籍になり、おまけに先日の東京アートブックフェアではロードサイド・ライブラリーの並びのブースで展示販売されていた。

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ソフビになったホームレス

特撮ヒーローや怪獣などとは別種の、変なソフビが目につくようになってきたのはここ数年の気がする。キモかわいい系だったり、ひたすら不気味なグロテスク系だったり、特撮怪獣みたいに一般的ではない、つまり大量には売れないであろう小規模生産の、いわばインディーズ・ソフビが、数千円から時に1万円を超すような値段でリリースされ、それがまた瞬時に完売というようなケースが、僕のような門外漢にも聞こえてきた。アート・ギャラリーの展覧会にソフビが登場することも珍しくなくなってきた。去年、上野のモグラグ・ギャラリーでトークをしたとき、ある作家から箱入りのソフビをもらった。それは怪獣でもキモかわいい生物でもなく、高知のカツオ一本釣り漁師のソフビだった。こんな、おっさんのソフビばっかり作ってるんですと彼は言う。それを持ってほぼ毎月、海外の展覧会やイベントに行ってるという彼の肩書は「フィギュア・イラストレーター」。デハラユキノリは、異端なひとが多い最近のソフビ業界のなかでも、とびきり異端な作家だろう。そのデハラさんがふたたびモグラグ・ギャラリーで展覧会を開く。

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百島のクロスロード

瀬戸内海、百島(ももしま)。観光地として人気の尾道に7つある有人島のひとつ。尾道港からフェリーで45分、高速船なら30分足らずで着いてしまう、周囲12キロの小さな島だ。終戦後のピーク時には3000人近くいた島民人口は、いま450人ほど。信号機もコンビニもない。飲食店もスナックも、ホテルも民宿もない。放棄された空き家の数は100を超えるという。そんな島の、閉校した中学校校舎を利用したアートセンターが『アートベース百島』だ。犬島アートプロジェクトなど、瀬戸内エリアでの活動が近年きわだつ現代美術作家・柳幸典(やなぎ・ゆきのり)を中心に生まれたアートベース百島は、2012年オープン。開館記念展のあと2014年には企画展『CROSSROAD 1』が、そしていま開館5周年を記念して『CROSSROAD 2』が開催中(12月3日まで)。

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1968年という「いま」

先週短くお知らせしたように、いま千葉・佐倉の国立歴史民俗博物館で『1968年―無数の問いの噴出の時代』という注目の展覧会が開催中だ。会期があと数日となってしまった時点で申し訳ないが、あらためて紹介しておきたい。全共闘、ベ平連、成田三里塚、水俣・・・けっして派手でもなく、ましてインスタ映えする展覧会でもないのに、僕が訪れた週末も予想をはるかに超える観覧者で大盛況だった。当時を懐かしむ60~70代のひとたちも多かったけれど、1968年には生まれてもいなかった若いひとたちの姿もずいぶんあった。

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art

シュリグリー的「バカの壁」

思い返してみると、子どものころにいちばん惹かれたのはイギリス/アイルランド文学のユーモア感覚だったかもしれない。『ドリトル先生』や『アリス』はもちろん、『ガリバー旅行記』からジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』まで読み耽っているうちに、たしか中学の終わりくらいにテレビで『モンティ・パイソン』が始まり・・・皮肉と笑いが絶妙にブレンドされた、あのブリティッシュ/アイリッシュ・ユーモアとしか表現しようのない感覚に、深く影響されていったのだった。バーナード・ショーがイサドラ・ダンカンだかサラ・ベルナールだかの「あなたの頭脳と私の肉体を持った子どもが産まれたら、どんなに素晴らしいでしょう」という口説きに、「私の肉体とあなたの頭脳を持った子どもが産まれたら大変ですよ」と返したという有名な逸話を読んで、こんな切り返しができるオトナになりたいと憧れるような、ヒネた少年時代だった(ちなみにドリトル先生シリーズはアメリカで発表された作品だが、作者のヒュー・ロフティングはイギリス人)。水戸芸術館で開催中のデイヴィッド・シュリグリー『ルーズ・ユア・マインド——ようこそダークなせかいへ』展を観て、久しぶりに濃厚なブリティッシュ・ユーモアを堪能することができた。「ルーズ・ユア・マインド」とは、「正気を失え!」みたいな感じだろうか。

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travel

動物王国の「時間よ止まれ!」

薄暗い研究室の棚に並ぶホルマリン漬けの生きものや骨格標本・・・というのがかつての生物学のイメージだったかもしれないが、21世紀のいまはバイオテクノロジーの時代。19世紀的な博物学の香気はもはや過去の遺物となって久しい。各地の大学や病院では時代遅れになった標本類の処分に困って、廃棄処分されてしまうこともあるという。そうした標本類を引き取って展示している博物館があると聞いて、さっそく足を運んでみた。グラント博物館――正式名称をThe Grant Museum of Zoology and Comparative Anatomy=グラント動物学・比較解剖学博物館という、ロンドン大学に付属する研究施設である。

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art

佐賀町エキジビット・スペースのこと

「佐賀町エキジビット・スペース」と聞いて懐かしく思うひとは、いま50~60代の現代美術ファンだろうか。茅場町や水天宮から東に向かい、隅田川にかかる永代橋を越えた先、運河に面した一角はかつて米倉庫が並んでいたという。その一角、「食糧ビル」(旧・東京回米問屋市場)と呼ばれた建物にあったのが佐賀町エキジビット・スペース。1927(昭和2)年というから関東大震災の4年後に建てられた、いかにも昭和モダンらしい歴史的建造物だった。エキジビット・スペースはその3階、以前は会議室やパーティ会場として使われていた場所を使い、1983年にオープン。2000年の閉館までおよそ17年間にわたって、東京屈指のオルタナティブ・スペース(美術館でも商業ギャラリーでもないという意味で)として機能してきた。ここを中心に現代美術関係の施設が増えていく動きも一瞬あったけれど、いつのまにか立ち消え。食糧ビルはすでに取り壊されて高級マンションになっていて、この一帯に残っていた昭和の下町感覚もすっかり消し去られている。 高崎の群馬県立近代美術館では「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000現代美術の定点観測」を開催中だ。

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lifestyle

よし子さんのいた街 2

阿佐ヶ谷のバー「山路」を40年以上もやってきたよし子さんには、長い常連さんがたくさんいた。そのひとりが写真家の島田十万さん。『レポ』という季刊誌に「よろずロックバー 山路」という記事を寄稿しているのをダウンタウンレコードの展覧会で見つけ(2014年『レポ』16号)、さっそく連絡を取ってみた。島田さんは何度かの「出禁」を挟みながら長年山路に通い、よし子さんとの時間を過ごし、たくさんの写真も撮っていてくれた。今週の「よし子さんのいた街」2回目は、島田十万さんの写真と書き下ろしのメモワールで、消え去った山路の面影を偲んでいただきたい。

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design

刺青絵師・毛利清二の世界

京都・二条城近くの路地裏にある小さな博物館・おもちゃ映画ミュージアムで、5月1日から「毛利清二の世界 映画とテレビドラマを彩る刺青展」という興味深い展示が開催されている。新聞や週刊誌でも記事が出たので、もう見てきたひともいるかもしれないが、僕はつい最近まで気がつかず、7月28日の閉幕に間に合うようあわてて京都に行ってきた。 よほどの日本映画や時代劇テレビドラマ・ファンでないと毛利清二という名前はなじみがないかもしれない。

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design

だれも知らなかった土方重巳

阪神間モダニズム、という言葉をご存じだろうか。大正から昭和初期にかけてのモダニズム文化のなかで重要な役割を果たした大阪と神戸の間の高級住宅地――いまで言う尼ヶ崎、西宮、芦屋市あたり――で育まれた、オシャレでありながら品の良いライフスタイル。いまでもなんとなくその名残が漂っている気もする香櫨園の住宅街にある西宮市大谷記念美術館で、いま『グラフィックデザイナー土方重巳の世界』を開催中だ。土方重巳という名前には、よほどデザイン史に詳しいひとでないと親しみがないかもしれないけれど、その作品には昭和の時代に育った日本人ならだれもが親しんでいるはず。そういう「知られざるトップ・デザイナー」の、これは貴重な回顧展である。

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book

アーカイヴ:ヴォーン・オリバーと音の夢

ヴォーン・オリバーとは80年代のどこかで、大竹伸朗くんの紹介で会ったのが最初だった。すでに4ADでの仕事は見ていたので、それはすごくうれしい出会いだったし、1993年には現代美術全集「アートランダム」のスピンオフ企画である「ARM=アートランダム・モノグラフ」の一冊として、大竹伸朗xヴォーン・オリバーの共作『東京サンショーウオ アメリカ夢日記1989』という、たいへんぜいたくな本を編集することもできた(京都書院刊、僕がしたのはやり取りの交通整理ぐらいだったが)。ヴォーン・オリバーの作品をまとめた本はこれまで数冊発表されているが、この10月には決定版ともいえる『Vaughan Oliver: Archive』が2冊組ボックスセットとして、ロンドンのユニット・エディションズから刊行された。ずいぶん前に刊行のためのキックスターター・サイトが立ち上がって、それから長い制作期間を経ての、待望のリリースである。今回はその刊行を記念して、内容の詳しい紹介と、大竹伸朗によるトリビュートの文章をお送りする。『Archive』は限定900部。興味を持たれた方は、急ぎ出版社サイトに注文していただきたい。

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movie

映画美術監督・木村威夫の時代

人生でいちばん映画を観たのは浪人時代だった。もっとも受験科目の少ない私立文系コースを選んで(たった2教科だった)、午前中に予備校が終わるとそのまま名画座に直行。たしか1年間で通算300本以上は観たはずで、なかでもハマったのが今はなき大井武蔵野館。昭和30年代のB級日本映画のおもしろさを教えてくれたのが、この場末の名画座で過ごした長く幸せな平日午後の時間だった。クロサワでもミゾグチでもなくて、何本観ても同じようなプログラム・ピクチャーに、どうしてあんなに夢中になったのだろう。それは作品としての完成度ではなくて、1時間半の映像に籠められた時代の空気や匂いに酔ったのかもしれない。70年代のそのころ、すでにまったく時代遅れだった映像空間には、いかにもな役ばかりを演じる男優と女優がいて、最初の5分で予測できてしまうような筋書きと、現実にはとても口にできないような決め決めの台詞があって、そういう「あらかじめできあがった世界観」を支えていたのがあの時代の、あの手の映画特有の映画美術だった。そして僕はそこで、いまだにいちばん尊敬する映画美術監督・木村威夫を知ることになった。

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food & drink

Neverland Diner 二度と行けないあの店で 特別編 スナックの灯よ 闇夜を照らせ ―― 被災地スナックめぐり

2011年3月11日の東日本大震災から8年経って、いまだに5万人以上のひとが故郷を離れて避難生活を送っている。震災はまだぜんぜん、歴史上の出来事じゃない。 あの日、揺れが収まって被害のすさまじさがだんだん明らかになってきたときから、こういう仕事をしているものとして、被災地に行くことを考えない日はなかった。でも、マスコミのあとを追っかけて嘆き悲しみ怒りに震えている人々のただなかに土足で踏み込んでいくのも、異様に美しく見えてしまうに決まっている破壊された風景を撮影するのも嫌だった。ようやく重い腰を上げて被災地に初めて足を踏み入れたのは6月になってから。週刊朝日の記者と連れ立って、「被災地のスナックをめぐってみよう」という企画を立てたのだった。またそんなことを・・と笑われもしたけれど、それは僕なりに真剣に向き合った取材だった。 今週の「二度と行けないあの店で」は特別編として、あのとき通って取材した記事を、写真も増やして再録させていただく。訪れた店がいまも営業中なのかは、調べていないのでわからない。なくなってしまった店も、いまも元気に盛り上がっている店もあるだろう。でも、あのとき飛び込みの、それも東京からちょこっと訪れただけの取材記者にうんざりしていたにちがいないのに、あたたかく迎えてくれたママさんや常連さんと過ごした時間は、僕にとってかけがえのない記憶だ。その思いのカケラだけでも伝わってくれたらうれしい。

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food & drink

Neverland Diner 二度と行けないあの店で[特別編]『中野ぱじゃんかの思い出』

今年の初め、一枚の葉書を受け取った。中野のスナック「ぱじゃんか」のママさんだった稲垣政子さんのご家族からで、政子ママが介護施設に入居したお知らせだった。ぱじゃんかは『天国は水割りの味がする 東京スナック魅酒乱』の表紙にさせてもらった店だ。初めてうかがったのがちょうど10年前の2009年。当時すでに地上げでめちゃくちゃに荒廃していた中野ブロードウェー裏の一角に、一軒だけ電気が点いていた店で、おそるおそる覗いてみたのがぱじゃんかだった。

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food & drink

Neverland Diner 二度と行けないあの店で 77『フリークスお茶屋の話』都築響一

先週特集した『ドレス・コード?』展の準備で、久しぶりに京都で何日か過ごすうちに、むかしこの街に住んでいたころのことをいろいろ思い出した。ただいま上海に出張中でいつもの「二度と行けない店」の書き手を準備できなかったので、今週は僕の「二度と行けない店」というか、「実はいちども行けなかった京都の店」の思い出を書かせてもらおうと思う。

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travel

ウクライナの星の下で

毎朝、目が覚めると枕元のスマホでニュースアプリをチェック、起き出すとテレビをつけてBBCやCNNのニュースを見ずにいられなくて、気がつけば1時間以上経っている……そんな朝がもう2週間ぐらいになる。もちろんウクライナ戦争の状況を調べずにいられないからだ(しかしNHKはどうしてこんなに戦争関連の報道が少ないんだろう)。 ウクライナにはこれまでいちど行ったことがあるだけだが、ロシアには何度も行って、このメルマガにいろいろ書いてきたので、僕がそうとうロシア好きということもわかってもらえているかもしれない。今回の戦争で、もちろんウクライナのひとびとが被っている災厄は言葉に尽くせないし、プーチンやクレムリンにはひとかけらの道理もないけれど、日々激しさを増す言論弾圧のなか、こころを痛めつつ祈ることしかできないロシア人もたくさんいるはず。

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art

不自由で自由な表現展――BABU復活個展@ギャラリーSOAP

先週号でお知らせしたように、北九州小倉のギャラリーSOAPで、BABU個展「障害+ART 50-0」が始まっている。会期中に記事をあげたくて、急いで観に行ってきた。「障害+ART」と題されているけれど、本メルマガでも何回か取り上げたBABUはアウトサイダー・アートやアール・ブリュット系の作家ではない。昨年(2018年)5月、まだ30代の若さで脳梗塞に倒れ、脳の3分の1を失うという危険な状態におかれながら驚異的な回復力で復活、リハビリに励みながら制作してきた1年あまりの新作を集めた、復帰後初個展なのだ。

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art

工房集の作家たち3 長谷川昌彦

前回の大倉史子に続いて、埼玉県川口市の工房集につどう作家たちから、今週は長谷川昌彦(はせがわ・まさひこ)を紹介する。10月16日に配信した第1回記事で、工房集は埼玉県内に施設や事業あわせて22ヶ所を運営する社会福祉法人みぬま福祉会の一部であることをお話しした。今週紹介する長谷川昌彦は工房集と一体運営されている「川口太陽の家」に所属する作家である。障害者の「働く権利」を模索する過程で、単純作業から表現活動へと幅を広げてきた川口太陽の家では、いまステンドグラスづくりが盛んで、明るい作業室には各種作業機器が揃っている。平面作品や立体のオブジェ、照明器具の笠にガラスコインアクセサリーまで、仲間(施設利用者)たちが生み出す作品はさまざま。そんなカラフルな環境で、ひとりだけ鈍い銀色のかたまりに取り組んでいる青年がいた。

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art

工房集の作家たち4 齋藤裕一

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、今週は工房に所属するうちでもっともよく知られ、展覧会やアートフェアでの発表も多い作家のひとりである齋藤裕一(さいとう・ゆういち)を紹介する。齋藤さんは1983年生まれ。重度の知的障害を持ち、工房集には2002年の開所と同時に通うようになった。たとえば家の鍵を閉め忘れたか、ガスを消したかとかが気になって何度も確認してしまう、そうした無意味な行動を止められないことを強迫性障害と呼ぶ。

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art

工房集の作家たち5 杉浦篤

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、今週は工房に所属しながら、ふつうの「作家」とは少し異なるスタンスで作品を発表する杉浦篤(すぎうら・あつし)を紹介する。埼玉県川口市の工房集には、入口に小さなギャラリーがあって、所属作家の作品がいつも飾られている。最初に訪れたとき、もっとも興味を惹かれたのが、というより見たとたんに動揺させられたのが、杉浦さんの作品だった。これがなんだか、見てとれるだろうか。それはもともとサービス版かもう少し小さいくらいの写真プリントの、表面がすり切れ、角がちぎれ欠けて、丸みを帯びた、イメージの破片なのだった。

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art

工房集の作家たち6 横山涼

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、6回目となる今週は横山涼(よこやま・りょう)を紹介する。陽射しが明るい窓際の席で、白いワイシャツのボタンを首元まできちんと留めた青年が、一心に木片を削っていた。うっすら生やした髭が、かえって若さを引き立たせている彼の名は横山涼。1988年生まれ、2008年からグループ内の「浦和太陽の家」に通い始め、2012年からはそれまで暮らしていた実家を離れ、ホームに入所して制作を続けている。横山さんには知的障害があるそうだが、質問にもきちんと答えてくれるし、穏やかな口調に接していると、ここが障害者施設であることを一瞬忘れそうになる。「でも、来た当初はぜんぜん違ってて、大変だったんです」と案内してくれたスタッフのかたが教えてくれた。

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art

工房集の作家たち8 金子慎也

この連載の11月6日号で紹介した「ハンダの延べ棒」をつくる長谷川昌彦さんの制作風景を覗かせてもらいに、工房集のすぐそばにある通所施設・川口太陽の家を訪ねたときのこと。施設の中を案内してもらっているときに、棚の上に白いカタマリがずらっと並んでいるのが目に入った。ウズラの卵ほどのそのカタマリは、ふうっと息を吹きかけるだけで転がってしまいそうに儚げでありつつ、よく見るとひとつずつ微妙に形態が異なっていて、ものすごく小さな大理石彫刻みたいでもある。こんなに不思議にデリケートな造形をだれが?と尋ねたら、部屋の窓際で職員のおねえさんに抱きかかえられている金子慎也さんがその作者なのだった。

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art

工房集の作家たち9 関口忠司

これまで工房集にかかわる作家たちの作品として、絵画、コラージュ、立体といろいろなジャンルを紹介してきたが、今週は書を自分の表現に選んだ関口忠司(せきぐち・ただし)にお会いいただく。関口忠司は1963年生まれ、工房集が属する社会福祉法人みぬま福祉会の施設のひとつ、埼玉県蓮田市にある「蓮田太陽の里 大地」で生活する作家である。すぐそばには埼玉緑のトラストに指定された湿地・黒浜沼があり、豊かな自然に囲まれた施設に、関口さんは個室を得て18年暮らしている。その前には開所第1期生として白岡市の太陽の里に10年間いたので、みぬま福祉会ともうすぐ30年間のお付き合いということになる。

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art

工房集の作家たち・特別編:knock art 10

昨年10月から先週まで9回にわたってお送りしてきた「工房集の作家たち」シリーズ。今回はその特別編として、工房の作家たちも多数参加し、12月4日から8日まで埼玉県立近代美術館で開催際された第10回埼玉県障害者アート企画展「knock art 10 ―芸術は無差別級―」の誌上レビューをご覧いただきたい。なお「工房集の作家たち」シリーズは1月にまた取材を重ねて、セカンドシーズンをお送りする予定。かなりヘヴィ級が登場しそうなので、お楽しみに! 「knock art 10」は埼玉県内の障害者関連施設に入所/通院しながら制作を続けている作家たちが、一同に会する大規模グループ展。一昨年は「うふっ♡こんなのみつけちゃった♪」、昨年は「ソニックブームうふっ」と毎年微妙なタイトルがつけられているのだが、今年は10周年ということと、「多彩な表現にノックアウトされたながら出展作家が選考」されたので、「パワー溢れる無差別級のノックアート」になったのだそう。

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art

FINDING TSUKIJI ― 築地を教わる

先週に続いて送る築地魚市場の記録、今週はイギリスのアーティスト/デザイナーであるジェイク・ティルソンによる野心的なプロジェクト『FINDING TSUKIJI』をご紹介する。先週の台湾人写真家・沈昭良のストイックなドキュメンタリーとはまったく別種の、きわめてポップなTSUKIJIをお楽しみいただきたい。ジェイク・ティルソンと知り合ったのはもう30年ほども前のこと。当時刊行を始めた全102巻の現代美術作品集「アート・ランダム」の第34巻として、コラージュや立体を集めた作品集をつくらせてもったのだった(ArT RANDOM vol.34 Jake Tilson、京都書院刊)。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 8

上海市中心部、建国西路に面する古びた集合住宅。まさかこの中に古書店があると、だれが想像するだろう。建物の入口でインターフォンを押して、ロックを解除してもらわなくては中に入ることすらできない建物に。おそらく上海でもっとも秘密めいた古書店の店主である彼は広東省出身。上海で大学生活を送ったあと、故郷に帰って税務署で働きながら、1998年ごろに友人たちと場所を借りて書店とアートスペースを開く。ナチス・ドイツ占領下のフランスでレジスタンス文学やヌーボーロマン、サミュエル・ベケットの著作などを刊行した名高い地下出版社「深夜叢書」(Les Editions de Minuit)からも数冊の作品を出版していた。彼が税務署を退職して上海に戻ってきたのは2010年ごろ。友人の紹介で月刊誌『CHINA LIFE MAGAZINE 生活月刊』で1年間、そのあと週刊誌『THE BUND 外滩画报』で編集者として働くことになった。『THE BUND』のほうがリベラルなスタンスだったし、日々変化があるほうが好きだったからというのが雑誌を移った理由。書店を始めることになったのは『THE BUND』が印刷版を廃止してウェブに特化する直前、2015年のことだった。以来、妻とふたりでの書店経営と同時にフリーランスとして小説を書いたり、小出版にも関わっている。

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travel

人民公園の休日

成人の日の翌日から、重慶と成都に行ってきた。1週間弱の短い旅行で、そのときはだれもマスクすらしてなかったけれど、帰ってきたらいきなりコロナ・ウィルスのアウトブレイク。こんなことになるとは、だれが想像できたろう……・。「8D都市」と呼ばれるほどの超重層近未来都市・重慶については、以前メルマガでも紹介したが(2019年12月25日号)、訪れるのは10年ぶり。『重慶マニア』(パブリブ刊)にたっぷり紹介された、その近未来感覚を確かめたかったし、記事で吉井忍さんが書いてくれたように、「京都と大阪みたいな永遠のライバル」と言われる、成都との比較にも興味があった。成都は四川省の州都。言わずと知れた四川料理の本場だし、パンダ・ファンの聖地でもある。三国志マニアには蜀の都としておなじみ、劉備玄徳と諸葛孔明の廟があり、古代史好きにはいまから4000~5000年前という、謎の仮面文化・三星堆(さんせいたい)遺跡が発見された地としても、胸躍る場所だろう。

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design

不自由な国の自由なデザイン――ポーランド映画ポスター展を見て

とりあえずこのポスターを見てほしい。往年の日本映画のポスターなのだが……なんの映画かおわかりだろうか。 実はこれ、高倉健や千葉真一が主演したパニック映画の傑作『新幹線大爆破』(1975年東映)のポーランド版ポスターなのだ。世界のB級映画ファンにおなじみのこの作品、英語タイトルは「The Bullet Train Super Express 109」というので、たしかに題名のSUPER EXPRESSは入っているけれど……パニックの緊張感が1ミリもない、かわいらしいイラスト! あまりに独創的な解釈に、展示会場でにんまりしてしまったのは僕だけではないだろう。 東京京橋の国立映画アーカイブではいま『ポーランドの映画ポスター』展が開催中だ(3月8日まで)。日本・ポーランド国交樹立100周年を記念したというこの展覧会。100年前のポーランドはまだ共和国時代だったと思うが、第二次大戦のナチ占領時代を経て、戦後はポーランド人民共和国として共産主義国家となった。その後、1989年に共産党独裁体制が崩壊するまでの半世紀近いなかで生まれた映画ポスターが、今回は96点も集められて見応えある展覧会になっている。

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design

銀色人間の国

メルマガも9年目ともなると、新しい出会いとともに、以前に取材したひとの新しい作品や挑戦を教えてもらうことも増えてきた。2014年12月25日配信号で特集した『裸眼の挑戦――若生友見とragan books』。そのころはまだ比較的ゆったりだった東京アートブックフェア会場で出会って、クールでシャープなコンセプトとデザインに唸った「ragan books」の若生友見さんに会いに、宮城県七ヶ浜町まで出かけてつくった記事だった。 先日、久しぶりに会った若生さんから「これ、新作です」と渡された2つの小冊子。最初、どういう趣旨なのかよくつかめなくてボーッとしていたら解説してくれて、それがすごくおもしろかったので、今週はragan久しぶりの新作を紹介してみたい。

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travel

おもしろうてやがてかなしき済州島紀行1 トケビ公園

ハマってる国ありますか?と聞かれたら、いまは中国と答えるけれど、10年くらい前はそれがタイと韓国だった。1月中旬に重慶と成都に行ったときには、街でマスクをしてるひとなんてだれもいなかったのに、東京に帰ってきたとたん、武漢でのコロナウィルス・アウトブレイク。日程が1週間ずれていたらと思うと冷や汗だったが、実は2月もLCCのセールで格安購入した航空券で、上海の南にある海辺の町・寧波に行く予定を立てていた。なのに、あっという間の事態深刻化。さすがに強行するわけにもいかず、でもすでに旅行気分になっていたので、かわりに行ける「近くて安い」場所を探して成田~済州島~釜山~成田という航空券を購入。このルートでひとり2万2千円、大阪往復より安あがり! 宿泊費だって、かなりいいホテルで一泊1万円ほど。4泊5日で交通宿泊費2人分10万円という格安小旅行を楽しんできた。

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おもしろうてやがてかなしき済州島紀行2 仙女と木こり公園

先週紹介した「お化けの国「トケビ公園」は見事に廃墟化していたが、10年前に較べてむしろパワーアップしていたのが、トケビからクルマで15分ほどの済州島内陸部にある「仙女と木こり公園」。今回調べてみたら開園が2008年だったので、前に訪れたときは開園後間もなくだったことになる。それから10年間にわたって着々、展示が増えていたとは! 韓国人ならだれでも知っている民話が「仙女と木こりの物語」。天から降りてきて、水浴していた天女を見つけた木こりが、羽衣を隠してしまう。天に帰れなくなった仙女は、木こりと結婚、幸せに暮らすが、ある日、天女から「あの羽衣を見せてほしい」とせがまれた木こりが、隠していた羽衣を返すと、仙女は子供を連れて天に帰ってしまったという・・・・・・日本の羽衣伝説といっしょですな。

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art

犯罪とアートのあいだに――ニューヨーク・グラフィティの時代

20歳だった自分のことを「それが人生でいちばん美しいときだなんて、だれにも言わせない」と書いたのはポール・ニザンだったが、1978年に22歳だった僕は生まれて初めてニューヨークに行って、その醜さと美しさに飲み込まれ茫然自失だった。いまから40年前のニューヨークは、いまのニューヨークとは別の場所だった。街はものすごく汚くて、サウスブロンクスまで行かなくても、いまやトレンディなイーストヴィレッジだって廃墟だらけだったし、街角では浮浪者みたいな男や女がドラム缶に木ぎれをぶち込んだ焚火で暖を取っていたし、地下鉄のホームに立って線路を走るネズミを見ていると「後ろから線路に突き落とすのが流行ってるから、あんまりホームの端に近づくな」と真顔で注意されたながら、轟音と共にホームに突っ込んでくる、全面グラフィティに覆われた地下鉄車両の姿に見とれて動けなくなったりしていた。映画の『タクシードライバー』が1976年、『サタデーナイトフィーバー』が77年、愛すべきB級『ウォーリアーズ』が79年、そして『ワイルドスタイル』が83年。そういうニューヨークが、そこにあった。

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垂直のヴェルサイユ

貧乏は底なし沼かもしれないけれど、金持ちの世界も青天井だ。オレサマがイチバン!と思う間もなく新しいイチバンに追い抜かれる。お山の大将だったはずが、いつのまにかもっと高いお山に別の大将がいる。超高層ビルは英語でスカイスクレイパー=「空をこするもの」だが、それを「摩天楼」と訳したセンスはほんとうに素敵だ。初めてケネディ空港に降り立ち、怖々乗ったタクシーの窓からマンハッタンのスカイラインが見えたときの感動はなかなか忘れられなくて、大自然の景色にはすぐに飽きてしまうのに、ニューヨークのビル景はそれからもずっと見飽きるということがなかった。最近またニューヨークに行くようになって気がついたのは、めちゃくちゃに細長い超高層ビルが増えていることで、それは新しい美しさというよりも、むしろ漠然とした不安感を醸し出す、巨大なトゲかささくれのように見えた。こちらが地震国から来たせいかもしれないけれど、なにかの拍子にポキッと折れてしまいそうな。

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travel

ジャクソンハイツ満腹散歩

一時はニューヨーク有数に治安の悪いエリアという不名誉なイメージに甘んじていたジャクソンハイツだったが、戦前の住宅建築群が1993年にアメリカ合衆国国家歴史登録財に指定されたこともあって、2000年代に入るころから人気が復活。マンハッタンに較べればまだ割安な住宅価格も大きいだろうが、バリーによれば「なんたって食事だよ!」とのこと。世界各国のレストランはもちろんのこと、ストリートフードの屋台もバングラデシュ、中近東、ネパール、コロンビア、ギリシャ、エクアドル、タイ、メキシコのタコスまで、あまりによりどりみどりでチョイスに困ってしまう充実ぶりだ。「そんなに気になってるなら」と、今回のニューヨーク出張ではバリーとアーニャが「とっておきのジャクソンハイツ・フードスポット」を教えてくれたので、その貴重な地元情報をみなさんと共有しておきたい。

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food & drink

ロータリーの女たち

歌舞伎町のキャバレー「ロータリー」が2月28日で閉店したのは大きなニュースになったし、NHK「ドキュメント72時間」をはじめとするテレビ番組も複数放送されたので、ご覧になったかたもいらっしゃるだろう。「白いばら」や「ハリウッド」の時と同じく、閉店の発表が流れたとたんに毎晩、満員御礼。最終日はとりわけ大混雑だったが、本メルマガではフィリピンパブや暴走レディースでおなじみの比嘉健二さんが長く愛用していた店ということで、最後の夜の取材に誘ってもらえた。

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photography

地下鉄日記――東京砂漠の片隅で

『雲隠れ温泉行』という、つげ義春の世界が写真で21世紀に甦ったような写真集を2015年6月10日号で紹介した(「湯けむりの彼岸に」)。作者の村上仁一(まさかず)は月刊誌『日本カメラ』の編集者として働きながら、写真作家としても長く活動を続けてきた。『雲隠れ温泉行』を刊行したroshin booksは、このメルマガでも幾度か紹介した、斉藤篤という写真好きの青年が別の仕事で生計を立てながら、理想の写真集を世に出したいとひとりで始めたマイクロパブリッシャーである。そのroshin booksからこのほど村上さんの2冊目になる作品集『地下鉄日記』が刊行される(4月14日リリース)。

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photography

フロントステップス・プロジェクト 玄関先でつながる世界

日本以外の多くの国が、市民に自宅に留まるようほぼ強制しているという、ほんの少し前まではサイエンスフィクションの世界でしかあり得なかった事態が現実化している現在。たくさんのひとたち、家族たちが孤立に物質的にも、精神的にも苦しむなかで、こころのつながりだけでもどうにかして保とうとする試みが世界中で行われている。決まった時間にバルコニーに出て、みんなで拍手したり歌をうたったりとか。ボストン郊外の町ニーダムに住む写真家キャラ・スーリーと、友人のクリスティン・コリンズが始めたのが「ザ・フロントステップス・プロジェクト」という素敵にアメリカ的な企画だった。

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art

エロ本とスニーカー

「おもしろいエロ本あります」と言われて届いたのは、ものすごく手作り感あふれる、しかしハードカバーの小さな本が数冊。A4を4つ折りにした、パスポートと同じくらいのサイズで、表紙には『青少年教育マガジン わかば』とある。して中味は、と急いでページをめくると18禁の写真とかはどこにも見当たらず、脈絡のない無意味なスナップが続き、しかしよく見てみるとそこはかとなくウフフな感じのエッチな気分が漂うという・・・・・・ひねくれたエロ本とつくりながら、同時に手がけている「手づくりスニーカー」を集めた展示即売会が、再開したばかりの渋谷PARCO内の「Meets by NADiff」で始まっている(6月1日から)。

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design

ATGが遺したもの

ATG、と聞いて思わず遠い目になってしまうひとは、もはや70代だろうか。1970年に20歳だった青年が、いま70歳だし……。 ATG=アート・シアター・ギルドが遺した映画ポスター展が、6月から再開した鎌倉市川喜多映画記念館で開催中だ。 1961年に設立されたATGは海外のアート系作品の配給・上映から活動を始め、低予算実験映画製作へと幅を広げていって、後期には若手監督による娯楽作品路線にシフトしながら1992年まで存続してきた。今回の展覧会は初期の輸入作品から1970年代末までの製作作品をおもに、90点以上のポスターによってその活動を振り返る試み。同時に1960年代後期~70年代のイラストレーション/グラフィック・デザイン全盛期の、日本のクリエイティブ・センスを体感できる機会にもなっている。

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art

なんだかわからないピーター・ドイグ

お小遣いあげるから旅行してきなと背中を押され、けど東京都民だけはどこも行っちゃダメと言われ、しょうがないので都内で再開した美術館やギャラリーに足を運ぶ日々。先週はようやく、竹橋の国立近代美術館で開催中の『ピーター・ドイグ展』に行ってきた。 展覧会が始まったのは2月26日、しかし新型コロナウィルス感染防止で29日から臨時休館(わずか3日の展示期間!涙)、しかし6月12日にめでたく再開して10月まで会期延長される話題の展覧会。もう見てきたというひとも多いだろうし、SNSなどにも感想がたくさんアップされている。現代美術業界ではもちろん有名な作家であるものの、正直言って日本でそれほどポピュラーではなかったと思うし、今回が日本では初めての個展だが、毎日たくさんの観客を集めているようだ。メディアの報道よりも、SNSでのクチコミで情報が拡散している気がする。

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art

永遠不滅の水森亜土

本郷の東京大学裏手から上野不忍池に抜ける坂にある弥生美術館。いま「いつみても、いつでもラブリー♥ 水森亜土展」を開催中だ(10月25日まで)。 歌を歌いながらアクリルボードに両手でお絵かきするパフォーマンスで知られるイラストレーター・水森亜土。 子どもの頃から親しんでいるけれど、大人になった今も大好き!という方は多いでしょう。 とびきりラブリーでハートウォーミング、またセクシーでビターな味わいもある亜土作品には、時を超えたユニークな魅力があります。 本展覧会では亜土が「絶対に売らない」と決めている秘蔵の絵画作品やグッズの原画を大公開! 歴代〈亜土グッズ〉を700点超!を展示します。日本橋で生まれ育った亜土がみた、古きよき東京の魅力もご紹介します。 (公式サイトより) 水森亜土を知らない日本人って、いるのだろうか。1939年生まれ、いま80歳。子どものころは地元・東京日本橋の川にいかだが行き交っていたという時代に育ち、ジャズ・シンガー、童謡やアニソンの歌手・声優、イラストレーター、劇団の看板女優・・・・・・「肩書」という言葉がまったく無意味な縦横無尽の活動で、いまも現役。可愛らしい怪物である。

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art

ロンドン猫の妄想大冒険

コロナ禍のアート、みたいなテーマで世界中にさまざまな取り組みが提案されて、オンラインミュージアムから「あつ森」の盛り上がりまで、1年前には想像もできなかった動きが次々とインターネット上で展開している。メガ・ミュージアムが本気で取り組むプロジェクトも興味深いが、アーティストが個人で配信する、ささやかな企画や作品もまた愛おしい。 今年1月8日配信号「FINDING TSUKIJI ― 築地を教わる」で紹介したイギリス人アーティスト、ジェイク・ティルソン。ロンドン中心部から30分ほど電車に乗った南部の郊外ペッカムで、彼もまたもはや半年以上自主引きこもり中。ちなみにペッカムという街は、かつてはあまり治安がよくない場所とされていて、そのかわりスクウォットされた建物で大規模なクラブイベントが開かれたり、アンダーグラウンド文化では先鋭的な場所だったのが、いまやロンドン屈指のトレンディ・タウンとなっている。 ジェイクはペッカムに妻の陶芸家ジェニファー・リーと、やはり画家である24歳の娘ハンナ、それに愛猫と住んでいるが、娘のハンナはいま別の場所で制作中。「娘と会えないので、我が家の猫をテーマにしたマンガの小冊子をPDFでつくってみました!」というお知らせが先日届いた。タイトルは『NINJA PEANUT』。

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死者の反撃 ―― 事件写真家エンリケ・メティニデスをめぐって

慎重に再起動しつつあるニューヨーク在住の小説家バリー・ユアグローから連絡が来た――「僕らの大好きなメティニデスのこと書いたよ」。送られてきたリンクはイギリスの新聞オブザーバーのウェブ版で、「メキシコのウィージー」とも呼ばれた伝説の事件写真家エンリケ・メティニデスの活動と近況を伝える記事だった。ストリート・フードからルチャまでメキシコのポップ・カルチャーが大好きなバリーにとって、メティニデスの写真はただ衝撃的という以上の、特別な意味を持つものらしい。 僕がメティニデスのことを知ったのはまったく偶然で、2003年にロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーで『着倒れ方丈記/Happy Victims』の展覧会を開いたとき、同じ会場でメティニデスの個展も開催されていて、とてつもなくドラマティックな写真にいきなり魅了されてしまったのだった。

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大竹彩子とめぐる「GALAGALA」

毎週のようにいろんなアーティストを紹介しているけれど、そのほとんどは取材のために初めて会ったり、リモートでお話を聞くひとたち。しかし今回はもともと親しい、というより生まれたときから知ってるので非常に書きにくい・・・・・・渋谷PARCOミュージアムで個展「GALAGALA」が始まった大竹彩子のことだ。 彩子ちゃん(と敢えて呼ばせてもらうと)はご存じのとおり大竹伸朗くんの長女。1988年宇和島生まれ。小さいころは剣道少女だった気がするが、大学進学で東京に上京。そのときは美大ではなかったが、卒業後1年間宇和島に帰ったあとロンドンに渡ってアートカレッジの名門セントマーティンズでグラフィック・デザインを学んで帰国した。そのころからロンドンやシンガポールで展覧会を開くようになり、日本では2018年に六本木のギャラリーART UNLIMITEDで開いた「KINMEGINME」が最初。

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25年目の珍日本紀行 群馬編2  どうしたんですか館長さん! ――命と性ミュージアム再訪記

草津と並んで群馬県を代表する温泉地・伊香保。土産物屋や射的場など昔ながらの遊戯施設が並ぶ石段街も有名だが、訪れてみればそのノスタルジックな風情よりも、活気を失った観光地の寂しさのほうを感じてしまうひとが多いだろう。 伊香保近郊には「珍宝館」と「命と性ミュージアム」、2つの秘宝館が現存している。「珍宝館」はテレビなどでもおなじみ、館長の「ちん子さん」によるお下品客いじりトークはパワフルだけど(いまも健在!)、珍宝のほうはたいしたことなかったので『珍日本紀行』には取り上げなかった。もうひとつの「命と性ミュージアム」は2002年開館ということで、こちらは珍日本刊行後に出現したニューフェイス秘宝館。別の雑誌で2007年に取材させてもらい、いまは電子書籍のROADSIDE BOOKS vol.001『秘宝館』で、たくさんの写真を取材記事とともに見ていただくことができる。 初めて「命と性ミュージアム」を訪れたころは、「女神館」呼ばれていたが、久しぶりに再訪できたのは2年ほど前のこと。村上春樹さんと遊びに行ったのだが、これはプライベートな旅行だったので発表はせず。そして今回「まだ健在だといいけど・・・・・・」と願いながら3度目の訪問。「命と性ミュージアム」はちゃんと営業を続けてくれていたけれど、館内は一部、驚愕の変貌を遂げていたので、今週はその「使用前・使用後」を中心に報告したい。

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工藤正市の奇跡

ずいぶんたくさんの写真を日常見ていて、うまいとか、かっこいいとか思うことはよくあるけれど、こころ揺さぶられる出会いというのはなかなかない。 いま、インスタグラムを中心に共有の輪が静かに、世界中に広まっている工藤正市という写真家をご存じだろうか。1950年代にアマチュア・カメラマンとして積極的に活動したあと、ぱったりと作品発表を止めてしまい、2014年に亡くなってから家族が膨大なネガの束を発見。スキャンした画像をインスタにアップしたところ、驚くほどの反響を呼ぶようになったという、以前このメルマガでも特集したアメリカのヴィヴィアン・マイヤーやロシアのマーシャ・イヴァシンツォヴァにも通じる「発見の物語」である。

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25年目の珍日本紀行 群馬編4  蛇と紋次郎の上州路

群馬県南部の太田市は高崎、前橋に次ぐ規模で、SUBARUの企業城下町としても知られている。「新田義貞の隠し湯」という太田市内の藪(やぶ)塚温泉郷は、歴史こそ古いものの、現在では旅館が数軒だけ、共同浴場もないという地味な温泉場だ。 藪塚温泉が誇る(というか唯一の)珍スポットとして取り上げたのが、江戸時代の街道町を再現した「三日月村」と、世界の蛇300種、数万匹を集めた「ジャパンスネークセンター」という、隣り合う2つの観光施設。取材で訪れたのは1997年のことだった。

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芦屋の時間

「阪神間」という言葉には、単に大阪と神戸のあいだという地域を指す以上の、独特のニュアンスがある。20世紀初期の阪神間モダニズムが象徴するような、近代的で上質な文化生活。いまで言えば「#ていねいな暮らし」みたいな、というと刺があるように聞こえてしまうかもしれないが、歩いてみれば「ああ、こういうとこでゆったり暮らせたらなあ」と思わずにいられない、確かな居心地良さがあるのは確か。 その阪神間で隣り合う芦屋と西宮にある、ふたつの美術館を回ってきた。芦屋市立美術博物館で開催中の『芦屋の時間 大コレクション展』と、西宮市大谷記念美術館の『没後20年 今竹七郎展』。会期は芦屋が11月8日まで、西宮が12月6日までなので今週は芦屋、来週に西宮の展覧会を紹介するが、両館のあいだは2キロちょっと、歩いても30分足らず。気になったら、ぜひふたつあわせてご覧いただきたい。

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大阪で生まれたデザインやさかい・・・・・・

先週は芦屋市立美術博物館の『芦屋の時間 大コレクション展』を特集したが、今週はおとなり西宮の大谷記念美術館で開催中の『没後20年 今竹七郎展』を紹介する。両館のあいだは2キロちょっと、歩いても30分足らず。気になったら、ぜひふたつあわせてご覧いただきたい。 西宮市大谷記念美術館では、2018年に開かれた『グラフィックデザイナー土方重巳の世界』を、11月21日号「だれも知らなかった土方重巳」として紹介した。NHKの人形劇「ブーフーウー」のキャラクターや、佐藤製薬の「サトちゃん」の生みの親であり、だれもが知っているデザインを遺しながら、その名は一般的でないという意味でそんなタイトルにしたのだった。今回の展覧会もサブタイトルには「近代日本デザインのパイオニア」とあるものの、ポスターやチラシには「どこの誰だか知らないが。そのデザイン! 誰もがみんな知っている。」というコピーが大書されている。

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ネオン管の抒情

アメリカの田舎のハイウェイを夜走っていたら、真っ暗な空にオレンジ色の巨大なネオン十字架が突然あらわれた。タイの村はずれにあるお寺の眩しい境内から本堂に入ってみたら、暗いなかに座った仏様を何色ものネオン光背が照らしていた。LEDがない時代の単なる照明器具なのに、ネオン管というものになにか神秘的な魅力を感じてしまうひとって、少なくないのではないか。 今年7月に大阪、9月下旬から10月にかけて銀座のニコンサロンで、下川晋平の写真展『Neon Calligraphy』が開かれた。カリグラフィーとは「書」のこと。おもにイランの夜の街を飾るネオン看板を撮影した、珍しいドキュメンタリーだった。

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バンコクのリカちゃん (写真:Sasamon (Didi) Amatyakul)

あまりInstagramは活用していないけれど、2年ほど前だろうか、不思議に魅力的な写真をフィードしているアカウントに出会った。「liccachan lover = リカちゃんラヴァー」というユーザー名のとおり、可愛らしい人形を撮影した写真がたくさん上がっているアカウントだった。 人形というと、アニメから派生したセクシーなフィギュアだったり、ハンス・ベルメールの球体関節人形的な耽美系だったりが僕の身近には多いけれど・・・・・・リカちゃんラヴァーの人形写真はそういうものとはぜんぜん違っていた。ただのコレクション自慢写真ではないし、かといって耽美系にありがちな闇/病みを匂わせる偏執も見えない。ローリー・シモンズのような現代美術系でもない。リカちゃんというくらいなのでほとんどが女の子人形だし、そこに官能性はあるけれど、ひねくれたエロスはない。「ガーリー」という言葉が当てはまるかどうかはわからないけれど、すごく真っ直ぐな、ある年齢の女の子だけが持つ強度がある気もする。人形なのに。

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新連載! Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 01 栃木県

2020年09月09日配信号「群馬編1 アダルト保育園」から、ゆるりとしたペースで始めている新連載「25年目の珍日本紀行」。そのスピンオフ企画として今週から「Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行」をお送りする。 もともとの『珍日本紀行』は1993年2月から98年8月まで、238回にわたって週刊SPA!誌上に連載されたものが、96年にアスペクト社から大判写真集『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』として刊行された。その後もしつこく追加取材し地域別に再編集した342件の路傍の奇跡が、2000年にはちくま文庫で「東日本編」「西日本編」の2冊、計1,200ページ近い増補改訂版・極厚文庫本にまとめらたのだった。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 02 茨城県

ゆう・もあ村は土浦市東城寺に1965(昭和40)年開業。珍スポットとしてそれなりに知られるようになったが、展示物の盗難事件などもあり、2001(平成13)年に閉園。その後、こころない侵入者などの破壊行為もあり、建物はすべて解体された。グーグル・ストリートビューで見ても更地のようである。なおYouTubeには盛業当時のPRビデオが上がっている。貴重な動画、記事とともにじっくり楽しんでいただきたい。

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しめかざりをめぐる旅

我が家は皇居から徒歩数分の大通りに面しているが、そんな都心でも毎年、年末にはしめかざりの露店が出る。あのひとたちはいったいどこから来るのだろう? おでんやラーメンの屋台を出したら即座に警官が飛んでくるのに、あのひとたちはどうして許されてるんだろう? 年末年始となればみんな閉まるのに、無人のオフィスにしめかざりを飾ってるのはどういうわけなんだろう? 謎のまま毎年、しめかざりは視界の片隅にあらわれ、消えていく。 三軒茶屋の高層ビル・キャロットタワー内「世田谷文化生活情報センター・生活工房」でいま、しめかざりの展覧会が開かれている。『渦巻く智恵 未来の民具 しめかざり』と題された、絶妙のタイミングで開催中のこの展示、しめかざりも初詣もおせちも雑煮も、正月というものすべてに興味ゼロの僕にとって予想をはるかに超えて興味深い企画だった。

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とろとろのりんごのわたし――友沢こたお「Pomme d'amour」

小説家は作品を重ねるにしたがって円熟していくけれど、詩人は最初の作品でいきなり高みに達してしまうことがある、と言ったひとがいた。スタートしたとたんにトップスピードに乗る、みたいな。音楽にもそういうことがあるけれど、アートの場合はどうなのだろう。 本メルマガではもうおなじみ、新御徒町のモグラグ・ギャラリーでいま友沢こたお個展『Pomme d'amour』が開かれている。タイトルの「ポム・ダムール」はフランス語でりんご飴を意味する。直訳すれば「愛のりんご」。とろとろの飴がかかった果実。ちなみに「pomme d'Adam」(アダムのりんご)になると喉ぼとけのこと。イヴに差し出されアダムがかじってしまったりんごが喉に引っかかったことから来ているが、「ポム・ダムール」にはそんな禁断のニュアンスも秘められているのだろうか。

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赤い手拭いマフラーにして、ふたりで行こうよ大銭湯展

BBCの歴史番組でルーシー・ワースリーというものすごくチャーミングな歴史家のファンになってしまい、『暮らしのイギリス史 王侯から庶民まで』という分厚い本を少しずつ読んでいる。中世から現代までのイギリス生活史を楽しく紹介したこの本の「浴室の歴史」という章には、1550年から1750年までの「不潔な二百年」に、イギリスの人々がいかに入浴を不気味なものと思っていたかが描かれていて、その一因は「水が病を、とりわけ人心に恐怖をかきたてる新しい病である梅毒を拡散するという理由から、入浴が疎んじられるようになっていった」のだった。その後18世紀に入浴の習慣が復活するが、家庭に独立した浴室が誕生するのは19世紀になってからだった。 小金井の「江戸東京たてもの園」ではいま、「大銭湯展」と題された銭湯の歴史と現在・未来を俯瞰する展覧会が開かれている。 東京屈指の都立公園である小金井公園のなかにある江戸東京たてもの園は、両国の東京都江戸東京博物館の分館。山の手エリア、下町エリアなどと名づけられた区域に、茅葺き農家から田園調布の優雅な邸宅、商店街の看板建築などが復元されていて、定期的に訪れるというファンも少なくない。

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サバービア・ガーデニング ――前川光平「yard」を見て

去年と一昨年の2回、清里フォトアートミュージアムが主催する国際公募展「ヤング・ポートフォリオ」の審査員を務めたことは以前にもメルマガで書いた。現代美術的なアプローチの作品から社会派のドキュメンタリーまで、さまざまなスタイルで写真に取り組む若きフォトグラファーたちのなかで、いっぷう変わった数十枚のプリントに「ん!?」となった。 担当スタッフから詳細を聞くまでもなく、あきらかに日本の、それも伝統美とはまるで対極にある雑然とした庭先。玄関。塀や垣根まわり。そういう、日本のどこにでもありながら、だれも目に留めない光景が延々と現れる。

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しがみつく綱としての絵――雫石知之「生きたい 死に際」

西荻窪の駅のそばのギャラリーで、すごく不思議な絵の展覧会をやってます!と、メルマガの技術面を担当するスタッフから連絡をもらった。添付してくれたDMには、一見男か女かわからない全裸の人間が、空中に吊り下げられている。縄やフックを使うSM的なサスペンションではなく業務用というか、性的というよりむしろエクストリームなスポーツにも見える吊りの光景で、そこに『生きたい死に際』雫石知之 展というタイトルが乗っていた。 いわゆるフェティッシュ系のアーティストともちょっとちがう雰囲気がある気がして調べてみると、ご本人のTwitterアカウントにこんな自己紹介が載っていた――

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モルドバの土に頬をつけて

2020年のヨーロッパの写真界でいちばん話題になったひとりにザハリア・クズニアがいる。しかしつい最近まで、どんな写真通でも彼の名前を知るひとはいなかったはずだ。なぜなら彼もまた「発見」された写真家だったから。本メルマガでは2015年にニューヨークのヴィヴィアン・マイヤー、2018年にサンクトペテルブルクのマーシャ・イヴァシインツォヴァ(リンク張る)、さらには2020年の青森の工藤正市と、死後発見されたアマチュア写真家を記事にしてきた(新聞社の写真部にいた工藤さんは正確にはアマチュアとは言えないが)。ザハリア・クズニアは彼らに続く、またも奇跡の発見物語である。

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田中一村ができるまで

田中一村は1977年に奄美で亡くなるまでほとんど知られることなく、死後2年経って公民館で3日間だけの遺作展が開かれ、その数年後にNHK『日曜美術館』などで取り上げられていきなり全国的に大ブレイクした「死後発見」組のひとり。奄美には記念美術館があり代表作の多くが収蔵されているが、本土ではときたま開催される展覧会以外に、まとまった数の作品を見られる機会はあまりない。去年夏にリニューアルオープンしたばかりの千葉市美術館では、いま『田中一村展 ― 千葉市美術館収蔵全作品』を開催中だ。

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ある演歌歌手の死

先週火曜日(1月26日)、小さな訃報記事がメディアに出た。「歌手・泉ちどりさんが肝臓がんのため死去、73歳『お吉物語』などヒット」という記事を、ご覧になったかたもいただろうか。その2日前の坂本スミ子、昨年末のなかにし礼、10月の筒美京平といった大御所に比べたら、ごくささやかな追悼記事だったが、その小さな扱いよりもむしろ「ちどりさんってYahoo!ニュースに出るほど知られてたのか」という驚きのほうが、僕にはあった。

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ポップアーティストとしての三島喜美代

まだまだ気楽に旅行できる状況ではないけれど、先週は日帰りで京都に行ってきた。午前中に東京を発って、夕方には戻りの新幹線に乗っていて、滞在時間4時間ほど。もったいないけどしょうがない。平安神宮に向かって対面する京都市京セラ美術館と、国立京都近代美術館の2館で開催中の展覧会をこれから2回にわけて紹介する。今週は京近美のメイン企画展「分離派建築会100年 建築は芸術か?」……ではなくて、4階コレクションギャラリーで開かれている収蔵作品展の一室、「特集:三島喜美代」という小さな展示から。

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血と汗と涙の石岡瑛子展

初めチョロチョロではないけれど、開始直後はがらがらで、後半になって大混雑、最終日近くは予約満員、というのが展覧会の「あるある」。先週日曜に最終日を迎えた東京都現代美術館の「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」も、終盤の長蛇の列をSNSで見て、最初のうちに観ておけば……と後悔したひとがたくさんいただろう。このメルマガでも展覧会開始にあわせて特集をつくろうと思ったが、展示すべて撮影禁止というポリシーを知り、それはそれで尊重すべきというか、記事だからといって無理矢理お願いするのもよくないかと思い、控えていたのだった。 去年11月14日に始まった展覧会の、終盤になって休館日に取材ができ、そこで撮影も許されたので、ちょうど展示が終わったタイミングではあるが、少しだけ石岡瑛子のことを書かせていただく。なお、これほど話題を集めた展覧会ではあるが、当初は富山県美術館に巡回する予定が新型コロナ禍で中止になって、あとはどこの美術館も手を挙げず、けっきょく巡回なし。あの金閣寺の印象的なディスプレーも壊されるという……。

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絵画のドレス ドレスの絵画

名前を知ってはいるし地元でもあるけれど、ちょっとだけ遠かったりして行けないままになっている美術館、というのがある。 八王子にある東京富士美術館は都心部から中央線とバスを乗り継いで約1時間半という微妙な距離感。約3万点の作品を所蔵し、「とりわけルネサンス時代からバロック・ロココ・新古典主義・ロマン主義を経て、印象派・現代に至る西洋絵画500年の流れを一望できる油彩画コレクション」(美術館サイトより)は、ルネサンス絵画からルーカス・クラーナハ(父)、アルブレヒト・アルトドルファー、ピーテル・ブリューゲル(子)、ジャン=オノレ・フラゴナール、フランソワ・ブーシェといったオールドマスター、プーシェ、フラゴナールなどのロココ、そしてルノワール、モネ、セザンヌ、ゴッホなどの印象派、さらにはウォーホル、キース・ヘイリングまで日本屈指のコレクション。それも広範な時代をもれなくカバーする裾野の広さが際だつ美術館だ。

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文明開化と21世紀をつなぐ電線絵画

それがバンコクでもプノンペンでもホーチミンシティでもいいけれど、街に踏み出して「あ~~~アジアに来たな!」といきなり実感するのは、あのモワッと湿気を含んだ暑さ。そして建物と道路を黒い毛細血管のように這い回る、おびただしい電線の群れだ。あるときは巨大な糸玉のようにからまりあい、あるときは建物の外壁にエレクトリックなツタのようにからみつく、そういうアジアの電線を見るたびに、僕は急いでカメラを取り出さずにいられない。 電線を空中から地中へ、というのは世界的に、現代の街づくりの必修課題らしい。日本でも当然その工事は進められている・・・・・・はずだが、東京だって大通りはともかく一歩裏通りに入り込めば、そこにはあいかわらず電柱と電線がしっかり居座っている。 西武池袋線中村橋駅からすぐの練馬区美術館では、いま「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」を開催中。絵画にもいろんなくくりかたがあるが、「電線」でまとめられる絵画展というのは・・・・・・かなり珍しいはずだ。

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イッツ・ア・スモールワールド・・・・・・世界はひとつなのか

平安神宮に向かい合う京都市勧業館、通称「みやこめっせ」。大学の入学式やさまざまな大会、見本市、即売会などに利用されていて、地下には京都伝統産業ミュージアムなどもあるのだが、これまで足を踏み入れたことがなかった(名前もちょっと・・・・・・)。 その「みやこめっせ」地下・京都伝統産業ミュージアムで2月6日から28日まで開催されていたのが「イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」。市内各所を舞台に2010年から続けられている「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」の一環として開かれた、きわめて挑発的な展覧会だった。僕も閉幕直前に知ってあわてて駆けつけたので、開催中に記事を配信できず申し訳なかったが、その概要だけでも見ていただきたくて、企画者のインディペンデント・キュレーター小原真史(こはら・まさし)さんにお話をうかがいながら展覧会を振り返ってみることにする。

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CONTACT ZONE 砂守勝巳写真展

2020年05月20日配信号で「もの言わぬ街から」と題して、埼玉県東松山の「原爆の図 丸木美術館」で開かれた展覧会「砂守勝巳写真展 黙示する風景」を紹介した。本来なら丸木美術館の展示と並行して開催される予定だったのが、東京と大阪のニコンプラザでの写真展「CONTACT ZONE」。こちらは残念ながら新型コロナウィルス感染防止で延期となってしまったが、幸い4月13日から新宿のニコンプラザで、そのまま5月には大阪で開催されることになった。

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「ほっこり」より「もっこり」 ――宮田嵐村とはだれだったのか

長野県松本市、といえば国宝松本城だったりサイトウ・キネン・オーケストラだったり草間彌生だったり、いろいろハイブローなイメージが思い浮かぶが、かつては松本といえばまず「松本民芸家具」であった。 あの、いかにも重厚、まさに重くて分厚い風合いが個人的にはどうもなじめなかったが(やけに高額だし)、ずいぶん昔に松本駅近くの民芸土産物屋にふらっと入ったら、店の奥のほうに「道神面コーナー」と記された壁面があり、なんとなくアフリカやオセアニアのプリミティブな雰囲気のお面でありながら、よく見ると顔が男女性器! 道神は道祖神のことだったか・・・・と驚き、値段も手ごろなのでひとつ買って帰った。小さな木彫りの道神面は1月から12月までの暦にあわせて12種類あるというので、誕生日の1月を選んだら、「のぞく」という作品名とともに「不審そうにのぞかなくとも、不浄は払われる」という、よくわからない文句が記されている。

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風間サチコと登る『魔の山』

2月17日号で「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」を特集した東京都現代美術館では現在、地下2Fで「ライゾマティクス_マルティプレックス」、3Fで「マーク・マンダース ― マーク・マンダースの不在」と2本の大型企画展を開催中。さらに1F展示室では「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展」として風間サチコと下道基行、ふたりの受賞者による展覧会が開かれている(こちらは無料!)。今週のロードサイダーズではライゾマでもマンダースでもなく、大好きな版画家・風間サチコをがっつり紹介したい。 Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)とは2018年度に始まった新しい美術賞で、「中堅アーティストを対象に、受賞から2年にわたる継続的支援によって、更なる飛躍を促すことを目的に」して賞金や海外での活動支援、作品集の作成、東京都現代美術館での展覧会開催などをサポートするアワードだ。風間サチコと下道基行はその第1回である2019ー2021年度の受賞者で、すでに2020ー2022(藤井光、山城知佳子)、2021ー2023(志賀理江子、竹内公太)までが決まっている。

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病床童夢 ―― JIROX MEALSと今井次郎

美味しそうじゃない食事が、美味しそうに見えない容器に盛られている。 箸をつけたくないな~という気持ちのあらわれのように、ご飯におかずを載せて雪だるまみたいな顔をつくってみたり。バナナの皮を皿から伸ばして手足にしてみたり。 「食べ物で遊ぶんじゃありません!」と、いまどきのお母さんも子どもを叱るのだろうか。 そんなたわいもない「食べ物あそび」の写真が、実は末期癌の患者が入院中に出される食事を病床で撮影したものと知った瞬間、胸が締めつけられて目が離せなくなる。 今年2月の終わりに『JIROX MEALS』と題された小さな写真集が、自費出版でリリースされた。著者としてクレジットされている名前は今井次郎=JIROX。でも今井さんはもう9年前に亡くなっていて、夫人のかやさんと、自身のGallery覚(銀座)、移動展覧会「キャラバン隊」など展覧会の面で支えてきたギャラリスト御殿谷(みとのや)教子さんのふたりによって、『JIROX MEALS』は世に出ることになった。

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服はだれのものだったのか――「ファッション イン ジャパン 1945―2020 流行と社会」

当初2020年6月に東京六本木の国立新美術館でスタートする予定が、コロナ禍でちょうど1年延期、いま島根県益田市の島根県立石見(いわみ)美術館で開催中の「ファッション イン ジャパン 1945―2020 流行と社会」。「もんぺからサステナブルな近未来まで、戦後の日本ファッション史をたどる、世界初の大規模展!」というキャッチコピーが多少おおげさかと思いきや、会場に足を運んでみると「こんなのあったのか!」とか「あ~これ、これ!」とか、観るひとそれぞれの年齢・年代に応じてのファッション体験と人生体験がフツフツとこみ上げてきて、動けなくなる展示が多数。島根展は会場サイズの関係で東京展より点数が少ないそうだが、それでも2時間、3時間と経っているのに、脚の痛さで初めて気がついたりする。

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語り芸パースペクティブ ――意味の彼方にあるもの

もう60回以上も続いているDOMMUNE「スナック芸術丸」で、ユーロビート特集に次いでリスキーだなと思いながら配信したのが2016年の「浪曲DOMMUNE」。しかし終わってみれば予想をはるかに超える反響をいただき、伝統芸能への関心の高まりを実感したのだった。 あの番組で導き手となってくれたのが女流浪曲師・玉川奈々福。実はもともと筑摩書房の編集者で、ひょんなきっかけから三味線教室に通ううち、やや強引にスカウトされて浪曲を唸るほうにスカウトされ、いまや業界を背負って立つ若手(浪曲界では)のプレイヤー。しかも筑摩書房時代は僕の本を何冊も手がけてくれた担当編集者という間柄なのだった。

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映画ポスターは「終わったメディア」なのか

12月中旬に出た本書、映画の本ではあるが名監督でもスターでもなく「広告図案士」、つまりポスターや新聞広告のデザイナーという、業界人しか知ることのない人物の作品を集大成した大判の分厚い作品集で、定価が9000円! なのに初版がもう売り切れ、増刷がかかっているという・・・・・・近頃の出版界ではめったにない現象を巻き起こしている。 2020年にデザイナー生活60周年を迎えた檜垣紀六さんは、1960年代から90年代まで、僕らのだれもが見てきた洋画ポスターを手がけてきた。本書にはそのうち約600本のポスター、チラシ、題字(日本語タイトルロゴ)、新聞広告が収録されているが、そのいくつかを懐かしく思い出さないひとはいないだろう。

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art

虎よ逃げろ! ――大・タイガー立石展@千葉市美術館

スポーツ観戦や演劇はいいのに美術館はダメという不条理な百合子ブシに苦しむ東京のおとなり千葉県では、公立美術館も通常開館中。千葉市美術館では「大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師」が開催されている。英語のサブタイトルが「The Retrospective」とTheで強調されているように、日本のポップ・アートを振り返るときに欠かすことのできない、しかしその全貌がなかなかつかみにくいアーティストでもあったタイガー立石の、決定的な回顧展だ。グループ展などでいくつか作品を見る機会はよくあるけれど、デビューから遺作までこれほどまとまって活動を辿れることはめったになかったので、個人的にもすごく楽しみにしていた展覧会だった。

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art

読めそうで読めないけど読めそうな「レターズ」へ

渋谷PARCOとは交差点を挟んだ対面に位置する東京都渋谷公園通りギャラリーは、東京都現代美術館のサテライト施設として2020年2月にオープンしたアールブリュット/アウトサイダー・アートに特化した展示施設。本メルマガでは昨年7月8日号で「フィールド⇔ワーク展 日々のアトリエに生きている」、9月16日号で「満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」と、2つの展覧会を続けて紹介した。その公園通りギャラリーではただいま「レターズ ゆいほどける文字たち」を3月から開催中……のはずが東京都の緊急事態宣言により臨時休館中(涙)。現時点では5月31日までということになっているけれど、この先どうなることか。会期は6月6日までなのに。今週は再開への願いを込めて、アールブリュット/アウトサイダー・アートと文字の関わりに焦点を当てたこの展覧会を紹介してみたい。

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movie

タイムトンネルを抜けるとそこは昭和の映画館だった ――大阪ミナミの映画絵看板と絵師たち

「映画館はダメでパブリックビューイングはいいんか!」という怒りをそらすためでもなかろうが、緊急事態宣言下で臨時休館を強いられてきた大都市圏の映画館もようやく再開できそうでホッと一息、という絶好のタイミングで6月16日にリリースされる『昭和の映画絵看板 ~看板絵師たちのアートワーク~』。かつて大阪なんば千日前にひしめいていた映画館に掲げられていた絵看板の写真を集めた、映画ファンにはたまらない、手描きデザイン・ファンにもたまらない貴重な資料集である。

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8mmフィルムは銀河鉄道の線路だった――世田谷クロニクルと記憶の旅

「はな子」は吉祥寺の井の頭自然文化園にいた、もしかしたら日本でいちばん有名な(そして日本でいちばん長生きした)ゾウ。2016年に69歳(推定年齢)で死んだ彼女にまつわる記憶を、展覧会と一冊の本に封じ込めた「はな子のいる風景」を2018年04月18日配信号で紹介した。 ただのゾウの写真集ではなくて、はな子を見に動物園を訪れたひとびとから集められたはな子の記念写真や日記、写真アルバムに記されたメモなどを集めた、記憶の記録というユニークなプロジェクトを率いたのが大阪に拠点を置くAHA!(Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ)。「8ミリフィルム、写真、手紙といった、市井の人びとの記録。そんな「小さな記録」に潜む価値に着目したアーカイブづくり」に長く取り組んできた。そのAHA!による市井の記憶と記録のプロジェクト、「世田谷クロニクル 1936 - 83」がいま、リニューアルされたウェブサイト上で展開されている。

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art

BABU式 YES と NO

ロードサイダーズではもうおなじみ、北九州小倉を拠点に活動を続けるスケーター&グラフィティ・ライター&彫師&現代美術家であるBABU。東京では2017年新宿ビームスジャパン・Bギャラリーでの『BABU 展覧会 愛』から4年ぶりとなる個展『YES NO』が、渋谷PARCO内のギャラリー、OIL by 美術手帖で始まっている。オープニングパーティを兼ねた、先週6月17日のDOMMUNEでの特集をご覧になったかたもいらっしゃるだろうか。

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音の出ないアルバムから音楽が聞こえてくる ――syobon99さんの刺繍ジャケット・コレクション

Instagramのフィードを見ていたら、ずっと昔のニール・ヤングのアルバムを刺繍にした画像が出てきた。ずいぶん聴き込んで、それからすっかり忘れてしまったアルバムだけど、画像を見た瞬間に音が甦ってきた。でもその刺繍は写真のように精密で正確な再現ではなくて、レコードを聴きながら自由に糸を刺し進めていったように気楽な、当時の言葉でいえばレイドバックした気分が漂っている。70年代の、古びたジーンズの尻ポケットに貼ってあったら似合うような。 いったいどんなひとがこんな刺繍をつくったんだろう。気になってインスタの投稿主を辿ってみたら、「syobon99」さんというそのひとはどうやら日本人で、ビートルズにフランク・ザッパ、デヴィッド・ボウイ、リトルフィート……そんな洋楽アーティストはもちろん、あがた森魚からYMO、ムーンライダースに松任谷由実まで、ものすごく幅広いジャンルのアルバムを刺繍にしては、せっせとインスタにアップしているのだった。

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妖怪たちのいるところ――三次もののけミュージアム訪問記

広島市内から北東に向かって、クルマでも電車でも約1時間半。広島市と福山市を結べば三角形の頂点にあたる三次市。中国地方のほぼ真ん中にあり、江戸時代から浅野藩の城下町として栄えた三次を「みよし」と読めるひとがどれくらいいるだろうか。 日本全国、さまざまなかたちの町おこしプロジェクトがあるなか、三次市が目指したのが「もののけのまち」としての観光都市づくり。もののけ=妖怪である。 もともと三次には『稲生物怪録(いのうもののけろく)』と呼び習わされる、日本屈指の妖怪物語が伝わってきた。そのように豊かな歴史背景を持つ町に、日本屈指の妖怪コレクターである湯本豪一(ゆもと・こういち)さんの、30年以上をかけた約5千点におよぶ膨大なコレクションが寄贈されることになって、2019年に開館したばかりなのが湯本豪一記念 日本妖怪博物館、通称「三次もののけミュージアム」だ。

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いのくまさんとニューヨーク散歩

JR高松駅から予讃線で30分足らず、丸亀駅前広場の一角を占める丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。その大きさのわりに威圧感がないのは、谷口吉生の設計によるところも大きいだろうが、猪熊弦一郎というアーティストのキャラクターも反映している気がする。 アート好きのひとに人気が高い猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)ではいま、「猪熊弦一郎展 いのくまさんとニューヨーク散歩」と題された企画展を開催中。もともとMIMOCAは1991年、猪熊弦一郎から寄贈を受けた約2万点の作品をもとに開館したが、今回の「いのくまさんとニューヨーク散歩」は、猪熊弦一郎が1955年から73年まで20年間近くを過ごしたニューヨーク時代を、その時期に制作された作品だけでなく、散歩の合間に撮られたスナップ写真や8㎜映像、ギャラリー巡りで集めたフライヤーなどもあわせて見せることで、彼が暮らした60~70年代のニューヨークという場所、過ごした日々、歩いた時間……そこから醸し出される空気感のなかで、生まれた作品を新たな眼で見てみようという企画だ。

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はたよしことボーダレス・アートミュージアムNO-MA

京都駅から東海道山陽本線の新快速で40分足らず、城下町の風情が色濃く残る近江八幡のボーダレス・アートミュージアムNO-MAで「ボーダレスの証明 はたよしこという衝動」が開催中だ。 アウトサイダー・アート/アール・ブリュットと現代美術のシームレスな交感を展覧会というかたちで模索してきたNO-MAは、これまでメルマガでも何度か取り上げてきた。昭和初期の町屋をリノベーションしたNO-MAが開館したのは2004年、はたよしこさんはその開館当時から2019年まで、NO-MAのアートディレクターとして多くの展覧会を企画してきた。ひとりの絵本作家が障害者の創作活動と出会い、NO-MAというユニークなハコを舞台に提示してきた、アートにおける障害と健常とのボーダーを崩す試み。その30年以上にわたる歩みを振り返るのがこの展覧会だ。

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前川千帆展――カワイイの奥にあるなにか

今年5月19日号で「虎よ逃げろ! ――大・タイガー立石展」を紹介した千葉市美術館で、いま「平木コレクションによる 前川千帆展」が開催中だ。 僕は不勉強で前川千帆という名前すら知らなかったが、展覧会サイトの説明によれば「恩地孝四郎・平塚運一とともに「御三家」と称された、近代日本を代表する創作版画家」なのだそう。恩地孝四郎はもちろん好きでいたし、平塚運一は長野の須坂版画美術館・平塚運一美術館で観た、とりわけワシントンDCで暮らした30年以上の時期につくられたアメリカ時代の作品に魅了された。なのでフライヤーに載っている作品も可愛らしかったし、観ておこうかぐらいの軽い気持ちで展覧会に足を運んだら、予想外に充実した内容にびっくり。すぐに取材させていただくことにした。一部展示替えを含んだ前・後期で9月20日までの展覧会。こんな時期ではあるけれど、機会があればぜひ美術館でご覧いただきたい。

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ポコラート記念展――世界は偶然なのか、必然なのか

秋葉原から上野に向かう、地下鉄末広町駅そばのアーツ千代田3331でいま「ポコラート世界展 偶然と、必然と、」が開催されている。僕が中学生だったころはここが隣の学区の錬成中学校だったが、それが人口減少で廃校になったあと、いま東京における現代美術の拠点のひとつになっているのはちょっと感慨深くもある。 アーツ千代田3331が2010年にオープンした当初から続けられている企画が「ポコラート(POCORART)」。今年の「偶然と、必然と、」はその10回目の記念展として、世界22ヶ国の作家50名による作品240点余が集められた、これまでのポコラートとは少々おもむきの異なる展覧会になっている。 そもそもポコラートとは Place of “Core + Relation ART” の略で、その意味は「障がいの有無に関わらず人々が出会い、相互に影響し合う場」なのだそう。

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彼らはメキシコになにを見つけたのか ――「メヒコの衝撃」@市原湖畔美術館

房総半島のほぼ真ん中、巨大な人工湖である高滝湖を臨む丘にある市原湖畔美術館。東京都心からクルマで行けばアクアラインを経由して1時間ちょっとだが、電車だとなかなか大変。アクセス的には難易度高めだが、本メルマガでは2017年04月26日号「房総の三日月」で取り上げ、同じ2017年には「ラップ・ミュージアム」展というヒップホップをフィーチャーした展覧会を開催したり。都心の大きな公立美術館とはちょっと異なるスタンスの、柔軟な企画がいつも気になるミュージアムだ。 その市原湖畔美術館で現在開催中なのが「メヒコの衝撃」展。よくあるメキシコ現代美術展かと思ったら、サブタイトルに「メキシコ独立200周年 メキシコ体験は日本の根底を揺さぶる」というふたつのサブタイトルがついている。これはつまりメキシコを訪れ滞在した体験が、みずからの制作への大きな影響だったり転機となったりした、日本人アーティストたちを集めたグループ展なのだった。

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B全の銀河系――アングラ演劇傑作ポスター展@寺山修司記念館

珍日本紀行の取材で青森県三沢市の寺山修司記念館を初めて訪れたのは1997年だった。それから何度か展覧会を観に行ってはいたけれど、いま「ジャパン・アヴァンギャルド ―アングラ演劇傑作ポスター展―」を開催中と知って、どうしても観ておきたくなった。 ご存じのかたも多いと思うが、寺山修司記念館はポスターハリス・カンパニーの笹目浩之さんが副館長をつとめている。東京中のお店に演劇や映画のポスターを貼ってまわる、というあまりにピンポイントな仕事を専門とするポスターハリス・カンパニーを立ち上げたのが1987年のこと。94年からは現代演劇ポスターの収集・保存・公開プロジェクトを設立し、渋谷にギャラリーも開いている。道玄坂裏のラブホテル街にひっそり開いていたポスターハリス・ギャラリーは残念ながらいま休館中だが、2014年にはご近所のアツコバルーと共催で『ジャパン・アヴァンギャルド ―アングラ演劇傑作ポスター展』を開催。このときはポスターハリス・ギャラリーが天井桟敷、アツコバルーで状況劇場、黒テント、自由劇場、大駱駝艦などと分けて展示されたが、今回は記念館の企画展示エリアで100枚以上のポスターを一挙に展示。しかも当時のチラシやチケットなど関連資料も並べられ、小川原湖畔ののどかな環境に、そこだけ60年代アングラ演劇の異様なエネルギーが渦巻いていた。

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アメリカから里帰りした京都の「色」気

7月末に京都に出張したとき、ホテルのロビーで小早川秋聲展「旅する画家の鎮魂歌」のチラシを見つけた。あの、戦死した日本兵の顔を日の丸の旗で覆った特異な戦争画《國之楯》で知られる日本画家。会場の京都文化博物館はホテルのすぐそばだったので、東京に帰る前に寄っておこうと足を運んでみると、まさかの開催前(8月7日から)……。入場券売り場で呆然としていたら、「戦後京都の「色」はアメリカにあった!」という展覧会のポスターが目にとまった。サブタイトルには「カラー写真が描く<オキュパイド・ジャパン>とその後」とある。せっかくなので入場してみると、予想外に興味深い写真ばかり!  70年前に撮られた京都の街は、もちろんいまとはちがうけれど、けっこう一緒だなと思える場所もたくさんある。そしていまは(コロナ禍前は)インバウンド観光客であふれていた場所に、そのころはジープに乗った進駐軍の米兵たちが闊歩している。街と人間、さらには地元のひとびとと兵士たち。妙な違和感と、でも観光都市という特性なのか、異質な人間が街景に溶け込んでもいるようで、すごく興味深い。焼け野原の東京からやってきて、空襲による破壊をほぼまぬがれて戦争前そのままの景観にいきなり踏み入れた兵士たちの興奮、タイムトラベル観光気分まで伝わってくるようだ。

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Walls & Bridges 壁と橋の迷宮で

前回、国立新美術館での「ファッション イン ジャパン」展を紹介したニコニコ美術館から、「東京都美術館で開催中のイサム・ノグチと「Walls & Bridges」を特集するのでどうですか」とお誘いが来た。僕ごときがイサム・ノグチを語るなんて……とたじろぎ、「Walls & Bridges」のほうはあまり気にしてなかったし……とためらったら、「イサム・ノグチは冒頭ちょっとだけで、「Walls & Bridges」のほうをしっかりやりたいんですけど、都築さん気に入りそうな展覧会なので」と押されて承諾。8月21日に生配信された番組をご覧いただいたかたもいらっしゃるかも。コロナ禍で1年延期になったりして、期せずして両方のキュレーションを同時に手がけることになった学芸員の中原淳行さんに案内してもらう2時間半ほどのプログラムだったが、ほぼノーマークだった「Walls & Bridges」がすごくおもしろかったので、今週は当日の会話をなぞりながら展覧会を紹介させていただく。展覧会は10月9日まで開催中。ニコニコ美術館もまだアーカイブ視聴できるようになってます。

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ただそこにいるひとたち ――二本木里美の2冊の写真集

薬局を経営していた父親のほぼ唯一の趣味が書店巡りだったので、小学生のころから日曜日になると神保町の古書店街に連れていかれた。時には大通り裏のすずらん通りやさくら通りにあった映画館で戦争ものや怪獣ものを見て、靖国通りを走っていた都電に乗って帰る小学生時代を送り、中学生になると自分で通うようになって……そのころから覚えている古書店のひとつが小宮山書店だった。 むかしは文学や哲学の難しい本が並んでいた覚えがあるが、いつのまにかアートやデザイン、それにアンダーグラウンドなテイストが強くなっていった小宮山書店に、先日メルマガでも紹介した根本敬の「画業40周年記念展」を見に久しぶりに立ち寄ったときのこと。階段状になった店内の、根本くんのひとつ下のフロアで展示してあった二本木里美という写真家の、ゲイボーイたちを撮ったプリント群にぎゅっと胸を掴まれた。

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大阪に舞い降りたアメリカン・ドリーム

ヴィンテージ、ではなくて単なる中古の格安ステレオで音楽を楽しもうという連載「『ステレオ時代』の時代」を昨年連載してくれた澤村信さんから、「うち(ネコ・パブリッシング)から都築さんが好きそうなムックが出ます」と教えてくれたのが、『CLASSIC AMERICAN CARS OF 1960'S JAPAN アメリカ車の時代 1960年代・大阪』という長い題名のムック。1979年に創刊された老舗自動車雑誌『カー・マガジン』の別冊として、9月に発売になったばかりだ。しかしどうして澤村さんに、僕のアメ車好きを知られたのだろう!

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塔本シスコ、日常の楽園絵巻

9月4日から始まっているので、もう行かれたかたもいらっしゃるだろう、世田谷美術館で「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」が11月7日まで開催中だ。 塔本シスコをこのメルマガで取り上げたのは2013年10月02日号「百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業」で、熊本県荒尾市に住む101歳の現役アマチュア画家、江上さんを取材。そのとき荒尾に隣接する福岡県大牟田市と田川市で彼の小さな展覧会が開かれていて、ちょうど同じ時期に熊本市から南下した宇城市の不知火美術館で始まったのが塔本シスコ展。僕が塔本シスコの作品をまとまって見ることができた初めての機会だった。

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国ちゃんの「手紙」

先週の告知で京都ホホホ座ねどこでの出版記念展を紹介した松本国三の『手紙 松本国三』。存命・現役のアウトサイダー/アールブリュットの作家としては異例のボリュームとなる4冊組作品集だ。今週は国ちゃん(付き合いが長いのでそう呼ばせていただく)と制作のお話を書かせていただく。国ちゃんの創作については2003年にデザイン誌『IDEA』で掲載、2009年には『現代美術場外乱闘』(洋泉社刊)に収められたが、長く品切れのままなので……そのときに書いた文章も挟みながら、あらためて紹介してみたい。

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細江英公という怪物

ロードサイダーズにはもうおなじみ、山梨県の清里フォトアート・ミュージアムでは夏から「細江英公の写真:暗箱のなかの劇場」が開催中だ(12月5日まで)。戦後日本写真史のなかで、細江英公は重要な一章を占めるフォトグラファーであり、その膨大な作品群はいまもテーマごとに大小さまざまな展覧会が日本各地、また海外で開かれているが、今回は1960年代に取り組んだ、そして細江英公の名を世に知らしめたシリーズを横断的に、それも発表時(つまり約60年前!)のヴィンテージ・プリントで見せるという、細江さんとしてもかなり珍しい展覧会である。

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信濃の国の妖怪劇場

文科省の統計によると、全国には1064館の美術館があるそうだ(2015年調べ)。こんな仕事をしているからずいぶんいろんな美術館に行ってきたと思うけれど、それでも全体の1割にも届かないはず。人生の残り時間を考えると、あとどれくらい行けるのか……。そのなかでもっとも美術館の多い県は東京都(88館)ではなく、なんと長野県(110館)。さすが教育県といわれるだけあるが、今回訪れた山ノ内町立志賀高原ロマン美術館も、訪れるのは初めて。本メルマガでは2016年07月13日号「北国のシュールレアリスト――上原木呂2016展によせて」、2020年11月11日号「木呂とマメとBOROの一幕劇」で紹介した上原木呂さんの大規模な個展「上原木呂 妖怪画展 つくも神と百鬼夜行」を観覧に行ったのだった。

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死刑囚表現展 2021、誌上展覧会!

先月(10月20日号)紹介した「死刑囚表現展 2021」。これまでずっと毎年10月に開催される世界死刑廃止デー企画「響かせあおう死刑廃止の声」会場で、絵画や文章作品がロビー展示されてきた。しかし去年に続いて新型コロナ感染防止のために今年も応募作品の全点を展示することができず、かわりに11月5日から7日までの3日間、昨年と同じく中央区入船の松本治一郎記念会館で全作品展示イベントが開催された。 僕が行ったときもかなりの盛況だったけれど、3日間だけでは予定が合わず行けなかったひともたくさんいるだろう。これから日本各地で巡回展が開催される予定だが、会場の関係で全点が展示できるとはかぎらない。また図録もいまのところ予定がないということで、今週は主催の「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」にお願いし、一部をのぞいた全作者による作品を誌上公開させていただく。

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存在のこたえられない軽さ

東京でアートギャラリーめぐりをしているひとは、ここ数年徐々にギャラリーが東京の東側にシフトしていることに気がつくだろう。江東区冬木はもともとの木場エリアで、材木商の冬木屋から町名がつけられている。前は材木屋だったという天井の高い空間を持つギャラリーM16(いちろく)は、この夏にオープンしたばかりの新しい画廊。そこではいま木彫家・内堀麻美の個展「もの懐かしさ」が開かれている(11月28日まで)。

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あらゆる場所にいた和田誠

10月9日から始まっている初台・東京オペラシティアートギャラリーの「和田誠展」、もうご覧になったかたもいらっしゃるだろう。2019年10月に83歳で亡くなった和田誠の、これは初の大規模回顧展であり、東京のあと来年から熊本、新潟、北九州、愛知など各地への巡回がすでに予定されている。 この7月から10月までは和田誠と同時代に、正反対の作風でやはり圧倒的な影響力を持つグラフィック・デザイナー/イラストレーターだった横尾忠則の(画家としての)大回顧展「GENKYO横尾忠則」が東京都現代美術館で開催された。和田誠は1936年4月10日・大阪府大阪市生まれ、横尾忠則は同じ1936年の6月27日におとなりの兵庫県西脇市生まれ。2ヶ月違いの同年代であるふたりの展覧会が、期せずして同時期に開かれたことが、個人的にはすごく感慨深くもあった。ちなみに「GENKYO横尾忠則」は作品点数600点以上だったが、「和田誠展」のほうはなんと作品・資料あわせて約2,800点という……長時間滞在必至の大回顧展である。

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カセットテープ・スクラッチャー、大江戸テクニカ!

このところ何度か紹介している吉祥寺の怪しげなハードコアショップ「吉祥寺111(スリーワン)」でのイベント告知をつくっているとき、「大江戸テクニカ」というDJのことを教えてもらった(オーディオテクニカじゃなくて!)。カセットテープDJと聞いて、ああ最近あるよな~とか聞き流しそうになったけれど、「それが自作のプレイヤーを使って、カセットでスクラッチするんです!」と店主の佐々木景くんに言われて、すぐに紹介してもらうことにした。

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上野公園のエブリデイ・ライフ

今年9月15日号で紹介した「Walls & Bridges 壁と橋の迷宮で」の取材に行ったとき、「次は公募団体展の作家たちの企画展やります」と聞いて、すごく興味が湧いた。公募団体展……近現代の日本美術界を良くも悪くも象徴する独特のシステム。意識高い系の現代美術ファンは、団体という言葉を聞くだけで後ずさるかもしれず(そうでもない?)。上野公園の東京都美術館ではいま「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」を開催中。先月から始まっていて、もっと早く取材したかったのだが、ようやく紹介できてうれしい。

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トランス島綺譚 ――インドネシア・アンダーグラウンドの現在 01 (文、資料提供:金悠進、泉本俊介)

ロードサイダーズのSNSはFacebookページがメインで、Twitterが少し、Instagramはそんなに使ってないけれど、1年ぐらい前だったろうか、摩訶不思議な動画が流れてきて、一瞬でこころを掴まれてしまった。 いわゆるファウンドフッテージというか、ネットやテレビから適当に見つけたとおぼしき映像に、ハードコア・トランス系の音が乗っていて、ものすごくビザールで、ものすごく魅力的でもある。かっこよすぎて、見ていて苦しくなる。 どうもインドネシアからの書き込みらしいことはわかったけれど、Gabber Modus Operandiというユニット名の読み方さえわからず(GMO ガバル・モドゥス・オペランディ)、そこから辿った発信者らしいICAN HAREM(イチャン・ハレム)という人物も謎めいている。

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lifestyle

よし子さんのいた街 1  よし子さんのコメントレコード展と汚レコード・コレクション

去年10月末の3日間、東京都江東区東陽町のダウンタウンレコードで、いっぷう変わったレコード展が開かれた。「あなたの知らないよし子さんの世界 伝説のゲイバー『山路』よし子さんのコメントレコード展」と題したその展覧会に、誘ってくれるひとがいて観に行ったのがきっかけで、僕はこの2ヶ月あまり伝説のよし子さんの世界に取り憑かれてしまった。

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lifestyle

よし子さんのいた街 3 (文・写真提供:わこ店主・明石さんほか)

阿佐ヶ谷のバー「山路」とよし子さんをめぐる旅の最終回となる3回目。先週の島田十万さんの文でも紹介された、山路のすぐそばにあったカウンター居酒屋「わこ」を営みつつ、晩年のよし子さんをずっと、いちばんそばで見守り、亡くなってからの整理も引き受けた明石さんに、よし子さんとの日々、よし子さんがいなくなってからの日々を振り返っていただいた。 明石さんたちはよし子さんが亡くなったあと、2020年のゴールデンウイークに「山路お見送り」、2021年には「没後5年・山路よし子さんの思い出展」という2回の追悼イベントも開いている。会場で展示された、生前のよし子さんを偲ぶたくさんの資料も貸していただけたので、明石さんの回想記とともにお目にかける。 3週にわたる連載をさせていただいた関係者、協力者のみなさまと、天国で見てくれているかもしれないよし子さんにも深く感謝したい。よし子さん、どうもありがとう! あっちでも絶妙の選曲で、神様たちを踊り狂わせてますように。

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湯けむりの彼岸――大竹伸朗「熱景」

もう報道やSNSの投稿でご覧になったかたも多いだろうが、愛媛・道後温泉本館の保存修理工事現場をすっぽり覆う、大竹伸朗による巨大なテント絵(というのか)〈熱景 NETSU-KEI〉が去年12月にお披露目、なにも知らずに来た入浴客を驚かせた。 30メートルx30メートル、高さ20メートルというサイズは、ずいぶん遠くまで離れないと全容を写真に撮れないくらいの、まさに「景」。しかも2009年には直島にこれも建物まるごとの〈直島銭湯「I♥湯」〉をつくっているので、2つめのお風呂作品! 銭湯の看板絵を描くアーティストはたくさんいるが、お風呂まるごとを2つも手がけたアーティストは珍しいかも。

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おかんアート村の住人たち 1 嶋暎子さんのこと

おかげさまでオミクロンにも負けず、一部Twitter民の罵倒にも負けず、いまのところ開館を続けられている「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」。しかしこの先どうなるか予断を許さないので、できたら早めに足を運んでいただけるとうれしいです。 ご覧になったかたはおわかりだろうけど、会場は1千点以上の作品で埋め尽くされているので、10年以上の取材でめぐりあったおかんアーティストたち、ひとりひとりのパーソナリティにはほんの少ししか触れられなかった(それでも通常の展覧会に較べれば、はるかに多量のテキストが壁面を埋めているけれど)。なのでこれから少しずつ、特に印象深かったアーティストのひとたちを紹介していきたい。

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暗く冷たい世界で熱を帯びるウィルスと僕ら――アントワン・ダガタ「VIRUS」

今年の初めごろには「日本人は清潔好きだし、コロナもそろそろ収束か」なんて呑気な気分だったのが、いまや緊急事態宣言再発出の瀬戸際に脅える毎日。そんななかで、2020年に新型コロナウィルスによってロックダウンされたフランスで撮影されたアントワン・ダガタの「VIURS」が恵比寿のナディッフアパート3階・MEMギャラリーで開かれている。2020年から世界各地を巡回しているこのシリーズの、日本では初の展示である。

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おかんアート村の住人たち 3 森敏子さんのこと

東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中の「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」。厖大かつ珠玉のおかんアートが並ぶメインの展示室1のなかで、その悶死級のかわいさ、愛らしさでとりわけ人気を集めているコーナーのひとつが森敏子さんの陶芸作品群だ。 神戸市長田区の路地に面した家にお住まいの森敏子さんは、いま83歳。今回の展覧会の共同キュレーターであり、会場デザインも担当してくれた建築家であり下町レトロに首っ丈の会の隊長でもある山下香さんが、行きつけのマッサージ屋さんの券売機の上に飾ってある陶芸作品に魅了され、さっそく紹介してもらってお付き合いが始まったことから、展示に参加していただいたくことができた。

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おかんアート村の住人たち 4 系谷美千代さんのこと

神戸市兵庫区にお住まいの系谷美千代さん。家事と子育てをしながら(67歳で子ども4人、孫7人!)、ずっと習字の先生をしている。阪神淡路大震災でお宅が被災、小学校の体育館で避難生活をしていた経験から、いつか恩返しをしたいとずっと思っていたそう。 神戸のほかに地方にも習字を定期的に教えに行っていて、北陸で出会ったのが紙でつくる花。仲良しの生徒さんがお姉さんの家でお茶に誘ってくれたときに、こんな紙の花がたくさん飾ってあったという。

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「ドキュメントとしての表現」展を見て

少し前になるけれど、今年1月12日から16日までの5日間、埼玉県浦和市の埼玉会館で「ドキュメントとしての表現」という小さな展覧会が開かれた。埼玉会館の展覧会では本メルマガでおなじみの障害者支援施設・工房集が主催する大規模なグループ展「問いかけるアート」を2020年10月21日号で紹介したが、今回は南関東・甲信ブロック(東京都、千葉県、神奈川県、山梨県、埼玉県、長野県)で活動する障害者芸術支援センターと、長野県の信州ザワメキアート展2021実行委員会が協力して開催された合同企画展。埼玉、東京、長野、千葉の4都県に在住する9名の作品、約150点が展示されているが、その大半は障害者施設以外の場所で個人的な活動を続けている作家たちというところが、通常の障害者アート展とずいぶんちがう。

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柄に溺れてシンガポール・スタイル

このメルマガは週刊というせわしないペースなので、展覧会の紹介記事だったらなるべく会期の早めに取材して、読んでくれたひとが足を運んでもらえるようにこころがけている……けれど、取り上げたい展覧会すべてをそんなふうに回れるわけもないので、閉幕まぎわに駆け込み、というケースも少なくない。今週紹介するのは、残念ながら先月末で終わってしまった展覧会。最終日に急いで観に行った福岡市美術館の「シンガポール・スタイル1850-1950」だ。

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糸はエロス、それは愛! 吉元れい花のダイナマイトストリッパーズ降臨祭

向ヶ丘遊園駅からてくてく歩いて行くと20分ほどであらわれる川崎市の生田緑地。その丘をさらにてくてく登っていくと、川崎市岡本太郎美術館がある。 岡本太郎美術館では1997年から毎年「岡本太郎現代芸術賞」という公開コンペが開かれている。これまで本メルマガでは2014年の受賞者であるサエボーグ(2月26日号)、小松葉月(12月17日号)を紹介してきた。25回目となる今年の大賞(2021年度・TARO賞)を受賞したのは吉元れい花さんの《The thread is Eros, It’s love!》。芸術賞始まって以来、初めての刺繍作品の受賞である。

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桜の下の切腹天女

ロードサイダーズを立ち上げたばかりの2012年2月に、「烈伝・ニッポンの奇婦人たち」の第2回として、切腹パフォーマンス・アーティストの早乙女宏美さんを前後編2週にわたって紹介させてもらった(ちなみに第1回は山口湯田温泉『西の雅・常盤』の宮川高美女将)。 現在は札幌を拠点に活動中の早乙女さんから、久しぶりに連絡をいただいた。群馬県高崎市郊外に住み暮らす佐藤宗太郎さんというかたが自宅の庭で「園遊会」を開き、そこで切腹パフォーマンスをするので見に来ませんか、というお誘いだった。園遊会で切腹って……。

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モンド改め奥村門土・東京展開催!

ロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみ、福岡のモンド画伯。似顔絵から始まったイラストレーションにとどまらず映画デビューも果たし、もうミュージシャンのボギーさんの長男という説明が不要の活躍ぶりだ。 2003年生まれのモンドくんと出会ってから、もうすぐ10年になる。2013年10月02日号「天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険」で紹介したのが最初(ちなみにその号は同じ九州の101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄さんも紹介、ものすごい年齢差の記事が並んだ)。そのときモンドくんは10歳、小学4年生だったのが、いま17歳で高校を卒業したばかり。アーティストネームを「モンド」から本名の奥村門土にあらため、創作活動に専念する人生を送り始めたところだ。

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ヌキ本――苦痛と快楽の果てに

とりあえずこのチラシを見てほしい。「令和4年度 KAC主催 アート5人展」……あまりにシンプルで引っかかりゼロのへなちょこタイトル。これで「行かなきゃ!」と思うひとがどれくらいいるだろうか。しかもKAC(亀戸アートセンターの略)は、アートセンターという立派な名前とはウラハラの小さなギャラリー。最寄り駅の都営新宿線大島から徒歩12分、亀戸駅からだと徒歩20分という……。 「5人展」の5人とはドキドキクラブ、wimp、wu-tang、四本拓也、ヌキ本。このメンバー表を見て「行かなきゃ!」と興奮したひとが何人いるかわからいけど、僕は興奮しました! なぜなら久しぶりにドキドキクラブくんに会えるから。

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ふたたび妖怪たちのいるところ

中国地方のちょうど真ん中あたりに位置する広島県三次(みよし)市。江戸時代から浅野藩の城下町として栄えた三次が「もののけのまち」として町おこしをはかり、2019年に開館したのが湯本豪一記念 日本妖怪博物館、通称「三次もののけミュージアム」。日本屈指の妖怪コレクターである湯本豪一(ゆもと・こういち)さんの30年以上をかけた約5千点におよぶ膨大なコレクションをもとにした、もののけ=妖怪に特化したミュージアムである。 ロードサイダーズでは2021年7月14日号で「妖怪たちのいるところ」と題して、開催中だった企画展「幻獣ミイラ大博覧会―鬼から人魚まで―」を特集。コロナ禍が始まる前に訪れることができて幸運だった。そもそも2020年春に開催された「妖怪のかたち 魔像三十六体と百体の謎」で、展覧会タイトルにもある謎に包まれた木彫妖怪像の立像36体、座像100体、あわせて136体が一挙に展示されると聞いて、すごく興味を惹かれたのが始まり。ただ、ちょうどコロナ禍が始まったころで「妖怪見物旅行」できる時期ではなく断念したのだった。 そしてようやくコロナ禍が一段落しかけてきた現在、もののけミュージアムでは春の企画展「妖怪のかたち2 あつめて・くらべて・かんがえる」を開催中(6月7日まで)。

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クイーン・オブ・バッドアート降臨! 前編

つい先月、5月の連休の終わりごろ。世田谷区用賀の都立砧公園はオミクロン株も一段落という気分の老若男女で大賑わい、公園内の世田谷美術館も出版120周年を記念したピターラビット展で活気に溢れていた。その賑わいを横目に僕が向かったのは、閑散とした区民ギャラリーの一室。ここで5月3日から8日までのたった6日間、「女系家族 パート3」という小さな展覧会が開かれていたのだった。

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クイーン・オブ・バッドアート降臨! 後編

先週号「クイーン・オブ・バッドアート降臨! 前編」で紹介した新開のり子さん。お母さん、お姉さんとともに5月3日から8日まで世田谷美術館区民ギャラリーで開いたグループ展「女系家族 パート3」の様子を先週はお見せしたが、今週はいよいよ本編! 新開のり子さんのビザールな鉛筆ドローイング世界へとお連れする。 新開のり子は1972年東京都港区生まれ、今年50歳。長く暮らす世田谷区内のご自宅に伺い、お話を聞くことができた。

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盆栽という登山口に立って

旧知の写真家ノーバート・ショルナーがいまフランクフルトの応用美術館で「The Nature of Nature」という展覧会を開いている。いつもだったら現地で展示を見て記事をつくりたいけれど、まだ気軽にヨーロッパに行ける状況ではないし……と悩んでいた先月、ロンドンから鎖国明けの東京を訪れたノーバートに展覧会の写真を見せられ、少しでも早く紹介しなくては!と気持ちが焦った。 ノーバート・ショルナーはこのメルマガでも2012年07月18日号「サードライフにようこそ」、食品サンプルを美しくシュールな写真作品に仕立てた「食卓の虚実」(2017年05月17日号)など、何度か紹介してきた。

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book

探すのをやめたときに見つけたもの

今年1月22日(土)から 4月10日(日)まで渋谷公園通りギャラリーで開催された「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」。いま考えるとオミクロン株が猛威を振るうさなかに、よく全日程無事に開催できたものだと思うけれど(中止になった展覧会もたくさんあったし)、同時期に制作していた作品集がようやく完成。今月30日あたりから書店に並ぶはず(Amazonなどではすでに予約開始)! 書名は「Museum of Mom's Art 探すのをやめたときに見つかるもの」。あえて「おかんアート」という言葉を入れなかったのは、展覧会でプチ炎上したからとかではなくて(笑)、公園通りギャラリーでの展覧会とはまた別物の作品集として見てもらえたら、という思いも込めている。 おかんの辞書に断捨離はない! 来るものは拒まず、去るものも去らせない。とりあえず取っておけば、いつか役に立つ。そしてある日、おかんにひらめきの瞬間が訪れる――アレをああやったら、かわいいのできるやん! こうしておかんアートは生まれた(たぶん)。

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art

第8回・心のアート展を見て

体温を超えそうな猛暑に見舞われた東京で6月28日から7月3日までの6日間、池袋の東京芸術劇場内のギャラリーで恒例の「心のアート展」が開催された。先だって告知でもお知らせしたが、今年8回目になる「心のアート展」がスタートしたのが2009年。このメルマガでは2015年の第5回から毎回取材させてもらってきた。今回の第8回はもともと去年開催予定だったが、コロナ禍により1年延期を余儀なくされ、今年開催となった。

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movie

歌謡映画さえあればいい

日本映画といえばクロサワだのミゾグチだのが王道だろうが、僕がいちばん好きなのは昭和のいわゆる「歌謡映画」。ある歌謡曲がヒットすると、それにあわせて急いでつくられたB級娯楽映画のこと。ストーリーも脚本も撮影もぜんぶ適当、ただヒット曲に乗っかっただけの、映画として特筆すべき点ゼロの娯楽作品だ。うまく説明できないけれどそんな歌謡映画が昔からほんとうに大好きで、かつては平日の昼間のテレビで放映されていたのをこまめに録画したり、VHSやDVDを買い集めてきた。 6月の終わりに熊本市でトークイベントがあり、どこかに寄って帰りたいなと調べていたら、北九州の門司にある松永文庫という映画資料館で「歌謡映画資料展」と題された展示があり、うれしくなって寄り道してみることに。

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photography

どこにもない世界のうつゆみこ

ロードサイダーズにはおなじみ、中野区新井薬師前の写真ギャラリー(+カウンターバー)スタジオ35分でいま、うつ ゆみこ写真展『いかして ころして あたえて うばって』という奇妙な展覧会が開かれている。 うつさんは写真学校で講師を勤めたり、コマーシャルな撮影に関わったりしながら、自分の作品もつくりつづけていて、もう10数年にわたって個展、グループ展での発表、ZINEもたくさんリリースしてきた。今回の展示はそのタイトルが暗示するように生きもの(の死骸)をモチーフにした作品群。

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photography

紅子の色街探訪記

ノスタルジックな遊郭や赤線の残景に惹かれるひとは多いが、8月1日に荒木町のアートスナック番狂わせで始まったばかりの写真展「紅子の色街探訪記」は、ノスタルジーとしての色街風景を並べながら、そこに仄かなノイズのようなものが含まれているようで、「色街写真家」と名乗る紅子さんのことが気になった。 「紅子の色街探訪記」は1ヶ月の会期のうち、8月1日から16日までの前半が「現代に生きる色街」、17日からの後半が「遊郭・赤線・花街の跡地」と題した前後半二部構成の写真展。紅子さんはこれが初めての写真展であり、展示にあわせてつくられた2冊の作品集も、初出版物だという。

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music

うなじの匂い

ロードサイダーズにはもうおなじみ、福島県が誇る本宮映画劇場の秘蔵ピンク映画ポスター・コレクションをご開帳した「本宮映画劇場 ポスター番外地 ~野方闇市篇」@野方文化マーケット。5月25日号、6月15日号でも紹介したが、ポスターと共に興味深かったのが、6月11日に行われた「津軽のため息・哀愁の重ね着女うなじ嬢」によるポスター惹句朗読タイム。 漫画家お東陽片岡先生お墨付きの「お湿りヴォイス」で女の切なさ、痛み、情念を語ります… なんて書かれていて、なにがなんだかわからないけれど見逃す選択肢はない!というわけで駆けつけ、運良く味わえた「お湿りヴォイス」。しかし「哀愁の重ね着女うなじ」って、いったいどんなひとなんだろうと興味は募り、7月13日に西荻のスナックで開催された定員8人のライブ「うなじ&米内山尚人/背徳の中央線」に足を運び、後日ゆっくりお話を聞く機会も持つことができた。野方文化マーケットのイベントもそうだったけれど、ここが2022年の東京か!と目と耳を疑う場末の昭和感……時空を超えた「津軽のため息」をたっぷりご賞味あれ。

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photography

2022年の天野裕氏

今年になって二度、天野裕氏(あまの・ゆうじ)に会った。1月と6月、場所は東京の定宿である歌舞伎町東横インのロビー脇食堂エリア。小さなテーブルで新作の写真集を1時間ずつ、じっくり見せてもらった。 コロナ禍が始まって2年。「コロナでどう変わりましたか」というのはよく受ける質問で、僕自身は海外取材(とスナック取材)ができなくなったくらいでたいした変化も不便も感じなかった。でも「天野くん、どうしてるだろう」とは、ときどき気になっていた。天野くんはこの数年間、実は僕がいちばんすごいな、と思ってる写真家なのだ。

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立ち上がる石の群れに

吉祥寺の小さなマンションの1階に「111」という小さな店がある。このメルマガでも何度か紹介したグラフィックデザイナー佐々木景が営むショップ兼ギャラリー。景くんはアダルトDVDからハードコア・ミュージシャンのジャケットまで、なんでもハードな方面が大好物のデザイナーで、ショップもそんなテイストの書籍、音源、雑貨などがぎゅう詰め。その景くんから「こんどチンコ型の石の展覧会をやるんで、作家に会いに行きませんか」と誘われた。 久保田弘成(くぼた・ひろなり)というアーティストにはかすかに聞き覚えがあって、もともとはボロボロの自動車を巨大な回転台に装着して(縦方向に)ぐるぐる回すという、わけのわからない、しかしエネルギーだけは爆発的な作品をいろんな場所で披露して、僕もいちどだけ現場で見たことがあった。

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異性装の日本史

すでにSNSでも話題となり、気になっているひとも多いであろう展覧会が9月3日に渋谷区立松濤美術館で始まったばかりの「装いの力——異性装の日本史」。異性装という言葉は、女装する男性や男装する女性、つまり身にまとう衣服によって性別の壁を越えたときに立ち現れるちからを、神話の時代から現代まで美術史の面から通観しようという、きわめてユニークな展覧会だ。

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ウェルカム・トゥ・ザ・ゾンビランド

秋葉原駅地下から出発するつくばエクスプレスで約1時間。終点のつくば駅で降り立ち駅前の公園を抜けると、茨城県つくば美術館がある。美術館と銘打ってはいるがここは県営の貸しギャラリーで、広々とした会場の半分で日本画の展覧会、もう半分で「わたし/わたしたちのウェルビーイング」というアーティスト13名によるグループ展が、9月13日から19日までの1週間、開かれていた。行った!というひと、どれくらいいるだろうか。 僕がこの展覧会を知ったのは、2021年01月06日号「サバービア・ガーデニング ――前川光平「yard」を見て」で紹介した写真家・前川光平が参加作家に加わっていて、前作「yard」では人家の奇妙な庭や玄関先を撮っていたのが今回は「案山子」がテーマということで、いっそう興味を惹かれたからだった。

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シング・ア・シンプル・ソング ――嶋暎子の昨日・今日・明日

今年1月から4月まで開催された「ニッポン国おかんアート村」(@東京都渋谷公園通りギャラリー)での、新聞紙バッグとコラージュ作品展示が大きな話題となった嶋暎子。嶋さんと出会ったのは展覧会の構成がほぼ固まった10月末のことだった。その出会いによって展示の内容をすっかり書き換えることになった経緯は、2022年2月2日号「おかんアート村の住人たち 1 嶋暎子さんのこと」で詳しく紹介した。 嶋さんと出会えたのはTwitterを眺めていて、世田谷美術館分館・市民ギャラリーで2021年10月27日から31日まで5日間だけ開かれていた「紙の船 嶋暎子個展」を知ったから。「どんなもんだろうなあ」くらいの軽い気持ちで行ってみた展示に驚愕、運良く会場にいらしていた嶋さんともお会いできたのだった。

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『ドライブ・レコーダー』――あいち2022を観て

7月30日から始まっていた「STILL ALIVE 国際芸術祭あいち2022」、閉幕が10月10日に迫って、日帰りでいそいで行ってきた。名古屋市内だけでなく一宮、常滑などに散らばった展示を回ることはとてもできず、メイン会場となった名古屋・栄の愛知芸術文化センターしか観られなかったけれど、閉幕までに間に合えば観てほしい展示があったので、今週はそれを紹介したい。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン!

先週の編集後記でひっそりお知らせしたとおり、東京墨田区の花街・向島に「museum of roadside art 大道芸術館」が10月11日、公式オープンした。 永井荷風の『墨東綺譚』で知られる「墨東」は隅田川の東側を指す。川を挟んだ西側(都心側)が浅草で、言問橋(ことといばし)を渡った東側がスカイツリーのある押上、向島、京島などを含む墨東地域。江戸時代から花街として栄え、『鬼平犯科帳』などでもしばしば登場するので、名前だけは知ってるというひとも少なくないだろう。 向島にはいまでも9軒の料亭が営業中で、70数名の芸者衆もいる。東京の芸者と言えば新橋、赤坂などが知られるが、実はいま東京で現役の芸者のほぼ半数が向島芸者で、この人数は京都祇園甲部といい勝負。京都で舞妓と呼ばれる見習いは東京では半玉と呼ばれ、東京の六花街(赤坂・浅草・神楽坂・新橋・芳町・向島)のうち、数名ながら半玉がいるのは向島だけとか。

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駐車場の怪物たち

ロードサイダーズにはおなじみ上野・新御徒町mograg galleryで、ただいま塙将良「HANAWANDER BREATH OF THE WILD」が開催中。これまで塙さんの作品は何度か紹介してきたが、作品自体はもちろん、前々から聞いていた彼の制作スタイルがすごく気になっていたので――なにせ工場労働のあと駐車場の片隅にクルマを停め、車内で作品をつくっているという――この機会にじっくりお話をうかがうべく、定宿ならぬ定位置だという千葉某所のケーズデンキ駐車場に、鋭意作業中の塙さんを訪ねた。塙将良(はなわ・まさよし)は1981年茨城県ひたちなか市生まれ、41歳。最近では日本以外にフランスのアールブリュット/ロウブロウ・アート・シーンでも注目を集める作家である。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン! vol.3

東京墨田区の花街・向島に10月11日、公式オープンした「museum of roadside art 大道芸術館」。最終回となる第3回は、2階から3階に向かう階段踊り場のバッドアート展示、そして3階の鳥羽秘宝館再現フロアにお連れする。 その前にいわゆる「バッドアート」のなにがそんなに僕のこころを捉えたのか、まとめてみたのでご一読いただきたい。

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栗山豊とアンディ・ウォーホル

Yahoo!ニュースを見ていたら「価値わからない・なぜ5点も・本物に感動…県が3億円で購入、ウォーホル作品に波紋」という刺激的(笑)な見出しが目に入った。「鳥取県がポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルの木製の立体作品「ブリロの箱」5点を計約3億円で購入したことが波紋を広げている。2025年にオープンする県立美術館の集客の目玉として期待を寄せる一方、疑問の声も相次ぎ、県は急きょ住民説明会を開催する事態となった」(読売新聞10月27日より)。 記事によれば県は「都市部の美術館にないポップアートの名品を展示できれば、鳥取の存在感をアピールできる」として、2025年に倉吉市に新設する県立美術館向けに《ブリロの箱》を購入(1968年のオリジナル1点と死後の90年に制作された4点、計5点)。しかし9月の県議会では「日本人には全くなじみがない。米国にあってこそ意味がある」と批判があったほか、県教育委員からも「3億円を高いと感じる人がいる」「なぜ1点ではなく、5点必要なのか」といった不満が示された……のだそう。

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HEY! LE DESSIN 絵画とは素であり描であり 1

2年半待った。ようやく自主隔離もPCR検査もなくなって、まだ航空券は高額だけど我慢できず久しぶりの海外取材、いまパリにいる。日本からも死刑囚の絵画作品群が参加した(僕もテキストを書かせてもらった)、アルサンピエールで開催中の大規模グループ展「HEY! LE DESSIN」を見ておきたくて。 パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック……そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの西日暮里というか。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。もともとはマルシェ(市場)だった19世紀の建物を改装、素朴派の作品を集めたマックスフルニー素朴派美術館として1986年に開館した。1995年からはアウトサイダーアート/アールブリュット/ロウブロウアート専門の展示施設として毎年1~2本の企画展示を開催している。

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art

HEY! LE DESSIN 絵画とは素であり描であり 2

先週に続いてパリ・モンマルトルの丘のふもとにあるアウトサイダーアート/アールブリュット/ロウブロウアート専門の展示施設、アルサンピエールで開催中の「HEY! LE DESSIN」から、2階展示室のアーティストたちを紹介する。先週も書いたとおり、約60名/組のアーティストが参加した「HEY! LE DESSIN」には、もちろんアウトサイダーアートあり、戦地の兵士たちの作品もあれば、タトゥーやグラフィティの下絵、原画もあり。「描くこと」の多様さと奥深さ、同時に技術的な修練も難解なコンセプトも飛び越える直感的な表現の可能性も強く感じさせる。「ひとから教わること」と「自分でつくること」のあいだにある決定的な差を、こうした野心的な展覧会があらためて僕らに突きつけてくれるのだ。

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ポップアートとしての玉井力三

すでに終わってしまった展覧会を紹介するのは心苦しいが、11月15日まで東京・千代田区日比谷図書文化館で開催されていた「学年誌100年と玉井力三――描かれた昭和の子ども」は、一般メディアからSNSまでずいぶん取り上げられたので、気になったひと、観に行った!というひともたくさんいるだろう。僕も最終日の閉館30分前!に駆け込み観賞できたので、観に行けなかったひとたちのためにその内容と感想をお伝えしたい。

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art

首都高を走るアート

2017年の末だから、いまからちょうど5年前になる。品川区大崎駅前の大崎ニューシティにある「O(オー)美術館」で『開通55周年記念・芸術作品に見る首都高展』(2017年12月16~20日)という、会期たった5日間の風変わりな展覧会が開かれて、その会場で佐々真(さっさ・まこと)さんという風変わりなコレクターに出会った。展覧会と佐々さんのコレクションは2018年02月28日号 収録「アーティストたちの首都高」にまとめたが、あれから5年、同じO美術館でふたたび佐々さんのコレクションを披露する「開通60周年記念 芸術作品に見る首都高展」が開かれることになった!

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fashion

スカジャンとはなんだったのか

すでに話題になっている横須賀美術館の「PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展」。「スカジャン」は横須賀のジャンパーだからスカジャンなので、開館15周年を記念して開催された本展はまさしく横須賀ならではの好企画だ。ちなみに展覧会タイトルの英語表記は「PRIDE OF YOKOSUKA Exhibition of Souvenir jacket」。スカジャンは日本土産の「スーベニア・ジャケット」として世界に広まっていったのだった。 リリースに記されているテーラー東洋は、戦後にスーベニア・ジャケットなど衣料品を米軍施設に納入していた「港商商会」を前身に、現在に至るまで半世紀以上スーベニア・ジャケットを作り続けていて、この展覧会ではテーラー東洋が所蔵する貴重なヴィンテージ・スカジャン約140点が一堂に展示されている。

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夢は細部に宿る――「藤野一友と岡上淑子」展を見て

福岡市美術館で開催中の「藤野一友と岡上淑子」展が気になっているかたも多いだろう。 1928年、高知市生まれの岡上淑子は主に1950年から1956(昭和31)年にかけてのわずか7年間に洋雑誌を切り抜き貼り合わせたコラージュ作品を140点ほどつくりだし、長く忘れられたあと40年後の1996年に「再発見」され、いまや回顧展や作品集が目白押しのアーティスト。いっぽうの藤野一友は1928年東京生まれ。1950年代からシュールな幻想絵画を描き続けたが1980年、51歳で死去。ふたりは同年に生まれ、1957年に結婚した夫婦でもあった。「藤野一友と岡上淑子」展は、このふたりの作品を同時に展示する並列個展であり、ふたりの業績を通して当時のクリエイティブなエネルギーを感じることもできる、初の機会でもある。

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photography

TOKYO HEAT WAVE ――鈴木信彦と渋谷の20年間

2012年にロードサイダーズ・ウィークリーを始めて以来、たくさんの無名のアーティストを紹介してきたが、この11年間の出会いでもっとも印象深かった写真家のひとりが鈴木信彦。最初は創刊した年の2012年、10月17日号「センター街のロードムービー」で特集し、そのあと2017年、新宿ゴールデン街naguneにおける個展でも紹介した。 鈴木さんは2006年にオーダーによるフォトブックで部数50ほどの作品集を刊行しているが、2022年11月、初めて一般書籍としての作品集「TOKYO HEAT WAVE」を発表。刊行記念として1月9日からゴールデン街naguneと、刊行元である新宿1丁目・蒼穹舎ギャラリーの2カ所で写真展を開催する(写真好きが集まるゴールデン街のnaguneは朝鮮語で「さすらいびと、流れ者、たびびと」の意味、今年20周年を迎える)。

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合田佐和子が遺してくれたもの

今年も見ておきたい展覧会がたくさんあり、その多くを見逃してきた。いま高知県立美術館で開催中の「合田佐和子展 帰る途もつもりもない」は11月の初めからスタートしていて、気になりながら行けないでいたが、1月15日の閉幕を前になんとか間に合い、こうして紹介できてほっとするばかり。 合田佐和子という名前に「お!」と反応するのは中年以上のひとがほとんどかもしれない。僕が社会に出た1970年代から80年代にかけて、合田さんはアート/イラストレーション界のスター的な存在でもあった。当時の合田さんは唐十郎の状況劇場や寺山修司の天井桟敷、それに商業ポスターの仕事の最盛期だったので、僕が最初に知ったのは売れっ子イラストレーターとしての合田佐和子だった。でも、そのころはアーティストよりもイラストレーターのほうが時代の先端にいると思われていたので、いまのイラストレーターという肩書きとはちょっと違うニュアンスというか、キラキラの存在感があった。

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travel

南の島の愛の王国

今年は久しぶりのタイで正月を過ごすことができた。メルマガでは先週号から、11月に行ったパリのミュージアム紀行を始めたばかりだけれど、まだ数回は続く予定だし、タイでは2カ所ほど久しぶりにビザールな観光スポットを訪れることができたので、まずはそっちを先にご案内しようかと!

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極楽ってこんなに派手なの…… アユタヤのウルトラデコラティブ寺院参拝記

バンコクから北に約80キロ。アユタヤは1350年から1767年まで417年間にわたって、アユタヤ王朝の都として栄えてきた古都。壮大な遺跡群が並ぶ歴史公園はユネスコ世界遺産にも登録されている。東京から箱根ぐらいの距離なので、バスやタクシー・チャーター、列車、チャオプラヤ川を遡るクルーズなどさまざまな交通手段があり、日帰り観光で訪れたひとも多いだろう。16世紀初めから西洋諸国やアジアの国々から商人たちが交易で訪れ、日本人商人も最盛期には1000~1500人が日本人町で生活。その統領格が山田長政だった。

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travel

メリーゴーランドから見えるパリ

ふと思い立ってすぐ行けるミュージアムもあれば、ずっと行きたいのに開館日時のタイミングが合わずに行けないままのところがあり、ミュージアムにも相性というものがあるんだなあと時々思う。パリ中心部から少し離れた12区のベルシーにあるミュゼ・デ・ザール・フォラン(Musée des Arts Forains)は、昔から行きたかったミュージアムのひとつであり、今回ようやく訪問がかなった。なにしろ開館が基本的に水、土、日のみで(11月末から12月いっぱいは水曜のみ)、それも1時間半のツアーを予約が必要。勝手な時間に行ってもダメで、3週間前から受け付ける予約もけっこう早く定員になるし、というハードル高いミュージアムなのだ。

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昭和が見た夢

梅田大阪駅からすぐなのに大阪屈指の下町感というか、庶民的なエネルギーあふれる天神橋筋商店街。全長2.6km、地下鉄2区間分の距離に600もの商店が軒を連ねる、日本一長いアーケード商店街である天神橋筋商店街が大好きというひとはたくさんいるだろう(僕もそのひとり)。『珍日本超老伝』で取り上げた食堂・宇宙家族も天神橋筋商店街を含む広大な繁華街・天満(てんま)の一角、天五中崎通商店街にあった。 出張では梅田周辺のビジネスホテルに泊まることが多いので、歩いても行ける天満はずっとなじみ深い場所だったが、これだけ通っていながら商店街の端の一端、阪急・天神橋筋六丁目駅と直結している「大阪市立住まいのミュージアム(愛称・大阪くらしの今昔館)」のことはまったく知らないでいた。「住まい」をテーマにした日本初の専門博物館として2001年に開館、もう20年以上経つというのに。

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捨てられなかった本のこと 01 A Wonderful Time

去年春、30数年ぶりに引っ越して、この機会に身軽になろうと一念発起。いろんなものを整理したなかで、本はたぶんダンボール箱200箱以上を業者さんなどに引き取ってもらった。もしかしたらいまごろ、そのなかのどれかを古書店で買ってくれたひとがいるかもと思うと楽しいが、それだけ処分しても新居に設置した壁一面の本棚からすでにあふれる状態。日常どうしても必要という本なんて一冊もないのに、冷蔵庫の奥に入れたままの調味料みたいに「とりあえずこれはもう少し置いておこう」という、捨てられなかった本が何百冊もあり、「捨てられないTシャツ」ではないけれど、個人的に「捨てられなかった本」のことを毎回一冊ずつ紹介したいと引越直後に思い立った。ずいぶん時間が経ってしまったけれど、これから毎週、というのは無理かもだが、なるべく頻繁に更新しながら、迷ったあげく処分できなかった本のことを書いていきたい。その一冊目はこれ、『A Wonderful time』という大判の写真集。実は僕がいちばん大切にしている写真集のひとつだ。

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マルセイユ・グラフィティ散歩

先月から「狩猟自然博物館」「移動遊園地博物館」と巡ってきたパリ・ミュージアム紀行。今週はちょっと遠足して南仏マルセイユに移動、街まるごとが美術館みたいなグラフィティ/ストリートアート散歩をしてみたい。 元タバコ工場を使った巨大な複合文化施設ラ・フリッシュで開催された『MANGARO』展を、2014年11月12日号「ヘタウマの現在形」で特集したマルセイユは、TGVでパリから約3時間。南フランス最大の都市でありパリ、リヨンに次いでフランス第3位の規模。紀元前600年に生まれたフランス最古の都市であり、地中海最大の貿易港でもあり、「フレンチ・コネクション2」や「タクシー」など多くの映画の舞台になってきたし、サッカー・ファンにとってはパリ・サンジェルマンと優勝を争う強豪アリンピック・マルセイユでも知られているだろう。

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漁師町とタイワニーズ・キャバレー ――沈昭良写真展「續行」

台湾通いの再開に羅東を選んだのは、羅東文化工場という複合文化施設でいま、沈昭良(シェン・ジャオリャン)の写真展「續行=Continuance Journey」が開かれているから。沈昭良は台湾を代表するドキュメンタリー・フォトグラファー。ロードサイダーズでは2012年5月23日号での写真集『STAGE』の書評にはじまり、2014年5月21日号「移動祝祭車」など、彼が長年にわたって記録してきた「ステージカー」シリーズを中心に何度も紹介してきた。2021年11月17日号では連載「Freestyle China 即興中華」で、吉井忍さんによるステージカー研究者への長文インタビューも掲載している。昨年12月29日に始まった展覧会は、長さ114メートルに及ぶ中空のスカイギャラリーを使って、半分をステージカーのシリーズ「STAGE」、もう半分を羅東近くの南方澳(ナンファンアオ)漁港を撮影した「映像・南方澳」にあてて、1995年から2021年まで30年間近くに及ぶドキュメンタリーの仕事を紹介している。

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fashion

祝祭の景色

国内出張でいちばんよく行く場所のひとつが神戸だ。三宮駅からJR三宮駅神戸線で4駅の住吉駅で六甲ライナーに乗って10分足らずの六甲アイランドには、ロードサイダーズでおなじみの神戸ファッション美術館がある。 神戸はいまから1973年に「神戸ファッション都市宣言」を発表。それから半世紀を経た2021年には「神戸らしいファッション文化を振興する条例」を制定。その目的は「市、事業者及び市民が共に、神戸らしいファッションを振興することにより、これを次世代に引き継いでいくこと」だそうで、「神戸らしいファッション」と言われても大半のひとにはピンと来ないと思うが、たしかに神戸にはファッショナブルなひとが多い気もする。

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地底の闇、地上の光 ― 趙根在写真展

埼玉県東松山市、のどかな風景が広がる都幾川のほとりに建つ丸木美術館。正式名称を「原爆の図丸木美術館」というように、画家の丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻が共同制作した『原爆の図』シリーズを常設展示する美術館である。1967年の開館からすでに開館56年目、いまも反戦・反原発など社会性を強く打ち出した企画展を開いている。アクセスがいい場所ではないけれど、その不便さがまた孤高の立ち位置を象徴しているようでもある。 ロードサイダーズでは2019年05月08日号「サーカス博覧会」、2020年05月20日号「砂守勝巳写真展 黙示する風景」など折に触れて紹介してきた。その丸木美術館ではいま、「趙根在写真展 地底の闇、地上の光 ― 炭鉱、朝鮮人、ハンセン病 ―」を開催中。これも丸木美術館ならではの企画展だろう。

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レジスタンスとしての祝祭 ――ニューオリンズのブラック・インディアンズ

去年11月に久しぶりのパリを訪れ、地下鉄駅のポスターを眺めていたら、ケ・ブランリで「Black Indians de La Nouvelle Orléans」(ニューオリンズのブラック・インディアンズ)という展覧会が開催中だった。ご承知のとおりエッフェル塔近くに2006年に会館したケ・ブランリは世界屈指の民族学博物館であり、原始美術(プリミティブ・アート)の美術館でもある。 ニューオリンズといえばマルディグラ。リオのカーニバルなどと並ぶ大イベントだ。マルディグラとは「太った火曜日」という意味だそうだが、カトリック教徒にとって重要な、飲食を慎む約40日間の四旬節の直前に行われる最後の宴がマルディグラ。四旬節が明けるとキリスト復活を祝う復活祭(イースター)が待っている。イースターはキリストが復活した日曜日と決まっているので、そこから40日(日曜を除く)遡ると火曜日になるので「太った火曜日」というわけ。ニューオリンズでは今年も2月21日の火曜日に2023年度のマルディグラが開催されたそうで、リオと同じくいちどは行ってみたいもの・・・・・・。ちなみに「カーニバル」という言葉自体も、もとはラテン語の「カルネ(肉)+バル(去る)」、つまり肉よさらば!という意味だ。

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優雅な作品が最高の復讐である ――「甲斐荘楠音の全貌」展@京都国立近代美術館

春うらら、桜満開の週末。京都に行くには最悪のタイミングでありながら、いそいそと朝の新幹線に乗り込んだのは、4月9日で終わってしまう京都国立近代美術館の開館60周年記念「甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性」を観ておきたかったから。この展覧会、実は7月1日から東京ステーションギャラリーに巡回するが、京都で生まれて京都で亡くなった、その画風も生きざまも陰影に満ちた生粋の京都人だった甲斐荘楠音(かいのしょう ただおと)は、やっぱり京都の地で観たかった。

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林田嶺一のポップ・ワールド@NO-MA

先週号で紹介した「甲斐荘楠音の全貌」展を京都国立近代美術館で取材した翌日、おとなり滋賀県の近江八幡・ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで「林田嶺一のポップ・ワールド」展を観た。 林田嶺一(はやしだ・れいいち)は1933年、当時の満州国生まれ。去年(2022)7月に88歳で死去している。20代のころから趣味で油絵を描いていたが、2001年になってキリンアートアワードで優秀賞を68歳で受賞。それからおもにアウトサイダー・アート/アール・ブリュット関連のグループ展などでの出展が増えていった。僕が初めて林田さんの作品に出会ったのは同じNO-MAで2006年に開催されたグループ展「快走老人録~老ヒテマスマス過激ニナル~」でのこと。以来、いくつかの展覧会で数点ずつ作品は見てきたが、これだけまとまった個展の開催は生前も没後も初めてのはずだ。

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捨てられなかった本のこと 07  銀座を彩る女たち

銀座のクラブ。踊るのではなくて、いい匂いのお姉さんと飲むほうのクラブ。これまでほとんど飲みに行く機会も資金もなかったし、これからもないだろう。でも銀座のクラブのことを聞きかじるのは大好き・・・・・・情報源は映画や漫画の『女帝』とかに限られてるが。なので銀座に関する本があるとつい買ってしまう。その数冊がいまも手元にあるので、これから数回にわたって紹介したい。 『銀座を彩る女たち』はA4サイズ、ハードカバーの豪華本。英語タイトルが「GINZA NIGHT CLUB GUIDE 116」とあって、こちらのほうがわかりやすい。

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仁川漫遊記1 高麗人参と秘宝館の島へ!

ようやくコロナが下火になって気軽に海外に行けるようになったから・・・・・・というのはもはや言い訳だったりするが、2月の台湾に続いて3月は韓国に行ってきた。ソウルでも釜山でもない、どこか地味な地方都市に行きたいなあと考えるうち、そういえば仁川(インチョン)はどうだろうと思いついた。ソウルに行くたびに到着するのが主に仁川国際空港だけど、いつもはまっすぐソウルに向かうだけ。東京と成田のような関係? たまには仁川市街に数日間、宿を取ってぶらぶらしてみようと決めた。仁川空港からソウル市街までは直通列車で1時間足らず。わざわざ仁川に泊まる酔狂な観光客は少ないだろうが(実際、仁川空港から仁川市街まではソウルと同じくらい時間がかかる)、意外なおもしろスポットがいくつも見つかったので、これから数回にわたって紹介していきたい。その第1回は漢江の河口にあって海を隔てて北朝鮮と向き合う江華島〔カンファド)の「世界春画博物館」から!

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ラブホテルの現在進行形

1970年のカップルが回転ベッドの部屋で感じたドキドキワクワク感を、2023年のカップルはどんなラブホのどんな部屋で味わってるんだろうと前から気になって、ラブホ街を通るたびに部屋紹介のパネルをちらちら見たりしていた。もしかしたら2050年には「令和レトロ~」なんて言われるかもしれないデザインの現在進行形を、今週は紹介する! SARAは関東圏を中心にラブホテルとビジネスホテル21軒を運営するグループだ。ラブホテルではゴージャスなSARA GRANDEにSARA、バリや沖縄などのリゾートホテルをテーマにしたバニラリゾートと3つのラインを擁し、今回は都心部にあるSARA GRANDE五反田とSARA錦糸町の2軒を見せていただいた。

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大竹伸朗展@愛媛県美術館!

2月5日までの東京国立近代美術館に続いて、5月3日から松山の愛媛県美術館で大竹伸朗展が始まった。 愛媛県美術館は東京国立近代美術館よりも展示スペースが広く天井も高いので、同じ展覧会の巡回でも印象がずいぶんちがう。愛媛展では東京展で展示されたおよそ500点の全作品に加えて、本メルマガ2022年1月26日号「湯けむりの彼岸――大竹伸朗「熱景」」でも紹介した道後温泉の巨大テント膜、それにホームグラウンドである宇和島の学習交流センター「パフィオうわじま」ホールにおさめられた巨大な緞帳――松山と宇和島で手がけた大作ふたつの原画などが展示されている。これは愛媛展のみの展示であるうえに、道後温泉もパフィオうわじまの緞帳も展覧会と一緒に現物を観ることができるので、このふたつのボーナストラックのためだけにでも愛媛展を訪れる価値はあるかと。

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仁川漫遊記 4 旧日本人街を歩く。

先週は仁川のチャイナタウンを紹介した。公式に認められた韓国唯一のチャイナタウンではあるが、広さはそれほどでもない。そのチャイナタウンの東隣に残されているのが「仁川旧日本人街」。太平洋戦争時には約1万人の日本人が居住していたという。チャイナタウンと旧日本人街の一帯はいま「開港場近代歴史文化タウン」と名づけられ、1世紀以上前の商店、民家などの伝統的建築物が整備、再現されて、歴史散策コースになっている。

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山陰の記憶のとびら

ロードサイダーズ・ウィークリ−では2012年9月12日号「鳥取の店構え」で池本さんの記事を掲載して以来、写真展などの機会に何度か紹介させてもらってきた。鳥取市を訪れるたびにお会いするようになって、そのうち池本さんはロードサイダーズの記事をまとめたZINEのようなものまでつくってくれた。 その池本さんがいま入江泰吉記念 奈良市写真美術館で写真展「記憶のとびら」を開催中で、展覧会にあわせて最新作品集となる『On Display』が出版された。手元にその一冊があるが、なにかとコスト削減で世知辛い写真集が多いなか、異常なまでの手間暇と制作費もかけた力作なので、ここで紹介させていただきたい。

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追悼 おきあがり赤ちゃん

おきあがり赤ちゃんが亡くなったというツイートを見た、と友人から早朝に連絡があった。急いで探すと、white heat(@KatayamaS)さんというかたの書き込みに、「「おきあがり赤ちゃん」として一部を震撼させていた高山吉朗さんが、ご自宅で逝去されていたことがGW明けにわかりました」とあった。おきあがりさんの携帯に連絡しても留守電の応答がなく、こころが揺れていたところ、先週末にwhite heatさんが続報でご家族からの情報を上げてくださっていた。「死体検案書によると推定5/6に発作性心疾患発症の疑いと。5日のライブに現れず連絡もつかないとの主催者さんの心配を受け電話するも応答無、旧友間で連絡とりあい警察呼んで発見」されたとのこと。

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秘宝館のまぼろしを求めて

「鬼畜系」「電波系」という言葉の生みの親だった異端のライター、村崎百郎が遺した資料・コレクションを展示する「村崎百郎館」が完成したのにあわせて、まぼろし博覧会を最初にロードサイダーズで紹介したのは2014年07月03日号「ゴミの果てへの旅――村崎百郎館を訪ねて」。それからもうずいぶん長いお付き合いになる。 2011年の開館以来珍スポット・ファンにはすでにおなじみと、最近ではNHKの人気シリーズ『ドキュメント72時間』でも新たなファンを増やしているまぼろし博覧会。もともとは『伊豆グリーンパーク』という熱帯植物園で、2001年ごろに閉館、放置されていたのを、出版社データハウスの総帥・鵜野義嗣が買い取って、コレクションを展示する場としてオープンさせた巨大施設だ。

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追悼・水原和美さん

『独居老人スタイル』に登場してくれた、僕にとっての「鳥取のママ」である水原和美さんが、今月9日に逝去されたというお知らせをもらった。ここ数年寝たきりだったけれど、あいかわらず意気軒昂でハイライトをプカプカ吹かしていた。葬儀もラスタのお客さんが担当で、出棺の曲はボブ・マーリーだったとか。最後まで水原さんらしい去り際だった。

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中園孔二のソウルメイト

ロードサイダーズでは2021年7月21日号「いのくまさんとニューヨーク散歩」で訪れた丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、いま「中園孔二 ソウルメイト」展が開催中だ。すでにさまざまなリポートがネットに上がっているので、ご覧になったかたもいらっしゃるだろう。 中園孔二(こうじ 本名・晃二)は1989年生まれ。2012年に東京藝術大学を卒業し、その翌年「中園孔二展」(小山登美夫ギャラリー・東京)で作家デビュー。そしていまからちょうど8年前の2015年7月、香川の海で消息不明となり他界、25年の短い生涯だった。

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中華街を行ったり来たり  01 チャイナタウンという、もうひとつのバンコク

今年5月、コロナ禍が明けて初めてのバンコクに行ってきた。滞在は2週間。それだけあったらふだんは何都市か回っているところだが、今回はバンコク、それもチャイナタウンだけにへばりついて、連日40度近い猛暑のなかをひたすら歩きまわってきた。 現在のバンコク観光の中心はサイアムからスクンビットにかけての東側エリア。でもチープなお土産ショッピングに屋台飯、フカヒレなど高級中華料理を手ごろな値段で楽しみに、西側のチャイナタウンを訪れたひともたくさんいるだろう。

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中華街を行ったり来たり  02 タイムマシンにおねがい

バンコクの観光客がいちどは訪れるチャイナタウン。メインストリートのヤワラート・ロードができたのが1892年なので、まだ130年ほどの歴史しかないのに東南アジア最大級に成長したチャイナタウン。ショッピングやグルメに熱中するひとがこれだけ大勢いて、でも街のあちこちが再開発に揺れ、伝統的なライフスタイルが消えつつあることには目を向けてもらえないチャイナタウンをめぐるシリーズ。2回目となる今週は「そもそもバンコクのチャイナタウンはどうしてできたのか」、その歴史をおさらいしてみたい。

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中華街を行ったり来たり  03 サムヨート駅からオンアン運河あたり

ロードサイダーズ・ウィークリーを始めた2012年、消えゆくバンコクらしいバンコクを巡り歩く「マイ・フェバリット・オールド・バンコク」という連続記事を掲載した。もともとはそのさらに6年前、バンコク週報という日本語週刊新聞に半年ほど連載した企画を再構成したもので、その冒頭にこんなことを書いた――

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中華街を行ったり来たり  04 チャオプラヤー川べり散歩

先週はバンコク中華街の北端近いサムヨート駅からオンアン運河あたりを行ったり来たりした。今週はチャイナタウンのメインストリートであるヤワラート・ロードの南側、チャオプラヤー川ほとりのソンワット・ロードから、新しい観光スポットとして注目を集めているタラートノーイを行ったり来たりしてみる。

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日々の泡のなかで ――岸キエコの絵と手紙

西荻(西荻窪)に「ニヒル牛(ぎゅう)」というアートギャラリー雑貨店がある。たまのパーカッショニストとしてよく知られた石川浩司さんがプロデュースするニヒル牛は、2000年に開店してもう20年以上、高円寺とも吉祥寺とも異なる西荻カルチャーの一角を担ってきた。 もともと小さなニヒル牛の店内には200個以上の、木や廃材でつくった箱やスペースがびっしりで、さらにぎゅうぎゅうの空間。そのひとつずつの箱を参加作家が月極めで借りて、思い思いの作品や商品を並べている、蜂の巣みたいなひと箱展の集合体だ。 そのひとつを借りて展示販売を続けているのが帯広在住の岸キエコ。去年、ファンから教えられたという大竹伸朗くんに「おもしろい作家がいるよ」と言われて、西荻に見に行ったのがキエコさんを知るきっかけだった。

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『ロック自身』のロックな半生記

ラグビー・ファンにはおなじみの花園ラグビー場に隣接する東大阪市民美術センターで、「視覚の迷宮 ヒトとイヌとの美術館」という風変わりな企画展が今年4月末から6月まで開かれていた。ロードサイダーズ読者のかたから教えていただいたのだが、そのかたから「京都でもう20年くらいつくってる『ロック自身』というフリーペーパーをご存じですか」と言われ、本人が集めてきたバックナンバーを東大阪まで持参してくれた。 あまりに手作り感満載の風合いにまず痺れ、読んでみると新旧のロックと一緒になじみの定食屋(王将とか)の熱い記事も、すべて勢い溢れた手書き文字で綴られて、ニンマリせずにいられない。企画・編集・制作・印刷(コピーだけど)・配布まですべてひとりでやっているという編集長の星直樹さんは、調べてみるといま京都を引き払って故郷の帯広に住んでいるという。さっそく連絡を取って、先週号で紹介した岸キエコさんと同じ日の夕方、仕事帰りの星さんと帯広のコメダ珈琲でお会いした。

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並行世界の歩き方

「並行世界の歩き方 上土橋勇樹と戸谷誠」という奇妙なタイトルの展覧会が滋賀・近江八幡ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催中だ。メルマガではすでにおなじみのNO-MAはとても興味深い展覧会に、とても奇妙なタイトルをつけることが多い気がする。今回の「平行世界」が「地球」のもじりであるかどうかはともかく、上土橋勇樹と戸谷誠という、まったく交わらない独自の世界観を表現するふたりの作家を、SFで言うパラレルワールドのような広がりへの2通りの導き手として紹介してくれる貴重なチャンスというか、マルコビッチの2つの穴みたいな展覧会だ。

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蛭子能収「最後の展覧会」

すでにテレビ、新聞からネットニュースまで驚くほど広く紹介されているのでご存じだろう、根本敬 presents 蛭子能収「最後の展覧会」が、表参道のAKIO NAGASAWAで開催中だ。認知症を公言している蛭子能収の、これがほんとうに最後の展覧会になるかどうかは本人を含めてわからないだろうが、久しぶりに絵筆を取りキャンバスに向き合った新作群は、往年の毒にあふれたシャープな図像とはかけ離れているし、教えられなければこれが蛭子さんの絵とはだれもわからないはずだ。

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遠い日のリアリティ ――上田義彦「いつでも夢を」

どう書いたらいいだろう、と迷っているうちに時間が経ってしまった。今年7月末から8月中旬まで代官山ヒルサイドテラス・ヒルサイドフォーラムで開催された上田義彦展「いつでも夢を」を見て、いろんな想いに浸ったひとがたくさんいただろう。会場を訪れる機会が持てなくても、同時に発売された分厚い写真集を手に取って記憶の扉がひらく興奮を味わったひとがいたはずだ。この展覧会と写真集は上田義彦が手がけたサントリーウーロン茶の広告写真を中心に、撮影時のスナップ写真を加えて編まれたもの。それは1990年から2011年までの約20年間にわたって続けられた、広告写真家としての上田義彦の最良の仕事のひとつであるし、この時代の日本の広告史において、もっとも輝かしいシリーズでもあったろう。

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電子写真集『わたしたちがいたところ』完成!

2016年にリリースしたvol.1『秘宝館』からvol.6『BED SIDE MUSIC ―めくるめくお色気レコジャケ宇宙』までPDFフォーマットで自主制作してきたROADSIDE LIBRARY。しばらくお休みしていましたが、ようやく新作ができました! 『天野裕氏写真集 わたしたちがいたところ』。ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

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白木谷国際現代美術館を訪ねて

8月に高知・四万十の「太陽の眼」でトークがあった翌日、どこかに寄っていきたいな~と考えたときに思い出したのが「白木谷国際現代美術館」だった。前に太陽の眼の店主さんから「ここ、オススメですよ!」と教えてもらっていて、うまく日程が合わずに行けなかった白木谷国際現代美術館。そうとうの現代美術ファンでも「そんなとこあったっけ?」と初耳のひとが多いだろうが、その名のとおり高知市中心部からクルマで30分ほど(南国市の後免駅からなら20分足らず)、おとなり南国市の山中・白木谷にある私設の個人美術館である。

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大道芸術館、1周年記念大増設報告!

先週末は3年ぶりになるロードサイダーズ・オフ会も開催できた向島・大道芸術館。昨年10月のオープンからちょうど1周年というタイミングで、先週は2日間かけて30点以上の作品を追加設置した。もともとかなりの圧縮展示だったが、日展やドンキホーテを見習って!とにかく空いてる壁面はすべて埋めたい!という決意で大量の作品を倉庫から持ち込み、設営スタッフたちのがんばりでそのすべてを展示することができた。 オフ会参加者のみなさまにはもうご覧いただけたが、今週は大道芸術館1周年で大幅増の(展示替えではなく!)作品展示空間にお連れしたい。これからリストをつくってプリント、開館時に制作した図録に付録として差し込む予定なので、機会があったらぜひ現場で見てほしいが、まずはこちらで予習していただけたら。

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もうひとつのウズベキスタン 1

8月の終わりから9月にかけて2週間ほど、ウズベキスタンに行ってきた。初めての中央アジア旅行。ソウルに何度も通ううちに、東大門近くの光熈洞という通りにウズベキスタン料理店や商店、旅行会社が並んでいるのを知って、どうして?と思ったのがきっかけだった。 調べてみると日本とウズベキスタンのあいだにはウズベキスタン航空が成田と首都タシケントを結ぶ直行便を運行しているが、週に2便ほどしか飛んでいない。でもソウルとタシケントは大韓航空やアシアナが毎日便を出している。東京からなら羽田から仁川空港を経由してタシケントに向かうほうが簡単だし、運賃も安い。

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もうひとつのウズベキスタン 2  団地という小宇宙

先週はウズベキスタン紀行の初回としてタシケントに残る旧ソ連時代の建築を巡った。その最初にお見せしたホテル・ウズベキスタンがあるティムール広場を取り巻く一角にある、こちらも印象的な建築がウズベキスタン国立歴史博物館(STATE MUSEUM OF HISTORY OF UZBEKISTAN)。開館は1970年。イスラム風の幾何学装飾が全面に施され、モダンでありつつどこかエキゾチックなニュアンスが漂うデザインだ。

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俺たちのブックフェア PABF開催!

今年も東京アートブックフェアが近づいてきました。楽しみだけど、あんなに混んでるとちょっと・・・・・・と思ってるひともいますよねえ。出展料も高額だし、抽選だし!もちろんロードサイダーズ・ウィークリーは参加しません(笑)。 2019年7月にPABFという小さなブックフェアを自前で開催したのを、覚えていらっしゃるでしょうか。東京アートブックフェア(TABF)の出展料金が高額すぎて応募を諦めたひと、応募したけれど落選してしまったひとが周囲にずいぶんいることがわかって、ブックフェア会期中の7月14、15日の2日間、会場の東京現代美術館近くのイベントスペースを借りて、ちっちゃな手づくりブックフェアを開いてみようかと思い立ったのでした。

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俺たちのブックフェア PABF出展者情報!

お伝えしてきたように、今週末の25、26日PABF=プアマンズ・アートブックフェアを開催します! 同日開催の東京アートブックフェアと較べてみれば、吹けば飛ぶよな弱小イベントですが、しかし!こういう手づくりブックフェアがいろんな場所で、いろんな時期にたくさん立ち上がるほうが、巨大フェアに集約されるより健全なのかも・・・・・・と信じているので、よかったら遊びに来ていただきたいし、同じようなフェアをやりたいな~と思ってる人たちの参考にしてもらえたら、それもうれしいです!

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ベジタリアン・フェスティバル参戦記

僕がプーケットを初めて訪れたのが2007年のこと。そのころ夢中になっていたタイの田舎の地獄寺めぐりの最中だった。プーケットと橋でつながる本土側のパンガーにあるワット・タムターパン(Wat Tham Ta Pan)に行ってみたかったのがひとつ。そしてもうひとつの目的がプーケット・タウン全域を会場に開催される世界のマニアに知られた奇祭中の奇祭、ベジタリアン・フェスティバルを体験したかったからだった。 ベジタリアン・フェスティバル=菜食主義者の祭という語感とは正反対の、頬や唇に針や串やいろんなものをぶっ刺して炎天下を行進したり、真っ赤に燃える炭の上を走り抜けたり、中華包丁のような刃物でできたハシゴを登ったり下りたり・・・・・・というハードコアきわまりないフェスティバルである。そこで取材できた記事は『HELL 地獄の歩き方』(洋泉社刊 2010年)に掲載できたので、読んでくれたひともいるだろうか。

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日曜の制作学

ロードサイダーズでは久しぶりに取り上げる広島県福山市・鞆の津ミュージアムで展覧会「日曜の制作学」が開催中だ。始まったのが8月20日、終わりが12月30日というギリギリの紹介になってしまい申し訳ないが、どうしても記事にしておきたかったのは、1)渋谷の「ニッポン国おかんアート村」展で来場者を震撼させた驚異のコラージュ作家・嶋暎子さん(今月81歳に!)の、新作1点を含む大型作品7点が勢揃い展示されているから 2)ロードサイダーズではおなじみ、最近では「門土くんのお父さん」としても知られる福岡のボギーさんの、お母さんである奥村隆子さんのめくるめく手芸ワールドが初披露されているから。嶋さんについては、本メルマガの読者にはもはや説明の必要がないだろうし、ボギーさんのお母さんの手芸ワールドは、以前にボギーさんが投稿した手編みのセーターの話がSNSですごくバズったので、ご存じのかたもいらっしゃるはず。実はそのときすぐにボギーさんに寄稿してもらおうと思ったのだが、残念ながら諸事情で実現しなかったので、個人的にも今回の展示がすごく楽しみだった。

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いにしえのプーケット黄金時代にタイムスリップ! ――コーヒーショップの奥に潜む驚愕のプライベート・コレクション

ベジタリアン・フェスティバルから南タイ料理まで紹介してきたプーケット島シリーズ。最終回の今週は、ベジフェスの舞台となったオールドタウン中心部にある私設博物館「タボーン・ミュージアム」にお連れする。 タウンの目抜き通りであるラッサダー・ロード(Ratsada Road)沿いのタボーン・ミュージアム(Thavorn Museum)はもともと、プーケットで初めての5つ星ホテルとして1961年に開業したタボーン・ホテルの1階部分を使って、ホテルのさまざまなメモラビリアや4代にわたるオーナー家のコレクションを展示した、タイムトンネルのような場所。

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ダメだと言われても描き続けますから――102歳の水墨画家・高野加一さん訪問記

「沖縄ですごい画家と出会った!」と友人が興奮したメッセージを送ってきた。しかもそのひとは彼と同じ東京都葛飾区在住で、帰ってさっそくアトリエを訪ねていろいろ見せてもらったので、こんど一緒に行こう!という。ふーん、どんなひと?と、いちおう聞いてみたら「102歳の現役水墨画家!」と言われて一気に興味が沸騰した。 高野加一さんは1921(大正10)年10月10日、新潟県長岡市生まれ。太平洋戦争中は中国北部の軍事工場で働き、終戦後に葛飾区で自動車整備工場を立ち上げた。65歳で定年、と後進に道を譲って趣味で水墨画を始め、2017年に日展に初入選。21年には100歳で2度目の日展入選。

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ギョウザとアートで満腹体験

僕的札幌二大名所のひとつ「大漁居酒屋てっちゃん」がコロナ禍の2020年4月に閉店したのはショックで(もうひとつがレトロスペース坂会館)、ニュースを聞いてすぐの4月15日号で特集「てっちゃんの記憶」を配信した。店を閉めたあとのてっちゃんは趣味の絵を描いたりジムに通ったり、通算45年間におよんだ居酒屋営業の疲れを癒やしていたようだだが、1990年代に大竹伸朗くんと僕をてっちゃんに連れていってくれたアーティスト上遠野敏さんが「てっちゃんが餃子屋を始めました!」という、うれしいニュースを1年ほど前に伝えてくれた。オープンから1年ほども経ってしまったが、先日ようやく初訪問をかなえられたので、さっそく報告させていただきたい。

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ロンドン・コーリング ――INAGAKIが描く都市景観と生きものたち

ときたま外国から作品や書籍について問い合わせをもらうことがあって、かつてはそれがFacebookだったのが、いまはほとんどInstagramだ。こちらもインスタをボーッと見ていて、思わぬ発見に出会うことが増えてきた。 いまから1年半ほど前、インスタの画像や動画ですごくおもしろいストリートアートを描いている若者を見つけて、そのセンスの良さに唸った。イーストロンドンのショアディッチやブリックレーン界隈のストリートが多くて、ネットで探してみるとロンドン在住。Inagakyという名前はもしかしたら「稲垣」?日本人かも?と思っていたら、ちょうど同じころに、ロードサイダーズで寄稿してくれているロンドン在住のアツコ・バルーさんも彼をインスタで見つけていた。

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food & drink

知ってるつもりの和食を教わり直す――国立科学博物館の和食展

昨秋に実施されたクラウドファンディングで目標1億円のところ、約5万7000人から9億円以上が集まったことで話題になった上野の国立科学博物館。僕も含め、大好きなひとがたくさんいるだろう。その科博で2020年に開催される予定だったのが新型コロナウイルスの影響で中止となり、あらためていま開催されているのが特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」。10月末から始まっていて、すでに多くの報道やSNSの書き込みがあるし、もう行ったというひともずいぶんいるはず。展覧会は今月25日まで、そのあと1年半以上かけて全国各地を巡回するそうだが、やはり上野で見ておかないと!というわけでなんとか閉幕前に駆け込み観賞してきた。

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ルガール 山崎俊生と心象の世界

京都御所の東側・河原町通りの荒神口にある展示空間「art space co-jin」は、きょうと障害者文化芸術推進機構の活動拠点として2016年に稼動を始めたアールブリュットに特化した展示スペース。ロードサイダーズでは2021年に4名の作家によるグループ展「ゆびさきのこい」を紹介した。そのco-jinで開催中の展覧会が「ルガール|山崎俊生と心象の世界」。京都市内の病院に保管されてきた精神疾患の患者たちによる膨大な作品を開陳する、小規模ながら貴重な鑑賞機会だ。

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市川信也《仮面の告白》

先月(2月)3日から11日まで京都の下立売通智恵光院にある、民家を改装したギャラリー・ヘプタゴンで「壁をのぞむ眼差し」という写真展が開かれていた。「障害の有無を超えた表現者たちによる写真展」とサブタイトルがつけられたこの展覧会は、障害者自身や障害者に寄り添う活動を続けている表現者たち5人によるグループ展。そこで出会ったのが《仮面の告白》と題された市川信也によるモノクローム・プリントのシリーズだった。 夜店で売っているようなおもちゃの仮面をつけて、静かにカメラの前にたたずむオトナの男女たち。彼らは市川さんが医師として勤めていた精神科病院の長期入院患者たちだ。

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館長!これどうするんですか!?

すごく奇妙な展覧会を観た。目黒区祐天寺のアクセサリーミュージアムで開催中の「館長!これどうするんですか!?」。チラシには「所蔵品から私立美術館のこれからを考える」と副題が添えられているが、そこに考えが及ぶひとがどれほどいることか。難解な展覧会名は特に現代美術でよくあるけれど、これだけフランク(笑)なタイトルには滅多に・・・・・・。 アクセサリーミュージアムは2015年に『華やかな女豹たちの国』として「キャリアウーマンの愛した服~80’s パワーモード」展を取り上げていて、それはバブル時代のイケイケ・ファッションを特集した、しかも展示品はおもに館長の私物という楽しい展覧会だったが、今回はさらに! プライベート・ミュージアムならではの、プライベートの開陳がそのまま展示に直結している。

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街にたばこ屋さんがあったころ

「たばこと塩の博物館」が2013年まで渋谷公園通りにあったころは、ほかではなかなか観られない企画展にときどき通っていた。ちなみにその跡地にはジャニーズ事務所関連の店舗・オフィスビルが建ち、ジャニ系のポップアップショップや、上階にはNHKも店子で入っている・・・・・・。博物館のほうは墨田区横川、といってもピンと来ないひとが多いだろうが、スカイツリーの押上駅や本所吾妻橋駅から徒歩10分ちょっと、錦糸町駅からだと徒歩20分・・・・・・という微妙な立地でなかなか足が向かなかったのだが、2月から「たばこ屋大百科 ―あの店頭とその向こう側」という興味深そうな展示があって、行ってみることにした。いちばんのお目当ては、おかんアートの源流とも言うべきたばこの空き箱ペーパークラフトが出ているという重要情報を耳にしたから!

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「人間の住んでいる島」@丸木美術館

米軍の暴挙への抵抗運動の先頭に立ち、当事者による証言として写真と文章を発表し続けたのが阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)だった。1901年、本部町生まれの阿波根は成人後に伊江島に渡り結婚。その後キューバ、ペルーに移民したあと伊江島に帰り、一生を抵抗運動に捧げて2002年、101歳の天寿を全うしている。その阿波根昌鴻が遺した貴重な写真記録を紹介する「阿波根昌鴻 写真と抵抗、そして島の人々」が、いま埼玉県東松山市の原爆の図 丸木美術館で開催中だ。

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サエボーグとラバードッグ

先日はビヨンセ&ジェイZ夫妻御来館というニュースが一部美術業界を震撼させた東京都現代美術館。先週末から「ホー・ツーニェン エージェントのA」がメインの企画展として始まったばかりだが、3階の展示室ではTCAA(Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024)の第4回受賞記念展として、サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」の2人展を開催中(こちらは観覧無料)。ちなみにTCAAとは東京都とトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)が2018年から実施している、中堅アーティストを対象とした現代美術の賞。各回とも受賞者は2組で、複数年にわたる支援の最終年に東京都現代美術館で受賞記念展を開催している。

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命みつめて2@にしぴりかの美術館

お知らせが遅くなってしまったが、という書き出しが最近多くて申し訳ないけれど、今年1月初めにスタートした宮城県の「にしぴりかの美術館」で開催中の死刑囚による絵画展「命みつめて2」がいよいよ5月6日までになった。「2」と名がついているのは、2016年に開催された「命みつめて」展の2回目だからで、1回目の様子は2016年12月7日号「死刑囚の絵展」で紹介している。 ロードサイダーズで死刑囚の表現を最初に紹介したのが、2012年に広島市郊外のカフェ・テアトル・アピエルトで開催された小さな展覧会。それから今年で12年、死刑廃止運動を続ける「FORUM 90」が主催する毎年恒例の死刑囚表現展や、さまざまな機会にこの特異な表現のありようをできるかぎり詳しく紹介してきた。

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空想ピンク映画の自撮りスター

「マキエマキの空想ピンク映画ポスター展6」が先週の6日間、渋谷のギャラリー・ルデコで開催された(4/223~28)。もう6回目になるとは・・・・・・と感慨を抱きつつ展示に向かったファンが、ロードサイダーズ諸氏にもいらっしゃったかと思う。 マキエマキを初めて紹介したのが2016年2月10日号「自撮りのおんな」。それから8年のあいだに、自撮りされたマキエさんをずいぶん見てきた。ロードサイダーズ・ウィークリーでは何度も取り上げてきたし、NHKで番組がつくられるほど世間での認知度も急上昇してきた。ちなみに2016年にはTwitterのフォロワー数が1500人くらいだったのが、現在は約5万人。インスタのフォロワー数も3.8万人である。そんなマキエさんの、ポスター展としてはコロナ禍を挟んで今回が3年ぶりになるという展示を見ての感想を、見逃したかたのための誌上展とあわせてお読みいただきたい。

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21世紀の浪漫主義者

ゴールデン街を抜けて日清食品本社(かつて地下にパワーステーションがあったビル)に向かう道沿いにある新宿眼科画廊。ロードサイダーズでもずいぶん、ここで開かれた若手作家の展覧会を取り上げてきた。サブカルチャーという言葉ではくくりたくないが、日本でいちばん猥雑でエネルギッシュな歌舞伎町という街に、もっとも共振しているギャラリー(と演劇空間)であることはたしか。ここでデビューしたアーティストも、ここでしかやりたくなかったり、やれないアーティストもたくさんいるはず。 5月31日、ここでまたひとりの写真家が初個展を開く。堀江由莉(ほりえ・ゆり)、展覧会名は「浪漫(ROMAN)」。写真展というより昔懐かしい『カミオン』や『トラックボーイ』の表紙みたいなギラギラ・ド派手なビジュアルに、毛筆フォントの「浪漫」、その脇には「デコトラ、成人式、刺青、祭事、歌舞伎町、夜遊び、街並み……」と展覧会の内容を示すキーワードが並んでいて、ロードサイダーズ諸君ならこれだけで彼女のテイストが察せられるだろう。

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「世界」を身にまとった越路吹雪

連日のようにテレビ、新聞、ネットニュースなどで取り上げられている早稲田大学演劇博物館の「越路吹雪衣装展」。もうご覧になったかたもいらっしゃるだろう、担当者が「これだけ入場者の多い展覧会はあまり記憶にありません」というほど、会場は賑わっている。 今年は越路吹雪の生誕100周年。没後、終生のパートナーだった音楽家・内藤法美さんからゆかりの品々が演劇博物館に寄贈され、1982年の「特別展・越路吹雪を偲ぶ」を皮切りにこれまで何度か展覧会が開かれてきたが、今回は2009年以来、15年ぶりとなる越路吹雪展だそう。演劇博物館には伝説の「ロングリサイタル」などで着用されたオートクチュール・ドレスが56着も収蔵されていて(今回はそのうち11着を展示、後期は展示替えであらたな11着が並ぶ)、会場は「あ~懐かしい!」と声を上げる越路吹雪のオールドファンと、ノートを開いてドレスのスケッチに励む服飾デザイン系の学生たちがなごやかに混在していた。

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lifestyle

母の舞台と娘の舞台  ストリッパー2代のハダカ人生劇場! 後編

獣姦ショーで一世を風靡した浜みゆきを母に、有賀美雪が生まれたのは1974年9月19日。母が32歳のときに生まれた娘だった。 いまで言うシングルマザーだった浜みゆきは熱海で芸者をしながら子育てを始めたが、やはり生活が苦しく34歳でストリッパーに転身。娘・美雪が2歳のころ猿ヶ京温泉の劇場でデビューを飾る。いまも昔もストリップは基本的に10日公演。日本各地の劇場から劇場へと流れていく生活が始まった。 2歳になったころから、8歳で老神温泉でストリップ劇場の経営者に落ち着くまでの約6年間、有賀さんは保育園も小学校もほぼ行かずに、母について巡るストリップ劇場の楽屋で育った。

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photography

死体のある風景と「火サスごっこ」

すでに完売だったのをご本人のXアカウントに連絡して送っていただいた『レトロホテルへようこそ』は、「さかもツインねね」という不思議な名前の作者による小さな写真集だが、これも女性によるラブホ・コレクション。でも、さかもツインねねさんの写真はほかのどんな昭和ラブホ写真ともちがっていて、それは画面のなかに死体・・・・・・ではないけれど、死体に擬態した本人が横たわっていて、それは彼女が長くつづける「火サスごっこ」活動のコレクションなのだった。

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photography

国破れてしぶとい日常があった ――横浜都市発展記念館の戦後横浜写真アーカイブズ

横浜市中心部、神奈川県庁と横浜スタジアムがある横浜公園に挟まれた、歴史的建築物が並ぶエリア。昭和4(1929)年に横浜中央電話局として建てられた茶色い大きな建物がある。かつてはここでたくさんの女性電話交換手が、手作業で横浜の電話をつないでいた場所だ。2003年にこの建物内に横浜都市発展記念館と横浜ユーラシア文化館という、ふたつの博物館が誕生。あいにく去年から空調設備の更新で休館中だが今年7月20日に再開館とのこと。 閉館中ではあるが、横浜都市発展記念館の公式サイトではさまざまな収蔵品を見ることができる。

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travel

韓国江原道オン・ザ・ロード 1 チョンジョン彫刻公園

先月中旬、5泊6日の韓国旅行に行ってきた。だいたい半年にいちどぐらいのペースで韓国には行っているが、済州島では経験済みだけど本土では初めて、金浦空港でレンタカーを借りてソウルとは反対側の東海岸エリア、北朝鮮と国境を接する江原道(カンウォンド)を巡ってみた。金浦空港→江陸(カンヌン)→三陟(サムチョク)、そして金浦空港に戻る途中のソウルの郊外みたいな水原(スウォン)、最後にレンタカーを返しつつ空港向かいのホテルに泊まって帰国。

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fashion

EGO TRIPPIN’ 80年代ヒップホップ・ファッションとダッパー・ダンのこと

先週、こんな予告記事を書いた。読んで、福島市に足を運んでくれたひとがどれくらいいたろうか―― いまから10年半前になる2013年11月13日号「下品な装いが最高の復讐である――会津若松のオールドスクール・ヒップホップ・コレクション」で紹介した会津若松のDJ、ILLLLLLLLLLLUSS(イルマスカトラス)氏が収集してきた1980~90年代の勃興期ヒップホップ・ファッション。いまのようにアメリカのヒップホップがウルトラメジャーになる以前の、古き良きラッパーたちのスピリットを体現した装いに、たまらない懐かしさを覚えると同時に、東京でも大阪でもなく会津若松に(失礼)!こんな貴重なコレクションが隠されていたのかと驚愕したのだった。そのイルマスカトラス氏による久しぶりのコレクション展が、福島市のOOMACHI GALLERYで開催中。7月13日から21日までという短い会期だが、どうしても見ておきたくて新幹線に飛び乗った。

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design

『アンアン』『ポパイ』のデザイン 新谷雅弘の仕事・展

東西に細長い島根県の東端、おとなり鳥取の米子・安来市と中海を挟んで向かい合う松江市は、山陰地方最大の都市。しじみで有名な宍道(しんじ)湖のほとりに建つ島根県立美術館ではいま「『アンアン』『ポパイ』のデザイン 新谷雅弘の仕事」展が開催中だ。 デザイン好きのひとに新谷雅弘という名前がどれくらい知られているか、よくわからない。でも『アンアン』から『ポパイ』『ブルータス』『オリーブ』に至るマガジンハウス全盛時代の雑誌を、師匠にあたる堀内誠一とともにアートディレクター/デザイナーとして立ち上げてきたひとであり、個人的にも20歳で創刊間もない『ポパイ』でアルバイトとして働き始めたときから『ブルータス』を卒業するまで10年間にわたってお世話になったひとなので、この展覧会を見過ごすわけにはいかない。

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book

『TOKYO STYLE』と『ゆびさきのこい』

まったくの偶然だが、8月に2冊の新刊がリリースされる。前号までにちょこっとお知らせしたが、一冊はデザイン関係に興味のあるかたならご存じのスペイン・バルセロナの「APARTAMENTO」(アパルタメント)による、1993年に京都書院から刊行された大判の『TOKYO STYLE』を、ほぼそのまま復刊した英語版『TOKYO STYLE』。いったいなぜ2024年になって、30年前の東京の安アパートの写真集を・・・・・・と、お話が来ていらい謎が深まるばかりだったけれど、ついに現実の分厚い写真集が届いて、あらためてびっくり。でも、とりあえずありがたい!

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travel

精神病院と巨大石顔彫刻庭園

2週間ほど間が空いてしまった「韓国江原道オン・ザ・ロード」、今週は東海岸の海辺の町・三陟(サムチョク)市郊外にある男根公園=海神堂(ヘシンダン)から一路内陸部にドライブすること約2時間、忠清北道陰城郡にある「ウムソン巨大石顔公園」へお連れする。 韓国のほぼ中央、江原道の南西に隣接する忠清北道(チュンチョンブクト、通称忠北/チュンブク)は、韓国唯一の海と接していない内陸道(なので山梨県と姉妹道県!)。その北部にある陰城(ウムソン)郡の町外れという・・・・・・前回の海神堂公園以上にアクセスのハードルがかなり高い、しかし異常なスケールと迫力の「巨大石顔」がおよそ千体、つまり政治・経済、社会、文化、宗教、芸能、スポーツなどあらゆる分野の世界的な著名人が千人も集結しているという、すさまじい石彫公園、それがこの巨大石顔公園なのだ。

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photography

AIカメラクラブにようこそ

いまから1年ぐらい前だろうか、Instagramに不思議な画像が流れてきて、思わず見入ってしまった。それはセピアがかった、見るからに何十年も前のアメリカの風景や人物写真なのだが、なんだかモノクロームの夢というか悪夢のなかに入り込んだように、ものすごく奇妙なカメラや建築が写り込んでいる。写真だからすごくリアルだけど、よく見るとあり得ないようなディテールがあったりもする。こんな写真家、どうしていままで知らなかったんだろう!と驚いて投稿者を見ると、「The AI Camera Club」と書いてある。AIカメラクラブ? さらに探していくと、それはティモシー・アーチボルドが去年始めた風変わりで魅力的な写真シリーズなのだった。

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韓国江原道オン・ザ・ロード 4  チャムソリ蓄音機・エジソン科学博物館

7月から続けてきた「韓国江原道オン・ザ・ロード」、最終回は江陵(カンヌン)市のビーチリゾート・エリアにある「チャムソリ蓄音機・エジソン科学博物館」にお連れする。ソウルから高速鉄道KTXなら1時間半、高速バスでも2時間半ほどで着く江原道の海辺の街・江陵は、手軽なリゾート地として人気。しかしおしゃれカフェが並ぶビーチサイドの裏手にあるミュージアムまで足を伸ばす向学心旺盛な韓国人は、残念ながらあまりいないようだ・・・・・・。 ちょっと見は小さなショッピングモールふうのチャムソリ蓄音機・エジソン科学博物館は、その名のとおり(チャムソリは真・音の意)は蓄音機・映画・エジソンの発明品という3テーマの、およそ5千点とも8千点とも言われる厖大なコレクションを4つ並んだ展示館に詰め込んだ予想外に充実のミュージアム(すべては展示できないので常時展示替え)。

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art

破壊せよ!とポンチャック・アートは叫ぶ

根本敬・湯浅学・船橋英雄による幻の名盤解放同盟による、40年間におよぶ採集をまとめた『ポンチャックアート1001』(東京キララ社刊)がこのほどリリース。刊行を記念した「大ポンチャック展」も開催中だ(10月4日まで)。 幻の名盤解放同盟は1984年に初渡韓、それまで韓国ロックのレコードは知っていたけれど、ポンチャックという音楽の存在すら知らないまま「行く先々で聞こえてくる不思議な音楽」に魅入られて、屋台のカセット屋でジャケ買いを始めてから今年でちょうど40年。ポンチャックという音楽自体については1990年代に同盟によってまず日本で、それが逆輸入されるかたちで本国でもブームとなった李博士(イパクサ)などベテラン・ポンチャッカー(ポンチャックの演奏者)の存在や、NewJeansのプロデュースなどで知られる250(イオゴン)によるプロジェクト『ポン』(2022年)などでふたたびトレンド化しつつあるのはご存じのとおり。しかし原初のポンチャック音源であるカセットテープのジャケットを、「アート」として再定義したのは、日本も韓国も含めてこれが世界初の試みだろう。

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design

建築家って、いったいなにさま?

つい先日ネットのデザイン関係ニュースで大きく取り上げられていたのが、ソウルの高層ビル(ツインタワー)が、ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだところに酷似しているという報道。

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travel

圏外の街角から

日本全国に蔓延する慢性の疫病がある・・・シャッター商店街という名の病だ。かつての賑わいの痕跡を残しながらも、ゆっくりと死んでいくのを待つだけに見えるストリート。廃墟ではないのに、シャッターの内側にはだれかが住んでいるはずなのに。

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art

周回遅れのトップランナー 田上允克 [後編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。 孤高と言うより孤独。天才と言うより異才。これはどこかの地方の、どこかの片隅で、きょうも黙ってひとりだけの作品世界を産みつづけるアーティストたちの物語である。

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book

『アメリカは歌う。 ― 歌に秘められたアメリカの謎』 東理夫・著

アメリカ人が車を運転するとき、4人にひとりはカントリー・ミュージックを聴いているという。数年前に『ROADSIDE USA』のためにアメリカの片田舎をさまよっていたとき、ものすごくヘヴィローテーションで、何度も聞くうちに歌詞もすっかりわかってしまった曲があった。

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archive

そして夜のオプションは『スナック来夢来人』で!

『西の雅 常盤』のすぐ裏には、おそらく湯田温泉でも最強のスナック『来夢来人』があります。2008年から2010年にかけて、『アサヒカメラ』誌上で『今夜も来夢来人で』という連載をしていたのですが、それは「全国各地の、来夢来人という名前のスナックを訪ね歩く」という、すばらしくおいしい(笑)お仕事でした。

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art

石子順造的世界:府中市美術館にて開催中

1970年代に『ガロ』を読みふけった世代にはおなじみ、石子順造は『キッチュ論』、『コミック論』などで知られた美術評論家であり漫画評論家。漫画にアングラ芸術、街場のデザインなど、当時見向きもされなかったストリート・レベルのアートの価値を積極的に評価した、先駆的な存在でした。昭和52(1977)年に、わずか49歳で亡くなっているので、もちろんお会いしたことはないけれど、業績を見てみれば僕の大師匠というか・・・。

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design

昭和のレコードデザイン集

レコードがCDになって音質はよくなったし、A面とB面をひっくりかえす必要もなくなったが、かわりに失われたものがある――ジャケットの魅力だ。あの、プラスチックのCDケースに封入された12センチ角のブックレットが、いかにお洒落にデザインされようと、30センチ角のLPジャケットや、シングル盤のビニール袋に入れられたペラのカバーにすら、とうていかないはしない。そして在りし日のLPを縮小した紙ジャケCDは、さらにもの悲しい。

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food & drink

電気の街の、わくわくうさぎランド

新・秋葉原の中心部に2月10日オープンしたばかりなのが『CANDY FRUIT うさぎの館』。その名のとおり、うさぎがいっぱいいる館なんです・・しかも動物のうさぎと、人間のうさぎが。猫カフェというのはよく聞くけれど、うさぎですか・・と絶句したら、連れてってくれた友達によると、すでに東京だけで10店以上、なぜか横浜にはさらに多くの「うさぎカフェ」が盛業中だとか。

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music & DVD review

田原総一郎 x 三上寛 ドキュメンタリーの原初的衝動

田原総一郎・・といえば「朝ナマで声張り上げてるオジサン」と思ってる方が、いまではほとんどかもしれないけれど、彼は1964(昭和39)年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に入社、77年にフリーランスになるまで、すばらしく過激なドキュメンタリー番組を作りつづけた敏腕、というか異能のディレクターでした。

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travel

いちばん近くて遠い街 釜山逍遙 後編

昔懐かしいムードのジャングル風呂で、童心に帰って全裸で遊ぶもよし、水着を借りて露天風呂でくつろぐのもよろしいが、忘れてならないのが広いパークのいちばん奥にある「地獄めぐり」。なぜに温泉と地獄がいっしょになってるのか、わかるようでわからないが、とにかくここにはゆるやかな坂道に沿って、地獄のさまざまなシーンが等身大の彫刻で再現されている。

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art

人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記

オープニングの夜だったか、トークショーのときだったか、いろんなお客さんに写真とラブドールの説明をしていたときに、じっとドールを見つめている、というか睨めまわしているひとりの男性が目に止まった。さっそく近づいていって、「これがオリエント工業という会社の最高級ラブドールで、お値段70万円・・」と得意になって説明しようとしたら、「知ってます、持ってますから」と返されてギャフン。それが「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴さんとの出会いだった。

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art

刑務所博物館で身もこころもヒンヤリ

Corrections Museum 廊下に沿った舎房を覗いてみると・・そこにはとんでもない拷問を受けている受刑者たち(のマネキン・・もちろん!)がいた。籐で編んだ巨大なボール(セパタクローで使うような)に囚人を入れ(しかもボールの内部には無数の釘が突き出している)、それを象に蹴らせる! なんてイマジネーション豊かすぎる拷問器具が、マネキン込みで展示されていて、迫力満点。こうした拷問は政令によって1934年に廃止されるまで行われていたというから・・恐ろしいですねえ。

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travel

伝説の生き河童・鯉とりまあしゃん

九州一の河川である筑後川流域の田主丸から吉井あたりは、昔から河童伝説が盛んに伝えられてきた土地。『珍日本紀行』でも田主丸の「カッパ駅」、吉井の「カッパ公園」を紹介しましたが、今回道草していただきたいのは田主丸町内、国道210号線沿いに店を構える『鯉の巣本店』だ。その名のとおり鯉料理とウナギを食べさせるこの店、なぜにわざわざ寄り道する意味があるのかと言えば・・創業者が「鯉とりまあしゃん」と呼ばれる、伝説の人物だから。

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art

『バッタもんのバッタもん』でバッタバタ

この展覧会のことを取り上げたのは、企画自体がおもしろいこともあるんですが、2010年神戸での展示がルイ・ヴィトン社の抗議にあって中止になったように、今回も参加作品の一部にギャラリー側からクレームがつき・・・結果として「ブラックボックス」と岡本さんが名づけた、モザイクをかけたように見える箱の中に展示することになったという、「またかよ!」な顛末を聞いたから。 その、問題の作品とは「アンパンもん」と「せんともん」。

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music

ROADSIDE SONGS vol. 01 湯浅学&チプルソ 報告

記念すべき第1回に出演してくれたのは、音楽評論家でもある湯浅学、そして先月の『夜露死苦現代詩2.0』で取り上げた大阪のラッパー「チプルソ」。自主制作によるファースト・アルバム『一人宇宙』を出したばかりのニュー・アーティストですが、すでに新潮のサイト で、名曲『I LOVE ME』を聴いて涙したひともいるのでは。ふだんは大阪をベースに活動しているので、東京でライブを体験できる貴重なチャンスでした。

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travel

マイ・フェバリット・オールド・バンコク 2

いよいよゴールデンウィークも間近。運良くバンコク行きのチケットを買えたひとにはとっておきの情報を、行けないひとにもせめて旅情のお裾分けを・・というわけで、先週に続いてお送りする古き良き、そしていつなくなってしまうかわからないオールド・バンコクをめぐる旅。今回はバンコクへの旅行者にとって、おそらくいちばんなじみ深いであろうサイアム周辺の超老舗スポット2軒をご紹介する。サイアムあたりはバンコク観光ガイドでも最重要エリアとして扱われているが、今回ご紹介するのは、そういうガイドにはぜったい載らないであろう、でも僕が愛してやまないレトロ・デザイン・スポット。

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art

三上正泰の、なんでもボールペン

昨年11月から今年2月まで、花巻の「るんぴにい美術館」という、小さなアウトサイダー・アート・ギャラリーのグループ展に参加しました。場所が岩手県なので、ご覧になれた方は多くないでしょうが、参加アーティストの中には初めて作品を見ることができた地元の作家もいて、僕としては興味津々。なかでも三上正泰さんの作品には目が釘付けになり、急いで模造紙を買ってきて、写真撮らせてもらいました。

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archive

ついでに新開地にも足をのばしてみれば

かつては神戸随一の繁華街として栄えた湊川新開地商店街。昼間からシャッターを閉める商店が目立つ中で、歩道まで商品をあふれさせているのが松野文具店だ。 名前こそ文房具屋だが、店先にはカレンダーや扇子といった少々毛色のちがう商品ばかりが、商店というより屋台が壁に埋まった趣の極小空間にびっしり詰め込まれ、その真ん中にからだを丸めて座っているのが、ご主人の松野宏三さん。

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travel

街は千の目を持つ:鏡の国の路地裏紀行

江戸時代から明治・大正・昭和の建物が自然なかたちで混在する街並みは、景観保存条例などによって無菌培養のように残された街とはまたちがった、おだやかに時間が止まっている感覚がある。宮崎駿が2005年にこの街の一軒家を2ヶ月間借り切って滞在、そこで育んだ構想が『崖の上のポニョ』に結実したこともよく知られている。

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art

鞆の浦おかんアート紀行

今回の展覧会では、先週ご紹介した福山のアウトサイダー・ルポルタージュのほかに、鞆の浦で出会ったカリスマ・おかんアーティストたちとその作品群も展示される。アート・ギャラリーで「おかんアート」が、ファインアートに混じって展示されるのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。規模は小さいが、実家の茶の間やスナックのカウンターとかではなく、ギャラリーという展示空間でどう見えるのか、僕としても興味津々だ。

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art

特別集中連載:カッセルでの日々 3 (写真・文 大竹伸朗)

滞在場所であるアパートとドクメンタ本部、森の設置場所の位置関係もきちんと把握できないまま毎朝チャリ発進の日々が始まった。日本とくらべると真冬に近い気候の中、時にロンドンの遠い日々を時に別海での忘却の彼方が頭をよぎり樫の巨木元とにかく終わりの見えない作業に突入した。「小屋作品」の最終形はここカッセルで何を拾うかにすべてがかかっている。

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photography

アメリカの『ねじ式』

以前このメルマガで『ヤング・ポートフォリオ』という企画展を紹介した清里フォトアートミュージアムで、いま『Flash! Flash! Flash! エジャートン博士、O.ウィンストン・リンク、ERICの写真』という、なかなか変化球の展覧会が開催中だ(12月24日まで)。この3人の名前だけでピンと来るひとはかなりの写真通だろう。ハロルド・エジャートン博士は、ストロボの発明者として有名。撮影に25年間を費やしたという「ミルククラウン」や、リンゴを突き抜ける弾丸の写真は、いちどは見たことあるひとも多いはずだ。

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art

夭折の天才少年画家・沼祐一

会場は老若男女の山下清ファンで、オープン早々にもかかわらず驚くほど混み合っていた。『山下清とその仲間たち』と題されているように、本展は山下清を中心に、八幡学園で育った子供たちの作品が展示されているのだが、もちろん多くの入館者のお目当ては山下清。でも僕としては山下清はもちろん大好きだけれど(容姿も似てるし)、なかなか原画を見る機会のない他の入園児童たち、なかでも「沼祐一」という名の少年にすごく興味があった。以前に本の図版で見ただけで、原画はいちども見たことがなかったが、そのクオリティの高さには衝撃を受けていたので・・。

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夜露死苦現代詩2.0 最終回 レイトのアートワーク

文芸誌『新潮』で去年初めから連載してきた、日本語ラップの詩人たちを訪ね歩く旅「夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち」が、昨日発売の第15回で最終回を迎えました。これから単行本化の作業に入りますので、お楽しみにお待ちください。THA BLUE HERBにはじまって、B.I.G. JOE、鬼、田我流、RUMI、TwiGy、ANARCHY、TOKONA-X、小林勝行、チプルソ、ERA、志人、NORIKIYO、ZONE THE DARKNESSと、個性的なラッパーたちをたくさん紹介してきましたが、最終回を飾ってくれた「レイト」も、これまでの14人に負けず劣らずの超個性派。いままで登場したなかでもっとも詩的な感性にあふれたリリックを書くひとりです――。

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海景と死者の町

1時間かそこら走って、車窓の左側に大山の雄大な景観が見えてくるころ、JR山陰本線・赤崎駅への曲がり角がある。もともとの名前を赤崎町、2004年からは町村合併で琴浦町と呼ばれるようになった、あっというまに走りすぎてしまうような小さな漁村。どんな観光ガイドブックにも載らないこの地味な町に、これまた観光ガイドには載らない、とびきりの奇景が隠されている。ふつうの観光名所のように、道路標識はない。カーナビにも表示されない。「道の駅・ポート赤崎」を過ぎて、赤崎駅入口の交差点に差し掛かったら、その信号を海側に右折すれば、そこが赤崎の町。そしてさらに海側を走る細い道を見つけたら、それを右に折れてみよう。すると左の海側に・・すぐ見つかるはずだ、巨大な墓地が。

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art

旅のついでに展覧会めぐり

まだまだ猛暑のただ中ではありますが、先週から各地でちょっとストレンジ・テイストな展覧会がスタートしたり、もうすぐ始まったりします。もう夏休み終わっちゃった! という方も多いでしょうが、ここでまとめてご紹介しておきます。場所は広島、山口、滋賀、東京・・どれかひとつでも、どこかで巡り会えますように。まずは以前、僕もオープニングのグループ展『リサイクルリサイタル』に参加した、広島県福山市の鞆の津ミュージアムでは、先週土曜日から『万国モナリザ大博覧会』なる展覧会を開催中。ちょうど空山基さんのハードコアなモナリザをお見せしたばかりですが――

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オリンピックの芸術競技

オリンピック開催ごとにトリビア・クイズなんかに出てくるが、かつてオリンッピックには「芸術競技」という部門があったのをご存じだろうか。 近代オリンピックの父・クーベルタン男爵の提唱で始まった初期のオリンピック規約には、「スポーツと芸術の部門で競技を行わなくてはならない」と定められていたそうだ。もともとスポーツを文化、芸術、さらには信仰の発露としてとらえた古代ギリシア人の精神に則って再興された近代オリンピックだから、芸術競技が設けられたのもおかしくない。

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photography

鳥取の店構え

こないだ鳥取の図書館で、鳥取市内の繁華街の写真を探していたときのこと。地元史の棚で、ペーパーバックの地味な写真集が目にとまった。『池本喜巳写真集 近世店屋考』――なにげなく手にとってパラパラしてみたら、それは鳥取県内の昔ながらの商店をモノクロームで撮影した記録だった。床屋、米屋、金物屋、時計屋、荒物屋、酒屋、駄菓子屋・・・大型カメラでじっくりきっちり、構図を固めて写し取られた空間と人物たち。1983年から2005年というから、20年間以上にわたって収集された鳥取の商店は、どれも数十年の歴史を経てきたものばかりだ。それは昭和そのものにも見えるし、いまでも地方の旧道を走っていると、カーブを曲がった先にひょっと現れそうでもある。

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夢見る愛玩人形家具たち

本メルマガ読者の方々なら、すでにご存じの方も多かろう、上野御徒町に本拠を置くオリエント工業。『東京右半分』でも大きく紹介した、世界最高級のラブドール・メーカーである。そのオリエント工業が創業35周年を記念して発表した、とんでもない新プロジェクトがこれ、「愛玩人形家具=ラブドールファニチャー」だ。女体家具と言えば「家畜人ヤプー」を想起するひともいるだろうし、60年代ブリティッシュ・ポップの代表格アレン・ジョーンズの女体家具彫刻を思い出すひともいるだろう。

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海女の群像

写真って、どう撮るかよりも、撮らせてもらえるまでにどう持っていくかの勝負なのかも、と思うことがよくある。親しくなって、いい顔をしてもらうとかじゃない。カメラを持った他人がその場にいることが、だれの気にもならなくなって、気配を消せるところまで持っていけたら、それはもう撮影の大半を終えたも同然、ということがよくある。このほど10年ぶりに再刊されたという『海女の群像』という写真集を見た。撮影者の岩瀬禎之さんは1904(明治37)年生まれ。すでに2001(平成13)年に97歳で亡くなられているが、千葉・御宿の地で江戸時代から続く地酒「岩の井」蔵元として酒造りに励みながら、長く地元の海女たちを写真に収めてきた。

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art

おかんアートの陰影(ROADSIDE SENDAIから)

このメールマガジンでも、これまでたびたび取り上げてきた「おかんアート」。最近はいろいろな町に行くたびに、その土地のカリスマ・おかんアーティストを探すのがお約束のようになってしまっている。すでに何度か書いたが、おかんアートとは―― メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、もうひとつ、もしかしたら正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォームがある。それが「おかんアート」。その名のとおり、「おかあさんがつくるアート」のことだ。

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伊達政宗歴史館と仙台武家屋敷(ROADSIDE SENDAIから)

今回ご紹介するのは「みちのく伊達政宗歴史館」と「仙台武家屋敷」という、なかなかレアな観光教育施設。伊達政宗歴史館は仙台のお隣、松島の美しい海岸沿いにあるのですが、津波の被害を受けて1階部分が泥で埋まってしまい、スタッフやボランティアの懸命の努力により、震災から1ヶ月半ほどで再開にこぎ着けたという蝋人形館。いっぽう仙台武家屋敷&人間教育館のほうは、かなり前に『BQ』という民放デジタル放送番組で1年以上放映された、映像版『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』でも取材・放映した、仙台きっての隠れB級スポットだったのですが、それがそのあとも脚光を浴びるケースはほぼなく・・・こちらも震災による地震で甚大な被害を受け、無期限休館中。

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art

死刑囚の絵展リポート

執行日はだれにも――肉親にも、本人にすら――事前に明かされることはなく、その日の朝に声をかけられて(朝食後だという)、初めて「きょう死ぬんだ」とわかる仕組みになっている。毎日、毎日、ときには何十年も・・・そうやって自分が死ぬ日を待つ日々。死刑には賛成派も反対派もいるだろうけれど、これを精神的な拷問と言わずして、なんと言うのだろうか。そういう極限の状態に置かれている日本の死刑囚たちがつくりだす、極限の芸術作品。それを集めた小さな展覧会が広島で開かれたというニュースを、今月初めのメルマガでお伝えした。幸運にも展覧会に駆けつけることができたので、今回はその模様をリポートしたい。

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art

めくるめく70年代の記憶と再生

1956年に生まれた僕は、1970年に中学3年生だった。その年、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンがドラッグで命を落とし、三島由紀夫が割腹自殺し、赤軍派は日本航空のよど号を乗っ取って、あしたのジョーになろうと北朝鮮に向かった。その年に大阪のはずれでは「人類の進歩と調和」をうたった万国博覧会が開催され、6400万人以上の入場者を集めていた。いま北浦和の埼玉県立近代美術館で『日本の70年代 1968-1982』という展覧会が開かれている(11月11日まで)。

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book

紙の束になったモンシェリ ――ドクメンタの大竹伸朗と、エディション・ノルトの仕事

『モンシェリ』の全貌を伝える記録集が、新潟県浦佐のedition.nord(エディション・ノルト)から刊行された。ただし、全部で5段階になるという出版プロジェクトのうち、今回リリースされたのは第1弾から第3弾まで。これから年末~来年にかけて、さらにふたつの刊行物が用意されるという。5種類の記録集。それがすべて東京の大出版社ではなく、新潟県の片隅で、夫婦ふたりで営むデザイン・スタジオ兼出版社から、完全に自費出版のかたちで制作販売される。しかも通常の印刷プロセスを省き、全ページをレーザー出力し、そのコピー紙の束をそのまま封筒に詰めたり、製本したという・・・。これも『モンシェリ』本体に負けず劣らずの、素敵に無謀なプロジェクトだろう。

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travel

札幌迷走紀行・後編 郊外聖地――サバービア・ホーリーランドをゆく

札幌市中心部から、国道453号線を一路南下すること約40分、真駒内地区にある広大な国営公園・滝野すずらん丘陵公園に隣接する、これまた広大な滝野霊園。ちくま文庫版の『珍日本紀行・東日本編』のカバーにも登場してもらったし、珍スポットファンにはもはやおなじみの道内最重要ポイントであろう。滝野霊園は総面積約1.8平方キロ。皇居の面積が約1.4平方キロだから、皇居より大きく、約0.5平方キロの東京ディズニーランドにいたっては、なんと3倍以上。むろん日本最大級の霊園だ。しかもそのうち墓所部分は約27万平米、公園緑地が110万平米ということで、霊園のうち四分の三が公園ということになる。そしてその北海道的、としか形容しようのない広大な公園に点在するのが・・・ご存じイースター島のモアイやストーンヘンジなど、あまりに意表を突く巨大石彫群だ。

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art

大竹伸朗展速報

先週号でお伝えしたように、この24日から韓国ソウルで『大竹伸朗展』が開幕した。場所はアートソンジェ・センター。東京で言えば表参道と原宿をいっしょにしたような、ファッショナブルな街・三清洞にあるアートスペースの、1階から3階まで、全館を使った大規模な個展だ。2010年に光州ビエンナーレに参加して以来、韓国では2度目の展覧会になる大竹伸朗。しかし意外にも、海外での個展は1985年にロンドンICAで開いて以来、なんと27年ぶりの2回目。そして今回は、以前のロンドン展とは比較にならない、スケールアップしたボリュームのソロ・エクジビションである。本メルマガでは先週の、アーティスト本人による『ソウル日日』に続いて、今週は展覧会のリポート、そして来週にはふたたび本人による第2弾リポートを、動画を交えながらお送りする予定だ。

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music

ウィークエンド・ハードコア

11月7日配信の041号で告知した、新雑誌『実話レイジ』でスタートした連載『Weekend Hardcore ― 週末ハードコア』。仕事を持ちながらハードコア・バンドを続けている「永遠のロック少年少女」たちを訪ね歩く企画でしたが・・・なんと『レイジ』が1号で休刊決定! 昔は「三号雑誌」という、その名のとおり3冊で消えてしまう雑誌のことを揶揄する言葉でしたが、最近はたった1冊で休刊なんですねえ・・・世知辛すぎ。僕が創刊まもないPOPEYE編集部で働き出したころ、編集長から聞いたのは、「いまは売れなくてもいいから、思いっきりやればいいんだ、社長も『1年は待つから』と言ってくれてる」と、僕ら若手編集者を思い思いの方向に突っ走らせてくれたものでした。

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圏外の街角から:大洲

かつて松山から宇和島方面に南下するには、宇和島街道と呼ばれる国道56号線を使うのが一般的だった。松山市街を抜け、のどかな田園地帯と山並みを抜けて、伊予吉田あたりのトンネルを抜けると突然、宇和海が目の前に広がる。その景色がすごく好きだった。そして街道沿いに現れ消える内子、大洲といった古い街にクルマを停め、歩き回る時間も。高速道路の松山自動車道が宇和島まで延びてから、すべてが変わってしまった。運転時間は短縮されたけれど、宇和島まで海はひとつも見えないし、わざわざ高速を途中で降りて、街を散策しようというひとだって、ずいぶん減ったにちがいない。高速道路も新幹線も、いざ誘致してみたら街は寂れるばかり・・というのが、いま日本中で起きている「取り返しのつかない勘違い」だ。

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新宿にゾンビ来襲! @新宿秘宝館

すでに告知しているとおり、先週土曜日からギャラリー新宿座において、『新宿秘宝館』が開催されています。土曜日の初日には、あいにくの雨模様にもかかわらず、100人以上のお客さまが来てくれました。どうもありがとう! 新宿秘宝館:みんな嘘っぱちばかりの世界だった 甲州行きの終列車が頭の上を走ってゆく 百貨店の屋上のように寥々とした全生活を振り捨てて 私は木賃宿の蒲団に静脈を延ばしている――かつて旭町と呼ばれた新宿4丁目の木賃宿で、林芙美子は放浪記にこう書いた。JRとタカシマヤの澄まし顔に、道の向かいから思いきり毒づいているような、すえた昭和の匂いがいまだ漂う一角。そんな場所で、昭和の秘宝をいま開陳できる幸せを思う。

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ROADSIDE台湾2:麻豆代天府

先週の彰化・八卦山南天宮に続いて、今週は台湾屈指とだれもが認めるキング・オブ・ビザール・テンプル、麻豆代天府にお連れしよう。台北から新幹線で南下すること1時間半あまり、台南エリアの要所、台南市からクルマで1時間足らずの麻豆(マードウ)は、文旦(ザボン)の産地として名高い、静かな町である。台湾の古寺旧跡は、台北のある北部よりも、早くから中国文明が流入した南部にずっと多く残っている。台南郊外には南鯤鯓代天府という台湾有数の大寺院があるが、麻豆代天府は南昆身に次ぐ規模を誇る、明朝末期建立の古刹だ

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可愛くて、やがて恐ろしき堕落部屋

今週あたり全国の書店に行き渡っているだろう、話題の写真集がある。先行販売している一部書店やネットでは、すでにかなり盛り上がっているその一冊は『堕落部屋』という。デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集だ。実はこの本、僕がオビを書かせてもらっている。ほかの文筆業の方々はどうなのかわからないが、僕にとって他人の本のオビを書くというのは、けっこうプレッシャーのかかる仕事で、ごく親しいひとの本以外はなるべく受けたくない。だから自分の本のオビも、かならず自分で書く。でも、この川本史織という若い写真家の作品集は、ゲラを見せてもらった時点で、なんとかキャッチーなオビを書いてあげたい、という気持ちになった。

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lifestyle

ケンケンという唄

去年の秋ごろ、新宿ゴールデン街で飲んでいたときのこと。筑摩書房のウェブで連載している『独居老人スタイル』の人探しに苦労しているという話をしていたら、「それならぴったりの独居老人でシャンソン歌手というのを知ってる!」と店主に言われて大喜び。日を改めて店に来てもらったら、どうもようすがおかしい。「あの・・失礼ですけど、いまおいくつですか?」「え、51ですけど」。えーっっ、僕より若いじゃないですか。これはいくらなんでも、「独居老人」呼ばわりするには無理がある。す、すいません・・と謝りつつ、「ぜんぜん老人じゃないじゃない!」と店主をにらんだら、「そんなに若いの、ケンケン! もっと老けてみえるし~~」と言われて、当人もがっくり。「そうなの、昔から(年より)上に見られちゃうんですよねぇ」と苦笑い。それが歌手・ケンケンさんとの出会いだった。

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常滑、時間をさかのぼる旅

海上に浮かぶセントレアはともかくとしても、現在の常滑駅から海側の競艇場や市役所があるあたりでさえ、たった数十年前までは海だったという。常滑駅前には今年で廃業という木造3階建ての重厚な「丸久旅館」があって、見せていただいた昔の写真には、部屋からすぐ先の海浜を眺めるお客さんが写っていて、びっくりした。それほど急速に開発が進んだ町でありながら、駅の南東部に広がる旧市街と呼びたくなる常滑の中心部は、小高い丘を取り巻くように、見事なまでに昔ながらのたたずまいが残っている。それも、歴史遺産として「保全」されているのではなく、地元のひとびとがふつうに働き、住み暮らす場として。

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art

追悼・嶋本昭三

今週金曜日(2月15日)からニューヨークのグッゲンハイム美術館で、大規模な具体展が始まる。『GUTAI: SPLENDID PLAYGROUND』というタイトルそのままに、破天荒なエネルギーが炸裂した具体美術協会の全貌が、アメリカのハイアート・シーンにどう受け取られるのか、興味津々だ。考えてみればいまからもう30年あまり前、僕がBRUTUS誌で具体の特集を作ったころ、資料を集めるのはほんとうに大変だった。おそらく戦後の日本美術で唯一、国際的な評価を受けたムーヴメントであったのに、当時の東京の現代美術業界で具体は「関西ローカルで、ずっと前に終わったもの」として、ひどく不当な扱いしかされていなかったことを思い出す。

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photography

刺青の陰影 1

先月から今月にかけて、052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。今週と来週はその続編として、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。森田さんが刺青を撮りはじめたのは1960年代。サーカスについて回り始めるより前のことだった――。“僕はね、ひとにどんどん近づいてって、話を聞くのが好きなんですよ。それであるとき、風呂屋に行って、隣にいたひとをぱっと見たら、素晴らし彫りものをしていてね。それで思わず「これ、水滸伝じゃないですか」って聞いたんです。『張順の浪切り』っていう図柄だったんだけど、本人はそれを知らなかったのね。それで「あんた詳しいな」ってことになって、仲良くなって家に遊びに行かせてもらったりしてたんです。

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art

グラフィティの進化系――KaToPeの幻想世界

北千住駅を西口に降りる。駅前の居酒屋街やキャバレー・ハリウッドの看板にこころ引かれつつも商店街を直進、宿場通りを右に折れてずーっと歩いていくと、小さな立ち飲み屋が見つかるはずだ。地下鉄の乗り入れや大学の進出で、このところ急に若者系の店が目立つようになった北千住の、新しい空気を象徴するようなこの店、『八古屋』と書いて「やこや」と読ませる。もともとは古着屋だったが、2010年に立ち飲み屋になった。「ものすごく狭いけど、ものすごく安くて、築地から仕入れてくる突き出しとかものすごく美味しくて、お客さんも地元のラッパーとかいろいろで、ものすごくおもしろい絵も飾ってあるんです」という、若い友人からの断りようのないお誘いを受けて、ある晩うかがってみると・・・そこに飾られていたのがKaToPeの作品だった。

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photography

海辺にて――デレク・ジャーマンへの旅

来週月曜(11日)まで、そのタカシマヤ美術画廊で開催されているのが『高橋恭司 “ブルーブルー” ―デレク・ジャーマンの庭―』という写真展だ。亡くなったのが1994年だから、もうすぐ没後20年になるデレク・ジャーマン。「映画監督・舞台デザイナー・作家・園芸家」などとウィキには書かれているが、みなさんにとってデレク・ジャーマンとは、どんな存在だったのだろう。最初から最後まで画面が青一色だった、あまりに異色な遺作『ブルー』を思い出すひともいるだろうし、かつて日本でも彼の庭園を紹介する本の翻訳版が出たことから、おしゃれな園芸家として知っているひともいるだろう。

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movie

負け組音楽映画の真実――『シュガーマン』と『ジンギス・ブルース』

今週末からいよいよ『シュガーマン』の上映が始まる。正式タイトルは『シュガーマン 奇跡に愛された男』だが、『サーチング・フォア・シュガーマン』という原題のほうがずっといいなあ・・・などと思っていたら、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞してしまった。今年は作品賞も実話をもとにした『アルゴ』だったし、「なんとか2」とか「3」とかばかりに巨費を投じるハリウッドの制作スタイルが、すでに限界に達していることを示しているのかもしれない。もうテレビでも新聞雑誌でもずいぶん紹介しているので、いまさらここで書く必要もないと思うが、『シュガーマン』はロドリゲスという実在のミュージシャンをめぐる、数奇としか言いようのないドラマを映像化した作品だ。

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interview

水もしたたるイイ女

その円奴から久しぶりに電話がかかってきたのだけど、なんだか声が震えてる。どうしたの?って聞くと、「うちが水害にあっちゃって!」と、しんみり。え、そこ新大久保でしょ? 円奴の部屋はアパートの1階なのだが、数日前に大家さんが住む2階から水漏れ・・・なんてレベルじゃなく、天井から雨のように水が・・・という大事件が発生。めちゃくちゃになった部屋を少しずつ片付けながら、いまは近くのウィークリーマンションで避難生活なのだという。笑っちゃいけないけど、よりによってこんなにあふれんばかりのブツが詰め込まれた部屋にかぎって、こんな被害に遭うなんて。隣の部屋はぜんぜん無事だったというし。「悔しいから、写真撮りに来て!」と言われて、喜んで駆けつけました。

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movie

石巻のパラダイス・ガラージ――パールシネマ潜入記

ちだ原人のインタビューにも協力いただいた石巻のデッドヘッズカフェ『ROOTS』を紹介した去年12月12日配信号で、ちらっとお見せしたのが石巻商店街にある宮城県内唯一の成人映画館『日活パールシネマ』だった――。もともとは石巻で酒蔵を始めた、現在のオーナー清野太兵衛さんの先代が、大正15年に石巻歌舞伎座といいう芝居小屋を建立。芝居の合間に日活の活動写真を上映するようになり、昭和26年に現在の劇場を建て、しばらくダンスホールとして営業したのち、昭和30年から映画館としての営業を始めたという。

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art

銀座6丁目のフェティッシュ宇宙

このメルマガではすでにおなじみの銀座ヴァニラ画廊。現代とか古典とか、プロとかアマとか関係なく、とにかく「フェティッシュ」という一点に絞ってアーティストを選び、展示を続けている珍しいギャラリーだ。そのヴァニラ画廊が昨年、初の公募展を開催。その受賞者展が今月1日から13日まで開催中である。美術評論家・美術史家の宮田徹也さん、ギャラリー・オーナーの内藤巽さんと共に、僕も審査にあたったこの公募展。最初は告知コーナーで触れるくらいにしておこうと思ったが、さすがにヴァニラらしいビザールな作品が集まったので、ここでちらりと紹介してみたい。第一次審査を通過した33作品の中から、今回は大賞1名、審査員それぞれの賞が1名ずつ計3名、さらに奨励賞が3名選ばれた。今回の受賞者展では各賞の受賞作品と、第一次審査通過作品も併せて展示されるという。

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travel

極楽行きのディスコバス

このメルマガや、前身のブログ「ロードサイド・ダイアリーズ」読者のみなさまは、僕がどれだけタイ好きか、よくわかっていただけていると思う。なので「タイに行ったらこんなおもしろいのありました」という報告をもらっても、たいていは驚いたりしないのだが、先日イベントで出会った男性から、「タイのディスコバス、いいですよね~」と話しかけられたときには、久しぶりに驚いたし、悔しかった。(中略)音楽を満載して、とびきりのサウンドシステムと、とびきり過剰なエレクトリック・ドレスアップを施して、田舎のハイウェイに君臨する「走るディスコ」! それはつかのま乗客たちをトリップさせてくれる、極楽行きのマジック・カーペットであるにちがいない。バンコクのおしゃれキッズもまだ知らない、タイの最下層から生まれた最上級のクリエイション。初めてのタイ旅行をきっかけにハマってしまい、タイ語もできないままシーンに飛び込んでしまった渡邉さんのリポートをどうぞ!

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原色の寝室――タイの日式ラブホテルめぐり 2

タイ各地の「日式」ラブホテルをめぐる旅。先週はタイ最北部チェンライの『レッドローズ・ホテル』を紹介したが、今週はチェンマイの『アドヴェンチャー・ホテル』、バンコク郊外の『サイアムソサエティ・ホテル』の2軒にお連れしよう。まずはバンコクに次いで、旅行先としても人気の高いチェンマイ。言うまでもなく、タイ北部最大の都市である。バンコクと異なり、歩いて回れるチェンマイの旧市街はいかにもオールド・タイの風情にあふれているが、アドヴェンチャー・ホテルがあるのは旧市街から外に出た、チェンマイ空港からクルマで5分という大通りの交差点。なのでラブホテルとしてだけでなく、家族連れや団体客などの旅行客にとっても便利なロケーションにある。

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photography

梅佳代展オープン!

先週土曜日から初台の東京オペラシティ・アートギャラリーで始まった『UMEKAYO 梅佳代展』。すでにチェックしたというひともいるでしょう。これまでの彼女の展覧会の中でも最大規模の、そして現代日本のポップ・カルチャーにおける写真表現の最前線をあらわにする、絶対注目の大規模展覧会です――こんなこと言うと、生真面目なアート・フォトグラフィ信奉者に怒られそうですが。梅佳代についてはもう説明の必要がないと思うので、ここでは書きません。1981年に石川県で生まれ、2002年に大阪の日本写真映像専門学校を卒業。2006年に初写真集『うめめ』を発表して一躍注目を集め、翌年には木村伊兵衛写真賞を受賞(このときは僕が審査員でした)。それからの活躍はご存知のとおりです。

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連載:スナックショット 21 京都・兵庫(平田順一)

どうも平田です。京都・大阪・神戸と大都市が近接しながら、それぞれに独自の文化を培ってきた関西地方の街並みは大好きなんですが、コテコテとかベタベタといった形容詞の関西レポートは避けるべく、今回のスナックショットは京都府の中丹地方と兵庫県の播州地方からお送りします。京都府が海に面している事は小学校の社会科で学習するものの、山に囲まれた京都の盆地からは海がイメージできません。一方で古くから海軍の拠点だった舞鶴市を歩いてみると、逆にここが京都の洛中とおなじ自治体にあるのが遠く感じられ、京都共栄銀行や京都北都信用金庫の店舗があるので、あらためてここも京都だったと認識させられます。

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lifestyle

ウグイス谷のラバー・ソウル

去年のちょうどいまごろ、5月9日配信号に掲載した『ウグイス谷のゴム人間』。イラストレーターのゴッホ今泉さんが主宰してすでに20年間以上、通算200回以上は開かれている毎月第1土曜日の『デパートメントH』。日本でいちばん古くて、いちばん大規模でフレンドリーなフェティッシュ・パーティで、毎年5月6日の「ゴムの日」にあわせて開催されるのが『大ゴム祭』だ。あれから早1年。「今年も新作がいっぱい出ます!」と教えていただいて、いそいそと会場の鶯谷・東京キネマ倶楽部に行ってきた。例によって舞台に群がり乗り出し、激写・熱写に夢中のカメコ諸君に混じって、美しくもビザールなラバー・ファッションの粋を撮影してきたので、じっくりご覧いただきたい。

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スナックショット 22 岡山(平田順一)

どうも平田です。旅先で酒場の街並みを撮っていると「ちょっとあんた、何を写しているの?」と問いかけられる時があります。またこの一連の行動に対して「そこに何かあるの?」「こういうのが面白いの?」と問われる時もあり、「この雰囲気が良いんですよ」「何があって面白いかは、いろんな町に行って歩いてみないとわからないんですよ」などと答えながら、つくづく説明の下手な自分に嫌気がさすのですが、今回の岡山県は半分が倉敷市水島地区の写真になります。こういう所の写真を撮って伝えたいという気分が顕著に表れているので見てください!

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lifestyle

永遠のニューサザエ

TimeOut TokyoのWeb連載『東京観光案内所』で紹介した『ニューサザエ』。5月1日号の告知でお知らせしましたが、見ていただけたでしょうか。新宿2丁目最古の現役老舗店という重要スポットでありながら、マスターの紫苑(シオン)さんにお聞きした、あまりに激動の半生が、TimeOut Tokyoでは字数の関係でまったく書けなかったので、ここであらためてお送りしたいと。文字数1万8000字オーバー、じっくりお読みください! いまや「ni-chome」という言葉が世界語になるほど、国内外で認知されるようになった世界屈指のゲイタウン・新宿2丁目。東西南北数ブロックのエリアに、数百のゲイバーやレズバーがひしめく不夜城である。閉店(開店ではなくて)が昼過ぎ、なんて店がざらにある、歌舞伎町と並んで日本でいちばん「眠らない街」でもある。

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新連載:CURIOUS MONKEY ~見たい、聞きたい、話したい~ 01――サドゥーになった日本人(文・渡邊智昭 写真・酒井翔太)

今週から始まる新しいシリーズ『キュリアス・モンキー』。「見ざる・言わざる・聞かざる」の真逆を行こうという、気鋭のライター渡邊智昭さんによる不定期連載です。本メルマガでもすでに今年4月9日配信号で、驚愕のディスコ・バスのお話をタイからリポートしてくれた渡邊さん。今週はインドでサドゥーの世界に入り込んでしまった日本人青年を紹介してくれます。ご存じの方も多いと思いますが、サドゥーとはヒンズー教の修行者のこと。すべての所有を放棄し、決まった住居も家族も、極端な場合は衣服すら持たず、俗界を捨て、みずから定めた行を通して解脱を求める者たち。観光地でよく見かける「観光サドゥー」はともかく、初めてのインド行で、それもひょんなきっかけで、神秘的なサドゥーの世界に招き入れられてしまった若者の体験談を、じっくりお聞きください。※ 記事中、一部にショッキングな画像が含まれています。ご留意のうえ御覧ください。

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蛍光色の夢精――『女根』と女木島をめぐる旅

3年にいちど開かれる瀬戸内国際芸術祭。その夏会期が7月20日から始まる(9月1日まで)。すでに夏休みを利用しての、芸術祭ツアー計画を立てている方も多いだろう。前回の2010年から、さらに拡大した規模で拡大される今回の芸術祭。よほど緻密に計画を立てないと、短時間でいくつもの会場を回るのは不可能だし、そもそもいくつもの島をフェリーで巡らなくてはならず、会場によっては入場制限もあったり、なかなか事前の予定どおりにスケジュールを消化することは難しい。これから行こうという方には、なるべく余裕を持ったスケジュールで、「ここだけは!」という展示を数カ所選んで回ることをおすすめする。

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駅という名の広場があった――新宿駅と上野駅の写真集をめぐって

1969年、僕は中学生だった。テレビでは東大安田講堂の攻防戦がニュースで流れ、海の向こうではウッドストックに数十万人の若者が集い、19歳の永山則夫が米軍基地から盗んだピストルで4人を殺し、アームストロング船長たちが月面を散歩し、映画館には『真夜中のカウボーイ』や『イージーライダー』を観る列ができて、パチンコ屋からは『夜明けのスキャット』や『ブルー・ライト・ヨコハマ』や『人形の家』が流れていた年。そして1969年は駅が「広場」であることをやめ、「通路」になってしまった年でもあった。1969年の半年間ほど、毎週土曜夜の新宿駅西口地下は、数千人に及ぶ若者たちが集まって、身動きがとれないほどだった。ギターを抱えてフォークソングを歌う者たち。ヘルメットに拡声器で反戦と大学解体を叫ぶ者たち。ジグザグデモをくりかえす者たち。そこはまさに、毎週末に出現する祝祭空間であり、緊張と怒りに満ちた磁場でもあった。

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海辺の村のコンクリ絵巻

台北から新幹線で40分弱、新竹といえばまずビーフンだろう。しかし最近は「台湾のシリコンバレー」と言われるぐらいIT産業が集中していて、いまや台北をスキップして新竹に向かう出張族も多いと聞く。新竹から今度はローカル線に乗り換えて(新幹線とは駅が離れているので注意)、のんびり車窓風景を楽しむこと約30分、新埔(シンプー)という駅にたどり着く。1922(大正11)年にできたこの路線の、当時そのままをとどめているらしい木造建築。眠たげな駅員。駅から外に出ても商店どころか、民家が1軒あるだけ。そして畑の向こうに見え隠れする海(台湾海峡)・・・。「鄙びた」という以外の形容詞が思いつかない新埔駅ではあるが、ここから徒歩わずか数分の距離に、実は台湾屈指のアウトサイダー・コンクリート彫刻庭園『秋茂園』が潜んでいる。

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スナックショット 25 山口(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは本州の西の端、山口県で2006年と2007年に行って写真を撮りました。自分は行ったことのない街にどういう酒場があるのかという興味だけで動いており、数多い名所旧跡を素通りするので街の人やほかの旅行者に説明しづらいのですが、まずは現在廃止されている九州行の寝台列車に乗って、夜が明けた柳井市からスタートしました。

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CURIOUS MONKEY ~見たい、聞きたい、話したい~ 02 「足りない女」に魅せられた男(渡邊智昭)

世の中には色んな性癖を持った人がいる、なんてことは都築さんのファンなら誰でも知っていることだろう。今回紹介するのは何かが「足りない」女性に取り憑かれた写真家&映像作家、sguts(すがっつ)氏だ。sguts氏はネット上で「瓶底眼鏡っ娘」「歯列矯正娘」、身体欠損の女性をモデルにした「Muse Style」という3サイトを運営し、オンラインと通販で動画や写真を販売。顧客は国内と海外(主にドイツ!)が半々で、現在はその収入だけで生活しているのだという。しかし一言に「瓶底眼鏡マニア」「身体欠損マニア」とは言っても、何をやっているのかイマイチわからない……。そこでまず、実際の撮影現場にお邪魔した。

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追悼・東健次と『虹の泉』

東健次さんに初めて会ったのは2003年のことだった。三重県山中に『虹の泉』と名づけた、とてつもない彫刻庭園を独力で築いている作家がいると聞き、当時連載していた美術雑誌『PRINTS 21』のために取材に伺ったのだった。翌年、今度は珍日本紀行の特選名所をハイビジョン・ムービーで撮り下ろす民放BSの深夜番組『BQ』のために再訪。まったく落ちないペースと、変わらぬエネルギーに驚嘆したものだったが・・・それから約10年。あれからどうなったろう、と進行具合を気にしながらも、なかなか訪問できずにいるうちに、つい先ごろ、東さんをずっと支えてきた奥様から「完成直前に東健次が亡くなりました」とのお知らせをいただいた。この5月22日に、74歳の生涯を閉じられたのだという。

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新連載! 高松アンダーグラウンド 1(GABOMI)

瀬戸内芸術祭をめぐるとき、ベースとなるのは高松市だ。しかしそのベースキャンプたる高松市については、意外に情報が少ない。観光地といっても、有名なのは栗林公園や玉藻公園(高松城跡)、四国村くらい。うどん県といっても、朝昼晩3食うどんを食べたいわけじゃないし、だいいちほんとにコアなうどん屋は市内中心部ではなく、むしろ郊外にある。昼間のうちはアートを見てればいいかもしれないけれど、夜や、せっかく来たのだからアート以外のなにかを見たかったら、いったいどこに行けばいいのだろう。

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高松アンダーグラウンド 2:ホテルエンペラー(GABOMI)

連載の2回目がやってきました! 写真家GABOMIです。今回は実用的なディープ情報ですよ。この夏、瀬戸内国際芸術祭だの、うどんだの、出張だの、放浪だの、移住だの、なんだかんだで香川にお越しになるかもしれないロードサイザーズ読者の皆様に、おすすめホテルをご紹介! 先週、高松市中心部、商店街の裏をウロウロしていました。ある建築物の壁画を撮影したくてアングルを探していたのです。壁画の全貌を撮るには下からじゃ無理で、すこし離れた建物の上から撮る必要があった。振り返るとそこに「ホテルエンペラー」。

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movie

プリミティブであること、ノマドであること ――チャラパルタの教え

どうやって演奏するのか、どんな音が出るのか、見当もつかない楽器に出会うと、すごく興奮する。オーストラリアで初めてディジリドゥを見たとき。楽器屋の片隅で口琴を見つけたり、アフリカ音楽のアルバムで親指ピアノを初めて聴いたとき。ニューエイジ系の飲み屋で、中華鍋をふたつくっつけたようにしか見えないハングドラムを叩いてみたとき。しかしこのチャラパルタというのは・・・。材木をてきとうに切って並べた作業台らしきものを前に、ふたりの男が立っている。太鼓のバチみたいな棒を両手に持って、ひとりが台の材木をポン、と叩く(というか棒を材木の上に落とす)。

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photography

優雅なファッションが最高の復讐である――ダニエル・タマーニとコンゴのサプール

イタリア人の写真家であるダニエル・タマーニは、もともと美術史を専攻していたが、数年前から写真の世界に身を投じ、当時住んでいたロンドンや、パリのアフリカ人コミュニティにとりわけ興味をもつようになった。2006年、もとはフランスが宗主国だったコンゴ共和国を旅した彼は、首都ブラザヴィルで、異様なまでにスタイリッシュに着飾った男たちと出会う。それはフランス語で「サプール(sapeur)」と呼ばれる、ヨーロッパ的なダンディズムを中央アフリカの地で体現した、ダニエルにとってまったく未知のグループだった。

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travel

高松アンダーグラウンド 3:オーディオいちむら(GABOMI)

どうも写真家GABOMIです。今回の原稿は苦戦です・・・3週間かけ5回取材して、膨れに膨れました。「全部書いていいです」と言ってくれたのでやたらカットもできず・・・もう正直に全部書くしかない! なので覚悟して読んで下さい。出会いは突然に! というか、高松の中心で「あち~」を叫びながら汗ダグで徘徊していた私は、新たなネタを探していた。突如、目に飛び込んできた『オーディオいちむら』と書かれたお店。

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book

幻視者としての小松崎茂――ウルトラマン紙芝居ボックスによせて

かつてあまりに身近にあったために、紙芝居という優れたビジュアル・エンターテイメント・メディアが、実は日本の発明であることを僕らは忘れがちだ。絵解き物語や絵巻物の伝統が生んだものかは定かでないが、ひとつの物語を十数枚の絵で構成して、その1枚ずつの解説をいちばん後ろになる絵の裏側に記し、説明し終わった絵を順繰りに送っていくことで、「紙芝居のおじさん」が物語を絵と語りによって進めていけるという独創的なシステムは、1930年代に誕生して以来、日本人の感性に深く浸透してきた。

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art

殺戮の造形  ――モザンビークの武器彫刻

駅から歩く距離を考えると(特に炎天下)気持ちが萎えるが、それでもときどきは行っておきたい大阪万博公園内の国立民族学博物館。常設展示を見て回るだけでも、丸一日かけられる規模のコレクションだが、ここはまた時々すごく興味深い企画展を開催していて、しかも東京にいるとそれがなかなか伝わってこなくて、つい見逃してしまうことが少なくない。その民博で現在開催中なのが『武器をアートに』(11月5日まで)。「モザンビークにおける平和構築」という、いかめしいサブタイトルがついているが、これは長く内戦が続いてきたモザンビークでの、武器を使ったアート(立体作品)の展覧会。展示の規模は小さいが、非常に見応えのあるコレクションだ。

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裸女の溜まり場――よでん圭子のアナクロ・ヌード・ペインティング

今年の春、銀座ヴァニラ画廊の公募展審査をしていたときのこと(2013年4月2日配信号に掲載)。いかにもフェティッシュな若い作家たちの絵画や立体が並ぶ中で、ひとつだけ異彩を放つ、不思議に古風なヌードの油絵が目に留まった。「よでん圭子」さんという女性画家の作品で、くすんだグレーの肌の裸女たちが、画面上にのびやかに配置されている。古典的な構成と技法と、ぜんぜん古典的じゃない風合いを兼ね備えた、それはなんとも評価しがたい絵だった。フェチやSM系に特化した専門画廊(!)であるヴァニラに、こういう作品を送ってくるとは、いったい本気なのだろうか、意図的に狙ってるのだろうか、それとも・・・。

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art

大竹伸朗・秋の陣

高松市美術館の『憶速』が9月1日で無事終了し、しかし丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での『ニューニュー』はまだまだ続行中(11月4日まで)、ヴェニス・ビエンナーレも続行中(11月24日まで)、瀬戸内国際芸術祭での女木島インスタレーション『女根』は、10月5日からの秋会期が迫るなか、さらにパワーアップ中。そして東京のタケニナガワ・ギャラリーではあらたな展覧会が9月8日にスタートしたばかり(10月26日まで)・・・。2013年の大竹伸朗祭りは、まだまだ大団円を迎えそうにない。

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art

天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険

101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんに荒尾でお会いした翌日、福岡市に戻ってもうひとり、ずっとお会いしたかったアマチュア画家にお目にかかることができた。モンド画伯・・・こちらは10歳のアーティストである。モンド画伯――本名・奥村門土くん――は福岡の小学4年生、先月10歳になったばかりだ。3人兄弟の長男である門土くんのお父さんは、福岡の音楽シーンでは知らぬもののないミュージシャンであり、イベントオーガナイザーでもある「ボギー」さん。公式サイトの自己紹介によれば――

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反逆のタイムカプセル――暴走族ミュージアム訪問記(上野友行)

「暴走族グッズのすごい収集家がいるんで、取材してくださいよ」ヤンキー取材を長く続けていると、こうした話は珍しくない。一般的にはあまり知られていないものの、暴走族グッズやヤクザグッズを集めているマニアは少なからず存在するのだ。ところが、その日その場所に足を踏み入れた私は言葉を失ってしまった。ステッカー、特攻服、なめ猫、改造プラモ、写真集、カレンダー、ドキュメンタリービデオ――。

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オリンピック・デザイン・バトル

書きたい!という思いと、いろいろめんどくさいな~という躊躇で迷っていた新国立競技場問題について、今週は書かせていただく。ツイッターやFacebookのおびただしい書き込みからも察せられるように、この問題については賛成・反対、いろいろな考えのひとがいるだろう。あくまでも僕個人の心情、というていどに受け取っていただけたらうれしい。2020年の東京オリンピックに向けて、国立競技場の建て替えが決定し、デザイン・コンクールで優勝したイギリスの建築家ザハ・ハディドの案が公表されると、槇文彦、伊東豊雄など国内の建築家を中心に激しい反論が提起され、そこに建て替え反対の市民運動も加わって、ザハ案発表から1年半以上たったいまも、波乱含みの様相を呈しているのは、東京在住のみなさまならご存知だろう(しかし東京以外の地方ではどれくらい話題になっているのだろうか)。

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死刑囚の絵 2013

告知でお知らせしてきたとおり、先週土曜日(10月12日)、新宿区四谷区民ホールで『響かせあおう 死刑廃止の声 2013』が開催された。世界死刑廃止デーである10月10日にあわせ、死刑廃止運動を続ける「FORUM 90」が毎年主催している集会で、今年で9回目になるという。午後1時に始まった集会は、田口ランディさんによる「死刑囚からの手紙」朗読、元冤罪死刑囚・免田栄さんのお話などに続いて、「シンポジウム・死刑囚の表現をめぐって」が開かれた。これは本メルマガで紹介してきた死刑囚の絵画を含む、小説、短歌、俳句など死刑囚自身による表現活動を世に出してきた大道寺幸子基金によるもので、7名の選考委員によって選ばれた2013年度の優秀作品が発表・講評される、年にいちどの貴重な機会である。

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photography

鳥取発・昭和行き――池本喜巳、ふたつの写真展

1944年に鳥取市で生まれた池本さんは、大阪の写真学校で学んだあと、帰郷して写真の仕事に従事するかたわら、故・植田正治のアシスタントを20年間にわたって勤めてきた。今年が生誕100年となる植田正治の、写真家としての素顔をもっともよく知る人物のひとりでもある。この10月下旬から11月初めにかけて東京で、池本喜巳さんによるふたつの小さな写真展が開催される。ひとつは自身のシリーズ『そでふれあうも』(@元赤坂Niiyama's Gallery)、もうひとつは植田正治のポートレートを集めた『素顔の植田正治』(@下目黒Gallery Cosmos)。

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つつましさの美学――チェコの映画ポスター展

今年4月から8月まで開催された『日本映画スチル写真の美学』に続いて、東京・京橋のフィルムセンターでは現在、『チェコの映画ポスター』展が開催中だ(12月1日まで)。コアな映画ファン以外はなかなか足を運ばない場所で、展示されているポスターも82点ほどだが、これがいま僕らが目にする「映画ポスター」と名乗るシロモノとはケタ違いの芸術性と完成度を誇る作品ばかり。ひとりでも多くの方に見ていただきたく、今週はたっぷりスペースを取って紹介してみたい。

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高松アンダーグラウンド:国分寺町リポート1 盆栽(GABOMI)

高松アンダーグラウンドのGABOMIです! おひさしぶりです。9月ごろ高松市の「国分寺町」という町を彷徨い歩いていました。高松の中心部から車で30分、国道沿いの郊外、三方を山に囲まれ、池が三百個もあったりする。まずは地図を頼りに、町の境界線ギリギリを探索して取材していった。隅の隅から攻めちゃおうというわけである。ここでそもそもの話をすると、その翌月の10月19日に都築さんとGABOMIのローカル対談がこの国分寺町で予定されていて、そのためのネタ探しなのであった。とはいえ今までの高松アングラの記事だけでも十分すぎるほど話すネタはあり、わざわざ新たに探す必要は無いといえば無かったけれど、開催場所が国分寺町にある国分寺ホールだし! というそれだけの理由で、国分寺町も取材することにした。

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高松アンダーグラウンド:国分寺町リポート2 山下さん(GABOMI)

どうもGABOMIです(珍しく連投です)。都築さんの国分寺町対談のネタのために、イロイロと町を調べてウロウロしていたころのお話のつづき。「国分寺町はカラオケ天国ですよ!」と、ある町民からの情報を入手した私は、カラオケ文化について取材を開始。カラオケ喫茶、カラオケ教室、カラオケ大会、カラオケ地蔵…などなどを経て、ついに、国分寺町カラオケ文化のルーツを突き止める!それは町外れの山の下にある「山下自動車」の整備工場であった! まさかの工場!

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案山子X 3:堀之内かかし芙蓉まつり(長野)/稲倉棚田かかしまつりコンテスト(長野)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。 今回は長野県の「堀之内かかし芙蓉まつり」と「稲倉棚田かかしまつりコンテスト」を紹介します。まずは長野県北安曇郡池田町堀之内地区の「堀之内かかし芙蓉まつり」を紹介します。今年で4回目を迎える「堀之内かかし芙蓉まつり」は、人間そっくりなリアル案山子で「かかし村」を作っている、とてもユニークなお祭りです。

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昭和という故郷――本橋成一と小沢昭一の写真集

先月末から今月にかけて、昭和の空気を捉えた見事な写真集が2冊、重なるように刊行された。ひとつはこのメルマガでも今年6月19日号で紹介した『上野駅の幕間』の著者・本橋成一による『サーカスの時間』(河出書房新社)、もう一冊は昨年(2012年)12月に亡くなった小沢昭一の『昭和の肖像<町>』(筑摩書房)である。本橋さんの『サーカスの時間』は、『上野駅の幕間』に続く再刊プロジェクト。旧版は1980年に出ているから33年ぶりの再刊ということになるが、「旧版から写真を大幅に差し替え、増補再構成した決定版!」とのこと。大判で200ページを越える、ずっしり重量級の造本で、モノクロームの印刷も深みをたたえて美しい。さらに巻末には小沢昭一さんと、サーカス曲芸師のヘンリー・安松さんの対談も収められている。

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世界を桃色に染めて――本宮映画劇場ポスター・コレクション2

先週に続いてお送りする、『独居老人スタイル』(12月19日単行本発売!)で取り上げた福島県本宮市の奇跡の映画館・本宮映画劇場館主・田村修司さんが、ひそかにコレクションしてきたピンク映画を中心とするポスター・ライブラリー。先週説明したように、ピンクとは基本的に独立系成人映画――つまり日活、東映、大映、東宝、松竹というメジャー5社に属さない小規模な制作配給会社によってつくられた、いわばインディーズのポルノ映画を指す業界用語だ。そのなかでも、これほどインディーズなプロダクション(当時は「エロダクション」とも呼ばれた)は・・・と驚かされた、内外フィルムの傑作ポスター群を先週は一挙掲載したが、今週はほかのエロダクションが残した異形のグラフィックを、たっぷりご紹介する。

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世界を桃色に染めて  ――本宮映画劇場ポスター・コレクション3

これまで2週にわたってお送りしてきた、福島県本宮市の奇跡の映画館・本宮映画劇場館主・田村修司さんのポスター・ライブラリー。先週まではピンク=独立系成人映画――日活、東映、大映、東宝、松竹というメジャー5社に属さない小規模な制作配給会社によってつくられた、インディーズのポルノ映画――を紹介してきたが、最終回となる今週は、ちょっとテイストの異なるふたつのジャンルをお見せする。すなわち、怪談と女湯!

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立体写経――荒井美波のトレース・オブ・ライティング

美大の学生や卒業生以外にはあまり知られていないと思うが、「三菱化学ジュニアデザイナーアワード」という公募展がある。現在の協賛企業である三菱化学、三菱ケミカルホールディングスの前に、タバコのラッキーストライクが協賛していた時代から数えれば、すでに十数年になるのだが、その審査員のひとりを、もうずっと務めさせてもらっている。デザイン関連の専門学校、大学、大学院の卒業制作を対象としたこのアワードは、大賞、佳作、それに審査員それぞれの特別賞を、数百点の応募作品のなかから選んで表彰するもので、僕も「都築響一賞」なんてのを毎年ひとりずつ選ばせてもらっている。

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独居老人の教え

先月発売された『独居老人スタイル』、書店店頭でご覧になったかたもいらっしゃるだろうか。すでにいくつか紹介原稿も書いているが、本メルマガではまだきちんと取り上げていなかったので、いま紀伊國屋書店の広報誌『scripta』に掲載されているテキストに加筆、画像や動画を含めて、ここであらためて紹介させていただく。『独居老人スタイル』とは読んで字の如し、この数年間で出会った独居老人16人の生きざまを、350ページ近くにわたって語り尽くしたものだ。もともと筑摩書房のウェブマガジンで去年から今年にかけて連載していた記事に、さらに取材を加えてぎりぎり2013年が終わる前に間に合った。

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案山子X 05 コスモス・案山子祭り(岡山)/大草野案山子祭り(佐賀)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。は岡山県の「コスモス・案山子祭り」と佐賀県の「大草野案山子祭り」を紹介します。最初に岡山県赤磐市周匝(すさい)の「コスモス・案山子祭り」を紹介します。岡山県赤磐市周匝には、吉井川の堤防沿い2キロ以上に渡って約200万本のコスモスが咲き乱れる「コスモス街道」があります。周匝橋ができた事をきっかけに、地元の方がコスモスを大事に育て続けているのだそうです。毎年コスモスの花が満開になる10月上旬に案山子祭りが開催され、コスモス街道に案山子が立ち並びます。2013年には約40体の案山子が立ち並びました。

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フィールドノオト08 福島県(畠中勝)

大津波、原発事故、放射能問題、またそれらによって引き起こされた新たな災害によって、いまだ被災地の復興は未終息だ。訪れた相馬市で、特に心が苦しくなった光景がいくつかある。ひとつは山積みになった汚染土の袋に囲まれた民家。傍らには一家の洗濯物が干してある。向かいの畑では、家族が食すであろう野菜を大事そうに収穫していくお婆さんの姿があった。津波の被害があった南相馬市では、廃屋に囲まれた馬小屋で、馬の世話をしている男性を発見した。その小屋から数キロ先は海なのだが、海からその小屋まで、見渡す限り、何も残ってはいなかった。あるのは裏返ったままの車や流されてきた漁船、そして家屋の残骸。だが、今は、そこに確かに人がいる。何もかもをなくなってしまった荒野だが、人が、馬が、そこで生きている。そんな彼らの息遣いをフィールド録音として未来に残したいと思った。

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photography

はだかの領分――大崎映晋写真展

東京日本橋の裏通りに、書画用の特殊な和紙・大濱紙(おおはまし)を製造販売する小さな店『かみ屋』がある。その地下にあるギャラリー『KAMIYA ART』でひっそり開催されているのが『美しき海女――大崎映晋写真展』だ。大崎映晋(おおさき・えいしん)という名前に、どれくらいのひとがピンと来るだろうか。大崎さんは「水中写真家・水中考古学者・海女文化研究家」という肩書を持つ、日本における水中写真のパイオニア。1920(大正9)年生まれというから現在93歳という年齢で、いまも元気に活動を続けている。そして今回の写真展は、大崎さんがその生涯をかけて記録してきた海女たちの、いまではもう見ることのできない、裸の肌で海に生きてきた姿である。

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シャンパンコールで夜は更けて

ホストたちの晴れ姿をたっぷり見ていただいたところで、ほんとに偶然だけど、最高のタイミングでTBSラジオにて歌舞伎町ホストの至芸「シャンパンコール」実況録音放送をお知らせ! 来る2月15日(土)夜7~8時、『7 ears in Tokyo』という特別番組が放送されます。どんな番組かといいうと――

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music

ROADSIDE MUSIC 醤油味のファンクネス――OLH(元・面影ラッキーホール)ライブを2セット配信!

「好きな男の名前腕にコンパスの針で書いた」「あたしゆうべHしないで寝ちゃってごめんね」「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた・・・夏」「ラブホチェックアウト後の朝マック」・・・曲名を並べてみるだけで、サバービア・フレイバーの邦画を見ている気にさせてくれる、それがOLH(元・面影ラッキーホール)の音楽だ。それは紡木たく(ホットロード)の叙情でもなければ、真鍋昌平(闇金ウシジマくん)の絶望でもない。酎ハイの甘さと涙の塩味の混じった、どうしようもなく下らなくて、愛おしくてリアルな人生のカケラだ。

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art

芸術はいまも爆発しているか――岡本太郎現代芸術賞展

岡本太郎美術館では現在、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞展」を開催中(~4月6日まで)。今年が17回目、780点の応募作品が集まったというこの公募展は、「芸術は爆発である!」精神を大事にしてます、と学芸員が強調するように、ふつうの現代美術館の公募展とは、ちょっと毛色の異なる作品が集まるので見ていて楽しい。今年は、本メルマガでも2012年6月20日配信号「突撃! 隣の変態さん」で紹介したラバー・アーティスト「サエボーグ/saeborg」が、グランプリである岡本太郎賞の次点にあたる岡本敏子賞を獲得したというので、軽い気持ちで出かけてみたら、ほかのアーティストたちの作品もすごくおもしろかったので、展示されている入賞作品20点のうちから、いくつか選んで紹介してみよう。

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design

ZINGという挑戦

立体迷路のようなかぎやビル内には、BOOKS & PRINTSのほかにもいろいろなショップやギャラリーが入居しているが、「ここはおもしろいですよ!」と教えられたのが、かぎやビルの並びにあった『ZING』。空き店舗を利用したZINE(ジン)の制作工房だ。自主制作雑誌、小冊子を日本でも「ジン」と呼ぶようになったのは、いつごろからだろう。たぶんここ数年かと思うが、『ZING』はさまざまな用紙やコピー機、プリンター、シルクスクリーン機材に小型活版印刷機まで備え、わずかな料金でだれでもジンを作ることができる、いわばレンタル印刷製本所だ。

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lifestyle

かなりピンボケ 2――涙のジャーニー 湯島歌合戦(比嘉健二)

おそらくこのメルマガの大多数のファンはフィリピンパブというところが、実はどんなこところなのか知らないだろう。というか、日本国民のいったい何%の人間が実態を知っているというのか? もちろん統計などあるわけないが、100人に聞いても、おそらく正解は10人もいないだろう。もっとも知らなくてもなんら生活に支障はないけど・・・。いや、むしろ知らない方が人としては間違ってはいないだろう。そして、おそらくこう想像する人も多いだろう。色の黒いやけに肌が露出した、口説けば即股を開くだらしないフィリピン女と、日本人にまったくモテない寂しいおやじたちが、傷をなめ合う場だと。日本人にモテないはほぼ正解だが、こんな想像がガッカリするくらい、実はやたら健全な空間なのだ。

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art

絵という鏡――岩瀬哲夫の絵画

すでにいまから1年前になるが、2013年4月3日号(061)で銀座ヴァニラ画廊の公募展「第1回ヴァニラ大賞」の記事を配信、そこで入賞した愛知県在住の画家・よでん圭子さんについては、9月18日号(083)で詳しく紹介した。今年も「第2回ヴァニラ大賞展」が今月17日から開催中(29日まで)。前回に負けず劣らずのエクストリームな作品群が顔を揃えているので、銀座におでかけの際はぜひ立ち寄っていただきたいが、そのなかで特にこころ惹かれ、「都築響一賞」に選ばせてもらったのが岩瀬哲夫さん。若いアーティストがほとんどのなかで、64歳というベテランで、聞けば画家が本業でもないという・・・。

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book

巻き寿司アートの陰日向

玉ちゃん(玉袋筋太郎)ではなく、たまちゃん。2013年2月13日配信号「ノリに巻かれた寿司宇宙」で紹介した「巻き寿司アーティスト」だ――。あれから1年、あいかわらずというか、たまちゃんの暴走は加速している気もするが(行きつけのバーが一緒なので、よく会うんです)、ついに彼女の暴走につきあおうという出版社が出現、このほど『Smiling Sushi Roll /スマイリング・スシ・ロール』として世に出ることになった(3月28日発売)。ノルウェー観光局のコンペ『世界一長い「叫び」プロジェクト』で、全世界からの応募のうち2位を受賞、オスロに招かれムンク美術館でも巻いてきたという、『叫び』が表紙になっているこの一冊。

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さよなら嬉野観光秘宝館

2014年3月31日、世の中的には『笑っていいとも!』が終わった日だったが、その同じ日に佐賀県の片隅でもうひとつ、ひっそり幕を閉じたものがあった。嬉野観光秘宝館である。『笑っていいとも!』は1982(昭和57)年に開始されたそうだが、嬉野に秘宝館が開館したのは1983(昭和58)年。ほぼ同い年で、あちらは日本最大級の長寿番組だったが、こちらは日本最大級の秘宝館だった。いまから5年前の2009年春、『秘宝館』という写真集を出したとき、あとがきをこんなふうに書いた――

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高校生ラップ選手権の衝撃

いまから少し前、『ヒップホップの詩人たち』を書くために集中的に日本語ラップを聴いていたころ。たくさんのラッパーの作品をチェックしているうちに、だんだんとスキルやテクニックや楽曲の完成度よりも、「これを言わずには生きていけない!」というような初期衝動のほとばしりに惹きつけられるようになっていった。胸の奥の黒いカタマリや、どうしようもない自己顕示欲や、妄想や悲しみや喜びや、そういうすべての感情がぶつかり合う場としてのステージに、『高校生ラップ選手権』があるのをご存知だろうか。

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music

PUNK NOT DEAD――ジャカルタ・パンク来襲!

昨年9月11日号、18日号の2週にわたってお届けした『モッシュピットシティ・ジャカルタ』は、中西あゆみというひとりの日本人ジャーナリストが、文字どおり人生を賭けて追い求めるインドネシア・ジャカルタのパンク・シーンを伝える、熱いリポートだった。若いころにパンク・キッズだったであろう何人もの読者から、「あれ読んで泣いちゃった」と言われて、僕も感無量だった。あのときたった2日間上映された中西さんのドキュメンタリー映画『マージナル=ジャカルタ・パンク』が、さらにアップデートされて、この5~6月にかけてついに渋谷アップリンクで上映決定。

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fashion

ワルというダンディズム

『ヤンキー人類学』に出展する新潟県南魚沼郡の『BIRTH JAPAN』は、「極ジャー(極道ジャージ)」、「悪羅悪羅(オラオラ)」などと通称される不良ファッションの人気ショップである。2011年のあいだの半年と少し、ふつうのファッション誌があまりに画一化しておもしろくないと思っていた僕は、『SENSE』という高級メンズファッション誌で『ROADSIDE FASHION』という変わったファッション連載をしていた。ファッション誌にはよく出てきて、街場ではほとんど見かけない高級商品ではなくて、ファッション誌にはまったく出ないけれど、街場ではよく見る、ほんとうに日本の男たちが着ている服を見せたくて、その連載を始めたのだったが、残念ながら高級ファッション誌に広告を出すクライアントたちのお気に召さず、1年持たずに終了してしまった。ハイブランドは、いつだってストリートからアイデアを盗んできたくせに。

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グロテスクのちから アニー・オーブと甲斐庄楠音

今週は僕自身も少しだけ関係のある、東京と京都のふたつのアートスペースで開かれている展覧会をご紹介する。ひとつめは、先週号の告知でも少しだけ書いたように、上野稲荷町ガレリア・デ・ムエルテで開催中の『ザ・ディープ・ダーク・ウッズ/アニー・オーブ展』。ハードコア、ブラックメタルなど、異端の音楽に特化したレコード、CDショップと、そうしたテイストのジンやTシャツなどのグッズ、さらには展示スペースを併せ持つ、この小さな店については、『東京右半分』で読んでいただけたかたもいらっしゃるかもしれない。

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案山子X 8:菜の花とかかし祭り(兵庫)(ai7n)

今回は兵庫県淡路市久野々の「菜の花とかかし祭り」を紹介します。「菜の花とかかし祭り」が開催される淡路市久野々(くのの)は淡路島の北側に位置し、常隆寺山の高台にある人口60名程の集落です。(中略)「菜の花とかかし祭り」は毎年菜の花の咲く4月上旬に開催され、1000人以上のお客さんが訪れる大きなお祭りです。久野々の人々(実行委員会)が中心となり地域おこしの為に始めたお祭りで、2014年に7回目の開催となりました。4月の第一日曜をはさんだ1週間、地元の方・学校・企業や老人ホーム等の人々が制作した450体程のかかしが菜の花畑の中に展示されました。

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music

ROADSIDE MUSIC 三村京子

すごく不思議にブルージーな歌詞を、すごく深いブルージーな声で、すごくしっかりしたフォーク・ブルージーなギターに乗せて歌う、ぜんぜんブルージーじゃなくて可愛らしい容姿の女性アーティスト、三村京子。今週のロードサイド・ミュージックはここ4年近く活動を休止していた彼女が、友人の穂高亜希子とジョイントで4月1日に高円寺・円盤で開催したばかりのライブ音源をお届けする。早稲田大学在学中の2005年にファーストアルバム『三毛猫色の煙を吐いてあなたは暮らすけど 私は真夜中過ぎの月の青さのような味の珈琲を一杯』を発表、三村さんはいきなり注目を集め、2008年には『東京では少女歌手なんて』、2010年に3枚目の『みんなを屋根に』を発表後、活動を休止していた。

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情色情――タイワニーズ・エロチカ

沈昭良に続いて、今週はもうひとつ台湾から写真の話題をお伝えしたい。台北に親しんでいる旅行者なら、華山1914文創園区という場所をご存知だろうか。「台北の秋葉原」と呼ばれる光華商圏のそばにある華山1914文創園区は、もともと1914(大正3)年、日本の台湾統治時代に建設された清酒工場「芳醸社」が、戦後台湾の専売公社として清酒、梅酒の製造を行ってきたあと、1987年に閉鎖。長らく廃墟化していたところに、アーティストや演劇人たちが注目するようになって、活動場所として活用されるようになった。

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photography

抗体――アントワーヌ・ダガタ

最初に見た瞬間――多くのひとがそう思うだろうが――これってカメラで描いたフランシス・ベーコンじゃないか!と僕も思った。ブレというのは写真家にとっていつも魅力的な要素だが、これだけシャープにブレをエネルギーの表現につなげている写真家って、いまいるだろうか。いま渋谷で開催されている『アントワーヌ・ダガタ 抗体(Anticorps)』は、今年もっとも重要な写真展のひとつになるはずだが、それにしてはメディアの無関心さが目立つ。

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fashion

祭りの街に生まれて

このメルマガで以前、山谷の男たちの肖像写真を発表してくれた(2012年6月13日号)「浅草&山谷のオフィシャル・カメラマン」多田裕美子さんが、今年は久しぶりに自分も半纏を着て祭りの写真を撮りに行ったというので、さっそく見せてもらった。毎年、あらゆるニュースに三社祭の映像は溢れかえるが、そのほとんどすべては、たくさんの神輿とたくさんの人間を撮っただけの、単なるスナップに過ぎない。でもさすがにこの地で生まれ育った彼女の眼とレンズは、外から来た報道カメラマン、アマチュア写真家とはまるで異なる、ずっと深くて親密で、ときに近寄りがたい場所を、表情をまっすぐ見ていて、背筋をシャンとさせられる思いだった。今週のロードサイダーズ・ウィークリーでは、2014年度の三社祭りを撮影した多田裕美子さんの写真を、彼女自身による文章とともにお送りする。

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新連載 ハダカのこころ、ハダカの眼

去年の夏、「アサクサ・コレクション」という一風変わった手作りの展覧会に参加した時のこと。『東京右半分』のプリントを壁に貼っていたら、となりのブースでモノクロのプリントを床にたくさん並べて、その真ん中にしゃがんでいたのが牧瀬茜さんだった。牧瀬茜(まきせ・あかね)は「1998年に船橋の若松劇場で初舞台を踏み、以降、日本各地に点在するストリップ劇場を10日ずつめぐりながら、行く先々のステージで踊り、そして裸で表現するという日々を送ってきました」(ブログより)というように、ストリップ・ファンなら知らぬもののないベテランであり、2012年に劇場から離れるまで、不動の人気を誇った舞姫でもあった。

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場末の楼閣  ――ソウル風物市場に遊ぶ

先週は三陟(サムチョク)の男根彫刻公園を紹介したが、今週はその帰りに一日遊んだソウルでのお話を。ソウルとはもともと8つの門を持つ城郭都市だったそうだが、そのうち南大門と東大門は観光客にもよく知られた存在だろう。東大門には2007年まで東大門運動場という古びたスタジアムがあって、周囲を屋台がごちゃごちゃと囲んでいた。そのうらぶれた雰囲気が好きで歩き回った日々が懐かしいが、取り壊された東大門運動場の跡地は見るからにクリーンな「東大門歴史文化公園」に生まれ変わり、中心にそびえる未来的な建築「東大門デザインプラザ(DDP)」を設計したのが、いま国立競技場問題で話題のザハ・ハディドだ。東大門運動場にはサッカー場と野球場があったが、取り壊しまでの数年間、駐車場になっていたサッカー場では「風物蚤の市」なる、巨大なフリーマーケットが店開きしていた。

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時をかけるアーティスト

滋賀県近江八幡に残る昭和初期の町家をそのまま使ったアウトサイダー・アート・ミュージアムNO-MA(正式名称はボーダレス・アートミュージアムNO-MA)。本メルマガでも前回の『アール・ブリュット☆アート☆日本』を含め何度か紹介しているが、2004年の開館以来、今年が10周年にあたるという。日本におけるアウトサイダー・アート展示施設として、草分けのミュージアムである。そのNO-MAで今月27日まで開催されているのが、『Timeless 感覚は時を越えて』と題されたグループ展。

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捨てられしもの、捨てられしひと

すでに何度もNHKで番組が再放送されて、いまやその名もすっかり全国区になった広島市の「清掃員画家・ガタロ」。このメルマガでも2013年8月7日号で特集、大きな反響をいただいた。ほんの1年ちょっと前までは、団地の商店街を毎朝掃除しているだけの、だれにも見えない老人だったのが、あっというまにこれほどひとびとのこころを動かすことになるとは、当の本人がいちばん驚いていることだろう。(中略)ガタロさんには『素描集 清掃の具』という自費出版画集があり、これは長らく入手困難だったのが現在は再版されているが、6月末にNHK出版から『ガタロ 捨てられしものを描き続けて』と題した、初の本格的な画集がリリースされた。著者はガタロさんの「発見者」とも言える、当時NHK広島放送局勤務だったディレクターの中間英敏さん。僕も短い文章を巻頭に寄せさせてもらっている。

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新宿2丁目にカッサドールがあったころ

会期終了直前のお知らせになって恐縮だが、西新宿でいま開催中の小さな写真展について、どうしても書いておきたい。『 ‘Cazador’ KURAMATA Shiro / TAKAMATSU Jiro Photographed by FUJITSUKA Mitsumasa』と題されたこの展覧会は、新宿2丁目にかつて存在していたサパークラブ『Cazador カッサドール』を記録した写真展である。カッサドールはデザインを倉俣史朗、壁画を高松次郎が手がけ、今回展示されるプロセスと竣工写真は藤塚光政によって撮影された。

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ツチノコも口裂け女も、みんな岐阜から生まれた!――『奇なるものへの挑戦』@岐阜県博物館

名古屋と郡上八幡のちょうど中間あたりにあるのが関市。「関の孫六」の名を知るひとも多かろう、鎌倉時代に遡る700余年の歴史を持つ、日本どころか世界有数の刃物生産地である。が、しかし! 郡上よりもずっと名古屋に近いにもかかわらず、自動車以外ではかなり不便なアクセス。その不便な関市のさらに町はずれの広大な岐阜百年公園内という、おそらく全国有数のアクセス難易度を誇る県立博物館、それが岐阜県博物館である。ちなみに公共交通機関を使って名古屋から行こうとすると、名古屋駅からJR岐阜駅まで約20分、そこから岐阜バスで小屋名まで38分。さらに徒歩15分で百年公園北口に到着、さらに徒歩7分でようやく博物館に辿り着く。

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百年の時装――世界のファッション展@神戸ファッション美術館

久しぶりに会った神戸の友人に、「きのうファッション美術館に行って・・」と話したら、「へ?」と怪訝そうなので、「ほら、六甲アイランドの」と言うと、「あ~、埋立地んとこにあるやつでしょ、遠いよ~」。遠くねえよ! 三宮から20分かそこらだよ。でも、神戸のおしゃれピープルたちは行かない。ナニワのファッショニスタ(笑)たちも、カフェめぐりで忙しくて行かない。CNNで「世界の十大ファッション・ミュージアム」に選ばれたほどなのに。間違いなく、日本最強のファッション・ミュージアムなのに。そういう不遇な神戸ファッション美術館でいま、『世界のファッション―100年前の写真と衣装は語る―』という、タイトルは地味だが要注目の展覧会が開催中だ(10月7日まで)。

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新宿砂漠

渡辺眸(わたなべ・ひとみ)という写真家をご存知だろうか。1942年東京生まれ。70年代からインド、ネパールへの度重なる旅を記録した、数冊の写真集で知られるようになったベテラン・フォトジャーナリストだが、ちょっとちがうジャンルで脚光を浴びたのが2007年に新潮社から発売された『東大全共闘1968-1969』だった。あの安田講堂がバリケード封鎖されていたとき、たまたま友達の彼が東大全共闘代表の山本義隆だったことで、着替えを届けに行く彼女についていき、そのままバリケード内に籠城。外側からの報道写真ではなくバリケードの中から、闘争の内側からの唯一の記録が、渡辺さんによって撮影されることになった。その渡辺眸さんが当時撮影した、こちらは新宿の街頭の記録『1968新宿』がこのほど発売(街から舎刊)、いま新宿ニコンサロンで展覧会を開催中だ(8日まで、このあと大阪に巡回)。

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だれもいないミュージアム

現代美術業界で最大の商談会であるアート・バーゼルに呼ばれることは一生ないだろうけど、「CULTURE SCAPES」という毎年ひとつの国をテーマにして展覧会やイベントをしているプロジェクトがバーゼルでは開催されていて、今年は「TOKIO」。文楽あり、和太鼓あり、茶の湯・生花あり、チェルフィッチュや池田亮司という、むしろ海外で活躍が目立つ日本人アーティストあり。そういうなかで、なぜか声がかかって写真展を開くことになった。ウクライナ人のキュレイターが選んだのは、ラブホテルにホストクラブ、着倒れ方丈記、インディーズ演歌歌手・・・と、かなりスイスっぽくない(笑)イメージ。100年前に建てられた銀行を改造し、カフェやシェアオフィス、スタジオとして機能する「mitte」という場所の、広々としたカフェ空間の天井から20枚以上の大きなプリントが、ものすごい違和感とともにぶら下がることになった。

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ポルノ映画館の片隅で——エンヴァー・ハーシュのレーパーバーン

今年6月18日配信号で、『カーブサイドの誘惑』と題した記事をお送りした。それはバンコクの路上で見つけた、壊れてパイプだけになった椅子とか、ビールケースに棒を挿しただけの「駐車禁止」サインとか、「美」や「伝統」のカケラもない、しかしある種の美しさにあふれたオブジェのコレクションだった。それを撮ったのがハンブルク在住のエンヴァー・ハーシュという写真家だ。1969年ハンブルク生まれ、イギリスのアートスクールで学んだあと、ずっとハンブルクを拠点に活動を続けている、生粋のハンブルクっ子であるエンヴァーは、学生のころからもちろんレーパーバーンに出入りしていて、「クラブとかライブハウスとか、ビール飲んだりとか・・・とにかくよく来てたよ」。

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金子山の風景

大手出版社が軒並み出展する東京国際ブックフェアが年々先細りで、自費出版・ジンが中心の東京アートブックフェアが年々拡大中という、わかりやすい変化のただ中にある日本の出版界。僕のところにも毎月いろいろな自費出版のお知らせが来て、うれしくもあり焦りもしという状態だ。今週は対照的な、でもどちらも熱い2冊の手作り写真集を紹介する。まずお見せするのは「金子山」という、いちど聞いたら忘れられないヘンな名前の写真家が発表した『喰寝』——これで「くっちゃね」と読ませる。サイズは文庫版、しかし548ページ! 厚さ5センチ近くという、僕の文庫よりヘヴィで(笑)、しかもオールカラー。初版500部で、価格3500円・・・売り切れても赤字なのでは? 完全に収支計算間違ってる気がする。

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ちり積もらせ宇宙となす——大竹伸朗展@パラソル・ユニット

日本語を話すときはどうとでもつくろえるけれど、外国語を話すときって、そのひとの人柄がすごく出るような気がする。僕はよく「日本語も英語も同じように話してる」と言われて、それは流暢とかではぜんぜんなく、だらだらと抑揚なく言葉を垂れ流しているというだけのこと。大竹くんの英語は、いつもちょっと考えながら、短いセンテンスがブツッブツッと積み重なっていく感じで、それがなんだかスクラップブックや大きなキャンバスにいろんなブツを次から次へと貼り重ねていく感じにすごく似ていて、ひとりで納得したりするのだが、そんな変なことを考えているは僕だけだろう。すでにお読みいただいているように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗展が開催中だ。

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老ファイターの城

『MANGARO』『HETA-UMA』展の準備中、マルセイユに滞在していた僕に、デルニエ・クリのスタッフたちがひとつプレゼントを用意していてくれた。「キョーイチはきっとこういうのが好きだろう」と、この地方でもっとも有名なアウトサイダー・アーティストの家に連れて行ってくれたのだ。マルセイユ市街から車で1時間足らず、オーバーニュという小さな町の、そのまた外れの小さな村に、ただ一軒だけ、とてつもなくカラフルで過剰な装飾に覆われた家がある。村の交差点に面して、見落としようのない外観・・・それがダニエル・ジャキ(Danielle Jacqui)の住む家だった。

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われらの内なるサドへ——オルセー・サド展へのイントロダクション

SMといえば長く秘められた欲望であったはずだが、いつごろから「わたし、ドMなの」なんて、日常会話でさらっと言われちゃう時代になったのだろう。「SM=サディズム/マゾヒズム」という概念を生み出したといってもいいサド侯爵(マルキ・ド・サド)の、今年は没後200周年にあたる。サドは1740年にパリで生まれ、1814年にパリ郊外のシャラントン精神病院で亡くなった——「我が名が世人の記憶から永遠に消し去られることを望む」という有名な遺言とともに。サドの生きた18世紀後半はフランス革命、アメリカ独立戦争、そして産業革命が進行した激動の時代だった。そうした時代に、人生の3分の1を監獄や精神病院に幽閉されながら書き残された数々の傑作は、後の世に計り知れない影響を与えたわけだが、その没後200周年にあたっていま、パリのオルセー美術館で大規模なサド展『サド——太陽を攻撃する』が開催中である(2015年1月25日まで)。

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瞬間芸の彼方に——ドキドキクラブと写真のテロル

いまから1年かもう少し前、たしか中野のタコシェで見つけたのが、『非エロ本』といういかにも自主制作らしいペラペラの作品集だった。ペラペラなのに、発行者が六本木のおしゃれな写真画廊のゼン・フォトギャラリーだったのにも驚いたが、雑誌から引き破いたセクシー・グラビア写真に落書きという、あまりに子供っぽい、あまりにパンクで、あまりにスカムな、そしてへなへなと笑い出さずにいられない、ローファイなクオリティにすっかりやられたのだった。今年9月、東京アートブックフェアにそのドキドキクラブが出店すると聞いて会いに出かけたら、「クラブ」と名乗ってはいても実はひとりで、それもすごくシャイな青年で、作品とのギャップにまた驚かされた。

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新連載! エノさんの「ドイツ落語」01(文:榎本五郎)

今年10月15日号から3週にわたって配信、多くの読者を驚かせたハンブルク・レーパーバーンの寿司屋「KAMPAI」。1965年というから東京オリンピックの翌年、いまからほぼ半世紀前にリュックひとつ担いで、シベリア鉄道でヨーロッパに渡り、波瀾万丈の年月の末に「ヨーロッパの歌舞伎町」レーパーバーンで、10人かそこらで満席の小さな小さな寿司屋を営んでいるのが名物大将・榎本五郎=通称「エノさん」だ。「エノさん一代記」を書いてくれたドイツ在住ジャーナリスト・坪井由美子さんの文章にあったように、エノさんの店には『ドイツ落語』と題された、手製本の文集が置いてある。ご本人によれば「ドイツで出会ったひとたちを主人公にした落語のようなもの」というこの一冊、僕も読ませてもらったけれど、もうとにかくおもしろい! びっくりもして、ホロリともする! でも「出版の予定なんかありません」というから、ハンブルクのKAMPAIに足を運んで、エノさんに気に入られないと、読むことすらできない。もったいなさすぎ!・・・というわけで無理やりお願いして、『ドイツ落語』全30編のなかから数話を、本メルマガで掲載させていただくことになった。

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裸眼の挑戦——若生友見とragan books

この秋に開かれた東京アートブックフェア。ドキドキクラブや公園遊具の木藤富士夫など最近のメルマガで紹介した写真家、アーティストに何人も出会うことができたが、たくさんのブースのなかで、びっくりするほどシャープというか、クレバーなデザインのジンを並べているテーブルがあった。テーマは日本だけど、扱うセンスはむしろ欧米のクールな感性が漂っていて、もしかしたら東京在住の外国人デザイナーなのかも・・・とか思いつつ、店番をしていた若い女の子に尋ねてみたら、「これ、私が作ったんです」と言われてびっくり。それも東京ですらなく「仙台でやってます」というので、「仙台市ならよく行きます、デザイン事務所とか?」と聞くと、「いえ、仙台市じゃなくて七里ヶ浜・・・知らないですよね」。「えーっ、そこでデザインのお仕事を?」「いえ、学習塾で教えながら、これ作ってるんです」と言われて絶句。それが宮城県七里ヶ浜町在住の若きグラフィック・デザイナー、若生友見(わこう・ともみ)さんなのだった。

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昭和の終わりの新宿で

せっかく南新宿のことを書いたので、新宿の話題をもうひとつ。去年3月19日号で、『新宿が生きていたころ——昭和40年代新宿写真展』という展覧会の紹介記事を掲載した。新宿歴史博物館で開かれたこの写真展は、新宿がたぶんいちばんエネルギッシュだった時代を、豊富な写真コレクションでたどる、地味だけれど貴重な企画だった。その新宿歴史館でいま、前回の続編となる『写真展 新宿50−60年代<昭和>の終わりの新宿風景』と題された展覧会が開催中だ(2月22日まで)。

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湯けむり秘宝と西部劇——追想の鬼怒川秘宝殿とウェスタン村

失われた場所といえば、昨年末に閉館となった鬼怒川秘宝殿も、マスコミでやけに大きく取り上げられてびっくりさせられた。それまで秘宝館なんて、見向きもしなかったくせに。ご承知のように、日本に秘宝館が誕生したのは1972年、三重県伊勢市の元祖国際秘宝館だった。いきなり大成功を収めた元祖国際秘宝館に続けと、それから各地に秘宝館が生まれていくのだが、鬼怒川秘宝殿がオープンしたのは1981年のこと。80〜81年は北海道秘宝館、熱海秘宝館、鳥羽SF未来館、元祖国際秘宝館石和館と次々にオープンした、秘宝館ラッシュの時期だった。

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art

ウルトラの星のしたで

『ウルトラQ』から『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』など、特撮変身ヒーローの生みの親であるアーティスト/デザイナー、成田亨の画期的な回顧展『成田亨 美術/特撮/怪獣』が、いま福岡市美術館で開催中だ(2月11日まで)。昨年夏に富山県立近代美術館で始まった本展は福岡のあと、成田亨のデザイン原画を所蔵する青森県立美術館に巡回する(4月11日〜6月7日)。東京での展示はなし。福岡の会期に間に合わないと、展示作品数700点に及ぶこの回顧展を体験するには青森に行くしかない。成田亨は1929(昭和4)年、神戸で生まれた。1歳になる前に、父母の出身地であった青森県に転居。そこで囲炉裏の炭をつかんでしまい左手を火傷、生涯癒えることのない傷を負い、「右手だけで描ける」絵がこころの拠り所となったという。

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ホノルル旅日記3:ハワイ古寺巡礼

オアフ島ホノルルの東側、ウィンドウォード(風上)と呼ばれるカイルア地区は、ハワイ屈指の美しいビーチやウィンドサーフィンのメッカとしてよく知られている。ホノルルからカイルアに向かってパリ・ハイウェイに乗ると間もなく、車窓左側に立派な三重塔が見えてきて、びっくりするひとも多いはず。ホノルル・メモリアル・パークと呼ばれる霊園に建つ、奈良・南法華寺を模した三重塔だ。ずいぶん前に村上春樹、吉本由美さんと3人で「東京するめクラブ」というユニットを結成し、ちょっと変わった旅行記事をつくっていたことがある。そこで訪れたハワイで、この三重塔を含むホノルルと周辺の寺社仏閣巡りをしたことがあった。あれは2002年だったから、もう13年前! いまもあいかわらず不思議な存在感を漂わせる三重塔を見て、もういちどホノルル古寺巡礼をしてみたくなった。

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ガイコツさんのシャレオツ

新幹線に乗って新大阪で降りたら、在来線に乗り換え尼崎経由で30分ほど。飛行機で大阪空港に降りれば、そこがもう伊丹。大阪空港のお膝元である伊丹市は、かつて伊丹城を擁した歴史遺産に恵まれる地だが、どことなくサバービア感が漂う茫漠とした雰囲気。関西人にとって伊丹とは、どんなイメージの町なのだろう。かつて酒造で知られていた町らしく、白壁の蔵のようなデザインの伊丹市立美術館。オノレ・ドーミエのコレクションなど、風刺やユーモアをテーマにした欧米・国内のコレクションを核とするユニークな美術館だが、現在開催中なのが『シャレにしてオツなり——宮武外骨・没後60周年記念』という、小規模だが見逃せない展覧会だ(3月1日まで)。

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food & drink

新連載 くいだおれニューヨーク・アンダーグラウンド 01 PUNJABI GROCERY & DELI(写真・文 アキコ・サーナー)

美大卒のデザイナーだったはずなのに、いつのまにか料理の世界に足を踏み入れて、いつのまにかニューヨークに移住したと思ったら、ユニークなケイタリングのプロジェクトを始めたり、ロウアーイーストサイドにレストランを開いたり。すっかりプロの料理人になっていて、こないだ久しぶりに会ったら、「ニューヨークはレストラン高いし、混んでるし最低! でも地元民しか知らない、気楽ないい店もまだあるんだよ」と言われて、じゃあ教えて!というわけで始まるのがこの新連載。不定期ではあるけれど、オシャレな雑誌やWebのニューヨーク特集にはぜったい登場しない、安くて美味しくてファンキーな(これが大事!)、取っておきの店にお連れします。さあ、きょうはなに食べさせてくれるんだろう!

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art

近江八幡の乱――『アール・ブリュット☆アート☆日本2』観覧記

先週の告知で少しだけお知らせしたが、日本のアウトサイダー・アートの聖地とも言うべき滋賀県近江八幡市でいま、『アール・ブリュット☆アート☆日本2』が開催中である。日本で最初のアウトサイダー・アート専門展示施設「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を中心に、市街6ヶ所の町家や美術館、資料館、さらに商店のウインドウや店内にまで拡張した展覧会は、出展作家70数名、作品数1200点以上という大規模なもの。「2」とついているのは、「1」が昨年開催されたからで、その模様は本メルマガ2014年3月19日号で詳細にリポートした。初回に劣らず、アウトサイダー・アート/アール・ブリュット・ファンなら必見の充実した内容なので、今年もぜひ見逃すことなく、ゆっくり時間を取って訪れていただきたい。

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travel

圏外の街角から:宮城県白石市

仙台には年に数回は行っているが、東北新幹線でひとつ手前の駅、白石蔵王駅にはいちども降りたことがなかった。東京駅からちょうど2時間。あと15分で仙台に着いてしまう。白石(しろいし)市は宮城蔵王のふもとに広がる、福島県に隣接した宮城県最南端の市。蔵王エリアへの観光拠点であり、いくつか温泉もあるが・・・現在の白石市の人口は約3万5000人。新幹線の白石蔵王駅の利用者は一日数百人という寂しさ。しかも町なかにある東北本線・白石駅までは1時間に1本ほどしかないバスを利用するか、徒歩20分という微妙な距離。温泉場に旅館はいろいろあるけれど、白石の市内には駅前ビジネスホテルがひとつだけ。そしてここでも見事なまでのシャッター商店街が、しなびた血管のように街をくるんでいた。

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photography

テンダーロインをレアで

あれは鞆の津ミュージアムが開館したときだったから2012年、いまから3年前のことだ。展覧会に参加した縁でトークに招かれて、終わった後に参加してくれたひとたちとおしゃべりしていたとき、ちょっと・・・ではなくて、いかにも一癖ありそうな革ジャン姿の青年が近寄ってきて、僕に聞いた――「都築さん、サンフランシスコのリサーチって知ってますか」? リサーチ=『RE/Search』は1980年代から90年代にかけてサンフランシスコで発行されてきた、元祖オルタナティブ・マガジンで、その後のZINEをはじめとする世界のオルタナ系出版に決定的な影響を与えた、最重要雑誌である。もちろん、僕も含めて。その『RE/Search』という名前が、こんな場所で、こんな若い日本人の口から出るなんて・・・一瞬、30年前にぐいっと引き戻されたような、目眩に近い感覚に襲われた。弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)は鞆津のある福山に暮らす若い写真家。

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book

フランス書院文庫の30年

駅のホームで新幹線を待ちながら、なにげなくキオスクの書棚を眺める。『未亡人兄嫁・三十四歳』『隣の独身美母』『服従教室 女教師姉妹と教育実習生』・・・きょうも健気にフランス書院文庫の、黒い背に黄色のタイトルが光ってる。「なぜ駅でエロ本が!」と憤るムキもあるようだが、キオスクに『東スポ』とフランス書院文庫がなくなったら、それはもう日本のキオスクじゃないと思うのは僕だけだろうか。Amazon Kindleストアでは『フランス書院文庫オールタイム・ベスト100』という電子書籍を、4月1日から無料で(!)配信開始している。「未来に残したい官能小説100作品」を精選、書影(カバー)、タイトル、著者などのデータとともに、中味の引用も数ページ添えられ、気になったらそこからワンクリックでKindleストアに飛べるようになっている。

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photography

サラの魔法

1970年代、写真界のスターといえば、それはいまのようなアート・フォトグラファーではなく、疑いもなくファッション・フォトグラファーだった。デザイン界のスターがファッション・デザイナーであり、グラフィック界のスターがアーティストでなくイラストレーターで、メディア界のスターがファッション・マガジンであったのと同じように。そういうキラ星のようなファッション・フォトグラファーのなかで、アヴェドンやヘルムート・ニュートンのような評価を、少なくとも80年代後半以降の日本では受けることがなかったが、70年代当時にコアなファッション業界人からオシャレ少年少女まで、もっとも熱狂的な人気を誇ったのは、実はサラ・ムーンだったのではないか。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む ―― ナジャの教え 03

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎。ぬる~い空気感に包まれたこの地の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかし旧来のフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがうその店の、オーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米沢伸介さんだ。独自のセレクションのワイン、料理、音楽の三味一体がつくりあげる至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニーによる『ナジャの教え』。第3夜となる今回は華やぐ春の宵に、かすかな狂気の香りをブレンドしてくれた。

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photography

雑種のしあわせ――佐々木まことの動物写真

『ジワジワ来る関西奇行』で毎回、「こんな関西もありか!」と驚かせてくれる吉村智樹さん。ずいぶん前からの知り合いだが、連載をお願いすることになって久しぶりに話しているうちに出てきた名前が「佐々木まこと」という動物写真家だった。佐々木さんは写真集『ぼく、となりのわんこ。』を、吉村さんが編集を担当して2005年に発表しているのだが、いまは古本を探すしかないし、早く2冊めをつくりたいけれど、「なかなか進まないんですよ~」と苦笑。最近は写真集も難しいしねと相槌を打ったら、「そうじゃなくて、粗選びして渡してくれと佐々木さんに言ってるんですが、ぜんぜん送ってこなくて」という。訳を聞いてみたら、「犬猫写真だけで100万カット以上あるので、そこから100枚とかチョイスするのが大変すぎるらしくて」と言われて絶句。1万枚に1枚か・・・(笑)。いったいどんな写真家なんだろうと、堺市のご自宅を訪ねてみた。

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湯けむりの彼岸に――『雲隠れ温泉行』と村上仁一の写真

温泉が好きで、日本はもとより外国の温泉にもずいぶん入ってきたが、日本の田舎の、どうってことない温泉場に漂う独特の「彼岸感」は、ほかの国にはなかなか見つからない。いくらおしゃれな建築にしようが高級エステや豪華料理を入れようが、そんなことで真の「非日常」を演出できはしない。非日常はすぐそこに、日常のすぐ裏側にびたっとくっついているものだから。・・・そんなことを思い浮かべながら村上仁一の『雲隠れ温泉行』を2007年に初めて見て、最初はそれが現代の、若手写真家による作品とは信じられなかった。荒れたモノクロの画面は1960年代のコンポラ写真のようでもあり、ときに戦前のアマチュア写真家の作品のようでもあり、しかしそれが弱冠30歳の写真家であるという事実。それは本人の、というよりも日本の温泉が、どんなに近代化されようが拭い落とすことのできない、時代を超越した「彼岸感」にまみれたままであることを、確信させてくれるのでもあった。

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book

元祖ブロガーとしての植草甚一

「雑学」という言葉を最初に使ったのは、とまではいかなくても世に広めたのは植草甚一だったのではないか。『ぼくは散歩と雑学がすき』が晶文社から出たのが1970年。3年後にはのちに『宝島』となる『ワンダーランド』が出て、当時中学から高校生になる僕は当然ながら計り知れない影響を受けたのだったが、それから40数年が経ち、晶文社は自社で文芸書をつくることをほとんど放棄するにいたり、宝島はポーチをくるむ包装紙としてのファッション誌製造メーカーになってしまうとは、いったいだれが想像できたろう。そして「雑学」という単語は、それにあたる英語の単語がない。「トリビア」とよく書かれるが、トリビアは「瑣末な知識」、雑学には「系統立ってはいないが、それぞれは深い知識」というニュアンスがある。それで「雑学」が日本的な知へのアプローチなどという気はないが、きわめて「植草甚一的」ではある。「互いに関連性を持たないまま深化していく知の集積」という、アカデミックでもなければ在野の碩学とも言えない、ふわふわと一か所に落ち着かない大きな脳みそのありようが、植草甚一という存在だったのかもしれない、といまになって思う。

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food & drink

サナトリウムで一服

福岡市美術館の常設展『彫刻/人形』に作品を提供していた地元・福岡のアーティスト/造形師・角孝政。毎週末に福岡郊外の『不思議博物館』館長として君臨していることはすでにご報告済みだが(2012年10月24日号)、その不思議博物館がまさかの分室『喫茶/ギャラリー サナトリウム』を6月1日にオープン! しかも場所は天神の駅から徒歩1分! 市美術館を訪れたその足で、さっそく表敬訪問してきた。天神駅を出て、ほんとにすぐ。飲食店や風俗店がごちゃごちゃかたまり、ビルの壁はグラフィティだらけ。猥雑な街の、1階がパチンコの景品交換所、2階は長年潰れたままのキャバクラという猥雑なビルの3階に、そのサナトリウムはあった・・・。

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art

84歳の新人アーティスト

教えてくれるひとがあって、ト・オン・カフェの前に立ち寄ったのがギャラリー犬養という場所。こちらはなんと築100年以上という民家をそのままカフェとギャラリーに改造。4年前にオープンしたばかりにはとうてい見えない、ビルの谷間の路地裏に隠れた、そこだけ時間の止まったような場所だった。オーナーであるアーティストの犬養康太さんの一族ゆかりの家というギャラリー犬養。和洋折衷の2階建て木造家屋の各部屋が、極力オリジナルの風合いを残しながらカフェや展示空間に当てられている。ゆったりお茶や酒を楽しむだけでも快適だろうが、今回の目的は開催中だった『山本英子展』を見るため。

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book

ヨッちゃんの教え

たまに家にインタビューに来るひとが、そこらじゅうに置いてある絵とかを見て「すごいコレクションですね~」などと言われることがある。自分に収集癖はないので、「集めてるんじゃなくて、取材してるうちに集まっちゃっただけです」というと、「そうですか」となるが、眼は納得していない。いつもいろんな作品や人物を取り上げていて、「どうやってネタを選ぶんですか」と聞かれることもあるけれど、その基準は簡単。「自腹で買いたいかどうか」に尽きる。ふつう、雑誌で記事を作るときは、まず部内のゴーサインを得て、それから取材に行く。作品や商品の写真が必要なら、借りてきて撮影する。でも僕は多くの場合、まず買ってしまう。それが取材対象に「こいつは真剣なんだ」とわからせてくれるし、なによりも「自分で買ってもいいほど記事にしたい」のか、「タダで貸してくれるなら記事にしたい」のかを見抜く、自分自身へのテストになるからだ。

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バーレスクの歴史遺産を訪ねて

エロチカ・バンブーの記事で触れたように、バーレスクの発祥地であるアメリカには、その歴史を紐解く上でいくつか重要な場所がある。そのうち2ヶ所を『ROADSIDE USA』で訪ねているので、ここに再録しておく。いずれも写真集に収録済みだが、画像など大幅に増やしているので、本をお持ちの方もよかったらご覧いただきたい。ただし、最初に紹介する『エキゾチック・ワールド』は2007年からラスヴェガスにに移転、現在は『バーレスク・ホール・オヴ・フェイム』と名を変えて継続している。バンブーさんが話していたディクシー・エヴァンスは2013年に死去。かつてのヘレンデールの建物は、すでに廃墟になっているという。

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アナーキーゲイシャ・キス・キス!  ――エロチカ・バンブーの踊り子半生記 後編

先週号でフィーチャーしたベテラン・バーレスクダンサー、エロチカ・バンブー。現在はベルリンを拠点に、ヨーロッパ、アメリカ、日本の舞台から舞台へと飛び回っている。白虎社の舞踏を通じて肉体表現に目覚めていった、若き日の彼女。舞踏団の資金を稼ぐために日本各地のステージでフロア・ダンサーとして踊り、旅する生活が始まった。93年に白虎社が解散した後は東京に移住。そのあたりから「旅する踊り子生活」が本格的に始まっている。ダンサーの地方巡業がちゃんと商売になっていたのは、80年代なかばから90年代初めごろまで。エロチカ・バンブーが巡業生活を始めたころには、すでにキャバレーも、フロア・ダンスも衰退の一途をたどっていたが、それでもまだ、いまよりはるかにダンサーが踊れる場所が日本の隅々に残っていた。2000年前後に彼女は『踊り子日記』という、各地で踊っていた時代の記録を残している。今週はフロッピーディスクを復元した原稿から抜粋した、「ステージから眺めた日本の夜の風景」をご紹介しよう。なお、ところどころ添えた店舗写真は、いくつかのグランドキャバレーを僕が過去に撮影したもの。文章と対応しているものではないことを、あらかじめお断りしておく。

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するめクラブ熊本編・写真日記

すでに告知したように、いま発売中の『CREA』誌(文藝春秋刊)の巻頭特集『本とおでかけ』に、『村上春樹 熊本旅行記』が掲載されている。24ページの特別寄稿、すでにお読みいただけたろうか。9月7日には次の号が出てしまうので、古書店で探す羽目にならないよう、ご注意されたし!今回の企画は2004年に単行本が出た『東京するめクラブ』の、11年目の特別リユニオン編として実現したもの。当時は村上さん、吉本由美さん、僕の3人で世界と日本の辺境、ではなくツウがばかにする場所をさまよい、3人で分担して原稿を書いたけれど、今度のリユニオンは村上さんがすべての原稿を執筆、僕が写真、地元在住の吉本さんが案内人、という役割で、のんびり熊本エリアを旅してきたのは、先週の告知でお伝えしたとおり。今回はCREA本誌でお見せできなかった膨大な写真を再構成した、「するめクラブ熊本編・写真日記」をお届けする。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 01 名倉要造

先週お送りした安彦講平さんと平川病院の作家たちの物語、いかがだったろうか。今週からは予告のとおり、ひとりずつ作家たちの人生と作品を紹介していく。そのトップバッターが名倉要造。1946年生まれ、今年69歳。安彦さんとはもう40年以上、作家の中でもいちばん長い付き合いだという。2004年に発行された『名倉要造作品集』(夜光表現双書、行人舎刊――この双書は安彦さんらが立ち上げた自費出版プロジェクト)のなかで、安彦さんはこんなふうに名倉さんのことを紹介してる――。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 02 江中裕子

東京八王子の精神科病院・平川病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の名倉要造に続いて、今週は江中裕子の作品を見ていただく。〈造形教室〉を取材した8月19日号の記事『詩にいたる病』で、トップに置いた夏目漱石のコラージュ肖像画、その作者が江中裕子さんだ。安彦さんによれば、平川病院の入院中に出会った江中さんは、小さいころから家庭内の葛藤に巻き込まれ、小学生時代からいじめにも遭い、就職した会社の過酷な仕事環境によって精神に変調をきたし、入院こそしていないものの、いまだに通院が欠かせない状態だという。

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book

穴があればハメてきた――「顔ハメ看板ハマり道」

旅はひとりに限る――とは思うが、ひとりで旅するのが哀しくなるときもある。顔ハメを撮りたくて、「シャッター押してください」と頼めるひとが通りかかるのを、じっと待っている時間だ。日本の、世界の片隅で、これまでどれほど、そんな情けない時間を過ごしてきたろうか・・・。「顔ハメ看板ニスト」の肩書を持つ塩谷朋之(しおや・ともゆき)さんは、おそらく日本でいちばん「顔ハメにハマった男」だ。これまでハマった穴が2千枚以上! 感動的でありつつ、だれもが絶賛はしないかもしれない、その成果の集大成が8月末に発売された『顔ハメ看板ハマり道』である(自由国民社刊)。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 04 保護室の壁画

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今週は1980年代に安彦さんによって記録された、貴重な作品をご覧いただく。この連載を始めるにあたって参考にさせてもらった著書『“癒し”としての自己表現』(2001年、エイブル・アート・ジャパン)の中で、とりわけ印象的だった箇所がある。それは閉鎖病棟の保護室に収容された重症患者が、差し入れられた絵の具を使って部屋中を絵で埋め尽くしたという、ちょっとした「事件」だった。病院側からすれば、それは困惑せざるを得ないエピソードだったろうが、彼(書中では「Iさん」と呼ばれている)の作品を見た安彦さんは、エネルギーの迸りに驚愕、その場で申し出て写真とビデオによる撮影記録を残すことになった。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・前編

すでに告知でお知らせしてきたように、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会が開かれている(来年3月13日まで)。昨年秋の南仏における『MANGARO』『HETA-UMA』展に続き、見世物小屋の絵看板コレクションで僕も参加しているこの展覧会は、パリで発行されているアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年に第1回が開催され、2013年の第2回展は本メルマガの2013年8月21日号で紹介している。その記事の中で『モンマルトルのアウトサイダーたち』と題して、こんなふうにアル・サンピエールと『HEY!』のことを書いた――

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music

旅姿浪曲娘――港家小柳一代記

先週告知した「浪曲DOMMUNE vol.2」は、いよいよ本日(10月14日)配信! そして6月の第1回と同じく当夜のトリを勤めていただく、今年が芸歴70周年(!)の港家小柳師匠を追ったドキュメンタリー『港家小柳 IN-TUNE』は、来週19日から渋谷アップリンクで上映開始。ベテラン浪曲ファンはもちろん、先のDOMMUNEで「明治が生んだ最強のハードコア・ストリートラップ」ともいえる浪曲の魅力に打ちのめされた初心者ファンも、今月はあらためて小柳師匠の、88歳とはとうてい信じられない、恐ろしいほどエネルギッシュな芸に酔いしれていただきたい。70年におよぶ芸歴を誇りながら、港家小柳の浪曲はかつて、それほど東京や大阪の浪曲ファンになじみのあるものではなかった。ドキュメンタリーが撮影された去年の浅草木馬亭における舞台が、「芸歴69年にして初の独演会」だったという事実が、それを如実に示している。

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fashion

東京駅のアリスたち(写真:山田薫)

1988年に誕生し、1997~98年ごろからロリータ・ファッションに専念するようになった「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト」は、いまや全国各地に20数店舗を展開、パリ店、サンフランシスコ店、ニューヨーク店と、海外にも影響力を広げている。毎回のお茶会にも海外からファンが参加するようになったし、パリから上海まで、海外のファンによる現地お茶会も増えている。日本のハイファッション・メディアが取り上げることはないけれど、「ロリータ」「ゴシック・ロリータ」はすでに日本発の世界的なトレンドとして、しっかり根付きつつあるのだ。コアなファンが「本部お茶会」と呼ぶ、ベイビーのお茶会の第6回目が、9月21日に前回と同じく東京ステーションホテルで開催された。今回のテーマは『BABY仕掛けの♡Fairy tale♡ ~pop-up Labyrinth~へようこそ』。ポップアップとは「飛び出す絵本」のことで、それは一冊の絵本を開くことから始まる物語という設定の、お茶と食事とファッションショー、そして幸運にも参加できた120名のファン同士の交流を深められる濃密な時間だった。

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art

詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 08 杉本たまえ

8月にこの短期集中連載を始めたときに、そのきっかけとなった作品との出会いのことを書いた。それは近江八幡NO-MAが主催した『アール・ブリュット☆アート☆日本』展の、会場のひとつとなった薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された杉本たまえの作品だった。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はその杉本たまえの作品を紹介する。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 09 佐藤由幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は佐藤由幸の作品を紹介する。平川病院の〈造形教室〉を初めて訪れたとき、すらっとした青年が大きなスケッチブックを、はにかみながら見せてくれた。柔らかな物腰と、紙の上に描かれている激しい感情の表出。そのギャップの大きさに驚いた。それが佐藤由幸さんだった。佐藤由幸、1973年生まれというから42歳になるはずだが、とてもそんな歳には見えない、若々しいルックスである。

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art

秘密の小部屋とエロティック・プリント

オルセー美術館で古き良き時代のフレンチ・エロに浸ったあとは、ぜひ立ち寄っていただきたい店がある。いや、娼館じゃなくて。ラーメン屋に安居酒屋(安くないが)、焼肉屋が軒を連ね、なんだか日本のどこかの駅前飲み屋街の様相を呈しつつあるパリ・オペラ座かいわい。その裏手のシャバネ通り(rue Chabanais)に店を構えるのが『Au Bonheur du Jeur(オウ・ボヌール・ドゥ・ジュール)』だ。ここは19世紀から20世紀前半の、エロティックなビンテージ写真プリントや素描、版画を専門に扱う画廊であり、またそうしたコレクションを書籍として発表する出版社でもある。

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fashion

捨てられないTシャツ 18

座頭市/51歳女性(主婦)/大阪出身。中高時代は部活(バスケット)に明け暮れていたが、短大卒業後、某コピー機器会社に入社し、上京する。その時期からブラックミュージックにハマって、夜の部活に明け暮れるように。東京の生活に疲れ、大阪に戻ってきてからも、酒好きが嵩じて西道頓堀にあったソウルバー『マービン』の常連客になり(近所には系列店の焼肉ハウス『セックスマシーン』もありました)、そこで知り合ったのが今の旦那。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 12 堀井正明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。最終回となる今回は12人目の作家・堀井正明の作品を紹介する。最初にお断りしておくと、堀井正明は〈造形教室〉に属する作家ではなかった。しかし僕が〈造形教室〉の活動を知るきっかけとなった、今年6月の『第5回 心のアート展』で特集コーナーが設けられ、それは前年の作家本人の急逝を受けてであること。そして『心のアート展』実行委員である平川病院〈造形教室〉のスタッフが、残された膨大な作品群の整理・保管に関わるようになったこと。さらにこの連載1回目で紹介した名倉要造の展覧会が9月まで開催されていた宮城県黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、彼の全作品を保管することになり、そのお披露目展覧会『堀井正明回顧展 昇華する魂~絵が生きる事のすべてだった~』が、いま始まったばかりであること。そうした経緯を踏まえ、8月末から3ヶ月間にわたった連載の最後を、堀井正明と開催中の回顧展紹介で締めさせていただくことにした。

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孤高の伊勢田監督・新作発表会!

夜ともなれば『ミナミの帝王』の主題歌『欲望の街』(by RIKI)が聞こえてきそうな大阪ミナミ・宗右衛門町あたり。しかし昼間は歌舞伎町以上に前夜の疲れを漂わせる、肌荒れムードの街景が広がっている。その宗右衛門町の11月14日、土曜日午後1時。雑居ビルのなかにあるロフトプラスワンウエストで、『伊勢田勝行監督作品・新作上映会 ~いせださんとつくってあそぼ~』が開催された。流行には敏感だが、流行を超えたものには鈍感な大阪だけに、残念ながら満員にはほど遠い集客だったが、それでも十数名の選ばれし者たちが暖かく見守る中、伊勢田監督はゲストの日下慶太、ai7n両氏(どちらもメルマガではすでにおなじみ)を相手に、新作上映、お客さんとのコラボ撮影、コスプレワークショップなど、多彩なプログラムをエネルギッシュにこなしてくれた。

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いまのブルース――三村京子、5年ぶりの新譜を聴く

北京の空のように息苦しいライブハウスで2時間立ちっぱなしが辛い年齢になっても、やっぱりライブ通いをやめられないのは、CDや配信の音源だけではとうていつかめない、生音の吸引力がそこにあるからだ。今週、来週と2回にわけて、いますごく気になっている、そしてぜひライブを体験してもらいたいアーティストを紹介したい。偶然だけど、ふたりとも独自の歌とギター・ワークが沁み入る女性歌手/ギタリストである。今週はまず、三村京子さんから。

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fashion

捨てられないTシャツ 21

退職祝い/27歳女性(写真家)/オカダキサラさんのお宅で雑談していたときのこと、「私も捨てられないTシャツ持ってます!」ということで提供いただいた秘蔵Tを、今週はご紹介。学校に通いながら、葛西臨海公園の水族園の中にあるレストランでバイトしていた時期があった。退職したのが3月で、ちょうど同じタイミングで卒業や就職が決まって辞めるひとがけっこう多く、バイト仲間で合同退職祝いの打ち上げ宴会を企画してもらった。

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photography

シカの惑星

『渋イケメン』と同じく、こちらも誤解されがちなタイトルと裏腹にシャープな視点を持った写真集『しかしか』をご紹介する。「ねこ派? いぬ派? しか派! フシギでカワイイしかの魅力に迫る」なんていう女子っぽい帯文にだまされないように。タイトルどおり、シカを撮った写真集ではあるけれど、ここにあるのはかなりシュールでダークな光景だ。見方によっては『猿の惑星』ならぬ『シカの惑星』という映画のスチル写真集のようでもあるし、ここにいるシカたちは「バンビ」のイメージとはまるで別種の、人間と野生の境界線を自由に行き来する、しぶとく不可解な生物にも見えてくる。みずからを「シカ写真家」と名乗る著者の石井陽子さんは1962年生まれ。53歳でのこれが初写真集だ。

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fashion

捨てられないTシャツ 25

デヴィッド・リンチ/40歳男性(テレビ局勤務)/生まれは東京築地だが、父親の仕事の関係で都内を転々。3歳のときにアメリカ・ニュージャージーに引っ越す。最初から地元の学校に通い、土曜だけ日本語を忘れないために日本人学校で補足授業を受けていた。超引っ込み思案な性格のため、家でひとりレゴ遊びばかり。子供のころから音楽が好きだったので、唯一仲が良かったユダヤ人の男の子と、6歳のころからブルース・スプリングスティーンのテープを一緒に聴いていた。

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art

軽金属のマリリン

長年のファンにとっては空山基の「新境地」とも言える作品群は、これまでたびたび個展や、イラストレーター団体の展覧会などで発表されてきたが、意外にも「初めての全点描きおろし」という個展が今週土曜(1月30日)から、渋谷のNANZUKA(ナンヅカ)で開催される。『女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。』という奇妙なタイトルの展覧会は、マリリン・モンローをモデルにした新作ドローイング15点に、SORAYAMAの名を世界に知らしめた「セクシーロボット」シリーズの立体作品を加えたもの。

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捨てられないTシャツ 27

豚/34歳男性(設計事務所社長)/3人兄弟の末っ子として神戸市に生まれる。やりたいと言ったことはとりあえずやらせてくれる家風で、小学生のころからやたら習い事をしていた。英会話、ピアノ、声楽、公文、習字、サッカー、学習塾・・・、放課後はほとんど予定が入っていたから、宿題の日記には「毎日忙しい」と書いていた。ピアノだけいちばん長く中2まで続いたが、他は中1のとき、阪神大震災をきっかけにほとんど辞める(震災の思い出は、みんなが喜ぶと思って、小学校に来ていた自衛隊の避難所用のお風呂に、家から入浴剤を持って行って勝手に入れたら、こっぴどく怒られたこと)。

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travel

ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行4 コイン式タイムマシン

ロシアの冬を駆け足で巡る最終回はロシア版・懐かしゲームセンターにお連れする。パソコンや携帯ゲームには、これまでほとんど興味を持てないままできた。ギャンブルにもハマらなかった(この仕事がすでにギャンブルだし)。でも、往年のアーケードゲーム(家庭用ではなくてゲームセンターの機械)は、その特異な造形美がすごく気になって、「ストリート・デザイン・ファイル」の一冊として『Techno Sculpture ゲームセンター美術館』という本を2001年につくったことがある(もう15年前!)。

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fashion

ツギハギの光と影

本メルマガではもうおなじみの神戸ファッション美術館で、1月末から『BOROの美学――野良着と現代ファッション』と題された展覧会が開催中だ(4月10日まで)。「BORO」で関西、となれば『大阪で生まれた女』・・・ではもちろんなくて、「襤褸(ぼろ)」=文字どおりボロボロになった端切れなどを繋ぎ重ねて衣服や実用の布類に仕立てた、貧しい人間たちの生活の知恵であり、サバイバル・デザインである。

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バロン吉元の脈脈脈

いまから50年前に小学生だったころは(涙)、少年マガジンやサンデーにどっぷり浸っていたのが、そういう少年誌を卒業する中学~高校生になると、漫画アクションやビッグコミックのような青年漫画誌にハマるのが、僕らの時代の男子定番コースだった。当時の漫画アクションには『ルパン三世』『子連れ狼』『博多っ子純情』など、年の離れた兄貴が教えてくれるオトナの味、みたいな名作が揃っていたが、その中でも印象深かったのがバロン吉元の『柔侠伝』。連載の始まった1970年に割腹自殺を遂げた三島由紀夫の楯の会の人たちも、連合赤軍の人たちもみんな大好きで読んでいたという(鈴木邦男さんのブログより)。「我々はあしたのジョーである」と言い残して日航機をハイジャック、北朝鮮に去った赤軍派の言葉を引用するまでもなく、当時の漫画、とりわけ青年誌の劇画群は、単なるエンターテイメントであることをはるかに超えた、リアルな「若者の声」だった。

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本歌の判らぬ本歌取り――根本敬のブラック アンド ブルー

かつて本メルマガでも展覧会として紹介した、根本敬による歴史的名盤レコード・ジャケットの再解釈ともいうべき作品群が、ようやく作品集として発表される。『ブラック アンド ブルー』と題される本書には、2013年のスタートからすでに東京、大阪で6回にわたって開催されている連続展示で発表された、約170枚にのぼる作品が収められている。そのほとんどがだれでも知っている名盤である「原盤」が、根本敬的としか言いようのないスタイルで徹底的に再解釈され、時には本歌の判らぬ本歌取りのごとき新たなオリジナリティを持って、僕らの感覚を混乱させる。

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art

もうひとつの『リリーのすべて』

最近忙しすぎて映画館にちっとも行けてないと愚痴をこぼしたら、「60歳になったんだから安くなるじゃない!」と教えられ、「シニア割」という言葉が生まれて初めて現実的に・・・しかしほんとに安い! ロードショーの通常大人料金が1800円なのに、シニアは1100円だから。で、さっそく行ってきたのが『リリーのすべて』。先週末に上映開始したばかりで、本年度アカデミー賞4部門にノミネート、アリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞(実質的には主演だが)を獲得した話題の新作だ。もう観たかたもいらっしゃるだろうか。『リリーのすべて』は性同一障害に苦しみ、世界最初期の性転換手術(性別適合手術)を受けて、男性画家アイナー・ヴェイナーから「リリー・エルベ」という女性になった主人公と、その妻でやはり画家だったゲルダの半生をめぐる物語である。

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photography

浅草暗黒大陸

広島県福山市の若き写真家・弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)が、2000年代のサンフランシスコ・アンダーグラウンド・シーンを撮影した写真展『SAN FRANCISCO』を、2015年4月8日号で紹介した(『テンダーロインをレアで』)。その展覧会と同じ新宿のギャラリーPLACE Mで今月11日から、こんどは「浅草」をテーマにした写真展が開催される。弓場井さんは1980年広島県生まれ。2003年から2008年までサンフランシスコの元祖オルタナティブ・マガジン『RE/Search』編集部で住み込みインターンとして生活。そのとき撮影された作品が去年の展覧会だったわけだが、サンフランシスコから帰国後は東京・浅草に居を移し、ホッピー通りにある煮込み屋で働きながら、「いつもポケットにコンパクトカメラを忍ばせて、仕事までの道すがら、休憩中、そして仕事中に撮影した」のが今回の作品群。

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fashion

捨てられないTシャツ 41

ユニコーン/40歳女性(アパレルPR)/母親の実家・広島で生まれ、幼稚園までは西明石、そのあと小学校まで神戸で暮らす。小1の終わりごろ、大学病院で働いていた父親が留学することになり、テキサス州ダラスに家族で引っ越した。平日は現地の小学校、土曜は日本人学校に通うが、とにかくカルチャーショックが凄くて。アイスクリームは学校で売ってるし、トイレに行ってる間に同級生が机からなにか盗もうとしてるし!

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travel

昼下がりのインディアン・コーヒーハウス

インドを旅するひとの多くが抱く不安、それが「腹具合」であることは、インド通にも異論がないだろう。体温以上の気温のなか、ふだん食べ慣れないスパイシーなインド料理を毎日食べていれば、どんなに丈夫な胃腸でも疲れが溜まるはず。ディスカバリーチャンネルで世界中の庶民の料理を食べ歩く人気番組『アンソニー世界を喰らう』を、もう10年以上も続けているシェフ兼作家のアンソニー・ボーデインによれば、「スタッフのなかでいちばん食あたりになりやすいのは、屋台料理や地元料理におじけづくタイプ、そういうやつに限ってホテルの朝食バイキングで腹を壊す」らしい。ま、そうは言っても、ベテラン旅人ですら「下痢の洗礼」をいちども受けずに長期間、インドを旅することは難しいはず。数日間のパック旅行ならともかく、ある程度の期間インドを旅する場合、否応なくヘビーローテーションすることになる店がある。それが「インディアン・コーヒーハウス」だ。

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design

ロンドンの地下鉄書体

その都市をもっともよくあらわす書体、というのがあるのかもしれない。たとえばパリの地下鉄の、アールヌーボー・スタイルの駅名表示。ロサンジェルスのハリウッド・サインなんかもそうだろうか。それがロンドンでは「地下鉄書体」と呼ばれる、あの地下鉄の駅にある文字であることに、異を唱えるひとはいないだろう。世界初の地下鉄がロンドンに生まれたのが1863年(ちなみに日本最初の地下鉄・東京の銀座線開通は1927年)。アメリカや日本のように「サブウェイ」ではなく、「アンダーグラウンド」あるいは「チューブ」と呼ばれているのはご存じのとおり。

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fashion

捨てられないTシャツ 44

SUMICHAN OKAERI!!!/32歳男性(会社員)/神戸生まれ。3人兄弟の長男で、妹がふたり。初めて住んだ場所は山口組本部のすぐ近くで、組の抗争による銃撃戦もあったらしいが、覚えていない。ちなみに桂文珍も近くに住んでいた。3歳の時に、現在の実家がある別の区に引っ越す。最初に住んだ環境が関係したわけではないと思うが、幼いころは癇癪持ちで、気に入らないことがあると、柱に頭突きをゴツゴツかまし続けたり、グオンとのけぞって後頭部を床に叩きつけようとする奇行に走るので、いつもオカンとおばあちゃんが座布団を持って動いていた。

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book

追憶のほんやら洞

2015年1月21日号で、火事で焼失した京都「ほんやら洞」のことを書いた。店主の甲斐扶佐義(かい・ふさよし)はあれから、もう一軒の店である木屋町の八文字屋で毎晩がんばりながら、大きな怪我も乗り越えながら、積極的に新刊を発表していて、こう言うとナンだが火事の前よりアクティブなようでもある。火事からほどなくして去年は『ほんやら洞日乗』という分厚い記録集を出したが(657ページ!)、それから一年たった今月には『追憶のほんやら洞』と題された、こちらは在りし日のほんやら洞を愛した人々による追憶の記録集。そして今月19日からは新宿イレギュラーリズムアサイラムで、出版記念写真展も開催される。

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メイド・イン・プリズン

毎年5月になるころ、立派な封筒に入った手紙が届く。裏には「法務省」とあって一瞬どきっとするが、6月初めに竹橋の科学技術館で開催される「全国刑務所作業製品展示即売会(全国矯正展)」のお知らせだ。いまから10年近く前、新宿駅西口地下広場とか、いろんな場所でバザーのように開かれている刑務所製品即売会に興味を抱くようになって、即売会のハシゴをしているうちに元締めの矯正協会ともお話できるようになった。そこで刑務所作業製品をデザインとして眺めて、一冊の本にできないかと思い始め、意外にもその突飛なアイデアを協会が受け入れてくれて、現場、つまり刑務所の内部にも取材に入れることになった。それはいろんな意味でスリリングな体験だったが、その結果は2008年の『刑務所良品』(アスペクト刊)という本にまとめることができた。

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photography

東京の穴ふたたび

2014年11月26日号『東京のマルコビッチの穴』で紹介した「ダクト・フォトグラファー」木原悠介のの写真展が、東京中目黒ポエティックスケープで始まっている(8月6日まで)。木原さんの写真に出会ってから、まだ2年にもならないけれど、最初からそのミステリアスな画面には強く引き込まれるなにかがあった。記事のなかで、僕は木原さんをこんなふうに紹介させてもらった――不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。

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北国のシュールレアリスト――「上原木呂2016」展によせて

上原木呂(うえはら・きろ)という、変わった名前を目にしたのは、『独居老人スタイル』で仙台のダダカンの取材をしていたころだった。ダダカンさんと長く親交を結び、2008年には東京で開催された『鬼放展――ダダカン 2008・糸井寛二の人と作品』を企画制作するいっぽう、自身もアーティストとしてマックス・エルンストやヤン・シュヴァンクマイエルと合同展を開き、おまけに新潟の老舗蔵元として日本酒の醸造や、地ビール第一号であるエチゴビールの生みの親でもあるという。しかも経歴は蔵元の跡取りなのに芸大に進学。すぐに中退してチンドン屋に入り、そこからイタリア・ローマに渡って古典仮面劇の道化役者として活躍。フェリーニの知遇を得たり、マカロニ・カンフー・アクション映画に多数出演したり!という日々を送った後に帰国。蔵元の五代目社長として家業を盛りたてつつ、コラージュや水墨画などの制作にも熱心に取り組み続け、社長業を退いた数年前からはツイッターで毎日、水墨画の仏画をアップ。「朝と晩と1時間ぐらいで、毎日30枚くらいは描きますかねえ・・・あと水彩とかいろいろ、大小あわせれば年に3万点くらいは作ってます」という、68歳にして恐るべき創作意欲の持ち主なのだ。

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劇的都市・新宿

早稲田大学の演劇博物館でいま、『あゝ新宿 スペクタクルとしての都市展』が開かれている(8月7日まで)。早大生でなくとも演劇博物館を訪れたことのあるひとは少なくないだろう。16世紀イギリスにあったフォーチュン座を模してつくられたというクラシカルな演博の建物と、ふんどし姿の唐十郎が新宿駅西口広場に立つイメージは異質に感じられるかもしれないが、早稲田があるのもまた新宿区なのだ。本メルマガではこれまで、新宿歴史博物館でシリーズ開催された昭和の新宿を振り返る企画を紹介してきたが、今回の展覧会では1960年代中頃から70年代までの――それはほとんど昭和40年代ということでもある――新宿という都市がもっとも混沌として、エネルギッシュであった時代をフィーチャーして、小規模ながら充実した資料展になっている。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.2 「デスメタルインドネシア」――小笠原和生と悪魔の音楽パラダイス

最近発売された「マニア本」の著者にお話を伺い、その情熱のお裾分けをいただくシリーズ第2弾は、『デスメタルインドネシア』! 実は「世界第2位のブルータルデスメタル大国」であるらしいインドネシアのシーンを362ページにわたって、それもA5版のサイズに極小文字で情報を詰め込んだ、造りからしてブルータルな、もちろん日本で初めてのインドネシア・デスメタル紹介本である。発行元の「パブリブ」は、今年3月9日号で紹介した『共産テクノ』の版元であり、本メルマガ連載「絶滅サイト」の著者ハマザキカクさんの個人出版プロジェクト。これまで『デスメタルアフリカ』や、『童貞の世界史 セックスをした事がない偉人達』といった書籍を発売しているが、このあと8月上旬発売予定の新刊が『ヒップホップコリア 韓国語ラップ読本』・・・どこまでマニアックなラインナップなんだろう。

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捨てられないTシャツ 51

JAWS2/48歳女性(編集者)/1968年、東京都葛飾区立石で生まれる。その後、吹きっさらし感全開の千葉の新興住宅地に移転。きょうだいは2歳下の弟と8歳下の妹の3人。家の隣はピーナツ畑だった。エアラインに勤めていた父が出張で成田空港を使うことが多いから、ここに建てたと親は言っていたが、経済的な理由も大きかったと思う。父は北海道の滝川の、訳ありで貧しい家の出身で、気合いと努力だけで東京に出てきた人。50歳過ぎまで奨学金を返済していた、と大人になってから聞いた。父は体が大きな人で、野性味と洗練と人間味がぐちゃぐちゃに混じった、なんともいえないチャームがあった。アクアスキュータムのトレンチコートがよく似合っていた。

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[新連載]Back in the ROADSIDE USA 01 Mütter Museum / Insectarium, Philadelphia

世界がいま壊れはじめてる、と思わない(思えない)ひとはどれくらいいるのだろうか。ひとを救うはずの宗教が殺し合うことを教え、日々の暮らしを豊かにするはずの原子力が何万人もを故郷から追い出し、世界の80人の大富豪が、残りの地球の全人口の半分にあたる35億人と等しい冨を所有するほどに貧富の差は拡大し、僕らは「飢饉できょうも子供が死んでいきます」というメッセージをテレビで見ながら、食べ過ぎのゲップを吐いている。そうやって世界のあちこちがほころびかけているなかで、とりわけアメリカ合衆国の壊れかたにはこころが痛むし、恐ろしくもある。ご承知のかたもいらっしゃるだろうが、2010年に『ROADSIDE USA』という本を出した。25センチ角の大判で528ページ、厚さにして4センチ! 値段も1万2000円(税別)という・・売れるはずもない巨大写真集だった。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.3 「ヤクザライフ」――上野友行のヤクザたらし交際術

ヤクザ系実話誌、というジャンルがあって、僕も嫌いではないのだが、いったいだれが読んでいるのだろうといつも思う。暴力団排除条例ができて、締め付けが厳しくなるいっぽうなのに、そういう雑誌はなくならない。書かれてる当のヤクザが主力読者というわけでもないだろうから、一般の人間が大組織の親分同士の杯外交とか、昔ながらの任侠道でシャブは御法度、みたいな話を読んで、どれだけおもしろがれるのか、よくわからない。それはある種の歴史ファンタジーか、RPGゲームを楽しむような感覚だろうか。そういう伝説というか、実話誌が描くフィクションに近いヤクザ世界とちがって、すぐそこにいるヤクザや地下格闘技や暴走族のことを、ずっと教えてくれている貴重な友人が上野友行くんだ。上野くんはフリー編集者として「週刊実話ザ・タブー」や「ナックルズ」など、さまざまな雑誌に記事を書くかたわら、これまで『デキるヤクザの人たらし交際術』『「隠れ不良」からわが身を守る生活防衛術』という、実際役に立つかどうかはともかく、タイトルからして楽しくてしょうがない本を出していて、さらに人気絶頂の漫画『闇金ウシジマくん』の「闇社会コンサルティング」も務めている。そのウシジマくんの作者・真鍋昌平が表紙画を担当した、装幀からして危険な匂いが漂う新刊が『ヤクザライフ』(双葉社刊)だ。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.4 「ハプバー入門/探訪」編――元鞘と肉欲のジャムセッション

「元鞘」(もとさや)という妙なハンドルネームの女の子に出会ったのは、まだ3ヶ月ほど前のことだった。ある食事会で隣に座った彼女は、23歳という若さの巨乳美少女なのに、からだじゅうから隠しきれないセクシーなエネルギーを放っていて、漫画家だというので「どんなの描いてるんですか」と聞いたら、渡された一冊の同人誌が『元ハプニングバー店員による、独断と偏見のハプバー入門』・・・。雑誌のルポかなにかの仕事かと思ったら、「いえいえ、自分がハプバーを好きすぎて、一時は店員として働いてたくらいなので、ハプバーの良さを知ってもらいたくて作ったんです!」という。「それで、これは『入門編』なんですけど、もうすぐ実践的な『探訪編』も出します!」というので、初対面のその場でいきなり取材をお願いしてしまった。これまで本メルマガではさまざまな性にまつわる話題を紹介してきたけれど、ハプニングバーについての記事は今回が初めてかもしれない。

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ペルソナのいる役所

「マネキン」と「京都」で思い出さないわけにいかなかったのが、ずいぶん前に取材した京都府庁の「ペルソナ」。もともと週刊誌のために2010年に取材して、本メルマガでも2014年5月7日号で再録した。なのでロードサイダーズのウェブサイトからアーカイブを辿っていただければ読めるけれど、せっかくなのでオマケとしてここにつけておく。しかしあれ、いまはどうなってるんだろう? 府庁の職員さんたちは、いまもマネキンに見つめられながらお仕事に励んでるんだろうか?

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『僕的九州遺産』開幕!

先週、誌上プレビューした福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産 My private Kyushu』、先週土曜日になんとか無事、開幕できました! 福岡という展覧会は初めての場所で、どれだけのひとが来てくれるかと心配でしたが、おかげさまで10月1日のオープニングは大盛況。一時は入場制限がかかるほど、たくさんのお客様が来てくれました。ほんとうにありがとう! 展示内容については先週号で詳しく紹介したので、もう繰り返しませんが、今週は会場をご案内します。

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ハロー・マイ・ビッグ・ビッグ・ハニー!

いまから10年以上前に、バンコクの書店で見つけた本があった。『ハロー・マイ・ビッグ・ビッグ・ハニー!』というその一冊は、バンコクの売春婦にハマった欧米人のラブレターを集めた楽しい奇書で、2006年に紀伊國屋書店の広報誌で書評を書いたあと、書評集『ROADSIDE BOOKS』にも収められたが、なにせ版元がラストギャスプというサンフランシスコのサブカル系出版社なこともあって、なかなか日本では手に取る機会もないかと思っていたら・・・なんと最近、Kindleの電子版が出ていることをTwitterで教えていただいた。

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東京・東と西のロウブロウ

高級割烹の職人が遊びで牛丼作っても似合わないように、ハイエンド・オーディオショップの試聴室でゴリゴリのラップをかけても気持ちよくないように(ちがうか?)、ロウブロウ・アートには銀座や表参道の高級アートギャラリーよりも、やっぱり得体の知れない(失礼!)場末のスペースがしっくりくる。ちょうどいま、これまで本メルマガで紹介してきたアーティストの小さな展覧会が、東京の東側と西側で開催中。急いでハシゴしてきたので、急いでご報告する!

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fashion

捨てられないTシャツ 62

ネズミ講/31歳男性(半野宿会社員)/佐賀県出身。中学生の頃、校内で乱闘騒ぎがあり、暇だったので傍観していた。「見ているだけでもイジメです」との理由で反省文を書かされた。『人間社会の成り立ちは闘争の歴史であり、戦争行為も法律で規定されているということは、人間の本質的な因子の中に暴力は組み込まれており、そこに勝者と敗者が介在するのはイジメる遺伝子を持つ人間とイジメられる遺伝子を持つ人間がいるからであり、抜本的にイジメを根絶するためには道徳ではなく、人類全体の遺伝子治療が必要だ』という旨をしたためて提出した。

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水枕 氷枕

いかにも金沢らしい築百年という町家。浅野川に面したその家の1階は、2万冊を超える蔵書が並ぶ私設図書館。2階に上がれば畳敷の展示室。ホワイトキューブの美術館やギャラリーとはかけ離れた、ゆったりと静かな空間で福田尚代展『水枕 氷枕』が開催中だ(11月21日まで)。本メルマガ2015年5月20日号で紹介した福田さんは、アーティストであり回文作家でもある。1967年、埼玉県浦和市生まれ。東京芸大・油絵科から大学院で学び、アメリカ・ワシントン州の森の中の小さな町で暮らしたのちに帰国。市役所、プラネタリウム、絵画教室、郵便局・・・いろいろな仕事で生計を立てながら、ずっと制作を続けている。

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『BAZOOKA!!!』の遺産

高校生ラップ選手権、北九州成人式、ヤリマンの主張、練マザファッカーx新垣隆・・・バラエティ番組のかたちをとりながら、地上波ではとうてい望めないひりついたリアルを毎回教えてくれた『BAZOOKA!!!』が終わってしまって、もう2ヶ月になる。僕も何度か出演させてもらい、このメルマガでも高校生ラップ選手権を中心にお伝えしてきたので、『BAZOOKA!!!』ファンの読者もきっといるはず。番組終了から少し時間が経ってしまったけれど、まだYouTube上にはたくさんの映像が残っている。今回は総合演出の岡宗秀吾さんと、僕を『BAZOOKA!!!』に誘ってくれた構成作家の堀雅人さんにお話を聞きながら、このユニークな、というより日本のテレビ業界では奇跡的と呼びたい番組を振り返っておきたい。

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捨てられないTシャツ 66

RUSSELL/38歳男性(出版社勤務)/徳川埋蔵金で話題になった群馬県赤城村(いまは合併して赤城町)の生まれ。本はまったく読まず、音楽もそんなに聞かず、まわりがやってるから野球をやるような、主体性があまりない子どもだった。その、のんびりした感じは高校卒業まで続くが、実は家庭環境は複雑で、母親が自殺未遂したり、父親は出ていったり、また戻ってきたりを繰り返すようなぐちゃぐちゃな感じだった(両親は一度離婚、現在は復縁後にまた父親が出ていってしまった状態が続いている)。

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捨てられないTシャツ 67

川崎ゆきおの「ガキ帝国」/54歳男性(音楽評論家)/神戸生まれ、神戸育ち。小さい頃から引っ越しの多い家庭で、覚えているのは幼稚園のころに住んでいた西宮あたりから。近くでガス爆発があり、父親が嬉しそうに見に行ったのを記憶している。そのころから本が好きで、住んでいたボロ屋に台風がきても、屋根修理の傍らロウソクで本を読んでいるような子供だった。小学生になると三宮近くの市営住宅に越し、そこで卒業まで過ごす。大安亭市場の近くの大変ガラのよくない場所で、クジラの解体場がとてつもない異臭を払っていた。

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ウーフではない井上洋介

この夏『神は局部に宿る』展を開いた渋谷アツコバルーで、いま『井上洋介 絵画作品展』が開催されている(12月25日まで)。会期末ぎりぎりになってしまったが、見逃すにはあまりに惜しい機会なので、急いでご紹介したい。井上洋介は画家・イラストレーター・絵本作家という肩書きになっているが、多くのひとにとっては童話『くまの子ウーフ』の絵で知られているだろう(文:神沢利子)。だれが描いたのか名前は知らなくても、ウーフの絵を見ただけで胸がキュッとなる読者が、たくさんいるのではなかろうか。『くまの子ウーフ』の世代ではまったくない僕にとって、井上洋介はまず、お茶の水の「レモン画翠」の挿画のひとだった。創業が大正期にさかのぼるというレモン画翠は、お茶の水がちゃんとした学生街だった時代に、画材店と喫茶店が一緒になった、すごくお洒落な場所だった。井上さんは劇団・天井桟敷の美術担当をしていたこともあって、レモンの広告で見ていたイラストレーションは、絵本とはまたちがう味の、アイロニーやユーモアやエロティシズムを濃厚に漂わせたオトナの世界観でもある。

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手芸のアナザーサイド 3 小嶋独観子と「ミシン絵画」

「ご本人のご意向により、記事を削除いたしました。

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築地魚河岸ブルース

いよいよ今年、もう待ったなしの築地魚河岸はどうなるのだろうか。本メルマガ2014年2月12日号『夜をスキャンせよ』で紹介した「白目写真」の沼田学による新作展が、1月6日から歌舞伎町の新宿眼科画廊で開催される。タイトルは『築地魚河岸ブルース』、築地に働く男たちを定点観測のように記録したシリーズだ。これまで築地をテーマにした写真は数えきれないほど発表されてきた。日本だけでなく、海外の写真家による写真集もたくさんある。先日も本橋成一による15年間の築地通いの成果をまとめた『築地魚河岸ひとの町』が日英バイリンガルで出版されたばかりだし(朝日新聞出版社)、いざ移転となればこれからもさまざまなメディアで、多くの作品が発表されていくのだろう。

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『中国遊園地大図鑑』発刊を祝して!

元旦に送らせていただいた購読者限定プレゼント『DOMMUNE スナック芸術丸・ゆきゆきてユーロビート』、ご覧いただけたろうか。12月19日の21時から24時過ぎまで生配信した番組の直前、19時から2時間にわたって配信されたのが『中国遊園地大図鑑』。ユーロビート特集と一緒に再配信されたので、こちらも見た、というひとが少なからずいらっしゃるのでは。本来、こっちのほうが「スナック芸術丸」向きだったかもですが・・・。『中国遊園地大図鑑』は日本各地と中国の珍スポット・ハンターである関上武司(せきがみ・たけし)さんによる新刊。

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「媚び」の構造

異常な絵を見た。『萬婆羅漢図』と題されたその絵は、一見よくある羅漢図なのだが、よく見ると羅漢さまたちの足下には5人ほどのマンバギャルが群れている。マンバだから「萬婆」。マンバたちはガラケーの画面を羅漢さんに見せたり、脱色した髪にコテを当てたり、マックシェイクを地面に置いてタバコを吸ったりしていて、仙境と渋谷センター街が合体した趣でもある。そして不思議に違和感がない。日本的な羅漢図の持つデコラティブな画面と、マンバのデコラティブな存在感が、ひとつのイメージに統合されているからだろうか。作者の近藤智美(こんどう・さとみ)さんは自身がもともとマンバで、引退後はキャバ嬢から「軟禁経験」などを経て、独学で展覧会を開くようになったアーティストと聞いて、ますます興味をひかれ、新宿歌舞伎町そばのアトリエにうかがわせてもらった。

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photography

『NOZOMI』増田貴大写真集、発売!

去年11月9日号で特集した「新幹線車窓写真家」増田貴大の初作品集が、めでたく発売になった。『NOZOMI』・・・いいタイトルだなあ。『時速250キロの車窓から』と題した記事を読んでくれたかたはおわかりだろうが、増田さんは検査用の血液検体を運ぶという珍しい仕事で、新大阪と広島のあいだを毎日2往復しながら、乗車中ずっとデッキに立って、窓に貼りついて景色を撮影している。それだけでは生活が成り立たないので、「午前中、あべのハルカスで医療フロアへの案内看板持ちもやってるんです。朝9時から12時までハルカスで、そこから急いで新大阪に移動して、新幹線に乗って。家に帰れるのは夜11時ごろになっちゃうので、車窓写真しか撮れないです」。

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lifestyle

快楽の先のどこか

某日、品川のシティホテル、ツインルーム。ベッドの上で全裸の女が、ときに声をあげながらからだをくねらせる。そこにヒゲ面、サングラス、短パン姿の初老男性がのしかかり、局部に指を這わせ、ヒゲで乳首をこすり、手の甲に生えた毛まで使って「マッサージ」を続けている。こちらは隣のベッドに座って見ているだけ。さっきから1時間あまりも続いていたセッションは、女が何度目か全身を突っ張らせてからだを震わせたあと、「じゃあここらでひと休みしましょうか」という声で、仕切り直しになった。男の名は玄斎(げんさい)。ふだんは鍼灸マッサージの店を都内で開業しながら、それとは別に「回氣堂玄斎」という名で、性の喜びによって心身の変調や歪みを治癒する「快楽術(けらくじゅつ)」を実践して、もう30年以上というマスター・セラピストなのだ。

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fashion

「べっぴん」と「別品」――ファッション都市神戸展によせて

今年は神戸開港150周年だそう。1868年(慶応4年、明治元年)1月1日正午に開港した神戸港を記念して、いま神戸ではさまざまな催しを実施中。本メルマガではおなじみの神戸ファッション美術館でも、『ファッション都市神戸――輝かしき国際港と地場産業の変遷』という、タイトルは硬めだが、そこはファッション美術館らしいヒネリの利いた展覧会を開催中だ。「神戸洋服」や「神戸靴」という言葉があるように、日本の洋服産業の発展は神戸という土地を抜きにして考えられない。横浜とも、銀座ともちがう神戸ならではのファッション・センスがかつて、たしかにあった(もしかしたら現在も)。今回の展覧会では開港時、鹿鳴館から、バブル前夜のDCブランドまで、それぞれの時代を飾った洋服を、一部当時のマネキンと組み合わせて見せるという凝った展示スタイルである。

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photography

追悼 レン・ハン

すでにSNSなどでニュースを知ったかたもいらっしゃるだろうが、2月24日、中国の写真家・任航 (Ren Hang=レン・ハン)が亡くなった。レン・ハンは本メルマガの2014年12月10日配信号で特集した、中国写真界の若きスターだった。記事中で書いたが、その秋の東京アートブックフェアで、台湾から参加したブースでレン・ハンの写真集『SON AND BITCH』を見つけ、衝撃的な内容に驚愕。さっそく北京在住のジャーナリスト、吉井忍さんにお願いしてインタビューしてもらったのだった。それから2年と少し、レン・ハンはヨーロッパ各地で大きな展覧会を続けざまに開催。タッシェンから分厚い作品集が発売され、いまこの時もストックホルムの写真美術館フォトグラーフィカで個展が始まったばかりである。それなのに自殺してしまった彼は、まだ30歳の若さだった。

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music

IDOL DOMMUNE ―― 地下アイドルとヲタのプラトニック恋愛譚

2月9日に配信されたDOMMUNEスナック芸術丸「IDOL STYLE連載30回突破記念/ヲタの細道」、楽しんでいただけたろうか。アイドル雑誌「EX大衆」での連載が30回を超えた記念番組だったが、その前回のユーロビートほどではないにしろ、地下アイドル、それもアイドルよりもヲタに焦点を当てた2時間。音楽にシビアなDOMMUNEの視聴者がどれだけついてきてくれるのか不安だったが、結果としてはかなり盛り上がってもらえたようで、ひと安心。今週は例によってDOMMUNEのご厚意により、再視聴リンクをプレゼントする。後半のベルリンからのDJタイムを含め5時間強。メルマガ読者限定なので、ひそやかに、たっぷりお楽しみいただきたい。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 27 Elvis Is Alive Museum, Wright City, MO

地図を見ると、アメリカ合衆国の真ん中近くに位置しているミズーリ州。別名「ハートランド」と呼ばれる所以だ。ちなみにアメリカの人口の約半分が、ミズーリ州を中心とした半径800km内に住んでいるという。ミズーリ州は東と西の端に、セントルイスとカンザスシティという2大都市を擁し、そのあいだは広大な自然というか、非常にスカスカな大空間が横たわっている。つまりミズーリを旅しようというものはたいがい、セントルイスとカンザスシティを真横に結ぶインターステート70号線を軸に、ときたま脇にそれたりしながらドライブするということになる。スカスカなようでいて、しかしあふれんばかりのロードサイド・アトラクションが隠れるミズーリは、珍スポット・ハンターにとっては外せない重要ステートでもある。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 27 Laclede's Landing Wax Museum, St. Louis, MO

「セントルイスロウ人形館」とも呼ばれるラクリーズ・ランディングのロウ人形館、建物自体は1885年の歴史的建造物と由緒正しいが、内部はかなりなB級感覚満載。人形はロンドンで作られ、髪の毛はイタリア、ガラスの義眼はドイツからとうたっているが、とにかくあまりにもチープな出来で、かえって懐かしい場末感を醸し出している。ひとりひとりが似てないのはもちろん、たとえばサルバドール・ダリとハワード・ヒューズとか、人形同士の組み合わせもすごい。キリストの最後の晩餐は、メキシコの風景だし、月に降り立ったアームストロング船長は、なんと宇宙服の頭部がなく、しかも靴はスキーブーツ、手袋もスキー用というファンキーなスタイリング。汚れたガラスと安っぽい壁紙で仕切られた部屋に立つ人形たちは、もの悲しさを通り越したシュールな表情が感じられる。

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book

エクストリームSM画師ファレル

いまやオシャレの範疇に入れられている多くのSM/フェティッシュ系アーティストも、ポルノショップや特殊書店のみで流通する書籍から生まれてきたのだったが、1960年代からすでに50年以上にわたって、ハードコアなSMアートワークを断続的に発表してきたひとりに「ファレル(Joseph Farrel)」がいる。日本では(というかフランスの一般書店でも)滅多に見ることのできないファレルの作品を200点以上収録したハードカバー、限定600部の作品集がこのほど完成、中野タコシェにも入荷していて、さっそく見せてもらった。

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fashion

アリス・イン・フューチャーランド 第1回

サイトウケイスケという画家と出会ったのは2013年だった。『ヒップホップの詩人たち』のトークイベントで声をかけてくれたのだったが、1982年山形に生まれて、ずっと山形で活動していたサイトウくんは、ちょうど30歳になったその年に東京に移住。それからずっと、働きながら絵を描いている。去年の夏から秋にかけて原宿、高円寺界隈をサイトウくんとうろついていた時期があった。「都築さん、ネオカワイイって知ってます?」と聞かれて、「なにそれ?」と尋ねたら、「なんか、不思議な感じの女の子たちと、原宿や高円寺や、イベント会場でいっぱい会うようになって~」と言う。

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art

房総の三日月

千葉県市原市、と言われてピンとくるひとはどれくらいいるだろうか。ジェフユナイテッド? ぞうの国? 鉄ちゃんなら可愛らしい小湊鐵道を思い出すかもしれない。房総半島のほぼ中央に位置する市原市は、市制施行50周年を記念して2014年にアートイベント「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」を開催。いま、その2回目となる「いちはらアート×ミックス2017」が開かれている。別に国際的ならいいというわけではないけれど、今回は外国からの参加作家がロシア人アーティストひとりだけという、ぐっとドメスティックな顔ぶれ。車なら東京都心から1時間半足らずなのに、点在する会場を電車とバスを乗り継いで回るのはかなり困難が伴うアクセスの不便さ。正直言って町おこしアートイベントの典型的な失敗例というか・・・あまりお勧めできるような内容ではないのだが、にもかかわらず今週みなさまをお連れするのは、唯一の外国人参加作家であるレオニート・チシコフ(Leonid Tishkov)を紹介したいから。

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book

俳句と写真のマッシュアップ・ミュージック――『鉄砲百合の射程距離』

ひとつずつではなくて、ふたつかそれ以上合わさったときだけに生まれる気持ちよさというものがある。まあセックスもそうかもしれないけど、音楽だとたまにDJが、クラブフロアでそういう快感を生み出してくれる瞬間がある。似ていたり、共通するなにかがある複数の音源を合わせていくのがミックスだが、共通するところがなさそうな複数の音源を合わせて、意外な効果を生むのがマッシュアップ。『鉄砲百合の射程距離』という奇妙な題名の「句集」を見せられて、瞬間的に浮かんだ言葉がマッシュアップだった。『鉄砲百合の射程距離』(月曜社刊)は内田美紗(うちだ・みさ)の俳句と、森山大道の写真が、編集者の大竹昭子によって組み合わされた=マッシュアップされた句集でもあり、写真集でもある。たとえば桜の花を詠んだ句に満開の桜の写真、などというのではなくて、一見まるで関連のないような俳句と写真のイメージが、ページ上でひとつに合わさって、それぞれ単体の作品とはまた異なる表情を僕らに見せてくれる。そういうスリルを教えてくれる本である。

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design

失われた「童謡レコジャケ」世界

吉岡里奈展が開催される幡ヶ谷パールブックショップ&ギャラリーでは、その前週に吉岡さんの「発見者」とも言える山口“グッチ”佳宏による『Kawaii!! 童謡レコジャケの世界』展が開催されるので、こちらも紹介しておきたい。グッチさんのレコード・コレクションといえば、本メルマガ2012年2月15日号『昭和のレコードデザイン集』を皮切りに、「お色気レコジャケ」の記事や展示会など何度も紹介してきたので、おなじみのはず。2015年7月15日号では『目眩くナレーション・レコードの世界』と題して、1960年代から70年代にかけて徒花のように生まれ消えていった「お色気レコードジャケット」を大特集した。そのグッチさんが今回展示するのは「お色気」とは正反対の「童謡」! すでに著書『昭和のレコードデザイン集』などでもコレクションが掲載されているが、もしかしたら「お色気」以上に実物を目にすることが難しい、貴重な展示になるはずだ。

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travel

圏外の街角から:キャバレーと路地裏迷宮の若松

先週末から福岡ギャラリー・ルーモで開催中の『キャバレー・ベラミの記憶展』にもなんとか間に合い、会場でUSB版を販売中だ。昨秋、福岡アルティアムで『僕的九州遺産』展を開き、関連イベントとして企画されたバスツアーで僕はかつてのベラミ従業員寮=「ベラミ山荘」を訪れ、そこで電子書籍に収録した写真コレクションに出会ったのだったが、会場に遊びに来てくれたのが木村勝見さん。もともと日劇ダンシングチームのメンバーで、九州に移住してからは奥様の樽見タツ子さんと共に「ザ・インパルス」というユニットを結成。日本全国のキャバレーやホテル、クラブのステージに立ち、ベラミでもよく踊っていたのだという。

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travel

気まぐれドライブ・タイランド 2 ナコンパトムの龍城地獄

バンコク市内からクルマで1時間ほどの郊外ナコンパトムは、タイの伝統文化を観賞するローズガーデンや、ゾウのショーで知られるサンプラン動物園など、団体観光系のスポットが集まるエリアだ。バンコクからほぼ真西の隣県であり、インドシナ半島のうちで、インドからの僧によって最初に仏教がもたらされた伝来の地であるそうで、市内中心部には全高120.45メートルという世界一高い仏塔プラ・パトム・チェディがあったり、それほど知られていないが珍スポット系では重要なロウ人形館『ヒューマン・イメジャリー・ミュージアム』、タイの「昭和なつかし館」的な『ハウス・オヴ・ミュージアムス』、それに国立のフィルムセンターである『ナショナル・フィルム・アーカイヴ』などは本メルマガでも2012年3月28日号でまとめて紹介した。先週紹介したワット・スラ・ロン・ウアがあるカンチャナブリとバンコクのあいだに挟まれたナコンパトムには、珍寺ファンに広く知られた『ワット・サンプラン(Wat Samphran)』がある。多くのブログや佐藤健寿さんの『奇界遺産』でも取り上げているので、すでに訪れたかたもいらっしゃるのではないか。

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book

愛されすぎたぬいぐるみたち

『捨てられないTシャツ』フェアを開いてくれていた新宿紀伊國屋書店にうかがったとき、担当の書店員さんが「こんなのも出たんですよ」と教えてくれたのが『愛されすぎたぬいぐるみたち』だった。題名どおり、愛されすぎてボロボロになってしまって、でも大切にとっておかれたぬいぐるみたちを、所有者の短いコメントとともに集めた可愛らしい写真集だ。原本の『MUCH LOVED』は2013年に発売され、大きな話題を呼んだという。著者のマーク・ニクソンはダブリンを本拠にするアイルランド人写真家で、息子が大切にしているピーターラビットを見ているうちに、自分も子供のころはパンダの縫いぐるみに夢中だったことを思い出し、周囲の人たちに声をかけて、大切なぬいぐるみを撮影するようになった。

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book

百点の銀座

『銀座百点』という雑誌をご存じだろうか。銀座の老舗に行くと、たいていレジ脇に積んである小さな雑誌を、あああれかと思い出すひともいるだろう。銀座の名店の連合会「銀座百店会」が発行する月刊誌が『銀座百点』。誌名が「百店」でなく「百点」であることからわかるように、単なる会員店舗の宣伝誌ではなく、銀座という街の魅力を紹介し、語り尽くそうという「日本最初のタウン誌」なのだ。創刊号が1955年発行、さっき銀座の千疋屋でもらってきた2017年7月号の表紙には第752号とある。

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photography

遺された家の記憶

かつて「グラフ雑誌」というものがあった。「アサヒグラフ」「毎日グラフ」など、アメリカの「LIFE」を範とするグラフ・ジャーナリズムは20世紀の報道媒体として重要な役割を果たしてきたのだが、そうしたグラフ誌が全滅してしまった現在、とりわけ硬派なドキュメンタリー・フォトグラファーにとっては厳しい状況が続いている。ネットがあるじゃないかと言っても、個人での発信は影響力でも経済力でも全国誌とは比べものにならないし、セールスが期待できない写真集を出そうという出版社は減るばかりだ。そんな現状でときたま、時間をかけて丁寧につくられたドキュメンタリー作品に出会うと、背筋が伸びる思いがする。『遺された家』は奈良県在住の写真家・太田順一が去年12月に発表した写真集だ。大阪の朝鮮人コミュニティ、沖縄人コミュニティ、ハンセン病療養所など、入り込むことすら簡単ではないテーマばかりを選び、「歩いてなんぼ」と通い詰めて本にまとめてきた太田さんにとって、これは久しぶりの写真集になる。

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art

リボーンアートフェス・フリンジ・ツアー

先々週に特集したばかりの札幌国際芸術祭をはじめ、8月は各地でアートフェス真っ盛り。横浜トリエンナーレのようなメジャー級から、町おこしサイズのイベントまで大小さまざまだが、東日本大震災で被災した石巻市では「リボーンアート・フェスティバル(Reborn-Art Festival 2017)が開催中だ。9月10日までと会期終了が近づいたタイミングではあるが、札幌と同じくロードサイダーズらしいフリンジ系をめぐる駆け足ツアーに、今週はお連れしたい。「アートと音楽と食で彩る新しいお祭り」・・・のキャッチフレーズに惹かれるかは微妙なところだが、リボーンアート・フェスが気になったのは、このメルマガで何度かフィーチャーした北九州小倉在住のアーティスト/スケートボーダー/彫り師であるBABUが参加すると聞いたのがきっかけだった。

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art

ことばの彫刻家、荒井美波

なにもこのタイミングを見計らったわけではないが、いま阿佐ヶ谷のTAVギャラリーでは、藤井健仁とは対照的な、やはり金属を使った立体作品の展覧会が開かれている。荒井美波『行為の軌跡III』、恵比寿トラウマリスから3年ぶりの個展だ。いまは残念ながらなくなってしまった、美大の卒業制作を対象にした公募展「三菱ケミカル・ジュニア・デザイナーズ・アワード」で、2013年の佳作を受賞したのが荒井さんだった。僕も審査員をつとめていて、審査会場で作品と出会ったのだったが、「デザイン」と言えるかどうかは別にして、その発想とセンスには一同唸らされた。

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design

博士の異常な記録愛――西山夘三のすまい採集帖

『TOKYO STYLE』に取りかかる直前、京都に2年ほど暮らしていた。1990年前後の京都はバブル絶頂期で、伝統的な街並みに「ポストモダン」という名の現代建築が乱立し、あまりの醜さに僕は『テレスコープ』というオルタナ系の小さな建築雑誌で『京都残酷物語』なる特集を作らせてもらい、それはのちに抜き刷りの小冊子にもなった。京都の南北を分断する巨大な壁のごとき駅ビルが、設計コンペで原広司案に決まったのも1991年のことだった。当時、バブルに踊る京都土木&建築界の片隅で、昔ながらの街並みを保存しようという運動も地道に展開していて、京都に来たばかりの僕が知ったのは、西山夘三という左派建築論客の象徴のような、元気なおじいさんがいるということだった。

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photography

どうでもいいものの輝き――平原当麻の写真を見る

写真ファンならご存じだろうが、東京新宿一丁目あたりには写真専門のギャラリーが何軒か集まっている。中にはひとつのビルに複数のギャラリーが入っていることもあるので、ついでに覗いてみた展覧会で予期せぬ出会いや発見があったりもする。先日、用事があって写真家の瀬戸正人さんらが運営するギャラリーPLACE Mに行ったとき、階下のRED Photo Galleryで展覧会を開いていたのが平原当麻さんだった。REDは若手の写真家十数人が共同で運営するギャラリーで、各自が年に何度か展覧会を開くことになっていて、そのときちょうど平原当麻さんが『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ』という、お洒落でジャジーなタイトルの、ぜんぜんお洒落でもジャジーでもない都市風景を撮りためたプリントを展示していたのだった。

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art

そう来たかラッシーくん!

今年6月、金沢21世紀美術館で『川越ゆりえ 弱虫標本』展の公開対談をしたときのこと。終了後にそのまま机を寄せ集めて懇親会が始まって、しばらくしたら「私の作品、見てもらえませんか」と話しかけられた。へ~、どんな絵描かれるんですかと聞いたら、「いえ、自分が描くんじゃなくて、いろんなアーティストのかたにお願いして描いてもらってるんです」という。アーティストにコミッション! 一見、ごくふつうの主婦という感じの方なのに・・・とびっくりしていると、葉書をちょっと大きくしたくらいの紙束をリボンで閉じた画集?を手渡された。表紙には『ラッシーくん作品集』と書かれている。ラッシーくんって? 「あ、うちの愛犬なんです。いろんなアーティストのかたに、ラッシーくんをモチーフに描いてもらったコレクションなんです」と言われ、絶句したまま開いてみると、まさに! 油絵に水彩画、木彫にペーパークラフトまで、さまざまなラッシーくんアートが何十点も集められ、しかもそのほとんどの作品写真が、本物のラッシーくんと一緒に写されている。

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photography

自撮りのおんな2017

2016年2月10日配信号で初めて紹介した「自撮り熟女」田岡まきえ=マキエマキさん。あれから1年半経って、ずいぶん溜まった新作をこの11月に銀座1丁目の古風なギャラリービル「奥野ビル」内の銀座モダンアートでご披露する。ツイッターやFacebookなどSNSでの発信がすごく活発で、あまりご無沙汰感がないけれど、実は久しぶりのマキエさんに、この1年半のことを聞いてみようとお茶に誘ってみた。で、入ってきたマキエさんを見てびっくり。去年よりずっと若返ってる!

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photography

「TOKYO STYLE/LIVING ROOM」瀬戸正人x都築響一・二人展

東京・新宿御苑の大木戸門から新宿方向に広がる新宿1丁目界隈が、写真専門ギャラリーの集まるエリアとなって久しい。通常の商業画廊ではなく、写真家たちがみずから運営することで、発表の場をつくり育てようという、ノンプロフィット・ベースのギャラリーが集まっているのが特徴だ。なかでも老舗のPLACE Mは、写真家の大野伸彦、瀬戸正人、中居裕恭、森山大道らによって運営される「写真の実験の場」として1987年に設立。今年で30周年を迎えた。本メルマガでもPLACE Mで開催される展覧会をずいぶん紹介してきたし、写真ファンにはおなじみのギャラリーだろう。そのPLACE M30周年を記念して、代表の瀬戸正人(せと・まさと)さんに声をかけていただき、二人展を開催することになった。グループ展はよくあるけれど、二人展というのは僕にとって初めてかもしれない。

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photography

「TOKYO STYLE/LIVING ROOM」開催中!

先週号でお伝えしたように東京・新宿御苑の写真専門ギャラリー、PLACE M30周年を記念して、代表の瀬戸正人(せと・まさと)さんとの二人展「TOKYO STYLE/LIVING ROOM」が月曜日にスタートした。1996年に発刊されて、その年の第21回木村伊兵衛賞を受賞した瀬戸さんの『部屋 Living Room, Tokyo』(新潮社)と、1993年に出版した僕の『TOKYO STYLE』。どちらもバブル崩壊直後という時期に、東京の部屋から部屋へとさまよった記録である。

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food & drink

新連載! Neverland Diner 二度と行けないあの店で 01

誰にでも、二度と行けない、あるいは、二度と行かない、あの店がある。インスタ映えとか、食べログ3.5点以上!とかのおかげで、わたしたちの最近は「どこに新しいお店ができて、あそこのあの料理は最高に美味しくて、あの店にまだいってないの?」ということばかり。そりゃ人生、できたら美味しいものばかり食べていきたいけど、でもそれより、「どこにあるかわかんねー」とか「もうなくなっちゃったよ」とか「事情があっていけない」とか「やらかしていけない」とか「くっそまずくてもう行かねえ!」とか、そういう誰かの二度と行けない(行かない)店のほうが、よっぽど興味がある。これから1年と少しをかけて、そんな「あの店」を集めた連載を始めます。どの店もドアを3cmくらい開けて、覗き見したくなるに決まってる。残念ながら、行けないんだけど。

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art

バスキアの「描かれた音楽」

少し前にZOZOTOWNの創業者がバスキアの初期作品を約123億円で買ったニュースが、ネットで話題になった。落札された作品は1982年、バスキアが現代美術界にデビューした最初期の作品で、それは僕がバスキアに初めて会った年でもあった。いまロンドンのバービカン・ギャラリーでイギリス初の大規模な回顧展『Basquiat: Boom for Real』が開催中だ(2018年1月28日まで)。1960年12月22日に生まれ、1988年8月12日にわずか27歳の生涯を終えたジャン=ミッシェル・バスキアは、今世紀に入ってからも2005年のブルックリン美術館をはじめ、いくつか大規模な回顧展が開かれてきたが、それでも現代美術史にこれだけ決定的な影響を与えたアーティストにしては、展覧会の少なさのほうが気にかかる。ちなみに「ブーム・フォア・リアル」というのは、王冠などと同じくバスキアの作品によく登場するフレーズで、意訳すれば「うわ、まじか!」みたいな感じだろうか。

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book

健全な本づくりとは――インド・タラブックスの挑戦

先週、告知で小さくお知らせしたが、いま東京・板橋区立美術館でインドの出版社タラブックスの展覧会が開かれている。『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』と題されたこの展覧会は、12月22日には皇后さまが訪れたこともニュースになった。このメルマガで、皇族が観賞するような展覧会を扱うのは、もしかしたら初めてかも・・・。タラブックス展は開幕前から気になっていたが、正直言って行くのを迷ってもいた。見てしまったら、あんなふうに手作り本をつくりたくてたまらなくなるだろうし、それはいま僕が進もうとしている本づくりとはずいぶんちがう方向だと思ったから。でも、もちろんこの展覧会は、どんなかたちでも本づくりに、いや物づくりに興味ある人間にとって、最高度に刺激的な体験になってくれる。

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art

日常版画家・重野克明

中学のころに初めてアンディ・ウォーホル展を観たのは東京駅の大丸だった。アレン・ジョーンズ展を観たのは新宿伊勢丹だったし、美術書や写真集コレクションの泥沼に引き込んでくれたのは池袋西武にあったアールヴィヴァン(現・ナディッフ)だった。いま、「デパート画廊」というものは現代美術の一線から退いてしまった感があるけれど、それでも興味深い展覧会はずいぶん開かれている。ときどき気になるのが日本橋と新宿のタカシマヤで、日本橋店の6階美術画廊Xではきょう(10日)から『ザ・テレビジョン 重野克明展』を開催中だ。

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art

佐伯俊男展『雲然』

佐伯俊男の絵に出会ったのは三上寛のレコードジャケットだった。1971年にデビュー作『三上寛の世界』が出ているが、僕が最初に買ったのは2枚目の『ひらく夢などあるじゃなし 三上寛怨歌集』で、72年だから高校2年だったか。当時は横尾忠則を筆頭とする「イラストレーター」が「アーティスト」よりも流行の職業とされていて、佐伯俊男も新進イラストレーターだったが(『平凡パンチ』のグラビアで衝撃的なデビューを果たしたのが70年)、三上寛の歌声と同じくらい、オシャレではとうていないし、ポップでもない、若々しくすらない、でもほかのだれともちがう画面にいきなり圧倒されたのだった。

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travel

プノンペン・ダイアリー1――ロケンロール、カンボジア!

この正月はプノンペンだった。東南アジアにはずいぶん通ってきたけれど、カンボジアだけはなぜか縁がなく、今回が初めて。カンボジア観光というと、まずはアンコールワットがあるシェムリアップ、それからクメール・ルージュの時代に100万人が虐殺されたという、負の歴史を刻むキリングフィールドというのが定番だが、今回はそのどちらでもなく、プノンペン市街の昼と夜をひたすらうろついて、観光名所とは無縁のカンボジアをかじってきた。今週からその収穫をご披露する。先週はミャンマーの歌謡曲を村上巨樹さんに教えていただいたばかりだが、まず今週はカンボジアのロックンロールを!

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モノクロームの果実――岡上淑子コラージュ展によせて

高知県立美術館で『岡上淑子コラージュ展――はるかな旅』が開催中だ。この展覧会を待っていたひとは少なくないと思う。今年90歳になった岡上さんの初の大規模回顧展である本展は、国内所蔵のコラージュ80点、写真作品19点に加え、コラージュから新たに制作されたシルクスクリーン、プラチナプリントなど計115点、さらに海外所蔵などで展示できなかった作品もプロジェクションで紹介されている。コラージュと写真で現存する全作品数が150点ということなので、今回は岡上淑子という作家の全容を開示するもっとも重要な機会になる。高知展後の巡回は予定されていないので、すでに地元よりも県外からの来館者が多く訪れているという。展覧会に「はるかな旅」とサブタイトルがつけられているのは、岡上さんの制作活動が1950年代のわずか7年間だけで、21世紀になってから40年以上ぶりに「再発見」されたものであるからだ。

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アーティストたちの首都高

品川区大崎駅前の大崎ニューシティに、「O(オー)美術館」という展覧会場があるのをご存じだろうか。品川区立の施設で、場所が便利で広い展示空間があるわりに利用料金が安いので、ときどきおもしろい展覧会に出会う。『独居老人スタイル』で紹介した戸谷誠さんも、ここがお気に入りの発表場所だ。昨年12月16日から20日まで、ここで『開通55周年記念・芸術作品に見る首都高展』という風変わりな展覧会が開かれた。たった5日間の会期だったが、なんとか間に合って足を運んでみたら、そこには東京の首都高(首都高速道路)が描かれた絵画や版画、写真などの作品が100点あまり、広い会場を埋め尽くしていた。首都高を描いたり写したりした作品がこんなにあったのかと驚いたが、このコレクションが首都高の会社としてではなくて、首都高の関連会社にお勤めする会社員の個人コレクションと聞いてさらにびっくり。

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プノンペン・街角オペラ座の怪人たち

このメールマガジンを始めてしばらく、購読者数がなかなか増えなくて苦しんでいたころ、こころの支えになってくれた電子出版雑誌がある。クーロン黒沢さんの『SIX SAMANA』(シックス・サマナ)だ。アジアのアンダーグラウンドなエネルギーに魅せられたひとにとって、クーロン黒沢という名前は長く、ひとつの指標になってきた。1990年代からコピーゲームソフトなど「裏電脳系」の著作をスタートに、東南アジアにうごめく奇々怪々な人間模様を描いてきた黒沢さん。出版社の自主規制リミッターの向こう側にあるリアリティを表現するプラットフォームとして2013年にスタートさせたのが、Amazon・Kindleストアから配信される『SIX SAMANA』である。第1号の特集が『海外移住促進月間』、そして『電子出版で海外豪遊生活』『日本に殺されるな!』『お布施で暮らそう』『アジアのブラック企業列伝』・・・と続く特集タイトルを並べるだけで、その特異なキャラクターがおわかりいただけるかと思う。ちなみに現在発売中の第31号の特集は『貧乏への道 全ての道は貧困に通ず』・・・いきなり読んでみたくなりませんか!

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art

フォトノベル――忘れられた物語のために

「フォトノベル」あるいは「フォトロマン」「ロマンフォト」と呼ばれる表現をご存じだろうか。スタイルは漫画なのだが、絵の代わりに人物や風景の写真がコマ割りに配置され、そこに吹き出しで台詞や説明が載っていく、いわば「写真漫画」のこと。日本ではあまり流行しなかったようだが、僕が働いていた最初期の雑誌『POPEYE』では後半のモノクロページで、しばらく「フォトロマン」のページをつくっていた。そしてフォトノベル/フォトロマンはヨーロッパ、とりわけイタリアやフランスでかつて絶大な人気を誇っていて、しかも知識人からは徹底的にバカにされ続けた、20世紀欧州大衆文化の極北ともいえる表現形態だった。南フランス・マルセイユの海岸沿いにある欧州・地中海文明博物館(Musée des Civilisations de l’Europe et de la Méditerranée、通称Mucem)でいま展覧会『Roman-Photo(英語タイトルPhoto-Novel)』が開催中だ(4月23日まで)。フォトノベルをまともに取り上げた、初のミュージアム展覧会であるこの大胆な企画を、今週はたっぷり紹介させていただきたい。

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music

おきあがり赤ちゃんのビザール・サウンドスケープ

アウトサイダー・アートやアウトサイダー文学があるように、アウトサイダー・ミュージックというのもある。日本ではあまり発掘が進んでいないが、アメリカではすでに何枚もCDや研究書も出ている。これぞ日本のアウトサイダー・ミュージック!と呼びたい異端の音楽家に、このあいだ出会った。名前を「おきあがり赤ちゃん」・・・そう、おきあがり赤ちゃんというミュージシャン。でも赤ちゃんではなくて、61歳の男性だ。おきあがり赤ちゃんは、おきあがり赤ちゃんを楽器にして音楽を奏でる。いまではオモチャ屋でもほとんど見なくなってしまったが、昔は天井から吊したメリーとセットのように、赤ちゃんがいる家庭にはかならずあった、ポロンポロンルルリリンとかわいらしい音を立てる起き上がりこぼしのプラスチック人形、あれがおきあがり赤ちゃんだ。

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一番先生、降臨!

寒々しい駅前広場で、聞いたこともないアイドルグループが歌ってる。わずかに足を止める観客。冷ややかな通行人の視線を気にすることもなく、両手にサイリウムを握って応援に声を張り上げるヲタの一団。アイドルシーンよりも、そういうアイドルヲタシーンに興味を惹かれるようになって、まもなく見つけたのが「一番先生」だった。一番先生という称号を持つ、この男性が踊る動画を初めて見たのは、たぶん5年くらい前だったろう。アイドルイベントではなく、それは巨大な野外フェスで、向こうのほうでだれか有名アーティストが演奏しているのだが、フィールドを埋めた数千人の観客の真ん中にぽっかり穴が開いて、そこで一番先生が踊りまくり、取り巻く客たちはステージに背を向けて一番先生のほうに熱狂しているのだった。だれ、このひと!

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追悼・首くくり栲象

首くくり栲象さんが亡くなった。『独居老人スタイル』で取り上げたので、ご存じのメルマガ読者もいらっしゃるだろう。1947年生まれだからまだ70歳だろうか、いかにも早すぎる。首くくり栲象(たくぞう)さんの存在を教えてくれたのは、銀座ヴァニラ画廊のスタッフだった。「ぼろぼろの一軒家の庭で首吊りのパフォーマンスを毎月、夜にしてて、でもほとんど客が来ないから、木からぶら下がってる足の下を猫が歩いたりしてるんですよ!」と言われて、急いで「庭劇場」に行ってみたのが2011年か12年のこと。そのころ栲象さんはまだ60代半ばだったから、独居老人と言ってしまうには少々若すぎたと思う。でも、なにしろその環境と風格と、なによりパフォーマンスはまさしく「孤高」というほかなく、「独居老人のかたにお話を聞く企画で・・・」とか不躾なお願いにウフフと笑いながら応じてくれた。孤高なのに優しくて、これ以上ないほどストイックなのにだれにでもフレンドリーで、そういう栲象さんのこころのありかたに、僕はなにより惹かれたのだと思う。

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ラブドール王国の宮廷写真家

凝りに凝ったセッティングのもの、家族のスナップみたいな気軽なもの、ドール愛に溢れるたくさんの写真を見ていくのは最高に楽しい体験で、受賞作を選ぶのは難しかったけれど、けっきょくグランプリに決めたのが『たべる?』と題された一枚。新妻の風情をまとったドールがエプロン姿で、朝食のトーストとサラダを用意しながら、プチトマトを指でつまんで「たべる?」と差し出している台所の情景だった。可愛らしいけど、エロくはない(ラブドールなのに)。でも、なにか曰く言いがたい恋みたいな感情がそこには漂っていて、目が離せなくなったのだった(フォトコンテストの応募作品は先日発売された『愛人形 Leve Dollの軌跡』に掲載されている)。グランプリ受賞作の作者「SAKITAN」は、その後もTwitterなどでドール写真をコンスタントに発表していて、フォローするのが楽しみだったが、この3月に初の写真展を大阪で開催すると知って、さっそくインタビューをお願いした。撮っている写真にも興味はあったし、なによりSAKITANってどんなひとなんだろう?と気になって仕方がなかった。

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はな子のいる風景 ―― ゾウとひととの写真物語

吉祥寺が好きなひとは多いと思うけれど、北口商店街のなかに美術館があるのを、どれくらいのひとが知っているだろう。駅から徒歩2、3分、コピス吉祥寺という商業ビルの7階にある武蔵野市立吉祥寺美術館は、2002年に開館した比較的新しい美術館。去年9月から10月にかけて、現代美術作家・青野文昭の展覧会『コンサベーション_ピース ここからむこうへ』が開かれ、その「パートB」として会場ロビーに設置されたのが『はな子のいる風景』だった。設置といってもそこには『はな子のいる風景 イメージをくりかえす』と題された記録集が置かれているだけで、来館者は椅子に座ってその記録をじっくりお読みくださいという、なかなか話題になりにくい展覧会なのだった。

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人生はキャバレーだった――『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』刊行に寄せて

今年1月に銀座の『白いばら』が閉店してからというもの、ちょっとしたキャバレー再評価ブームが起きているようで、ロードサイダーズにもPDF版電子書籍『キャバレー・ベラミの踊り子たち』の写真貸出依頼がけっこう来たりする。書店に行けば往年の有名キャバレーのオーナーや支配人、名物ホステスさんの回想録などが数冊見つかるが、それではキャバレーという空間そのものを記録した書籍がどれくらいあるかというと、ほとんどない。だって、キャバレーそのものがもう、ほとんどないから。なくなってから惜しまれる秘宝館や見世物小屋やオールド・スタイルのラブホテルと同じように、キャバレーもなくなってから惜しまれつつある昭和のポピュラー・カルチャーの仲間入りを果たしたのだろう。「ライフ・イズ・ア・キャバレー」と歌ったのはライザ・ミネリだったが、キャバレーのことも過去形で語らなくてはならない時代がもうそこまで来ている、そういうタイミングでこの3月に『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』という写真集が出版されたのには驚いた。

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ウグイス谷のラバーソウル 2018

「恋」と「変」の字ははよく似ている。「変態」を読み間違えたら「恋態」。変態とはもしかしたら、このどうしようもない日常に恋していられるための、きわめて有効なサバイバル・ツールなのかもしれない――長いこと世の変態さんたちを取材してきて、そんな思いが強くなっている。先週土曜日、5月5日の「こどもの日」から日付が変わった6日の深夜1時、とってもオトナのイベント「デパートメントH」が幕を開けた。場所は鶯谷の東京キネマ倶楽部。先週はグランドキャバレーのお話をしたが、ここはもともとワールドという名の大箱キャバレーだった場所。通算回数2百数十回となるデパHは、もう10年以上前からキネマ倶楽部で毎月第1土曜に開催されていて、5月6日は「ゴムの日」というわけで、今夜は毎年恒例の『大ゴム祭』なのだ。

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スラム街の記録者――佐々木さんのプノンペン・ライフ

4月の暖かい午後、待ち合わせの時間の少し前に郊外駅の改札を出ると、もう佐々木さんが待っていてくれた。会ってほしいとお願いしたのはこちらなのに、ちょっと申し訳ないというようなはにかんだ表情をして。正月にプノンペンで初めて会ったときのように。毎年プノンペンに通って、スラムで暮らす人々を撮影している日本人写真家がいる、と教えてくれたのは『シックスサマナ』の編集長・クーロン黒沢さんだった。スラムのすぐそば、それも小学校の建物のひと部屋に住みついて、毎日スラム街を歩きまわってるらしいと聞いて、その小学校を訪ねてみたのだった。佐々木健二さんは1966年八王子生まれ。いまも八王子の実家に住んでいる。ふだんは学校の行事や卒業アルバムの写真を撮るのが仕事。1年のうち10ヶ月はそうして働いて、2ヶ月間をプノンペンで暮らす生活を、2004年からずっと続けている。

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異界へお出でと笛を吹く――内藤正敏『異界出現』

いまから20年以上前、『珍日本紀行』という企画で地方の町や野山を走り回っていたころ。最初の2、3年はあちこちで出会う妙な風景や建造物を、とにかくなるべくきっちり写さないと、というだけで必死だったが、旅と撮影の生活に身体が少し慣れてくると、ときに白日夢のように眼前に広がる光景を、白日夢のように写せたらと思い始めて、行き着いたのが針穴写真(ピンホールカメラ)だった。だれもいない湖に浮かぶ白鳥型のボートとか、国道脇に立つ古タイヤを組み合わせた巨人とかの前に三脚を立てて、寒さに震えながらじりじり時計を見ているうちに、自分はいま写真を撮っているというよりも、この場所の空気と時間を木箱に封じ込めようとしているんじゃないかと思ったりもした。カメラというのは、単に目の前にあるものを視覚的に記録するための道具とは限らない、と気づいたのがその時だった――というような思い出が、東京都写真美術館で内藤正敏の『異界出現』を見ていて、ふいに甦ってきた。

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未来への帰還――ニューヨークのラメルジー回顧展

ストリート・アートの世界ではカルト的な人気を誇ってきながら、2010年に49歳で亡くなったあとは、著作権の帰属がはっきりしない状態が続いたこともあり、なかなか単独の回顧展が開かれなかったが、5月4日からニューヨークのレッドブル・アーツ・ニューヨークという、あの飲料メーカーが運営する非営利アートスペースで初の大規模回顧展『RAMMELLZEE: Racing for Thunder』が開催されると聞き、いても立ってもいられなくなって急遽ニューヨークに観に行ってきた。RAMMELLZEE――正式にはRAMM:ΣLL:ZΣΣと表記する、Σ(シグマ)は総和をあらわす数式、ラメルジーはみずからの呼称を名前ではなく「方程式」であると主張していた――は1960年にニューヨークJFK空港に近い浜辺の町、クイーンズのファー・ロッカウェイ(Far Rockaway)で生まれた。

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カーテンの襞から覗く顔

現役の、という言い方は変だけど、いま生きている作家の美術には大別して「現代美術系」と「団体展系」がある。そのどちらにも入らない作家は、美術館でも美術雑誌でもなかなかフィーチャーされにくいけれど、そういう作家たちのほうが実はたくさんいて、ただ見つけにくいだけなんじゃないかと思うようになった。藤田淑子という作家を知ったのはまだ2~3年前のこと。どこかの展覧会のレセプションでポートフォリオを見せてもらったのか、銀座ヴァニラ画廊の公募展に送られてきた作品を見たのが先だったのか。よく覚えてないけれど、すごく妙な絵だな、と思ったのはよく覚えている。銀色の背景に、ほとんど赤と青、みたいな単純な色合いの人物やカーテンのドレープ、つまりひだひだがべたっと描かれていて、でも人物には目も鼻も口もない。むしろ主役は赤や青のひだひだみたいだ。

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須田悦弘のミテクレマチス

静岡はいろんなキャラクターを備えた県で、名古屋側の西には浜松があるし、真ん中に静岡市、東京側の東には熱海がある。あと、もちろん富士山も。そういうなかで伊豆半島の根っこにある三島市は、観光地としてはあまり話題に上がらないかもしれない。浜松で仕事があった日に、無理すれば日帰りで帰れるところを、ふと思いついて新幹線を三島で降りて一泊することにした。駅前からシャトルバスで行けるヴァンジ彫刻庭園美術館で、須田悦弘の展覧会が開催中なのを思い出したから。

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霧の山のいのち

山歩きはほとんどしないけれど、山道を運転することはけっこうある。街を走っていたときは晴れてたのに、山道に入ったらいつのまにか、次のカーブが見えないくらい深い霧の中でヒヤリ、というようなこともあって、そんなときのヒヤリはおもに事故の恐怖だけど、同時に、この霧が晴れたら、それまでとはまるでちがった場所になっちゃってるんじゃないかという妄想に、僕はときどきとらわれてしまう。変なSF映画みたいに。ROSHIN BOOKSから阿部祐己(あべ・ゆうき)という新人作家の写真集リリースのお知らせが来て、さっそく注文して届いたのが『Trace of Fog』=霧の痕跡という題名の一冊。それは信州八ヶ岳の霧ヶ峰を撮影した写真集だった。年間を通した観光地としてしられる霧ヶ峰は、その名のとおり、年間200日以上も霧が発生する高原なのだという。

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ふりかえれば台湾

いろんな国に行くけれど、台湾だけは空港に降り立つたびに「帰ってきた」感覚に襲われる、とどこかに書いたことがある。同じような気持ちになる台湾ファンが、けっこういるのではないか。清里フォトアートミュージアムではいま『島の記憶――1970~90年代の台湾写真』という展覧会が開かれている。おもに1950年代から60年代前半に生まれた、つまりいま60代から70代のベテラン写真家たち11人の、若き日の作品152点が並ぶこの展覧会は、作品のほぼすべてが日本、そして台湾でも初公開であり、そもそも台湾の写真がこんなふうに日本の美術館でまとまって紹介されることが初めてだという。1970年代から90年代という時期は、中国本土では文化大革命が終息し、周恩来・毛沢東が死去、米中・日中国交正常化、開放化政策の推進、そして天安門事件、香港返還と中国現代史のターニングポイントとなる出来事が連続するが、台湾でも国連脱退、蒋介石死去、38年間続いてきた戒厳令の解除と国民党独裁の終焉、そして進展する民主化という急流の中にあった。「島の記憶」という展覧会タイトルは、そのように激変する島のありようを見つめ、歩き、記録せずにいられなかった若き写真家たちの熱情や興奮、怒り、苛立ち、悲しみといった心情が、「記憶」という言葉のなかに包み込まれている。

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デジタルな虹の彼方に

銀座に隣接した京橋には小さなギャラリーがずいぶん集まっている。フィルムセンターかLIXILギャラリーからスタートして、気になる展覧会をいくつかハシゴして、美々卯で蕎麦を食べておしまい、というのが僕にはすごく楽しいコースだ。この7月、art space kimura ASK?というギャラリーの地下室で、『はげ山と閑散都市の原始/functional, primitive』と題された展覧会を観た。倉庫みたいな小さい部屋に、映像やプリントや立体物がいっぱいに散らばっている。その空間の密度と、とりわけ映像の異様さにぐぐっと掴まれた気持ちになって、作者の藤倉麻子さんと話してみると、東京藝大の大学院をこの春に修了したばかりで、ギャラリーでの個展もこれが初めてなのだという。高速道路、壁に並ぶ公衆便所の便器、海、浜辺・・・都市と自然の環境が奇抜な色彩とフラットな作画の3DCGで展開している。それはものすごくカラフルでポップなようで、ものすごく人工的で冷たくて、不気味な風景でもある。いったいどんなひとが、こんな世界観をビジュアル化しているのだろう。

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おみやげから日本が見える

千葉・佐倉の国立歴史民俗博物館で『ニッポンおみやげ博物誌』が7月から開催中。今月17日までと気がついて、急いで行ってきた。昨年末は1960年代後半の学生運動・市民運動に焦点を当てた『「1968年」-無数の問いの噴出の時代-』が出色だったが、今回もその着想に唸らされる。展覧会は「アーリーモダンのおみやげ」と題された江戸時代からスタートする。参勤交代や、伊勢神宮のおかげ参りなど庶民の旅も活発になるにつれて生まれてきたおみやげ文化。それが明治以降の「名所」づくりや国立公園の誕生を経て、戦後の世界遺産ブームなどに象徴される「観光地のブランド化とおみやげへの波及」。おみやげ自体のさまざまな性格を見る「現代におけるおみやげの諸相」と「旅の文化の多様化とおみやげの創造」。そして最後におみやげがどう使われ、どう残っていくのかを探る「おみやげからコレクションへ」と、5つのパートに沿って膨大な数のおみやげが陳列されている。

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佐藤貢 漂着した人生

まったくの口コミだけで、静かに読みつがれている旅行記がある。前編が2015年、後編が翌16年に、大阪のギャラリーが版元となって刊行された自費出版・少部数の文庫2冊組。いずれも130ページそこそこのコンパクトなつくりで、一般書店やAmazonなどオンラインショップでも買うことができないから、わずかな在庫を手にした幸運な読み手が、次の読み手へと伝えているのだろう。『旅行記』(前・後編)と題されたその本の著者は佐藤貢(さとう・みつぐ)。廃材を使った立体作品をつくるアーティストで、2005年から大阪や名古屋を中心に活動を続けているが、どれほどのひとが彼の名を知っているだろうか。その佐藤貢が今月末から神保町ボヘミアンズ・ギャラリーで個展を開く。東京での展示は、わずかなグループ展を別にすれば、2007年の森岡書店から10年以上ぶりになるはずだ。

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メッシーという快楽

「ラブドールと暮らす女」ひつじちゃんに写真展のモデルを頼んだときのこと、「こんどメッシーの個人撮影モデルやるんです!」と教えられ、ダメ元で見学できるか聞いてもらったら快諾いただき、生まれて初めて「メッシーの現場」に足を踏み入れた。メッシーと言ってもバブル時代のおごりメシ要員ではなく「ウェット&メッシー」、つまり相手の着ている服をびしょびしょにしたり、いろんなもので汚したり、自分も汚れたりして遊ぶフェティッシュのこと。ウェットTシャツ・コンテストからパイ投げ、泥んこレスリングまで、みんな広義のウェット&メッシーだ。今回お邪魔したのは、メッシー界でも有名な「生クリーム部長」さんの現場。部長さんはふだん大阪在住なので、こうした個人撮影のたびにものすごい量の材料を積み込み、車で東京にやってくる。たいてい2泊3日でホテルを取り、モデルさんに来てもらって、こころゆくまで動画撮影を楽しむというスタイルだ。

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手描き映画ポスターのモダン・タイムス

映画ポスターに手描きや人工着色の風合いが残っていたころの存在感が好きで、これまで日本映画のポスター集や、ピンク映画ポスターのコレクションを本にしてきた。でも、ポスターが簡単に印刷できるようになる前の時代、いま上映している作品や次回の上映作を告げる手描きの映画館用ポスターがあったのは知らなかったし、見たこともなかったのが、京都立命館大学の一室で展覧会が開かれていると聞いて、驚いて駆けつけた。あと数日しか会期が残っていないけれど、ひとりでも多くの方に見てほしくて、急遽特集させていただく。『手描き映画ポスターと看板の世界』と題されたその展覧会は、立命館大学のアート・リサーチセンター閲覧室で開催中(9月28日まで)。たった1週間と少しの小ぶりな展示だけれど、こんなふうに手描きの映画ポスターをこれだけまとめて見られる、たぶん初めての機会だろう。

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Northern Lights 2018 vol.1 シゲチャンランド再訪

短い夏休みにどこか遠くへ行きたくなって飛行機を探したら、お盆休みの真っ只中に北海道行きのフライトが空いていた。羽田から女満別空港に飛んで、たった3泊だけど北海道を西から東に走り、新千歳空港から帰るフライト&レンタカーのパックを楽天で予約。ずっと昔、「珍日本紀行」などの取材で訪れた場所が、いまどうなっているのかが最近気になって、よく足を運ぶようになった。先日、文藝春秋の巻頭グラビアで「もうなくなってしまった珍日本スポット」のような特集を掲載した。そのリストアップの段階で、予想以上にたくさんの珍スポットが消滅していることに驚いたのだが、逆に立派な観光名所に格上げされて盛り上がっている場所もある。今回もいくつか行ってみたい場所があり、その訪問記をこれから数回にわたってお届けする。地震で大きな被害を受けた北海道に、ひとりでも多くのひとが訪れてくれることを願いつつ。

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銀河芸術祭と佐渡島圏外ツアー

先週末の土日2夜にわたって佐渡からお送りしたSADOMMUNEスナック芸術丸、ご覧いただけただろうか。DOMMUNEスタート当時から始まったスナック芸術丸の、49回目と50回目・・・100時間目!という記念すべき回を、初めてリアル・スナックから、それも佐渡という離島の地からお送りできたことはまことに感慨深い。配信前は台風直撃を心配したのだが、幸いにも進路が逸れて、夜中に強風が吹いたくらい。3日間の滞在中、天候にも恵まれたので、配信の合間に芸術祭のいくつかのロケーションを中心に、久しぶりの佐渡を急いで回ってきた。今週は北海道めぐりの2回目を掲載する予定だったけれど、芸術祭が10月14日まで開催中とのことで、急遽佐渡特集をお送りすることに。新潟では越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」、新潟市の「水と土の芸術祭」という2つの大型芸術祭が今年は重なったけれど、「大地」と「水と土」に対して、こちらは「銀河」。今回が第1回、それも手作り感覚満載の、あまり知られていない芸術祭の私的なリポートにお付き合いいただきたい。

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Northern Lights 2018 vol.2 アイスパビリオンはいまもマイナス41度だった!

北海道の真ん中に近い旭川市から、東にドライブすること約1時間。大雪山、層雲峡温泉で名高い上川町の『北海道アイスパビリオン』を訪れたのは1994年、ほとんど四半世紀前のことだった。開館が1991年というから、当時はまだ目新しい観光スポットだった。あれから20年以上経った2018年猛暑の夏、アイスパビリオンはなんとほとんど当時のままのスタイルで、営業を続けていた・・・氷壁600平米、氷量1000トンという氷柱群は、もしかしたらより分厚くなっているかもしれない。

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Northern Lights 2018 vol.3 カナディアンワールド~北の京芦別、バブル遺産の旅

空知地方の芦別はかつて北海道の石炭産業を代表する「炭都」だった。三井、三菱など5つの炭鉱を抱え、星形の市章は「黒ダイヤ」(石炭)を表している。しかし90年代にはすべて閉山。最盛期には人口7万5千を数えたというが、いまは1万4千人弱。夕張をはじめとする炭鉱町と同じ斜陽の道を辿ってきたわけだが、復活の起爆剤として芦別駅から10キロほどの緑深い山中に『カナディアンワールド』が突如登場したのは1990年、バブルの絶頂期だった。事業者となった「星の降る里芦別」は芦別市や、計画を描いた東急エージェンシーなどによる第三セクター。総事業費52億円という大規模プロジェクトだった。カナディアンワールドと言っても、芦別のカナダが再現したのはバンクーバーやトロントじゃなくて、プリンスエドワード島。日本人の女子ならばいちどは行ってみたい(たぶん)、あの『赤毛のアン』の故郷である。

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夢は廃墟をかけめぐる

「廃墟写真」というジャンルが確立してから、もうずいぶん時が経つ。僕自身は廃墟よりも、廃墟になる一歩手前の場所で生活の気配を写そうとすることのほうが多いけれど、廃墟の写真を見るのはもちろん嫌いではなくて、国内・海外の廃墟写真家の作品をずいぶん見てきた。人間の表情のように建物や遺跡や風景は始終変わっているわけではないので、同じ場所にいれば、だれが撮っても同じようなものと思われるかもしれないが、それが微妙に異なるところが廃墟写真のおもしろさでもある。資料としてかっちりと、スキャンデータのように写される廃墟もあれば、建造物を包み込む空気感のようなものが掬い取られる、そういう廃墟写真もある。同じ場所から、同じ角度で撮影しているのに。図面と絵がちがうように、それは撮影者の視点や思いが、デジタルデータという無機的なメディアにもちゃんと反映されるのだ。

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バッドアート美術館、まさかの東京展!

「ボストン美術館の至宝展」が去年東京都美術館で始まって、名古屋展で閉幕したのはまだこの夏のことだけれど、世界的なコレクションを誇るボストン美術館がボストン美術界の頂点とするならば、ボストン美術界の最底辺(笑)に位置するのがミュージアム・オブ・バッド・アート=略称「MOBA」。モマじゃなくてモバね。しかしこんなものまで・・・とニュースを聞いて絶句したのが、明日11月22日から東京ドームシティのギャラリー・アーモで始まる「バッドアート美術館展」。本気でしょうか・・・。「ROADSIDE USA」でボストン郊外デダムの映画館地下にあったMOBAを訪れたのは2001年のこと。それから17年経ったいま、あのコレクションが東京で、それも公立美術館ではなくて遊園地のなかの展示スペースという・・・ふさわしいと思えなくもない場所で見られることになるとは!

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欲望の形の部屋

新宿駅西口から高層ビル街を抜け、中央公園を横切った通りに、ちょっと前までは真っ黒いお湯で知られた十二社(じゅうにそう)温泉があった。麻布十番温泉と同じように、西新宿の地元民にこよなく愛されてきた温泉がなくなったいま、表情の乏しい大通りに足を運ぶ理由はほとんどなくなってしまったが、通りに面したマンション内にビューイングルームを持つギャラリーYUMIKO CHIBAでは高松次郎から東恩納裕一、鷹野隆大までキャラの立った作家たちをいろいろ見せていて、今月は山本渉の『欲望の形/Desired Forms (2012-2017)』を展示中だ。山本渉(やまもと・わたる)は写真をつかうアーティスト。2013年に写真雑誌『IMA』から原稿を頼まれたのが彼の作品を知るきっかけだったが、高尚な写真評論が並ぶ中でなぜ僕に原稿依頼が来たかというと、そのとき取り上げた作品「欲望の形」が、オナホールの内部を石膏で型抜きした棒状の物体を撮影したシリーズだったから・・・だと思う。

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マッチ箱のエキゾチシズム

姫路駅から姫路城にまっすぐのびる大手前通りに君臨してきた老舗デパート・ヤマトヤシキが閉店したのは今年(2018)2月のこと。裏手の商店街に面した一角は「みゆき通りステーション」という観光拠点に活用されていて、そこでひっそり開催中なのが『マッチラベル展』。姫路の地元民にすらあまり知られていない地味な展示のようで、こちらも「いちおう」ぐらいの気持ちで寄ってみたら、意外な充実内容! 今週は知られざるマッチ・デザインの世界をじっくりご覧いただこう。なぜに姫路でマッチ展かといえば、実はマッチ生産は姫路の地場産業。展覧会を主催する日本燐寸(マッチ)工業会によれば、日本全国のマッチの9割は兵庫県でつくられ、姫路市だけで8割を占めているのだそう。

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高橋舞のガムテープ

このメルマガでも何度か紹介している浜松市の障害福祉施設アルス・ノヴァ。最初に訪れたのは2016年、「一日ノヴァに来てもらって、感想を話してください」という「ひとインれじでんす」と名づけられたプログラムだった。それまでアウトサイダー・アートの取材を通じて知っていたいくつかの施設とはまるで異なる、自由で、ほとんどフリーキーとさえ呼びたい、利用者とスタッフがつくる空間のありかたに衝撃を受けた。今年の春には朝日新聞からお話をもらって再訪している。

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座禅と写経とフレディ・マーキュリーから生まれた絵――柿本英雄展を見て

近所の花屋に行ったら、店先に妙なポスターが貼ってあった。「柿本英雄展 半分青いの画家が描く色の絵日記」とあるけれど、柿本英雄ってだれだろう?「半分青い」って、NHKの連ドラと関係あるんだろうか? そしてアウトサイダー・アートというより、むしろ先日特集したばかりのバッドアートの系譜とおぼしき、なんとも言えない味の、この絵はいったい!? 思わず花屋の店主に聞いてみたら、店の2階でレンタルギャラリーをやっているので、「いきなりDMが送られてきたんだけど、ちょっといいなと思ったんで貼ってるの」とのこと。う~む、またも期せずしての出会いが! というわけで先月、浜松に高橋舞さんの展覧会を見に行った機会に名古屋まで足を伸ばしてみた。会場の大一美術館はパチンコメーカーの大一商会が所有する、エミール・ガレやドームなどアールヌーボー期のガラス工芸コレクションで知られる美術館。その1階にあるレンタルギャラリーが「柿本英雄展」の会場となっていた。

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猫に引かれて香港参り

香港の街に降りたって、さあお買い物!というときにまず本屋を探す、というひとは多くないだろうけれど、写真集のコーナーに行くと「昔と今の香港」みたいな地味な色合いの大型本が並ぶ中に、ひときわ明るくチャーミングな表紙のペーパーバックが山積みになっている。2016年の発売からずっと売れ続けて、もう5刷となっている『香港舗頭猫 HONG KONG SHOP CATS』がその一冊だ。書名のとおり香港の店先の、日本で言う「看板猫」を集めた写真集。作者のマルセル・ハイネン(Marcel Heijnen)はオランダ生まれ、香港在住の写真家である。香港島上環、骨董通りで知られる摩羅上街(キャットストリート)から石段を上りきった古い住宅街にある写真ギャラリー「ブルーロータス」(Blue Lotus Gallery)で、先月新刊のリリース記念展覧会を開いたばかりの彼と会うことができた。

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香港版・海辺の人形墓場

香港の中心部が香港島と九龍半島のふたつにわかれているのはご存じのとおり。香港島の上環(Sheung Wan)からバスに乗って、険しい坂を上り下りすること30分ほど。香港島南西部の華富邨(Wah Fu Estate)という巨大団地でバスは終点になる。華富邨は1968年から70年代末にかけて造成された、当時の香港では有数の規模の公営団地群。最盛期には5万人あまりが暮らし、各種商店に公共施設、市場まで揃った「シティ・ウィズイン・ア・シティ」だった。現在では人口も半分弱、頼んだUberの運転手さんによれば「ここはひとり暮らしのお年寄りばっかりが住んでる寂しいところですよ~、私も20数年香港にいて、初めて来ました!」と感慨深げだった。

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慈雲閣――香港スピリチュアル・トリップ

世界屈指の観光都市であるにもかかわらず、珍スポットという面では意外に物件が乏しいのが香港。名高いタイガーバームガーデンは2000年に閉鎖、伝説の九龍城砦も1993~94年に取り壊され、いまは公園になっている。そんななかで珍寺マニアによく取り上げられているのが、九龍半島サイドにある「慈雲閣」。尖沙咀(チムシャーツイ)から一路北上、九龍城砦跡の公園あたりを過ぎて、約1時間の路線バス旅で慈雲山麓の慈雲閣に到着する。なかなか険しい山腹と、いかにも香港らしい高層マンション群に挟まれた慈雲閣は、道路に面した門から延々と階段を上り、神像が並ぶ中2階の見晴らし台「古国神廊」を経て2階に至る。オープンテラスからは九龍の市街が一望。そして大小さまざまの祈りの場が設けられ、奥には3階に続く階段を兼ねた、18層の地獄が展開する「地獄めぐり」ジオラマ。そして今度は3階から降りていく途中の中3階的なフロアに、おびただしい骨壺が壁面を埋め尽くす納骨堂があるという動線だ。

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昭和・平成のヒーロー&ピーポーたちへ

平成の終わりが近づいてきて、いろんな分野で平成をふりかえる企画が目立っている。数年間の準備期間を要する美術館の展覧会にも、ちょうどタイミングを合わせたかのような企画展が重なっていて(まさか学芸員諸氏がこの展開を予測していたわけではなかろうが)、今週来週と2回にわたって3つの展覧会を紹介したい。まずはいま、たぶん現代美術ファンがいちばん気になっているであろう兵庫県立美術館で開催中の『Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー』から。第二次大戦前のモボ・モガ時代から2018年の新作まで、およそ90年間にわたる昭和・平成時代の日本美術を「ヒーロー&ピーポー」という斬新な枠組みで捉え直したこの展覧会。

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高知でニューペインティング遍路

先週は第二次大戦前のモボ・モガ時代から2018年の新作まで、およそ90年間にわたる昭和・平成時代の日本美術をユニークな視点でまとめなおした『Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー』(兵庫県立美術館)を紹介した。今週は高知県立美術館で開催中の『ニュー・ペインティングの時代』と、神戸ファッション美術館で開催中の『コレクション展 平成のファッション1989.1.8−2019.4.30』にご案内する。1980年代の前半、それまでのアート業界とはまったく異なる場所から生まれてきた「ニューペインティング」と総称されるムーヴメントが、それ以降のアート・シーンを一変させてしまったのはご存じのとおり。実は高知県美は欧米のニューペインティング期のかなり充実したコレクションを所蔵していて、本展も借り物は1点もなく、すべて館蔵作品。21点の大作が展示される今回は、その久々の揃い踏みということになる。

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ラブドールが見た夢

「人間ラブドール製造所」という奇妙な写真撮影サービスがあると知ったのは半年ぐらい前のこと。すでにいくつものメディアが取材しているが、そのサービスを運営しているのが女性2名ということを知って、男である僕はよけいこころ乱された。ラブドールとはそもそも男の性欲に奉仕する機械なのに、そういう「もの」になりたい女たちがいて、それを生み出すのもまた女であるという、考えようによっては観念的淫蕩の極致(三島いわく)でありながら、その退廃の香りと、報道やwebサイトで見る「作例」の明るさが、なんだかしっくりこない。エロだけどいやらしくはなくて、でも健全とも言いがたい・・・そういう世界観がどのように生まれるのかと思っていたときに、縁があって運営のおふたりと会うことができた。「では製造所にいらっしゃい」と許されて向かった先は、東大阪・河内花園という「なにしてけつかんじゃい!」的濃厚河内文化の中心地。住宅街の片隅にその「人間ラブドール製造所」はあるのだった。

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香港団地宇宙

ニューヨーク以上に「窓からいろんな人生が覗ける場所」があるとしたら、それは香港だろう。異常なまでの高層ビルや住宅が、異常なまでに肩を寄せ合いひしめくさまを、他人はどう思うか分からないが、僕にとってそれはなにより楽しく興奮させられる光景だ。窓の外に美しい自然が広がる場所よりも、はるかに。世界で1、2を争う人口過密な都市である香港は、ありとあらゆる生態の世界有数に過密なコレクションでもあるのだし。『TOKYO STYLE』みたいな『HONG KONG STYLE』ができたらなあと思ったこともあったけれど、それは僕の役割ではないだろう。街をぶらぶら、ホテルの部屋でだらだらしながら向かいのビルの窓の中を覗いているだけで僕は楽しいが、香港のふつうの暮らしって、いったいどんな感じだろう。そう思っていたら、『メイホーハウス生活館』(Heritage of Mei Ho House)という「香港の団地の暮らし博物館」があるのを知った。

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圏外でつながった地下台湾

「旅」と言うのがおこがましくて「出張」と言ってしまうのは、たいてい取材したい場所やひとがいくつか事前に決まっているからだけど、今月初め台北にいたのは「Perfumeのライブに誘われたから」というぜんぜん取材じゃない目的だった。たまには事前になにも調べずぶらついてみようと、ちょっと長めに台北のホテルを取って出かける少し前に、出版社の担当編集者から「なんか『圏外編集者』が誠品書店の書店員大賞みたいなのに内定したらしいですよ」と聞かされたが、まさかねと思って確かめもしなかった。本好きのひとならご存じだろうが、誠品書店は台湾の大手書店チェーン。書籍のほかにセレクトショップ的な機能があって、超高層ビル台北101のそばにある本店は24時間営業ということもあり、観光客にもおなじみ。代官山をはじめとする蔦屋書店の展開も、かなり誠品の影響を受けているはずだ。今年秋には東京日本橋にも初出店するらしいが、僕も台湾に通い始めたころから大好きだった書店に選んでもらうなんて、もしほんとうだったらうれしいけど・・と半信半疑で本店に行ってみたら、レジ脇に小さなコーナーができていた!

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イメージの散歩者、杉浦非水

これからずいぶん騒がしくなりそうな皇居に面して、しかし周囲は気の早い桜が蕾をほころばせつつある、のどかな竹橋の国立近代美術館でいま開催中なのが『イメージ・コレクター 杉浦非水展』。大正から昭和にかけて和風アール・ヌーボーのスタイルで一世を風靡、ポスターや雑誌の表紙、書籍の装幀など多くの商業美術作品で優美なデザインを展開した、日本におけるグラフィック・デザイナーの草分けの大規模回顧展である。多摩帝国美術学校(現:多摩美術大学)の創設に参加し、美術教育家としても多くの業績を残したが、いまどれほどのひとがその名を知るだろうか。

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欲望の風景画――林良文展「「変化の二乗」

どんな絵が好きなんですか、と聞かれて考え、「いかがわしい」という形容詞が褒め言葉に使える作家かな、と思ったことがあった。林良文はもう30年以上もいかがわしさに充ち満ちた鉛筆画を描き続けているパリ在住のアーティストだが、いま東京九段の成山画廊で、70歳にして初という油絵の展覧会を開いている。ずっと前からパリでお会いしたかったけれど果たせず、今回初めてゆっくりお話を聞くことができた。すでに日本でも数冊の画集が出ているし、展覧会も何度も開かれているので、ご存じのかたもいらっしゃると思う。「いかがわしい」の同義語が「反道徳的」や「みだら」なのだとすれば、徹底的にいかがわしい緻密なモノクロ宇宙を長いあいだ育んできた林さんが、思いもかけず見せてくれた油絵。それはねっとりした色彩のなかに、血液や体液が練り込められているような、粘着系の妄想が画中で暴れているような・・・・・・むしろどうしていままでこんな絵を描かないでいたのか、描かないでいられたのか、疑問のほうが膨らむのだった。

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ビル景のかなたに

月曜夜のDOMMUNEでご覧いただいたかたもいらっしゃると思うが、ゲスト審査員をつとめさせてもらったか『熊本アートパレード』展が終了したばかりの熊本市現代美術館で、『大竹伸朗 ビル景 1978-2019』が4月13日からスタートする。1978年に「ビルのある風景」をふと描いたことがきっかけで、もう40年間以上、気がつけばビルが画面のどこかに描かれた風景を彼は描き続けてきた。意識することもなく、しかし途切れることなく描かれてきたビルたち。風景画家が海や山や木々を飽かず描くように、大竹伸朗は都市のスカイラインや剥がれかけた壁、コンクリートの地面をランドスケープとして描いてきたのだった。

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アウトサイドはどこにある

クシノテラス主宰者であり、本メルマガでも2015年から「アウトサイダー・キュレーター日記」を、もう41回も連載してくれている櫛野展正による『アウトサイド・ジャパン展~ヤンキー人類学から老人芸術まで』が、先日『バッドアート展』を開いた東京ドーム・ギャラリーアーモで、いよいよ4月12日に開幕する。2018年9月に刊行された同名の著書の、立体版というか実写版とも言うべきこの展覧会は、2012年の鞆の津ミュージアム開館からずっと続けられてきた彼のアーティスト巡礼の、集大成となるはずだ。

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辻徹が見ていたもの

去年4月、ひとりの老写真家が亡くなった。ずっと好きなように写真を撮っていたのに、病を得てふんぎりがついたように死の3年前、最初の個展を開くまで周囲がどんなに勧めても「そのうちね」と微笑むだけだった。ひとと会うときはいつもお酒で顔を赤らめて、というよりお酒が入らないとしゃべれないくらいシャイで言葉少なで、するっと宴席に紛れ込んでいながら、お金を持たないこともよくあって、それを隣のひとが払ってあげることにだれも違和感を持たない、そんな辻徹(つじ・とおる)という写真家のことを、名古屋の小さなサークルの外で、どれだけのひとが知るだろうか。去年、佐藤貢さんの記事を書いた縁で(『漂着した人生』2018年9月12日号)、名古屋のギャラリーNao Masakiから展覧会の案内をもらい、載っていた小さな写真にこころをつかまれて追悼展を訪ねた。

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ガウディを測った男

東京天王洲の「建築倉庫」という奇妙なミュージアムをご存じだろうか。2年前には東京アートブックフェアの会場ともなった寺田倉庫が所有するビルの一部が、建築模型に特化した展示・保管施設となっている。1階のミュージアムでは建築系の展覧会が開催され、上階の保管倉庫には巨大な空間にずらりと内外建築家による模型が並び、「照明を限りなく落とした倉庫で懐中電灯を片手に倉庫空間をお楽しみください」というユニークな観賞体験ができるようになっている。その建築倉庫でいま開催中なのが『ガウディをはかる』という、これもかなりユニークな展覧会。ガウディの主要作品があるスペイン・バルセロナに住む建築家であり「実測家」でもある田中裕也さんによる、実測によるガウディ研究の成果を紹介する、初の包括的な展示である。

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墨汁の錬金術師

よほどインディーズ漫画に詳しいひとでないと、キクチヒロノリという名前にすぐ反応はできないかもしれない。1998年から2000年代の初めにかけて数冊の単行本を発表するが、その後ほとんど活動が知られないまま時が経ち、いま突然、あらたな作品集を発表。その刊行記念展が中野タコシェで開催されることになった。『アルケミカル・グラフィックス=錬金術の図像』というタイトルのとおり、だれも解読できない古代の象形文字で書かれた物語のようにも見える、呪術的なイメージの集積。それは過去の単行本で見ていたポップな作風とかけ離れて、これがどんなふうに、どんな人間によってつくられたのか興味をかき立てるのだが、キクチヒロノリ本人についてはほとんど資料がない。公式ウェブサイトもあることはあるが、最終更新が2011年で止まったまま。その謎めいたキャラクターが気になって、今回は茨城県在住のキクチさんと電話でお話することができた。

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サーカスがいたころ

埼玉県東松山市、のどかな風景が広がる都幾川のほとりに建つ丸木美術館。正式名称を「原爆の図丸木美術館」というように、画家の丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻が共同制作した『原爆の図』シリーズを常設展示する美術館である。すでに開館50年を超えて、いまも反戦・反原発など社会性を強く打ち出した企画展を開いている。アクセスがいい場所ではないけれど、その不便さがまた孤高の立ち位置を象徴しているようでもあり、熱心なファンに支えられて、公立美術館では実現できない先鋭的な展覧会を続けている。すでに告知でもお知らせしたとおり、4月頭から開催されているのが『サーカス博覧会』。18日には僕もギャラリー・トークをさせていただくので、その告知を兼ねて、今週は誌上展覧会にお連れしたい。

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僕が鬼海弘雄になれなかったわけ

都心の病院の面会室は眩しいほどの陽射しが差し込んで、あっちのテーブルではパジャマの男たちが小声で密談しているし、隣ではものすごいハーネスに頭を固定されて微動だもしないおばあさんを、家族たちが取り囲んで楽しげにおしゃべりしてる。『PERSONA 最終章 2005―2018』を出してすぐ入院した鬼海弘雄さんは、パジャマ姿がむしろ自宅の起きぬけのよう。元気よく話す姿を見ていると、この面会室がやけにシュールな空間に思えてきた。ちなみに鬼海さんは十連休の終わりに無事退院されたので、ファンのみなさまはご安心されたし。ちょうど恵比寿の東京都写真美術館で展覧会『東京ポートレイト』が始まるタイミングで、筑摩書房のウェブマガジンで連載していた『東京右半分』のためにインタビューさせてもらったのが2011年。そのあとも立て続けに新刊が数冊出たり、展覧会があったりと活発に活動してきた鬼海さんが、この3月末に発表したのが『PERSONA 最終章 2005―2018』だ。

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圏外の街角から:キャバレーとシャッターと河童の街・八代

先月、熊本市現代美術館で開催中の大竹伸朗『ビル景』展を見に行った折り、一日早めに熊本入りして八代に泊まってきた。久しぶりにキャバレー白馬の健在ぶりを確かめつつ、こちらも久しぶりの不定期連載「圏外の街角から」で、八代のシャッター商店街を歩きまわってみたかったから。熊本空港でレンタカーを借りて、夕方八代のビジネスホテル着。午後8時の開店を待ちながら近所の居酒屋で腹をこしらえ、久しぶりのキャバレー白馬に入店。がらんとした店内のソファに腰を落ち着けると、ちょっと宮崎美子似の妙齢着物美人が「いらっしゃいませ~」と隣に座ってくれた。おしぼりでサッパリして、水割りを作ってもらってグビリ。あ~、落ち着く。

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バングラデシュの地べたから

前項「二度と行けないあの店で」でコンニャク・カレーの思い出を書いてくれた梶井照陰(かじい・しょういん)さんは、佐渡島に暮らす真言宗の僧侶であり写真家である。これまで4冊の写真集を発表してきて、この5月に新刊『DIVE TO BANGLADESH』を刊行したばかり。今週末からは刊行記念写真展も開催される。また9月には瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期に参加、高見島で瀬戸内の海をテーマとした新作『KIRI』を発表予定。瀬戸内海での撮影行から佐渡島に帰る途中に立ち寄った東京で、お話を聞くことができた。梶井さんのデビュー写真集『NAMI』が出たときのことはよく覚えている。2004年だったが、あのころの数年間、僕は木村伊兵衛写真賞の審査員をしていて、藤原新也、篠山紀信、土田ヒロミ各氏とともに、朝日新聞社の会議室に積み上げられた写真集を何時間も見ていて、そのなかに『NAMI』もあった。

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地の果ての謝肉祭

MONA=ミュージアム・オブ・オールド&ニュー・アート。美術ファンならすでにご存じの方も多いだろう。タスマニア州都ホバート郊外の貧しい町、グレノーチーに生まれ育った天才的なギャンブラー、デヴィッド・ウォルシュが、数百億円にのぼる私財を注ぎ込んで開いた、SEX & DEATH=性と死のテーマに特化した古代から現代に至るコレクションという途方もないミュージアムは、タスマニアを一夜にして「いま世界でいちばん行きたいクールな旅行先」に変えてしまった。そのコレクション、デザイン、オペレーションにいたるまで、「ふつうの美術館」の真逆を行くMONAが、夏と冬の年2回開く音楽とアートの祭典、それが夏(つまり日本の冬)の「MOFO」であり、冬(日本の夏)の「DARK MOFO」である。ちなみにMOFOとは「MONA FOMA=Museum of Old and New Art: Festival Of Music and Art」の略。6月6日にスタートし23日に閉幕したばかりの、7回目となるDARK MOFO 2019には、本メルマガで何度も取り上げ、8月には「あいちトリエンナーレ」にも登場するサエボーグが参戦した。

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MONA、あるいはルーレットのゼロに賭けた美術館

いまも昔も巨万の富を築いた大金持ちがつくりたくなるものの筆頭、それが美術館だ。ロサンジェルス、モスクワ、上海・・・・・・世界にはメジャーな公立美術館をしのぐ規模の個人美術館がいろいろあるが、そのほとんどすべては「ちゃんとしたコレクション」。高い教養と専門知識(と潤沢な資金)によって収集された、ごくまっとうなラインナップであって、個人だから公立美術館よりはるかに野心的な企画展が見られるかと思うと、意外にそうでもなかったりする。それは大金持ちが「カネ稼いでるだけじゃなくて、ちゃんと文化貢献してるんですよ」という大衆へのアピールでもあるからだろうか。でも、そういう芸術愛の奥に秘められた虚栄心や罪悪感とはまったく無縁の、やりたい放題やってるだけの巨大個人美術館がある。それがタスマニアのMONAだ。

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ロードサイド・ライブラリー新刊「めくるめくお色気レコジャケ宇宙」完成!

2016年の『秘宝館』から数えて6冊目になるロードサイダーズ版電子書籍『BED SIDE MUSIC ―― めくるめくお色気レコジャケ宇宙』が、ついにリリース! いよいよ今週末に迫ったロードサイド・ブックフェアでの初披露に向けて、最終作業が急ピッチで進行中です。本メルマガでもおなじみの「日本でいちばん展覧会を見る男」であり、稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

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博物学と写真の邂逅

タスマニアの本でもないかとシドニーの書店をネットで探し、ホテルのそばからバスに乗っていると、中心部のハイドパーク脇、古風な建物を通りすぎた。モノクロの動物写真のような展覧会ポスターが貼ってあるのが車窓から見えて、妙に気になったので帰りに寄ってみたら、それがオーストラリア博物館で開催中の『Capturing Nature』展だった。「1857-1895 オーストラリア博物館所蔵の初期科学写真」と副題のついたその展示は、19世紀後半から終わりにかけて、つまり写真技術がガラス乾板からフィルムに移行する直前の時期に、収蔵標本を撮影した最初期の科学記録写真展なのだった。

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わたしのからだは花の器

去年9月に東京藝術大学大学美術館で開かれた展覧会「台湾写真表現の今〈Inside / Outside〉」で出会った、台北の若い写真作家・許曉薇(シュウ・ショウウェイ)の『花之器』に衝撃を受けてから、まだ1年も経っていない。今年2月6日号では本メルマガに「Freestyle China 即興中国」を連載中の吉井忍さんに、台北でシュウさんを取材してもらったばかり(「緊縛する私たち」)。そのシュウさんが台北の写真ギャラリーで、初の個展を開くという。来月には大阪で、そして来年には東京茅場町のギャラリーKKAGで僕が担当する連続企画「都築響一の眼」でも登場していただく予定なので、その前にどうしても見ておきたくて、2泊3日で慌ただしく台北に行ってきた。ちょうどそのころ吉井さんも台北を訪れる予定があるというので、またもお願いして、さらにじっくりお話を伺ってもらうことに。

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lifestyle

アメリカヤの記憶

TABF(東京アートブックフェア)にあわせて開いたPABF(プアマンズ・アートブックフェア)で売り子をしていたら、若い男女のお客さんに「(山梨の)韮崎から来たんです」と声をかけられた。「韮崎といえばアメリカヤが・・・・・・」と答えかけたら「私たち、アメリカヤの5階でデザイン事務所やってるんです」と言われて驚いた。『珍日本紀行』にも収録した韮崎の土産屋兼食堂「アメリカヤ」は、オーナーの星野貢さんが2003年に死去されて閉鎖。店内と同じくらいファンキーかつエキセントリックだった愛車やお墓までもすっきり片付けられたと聞いて、残念な思いをずっと抱いていたのだった。

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fashion

ドレス・コード?展、開幕!

先週土曜日、猛暑の京都で『ドレス・コード?――着る人たちのゲーム』展が初日を迎えた。すでにお知らせしてきたように10月14日まで京都国立近代美術館で開催され、そのあと熊本市現代美術館に巡回するこの展覧会、僕も写真で参加している。機会があればご覧いただけるとうれしい。近現代ファッションの展覧会は珍しいものではないが、そのほとんどは有名デザイナーの業績や、ある時代のトレンドに焦点を当てた作品展だ。今回の大規模なグループ展は「18世紀の男女の宮廷服や20世紀初頭の紳士服など歴史的な衣装類から現代の衣服まで、京都服飾文化研究財団(KCI)が収蔵する衣装コレクションから精選した約90点を中心に、現代アート、映画ポスター、演劇やマンガとのコラボレーションなど合計300点強」(公式サイトより)で構成される、ややヒネクレたとも言える「服の見方」を提起する展覧会である。

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それぞれの香港愛

香港はいったいどうなるんだろう・・・・・・と上海で考えた。6月のデモが200万人、きょう(8月19日)が主催者発表で170万人、と聞いてもピンと来ないかもしれないけれど、香港の人口は700万人ちょっと。実に全香港人の4人にひとりがデモに参加したわけだ。ちなみに東京の人口は1千万人弱なので、250万人が街に繰り出すって・・・・・・想像できます? そういう香港のこれからはだれにもわからないけれど、とりあえず僕らにできることは「香港を忘れないこと」だろう。騒乱の香港とともに、「いつもの香港」を見続けることだって大切なはずだ。

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ロウ人形に教わる「魔都」上海

上海に初めて、たとえば3泊4日とかで旅行しようとする。旅行ガイドやウェブサイトを見て行きたい場所をチェックして・・・・・・いきなり途方に暮れるひとが少なくないはずだ。歴史的な観光名所はもちろん、メジャー・サイズのミュージアムも年々増えるいっぽうなので、いったいどこをどう回ったらいいのか、選択に困ってしまう。そういう新たな観光スポットの影で、昔から姿を変えずに残っている場所もある。僕は初めて訪れる都市でロウ人形館を探すのが好きなのだが、上海にもおなじみマダム・タッソーがある。でも、もう一カ所、いまから10年以上も前に上海で見つけたロウ人形の館が、まだそのまま残っていると聞いて、今回もつい再訪してしまった。

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針と糸でつづる香港愛

抗議活動が13週目を迎え、いよいよ臨界点に近づきつつある香港情勢を、世界が固唾を呑んで見守っている。そんなタイミングで、「香港を忘れないために」先々週はふたりの香港在住写真家を紹介したが、今週はこれもきわめてユニークなかたちで「香港愛」を表現し続ける日本のアーティストを紹介したい。鈴木久美子さんと知り合ったのはもう20年近く前で、そのころ彼女は『SWITCH』という雑誌の編集者だった。仕事でも、夜の遊び場でもよく会うようになって、でも彼女が「編集者のかたわら家でチクチク刺繍をしている」ことは数年前になって初めて知ったのだった。2011年ごろから「macaroni」という活動名で作品を発表している鈴木さんは「刺繍作家」ということになるけれど、大げさな現代美術インスタレーションとかではなく、ハンカチやトートバッグ、ポーチのようなかわいらしいサイズの布地に自分の好きなものを、絵を描くように刺繍している。

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「ビル景」の息づかい

すでにご覧になった方も多いだろうが、大竹伸朗『ビル景』展が7月13日から水戸芸術館で開かれている。本メルマガでは今年4月3日号で熊本市現代美術館での展覧会を特集したが、そこからさらに新作など100点あまりが加わり、約600点の「ビル景」が並んだ大規模な展示になっている。また今回の『ビル景』は、大竹くんにとって2006年の東京都現代美術館での『全景 1955-2006』以来、なんと13年ぶりとなる関東エリアでの美術館個展でもある。

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着倒れ続けてマーク・ジェイコブス

カメラマンとしてファッションのお仕事をすることは数年に一度くらいしかないけれど、8月には珍しくファッション撮影の機会があった。マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)のファンを写真に撮るという企画である。『HAPPY VICTIMS 着倒れ方丈記』は去年、原版から10年ぶりに復刊になった(復刊ドットコム刊)。その中にはマーク・ジェイコブスの着倒れさんも収録されているが、「そのひとと連絡取りたい」と、マーク・ジェイコブスのニューヨーク本社から突然、連絡が来たのが数ヶ月前のこと。いまになって怒られるのか!?と一瞬身構えたが、そうではなくニューヨークでイベントをやるので、あの写真をTシャツにしたいのだという。『着倒れ方丈記』はもともと、今は亡きファッション誌『流行通信』に1999~2006年まで続いた連載で、マーク・ジェイコブスの回は2002年に取材・掲載。かなりの月日が経っているので連絡先を探すのに時間がかかったけれど、なんとか発見。そんなやり取りをしているうちに、「新たにマークの着倒れさんたちを撮影できないか」という提案をもらったのだった。

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いまそこにいるイヴのために

「ラブドールの写真集をつくってるんです」と言われて一瞬、またかという気持ちになった。先々週、馬喰横山町KKAGで開催された石井陽子さんの写真展『鹿の惑星』トーク会場でのこと。話しかけてくれた青年はいかにも手づくりっぽい、薄い写真集を取り出してみせた。「SAORI」とタイトルがついているのは、オリエント工業の一番人気モデル「沙織」のことだろう。正直言ってあまり期待しないままページをめくってみると、そこにはめったに見られないラブドールの写真が載っていた。SAORIと名づけられてはいるけれど、この写真集の主人公はラブドールではなくて、ラブドールを愛するひとりの中年男なのだった。人造美女ではなくて、ラブドールと人間――サオリとナカジマさん――が交わした愛の記録が、写真と文章でつづられているのだった。

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すぐそこにいる幻想生物たち

平日の昼下がり、ふだんなら静かなはずの国立民族学博物館が、やけに賑わっていた。それも、いつもよりもずっと若くて、博物館よりむしろ秋葉原や大阪日本橋にいそうな子たちが、展示に食いついている。8月末から始まっている特別展『驚異と怪異――想像界の生きものたち』が気になっていて、やっと来れたのだった。タイトルどおりこの特別展は「人間の想像のなかの生きものたち」を世界中に求めた特別展。日本を含むアジア、中近東、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸・・・・・・世界各地の人間たちが思い描いた不思議な生きものたちと、それらを通して見えてくる人間の想像力の豊かさやバラエティ、文明をまたいだ共通点などを、約630点に及ぶ資料で探るユニークなプロジェクトなのだ。

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無限界の浜辺にて――山本昌男「手中一滴」展

「うちとしては異例の入場者数でした!」というロバート・フランク展を終えたばかりの清里フォトアートミュージアムで、山本昌男「手中一滴」展が始まっている。写真好きでロバート・フランクを知らないひとはいないだろうが、山本昌男という名前に頷けるひとがどれくらいいるだろうか。展覧会のお知らせをもらうまで僕も不勉強でよく知らず、チラシに載っている写真を見て「知られざる物故作家の発見か」と思ったら、なんと1歳違いとはいえ年下の現役写真家なのだった・・・・・・涙。美術館のスタッフによれば、館長の細江英公さんも「こんな昔の人、よく見つけてきたねえ」と感心したそうなので、その年代詐称というと変だけど、時代感覚の超越ぶりはかなりのものである。

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工房集の作家たち 2 大倉史子

先週の尾崎翔悟に続いて、埼玉県川口市の工房集につどう作家たちから、今週は大倉史子(おおくら・ふみこ)を紹介する。にぎやかな工房集のアトリエを抜けて裏庭に出ると、陽当たりのいい片隅に置かれた机に画用紙を広げて、熱心にペンを走らせる女性がいた。大倉史子さん、1984年生まれ。もともと創作が大好きで、高校卒業後、活動を続けられる場所を求めて、みずから工房集を選んで2003年から通うようになった。大倉さんには自閉があり、他人とのストレートなコミュニケーションが難しく、たいていはみんなと離れた庭の机などで絵に取り組んでいる。いつもひとりで。ただ、それは「みんなのなかに入っていかない」だけで、すぐそばにはいるという、大倉さんなりの「一緒にいる」ありかたなのかもしれない。

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Freestyle China 即興中国 存在することの、一抹の不安――写真家・張克純インタビュー(文:吉井忍 写真[作品]:張克純)

先日訪ねた寧波の写真専門ライブラリー「Jiazazhi」で写真集を見せていただいている時、オーナーの言由さんから「これは黄河の流域を撮ったやつ」と手渡された一冊があった。よくある「われわれの文化を育んだ偉大なる河」を表現した風景写真かな……と思いつつページをめくると、予想とは違った世界が広がっていた。黄河ももちろん写ってはいるが、面白かったのはどの作品にも写り込んでいる人々の姿だ。荒廃しながらもまだ圧倒的なパワーを持つ中国の自然と、その中でどうしようもない自身の小ささを受け入れながら弾け散る人々の生命。この『北流活活(The Yellow River)』は四川省成都市在住の写真家・張克純(ジャンクーチュン)さんの作品集だ。

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圏外の街角から:今治の昼と夜と

地方でトーク・イベントに呼ばれるとき、前後の日にどこか別の場所に立ち寄ってみることがよくある。11月初めに愛媛の松山でトークがあり、いつもだったら松山から南下して宇和島方面に遊びに行くところ、反対方面の予讃線に乗って今治で1泊してみることにした。今治・・・・・・どんなイメージが湧くだろう。まず「いまばり」って読めるだろうか。あとは造船、タオル、焼鳥(鉄板にへらで押しつけて焼くスタイル、今治のソウルフードらしい)? 松山市に次ぐ愛媛県2番目の都市であり、四国全体でも各県の県庁所在地に次ぐ5番目に大きい市である今治は人口約16万人。四国の陸地と、伯方島、大島、大三島など瀬戸内海の島嶼部で構成されている。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 1

日本では狭い部屋、小さな家を「うさぎ小屋」と言うけれど、中国ではそれが「かたつむりの家」になるらしい。数年前に中国中を熱狂させたテレビドラマ『蝸居』(かたつむりの家)には、中国大都市の住宅事情をめぐる庶民の涙ぐましい努力や葛藤や羨望や絶望が全部入りで、あまりのリアルさに突如打ち切りになってしまったのだという。オリジナル版からほぼ25年経って、なぜか今年の春に中国語版と台湾版の『TOKYO STYLE』が発売になった。「なぜいまになって?」という疑問というか当惑も感じつつ、ありがたいので喜んでいたら、中国版の出版社から「上海ブックフェアがあるので、その時期にあわせてトークイベントをやりませんか」とお誘いいただいた。提案されたトークの場所は巨大なMUJI(無印良品)上海旗艦店内イベントスペース、それにMIX PLACEという、ひとつの敷地にショップやレストランなどの機能を持った店舗がそれぞれ3階建てくらいの小ぶりな建物で集められたトレンディなスポットにある書店の2ヶ所。もちろん喜んで受けて日程などやり取りしているうちに、「どうせ来てもらえるなら、上海の部屋も撮影しませんか」という話になった。

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工房集の作家たち7 金子隆夫

埼玉県川口市の工房集につどう作家たちを紹介する連続企画、7回目となる今週は金子隆夫を紹介する。前回登場した横山涼さんの隣で机に向かっていた、あの男性が金子さんだ。金子さんは1976年生まれ、工房集の関連施設である川口太陽の家に所属している。工房集のギャラリーには小さな販売スペースがあって、作品やカタログが並んでいる。そのなかに『生きるための名言集。』と題されたハガキサイズの薄手の作品集があった。よく見ると「その1」から「その7」まで、もう7冊もつくられて、スタッフによると「どれもけっこう人気で、よく売れてるんですよ~」というのだった。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 3

上海中心部、1928年完成というから築100年以上という文化財級のアパート。こういう古い空間が好きだという若夫婦が、全体で160平米のユニットを区切った25平米ほどの部屋に住んでいる。以前も近くの古いアパートに住んでいたが、この建物がずっと気になっていて、部屋が空いたことを不動産屋で知り去年8月に引っ越してきた。家賃は月3300元(約5万1000円)。隣には愛犬家の家族が住んでいて、キッチンとバスルームを共用しているが、「とてもいいひとたちなので問題なし」。

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SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 4

部屋の主は上海の南に位置する浙江州の州都・杭州出身のアーティスト。ロンドンに2年半の留学を終えて、上海には去年4月に移ってきた。故郷から近いけれど近すぎない、「両親からちょうどいいくらい離れていられる距離」なのだそう。少なくとも80年以上は経っているというクラシカルなアパートは、旧フランス租界に残る典型的な戦前の集合住宅。彼女としては特に古いアパートを探していたわけではないが、上海中心部であるこのエリアがなにをするにも便利なので不動産屋に相談、一日目に案内された3つの物件のうち、ここが気に入って決めた。家賃は月に5,000元(約7万8,000円)。大家さんがとてもいいひとで、このエリアの平均は6,000元くらいなのに、1年住んでも値上げしないでいてくれている。

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SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 5

上海中心部、淮海中路から一歩入ったフランス租界に残る、いかにも古風な洋館。三角屋根の下、3階にあたる文字どおりの屋根裏部屋に住む彼女は、上海MUJIのグラフィックデザイン部門で働いている。出身は上海の南西に当たる江西省。武漢の大学でテキスタイル・アートを学び、卒業前の4年生で上海MUJIでインターンとして働き出したのが2年前のこと。卒業後は社員として、グラフィックデザイン部門に勤めている(残念ながら顔出しはNG)。一時はユースホステル暮らしだったという彼女が、この物件を見つけたのは一昨年9月。中国最大のオンラインモール「淘宝網=タオバオ」を通して、同じ階に2部屋を使って住んでいる夫婦から借りたのだった。部屋がかなり狭いうえに、さすがに設備が老朽化しているのと、キッチン、バストイレが共同ということで、家賃は月に1650元(約2万5000円)と格安。「こないだお手洗いの水漏れがひどかったのを直したばかりなので、来年も値上げはないと思うわ」と余裕である。

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不意の崇高――國分隆展@にしぴりかの美術館

仙台市中心部から北に向かって1時間ほど、黒川郡大和町(たいわちょう)に障害者福祉サービス施設に付随した「にしぴりかの美術館」がある。ちなみに大和町は彫刻家の佐藤忠良や、なんとあのDJポリスの出身地だそうだが、眠るような街並みに溶け込んだ、まったく美術館らしくないカジュアルなたたずまいのにしぴりかは、アウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化した展示で、このメールマガジンでも何度も紹介してきた。そのにしぴりかで1月17日まで開催中なのが「シリーズ夜光~國分隆展~」。やはり本メルマガで2015年、「詩にいたる病」として短期集中連載した、高雄の平川病院などいくつもの精神科病院で〈造形教室〉を主宰してきた安彦講平(あびこ・こうへい)さんの「光は闇の内から生まれ出る 光は闇の奥底を照らし続ける」という言葉から採られたそうで、このシリーズでは毎回、〈造形教室〉に関わる作家をひとりずつ個展形式で紹介している。

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地上絵と限界鉛筆

2018年10月に新潟市の北書店でトークイベントをやらせてもらったときのこと、休憩時間にお客さんのひとりが「こんなの作ってるんです」と、手のひらに乗せたホチキス針箱ぐらいの小箱を見せてくれた。そーっと箱を開けると、そこからチビた・・・・・・というより極限まで削り込まれて小さなホック(スナップボタン)の頭ぐらいになった鉛筆がいくつも出てくる。こんなのいったい、どうやってつくったんだろう! 本人が言うところの「限界鉛筆」の作者・鈴木千歳さんは、お話を聞いてみると、なんと!サスノグリフスのメンバーだとも言う。ご存じのかたもいらっしゃるだろうが、「サスノグリフス」は新潟の海沿いの砂浜にナスカのような巨大な地上絵を描き、それを空から見てもらおうという(だれが!)プロジェクト。こんなに巨大なものと、こんなに微細なものを同時に手がけてるって、いったいどんなひとなんだと興味が募りつつ、なかなか機会がないまま時間が経って、ようやく先日新潟を再訪。ゆっくりお話を伺うことができた。

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movie

世界の絆はポルノから

配信どころかDVDすらなかったVHSビデオテープ時代に開花した「抜けないAV」――珍妙だったりシュールだったり理解不可能だったり――の逸品を本メルマガでは連載「はぐれAV劇場」として長らく紹介しているが、著者の大須さんによれば「基本的にDVDは買いません」。AVメディアがVHSからDVDに移行したあたりから、テープの容量制限を気にする必要がなく、延々と収録された映像の「抜きどころ」だけを早送りして鑑賞できるようになって、映像作品としてのAVは冒頭から結末までのリニアな映像作品としての使命を終えたのだろう。エロに「おもしろ」を求める時代はもう終わったのか・・・・・・と、「はぐれAV劇場」の記事を準備しながら嘆いていたとき、意外な別方面で「はぐれエロ」が、それも途轍もないスケールで出現していることに気がついた。エロ動画配信サービスである。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 9

上海市中心部の大きな団地ブロック。エレベーターなしの7階の広いアパートを、彼女は2人の友だちとシェアして住んでいる。生まれたのは山東省、大学進学を機に上海にやってきたのが7年前のこと。そのうち1年間はアイルランドに留学していて、「でも勉強というより、外の世界を見たかったから、学校より街を歩きまわってばかりいた」。卒業論文のテーマは「ヴェイパーウェイヴ」。もともとネットから誕生した音楽形態で、過去のさまざまな音源にデジタル・イフェクトを重ねていくことで制作される、いかにも21世紀的な音楽だが、いまではそのスタイルがアートの世界にも波及しているのをご存じのかたもいらっしゃるかと。いま、多くの日本人音楽愛好家を困惑させている(?)、海外におけるバブル期シティポップ・ブームも、ヴェイパーウェイヴとかなり関わりが深い現象ではある。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 11

「八万人体育場」と呼ばれ、北京国家体育場に次いで中国第2の規模を誇る上海スタジアム(体育場)のすぐ脇、古い団地に住むロック・ギタリストである。 彼が育ったのは大連、大学進学で寧波にやってきて、2008年から上海で働くようになった。最初は広告代理店に勤めていたが、忙しすぎて音楽に時間が割けないので、別の会社に移ってマーケティング担当として働きながら、バンド活動を続けている。いまの会社も平日は出社しなくてはならないが、年に18日の有給休暇があるので、その期間を利用して練習に集中したり、海外に行くこともできる。去年(2019)は10月にヨーロッパ・ツアーをしてきたばかりだ。 彼がギターを担当するのは「上海秋天(Shanghai Qiutian)」、地元のインディ・シーンではかなり知られたロックバンドで、メンバーは彼を含めて5人。その全員が仕事を持ちながら音楽活動を続けている。

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photography

都築響一の眼 vol.3『許曉薇写真展 花之器』

東京馬喰町の写真専門アートギャラリーKKAGで連続開催している「都築響一の眼」。3回目となる「許曉薇(シュウ・ショウウェイ)写真展『花之器』The Vessel That Blossoms」が3月18日からスタートする。台湾の写真家・シュウ・ショウウェイについては2019年2月6日号「緊縛する私たち(文:吉井忍)や、去年夏に台北で開かれた展覧会リポート「わたしのからだは花の器」でも紹介してきた。2018年9月に東京藝術大学大学美術館で開かれた展覧会「台湾写真表現の今〈Inside / Outside〉」で出会ったのがきっかけで、去年は大阪でも展示があったが、東京での本格的な個展はこれが初めてになる。

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travel

おもしろうてやがてかなしき済州島紀行3 世界性文化博物館

韓国西南端の海上に浮かぶ済州島は、朝鮮戦争が終結して世情が安定したころから、韓国人カップルの新婚旅行先として人気ナンバー・ワンになった。1989年に海外旅行が全面自由化されるまで、韓国人にとって海外への新婚旅行は高嶺の花だったし、気候が温暖で距離も手近、島民性も穏やかな済州島は、かっこうのハネムーン・スポットだったのだ。そのへんの事情は、日本の宮崎とよく似ている。海を渡る旅、という意味ではいちおう「海外」だし。統計によれば1970年ごろから1995年まで、済州島は新婚旅行市場の占有率第1位の座にあり、96年にはじめて海外旅行に1位を奪われたものの、97年の経済危機によって、ふたたび新婚さんたちは済州島に戻ってきて、いまだに国内の新婚旅行先としては不動の人気を誇るらしい。

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travel

おもしろうてやがてかなしき済州島紀行4 健康と性博物館

沖縄本島よりひとまわり大きいくらいの島なのに、なんと3つもセックス・ミュージアムがある済州島。先週はワールドカップ・サッカースタジアム内という意表を突いたロケーションにある「世界性文化博物館」を紹介したが、今週お連れするのは「健康と性博物館」。英語名も「ザ・ミュージアム・オブ・セックス&ヘルス」、来週紹介予定の「ラブランド」に続いて2006年3月に開館した、すでに14年の歴史を誇るセックス・ミュージアムである。「性を正しく理解すれば、健康的で素晴らしい性生活が実現できる」というコンセプトのもと、オトナなら知っておくべき性の知識が各フロアにたっぷり展示されているわけだが……済州島初体験から10年ぶりに再訪して、実はいちばん驚いたのがこのミュージアム。いろいろ意識高くなった現在、セックス・ミュージアムの類いは衰退気味と思いきや、ここは以前より格段にパワーアップして盛業中なのだった!

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travel

おもしろうてやがてかなしき済州島紀行5 ラブランド

済州島セックス・ミュージアム行脚の最後を飾るのは「ラブランド」。これまで紹介した「世界性文化博物館」「健康と性博物館」は島の南西部、リゾートの西帰浦(ソギポ)エリアにあったが、ラブランドは北部の空港から南に向かう丘陵地帯にあって、空港からタクシーでも15~20分ほどという便利なアクセスだ。しかもお隣は済州道立美術館という立派な現代美術館、目の前は「見た目上り坂なのに実は下り坂」という観光名所、通称「トッケビ道路」。こんなロケーションにセックス・ミュージアムとは! 済州島セックス・ミュージアムの元祖とも言える、そのラブランドは2002年から2年間の準備期間をかけて、2004年11月16日にオープン。すでに15年以上の歴史を誇っている。コンセプトは――「生命の神秘を表現するアート・テーマパーク」。ソウルの美術大学・弘益大学校の卒業生たちが中心となって制作した作品約100点が、サッカー・フィールド2つぶんという広大な敷地にずらりと並び、おまけに2つの室内展示館まで備えるという、やたら大規模な「性をテーマにした野外彫刻公園」なのだ。

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food & drink

ニューヨーク・デリ物語

ニューヨークにあって東京にないものはたくさんあるけれど、東京にあってニューヨークにないものもある。そのひとつがコンビニだ。いや、セブンイレブンとかがないわけではないけれど、ニューヨークでは昔から「デリ」がコンビニのかわりにニューヨーク市民の生活をしっかり下支えしてきた。酔っ払って帰る途中で缶ビールとポテチを買い込む深夜のデリ。バカ高いホテルの朝食がもったいなくてヨーグルトやフルーツやベーグルを買う朝のデリ。近所で働くビジネスマンたちと一緒の列に並んでサンドイッチを頼み、そのボリュームにビビるランチタイムのデリ・・・・・・ニューヨークで過ごす数日間で、いちどもデリのお世話にならないというひとは、まずいないだろう。東京で過ごす数日間で、コンビニのお世話にならないひとがいないように。

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food & drink

てっちゃんの記憶

札幌でいちばん好きな場所は『レトロスペース坂会館』と『大漁居酒屋てっちゃん』。そのてっちゃんが先週閉店と聞いて、呆然となった。コロナ自粛でしばらく店を閉めていたが、その以前から体力的にもかなり限界に近く、閉めどきを計っていたところだったこともあり、「臨時休業中のてっちゃんですが、このままそっと閉店いたします」(Facebookページより)となったのだそう。てっちゃんに初めて足を踏み入れたのはたぶん1990年代の終わりごろで、その店内装飾、料理、てっちゃんこと阿部鉄男さんと、店を支えるご家族の人柄、すべてに一瞬で魅了された。

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art

怪人シキバ二十面相

ずいぶん前から机の脇に山下清の写真を貼って、ときどき眺めている。放浪時代の山下清は道路ではなく線路を歩いて次の町に向かうのが常だったそうで、それは線路を歩いていれば道に迷わないし、駅舎で寝ることもできるからだった。山下清は知名度に欠けたのではなく、知名度がありすぎて過小評価されてきたアーティストだと思うが、多くのひとがイメージする山下清は「裸の大将」の芦屋雁之助なのであって、実物の山下清は汚れなきオトナコドモどころか、障害者施設の八幡学園に暮らすようになった子ども時代からかなりのワルで、先生方に手を焼かせていた。

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art

ホンコン・コーリング

新型コロナウィルスで日本やアメリカ、ブラジルのような「負け組」と、韓国や台湾のような「勝ち組」が徐々にはっきりし始めている現在。1月23日に1人目の感染者を出した香港は、その後の徹底的な制御と情報公開のおかげで4月末から新たな感染者が出ておらず、ウィルスの封じ込めに成功したかのように見えるが・・・・・・そのいっぽうで、感染防止を目的とする集会禁止令が解除される日が来ても、コロナ直前まで盛り上がっていた政府への抗議デモ活動のほうは、さらなる規制を可能にする条例が制定されて完全に封じ込められるのではないかという危機感が高まっている。僕ら日本人にとって「行きたくても行けない国」のひとつになってしまっている香港で、3月14日から開かれているのが周俊輝(チョウ・チュン・ファイ)の個展『背影 Portraits from Behind』。日本の状況がこんなふうになる前は、もしかしたら見に行けるかと淡い期待を抱いていたが、会期終了になる5月16日まで事態好転が望めない状況なので、ギャラリーから画像を送っていただいて紹介することにした。

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photography

ヤングポートフォリオ誌上展2

新型コロナウィルス感染防止のために休館状態が続いている、清里のフォトアートミュージアムで開催予定だった新人作家展「2019年度 ヤング・ポートフォリオ」。世界各地から35歳以下の写真家が応募し、選考委員が気に入った作者のプリントを、委員が選んだだけ買い上げて収蔵!という、世界でも稀に見る太っ腹な新人写真賞。今回は東欧、アジア全域から日本まで22名、計136点のプリントを川田喜久治、細江英公館長と僕の3人が選考、ミュージアムが購入することになった。2019年4月15日~5月15日の応募期間に寄せられた応募者総数152人、応募総点数3848点という大量の作品のうちから、選ばれた作家全員を紹介する誌上展。先週に続く後編では、選考会のあとに行われた委員3人による座談会と、先週紹介できなかった9名の作家をまとめてご覧いただく。

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photography

もの言わぬ街から

休館を余儀なくされている美術館の興味深い企画展を誌上で紹介するシリーズ、というわけでもないけれど毎週お送りしている特集、今週は埼玉県東松山の「原爆の図 丸木美術館」で2月22日に始まったものの、新型コロナウィルス感染防止のために4月9日から臨時休館、残念ながらそのまま閉幕してしまった「砂守勝巳写真展 黙示する風景」を紹介させてもらいたい。 「黙示」とは文字どおり暗黙のうちに示される真理だが、「黙示の風景」とはいったいどんな風景が、どんな真理を示しているのだろうか。そもそも砂守勝巳とは、どんな写真家なのだろうか。

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art

私たち、言葉になって帰ってくる

ようやく各地で規制が緩やかになりはじめたけれど、まだまだ美術館は多くが休館中。今年が開館30周年という千葉佐倉のDIC川村記念美術館も、全面休館が続いている。3月20日から始まる予定だった「ふたつのまどか」は、サイ・トゥオンブリーやジョアン・ミロなど美術館の収蔵作品と、現代の作家たち5人を組み合わせたおもしろい試みで、本メルマガ2015年5月20日号で配信した「銀河の中に仮名の歓喜」で紹介した現代美術家であり回文作家でもある福田尚代さんが、ジョゼフ・コーネルとのセットで参加している。

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lifestyle

タキシード・サムライ 2

特攻隊員として散りかけ、ソ連軍の捕虜となりかけるも、持ち前の強運で無事に終戦を迎えたまだ20歳の三郎青年は、戦闘機乗りから映画屋へと、劇的に転回する人生に踏み出すことになる。暗く重い戦時の環境から抜け出した日本は、焦土と化した中でも爆発的な解放感と、あらゆる娯楽への渇望に湧きたっていた。昭和20(1945)年、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による日本統治が始まってまもなく、松竹大船撮影所製作による『そよかぜ』が戦後日本映画第一作として、8月15日の玉音放送からわずか2ヶ月後の10月10日に全国公開。並木路子が歌う挿入歌『リンゴの唄』が大ヒットとなった。洋画のほうも同年12月6日にはアメリカ映画『ユーコンの叫び』が戦後初公開。ここから昭和35(1960)年に最高製作本数を記録するまでの約15年間、映画産業は戦後の黄金時代を迎えることになる。 *今号では文中ならびに文末にて、大阪・銀座「ラモール」時代の写真や、三好氏のアイデアとセンスのつまったショップカードやPRアイテムを紹介していきます。こんな時代が羨ましいと思わずうっとりすること必須。どうぞお楽しみに!

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art

SYSTEM K ―― ゲットーの未来派たち

「神は局部に宿る エロトピア・ジャパン」(2016年)や「渋谷残酷劇場」(2018年)を開催したアツコ・バルーを主宰し、現在はロンドンを拠点に活動するアツコさんから「これ、知ってる?」という短いメッセージと一緒に、映画の予告編のリンクが送られてきた。『SYSTEM K』というそのドキュメンタリーは、今年1月にパリでワールドプレミアを迎えたばかりの新作。それはコンゴ民主共和国の首都キンシャサのゲットーで活動するストリート・アーティストやパフォーマーを記録した、刺激でひりつくドキュメンタリーだった。 監督はフランス人のルノー・バレ(Renaud Barret)。2010年にはやはりコンゴの路上で活動する、ポリオ(小児麻痺)障害者たちのバンドとストリート・チルドレンによるプロジェクトの記録『ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡』が公開され、日本でもかなり話題になった(フローラン・ド・ラ・テュライとの共同監督)。

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fashion

着るものと着られるもの ――特別展「きもの KIMONO」@東京国立博物館

このところ数十年から百年以上も前の記録映像が、AIのおかげできれいに修復・着色されて見られるようになってきた。明治・大正・昭和初期の映像もずいぶんあって、そういうものを見つけるたびに、僕は撮影された市井の人々の、衣服の着こなしに見入ってしまう。このあいだYouTubeに上がったばかりのこの映像は1913~15年、つまり大正初期の東京・浅草六区あたりの風景で、巡査や小学校の先生といった少数の例外をのぞけばほぼ全員が着物姿だ。男も女も、老いも若きも。あたりまえだが、その自然な着こなしがすごくいい。成人式やお茶の稽古や歌舞伎鑑賞といった、現代のハレの場の衣裳というのとはぜんぜんちがって。いま初台オペラシティ・アートギャラリーで開催中の『ドレス・コード?』展の解説に書いたように、「数千年の西洋文明のなかで、洋服はいまのようなかたちになってきた。でも日本ではほんの百年かそこら前まで全員が着物を着ていたのに、突然ほとんど全員が洋服になってしまった」。日本人にとっての衣服というものが、わずか百年でほんとうに激変してしまった事実を、東京国立博物館で開催中の特別展「きもの KIMONO」は僕らにあらためて突きつけてくれる。すでにかなり話題になっている展覧会だが、前後期展示替えをあわせて約300件の作品が披露されるのは、質量ともに世界最大の着物コレクションを持つ東博といえども実に47年ぶり。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 110  Maryhill Museum of Art, Goldendale, WA

ものすごく久しぶりのロードサイドUSA。もう連載終わったと思ってたひとも多いでしょうが、終わってないです! 昔のフィルムをスキャンするのをサボってただけ!涙 新型コロナウィルス感染防止のために、世界中でさまざまなビッグイベントがオンライン化してますが、パリコレも史上初の「デジタル・コレクション」になったのは、けっこうニュースで取り上げられたのでご存じのかたもいるかと。その皮切りとなる2020-21秋冬オートクチュールで、ディオールが発表した短編映画のような映像が、いろんな意味で話題になってます。 イタリアの映画監督マッテオ・ガローネによる、めっちゃ耽美な映像と、人形サイズの完璧なオートクチュール・ドレスによるビジュアル・ファンタジーに酔うひとあり。映像はきれいだけど、登場するのが全員白人なのが、いまどき神経を疑うという批判するひとあり。いろんな反応を報じたニュースのなかで、今作のヒントとなったのが「第二次大戦中に人形に服を着せた展覧会があった」という簡単な説明が見うけられます。でも、これはちょっと端折りすぎ!というわけで今週紹介したいのがアメリカ・ワシントン州の奥深くに眠るパリコレ人形ドレス・コレクション。

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art

「あるがまま」にアートはあるのか

特別展「あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち」が上野の東京藝術大学美術館で始まっている(9月6日まで)。今年も各地でアウトサイダー・アート/アール・ブリュット関係の展覧会はたくさん開かれたり予定されているが、本展はその規模と充実度で今年屈指の、日本の作家たちを紹介する展覧会だと思われる(しかも入場無料!)。

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travel

切り裂きジャックの街で

殺した人間の数から言えばもっと残忍なシリアルキラーはたくさんいるが、それでも「切り裂きジャック」が世界でいちばん有名なシリアルキラーであり続けていることは間違いないだろう(切り裂きジャックの犯行と公式に認められている被害者は5人)。冒頭に引用した仁賀克雄さんなど、切り裂きジャックの研究に生涯を捧げてきた「リッパロロジスト」(ジャック・ザ・リッパー Jack The Ripperから)による研究書は、犯行から150年近く経った現在でも数多く発表されている。 ヴィクトリア女王が君臨していた1888(明治21)年のロンドン。わずか3ヶ月足らずのうちに5件の凄惨な殺人事件を犯し、身を翻すように消え去り、いまだに正体不明の切り裂きジャック。凶行のホームグラウンドだったロンドン東部ホワイトチャペル地区に、その名も「ジャック・ザ・リッパー・ミュージアム」というおどろおどろしい観光展示施設がオープンしたのは2015年の夏だった。

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photography

「イルマタル」――岡部桃がいるところ

あの「まんだらけ」から写真集が出ると聞いて、瞬間的に思い出したのは2001年に出版されたカリスマ・コスプレ店員「声」ちゃんの緊縛写真集『人間時計』(本人の陰毛1本付き!)だったが、そういうのではなくて今回は岡部桃の作品集『ILMATAR』だった。薄くて軽い本ばかりが書店に並ぶなか、これはサイズが32.5X25.7センチ、革装ハードカバー、限定550部というずっしりヘヴィな作品集である。 岡部桃は東京に暮らす写真家だけど、日本の写真ファンにどれくらい知られているだろう。2013年と14年に出版された2冊の写真集は、いずれもニューヨークの出版社によるものだし、部数も少なかったから、ごく一部の幸運な読者しか手に取ることはできなかったはず。専門家の評価は高いけれど公式webサイトもなければ、いまネット上で読めるインタビューも英語版DAZEDの記事があるくらい。ミステリアスという言葉が適当かわからないけれど、その作風と同じくらい、活動のスタイルもきわめてパーソナルな作家であることは間違いない。

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art

PARCOの向いはアールブリュット――「カワル ガワル ヒロガル セカイ」展

今年7月8日号「公園通りのアウトサイダー」で紹介したばかりの、東京都渋谷公園通りギャラリー。新木場の東京都現代美術館のサテライト施設として今年2月にオープンしたアールブリュット/アウトサイダー・アートに特化した展示空間だ。「大竹彩子 GALAGALA」展を開催中の渋谷PARCOとは交差点を挟んだ対面に位置する絶好のロケーションなので、PARCOに行く際はぜひこちらも立ち寄っていただきたい。 公園通りギャラリーではいま「アール・ブリュット2020特別展 満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」を開催中(12月6日まで)。この領域の展覧会にありがちな、情緒的で内容不明系のタイトルはちょっとナンですが・・・・・・国内の作家16名と海外の作家2名の計18名からなるグループ展は、かなりの充実ぶり。

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travel

圏外の街角から:高崎中央銀座

群馬県立近代美術館がある高崎市までは、新幹線なら東京から1時間足らず、特急でも1時間半ほど。充分日帰り圏内だが、せっかく来たからには駅でだるまのお土産買っておしまい、ではもったいない。高崎の街なかを散策して、ワビサビ旅情をたっぷり味わっていただきたい。群馬県内最大の人口を擁する中核市でありながら、これほど寂れた商店街や飲み屋街が中心部にそのまま残る高崎市。さみしい場所が好きな一部マニアにとっては、かなり楽しめる場所かと・・・・・・。 高崎中央銀座は高崎駅の西側、徒歩20分ほどにある「高崎の銀座」・・・・・・だった。1969(昭和44)年に完成した県内初の屋根付きアーケードとして、当時は県内一の賑わいを見せていたが、しだいに駅前の大型商業ビルにお客さんを取られ、2014年には大雪でアーケードの一部が崩落という不運も重なり、いまやレトロと言えばレトロな、典型的シャッター商店街となってしまった。

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art

祝・ダダカン師、百歳!

『独居老人スタイル』や、本メルマガでも何度かフィーチャーしたアーティスト/ハプナーのダダカン(糸井貫二)が今年ついに100歳を迎え、今月13日から東京泉岳寺のカフェ・ゴダール・ギャラリーで記念展覧会が開催される。ギャラリーはカフェを併設した小ぶりの空間だが、「ダダカンの『殺すな』展」を前後期にわけて、またそのあいだにはダダカンゆかりのアーティストや、影響を受けた若手作家による「オマージュ作品展」を開催予定。仙台の伝説なのだから、本来は宮城県美術館かメディアテークあたりで大回顧展を開催すべきだと思うのだが、ぜんぜん動きなし。そのあいだに101歳になってしまう!のもナンなので、まずはカフェギャラリーでの展覧会で渇を癒やしておきたい。

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music

おきあがり赤ちゃん・堂々8枚組新譜リリース!

ロードサイダーズにはもうおなじみの異端サウンドアーティスト「おきあがり赤ちゃん」。2018年3月21日号「おきあがり赤ちゃんのビザール・サウンドスケープ」で紹介したのをきっかけに、DOMMUNE出演や渋谷アツコバルーの展示会場でもライブ演奏を披露していただいた。 そのおきあがり赤ちゃんがリリースした3年ぶりの新譜『おもちゃの音の音楽祭』は、なんと8枚組(+無料DVD-R)という、とんでもないボリューム! 115曲、8時間33分の超大作なのだった。デビューアルバムの『okiagari akachan』こそCD1枚だったが、2枚目の『振り子人形』にしてすでにCD3枚組(+写真とポエムのブックレット)のボックスセット。しかしそれにしても8枚組とは・・・・・・。もちろんこれまでリリースされた3作品、すべてが完全自主制作盤である。

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travel

Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 03 埼玉県

日本の伝統美を残すため、彫った彫刻600体 神秘珍々ニコニコ園―― ウィキペディアにすら項目がある神秘珍々ニコニコ園は、関東地方の珍スポットでも大物として知られ、ネットでも数多くの訪問記がアップされているほか、テレビ番組でも取り上げられていた。高坂駅前の不動産屋の社長である橋本保久氏がニコニコ園の園長でもあり、一時は東松山遊園地という手作り遊園地も開いていたという。 2004(平成16)年、園長の高齢化により閉園(2006年に他界された)。ヨドコウ物置が迷路のように並ぶ園内は、「展覧会開けなかったら、自分で物置買って田んぼに置けばいいんだよな。美術館や画廊のせいとかにしてないで」と、大いに勇気を与えてくれたものだったが。 グーグルストリートビューで見ると、ニコニコ園の跡地にはいま、太陽光発電パネルが並んでいた。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 04 千葉県

バブルの象徴とも言える「ふるさと創生事業」は、1988年から89年にかけて、各地の市区町村に「地域振興のために1億円を交付する」という、竹下内閣による究極の交付金ばらまき事業。このおかげで日本各地に珍名所が続々誕生したわけだが、房総半島のローズマリー公園もそのひとつ。なぜローズマリーかといえば、道の駅がある旧・安房郡丸山町が地中海と同じ緯度に位置することから、「風車とローズマリーの里」が構想され、1991年(平成3年)に「ローズマリー公園」として開園したのだった。 園内に「シェイクスピア・カントリー・パーク」が誕生したのは1997(平成9)年4月23日のこと。1564年4月23日に生まれ、1616年4月23日に亡くなったウィリアム・シェイクスピアににちなんでだった。

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art

追悼・ラッシー君

ロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみ、金沢在住の主婦アーティスト&コレクター山川博子さんの愛犬ラッシー君。去年になって、あんまり具合がよくないと聞き、動けるうちに山川さんと一緒の写真撮ろう!とか言ってるうちにコロナが始まり金沢に出かけるのを先延ばしにしているうちに、先日「ラッシー君が亡くなりました」というお知らせをいただいた。 山川さんと出会ったのは2017年6月、金沢21世紀美術館の『川越ゆりえ 弱虫標本』展でトークに呼ばれたときだった。そのときのことを書いた2017年10月18日 配信号「そう来たかラッシーくん!」に、こんなふうに書いた――

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art

大竹彩子 GALAGALAGALA

コロナ禍に揺れる東京で、昨年9月に渋谷PARCOミュージアムで開催された大竹彩子展「GALAGALA」。予想をはるかに上回る集客と反響に周囲はもちろん、本人も驚いたかもしれない。展覧会についてはメルマガ2020年9月16日配信号でもインタビューを交えてたっぷり紹介した。 彩子ちゃんがロンドンのセントマーティンズ・カレッジを卒業して帰国し、東京で最初のグループ展に参加したのが2017年(「dix vol.02」クワイエットノイズ アーツアンドブレイク)。それからいくつかのギャラリーでの個展やグループ展を経て、2019年の原宿ディーゼル・アートギャラリーの「COSMOS DISCO」で、一気に一般層(という言い方も変だが)にブレイク。翌年の渋谷PARCOでも全作品が早々にソールドアウト。その成長というか進撃のスピード感には、彼女をよく知ってるつもりだった僕も驚くばかりだった。 コロナウィルスはあれからもしつこく居座っているが、2月11日から今度は大阪・心斎橋PARCOで「GALAGALAGALA」がスタートする。

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art

平成とは「うたかたと瓦礫」の時代だったのか

先々週は京都国立近代美術館で開催中の「三島喜美代」コレクション展を紹介したが、今週は平安神宮に向かう道路を挟んで対面する京都市京セラ美術館で開かれている「平成美術 うたかたと瓦礫(デブリ)1989-2019」をご覧いただく。開館が1933(昭和8)年、実は公立美術館として日本に現存する最古の建築という京都市美術館。2015年に開催された「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭」の会場となったときは、ふだん閉じられていた庭園への扉が開放されて、こんなんなってたのか!とびっくりさせられた。2020年に大規模な改修を終えて京都市京セラ美術館としてリニューアルオープン。敷地の北東部分に新設された現代美術棟・東山キューブでは、5月から「杉本博司 瑠璃の浄土」が4ヶ月あまりにわたって開催されたので、アート・ファンにはすでにおなじみだろう。

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art

南の島の少年画家

砂守勝巳の奄美の写真を見ていて、不意に思い浮かんだ光景があった。 2006年に奄美の田中一村記念美術館を訪ねたとき、当時学芸員だった前村卓臣(まえむら・たくみ)さんに紹介したもらったのが屋嘉比寛(やかび・ひろし)という少年のコンピュータ・グラフィックス作品。高機能自閉症だった屋嘉比くんは、小学校4年生のときに田中一村の絵を出会い、美術館に通うようになって、一村作品をモチーフにしながら自分なりの絵を描いているうちに前村さんに発見され、12歳にして特別企画展を記念美術館で開くまでになったのだった。 その驚愕の作品群に、前村さんと同じく打ちのめされた僕は、当時連載していたデザイン誌『アイデア』でさっそく紹介。その記事は単行本『現代美術場外乱闘』(2009年、洋泉社刊)に収録されたが、どうも再刊が絶望的なようで、古書店で探していただくしかないが、せっかくなのでここに再録しておく。

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travel

ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 15 愛知県4

お料理と地獄の関係は?――東海地方屈指のB級スポットとしてマニアの熱い支持を得てきた、愛知県蒲郡市・三谷(みや)温泉の延命山大聖寺大秘殿。残念ながら2014年9月に閉山してしまった。跡地は現在、廃墟化している模様。グロテスクな地下洞窟めぐりが人気だった大聖寺大秘殿。同系列というか兄貴分の豊田市・岩戸山観世音寺風天洞に展示物の多くが移設されたそうなので、風天洞のほうはいっそうパワフルなアウトサイダー臭を放っていると思われる。

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photography

「portraits 見出された工藤正市」展@KKAG

東京東神田の写真専門ギャラリーKKAGで、2019年から開催している「都築響一の眼」シリーズ。「ラマスキー写真展 肌見の宴」(2019年4月)、「石井陽子写真展 鹿の惑星」(2019年9月)、「許曉薇(シュウ・ショウウェイ)写真展 花之器」(2020年3月)に続く4回目として、6月9日から「portraits 見出された工藤正市」展を開催させていただく。 メルマガ2020年10月14日号で特集した工藤正市は、これまでほとんどだれも知らなかった青森の写真家。亡くなった後に発見された膨大なネガを家族がスキャンして、1年ほど前からInstagramにアップを始め、いきなり世界に知られるようになった。 周囲の写真好きにも工藤正市はかなりの話題を呼んだが、「発見」から1年あまりのいま、青森市民図書館で「くらしのかまり 工藤正市が撮った昭和30年頃の青森市」というパネル展示が開かれてはいるが(6月30日まで)、本展は東京における工藤正市の初写真展となる。

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art

サエボーグとうんこの城

特異なラバー造形作家サエボーグの展覧会が渋谷PARCOミュージアムで先週末から始まっている。 2012年に自宅アトリエ訪問記を書いたのをはじめに(「突撃! 隣の変態さん」、2014年の「Slaughterhouseスローターハウス」、2016年の「ピッグペン」、2018年の「Wastelandウェイストランド」、そして2019年にはオーストラリア・タスマニアDARK MOFOでのパフォーマンスなど、ロードサイダーズではその活動をずっと追いかけてきた。

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陽はまた昇る この東京デルタ

『東京右半分』とかつくったくせに、ふだんから浅草や錦糸町に入り浸ってるわけではぜんぜんなくて、コロナ禍になってからはよけい足が遠のいているが、久しぶりに東武スカイツリーライン(伊勢崎線)に乗って東向島に行ってきた。玉ノ井カフェで開催中のマーク・ロビンソン写真展『東京の水辺 TOKYO SHORES』を見に行くためだった。 東向島、なんて風情のない名前だとピンとこないが、玉ノ井カフェのあるあたりはその名のとおり、かつて東京屈指の売春地帯だった玉ノ井である。永井荷風が入り浸り、『濹東綺譚』などでしつこく描いた場末の私娼街。隅田川の東側にあるから「濹(墨)東」なので(隅田川は古くから墨田川とも書かれた)、地理的には隅田川を挟んで西側、つまり浅草側に由緒も格式もある吉原があり、東側に由緒も格式もない玉ノ井や鳩の街が位置していた。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 24 兵庫1

人形たちの極甘世界一周メドレー――数世代の関西人に親しまれてきた宝塚ファミリーランドが閉園したのは2003年のこと。もう20年近く前になるが、いまもあのアットホームな雰囲気を懐かしむひとが少なくない。ファミリーランドが開園したのは明治44(1911)年、なんと90年以上の歴史を誇る遊園地だった。なかでもメイン・アトラクションのひとつ「大人形館・ファンタジーワールド」というライドものにすっかり魅せられて、1998年に『週刊SPA!』で連載中だった「珍日本紀行」で取材しただけでは気持ちが収まらず、2003年にはデザイン誌『アイデア』の連載「デザイン豚よ木に登れ」でもふたたび取材。このときは担当者のかたにもじっくりインタビューできたので(『現代美術場外乱闘』洋泉社刊、2009年に収録)、そちらのテキストをたっぷりの写真とともにご覧いただく。

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バンカラ文化とはなんだったのか ――旧制高等学校記念館訪問記

旧制松本高校校舎に隣接するコンクリート造の建物が「旧制高等学校記念館」。松本高校のみならず、全国の旧制高校の資料を収集・展示する珍しい資料館だ。ここ数年、宮城や岩手に残るバンカラ文化に惹かれてきたので、なんの予備知識もないまま入館してみたら、予想外の充実内容だったので、今週はぜひみなさまを旧制高校の暑苦しいバンカラ世界にお誘いしたい! 旧制高校記念館はもともと、1981年に開館した松本高等学校記念館を母体として、「松本高校ばかりでなく全国の旧制高等学校の資料を収集し、未来への架橋となるよう、各校同窓会の協力を得て」(公式サイトより)、1993(平成5)年に開館。20周年を迎えた2013(平成25)年にリニューアルオープンしている。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 26 長野2  金と宝石と美術品、信州のノイシュバンシュタイン城と人は呼ぶ

松本市から長野市へとクルマで移動するには、長野自動車道を使えば1時間半足らずの道のりだが、きょうはJR篠ノ井線に沿うように下道を走ってみる。松本市内から北上してしばらく、山道へと入り込んでいくと、かつて四賀村(しがむら)と呼ばれた集落に至る(2005年に松本市に編入)。ここに来たのは四半世紀ぶり……居酒屋チェーン「養老乃瀧」創業者・木下藤吉郎(本名・矢満田富勝=やまんだ・とみかつ)氏が建立した宮殿「信州ゴールデンキャッスル」を取材に来たのだった。

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『ゆきゆきて、神軍』夏の神軍祭り 奥崎謙三遺品展!

1945年の太平洋戦争終戦から数えて76回目の終戦記念日をさきごろ迎えたばかりというタイミングで、いま吉祥寺アップリンクでは『ゆきゆきて、神軍』を連日上映中である。 「神軍平等兵」とみずから名乗った稀代の怪人・奥崎謙三の肩書は――元・陸軍軍人、バッテリー商、著述家、俳優、アナーキスト――と多岐に亘るが、その名を一躍世界にとどろかせたのがドキュメンタリー映画作家・原一男による『ゆきゆきて、神軍』だった。1987年に公開された、日本ドキュメンタリー映画史上に輝くこの傑作は、これまで何度となく再上映を重ねているが、原監督のスタッフによれば「いまも上映会を開くと、初めて観るといういひとが8割方なんです」という。これほどまでに特殊な一個人の記録でありながら、社会も時代も超えて迫ってくる存在のエネルギーが、観るものすべてを震わせるのだろうか。

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顔ハメニストの憂鬱

展覧会のたびに顔ハメ看板を設置しようと提案しては学芸員を困らせている、僕もけっこう顔ハメ好きではあるけれど、このひとにはかなわないと思うのが「顔ハメ看板ニスト」をみずから名乗る塩谷朋之(しおや・ともゆき)さん。2015年に顔ハメ看板行脚の集大成的記録集『顔ハメ看板ハマり道』が刊行された際に、本メルマガでも「穴があればハメてきた――顔ハメ看板ハマり道」(2015年09月09日号)で紹介させていただいた。「おそらく日本でいちばん「顔ハメにハマった男」。これまでハマった穴が2千枚以上!」とそのとき書いたが、すでに6年前なので、いまは何千枚に記録を更新していることか……。 塩谷さんは『顔ハメ看板ハマり道』出版のあと、県別顔ハメ記録集として2019年に第一弾『顔ハメ百景 長崎天領ぶらぶら編』(阿佐ヶ谷書院刊)を発表。そして2年後の今月、第二弾『顔ハメ百景 青森最果てワンダー編 』をリリースした。

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おかえり TOKYO ATOM vol. 00

連載の序にかえて:都築響一―― 恵比寿にあった「みるく」という店を覚えているひとが、どれくらいいるだろうか。 大学生のころPOPEYE編集部で働き始めて、編集者として最初に担当したのがディスコ・コーナー。当時いちばん勢いのあった新宿ツバキハウスで、店長だった佐藤俊博さんと仲良くなって一緒に遊んでるうちに、新しい店を開くたびに「どんな店がいいと思う?」と相談を受けて、それがイメージをつくる仕事になった。これまでずいぶんたくさんの佐藤さんの店に関わらせてもらったうち、1989年に開店した芝浦GOLDのあと、1994年に乃木坂に「ORANGE」という小ぶりなロックバーをつくり、それを発展させて大がかりな店になったのが1995年にオープンした恵比寿のみるくだった。

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よみがえる加納典明

11月3日配信号で清里フォトアート・ミュージアムで開催中の「細江英公の写真:暗箱のなかの劇場」を紹介した(12月5日まで)。88歳という細江さんは、さすがにあまり写真は撮っていないようだが、去年お会いしたときも気力充実、お元気な声を聞かせてくれた。細江さんは1933年という戦前生まれだが、戦後どころか戦中生まれの写真家で、いまでも現役バリバリで活躍しているひとがたくさんいて、写真家は特別に長生き人種なのかとつくづく思ったり。細江さんは別格としても、僕が子どものころに平凡パンチやアンアンで見知った写真家の御大たちが、いまでも元気にカメラを握っているのは驚異的というか、年下の写真家には脅威的というか。僕は長濱治さんとはPOPEYE時代に編集担当としてずいぶん仕事をご一緒したが、その長濱さんと高校の同級生というのが加納典明。荒木経惟とは別の方向性のスキャンダラスなヌード写真の数々で、このひと以上に一世を風靡した写真家はいないと思う。その加納さんがいきなり脚光を浴びることになった1969年のシリーズ「FUCK」が、発表から60余年の歳月を経て、初めてきちんとプリントされた写真展となって、いま天王洲アイルのYUKIKO MIZUTANIで開催中である。

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MONDO 映画ポスターのオルタナティブ

映画作品上映と並んで興味深い企画展示を続けている京橋・国立映画アーカイブではいま、映画ポスター展シリーズの9回目となる「MONDO 映画ポスターアートの最前線」を開催中だ。猟奇好きのみなさまは「モンド映画!」と勘違いしてしまうかもだけど、こちらはテキサス州オースティンのアート集団「MONDO」によるオリジナル映画ポスターのこと。旧作から新作までさまざまな映画の、配給会社がつくる公式ポスターとは別の、さまざまなアーティストやイラストレーターによるオリジナル・ポスターを制作してきた。今回、国立映画アーカイブでは71点のポスターが展示されているが、熱心な映画ファンには知られた存在とはいえ、MONDOの作品がこれだけまとまって国内で見られるのは初の機会であるはずだ。

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私はいかにして心配するのをやめて映画ポスターを愛するようになったか ――「崩壊と覚醒の70sアメリカ映画」@川喜多映画記念館

正月三が日明けで空いてるかと思いきや原宿竹下通りみたいな大混雑の小町通りを抜けて、川喜多映画記念館に「崩壊と覚醒の70sアメリカ映画」を観に行った。2020年07月08日号でATG[アート・シアター・ギルド]のポスター展を紹介した川喜多映画記念館で、今度は70年代、つまりニューシネマからニューハリウッドにいたるアメリカ映画のポスター展である。 展覧会場に並ぶポスターを提供したのは「POSTER-MAN」をみずから名乗る収集家・小野里徹さん。今週は展覧会の様子を紹介するとともに、小野里さんに映画ポスター収集人生を振り返っていただいたので、あわせてお読みいただきたい。

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「瀬戸正人 記憶の地図」

新宿御苑前を中心に写真専門ギャラリーがいくつも集まっているのは、東京の写真好きによく知られている。その中で僕がよく行くのがPlace Mというギャラリーで、ここは通常の商業ギャラリーではなく、5人の写真家による自主運営ギャラリー。展示会場のレンタル、ワークショップ、暗室レンタルなどを通じて、若手の写真家を育てる場をもう35年間も提供してきた。 Place Mでは土曜日の夕方に「夜の写真学校」というワークショップも開いていて、これも今年で22年目だそう。そのワークショップの中心になっているのが写真家の瀬戸正人だ。Place Mではメルマガで展覧会の取材を何度かさせてもらってきたほかに、瀬戸さんと2人展を開いたこともある。展覧会のオープニングや夜の写真学校の日など、たくさんのひとが集まる時間にPlace Mを訪れると、奥の小さなキッチンで大鍋の料理をつくってるおじさんと出会うことがあるかもしれない。それが瀬戸さんだ。

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「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」 開幕!

告知を続けてきた「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」が、先週22日に無事スタートした。すでにSNSなどでご覧になったかたもいらっしゃるかと。展覧会の準備・設置からオープンに至る期間は(いまでもだが)新型コロナウィルス・オミクロン株の陽性者が急増している時期。直前まで開催が危ぶまれたが、なんとかオープニングの日を迎えられて、一堂ほっとひと息。しかし今後の展開はほんとうに予断を許さないので、ご興味あるかたは一日も早くご覧になっていただきたい。

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雪のなかのバンカラ ―― 花巻北高応援団訪問記

弊衣破帽を「へいい・はぼう」と呼べるひとが、いまどれくらいいるだろうか。弊(つい)えた衣服に破れた帽子――それはかつて日本全国の旧制高校、中学の質実剛健な校風を象徴するものとしての「バンカラ」、そのトレードマークだった。 流行華美な「ハイカラ」への対抗文化として勃興した「バン(蛮)カラ」。しかし旧制が戦後に新制となって、教育機関を取り巻く環境が大きく変わる中で、バンカラという言葉はとうに死語となり、弊衣破帽の出で立ちも日本全国の学校から姿を消して久しい。バンカラ精神がほとんど唯一生存を許されてきた応援団においても、和太鼓と肉声のみで応援を行うかつてのスタイルは、いまや多くの高校生の大会で見る機会が減っている(高校野球の総本山・甲子園大会では現在「和太鼓禁止」、ブラスバンドやチアリーディングは大歓迎なのに)。

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おかんアート村の住人たち 5 西村みどりさんのこと

おかんアーティストから名刺をもらうことはめったにないが、西村みどりさんはかわいらしいシールを貼った名刺を差し出してくれて、そこには「手作りの家 小物・色々 西村みどり」と書いてあった。 西村みどりさんは兵庫県北部、スキー場で知られる神鍋高原に近い豊岡町(現・豊岡市)の出身、現在67歳。いちど結婚して離婚、再婚したが、川崎重工にお勤めしていたご主人に先立たれ、一時は落ち込んだけれど、いつまでも家に籠もってるわけにはいかないと、前に通っていた神戸のおかんアート仲間の会にふたたび通い出して8年ほど。いまでは「ひとり住まいで気楽な毎日です!」とのこと。

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おかんアート村の住人たち 6  千成春屋さんのこと

阿倍野区王子町の北畠本通商店街にある千成春屋。ここは地元で30年以上続くクレープ屋さん。粉モン文化の大阪で、おいしいと評判でテレビなどの取材も多い下町の有名店だ。   千成春屋を知ったのはもう10年ほど前になる。「おかんアートがすごくおもしろい!」とひとりで騒いでいたころ、関西エリアの珍スポット&奇人発掘の第一人者・吉村智樹さんが、「壁一面におかんアートが飾ってあるクレープ屋があります」と教えてくれた店だった。それが最近、「下町レトロに首っ丈の会」会長の伊藤さんが、「大阪ですごい店を見つけました!」とメッセージをくれて、どうも写真に見覚えがあると思ったら、その千成春屋なのだった。なんという偶然!

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禁猟区の女神たち

神田馬喰町の写真専門ギャラリーKKAGできょう6月1日から「柊一華写真展 禁猟区」が始まる。2019年4月に「ラマスキー写真展 肌見の宴」で始まった連続企画「都築響一の眼」が、同年9月「石井陽子 鹿の惑星」、2020年3月「許曉薇(シュウ・ショウウェイ) 花之器」、2021年6月「portraits 見出された工藤正市」と回を重ね、今回が5回目となる。 一華さんと会うたびに、東京の夜の匂いってこういうのかと思う。 ホステス、風俗カメラマン、ギャラリーバー勤務、ミストレス、緊縛師、SMクラブオーナーまで、いろんな顔をして東京の夜の海を泳ぎながら、たくさんの出会いをカメラですくいとってきた。

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museum of roadside art 大道芸術館、オープン! vol.2

東京墨田区の花街・向島に10月11日、公式オープンした「museum of roadside art 大道芸術館」。先週に続く第2回は、1階から2階に向かう階段踊り場から、2階のバーエリア「茶と酒 わかめ」誌上ツアーにお連れする。

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はじめての、牛腸茂雄。

写真好きのひとはとっくに知っているだろうが、渋谷PARCO8階(DOMMUNEスタジオの1階下)のギャラリー「ほぼ日曜日」で写真展「はじめての、牛腸茂雄。」が開催中だ(11月13日まで)。名前からわかるとおり、糸井重里さんが主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」が2019年から運営しているリアルスペース。今回の展覧会は「SHIBUYA PARCO ART WEEK2022」の一環で、館内のいろんな場所で展示などのイベントが行われている。 牛腸茂雄、という名前が熱心な写真ファンの外の世界でどれくらい知られているのか、僕にはよくわからない。そもそも牛腸を「ごちょう」と読めるひとがどれくらいいるだろうか。展覧会タイトルが示すように、この展覧会は「牛腸茂雄を知らなかったひとたち」にも、というかむしろ知らなかったひとたちに、予備知識なしに作品と向かい合ってもらおうという意図があるはずで、それは去年5月に同ギャラリーで開催された「はじめての森山大道。」から続く展示でもある。

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僕的パリ・ミュゼ紀行 1 狩猟自然博物館

昨年11月にパリ・アルサンピエール美術館で取材した「HEY! LE DESSIN 絵画とは素であり描であり」を2週にわたってお伝えした(11月9/16日号)。そのとき写真を撮って回った「僕的パリ・ミュゼ紀行」を早く掲載したかったのに、国内の美術館で開催中の展覧会を優先しているうちに2023年になってしまった……これから数回にわたって、気の向くままに巡ったお気に入りミュージアム散歩にお付き合いいただきたい。 パリ3区、4区にまたがるマレ地区は、もともと中世の時代にフランス王が王宮を移転させたことから貴族たちがこぞって本邸を構えるようになった。のちに貴族や富裕層がフォーブール・サンジェルマン地区に移動していくと、19世紀からマレはユダヤ人居住区となり、第二次大戦のナチスによる迫害を挟んで労働者階級の街となる。豪壮な邸宅の多くが姿を消していくのを危惧したシャルル・ド・ゴール政権時代の文化大臣アンドレ・マルローの指揮によって歴史的地域・建築の保存地区となったマレが、いまではパリ屈指の観光エリアであり、オシャレスポットとなっているわけだ。

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捨てられなかった本のこと 02 GRAFFITI

マルセイユのグラフィティ記事を書いていてふと思い出し、先週の「ワンダフル・タイム」とはまるで違う世界を撮影した「グラフィティ」を、今週の捨てられなかった本として紹介する。 ブラッサイ(Brassaï)は写真好きならだれでも知っている名前だろう。1899年オーストリア=ハンガリー帝国(現ルーマニア)ブラショヴ生まれ。第一次世界大戦に従軍したあとベルリンを経て1924年にパリに移住。ピカソ、ジャコメッティ、マティスら同時代の芸術家たちと親交を結び、1984年に亡くなるまでパリのさまざまな貌を捉えた写真集を発表し続けた。とりわけ1933年に発表された「夜のパリ(Paris de Nuit)」は写真史に残る傑作。さまざまなかたちでいまも世に出ているので、ブラッサイと知らずに見ているかたも多いかもしれない。

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捨てられなかった本のこと 03 日本の壁

先々週、先週と現代と1930~40年代のフランスにおけるグラフィティを紹介したので、というわけでもないけれど今週は「日本の壁」。古代から現代までの日本の建築をいろどってきた、おもに和風の日本壁を左官工事という観点から概観した、マニアックではあるけれど同時に素晴らしく美しい図版が見られる貴重な一冊だ。著者の山田幸一は1925年生まれの建築学者。京都帝国大学工学部建築学科を卒業し、鹿島建設に勤務しながら京大大学院の特別研究生となり、1961年に「日本壁の歴史的研究」で京都大学博士号を取得。左官工事と日本壁について数冊の書籍を発表してきた(1992年死去)。撮影を担当した井上博道(はくどう 1931-2012)は大和路を生涯にわたって撮り続けた写真家である。

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プルーストの部屋で

「狩猟自然博物館」「移動遊園地博物館」と巡ってきたパリ・ミュージアム紀行。今回取り上げる「カルナヴァレ パリ歴史博物館」。数あるパリのミュゼでもかなりのメジャーどころなので、ご存じのかたも多いはず。しかし改修工事で2016年から4年間も閉館していて、2021年になってようやく、というかコロナ禍の規制緩和を祝うようなタイミングで再開した。世界で最初の、都市をテーマにした専門ミュージアムでもある名高いカルナヴァレをここで紹介するのは、前掲の神戸ファッション美術館でプルーストの時代のパリ・モード展示があったから。カルナヴァレはマルセル・プルーストの遺品、家具類が見られる場所としても知られているのだ。

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捨てられなかった本のこと 04 TAXI DRIVER WISDOM

日本はアプリでタクシーを呼ぶのが一般的だけど、全世界的に「流しのタクシーを拾う」から、配車サービスで自家用のクルマを呼ぶスタイルにシフトしているのはご存じのとおり。NHKでタクシー運転手に街を案内してもらう、みたいな番組があったけれど(まだある?)、もう何年かしたらそういう企画も難しくなるかもしれない。 そんな危機的状況にあるタクシー運転手という職業だが、この本『TAXI DRIVER WISDOM(タクシー運転手の知惠)』は、ニューヨーク名物のイエローキャブ(こちらもウーバーなどに押されて大変らしい)の運転手たちの、なにげないおしゃべりに含まれる金言というか、ストリートの真理を集めた一冊。僕の『TOKYO STYLE』(英語版のタイトルは「TOKYO: A CERTAIN STYLE」だった)も出してくれたサンフランシスコの出版社クロニクル(CHRONICLE)から1996年に刊行された。もうすぐ30周年になる・・・・・・。そしてニューヨークのイエローキャブも、あの古き良きチェッカー~アメ車の大型セダン・クラウンヴィクトリアを経て、すっかり今どきのハイブリッド車全盛になった。

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捨てられなかった本のこと 05  NATURAL SELECTION

ナチュラル・セレクションとは自然淘汰のこと。この奇妙に美しい写真集はニューヨークの自然史博物館に展示されている剥製動物たちを撮影したシリーズだ。撮影したのはジェレミア・ダイン。ポップ・アーティストの巨匠ジム・ダインの息子である。 ジェレミア・ダインは1959年ニューヨーク州ロングアイランドのベイショア生まれ。ニューヨークのクーパーユニオンで学ぶかたわら、リチャード・アヴェドンのスタジオで2年間アシスタントを務め、その後雑誌や広告の分野で活動を続けてきた。『ナチュラル・セレクション』は当時26歳だったダインが、35ミリカメラにモノクロフィルムを詰めて、自然史博物館でスナップした104点の写真が掲載されている。

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捨てられなかった本のこと 06 張り込み日記

ROSHIN BOOKSという、それまで聞いたこともなかった出版社から写真集『張り込み日記』が出版されたのは2013年10月初めのこと。ロードサイダーズでは10月9日号でじっくり紹介させてもらい、予想を超える反響があった。1,000部限定の初版はすぐに完売、翌年には第2版がやはり1,000部刊行され、同年ナナロク社からミステリー作家の乙一氏が構成に参加した版が発売されている。 ちょっと古くて手に入りにくい出版物を主に紹介しているこの連載で、比較的新しくて入手も簡単な『張り込み日記』を紹介したかったのは、初版から10年を経てこのほどROSHIN BOOKSで第3版が刊行されたから。

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一緒にこちらも!「昭和のモダンガール展」@細辻伊兵衛美術館

祇園、四条、京都駅など京都に数店舗をかまえる手ぬぐいや風呂敷の永楽屋。江戸時代初期の元和元年(1615年)に創業した日本最古の綿布商であり、京都の地で400年あまり商いを続け、現在は十四代目の当主・細辻伊兵衛が継いでいる。 その永楽屋が去年(2022)5月にオープンしたばかりなのが中京区室町通三条上ルの細辻伊兵衛美術館。烏丸通のすぐ西側に位置する室町通は江戸時代に呉服問屋街として発展し、現在でも老舗が軒を連ねるイトヘンの街。僕が初めて京都に住んだのも室町通のマンションだったので、ちょっと懐かしい。

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捨てられなかった本のこと 08  銀座社交料飲協会八十年史

先週の『銀座を彩る女たち』に続く、夜の銀座本特集。今週紹介するのは『銀座社交料飲協会八十年史』。A4に近いサイズでハードカバー函入りの豪華な仕様。定価が記載されていないので、協会員、関係者に配布された私家版なのかもしれない。奥付を見ると2005年12月25日発行とある(クリスマスに発行とは!)。 銀座社交料飲協会(GSK)は現在も活動を続ける銀座エリアの飲食業者たちの業界団体。

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坂の上の月の街 ――水道局山タルトンネ博物館訪問記

仁川東海岸の「水道局山」と呼ばれていた松林の丘には、20世紀初期の日本統治時代から貧しい人々が、無許可で掘っ立て小屋を建てて住み始めた貧民街があった(水道局山という呼称は、日本統治時代にここに配水池がつくられたことから)。そのスラムが朝鮮戦争で故郷を失った避難民や、産業化で農村部を離れた労働者たちでどんどん増殖していき、仁川でも最大級のタルトンネになっていく。最終的には水道局山の斜面約5万5千坪(東京ドーム3つ以上)におよそ3千世帯がひしめきあい暮らすようになった。 ソウルオリンピック(1988年)、日韓ワールドカップ(2002年)あたりから集中的な再開発が全土で行われ、タルトンネは高層住宅に姿を変えていく。水道局山のタルトンネも1998年から仁川市によって再開発が開始されるが、住民への補償をめぐって交渉が紛糾。最終的に水道局山に記念公園を造成し、タルトンネ時代の暮らしを保存する博物館を建設することで市と住民側が合意することになった。こうして2005年に誕生したのが「水道局山タルトンネ博物館」である。

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仁川漫遊記3 ジャジャンミョン(炸醬麵)でお願いします!

韓国ドラマや映画を観ていると、やたらジャジャンミョン(炸醬麵)を食べる場面が出てくる。家でつくるのではなく、出前を取って。それか『パラサイト 半地下の家族』に出てきた、インスタントのジャジャンミョン(チャパゲティ)とラーメン(ノグリ)をあわせた「チャパグリ」みたいな即席麺でちゃちゃっと。 2006年には韓国政府がジャジャンミョンを「韓国伝統文化の象徴100」に選んだそうだが、国民食ジャジャンミョンが生まれたのが実は仁川。市内のチャイナタウンには「ジャジャンミョン博物館」まである!と知り、これは行かねばと訪問してきた。

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book

捨てられなかった本のこと 10  すすきののママ101人

保育社の「カラーブックス」のファンはずいぶんいると思う。カラー印刷の文庫、というのをシリーズ・タイトルにできる時代の産物であるカラーブックスは、1962年に創刊された第1巻が『ヒマラヤ』。それから1999年までの37年間にわたって909点が発行された。当然ながらカラーブックスをコンプリートしているコレクターもいて、古書評論家の南陀楼綾繁さんが、熊本市に在住のカラーブックス・コレクターのことを、「シリーズ古本マニア採集帖」。というウェブ連載で紹介している。 「カラーブックスとものかい」というTwitterアカウントでカラーブックス関連情報を発信しているその「カラともさん」(南陀楼さん命名)によれば、カラーブックス909点のうちでいちばんレアで高いのは『すすきののママ101人』なのだそう(2番目が『レディーのノート』)。 今週はその『すすきののママ101人』を紹介する。

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food & drink

追悼 ロボットレストラン

先週SNSで広まった「ロボットレストラン復活!」という書き込みに驚喜し、続けざまに「わずか1日で閉店!」というニュースに唖然としたひと、けっこういたはず。 ロボットレストランは言わずとしれた、2010年代の歌舞伎町の名物スポット。2012年にオープンして大きな話題を呼び、後半は外国人観光客がメインの客層で盛り上がっていたが、コロナ禍の2020年3月から臨時休業。短期間再開したものの、けっきょく2021年に正式閉店となった。 ロボットレストラン再開!というニュースが飛び込んできたのは5月末のこと。新店舗は元のロボレスがあったビルに入る系列店「ギラギラガールズ」のフロアの一部を使って、13~17時の昼間だけ「ロボットレストランタイム」として営業。休憩を挟みながら3時間ほどのショーを行うというものだった。 再オープンは5月29日13時。しかし翌日には早くも閉店!

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art

ドキュメント ぴんから体操壁画制作記

去年12月17日、新宿ゴールデン街で起きた火災を覚えているひともいるだろう。2016年4月の放火による火災に較べれば被害は軽微だったが、それでも靖国通り側にあるG2通りにある、歌謡曲ファンにはよく知られたギャランティーク和恵さんの「夜間飛行」など4軒が罹災。そのなかに中村京子さんの中村酒店もあった。 1980年代のアダルトビデオ黎明期から活躍、巨乳というジャンルを確立した伝説の女優であり、女相撲の力士としても知られてきたアンダーグラウンドのミューズ、京子さんはゴールデン街にバー「中村酒店」を開いて去年がちょうど20年目。アングラ、サブカル、ただの酔っ払い…………いろんなひとたちに愛されてきた店が節目の年の瀬にもらい火で全焼してしまった。

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中華街を行ったり来たり 05 川を渡った郊外でアンティーク・ハンティング

2000年代の初めごろだからもう15年以上前、バンコクで歌謡曲のLPレコードや古い映画ポスターを探すのに夢中になっていた時期があった。そのときに「郊外のお寺の境内に巨大なジャンク骨董ビルがある」と聞いて行ってみると、それは確かにそのとおりで、6階建てぐらいの建物にウッディな大型家具からテレビや冷蔵庫といった電気製品、バケツみたいな日用品まで溢れかえっていた。その「骨董寺」のことは長く忘れていたが、今回チャイナタウンの情報を探しているうちに、あの寺がまだ現存することを知って、チャイナタウン探索の合間に行ってみることに。今週は息抜きにちょこっとチャイナタウンを離れて郊外(といってもクルマで1時間足らず)のワット・スアン・ケオ骨董センター(勝手に命名)に遠足してみよう。

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art

セックス&ワックス・イン・ザ・ホスピタル

2014年に南フランス・マルセイユとセットで開催された『MANGARO』『HETA-UMA』展。本メルマガでは2週にわたって詳しく紹介したが、その取材を通して出会ったひとりが、フランス・モンペリエ在住のキュレーターでアーティストでもあるルノ・ルプラ=トルディ。変わったものが大好きな嗜好が似ていてすぐに仲良くなったルノは、メキシコ系アメリカ人“チカーノ”の囚人たちが、手紙代わりに塀の外の家族や近親者たちに向けて絵を描いたハンカチ「パニョス・チカーノス」の熱心なコレクターでもある。2018年には中野ブロードウェイ・タコシェの中山亜弓さんに「パニョス・チカーノス――ルノ・ルプラ=トルティの刑務所芸術コレクション」として記事もつくっていただいた。

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三島喜美代 ― 遊ぶ 見つめる 創りだす

美濃焼の本拠地である多治見の丘陵地にあるセラミックパークMINO内に2002年にオープンしたのが岐阜県現代陶芸美術館。その名のとおり近現代の陶芸に焦点を絞った岐阜県立美術館だ。建築は磯崎新なので、華美というのとはちがうテイストだが、その環境、立地、空間構成など、すべてにものすごく贅沢なつくりのミュージアム。その広々とした展示室と屋外も使っていま「三島喜美代 ― 遊ぶ 見つめる 創りだす」が開催されている。

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ウズベキスタン自動車ショー歌

20代後半から30代にかけての数年間、ちょっと目にはソ連(当時の)製の官用車に見えなくもない三菱デボネアに乗っていた。これまで何台か乗り継いだ中で、いまだにあれがいちばん好きなクルマなので、ロシアはもちろん元共産圏の国でソ連時代の旧車が走ってるのを見ているだけでうれしくなってしまう。ウズベキスタンでもソ連時代の代表的な大衆車ラーダ(ジグリとも呼ばれる)がまだまだ現役で、いい状態のを見つけるとつい写真を撮ってみたり。欲しいな~。

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韓国江原道オン・ザ・ロード 2 海神堂公園

韓国東海岸、北朝鮮と国境を接する江原道をめぐる旅。先月の江陸(カンヌン)にある「チョンジョン彫刻公園」(という名前の男根ドライブイン)に続いてご案内するのは、江陸から海沿いに50キロほど南下した三陟(サムチョク)市郊外にある海神堂(ヘシンダン)公園。そう、知ってる人は知っている、名高い「男根公園」だ。

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堀内誠一 絵の世界

先週号では松江の島根県立美術館で開催中の『アンアン』『ポパイ』のデザイン 新谷雅弘の仕事・展を紹介した。予告どおり今週は同じ島根県の益田市にある島根県石見美術館で開催中の「堀内誠一 絵の世界」展にお連れする。先週書いたように、新谷雅弘は『アンアン』から『ポパイ』『ブルータス』『オリーブ』に至るマガジンハウス全盛時代の雑誌を、師匠にあたる堀内誠一とともにアートディレクター/デザイナーとして立ち上げてきたひと。「堀内誠一 絵の世界」展は生誕90周年を記念して2022年から全国を巡回中で、今回新谷展と同じ県内で重なったのはまったくの偶然ということだが、師匠と弟子の展示がこんなふうに同期するところに、なんだか運命的なものも感じてしまう。

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上海スタイル

ニューヨークを抜いて、いまや世界でいちばん日本人がたくさん住む外国の都市になった上海。でも僕らは、こんなに日本に近いメガ・シティの、ほんとうの暮らしを、ほんとうの居心地良さを、まったく知らなかった。

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畜生道

犬は拾うかもらうもの、エサは家族の残り物、飼うのは庭の犬小屋で、名前はポチかチビか、シロかクロ。そういうふうに日本人は犬とつきあい、共存してきた。何百年も。 犬業界では絶滅危惧犬種というのが問題になっているけれど、ほんとうにいま絶滅の危機に瀕しているのは、昔ながらの“畜生道”に則って飼われてきた「ポチ」のほうだ。

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ほめられもせず、苦にもされず・・・タイの地域犬

バンコクに着いた旅行者がまず驚くのは人の多さ・・じゃなくて犬の多さかもしれない。 ほんとうは広いはずのメインストリートに屋台がびっしり並んで、ただでさえ狭くなっている上に、歩道の真ん中に大きな犬がのっそり寝ていたりする。気をつけないと踏みつけそうだが、だれもが平然と、またいだりよけたり。犬もまた通行人なんか気にしないで寝ころんだり、腹をかいたりしてる。死んでるんじゃないかと思う犬もいるが、近寄ってみると息をしているから、きっと安眠してるだけなのだろう。

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ギルバート&ジョージからメイプルソープまで、おもしろうてやがて哀しき・・・

いま東京・池袋のセゾン美術館ではギルバート&ジョージの大回顧展が開催中である。デビュー以来、彼らが一貫して掲げてきたモットーを引いて『ART for ALL 1971-1996』と題されたこの展覧会は、1970年代以降の現代美術シーンでもっとも重要な作家のひとり(ひと組)でありながら、いままで日本ではほとんど接することのできなかった・・・

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佐藤信太郎 『東京 I 天空樹 Risen in the East』

『東京 I 天空樹』には2008年12月、まだ更地だった段階から、2011年8月、すっかり完成した姿が隅田川の花火と並んで見えた夜まで、52景のスカイツリーが記録されている。そこに、ありがちな「真下から仰ぎ見るスカイツリーの威容」なんてカットは1枚もない。あるときは近くから、あるときはすごく遠くから撮影されているのは、「風景の中のスカイツリー」だ。

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見本市だよ人生は:レジャー&サービス産業展2007

露出度満点のキャンギャル(キャンペーン・ガール)とカメコ(カメラ小僧)は、愛憎半ばする結合双生児として、見本市会場に華(?)を添える存在である。師も走る12月のある平日、東京有明のビッグサイトでは、キャンギャル軍団はこれでもかと魅力を振りまいているのに、カメコがひとりもいない、異例の光景が展開していた。あー、もったいないというか、ちょっと寂しい。

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石川真生『港町エレジー』

ここにあるのは『日の丸を視る目』のような明確な社会派メッセージではなく、おのれの肉体にすべてをかけて生きる男たちの圧倒的な存在感に、目を見張る女性写真家のまなざしです。撮影されたのはいまから20年以上前ということになりますが、これが50年前でも、いまでもたぶん変わらないであろう、フリチンの生き様。モノクロームの画面から匂い立つような、男臭さ。

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book

あいかわらず無茶なTRASH-UP 11号!

「出版界は構造不況で・・」とか、高給もらいながら能書き垂れてる大手出版社のオヤジたちに、正座して読んでほしいのが『トラッシュアップ』。「日本で唯一のトラッシュ・カルチャー・マガジン」と銘打たれてますが、たぶん世界でいちばん豪華な(笑)トラッシュ・カルチャー・マガジンじゃないでしょうか。だってA4の大判で300ページ超のボリューム。ちゃんとカラーページもあって、おまけに広告は(たぶん)表3と表4(裏表紙)だけ! いったいどうやったらこんなの成立するんだろうという、ミステリアスすぎる雑誌であります。

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素晴らしくバカげたアイデア

「人生には、ものすごくバカげて、でも魅力的なことが目の前にあらわれる瞬間がある」と彼は書いている。大多数の人間はそれを、単なる思いつきとして頭の中からふるい落としていくのだが、中にはそのバカげたアイデアに飛び込んでしまう人間がいる。その結果は最高だったり最低だったりするが、とりあえず飛び込んでしまえる人間は、ある意味ハッピーだ。自分もそういうハッピーな人間でありたいと、トニーはついに冷蔵庫を買い、アイルランド一周ヒッチハイクに旅立ってしまうのだ。

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上海スタイル

現地の出版社に勤務する吉井忍さんが、やはり出版社につとめる編集者の夫とふたりで暮らす新婚の部屋は、フランス租界の中心部にあった。戦前に中国人のビジネスマンが、フランス人ではなく中国人のために建てた共同住宅で、革命後に彼は家族とともに香港へ逃げてしまったものの、「最近里帰りして、ここを訪ねてきた」のだそう。いったい、どんな思いが亡命老人のこころに去来しただろうか。

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book

『東京右半分』ついに完成!

このメルマガの前に書いていた、ブログ時代からの読者諸君にはおなじみかもしれません、2009年9月から2011年10月まで丸2年間、全96話にわたって筑摩書房のウェブマガジンで続けてきた連載『東京右半分』が、やっと単行本になりました。すでにアマゾンなどでは予約が始まっていますし、書店にも23日ごろから並びます――。 (中略)2年間で歩き回った右半分を網羅して、撮った写真もぜんぶ見直して、できあがったのがこれ、576ページのハードカバー! はっきり言って重いです・・

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art

ログズ・ギャラリーの「農民車ショー」

ログズ・ギャラリーから久しぶりに届いた新しいプロジェクトのニュース、それが「農民車ショー」です。3月16日から25日まで、大阪市内で開かれた展覧会には残念ながら参加できなかったのですが、東京展への期待を込めて、ここにプロジェクトの紹介をさせてもらいます。 「農民車」という言葉は、僕も知りませんでしたが、淡路島の一部の地域でだけ使用されている、独特な手作り車両のこと。

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art

妄想芸術劇場・ぴんから体操展、開催決定!

毎回告知欄でもお伝えしている「VOBO 妄想芸術劇場」を読んでいただいている方にはおなじみかと思いますが、我が国最強(最狂?)の素人露出投稿雑誌『ニャン2倶楽部』および『ニャン2倶楽部Z』の投稿イラストページで、創刊当初の1990年ごろから、もう20年以上も作品を発表しつづけてきた伝説の投稿職人「ぴんから体操」の展覧会を、ついに開催できることになりました。

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あの三角のとこ

京都に住んでいたころ、安売り屋で買ったママチャリをキコキコ漕いで、本屋やレコード屋や観光客の来ないお寺を巡るのが楽しい日課だった。疲れるとお菓子屋(これが京都には異常にたくさんある)かたこ焼き屋に寄って、包んでもらったのをその辺の公園か川沿いの土手で食べる。そのうち買い食いシーンにはかなり詳しくなったが、わかったのは「どこでなにを買うか」ではなく、「どこで食うか」がいちばん大事なポイントだということだった。味覚に訴えるのは食物そのものだけど、五感を満足させてくれるのは食べる環境なのだ。

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travel

鬼と田我流――ヒップホップの最注目新譜2枚登場!

いままでに『夜露死苦現代詩2.0』に登場してくれた、ふたりの素晴らしいラッパーの新譜が、立て続けに発売されます。ひとりめは田我流。山梨県一宮をベースに地道な活動を続けてきましたが、昨年になって映画『サウダーヂ』の主役をつとめ、一気にその名(と読み方)を全国に知らしめました。 そしてもうひとりが「鬼」。そう、あの名曲『小名浜』で全国のワルたちをむせび泣かせた、福島県小名浜出身のラッパー。無頼と抒情が交錯するその世界観は、なんだか立原あゆみの『本気!』や『仁義』の世界に通じるものがあります。

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らせん階段一代記

関西には天下一品があって、名古屋にはスガキヤがあって、東京には富士そばがある。24時間営業、いつでも熱いそばが食べられて、シンプルなかけそばからコロッケ、春菊天までトッピングもバラエティ豊かなメニュー。忙しいさなかの昼飯から、酔っぱらったあとの夜食まで、あらゆるニーズに対応してくれる富士そばは、山手線内の東京都心部を中心に現在66店舗を展開中。実はかなり「東京の味」を代表する存在なのだ。

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演歌歌手のオン・ザ・ロード

もともと彼女を取材した初めての機会は「カラオケファン」という月刊誌で、そのあとエスクァイア誌のために、営業の旅を追いかけて再取材、さらに去年出版した『演歌よ今夜も有難う』(平凡社刊)でも後書きに書き足しました。そして今回、写真をいっぱい足してもういちど・・しつこいけど・・それだけすごいひとが、ぜんぜん知名度ないままにがんばってるってことで、コラアゲンさんとペアで読んでいただけたらうれしいです。こういうひとたちが、ほんとは地球を回してるんだと信じつつ--。

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lifestyle

ウグイス谷のゴム人間

深夜3時、日付が変わって5月6日になった鶯谷の「東京キネマ倶楽部」。舞台を埋めつくすのはピーコックのように、レインボーのようにカラフルなゴムの衣裳を着込み、というより全身に被せて、思い思いのポーズを決める60人近くの「ラバーフェチ」。そしてその足元に群がる、さらに多くのカメラマン、というよりカメラ小僧。なんでラバーなのかって? それは5月6日が「ゴムの日」だから。そしてここが月にいちどの『デパートメントH』だから!

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ニッポンの「性」を変えた目黒エンペラー

日本におけるモーテル第一号といわれる『モテル北陸』が、石川県加賀市にオープンしたのは1963年のこと。68年にはそれまでの簡素な造りから、贅沢な設備とインテリアをウリにした『モテル京浜』が開業、モーテルからラブホテル時代への架け橋となったが(いまも横浜新道脇にホテルニュー京浜として営業中)、それまでの暗いイメージを払拭する決定打となったのが、1973年に開業した『目黒エンペラー』である。

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オレサマ商店建築:ホストクラブ愛

いまだに電飾ギラギラ、そこだけエレクトリック・サーカスのごとく激しい夜のオーラを放っているのが、愛田武社長ひきいる愛田観光グループ。現存最古の老舗ホストクラブ『愛』本店を中心に『ニュー愛』、パブ『カサノバ』、おなべBAR『マリリン』など数店舗を歌舞伎町の一角に集中経営する愛田社長は、この町でもっとも知られた顔である。

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travel

海と魚とゴミの天国・走島

諸般の事情から展覧会では作品タイトルが『ゴミ福山産』とされたが、淀テクのおふたりによれば、走島は「ものすごくきれいな海と浜とゴミがあって、ナンバープレートのない原チャリや軽トラが爆走する島です!」という、たいへんにおもしろそうな島だったので、翌朝鞆の浦港からフェリーに乗って、半日観光を楽しんできた。今回はその「離島ちい散歩」をお送りする。

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photography

地霊:多田裕美子と山谷の男たち

仕事にあぶれた男たちが道ばたにうずくまる山谷の通りを、まるで山谷っぽくない、若い女の子がカメラを提げて歩いて行く。後ろに続くのは重そうなカメラバッグや三脚や、背景布を担いだ、いかにも山谷の男たち。ちょっと変わった一行は、山谷の中心である玉姫公園に到着すると、慣れた手つきで黒い背景布を広げ、カメラをセットし、植え込みの一角に板を立てる。その板にはこんな文句が書かれていた――

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interview

突撃! 隣の変態さん 2 サエボーグ

デパートメントH・ゴムの日特集でも、とりわけ異様に目立っていたラバー・パフォーマーがサエボーグさんと友人たちだった。なにせ空気で膨らませたラバー製の農婦(サエノーフ)、そのうしろには雌牛が出てきて搾乳、そのあとはメンドリが出てきてタマゴを産む! という驚愕のステージが展開されたのだから。

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book

発禁本から世界が見える

先週は用事で大学を3つほど訪れた。最初に行った江古田の日大芸術学部は、門でいきなりガードマンに止められる。来訪者はすべて記名、訪問者カードを首から下げさせられた。そのあと慶応大学日吉キャンパスと、明治大学駿河台キャンパスに行ったら、こちらはまるで出入り自由。なんだか大学のランクとキャンパスの開放度って、相関関係にあるみたいだ。

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art

反抗者としてのガリ版画家

福井良之助の孔版画は、そのガリ版による版画です。ガリ版といえば、ラフなタッチが良くも悪くも特徴なのに、彼の作品は「これがガリ版!」と声を上げずにいられない、すばらしく精緻な版画に仕上がっています。僕も最初に見たときは「ガリ版」というのが信じられず、孔版という言葉をまちがって覚えていたのかと焦りました。

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photography

大阪式とベルギー式

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで開催中の『大阪式 コノハナ/24区』。以前にこのメルマガでも紹介した、大阪出身の写真家・谷本恵さんの、4回目となる『大阪式』です(以前の記事は1月18日号参照)。今回は天王寺エリアを離れ、これまたディープな大阪湾に面した此花区に遠征。いつものように、なんとも言えないリアル・ナニワ・スタイルをキャッチしていて、見てるだけで大阪下町世界にワープさせられる気分です。添えられたテキストも、渋い人情味満点で、ホロリとなりますよ~。

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ズレの神様 ―― 灰野敬二と大竹伸朗

先週から渋谷の映画館で『ドキュメンタリー灰野敬二』が始まっている。ツイッターやブログなどでもずいぶん話題になっているので、このメルマガ読者の方々でも、すでに観たひと、これから観るつもりのひとがいらっしゃるだろう。灰野敬二は1952(昭和27)年生まれ。今年還暦にして、もう40年間にわたって「轟きわたる静寂 優しすぎる轟音」(映画コピーより)という唯一無二の音楽をつくってきたアーティストだし、監督の白尾一博は『美代子阿佐ヶ谷気分』や、僕の好きな『ヨコハマメリー』のプロデューサー兼編集を担当している注目の映像作家なので、おもしろくないわけがない。

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人に見られたくない我が故郷

今週のアーカイブは2005年にミリオン出版から一瞬だけ出版された『実話ブルース銀ちゃん』って・・これ、ほんとに雑誌名なんですから。いかにも3号雑誌っぽいネーミングだけど、実際はたしか1号で終わってしまったのでは(ちがったらごめんなさい!)。この雑誌で連載(といっても1回だけ・・涙)したのが、「帰りたくない故郷に、むりやり帰省してもらい、なんにもない町を案内してもらう」という無茶な企画。もしかして長期連載にでもなってたら、いったいどうなったんでしょう・・。しかしいまや、この池田町でさえ、2006年に合併して町名消失、三好市になっちゃいました・・。

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travel

連載:スナックショット 02 北海道 前編(平田順一)

どうも前回都築編集長からご紹介賜っております、得体の知れないノイズフォークシンガーの平田です。今回は夏の北海道、次から徐々に南へ進んでいこうかと思います。新幹線と高速道路が延びて地方空港の整備がすすんでも、気候と地理的条件は簡単に変えられないもので、炎天下の東京にいると、夏の北海道が天国のように眩しくみえる。2006年8月、求職中だった私は都内でJRに乗っていて、44000円で5日間北海道のJR乗り放題「ぐるり北海道フリー切符」のポスターを発見。金銭的にはやや苦しいが、応募中の仕事が進展していないので、盆休みをずらした夏の北海道に行くチャンスである。

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連載:スナックショット 04 青森(平田順一)

どうも流浪のノイズフォークシンガー平田です。 2010年に開通した新幹線で、東京から3時間10分で着くようになった青森市ですが、ちょっとスピードと時間が実際の距離感覚に追いつかないというか、便利なのは良いですが小奇麗になりすぎて、演歌の似合いそうなスナックが急に淘汰されるんじゃないかとも思います。その新幹線の開通前、2007年と2009年に歩いた青森県下の記録です。

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紫峰人形美術館

秋祭りの華ともいうべき菊人形。色とりどりの菊花を全身に挿した等身大の人形が、民話や歌舞伎の名場面を演じ出す伝統的な見世物だ。名古屋中心部から電車でも車でも1時間足らず、愛知県三河地方の高浜市吉浜は、いまでこそトヨタ関連の工場群と郊外型住宅が混在するサバービア・タウンだが、実はいまでも全国の祭りを飾る菊人形を制作する職人の7割を出している人形の町でもある。

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連載:スナックショット 05 秋田(平田順一)

どうもスナック昼の部担当の平田です。先日、岡本太郎美術館で開催されている写真展『記憶の島――岡本太郎と宮本常一が撮った日本』に行ってきました。思わず惹きつけられずにはいられない強い眼光の岡本太郎に対して、風景と人々に溶け込むような宮本常一の柔和な眼差しが印象的でした。写真を撮る以前に、あの視線とスタンスを心掛けたいと思いつつ、今回は2002~2007年に敢行したスナックショット秋田篇です。

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連載:スナックショット 06 岩手(平田順一)

スナックショットの旅行に出るまえに鉄道時刻表と、中学の社会科で使っていた地図帳を参照している。中学の地図帳は30年も前で情報は古いが見慣れている。最近の地図を使うと市町村合併が進みすぎて、古くからの中心市街の見当がつきづらい。また県庁所在地やそれに準ずる規模の都市には確実ににぎやかな歓楽街があるが、人口が5万人くらいの都市だとあるところもないところもある。これも最近の市町村合併で、人口の多さを基準にできなくっているので、30年間の地図を参考にするとわかりやすい。

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渋谷のスカンジナビアン・ナイト

昼間もひどいけど、夜ともなればさらに騒々しい若者に占拠され、オトナにはなかなか近寄りがたい最近の渋谷界隈。駅から青山方向に宮益坂をあがったすぐ裏手に、古びたスナック・ビルが隠れていることを知るひとは少ない。そのビルの3階、正確に言えば3階と4階のあいだの踊り場に入口がある、まこと知る人ぞ知る存在の店、それが『パブ・スコーネ』である。「SKÅNE」と書いて「スコーネ」と読ませるこの店は、スウェーデン直送のチーズをつまみに、スウェーデンを代表する蒸留酒であるアクアヴィットを飲む、スウェーデンのスコーネ地方そのままの店。しかも店内のインテリアは完璧に北欧デザイン。しかもお酒を注いだり、チーズを削ってくれるのは北欧美人。しかも営業スタイルはカラオケ・スナック! 渋谷でスウェーデンでカラオケで、というワケのわからないミックスが、異様に居心地いい隠れ名店だ。

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連載:スナックショット 07 山形・宮城(平田順一)

どうもROADSIDERSの箸休め、平田です。折しも「せんだいマチナカアート2012」が開催、杜のみやこに都築編集長のROADSIDE SENDAIがやってきますよ! 北から順番に連載をすすめて今回は山形県と宮城県です。前回の岩手編におなじく能天気に写真を撮っているだけの自分が恥ずかしくもあり、それでもまだ探訪したいという思いもあります。庄内から置賜、仙北から仙南へとかなり広範に及びますがよろしく!

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上海スタイル:丁沛華&左君

上海市中心部から、地下鉄で15分ほど。外国人観光客ゼロの、四角いアパートが並ぶ住宅街に新居を構えているのが、丁沛華(Ding Shihua=ディン・ペイフォア)と左君(Zuo Jun=ズオ・ジュン)のふたり。おたがい26歳、2年前に結婚したばかりで、いまだにハネムーンの雰囲気がむっちり立ちこめる、ラブリーな住空間だ。夫のディンは広告会社でグラフィック・デザイナーとして働き、妻のズオはイラストレーター兼漫画家。ある経済雑誌に連載中の、むかし懐かし中国製品のイラスト・エッセイは、たとえばもともと日本人が作った企業だったのが、革命以降に中国のブランドになった永久印の自転車とか、中国人ならだれしもホロリとくるチョイスで、人気ページなのだとか。

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連載:スナックショット 08 福島・栃木(平田順一)

どうも街の遊撃手、平田です。前回の山形・宮城篇から南へ下って、今回は福島県と栃木県です。 会津地方と郡山、宇都宮と小山が去年の3・11以降の写真で、それ以外は2004年から2007年の撮影、少々画像が荒くなっております。広い福島県のごく一部と、栃木県のごく一部で、まだまだ精進が足りませんがよろしくお付き合いください!

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建築家の首まわり

板前に鉢巻きがあるように、消防士に銀色の防火服があるように、建築家にはスタンドカラーのシャツがある。ちょっぴりソフトめの黒いスーツに、白のスタンドカラー・シャツ。この奇妙な組み合わせが、日本における建築家の定番ファッションとなってから久しい。実際スタンドカラーのシャツなんて、いまや建築家のほかは牧師とピーター・バラカン以外に、愛好者を見つけるのは難しいだろう。

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ドクメンタ(13)カッセル後始末記(大竹伸朗)

今回ドクメンタでは、設置場所や制作プロセス等自分自身初めて経験することが多く、またそれに伴う不安も大きかったので現地でのそんなダイレクトな人々の反応は心に染むものがあった。多くの観光客でごった返していたカッセルの街も、ドクメンタ展の終了と同時、見事に人足がパタッとなくなり再びオープン前の普通の田舎街にもどった光景も忘れられない。今回は6月の短期連載「カッセル制作日記」に引き続き、続編「カッセル後始末記」として読んでいただけると幸いです。

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われらのクラシカル・エレガンス――JUN&ROPÉの'70年代CF

このあいだ歌舞伎町ロボットレストランについて書いた『ヌメロ・トーキョー』誌の、いま発売している号で、1970年代のJUNグループのコマーシャルについて書かせてもらっている――。テレビがおもしろくない、とみんなが言う。そのとおりだ。でも、もっとおもしろくないのはテレビのコマーシャルだ。売れてるタレントが商品名を連呼するだけのコマーシャル。外国人俳優にバカな役を振って遊んでる(と思ってる)、リスペクトのカケラもないコマーシャル。芸人の15秒一発ネタみたいなコマーシャル。そこには美しさも、品位も、世界でいちばん短い映像作品をつくってやるという気概も、なにもない。

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スナックショット 10 群馬 (平田順一)

どうもほろ酔いセットで泥酔する男、平田です。今回のスナックショットは群馬県、歴代総理大臣にネギにこんにゃく、ボウイやバクチクといった80’Sロックバンドの産地としても知られています(かなり興味が偏っていますが)。上州のかかあ天下とからっ風はスナックにとっての追い風なのか、酒場を探して路地をうろついても、実に良い雰囲気を醸し出しているところが多く興味は尽きません。さて実際に群馬県を探訪しようとすると、交通アクセスは県庁所在地の前橋市よりも高崎市が格段に優れており、駅前も賑わっているしだるま弁当など駅弁の種類も豊富にある。

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[新連載]畸人研究学会報告 01

知ってるひとは知っている、畸人研究学会。黒崎犀彦・今柊ニ・海老名ベテルギウス則雄の3名により、1995年から手づくりミニコミ『畸人研究』を主な舞台に、日本全国の輝ける畸人たちを発掘・紹介しつづけてきた、市井の偉大なフィールドワーカーである。僕自身も彼らのリサーチにこれまでどれほど助けられ、勇気づけられてきたかわからない。畸人研究学会はこれまで『定本・畸人研究』や『畸人さんといっしょ』、『しみったれ家族 平成新貧乏の正体』など、数冊の単行本を発表しているが、『畸人研究』誌のほうは、しばらくお休みになっていた。で、そのあいだにも倦まず続けられている発掘作業を紹介すべく、これから不定期の連載というかたちで、本メルマガにて出張版・畸人研究をリリースしていただくことになった。今回はその第1弾、海老名ベテルギウス則雄さんによる、青森紀行をお送りする。

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タコス食ってゴスになろう!

先々週のメルマガではメキシコシティのゾンビ・ウォークを紹介した。今週はゾンビと並んでメキシコシティのヤングに人気(?)の「メキシカン・ゴス・ストリート」をご案内しよう。太陽サンサンのメキシコと、黒革にモヒカンに化粧のゴスはあまり相性いいように思えないが、こちらメキシコシティのダウンタウンの一角、「エル・チョポ」(El Chopo)と呼びならわされるエリアは、毎週土曜日になるとゴス&ヘヴィメタル関連のフリーマーケットが立ち並び、「メタルの竹下通り」的な様相を呈する。

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畸人研究学会報告 02 大飢饉という極限状態と表現(海老名ベテルギウス則雄)

東北旅行の楽しみの一つがグルメであることはいうまでもない。今回私は野辺地の自転車オブジェ以外に八戸、そして盛岡を廻ったが、どのガイドブックを見ても八戸、盛岡ともにグルメ情報満載である。まず今年2012年のB-1グランプリを獲得したのは八戸せんべい汁だし、また八戸は日本有数の漁港であり、有名な朝市を始め美味しい魚介類が食べられる店が目白押しである。一方盛岡もわんこそば、盛岡冷麺、じゃじゃ麺などの麺類や前沢牛など、やはり美味しそうなお店情報いっぱいだ!だいたい東北は米どころであり酒どころでもある。観光ガイドブックの誘惑に素直に従った旅行をすれば体重が数キロ増えて帰宅すること請け合いである。

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スナックショット 12 長野1

メリークリスマス! どうも平田です。今回のスナックショットは長野県ですが、ひとえに長野県といっても東西南北に広く、幾つもの山々に阻まれて地域ごとに文化も異なるのでまず今回は東信地方、ほかの地域は次回以降にご紹介する予定です。長野県東部、東信地方の中核となるのは上田市で、ここから盆地を西に10キロ向かったところに信州の鎌倉と称される古刹安楽寺と別所温泉があり、上田電鉄のローカル電車が結んでいる。沿線にある青木という集落が東急グループの創始者である五島慶太の出身地で、この上田電鉄も東急グループ傘下にある。

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未来の油彩画展――あるホームレス画家の心象風景

年末もおしつまった今月28日から31日のカウントダウンまで、たった3日間だけ開かれる、小さな展覧会をお知らせする(30日は休廊)。展覧会の主は横浜で『ビッグ・イッシュー』を売って生計を立てている路上生活者、ピエトロ-L-キクタ画伯である。キクタさんのことを教えてくれたのは、日本近代美術思想史を専門にする研究者の宮田徹也さんだった。横浜のなかでもっとも昭和の匂いを残し、暗闇の似合う街でもある野毛の名物酒場・旧バラ荘で、宮田さんはピエトロ-L-キクタ展を2011年に企画。今回の展覧会はキクタ画伯にとって2度目の、ホームグラウンド横浜での展示となる。

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石巻だより――ワタノハスマイル新作展

昨年の3月21日配信号で大きな反響を呼んだ「ワタノハスマイル」の主宰者・犬飼ともさんから、うれしいお知らせが届いた。ワタノハのメンバーたちによる新作がもう120点あまりもたまって、来週から新作展ツアーが始まるというのだ。前の記事を読んでいただいた方はご存じかと思うが(未読の方はバックナンバー・ページからぜひ!)、「ワタノハスマイル」とは2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の、渡波(わたのは)小学校で避難所生活を強いられていた子供たちが、校庭に山積みされた廃材を使って作りだした作品群を発表するプロジェクト。

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阿片とオヤジと制服たち――中田柾志の写真世界2

先週に続いてお送りする写真家・中田柾志のストレンジ・ドキュメンタリー・ワールド。今週はラオス、キューバ、タイの3ヶ所でまとめられたシリーズをご紹介しよう。アルバイトで生活費を稼ぎながら、テーマを熟考しては旅に出る生活を繰り返してきた、43歳の知られざる写真家。そのエネルギッシュな視覚の冒険をお楽しみいただきたい。 なお、本稿は先週書いたように前後編にわけてお送りするはずだったが、あまりにも紹介したい作品が多いので! 次週もまた別のシリーズをお見せする予定、お楽しみに。

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共犯者をさがして ―― 中田柾志の写真世界3

2週にわたってお送りしてきた中田柾志のビザール・ドキュメンタリー。最後になる今週は、2006年から現在まで続行中のプロジェクト「モデルします」をご紹介する。素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを、中田さんはすでに数十名撮影してきた。その写真プリントと、応募してきた彼女たちの自己評価というか、自己アピールをセットにした作品群。プロのモデルのように美形でもなければ、スタイルも並みか、並み以下。そんな女の子たちが、自分を撮影モデルとして、会ったこともない人間にみずから売り込むという、それ自体がきわめて異常なシチュエーション。

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サーカスが街にいたころ

昨年12月5日配信号の『捨てる神と拾う神――森田一朗すてかんコレクション』をご記憶だろうか。それは昭和の時代の、無名の作者たちによる優れたストリート・デザインだったが、コレクションの主である森田一朗さんは、市井の人間を長く撮りつづけてきたドキュメンタリー・フォトグラファーである。品川区にある森田さんのご自宅には、ほんの少し前に過ぎ去ってしまった時代の日本人と、その生活の記憶が、膨大なネガとプリントになって保存されている。これから数回にわたって、その貴重なストックの一端を見せていただこうと思う。まず今週、来週はサーカスのお話から。

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サーカスが街にいたころ 2

先週に続いてお送りするドキュメンタリー・フォトグラファー、森田一朗さんのサーカス・コレクション。ご自宅に眠る膨大なコレクションから、先週紹介できなかったぶんを、森田さんご自身が『藝能東西』誌に寄稿した文章とあわせてご覧いただく。春になるとサーカスが街にやってきていた時代があった。モノクロームの画面から滲み出る、興奮と哀愁と自由の空気を胸いっぱいに吸い込んでいただきたい。

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根本敬のいない場所

東京都中央区勝どき橋。かつては下町の風情と倉庫街が入り混じる、東京湾岸埋め立て地らしい景観が広がっていたが、いまは地下鉄の延伸と高層マンション建設ラッシュで、大きく様変わりしつつある「ウォーターフロント」地区でもある。その勝どき橋エリアに残る倉庫の、2フロアをギャラリー空間にした「@btf」で、今月1日からスタートしたのが蛭子能収と根本敬による二人展『自由自在(蛭子能収)と臨機応変(根本敬)の勝敗なき勝負』。いまどき珍しいほど徹底したおしゃれ空間で、もっとも異質で浮きまくるふたりの奇才がぶちかます、渾身のアート・コラボレーションとは――

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スナックショット 16 千葉・埼玉(平田順一)

今夜すべてのバーで・・・どうも平田です。今回も欲望渦巻く首都・東京の周縁からお送りします。ここ数年、格安航空会社が参入して新規路線を就航されるたびに話題を呼んでいますが、多少アクセスが改善されても縮まらないのが新東京国際空港・成田への距離と交通費。格安チケットを入手したところで、まず成田へ行くこと自体が小旅行です。もともとが明治神宮に次ぐ初詣客を誇る成田山新勝寺の門前町で、京成電鉄もこの参拝客輸送を目的に敷設されたものでした。今風に解釈すればパワースポットへのアクセス路線か? 参道には老舗の鰻屋、和菓子屋、土産物店、すこし路地に入ると老舗の酒場も散見されます。

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天沼のランボオ

イースタンユースが今年で結成25年を迎えるという。すごい、ほんとうに・・・。読者の方々にもイースタンのファンは多いと思うが、1988年に札幌で結成されてから吉野寿(ギター、ボイス)、二宮友和(ベース)、田森篤哉(ドラムス)のスリーピース、最小編成にいささかのブレもないまま、ここまで走ってきたそのエネルギーと持続力には、ただ頭がさがるのみ。(中略)そのイースタンユースでギターとボイス(ボーカルでなく、こう表記する)を担当する吉野寿が、この1月に発表した『天沼メガネ節』は、もうお読みになっただろうか。

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連載:スナックショット 17 静岡(平田順一)

旅ぃゆけぇばー、駿河のぉ国にぃ、茶のぉ香り、どうも平田です。今回のスナックショットは浜松市・静岡市と政令指定都市が2つありながら新幹線のぞみの停まらない静岡県の、新幹線の駅もない街を中心に各駅停車でお送りします。関東と関西の中間に位置して海と山に恵まれ気候も温暖、商工業ともにバランスが良く新商品のテスト販売地域として知られる静岡県ですが、少し前まではコンビニの新規出店が厳しく住民騒動になったりしました。自分の関心でいえば静岡県のパチンコ店の条例で投機性の高い一発台が禁じられており、古い一般台が多く残るパチンコ店の佇まいが印象に残っています。

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畸人研究学会報告 04 夢の王国の荒々しさと優しさ、そして郷愁 (海老名ベテルギウス則雄)

兵庫県の三田市で醤油鯛の取材を終えた後、私は次にどこへ行ってみようかと考えてしまった。お恥ずかしながら今回の取材で訪れるまで、三田市はただ漠然と大阪とか神戸の近くだと思っていて、どのあたりにあるのかをきちんと把握していなかった。しかし実際に行ってみると宝塚の先で、結構大阪や神戸から距離がある。取材後は大阪か神戸あたりに行ってみようと考えていた私に迷いが生まれた。そこで近くに面白そうな場所が無いか、醤油鯛の取材をした後の沢田さんに聞いてみることにした。「そうですね、確かに三田って結構兵庫の奥なんですよね。ここまで来たら大阪や神戸に行くのも良いですが、反対側の日本海側に向かうのも面白いと思いますよ。近くには丹波篠山なんかもありますし」。

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連載:スナックショット 18 愛知、三重、岐阜(平田順一)

いらんモノはコメ兵へ売ろう!どうも平田です。1993年公開の「ミスター・ベースボール」は野球に大して興味のない自分にも面白い映画で、何度かテレビ放映もされました。トム・セレックが演じる元メジャーリーガーの助っ人外人が、カルチャーギャップに悩みながらもチームメイトや監督から友情と信頼を得るという痛快なスポーツコメディであり、ユニバーサルピクチャーズ配給の洋画なのに舞台となるのは名古屋、つまり中日ドラゴンズの助っ人選手です。言葉も風習もわからない島国に連れてこられて、名古屋というローカルな環境で戸惑いつつも、東京の人気球団に対抗心を燃やすというひねった設定にリアリティーがありました。今回のスナックショットはその名古屋にも対抗心を燃やしているかもしれない、愛知・岐阜・三重の周縁部からお送りします。

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今夜も来夢来人で ~宮城県岩手山編

2年ほど前に『アサヒカメラ』で連載していた、全国各地の「来夢来人」という名前のスナックをめぐるという・・・趣味全開の連載。案の定、全国47都道府県を制覇する前に連載終了になってしまいましたが・・・涙。今回はちょうどいいので、宮城県岩手山のスナック来夢来人をご紹介します。岩手山は、仙台と石巻とちょうど正三角形の角になる山側の小さな町。駅の周囲は寒々としてるけど、店の中は貫禄ママさんと可愛いホステスさんと、いっぱいの常連さんで、とびきり暖かい居心地でした!

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連載:スナックショット 19 石川、福井(平田順一)

どうも平田です。卒業に就職に人事異動に契約更改、年度が替わって落ち着かない4月の1回目は開店祝いの花輪を巡る旅です。十数年まえに富山県で廃線の危機にある鉄道に乗って探索していたところ、沿線の街のスナックの佇まいに惹かれ、観光ガイドに載らないような街の風景を求めて全国各地を記録して歩くようになりました。これをスナックショットの第1回に書きましたが、厳しい気候風土のなかで培われた北陸地方の街並みはとりたてて魅力的に映ります。しかし時期によっては、ビル全体を埋め尽くすくらいに花輪を飾ってあるのは何故でしょうか?

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原色の寝室――タイの日式ラブホテルめぐり 1

渡邊智昭さんのディスコバスの写真を見ていて思い出したのが、ラブホテルのこと。日本に限らず世界中に「おもにセックスのためのホテル」は存在するが、それらはあくまで「カップル向けのロマンティックな宿泊施設」であったり、「娼婦と短時間過ごすためのヤリ部屋」だったりする。そのように味気ない限定目的空間を、これほどまでの特殊な美的空間デザインに昇華させたのは、日本が世界に誇るべき美意識だと思うのだが・・・あるんですねえ、タイにも。実は日本そっくりのラブホテルが。明らかに日本のラブホの影響にあるというかモロ・コピーでありながら、「家族やお友達とのパーティにも」などとうたってあるところがまたタイらしい、南国的快楽空間。数年前に3ヶ所の存在を確認、取材も済ませていたが未発表のままだったので、今回のディスコバスにあわせて2週間にわたってご紹介します。今週はまず、チェンライのレッドローズ・ホテルから。

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photography

つくりもののまこと――伝説のスチルマン井本俊康さんに聞く

これまでほとんどまったく脚光を浴びることのなかったスチルマンをフィーチャーした、貴重な機会となる今回の展覧会。『Frozen Beauties 日本映画黄金時代のスティル・フォトグラフィ』(2000年、Asupect刊)に掲載した、僕のロビーカード・コレクションも展示されているが、今週は全盛期の日活で活躍したスチルマン・井本俊康(いもと・としやす)さんのお話を伺ってみよう。東京品川区の静かな住宅街に奥様とふたりで暮らす井本さんは、日活時代に石原裕次郎の作品だけで33本、吉永小百合を24本、会社を離れてフリーになり、引退するまで実に380本もの映画スチルを手がけた、伝説のカメラマンである――。

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art

渋谷で混浴

先々週のメルマガで告知していた『混浴ゴールデンナイトin東京』、4月12日に大盛況のうちに終了しました。渋谷のサラヴァ東京で夜6時半からと9時半からの2回公演だったのですが、両方とも満員御礼という・・・ぜひ定例化してほしいですね。昨秋に別府のアートイベント『混浴温泉世界』で披露され、大反響を巻き起こした「金粉ショー」を含む『混浴ゴールデンナイト』の、東京での一夜限りの特別興行。別府からやってきた混浴温泉世界の女性スタッフ3人のユニット「なみなみガールズ」による微笑ましいイントロで開幕。あとは立て続けにフラメンコの吉田久美子、人間ドッグ・オーケストラ、大人ディスコあけみの吟子(withソワレ、多田葉子、北園優)、そしてトリの「TheNOBEBO」による金粉ショーと、パフォーマンス・アートとエンターテイメントの境界線上を行きつ戻りつする刺激的なステージが堪能できました。

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music

ROADSIDE RADIO ギャーテーズ降臨!

ロードサイド・ラジオ、先週日曜日にはその前の『爆音クラシック=爆クラ』から180度路線変更、フリー・インプロビゼーション・バンドの雄「ギャーテーズ」のライブをお送りしました。ギャーテーズの音楽がラジオで放送されること自体、ものすごく異例だと思いますが、1時間まるごとライブの実況は・・・奇跡じゃないかと、自分で言うのもなんですが・・・。ギャーテーズは10人前後の編成によるバンドですが、そのフロントをつとめるふたりのボーカルと、ライブではそのすぐ後ろで縦笛を吹きつづける3人が障害者。そのバックを手練のプロ・ミュージシャンが固めるという、なかなか他に類を見ないユニークなバンドです。

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ROADSIDE RADIO 2週連続で三上寛!

インターFM史上で早くも、もっともビザールなプログラムとなりつつある「ROADSIDE RADIO」。先週の障害者ツインボーカル・インプロビゼーション・バンド「ギャーテーズ」に続いて、さきおとといの日曜は三上寛のライブをお送りしました。しかも番組内で話したとおり、こんどの日曜日も続けて三上寛! しかも通常のオリジナル曲を歌うライブではなく、演歌のカラオケ・ライブ! こんなこと許されるのでしょうか・・・いつまでも(笑)。自分でもやっててドキドキしてます。

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ROADSIDE RADIO 三上寛、カラオケを唄う!

5日に続いて、12日の「ROADSIDE RADIO」では三上寛特集。それも三上さんが好きな演歌を選んでカラオケで歌い、そのあいまに僕が三上さんにいろいろ話を聞くという、奇跡的なプログラムをお送りしました。日曜深夜とはいえ、FM局で1時間、カラオケで番組をつくっちゃうなんて、放送史上でもマレなんじゃないでしょうか。舞台となったのは西荻窪のファンキーでサイケデリックなバー『ゼン・プッシー』。その店名でイカレ度がすでに察せられますが、三上さんはこの店でもう何十回もライブを開いてきた、常連スター。しかしさすがにカラオケでステージを務めるのは初めてでしょうし、お客さんの手拍子に乗って歌うのも初めてだったかも! 笑

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スナック・ビルの人生迷路 後編

先週は五反田駅そばの「スナック・ビル」、ロイヤルオーク・ホテルをご紹介した。終戦直後の闇市が発展した五反田新開地の再開発に伴って、新築ホテルの地下1階から地上2階まで3フロアを、新開地から移転してきたスナックと居酒屋が占める、それは異様な空間だったが、同じくらい特異なスナック・ビルとして、ぜひいっしょにご紹介しておきたいのがここ「都橋商店街」である。「東京スナック飲みある記」と題していながら申し訳ないが、場所は横浜。日ノ出町と桜木町の、ふたつの駅のあいだにある都橋商店街は、大岡川の緩やかなカーブにぴったり寄り添うように、2階建ての建物自体が緩やかな弧を描いて印象的。「ハーモニカ横丁」という別名が、いかにも納得のデザインである。

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スナックショット 23 鳥取(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは日本で一番人口が少ない鳥取県です。ROADSIDERS' weeklyでは昨年8/15配信号(vol.31・圏外の街角から)で取り上げられました。鳥取は距離もさることながら、なにか用事があるとか近くへ寄ったついでとか、そういった要素も派生しづらい縁の遠さがあります。県全体の人口(60万人弱)も東京の江戸川区や足立区と同じくらい、面積や密度を比べると酷ですが国会議員の定数問題ではないので純粋に鳥取県内のスナックのある風景を追ってまいります。

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連載:スナックショット 24 鳥取、島根(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは前回に続いて鳥取県の西、境港市と島根県松江市・出雲市のスナックを巡ります。妖怪の町から神話の町まで、よろしくお付き合い願います。県庁所在地の鳥取市よりも交通の便が良くて賑やかな米子駅、この0番線ホームに境港行のディーゼルカーが停まっている。これが水木しげる先生が描くラッピング塗装の「鬼太郎列車」であり、終点の境港駅からは水木しげるロードを経て、水木しげる記念館に通じている。

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ROADSIDE RADIO フィールド・レコーディング特集

いつもはレコーダー片手に、ライブハウスやクラブで録ってきた音源を紹介しているロードサイド・ラジオですが、今回は珍しくスタジオからお送りしました。しかしその内容は、「フィールド・レコーディングの極北」とでもいうべき、ビザールなアウトサイダー・ミュージックのセレクション。楽しんでいただけたでしょうか。放送した曲目は:『トランジスタ・レイディオ』 ボンゴ・ジョー/『イン・ドア・ウェイ』 ムーン・ドッグ/『製糸小唄』 里 国隆/『トゥン・クイン・サンライズ』 タイ・エレファント・オーケストラ/『ジーザス・ブラッド・ネヴァー・フェイルド・ミー』 ギャヴィン・ブライアース

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ベスト・ジュークボックス・イン・タウン

どんなに高性能のMP3プレイヤーと、ダイナミックレンジの広いヘッドフォンを組み合わせても、絶対に出せない音がある。ジュークボックスの音だ。酔っぱらった男と女の肉声に、グラスや氷がぶつる音、ドアが開くたびに流れ込んでくる通りの雑音があわさってぐちゃぐちゃになった音場を、あるときは突き刺すように、あるときは足先からじわっと包み込むように流れる、あの音。極端に重い針圧のせいで、すぐにノイズだらけになってしまうシングル盤の、あの音。そしていま東京で最高の選曲を誇るジュークボックスは、六本木の小さなバーにある。

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畸人研究学会報告 05 不夢不無曼荼羅は田園の中 芸術家東山嘉事の夢世界(海老名ベテルギウス則雄)

皆さんは東山嘉事(ひがしやま・かじ1934-2006)という芸術家をご存知だろうか? 私は神戸市内の山あいにある知的障害者施設で生活しながら、段ボールに赤鉛筆で独特の絵画を描き続けてきたアウトサイダーアーティストの小幡正雄さんを発掘した人物として、その名を知っていた。今年の初め、兵庫県篠山市で出会った大杉幸生さん(2013年3月13日配信号)から、「東山嘉事さんは私の師匠に当たる人物で、ひとことでは言い表せない大変な芸術家だった」という話を聞いた。そして今回、大杉さんの紹介で、東山嘉事さんのアトリエであった建物の見学をさせていただけることになった。

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連載:スナックショット 26 香川・愛媛(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは四国に渡って、大竹伸朗ファンには馴染み深い香川県と愛媛県です。高松は古くから国鉄の宇高連絡船を介した四国の玄関口で、深夜とも早朝ともつかない時間帯にも列車と連絡船の発着があり、神戸・大阪とのフェリーも終夜発着していたので一地方都市とはいえ侮れない、不夜城の輝きがあります。

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ROADSIDE RADIO FREEDOMMUNE サウンド・ドキュメンタリー!

先週日曜のロードサイド・ラジオでは、前週7月13日に幕張メッセで開催されたばかりの「FREEDOMMUNE ZERO 2013」の模様を、ドキュメンタリー仕立てでお送りしました。もうDOMMUNEについて説明する必要はないでしょうが、スタートした2010年の翌夏、東日本大震災の復興支援イベントとして第1回が予定されていましたが(そういえば地震のあった3月11日は、僕の『スナック芸術丸』が配信予定だったのでした・・)、会場の川崎・東扇島東公園がとてつもない集中豪雨に襲われて急遽中止。翌2012年には幕張メッセに場所を移して無事に開催。僕も『スナック芸術丸・特別編』として、映画監督・大根仁さんをお招きして深夜のトークをやらせてもらいました。

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スナックショット 27 徳島・高知(平田順一)

どうも平田です。今回も遍路さながらに四国のスナックを巡りますので、よろしくお付き合い願います。最近新潮社から出た大竹伸朗さんのエッセイ集「ビ」を読んでいますが、伝統と権威を誇る美術展と宇和島のカラオケスナックを俎上に並べて美意識を考察する「スナック『日展』」の一文は、スナック街に惹かれて写真を撮っている自分の、うまく説明できない思いが文章化されているみたいで嬉しかったです。2001年夏、自分は信号メーカーの技術部で働いており、社内には全国の鉄道会社に納品した信号設備の資料があったのですが、仕事とは直接関係のないケーブルカーやロープウェイが趣味的に面白くて、これを追い求めて旅に出てはコンパクトカメラで記録していました。

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ROADSIDE RADIO ちあきなおみ特集・前編

2週にわたった友川カズキのライブに続いて、先週日曜日のロードサイド・ラジオでは、ちあきなおみを特集しました。この番組はなるべくライブにでかけ、その録音をお届けしたいので、すでに歌うことを止めて20年以上がたち、いまや伝説と化した彼女の新しいコンサートは存在しません。やむをえずCDやレコードでお送りしましたが、いざ構成してみるとあまりに紹介したい曲が多く! 前半・後半にわけてこんどの日曜日も「ちあきなおみ特集・後編」をお送りする予定です。

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ROADSIDE RADIO ちあきなおみ特集・後編

2週にわたる、いわば「もうひとつのちあきなおみ」特集。先週は1977年に友川カズキがちあきなおみのために書いた名曲『夜へ急ぐ人』から始まって、ジャズやロックやシャンソンやファドを歌い、そうして88年にリリースした演歌の新曲『紅とんぼ』で、11年ぶりに紅白歌合戦に出場するまでをお送りしました。先週の放送後は思いがけず、たくさんのツイートをいただいたのですが、そのなかで「喝采はかけないのか」という悲鳴のようなコメントがけっこうあって・・今週の放送はちあきなおみ特集後編をお送りする前に、まずは彼女の代表曲中の代表曲「喝采」を聴いてもらうことにしました。

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ROADSIDE RADIO:早川義夫ソロ・ライブ

先週のロードサイド・ラジオは、7月28日に神田の試聴室という小さなライブ・スペースで開かれたばかりの、早川義夫さんのソロ・ライブをお送りしました。ピアノ1台の弾き語り、休憩を挟んでアンコールまで22曲が披露されたうち、14曲を放送することができました。早川さんはジャックスの時代から現在のソロ活動まで、僕がもっとも尊敬するミュージシャンのひとりなので、この番組で取り上げられることはすごくうれしいというか、光栄です。

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新連載! 隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 01(ケイタタ)

日下慶太さんという若い大阪人と会えたのは、偶然見たブログがきっかけだった。ちょうど大阪出張があったので、すぐに連絡を取って通天閣下で待ち合わせ。新世界市場というシャッター商店街にある、彼と友人たちのアジトでおしゃべりしているうちに、こんな連載を始めてもらうことになった。 彼のブログには、こんな自己紹介が載っている――大阪生まれ 大阪在住。 ロシアでスパイ容疑で拘束、アフガニスタンでタリバーンと自転車を二人乗りなど、世界をフラフラとしながら広告代理店に入社。コピーライターとして 勤務する傍ら、写真家、執筆家、セルフ祭顧問として活動をしている。

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ROADSIDE RADIO:B.I.G. JOE

先週8日深夜のROADSIDE RADIOでは、8月9日に中野のライブハウスHEAVYSICK ZEROで開催された、B.I.G. JOEのライブをお送りしました。東京のハードコア関係には絶大な支持を得てきたヘヴィシックの、11周年アニバーサリーを兼ねて開かれたこのライブは、今年3月に発表された4枚目のソロアルバム『HEARTBEAT』をひっさげた、長期全国ツアーの一環でもあります。THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOとともに、北海道のヒップホップ・シーンの立役者として長く知られてきたB.I.G. JOEは1975(昭和50)年、札幌に生まれました。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 02(ケイタタ)

おっ、打ち切りにならずにすんだぜ『隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス』。これで読み切りじゃなくて正々堂々「連載」と言えるやん。第2回はつい先日が敬老の日だったということで老人特集でお送りします。

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新連載! 案山子X(ai7n)

2010年に広島市現代美術館で、『HEAVEN 都築響一とめぐる、社会の窓から見た未ニッポン』という展覧会を開いたときのこと。ギャラリートークかなにかの折に、すご~く内気そうな女の子が、「あの・・・こんなの作ってるんです」と、おずおずと一冊の小冊子を僕に差し出した。『広島非日常ガイドブック』と小さく表紙に書かれたその冊子は、純喫茶伴天連から豊栄ヘソまつりまで、広島周辺の裏スポットをたったひとりで探索・記録し続けた、すばらしい努力の結晶だった。それまで美術館のスタッフにいくら聞いても、ロクな珍名所に出会わなかった僕にとって、それは天啓ともいうべき授かりものだった。

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スナックショット 31 宮崎(平田順一)

どうも平田です。全国のスナック街の写真を撮って歩いてる人間です、と紹介されたり自分で話したりすることがあり、ここの地方はスナックの写真は撮りましたか? と関心を持たれることがあって嬉しいのですが、行っていない地方については返答に窮することになります。今回取り上げます宮崎県は昨年の連載開始時には未踏の場所で、宮崎をどげんかせんといかん! と今年2月に奮起して行ってきました。大都市圏以外でのタレント首長の誕生で、驚きをもって迎えられた東国原知事の就任が2007年1月。

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追悼・濡木痴夢男

すでに数々のツイートやブログなどで書かれているように、濡木痴夢男さんが亡くなった。8月中旬に呼吸困難で倒れ、9月9日に永眠。故人の強い希望ということで、お身内だけで葬儀を済ませたあと、こちらにもようやく知らせが回ってきたのが、9月中旬のことだった。1930年のお生まれなので、83年の生涯ということになろうか。濡木痴夢男(ぬれきちむお/本名・飯田豊一)はご存じの方も多いだろう、SM小説家、縛り師として、日本のSM美学をここまで完成させた、最大の功労者のひとりである。

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スナックショット 32 鹿児島、熊本、大牟田(平田順一)

どうも平田です。いままで北海道から九州までスナック街を巡って写真を公開してきましたが、いくつか抜けているところがあります。和歌山や奈良ではまとまった数の写真が撮れず、東京・京都・大阪など大都会のスナックはあえて避けてきました。歓楽街として知られすぎていることと、たとえば銀座や歌舞伎町で雰囲気のあるスナックの写真を撮ったら、半径500メートルくらいで完結してしまいそうで、好奇心が広がっていかないと思ったからです。中州、すすきの、仙台の国分町なども同様の理由で敬遠していたのですが、旅先は解放感があり好奇心も湧きます。今回は有名といえば有名、ローカルといえばローカルな鹿児島の天文館、熊本の下通、福岡県大牟田市の記録です。

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倉地久美夫@東京キネマ倶楽部

今年4月から毎週お送りしてきたインターFM・ROADSIDE RADIOが、10月いっぱいで終了してしまうのにかわって、これからは本メルマガをプラットフォームに、なかなかマスメディアに乗りにくい良質の音楽を、写真とテキストと音声ファイルという形で配信していくことにしました。9月18日号で告知した東京の音楽イベント「サウンド・ライブ・トーキョー」。すでに原宿VACANTにおける「松崎順一+嶺川貴子 ラジカセ・メロトロン化計画」のサワリをご覧いただきましたが、今週はその第一弾として、10月4日に鶯谷・東京キネマ倶楽部で行われた「倉地久美夫+マヘル・シャラル・ハシュ・バズ」から、倉地久美夫さんのステージを約50分間の音声ファイルでお届けします!

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スナックショット 最終回 沖縄(平田順一)

どうも平田です。最終回となります今回は沖縄本島のスナック街を巡ります。かつては独立した貿易国であり、つねに近隣諸国の政治と経済に翻弄される沖縄。基地問題や高い失業率や経済格差などなど、複雑な県民感情を抱えつつも美しい自然環境や個性的な文化から本土の沖縄フリーク、「沖縄病」と呼ばれる移住者を大量に呼び寄せることになります。スナックという切り口から沖縄を見ると、やはり米軍や基地関係者のガス抜きという一面を少なからず意識しますが、強い直射日光や台風に耐えて存在する看板や建物自体が魅力的に映りました。

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フィールドノオト 03 新宿(畠中勝)

音を残そうと考えた時、それは楽器で作り上げる音楽だったり、自然豊かな場所での川のせせらぎの収録などを思い出す。今回は僕の身の回りの音だけを集めてみた。日々暮らし慣れ親しんでいる新宿のフィールドレコーディングだ。多国籍で無国籍なカラーがミックスする街の風貌もさることながら、新宿はいろんな音が絡み合う場所だと感じたからだ。

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photography

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 06 寝てる人 晩秋編(ケイタタ)

今週は『寝てる人 晩秋編』。10月2日配信のvol.085にて『寝てる人 初秋篇』を書いたのだが、今回は『晩秋編』である。寝てる人の写真がたくさんありすぎて「秋1つ」では収まり切らないボリュームだったのである。正直に言おう、ネタ切れが怖いので2つに分けておきたかったという事情もないことはなかった。まあ能書きはこれぐらいにして『隙ある風景 晩秋編』。49枚寝ている人だけ。見ている間にあなたも眠ってしまうはず。

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フィールドノオト04  岩手県~青森県(畠中勝)

「あまちゃん」で沸く久慈に通りかかった。町は見事に人の活気であふれていた。その後、十和田湖へ。どちらも本来の目的地ではなかったのだが、車窓から眺めた三陸海岸に、この数年、震災以降の個人的な想いが巡った。

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photography

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 07 サラリーマン(ケイタタ)

今回のテーマは「サラリーマン」。日常の仕事の中で、そして、通勤途中でサラリーマンを見るたびに、サラリーマンというのはどこか違う生物のように感じてきました。それは街中でホームレスの人々を見たときに自分とは違う種族の人間だと思うような感覚と近いもの。今日はその隙あるサラリーマンの姿を写真と言葉で表現していきたいと思います。

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travel

フィールドノオト05 恐山(畠中勝)

恐山へいってきた。下北駅からの道中、地元のタクシー運転手が話をしてくれた。「霊場には小さな石がたくさん積んであるんだけんども、それは地元の人間が先祖代々ひとつひとつ毎年積んできた石なんですよ。その石の山は台風が来ても地震がきても崩れたことがない。本当に不思議ですよね」。この霊場が持つ信仰を鵜呑みにするには僕自身まだまだ学が足りない。しかし多くの人を引き寄せてきたこの山自体の奇妙な“磁場”に一層興味を惹かれていった。

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photography

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 08 2013年を振り返って(ケイタタ)

いよいよ年の瀬となりました。今年9月より始まった『隙ある風景』もみなさんのおかげで無事年を越せそうです。今回は、今年最後の記事ということで2013年を「隙」とともに振り返って行こうと思います。

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案山子X 4:円野町かかし祭り(山梨)/長崎のかかし祭り(山梨)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今年最後となる4回目は、山梨県の「円野町かかし祭り」と「長崎のかかし祭り」を紹介します。最初に山梨県韮崎市円野町下円井の「円野町かかし祭り」を紹介します。「円野町かかし祭り」は今年で20回目を迎えたお祭りで、8月12日~9月8日の4週間に渡って開催されました。つぶら野会館付近の市道円野5号線沿い約200メートルに115体(24タイトル)の案山子が展示され、案山子の人気投票も開催されていました。町おこしとして始まり、現在は町民が気楽に楽しみながら地域の主張を発信するお祭りとなっているそうです。

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fashion

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 09 寝てる人 冬(ケイタタ)

さてさてあけましておめでとうございます。2014年一発目の今回は、正月休み明けでぼーっとしている読者のみなさんの心のコンディションにあわせて、ぼんやりとした写真をご用意。『寝てる人 冬』どうぞよろしくお願いします。

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photography

暴走の原点――『スペクター1974―1978』

ピンパブさすらいびとの比嘉健二さんは、暴走族文化を語る上で外すことのできないキーパースンでもある。『ナックルズ』をはじめとする若者系実話誌を生み出し、それ以前に僕も毎号欠かさず愛読していたレディース雑誌『ティーンズロード』の生みの親でもあった。その比嘉さんが10年以上の時間をかけて、昨年10月にようやく世に出した写真集がある。一般書店にはほとんど並んでいないので、知る人は少ないかもしれない。箱入り・上製本でずっしり重いその写真集は、『スペクター1974―1978』と名づけられている。言うまでもなく、日本暴走族文化の原点ともいうべき伝説のグループ「スペクター」を捉えた、奇跡的な写真集だ。

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photography

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 10 ノマド(ケイタタ)

今回のテーマは「ノマド」。そう、いま流行のノマドスタイルです。オフィスという場所に縛られずnomad=遊牧民のように自由に働く様をぜひご覧ください。

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music

ROADSIDE MUSIC 浜田真理子 ライブ@渋谷WWW

もともとこの「ロードサイド・ミュージック」は、去年インターFMで持っていた番組「ロードサイド・ラジオ」のために録音した音源を聴いてもらうために始めたのでしたが、メルマガ100号となる今週は記念として、このコーナーのための新録音! 昨年11月20日に渋谷WWWで開催された、浜田真理子の『Touch My Piano with 浜田真理子』から、コンサートの前半をノーカットでお送りできることになりました。当日の演奏は今年の5月ごろにライブアルバムとして発表される予定なので、今回お届けするのは僕が客席の隅で録音したものではありますが、CD発売前の特別公開ということになります。浜田さんはじめ、関係者の皆様のご理解とご協力に深く感謝します。

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travel

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 11 外国人(ケイタタ)

今回のテーマは「外国人」。ぼくもよく海外を旅するので、外国人には親切にしてあげたいと思うもの。でも、やっぱり、見てておもしろいことが多々あるのです。そんなときついついカメラを向けてしまう。ぼくがどこかの国の路地で不様な姿を晒してたら撮っていいから許してね。それではお楽しみください。

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book

残像・命ギリギリ芸――小沢昭一写真集『昭和の肖像<芸>』

去年12月4日配信号『昭和という故郷』で紹介した、小沢昭一の写真集『昭和の肖像<町>』に続く待望の続編『昭和の肖像<芸>』が先週あたりから書店に並んでいる。近代日本大衆文化、またフィールドレコーディングに関心のある者にとっても最重要な記録音源『日本の放浪芸』(復刻版CDボックス4セット、全22枚!)でもわかるように、失われ滅びゆく芸能を訪ね歩き、記録する作業は、小沢昭一にとって単なる趣味でもなければ、学問的な興味でもなかったろう。

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travel

隙ある風景 ROADSIDERS' remix 12 冬(ケイタタ)

大阪でも珍しく雪が積もりました。いやあ、寒いです。というわけで今回のテーマは「冬」です。寒い風景が多いので、体を温かくしてご覧ください。

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art

ぴんから体操新作展に寄せて

先週の告知でお知らせしたとおり3月3日(雛祭り!)から銀座ヴァニラ画廊で、『ぴんから体操展 妄想芸術劇場2』と『兵頭喜貴写真展 模造人体シリーズ第5弾 「さらば金剛寺ハルナとその姉妹―愛の玩具たち』という、ふたつのきわめてビザールな展覧会が同時開催される。本メルマガでもすでに2012年3月21日号で特集した兵頭喜貴の(「人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記」)、2年ぶりとなる新作インスタレーション展については、前回の展覧会のあと突如として難病や数々の難問に直面し、厳しい日々を送ってきた作家の復活展でもあり、僕も公開対談に参加させてもらう予定。同時にこちらも2年ぶりとなる伝説の投稿イラスト職人「ぴんから体操」原画展も、久方ぶりに原画と向き合える貴重なチャンスであり、とりわけアウトサイダー・アート・ファンには見逃せない企画になるはずだ。

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追悼――101歳のアマチュア画家・江上茂雄

先週2月27日の西日本新聞の夕刊に、小さな死亡記事が掲載された。本メルマガの去年10月2日号で特集したばかりの、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんの死亡記事だった。「26日午前9字14分、老衰のため福岡市東区の老人ホームで死去、101歳」――地元以外で、どれくらいのひとがこのニュースを知っただろうか。江上茂雄さんは生涯アマチュアを通した、生粋の「日曜画家」だった。ほとんど注目されることもなく、自分だけの絵を描きつづけ、最晩年の去年、101歳にして福岡県立美術館で大回顧展を開催。その取材で秋に荒尾にうかがったときはまだお元気で、家族が同居をすすめても「絵を描くのにはひとりのほうがいいですから」と独居を貫き、ひとりでご飯を食べて絵を描く日々を過ごしていた。

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フィールドノオト11 福岡県飯塚市(畠中勝)

昭和10年、父、敏雪は、5人兄弟の長男として、炭鉱で賑わっていた飯塚で生を受ける。村の名は「氷屋」と呼ばれていた。地元の名山である三郡山の山裾の一端で、まれに夏でも凍えるほどの寒さを感じることからこの地名が付けられたと聞く。小学校を出るやいなや炭鉱で働き始めた父。終戦とともに鉱山が閉鎖されると、その後は長距離トラックの運転手として定年を迎えた。実母の葬式にも顔を出さないほどの働き者で、勤めていた会社から皆勤賞をもらうほどだった。僕はその父と実は長年会ってはいないのだが、小学生時代の「うちの家族」といった作文以来、改めて父を書こうと、良いところをあげるなら、ひとつだけ思い出すことがある。それは父の風貌である。

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新宿が生きていたころ――昭和40年代新宿写真展

新宿という地名に、地元以外のひとはなにをイメージするだろう。歌舞伎町や新宿3丁目の喧騒とも、西新宿の高層ビル街ともちがう、静かな住宅街が広がる三栄町。靖国通りを挟んで防衛省と向き合うこの一角に、新宿歴史博物館がある。本館のほかに林芙美子記念館、佐伯祐三アトリエ記念館、中村彝(つね)アトリエ記念館などを併せ持つ区立の文化施設なのだが、どれくらいの方がご存知だろうか。その新宿歴史博物館でいま開催中なのが『新宿・昭和40年代 ―熱き時代の新宿風景―』と題された写真展。いまやすっかり毒気を抜かれてしまった感のある新宿が、たぶん日本でいちばんエネルギッシュだった街だったころを振り返る、興味深い展覧会だ。

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案山子X 7:上津川かかしむら かかし祭り(大分)(ai7n)

今回は大分県佐伯市本匠大字上津川地区で開催される「上津川かかしむら かかし祭り」を紹介します。大分県の南東端に位置する佐伯市(さいきし)は九州の中で最大の面積を持つ地域で、海側にはリアス式海岸地帯が広がり内陸部には深い山々が連なる、豊かな自然に恵まれた地域です。「上津川かかしむら かかし祭り」の会場がある本匠大字上津川地区は佐伯市の中心から北西に位置し、上津川に沿って点在する小さな集落の中の一つでかかし祭りが開催されます。毎年10月中旬の稲刈が終わった頃から40日ほどかかしの展示をされるそうで、3回目を迎える2013年には約250体のかかしが田畑や民家等に立ち並びました。

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フィールドノオト12 佐賀県 嬉野観光秘宝館(畠中勝)

昭和のアミューズメント施設に興味がある。温泉街にある秘宝館もそのひとつだ。子どもの頃はできなかったが、箱型の受付小屋にいるオバサマに入館料を支払い、館内へとおずおず足を踏み入れる。すると瞬く間に、これまで経験しなかった、もしくは体験することもないであろう、すごいエロが待っていた。

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ROADISIDE MUSIC パスカルズ・ライブ@CAY

今週のロードサイド・ミュージックは3月19日に開催されたばかりの、パスカルズのステージをお送りする。前半、後半、アンコールまで含めて2時間以上の長いステージから、パスカルズ自身によって選ばれた8曲、50分弱の演奏をたっぷりお楽しみいただきたい。

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music

ROADSIDE MUSIC 石橋英子 バンド+ソロ、2本立て!

今週のロードサイダーズ・ミュージックは石橋英子のライブをお届けします。ジム・オルーク(元Sonic Youth)などと組んだバンド「石橋英子 with もう死んだ人たち」による去年11月22日、六本木SuperDeluxでの演奏から6曲(約47分)。そして今年2月26日に渋谷WWWで開かれた「Touch My Piano vol.05 高木正勝/石橋英子」から、68分あまりのピアノ・ソロ・ライブを丸ごとという、豪華2本立てです!

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ホットロード ~十代の光と影~

ヤンキーといえば、ほとんど聖書といえるのが漫画『ホットロード』。これまでの販売累計700万部なのだそうだが、このほど完全実写化され、しかも和希役が能年玲奈というニュースに、ひそかに震えたひとも多いのでは(映画は8月公開)。今週のヤンキー特集に華を添えるべく! 2011年に書いた短い書評があったのを思い出したので、それも再録しておきます。映画の出来はわからないけれど、漫画原作版はいまでは電書でも読めるので便利。しかし通勤途中にキンドルで読んだりして、号泣しないように。

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lifestyle

かなりピンボケ 3――フィリピーナは休みの日に何をしているのか? 哀愁のシーフードヌードルと地獄の教会編(比嘉健二)

フィリピンパブで夜働いているフィリピーナはオフタイム、休みの日にいったいどういう過ごし方をしているのか? おそらく常識ある一般人の方はまったく想像がつかないであろうし、そんなことを知りたいとも思わないだろう。ただ、あえて今回このテーマにしたのは、フィリピンパブという空間に常識人も突然ハマる、もしくは転落する可能性がけっこうあるからだ。そうなってしまった時、このコーナーはおそらく偉人の啓蒙書のように感じられることだろう。

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フィールドノオト15 京都2(畠中勝)

猟師、増山賢一氏による鹿猟二日目。猟でもパートナーを務める氏の奥さんとともに、今回は子どもたちも山へやってきた。もちろん猟をするわけではない。麓で猟犬の世話をアシストする心強い味方なのだ。猟を終え、獲物を捕らえた父のもとに子どもたちが駆け寄ってきた。子どもたちは生まれた頃から、父の獲った肉を食べ、それらの肉が好物にもなっている。成功を喜び合う親子。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 18 プレイする人(ケイタタ)

今号のテーマは「プレイする人」。プレイといえどいろんなプレイがあるけれども、これはゲームをプレイする人です。それではご覧くださいませ。

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フィールドノオト16 伊豆熱海(畠中勝)

熱海へは数年ぶりにやってきた。夜明けに新宿を出発、そして今は10時過ぎ。今回は秘宝館の取材のためでデートでもなんでもないが、成り行き上、車内には自分を含め男が三人いる。徹夜の仕事だったことから、我々はとりあえず喫煙休憩を兼ね、僕の行きつけである日帰り温泉宿へ向かった。閑散とした熱海の中心街、そのさらに外れにあるこの宿は、より人気も少なく休憩所は無料で広々。入浴料も安いことから昔から定宿に指定している。湯に浸かりながらゆったり予定を考え、休憩所にあがってくると、ちょうど老人たちが一杯やりながら会話をしていた。というより江戸っ子らしき人物が一方的に喋っている。畳部屋に響くその声は妙な清涼感があった。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 19 春(ケイタタ)

商店街ポスター展の記事、ちょっとマジメすぎたかも・・・熱が入りすぎてついつい長くなってしまいました。今回はケイタタに戻りまして「隙ある風景 ROADSIDERS’ remix」今回のテーマは「春」。さくらは春らしいのだけれども、以前の書いたものだからさくら以外の春の風景を。どうぞリラックスしてお楽しみください。

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フィールドノオト17『思い出の抜け道』(新宿)(畠中勝)

歌舞伎町の暗がりに無数に伸びる裏路地。その中のひとつに四畳半にも満たないバラック屋台やスナックが立ち並んだ通りがある。かつて中国人マフィアによる青龍刀事件でも知られたこの一帯は、数年前までは誰もが気軽に足を踏み入れることはできないような空気感があったが、その後、石原都知事が行った歌舞伎町浄化作戦によって、今ではカフェ風の店が増え、近隣のゴールデン街と同様、観光客も安心して入れるようになった。そんな知る人ぞ知る新宿の裏通りで、古くから赤提灯を灯してきたのがスナック『竹千代』。若い頃は、銀座の高級スナック店に勤務、ミスコンへも出場経験があるという女装ママ、竹千代さんが営んでいる。現在66歳。とてもそんな年齢には見えない美貌の持ち主だが、彼女がいうのできっとそうなのだろう。そして彼女の店を渾身にサポートをしているのが、今回、歌を披露してくれた将(まさる)さんだ。

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かなりピンボケ 04 さよならパーティー おやじの涙とフィリーピーナの涙、その意味はまるで違う(比嘉健二)

フィリピンパブのせつなくて滑稽なイベントとして、1)自分の誕生日、2)クリスマスパーティー、3)さよならパーティー、この3大イベントがあげられるが、なかでも「さよならパーティー」のおかしさ、悲しさ、むなしさはそこらへんの恋愛小説やドラマよりはるかに面白く、奥深い。ただ、残念ながらこの「さよならパーティー」は今ではあまりみられなくなってしまった。というのも2005年にタレントビザの規制が強化され、フィリピンからそれまで大量に来日していた、タレントの来日が厳しくなってしまったのだ。

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ROADSIDE MUSIC tamamix

気合いを込めて、というよりも肩の力の抜けた演奏のほうが似合う楽器、というのは世の中にあまりなくて、ウクレレはそういう珍しい楽器だ。そこが歌うことに似ていたりもする。ジェイク・シマブクロみたいな超絶技巧もいいけれど、リラックスしたウクレレと、リラックスした歌。これほど相性のいいマッチングって、なかなかない。そういうリラックスの境地に遊べるひとは、自分の生活もリラックスできてるんだろうな~と思わせるイメージがあって、目の前のステージでウクレレをポロンポロンしながら「おれのあん娘はタバコが好きで いつもプカプカプカ~」なんて気持ちよさそうに歌ってる彼女は、まさしくそんな良性の脱力感を全身から漂わせているのだが、しかし曲と曲間のトークでは「とんでもない年上男との恋」とか、「悲惨なバイト生活」とか「野良犬との山小屋生活」とか「不倫で奥さんに乗り込まれ」とか、とうていリラックスできない逸話がさらりと披露されて、彼女の奏でる音楽と、見た目と、語られる人生のあまりのギャップに引きずり込まれて・・・気がつけばトリコになっている。tamamix(タマミックス)とはそういう、可愛らしい顔した魔性のミュージシャンだ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 21 モノ(ケイタタ)

今回のテーマは『モノ』です。人だけでなくただのモノでも人の手が加わるとやはりそこには隙が生じる。そんな人の手で隙ができてしまったモノたちをどうぞご覧ください。

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案山子X 11:筑前町ど~んとかがし祭(福岡)/道の駅うきは かかしコンクール(福岡)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は福岡県朝倉郡筑前町の「筑前町ど~んとかがし祭」と、福岡県うきは市浮羽町「道の駅うきは かかしコンクール」を紹介します。「筑前町ど~んとかがし祭」が開催される筑前町は福岡県の中南部にあり、福岡市の南東約25km、久留米市の北東約20kmの場所に位置します。2005年に旧三輪町と旧夜須町の合併により筑前町が誕生し、旧三輪町の"どんと祭り"と旧夜須町の"かがし祭り"がひとつになった一大イベントが、この「ど~んとかがし祭り」です。会場である安の里公園はコスモスの名所として知られ、公園の周りに100万本のコスモスが咲き乱れる中祭りが開催されました。

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私のアタマは貝の殻・・・――復活! 竹島ファンタジー館

郡上八幡、関と岐阜の要注目イベントふたつを紹介してきたが、県外からの多くの訪問者にとって、旅の起点は名古屋になると思われる。名古屋にはもちろん夜を含めて重点スポットが数多いが、今回はあえて尾張名古屋を素通り、一路南下して三河蒲郡に足を伸ばしていただきたい。長らく珍スポット・マニアたちに愛されながら、2010年秋から長期休館していた蒲郡ファンタジー館が、なんと「竹島ファンタジー館」となって再開、この8月2日にグランドオープンを迎えたのだ。ちなみに竹島とは、蒲郡の本土と橋で結ばれた、三河湾に浮かぶ小さな島。島全体が国の天然記念物であり、対岸の竹島水族館とともに、渋好みツーリストに親しまれてきた観光地である。

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5000人の花嫁花婿――統一教会・合同結婚式写真集

「統一教会」という言葉に、みなさんはどんなイメージを想起するだろう。原理研究会、霊感商法、マインドコントロール・・・いかがわしい新宗教の代表的存在、という受け止め方がほとんどではないか。1992年に桜田淳子が合同結婚式に参加したことから、一時はかなりマスコミを賑わわせたが、このところほとんど目にすることはなかった。おととし2012年には教祖の文鮮明が亡くなっているのだが、それもたいして報道されずに終わった気がする。そのいっぽうで最近、書店には並ばないかたちで2冊の「統一教会写真集」が、実は東京の出版社から発行されているのをご存知だろうか。ひとつは2012年9月15日に執り行われた文鮮明の葬儀の模様を収めた『慟哭』(写真:酒井透、大洋図書刊、2013年)であり、今回紹介するもう一冊がこの7月に出版されたばかりの『WORLD WIDE WEDDING』。こちらは今年2月に挙行された合同結婚式の模様を、ふたりのカメラマンが捉えたA4版上製本の豪華写真集だ。

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空飛ぶ絨毯の絵師

子供のころは分厚い時刻表の鉄道地図を見るのが大好きで、オトナになると道路地図を見ながらクルマでさまよう生活になって、それがいつのまにかカーナビやグーグルマップにすっかり頼り切りになって、地図を見るという機会すら失われつつ今日このごろ。名古屋駅に貼ってあったチラシにひかれて、時間潰しのつもりで立ち寄った名古屋市博物館の特別展『NIPPONパノラマ紀行〜吉田初三郎のえがいた大正・昭和〜』には、ひさしぶりにウズウズさせられた。名古屋エリアには美術館もいくつかあるけれど、尾張の歴史資料を展示する名古屋市博物館は、その性格からしても、地下鉄桜山駅という中心部からちょっと離れたロケーションからしても、かなり地味な印象のミュージアム。地元ですら、学校の課外授業ぐらいでしか行ったことないというひとが多いかもしれない。その目立たないミュージアムで、目立たないまま7月末から展示が始まり、今月15日(月・祝)に終わってしまう今回の展覧会。実は大変興味深い「ジャパン・オリジナル」のグラフィック・デザイン展である。

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歌うマトリョーシカ——マンダリン・エレクトロンの挑戦

何百、何千の市民がラッパを吹きまくりながら街なかを行進する「浜松まつり」を、今年7月のロードサイダーズ・ウィークリーでは2週にわたって紹介した。「音楽のまち」をウリにしながら、行政からは完全に無視されつつ、しかしストリートでは異様な盛り上がりを見せるそのありさまに、音楽の持つちからをあらためて実感させられたが、浜松にはもうひとつ、以前から取り上げてみたかった音楽シーンがあった。日本に数少ないテルミン奏者・竹内正実ひきいる「マンダリン・エレクトロン」である。

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浴槽というモノリス

ご承知のとおり僕はよくトークをやるけれど、それはなにも人前で話すのが好きとかではなくて(ほんとに!)、トークの場でいろんなひとと知り合えるから。終わったあとに「うちのそばにもこんな場所がある、こんなひとがいる」と教えてくれたり、「こんな絵を描いてるんです、写真を撮ってるんです」と作品を見せてもらえることがたくさんあり、それはネットよりもずっと貴重な情報やアドバイスになってくれる。牧ヒデアキという写真家とも、そうやって知り合った。牧さんは1971年生まれ。三河湾に面した愛知県西尾市で、建築設計の仕事をしながら、ずっと写真を撮っている。あるトークのあとで分厚いアルバムを見せてもらったのだが、そこには路傍に打ち捨てられたポリやステンレスの浴槽ばかりが写っていた。

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ニセモノの本気――大ニセモノ博覧会@歴史民俗博物館

東京から成田空港に向かってすぐ手前にある千葉県佐倉市。ミュージアム好きには国立歴史民俗博物館とDIC川村美術館という、ふたつのビッグ・ミュージアムがあることでおなじみ。その歴史民博ではいま『大ニセモノ博覧会―贋造と模倣の文化史―』という、かなり野心的な展覧会を、わりとひっそり開催中だ。「ニセモノ」とか「パクリ」とか言うと、最近では自動的に中国を連想してしまうひとが多いだろうが、ちょっと前までパクリと買いまくりにかけては元祖エコノミック・アニマル=日本人の代名詞だったことを忘れてはならない・・・というような歴史エピソードはともかく、真似ること、コピーすることは、かならずしも「やっちゃいけない悪いこと」で済まされるわけでもない。音楽にしろ美術にしろ、映画にしろ建築にしろ、つねに模倣はオリジナリティの重要な源泉であった。模倣によって磨かれた技術は数限りないし、模倣によって発見された真実もたくさんある。今回の展覧会ではそうした「本物」と「ニセモノ」のあいだのからみ合いから生まれてきた文化を、膨大な館蔵品を中心によって紐解いてみようというもの。考古学から古美術、骨董、見世物まで、時代もジュラ紀から現代まで!と思いきり幅広い展開。

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畜生道

佐々木まことさんの写真を見て、お話を聞いて、すごく腑に落ちた。そこらへんの犬も猫もだいたいは雑種だし、そこらへんで生きている人間もだいたいは雑種だ。佐々木さんも、僕も。けれど雑種の犬猫がペットショップで何十万円という高値で売られることはないし、『アニマルプラネット』で特集されることもまずない。そこらへんで生きている人間が、めったにメディアに取り上げられないように。2008年にBRUTUS誌が犬特集をしたときに、ふたつの記事をつくった。『畜生道』と『タイの地域犬』という話で、それは日本とタイで見た「雑種犬の生きざま」だった。ふたつとも本メルマガが始まってすぐの2012年1月にアーカイブとして再録したけれど、佐々木さんのお話を補完するような内容だと思うので、ここにもういちど掲載させてもらう。併せて読んでいただけたら幸いである。

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家族という作品

ハルカス、ミオ、ルシアス、フープ、キューズ、ベルタ・・・これ、何語かおわかりだろうか。実はどこの国でもない、大阪の下町・阿倍野のゲートウェイである天王寺駅周辺に林立する商業ビルの名前である。いつのまに、こんなことに・・・。天王寺駅からチンチン電車(阪堺電車)の軌道に添って一路南下、阪神高速松原線が上空を通る阿倍野交差点を過ぎると、やっと昔ながらの、いかにも大阪の下町らしい風景が広がって、ほっと一息つけるようだ。「このあたりまでは、まだ再開発の波が押し寄せてきてないんです」と教えてくれたのが、高橋静香さん。彼女が代表をつとめる、築70年の長屋を改造したというアートスペース「あべのま」で今開催中なのが、『あべのま1周年記念展 祖父と祖母と父と母と姉と妹といつものこと』という、長いタイトルの展覧会だ。

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新連載! 捨てられないTシャツ 01 パチもんのアイラブニューヨーク

むかしむかし、スーツやドレスが、Tシャツにジーンズよりエラい時代があった。いま、ひとはTシャツを使い分けることを覚えた。無地は部屋着、お気に入りの柄Tを勝負着に、というふうに。そして捨てられないレコードや本のように、捨てられないTシャツがだれにもある。穴が開いて、ところどころ黄ばんで、丸首はよれよれで、奥にしまいこまれて・・・なのに「燃えるゴミ」には出せない、そういうTシャツが。それは燃やしてしまうことのできない、「T」のかたちをした思い出だから。

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捨てられないTシャツ 02

東京都出身。いつも図鑑を持ち歩くオタク的少年時代を過ごしたのち、早稲田大学法学部を卒業。司法試験合格を目指すが、いろいろな事情で諦め家業をつぐ。家業は祖父の代から受け継ぐ自社ビルの管理。お気楽な仕事と思われがちだが、壁が剥がれたといえばペンキを塗り、雪が降れば雪かき、エアコンが壊れれば電気屋を呼ぶという便利屋(自称、代表戸締り役)として、せこせこ(?)働く日々。

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捨てられないTシャツ 03

THE CARS/30歳女性(小説家)/東京都出身。標本と図鑑と天文が好きな少女時代を過ごし、高校2年生で大江健三郎とスーザン・ソンタグに出会い、文章を読むことに興味を持つ。大学では鶴屋南北の怪異について研究、その後小説家に。いまは3匹の猫を愛でながら、長編小説に取り組んでいる。

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林忠彦の戦後

林忠彦といえば、瞬間的に頭に浮かぶのは銀座の酒場でご機嫌の太宰治だったり、汚部屋で原稿用紙に向かう坂口安吾だったりする。その林忠彦が1955年にアメリカを訪れ、大量のスナップ写真を残していたことを、今回初めて知った。7月31日に出版されたばかりの写真集『AMERICA 1955』がそれで、品川のキャノンギャラリーではそのプリントと、林忠彦の代表作のひとつである『カストリ時代』のシリーズを並置した、興味深い構成の展覧会が開催中だ。

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捨てられないTシャツ 05

ボアダムス/40歳男性(フリーライター、編集者)/奈良県出身、高校で男子校に進学するが、運動部が強い進学校のノリについていけず、寺山修司と出会ったことによりアングラの世界にハマる。女子と一言も話さない3年間に不安を覚え、あえて1浪。予備校近くにあるレコード屋に通うようになるうち、大阪アンダーグラウンド・シーンにどっぷりと。大学卒業後、東京のレコード会社に就職するも、東京に馴染めず1年で退職。その後、インディーズのレコード会社、編プロを経てフリーに。いまは猫2匹と都内に暮らし、カレーの食べ歩きが唯一の楽しみ。

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キャバレー白馬と八代亜紀の夜

前記事の「するめクラブ熊本編・写真日記」で触れたように、八代(やつしろ)には『キャバレー白馬』という由緒正しきグランドキャバレーが、いまも生き延びている。シャッター商店街が続く八代中心部の一角に、こんな昭和遺産が現存していたとは。『商店建築』誌の連載取材で『キャバレー白馬』を初めて訪れたのは2009年のことだった。そして今年2015年、「するめ旅」の途中で寄ってみた八代で、まだ白馬がいまもそのままあるのを、この目で確かめることができた。キャバレー白馬はまた、地元出身の大歌手・八代亜紀を生んだ場所でもある。以前『アサヒ芸能』誌でインタビューした記事から、そのストーリーを引用してみよう。

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捨てられないTシャツ 07

マクドナルド/33歳女性(エッセイスト・タレント)/東大阪で生まれ、7歳で兵庫へ。もともとマンガは好きだったが、小学校6年生のときに出会った『幽遊白書』をきっかけにドハマり、漫画家を夢見るようになる。その後、14歳で宮城へ引っ越し。中高は女子校でさえない感じ。サブカル好きだったが、オタクと思われるのが嫌で、自分が「萌え」の感情を持つマンガはこっそり読んでいた。同時に高2からギャルに憧れ、ラブボートやアルバローザを着るように。

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捨てられないTシャツ 08

アバークロンビー/38歳男性(アパレル会社勤務)/岩手県出身、小学校低学年のころリカちゃん人形を裸にして遊んでいたら、それを見た家族からヤバいと思われ、家族会議の結果すべて取り上げられる。しょうがないので、それ以降は自分で少女漫画を描き出す。岩手出身ということもあり、憧れは池野恋。高学年で自分に才能がないことを自覚し、漫画の参考に買っていたファッション雑誌から洋服に興味を持つ。当時のブームはアイビー系とストリート系、藤原ヒロシの影響が大きい。

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捨てられないTシャツ 09

デュランデュラン/33歳女性(ゲーム会社勤務)/アニメのセーラームーンをきっかけにオタクの世界に足を突っ込み、その後、幽☆遊☆白書でどっぷり。小学校後半からは隣駅のアニメイトに毎日自転車で通う。アニメイト各店には交流の場としてノートが置いてあり、そこで同じようなアニメが好きな、学校とは別の友達が増えた。中学に入ると今度は雑誌『QUICK JAPAN』を読み出し、音楽が好きに。最初はオザケン、コーネリアス、電気グルーヴ。そこからテレビの歌番組を見るようになり、ビジュアル系にハマる。

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組み立て式の女――植野康幸『現代女子図絵』

神田駅前に広がる混沌空間を抜けた先にある丸石ビルは1931(昭和6)年竣工、有形文化財に指定されている美しい西洋風建築。その3階にある日本に数少ないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリー「YUKIKO KOIDE PRESENTS」では、いま『植野康幸 現代女子図絵展』を開催中だ(25日まで)。植野康幸(うえの・やすゆき)は1973年生まれ。1歳になっても言葉を発せず、重度の自閉症と診断される。大阪市立難波特別支援学校を卒業し、アトリエ・コーナスに通うようになった。

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捨てられないTシャツ 11

カーミット・クライン/32歳男性(オルタナティブ建築家)/東京生まれ、10歳で親元を離れ、箱根で寮生活を行う。3年後に新宿へ舞い戻り、映像と音をコラージュしたノイズ作品の制作を始めた。当初は女性用スクール水着を着用し、肛門にホースを刺し脱糞する等の過激なパフォーマンスに明け暮れていたが、23歳のころにバンドを結成。以後、奇行に走っていた全エネルギーをバンドに注ぐようになる。

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捨てられないTシャツ 12

レイ・ミステリオ/36歳男性(音楽プロデューサー/ベーシスト/漫画家)/田んぼに囲まれたのどかな田舎に生まれる。小学生のころから足が早く、中学校では陸上部に入る。種目は3,000メートル。部活以外することがなかったので練習に打ち込むが、そこまで真面目でもないし、途中で膝も悪くなったため、陸上では目が出ないと徐々に諦めの気持ちに。中学生のときは尾崎豊など聴いていたが、高校生になるとブランキー・ジェット・シティやミッシェル・ガン・エレファント、洋楽ではNIRVANA、GREEN DAY、OFFSPRINGなどロック系を聴くようになった。友達とバンドを組むが、ギターはやりたいひとが多くやらせてもらえなかったので、ベースを始める。

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捨てられないTシャツ 13

白川郷/26歳男性(ベーシスト)/江戸川区生まれ。ゲームよりも外で遊ぶのが好きで、缶蹴りや鬼ごっこのようなスポーツ以外の遊びに熱中する子供だった。小学校高学年になると、「モーニング娘。」と「19」にハマり、楽器を演奏するように。最初はブルースハープのようなハーモニカ、その後おじいちゃんの家においてあったアコギを手に取るように。地元の中学校に進学し、軟式テニス部に入部。ハタチくらいのお兄さんたちが駅前で弾き語りをしているのを見て、19の影響もあり、僕らもやってみようと友人と二人で弾き語りを始める。オリジナル曲もあったが、その地元のお兄さんや学校の先生がくれた曲なども演奏していた。

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浅草が発情した日――SODプレミアム・イベント密着記(写真:多田裕美子)

9月11日、浅草で『SODプレミアムフォトラリー』『SODプレミアムナイトin浅草』という2つのイベントが開催された。SOD(ソフト・オン・デマンド)は言わずと知れた老舗AVメーカー。正統派美女をフィーチャーしたものから、時にはシュールですらある実験的作品まで、時代をリードするコンテンツを制作・販売してきて、今年がちょうど創立20周年にあたる。今回のイベントはSODのDVD作品を購入し、ポイントを貯めた上位1000人を招待して、浅草の遊園地花やしきを一夜貸し切り、女優120人とともに大パーティを開こうというクレイジーな企画。さらに昼間は浅草のさまざまな店舗に人気女優を配置。参加者は自由に写真撮影を楽しめ、同時にスタンプを集め、それが規定数に達した先着50名が、花やしきのパーティに参加資格を得るという・・・浅草が鼻息荒い男子たちに占領された一日だった。

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捨てられないTシャツ 15

九州芸工大準硬式野球部/52歳女性(不動産管理)/福岡県出身。博多のど真ん中で生まれ育ち、九州芸術工科大学(現在の九州大学芸術工学部)に進む。女性ながらメカ好きで、専攻は工業設計。卒業後は自動車メーカーに7年間勤務、そのあと京都のギャラリーに7年間勤め、現在は実家の保有する不動産管理を担当している。「どんな楽な仕事かと思って(博多に)帰ってきたら、もう大変で・・・水漏れとか鍵の紛失とか、細かすぎる対応にせこせこ働きまくる毎日です」。

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捨てられないTシャツ 16

GAP/67歳女性(著述業)/熊本県生まれ。子どものころから映画が大好き。「悲しみよこんにちは」のジーン・セバーグや、オードリー・ヘップバーンのボーイッシュなスタイルなど、映画に出てくるファッションにすごく憧れたものの、地元にはそんな洋服を売っているお店がないので、母親に頼んで作ってもらったりしていた。高校を卒業したら早く家から出たいと思っていたが、まったく勉強していなかったので大学は諦め、試験のなかったセツ・モードセミナーに入学。

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捨てられないTシャツ 17

スヌーピー/40歳女性(翻訳、tassel boyの制作・広報など全ての業務)/生まれたのは新宿だが、八王子に近いほうの相模原に中学のときに引っ越す。自分のおおらかな性格はそこで培ったと思う。中学校は都内のはずれで、学校帰りに遊んでいたのは渋谷や町田。ほとんど校則がない自由な校風で、大学まで同じ学校に通うことに。学生時代は「自分で責任を取るかぎりは好きなことをしていい」と言われていた。お母さんが自由なひとだったので、その影響が大きい。大学生になると車に乗り始めて、親からは「あなたは4年間で東京の裏道をかなり覚えたね」と言われるほどに。

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「和服」の誕生――日本衣装絵巻展を見る

「着物」と言い、「和服」と言う。でも店は「呉服屋」。外国圏では「KIMONO」で通るだろうが、欧米で着ているものは「アパレル」だったり「ウェア」だったりして、「ウェスタン・アパレル」なんて言いはしない。着物という存在のありようは、そのまま重層的な日本文化のありようなのかもしれない。現存するいちばん古い着物って、なんだろう。正倉院に残っている布はいまから1200年以上前のものだけれど、それはあくまでも「裂(きれ)」、断片であって、身につけるまるごとの着物というのは、だいたい江戸、いちばん古くて桃山ぐらいではないだろうか。それは掛け軸や屏風や刀剣や焼き物とちがい、着物を美術品として見ることが一般的ではなかったことなのかもしれないし、素材がそんなに長期間、完全な状態で保存できなかったからかもしれない。

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捨てられないTシャツ 19

ジョーイ・ラモーン/42歳女性(バー経営)/神奈川県生まれ、中2で夜遊びを覚える。高校時代はバンドブームど真ん中だったため、迷わずバンギャの道へ。そしてそのまま売り子になる。わらしべ長者のように様々な繋がりが生まれ、演劇映画現代美術の裏方に。DJだったりもした。その後、とあるお偉いさんの理不尽さに啖呵を切り、裏方仕事を干される。サブカル系本屋店員・雑貨屋店員・こども電話相談室の中の人を経て、新宿御苑近くの小さなバーの2代目ママとなって、現在4年目。

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捨てられないTシャツ 20

テーブルクロス/36歳女性(通販会社勤務)/生まれも育ちも、現在もずっと神戸に住んでいる。子供の頃は習い事ばかり。母親に言われるがまま、小中時代はピアノ、フルート、声楽、水泳、書道、塾をいくつも掛け持ち。夕飯はいつもひとりで外食。小学校では卓球部と小大連(あらゆるスポーツを片っ端からやるクラブ)にも所属。それだけやっていたのに中学受験に失敗、不本意ながら公立の学校に進む。中学時代も忙しく、バトミントン部、生徒会と、引き続き習い事。よくよく考えたらぜんぜん友達と遊ぶヒマのない、多忙な子供時代だった。

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art

“癒し”としての自己表現展・報告

8月18日号から11月25日号まで短期集中連載した『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』。先に告知したとおり、その締めくくりともいえる展覧会『第22回“癒し”としての自己表現展』が、先週2日から6日までの5日間、八王子市芸術文化会館いちょうホールで開催された。これまで紹介してきた平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加したこの展覧会を、今週は駆け足で振り返ってみたい。『“癒し”としての自己表現展』では毎回、簡素な冊子が準備されているが、その中に収められている各作家自身によるテキストがいつも非常に興味深いので、そちらも併せて紹介させていただく。

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music

UNO――たったひとつの音楽に向かって

ロックやブルースを何十年も聴いているオヤジたちが、いまいちばん熱くなっているのが22歳のアーティスト、Rei(レイ)だろう。目を閉じて聴いたら熟練のエレクトリック・ブルースマンにしか思えない華やかな、しかも強烈なアタックのギターを弾くRei。歌に耳を澄ませば、完璧な日本語をしゃべるアメリカ人のような、英語と日本語、ふたつのネイティブ・ランゲージを自然に組み合わせたリリックを書いて、歌うRei。まだ2枚のミニアルバムしか発表していないのに、これだけみんなをゾワゾワさせているRei。なんなんだろう、この子!?

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fashion

捨てられないTシャツ 22

手描きのエログロ/34歳女性(案山子家、漫画家)/広島県出身。子どもの頃からグロテスクなものに興味があり、小学生のころは父親にレンタルビデオ屋に連れて行ってもらい、たくさん並べられたホラー映画のビデオパッケージを見るのが楽しみだった。ねだってもなかなかホラービデオを借りてくれなかった親が、やっと1本借りるのを許可してくれ、自分で選んだホラー映画『ヘルレイザー』を見たが、あまりの怖さにショックを受けトラウマに。以降ホラーやグロテスクが苦手になり、そういったものとはあまり縁の無い生活を送っていた。

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fashion

捨てられないTシャツ 23

2匹の猫/34歳女性(通販会社勤務、現在産休中)/神戸市出身。幼少期を思い出すと、生肉が異常に好きな子供だった。お菓子屋さんで売ってないから、スーパーでこっそり鳥のモモ肉を買ってきて、親に見つからないよう、布団の中で醤油をかけて食べたこともある。部活は小学校からずっと水泳。スイミングクラブでは選手コースに選ばれ、毎夜練習で土日は試合。種目はバタフライ、兵庫県で一番になったほどだが、小学校卒業のときに、いちど水泳も卒業。

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fashion

捨てられないTシャツ 24

剣道/30歳女性(ショップ販売員)/福岡のショップで販売員をしているが、生まれは岩手県久慈市、「あまちゃん」のロケ地として有名になった普代村堀内。父が自衛隊だった関係で、11歳の夏まで青森県三沢市で育つ。米軍基地があったので、アメリカ人の子供と遊んだり、基地でハロウィンとか、外国文化が意外に身近だった。

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fashion

捨てられないTシャツ 26

WWFのパンダ/68歳男性(イラストレーター)/・・・というか、今回はせっかくなので空山基さんに「捨てられないTシャツ」を提供していただくことにした。1947(昭和22)年、愛媛県今治市生まれ。父は大工、母は裁縫という家庭で、自分でおもちゃを作ってしまうような、手を動かすのが好きな子どもだった。漁師になるか土建屋になるかヤクザになるかしかないような町で、学校をサボって映画館に通ったり、「静かな不良生活」を送る。

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fashion

捨てられないTシャツ 28

モスクワ地下鉄マップ/41歳男性(映像作家)/幼少期から現在に至るまで、特に目立たない、明るすぎず暗すぎず、いたって平凡な男子。欲がないとよく言われる。自分では自己顕示欲が強いほうだと思っているが、まわりに個性の強い面々が多いため、彼らに比べたら弱いらしい。中学校時代に通っていた塾で、ひとりの先生(当時ICUの男子大学生、画家、詩人、のちに主夫、やくざ、現在は肉体労働)と仲よくなり、音楽、芸術、その他もろもろ文化や思想をプライベートで教示してもらう。

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fashion

捨てられないTシャツ 29

ヘインズV/43歳男性(ウェブ制作会社経営)/石川県出身。戦中生まれの父親はもともと金沢の大学病院に勤務していたが、安保闘争で学生側に立ったため、目をつけられ居づらくなり、地方の病院を転々とすることに。ゆえに生まれは舞鶴、その次は富山と、毎年のように引っ越しを繰り返す。ようやく破門が解かれ石川県に戻れたが、金沢ではなく七尾市の、できたばかりの小さな病院に勤務することになった。七尾に引っ越したのは3歳のとき。真面目なキリスト教徒の園長がやっている、小さな幼稚園に通ったあと、地元の公立小学校に進学。本が好きで、性格も理屈っぽかったらしい。

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fashion

捨てられないTシャツ 30

ウィングス/50歳男性(レコード会社勤務)/福島県小名浜出身、父親がゼネコン系の建設会社の社員だったため、原発関係の港湾工事で小名浜・福島・東海村と引っ越しを繰り返す。いちばん長く過ごしたのは福島県。小学校高学年から高校を出るまで、いわき市の近郊だったが、震災の10キロ圏内にあり、いまはもう入れない。小学校のころからカルチャー体質というか。母親が同じ転勤族のお母さんたちと買い物に行くと、子供たちは映画館にぶち込まれていた。都合よく子供向けの映画がやっているわけではないので、『小さな恋のメロディ』から『ベンジー』まで、時間がちょうど合うものはなんでも。

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fashion

捨てられないTシャツ 31

ミッキーマウス/36歳男性(出版社勤務)/神奈川県横浜市に生まれる。父親は公務員、母親は専業主婦の一般的な家庭に弟とともに育ち、つい最近まで一緒に住んでいた。当時はまだまだ野球の人気が高く、大洋ホエールズのお膝下だったこともあり、近所の子たちと少年野球チームに入り夢中でボールを追いかける日々。中学校に入りそのまま野球にまっしぐらと思いきや、当時始まったJリーグもあってか、坊主頭で野球をやっていることへ疑問を感じ始める。人並みに多感な思春期に、父親のレコード棚にあったビートルズやサイモン&ガーファンクルなどの親世代のベタなチョイスにコロっとやられてしまい、「バンド」という何やら恰好良さげな活動に惹かれるようになり、気づけばバットはギターに代わっていた。

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捨てられないTシャツ 32

ドルチェ&ガッバーナ/50歳男性(建築家)/1965年生まれ、東京都出身。父親は競馬評論家で、各地の競馬場を渡り歩いていたから、あまり家にいることがなく、周囲からは母子家庭と思われていたことも。いつも白いスーツに短いパンチパーマ、グラデのサングラスというスタイルだったし、喧嘩っぱやいしで、子供ごころにもかなり違和感があった。小学校に上がるころから、すでに建築をやろうと思っていた。その当時から小遣いを貯めて『モダンリビング』とか『住宅設計実例集』を買ったり、誕生日には椅子が欲しいとか言ったり。銀座松屋のグッドデザインコーナーにも、せがんでよく連れて行ってもらった。設計、デザインの本がほんとうに好きで、中学に上がるころには建築家になると完全に決めていた。いま思うと、おままごとが好きだった影響もあるかも(笑)。

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捨てられないTシャツ 33

ドーバーストリートマーケット/54歳男性(マーチャンダイザー)/宮城県仙台市出身。もともと伊達家に仕えていた家系ということで、酒屋・菓子・染め物など親戚には商売人が多い。祖父は日本画家、父親だけ堅実的でサラリーマンになっていた。小学校のころは、一回も習ったことはないけれど、ダンサーになりたいと思っていた。気がついたらずっとソファーの上で踊ってるような子どもで、ダンスの定位置だった鏡の前の床が抜け落ちて、すごく怒られたたこともある。いまでも会社の余興やスナックでのカラオケなど、なんだかんだで踊る機会が多い。

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捨てられないTシャツ 34

ルーパス/47歳女性(校正者)/1968年、東京都下生まれ。小3の夏、埼玉県の新興住宅地に転居する。体育・運動全般が大の苦手なのと、日曜は都内の書道教室に通いたいので運動部でなく文化系の部に入りたいと思ったが、小学校、中学校とも新設校で、選択肢は合唱部と美術部だけ。合唱部は仮入部で「こりゃムリだ」と感じ、美術部に入部する。その時中学3年生だった部長(創設から2代目)の「斉藤先輩」に知らないうちに片想いしはじめ、これが自分の“初恋”だったと思う。中学のほぼ3年間、さらに高校1年の年度前半ぐらいまで、この片想いが続いた。

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捨てられないTシャツ 35

ライナス/カート・コバーン 53歳(アパレル会社執行役員)/神奈川県出身。横浜というものの、山のほうのガラが悪い田舎で生まれ育つ。子供のころから、根は暗いものの社交性はあり。当時は野球ブームの最盛期、みんな草野球チームを作って野球ばかりしてた。巨人・大鵬・卵焼きをひきずる世代で、水島新司の野球漫画が好きな阪神世代でもある。『ベースボール・マガジン』も購読し、どちらかというと昔から雑学に詳しくなるタイプだった。小学校高学年になるとカルチャーに触れだす。映画館で映画を観るのが一大アミューズメントとなった。『タワーリングインフェルノ』、『ポセイドン・アドベンチャー』、『大脱走』、『荒野の七人』・・・映画雑誌『スクリーン』や『ロードショー』で映画をチェック。

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捨てられないTシャツ 36

ベルリン/60歳(コーディネーター/コンサルタント)/埼玉県出身、もう人生の半分以上を過ごしているニューヨークに在住。エンジニアのまじめな父親と、元幼稚園の先生のまじめな母親の長女として生まれる。父親の父、おじいちゃんはプロテスタントの牧師、父母の両方の親戚もみなクリスチャンという家柄だった。アルバムを見ると、黒いタートルネックに黒いタイツで、とっても楽しそうに踊っている3歳くらいの自分がいる。どなたかのおうちでレコードにあわせながら、スピーカーの前でくるくると、それはうれしそうに踊っている私。子どものころから踊るのが大好きだった。

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捨てられないTシャツ 37

ばあちゃん/33歳女性(デザイナー)/福島県生まれ、小学2年生までを福島で過ごし、埼玉県に夜逃げに近いかたちで引っ越し、中学1年生で再び福島に戻る。学校というものにまともに行ったのは小学校まで。中学は不登校、高校は寝ていた記憶しかない。校門まで行くが、180度回転して友達の家へ。あとは友達のうちで寝ているか、酒を飲んでいるか、たばこを吸っていた。髪の色はピンク、緑、白、青、いろいろ試した。髪が緑色で、机に寝伏せってばかりいるので、先生に「芝生」と呼ばれていた。

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捨てられないTシャツ 38

シャム猫/33歳男性 小説家/母親の実家がある東京の離島で生まれ、その後埼玉へ転居して西武線沿線で育った。子どもの頃は野球少年。チームにも入っていたが、土日が練習でつぶれるのと体育会系のノリがいやで五年生の時にやめる。中学でも体育会系を避けて理科部に入部。理科室で遊んだりしゃべったりして、飽きたら帰る。運動部を脱落した連中と不良の吹きだまりのような部で、実験など一回もしなかった。

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fashion

捨てられないTシャツ 39

デストロイヤー/49歳男性(アートディレクター)/母親の実家のある岡山県倉敷市に生まれる。父親の仕事の関係で滋賀県野洲市(当時は町)で幼少期を過ごす。地元では「近江富士」と呼ばれる三上山のふもと、田んぼが広がるのどかな場所。住まいは父親の会社の社宅で、裏手に保育園、道を挟んで向かいに小学校という、通園通学には非常に便利な場所だったが、極度の人見知りから最初の1年間は登園拒否児童となり、昼間はずっと家で母親と過ごしていた。

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fashion

捨てられないTシャツ 40

ネクタイ/37歳男性(通販会社勤務)/田んぼに囲まれた山形の町に生まれた。喘息、アトピー、アレルギー持ちとなかなか病弱な子供だったようだが、いつの間にか全部治った。通っていた保育園で、納豆ごはん・卵かけご飯・納豆卵かけご飯を毎昼ローテーションで食べさせられたのがよかったのか。幼稚園では非常にもてた。卒園式の日、保育士の先生からひとりだけこっそりと超合金のおもちゃをプレゼントされた。こんな異常な状態は今だけだろうな、と幼心に予感していた。見事に当たった。

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photography

昭和の終わりの新宿で

新宿区三栄町、といっても地元の人間以外にはイメージが浮かばないだろう。JR.四ッ谷駅から徒歩約10分、市ヶ谷の防衛省方面に下る坂道の途中にある、静かな住宅街にあるのが新宿歴史博物館。本メルマガではすでに2014年3月19日号で『新宿・昭和40年代 ―熱き時代の新宿風景―』、2015年1月7日号で『新宿・昭和50―60年代 <昭和>の終わりの新宿風景』と、ふたつの新宿風景写真展を紹介してきた。新宿歴博では2010年から新宿の風景写真展を連続開催してきたそうだが、その総まとめとして、太平洋戦争終戦から昭和の終わりまでの変遷を写し取った、約100枚のプリントによる『戦後昭和の新宿風景 1945―1989』を開催中だ(6月12日まで)。

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fashion

捨てられないTシャツ 42

PR-y/40歳男性(キュレーター)/広島県生まれ。家の裏はヤクザの事務所で、周囲は飲み屋や風俗街が並ぶ環境で育つ。家の前はポルノ映画館で、小さい頃から常に女性の裸の写真を目にしてきたため、エロに対する免疫力が薄れ、あまり興味関心を持てないでいた。少年時代は野球チームに所属し活躍。通っていた体操教室ではバク転をこなすなど、人前にスポーツもやっていたが、集団行動が苦手で次第に「週刊少年ジャンプ」の漫画を読み漁ったり、ファミコンゲームに熱中したりするインドアな子どもになっていった。

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fashion

捨てられないTシャツ 43

目黒寄生虫博物館/28歳女性(ミュージシャン/スナックホステス)/兵庫県出身、子供の頃から飲んべえの母親に、スナックやホテルのバーに連れ回されていた。歌謡曲ってなんだかいいなと思いつつ、恥ずかしくてカラオケには手を出せなかった。小学校4年生の時、阪神大震災をきっかけに東京に引っ越す。パソコンクラブに所属するような地味で内向的な子どもだったが、その反面、大好きだったシノラーの格好をして通学、さらに関西弁だったことが悪目立ちして、女の子たちから仲間はずれにされる。それを過干渉な母親が心配して「もう学校に行かなくていい!」ということになり、小学校5年生から中学受験まで学校には登校せず、塾や家庭教師で勉強。

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fashion

捨てられないTシャツ 45

骸骨アトム/33歳女性(不動産証券会社勤務)/母親の実家の山形で生まれ、父親の仕事の関係で板橋に引っ越し、幼稚園から父親の実家である川越で暮らす。父親は公務員で、母親は専業主婦。外で遊ぶことも多かったけれど、人形遊びのほうが好きな子どもだった。小学校は学校のバトン部に入りつつ、1つ上の親戚のお姉さんに誘われて地域のバレーボールクラブにも所属。幼稚園からピアノも習っていたが、バレーボールが楽しすぎて、もうピアノは諦めたいと母親に言ったら「覚悟してやりなさい」と釘を刺される。

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捨てられないTシャツ 46

moog/39歳女性(編集プロダクション勤務)/昨年末、荷物を大幅に整理する必要があったので、たくさん持っていたはずのTシャツもほとんど処分してしまった。残ったのはこれを含めて4~5枚ぐらい。別にやむを得ず、という感じでもなく、数年前からTシャツ選びの基準が完全に変わってしまったので、タイミングがよかったともいえる。埼玉のほうがよっぽど都会、という東京郊外に生まれて25歳までそこで暮らす。きちんと両親に愛されて育った自覚はあるものの、持ち前のじめっとした性格のせいか小さな頃からどうにも卑屈さが常にあった。

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art

昭和の夜の匂いにむせて

渋谷アツコバルーで開催中の展覧会『神は局部に宿る』は、おかげさまで連日盛況が続いているが、来てくれるひとの約8割が女性客。ラブホに秘宝館、イメクラにラブドールという内容なのに。入口でコンドームを渡され、カウンターではピンクローターとか売ってるのに。昭和をまったく知らない世代にとっての「昭和のエロ」「昭和のお色気」が、いかに「カワイイ」ものに見えるのかを今回は思い知らされた。当時を知るものにとって、それは「イカガワシイ」ものであったり、「下品」なものであったりしたのだが、世代がめぐるうちに、「品」も微妙な変化を遂げるのかもしれない。酸っぱいワインが、いつのまにか芳醇な香りを放つように。先週の記事『ミッドナイト・ライブラリー』でも紹介したが、新進イラストレーター・吉岡里奈の個展『食と女と女と夜と』が、渋谷HMVで始まっている(7月11日まで)。

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travel

越前浜で昭和歌謡にむせび泣く!

上原木呂さんが住む新潟県・旧巻町からちょっと走れば、そこは日本海に面した越前浜。海水浴場にスイカ栽培、それにワイン通のみなさまには最近、カーブドッチなどの国産ワイナリーが続々誕生中のエリアとしても知られている。が・・・ワインやスパは楽しんでも、越前浜の一画にある『遠藤実記念館・実唱館』で、過ぎし日の歌謡曲に浸ろうという趣味人は残念ながら多くない。その名のとおり、「実唱館」は昭和の偉大な作曲家・遠藤実の業績を広く知ってもらおうと、1994(平成6)年にオープンした施設。貴重な資料や映像を通して、遠藤実が体現した昭和の歌謡世界をタイムトンネルのように振り返ることができる。

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fashion

捨てられないTシャツ 49

もっさん/40歳男性(自営業)/千葉県の真ん中あたりの東京湾側、工業地帯近くのところで生まれる。3人兄弟の末っ子で、放牧というか奔放に育つ。小さい頃からテレビっ子だったようで、原体験としての映像は、お風呂の中からおでんの具が出てきて「ぎゃ~」と叫ぶ、ホラーをパロディにしたようなものだった。アレは何の番組だろう。誰か教えて欲しい。

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fashion

捨てられないTシャツ 50

色川武大/阿佐田哲也 [38歳男性(印刷工/写真家)] 幼少の頃から小学校6年まで2、3年ごとに転勤を繰り返す。最初の記憶は幼稚園の大阪時代。なんでもやりっ放しのため、先生に「パナシくん」と呼ばれた。外でよく遊んだが、タコ糸にチクワの輪切りを付けザリガニ釣りをしていたら、針も無いのにチクワを飲み込みフナが釣れた。その時の興奮と衝撃は強烈で、少年時代もっともアドレナリンが出た瞬間だと思う。以来魚や釣りが好きになる。小学校は3回転校。ちんこを出したりバカなことをすれば、直ぐに仲よくなれることを自然と学ぶ。

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fashion

捨てられないTシャツ 52

Kiss ME qUIck/32歳男性(建築家)/母方のおじいちゃんが住む東京の杉並区で生まれ、すぐに神戸の御影という山側の景色がいい場所に戻って、そこで小2まで過ごす。父親は理系のエンジニアで寡黙な人間。母親は文系でピアノや歌をうたうことが好きな明るい性格。兄弟は4人、姉貴と弟がふたり。生まれ育った御影は、わりとハイブリッドな郊外住宅地で、降りればそれなりに街、裏はすぐ山という環境。空き地で焚き火をして、むっちゃ怒られたりした。その後、明石から2駅の田舎町(いまは開発されているが、そのころは畑ばかり)に戸建てを建てて引っ越す。しかし、お母さんも「なんでこんなとこに・・・」と絶句した田舎。言葉も全然ちがって、カルチャーショックだった。

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捨てられないTシャツ 53

ALOHA HAWAII/50歳女性(編集者)/1966年、岩手県北上市で生まれる。お育ちのよい母とお育ちのあまりよくない父を持つ。母は華道と茶道の師範で服装にもうるさかったが(華美はダメ、でもきちんと)、さすがに 70代になってからは「楽なのね」とTシャツを着はじめた。いっぽう父には、家でも襟付きを着ることを強要している。定年を迎えて母のプレッシャーから逃れたいのか、狂ったようにひとりで海外旅行に行っている父が、エジプト旅行土産に買ってきた象形文字入りのTシャツを、母は捨てようとした。

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捨てられないTシャツ 54

河井克夫/28歳女性(出版社勤務)/山形で3番目の街、新庄市で生まれる。父親はコンサルタントをしていて、単身赴任であちこちの会社を行ったり来たりで、週末だけ実家に帰ってくるような生活だった。母親はいまは専業主婦だが、昔は薬局の調剤師をしていた。父も母もとても真面目なひと。兄弟は兄と妹がいる。小学校のころは、男の子と取っ組み合いをして、怪我をさせては親が謝りに行くような子どもだった。プレステ第一世代だったが、外で遊ぶほうが好きで、川でドジョウを捕まえたり、蛙の卵をたくさんとってきたり。ほんとうはリカちゃん人形とかバービーが欲しかった・・・けど、父が特に厳しくて、嗜好品みたいなものは絶対に買ってもらえなかった。できたばかりのマクドナルドにも、絶対に連れてってもらえなかった。

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捨てられないTシャツ 55

毎回「ひとに歴史あり!」を実感させてくれる『捨てられないTシャツ』ですが、今回はあまりに波瀾万丈、紆余曲折! アンダーグラウンド版・大河ドラマのごとき大長編になるため、連載始まって以来の前後編、2週にわたってお送りします。実はTシャツもリバーシブルだし!――ア・ベイジング・エイプ(前編)/48歳女性(求職中)/東京都港区表参道で生まれ育つ。生まれてすぐに父母が離婚、母に引き取られて母子家庭の一人っ子だったが中学2年で母が再婚し、2番目のお父さんができた。母は公務員として働いていたので、典型的なカギっ子。小学校低学年のころは、学校が終わったらそのまま児童館で学童保育を受けていた。

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捨てられないTシャツ 55

毎回「ひとに歴史あり!」を実感させてくれる『捨てられないTシャツ』。あまりに波瀾万丈、紆余曲折! アンダーグラウンド版・大河ドラマのごとき大長編になるため、連載始まって以来の前後編、2週にわたってお送りする、今回は後編。Tシャツも前回のリバーシブルです!――ア・ベイジング・エイプ(後編)/48歳女性(求職中)/レンタルビデオ屋で知り合った彼氏と5年近く同居生活を送ったあと、原宿で知り合った男と仲良くなって2ヶ月後には結婚。それまでの生活をあっけなく捨てて。25歳のときだった。

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捨てられないTシャツ 56/アイオワ/33歳男性(編集者)

アイオワ/33歳男性(編集者)/大分県大分市の山のふもと、ど田舎で生まれ育つ。中心部までは車で20分ぐらいとはいえ、公共手段でいうと最寄りのバス停まで徒歩20分、最寄り駅まで徒歩1時間半ぐらい。父親がそこの生まれで、母親は同じ大分でも港町のほう出身。共働きだったので、ほとんど婆ちゃんに育てられた。幼稚園に入るまでは、人間の友達がいなかった。本を読んだり、婆ちゃんのレコード(『釜山港に帰れ』とか。ちなみに『釜山港に帰れ』は完璧に耳コピして、3歳のときに親戚の宴会で熱唱したら神童扱いされた)を聞いたり。あとは裏山で木に登ったり、探検したり。

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捨てられないTシャツ 57

グラフィティ/27歳男性(グラフィックデザイナー兼絵描き)/東京都世田谷区出身。4人兄弟の末っ子で、上の兄姉がみんなちゃんとしてただけに、自分はグレた(笑)。親が共働きで、おばあちゃんが半分親代わりだった。親父がずっとサッカーをやっていた影響で、小学生からサッカーを始める。すごく楽しかったので、サッカーは真面目にやっていたけれど、ヤンチャなところもあって、学校帰りに禁止されてたコンビニでモナ王を買い食いしたり、小学校5年のときに初めて友達とチューハイを買ったり、塀を蹴り壊したり、可愛い犬がいると勝手に餌をあげたり、チョコレートを万引きしたりしていた。

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捨てられないTシャツ 58

エミリーテンプルキュート/24歳女性(アーティストの経理・プロジェクトマネージャー)/出身は広島県広島市。ずっとひとりで、家の中でいくらでも遊べる子どもだった。人形遊びが好きで、リカちゃん、ジェニーちゃんから指人形までなんでも。両親は共に武蔵野美術大学出身、日曜美術館を毎週観るような家庭だった。母親は専業主婦で、父親はサラリーマン。4つ上の兄と2つ上の姉がいる。小学生になっても性格は変わらなかったが、わりと優等生タイプでもあったので、たとえばだれも立候補しないのがイラッとなって、しかたなくみずから学級委員になったり。

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捨てられないTシャツ 59

タケオキクチ/35歳男性(フリーランス)/生まれは千葉県市川市。夢を見て上京した人たちが最後にしがみつく東京である小岩と、中流のための高級住宅地である船橋に挟まれた、夢破れた漂流者を中流にたどり着かせないためのフィルターみたいな街だった。安保闘争や学生運動に挫折した店主の古本屋なんかもけっこうあって、いつも世界同時革命とか言ってたり、生計を立てるためのエロ本を店主に向かって右側、古典やら現代思想やらを左側に陳列していたのが、やっぱりこだわりなんだろうか?と思ったのを覚えている。

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捨てられないTシャツ 60

K.P.M./38歳男性(編集者)/鳥取県の中部地方、倉吉に生まれる。「人口が最も少ない県」第3の市は良く言えば鳥取における名古屋だけれど、人口は5万人、つまり東京ドームに全員が入ってしまう。4回勝てば甲子園の「水と緑と文化の都市」は、当時「トイレ」で町おこしをしていた。打吹天女の物語から採った「天女の忘れもの」というウ○コ型のおまんじゅう、今も販売してるのだろうか。

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捨てられないTシャツ 61

軽井沢骨折T/44歳男性(メルマガ運営)/滋賀県出身。両親ともに地方公務員、共産党員の家庭で育つ。小学生のころ、人がいっぱいいて楽しかった祭りの記憶は、今思うとメーデーの集会だった。赤旗新聞の集金をすると小遣いがもらえた。中学生では選挙前にはビラ折りのノルマがあったし、高校生になると駅前で拡声器で喋ってる父を発見した。このころ父は市役所を辞めて近所にできた左翼系診療所の事務長に転職し、活動がパワーアップしていたんだと思う。ちょうど今の自分と同じ年齢くらいかと思う。

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トーキョー・ハロウィーン

10月30日深夜、福岡空港から地下鉄に乗って天神駅で降りようとしたら、ナース・コスチュームのゾンビがひとりで、ぽつんとホームに立っていた。きょうは31日。いまごろ渋谷の交差点は大変な賑わいになっているのだろうか。「バカやってるいまどきの若者たち」を探して、マスコミがぎらついた眼(とレンズ)で走り回ってるのだろうか。キリスト教徒でもなんでもない日本の子供(とママ)への新規市場開拓として導入されたはずのハロウィンが、こんなに異常な、日本独特の盛り上がりを見せるようになってもう数年が経つ。いったいこの事態を誰が予測しただろう。

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捨てられないTシャツ 63

ミスターピーナッツ/61歳男性(自営美術)/就職もしないままそこにい続けて、『自然と盆栽』という雑誌のカットを請け負うようになった。 定期的に大宮盆栽村に通い、写真では伝わりにくい枝や根の剪定イラストをその部屋で描きながら、相変わらず「自分の作品」を作り続けた。

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捨てられないTシャツ 64

ベルベット・アンダーグラウンド/55歳男性(デザイナー)/1961年生まれ、ホコリまみれの公害も激しい川崎で小学2年まで育つ。川崎競馬場の焼き鳥屋で捨てられた串を拾って虫かごをつくり、競馬場にいるバッタを捕まえてその中に入れ、負けた人に売っていた。20円か30円くらいだった気がする。その稼いだお金で買っていたのはベニヤ板。ベニヤ板の会社が学校の近くにあり、そこでベニヤを見て、なんてかっこいいんだと思って集めていた。小学校の途中で母親が原因不明の病気になり、治療のため静岡に引っ越す。父親は病院の近くに住み、ひとつ上の姉と自分は母親の実家で、爺ちゃん婆ちゃんと中学まで暮らした。

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捨てられないTシャツ 65

荒川銀河野球団/36歳男性(会社員)/生まれが神奈川県茅ケ崎市で、近くに海がありました。その後の住環境においてもけっこう影響していて、都内の中でもなるべく「空が広く見えるところ」を探して住んでます。親の影響で小学校の低学年から野球好きで、巨人ファンでした。月曜日以外の夜7時からはナイター中継が始まるんで、僕らの世代の男の子ならみんな見てたであろう、ドラゴンボールや北斗の拳、聖闘士星矢とかは見てません。代走専門の栄村忠広とか、シュートが得意な二軍の最多勝投手松谷竜二郎とか、クセのある地味な選手が好きでした。

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Back in the ROADSIDE USA 16 Greyhound Bus Museum, Hibbing, MN

カナダに接するアメリカ中西部の要所・ミネソタ州。ミシシッピ川を挟んで隣り合うミネアポリスとセントポールをあわせて「ツインシティーズ」と呼ぶが、そこはプリンスやボブ・ディランを生んだ土地でもあった。アメリカ最大のショッピングモールである「モール・オブ・アメリカ」も、ツインシティーズ郊外のブルーミントンにある。アメリカを旅する節約家、というか貧乏旅行者には欠かすことのできない交通手段といえば、今も昔もグレイハウンド。全米のすみずみに路線網を張りめぐらすバス会社だが、そのグレイハウンドの発祥地がここ、ミネソタ北東部のヒビングという町である。

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捨てられないTシャツ 68

HOOTON 3 CAR/39歳男性(建築家)/広島県福山市出身、3人兄弟の長男。父親はもともとはトラック運転手で、そのあとは磯渡し(釣り船)をやっていた。母親は専業主婦。小さいころはお調子者で、とにかく目立ちたいタイプ。運動もまあまあできて、もちろん外で遊ぶのは好きだけど、知識欲みたいなのも強く、小学生で『現代用語の基礎知識』を読んだり、理科の実験などは特に好きだった。物理とか天文学とか、なぜか子供ながらに興味があった。

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捨てられないTシャツ 69(最終回)

目から手(小嶋独観子)/22歳女性(風俗嬢)/1994年生まれ、東京都杉並育ちの一人っ子、父は外資系企業勤め、母は専業主婦。毎年海外旅行に行くくらいの裕福な家庭だった。不妊治療の末に生まれてきた私は、とにかく両親に溺愛された。母は私が生まれた日からほとんど毎日、小学校に上がるまで私の成長を写真に撮っていた。父は毎朝5時前に起床して、イギリスの大学のMBA資格を取るために英語と経営を勉強、毎朝の靴磨き、筋トレして仕事に出かける勤勉で堅実な人だった。抱っこひもで私をかかえたまま本屋で立ち読みしたり、通勤がてら幼稚園の送りをしてくれて、当時は育メンなどという言葉も浸透していなかったから、父は地元でも珍しがられた。多忙ななかで、少しでも娘と一緒にいたかったのだろう。卓球、読書、水泳、サッカー鑑賞が大好きな父だった。

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道との遭遇・仙台編

仙台国分町のはずれに『Holon』という小さなギャラリーがあるのをご存じだろうか。スケートボード・ショップ『gostraight』の端っこを区切ったような、廊下に見えなくもない狭小スペースだ。本メルマガでは2012年10月3日号で紹介したスケーター/グラフィティ・アーティスト「朱のべん Syunoven」が運営するこのマイクロ・ギャラリーは、2012年のオープン以来これまでさまざまに挑戦的な、非営利というより実に非営利的な企画展を開いてきた。そのholonが4年間の活動の集大成ともいうべき特別企画展『道との遭遇』を開催中だ(1月15日まで)。

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呉ジンカンと『キッチュ』の挑戦

呉塵罡(ゴ・ジンカン)と最初に会ったのはいつだったろう。たぶんどこかのトーク会場で声をかけられたのだったが、カジュアルな服装の参加者ばかりの会場で、ひとりだけ古風なオーバーにハット姿の長身がちょっと目立っていた。完璧な日本語を話す台湾人で、自費出版の漫画雑誌を作っていると紹介され、ふ~んと思いながら手渡された『キッチュ』というその雑誌は、「自費出版漫画」というイメージをはるかに超えた、まるで一般の商業漫画誌そのものの体裁で、こんなのをひとりで作ってるのかと、その内容よりもまずボリューム感に驚かされたのだった。

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Back in the ROADSIDE USA 21 The US Border Patrol Museum, El Paso, TX

「まあほんとに大統領になったら、意外におとなしく振る舞うのでは」という一部の期待もむなしく、就任するやいなやTPP離脱に国境の壁に入国禁止令と、矢継ぎ早にトンデモ政策をぶちかますトランプ大統領。いよいよアメリカは未体験ゾーンへと突入しつつあるようですが、今週はある意味キャッチーなテキサス州エルパソの『アメリカ国境警備隊博物館』にお連れする。「ビッグ」という形容詞がこれほど似合う土地はないと思うが、テキサスは広さ670万平方キロ。日本の国土全部の1.8倍もある。州内に時差があるほどで、緯度を見ると茨城から沖縄あたりまでをカバー。気候も北と南ではずいぶんちがう。

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Back in the ROADSIDE USA 22 The Orange Show, Flower Man and Art Car museum, Houston, TX

先週に続いてテキサスの、こんどは屈指の大都市ヒューストンから3つのアウトサイダー・アート・スポットをまとめてお送りする。テキサス州最大、全米でも4番目の規模を誇るメガシティであり、アメリカ南部の中枢として、多くの巨大企業が本社を置く。スポーツ、アートでも有名だし、NASAがあることでも知られ・・・というふうに、いくらでもメジャーな特徴を挙げていくことはできるのだが、いっぽうでまたアウトサイダー・アートや珍スポットにおいても全米屈指の充実ぶりという点は、あまり知られていない。今週はアメリカ版「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」と言うベき『オレンジ・ショー』を中心に、もうひとつのヒューストンの魅力をお伝えしたい。

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Back in the ROADSIDE USA 24 KKK Museum & Redneck Shop, Laurens, SC

先週はオハイオ州ウィルバーフォースのアフロ・アメリカン・ミュージアムを紹介したが、今週はサウスカロライナ州ローレンスという小さな町にある『クー・クルックス・クラン・ミュージアム&レッドネック・ショップ』。クー・クルックス・クラン・ミュージアム=KKKについては説明の必要がないだろうが、レッドネックとは南部の強い日差しの下、農場などで働く白人の赤く日焼けした首筋、という意味でつけられた、保守的な白人貧困層を指す言葉。ようするに人種差別の象徴でもあるKKKとレッドネックをあわせたミュージアム兼ショップで、ロードサイドUSAの取材にあたっていろいろ調べていたときに探し当て、でもいちおう21世紀のアメリカでそんなの存在できるんだろうかと半信半疑で行ってみたら、ほんとに営業中でびっくりした覚えがある。

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photography

「ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!」追補

先週お伝えした、兵庫県立美術館でのアドルフ・ヴェルフリ展と同時に開催されている『小企画 ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!』展。「収蔵品によるテーマ展示」室のひとつで開催されている写真展だ。ヴェルフリ展は先週末で終了してしまったが(3月7日より名古屋市美術館に巡回)、ハナヤ勘兵衛ののほうは3月19日まで開催中。ここに掲載した以外にも、特に戦後期のスナップがたくさん見られるので、この機会にぜひご覧いただきたい。

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Back in the ROADSIDE USA 26 Weeki Wachee City of Mermaids, Weeki Wachee, FL

タンパから2時間ほどのウィキーワチーには、『シティ・オブ・マーメイド』なる、一種のプール遊園地がある。ま、大きなプールのまわりにちょとした遊戯施設やピクニック・エリアがあるだけの田舎遊園地だが、ここでは全米唯一となった「人魚の水中バレー」が見られるのだ。かつては日本でも南紀白浜や、東京の読売ランドでもやっていた水中バレーだが、いまではたぶん、世界でここシティ・オブ・マーメイドだけだろう。『シティ・オブ・マーメイド』の生みの親はニュートン・ペリー。第二次大戦中は海軍であのネイビー・シールズの潜水教官を務めたあと、当時は「人間よりワニのほうが多かった」ウィキーワチーにやってきた。ゴミだらけの水中をきれいにして、圧縮空気をホースで送って水中で呼吸しながらパフォーマンスするテクニックを磨き、美少女たちを集めて特訓。1947年10月13日に『シティ・オブ・マーメイド』を開園したのだった。

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art

監禁されたラブドール

去年の夏、渋谷アツコバルーで開いた展覧会『神は局部に宿る』。関連企画として同じビルの地下にあるサラヴァ東京で開催したイベントで、可愛らしいラブドールと一緒に登場した女の子を覚えているひともいるだろう。その展覧会の最終日近く、車椅子にラブドールを乗せて、自分もウェディングドレスに身を包んで展覧会場に突然乱入、「響一さんの子供よ!」と叫んで暴れた寸劇?を目撃してしまったひともいるだろう。あのときの女の子が「ひつじちゃん」だ。ちなみにラブドールのほうは「ましろ(魔白)ちゃん」。製造元のオリエント工業も、「おそらく唯一の女性ドール・オーナーでしょう」と太鼓判(?)の、エキセントリックな「自称・永遠の13歳」である。

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music

追悼、チャック・ベリー

3月18日午後1時26分、ミズーリ州セントルイスの郊外、セントチャールズでチャック・ベリーが亡くなった。享年90歳の大往生だった。 死去の知らせはすでにニュースでご存じだろうが、本メルマガでは2014年に「音楽に呼ばれて」という連載がスタートした。アメリカ各地のロックにまつわる場所を訪れて撮影した写真に、音楽評論家の湯浅学さんが文章を書いてくれるセットだったが、その連載の第1回目がチャック・ベリーの生家のあった通りを訪れた記事だった。連載のほうは残念ながら、なかなか2回目以降が掲載できずにいるのだが、チャック・ベリーの死去に際して、ここに記事を再掲載させていただく。ロックンロールの創始者に、謹んで哀悼を捧げつつ。

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Back in the ROADSIDE USA 28 Carhenge, Alliance, NE

ネブラスカからワイオミング、ダコタにわたる中西部一帯は、古くからバッドランズと呼びならわされる、痩せ枯れて貧しい地域だった。いまでもそのネガティブなイメージは、基本的に変わっていない。ネブラスカは、「観光」という言葉からもっとも遠い土地だ。ほぼ長方形のネブラスカの、西端の小都市スコッツブラフから80キロほど離れたアライアンス郊外にあるのが『カーヘンジ』。読んで字のごとく、イギリスの誇るストーンヘンジを、なんとクルマで再現してしまった、きわめてアメリカ的かつ20世紀的なモニュメントである。人家ひとつない平原に、にょきにょきと生えた鋼鉄の木。白くペイントされたその塊は、バッドランズへの象徴的な道標のようでもある。

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Back in the ROADSIDE USA 29 Precious Moments Chapel, Carthage, MO

どこの家(実家)にもかならずひとつはあって、ひとり暮らしを始めるときにぜったい持っていきたくない、もらっても困るバッドテイストの象徴というべきものはといえば・・・日本なら鮭を抱いた熊の木彫りとか、赤べことか? これがアメリカだと「プレシャス・モーメンツ人形」になる。赤ちゃん顔に、なぜか涙目=ティアドロップ・アイをした陶器の人形は、アメリカにおける「ザ・実家」アイテムの代表格だ。

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Back in the ROADSIDE USA 30 Glore Psychiatric Museum, St. Joseph, MO

先週に続いてミズーリ州から。カンザスシティから71号線を、プレシャスモーメンツ・パークとは反対に北上すると、1時間足らずで着くのがセントジョセフ。ポニー・エキスプレス(郵便馬車)の本拠地が残るなど、西部開拓の基地となった地域であり、歴史的建造物も数多い。セントジョセフ病院の一角にある博物館は、3フロアにわたる立派なもの。もともとミズーリ州精神衛生局で41年間勤め上げた、ジョージ・グロアという人間が独力で集めたコレクションである。中味も無味乾燥な専門資料ではなく、中世から現代にいたるまで、人間が精神病とどのように向かい合ってきたかを示す、非常に興味深い展示となっている。

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fashion

アリス・イン・フューチャーランド 第2回(文:サイトウケイスケ)

「渋原」(渋谷~原宿間)や高円寺を揺り籠に育ちつつある新種の「カワイイ」生きものたち。先週に続いてのフィールドワークは、案内役をつとめてくれる画家・サイトウケイスケの自己紹介から始めよう。さて、サイトウケイスケは1982年山形市生まれのアーティスト。2013年に『ヒップホップの詩人たち』のトークで声をかけてくれたのが、知り合うきっかけだった。――こんにちは。サイトウケイスケと申します。山形出身の音楽好きな絵描きです。小さいころからチラシの裏や授業中のノートに落書きばかりしていました。高校時代は音楽にのめり込み、パンクバンドのフライヤーの質感に憧れ、NIRVANAを崇拝していました。高校3年生でようやくバンドを組み、オリジナルの曲を作って叫んでいましたが、「これ以上叫んだらポリープできるぞ」と耳鼻咽喉科の先生に言われて、歌うことを断念。

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アリス・イン・フューチャーランド 第3回

世間一般の「かわいい」とは明らかにちがう、でも「かわいい」としか言いようのない、(たぶん)東京のどこかを震源に育まれつつある新種の「カワイイ」感覚を探る連載の第3弾。今週は僕がずいぶん前から「定点観測」を続けている、ひとりの女の子を紹介したい。最初に「かんだ♡みのり」(アーティストネーム)と出会ったのは2010年、いまは亡き美術雑誌『Prints 21』で、コスプレイヤーたちのレイヤー姿と普段着を撮影、対比してみる連載『当世とりかえばや物語』でのことだった。当時、東京藝大の先端芸術表現科に通っていたみのりさんは、学校から近い取手のマンションで、大好きな楳図かずおの「ピョン子ちゃん」のコスプレで僕を出迎えてくれた。高校1年生のころに、「そのころ流行ってたメイド喫茶に感化されて、かわいいなあって」メイドのコスプレをしてみたのが始まりという彼女のことを、記事でこんなふうに書いた――

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Back in the ROADSIDE USA 34 Vent Haven Museum, Fort Michell, KY

ケンタッキー州の、隣接するオハイオ州の大都市シンシナティからほど近い、フォート・ミッチェルの静かな住宅街にある一軒家。ヴェント・ヘイヴン・ミュージアムという控えめな立て札が目印だ。ヴェントとはヴェントリロキスト(ventriloquist)の略。難しそうだけど、日本語でいえば腹話術師。ヴェント・ヘイヴンは世界唯一の腹話術博物館である。母屋裏のコテージのような平屋の鍵をキュレイターに開けてもらい、一歩足を踏み入れると、そこには腹話術の人形が壁を埋めるようにずらりと並び、不気味なまでに壮観。その数およそ600体に達し、現在でも増え続けているそうで、もちろんコレクションとしても世界最大だ。

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爆安の彼岸――ABS屋で68円宇宙遊泳

本メルマガでおなじみ「八潮秘宝館」を見学に行ったとき、館主の兵頭喜貴くんが教えてくれたのがゑびすや商店/ABS卸売りセンター、通称「ABS屋」だった。足立区辰沼に本社・本店を構え、葛飾、江戸川、三郷、市川など東京外縁部に8店舗を展開するABS卸売りセンターは、百円ショップならぬ「68円ショップ」という驚異の低価格で、地元住民の日常生活を支え、テレビ番組にもしばしば取り上げられているので、ご存じの方もいるのでは。「ABS屋と水元公園があるから、このあたりに引っ越したようなもんですよ」という兵頭くんは、不覚にもABS屋を知らなかった僕を、「秘宝館の前にまずは」と、わざわざ見学に連れて行ってくれた。今週は八潮秘宝館館主・兵頭喜貴みずからが案内する、これもまた東京屈指の秘境であるABS屋探検記をお送りする。

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art

心のアート展2017

2015年秋に『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』と題したシリーズを掲載した。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で開かれている〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載だったが、その〈造形教室〉の作家たちと知り合うきっかけになったのが、『心のアート展』という大きなグループ展だった。東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)が主催する、協会員65病院に入院・通院している、あるいはしてきた患者による公募展。今月末からその第6回となる『心のアート展 「臨“生”芸術宣言! ~生に向き合うことから~」』が池袋で開催される。今回は29施設462作品の応募から選ばれた243点が展示されるという。広く知られてはいないが、アウトサイダー/アールブリュットの領域で、『心のアート展』は東京で最大規模の公募展なのだ。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 39 O.K. Corral, Tombstone, AZ

砂漠、それとも西部劇? アリゾナという単語から、どんなイメージがふくらむだろうか。西はカリフォルニア、東はニューメキシコと州境を接し、南に行けばすぐメキシコ、北東部にはネヴァダとの州境を越えてラスヴェガスがあり、北部にはグランドキャニオンというアメリカ随一の観光名所を擁する、しかしなんとなく印象の薄い州がアリゾナである。西部劇の舞台として名高いトゥーソンやトゥームストーンがあるように、アリゾナは西部開拓時代の、いわば晴れ舞台であった。カウボーイがいて、酒場があって、着飾った売春婦がいて、撃ち合いがあって・・アメリカ人にとってもアリゾナは、ドラマとノスタルジーに彩られた特別な土地だ。西部劇でおなじみの『OK牧場の決闘』も、アリゾナにはちゃんと実在する。それもトゥームストーン=墓石、という名前を冠した町に。

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lifestyle

BBCドキュメンタリー『アート・オブ・ジャパニーズ・ライフ』

イギリスBBCがシリーズとして放映したばかりの『The Art of Japanese Life』。有名建築家から宮大工、無印良品まで「ジャパニーズ・スタイルの良心」みたいなエピソードが満載ですが・・・その中でイロモノ・コーナーとして(笑)、僕のけっこう長いインタビューも入ってます。『TOKYO STYLE』や『着倒れ方丈記』の写真を見せながらの対話。

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Back in the ROADSIDE USA 42 Babyland General Hospital, Cleveland, GA

ミシシッピ河の東側でいちばん大きなジョージア州(南北600km、東西400km以上!)は、「気候、風土、産業、歴史等多くの類似点を有する」鹿児島と姉妹県州だそう。似てるだろうか・・・。州都アトランタから北におよそ100キロ、クリーヴランドという小さな町にあるのが『ベイビーランド・ジェネラル・ホスピタル』だ。日本ではちっとも受けなかったが、アメリカではずっと前から根強い人気を誇っている人形に、「キャベッジ・パッチ・ドール」というのがある。その名のとおりキャベッジ・パッチ=キャベツ畑から生まれたというふれこみの、かわいいというかちょっと不気味な人形だ。ちなみにアメリカでは子供に「わたし、どこから生まれたの?」と聞かれると、親がよく「キャベツ畑からよ」と言って聞かせるのだという。

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art

薬師丸郁夫のサイケデリカ・アイランド

リボーンアート・フェスティバルの会場となっている牡鹿半島の沖合には3つの島があることで知られている。いちばん有名なのが金華山で、島全体が黄金山神社の神域。恐山、出羽三山と並ぶ奥州三霊場のひとつとされている。次に有名なのが田代島で、島民が百人を下回る小さな島でありながら「ネコの島」として多くのメディアに取り上げられるようになった。そして田代島のすぐそばにあるのが網地島(あじしま)。こちらも最盛期には3000人あまりだった島民数が、現在では約300人、平均年齢73歳という典型的な限界集落島。鮎川港からフェリーで15分、石巻港からも1時間という近さでありながら、小中学校もコンビニもない静かな島だ。鮎川港から小さなフェリーに乗って、網地島の長渡(ふたわたし)港に降り立つ。斜面に沿ってのびる住宅街を歩いていくと、すぐに見えるのが「美術館すぐそこ→」と書かれた立札。その先の民家が「薬師丸郁夫美術館」だった。

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photography

センター街のロードムービー、再映!

このメルマガを始めた年の2012年10月17日号で、『センター街のロードムービー』という記事を掲載した。小岩のゴムプレス工場で働きながら、週末ごとに夜の渋谷センター街に出て、2000年ごろからずっと写真を撮っている鈴木信彦のことを書いたのだった。印画紙の上にあらわれ消える男女たち。それはいまから数年前、日本でいちばんスリリングな夜があった時代の渋谷センター街に、生きていた男の子と女の子たちだ。焦点の合った主人公と、その向こうのぼやけた街並み。

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Back in the ROADSIDE USA 58 The Forevertron, Prairie du Sac, WI

日本で言えば三重県のように「一般的には地味なイメージだがアウトサイダー/珍スポット的には重要地域」というのが、アメリカでは「人間より牛の数のほうが多い」ウィスコンシン州にあたる。これまで3回にわたってウィスコンシンの物件を紹介してきたが、今週お連れする『ザ・フォーエヴァートロン』と、来週お見せしたい『ハウス・オン・ザ・ロック』が、実は僕が訪れたすべてのアメリカ珍スポットで、いちばんのお気に入り物件だ。

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music

ヘンデル&ヘンドリックス・イン・ロンドン!

バスキアの記事で書いたからというわけではないけれど、シアトル生まれのアメリカン人ジミ・ヘンドリックスとロンドンが深い関係にあるのは、ファンならご存じのとおり。もともとジミはアイク&ティナ・ターナーやアイズレー・ブラザーズなどソウル、R&B系のミュージシャンのバックでプレイしていたが、アニマルズのベーシスト、チャス・チャンドラーに見出されて1966年に渡英。ノエル・レディング、ミッチ・ミッチェルと「ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス」を結成し、同年12月には『ヘイ・ジョー』、翌67年3月には『パープル・ヘイズ』を立て続けにヒットさせた。ある意味でジミヘンをジミヘンたらしめたのはシアトルでもニューヨークでもなく、ロンドンだったのだ。

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女装の目線

先日、新宿PLACE Mの写真展で、ひとりの女性に声をかけられた。ワークショップに通うアマチュア写真家で、日本三大寄せ場のひとつ、横浜寿町で炊き出しを手伝ううちに帽子おじさん=宮間英次郎とも仲良くなったという。どんな写真を撮ってるんですかと聞くと、「横浜の女装おじさんたち・・」と小さな声で話してくれて、がぜん興味が湧いてきた。ポートフォリオを見せてもらったら、すごくいい。いまどきの女装子のような可愛さはないけれど、そのぶん愛嬌があるし、それをファインダー越しに見る視線のあたたかみがじんわりと伝わってくる。矢崎とも子さんは1960(昭和35)年東京生まれの横浜育ち。多摩美大の油絵科を卒業し、ギャラリーで働いたあと、いまは専業主婦。その矢崎さんは今月15日からPLACE Mで『女装放浪記』と題した写真展を開く。

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Back in the ROADSIDE USA 64 Field of Dreams Movie Site, Dyersville, IA

アイオワを舞台にした映画のなかでも、よく知られているのが『フィールド・オブ・ドリームス』。ご存じケヴィン・コスナー扮する農夫が、もはやこの世にいない名野球選手の声を聞き、トウモロコシ畑をつぶして野球場を作るという、希代の名作というか怪作だ。「フィールド・オブ・ドリームス・ムービーサイト」は映画のロケ地がそのまま整備された観光スポット。映画に出てきたとおり、見渡すかぎりのトウモロコシ畑のあいだを走っていくと、突然、野球のダイヤモンドが出現。当然だが、あまりにも映画そのままなので、ちょっと感動。

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「趣味の殺人」リーおばあちゃんの事件簿

英語の「doll」は女性名のドロシーの省略形が語源で、それがのちに「人間の形をした子供用の玩具」になったと聞いて意外な思いをした。いっぽう日本語の「人形」はそのまま「ひとがた」とも読め、それが人形のかわいらしさと不気味さを同時に現しているようでもある。ワシントンDCのホワイトハウス近くにあるスミソニアン協会美術館(SAAM)分館レンウィック・ギャラリーは、アメリカ近現代の工芸装飾品をおもに展示するミュージアム。小ぶりだが意欲的な企画で知られていて、今月28日までは『MURDER IS HER HOBBY』という奇妙かつ魅力的な展覧会が開かれている。さすがに2泊3日で観に行ってきます!というわけにはいかず悔しがっていたら、ミュージアムから写真をたくさん貸していただけたので、ささやかな誌上展覧会をお送りしたい。

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ROADSIDE PHUNOM PENH 2 夜の子ども遊園地

東京にお台場があり、シンガポールにセントーサがあるように、プノンペンには川沿いにダイヤモンドアイランド(コーピッチ)と名づけられた開発エリアがある。高層ホテルや投資用コンドミニアム、商業施設が整然と立ち並び、3つの橋でつながる本土側にもイオンモールのカンボジア1号店や、プノンペン唯一のカジノホテル・ナーガワールドがあり、まるでカンボジアっぽくないというか、旅情を味わえる地域ではない。しかしそこは東南アジア。日中は無機質なビル群がそびえたつだけのダイヤモンドアイランドも、陽が沈み涼風の訪れとともに庶民がスクーター2ケツ3ケツ4ケツで集まりはじめ、地べたにゴザを敷いて宴会開始。さらにスクーターの群れについて奥へと進むと、突然ギラギラの電飾と、けたたましいダンスミュージックがあふれだす。『Koh Pich Kid Playground』と呼ばれる、その名のとおりの「子ども遊園地」だ。

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SF・怪獣映画ポスター展@フィルムセンター

またも閉幕ギリギリの紹介になってしまい申し訳ないが、いま京橋の国立近代美術館フィルムセンターで、『ポスターでみる映画史Part3 SF・怪獣映画の世界』が開催中だ(3月25日まで)。パート3と銘打たれているとおり、2013年11月6日号で紹介した『チェコの映画ポスター展』、2016年の『戦後ドイツの映画ポスター展』に続く本企画。これまでの展覧会が、おなじみの映画が国によってまったく異なるグラフィック・デザインに昇華されているおもしろさが際立っていたのに対して、今回は『ゴジラ』から『2001年宇宙の旅』『スターウォーズ』に連なる、未知の世界を映画というメディアで表現した、作品自体の突飛だったり美しかったりするイマジネーションがそのままグラフィックにあらわれた興味深さ、そしてなにより強烈な記憶、そういう体験が楽しめるコレクションになっている。

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トラベラーはどこへ向かうのか

大阪中之島の国立国際美術館で開館40周年記念展『トラベラー まだ見ぬ地を踏むために』が開かれている(5月6日まで)。え、もう40年!?と驚くひとがいるかもしれないが、もともと国立国際美術館は1970年の大阪万博に際して、公園内に万国博美術館として開かれたもの。万博終了後、1977年に国立国際美術館として開館して以来、長らく万博公園内にあったが、2004年になって現在の中之島に移転してきた。僕は中学校の修学旅行で大阪万博に連れて行かれ、そこで美術館にも立ち寄った覚えがあるので(パビリオンはどこも人気で行列だったから)、もしかしたらそれが初めての近現代美術館体験だったかも・・・と考えると、自分にとってのアート体験40周年ということにもなるのか!笑 なんとなくしみじみしながら美術館を訪れた。

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Back in the ROADSIDE USA 73 DEA Museum, PentagonCity, VA

ワシントンDCからポトマック河を隔てヴァージニア州側にそびえるペンタゴン。廊下の総延長が227キロ、毎日2万5000人が働く、いまもって世界最大のオフィスビルだ。ペンタゴンの周囲には関連政府施設や住宅、ショッピング・エリアからなるペンタゴンシティが広がっているが、そうしたビルのひとつに本部を置くのがDEA(ドラッグ・エンフォースメント・エージェンシー)、すなわち麻薬取締局。空港並みに厳しい警備の入口を抜けると、1階にあるのが1999年にオープンしたDEAミュージアム。アメリカと麻薬の歴史をひもとく、非常に珍しい資料館である。

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DOMMUNE スナック芸術丸・第四十七夜、購読者限定公開!

去る4月3日にDOMMUNEスタジオから生配信したばかりの『スナック芸術丸・第四十七夜』が、さっそく購読者限定視聴リンクからご覧いただけるようになりました。宇川直宏くん、どうもありがとう! 当夜のDOMMUNEは「赤ちゃんとオトナとカンボジアの夜」と名づけましたが、配信直前に『独居老人スタイル』でもフィーチャーした孤高のパフォーマー、首くくり栲象さんの訃報が飛び込んできたので、生前に記録させていただいた「庭劇場」でのパフォーマンス動画を交えたトリビュート・コーナーを設け、あわただしく4部構成でお届けしました。「1 首くくり栲象追悼特集」「2 カンボジアン・スペース・プロジェクト、リードシンガー交通事故死追悼特集」「3 『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』発売記念トーク」「4 おきあがり赤ちゃん トーク&ライブ」そう、今週号で掲載した『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』も、編集の西村依莉さんを招いてお話してもらったので、今週は文章と映像で「キャバレーこぼれ話」を満喫していただけます!

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Back in the ROADSIDE USA 74 Mummers Museum, Philadelphia, PA

フィラデルフィアの正月を彩る『ママー』。へんな名前だが、ニューオリンズのマルディグラのように、あるいはリオのカーニバルのように、絢爛豪華な衣裳で着飾った人々がフィラデルフィアの中心街を元日に練り歩く、アメリカでもっとも古い歴史を誇るお祭りだ。ニューオリンズのように気候はよくないというか、フィラデルフィアの冬はものすごく寒いのだが、雪にも雨にもめげることなく、毎年1万5000人にものぼる参加者たちが参加するというのだから、なかなかシリアスなお祭りである。

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江上茂雄の見た風景

2013年10月2日号で、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄の活動を紹介した。100歳を越えて初めて公立美術館で大きな展覧会が開かれるという画歴は劇的というほかなく、荒尾のご自宅でご本人にお話を聞けたのも幸運だったが、翌2014年2月、自宅に2万点以上の作品を残して江上さんは101歳の生涯を閉じている。その希有なアマチュア画家の、東京で初めての展覧会が5月26日から武蔵野市立吉祥寺美術館で開かれる。吉祥寺美術館といえば先月、展覧会カタログとして発表された『はな子のいる風景』を紹介したばかりだが、今回の江上展も「はな子」に続く連続展『カンバセーション_ピース』の第3弾として企画された。

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photography

それからの北朝鮮

ドナルド・トランプと習近平と文在寅、金正恩をめぐる複雑怪奇な輪舞に、日本だけが入れてもらえないきょうこのごろ。北朝鮮をめぐる政治情勢が大きく動きつつあるタイミングで、初沢亜利の写真集『隣人、それから。 38度線の北』が発売された。2012年末にリリースされ、本メルマガでも2013年1月23日号で特集した『隣人。38度線の北』に続く、初沢さんの北朝鮮第2作品集だ。これまでイラク戦争、東日本大震災などの現場に飛び込んで長期間撮影を続けてきた初沢さんにとって、今回は『隣人。』以降、2013年から1年3ヶ月沖縄に移住して撮影した『沖縄のことを教えてください』(赤々舎刊)に続く写真集ということになる。『隣人、それから。』は2016年から18年にかけて3回の訪朝で撮影された写真で構成されている。前回の写真集のために4回、初沢さんはこれまで計7回にわたって北朝鮮を訪れているが、そこにはいつも「2500万人が暮らす隣の国の、普通の暮らしを隣人として知ることの大切さ」への思いがあった。

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music

宇宙で一枚だけのレコード

NHK-FMの民謡番組『吉木りさのタミウタ』で小さなコーナーをもらってから民謡の専門家と知り合う機会が増え、ディレクターのひとりから町田佳聲(まちだかしょう、1888-1981)という民謡研究家を教わった。『民謡に生きる 町田佳聲 八十八年の足跡』(竹内勉著、ほるぷレコード刊)という伝記を読むと、蓄音機のラッパ部分に向かって演奏した音をレコード盤に直接カッティングする「写音機」が発売されたのを機に、これに改造を加えた「町田式写音機」を制作。病気がちで40キロそこそこしかない身体で、重さ13キロの写音機を担いで自費で全国をめぐって消えゆく民謡を記録、40年を費やし2万曲の採譜を成し遂げたという・・・アラン・ローマックスみたいな人間が日本にもいたことを知って感動。とりわけ、土地の古老を探しては頼み込み、写音機をセットして、ラッパに向かって歌ってもらうという、フィールド・レコーディングの様子に激しく興味をかきたてられた。

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Back in the ROADSIDE USA 85 St Louis Cemetry No.1/St. Roch Chapel, New Orleans, LA

別名を「シティ・オヴ・ザ・デッド」というくらい、ニューオリンズと死とは切り離せない関係にある。市内に点在するたくさんの墓地は、また強力な観光スポットでもあるのだ。フレンチ・クオーターのすぐ外側にあるセントルイス・セメタリーNo.1は、1789年に開園したニューオリンズ最古の墓地。もちろん現在も稼働中である。いわゆる「墓」という概念からかけ離れた、一種の建築と呼べるスタイルとサイズの墓が、迷路のように折り重なり、見え隠れするさまは、まさに「死者の街」。映画『イージーライダー』の、墓地でトリップする場面もここで撮影された。ちなみに墓地のすぐ脇は、19世紀末から20世紀初頭にかけて全米に悪名をとどろかせた、巨大な合法売春地帯ストーリーヴィルである。

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book

夢と恋と愛の白いばら

猛暑のある日、ぼーっとツイッターを眺めていたら、「コミケで元ホステスがつくった「白いばら」同人誌を販売中!(在籍時のドレス着用で)」みたいなツイートが眼に入って、飛び起きた。急いでツイートを追っていくと、昼過ぎにはすでに「おかげさまで完売しました・・・」とあり、唖然。コミケで「白いばら」!!!??? 後日、通販サイトで入手したその同人誌『キャバレーは今も昔も青春のキャンバス』は、いかにも同人誌らしい造作でありながら、写真集、歴史年表、ホステスさん観察図鑑、一日のスケジュール、ショーダンサーのインタビューにホステス座談会、閉店までの日々の記録まで、予想を超えた充実内容。「白いばら」に関しては、元店長・山崎征一郎さんによる『日本一サービスにうるさい街で、古すぎるキャバレーがなぜ愛され続けるのか』(ダイヤモンド社刊、2015年)があるが、こちらは基本的にビジネス書。豊富な写真にイラスト、漫画まで入った「白いばら」の解説資料としては、この同人誌が唯一の存在だろう。

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『バイオレンス・ボイジャー』、ついに公開!

ずいぶん待った宇治茶監督の新作ゲキメーション『バイオレンス・ボイジャー』が来週末、京都国際映画祭で国内のお披露目を迎える。2014年3月26日号『デジタル紙芝居としての「燃える仏像人間」』で特集して以来、丸4年を経た新作ということになる。前作では一部に実写場面が挿入されていたが、今回は約80分の全編が、原画総数3,000枚によるゲキメーション。その作画・撮影・脚本・監督のほとんどを自分ひとりで手がけた、圧巻の力作である。

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art

神戸でおかんとアートな週末!

「おかんアートってなに?」というようなひとは本メルマガ読者にいないと思われるので、もう説明は省きますが、どんなにクールな現代建築空間も一発で台無しにしてしまう、究極にウォームな極北、というより極南のストリート・アートフォーム。そのおかんアート研究の同志であり、もっとも早くから、もっともしつこくおかんアートを調査保存拡散してきたのが、神戸の「下町レトロに首っ丈の会」。その下町レトロが毎年開催しているオカンアートの祭典『おかんアートとハンドメイド展』が、10回目となる今年も11月3、4日の2日間、神戸で開催されます。おかんアートの領域における最重要アートイベント、おかんアート界のベニスビエンナーレというか、バーゼルアートフェアという感じでしょうか。

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Northern Lights 2018 vol.4 ホッキ貝とロックンロールの苫小牧

太平洋に面した苫小牧は札幌、旭川、函館に次ぐ北海道内で4番目に大きな市。ウトナイ湖など自然観光資源に恵まれて、新千歳空港から札幌には車で1時間かかるところ、苫小牧は30分ほどと実はアクセスもいい。首都圏からのフェリーが着くのも苫小牧港だ。苫小牧の港近くには道の駅ならぬ「海の駅 ぷらっとみなと市場」が観光客を集め、大通りを挟んだ港側には苫小牧で一番人気の「マルトマ食堂」もある。市場のほうは海産物の直売や海鮮丼などを出す屋台食堂が並ぶ、よくあるタイプの観光市場だが、駐車場の端っこにある「ほっき貝資料館」は、ほとんどの観光客に無視されているものの、実はかなりのクセモノ系手づくりミュージアム。地味な外観の内部には、驚きのアウトサイダー環境が構築されている。

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Back in the ROADSIDE USA 89 Town Hall, Fremont, New Hampshire

というわけで久しぶりのロードサイドUSAは、かつて取材でアメリカ中の田舎を回っていたときに、本来の取材の寄り道として、僕が好きなアメリカ音楽の聖地を見てみたうちの一箇所、シャグズの生まれ故郷をご紹介! ニューハンプシャー州フリモント。人口3000人かそこらの小さな町ですが、ここはフランク・ザッパをして「ビートルズよりすごい!」と言わしめたザ・シャグズの生まれ故郷であります。1968年、父のオースティン・ウィギンの勧めに従ってドロシー(ヴォーカル、リードギター)、ベティ(ヴォーカル、リズムギター)、ヘレン(ドラムス)、そしてのちにレイチェル(ベース)も加わったウィギン4姉妹によって結成された、「ロック界のアウトサイダー・アート」とでも表現したい、最重要バンド。

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photography

つめたくてあたたかい浴槽

たとえば「道に寝てる酔っ払い」とか「田舎の案山子」とか、ひとつのテーマをしつこく追い続ける写真家を、このメルマガではいろいろ紹介してきた。2014年10月22日号「浴槽というモノリス」で特集した牧ヒデアキさんは、路傍にうち捨てられたポリやステンレスの浴槽をしつこく撮っている「浴槽写真家」だ。牧さんは1971年生まれ。三河湾に面した愛知県西尾市で、建築設計の仕事をしながら、2009年から写真を撮っている。これまで何度か展覧会を重ね、小冊子をつくり、とうとう自費出版で写真集『浴槽というモノリス』を発表することになった。届いた写真集はA5サイズの小ぶりなサイズ、しかしポリ浴槽そのものの淡いブルーに丸く落とした角(何冊か重ねると浴槽のように見える!)、そして浴槽に溜まったお湯のように、表紙の写真にブルーの枠が糊付けされているという凝った造本だった。

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book

マッチ箱に詰まった記憶

ちょうど気になっていた新刊が絶好のタイミングで届いたので、一緒にご紹介したい。『マッチと街』。サブタイトルに「MATCH KOCHI 1950-90」とあるとおり、これは終戦後から、昭和が平成にかわるまでの高知の街を、マッチ箱から辿ってみようというユニークきわまりない試みなのだ。いまの高知も僕は大好きだけれど、ずっと住んできたひとにとって、いまの高知は「きれいだけどおとなしすぎる!」歯がゆくてしょうがない場所なのだろう。本書は、高知市の江ノ口川沿いに建つ漆喰壁の倉庫群がアートゾーンに再生された藁工倉庫にあるギャラリーgraffitiで2009年10月に開催された展覧会『高知遺産 マッチと町』で展示されたコレクションが、9年の歳月を経て書籍化されたもの。

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Back in the ROADSIDE USA 93 The Awakening, Hains Point, Wahington DC

ワシントンDC、言わずと知れたアメリカ合衆国の首都だ。正式名称は「ワシントン、ディストリクト・オヴ・コロンビア」。合衆国50州のどれにも属さない、特別区としてアメリカ政治の中枢機能を担っている。総面積が175平方キロ。ちなみに東京23区の総面積が約616平方キロだから、その3分の1以下という小さな町である。アメリカ社会の持つ両極端のすべてが、この狭いエリアには詰まっている。ホワイトハウス、連邦議会といったスーパーパワーが集結し、スミソニアンという世界最大の巨大博物館群が誇らしげにそびえるいっぽうで、DCはまたアメリカでもっとも治安の悪い町のひとつでもある。億万長者と極貧の民が、美しい街並みと荒れ果てた廃墟のブロックが、世界中の権力者とオノボリさん観光客が入り混じり、完璧な縮図をかたちづくっているのだ。

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Back in the ROADSIDE USA 94 Ahlgrim Funeral Services, Palatine, IL

日本ではパターゴルフというほうが一般的だろうか。アメリカ人はあのミニチュア・ゴルフが大好きで、家族連れや若いカップルが、わいわい騒ぎながらコースを回ってる光景を各地で見かける。もちろん高級な娯楽ではないから、デザインもいい加減でチープなのがほとんどで、それが逆にポップな空間を生み出している例も多い。いつかアメリカ中のおもしろミニチュア・ゴルフコースを撮影して回りたいというのが僕の夢のひとつなのだが、シカゴ郊外のパラティンにあるこのコースは、中でもかなりユニークなもののひとつだろう。なにしろ場所がすごい。フューネラル・パーラー、つまり葬儀所の地下にあるのだ。

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photography

中国ラブドール製造工場訪問記

2018年4月18日号「ラブドール王国の宮廷写真家」で特集したSAKITAN。大阪をベースにラブドールの写真を撮ってはSNSにアップしたり、自費出版写真集をすでに数冊発表している、ラブドール・ピンナップのエキスパートだ。やはり2018年11月28日号で掲載した吉井忍さんの「Freestyle China 即興中国」の中国ラブドール写真コンテストで、SAKITAN氏が審査員のひとりとして日本から招かれたことが記事中で触れられていたが、コンテストのあとに広東省へと足を延ばし、いまや世界のラブドール市場を席巻しつつある中国ラブドール・メーカー2社の本社工場を見学、その様子を新たな写真集としてリリースしたばかり。ちょうど年末の冬コミ出店のために上京したSAKITAN氏をつかまえ、お話を聞かせてもらうことができた。中国の新興メーカーがどんなドールを作っているのかは、各社のwebサイトを見ればわかるけれど、どんなふうにドールを作っているのかは、なかなか見ることができないはず。写真と共に、インタビューをお楽しみいただきたい。

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fashion

平成のファッションとはなんだったのか

先週の兵庫県立美術館や芦屋市立美術館など、神戸周辺には美術ファンにおなじみのミュージアムがいくつもあるが、本メルマガで何度か取り上げてきたのが六甲アイランドにある神戸ファッション美術館。一般的な観光スポットとは言えないながらも、なかなか挑戦的な企画展をいくつも開催してきた・・・のだけれど、去年は美術館の入る神戸ファッションプラザがオーナー企業の市税滞納でほぼ廃墟化してしまったり、運営管理が神戸市から神戸新聞の関連事業体に移管されて、なんとなく微妙な展覧会が増えたりと、厄年っぽい雰囲気が漂っていた。いまもメインの企画展は『息を呑む繊細美 切り絵アート展』という・・・いや、切り絵は別にいいんですけど、それファッションなんですか?と突っ込みたくなるが、切り絵ファンで賑わう展示会場の奥、収蔵コレクション展示室ではいま『平成のファッション展』を開催中。その意欲的な構成に学芸員の意地を見た(涙)のは僕だけかもしれないけれど、切り絵展から出口にいたる途中にコレクション展もあるので、切り絵ファンの中年女性グループが「あら、懐かしい!」と立ち止まったりして、ちょっといい雰囲気。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 97 Wyoming Frontier Prison, Rawlins, WY

先週日曜日、渋谷ユーロスペースで開催中の死刑映画週間で、スイス人監督アン・フレデリック・ヴィドマンによるアメリカ死刑囚のドキュメンタリー『FREE MEN』上映後にトークをさせていただき、そのなかで例としてワイオミング州ローレンスのフロンティア・プリズンを少しだけ紹介した。せっかくなので今週のロードサイドUSAはそのプリズンと、すぐそばの地味な資料館「カーボンカウンティ・ミュージアム」――これが一見、人畜無害なようでいて、実はおぞましいコレクションあり!――にじっくりお連れしたい。

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photography

地下台北の眼

先週号『圏外でつながった台湾』のなかで、台北きってのアンダーグラウンド中古レコードショップ「先行一車」で出会った大阪LVDB BOOKSのことを少しだけ書いた。LVDB BOOKSは大阪東住吉にあるインディペンデント・ブックストア。空襲で焼け残ったという古い住宅街の、築80年の一軒家を使って、しかし外からはまるで本屋とわからない店構えで営業しているLVDB――ちなみに店名はアキ・カウリスマキの映画『ラ・ヴィ・ド・ボエーム』の頭文字で、特に意味はないが、なるべく憶えにくい店名にしたかったとのこと――では、いま台北の若手写真家・陳藝堂(チェン・イータン)と、本メルマガ2015年7月22日号『写真の寝場所』で特集した大阪の写真家・赤鹿麻耶(あかしか・まや)の二人展を開催中だ。

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art

美尻女神の国

先週号で異端の画家・林良文を紹介したが、個人的に日本「二大お尻アーティスト」と思っているもうひとりの異端、春川ナミオの新作品集刊行記念展がきのうから銀座ヴァニラ画廊で始まっている。春川ナミオは1947年大阪生まれ。筆名はストリッパー出身のセクシー女優・春川ますみと、谷崎潤一郎の『痴人の愛』のヒロイン・ナオミをあわせたものという。すでに高校時代からカストリ雑誌『奇譚クラブ』の常連投稿者となり、豊満で気高い女性と、奉仕するマゾヒスト男性の世界を、72歳を迎える現在まで60年以上描き続けているビザール・キング。林良文と同じく、むしろヨーロッパでの人気のほうがいまでは高いかもしれない。

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music

BONE MUSIC展、開幕!

すでにお聞き及びのかたもいらっしゃると思うが、本メルマガでも紹介したソビエト時代のレントゲンレコードをフィーチャーした『BONE MUSIC展』が4月27日から5月12日まで、原宿BA-TSUアートギャラリーで開催される。何度かトークで手持ちの実物を見せたことはあるけれど、今回はロンドンからやってくるコレクション。すでにイギリス国内、ロシア、イスラエルなどで開かれて評判となった展示の巡回なので、かなり楽しみだ。

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design

チェコ・デザイン100年の旅

チェコとデザインという言葉が僕の中で結びついたのは、1984年7月に渋谷パルコ・パート3で開催された『チェコスロバキア・キュビズム展 建築/家具/工芸の世界』だった(チェコスロバキアが現在のチェコとスロバキア共和国に分かれたのは1993年のこと)。それまでチェコがデザインという視点で頭に浮かんだことはなかったし、キュビズムが建築や家具や工芸にもあったことも知らなかった。35年前のパルコは、こんなに革新的でエレガントな展覧会もやっていたのだった・・・・・・。そんなことを思い出しながら名古屋駅から名鉄で東岡崎駅まで行って、バスに乗り換えて向かったのが岡崎市美術博物館。中央総合公園というものすごく広い公園の中にあって、マインドスケープ・ミュージアムなる微妙な愛称を持つこの美術館では、いま『チェコ・デザイン100年の旅』展が開催中。ここで僕は久しぶりにチェコ・キュビズム・デザインに再会することができた。

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奇跡のパンティ大作戦

5月23日夜、十条のシネカフェ・ソトで「場末のシネマパラダイス パート3」が開催された。本メルマガや『独居老人スタイル』でおなじみ、福島県の本宮映画劇場館主・田村修司さんの秘蔵ピンク映画コレクションと独自リミックス・フィルム「いい場面コレクション」を紹介するこの企画も、これが3回目。そしてシネカフェ・ソトでは残念ながら最後の開催となった。東京都心のノースエンド、北区十条駅前はいかにも下町らしい風情の商店街・飲み屋街への入口として、駅を降り立った瞬間「あ~ここ住みやすそう!」と、だれしもがじんわり肌で感じるヘヴンズドア。しかし東京右半分と同じく、北半分にも再開発の波は容赦なく襲いかかっていて、シネカフェ・ソトのある駅前の一角はまるごと取り壊し。ソトは6月いっぱいで閉店。

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photography

南さんはヘンな眼をしている

これまでずいぶんいろんな写真家の作品を紹介してきたけれど、じっくり語りたくなる写真と、「まあとにかくこれを見てください!」とドサッと写真を並べたくなる写真家がいる。南阿沙美の『MATSUOKA!』は、もう黙ってページをめくるのがいちばんいいんじゃないかと思う写真集で、これは「理解」とかそういうことではなく、写真家の感覚と共振できるかどうか、どこに行くのかわからないまま一緒に走っていきたいかどうか、それだけが好き嫌いの分かれ目になる作品の典型だろう。そして、こういう写真が僕にはいちばん撮れなくて、だから見たいけれど怖くもある。小説家は歳を重ねて円熟していくが、詩人は初心のころがいちばんいいと言われることがある、そんなことも思い出したりした。

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art

変えられないものが痛みだとしても――第7回・心のアート展

東京八王子市の平川病院や足立区の東京足立病院などで、精神科に入院・来院する患者たちのために〈造形教室〉をもう50年以上続けている安彦講平さんとの出会いから、2015年に「詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち」と題した連続企画を掲載した。その縁で知ることになった『心のアート展』が、今年も6月末の6日間、池袋・東京芸術劇場内のギャラリーで開催される。2017年に開催された前回の展示は「心のアート展・印象記」で詳しくお伝えした。2年ぶり7回目となる今回も、東京精神科病院協会・会員21病院、関連3施設の計24施設から437作品の応募を得て、審査を通過した262作品が展示されるという。広い会場いっぱいをエネルギーに満ちた作品が埋め尽くす『心のアート展』は、アールブリュット/アウトサイダー・アート領域で、実は日本屈指の規模を誇るグループ展なのだ。

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地獄の花園――セキンタニ・ラ・ノリヒロ『HELL曼華』

セキンタニ・ラ・ノリヒロという怪しげな名前の作家による、タイトルも怪しげな『HELL曼華』展が新御徒町mograg galleryで開催中だ。東大阪に生まれ育った、実はバリバリなにわっ子であるセキンタニさんと知り合ったのは、本メルマガでも特集した2014年、南仏マルセイユとセットで開催された「MANGARO」/「HETA-UMA」展でのこと。両会場に展示された、まあ全員不気味ななかでもひときわ怪奇風味の強烈な作品のつくりてがセキンタニさんだった。

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design

円盤の上のヴィーナス

和物セクシー・ジャケット・アルバムのコレクションを電子書籍にまとめたロードサイド・ブックス新刊『BED SIDE MUSIC めくるめくお色気レコジャケ宇宙』を先々週号で紹介したばかりだけれど、6月末には洋楽(おもにUS)アナログ盤の「美女ジャケ」をまとめた単行本『Venus On Vinyl 美女ジャケの誘惑』が、偶然にも時を同じくして発売された。旧知の編集者の担当書籍だったが、おたがいの企画をまったく知らず、ふたりでびっくりしたのがまだ1ヶ月かそこら前のこと。『美女ジャケの誘惑』はグラフィック・デザイナーの長澤均(ながさわ・ひとし)さんによる渾身の一冊。長澤さんと言えば本メルマガでは2016年9月7日号「ポルノ・ムービーの映像美学――長澤均の欲望博物学」で登場していただいた。

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photography

ニューヨークが「ほかのどこにもない場所」だったころ

マンハッタン、ソーホーのすぐ北側、いまは「ノーホー(NoHo)と呼ばれるエリアに、「ダッシュウッド・ブックス」という小さな写真集専門書店がある。気をつけていないと通り過ぎてしまうような外観だが、店内には丹念にセレクトされた新刊・古書の写真集数千冊がストックされているほか、出版も手がけていて、日本人写真家でも荒木経惟の初期作品集や、今年は橋口譲二が1982年に発表した記念碑的な『俺たち、どこにもいられない』に、奈良美智のエッセイを添えて甦らせた『We Have No Place to Be 1980-1982』もリリースするなど、かなりエッジのきいた本づくりを続けている。編集者のひとりに日本人女性がいることもあってダッシュウッドと数年前に知り合い、それから新刊案内のメールが届くようになったのだが、2~3ヶ月前だろうか、『Paige Powell』という箱入り豪華写真集の新刊お知らせを受け取って、エエーッと思わず声が出た。

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あいちトリエンナーレ雑感1

早く行かなきゃと思いつつ時間が取れず、そのうち「今週いっぱいでサエボーグの公演終了!」と聞いて焦り、「あいちトリエンナーレ」に日帰りで行ってきた。「愛知芸術文化センター」「名古屋市美術館」「四間道・円頓寺」「豊田市美術館・豊田市駅周辺」と4つにわかれたエリアのうち、事情通のお話によると「豊田エリアがいちばん充実」らしいのだが、サエボーグの公演がある芸術文化センターと両方日帰りでこなすのは無理があり、断念。会期中にもういちど挑戦したいので、今回はメルマガでの「第一報」と思っていただきたい。

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photography

死体が見た夢 ―― 東大阪シタイラボを訪ねて

むかしから落語家や芸人、変人文化人などが「生前葬」を催す例は珍しくない。そういう、半分シャレとしての生前葬は自分よりも家族や友人知人など、むしろ他人のために開くといってもいいかと思うが、完全に自分ひとりのための生前葬を体験させてくれる場が大阪にある。今年2月27日号「ラブドールが見た夢」で特集した東大阪の奇妙な写真撮影サービス「人間ラブドール製造所」を覚えていらっしゃるだろうか。「人間をラブドールに仕立てる」ことのもう一歩先にある、さらなる「逆転変身」の取り組みとして、この9月から本格始動したのが「シタイラボ」。~~したい(want to do)でも、肢体でも姿態でもなく、死体のラボ。自分が望む「こんなふうに死にたい」という状況・場面を再現し、「擬似の死」として体験してもらうという、人間ラブドール化を上回るユニークで奇妙な写真撮影サービスなのだ。

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lifestyle

ラブドール誘拐事件

SNSで拡散したばかりか、スポーツ新聞でも取り上げられたりしたので、すでにご存じのかたもいらっしゃるだろう。本メルマガでもおなじみの、異端のラブドール愛好家・兵頭喜貴が岩手山中で作品撮影中にドールと付属品などを盗まれたものの、執念の探索で窃盗犯を特定。犯人を相手取った損害賠償訴訟を提起し、このほど完全勝訴を勝ち取ったという顛末である。埼玉・越谷簡易裁判所で判決が言い渡されたのが7月24日のこと。その直前に兵頭館長から詳しい事情を聞いていたが、自宅を開放する「八潮秘宝館・秋の一般公開」がアナウンスされたので、取材から少し時間が経ってしまったけれど、ここでまとめておきたい。

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art

工房集の作家たち

最初にアウトサイダー・アートの本をつくったのが1989年のArT RANDOMシリーズだったから、もう30年も関わっていることになる。創作活動を取り入れている日本各地の施設もいろいろ訪ね歩いてきたが、なんとなく緊張してしまうところと、いきなりすごくリラックスできるところがあった。施設の歴史や規模や名声とは関係なく。日本で最初にアウトサイダー・アート/アール・ブリュット専門の商業画廊をつくり、一緒にヘンリー・ダーガーの部屋の本をつくった仲間でもある小出由紀子さんに誘われて、今年の夏の初めに埼玉県の「工房集」を訪れることができた。川口市の郊外、「見沼田んぼ」と地元で呼ばれてきたらしいのどかな一角に、カラフルな建物があった。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 2

上海市中心部をほぼ南北に流れる黄浦江を渡った対岸、昔は繊維関係の工場や倉庫が集まっていたエリアに、若い姉妹が住んでいた。1995年に建てられたという典型的な団地スタイルの2DKで、広さは55平米ほど。地下鉄の駅が徒歩10分ほど離れているのと(でもバス停は団地入口の真ん前)、エレベーターなしの6階という難点もあって、家賃は月に4,300元(約66,000円)と、かなり好条件。それまで高層マンションに住んでいたのを、ネットで見つけて即決、この1月に引っ越してきた。ほとんど家具がなかったので、テーブルや本棚などを少し買い足さなくてはならなかったのも、安さの理由かもしれないとのこと(ベッドだけは2部屋ともついていて、「でも妹のベッドのほうが大きいのよね~」と姉の愚痴)。

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失われた築地の磁場

築地の魚市場が豊洲に移転して1年が経った(2018年10月6日に営業終了)。江戸時代から日本橋の川べりにあった魚市場が(だから「魚河岸」)、関東大震災によって築地に移転したのが1923(大正12)年。1935年に現在の旧築地市場に施設が完成・稼動を始めたので、2018年まで80年間以上にわたって日本最大の取引高を誇る卸売市場として君臨してきたわけだ。これまで「場内」と呼ばれてきた業者間の競りや相対売の機能は豊洲に移ったわけだが、「場外」の店舗や飲食店は観光地としていまも賑わっているので、築地市場がまるごと消滅したわけではないけれど、やはり2018年までの「築地」とはもうまったくの別物だ。

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SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 10

上海市中心部の北東に位置する虹口区。第二次大戦中は日本の租界があって、「小東京」と呼ばれていたという。上海人の憩いの場である魯迅公園、その一角にはサッカー場の上海虹口足球場があり、1部リーグに所属する上海申花(シャンハイシェンホァ)のホームスタジアムでもある。巨大なスタジアムを見おろすように建つ高層ビルの18階、こんな場所にと驚くロケーションに、彼女は友人とふたりでヘアメイク/タトゥー・スタジオを開いている。

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ショッピングセンターに隠された恐怖の館・生命奥秘博物館

三国志をはじめとする歴史名所旧跡にあふれ、パンダ・ファンの聖地であり、四川料理のふるさとでもある成都。その中心となるのが巨大な天府広場だ。地下鉄網のハブ駅であり、成都博物館と四川科学技術館に囲まれて、いつも地元民と観光客で賑わっている。 広場の地下はこれまた巨大なショッピング街になっていて、棒になった足を休められる場所を探しさまよっていたら、なんだかグロテスクな輪切り(というか縦割り)のマンボウが、通路にどーんと展示されていた。脇に立っていたお姉さんからパンフレットをもらうと、「生命奥秘博物館」と書いてある。なにこれ・・・・・・。 マンボウを通り過ぎた先、ドラえもんショップの隣に大々的に展開していたのが生命奥秘博物館だった。入口の左手には立ち上がったシロクマの半分は毛皮、もう半分は皮を剥いだ内蔵露出標本が、「本物ですから触らないで」という注意書きとともに飾られているが、反対側はパンダの縫いぐるみが山積みになっている。「奥秘」かどうかはともかく、「奥謎」施設であることは確か。

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文様化する身体

日本のトライバル・タトゥーの新しい試みとして昨年11月13日号で特集した「1万年の時を超えて——縄文タトゥーのプリミティブ・フューチャー」は予想以上の反響を得て、タトゥー・カルチャーへの関心が高まっていることを実感させられた。タトゥー・アーティストの大島托と、ジャーナリストのケロッピー前田による「縄文の文様を現代人の身体に彫りこむことで蘇生して未来に伝える壮大なアート・プロジェクト」。その視覚的な衝撃とともに、他人の身体をキャンバスに描くという、きわめてハードコアな美的挑発が、見るもののこころを揺さぶるのだろう。阿佐ヶ谷TAV GALLERYで開催された11月の展覧会「縄文族 JOMON TRIBE 2」に続いて、早くも3月1日から新宿ビームスジャパンで展覧会が開催され、縄文族として初の記録集『縄文時代にタトゥーはあったのか』も刊行される(3月19日発売)。

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おもしろうてやがてかなしき済州島紀行6 ミニランド+小人国

真冬の2月に撮影した写真と一緒に、10年前の写真を見返していたら、せっかく取材したのにこれまでほとんど発表する機会がなかった珍スポットがいくつも出てきた。なのでもう少しのあいだ、昔の写真で申し訳ないけれど、お付き合いいただきたい。すでに閉園・閉館してしまった場所もあるけれど、大半はいまもかわらず営業中。それどころか10年前よりパワーアップしているスポットもあるようなので! また韓国に行けるようになったら、最速の再訪を願いつつ・・・・・・。というわけで済州島オマケ誌上旅行の第1回は、島内に2つもある大規模ミニワールド!

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ヤングポートフォリオ誌上展1

新型コロナウィルス感染防止のために、全国各地の美術館で展覧会の延期や中止が続いている。先月告知に書いたとおり、メルマガではおなじみ清里のフォトアートミュージアムでも、恒例の新人作家展「2019年度 ヤング・ポートフォリオ」が3月20日から始まる予定が開催できないまま休館が続いている。世界各地から35歳以下の写真家が応募し、選考委員が気に入った作者のプリントを、委員が選んだだけ買い上げて収蔵!という、世界でも稀に見る太っ腹な新人写真賞。今回は東欧、アジア全域から日本まで、ミュージアムによって購入された136点のプリントを一挙公開という意欲的な展示であり、2019年度の選考委員は川田喜久治、細江英公館長と僕の3人が務めた。

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「ここにいる」@にしぴりかの美術館

SNSによって政治が変わることもあれば、誹謗中傷を受けてひとが死ぬこともある。昔より自由なようでいて、実はものすごく不自由な社会に僕らはいま、生きさせられているのかもしれない――そんな窮屈な社会のなかで、すぐそこにいながら、他人の眼を、他人の評価をまったく気にすることなく生きているひとたちがいて、自分のことしか考えてないように見えながら、その生きざまがこういう時代だからこそ、ものすごく眩しくも見えてくる。ロードサイダーズではすでにおなじみ、アウトサイダー・アート/アールブリュットに特化した宮城県の「にしぴりかの美術館」は、喫茶店コーナーも美術館も「換気をこまめにしながら営業中」。5月30日からは福山のクシノテラスが企画するグループ展「ここにいる」がスタートする。

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lifestyle

タキシード・サムライ 1

三好三郎さんが亡くなった。5月11日、93歳のまさしく大往生だった。いまから2年近く前だろうか、珍しい依頼を受けた。旧知のレストラン・チェーン経営者・三好玲子さんから声をかけてもらって、父の三好三郎さんの一代記を聞き書きでまとめることになったのだった。最初はどこかの出版社に話を持ちかけようと思ったが、「お世話になったかたたちに配れればいい」ということで、非売品の私家版で制作することに。「お金はかかってもいいから、ほかにないようなものをつくってほしい!」という、ここ数十年聞いたことのないリクエストをご本人からいただき、『捨てられないTシャツ』のデザインをしてくれた渋井史生くんを誘った。逗子のご自宅に1年ほど聞き書きに通い、去年の3月末に『タキシード・サムライ 三好三郎一代記』という、1,000部限定の本を仕上げることができた。こんな仕事はたぶん最初で最後、もう二度とできないだろう。

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music

音楽はいまどこにあるのか――四谷アウトブレイクの「無観客住み込みギグ」

東京都心、千代田区と新宿区の境にある四谷駅から徒歩5分ほど、四谷アウトブレイクというライブハウスがある。大きくもなく、小さすぎもせず、どこの街にもあるライブハウスという感じだ。アウトブレイクはロックだけでなく、妙なイベントにもけっこう門戸を開いていて、僕もこのメルマガで取り上げたミャンマー音楽ナイトや、月亭可朝さんのイベントに参加したこともあるし、「起き上がり赤ちゃん」の取材では「人見知りが激しいので」と、店長が千葉まで取材に同行してくれもした。なんといってもうちからいちばん近いライブハウスだし。そして今回の新型コロナウィルス・アウトブレイク……。このライブハウスは2004年オープンなので当然ウィルスとはなんの関係もないのだが、全国のライブハウスと同様、非常事態宣言とともに休業させられたうえに、名前もワル目立ち。しかしそこで営業ストップのかわりに、店長がいきなり始めたのが「無観客2週間住み込みギグ on YouTube」という無謀な企画だった。

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art

公園通りのアウトサイダー

渋谷公園通り、新装なったPARCOと交差点を挟んだ斜め向かい角というプライム・ロケーションにありながら、ものすごく地味なたたずまいゆえに、めったに気づかれることのない渋谷区立勤労福祉会館(略称「きんぷく」)。その通りに面した1階がアウトサイダーアート/アール・ブリュットに特化した公立ギャラリーになったことを、どれほどのひとが知っているだろう。 東京都渋谷公園通りギャラリーは新木場の東京都現代美術館のサテライト施設として、今年2月8日にグランドオープン記念展「あしたのおどろき」で開館したのだったが……新型コロナウィルス感染防止でさっそく2月末から休止、そのまま閉幕という無念の結果に。しかし続いての企画展「フィールド⇔ワーク展 日々のアトリエに生きている」が会期を変更して、6月2日から無事にスタートしている。場所も至便、入館も無料でありながら、まだあまり知られていない公園通りギャラリーの展覧会を、ここで少しだけ紹介しておきたい。

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fashion

アンチコロナ・ファッションショー!@鶯谷デパートメントH

新型コロナウィルス感染防止のためにたくさんの定例イベントが中止や延期を余儀なくされてきたが、このメルマガでは創刊の2012年から何度も取材させてもらった「デパートメントH」もその被害者のひとつ。アメリカン・コミックス・スタイルの作風で知られるイラストレーター・ゴッホ今泉さんが主宰する日本最大級の、もっともよく知られたフェティッシュ・パーティであるデパH。スタートしたのが「よく覚えてないけど、たぶん1991年から93年ぐらい」(ゴッホさん談)というから、もうすぐ30年! 毎月第一土曜にほとんど欠かさず開かれてきて、これまで通算2百数十回以上は開催されたご長寿イベントであるものの、「こんなことはデパH史上初めて!」という未曾有のコロナ禍。ステージの出演者のみによる無観客配信も試みたが、やはりお客さんと一緒につくる場のエネルギーに勝るものはないはず。そこで7月4日の土曜深夜~日曜明け方にかけて、いつもの鶯谷・東京キネマ倶楽部で開催されたのが「200名限定スペシャルナイト・アンチコロナ・ファッションショー」という、果敢なイベントだった。

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死刑囚の絵画展2020

毎年10月10日の世界死刑廃止デーにあわせて開催されるトークと展示イベント「響かせあおう 死刑廃止の声」が、今年も10月10日に開かれることになった。死刑囚の表現をテーマに、応募された作品の展示や、審査員らによる講評を公開で行うこの催しも、今年で16回目。特にコロナ禍で揺れ続ける状況で、開催までこぎつけた関係者の努力に敬意を表したい。 また、今回はウィルス対策のために会場の四谷区民ホールでの展示作品数は、いつもより少なめになるそう。しかし10月23~25日には中央区入船の松本治一郎記念会館で「死刑囚表現展」が3日間にわたって開催され、そこでは応募作品が全点、展示されるということなので、興味あるかたはぜひ足を運んでいただきたい。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を紹介した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから今年で8年が経ち、何度か誌上で紹介する機会があったが、僕の知るかぎりいまだに美術メディアできちんと取り上げられたことはない。もう、そういうことに文句をつけたりする気も失せたけれど、僕としてはメルマガが続くかぎり!しつこく紹介し続けるつもりなので、ひとりでも多くのかたに見てもらい、日本の死刑制度が抱える問題に関心を持っていただけたらなによりである。

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25年目の珍日本紀行 群馬編3  渋川の巨大寺院に台湾を懐かしむ

群馬県のほぼ中央、前橋と沼田に挟まれた渋川市。伊香保温泉の玄関口でもある渋川の郊外、渋川総合公園と県道を挟んで向かい合うのが、2018年に開山したという巨大な寺院・佛光山法水寺である。渋川市外から赤城山をのぞむ標高700メートルの地に、約20ヘクタール=東京ドーム4個分の敷地を得て、総工費約50億円の巨費を投じて建立されたという、日本離れしたスケールの法水寺。それもそのはず、こちらは台湾・高雄に総本山を置く佛光山の、日本における総本山なのだった。 全世界に信者300万人を数えるという台湾有数の巨大寺院・佛光山については、2015年06月17日 配信号「みほとけのテーマパーク」で詳しく紹介した。これまで何度か訪れたおり、日本にも支部があるとは聞いていたが、渋川の佛光山法水寺は、東京、山梨、大阪の寺院や道場をまとめる日本総本山として、2014年から4年の歳月をかけて完成したのだった。

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25年目の珍日本紀行 群馬編5 ロックハート城と夢のつづき

今回の群馬めぐりで、実はいちばん驚いたのが沼田市のロックハート城だった。最初に訪れた1997年には、まあバブルの落とし子みたいなもんだし、いつまで持つことやら・・・・・とか思っていたのが、23年後のいま再訪してみたら、なんと健在!どころか、かなりのパワーアップで大賑わい! ほんとうにびっくりしました。先週のジャパンスネークセンターもそうだったし、群馬の若者って行くとこないのか・・・・・・すいません。

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木呂とマメとBOROの一幕劇

ダダカン展の首謀者として紹介した上原木呂さん。出会ってしばらくしたころ、新潟から上京したついでに、浅草アミューズミュージアムで開催していた写真展『BORO 美しいぼろ布展 ~都築響一が見たBORO~』を見てくれて、「そういえばうちにもBORO、たくさんあるから撮りませんか」と誘っていただいた。 上原木呂(本名・誠一郎)さんは1948(昭和23)年生まれ。新潟市の南西部、海を隔てて佐渡島と対面する西浦区の巻町(現・竹野町)に生まれた。家業の上原酒造(現・越後鶴亀)は明治23年創業という老舗蔵元。木呂さんが五代目に当たる。 「蔵元だから、それこそぼろぼろになった布袋とかいっぱいあって、それを自分で縫ったり羽織ったりして遊んでるんですよ」ということで、去年の春、撮影させていただくことになった。

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映画女優 山口淑子、生誕100年特集上映に寄せて

多くの映画ファンを集めた「羅生門」展が終了したばかりの国立映画アーカイブで、「生誕100年 映画女優 山口淑子」特集上映が間もなくスタートする。山口淑子/李香蘭という名前に、どれだけのひとが反応してくれるだろうか。 戦前に“李香蘭”として一躍スターとなり、戦後に本名で日本映画界に復帰、また“シャーリー・ヤマグチ”の名でアメリカ映画にも出演した、稀代の女優・山口淑子(1920-2014)。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 08 静岡県4

イノシシって、実はかわいくておいしいんです――1970年に開園した、実は老舗観光スポットだった伊豆天城の「いのしし村」。その名のとおり、イノシシに特化した特殊なテーマパークだった。ウィキペディアによれば最盛期の1985年に年間40万人近くの来園者を集めたそうだが、徐々に人気を失い2002年末にいちど閉園。その後別会社で再起を図るが、2008年に完全閉園ということになった。公式ウェブサイトもすでに存在しないが、なん園長とスタッフによるブログがいまもウェブ上に残っている(というか放置されている)。いつ消滅してしまうかわからないので、興味あるかたはダウンロード保存しておくべし! 現在、いのしし村の跡地は特別養護老人ホームとなっている。いのししから老人へ……。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 10 山梨県2

涙と笑いの「トリック・アート」鑑賞体験――石和温泉郷の町なかにあるワイナリー「モンデ酒造」が、工場見学のおまけとして(?)開いたのがトリック・アート美術館の「モルヘス美術館」だった。ちなみにモンデ酒造は2020年で創業68年という山梨ワインの老舗であり、観光ワイナリーである。モンデという名前は、公式サイトによれば「フランス語で「世界」、ラテン語で「宇宙」という意味で、世界または宇宙規模のワイン・洋酒を造る精神が社名となったもの」だそう! トリック・アートの第一人者である剣重和宗の手になるモルヘス美術館が開館したのは1992年、剣重氏の長いトリック・アート歴のうちでも最初期の作品だった(トリック・アート美術館の最初は91年開館の東京江戸川区JAIB美術館)。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 11 長野県

ふと見れば天井は畳だった――意外に珍スポットの少ない、しかも消滅してしまった珍スポットはさらに少ない長野県。松本市の名物喫茶店「さかさレスト とんちん館」は、その奇異なデザインとは裏腹に、ふつうの喫茶店として近隣住民には愛用・常用されていたと聞くが、21世紀に入って間もなく閉店。建物も取り壊され、跡地には小さなアパートが建っているそうだ・・・・・・。

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キャッスルレコーズと下町ヒップホップ・シーンの10年間

上野のキャッスルレコーズが3月10日でアメ横センタービルの店を閉め、4月に湯島に移転、新店舗を立ち上げるというお知らせを聞いて、10年以上前の日々がいきなり甦った。『東京右半分』が2012年、『ヒップホップの詩人たち』が2013年リリース。それまでの数年間、日本のヒップホップを掘るのにいちばんお世話になっていたのが、アメ横センタービルの3階にあるキャッスルレコーズだった。 テレビに出るようなスターではない、ローカルでリアルなラッパーたちを探して右往左往していたころ、シーンに詳しい友人はひとりもいなかったし(そういう「通」に頼りたくなかったこともある)、雑誌やウェブサイトからも大した情報は得られず、とにかく狭いライブハウスの現場に通うこと、レコードショップに積まれたフライヤーを漁ること、そして名前も知らないラッパーのCDを買いまくることしか、僕にできることはなかった。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 13 愛知県2

天照大神から福沢諭吉まで、大和の巨星が名古屋にキラめく――幼児が大好きなお菓子「タマゴボーロ」や「麦ふぁ~」で知られる竹田製菓(現社名・竹田本社株式会社)。その名物創業者であり、「日本一の個人大投資家」(130社以上の大株主)としてマスコミにもしばしば登場していた竹田和平が、本社の一角に開設したのが、「いまの日本の礎となった百人の大人物を竹田氏が選出、特大の純金レリーフ・コインに刻んで展示する」という「純金歴史人物館」だった。

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マクチャンの闇

『住む。』という季刊の住宅デザイン雑誌で、もうずいぶん長く連載をしている。今年で創刊20年、ただ専門誌なのでご存じのかたがどれくらいいるかわからないが、たいていメルマガの記事と多かれ少なかれダブるところがあるので、これまで特に告知してこなかった。でも、先月末に出た2021年8月号では、メルマガでもずっと書こうと思って先延ばししてきた愛憎どろどろ韓国テレビドラマのことを書いたので、お許しをもらってここに転載させていただく。軽いエッセイのようなものだけど、お気に入り番組の画面ショットには力を入れたので!よかったらお読みいただき、一緒に韓ドラ沼にはまってもらえたらうれしい。

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百歳のダダカンとペーパーペニス

1920(大正9)年、東京都新宿に生まれたダダカンこと糸井貫二は、2020年12月2日に仙台で百歳を迎えた。 1951年、31歳で第3回読売アンデパンダン展へ初出品したのをきっかけに毎年出品する常連となるが、1962年の第14回展で全品出品拒否、撤去される。このころから日本各地で連続的にハプニング(おもに裸体)活動を繰り広げるようになり、1964年10月には「東京五輪祝走・銀座ストリーキング」として銀座四丁目交差点のスクランブル交差点を赤ふん一丁に丸めた新聞紙を掲げて走り出し、途中でほどけた赤ふんを新聞紙に突っ込み「聖火」とするも、ゴール地点(交差点の向かい側)の交番で即逮捕。練馬精神病院へ1年間の閉塞入院となった……。 それから57年間の時が過ぎ、浮かれたり沈んだりしてきた日本は二度目のオリンピックを猛暑のなかで強行し、百歳を迎えたダダカン師は仙台郊外の施設の涼しい部屋で快適な日々を過ごしている。 『独居老人スタイル』や本メルマガでの取材をいつも助けてくれた、ダダカンの若き「見守りびと」である小池浩一くんが、このほど自費出版レーベル「HOLON BOOKS」をスタート。その第一弾として、ダダカンのライフワークのひとつである「ペーパーペニス」作品をまとめた作品集をリリースした。

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遠藤文香に聞く:オンライントーク誌上再現

8月22日の日曜夜、代官山蔦屋書店で小さな展覧会『Kamuy Mosir カムイ・モシリ』を開催中の遠藤文香(えんどう・あやか)さんとのオンライン・トークがあった。 告知にちょっと書いたが遠藤さんの作品を知ったのはこの春、東京藝大大学院の修了展を知らせる彼女のツイート。そのときは行けなかったのが、7月に初個展が丸ノ内KITTEであると知ってさっそく見に行き、感想をFacebookに書いたのを彼女が見てトークの相手に呼んでくれたのだった。初個展からわずか1ヶ月と少し。大学院の修了展からだってまだ数ヶ月なのに、もういろんなメディアが彼女の作品やインタビューを掲載しているし、ファッション・メディアなどでの仕事もアップされてきていて、注目度の高さに驚く。 トークの夜はフジロックの最終日、よりによって電気グルーヴとまるかぶりしたりで、あまり多くのひとに見てもらえなかったと思う。でも遠藤さんとのお話はとても興味深かったので、『カムイ・モシリ』以前につくられてきた作品などもたっぷり紹介しながら、トークの内容を紙上再現してみたい。

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気配の写真――酒航太『ZOO ANIMALS』

中野のすぐ隣とは思えない静かな(ひなびた)新井薬師駅かいわい。もともと写真屋さんだった店舗を使ったギャラリー&バー「スタジオ35分」は、これまで何度もメルマガに登場してもらった。写真屋時代の看板の「プリントスピード仕上げ35分」から、「プリントスピード仕上げ」の部分を削っただけという「35分」のネオン看板。しかもギャラリーなのに夜しか開かず、隣接のバー(もとラーメン屋)との壁をくり抜いたのでギャラリーからそのままバーカウンターに移動・飲酒可能という、いろいろユニークなギャラリーだ。 店主の酒航太(さけ・こうた)は1973年生まれ、サンフランシスコ・アート・インスティチュートを卒業した写真家であり、自身の制作を続けながら、2014年からスタジオ35分のギャラリーを運営、カウンターにも立っている。

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死刑囚表現展 2021

毎年10月に開催されている世界死刑廃止デー企画「響かせあおう死刑廃止の声」。今年は10月9日に新宿・角筈区民ホールで開催。ゲストに弁護士の徳田靖之さん、ジャーナリストの青木理さん、そしてアーティストのSUGIZOさんも参加しての開催となった。ロビーでは例年どおり死刑囚たちの絵画作品などが展示されたが、去年に続いて新型コロナ感染防止で密を避けるために応募作品の全点を展示することができず、かわりに11月5日から7日までの3日間、昨年と同じ中央区入船の松本治一郎記念会館で全点展示とのお知らせをいただいた。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を紹介した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから今年で10年目となるまで、何度も誌上で紹介する機会があったが、いまだに美術メディアで正当な扱いを受けているとは言いがたい。もう、そういうことに文句をつけたりする気も失せたけれど、メルマガが続くかぎり!しつこく紹介し続けるつもりなので、ひとりでも多くのかたに見てもらい、死刑に反対のかたも、賛成のかたも含めて、日本の死刑制度が抱える多くの問題に関心を持っていただけたらなによりである。

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おかんアート村の住人たち 2 野村知広さんのこと

東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中の「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」から、先週の嶋暎子さんに続いて今週は同じ展示室2「おかん宇宙のはぐれ星」から、嶋さんの新聞紙バッグと隣り合い新聞チラシ箱を展示している野村知広さんを紹介する。 新大阪駅のすぐ北側。自称「日本でいちばん駅近の福祉施設です!」という西淡路希望の家に野村知広さんがいる。1972年生まれ、希望の家に30年以上通所し、いまは近くのグループホームで暮らしている。 野村さんは漫画日記のようなものを書いたり、織物をしたりと多彩な才能の持主だが、特に秀でているのが「新聞の広告チラシを折ってつくる箱」。広告チラシをものすごくきれいな折りたたみ式の箱に仕上げて、それを何十,何百とつくり続けている。もともとは親戚のおばさんに折り方を教わったのがきっかけで、家でやることがないヒマなときにつくっていたのを、しだいに施設に持ち込むようになったとか。こんなに大量につくるようになったのは、12年ほど前にグループホームに入所してからとのこと。

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死刑囚表現展 2022

毎年定例のお知らせとなっている「死刑囚表現展」が今年も10月14日から16日までの3日間、東京・入船の松本治一郎記念館で開催される。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された展覧会を取材した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから何度も誌上で紹介する機会があったが、いまだに美術メディアで正当な扱いを受けているとは言いがたいのに、展示会場は毎年たくさんのひとで賑わっている。「アート」と思われていない場所でどんな創作が花開いているのか、専門家ではないひとたちのほうがちゃんとわかっているのだろう。

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妄想芸術劇場 #01 ぴんから体操 前編

2010年代の初め、ぴんから体操の投稿作品に震撼し『ニャン2倶楽部』や姉妹誌(兄弟誌か)『ニャン2Z倶楽部』を読み耽っていたころ、発行元のコアマガジンからWEBマガジンを立ち上げたので、なにか書かないかとお誘いいただいた。 その名も『VOBO』、「ECSTACY WEB MAGAZINE」とサブタイトルにあり、ニャン2本誌とは異なりそのスジの著名人(そしてもちろん愛読者のはず)であるひとたちのエッセイ中心で、じっくり熟読できる内容だった。みうらじゅん、ケロッピー前田、会田誠、根本敬、リリー・フランキー、丸尾末広、佐川一政などなど、創刊号からして豪華メンバーで、しかも毎週火曜日更新、しかも無料!

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小松葉月「あらいぐまと登る」

もう会期が終了してしまった展覧会で申し訳ないが、7月6日から16日まで渋谷のRoom_412 で開催された小松葉月個展「あらいぐまと登る」に行ってきた。いま再開発でぐちゃぐちゃになっている渋谷駅南口、桜丘町の奥まった古いビルにある小さなギャラリーでの短い個展。見逃してしまったひとが大半だと思うので、ここで報告しておきたい。 小松葉月(こまつ・はづき)と出会ったのは2014年の川崎市岡本太郎美術館。岡本太郎現代芸術賞で特別賞を受賞したインスタレーション《果たし状》だった。

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妄想芸術劇場 #07 政尾早和惠

政尾早和惠(まさお・さわえ)はニャン2創生期からの名物投稿者のひとりである。御本人が1993年に投稿された作品の裏に「・・通算45枚目の投稿です。'90年8月の初採用から93年7月までの3年間の投稿枚数は38枚、採用数は24枚。月1枚の投稿で6割強の採用率」と書いているとおり、90年代初期の投稿ページでは欠かせない存在であった。 その彼は、しかし94年ごろになって突然、投稿をストップしてしまう。そしてほとんど10年ぶり近い2002年ごろになって、また本格的な投稿が始まっている。そのあいだに、なにが起きていたのだろうか。

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刺青村長!

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで今月28日から開催されるのが、片山恵悟さんの『刺青村長』。「刺青村長、変態村の住人たちの、歌と踊りのしつこい饗宴!」というキャッチコピーもイカレてますが、写真もすごい・・見ておわかりのとおり。片山さんは本業が雑誌編集者。それも『実話マッドマックス』『劇画マッドマックス』両誌の編集長という、なかなかスリリングな誌面の責任編集を長く続けているので、その人脈と度胸とエネルギーは大したもの。東京の、いちばんディープなアンダーグラウンド・シーンに案内してくれます。

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Between C & D

カネはないが元気だけはありあまってる、そういうアーティストがおもに住んでいたのが、ニューヨークではダウンタウン・マンハッタンの東側、ロウアー・イーストサイドと呼ばれる地域だった。ご承知のようにマンハッタンは東から縦に1、2,3と順番にアヴェニューが走っているが、ロウアー・イーストサイドにはファースト・アヴェニューのさらに東側にアヴェニューA、B、C、Dという短いアヴェニューがある。

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ダンスに捧げた人生――『まだ踊る Still dancing』

『まだ踊る Still dancing』と名づけられたそれは、黒沢輝夫・下田栄子・黒沢美香の3人による舞台だ。ダンス・ファンなら黒沢美香さんの名前を知るひとは多いと思うが、黒沢輝夫さんと下田栄子さんは美香さんのご両親であり、黒沢さんが84歳、下田さんが80歳の現役舞踊家。しかもプログラムの最後は、おふたりに縁の深い日本モダンダンスの先駆者である石井漠(いしい・ばく=自由が丘の名付け親でもある)が1921(大正10)年に初演した『山を登る』の歴史的再演でもある。

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明暗分かれるケルンのふたつのミュージアム

ベルリンにお株を奪われるまでは、ドイツ現代美術シーンの中心だったケルン。いまケルンを訪れる美術、建築ファンが真っ先に向かうのは、完成まで600年かかった奇跡のケルン大聖堂・・・じゃなくて、そのすぐそばに2008年に完成した通称「コロンバ」―― 聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館だろう。

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ゴシックホラー喫茶・伴天連

広島県東広島市西条。県道32号線から「広島カントリークラブ西条コース」の指示看板を頼りに脇道に入り、コース内を通り抜けて裏山へと登っていく。人家も途絶え、こんなところに・・と不安が募るころ、カーブした道の先に「伴天連」と大書された柱が。ああ、やっと見つかった。これが広島エリアで名高い「ゴシックホラー喫茶」伴天連(バテレン)なのだ。いままでテレビ番組などで何度も取り上げられた、ある意味地元きっての有名店である。

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70歳のマダムが支えつづけるロック・スピリット

歌舞伎町から大ガードをくぐって西口側に出る靖国通りと、いまは大江戸線が地下を走る小滝橋通りの交差点から、北側に広がる新宿7丁目あたり。“新宿”という語感からはちょっとはずれた地味なエリアである。ここが超のつくレア盤からブートレッグ(海賊版)まで網羅した店が一時は50軒以上も林立した、世界一密度の濃いレコードCD屋街でありつづけていることは、一部の音楽ファン以外にあまり知られていない。そういうマニアックなエリアの中で、日本はもとより世界のロック・ファンにとって聖地として輝くのが、新宿レコードである。

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タイガーバーム・ガーデンズ(ハウパー・ヴィラ/虎豹別墅)

胡文虎(Aw Boon How 1882-1954)と胡文豹(Aw Boo Par 1888~1944)の兄弟が築いた万能軟膏タイガーバーム帝国。ミャンマー(ビルマ)のヤンゴンで華僑の漢方薬屋に生まれたふたりの兄弟が、タイガーバーム(萬金油)の発明で億万長者にのし上がったのはすでに戦前のことだった。1926年には拠点をシンガポールに移し、32年に香港進出。豊富な資金をもとに「伝統的な中国の神話や道教の教えを説く,啓蒙の場所」として35年にタイガーバーム・ガーデン香港を開き、2年後の37年にはシンガポールにも同様のガーデンをオープンさせた。

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新連載:スナックショット(平田順一)

もうずいぶん前に、平田順一という青年と知り合った。彼は工場で働く日々を過ごしながら、お菓子のブリキ缶などを並べて叩きながら自作の歌を歌うノイズ・フォークみたいな音楽活動を続け、さらには休みを利用して地方のスナック街を歩き回り、看板などを撮影しているという。後日、その写真アルバムを見せてもらったら、フットワークがすごいし、なにより視点がおもしろい。それに、僕が撮影したスナックとずいぶんかぶってる!

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スナックの灯よ 闇夜を照らせ

3月11日から3ヶ月近く経った6月になっても、仙台塩釜港にほど近い多賀城市の飲み屋街は、がれきだらけだった。『さざん花』『ハニー』『酔族館』・・ぐちゃぐちゃになったドアや看板の先に、ひとつだけ灯りがついた飲食雑居ビルが見えた。がれきが積み上げられたエントランスを抜け、止まったままのエレベーターの脇の非常階段を2階まで上がってみると、一軒のスナックから楽しそうなカラオケの音が漏れている。そっとドアを開けてみると、若いママさんと、さらに若い女の子たちと、お客さんたちで店内はほぼ満員。いい感じに盛り上がってる! 少しずつ詰めてもらって空いた席に座って、とりあえずウーロンハイをぐびり。被災地を歩き回ってカチカチになっていたこころのしこりが、なんだか一気に溶けていくような気がした・・。

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連載:スナックショット 03 北海道 後編(平田順一)

北海道には過去3回行っている。1回目は1990年で札幌と函館に行ったが、これは団体旅行のため自由行動皆無である。2回目は1998年で、この時も5日間乗り放題の「北海道フリー切符」を使用して稚内・網走・根室まで行ったが、JRの乗車距離を稼ぐあまり全部車中泊となってしまった。3回目は2003年で、往復千歳空港・札幌市内泊の格安ツアーパックを利用している。今回は4回目だが、過去3回は函館と札幌以外、ほとんど街を歩いていない。これを補完する意味で、徹底して街を歩くつもりで来ており実際に初日で7都市を歩いた。旭川のホテルでゆっくり考えようと思ったが、ビール3缶飲んだら眠ってしまった。

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記憶の島

川崎の生田緑地にある岡本太郎美術館で、いま『記憶の島――岡本太郎と宮本常一が撮った日本』という展覧会が開催中です(10月8日まで)。宮本常一(みやもと・つねいち)は偉大な民俗学者であり、僕のこころの師匠でもあるというか・・『土佐源氏』のような物語を、死ぬまでにひとつでいいから書いてみたいというのが夢でもあり。宮本常一は1907(明治40)年、岡本太郎は1911(明治44)年生まれ。ふたりは同時代人でもありました。そして岡本が華々しく活躍しながら、美術業界からは常に一歩引いた目で見られてきたように、宮本もまた民俗学の本流であった柳田国男派から長らく、徹底的に冷ややかな目で見られてきた、アウトサイダー的な存在でもありました。

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須坂の夜は、やっぱりスナック来夢来人!

信州中野生まれの小林千枝子ママは、須坂の会社で事務員として働いたあと、何軒かのスナック勤めを経て、平成元年に自分の店を出した。「主婦しながらだったので、朝は主人と子供たちを送り出して、昼はパート、夜にいちど家に帰って、ご飯作ったりしたあと、夜11時から朝2時ぐらいまでスナックで働いてましたからねえ、よくからだが持ったもんです」と当時を思い出して笑っているが、子育てと夜の仕事の両立は、さぞや大変だったろう。

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平田一式飾:山陰のアルチンボルドたち

島根県平田市・・・ああ、あそこねとうなずく人は少ないだろう。出雲大社からクルマで30分ほど。シジミで有名な宍道湖そばにある小さな町である。毎年7月19日から3日間、平田天満宮の祭礼にあわせて、市内の数ヶ所に不思議なオブジェが出現する。陶器や仏具をはじめとするさまざまな日用品を組み合わせて作られる、「一式飾」(いっしきかざり)と呼ばれる飾り物である。陶器なら陶器だけ、仏具なら仏具だけと、1種類の素材だけを使って組み上げられることから「一式飾」と名がついたこの行事、江戸時代は寛政5年(1793)年に平田町の住人であった表具師・桔梗屋十兵衛が、茶器一式で大黒天像を造って天満宮に奉納したのを始まりとする。すでに210年以上の歴史を持つ伝統行事なのだ。

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コラアゲンはいごうまん、ついに初DVD発売!

本メルマガ読者にはすでにおなじみ、旅するドキュメンタリー漫談芸人「コラアゲンはいごうまん」が、このほど初めてのDVDをリリースしました。コラアゲンはいごうまんについては、すでに5月2日号で『コラアゲンはいごうまんの夜』という長編インタビューを掲載していますし、購読者特典として5月11日に開催された『コラアゲンはいごうまんx都築響一 トーク&ライブ』から、特選ネタ『走れ、ピンクランナー!』がご覧いただけるようになっています。

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湘南ミュージアム・トリップ

横なぐりに近い大雨の日曜日、横須賀線を降りて鎌倉駅に降り立つと、傘を握りしめた勇敢な観光客がひしめきあっていた。人力車の兄ちゃんも、びしょびしょになりながら客引きに声を嗄らしている。こんな日に人力車に乗るひとなんて、いるのだろうか。おばあちゃんの、とは言わないまでも、おばちゃんの原宿みたいな土産物屋街を抜けて、鶴岡八幡宮の脇を歩くこと約15分。まず右手に神奈川県立近代美術館・鎌倉館が見えて、それを過ぎてもう少し歩くと、反対側に鎌倉別館という小ぶりな建物に辿り着く。

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夜をひらく 女の市場

ハリウッド映画のはずなのに、なぜかエンディングで日本の歌手の“テーマソング”が流れたり、ストーリーとなんの関係もない「挿入歌」がドラマを盛り下げたり。最近の広告代理店主導の映画やテレビ・ドラマと歌の関係って、すごく不純だ。その昔、「歌謡映画」というジャンルがあった。だいたいまず曲が大流行して、それにあわせて急造されたB級映画ではあるが、なにより曲の歌詞と映画のストーリーがちゃんと連動していたし、歌手本人が映画にも登場して、キャバレーのシーンとかで歌っていた。いま見直せば、あたかも1時間30分のミュージック・ビデオのように、それは音楽と映像の幸福な結合だった。

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スナックショット 09 茨城(平田順一)

今回のスナックショットは茨城篇、茨城といえば全国的には梅の水戸偕楽園が有名ですが、アートの好きな人には水戸芸術館の意欲的な企画展が知れ渡っていると思います。だいぶ前にエレキギターの父、寺内タケシ氏が全国の高校を回って高校生を相手に「60年ギターを弾いてひとつだけわかった、ギターは弾かなきゃ音が出ない」と語っているのをテレビで見て感銘を受けたのですが、この言葉を思い出して「とにかく歩かなきゃ出会えない、撮らなきゃ写らない」と今年の秋に茨城の写真を撮ってまわりました。今年行けなかった日立市のほかに、雰囲気が良いので数年前の写真を選んだところもありますが、現在進行形のスナックショットをご覧ください!

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テキーラ飲んでゾンビになろう!

10月10日配信の038号で、東京のゾンビ・シーンをお送りしましたが、11月3日にはメキシコシティで恒例の「ゾンビ・ウォーク」が開催されたというニュースが到来。写真を送ってくれた友人のアーティスト、モーリシー・ゴムリッキ君によれば(ワルシャワ生まれ、メキシコシティ在住のアーティスト)、これはメキシコシティの革命記念塔からソカロ広場までを練り歩く、というかゾンビ・ウォークする人気イベントで、なんと去年は参加者9806名! で、ギネスの公式世界記録に認定されたそう。当日はだいたい朝10時ごろから広場にひとが集まりはじめ、記念写真撮りあって遊んだり、だれでも無料でやってもらえるゾンビ・メイクを試したりしているうちに雰囲気が盛り上がり、午後3時ごろからウォークの開始。スタートまでのだらだら感が、メキシコっぽい!

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連載:スナックショット 11 新潟(平田順一)

どうも下町のナポレオン、平田です。北海道から東北を経て関東地方の連載を続けましたが、今回は紅葉前線に逆行して新潟篇です。ひとむかし前は「チャッラーン! 越後生まれのこんぺーでえーす!」とNTV系「笑点」の挨拶で怪気炎を上げる林家こん平師匠、そのまえはコンピューター付ブルドーザー田中角栄氏の姿が良くも悪くも越後を印象付けるものとして記憶に残ってますが、こっちは坂口安吾のように、酒場の壁やネオンサインに美を求めて歩き回りました!

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たまたま少数派vsぬるま湯少数派

僕はしがない編集者だ。現代美術やデザインの本を作っているが、どれも初版2000部、3000部という侘びしいスケールで、印税生活など夢のまた夢。渡辺淳一のような高額納税者になる確率など、一生ゼロのままだろう。そういう事実からすれば、僕はたしかに「少数派」ということになる。でも、正直に言ってしまうと、少数派なんてキライだ。っていうか、別に好きで少数派やってるわけじゃない。メジャーになりたいけど、残念ながら本がそこまで売れない、ただそれだけのことだ。

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旅館は君なんか泊めたくないのだ――日本温泉旅館七不思議

温泉旅館、と一語にされても困る。「温泉」と「旅館」。この二者はまったく別物である。少なくとも僕にとっては。何年間も職業として日本全国を旅してきた立場から言わせてもらえば、温泉とはまことによいものだが、旅館とはしばしば嫌悪すべきものにほかならない。なぜかといえば、1 予約なしのひとり旅では、まず泊めてもらえない。2 メシがまずい。あるいはよけいな皿が多すぎたり、時間が早すぎる。3 高すぎる。旅なんてのは、本来ひとりで、予定など決めずに行くものだろう。気に入ったところがあればそこに泊まり、なければ車や電車で先へ行く。旅館とはその晩、からだとこころを休める場であるはずだ。「名旅館に泊まる楽しみ」みたいのもあるだろうが、それは例外的な趣味であって、旅館そのものが目的になってしまうのは、ちょっと本末転倒な気がする。

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食の無限天国「聚楽ホテル」で煩悩全開!

夕食はバイキングでお腹いっぱい。ひと風呂浴びて、小腹が空いたら餅つき大会のお餅をパクリ。カラオケ絶唱の後は締めの生ビールとラーメンをペロリ。巨大観光温泉ホテルで煩悩を解き放つ! 旅館の廊下を芸者衆が忙しげに行き交い、浴衣姿に下駄をカランコロンさせて外に出れば、いい匂いの女の人たちが袖を引き・・・飯坂温泉はかつて、東北屈指のオヤジ天国だった。東北新幹線が開通して、東京駅から2時間弱、ものすごく便利になった現在はといえば・・・はっきり言って、かなり寂れた温泉街であります。

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連載:スナックショット 13 長野2(平田順一)

寒中お見舞い申し上げます、どうも平田です。今年もぐっと胸にくるような街角、時空を超越したような酒場を求めて歩き回りますので、よろしくお付き合い願います。今回のスナックショットは長野県北信地方、15年前冬季オリンピックの舞台となった長野県の北部です。長野県は首都圏から割と近いわりに気候・風土が関東平野と異なるので、夏は避暑、冬はスキーやスノーボードで活況を呈しており、そのどちらにも縁がない自分も足繁く訪れている。

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スナックショット 14 長野3+山梨(平田順一)

どうもオッサンの面を被ったカメラ女子、平田です。今回も地域ごとに撮った写真をまとめていく過程で、ここもあそこも外せないと選択に迷いました。というわけでもう1回長野県から中信地方・諏訪・伊那、中央本線と国道20号に沿って山梨県からお送りします。古くから日本海側と太平洋側を繋ぐ街道の交錯するところで、伝統的な宿場町・門前町の風情を留めつつ、街角や店の背後に上高地や八ヶ岳の山々を望む2004年から2011年にかけての記録ですが、撮影時期の新旧にかかわらず現況がどうなっているか気になります。

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スナックショット 15 神奈川(平田順一)

どうもスナック馬鹿一代、平田です。好きなトラベルエッセイの本はいくつもあってたびたび読み返しているんですが、全国各地・世界各国を旅した人の本でも、東京やその周辺について触れた文章が少なからず存在しています。わざわざ遠くへ行かなくても、東京周辺にも面白い場所はいっぱいあるよ、といった文面を追ってみると、日常の観察眼が優れているからトラベルエッセイも面白いのか、逆に旅先での体験が日常にフィードバックして東京周辺も面白くなるのか? 多分その両方の要因が混ざっているとは思いますが、足元がしっかり据わっていて、なおかつどこでも好奇心をもち続けるのは、トラベル関係なしに通常のエッセイでも成立するなと気付きました。

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畸人研究学会報告 03 奇書居くべし、醤油鯛の濃厚な世界

昨年末、新宿にあるミニコミ専門書店の模索舎で、私は奇妙な本を見つけた。『醤油鯛』と題されたその本は、よくお弁当についている、醤油が入った鯛をかたどったプラスチック製の小さな入れものについて研究した書物であった。『よくお弁当についている醤油入れのことだよな、それにしてもこんなものまで研究している人がいるんだ』と思い、本を手にとってみて驚いた。醤油鯛の本の中身はこれまで蒐集された醤油鯛を6科21属76種に分類するなど、様々な醤油を入れる魚型のプラスチック製容器の“生物図鑑”のような構成になっていたのだ。例えばナミショウユダイ科コガシラショウユダイ属薩摩醤油鯛などという、分類名がつけられている。

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ROADSIDE FASHION x eastern youth

せっかくイースタンユースのことを書いたので、今回のアーカイヴは2011年に『SENSE』というメンズファッション誌に掲載したお話を。この雑誌では半年ほど『ROADSIDE FASHION』という連載をしていて、「うちのブランドイメージにふさわしくない」とスポンサーすじに怒られて辞めるまで、7回の記事をつくったのだけれど、そのひとつがこれ。ただの古着をとんでもない値段で売る、おしゃれ古着屋は大嫌いだ。でも、ほとんどすべての商品が数百円という、ほんとうの意味での古着屋に、それも東京都内で出会って大興奮。スタイリストにお願いして山ほどの衣装を買いまくり(借りるまでもないし)、イースタンユースの3人にモデルになってもらった、珍しいファッション・ページです。お世話になった古着屋『ヴァンベール』はいまも健在、盛業中なので、東京右半分にお出での際はぜひお立ち寄りを。

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今和次郎のこと、広島のこと

ちょっと前の告知コーナーでお伝えしたように、いま広島市現代美術館では『路上と観察をめぐる表現史――考現学以後』というグループ展が開催中です。「考現学」という言葉は今和次郎が吉田謙吉らと1920年代なかばに提唱、研究を始めたジャンル。今回の展覧会は今和次郎の考現学から、戦後の赤瀬川原平や藤森照信らによる「路上観察学会」など、ふつうのひとびとの暮らしを見つめてきたアーティストや研究者たちの、観察記録を集めたユニークなグループ展です。そのなかに僕の「珍日本紀行」や大竹伸朗の作品群も含まれているのですが・・・。2月16日に美術館で開催された公開対談でもお話したように、大竹くんや僕が見てきた「路上」と、学問(あるいは学問ふう)の視線で観察されてきた「路上」にはずいぶん隔たりがあります。

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『つくることが生きること』の空虚

先週のメルマガで特集したワタノハスマイルの新作が展示されている、神田3331の東日本大震災復興支援『つくることが生きること』東京展に行ってきた。もともと錬成中学校という千代田区の公立中学校だった建物の、1階展示室の主なエリアを使った広い展示空間に、大震災で肉親を失った畠山直哉さんや、建築写真で知られる宮本隆司さんをはじめとする多数のアーティスト、研究者が参加した合同展である『つくることが生きること』。大きな期待を持って会場に足を踏み入れ、最初に感じたのは――静かすぎ! という抑えきれない苛立ちだった。

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今夜も来夢来人で ~ 敦賀編

読むたびに激しく旅情をかきたててくれる、平田順一さんの連載『スナックショット』。今回は石川、福井編だったので、アーカイブ・コーナーも福井県敦賀市で取材したスナック来夢来人を再録してみました。もともとは『アサヒカメラ』誌で2008年から2010年にかけて連載されたこのシリーズ、敦賀編が記念すべき第1回目だったので、イントロ付きでお送りします! しかし読み返して感慨深かったけど、この連載を始めたきっかけのひとつが、ニコンからD3という高感度に強いフルサイズ・デジカメが発売されたから。それからたった5年弱で、D3はとっくに時代遅れ・・・まだ愛用してるけど! フィルムカメラは古くてもヴィンテージになるけれど、デジカメはコンピュータと同じ、ただの時代遅れになるだけなんですねえ・・・涙。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」田我流、そしてこんどの日曜日はイースタンユース!

先週日曜日から始まった「都築響一 ROADSIDE RADIO」。聴いていただけたでしょうか。インターFMという東京ローカル局、しかも日曜深夜12時半から1時半までという時間帯にもかかわらず、圏外からもRADIKOやLISMO WAVEといったアプリで聴いたというメッセージをたくさんいただきました。どうもありがとう! 記念すべき第1回めの放送は、3月2日に渋谷クアトロで開催された「極東最前線」から、田我流のステージを時間いっぱい、たっぷりお送りしました。『ヒップホップの詩人たち』にも登場してもらった日本語ラップの新鋭ですが、そのステージの熱さに、びっくりされた方も多いかと。

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連載:スナックショット 20 滋賀(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは古戦場や史跡の多い滋賀県、自分の拙い写真にも歴史の重さが滲み出ているはずです。2010年まで上野から高崎線・上越線経由で金沢へ向かう夜行列車が出ており、これをよく利用して出かけていました。「東京発金沢行」の切符ではなく、金沢→福井→米原→東京と帰ってくる「東京発東京行」の切符をJRの窓口で作成すると、乗車券・急行券などを合わせて2万円くらい、新幹線で名古屋まで往復するのと同額ですが、名古屋に行くなら夜行列車で金沢を経由しても、滋賀・岐阜・愛知・静岡には途中下車ができ、米原から切符を買い足せば京都へも安く行けて、振れ幅が大きい旅行になります。かような経緯で前回の石川・福井篇や愛知・岐阜篇と同じ時期に、上野発の夜行列車で滋賀にも行きました。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」、蓄音機で爆クラ!

ヒップホップの田我流、ロックのイースタンユースと続いてきたインターFM『ROADSIDE RADIO』のフィールドレコーディング・シリーズ。21日深夜の第3回では趣向、というかジャンル一転、クラシックの世界をお送りしました。『蓄音機に溺レテ、ハマれ』――2011年から六本木のライブスペース「音楽実験室・新世界」を舞台に、もう2年間も満員御礼を続けている人気イベント『爆クラ』の、今月9日に開催されたばかりの第21夜です。爆クラ、とはその名のとおり爆音クラシック。コンサートホールではなくライブハウスで、クラブ仕様のサウンドシステムでクラシックの名曲を堪能しようという、すばらしくマニアックな人気イベントです。

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ヌケないハダカ

篠山ヌードとは、ヌケないヌードである。ま、そんなことない!と言い張る諸君もたくさんいるでしょうが。当代一の人気ポルノ・アクトレス、夏目ナナが丸坊主で仁王立ちになって、こっちを睨んでいる。すごいからだだな、とは思うけれど、ぜんぜん欲情しない。ホームグラウンドであるDVDでは『「超」ヤリまくり!イキまくり! 24時間!!』『Gカップ美人巨乳秘書 10連発!野獣中出し』なんて作品をリリースしまくり、「チンポおいしい! もっとチンポちょうだい! ナナに精子かけて!」などと大阪弁で絶叫しまくり、「ほぼすべての出演AVでイッてる」と公言するセックス・クイーンであった彼女。その全身からしみ出すスケベ汁を、篠山さんのカメラはきれいに拭いとってしまっている。

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ガラパゴス・シティ、大阪

昔は憧れて京都に住んでみたこともあるけれど、いまは仕事に行くにも、遊びで行くにも、京都より大阪のほうが百倍好きだったりする。一見、なんの変哲もない、なんの風情もない大阪の街を歩いていて、突然に出くわす人々や風景。そこには同じ日本でありながら、明らかに東京とも、京都とも、ほかのどこともちがう、大阪っぽいとしか言いようのないノリというか、グルーヴというか、そういう異質な空気感が確実にある。だから僕にとっての大阪のイメージは、ここだけがどこか別な方向への進化を辿っているとしか思えない、ガラパゴス的な印象の場所でもある。そういう大阪の空気をすごくうまく捉えている、若い写真家が谷本恵さんだ。

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スナック・ビルの人生迷路 前編

街にはスナックがあり、スナック街があり、スナック・ビルもある。上から下までずらりと店が詰まった飲食ビルは、どこの飲み屋街にも見受けられるが、たとえば新橋駅前ビルのように、上階はふつうのオフィスなり住居でありながら、階下に降りるといきなりフロア丸ごと飲み屋街、ということになると、ちょっと珍しくてウキウキしてくる。品川区五反田。駅西口を降りてすぐ、JRと東急池上線、それに目黒川がかたちづくる小さな三角形に、ロイヤルオークというビジネスホテルが建っている。外から見ればふつうの駅前ビジネスホテルだが・・・ここ、実は地下1階、1階、2階の3フロアがすべてスナック、キャバクラ、居酒屋という強力なインドア飲食街。

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ROADSIDE RADIO 大阪のラッパーと高知のブルースマン

5月20日の「ロードサイド・ラジオ」では大阪のラッパー、チプルソのライブをお送りしました。『ヒップホップの詩人たち』でも取り上げた新進気鋭の、そしてかなり異質なラッパーです。記事のためにインタビューしたときはまだアルバムが、それも自主制作で1枚あっただけでしたが、今回は2枚目のアルバム・リリースを記念しての「リリパ」――去る4月5日に大阪心斎橋・アメ村のクラブ・クラッパーで行われたばかりのステージを録音してきました。

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ROADSIDE RADIO 渋さ知らズで2週間、仏恥義理!

毎回毎回、僕が好きなミュージシャンのライブを1時間もオンエアするという、ありがたい贅沢をさせてもらってるロードサイド・ラジオですが、出演してもらうミュージシャンを選ぶ基準というのは、「知られてないけど、こんなすごいひとがいる」というレア感よりも、むしろ「こんなにみんな好きなのに、どうしてラジオやテレビで聴けないんだろう」という疑問というか、焦燥感をまず基準にしています。僕らが聴きたい音楽と、業界が僕らに聴かせたい音楽がものすごくちがってしまっているところに、今日の音楽業界の根本的な問題があるわけですが(それは音楽に限らないけれど)、そういう意味で日本のみならず、世界的なレベルでものすごく人気があるのに、めったにマスメディアに乗ってこない音楽。その代表が「渋さ知らズ・オーケストラ」ではないでしょうか。

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ROADSIDE RADIO 倉地久美夫@高円寺円盤

6月16日深夜のROADSIDE RADIOでは、福岡県甘木(現・朝倉市)在住の倉地久美夫さんのライブをお送りしました。録音させてもらったのは6月8日、高円寺のレコード/CDショップ円盤でのステージ。いかに「録って出し」か、おわかりかと・・・汗。2週間続けて渋さ知らズ・オーケストラの熱いライブのあとの、うってかわってアコースティックな世界。倉地久美夫さんはギターを持った吟遊詩人と形容したい、なんともユニークなミュージシャンです。一昨年、『庭にお願い』という倉地久美夫さんを追ったドキュメンタリー映画が公開されたので、ライブは見たことなくても名前は知ってる、という方も多いかもしれません。倉地久美夫さんは1964年、福岡県の甘木市で生まれて、いまも市内に住んで活動しています。

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ROADSIDE RADIO アーティスツ・チョイス特集

6月30日深夜のロードサイド・ラジオは、『アーティスツ・チョイス』という変わったシリーズのCDをまとめて紹介しました。文藝春秋が社が2000年に発刊した月刊誌『TITLE』のために、僕はその創刊号から2007年まで丸7年間にわたって、『珍世界紀行 アメリカ裏街道を行く』という長期連載をやりました。終わったあと、間もなく雑誌も休刊となってしまい・・・僕のせいじゃないと思いたいです(笑)。のちにそれは『ROADSIDE USA』という分厚い単行本になったものの、連載時にものすごい経費を負担したにもかかわらず、版元は文藝春秋でなくASPECTだった・・・というところに、文藝春秋のこの企画への複雑な思いが反映されてるのかも(笑)。

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ROADSIDE RADIO こだま和文 with DJ YABBY

7月7日のロードサイド・ラジオは、スタジオからライブハウスのフロアに戻って、六本木「音楽実験室・新世界」におけるライブ「こだま和文 from DUB STATION@新世界 vol.8 6.29 MU-SICな日」と題された、6月29日のステージをお送りしました。7日の七夕は、その前にDOMMUNE女将劇場があったので、続けて両方視聴してくれた方もたくさんいらっしゃったそう。長時間のお付き合い、ありがとうございました! ちなみに「MU-SICな日」とは、「6(ム)月29(ジ・ク)日」だから・・・。

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ROADSIDE RADIO コラアゲンはいごうまん・ラジオ独演会!

お聞きいただいた方も多いでしょうが、14日深夜の「都築響一 ROADSIDE RADIO」は、コラアゲンはいごうまんのひとりドキュメンタリー漫談を1時間! お送りしました。それも7月6日に開催した本メルマガ・オフ会で披露したばかりのネタを、その場で録音、録って出しで放送。NHKの落語名人会とかはともかく、民放FMで芸人のトークを、ぜんぜん音楽もかけずに1時間流すなんて、アリでしょうか・・・笑。最初で最後、にならないといいですが・・・。これだけリスキーな企画、コラアゲンさんにとっても公共放送でこんなに長時間フィーチャーされるのは初めてだろうから、最初は定番ネタで、とも考えましたが、ふたりで打ち合わせたときに、どうせなら新ネタでやろうと決定。今回の岡山ネタふたつ

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ROADSIDE RADIO 2週連続、友川カズキ!

ROADSIDE RADIOでは7月28日と8月4日の2回にわたって、友川カズキさんのステージをお届けしました。7月8日に高円寺ショーボートで行われたソロ・ライブ、14日に碑文谷アピア40で開催された、こちらは永畑雅人さんのピアノ、アコーディオンと、石塚俊明さんのドラムスを加えたバンドセット。ふたつのワンマンライブを、2枚組のLPのように構成してみました。今夜が1枚めのA面、B面、来週が2枚目のA面、B面だと思っていただければよろしいかと・・。

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連載:スナックショット 28 佐賀+佐世保(平田順一)

どうも平田です。北から南へ東から西へスナック街を記録して、今回から九州を巡ります。九州といえば福岡・中洲の繁華街、南に向かえばヤシの繁るマリンリゾート、西に向かえば異国の玄関口として機能した長崎の情緒ある街並み、さらには阿蘇や別府の雄大な火山や温泉をイメージしますが、今回はどれにも該当しない佐賀県と長崎県佐世保市を練り歩きます。「キサン、何ばしょっとね?」「スナックショットば、しょっとです・・・」というわけでよろしくおつきあい願います!

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スナックショット 29 長崎(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは長崎県。長崎はご存知のように江戸末期まで国内に唯一開かれていた異国文化の街ですが、長崎県内は入り組んだ海岸線に合わせるように、複雑な歴史をはらんだ街が点在しています。壱岐・対馬・平戸・五島列島のスナック事情までは及びませんが、前回の佐賀~佐世保から連続して長崎県内のスナック街を巡ってまいります。

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スナックショット 30 大分(平田順一)

どうも平田です。自分はもともと路面電車やローカル私鉄を追い求めて沿線の街を歩いており、全国のスナック街を巡る以前に九州では長崎・熊本・鹿児島の路面電車に乗って土地の風物に触れていたのですが、今回のスナックショットで取り上げる大分県は路面電車も私鉄もなく、特に行く目的もないだろうなあと看過していました。ところが2005年に河出書房新社から出た小林キユウ著「路地裏温泉へ行こう!」を読んで別府へ行きたくなり、スタンプラリーのように別府の共同浴場を巡って歩くうちに、日本一の湧出量を誇る温泉から大量の観光客を受け入れる歓楽街を生み、さらにはお色気スポットや珍スポットも生み出した温泉街の懐にはまっていきます。

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高松アンダーグラウンド 4:彫師・高松彫藤(GABOMI)

ある朝、サササとサラダをつくってくれた、「簡単でごめんよ」。彫藤(ほりふじ)さんはひとり暮らし。だいたい6時起き。愛犬の散歩で2時間しっかり歩いた後、仏壇の水を替え、一昨年この世を去った奥様に手を合わせる。「もう5~6年前にタバコはやめたんや」と言いながら、煙たそうに火をつけ仏壇にタバコをあげた。ヘビースモーカーだった奥様へお線香代わりらしい。奥様が好きだった胡蝶蘭の横で、わたしも手を合わせた。その間、彼はテキパキ朝食をつくる。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 03 寝てる人 初秋編(ケイタタ)

今回は「寝てる人 初秋編」。このテーマ、実は連載のきっかけとなったものなのである。今夏に行なわれたFREEDOMMUNEに行った私は、自身のブログ「隙ある風景」で明け方に踊り疲れてあちこちで寝ている人の写真をアップしたところ(https://keitata.blogspot.jp/2013/07/blog-post_3409.html)、同じくFREEDOMMUNEに出演していた都築氏の目にとまることとなり「一度会いませんか」とTwitterにメッセージが来たのであった。「寝てる人」は都築さんのリクエストでもあった。さあ、満を持してお送りしよう。「寝てる人 初秋編」。コレクションは大量にあるので、初秋に撮ったものに限ってセレクトした。

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新連載! フィールドノオト

2011年の震災のすぐあとぐらいに、これも常連の大竹伸朗さんから「油絵の具と録音機をもらったんです、それで自分にとっては、写真を撮るのと、音を録るのが同じ気がして」、ドキュメンタリーとして身近なモノ音のレコーディングを開始。大竹さんとは2012年にサウンドユニット「2」を結成して、インスタレーション作品の音響に制作協力するようになり、同時に自分でも各地に旅してはカメラとマイクでの記録を始めました。

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ニューヨーク80年代を新潟で!

夏・・・野外フェスの季節だ。第1回フジロック・フェスが開催された1997年もいまや遠い昔。数えきれないほどの野外フェスが開かれ、「高い洋服は買わないけど、アウトドア用品にはカネを惜しまない」若者がこれほど増えると、当時だれが予測しえたろうか。今年もこのメルマガで紹介したいフェスはいろいろありすぎて困ってしまうが、個人的に推したいのが新潟県津南で今月19~21日の3日間にわたって開かれる『rural 2014』。国内外から多数のミュージシャンが参加予定だが、中でも注目すべきが『IKE YARD / BLACK RAIN』という、メンバーの重なるふたつのユニットである。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 04 食べる人、読む人(ケイタタ)

バンコクのような暑さと臭さの大阪もいよいよ涼しくなってきました。われわれ、熱帯ではなく温帯に住んでいたのですね。基本、ぶっかけうどんかアイスしか食べていなかったぼくも、食欲がわいてきました。「食欲の秋・読書の秋」ですね。ということで今回は「食欲の隙・読書の隙」。「食べる人」と「読む人」をテーマにお送りします。それでは「読書の隙」から。

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案山子X 02 古山のかかし祭り(栃木)/上下かかしまつり(広島)(by ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は、栃木県下野市の「古山のかかし祭り」と、案山子X第1回で紹介した「上下かかしまつり」の今年の模様を紹介します。まずは栃木県下野市下古山の「古山のかかし祭り」を紹介します。栃木県下野市(しもつけし)は栃木県の中南部に位置し、かんぴょうの生産日本一の街です。かんぴょうフェスティバルが開催されたり、「カンピくん」というかんぴょうをモチーフにしたマスコットキャラクターもいます。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 05 ファッション(ケイタタ)

前回は「読書の秋・食欲の秋」がテーマでしたが、おっと何かを忘れていたじゃないか、そうだ、ファッションの秋だ、ということで今回は「ファッション」をテーマにお送りしよう。

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ROADSIDE MUSIC:初音階段/非常階段・完全版配信!

10月30日のお知らせに書いたように、インターFM・ROADSIDE RADIOが終了してしまったので、新たな音楽リポートのプラットフォームとして、ROADSIDE MUSICという連載を始めました。すでにその第1回として088号で倉地久美夫さんの新録音・音源をお届けしましたが、そうした新ネタとともに、ラジオのために録音させてもらった音源を、アーティストの許可をいただけたものから再配信することにしました。ラジオでは1時間の枠に収めるためにカットを余儀なくされましたが(ナレーションなどあるので音楽は50分そこそこ)、今回はノーカットの完全版! ナレーションは入りませんが、いっしょにリポートのテキストと写真をご覧いただけたら、いっそう臨場感が高まるかと。

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ROADSIDE MUSIC:あらかじめ決められた恋人たちへ・リミックス完全版!

インターFM・ROADSIDE RADIOの終了にともなってスタートした、新たな音楽ドキュメンタリーのプラットフォーム ROADSIDE MUSIC。先週は初音階段/非常階段を62分30秒のノーカット完全版でお届けしましたが、今週聴いていただくのは、10月13日にラジオ放送したばかりの「あらかじめ決められた恋人たちへ」。ニューアルバム『DOCUMENT』の先行リリース・ライブとして、9月4日に下北沢シェルターで開催された人数限定の轟音ライブを、アンコールまで含めて1時間23分のノーカット完全版で。

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ROADSIDE MUSIC:イースタンユース、極東最前線89・完全版!

インターFM・ROADSIDE RADIOの終了にともなってスタートした、新たな音楽ドキュメンタリーのプラットフォーム ROADSIDE MUSIC。先週は「あらかじめ決められた恋人たちへ」をお届けしましたが、今週は今年3月2日に渋谷クアトロで開催された『極東最前線89~mockingbird wish me luck~』から、イースタンユースのライブをノーカット完全版でお送りします! 当日のゲスト・ライブだった田我流も、まもなくお届けできるはず。お楽しみにお待ちください。

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ROADSIDE MUSIC:DJ CASIN「ヒップホップの詩人たち」ミックス!

ヒップホップのミックスCDが好きなひとなら、DJ CASINの名前をご存知だろうか。DJ CASINは仙台をベースに、コンスタントなペースで独自のミックスCDを発信し続けるDJであり、ビートメイカーである。そのDJ CASINと初めて会ったのは、今年2月のこと。『ヒップホップの詩人たち』発売を記念して、仙台のクラブ・パンゲアで開かれたトーク&ライブ・イベントで、書籍で取り上げたラッパー15人の音源だけを使用したDJプレイを、1時間にわたって繰り広げてくれたのだ。

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ROADSIDE MUSIC チプルソ降臨!

今年5月20日のインターFM・ロードサイドラジオで放送した、2枚目のアルバム・リリースを記念しての「リリパ」――去る4月5日に大阪心斎橋・アメ村のクラブ・クラッパーで行われたステージ。1時間の放送ではカットしなければならなかったぶんを、今回はノーカット完全版。フリースタイル・マイクリレーとなったアンコールまでの1時間10分にわたるステージを、まるごと聴いていただきます。数々のマイクバトルでも圧倒的な実力を披露してきたチプルソの、CDとはまたちがう、ナマの息づかいがダイレクトに伝わってくるロングセットのライブ。たっぷりお楽しみください!

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ROADSIDE MUSIC:アシッド・マザーズ・テンプル

先週土曜日(12月15日)は僕が大好きなバンド「アシッド・マザーズ・テンプル(AMT)」のファンにとって楽しみな、年にいちどの恒例「AMT祭り」が名古屋のライブハウス得三で開催され、僕も行く気マンマンだったのに、どうしても時間が空かずに涙のリタイア。屈辱の土曜日になってしまいました。そのかわりと言ってはなんですが、今週のロードサイド・ミュージックでは、去る10月6日にインターFM・ロードサイドラジオで放送したばかりの、8月24日に秋葉原グッドマンで開催されたAMTのライブをお届けします。1時間のラジオ番組では3曲、それも最後はフェイドアウトを余儀なくされましたが、今回は2回のアンコールを含めた全2時間35の熱演を、ノーカットでお送りします! 2時間半でもぜんぶで7曲ですが・・・。

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フィールドノオト06 茨城県(畠中勝)

レンタカーを走らせること40時間、1泊2日の東北取材の旅。肉体的にはこたえたが生涯忘れない旅ともなった。道中、茨城県を通過。とても美しい沼を発見した。鏡のような空色の水面には存在感たっぷりの元うなぎ店が映りこむ。その姿はまるで沼を守り続けてきた巨神のように静かに朽ち果てていた。こういった美しい場所と荒廃したものが混ざり合って生まれた新風景には、ビジュアル的な表現だけに収まりきれない、ただならぬ気配を感じさせられる。実際のところそれが音なのか匂いなのかは分からないが、不明なその何かを日本の原風景として音としても記録することにした。

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ROADSIDE MUSIC 友川カズキの夜

2014年最初のロードサイド・ミュージックは友川カズキをお送りします! 去年7月28日と8月4日の2週にわたって、インターFM・ロードサイドラジオで放送した録音のうち、7月14日に碑文谷アピア40で開催された永畑雅人さんのピアノ、アコーディオンと、石塚俊明さんのドラムスを加えたバンドセットのステージを、今回はノンストップ完全版でお届けします。休憩を挟んで2時間15分あまり、ライブ盤ではなかなか味わえないトークの妙とあわせ、存分にお楽しみください。

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フィールドノオト07 福島県(畠中勝)

転々と寄り道を重ね、車を走らせること15時間。ようやく目的地である福島県に到着した。その晩、郡山の酒場で居合わせたお客さんの明るい話は印象的だった。「津波でいろんなものが流されてしまって、牛とか犬とか野生化してたって知ってるでしょ。飼われていたダチョウもそうなの。野良ダチョウ。牛、犬は分かるけど、いきなり目の前にダチョウが飛び出てくると、ホントびっくりするんだから」。そりゃそうだ。郡山は食事もおいしく楽しい人でいっぱいだった。その後、訪れた直接的な被災地とは何もかもが違って見えるほどに。

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ROADSIDE MUSIC 高知のブルースマン・藤島晃一!

昨年5月26日のインターFM「ロードサイド・ラジオ」でライブを放送、本メルマガでも6月5日号と12日号の2週にわたって、本拠地である高知県本山町の訪問記をお届けした、高知のブルースマン・藤島晃一。1月22日というから、ちょうどきょう! なんとP-VINEから初のベスト盤『通り過ぎれば風の詩』がリリースされることになった。これまでのアルバムはすべて自主制作だったため、入手が難しいものもあったが、とりあえずベスト盤に収録される14曲については、ずっと聴きやすくなるはず。本メルマガで紹介したアーティストで、自主制作からP-VINEでの再発になったものとしては、富山のブルースマン・W.C.カラスに続く快挙。こういうふうに地方で地道な活動を続ける、日本語でブルースを歌うシンガーたちが、全国的なレベルで脚光を浴びるようになるのは、いちファンとしてもすごくうれしい。

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フィールドノオト09 石川県~福井県(畠中勝)

病気をしても簡単には通院できない職業柄、年に数度、湯治へは行くことにしている。北陸地方を訪れたのはこの正月が初めてだ。普段、あらゆる行為が監視カメラで記録される大きな繁華街に住んでいるせいか、人気のない地域や場所に足を踏み入れると、とても開放的な気分になる。しかし一方で、記録されていない自分が、何かを必死になって記録している行為そのものは滑稽にも思える。

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案山子X 6:嘉瀬かかしまつり(佐賀)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は佐賀県の「嘉瀬かかしまつり」を紹介します。毎年秋に佐賀県佐賀市嘉瀬町の嘉瀬川防災ステーションで「嘉瀬かかしまつり」は開催されます。2013年に4回目の開催となり、会場には100体以上のかかしが立ち並びました。嘉瀬町では毎年秋に「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」が開催され、その期間に合わせてかかし祭りも開催されます。バルーンフェスタは嘉瀬川河川敷をメイン会場に開催される熱気球の競技大会で、大会期間中の来場者数は80万人を超える巨大フェスティバルです。地元で開催されているバルーンフェスタを盛り上げようと、嘉瀬町の住民が中心となってかかし祭りが始まりました。

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フィールドノオト10 新宿(畠中勝)

昨年の暮れから元旦にかけての新宿の音景。通りの店や町の催しは大して代わり栄えはしないが、新宿という場所柄、「そこにいる人」の入れ替えは多いように思う。キャッチの若者やオジサン、飲み屋の女の子、居酒屋前にたむろう学生、いつも決まった場所にいたようなそうでないような浮浪者たち、朝帰りのサラリーマン、そして、そんないろんな中のひとりでもある僕自身。みんなどこからやってきてどこへいくのだろう。通りすがりに録音した音源も二度ない風景画のように思えてくる。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 13 2014年2月(ケイタタ)

今回は原稿のスタイルを改めました。理由は正直に言います、ネタが少なくなってきたからです。今まで12回、テーマを変えてお送りしてきましたが、ネタのストックがなくなってきたのです。このままでは1年も経たずに連載終了となってしまう! そうなる前に手をうちました。えっ、ネタないのなら連載やめろ? そこをなんとかお願いします。というわけで、今回は「2月」の隙ある風景です。去ったばかりの2月をいつも自身のブログで書いているスタイルでも書いてみました。ぜひともご覧くださいませ。

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ROADSIDE MUSIC 友川カズキ@小岩BUSHBASH 後半

先週にひきつづいて、今週のROADSIDE MUSICは2月28日に小岩BUSHBASHで行われた友川カズキのライブ後半をお届けします。3年ぶりになるニューアルバム『復讐バーボン』を1月30日にリリースして以来、各地でライブを続行中の友川さん。後半では新譜のタイトル曲からステージが始まり、いつものように・・・と思いきや、「今年はすすめられて、若いころにつくった曲を積極的にやっていこうかと」というトークに場内騒然! その言葉どおり、長く友川カズキを聴き続けているファンからも「オオッ」という声がしばしばあがる選曲で、素晴らしく熱のこもったパフォーマンスになりました。

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新連載! 音楽に呼ばれて(湯浅学)

いまはもう存在しない文藝春秋社の月刊誌『TITLE』で、2000年の創刊号から2007年まで連載した『珍世界紀行 アメリカ裏街道を行く』は、2010年に『ROADSIDE USA』という分厚い単行本にまとめることができたが(TITLEのほうは連載終了後ほどなく休刊・・・自分のせいじゃないと信じたい)、丸7年間にわたってアメリカの隅々、というか隅っこばかりを走り回りながら、ときどき寄り道してはブルースやロックの記念碑的なスポットを探してみるのが、密かな楽しみのひとつだった。そこで撮った写真は連載記事にも、単行本にも収められることなく、単行本宣伝用ツイッター・アカウントで一瞬発表したのみ。いつかなんとかしようと思うまま時が過ぎてしまったが、このたび敬愛する音楽評論家&ミュージシャンの湯浅学さんがテキストを書いてくれることになった。

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ROADSIDE MUSIC 日本語でも英語でも、神様は泣いていた!

このメルマガの読者で、みどり◯みきさんを知らない方はすでにいらっしゃらないだろう。ライブのお知らせ、トークでのフィーチャーなど、ことあるごとに見てもらっている、インディーズ演歌歌手の女王である。告知コーナーで紹介してきたように、今年に入ってから2月と3月の2回、みどりさんのステージを見ることができた。2月2日にはみどりさんの地元である足立区の、北千住で開催されたイベント『千住ミュージックホール 第3回 サンローゼ・魅惑の駅前歌謡ショー』。そして今月3月6日、なかのの小さなホールにインディーズ演歌歌手たちが集った『2014 FM茶笛歌謡寄席』。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 15 寝てる人 春(ケイタタ)

暖かくなってきましたね。寝てる人を多く見かけるようになってきましたね、というわけで今週は『寝てる人 春』。消費税8%アップとともに枚数も8%アップ!? 100枚ならぬ108枚のてんこ盛りでございます。

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フィールドノオト13 静岡県・熱海秘宝館(畠中勝)

「熱海秘宝館」は昭和55年から続く数少ない秘宝館のひとつ。収録日は全展示室に客がいるほど館内は賑わっていた。しかも来客しているのは20代と思しき女性たちばかり。これには少し驚かされた。世の中で性に対する様々な認知や許容が広がる中、古来、“秘宝”と呼ばれてきた“聖なる異物”にも、女性たちの高い関心が広まっているようだ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 16 桜(ケイタタ)

さあ、旬のものをいきましょう。今週のテーマは『桜』です。この時期、ぼくは「花見」ではなく「花見見」で忙しい。つまり、花見をしている人を見るのである。桜の下の人間は隙だらけ。みなさんがこれを読む頃には大阪はすでに葉桜ですが、散りゆく桜を忍んでまいりましょう。

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フィールドノオト14 京都1(畠中勝)

日本からオオカミが絶滅し100余年。山に住むヒトの敵はその後、大繁殖した鹿、猿、猪となった。増えすぎたのはヒトなのか、それともそれら動物たちなのか。とはいえ、この地域住民を苦しめる畑荒らしの犯人を駆除すべく、京都の山中で長年猟をやってこられた猟師、増山賢一氏に同行させていただき、鹿猟の全貌を見学させてもらった。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 17 子ども(ケイタタ)

今週号のテーマは『子ども』。そうです、もうすぐ子どもの日。疲れた大人が見せる隙とは違った、元気があり余る故に現れる子どもの隙をぜひご覧ください。

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ペルソナのいる役所

ここは京都府庁広報課。パソコンに集中するスタッフを見おろすように、じっと動かない女性の上半身。彼女(マネキンのほう)の名前は人見知子(ひとみ・しりこ)。亀岡市に住む32歳の主婦。性格は協調性があるが人見知り。趣味はガーデニング、オークション・・なんだか不条理演劇の舞台みたいだが、これ、実は本気(マジ)。よりよい広報活動のための、新しい取り組みだ。もともとは職員のひとりが「自治体のウェブサイトを使いやすくするためのセミナー」に参加。そこで講師から紹介されたのが、「ペルソナ手法」という聞き慣れない単語だった。

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シャッター通りのポスター・ギャラリー 前編

シャッター商店街でアート・イベントを開いたり、若者を招いて「祭り」をやったりすれば、それはその期間だけはひとが集まるだろうが、終わればまた元のまま。それでは意味がないだろうと痛感したケイタタさんは、実は気鋭の広告マンでもある。そこで社内の若手たちに声をかけて、有志でプロジェクトを立ち上げたところ、予想を上回るリアクションを得て、現在も拡大続行中だ。そこでロードサイダーズ・ウィークリーでは今週・来週の2回にわけて、その楽しくも挑戦的なプロジェクトの全貌を、ケイタタさん本人から報告していただくことにした。

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シャッター通りのポスター・ギャラリー 後編

先週の誌上ポスター展「新世界市場編」に続いて、今週は「文の里商店街編」をお送りする。文の里商店街があるのは大阪市阿倍野区。最近は「あべのハルカス」の開業でちょっとだけ話題になったが、そのにぎわいはここ文の里商店街までは届いてこない、新世界市場に負けず劣らずの寂しい商店街だ。2013年秋、日下さんたちがこの文の里商店街を舞台に繰り広げたポスター・プロジェクトが、ネットはもちろんテレビ、新聞を始めとするさまざまなメディアに取り上げられて、本人たちの予想をはるかに超えるリアクションが広がった。日下さん自身も書いているように、「制作したポスターの23%が広告賞を受賞、キャンペーン全体も2つの賞を獲得、ぼくも佐治敬三賞という今年関西でもっとも活躍した広告マンに与えられるとても立派な賞をいただきました」という評価を得て、プロジェクトはいま全国のシャッター通りに広がろうとしている。今週はその全貌を、52店舗201作品におよぶ全作品とともに紹介しよう!

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案山子X 9:やまくにかかしワールド(大分)前編(ai7n)

2013年秋に7回目を迎えた「やまくにかかしワールド」という名称のかかし祭りは、大分県中津市山国町で開催されています。10月27日から約1ヶ月間、山国町の観光スポットや道の駅等16ヶ所の会場に、それぞれテーマの決まったかかしが展示されました。16ヶ所の会場は広範囲に散らばっており、撮影しながら原付で急いで見て回ったのですが全ての会場を回るのに5時間位かかりました。街中いたる所にいるかかしはざっと数えただけでも1200体以上!「かかしワールド」の名前に相応しい、国内最大級のかかし祭りです。

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案山子X 10:やまくにかかしワールド(大分) 後編(ai7n)

2013年に大分県中津市山国町で開催された国内最大級のかかし祭り「やまくにかかしワールド」の後編をお送りします。今回は9~16までのポケット村、コアわらべ村、あかとんぼ広場、やすらぎ村、駅の直販村、犬王丸パーク、つや姫村、中摩殿の8ヶ所のかかしを紹介します。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 20 会話(ケイタタ)

今号のテーマは「会話」。会話自体がおもしろかったもの、会話の関係性がおもしろかったものを集めました。長い会話も中にはあるのですが、なかなか奇妙なのでぜひともおつきあいください。それではいってみましょう。

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フィールドノオト 18 佐世保(畠中勝)

修学旅行や家族旅行で何度か連れられてきた長崎。大人になって来るのはこれが初めてだ。滞在中はいろんな場面で地元の方々に親切にしてもらった。貿易史で重要な役割を果たした長崎港。その国際的な文化交流の歴史は、やってくる観光客たちに対しての寛容さを生み出し、住民たちの心に余裕を育んだのかもしれない。とにかく魅力的な街だった。ところで、この旅は五島列島にある離島が目的地になっている。本数の少ないフェリーを乗り継ぐ必要があるため、まずは佐世保に滞在した。離島での収録音は、次回に続き、まずはいくつか収録した佐世保のフィールドレコーディングを紹介したいと思う。佐世保駅前に横切る35号線を登り、その路地裏を散策。偶然、通りかかった幼稚園や市場近くの神社、佐世保港、旅の帰りに立ち寄った小値賀島ののどかな漁村などだ。

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book

ROADSIDE BOOKS――書評2006-2014

ちょうど今週から書店に『ROADSIDEBOOKS』が並ぶ。昨年末の『独居老人スタイル』に続く、2014年最初の新刊である。「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。装丁を見てピンとくる方もいらっしゃるだろうが、今年3月5日配信号で紹介した浜松のBOOKS&PRINTSで、独自の手描きショッピングバッグをつくっている若木欣也さんの作品を、カバーに使わせてもらっている。

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フィールドノオト 19 野崎島(畠中勝)

長崎に広がる東シナ海。ここには大小合わせ1000近くもの島々があり、有人島はわずか73島。江戸中期に幕府の弾圧から逃れてきたキリシタンの村や教会が、今もひっそりと点在する。これらの島は当時からの信仰の聖地であったため、現在でもこの海域を行き交いするフェリーのデッキでは、島に向かって合掌する人々の姿が見られる。産業化していく四国の島々とは対照的に、ここでは地域の文化的理由で手つかずの島も多いようだ。中には廃村した島もある。そこでは、野生の動植物が群生し、放棄された家屋も、もはや自然に還るかのように草木や苔に飲まれ始めていた。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 23 フランス 後編(ケイタタ)

前回に続き、今回もフランス篇です。前回同様長いのですがおつきあいくださいませ。それではいってみましょう。Aller!隙アレ!

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直島の超絶スクラップ・アーティスト!

単行本に未収録の原稿をサルベージする「アーカイブ」コーナー。前にやったのはいつだったか忘れちゃうぐらい久しぶりですが、夏休み直前ということで今週は、2009年8月にこのメルマガの前に書いていたブログで紹介した、直島の小さな文房具屋の話をお送りします。ご主人の村尾さんは、2009年ですでに80歳だったので、いまごろはもうすぐ85歳になるはず。しばらくお会いしていないので、お元気だといいのですが。この休みに直島行きを計画している方は、ぜひ覗いてみてください。フェリー乗り場からも、『直島銭湯 I♥湯』からも歩いてすぐですから!

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老遊女 02 3億円の宝くじ当選を夢見る、恋する老遊女 前編(文:中山美里 写真:谷口雅彦)

「ちょっと、この話、聞いてもらえます? ペナルティが20万円、発生しちゃったんですよ……」前回の記事を書くにあたって、最年長AV女優の黒崎さんにインタビューを申し込んだ。その際、プロダクションのマネージャーから、ある女性をインタビューしてくれないかと逆にお願いをされた。その女性は沢村みきさん。昭和23年生まれ、65歳の女性である。沢村さんに、とあるAVメーカーから仕事の依頼が入ったのだが、撮影日の当日、現場に向かう途中の道端で具合が悪くなって、沢村さんが倒れてしまったのだという。

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lifestyle

日展という魔界

やっぱりいまだに泰西名画が強いんだな〜、としみじみ思うが、そういうなかでいまだに別格、最強クラス、しかし現代美術ファンにも、欧米古典美術ファンにもほとんど見向きもされない「日本最大の公募美術展」がある——そう、日展だ。去年10月30日に朝日新聞がスクープした、書道部門での入選事前配分という不正行為に端を発した日展スキャンダル報道を、興味深く読んだかたもいるだろう。一般的にはほとんど話題に上ることのない、過去の遺物的な印象しかない展覧会が、いまだにそれほど力を持っていたというか、パワーゲームの舞台になっていたことに、驚いたひとも多いのではないか。

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地上波で秘宝館が見られる日

今月いっぱいで鬼怒川秘宝殿が閉館し、ついに現役の秘宝館が熱海ひとつだけになってしまうこともあって、にわかにいろんなメディアで秘宝館の話題が見受けられる・・・遅いよ! とはいえ、ついに地上波でも(深夜枠とはいえ)秘宝館のドキュメンタリーが、それも1時間番組で放映されると聞くと、ちょっと感慨深いものもある。秘宝館と同じくらい、いまや絶滅危惧種になってしまった民放の硬派ドキュメンタリー番組のなかで、貴重な生き残り組であるフジテレビの「NONFIX」。水曜深夜2時半〜3時半(26:30〜27:30)という、ラッパーのライブみたいな時間帯ではあるものの、シリアスからサブカルまで、だれもが起きてる時間には決して放映されない種類のプログラムで、ファンのかたもけっこういらっしゃるのではないか。

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photography

写ルンです革命

先月紹介して好評を得た、木原悠介によるダクト内部写真。あれがすべて「写ルンです」で撮影されたことを、ご記憶だろうか。1986年に富士フィルムが発売した「写ルンです」は、誕生からもうすぐ30年。デジカメ、携帯全盛期の現在でも富士をはじめ、いくつかのメーカーから「レンズ付きフィルム」として販売されている。いまから30年後のデジカメがどうなってるかなんて、想像できるだろうか。USBもSDカードもそのころにはとうに消滅して、常に新しい媒体に移し続けないかぎり、30年前(つまり現在)の写真は見ることすらできないはずだ。レンズ付きフィルムはまた、世界でいちばんタフなカメラでもある。電池も充電も必要としない。モーターのような駆動系も電子回路も組み込まれていないから、どんな場所でもとにかくシャッターを押せば「写ルンです」。

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ROADSIDE MUSIC 外道

久しぶりにお送りするロードサイド・ミュージックは日本の誇るロックンロール&ブルースバンド、外道! 今月7日(本日!)発売になるニューアルバム『Rocking THE BLUES』を記念して、昨年(2014)8月28日に渋谷クロコダイルでのライブ、前半後半からアンコールまで1時間58分のステージを、まるごと聴いていただく! 往年のロックファンなら知らぬもののない外道は、1973年結成。翌74年にファースト・アルバム『外道』を発表以来、解散と再結成を繰り返しながら、すでに活動42年目に突入。日本屈指の現役ロック・バンドだ。

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新宿でロックと白目の写真展!

いま新宿でふたつの楽しい写真展が開催中だ。まずひとつめは新宿ビームス6階のBギャラリーで開かれている、『MUSIC LIFE PHOTO EXHIBITION〜長谷部宏の写真で綴る洋楽ロックの肖像〜』展。『ミュージックライフ』といえばオールド・ロック・ファンは涙なしに語れない、ロック創成期から続いてきた音楽誌。1951年にスタートして、惜しくも1998年に休刊してしまったが、2011年からは『MUSIC LIFE plus』というKindle版の電子雑誌として復活。値段の200円ちょっととお手頃なので、興味あるかたはAmazonのサイトで「ミュージックライフ」と検索してみてほしい。で、今回の写真展は、そのミュージックライフ誌の専属カメラマンを長く勤めた長谷部宏さんによる、ロック史をいろどる貴重なショットを一同に展示したもの

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ホノルル旅日記4:なにはともあれジェリーズに

ハワイには長年にわたるヒッピー文化が根づいていて、それはコミューンというかたちを取ったり、サーフィンと融け合ったり、音楽に反映されたり、現代のハワイアン・カルチャーに静かに浸透している気がする。そういうレイドバックした雰囲気が漂う場所が、ハワイの中でも僕の大好きなところ。今回ご紹介する『Jelly’s』はハワイに行くたびにかならず寄ってしまう、いちばん大切な店のひとつだ。ガイドブックには、めったに紹介されていないと思うけど。『Jelly’s』はユーズド・レコード、CD、DVD、ブック、コミックの専門店。ホノルルのはずれとパールシティの2店舗を、オアフ島に持っている。

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史上最大のデザイン・レイヴ

1970年、僕は中学2年生だった。修学旅行は京都大阪で、そのハイライトが大阪万博見学だった。「万国博覧会」というものが輝ける存在だった、もしかしたらあれが最後の晴れ舞台だったのかもしれない。大阪万博は6ヶ月で6421万8770人の観客を集め、これはいまだに日本のイベント史上破られていない記録だが、2015年のいま、「エキスポ見物のために旅行」しようという人間が、どれくらいいることか(5月1日から「食」をテーマにしたミラノ万博が始まるの、知ってました?―日本館は建築が北川原温、特別大使がハローキティ・・・)。世界のひとびとの多くが「人類の進歩と調和」を信じていられた、あの時代のあの場所は、いま振り返ってみればクレイジーでポジティブな、アートとデザインの壮大な実験場だと見えなくもない。

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北京銀山

いま発売中の写真雑誌『IMA』では「ドキュメンタリーの新境地」という特集が組まれているが、その中で僕も北京在住のフランス人、トーマス・サルヴィンの作品群を紹介してる。といってもサルヴィンは写真家ではなく、リサーチャーでありコレクターでもある。彼があるとき、北京で行き当たった膨大なネガの山から発掘されたイメージの集成、それがサルヴィンの写真集『Beijing Silvermine=北京銀山』なのだ。いつもなら告知コーナーでお知らせするのだが、サルヴィンが掬い上げたイメージがとても興味深いので、ここで記事としてほんの一部分を、文章の抜粋とともに紹介したい。興味を持ってくれたら、『IMA』にはもっと多くの図版が掲載されているので、ぜひご一読を。

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ラバーの炎にくるまれて

先週号の告知でお知らせしたラバー造形作家サエボーグの『HISSS』。2014年の岡本太郎現代芸術賞における岡本敏子賞・受賞展として、今週末まで青山の岡本太郎記念館で展覧会を開催中。日曜の会期末まで、これから毎日2回、着ぐるみならぬ「火ぐるみ」がインスタレーション内をうごめく予定だという。僕も先週見学に行ってみたら、予想以上にビザールかつパワフルな作品に仕上がっていたので、写真だけでもお見せしたく、もういちど紹介させていただく。

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浪曲DOMMUNE、購読者限定再配信!

さる6月1日にDOMMUNEで生配信された「めくるめく浪曲の世界 ~ 黄泉がえれ、肉声の黄金郷」。おそらくDOMMUNEで初めての伝統邦楽、おそらく平均年齢最年長のゲスト、と異例ずくめの内容でしたが、思いがけない反響が開始直後からツイートラインを埋め、関係者一同驚愕・歓喜でした。「見逃して涙」「再配信熱望!」などというコメントをずいぶんいただきましたが、DOMMUNEのご厚意により、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、当日の番組をいち早く、フルで再配信いたします。宇川さん、どうもありがとう!

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おかんアートという時限爆弾

先週のメルマガで告知したように、21日の日曜から神戸ギャラリー4で待望の『おかんアート展』がスタート。今週土曜(27日)には僕もトークをやらせていただく。ご存知のように毎週、メルマガを配信したあと、「今週はこんな記事があります」というようなお知らせをFacebookページで掲載するのだが、6月17日にアップした「おかんアート展」情報は、なんといままでのリーチ数(読んだひとの数)が2万872人! これだけの人数がメルマガ購読してくれたら、どんだけ楽かと思うと・・・涙。でも、ここまで多くの興味がおかんアートに寄せられているというのは、書いているほうとしても完全に予想外。現代美術が行き詰まっているせいなのか、世の中が行き詰まっているせいなのか。ひたすら明るくハッピーなおかんアートは、もしかしたら思いもかけぬ起爆剤になってくれるのかもしれない。

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めくるめくお色気レコジャケ宇宙

ずっと昔に連載していたというだけで、いまも毎週送ってくれる週刊『SPA!』で、みうらじゅん&リリー・フランキーさんの「グラビアン魂」を眺めながら、ふと思う・・どうして自分はこういうグラビアアイドルに惹かれないのだろうと。それはたぶん、「幸薄く見えない」からだ。見事な身体に、見事な顔面。極小水着を食い込ませようが、縄で縛られようが、彼女たちはすべてのカットで自信にあふれ、鼻息荒くページをめくる男性読者を上から見下ろす。その行く手に、とりあえずこれから数年は立ちふさがるなにものもない(ように見える)グラビアアイドルたちに、不幸な陰はひとかけらもない。それが僕を萎えさせる。「爆音カラオケ」でおなじみの西麻布・新世界を会場に、今年5月13日に『目眩くナレーション・レコードの世界』というマニアックなイベントを開催した。いったい何人来てくれるのだろうと心配だったが、ロードサイダーズ読者も何人か参加していただき、意外なほどの盛り上がり。予想以上に楽しいイベントだったので調子に乗って(!)、来たる7月29日に早くも第2回めを開催することに決定。

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ザ・ワン・アンド・オンリー・レコードショップ――演歌の殿堂「MSダン」

先週号で野村義男=ヨッちゃんのギター・コレクションを網羅した新刊書籍『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』を紹介したところ、思いがけないほどの反響をいただいた。内容を紹介したFacebookの告知メッセージだけで、すでに1万3000以上のリーチ! やっぱりみんな音楽が好きなんだ、書いてても楽しいし。というわけで久しぶりのアーカイブは2008年に、いまはなきエスクァイア誌の連載『東京秘宝』で紹介した、東京屈指の演歌専門レコードショップ訪問記をお届けする。日本はもちろん、世界的に見ても東京のレコードショップはその数も質もすごいけど、廃れつつある演歌という日本固有のジャンルで「MSダン」のような、音楽魂のカタマリのような店が生き残っているのは、うれしいかぎり。取材からすでに6年以上が経過しているが、もちろん現在も盛業中。音楽はこんなふうに、僕らと一緒にいてくれるものなのだ。

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捨てられないTシャツ 04

プーケットのダイビングショップTシャツ/年齢秘密女性(義足モデル兼ブラジリアンワックス店経営)/目立ちたがりやだけど、恥ずかしがりやな少女時代。昔を知ってる友達はたぶん、静かな子って言うと思う。14歳のときに骨肉腫を患い、右足を大腿部から切断。そこから義足生活が始まった。5年ほど前にアングラ専門のキャスティング会社と出会い、義足モデルとして活動開始。モデル活動が1年を過ぎたころ、もうすこし自分の売りを作ろうとブラジリアンワックスの資格を取り、2カ月後に開業。現在も二足のわらじで楽しく暮らしている。

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捨てられないTシャツ 06

シャネルN°5/36歳女性(フリーライター)/佐賀市出身。海外ペンパルとの文通に勤しむ中高時代を経て、東京外国語大学に進学、ロンドンに留学。しかし間もなく家賃が払えなくなり、半年先の帰国までをバックパッカーで過ごす。卒業後はかねてより憧れていたコレクション取材記者となり、29歳で妊娠が発覚するまで世界を飛び回る。現在はフリーランスのライターとして、主にファッション&ビューティ分野でだらだら執筆中。

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ずぼらなノンケの中年人形

今年4月8日配信号で「猫塊の衝撃」として紹介した、巨大な猫の球をロウ人形で作った横倉裕司さんは、2014年のヴァニラ大賞・大賞受賞者だった。「エロティック、フェティッシュ、サブカルチャーのアートに特化した」銀座ヴァニラ画廊の公募展には、かなり風変わりな作品が集まってくる。美術評論家の南嶌宏、美術史研究家の宮田徹也両氏とともに審査員をつとめる僕にとっても、毎年楽しみな仕事だが、来週8月31日から1週間だけ開催されるのが、『第三回ヴァニラ画廊大賞・審査員賞受賞者展』。今回は南嶌宏賞の松本潤一さん、宮田徹也賞のT.HAMAさん、ヴァニラ症の田村幸久さん、それに都築響一賞の柴田高志さんの4名による合同展覧会だ。

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エロパイプのけむり(写真・文:{さや鼻})

UFOおじさん景山八郎から神霊歌手・青樹亜依、宇川直宏まで異常なミックスのグループ展『スピリチュアルからこんにちは』にあわせて、7月19日に福山・鞆の津ミュージアムでトークをやらせてもらった。ずいぶんたくさんのかたに参加していただき感謝感激だったが、トークから少したってそのうちのひとりから、「あのあと尾道に寄って、おもしろいおっちゃんと遭遇しました!」と報告をいただいた。レポートの主である{さや鼻}さんは大阪在住。Facebookのメッセージに続いて更新されたブログを読ませてもらうと、めちゃくちゃおもしろい! 鞆の津ミュージアムのスタッフに見せると、「隣町みたいなものなのに、全然知らなかった!」と唖然。

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捨てられないTシャツ 10

トニーそば/46歳男性(アパレル会社勤務)/ちょうどバブルの終焉と共に大阪芸大を卒業、就職活動をいっさいしていなかったため、そのまま無職に。その後、大阪の有名なソウルバーで働き始める。そこから服飾販売、運動靴の企画販売を経て、現在はジーンズアパレル会社で企画を担当。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 05 本木健

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。教室の参加者たちによる展覧会で、毎回ひときわ暗い色調の大きな画面で壁を埋める、本木健(もとき・たけし)の作品を研修は紹介する。水道の蛇口を止めたはずなのに、灰皿の吸い殻を捨ててはずなのに、ドアの鍵を締めたはずなのに、また確認せずにはいられない。だれにも多少はそういう経験があるかと思うが、本木さんはその不安と恐怖が日常生活に支障をきたすほど悪化した、重度の強迫性障害に長年苦しんできた。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 06 奥村欣央

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はそのなかでも異色の作家、奥村欣央(おくむら・よしお)の作品を紹介する。奥村欣央は1965年生まれ、東京都立芸術高校の日本画科を卒業した、つまり専門のトレーニングを積んだアーティストである。そして実は、安彦さんの〈造形教室〉のメンバーでもない。足立区が主催する、区内の精神科病院や障害者施設を紹介する催しでの作品展示コーナーで安彦さんと奥村さんは1997年に出会い、それからは毎年の『“癒やし”としての自己表現展』での常連参加アーティストとなっている。

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捨てられないTシャツ 14

乱一世/44歳女性(喫茶店経営)/浅草でホットケーキが美味しい店として知られる小さな喫茶店「珈琲 天国」をひとりで切り盛りする店主。もともと文化服装学院からアクセサリーの会社に入ったが、ほどなく神保町のマニアックなCD&DVD屋に転職。20代でカフェ・ブームを体験し、「いつかは自分でも」と思いながら10年が過ぎたころ、ついに開業を決意。「ホットケーキが似合う街」を探して人形町か浅草に的を絞るものの、人形町では物件に巡り合わず、浅草を歩くうちに現在の店の前を通りかかり、「貸店舗」の札を見て即決。今年6月で10周年を迎えた。Tシャツは往年の人気深夜テレビ番組『トゥナイト2』で人気絶頂、しかし「トイレはCMの間に」発言でどん底に叩き落された乱一世のTシャツ。20代中頃、渋谷のTシャツ・ショップで購入したもの。

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写真のマジック・リアリズム――『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を見て

フライヤーを壁に貼っておいても、グーグルカレンダーに書き込んでおいても、なかなか気になる展覧会ぜんぶには行ききれない。この11月8日で終わってしまうクリスティーナ・デ・ミデルの写真展『ブッシュ・オブ・ゴースツ』も、ほんとうはもっと早い時期に紹介しておきたかったが果たせず、ぎりぎりのタイミングでのお知らせになってしまった。クリスティーナ・デ・ミデルは1975年スペイン生まれ、メキシコ在住の写真家である。彼女の作品に出会ったのは数年前になるのだが、それは『The Afronauts』と名づけられた奇妙なシリーズだった。「アフロノーツ」は「アフリカ」と「アストロノーツ」を混ぜあわせた造語。

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路地裏のビンテージ・エロ――フランス最後の成人映画館ル・ビヴァリー潜入記

メトロのボンヌ・ヌーヴェル駅を降りると、目の前にアールデコ様式の巨大な映画館がそびえている。「Le Grand Rex(グラン・レックス)」は1932年に開館、収容人数2700~2800人を誇るパリ最大の映画館だ。そのレックスから徒歩30秒、カフェ脇の小路を入った先に客席数90、サイズから言えばレックスの1/10どころか1/100くらいの「ル・ビヴァリー(Le Beverley)」がある。こちらはフランスで唯一、1970年代から80年代にかけてのフランス製ポルノ映画を、いまも35ミリ・フィルムで上映し続けている「成人映画館」。フランスではすでに1990年代に35ミリ・ポルノ映画最後の配給会社が消滅したというから、ここはヴィンテージ・フレンチ・ポルノを銀幕で、オリジナルの状態で鑑賞できる、唯一の重要な上映館なのだ。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 11 松本作和子

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。大詰めが近づいた今回は11人目の作家・松本作和子の作品を紹介する。松本さんの作品に出会ったのは、先週の石澤孝幸と同じく、今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』だったが、「このひとはプロのイラストレーターか漫画家だったのが、たまたまこころを病んでここにいるのではないか?」と思わせてしまうような、達者な筆使いだった。

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『圏外編集者』発売!

このメールマガジンも年が明ければ5年目。書いた記事もすでに600以上。始めたころは、どんどん記事を作っているうちに「これ、本にまとめましょう」と言ってくれる出版社がいくつも出てくると期待していたのが・・・なんと、いまだにオファー、ゼロ! 憮然とせざるを得ない状況のなかで、去年の『ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014』に続く新刊が、今年も終わりそうないま、ようやくできました。『圏外編集者』――文字どおり業界の圏外、電波マークが1本も立ってない場所で編集稼業を続けている自分を、立ち止まって振り返ってみた本です。発売は12月5日予定。今週末までには書店に並ぶはずです。書きおろし、じゃなくて「語りおろし」。これまでこういう内容の本も、こういう作り方の本も、あえてやらないようにしてきたのですが・・・

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大竹伸朗の壷中天

展覧会は作品が勝負である。広告費の大小は関係ない――と言うのは正論かもしれないが、半分しか正しくない。作品をつくるのはアーティストだが、作品を広めるのはキュレーターやスタッフたちの役目だ。予算の多い少ないとは別の次元で、「ひとりでも多くのひとに見てほしい!」という運営側のエモーションが、展覧会の成否を左右した例をこれまでたくさん見てきた。そして貧弱な広報が、せっかくの作品を暗闇に追いやってしまった例も、あまりにたくさん見てきた。三田の慶應義塾大学アート・センターではいま、『SHOW-CASE project No. 3 大竹伸朗 時憶/フィードバック Time Memory/Feedback』と題された展覧会が開催中である(2016年1月29日まで)。

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アイドルというパンクス――おやすみホログラム@新宿ロフト観戦記

西新宿にオープンしたのが1976年。99年に歌舞伎町に移転して、来年で40周年を迎える新宿ロフト。東京を代表するロック系ライブハウスであることは言うまでもないが、その新宿ロフトでいま、いちばん頻繁に出演しているのがハードコアパンクバンドの・・・ではなくてアイドルユニットの「おやすみホログラム」であることを、ご存知だろうか。先月の告知で紹介したとおり、雑誌『EX大衆』の連載「IDOL SYLE」で、この二人組ユニットのひとり・望月かなみるちゃんを取り上げたので、見てくれたかたもいらっしゃるだろう(もうひとりは八月ちゃん)。

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art

「えびすリアリズム」対談報告!

昨年末のメルマガでお知らせしたように、ただいま渋谷パルコで『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』が開催中だ(18日まで)。いまや「バスに乗って旅行してるおじさん」という認識しかない人たちも少なくない蛭子能収の、実はきわめてシュールでポップなアーティストとしての側面を垣間見ることができる、これは貴重な東京初の展覧会である。1月2日には僕がお相手させてもらったトークもあって、満員御礼の盛況だった。予約開始から2日たたずに定員に達してしまい、「行きたかったのに予約できず!涙」という連絡をたくさんいただいたので、今週は展覧会を紹介しがてら、対談の模様を要約して誌上再現してみたい。

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フィールド・オブ・案山子ドリームス

11月に福岡に行ったとき、案山子による「24時間ソフトボール大会」があると聞いて、僕も見学に駆けつけた。車を出してくれた友人夫婦と3人で興奮して写真を撮っていると、ひとりの中年男性がぶらぶら歩いてきて、おもむろにiPadを出すと撮影開始。話しかけてみると「今朝テレビでやってたから見に来た」という近在の方で、「ここもいいけど、こっから30分ぐらい行ったところに、もっとすごいのがあるから」と親切に教えてくれた。

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movie

キューバの映画ポスター展

終了間際の紹介になってしまい恐縮だが、いま東京・京橋の近代美術館フィルムセンターで『キューバの映画ポスター』展が開催中だ(3月27日まで)。フィルムセンターは映画ポスターの展示にずいぶん力を入れていて、ほとんど毎年一回は世界各国の映画ポスターの展覧会を開いている。そこには映画史やグラフィック・デザインへの興味もあるだろうが、それ以上に本来は宣伝広報の媒体にすぎないはずのポスターが、ときにその国や時代の映画人たちの、映画にかける思いを体現するメディアとなっているからでもあるのだろう。

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art

箱の中のアート・オペレッタ

パリ左岸、オデオンからセーヌ河にかけての界隈には、大小さまざまな画廊が集まっている。それも現代美術ばかりではなく、古典から特異なテイストで珍品を集めるギャラリーまでいろいろで、外から覗いて歩くだけで楽しい。そのなかでも比較的新顔ながら、いっぷう変わったテイストで、パリの変人たちの収集癖をうずかせているのが「Galerie Da-end」。パリ在住のファッション写真家として知られる七種諭(さいくさ・さとし)とパートナーのディエム・クインが、2010年から開いているギャラリーだ。ちなみに「Da-end」は日本語の「楕円」から採ったそう。画廊の常識である「ホワイトキューブ」の真逆を行く暗く塗った壁に、小さな開口部。画廊というよりも、どこかの国の驚異の部屋=キャビネット・オブ・キュリオシティーのような、秘密めいた雰囲気の空間で、「奇態」と「エロティシズム」と「グロテスク」の香りを漂わせる作品ばかりを展示している。

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art

ストレンジャー・ザン・ミュージアム――5月の特殊展覧会ガイド

連休中に、といってもすでに後半戦だけど、ゆっくり展覧会を巡ってみようと考えてるひともいらっしゃるだろう。先週のメルマガでは埼玉県立近代美術館の『ジャック=アンリ・ラルティーグ展』という、とびきりエレガントな写真展を紹介したが、今週はがらりと趣を変えて! エロだったりグロだったりファンキーだったり、とにかくふつうの美術館ではぜったい扱わないような、ビザールな展覧会を3つまとめてご紹介する。銀座のフェティッシュ専門ギャラリー、新宿二丁目のバー、京都の古書店・・・場所もさまざま、展示内容もさまざま。

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photography

雑種のしあわせ、ふたたび――佐々木まことの動物写真2016

ちょうど1年前の2015年5月27日号で、大阪の動物写真家・佐々木まことの紹介記事『雑種のしあわせ』を掲載した。本メルマガで『ジワジワ来る関西奇行』を連載してくれている吉村智樹さんの編集で、2005年に発売された小さな写真集『ぼく、となりのわんこ。』を見たのがきっかけだったが、その佐々木さんが毎年参加している『大阪写真月間』と、同時期開催の『日本猫写真協会展』に、今年も選りすぐりの犬猫写真を出品するとのお知らせをいただいた。

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art

狂気の先にあるなにか――シリアルキラー展によせて

5月11日配信号では福山クシノテラスで開催中の死刑囚の絵画展を紹介したが、今週ご紹介するのはアメリカ・イギリスのシリアルキラーの作品ばかりを集めたという、恐ろしくも貴重な展覧会。本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で6月9日にスタートする。セルフポートレートから手紙、資料など、200点以上が展示予定だという。『ROADSIDE USA』の取材でアメリカを走りはじめた1999~2000年ごろ、サンディエゴからハリウッドの片隅に移って間もない『ミュージアム・オブ・デス』に偶然出会った。ギロチンから電気椅子にいたる処刑道具や拷問道具、手術器具、事故の現場写真やビデオ・・といった「死」の匂いにまみれた展示物の中で、チャールズ・マンソンをはじめとする、アメリカのシリアルキラーたちの作品に対面したのが、僕にとっての「シリアルキラー作品体験」の初めだった。当時はスマホなんて便利なモノはなかったので、彼らがどんな大罪を犯したのか、ごく有名な数人をのぞいて、その場で知ることはできなかった。けれど、展示されている絵画が秘めた狂気の痕跡に――とりわけジョン・ゲイシーのピエロに――心臓がギュッとなったのをよく覚えている。

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photography

どこまでいくのかマキエマキ

今年2月10日号で『自撮りのおんな』として紹介した「50歳人妻セルフポートレートフォトグラファー」、マキエマキ(田岡まきえ)さんが、いま新作写真展を東京・入谷のバーで開催中だ(18日=今週土曜日まで!)。バー「Lucky Dragon えん」でマキエさんが個展を開くのは2回目。去年の展覧会タイトルは「J'ai 50ans」(私は50歳)だったけど、今年のタイトルは「Ju suis toute chaude」。マキエさん本人の和訳によれば「アタシ、もう、熱いのよ~ん♡」ということで、その急速なレベルアップぶりがタイトルからも見て取れるというもの。

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fashion

捨てられないTシャツ 47

PPFM/40歳男性(特殊呼び屋/会社員)/1976年に北海道帯広市で生まれる。父親の仕事の関係で、北海道内の足寄町、標茶町、中標津町、幕別町、帯広市などを転々とした。小学校入学前から帯広に定住することになり、高校卒業まで暮らす。小学校の頃、毎朝欠かさずにやっていたのはワイドショウをじっくり観ること。学校から帰ってきたら、母親と一緒にまたワイドショウを観てから、夕方のドラマ再放送を観ていた。田宮二郎版『白い巨塔』『特捜最前線』、天知茂『江戸川乱歩の美女シリーズ』や、『花柳幻舟獄中記』などの再放送を楽しみにしていた。ちょうど小学校に入った頃に『ロス疑惑』、その後は『豊田商事事件』『岡田有希子自殺』もあって、取材報道が過熱していた時代。他の子供が観ている様なアニメとかウルトラマンや戦隊モノはほぼ関心なしだった。

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fashion

捨てられないTシャツ 48

ヴィヴィアン・ウエストウッド/43歳女性(写真家)/京都府北部、港町の舞鶴出身。一般的には『岸壁の母』の港だが、マッチがその昔、漁港で『ギンギラギンにさりげなく』を歌って、ザ・ベストテンで中継されたこともある。育った町がヤンキーも多かった場所なので、赤いミキハウスのトレーナーにボンタンのケミカルジーンズを履いていた過去もあるが、中学生になったころからイギリスに憧れを抱くように。セックスピストルズやクラッシュなど、パンク系の音楽とファッションに惹かれたのがきっかけ。地元にはなにもなかったので、14歳の時に初めてRED or DEAD の厚底ラバーソールを買って、京都市内のロンドンナイトに出かけた。しかし若かりし頃憧れていたパンクスの実態は、NO DRUG、NO ALCOHOL、ONLY SEX と、いたって健全だった。

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book

短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.1 「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」――廣田恵介とセンチメンタル・プラモ・ロマンス

たくさんの本が僕の前を通り過ぎていく。全部読むことはとてもできない。川の流れに掌を入れるように、そのほんの少しを掬い取ることしか。このところ気になる本のなかに、度を越して(もちろん、いい意味で)マニアックなテーマの本が目立つようになってきた。度を越してない、当たり障りない本がもう、目に入らなくなってしまっただけかもしれない。なので今週から数回、最近発売された「マニア本」の著者にお話を伺い、その情熱のお裾分けをいただくことにした。その第1回は廣田恵介さんの『我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか』をご紹介する。美少女フィギュアならまだしも、「美少女プラモ」というようなジャンルが、この世に存在することすら知らないひとが、僕を含めて大多数ではないだろうか。その美少女プラモの「下半身にパンツが彫りこまれた瞬間」――美少女プラモを知らぬ人間にとっては、あまりにどうでもいい「事態」が、ひとりのプラモ好き少年にどれほど決定的な影響を与えたのか。これは単なるプラモデルオタ、アニメオタのコレクションブックのかたちをとった、実はきわめて今日的なビルトゥングスロマン=成長物語なのだった。

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archive

中村キース・ヘリング美術館/目黒エンペラー

数えてみればもう1年ぶりになる「アーカイブ」。これまでいろんな雑誌に書いてきて、単行本に未収録の記事を読んでもらうコーナーです。今回は久しぶりのアーカイブで、しかも2本立て! 特にセットにする意味はないのですが・・・渋谷アツコバルーの「神は局部に宿る」展覧会会場で、ラブホテルについてよく聞かれるのと、物販コーナーでTENGAのキース・ヘリング・シリーズを買っていくお客さんがけっこういるのを見て、そういえばこんな記事つくったな~~と、思い出した次第。目黒エンペラーの記事はいまから4年前、2012年5月16日号で再録してあるけれど、日本におけるラブホテルの成立について、少し詳しく書いたので、これから展覧会場でラブホテル・インテリアのシリーズをご覧いただく上で役立つかと、もういちど掲載させていただく。よかったら2本立てトリビア予備知識としてご覧のうえ、展覧会を楽しんでください!

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Back in the ROADSIDE USA 02 The Heidelberg Project, Detroit

先週号から始まった、僕らにとっていちばん近くて遠い国でもあるアメリカを見直すために、『ROADSIDE USA』の特選物件を、本には載せられなかった写真を大幅に加えて紹介し直す新連載。2回目の今週はミシガン州デトロイトから。自動車産業の不振から長く不況に苦しみ、おかげでドナルド・トランプ候補への支持者が増えてもいる「モーターシティ」(「モータウン」のレーベル名もここから由来)。その荒廃した住宅街に花開く、原色のアウトサイダー・アート環境にお連れする! アメリカの大都市では、ダウンタウンの裏側にいつも貧困層の住宅街が広がっている。崩れかけた家屋と、雑草だらけの空き地と、錆びついた車と、なにをするでもなくたむろする黒人の男たちだけが目につくアーバン・ゲットーである。GMやフォードの高層ビルがそびえるデトロイトのダウンタウンの東側、荒れ果てた住宅街のただ中に、鮮やかな色彩とオブジェの堆積が異様なパワーを放射する、わずか1ブロックの別天地がある。名高いハイデルバーグ・プロジェクトだ。

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photography

女子部屋――川本史織と女の子たち

ずっと昔、こんなふうに中国が開ける前の北京に通っていた時期があった。そのころ北京でいちばん大きな書店に行くと、一冊の本に群がる男たちを仏頂面の店員がにらんでいて、いったいなにを見てるのかと思ったら、それはデッサン用の「人体ポーズ集」だった。なぜそれが?と手に取ってみると、小汚い白黒印刷のページには、ちょっとくたびれた全裸の白人モデルがいろんなポーズを取っていて、ようするに北京の男たちはそれをエロ本(というものは存在しなかったから)に代わる貴重なネタとして凝視していたのだった。2013年1月に川本史織の『堕落部屋』という写真集を紹介したことがある。「デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集」と書かせてもらったが、その川本さんの第二弾写真集が『作画資料写真集 女子部屋』というので、もう20年以上も前の北京の思い出が甦ったのだった。

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book

ROADSIDE LIBRARY 002『LOVE HOTEL』、ついにリリース!

先日からお伝えしてきた電子書籍シリーズ「ロードサイド・ライブラリー」の第2弾『LOVE HOTEL』が、ついに完成! ダウンロード版の配信を開始しました。USB版も1週間以内に準備完了、すでにサイトからご予約いただけます。新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。

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photography

移動キャバレーの誘惑――沈昭良写真展『STAGE』

これまでも本メルマガで何度か取り上げた台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)によるステージ・トラックの写真展『STAGE』が、いま東京虎ノ門の台湾文化センターで開催中だ(10月28日まで)。台湾式ステージ・トラックの再解釈とも言える、やなぎみわのステージ・トレーラー・プロジェクトをご存じのかたもいらっしゃると思うが、今回展示されるステージ・トラックは、2006年から2014年までに撮影されたものだという。

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Back in the ROADSIDE USA 11 BibleWalk, Mansfield

オハイオ中部の田舎町マンスフィールドのお話。1970年代の初めごろ、リチャード・ダイアモンド牧師と妻のアルウィルダは、地元の人々に「ヒッピー教会」と揶揄される小さな教会を切り盛りしていた。ジョージア州アトランタに旅行したときのこと、ふたりはなんの気なしにロウ人形館に立ち寄ってみた。歴代大統領や有名人のロウ人形を眺めていると、最後にイエス・キリストが昇天する場面が登場した。気がついてみればふたりの目からは涙がこぼれ、自然に跪いているのだった。「神の偉業を讃えるロウ人形館を作りなさい」と、ダイアモンド牧師と妻のこころに、そのとき神が語りかけてきたのだった。

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music

サラヴァ・レーベルの50年

『男と女』の監督はクロード・ルルーシュだが、これはピエール・バルーの映画でもある。そしてそのピエール・バルーが1966年に創設した、ヨーロッパ最古のインディーズ・レーベル「サラヴァ」が今年で50周年を迎え、先週まで渋谷アツコ・バルーで記念展を開いていたのは、Facebookページで告知させてもらったとおり。アツコ・バルーはこの夏に『神は局部に宿る』展を開かせてもらったギャラリーだが、オーナーのアツコ・バルーさんはピエール・バルーの奥様でもある(ついでに僕の中学の同級生!)。その展覧会は1960年代からの貴重なオリジナル写真やアルバムジャケット、テキスト資料が惜しげもなく、しかも壁面に無造作に飾られて、そこに手書きポストイットが貼られるという・・・サンパティックにもほどがある!スタイルで展示されてて、こういうところがいかにもサラヴァっぽいというか、フランス的なヒップという感じだった。

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Back in the ROADSIDE USA 15 Cowboy Boots Fenceposts, Miles City, MT

ニューヨークやシリコンバレーの新興億万長者のあいだでは、モンタナやワイオミングに牧場を持つのが流行になっているらしい。日本で言えば沖縄の海を見おろす高台に家を持つ、みたいな感じ? 規模こそ違え、行かないけど自慢できるところはいっしょだ。さほどモンタナからワイオミングにかけてのカウボーイ・カントリーは、アメリカ人にとって特別の感情を喚起させる土地である。ラテン語の「山の多い」という意味から生まれたモンタナは、大きさがほぼ日本と同じなのに、人口わずか90万人。全米でも4番目に広い州であり、別名を「ビッグスカイ・カントリー」というように、大自然にものすごく恵まれたステートだ。映画『モンタナの風に吹かれて』や『リバー・ランズ・スルー・イット』で、その美しい風景を堪能した方も多かろう。

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fashion

[番外編]捨てられたTシャツ

思わぬ好評をいただいた「捨てられないTシャツ」は今週の69回目をもって連載終了。「ボーナストラック」を加えて、2017年の春には筑摩書房より単行本化される予定です。まとめて読むと、また楽しさもしみじみさも倍増のはず。楽しみにお待ちください! 連載の最終回は、もともと僕自身の「捨てられないTシャツ」を載せようと思っていたのですが、かつて一瞬ダイエットにハマったときに、「二度とリバウンドしないように」という決意を込めて、ぜんぶ捨ててしまったのでした! 自分を信じちゃダメってことですね~。バブル全盛期に、京都先斗町の舞妓ちゃんたちにずらっと寄せ書きしてもらったTシャツとか、見せたかった!笑 というわけで思い出したのが、『着倒れ方丈記』を連載していた雑誌『流行通信』で(こちらもすでに廃刊になって久しい)、なにかの機会に番外編として自撮りしたTシャツ・コレクションの写真。写真集の『着倒れ方丈記』にも、もちろん入れてないので、見たことあるひとは少ないのでは。

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Back in the ROADSIDE USA 17 Harold's New York Deli, Edison, NJ

クラブ文化が花盛りだったころ、ニューヨークでは「ブリッジ&トンネル・ピープル」なんて言葉が流行った。週末だけ、おめかししてトンネルや橋を渡ってニューヨークに遊びに来てる「お洒落を気取った田舎者」の意味で、そんな差別用語に長いこと苦しめられてきたのがニュージャージーだ。ニューヨークのとなりにありながら、東京人が言う「チバラキ」的なイモ扱いに耐えてきたニュージャージー。アメリカ全州の中で、面積が46番目なのに人口は9番目。つまり全米でいちばん人口密度が高いところだし、ニックネームは「ガーデンステート」なのに、どこへ行っても目につくのは工場と安普請の建て売り住宅と高速道路ばかり(ほんとはけっこう自然にも恵まれてるんですが)。

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上野と木場で展覧会めぐり

派手に宣伝されているわけではないけれど、見逃しておきたくない展覧会をふたつ、急いで紹介しておきたい。まずは来週27日から29日にかけての週末3日間だけ、上野の東京藝大キャンパスで開催される『LANDSCAPE』展。ランドスケープ=風景をテーマに、今日的なランドスケープのありようを探るグループ展として2016年から北九州のギャラリーSOAPを皮切りに、中国の合肥、上海、バンコクと巡回して開催された『ホテルアジアプロジェクト:ランドスケープ』展と連動した企画。もうひとつご案内したい展覧会は、東京都現代美術館に近い木場のアース+ギャラリーで開催中の『尾角典子展 The interpreter』。尾角典子(おかく・のりこ)は長くロンドンを拠点に活動するアーティスト。2015年にイギリス中部の都市ダービーに招待されて制作したシリーズが、今回展示されている『The interpreter』だ。

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Back in the ROADSIDE USA 20 Porter Sculpture Park, Montrose, SD

メディカル・ミュージアムがあるスーフォールズから西へ40キロほど、見渡すかぎり牧草地が広がる州間高速90号線を走っていると、突然あらわれる巨大な獣の頭部。高さ20mあまり、鉄板を溶接したその作品の重量は25トンにおよぶという。急いで次の出口で高速を降り、空に伸びた角を目印に砂利道を走っていくと、ポーター・スカルプチャー・パークの入口が見えてきた。「美術を習ったことはない」という独学の彫刻家ウェイン・ポーターが、独力で築き上げたこのユニークな彫刻公園。入場料を徴収する小屋から出てきた作家本人が、広い野原をいっしょに歩きながら、緑の上に点々と散らばる作品をひとつずつ解説してくれる。

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Back in the ROADSIDE USA 23 The National Afro-American Museum and Cultural Center, Wilberforce, OH

いちおう人種差別というものはなくなっているはずのアメリカで、このところの警察と黒人との衝突に見られるような、そしてトランプ大統領が火に油を注いでいるような、隠されてきた人種差別の根深さに驚いたひとも多いのではないだろうか。オハイオ周南西部の小さな町ウィルバーフォースは、アメリカの奴隷解放史に重要な位置を占める場所で、1856年にはすでにウィルバーフォース大学という、プロテスタント系の黒人教育のための大学が開校している。コールマン・ホーキンス、ベン・ウェブスター、べニー・カーターなど、幾多のジャズ・ミュージシャンを生んでいることでも有名だが、構内に誕生したアフロ・アメリカン・ミュージアムは、奴隷貿易時代から現在にいたるアメリカ黒人の歴史を俯瞰できる、珍しい展示研究機関である。

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『中国遊園地大図鑑・中部編』、早くもリリース!

今年1月11日配信号で紹介したばかりの、珍スポ・ハンター関上武司さんによる中国遊園地大図鑑 北部編』。それから2ヶ月弱でもう、新刊『中部編』が発売されてしまった。前回書いたように、ふだんは「中小企業のサラリーマン」として働きながら、休みだけを使って取材に駆け巡る日々。この正月も「香港、マカオ、広東省、貴州省、湖南省、湖北省、江西省、浙江省、江蘇省、上海市を9日間で巡るという、かつてない超ハードな日程」をこなしたそうだが、さっそくその成果がまとまったということでもある。

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八潮秘宝館 春の一般公開!

「秘宝館が絶滅寸前」と嘆く諸氏は多いけれど、ならば自宅に秘宝館をつくればいいだけ!という、日本でおそらくただひとりの勇者・兵頭喜貴さん。すでに本メルマガではおなじみだが、自宅を開放する『八潮秘宝館』の4回目となる「春の一般公開」が今月末からの黄金週間に開催される。昨年、ロケーション撮影中に大規模な盗難に遭ったものの、同志の支援により別府秘宝館に展示されていた蝋人形3体が参加し、これまでとはまたひと味違ったインスタレーション空間に仕上がっている。

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Back in the ROADSIDE USA 31 Salvation Mountain, Niland, CA

始めるときにはまるで全体像がつかめていなかったのが、最初に劇的な「出会い」があって、それからの取材の広がりをいきなり確信する、そういうキックスタート的な出会いがずいぶんあった。『TOKYO STYLE』のときはそれが美大生兄弟が住む木造アパートだったし、『珍日本紀行』のときは三重県鳥羽の秘宝館だった。そして『ROADSIDE USA』ではカリフォルニア・モハベ砂漠の片隅にある「サルべーション・マウンテン」で、その出会いが8年近くにおよぶアメリカ合衆国50州をめぐる旅の原動力になったのだった。こんなふうに生きている人間がいるのに、自分もやらないでどうする、という。今週は僕にとってアメリカでいちばん大切な場所のひとつ、サルべーション・マウンテンにお連れする。

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食卓の虚実

シャネルにプラダ、マックイーンにラガーフェルドと、世界のハイファッション・メゾンを顧客に持つ超売れっ子でありながら、いつもちょいブラックで悪戯っぽいテイストを忘れないノーバート・ショーナーという写真家がいる。本メルマガでは2012年7月18日号で作品集『Third Life』を取り上げ、そのときは代官山蔦屋書店で一緒にトークもした。古い友人である、そのノーバートが久しぶりに東京でいま写真展を開催中(5月21日まで)。『NEARLY ETERNAL』と題された今回の展覧会は、なんと食品サンプルがテーマ。たしかに「ニアリー・エターナル=ほとんど永久」・・・。

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Back in the ROADSIDE USA 36 Big Easel, Goodland, KS

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホがアルルで7枚の『ひまわり』を描いたのは1888年から1889年のこと。そのうち1枚は第2次大戦の芦屋市大空襲で焼けてしまったが、現存する6枚のうち1枚が西新宿の損保ジャパン東郷青児美術館にあることはよく知られている……が、画面が約10×7mという巨大な『ひまわり』がカンザス州にあることは、あまり知られていない。カナダ生まれのアーティスト、キャメロン・クロス(Cameron Cross)が「ビッグ・イーゼル」と呼ばれるシリーズの制作を始めたのは1998年のこと。

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Back in the ROADSIDE USA 37 Museum of Funeral History, Houston, TX

テキサス州ヒューストンのダウンタウンから北に20数キロ、国際空港を過ぎた少し先の新興住宅地に立派な建物を構えるのが『ナショナル・ミュージアム・オヴ・フューネラル・ヒストリー』。葬儀に携わる人材を育成する学校が運営する、おそらくアメリカ随一の葬儀博物館だ。広々とした館内には開拓時代から現代に至るまでの、アメリカ文化における死の受容のありかたをめぐる、非常に興味深い展示が常設されている。馬が引いていたころから、アラスカで使われていたソリ、会葬者が棺といっしょに乗れるバスなど、さまざまなスタイルの霊柩車(日本のもちゃんとある)。

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Back in the ROADSIDE USA 40 Grotto of the Redemption, West Bend, IA

グロットとはふつう、人工的に作られた洞窟を指す。よくヨーロッパの古い教会や王宮庭園、聖地などで見かけるが、アイオワ州中部の小さな町、ウェストベンドの住宅街のただ中に、世界最大のグロットがあるとは驚きだ。しばしば「世界で八番目の不思議」とも称される(ほんとか!?)グロット・オブ・ザ・リデンプション=「贖罪の洞窟」は、コンクリートの土台に水晶やらメノウやら、ありとあらゆる宝石・貴石を埋め込んで作られた、壮麗かつビザールな巨大建造物。住宅地の一区画を丸々占めるその威容は、年間10万人以上が見学に訪れるというのも納得の迫力だ。もちろん一カ所に集められた宝石・貴石の量としても世界最大で、その価値だけで時価400万ドル以上になるという。

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アナーキー・イン・ザ・ニッポン

いまも日本最強のハードコア・ラッパーのひとりであるアナーキー。『ヒップホップの詩人たち』で取材した縁で声をかけてもらい、文庫版になった自伝『痛みの作文』の解説を書いた。もとは2008年に単行本がポプラ社から出ているが、長く品切れだったので、文庫化を喜ぶファンも多いだろう。文庫化に際して巻末にディスコグラフィーのほかに、なんとサイバーエージェント社長・藤田晋との対談(初出:2008年『SPA!』)が、僕の解説とともに加えられている。『ヒップホップの詩人たち』を文芸誌『新潮』に連載した2011年から、もう6年あまりが経って、そのあいだにはマイクバトル・ブームもあり、ラップもずいぶん多様化していった。今年はザ・ブルー・ハーブの結成20周年でもあり、思えば日本語ラップもそれだけ長い道のりを歩いてきたのだった。

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Back in the ROADSIDE USA 45 Neon Museum and Boneyard, Las Vegas, NV

訪れる観光客が年間3000万人以上、ホテルの部屋数12万室以上、大きさで競うなら世界の巨大ホテル・ベスト20のうち18までがラスヴェガスに集中している。たった60年かそこらの歴史で、世界に類のない欲望都市に成長したラスヴェガスの建築様式を象徴しているのが、ネオンであることに異論を挟む人はいないだろう。超高層ビルがニューヨークの建築を象徴するように、ラスヴェガスはネオンの街なのである。いや、あったというべきだろうか。近年の激しい巨大ホテル・ラッシュで、古きよきラスヴェガスを輝かせてきたカジノ・ホテルや飲食店のネオンは次々に姿を消していっている。地球上の、ほかのどこにも見ることのできない、そんな見事な光の芸術をなんとか救おうと、非営利団体として設立されたのがネオン・ミュージアムだ。

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Back in the ROADSIDE USA 46 The Dumas Brothel, Butte, MT

ドイツよりも広く、ほぼ日本と同じ面積なのに、わずか100万人ほどの人口というモンタナ。アラスカ、テキサス、カリフォルニアに続く、4番目に大きな州である。人口は44番目だけど・・・。19世紀末に全米最大の銀の採掘地となり、1930年代には銅の最大の産地となったビュートは、モンタナでもっともカラフルな歴史に彩られた町だ。アイルランド人、ポーランド人、イタリア人、スラブ人、中国人・・世界中から一攫千金を夢見てやってきた男たちのために、ビュートには無数の酒場と、当時全米最大の規模を誇る赤線地帯も擁していた。

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Back in the ROADSIDE USA 47 American Police Hall of Fame and Museum, Miami, FL

全米でいちばん、もしかしたら世界でいちばん変人が集まる場所、それがフロリダである。泥棒、変質者、 神秘主義者、サーカスの芸人、UFO信者、アウトサイダー・アーティスト、引退したフリークス、サーファー、宇宙飛行士、単なる老人と、下半身のお楽しみへの期待で爆発しそうな大学生・・・だれもが太陽と海と、ワニの住む湿地帯へと押し寄せる。そうして20世紀のはじめに、わずか人口900人の漁村だったマイアミは、いまや全米屈指の大都市となった。マイアミは美しく、危険な都市ということになっている。

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Back in the ROADSIDE USA 48 Potter's Wax Museum, St. Augustine, FL

アメリカ最大のカーレース「デイトナ500」と、春休み(スプリングブレイク)に全米からお楽しみを求めてやってくる大学生たちで有名なデイトナ・ビーチから、大西洋岸を州間高速1号線に沿って北上すると、セント・オーガスティンという町があらわれる。アメリカ人以外にはあまり知られていないが、1513年にスペイン人ポンス・デ・レオンが上陸したこの場所は、アメリカ合衆国史上もっとも古い居留地であり、町全体が歴史観光地となっている。スペイン時代の城郭や要塞などまっとうな史跡も多いが、そこはフロリダ。ビザール・スポットにも事欠かない。メインストリート(と言っても3、4ブロックのエリアだが)にある『ポターズ・ワックス・ミュージアム』は1949年開館、ウソかマコトか「アメリカ最古のロウ人形館」を自称する。

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Back in the ROADSIDE USA 49 South of the Border, Dillon, SC

まちがいなくサウスキャロライナでいちばん有名で、いちばんキッチュな観光名所。ニューヨークやシカゴなどの寒い地域から、常夏のフロリダへ向かう人々が利用する州間高速95号線。ノースキャロライナの州境を越えたとたんに、高さ70メートルはあろうかという巨大なタワーが目に入る。原色にぎらぎら光るソンブレロを被ったこの「南部のエッフェル塔」が見えたら、そこがもう『サウス・オブ・ザ・ボーダー=SOB』だ。ガソリンスタンド、レストラン、お土産屋、遊園地、モーテル、ゲームセンター・・・とにかく、ないものはないというSOBは、楽しく気楽で醜い、いわば究極のサービスエリアであり、ロング・ドライブの貴重なオアシス。

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Back in the ROADSIDE USA 51 Magic Forest, Lake George, NY

いちどマンハッタンを離れ、高層ビルなど影も形もない、自然にあふれた「田舎としてのニューヨーク・ステート」を巡ってみると、そこには世界の流行の発信地として君臨するニューヨークとはまったく正反対の、キッチュでのどかな風景がだらだらと広がっている。こういう、ゆる~いニューヨークも、またいい。マンハッタンから州間高速87号線を北上していくルート沿いで、もっとも有名な観光地は、4時間ほどのドライブで着くレイク・ジョージ。東京から富士五湖へという感じだろうか。湖のまわりには瀟洒な別荘と、下品なお土産屋や安普請モーテル群が入り混じって、なかなか楽しい雰囲気。ロウ人形館もあれば、いまだ全米で唯一、興業を続ける「馬のダイビング」がウリの遊園地『マジック・フォレスト』もあったりする。

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樹海の因果――根本敬ゲルニカ計画

先週日曜日(10月1日)、羽田空港に近い京浜島の須田鉄工所で、『鉄工島フェス』が開催された。石野卓球、七尾旅人などが演奏したステージの背景として掲げられていたのが根本敬の『樹海』、5月末から4ヶ月の時間をかけて描き上げられた349×777cmの大作だった。京浜島は東京都大田区に属する小さな人工島。羽田空港に向き合う「つばさ公園」は、旅客機の離着陸が間近に見られる聖地として飛行機マニアにはよく知られている。かつては鉄工所をはじめとする工場や物流基地として繁栄したが、近年では廃棄物処理場やリサイクルセンターが集まる地域となりつつあり、再活性化が望まれてきた。寺田倉庫が2016年に立ち上げたオープンアトリエ「BUCKLE KÔBÔ」(バックルコーボー)もその試みのひとつ。

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狂女の日常――YOSHI YUBAI写真展『URI』

これまで本メルマガにサンフランシスコ・テンダーロイン地区や浅草のアンダーグラウンド・ドキュメンタリーを寄せてくれた、広島県福山市出身のフォトグラファー弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)=YOSHI YUBAI。2016年の『浅草暗黒大陸』に続いて新宿PLACE Mで新作展『URI』を開催する。展覧会サイトの説明にたった一行「狂女『URI』の記録」と記されているURIは、YUBAIくんが「以前付き合っていた女の子」。そういう関係でないと撮れないであろう、ひとりの女性が内在するフリーキーなエネルギーが、モノクロームを主体とした画面上で暴発しているようだ。

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中華街に甦る衛生展覧会

かつて「衛生展覧会/博覧会」という見世物があったことを、ビザール系がお好きな方ならご存じだろう。あくまでも庶民啓蒙の体裁を取りながら、その実は人体解剖模型から病理標本に瓶詰め畸形児まで、おどろおどろしい雰囲気に満ちた猟奇的な見世物催事である。いまから半世紀以上前に消滅した衛生展覧会が、11月の2週間だけ、横浜中華街の小さなギャラリーに甦る。SNSによる相互監視密告システムが張り巡らされたこのご時世に、こんなに不穏な展覧会を企画したのは骨董屋でありオブジェアーティストでもあるマンタム。本メルマガ2013年5月15日号で厚木市内の魔窟を紹介した、フェティッシュ/ビザール界の怪人である。

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Back in the ROADSIDE USA 57 Museum of Woodcarving, Shell Lake, WI

ウィスコンシン州北部、その名のとおりシェル湖に面した人口1,000人ちょっとの小さな町がシェルレイク。そのハイウェイ63号線沿いに、倉庫のような外観をさらすミュージアムが『ミュージアム・オブ・ウッドカーヴィング』。地元の教師だったジョセフ・バータが独力で作り上げた、「ひとりの手による世界最大の木彫コレクション」である。建築材としてポピュラーなツーバイフォーの角材をつなぎ合わせた塊から彫りだされた、等身大の木彫作品が100余体、さらにミニチュア版が400体。「ひとりの手で彫り出された世界最大の木彫コレクション」だという。

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おら青森さ来ただ――吉幾三コレクションミュージアム

津軽半島の根元に広がる五所川原市。太宰治の故郷・金木で有名だし、津軽三味線の祖・秋元仁太郎も金木出身。大阪城を模した自邸を建て、出ては落ちてもめげずに挑戦を繰り返した泡沫候補の星・羽柴誠三秀吉も金木出身。そしてもうひとり、忘れてならない五所川原の有名人が吉幾三である。五所川原駅の西側に広がる旧市街はいま再開発の真っ最中。真新しいビルとシャッター商店街が入り交じる荒涼とした風情だ。中心部にそびえる巨大な建物が『立佞武多(たちねぷた)の館』。五所川原の夏祭りを象徴する、高さ最大20メートルという巨大な山車を収めた観光施設で、そのすぐそばで寄り添うように営業中なのが『吉幾三コレクションミュージアム(Y.C.M)』。ちなみに五所川原立佞武多のテーマ曲も、吉幾三によるものだ。

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Back in the ROADSIDE USA 59 The House on the Rock, Spring Green, WI

ウィスコンシン州スプリンググリーンは、フランク・ロイド・ライトのアトリエ、タリエセンがあることで、建築ファンにはよく知られた土地である。地元で不動産業を営むかたわら建築デザインも手がけていたアレックス・ジョーダンは、友人らとともにタリエセンにライトをたずね、自分のデザインを見せたが、ライトの「あんたには才能がない」という非情な一言とともに、図面をつき返されてしまう。恥をかかされ、復讐を誓ったアレックスは、タリエセンを見下ろす小高い丘を手に入れ、ライトの建築に対する壮大なパロディ建築を建てようと決心した。その遺志を継いだ息子ジョーダン・ジュニアが1940年代はじめから本格的な建設に着手し、59年に一般公開されたのが「ハウス・オン・ザ・ロック」。しかしハウスは単なるパロディにとどまることなく、ジュニアの手で思いがけないスケールへと増殖していった。

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Back in the ROADSIDE USA 60 Wild Mountain Man, Hancock, Maine

メイン州の海沿いにのびるハイウェイ1号線を北上している最中、道端にカラフルな木彫りの彫刻が並べられているのが目についた。クルマを停めてみたが、彩色を施した完成品と、削りかけの材木が屋外にごちゃごちゃ置いてあるだけ。だれも出てこないので、次のスポットに向かったものの、なんだか気にかかって、その日の午後にハイウェイを引き返して、もういちど寄ってみることにした。置きっぱなしの彫刻を目印にクルマを近づけると、今度はブーンと軽快なチェーンソーの音がしている。見れば、極太の材木を相手に、ヒゲもじゃの男がひとり、木くずだらけになって電気ノコを振り回している。

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Back in the ROADSIDE USA 61 The Wilhelm Reich Museum, Rangeley, Maine

先週はチェーンソーの彫刻家レイ “マウンテンマン”マーフィーを紹介したメイン州。ロブスターとLLビーンの本店で知られる州でもある。北と東の州境をカナダに接するメイン州は、アラスカをのぞいてアメリカ合衆国最北部に位置し、アメリカでいちばん早く朝日が昇る地。なにしろ土地の90パーセントが森林であり、その緑のじゅうたんに彩りを添える湖の数が6000以上。どこまでも続く海のような緑の森を飛行機から眺めていると、アメリカのような現代文明の中心である国の中に、こんなにも広大な人跡未踏の地がいまだに残っていようとはと呆然となる。懐の深い自然と、いまだ根強く残るフロンティア・スピリットに惹かれるのか、メイン州にはいっぷうかわった住人が数多く生息している。海の民、森の狩人、元ヒッピーのコミューン、哲学者、そして自然の恵みを作品につくりかえるアーティストたち。その先達とも言える存在がウィルヘルム・ライヒだ。

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SIRARIKA 池田宏とアイヌ

ロードサイダーズにはすでになじみの深い東京新井薬師・スタジオ35分で池田宏写真展『SIRARIKA』が始まっている。今週は池田宏の写真を長く見てきた編集者の浅原裕久さんに、池田さんとその作品について書いていただいた。今回展示されるシリーズ以前に撮影された写真を交えたインタビュー、さらに「SIRARIKA」誌上写真展と3部構成で、いま、現在進行形としてのアイヌの生のありようをご覧いただきたい。

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Back in the ROADSIDE USA 65 The Shanti, Gunder, IA

見渡すかぎりのトウモロコシ畑と牧草地の中に埋もれてしまいそうな町、グンダー。現在の人口が32人、町というより集落だが、この町のただひとつの四つ角に面した小さな食堂に、アイオワはもとよりアメリカ中、さらにはヨーロッパやロシア、アフリカからも訪れる人たちがいる。彼らのお目当ては、食堂の名物「グンダーバーガー」。ようするに巨大なハンバーガーだが、なにしろ肉の量が1ポンド(約450グラム)。ちなみにマクドナルドのハンバーガーの肉が45グラムだから、だいたい10個分ということになる。これにオニオンだの、ポテトだのが小山のようについて、値段がたったの5ドルとちょっと。しかも地元産の素材だけを使用したバーガーは、大きいだけじゃなくて最高に美味なのです。

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Back in the ROADSIDE USA 67 Field of Corn, Dublin / Longaberger Headquarter and Homestead, Newark and Dresden, OH

オハイオ州コロンバス市街の北側、瀟洒な住宅街と企業の本社が入り交じるダブリンの一角に、なにやら白い柱がにょきにょき立ち並んでいる。車を停めて近寄ってみると、柱に見えたのは白いセメントで作られた巨大なトウモロコシだった。ダブリン市が「アート・イン・パブリック・プレイセス」と名づけた芸術振興活動の一貫として、地元のアーティスト、マルコム・コクランが1994年に制作したものだという。全部で109本ある、ほぼ等身大(実物大ではなく)のトウモロコシ。ツブツブまでちゃんと作ってあって、なんだかおいしそうに見えてくる。

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Back in the ROADSIDE USA 69 Call of the Wild, Gaylord, MI

ミシガン州北部の小さな町、ゲイロード。人口4000人足らずだが、ゴルフやスキーのリゾートとして知られ、街なかの建物はチロル風に統一されていたりする。ゲイロード郊外に1965年から続く観光教育施設(?)が『コール・オブ・ザ・ワイルド』。アメリカ文学史に残る名作、ジャック・ロンドンによる『荒野の呼び声』をそのまま館名に使った剥製動物ミュージアムだ。カール&ハティ・ジョンソン夫妻によってつくられた『コール・オブ・ザ・ワイルド』は、北アメリカに生息する動物たちを剥製にして、リアリスティックな背景の中に配置。まるで額縁ショーを見るように、ジオラマよろしく熊やら狐やら、その他もろもろの動物たちが、ここには150体以上も揃っている。

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それぞれの決壊

トークのあとにいろんなひとが話しかけてくれる。初対面のひとも、久しぶりに会うひともいて、目の隅で話しかける順番を待ってるひとをチラ見しながら、適当な時間で切り上げなくてはならないのが残念なときも多い。で、そういうタイミングで「写真撮ってて、見てほしいんですけど」と分厚いポートフォリオをカバンから取り出すひとがいる。ちょっと・・・。でも、きちんと名刺交換してアポを取って後日尋ねてくるひとよりも、そんな不器用な(?)見せ方しかできないひとのほうが、実はおもしろい写真を撮っていたりもする。先日、あるトークのあとにそんなふうにポートフォリオを取り出した青年が砂田耕希さんだった。砂田さんは東京や横浜の路上で出会ったひとたちのポートレートをずっと撮っているそうで、4月の1ヶ月間、このメルマガ読者にもきっと大ファンが多いにちがいない新宿駅地下のBERG(ベルク)で初めての写真展『それぞれの決壊』を開く。

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うろんな一族とお祭り人生

いつもたくさんのおもしろそうな展覧会のお知らせをいただいて、でも1週間とか10日間とかの会期で入れ替わってしまう展示を欠かさず見て回るのはすごく難しい。今週は急いで回った、小さな、でも見ないままスルーしてしまうにはもったいなさすぎる展覧会をふたつお知らせする。

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Back in the ROADSIDE USA 77 Rosemary's Texas Taco, Patterson, New York

マンハッタン中心部から100キロほど北にある町、パターソン。ルート22に面して、エキセントリックな内装と、健康的なメニュをそろえたレストランが、ローズマリーズ・テキサス・タコ。アーティストを目指して1969年ニューヨークにやってきた、テキサス生まれのローズマリー・ジェイミスンが始めた店である。

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Back in the ROADSIDE USA 78 Petrified Creatures Museum of Natural History, Richfield Springs, New York

ニューヨークシティからカナダ国境まで広がるニューヨーク州の真ん中へんにある、小さな町リッチフィールド・スプリングスは、マンハッタンから4時間ほどのドライブ。オープンが1934年というペトリファイド・クリーチャー・ミュージアムは、太古の恐竜と化石を観察しながら、自分で化石を掘り出せる体験型の学習観光施設だ。とはいえ最大の魅力は林のあちこちに配置された、手作り感あふれすぎのコンクリート製恐竜。午後の日差しを浴びて蛍光色のようにぎらぎら光る極彩色の皮膚は、科学というより現代美術の領域に足を踏み入れているような、ビザール感をにじませている。

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Back in the ROADSIDE USA 79 Spud Drive-In, Driggs, ID

ワイオミングとの州境にそびえるグランド・ティトン山系は、ロッキー山脈の最北端に位置し、登山家、スキーヤーに広く愛されている。ティトン山系のアイダホ側にあるベース・キャンプとなる町がドリッグス。町の南端には、アメリカでもなかなか見ることのできなくなったドライブイン・シアターが、いまだに営業中だ。週末ともなれば若者や家族連れがクルマで乗りつけ、道路脇にそびえる巨大スクリーンにクルマの中から見入りながら、評判のハンバーガーをぱくついたりしている。

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Back in the ROADSIDE USA 80 Shoshone Ice Cave, Shoshone, ID

「アイダホの鬼押出し」クレイター・オヴ・ザ・ムーンの、奇怪な溶岩台地を窓の両側に眺めつつ走っていくと、「アイス・ケイヴこちら!」と力強く主張する看板が。思わずハイウェイをそれ、砂利道をしばらく走っていくと、巨人インディアンや恐竜のあいだに、おみやげ屋をかねた入口がある。これがアイダホはもちろん全米でも有数の規模と、「アイス・ケイヴ」の名のとおり真夏でも氷の張るユニークな環境で知られる観光洞窟だ・・・が、緑色のコンクリート製恐竜の頭部にまたがる「原始人」の姿を見た時点で、そのチープな観光ビジネス感覚に期待が高まる。

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Back in the ROADSIDE USA 81 Earl's Art Gallery, Bovina, MS

ミシシッピ州ヴィックスバーグ。南北戦争のヴィックスバーグ包囲戦や、多数の黒人が殺されたヴィックスバーグ虐殺でもアメリカ史に名を残す都市だ。その郊外、ボヴィナの林と地味な住宅街が入り交じるあたりに『アールズ・アート・ギャラリー』がある。アール・シモンズと仲間たちが過去十数年間にわたって作り上げた作品を展示する、ここは美術館であり、直売店でもあるのだ。

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Back in the ROADSIDE USA 82 Gracelant Too, Holly Springs, MS

ミシシッピ北東部の小さな町ホーリースプリングス。エルヴィス・プレスリーの生地として名高いテュペロまでは1時間足らずである。町の中心近くにある住宅街、地味な平屋が連なる中に、真っ白い外壁と、目の覚めるようなブルーの木が異様に目立つ、2階建ての家がある。これがおそらく世界でもっとも熱狂的なエルヴィス・ファン、ポール・マクルードと息子のエルヴィス・アーロン・プレスリー・マクルード(そう、本物と同じ名前を、息子にもつけてしまったのだ!)が住む、『グレイスランド・トゥー』である。

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空山導師のメタリック・エクスタシー

空山基=Hajime Sorayamaという名前は知らなくても、あのメタリックな女たちのイメージをいちども見たことのないひとは少ないのではないか。本メルマガでも2012年8月12日号『軽金属の娼婦たち』で代表作とアトリエ訪問を特集したのを手始めに、何度か空山さんの作品を掲載してきた。いま渋谷のNANZUKAでは、同ギャラリーで3度目となる2年ぶりの個展『空山基 Sorayama explosion』が開かれている(8月11日まで)。ご承知のように空山さんには1978年に始まる「セクシーロボット」シリーズの大ブレイクに始まり、1999年のソニー「AIBO」コンセプトデザイン時代と2度の大きな波があり、クライアントからの依頼によるイラストレーション・ワークから、世界中のファンやコレクターに向けて自分の好きな絵を描いて発表するアーティスト的なスタンスに活動をシフトさせた現在が、3度目のビッグウェイブになっているのではないかという気がする。

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Back in the ROADSIDE USA 84 Musée Conti Wax Museum, New Orleans, LA

ニューオリンズ観光の中心、フレンチ・クオーターにあるワックス・ミュージアム。観光地によくあるタイプかと敬遠されがちだが、中身は意外に盛りだくさん。さすがニューオリンズならではの、カラフルな歴史に彩られたワックス・ジオラマが展開している。小学生の団体や、家族連れに占領させておくには惜しい充実ぶりだ。

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Back in the ROADSIDE USA 87 Clyde Jones's Zoo Garden, Bynum, NC

先日のハリケーン・フローレンスで大きな被害を受けたノース・カロライナ州。森と湖に抱かれ、信号のひとつさえない静かな村、バイナムをクルマで通りすぎようとすると、家々の前庭に木の幹や根で作られた、素朴な動物たちが飾られている。通りから奥に入ってみると、急に動物たちが増え、そして一軒の小さな家が見つかる。いったい何百匹の動物が、ここにはいるのだろう。シカ、牛、豚、キリン、ゾウ、イルカ、ゴリラ・・・数えきれないほどの動物たちで、平屋の家は隠れてしまいそうだ。この家の主、そして村の家々を飾る木彫の作者が、1938年か39年生まれのクライド・ジョーンズ(本人は細かいことに興味ないので覚えてないとか)。

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螺旋の冒険

最初に出会ったのが2012年10月3日号「黄昏どきの路上幻視者」。それから何度か登場してもらった仙台在住のグラフィティ・ライター/アーティスト、さらにオルタナティブなギャラリー「Holon」の運営も続けてきた朱のべん。新たな音源リリースを記念して、東京で作品展の開催が決定。オープニング前夜にはライブセッションも予定されている。

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渡辺雅絵「魔改造」展@mograg

アウトサイダー・アートというよりもロウブロウ・アート、と世間的には認識されているのだろう。でも、mogragギャラリーにときどき立ち寄って、それまで名前も知らなかった若い作家たちの展覧会を見ていると、いわゆる現代美術でもなければ、むろん伝統美術でもなく、障害を背負ったからだやこころから生み出される表現でもない、ただ音楽をやりたかったから楽器を買って曲を作ったり歌ったりするように、ただ絵を描いたり立体物を作りたくて作ってるだけ、むしろこっちのが「ふつうのアート」なんじゃないかと思えてくる作品によく出会う。送られてきたDMの写真が妙に気になって、先週日曜に見に行ったのが渡辺雅絵個展『魔改造 MAKAIZO』。DMのコピーには、「ガンプラ×植物」「洗練された造形技巧により」「二つの異世界が亜空間融合!」「動植物をモチーフとしたモンスターたちを制作するアーティスト。生物のフォルムや、機能美に憧れ、アクリル画や立体作品で表現する。」とある。

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Back in the ROADSIDE USA 90 The Paper House, Rockport, Massachusetts

ボストンから約1時間、観光漁港としてにぎわうロックポートのはずれ、ピジョンコーヴと呼ばれる小さな入り江を見下ろす丘に、ペーパー・ハウスがある。その名のとおり「紙でできた家」、正確に言えば10万部以上の新聞紙を使って建てられた家なのだ。エリス・ステンマンという機械技師が、ロックポートに夏の家として建てたこの家。1922年に思いついてから、なんと20年間以上の時間を費やして作られたというペーパー・ハウスは、新聞紙を使い、しかもその新聞が「読めるように」デザインされたという恐るべき手業の集積である。

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Back in the ROADSIDE USA 91 New England Pirate Museum, Salem, Massachusetts

ボストンの北側に位置するセイラムを中心とした海岸線の一帯は、17世紀後半には「黄金海岸」と呼ばれ、海賊たちが跋扈していた。いったいどれくらいの船が沈められ、人が殺されたのか定かではないが、ここ数年だけでもマサチューセッツ沖合で、3千万ドル以上にのぼる財宝が海中から発見されたという。ニューイングランド・パイレート・ミュージアムは、大西洋を舞台にアメリカ、ヨーロッパ入り乱れて繰り広げられた海賊たちの戦いと冒険の物語を、ジオラマによって再現したユニークな展示館。もちろん海賊姿に扮装した威勢のいいガイドが、1シーンずつ丁寧かつ大げさに解説してくれる。

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テキーラ飲んでゾンビになろう!2018

10月24日配信号で、ワルシャワの激渋タトゥー・コレクション「ステイ・ロウ、ステイ・ベーシック――オールドスクール・タトゥーの教え」を特集したモーリシー・ゴムリッキ。ポーランド人ながらメキシコシティ在住のアーティストであるモーリシーくんは長い友人なのですが、本メルマガでは2012年11月21日号でメキシコシティの秋の風物詩!ゾンビ・ウォークを紹介してくれてます(テキーラ飲んでゾンビになろう!)。あれから6年、現在のメキシコはさらに物騒な国になってしまっているけれど、有名な「死者の日」の祭もゾンビ・ウォークも健在のようで、久しぶりに「今年のゾンビ・ウォーク便り」を送ってくれました。

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Back in the ROADSIDE USA 92 The National Great Blacks In Wax Museum, Baltimore, Maryland

先週に続いてメリーランド州ボルティモアから。市街北部、窓ガラスの代わりにベニヤ板を打ちつけた廃屋が目立つ、思わず車のドアのロックを確かめたくなるエリアに、全米唯一のアフリカ系アメリカ人、つまり黒人の歴史と偉人だけを扱ったロウ人形館がある。人口の半分以上を黒人が占めるボルティモアに長年暮らし、アメリカにおける黒人の歴史を学ぶ場があまりに少ないことを危惧したエルマー&ジョアン・マーティン博士夫妻が、1983年に開いた小さな展示館がミュージアムの始まり。スクールバスを連ねて押し寄せる子供たちの多さに、すぐに手狭になり、寄付を募ってあらたに開館したのが、現在のグレート・ブラックス・イン・ワックス・ミュージアムだ。

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SADO INFINITY 88 Cymbal、全世界配信! 「リアルスナック芸術丸」も!

2018年10月10号で特集した「さどの島銀河芸術祭2018」。3日間にわたった祭典のうち、最終日に開催された「SADO INFINITY 88 Cymbal」が、ようやく映像となって公開されます! 美しい棚田を舞台に、BOREDOMSのEYEさんの指揮のもと、88のシンバルが奏でる天上の音楽体験! まずは佐渡島内のケーブルテレビ「サドテレビ」で12月30日に「アイランドプレミア」放映され、1月1日00時00分に、DOMMUNEサイトからワールドプレミア! これはDOMMUNE版の「ゆく年くる年」裏番組!ですねえ。そのあとも1月8日までアーカイブ解放されるそうなので、元旦に初詣とか行っても大丈夫! これだけの規模の音楽体験が、これほどのロケーションで生まれることは滅多にないと思うので、現場に参加できなかったみなさまも、この機会にぜひ映像で追体験してください。

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Back in the ROADSIDE USA 95 National Museum of American History, National Mall, Wahington DC

ワシントンを訪れる日本人観光客のほとんどは、スミソニアンがお目当てなのではないだろうか。美術、科学、歴史とあらゆる分野で、全米はもとより世界最高峰のコレクションを誇る、一大ミュージアム群である。その中でも足を向ける日本人が比較的少ないのが、アメリカン・ヒストリー・ミュージアム(国立アメリカ歴史博物館)。その名のとおり開拓時代から現在までの波乱に満ちたアメリカ史を、貴重な資料によって辿る歴史博物館だ。アメリカ史に親しんでいないと楽しめないと思われがちだが、昔懐かしいスタイルのジオラマが各所に散りばめられた展示スタイルは、気軽に見て回るだけでも価値あり。歴代ファーストレディ(大統領夫人)のドレス展示にうっとりのおばさんもいれば、黒人差別の歴史フロアで動かなくなるヒップホップにいちゃんもいたりと、客層もバラエティに富んでます。

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顔ハメ看板ニストふたたび

「顔ハメ看板ニスト」塩谷朋之(しおや・ともゆき)さんに出会ったのは2015年のこと。その年の9月9日号で『穴があればハメてきた――顔ハメ看板ハマり道』と題して、そのころすでに顔ハメ歴数年のキャリア、作品数にして約2200点という顔ハメ看板写真コレクションを紹介した。中学でヤン・シュヴァンクマイエルと出会って映画の道を目指し、カリフォルニア・オークランドでパンクに浸っていた塩谷さんが、なぜに顔ハメにハマり、通勤カバンにもカメラと三脚を常備するまでになったかは、アーカイブから記事を読んでいただきたいが、その塩谷さんがこのほど久しぶりの写真展『顔ハメ看板ニスト 塩谷朋之「15年目の顔ハメ写真展』を開く。前回が2013年だったから、6年ぶりの写真展ということになる。

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Back in the ROADSIDE USA 96 Big Texan Steak Ranch, Amarillo, TX

インターステート40号線沿いに走ると、「72オンスのステーキがタダ!」と大書されたビルボードが、やたら目につく。その下に小さく書かれた「1時間以内に食べきれたら」という注意書きまでは読めないのだが。アマリロ郊外に巨大な店を構える『ビッグ・テキサン・ステーキ・ランチ』は、アメリカ中の肉好きに知られた有名店だ。メインのレストランのほか西部劇ふうのモーテルを備え、夏のシーズンにはカントリー&ウェスタンのショーも頻繁に開かれる。2階の一角には、ハリウッド映画のコスチュームや小道具を集めた「ハリウッド・ミュージアム」まで店を開いている。

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Back in the ROADSIDE USA 98 Old West Wax Museum / Safari Club Restaurant, Thermopolis, WY

ワイオミング中部のサーモポリスは、「テルメ」(温泉)と「ポリス」(市)が合わさってできた名前が示すとおり、温泉で成り立っている町。熱海みたいなもんでしょうか。摂氏50度以上の温泉が毎分9700リットルも湧き出す巨大な湯池を囲むように公園が整備されていて、州営の無料公衆浴場(露天風呂つき)も一年を通して開いている。ちなみにワイオミングにはもう一ヶ所、サラトガに公営無料温泉があって、こちらは無料の上に24時間オープンなので、温泉マニアはチェックしておきたい州かもしれない。

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Back in the ROADSIDE USA 99 The Nelson Museum of the West, Cheyenne / Stagecoach Museum, Lusk, WY

先週に続いてワイオミング州のオールドウェスト・スポットをご紹介。シャイアンといえば自動的に思い出すのが西部劇だ。開拓時代のカウボーイ・タウンの賑わいと、牛成金たちの華麗なライフスタイルの余韻が、いまだ町のあちこちに残っている。歴史的建築物が並ぶダウンタウンの一角にあるのがネルソン・ミュージアム・オヴ・ザ・ウェスト。弁護士であり、熱心な狩猟家でもあったロバート・ネルソンのコレクションを一同に展示した、その名のとおり西部劇の世界を実物で味わえる、ウェスタン・ファンにはたまらないミュージアムだ。

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Back in the ROADSIDE USA 100 Devil's Rope Museum, McLean, TX

いにしえのルート66沿いに残る、ロードムーヴィーそのままのように美しく寂れた町、テキサス州マクリーン。5分も走らないうちに通りすぎてしまうようなサイズだが、町の中央に小さいながらユニークな博物館がある。『デヴィルズロープ・ミュージアム』は、入口にモニュメントのように飾られた巨大な「鉄条網の球」が目印。デヴィルズロープとは、鉄条網の別名なのだ。開拓時代、牧場主とカウボーイたちにとって、鉄条網は非常に大事なものだった。この博物館には、アメリカ南部、西部の開拓と運命をともに歩んできた鉄条網が、およそ2,000種類も展示されていて、鉄条網ファンにはたまらない〈そんなひと、いるのだろうか)。

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Back in the ROADSIDE USA 104 Madonna Inn, San Luis Obispo, CA

LAからサンフランシスコを通ってオレゴンへと、北に伸びるハイウェイ101。旅行通は海沿いに絶景が続く1号線=パシフィック・コースト・ハイウェイを好みがちだが、お笑い名所は単調な風景の101号線のほうに集中している。LAとサンフランシスコとの、ちょうど中間にあるのがサンルイス・オビスポ。小さな観光港町だが、ハイウェイ沿いにある『マドンナ・イン』は、全米屈指の有名ホテル。と言っても歴史や格調ではなくて、キッチュを極めたラブリー・インテリアで、「アメリカ人が行ってみたいハネムーン・スポット・ナンバーワン」に輝いているのだ。とにかくピンク一色に固められた建物の、レストランからバーから、全室異なった内装のゲストルームにいたるまで、その極甘テイストには、理性も感性もメロメロ必至である。

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アンドロイドの子に宿る夢

今年4月から5月にかけて開催された『サーカス博覧会』に続いて、埼玉県東松山市の「原爆の図 丸木美術館」では『管実花 個展 人形の中の幽霊 The Ghost in the Doll』が開催中だ。このあいだまで見世物小屋の絵看板がずらりと架けられていた広い展示室には、大判のモノクローム・プリントが11点、静かに並んでいる。「人形の中の幽霊」という不穏なタイトルをつけられたこのシリーズは、不幸にして幼子を亡くした母親や、不妊治療に苦しんだ女性たちのために、子どもの代わりとしてつくられた「リボーンドール」を、19世紀に欧米で流行した「死後記念写真」の様式に則って、当時と同じ湿板写真の手法で撮影した作品群である。心地よさそうにタオルにくるまれたり、おもちゃで遊びながらこっちを見ているつぶらな瞳の赤ちゃんたちは、実は「失われた/授かることのかなわなかった」子どもたちにこころ寄せる、母の哀しみが詰まった「ひとがた」なのだ。

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Back in the ROADSIDE USA 107 Dinosaur World, Beaver, AR

ダイナソー・ワールドを開いたのはオラ・ファーウェルという霊能者。もともと「世界最大のマッカーサー将軍像」(アーカンソー州出身)をぶち立てて観光客を集めようと思ったが、当局が難色を示したため、「世界最大のキングコング」に変更。コングのまわりに恐竜を配置して、コング・ランドに仕立てたというわけだ。キングコングって、恐竜の時代にいたんだっけ?などと野暮な疑問は胸にしまっておいて、広々とした敷地に点在する恐竜像を車窓から観察してみよう。ま、科学博物館みたいに正確じゃないかもしれないが、なんともユニークな彩色と表情は、それなりに可愛かったりする。

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Back in the ROADSIDE USA 108 Josephine Tussaud Wax Museum, Hot Springs, AR

ロウ人形館ができるとその観光地は、なぜか2段階ぐらい、ぐっと品が落ちてダメな感じになる。アーカンソー州南西部のホットスプリングスは、百年以上前からにぎわう老舗観光地。エレガントなバスハウスが湯煙に霞む光景は、アメリカの熱海と呼びたい非現実感が漂う。温泉といえば「飲む、打つ、買う」というわけで、ホットスプリングスはかつて名だたるギャングたちが闊歩する、スリリングな土地でもあった。禁酒法時代にアル・カポネが本拠にしたのもここ。往時の残り香をとどめるアナクロ観光スポットが、いまでも街には生き延びている。そしてホットスプリングスにも、やっぱりロウ人形館があった。それもジョセフィン・タッソーなどという、いかにも正統派のロウ人形館らしい名前の。

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ペイジ・パウエル「ビューラ・ランド」展、開幕!

先々週号「ニューヨークが「ほかのどこにもない場所」だったころ」で特集したペイジ・パウエルの写真展「BEULAH LAND」が、先週末にドーバー ストリート マーケット銀座で開幕した。ドーバー ストリート マーケットの1階には「エレファントルーム」と呼ばれる小部屋がある。中央にイギリスの立体作家ステファニー・グエールによる巨大ゾウが鎮座するガラスの空間が、今回の展示室。ゾウは半透明スクリーンで囲い込まれ、壁面すべてと床面に約3,000枚のプリントを貼り込められて、なんだか80年代に直結するタイムカプセルに飛び込んだ気分にさせられた。壁面のあちこちには無料のポストカードが仕込まれていて、好きなものを持って帰れるようになっている。

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art

詩にいたる病、ふたたび

2015年08月18日号「詩にいたる病 ――安彦講平と平川病院の作家たち」を起点に、東京・八王子市の平川病院〈造形教室〉とはこのメルマガで長くお付き合いをさせてもらってきた。安達さんたちは東京都内の精神科病院で構成される一般社団法人東京精神科病院協会(東精協)主催の「心のアート展」(池袋・東京藝術劇場内ギャラリー)のほか、平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加する「自己表現展」を地元八王子で定期的に開催していて、今年は地域活動支援センター「ひまわりアーティストクラブ」との共催で、「“癒し”拓くアート 二つの場による自己表現展」がすでに10月1日から開催中。さらに10月17日からは、〈造形教室〉のメンバーである古名和哉さんの個展も開かれるので、あわせて紹介させていただきたい。

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art

1万年の時を超えて――縄文タトゥーのプリミティブ・フューチャー

最近ではテレビ番組『クレイジージャーニー』や雑誌『BURST』の復刊でも知られるようになったケロッピー前田さんは、いつも興味深いことや恐ろしいことやおぞましいことをいろいろ教えてくれるのだが、ここ数年はトライバル・タトゥーの彫師・大島托さんと組んで「縄文族 JOMON TRIBE」なるアートプロジェクトを運営。2016年に開催された展覧会は本メルマガでも告知したが、来る11月15日から3年ぶりの個展が東京阿佐ヶ谷TAV GALLERYで開催される。最初に写真を見たときからこころをざわつかせる存在だったので、今回じっくりお話を聞かせてもらうことにした。

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art

藤田淑子と渇望する少女たち

「銀色の背景に、ほとんど赤と青、みたいな単純な色合いの人物やカーテンのドレープ、つまりひだひだがべたっと描かれていて、でも人物には目も鼻も口もない。むしろ主役は赤や青のひだひだみたいだ。ユーモラス、というには不気味すぎるし、幻想的というにはシュールすぎる。ルネ・マグリットや、クロヴィス・トルイユの絵に対面したときのような、漠然とした不安感をかき立てられて、心地よいというよりムズムズさせる絵」――2018年6月20日号「カーテンの襞から覗く顔」で紹介した不思議な画家・藤田淑子の個展「Thirsty Girls ―渇望する少女たち―」が1月10日からスタートする。前回の取材時に見せてもらった作品の印象がすごく強烈で、小さな絵を購入したりしていたのだが、今回の個展ではメインに高さ175センチ、横幅が10メートルになる大作と、初挑戦の短編アニメーションもお披露目されるという。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 6

上海市中心部から西に20キロほど、バスで40分ほどの郊外の団地に住む男性である。職業はGAPに働くグラフィック・デザイナー。もともとヘアスタイリストをめざしていたが、お客さんとの会話が苦手で断念。でもいまだに愛用のカット用ハサミは手放せないという。デザイナーとはいえ毎日職場に通勤しなくてはならないが、「定時に帰れないことは滅多にないです」という恵まれた環境のため、個人的に受けるデザイン仕事や、いろいろな趣味に費やす時間もたっぷりある。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 7

上海中心部に近い普陀区の団地に住むデザイナー夫婦。夫は山西省の田舎育ち、妻は上海人で、ふたりともデザイナー。夫は家で仕事、妻は職場に平日の毎日通っている。以前もこの近くの1ベッドルーム・アパートに住んでいたが、いま5歳になる娘が生まれたのをきっかけに、そこを売却してこの2ベッドルームの物件を、ローンを組んで購入した。建物は1996年にできたというが、すでにかなりの風格である。中国では物件を購入するとき、室内の家具調度はなにもないのが普通。なので入居時に内装工事や家具の調達をしなくてはならない。彼らはふたりともデザイナーなので、外に向いた壁を大きく開けて採光をよくしたり、さまざまな工夫で趣味のよい空間に仕上げてある。

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photography

私たちは消された展 2020

2019年2月6日号「消され者たちの歌」で紹介した『私たちは消された展』と、主宰の写真家・酒井よし彦さん。神保町のギャラリーで開かれた展覧会は、たった1週間の会期に900人もの観客が訪れたという。『私たちは消された展』はFacebook、InstagramなどのSNSに、性的な内容が「ガイドラインに反する」とされて、アカウントを凍結・削除・警告されてしまった表現者たちが集まって開いたグループ展。来場者は展示を撮影して「#私たちは消された」のハッシュタグをつけてSNSへの投稿を要請(強制?笑)され、それによって来場者までもが投稿削除されるという……なかなかに刺激的な観客参加型展覧会だった。予想をはるかに超える反響を受けて、2月3日からスタートしたのが『私たちは消された展 2020』。前回を超える16名の作家たちが参加して、より挑発的な喧嘩上等展覧会になっているはずだ。

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travel

おもしろうてやがてかなしき済州島紀行7 映画と恐竜と国際平和

山下達郎の「棚からひとつかみ」ではないけれど、10年前に取材したものの、発表する機会がなかった珍スポット開陳シリーズ、済州島オマケ誌上旅行の第2回は、映画と恐竜と国際平和にご案内。3ヶ所とも現在まで営業中なので、コロナが終息したぜひ早めの来島を!

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food & drink

旅のなごりのサンドイッチ

新型コロナウィルス感染防止の自粛要請で全国の飲食店は生死の境に追いやられているわけですが、そのおかげでテイクアウトからオンライン料理教室まで、さまざまに新しい取り組みというかサバイバルのスタイルが模索されてもいます。三軒茶屋の茶沢通りに面したビルの2階にあるカフェ「ニコラ」ではサンドイッチのテイクアウトを始めていますが、ここで紹介したかったのはそれが本メルマガでもニューヨーク・ジャクソンハイツの記事で紹介した小説家バリー・ユアグロウと、翻訳者の柴田元幸両氏とカフェによる、「小説+サンドイッチ」とも呼ぶべき楽しい企画だから。

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travel

ブイの町

ようやく外出規制緩和とはいえ、まだまだ気楽に遠くまで行けない日々。うずうずする気持ちをおさえるのが難しいけれど、もう少しだけ待つあいだに、これまでメルマガに未収だった小さな旅の記録をいくつか見てもらうことにした。2年ほど前、BOROの撮影ロケハンで、津軽半島を回ったことがあった。青森市で会った地元テレビ局のひとに、「BOROが似合いそうな寂しい風景を探してて」と話したら、「そんなのいっぱいありすぎて!」と言われ、それもそうだなとひたすらドライブ。陸奥湾に沿って伸びる国道280号(青森市から津軽海峡を渡って北海道函館市に至る)を走っていると、突然シュールなSF映画のセットに飛び込んだような、不思議な光景が広がった。

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food & drink

愛の不時着・歌舞伎町編

歌舞伎町で最後に残ったキャバレー「ロータリー」の最後を今年4月29日号でお伝えしたが、この6月末でもう一軒の、歌舞伎町の伝説をつくった店が閉店する。すでにニュースでご存じのかたもあるかと思うが、老舗ホストクラブ「愛本店」である。1971年創業だったので、足かけ50年目。ビル老朽化による閉店で、移転先はなんとロータリーのあった場所だという。 歌舞伎町ホストクラブ協力会・初代会長もつとめた愛田武社長(本名・榎本武)率いる「愛」グループは、日本ホストクラブの歴史そのものだった。僕はオトコなのでホストクラブにはぜんぜん縁がなかったが、十数年前にひょんなきっかけでお目にかかることができて、憧れの「愛本店」のインテリア撮影をさせてもらうことができた。これまでずいぶんエキセントリックな空間を見てきたが、もうエレクトリック・ウルトラバロックとしか表しようのない空間で、ブルーの光の海に沈みながら、ダンディなホストたちと杯を重ね、生バンドにあわせてチークを踊るというのは……世界的に見てもかなりの希少体験空間だったのではないか。

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lifestyle

タキシードサムライ 3

徳山という地方都市から北新地、そしてついに夜の商売の頂点である銀座へと、わずか7年で駆け上がった三好三郎のラモール。 終戦後すぐに復活した銀座では昭和30年代、すでに大小さまざまのクラブがしのぎを削っていたが、その中心は有名なエスポワールのるみ子ママ、京都と銀座を飛行機で往復した 「空飛ぶマダム」おそめママなど、傑出したママたちのキャラクターがなにより売りの、小規模な店だった。 そういうなかに出店したラモールは 「銀座一高い店」 を最初から謳い、花田美奈子という魅力溢れるママを表に出しながらも、主役は豪華な調度と徹底したサービス、そしてなにより美しいホステスたちという、それまでになかったビジネス戦略による大型クラブ経営を目指していた。他店できれいな子を見つけたら積極的に引き抜く。「指名料」システムをいち早く取り入れて、ホステスという「夜の蝶」同士をいわばいわばライバルとして競わせる。有名作家や文化人は料金面で優遇して、広報に役立ってもらう。お金はその取り巻きたちから払ってもらえばいい。 昭和30 年代の銀座はラモールのような大型店の出現によって、それまでのカリスマ・マダムたちを核とする小さなソサエティから一変、その全盛期を迎えることになるのだった。

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lifestyle

タキシードサムライ 4 「砂の女」とソニービル

銀座マキシムを語るには、まず映画『砂の女』から始めなくてはならない。安部公房の原作を、草月流十二代目家元でありながら幅広い分野の芸術活動でも知られる勅使河原宏(昭和2 ~平成13年)が監督した特異な名作である。昭和37(1962)年にやはり安部公房原作のテレビドラマを映画化した『おとし穴』(自身初の長編劇映画であり、旧来の商業映画から一線を画す新たな映画表現を目指して設立されたATG初の日本映画でもある)が第15回カンヌ国際映画祭に出品されたが、それに続いて昭和39(1964)年につくられた『砂の女』はキネマ旬報ベストワン作品賞、同監督賞、毎日映画コンクール作品賞、同監督賞、優秀映画鑑賞会ベスト1位、NHK (映画賞)作品賞、同監督賞など国内の映画賞を総なめにしたあと、第17回カンヌ映画祭に出品されて審査員特別賞を受賞。そのほかサンフランシスコ映画祭外国映画部門銀賞、ベルギー批評家協会グランプリ、メキシコ映画雑誌協会賞といった栄誉に輝き、昭和41(1966)年の第37回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネート、第38回では監督賞にもノミネートされている(この年の監督賞を取ったのは『サウンド・オブ・ミュージック』だった)。戦後日本映画史に輝くこの作品の企画製作にあたったのが、三好三郎が設立したワールドフィルム社だったのである。

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lifestyle

タキシードサムライ 5(最終回) 飲食事業の展開

昭和41年、銀座ソニービル内にベルベデーレ、パブカーディナル、そしてマキシムを開店したあたりから、三好三郎の関心はクラブ経営からもっと幅広い飲食ビジネスへと移行していくことになった。ソニービル開館の翌年、昭和42年には大阪に「青冥(チンミン)堂島店」をオープン。まだ中華と言えばラーメン、チャーハン、シュウマイに餃子という発想が一般的だった時代に開業した、本格的な中華料理レストランだった。「ブルーヘヴン」を意味する店名は、中国文明に造詣の深かった作家・井上靖氏による命名。同年12月には前述の「エル・フラメンコ」を新宿に開いているし、昭和46年には銀座に続いて六本木にパブ・カーディナル六本木店を開く。当時の六本木はキャンティ、ベビードール、ドンク、シシリア、ハンバーガーインといった限られた店に「六本木族」「キャンティ族」が集まる先端的な街だったが、大箱ディスコが入るスクエアビルや、瀬里奈などの店が並ぶエリアの入口に開業したパブ・カーディナルは、六本木の夜のベースキャンプのような役割を担うことになって、夜ごとファッショナブルな男女で賑わい、『anan』など新しいファッション雑誌の撮影場所としても頻繁に登場するようになった。

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photography

そこにあるコロナ

写真家・初沢亜利(はつざわ・あり)を初めて紹介したのは2013年1月23日号「隣人。―― 北朝鮮への旅」だった。 「緊急出版」という煽り文句はよく使われるが、これはそうとう緊急だなとまず驚かされたのが、初沢さんの新作写真集『東京、コロナ禍』。2月下旬から7月初めにかけて東京の街を歩きまわり撮影したコロナ禍の東京風景を142点、時系列に並べた写真集で、書店の店頭に並ぶのが今月20日ごろというスピード感。今回のコロナ禍を撮影した自費出版写真集やZINEのようなものは、うちにも届きだしているが、一般の商業出版ではこの写真集がたぶん初めての「コロナと東京の記録」ではないだろうか。

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travel

渋谷の新恥部

こっぱずかしい、という言葉はもうほとんど使わなくなってしまったけれど、久しぶりに「こっぱずかしい~~」のひと言とともに脳がフリーズしてしまったのが、友人から教えてもらった渋谷ミヤシタパーク「渋谷横丁」内に今月オープンした「純喫茶&スナック 思ひ出」だった。 「いまスナック流行ってるよね」「昭和の純喫茶もよくね?」「じゃあそれ一緒にしちゃえば。新丸ビルの来夢来人も受けてるみたいだし」なんてクズ企画会議の様子が手に取るように・・・・・・笑 ちかごろ、さすがにこれほど安易・安直にして愛にもリスペクトにも欠けた、やっつけプロジェクトがあったろうか。

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photography

ハッテンバの暗闇ドラマ ――山田秀樹写真展『映画館』

新宿御苑まわりに写真専門ギャラリーが集まっているのは、写真ファンならご存じかと思うが、ギャラリーごとに微妙なテイストのちがいがあって、瀬戸正人さんらが運営するPLACE Mではたまに、すごく変わった、ほぼ無名の写真家たちの展示が、しれっと紛れ込んでいる。基本1週間の展示なのでほとんど見逃してしまうが、8月30日(今週日曜)まで開催中の山田秀樹写真展『映画館』は、「都築さん絶対好きだから」と教えられて、今週号のメルマガに間に合うように急いで行ってきた。 成人映画館は最初から専門館だったところと、一般映画館が集客難で成人映画に鞍替えしたところがあるので、最盛期に何館あったかはよくわからないが、日本全国で数百館はあったはず。それがいまでは40数館を残すのみである。

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art

おかんアートの種明かし

先週号で告知した京都市立芸術大学ギャラリーの『おかんアートと現代アートをいっしょに展示する企画展』。ご覧になれたかたはいらっしゃるだろうか。“おかんアートと共におかんアート的な手法や雰囲気を持ち合わせる現代アートの作品をピックアップ、それらを区分けなしに展示します。 おかんアート・現代アートといった、それぞれの文脈や属性があいまいに溶け合う場で、見え隠れする表現そのものの面白さにご注目ください。”(展覧会サイトより) おかんと現代美術家の作品を「区分けなしに」展示するという、どちらかと言えばプロの現代美術家にとって厳しいグループ展だったかと思うが(「お料理大好き主婦xカリスマ料理人対決」みたいに)、展示会場の一角には今回の企画に協力した神戸・下町レトロに首っ丈の会による、「おかんアーチストの作業場」コーナーが設置されていた。

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新連載! 25年目の珍日本紀行 群馬編1  アダルト保育園

『珍日本紀行』から四半世紀が過ぎたと気づいて、ひとりで遠い目になった。 もともと1993年から98年まで週刊SPA!誌に連載したあと、写真集ができてもしつこく取材を続け、2000年に出版した東日本・西日本編の筑摩文庫版では計341件の「路傍の奇跡」を網羅している。インターネットの珍スポットまとめサイトどころか、ネット自体がほぼ存在せず、携帯電話もアナログでキャリアごとに通話エリアが限られ使い物にならず、カーナビもなく・・・・・・『るるぶ』の地図と方位計だけを頼りに、トランクにありったけのカメラとフィルムを積んで日本全国を走り回った日々。あのころの憑かれたような気持ちがいまでは懐かしいが、あれから20年以上経ったいま、もうなくなってしまったスポット、かろうじて生き延びているスポット、意外にもグレードアップしているスポット・・・・・・さまざまな運命のいたずらに翻弄された懐かしの場所を、あらためて訪ね歩きたくなってきた。新型コロナウィルスでもう半年近くも東京に閉じ込められているせいだろうか。それとも死を目前にした珍スポットに呼ばれているのだろうか。 かつて訪ね歩いた取材地を再訪しながら、『珍日本紀行』以降に生まれた場所や、新たな発見を盛り込みながら、これからなるべく頻繁に記事をアップしていきたい。いろいろ気をつけながら、久しぶりにドライブして回ったのは群馬県。猛暑の上州路で出会った新旧の珍日本を、数回にわけてご紹介する!

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travel

お城のあとは裸の大将と温泉で!

作家と作品のギャップに驚くことは珍しくないけれど、それにしてもこれほど!とだれもが驚く筆頭格が吉岡里奈。ご存じ昭和のお色気宇宙を描いて、いま人気沸騰中のアーティストである。 その吉岡さんの、毎年恒例となった吉原カストリ書房での個展が10月31日からスタートする。前回は「民芸と風俗」という意表を突いたテーマだったが、今回はなんと「かつての繁華街や温泉場の路地裏でこっそり売買された怪しい茶封筒エロ写真」! 茶封筒エロ写真って・・・・・・僕ですらリアルタイムでは知らない、戦後場末風俗のあだ花なのに。もちろん、吉岡さんのお色気ムードには完璧にフィットしているけれど、それにしてもどうしてこんなに渋いテーマを選んだんだろう。さっそくお話を聞いてみた――。

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design

夜の白熱教室――プラモデガタリ紙上再現!

子どものころ以来プラモデルは触ったことがないし、フィギュアより生身の肉体が好みなオトナだったけど・・・・・・2016年07月20日配信号「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか――廣田恵介とセンチメンタル・プラモ・ロマンス」で、人気モデラーの廣田恵介さんと知り合い、2019年8月末には阿佐ヶ谷ロフトでのトークに呼んでいただいた。 『プラモデガタリ』というシリーズの最終回だそうで、トークのテーマは「文化・風俗としてのガールズプラモ」。いや、ガールズプラモとか知識ゼロなんですけど、と固辞しかけたが、「そういうひとがいいんです!」と言われて登壇。

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photography

ハトの国から

2019年06月12日配信号「南さんはヘンな眼をしている」で特集した写真家・南阿沙美。仕事の同僚だったマツオカさんを撮った『MATSUOKA!』も、偶然友達になったOLを制服姿で撮った『島根のOL』も最高で、いきなり大好きになった。おもしろいけど茶化してるのではなくて、なんだこれと思うけど冷たくなくて。その南さんの写真展「ハトの国」が、かつて嬉野観光秘宝館があった佐賀県嬉野温泉の「おひるね諸島」で12月11日からスタートする。

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book

『ピンク映画水滸伝』復刊に寄せて

本メルマガで2018年02月14日号から2019年12月18日号まで、全12回にわたって連載された、ピンク映画研究家・鈴木義昭さんによる『桃色の罠――日本成人映画再考』を覚えていらっしゃるだろうか。1960年代から70年代にかけて、場末の映画館の病みに輝いた「桃色映画アウトローの軌跡」(本書序文より)を丹念に追い、監督や出演者の証言、ポスター、されにはビデオにもDVDにもならなかった貴重なフィルムの一部をデジタル化してご覧いただいた(おかげでYouTubeからはアカウント永久凍結になってしまったが、涙)、かなり貴重なオーラル・ヒストリーの成果だったと思っている。 もう40年あまりをピンク映画と共に生きてきたという鈴木さんのデビュー著作『ピンク映画水滸伝 その二十年史』(プラザ企画刊、1983年)がこのほど、37年ぶりに文庫版となって復刊された。その記念として今月12日から阿佐ヶ谷ラピュタのレイトショーでの連続上映「香取環と葵映画の時代」も開催中なので、ここでお知らせしておきたい。

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art

ふたりの寿老人

本メルマガでおなじみのダダカンと秋山祐徳太子、ふたりの「独居老人王」の展覧会が、期せずして東京の高輪と銀座で開催中。年の瀬のひととき、ふたりの寿老人が辿ってきた人生を拝み、来る2021年への活力としていただきたい。 高輪のCafé GODARD galleryで開催中なのが「ダダカンの『殺すな』展」。11月11日配信号「祝・ダダカン師、百歳!」でお知らせしたとおり12月2日、無事に百歳の誕生日を迎えたダダカン=糸井寛二がたびたびテーマに取り上げてきた「殺すな」を中心とした作品展に、ダダカンを慕う作家たちのオマージュ作品を加えた展覧会。12月24日からは後期展示がスタートする。 カフェ・ゴダールは忠臣蔵で有名な高輪泉岳寺の境内、土産物屋が並ぶ仲見世にあるカフェ・ギャラリー。こんな立地の展示場所もなかなかないかもしれない。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 05 静岡県1

珍スポットがありがちな場所というのは、ないようで、実はある。大都市には経済効率の面で存在が難しいけれど、あまりにも田舎、秘境と呼ばれるようなところは、見物客がいないからこれも存在しにくい。経験的にいちばん魚影が濃い、というか集まりがちなのは大都市からちょっと離れた遊び場所。それもなぜか半島がイイ。大阪や名古屋の人間が遊びに行く紀伊半島。首都圏だったら伊豆半島は昔も今も珍スポットの宝庫なのだ。

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ParadiseLost二度と行けない珍日本紀行 06 静岡県2

港を見おろす高台に、宇宙に届く城が立つ――下田駅を降りてすぐ、山の中腹にそびえる下田城は、珍スポット・ファンにおなじみだっただけでなく、UFOを呼ぶ儀式を定期的に開催していたことでもマニアによく知られていた。城主の景山八郎さんは幼い頃から宇宙に関心を持ち、16歳にして天体望遠鏡を自作。20歳にして、当時日本最大のロケットを建造。その後もガガーリンやユリ・ゲラーと面会するなど、宇宙への興味は留まることをしらず、バブル崩壊後、地元建築会社が建てた下田城を購入。美術館として運営するとともに、広場に巨大隕石を祀り、若山富三郎の「夢芝居」をBGMに、UFOを呼ぶ儀式を定期的に行っていた。 現在も東京・新宿にある宇宙村支部に常駐されているが、下田城(正式には下田城美術館」は残念ながら建物の老朽化に伴い2008年11月に休館。いまも城を仰ぎ見ることはできるが、内部の観覧はできないようである。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 07 静岡県3

駿河湾に突き出した三保は「三保の松原」で有名。ここには東海大学が運営する海洋科学博物館(もと水族館)、自然史博物館(もと恐竜館)があるが、かつては海洋科学博物館、人体博物館、三保文化ランド、自然史博物館の4館にプールまでを有する「三保文化ランド」という広大な教育観光施設群であった。 珍スポット・マニアにも愛されてきた人体博物館は1973年オープン。「口から入ってミクロの世界」をテーマにして、人体内部をめぐることによってからだのことを学んでもらおうという、当時としては画期的な体験型展示に、これも時代をやや先取りした生殖コーナーまで設けられていた。しかし開館から30年近く、ほとんどアップデートされないままに老朽化し、2000年10月30日に閉館となった。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 09 静岡県5

お客さん泊まってよ! 宿場町の活気がいま甦る――『東海道由比宿 おもしろ宿場館』は、江戸時代の宿場にタイムスリップした気分にさせてくれる」観光施設。由比本陣跡のすぐ脇にあり、2階には駿河湾を一望できる名物の桜エビ料理専門レストラン「パノラマテラス 海の庭(テラス)」が人気。レストランのついでに寄った観光客を、たくさんのユーモラスな人形が迎えてくれる意外な人気スポットだった。人形は由比出身の画家・松永宝蔵氏のデザインによるものだった(松永氏は幕末に山岡鉄舟をかくまい地下から逃がしたという、歴史の舞台となった茶屋のご主人、平成12年に逝去された)。残念ながらおもしろ宿場再現が閉館したのちも、2階のレストランは営業を続けていたが、「桜えびの記録的な不漁により、令和元年5月5日に閉店」となったそう。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 10 山梨県1

なんと5回にわたった静岡編を終えて、今週からお送りする山梨編。山梨県には韮崎の「食堂アメリカヤ」、「光の楽園」という2大重要珍物件があったが、2019年8月7日号「アメリカヤの記憶」でたっぷり紹介しているので、そちらをご覧いただきたい。 あの上九一色村が、巨人と小人のおとぎの国に大変身!――富士山麓きっての珍スポット、というより閉園後の大型廃墟&心霊スポットとして、日本どころか海外のマニアにも知られてしまったのが「富士ガリバー王国」。1997年に開園、2001年には早くも閉園という、おそろしく短命なテーマパークだった。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 12 愛知県1

ホルマリンに浮かぶ生命の神秘に驚愕――巨大男根をかついだ男たちや小ぶり男根を抱えた巫女たちが練り歩く田縣(たがた)神社の「へのこ祭」で、全国のお色気ファンに知られる愛知県小牧市の、もうひとつの珍名物だったのが・・・・・・秘宝館ではないものの、中部地方きってのビザールなコレクションで知られた「性態博物館」。会社経営者である石川武弘氏が開いた、「性器コレクションを通して動物と人間のいのちの尊さを学ぶ」(たぶん)学術的な目的を持った施設だったと思うが、なにしろその奇妙なセンスとテイストで、数多の珍スポット好きを喜ばせてきた。

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ゆびさきのこい

京都市内・河原町通りの荒神口にあるささやかな展示空間「art space co-jin」。2015年に立ち上げられた「きょうと障害者文化芸術推進機構」の活動拠点として2016年1月に稼動を始めた、アールブリュットに特化した展示スペースである(「art space co-jin アートスペースコージンの名称は、京都御苑に近接する荒神口の地名にあやかり、「共」の意味であるcoと、「人」の意味を込めたjinにより名付けています」とのこと)。 そのco-jinでは3月21日まで「ゆびさきのこい」と題された、4名の作家によるグループ展を開催中。ドローイングや立体のほかに写真も入って興味深かったので、ここで紹介させていただく。

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ParadiseLost 二度と行けない珍日本紀行 14 愛知県3

しゃち丸くんのお船に乗って、今日のデートはベイクルーズ――ある年代以上の名古屋市民ならだれもが知っている遊覧船「金鯱(きんしゃち)」号。名古屋港をめぐる遊覧船として1986年に初代金鯱が就航、1995年には2代目金鯱がデビュー。合計14年間にわたってギラギラの金色を名古屋湾に映していたが、2006年に遊覧船事業が終了、金のシャチは名古屋湾から姿を消してしまった。名古屋湾に面した工業地帯を30分以上、船上から眺めるという遊覧船体験は、「工場萌え」なんていう言葉が存在しなかった時代に、ちょっと早すぎる存在だったのかもしれない。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 16 愛知県5

ニッポン国イタリア村――名古屋市民なら、なんとなく記憶の片隅にあるかもしれない「名古屋港イタリア村」。2005年の愛知万博入場者を当て込んで急遽オープン、しかし3年間であえなく閉村……ということで、実は『珍日本紀行』出版のあとになってできた(そして消えた)短命観光施設である。当時、ANAの機内誌『翼の王国』の連載「ニッポン国世界村」で取材していたので、今週はその記録をご覧いただく。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 17 新潟県1

日本の裏玄関に花開いたロシア王朝の栄華――今週の「二度と行けない珍日本紀行」は、ある意味もっと「パラダイス・ロスト」な新潟県の2物件をまとめて紹介する。阿賀野市の「新潟ロシア村」、柏崎市の「柏崎トルコ文化村」。どちらもバブル末期の徒花B級観光スポットだ。新潟ロシア村は1993年に開園、珍日本紀行で取材に訪れたのは1996年だったが、2003年に閉園。柏崎トルコ文化村は1996年開園で、こちらは2004年に閉園し、市民公園として開放されていた2005年に週刊朝日で連載して単行本化された『バブルの肖像』で取り上げるために訪れている。「二度と行けない珍日本紀行」では今年2月10日号で山梨県上九一色村の「富士ガリバー王国」を紹介したが、ロシア村、トルコ村もガリバー王国とともに、乱脈融資で悪名を轟かせた新潟中央銀行頭取・大森龍太郎による無謀プロジェクトなのだった。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 22 兵庫2

数ある珍スポットのなかで、サイズ的には小ぶりながら妙にこころに残る場所というのがいくつかある。そのひとつが淡路島の「静の里」(しずのさと)公園だ。 バブル期に日本全国の弱小市町村を舞い上がらせた「ふるさと創生基金」によって、淡路島の津名町は1億円の金塊をゲット(購入でなくリースだったそうだが)。それを「見て触ってみよう!」という金塊見物館をつくってみたところ、全国各地から数百万人のお客さんが押し寄せ,予想外の大人気。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 27 大阪3  パンダからタヌキまで400体! 総額10億円! 盗まれないうちに岸和田へ急げ

『珍日本紀行』に関していちばんよく聞かれるのが「どうやって珍スポットを見つけたんですか?」という当然の質問で、クルマにありったけのカメラとフィルムを積んで日本中の下道を走り回っていた1990年代前半には、インターネットなんて便利なものは普及してなかったので、「珍スポ・ガイド」なんてホームページを見るわけにもいかず。それどころか携帯電話もアナログ時代でたいして役に立たず。結局、いちばん役に立ったのは電柱にくっついてる「純金大仏、あと5キロ!」なんていう看板だったし、あとは駅の観光案内所やホテルのフロント脇のパンフレット・コーナー。それに『るるぶ』で、これは全国すべての『るるぶ』を家に揃えていた。大阪・岸和田の東洋剥製博物館は、たしか『るるぶ』の小さな記事で見つけたと思うが、もう25年以上前のことなので、記憶が定かではない。 どちらにしろ、たいして期待もせずに道路地図を見ながら博物館を目指し(もちろんgoogle mapなんてなかったし、カーナビも出たばかりで手が届かなかった)、探し当てた建物はおよそ「博物館」という単語にはふさわしくない……ただの商店みたいな外観だったので、さらに期待値を落としつつ、恐る恐るガラス戸を開けてみると……いきなり岸和田のハッピを羽織ってだんじりを引くタヌキの剥製がお出迎え。うれしい驚きに頬が緩んだのを覚えている。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 28 京都1  笑って歩いて京の都で駅前世界旅行

長引くコロナ禍で大変なことになっている京都の観光業界。つねに高止まりだったホテルの宿泊費は軒並み半分以下になって、こちらはありがたいが。 ついさきごろ、6月30日には京都駅前にそびえる京都タワーの大浴場が、新型コロナウィルスで利用客激減のため営業終了というニュースが大きく報道された。かつては早朝から営業していた大浴場。夜行バスで京都駅に着いたエコノミー・トラベラーのオアシスだったのを、懐かしく思い出すひともいるのではないか。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 29 京都2  山下清の、というより芦屋雁之助の裸の大将記念館

1980年に第1回が放送され、1997年まで17年間にわたるロングランとなった『裸の大将放浪記』シリーズ(関西テレビ制作)。主人公の設定はもちろん山下清だが、主演は芦屋雁之助。実際の山下清の放浪人生とはずいぶん異なる人情ストーリーだった。 番組の人気にあやかって京都の土産物販売会社が、京福電鉄嵐山駅から北に約1キロ、嵯峨野にあった木造家屋を改装して1994年に開館したのが「裸の大将記念館」。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 30 京都3  涙なくして見られない、お嬢の世界にどっぷり浸る

涙なくして見られない、お嬢の世界にどっぷり浸る――前回の「裸の大将記念館」に続いて、嵐山観光エリアの栄枯盛衰を物語る「失われた観光スポット」が「美空ひばり館」。20世紀日本歌謡史最大の歌手であった美空ひばりの輝かしい業績を振り返る、「珍スポット」扱いにはあまりに畏れ多い記念館だった。美空ひばり館が開館したのは1994年。当時の嵐山では屈指の人気を誇り、初年度は12億円以上の売上高だったが、しだいに来館者数が落ち込み(ファンも高齢化してきたし)、2008年に「京都嵐山美空ひばり座」としてリニューアルオープン。しかし収入増加にはつながらず、2013年5月31日に残念ながら閉館。

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60年代エロダクション名作、連続上映!

先々週号で新刊『一度はみたい! 厳選名作ピンク映画』を紹介した成人映画スペシャリスト、鈴木義昭さん。コンビニ販売本なので地元の店舗を周回してくれたかたもいらっしゃったようで、無事購入されたことを願います。 鈴木さんはロードサイダーズ・ウィークリーで2018年から19年にかけて『桃色の罠――日本成人映画再考』を12回にわたって連載してくれました。その鈴木さんが監修する成人映画の隠れた名作上映会が、阿佐ヶ谷ラピュタのレイトショーで始まります!

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 31 香川1 260体のロウ人形が演じる800年前の立体歴史絵巻

四国どころか日本最大級のロウ人形館だった高松平家物語歴史館が2019年3月24日で閉館というニュースが、多くの珍スポット・ファンと、日本に何人いるかわからないロウ人形ファンを震撼させたのは記憶に新しい。 全国各地に残存するロウ人形館のなかでは、かなりの集客があったと思っていたが……。ちなみに閉館の3月24日とは、1185年に壇ノ浦の合戦で平家が滅亡した、その日にあたる。まさしく盛者必衰、諸行無常……。

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DOMMUNE ダダカン特集、購読者限定アーカイブ!

去る8月30日に渋谷のDOMMUNEスタジオから生配信したばかりの東京ビエンナーレ関連企画「THE 100 JAPANESE COMTEMPORARY ARTISTS season 7 #054 糸井貫二/ダダカン/100歳」。DOMMUNEのご厚意により、さっそくメルマガ購読者限定のアーカイブ・リンクが届きました。宇川くん、いつもありがとう!  番組はなんと当日になってのアナウンスという非常事態で、いったいどれくらいのひとが見てくれたか気がかりでしたが、なんと1万5000人近くのビュワーに視聴いただけたとのこと。うれしいですね~。番組内では、いま仙台郊外の施設で穏やかな日々を送る100歳のダダカン師とスタジオを、オンラインでつないでの登場も実現しました!

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 33 香川3  小豆島に燃えるギリシャの火

昔は「二十四の瞳」とオリーブぐらいしか印象がなかった小豆島。いまや意識高い系のひとたちの移住先として、長野と並んで人気急上昇中だ。 その小豆島の名勝・寒霞渓に近い山中に1973(昭和48)年オープンしたのが「太陽の丘ピースパーク」だった。パーク内にはギリシャ風神殿が建てられ、アテネから運ばれた聖火がともされ、さらに芝生広場からは播磨灘を望む絶景も楽しめたが……2004年に残念ながら閉園。そのまま廃墟となって久しいようで、Googleの航空写真を見ても、建物がそのまま残っている。 まあ、いまでは瀬戸内芸術祭の舞台でもあるし、おしゃれなカフェやナチュラル系食堂もいっぱいあるしで、寒霞渓まで足をのばす観光客も減ってるだろうし……。しかし建物(神殿)はそのまま残っているので、芸術祭に参加するアーティストに甦らせてほしいものだ。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 35 徳島2  日本最大の喫茶で瀬戸の世紀末を満喫

徳島と香川を結ぶ瀬戸内海沿いの国道に面して、偉容を誇っていた「カフェ・ギャラリーレストラン・UZU珈(うずか)」。残念ながら2006年ごろに閉店してしまったようで、更地になったあと現在では太陽光発電施設になっている(このパターン、多い気が)。 あらためて調べてみると、「UZU珈」をつくったのは赤松健一さん。店のあった島県鳴門市北灘町大須字長浜から、県境を越えてすぐの香川県東かがわ市引田に昭和3年生まれ、農家の長男だった。しかし家業を継ぐことなく産経新聞大阪本社に就職。カメラマンとして働き始める。社には福田さんというやけに博学の先輩がいて、それが実はのちの司馬遼太郎であった。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 37 北海道1  雪降る町のレコード・サンクチュアリ

レコードを買うようになってもう半世紀を越え、これまでずいぶんいろんなレコード屋のドアを開けてきたが、伝説的中古レコ屋「札幌リズム社」は国内有数の魔窟と呼んで差し支えないだろう。 ビルが建ち並ぶ札幌中心部にポツンと残る、崩れ掛けの木造住宅。触るだけで壊れそうなドア。一瞬で指が黒くなるほど汚れたビニール袋(買うと新しい袋に入れてくれる)。レコードにはすべて値札がついておらず、いちいち店主に聞くしかないというドキドキ感。しかも営業時間は気まぐれで、だいたい夕方にならないと開かない。気になったまま、ついに入店できずに終わった地元の音楽ファンもたくさんいたはずだ。

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第27回 “癒し”としての自己表現展

毎年恒例の展覧会がコロナ禍で中止になってしまったことがずいぶんあったが、個人的に毎年楽しみにしている「“癒し”としての自己表現展」が、この年末には無事開催予定と聞いてうれしくなった。 「“癒し”としての自己表現展」は八王子市の平川病院が主催する展覧会。1960年代末から精神科病院やクリニックで、患者たちに自由に絵を描いてもらう〈造形教室〉を運営してきた安彦講平さんの長い活動から生まれた展覧会だ。1990年初頭に第1回が開かれて、今年が27回目となる。 安彦さんと〈造形教室〉の活動については、本メルマガ2015年8月18日号「詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち」から数回にわたって短期連載したので、未見の方はバックナンバーをご覧いただきたい。

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Facebook顔認識の末路

今年のメルマガも今週が最終号、なにか年忘れっぽい記事を…・・と考えて思い出したのがFacebook顔認識をめぐる話題。テクノロジーによる監視社会への突入で、世界の至る所に取り付けられた防犯カメラから個人のデータが政府に吸い取られる危惧が叫ばれるようになった今日この頃。中国の顔認識システムはすでに国内のほぼすべての市民を記録し、そのなかには生後9日の赤ちゃんまで含まれている…・・というような、ダークSFもどきの現実がすでにそこにあるわけですが、この11月にひっそりIT関係のニュースで流れたのが「Facebookは顔認識機能を停止した」という発表。アメリカではプライバシーや人権上の懸念が高まってFacebookの決断に至ったわけで、すでに10億人以上のデータを削除したそう。 たしかに顔認識技術がもたらす利点もあるけれど(犯罪の抑止や捜査など)、プライバシー侵害も深刻な問題なので、IT企業もますます難しい舵取りを迫られることになりますが、しかし! 各国の公安機関が活用する本格的な顔認識システムはともかく、Facebookの顔認識技術ってそんなに高度だったのか???と疑いを持つひと、いませんでしたか。

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六邦映画の桃色秘宝!@ラピュタ阿佐ヶ谷

ロードサイダーズではすでにおなじみ福島県本宮市の本宮映画劇場。1914年に劇場・本宮座として生まれ、1947年から映画館となって営業開始。1963年に常設館としての活動休止を余儀なくされたものの、館主・田村修司さんの努力によって建物はいまだ健在、今年で築108年を迎えるという奇跡の建造物だ。 本宮映画劇場と田村修司さんの映画に捧げた半生は『独居老人スタイル』での紹介をはじめ、これまで何度も記事にさせてもらってきた。その田村さんが秘蔵するピンク映画の至宝が、3月12日から阿佐ヶ谷ラピュタのレイトショーで公開される。

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本宮映劇 presents ポスター番外地~野方闇市篇!

ロードサイダーズにはもうおなじみ、福島県本宮市の本宮映画劇場。今年で創立108年! ということで館主・田村修司さんの秘蔵ポスターを展示するイベント「ポスター番外地」が今週末(28日)より開幕! 「野方闇市篇」と名づけられたとおり、中野からも高円寺からも近いのに、奇跡的に戦後闇市の風情を濃密に漂わせたまま生き残る「野方文化マーケット」が舞台。これ以上ぴったりな場所はなかなかないですね~。

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博多の衛生博覧会

福岡の名所、ではもちろんないけれど、奇所として一部に名高い「不思議博物館」。本メルマガでは10年前の2012年10月24日号での特集以来のご縁であり、館長であるアーティスト/造形師の角孝政さんが天神の駅から徒歩1分という場所に開いた分館「喫茶/ギャラリー サナトリウム」も2015年07月01日号で紹介させてもらった。サナトリウムのほうも華やかな福岡市天神の街なかに隠されたブラックホールのようなおもむきで、マニアの憩いの場となっている。 そのサナトリウムで今月初めからスタートしているのが「福岡衛生博覧会」。衛生博覧会、という単語だけで反応してしまうかたも、メルマガ購読者のなかにはきっといらっしゃるかと。

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portraits 見出された工藤正市 2

連続企画「都築響一の眼」として写真専門画廊KKAGで続けている連続企画の6回目「portraits 見出された工藤正市2」が10月12日からスタートする。 そもそも工藤正市の写真を知ったのが2020年の春。その年の初めから父・正市が遺したフィルムを長女の加奈子さんがInstagramにアップし始めてくれたおかげで出会えたのだった。家族にさえ隠していたという写真のクオリティにびっくりして、急いで連絡を取って取材させてもらい、2020年10月14日号「工藤正市の奇跡」で特集。そのあとKKAGで「都築響一の眼」vol.4 portraits 見出された工藤正市」として東京での初写真展を開けたのが去年(2021)6月のこと。9月にはみすず書房より『青森 190-1962 工藤正市写真集』も発売された。そして今回の2回目になる展覧会。Instagramに最初の写真がアップされてから3年にも満たない期間で、こんなふうに工藤正市の写真が広まっていく時間と場所に立ち会えたのは、ほんとうにうれしい。

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ワールド・クラスルーム ―― 菊地智子@森美術館

六本木ヒルズの森美術館で開館20周年を祝う記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が4月19日から始まっている。 教室と言われても、学校の授業も学校も嫌いだったし・・・・・・というわけで正直スルーしそうな展覧会だったけれど、ロードサイダーズでは2017年1月18日号「菊地智子が歩くチャイニーズ・ワイルドサイド vol.1 重慶と夜のクイーンたち」をはじめとして何度も紹介している写真作家・菊地智子の展示室があるということで、さっそく覗いてきた。

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捨てられなかった本のこと 09  銀座の女、銀座の客

『銀座を彩る女たち』『銀座社交料飲協会八十年史』に続いて、銀座の夜をめぐる「捨てられなかった本」。しつこいですが今週紹介したいのは『銀座の女、銀座の客』。それなりの年齢のかたは覚えているだろうか、『週刊新潮』の長期連載企画、1997(平成9)年8月7日号まで1076回も続いた「CLUB」から選び抜かれた傑作エピソード・コレクションである。

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早稲田大学・村上春樹ライブラリーにうちの本棚が仲間入り

早稲田大学の村上春樹ライブラリー(正式名称:国際文学館)が2021年10月に開館したニュースを、ご存じのかたも多いだろう。村上春樹さんは1968年から7年間、早稲田大学に在学していた縁で、これまでに発表された作品群、その数十ヵ国におよぶ各国語版、厖大な資料類、レビューなどを保管、公開する、世界の村上春樹研究者に、またファンにとっても待望のライブラリーだ。

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あずさ愛ディナーショー in 秋田!

少し前になってしまったけれど、『演歌よ今夜も有難う』で取り上げた秋田の演歌歌手・あずさ愛さんがディナーショーを開くというので、秋田市に行ってきた。演歌はテレビ番組からカラオケスナックまでいろんな場所で歌われ聴かれているが、ディナーショーにはまた格別の味があって、僕は大好き。一握りのスター歌手がホテルで開くショーは何万円もするけれど、多くの演歌歌手がもっと手ごろな値段で、こんなディナーショーをいまも日本中で開催している。

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妄想芸術劇場 #02 ぴんから体操 後編

1990年の『ニャン2倶楽部』、そして93年の『ニャン2倶楽部Z』創刊当初から設けられた投稿イラスト・ページ。その長い歴史が生み出した多数の常連、名物投稿者のなかでも、ニャン2史上に輝く伝説の投稿アーティスト。先週号では初期のフラットな漫画ふう、そしてモノクロームの点描によるダークなグロテスク・リアリズム作品に続いて、2001年から02年にかけてのある日、突然送りつけられるようになった予想を超えた新しい画風――「ぬるぴょん」の登場までをお伝えした。 2003年の短い休止期を経て、ニャン2編集部にぴんから体操からの封筒が、ふたたび届くようになる。しかしその中に入っていたものは、またもやがらりと作風を変えた、まったく新しいタッチの膨大な作品群だった。

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妄想芸術劇場 #05 MR. スパーク

これまでご紹介してきた伝説的な投稿イラスト職人と同じく、1990年代からおよそ10年近くにわたってハイ・レベルの作品を投稿しつづけてきた投稿イラスト初期のスター。それがMR.スパークである。 もしかしたらプロの挿絵画家ではないかと想像したくなってくるほどの、完璧なテクニック。そして技術に裏打ちされた、昭和の時代感覚を前面に表出した画面構成。エロ・イラストと言うよりも「艶笑漫画」、あるいは「きいちのぬりえ」のオトナ版と呼んでみたい、そんな古風なテイストがどの作品にも色濃く漂っている。いったいこのひとは、何歳ぐらいなのだろうか。昭和の、それも高度成長期に青春を送ったベテランなのか、それとも丸尾末広のごとく、アナクロニズムのうちに前衛を見るアーティストなのか。

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妄想芸術劇場 #06 ハリマオ

今週、来週の2回にわたってご紹介するのは「ハリマオ」氏。ニャン2創刊時代から20年間以上、途切れることなく作品を送りつづけてくれる、彼もまた伝説の投稿イラスト職人である。そのキャリアの長さから言えば、以前に紹介したクッピイと肩を並べる歴史的な存在だ。 ハリマオ作品の基調をなしているのはむろん露出・SMなのだが、そのフラットな画面構成と色彩感覚のせいか、陰湿さがなく、むしろほがらかな明るさが感じられるところに最大の特徴がある。ソフト・オン・デマンドの一連の露出スポーツもののような、と形容するのが当たっているかはわからないが、テーマはハードでありながら、そこに悲惨さはまったくない。それどころか、どこかプレイをエンジョイしているような、積極的な気配すら感じられる。

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LIFE ―― ある家族(と犬)の情景

2022年6月1日号、8日号の2週にわたって紹介した「クイーン・オブ・バッドアート降臨!」。そこで取り上げた衝撃の鉛筆画家・新開のり子さんは、すでにロードサイダーズのみなさまにはおなじみだろう。向島の大道芸術館にも彼女の作品がすでに2点展示されている(秋から増える予定!)。去年の記事ではその年の5月の連休に世田谷美術館の区民ギャラリーで開かれた「女系家族 パート3」の会場で、新開のり子さんに会えたことを書いたが、あれから1年ちょっと経った今年8月初めに同じ世田谷美術館区民ギャラリーで「女系家族 パート4」が開かれた。

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遅咲きのトップランナー大暴走の宴

ロードサイダーズ・ウィークリーで2015年から「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載してくれている櫛野展正くん。知り合ったころは広島県福山市の鞆の津ミュージアムで挑発的な展覧会を連発していて、そのあと市内に自身の「クシノテラス」を開設。以来、ロードサイダーズにはおなじみのアウトサイダー・キュレーターとして、現在は静岡市のアーツカウンシルしずおかのチーフプログラム・ディレクターとなって活動を続けている。 周囲の雑音を一切気に掛けることなく我が道を歩む高齢者たちの、独自の(おもに奇想天外な)創作活動を、櫛野くんは「超老芸術」と呼んで長年追いかけてきた。今回、その集大成というかオールスター・キャスト、総勢22名の作品1500点以上を集めた展覧会が、10月3日から8日まで静岡市のグランシップで開催される。

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妄想芸術劇場 25  サトニン

今週の妄想芸術劇場に登場するのは「サトニン」。一見、いまどきのアニメ・タッチだが、サトニンの特筆すべき点はその「物語性」にある。画面の中に長文の書き込みや台詞がちりばめられたり、あるときは裏面に、さらに長い「解説」が付されている。もちろん、こうしたテキストはもともと掲載された『ニャン2倶楽部』ではまったく反映されなかったものなので、今回初めて世に出ることになる。

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妄想芸術劇場 26  肉奴隷大好き少年

今週お見せするのは、選び抜かれたニャン2のアンダーグラウンド・アーティストのうちでも、ビザール度と完成度において頂点に君臨するひとりと言える特選投稿者「肉奴隷大好き少年」。その絵自体も充分に変態なのだが、ほとんどすべての作品にトレーシングペーパーがかけられ、そこに手書きでみっちりとテキストが乗せられている状態は、投稿された雑誌『ニャン2』の掲載ページではまったく反映されることがなかったために、原画を手にして初めて知る驚きだった。今回はそうしたトレペかけの状態と、トレペを取った原画を並列してお見せする。できれば画面を拡大して、丹念に書き込まれた変態度満点のテキスト読み込んでほしい。

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すすきの 夜のトリエンナーレ

先週号の「さっぽろ雪まつり」でもちょっと触れたが、ただいま札幌市内の数カ所を会場に札幌国際芸術祭SIAF2024が開催中。その関連企画というか、「展覧会が終わったあとの夜はこちらで!」という「すすきの夜のトリエンナーレ」が来週火曜から日曜までの6日間だけ開催される。 会場となるのはすすきののど真ん中にあるオークラビル。いま空き店舗となっている7階フロアを使用して開催されるが、ここの6階には2013年に閉店するまで43年間にわたって、北海道最大のグランドキャバレーとして君臨してきた「札幌クラブハイツ」があった。広さ1,000㎡、客席400、ホステス約130名。新宿歌舞伎町のクラブハイツが閉店したあとは、1,000㎡を超える日本唯一のグランドキャバレーとして生き残ってきたのだったが・・・・・・。

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お色気♡場末のシネマパラダイス展~本宮映画劇場@西荻窪!

往年のピンク映画について語られることはあっても、それがどんなふうに地方の映画館で上映されてきたのか、ましてや実演の巡業までもあわせた場末の映画館の実態については、これまでほとんど知られてこなかった。今回はたった3日間、小さなバーでのささやかな展示だが、この貴重なコレクションが、本展を契機にひとりでも多くのひとの関心を呼ぶことを強く願う。

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いまそこにある吉原のために

開催前からなにかと話題になった上野・東京藝大美術館の「大吉原展」。SNSで批判するひとたちも、とりあえず展覧会を観てから思う存分批判すればいいのにと思うが、それはともかく! 「大吉原」は遠い江戸時代の吉原に花開いた芸術に焦点を当てているわけだが、吉原という日本最大規模の遊郭は明治になっても大正・昭和になってもあいかわらず遊郭/赤線としてそこにあったわけだし、戦後も昭和33年の赤線地帯廃止後、数十軒の民謡酒場が軒を連ねた過渡期を経て、日本最大のトルコ→ソープ街となっていまも約120店が営業中。しかしその「現代の吉原」は、もちろん藝大の大吉原には入れてもらえてないし、夕刊紙や風俗情報誌以外のメディアに取り上げられることもめったにない。

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[予告]EGO TRIPPIN’ 80s Hip Hop Clothing Exhibition!

いまから10年半前になる2013年11月13日号「下品な装いが最高の復讐である――会津若松のオールドスクール・ヒップホップ・コレクション」で紹介した会津若松のDJ、ILLLLLLLLLLLUSS(イルマスカトラス)氏が収集してきた1980~90年代の勃興期ヒップホップ・ファッション。いまのようにアメリカのヒップホップがウルトラメジャーになる以前の、古き良きラッパーたちのスピリットを体現した装いに、たまらない懐かしさを覚えると同時に、東京でも大阪でもなく会津若松に(失礼)!こんな貴重なコレクションが隠されていたのかと驚愕したのだった。ちなみにイルマスカトラス=白井與平さんは会津若松で400年以上続く老舗酒店・植木屋商店の第18代目当主でもある。

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サードライフにようこそ

古くからの友人でノーバート・ショルナーという写真家/映像作家がいます。ドイツ出身、1989年にロンドンにやってきて、当時最先端だった『FACE』や『i-D』誌で、いきなり活躍しはじめました。僕が知り合ったのもそのちょっと後ぐらいですが、ヴォーグをはじめとする世界中のハイファッション誌で、シャネルにプラダ、マックイーンまでトップデザイナーのファッションを撮影するような超売れっ子でありながら、いつも画面にはちょいブラックで悪戯っぽいテイストが見え隠れしていて、すごく好きなフォトグラファーでした。

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國華という奇跡

現代美術がどれだけわかりにくいか、どこまで低俗に、グロテスクに堕ちられるかを競うゲームのようになりつつあるいっぽうで、いま古典美術に新鮮な関心を向ける人が増えている。記録的な成功を収めた若冲大回顧展でも、京都国立博物館を取り巻いて長い列を作ったのは、旧来の美術愛好家とはずいぶんちがう雰囲気の人たちが多かった。考えてみれば東京や京都の博物館にしても、名品を伝える寺社にしても、ずっと昔からそこにあったわけで、単にこちらの足が向かなかっただけのこと。「遠くの現代より近くの古典」、というのは少々おかしな言い方だが、すぐそばにありすぎて気がつかなかった「美」が、急に霧が晴れるように姿をあらわす、そんなときがあるようだ。

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失われたドキュメンタリー

気持ちよくなる音楽はたくさんあるけれど、深く考え込ませてくれる音にはなかなか出会わない。最近復刻された『ドキュメント日本の放浪芸』という、全4箱CD22枚組の「音のドキュメンタリー」が、いま目の前にある。もともと1970年から77年にかけてLPレコード・シリーズとして発売されたもので、俳優の小沢昭一氏が訪ね歩いた日本各地の大道・門付けの諸芸能を記録した貴重な録音である。当時中学から高校生活を送っていた僕は、高価なLPセットに手が出ず、万引きするにも箱が大きすぎて、悔しい思いをしていた。いま30年近くたって復刻される奇跡に、驚喜一括購入したことは言うまでもない。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」、イースタンユース熱演!

先々週日曜日から始まった「都築響一 ROADSIDE RADIO」。先週は渋谷クアトロ「極東最前線」から、イースタンユースのライブをたっぷりお送りしました。聴いていただけたでしょうか。インターFMという東京ローカル局、しかも日曜深夜12時半から1時半までという時間帯にもかかわらず、圏外からもRADIKOやLISMO WAVEといったアプリで聴いたというメッセージをたくさんいただきました。どうもありがとう! イースタンユースは1988年、札幌で結成。ということは今年が25周年なんですよね・・すごい。デビュー・アルバムの『EAST END LAND』を発表したのが1989年。そして最新作が2012年9月、15枚目の『叙景ゼロ番地』。そのあいだ吉野寿(帯広出身・ギター、ボイス)、二宮友和(宇和島出身・ベース)、田森篤哉(礼文島出身・ドラムス)のスリーピース、最小編成にいささかのブレもないまま、ここまで走ってきたそのエネルギーと持続力には、ただ頭がさがるのみです。

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ROADSIDE RADIO 緊急特集 追悼・藤圭子

9月1日のロードサイドラジオでは、予定を変更して藤圭子の特集をお送りしました。御存知のとおり先週8月22日に、藤圭子さんが亡くなりました。62歳、これからまだまだという年齢でした。死亡のニュースが流れた直後から、テレビでも新聞でも雑誌でも、こころない報道がめちゃくちゃに垂れ流されています。飛び降りた場所の、コンクリートの地面をアップで撮ったり、ベランダの図解をしてみたり、いっしょにだれがいたとか、娘が葬儀に姿を見せたとか見せなかったとか・・そんなことにいったいなんの意味があるんでしょうか。

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ROADSIDE RADIO:yumbo+北村大沢楽隊

15日のROADSIDE RADIOは仙台のyumboと、石巻の北村大沢楽隊という、ビザールで楽しいカップリングをお送りしました。どちらも30分弱だったので、正直聴き足りない! という思いのリスナーも多かったでしょうが、まあふたつとも公共放送ではほとんどかかることのありえないバンドなので、ご容赦ください。yumboは8月16日に代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」における、パスカルズとのライブからの録音を。北村大沢楽隊のほうは、実はこの番組で取り上げたいとずっと思っていたのですが、後述する理由で録音ができず、1枚だけリリースされたCDから選んでオンエアしました。

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ROADSIDE RADIO:EGO-WRAPPIN'

9月22日のインターFM・ROADSIDE RADIOは、8月11日に大阪城野外音楽堂で開催されたエゴラッピンの単独ライブ「EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXによる夏の野外ワンマン“Dance, Dance, Dance ~あなたとマリアージュ~”」をお送りしました。毎夏、東京日比谷野音でのライブが恒例になっているエゴラッピン。今年からホームグランドである大阪でも、リクエストに応えて「夏野外」を開くようになったということです。これまで半年あまりにわたってお送りしてきたロードサイド・ラジオの番組でも、もしかしたらいちばんメジャーかもしれないエゴラッピン。

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ROADSIDE RADIO:コージー大内&W.C.カラス

先週日曜日のインターFM・ロードサイドラジオでは、コージー大内とW.C.カラスという、ふたりのブルース・シンガーを取り上げました。実は最近、ブルース・ファンのあいだで「弁ブルース」という言葉が広まっているのですが、これはいろいろな地方に住むミュージシャンたちが、自分たちの地方の言葉で歌おうという動きで、もちろんそのおおもとは憂歌団などの関西ブルースマンたちにあるのですけれど、いまではさまざまな場所で、さまざまな言葉で、日本のブルースが歌われれるようになってきました。

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ROADSIDE RADIO:アシッド・マザーズ・テンプル

10月6日のインターFM・ロードサイドラジオは、アシッド・マザーズ・テンプルの、8月24日に秋葉原グッドマンで開催されたライブをお届けしました。熱狂の1時間、聴いていただけたでしょうか。アシッド・マザーズ・テンプル、略称AMTは、日本では知る人ぞ知るという感じかもしれないですが、ヨーロッパ、アメリカでは数多くの熱狂的なファンに支えられてきた、ほんとうにビッグな老舗サイケデリック・ロックバンドです。

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ROADSIDE RADIO あらかじめ決められた恋人たちへ

10月13日のロードサイド・ラジオは「叙情派轟音インスト・ダブ・ユニット」あらかじめ決められた恋人たちへ(通称「あら恋」)のライブを、1時間ノンストップでお送りしました! 9月11日に発売されたニューアルバム『DOCUMENT』の先行リリース・ライブとして、9月4日に下北沢シェルターで開催された、人数限定の轟音ライブ。人気絶頂の「あら恋」としては小さすぎるキャパのライブハウスという感じなので、もちろん超満員のお客さんたちの熱狂ぶりは、それはすさまじいいものがありました。

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フィールドノオト 02 女木島(by 畠中勝)

大竹伸朗作品『女根』に音響を設置するため女木島へやってきた。自然環境が豊かな島で多くの植物が密生する。中でも島の所々でみられる巨大な椰子は、植物園でもお目にかかれないほどの存在感があった。『女根』を取り巻く環境を知るため、空き時間を見つけては、周辺を探索していった。

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時代遅れの歌姫に――渚ようこDVDと記念リサイタル

歌謡曲が好きで渚ようこの名前を知らないひとはいないと思うが、彼女の歌をどう位置づけたらいいのか、よくわからないでいるひとも少なくない気がする。年齢不詳の歌謡曲歌手で、ゴールデン街のバーのママ。その醸しだすムードも、歌の世界もいまから40年以上前の歌謡曲全盛期、というか歌謡曲がダメになっていく直前の爛熟期を、意図的に再現したものばかり。『愛の化石』時代の浅丘ルリ子からちあきなおみ、GSまで、彼女はひたすら時の流れをむりやり遡っているようだ。クレイジーケンバンドや大西ユカリのような、「過去のスタイルを武器にした現代の音」を生み出そうなどという気が、彼女にはハナからないんじゃないかという気すらしてくる――もちろん僕だけの思い込みだろうが。

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ROADSIDE MUSIC:コージー大内&W.C.カラス

今年最後のロードサイド・ミュージックは、クリスマスにふさわしく(?)、日本語ブルースの2本立てをお送りします。登場いただくのはコージー大内とW.C.カラスという、ふたりのブルース・シンガー。今年9月29日のインターFMロードサイド・ラジオで放送した音源の、ノーカット完全版です。10月2日号のメルマガで配信した記事に、最新情報など書き足したものを以下につけておきますので、よかったら記事を読みつつ、バーボンロックも飲みつつ、ぜんぶで1時間8分強、どろどろに濃い弁ブルースの世界を、大掃除なんて忘れてどっぷりお楽しみください!

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DOMMUNE 弘田三枝子特集、ノーカットで再配信!

先週2月5日のDOMMUNEスナック芸術丸『めくるめく弘田三枝子的宇宙』、ご視聴いただけたでしょうか。僕にとっては長年の憧れのアーティストを、自分の番組に迎えられるというだけで至上の喜びでした。弘田三枝子さんにとっても、ふだんは長年のファンたちに囲まれた小さなサークルの中で活動しているだけに、これまでとはまったく異質のメディアでの2時間にわたるアピアランスが、ミコさんを知らない世代にその存在と実力を知らしめる、いい機会になったのではと思います。

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ROADSIDE MUSIC 友川カズキ@小岩BUSHBASH

今週のROADSIDE MUSICは友川カズキのライブをお届けします。先週、2月28日に小岩BUSHBASHで行われたばかりのステージの前半後半を、今週と来週にわけてお送りする特別配信です。このコーナーで友川さんを取り上げるのは今年1月8日配信号に続いて2度目になります。3年ぶりになるニューアルバム『復讐バーボン』を1月30日にリリースして以来、各地でライブを続行中の友川さん。共演ミュージシャンがあったり、バンド編成であったり、そのときどきでいろいろなセットが組まれていますが、今回の小岩ではまったくのソロ。ギターだけを相手に、前半後半あわせて2時間以上の熱演を披露してくれました。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 14 撮る人(ケイタタ)

9日の日曜日は大阪オフ会でした。いやあ、濃かったです。翌日、もうへろへろで有給休暇とってしまいましたもの。とはいえ読者の方々の生な感想をいただき元気になりました。「ネタ切れにもめげずがんばってね」とのありがたいエール。というわけで、がんばっていきましょう。今回は『撮る人』です。

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音楽に呼ばれて vol.2 Corner of Hillcrest Avenue & Bartlett Street, Macon, Georgia(湯浅学)

世界最強のギターバンド、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・"スカイドッグ“・オールマンは、傑作アルバム『アット・フィルモア・イースト』を発表した直後の1971年10月29日、ジョージア州メイコン郊外の交差点でバイク事故により亡くなった。ヒルクレスト・アヴェニューとバートレット・ストリートの交差点で、目の前で曲がろうとしたトラックをよけきれず、彼の愛車ハーレー・ダヴィッドソン・スポーツスターはクラッシュ。デュアンは即死だった。もうすぐ25歳の誕生日を迎えるという日の、あまりに悲劇的な死だった。その翌年の19972年11月11日には、その交差点からわずか3ブロックしか離れていない交差点で、今度はベースギターのベリー・オークリーもバイク事故で亡くなってしまう。いま、デュアンが命を落とした交差点には、碑銘のひとつすら残されていない。

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ROADSIDE MUSIC こだま和文

去年7月にインターFM『ROADSIDE RADIO』で放送、メルマガでも紹介した日本ダブ界の最重鎮・こだま和文。今年が「ダブ生活30周年」!だそうで、記念のロングインタビュー集『いつの日かダブトランぺッターと呼ばれるようになった』が刊行されることになりました。こだまさんは音楽もさることながら、エッセイもすごく独特な味があって、さらりとしているようで熱くもあり、脱力しているようで硬派でもあり、音楽と同じく重層的な魅力があります。新刊発売を記念して、今週は去年7月7日にラジオで放送したライブの、前半後半あわせて2時間にわたるステージを、ノーカット完全版で配信します! メルマガでの解説も再掲載しておきますので、爆音で和風ダブの音塊に浸りながら、読んでいただけたらうれしいです!

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フィールドノオト21 あきる野市(畠中勝)

都心から一時間ほど電車を乗り継ぐと、都内有数の水田地帯、秋留台地へたどり着く。田園風景は地方に浮かべるイメージのひとつだが、実際は、地方においても都市化の影に、こういった風景も珍しくなっている。田舎っぽい田舎、日本らしい日本、そういったイメージは、この国では歴史とともに様変わりしていく。水田は横田基地に近いため、低空飛行していく軍用機を五分おきに見た。静寂な夜の田んぼに地鳴りのように轟く重低音は、自然愛好家が聴き惚れる、心安らぐサウンドイメージとはほど遠いものがあるだろう。囀るものを掻き消す風景、異質なものによって作られていく未知の風景。これらはまぎれもない今の日本の風景であり、サウンドスケープでもある。

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浅草スモーキン・ブギ

先月末から2回にわたって「浅草サンバカーニバル」をリポートしてくれた、浅草のオフィシャル・フォトグラファー多田裕美子さん。本場リオとはまたちがう、ガラパゴス的進化を遂げつつあるカーニバルの実態に、びっくりしたひとも多いのでは。その多田さんが、「タバコを吸うひと」をテーマに撮りためた写真展を、やっぱり浅草で開くことになった。僕の住んでいる東京千代田区では、もう路上でタバコを吸っただけで罰せられるようになったくらい、いまや喫煙者は社会の害悪あつかいだ。そう考えるとタバコを吸うひとたちもまた、いつか消えゆくマイノリティなのかもしれない。タバコの煙のように・・・。

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リリックとしてのポートレート——石川竜一写真展のために

絵や写真を見てくれ、と訪ねてきてくれるひとはずいぶんいる。いい、悪いなんて決められないし、大したアドバイスもできない。「がんばって続けてください」ぐらいしか言えることはないけれど、ただひとつ確かなのは「ものすごくたくさん持ってくるひとに、おもしろくないのはない」という経験則だ。ある日、沖縄から来たという青年が戸口に立っていた。すらっとした長身、端正な顔立ち。赤い革ジャンにシベリアに行くみたいな帽子を被って、露出計付きのいかついハッセルブラッドを首から下げて、ものすごく大きなリュックを背負っている。招き入れると席につくまもなく、テーブルにどさどさと分厚いポートフォリオを積み上げて、「見てください」とつぶやき、あとは黙ってこっちをじっと見ていた。

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大竹伸朗展 ニューニュー:カタログ発表記念、プレゼント企画!

2013年7月から11月まで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された『大竹伸朗展 ニューニュー』。そのカタログが、なんと展覧会から1年以上たった今月、ようやく完成! デザイン・制作はもちろん、新潟・浦佐をベースにユニークなマイクロ・パブリッシング活動を続けるエディション・ノルトによるものだ。エディション・ノルトに関しては本メルマガの2012年11月7日号で詳しく紹介したが、端正なデザインと手づくり感覚をミックスさせた、独自の美学が際立つエディトリアルデザイン・スタジオである。今回のカタログも、さすがにノルトらしく、いくつかのサイズの紙束を二つ折りにして重ねたような、軽い印象でありながら、中を開いていくたびに驚きがあらわれる、これまで見たことのないような構造になっている。

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特別公開・友川カズキの酔眼レコメンリスト

1月27日、渋谷タワーレコードにて『友川カズキ独白録—生きてみるって言ってみろ—』発刊記念のトーク&ライブで、友川さんとトークをさせてもらいました。来てくれたみなさん、どうもありがとう! どれくらい来るのか・・・とスタッフも心配顔でしたが、蓋を開けてみれば立ち見ありの満員御礼。仕事を急いで終えて駆けつけてくれたひともいたでしょう、ご参加感謝します。イベントの場で参加特典として配布されたのが、「友川カズキの酔眼レコメンリスト」という4つ折りのリーフレット。片面が「私を“犯した”15冊の書籍」、もう片面が「私を“冒した”15枚の音盤」というわけで、15の本とレコードをコメントとともに掲載した、すごく読み応えのあるリストでした。

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我らいまだ非現実の王国に

いまからちょうど8年前になる。ヘンリー・ダーガーの部屋の写真を相次いで見る機会があって、どうしても本にしたくて、友人の小出由紀子さんとインペリアルプレスという、ふたりだけの極小出版社を設立、『HENRY DARGER’S ROOM ― 851 WEBSTER』という写真集を自費出版した。「851WEBSTER」というのは、ダーガーが住んでいたシカゴのアパートの住所だった。その後のインペリアルプレスは、お互い忙しさにかまけているうちに新刊を出すこともないまま、ついに昨年末で会社を清算、いまは手元に残った在庫を細々と売っている状態で・・・溜息。その『HENRY DARGER’S ROOM』に写真を提供していただいた北島敬三さんの写真展『ヘンリー・ダーガーの部屋』が先週末から、西新宿のエプサイト・ギャラリーで開催中だ(3月12日まで)。

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たまにはアートフェアも

いまさら説明するまでもないが、展覧会とアートフェアのちがいは、展覧会がアートを展示する場所であるのに対して、フェアはアートの「見本市」、つまりアートを売り買いする場所ということ。アートを鑑賞するのではなくて、売ったり買ったりできるひとが集まるのがアートフェアだ。その最大のものであるスイスのアート・バーゼルなどは、いまやマイアミや香港でもフェアを開催。世界中からお金持ちと、お金持ちを探すお金持ち画廊が集結する。日本でも「アートフェア東京」という美術見本市が2005年から開かれていて、今年が10回目。好き嫌いとかではないけれど、売り買いの場という性格から、これまで本メルマガでは取り上げないでいたが、今年はメルマガでも紹介したアーティストの作品がいくつか出品されるので、この機会にさらりと紹介させていただく。

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結成20周年、ギャーテーズ東大五月祭に降臨!

2014年はいちどしかライブを開かなかったギャーテーズが、今年初めてのライブを今週日曜日(5月17日)、東大五月祭で披露する。大編成のバンドであること、メンバーが施設に暮らしたり、別の仕事をしながら音楽活動をしていたりと、めったにライブの機会がないギャーテーズだけに、今回のライブは「知る人ぞ知る」存在だった奇跡のバンドを生で体験できる、貴重な場となる。今回は2013年に放送したライブ音源をたっぷりお聴きいただくとともに、ギャーテーズの活動にずっと寄り添い、記録を続けてきたAV監督・菅原養史さんに、ギャーテーズという稀有なバンドと、そのリーダーである大龍さんの波瀾万丈の歴史をひもとく文章を書き下ろしていただいた。

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開催中&まもなく開催の展覧会、一挙紹介

9月になると展覧会が集中するのは、やっぱり「芸術の秋」だからなのか・・こっちは「食欲」だけど。本メルマガで紹介してきた作家たちを中心に、今週は3本の展覧会をまとめて紹介します!/村上仁一『雲隠れ温泉行』@ガーディアン・ガーデン/三条友美 処女個展 少女裁判@カフェ百日紅/横倉裕司展「輪郭を描く」@ヴァニラ画廊

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 03 石原峯明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の江中裕子に続いて、今週は石原峯明の作品を見ていただく(先週までは「平川病院の」と連載タイトルをつけていたが、これから東京足立病院でおもに制作する作家も紹介していく予定なので、今週から変更させていただいた)。まず、予備知識なしにこの絵を見ていただきたい。鮮やかな色彩と、ピカソやホアン・ミロを思わせるような画想が、100号(162x130センチ)の大画面に踊っている。これが76年間の人生のうち、のべ40年近くを精神病院で暮らした男の、死の4年前、72歳で描いた作品だと、だれが想像できようか。

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タナベ昭和館のこと

羽田から松山行きの飛行機に乗って、空港からバスでJR松山駅へ。そこから特急宇和海に乗って1時間ちょっと過ぎたころ、トンネルを抜けた先にいきなり海が広がる。また宇和島に来れたな、としみじみ思う。大竹伸朗くんのアトリエがあるので、宇和島には1年か2年にいちどは訪れるが、全国的に宇和島はどれくらい知られているのだろうか。「フェリーで行くんですか?」と、宇和島を島だと思ってるひとにも、これまでずいぶん会ってきた。人口9万人近い宇和島には「伊達十万石の城下町」というキャッチフレーズがついているが、例によって駅前商店街の疲弊ははなはだしい。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 07 島崎敏司

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は島崎敏司(しまざき・さとし)の作品を紹介する。島崎敏司は1957年、八王子生まれ。1988年に丘の上病院に入院したというから、31歳のときだったろうか。しかし4年にわたる入院期間のうちに、「絵を描こう」とは思いもしなかった。初めて画用紙に向かうことになったのは、退院後にデイケアに通うようになって2年近くたってからのこと。いったい彼の内面に、そのときどんな衝動が生まれたのだろう。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 10 石澤孝幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は石澤孝幸の作品を紹介する。今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』を取材させてもらったのが、この連載のきっかけになったことは前に書いたが、そのときに石澤さんの作品も見て、そのあと八王子の平川病院を訪れてみると、〈造形教室〉の片隅に立てたイーゼルの前で、展覧会で見たのとそっくりな絵に向かっている石澤さんがいた。不思議に思ってスタッフの方に聞いてみると、それはそっくりな新作ではなくて、展覧会に出した作品に、さらに手を入れているのだという。

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上野都美館でプロ・アマ美術散歩

なにか展覧会を見に行って、そのまま帰ればいいのに、ふらふら常設展示コーナーに足を踏み入れて、そこで思わぬ作品と出会うことがよくある。サイトウケイスケという若い画家に教えられて先週、東京都美術館に行った。彼が参加する『東北画は可能か?』というグループ展が、2週間だけ開かれているという。東京都美術館=都美館は企画展と同時に、いつも大小たくさんの公募展や貸しギャラリー展が開催されている、言ってみれば東京最大級の貸し画廊でもある。久しぶりに上野公園を横切って都美館に着いてみたら、平日の午前中なのにものすごい人混みで驚いたが、それは東北画じゃなくてモネ展を見に来たひとたちだった。ついこのあいだ、印象派と娼婦の関係に焦点を当てたオルセー美術館の展覧会を記事にしたばかりなので、ちょっと好奇心が湧く。入場を待つ列に並んでいる善男善女は、どんなモネを期待しているのだろう。モネ展の雑踏をぐっと回りこみ、地下3階まで降りたギャラリーBで『東北画は可能か?』は静かに開いていた。

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えびすリアリズムの奇跡

もっとも新春にふさわしくないというべきか、ふさわしいというべきか、判断に迷う展覧会が元旦(!)1月1日から渋谷パルコで開催される。『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』――そう、蛭子能収の絵画作品展だ。いまや「バスに乗って(大した感動もないまま)旅行するひと」「使い勝手のいい変人おやじ」というテレビ的イメージが完全に定着してしまった蛭子さんだが、つい先日のNHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史II」でも力説したように、私見では1970~80年代ヘタウマ・カルチャーを体現する最重要アーティストのひとりである。当時、『地獄に堕ちた教師ども』(1981年)を代表とする初期の蛭子漫画に計り知れない影響を受けた若者が、(僕を含め)どれほどいたろうか。

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GABOMIの光

高松の路面電車「ことでん」や、香川のロードサイドをめぐる『高松アンダーグラウンド』の連載で、本メルマガでもおなじみの写真家GABOMI。ここ数年はドキュメンタリー・スナップと平行して、実験的な作品制作にも意欲的だった彼女が、きょう(3月2日)から銀座・資生堂ギャラリーで個展を開く。「shiseido art egg」と名づけられた、新進アーティストをピックアップする公募連続企画の一環として開催される今回の展覧会。

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DOMMUNE「スナック芸術丸」、過去3回分を読者限定公開!

いまや番組配信だけにとどまらず、高速・光インターネットサービスまでも開始、3000番組/5000時間/100テラバイトにおよぶ番組アーカイブの開放に着手したDOMMUNE。開局時の5年半前から「スナック芸術丸」も、そのささやかな一画で遊ばせてもらってるわけですが、今回はロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、過去3回のプログラムを限定公開してくれました。宇川くん、ありがとう!

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森山直太朗『嗚呼』

ふだんは取材する相手も、お仕事いただく相手もインディーズというか地下というか、日の当たりにくい場所で活動するひとばかりだけれど、珍しくメジャーな企画に参加しました。森山直太朗の1年半ぶりになるオリジナルアルバム『嗚呼』のジャケットとリーフレット撮影です。森山さんの曲は好きだし、スナックでもよく聴くけれど、声かけてもらえたのにはびっくり。で、最近撮っている写真をいくつかお見せしたら、「これで行きたいです」と即決したのが、なんと「おかんアート」! 本気か・・・笑。

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Back in the ROADSIDE USA 03 Dinosaur Gardens, Ossineke

『Dinosaur Gardens(ダイナソー・ガーデンズ』=その名のとおり「恐竜庭園」。実はアメリカ各地で恐竜は昔から人気者で、たくさんの恐竜庭園がある。博物館が監修した学術的に信頼できるものから、正確さより楽しさのほうが先に立つインディーズ系まで、もうさまざま。僕としては当然ながら、インディーズ系のほうに興味が惹かれるわけで、東海岸から西海岸までオススメの「恐竜環境」がいろいろあるけれど、こちらオシネクの恐竜庭園も、その渋~いたたずまいでかなりの好感度。しかもこちらの恐竜庭園は、ポール・ドンケというひとりの恐竜好きが、1930年代から60年代までかかって造りあげた、生粋のインディーズ・ダイナソー・パークなのだ。

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Back in the ROADSIDE USA 03 Amargosa Opera House, Death Valley Junction

ネヴァダ州ラスヴェガスから北上すること約3時間、州境からほんの10キロかそこらカリフォルニアに入った荒野に、デスヴァレー・ジャンクションがある。住人はいまや20人以下、その独特な景観で名高いデスヴァレーへの入口にあたる、信号もない小さな集落だ。1980年代までは電話局も手差し交換機で、外部からはまず局に電話して、つないでもらわないとならなかったという。夏には気温50度を記録し、冬は雪が積もることも珍しくない過酷な気候の中を走っていくと、ジャンクションという名のとおり、373号線と190号線がまじわる交差点のすぐそばに、平屋建ての地味なモーテルが見つかるだろう。コの字型をした建物の北端に、ほかより少しだけ大ぶりな一角がある。近づいてみると、強い日差しに照らされた白壁に、「アマルゴサ・オペラハウス」と書かれている。オペラハウス! デスヴァレーに? アマルゴサ・オペラハウスは、たぶん世界でいちばん奇抜な場所にある、奇妙な、そして美しい誕生秘話に彩られた手作りのオペラハウスだ。

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Back in the ROADSIDE USA 05 Bible Walk, Morgantown

ジョン・デンヴァー最大のヒット『カントリー・ロード』の歌い出しは、「オーモスト・ヘヴン ウェストヴァージニア」だった。ウェストヴァージニアは州の8割が森林という、アメリカでも有数の自然に恵まれた州だ。愛称だって「マウンテン・ステート」だし。州丸ごとがアパラチア山脈に沿ったかたちになっているので、よく言えば美しく起伏に富んでいて、物流の厳しさから産業が発達しにくかった側面もある。ワシントンDCの西側に位置し、歴史的にはもともとヴァージニア州の一部だったのだが、南北戦争の際に合衆国から離脱を宣言して南軍側に加わったヴァージニアに反対した州西部の郡が、まとまって新しい州を作ったのがウェストヴァージニア。なのでおとなりヴァージニアとは、いまでも微妙に温度差があるような気もする。

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Back in the ROADSIDE USA 06 Mel Gould's Sculpture Garden, Cheyenne

ネイティブアメリカンの言葉で「大平原」を意味するというワイオミング。アメリカでいちばん人口の少ない州で、鳥取県とほぼ同じなのだとか・・・。ロッキー山脈に抱かれた雄大な風景は、イエローストーンやグランドティトンといった国立公園でも有名だ。そろそろ夕方、きょう泊まるモーテルを探しながら、州都シャイアンからネブラスカに抜ける州間高速80号線を走っていると、北側に突然現れた奇妙な屋外彫刻群。巨大な風車が名物の強風に勢いよく回っている横では、スプリング製の台座に乗った人形がぶらんぶらん揺れている。思わず次の出口で高速を降りて、脇道を戻ってみると「ビジターズ・ウェルカム」の心強いサイン。ほっとしてクルマを乗り入れると、いきなり元気いい犬3匹に飛びかかられ、そのあとから自家製ゴルフカートみたいな乗物にまたがったおやじが出てきた。

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Back in the ROADSIDE USA 08 Shenandoah Caverns, Shenandoah

「ヴァージニアで唯一エレベーターで降りていけて、階段の昇り降りがいらない」のが売りというシェナンドー・キャヴァーンズは、1922年から公開されている観光洞窟として老舗中の老舗である。そのシェナンドー洞窟の持主であるハーグローヴ社の本業が、実はパレード用のフロート製作。アメリカ人は、もしかしたら世界でいちばんパレード好きな人種かもしれないと思うのだが、野球チームの優勝パレード、フットボールのパレード、政党の大会のパレード、大統領就任式のパレード・・・ディズニーランドで毎日見られるようなパレードが、なにかにつけてはきょうもアメリカのどこかのメインストリートで、にぎやかに繰り広げられてるわけだ。パレードの華であるフロートは、日本語では山車となるんだろうが、そこはアメリカだけにサイズがスーパー。ひとつのフロートが、大きいもので長さ30m以上。だいたいどれも25mプールぐらいはあると言ったら、そのボリューム感を想像していただけるだろうか。

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Back in the ROADSIDE USA 09 The Buckhorn Saloon & Museum, San Antonio

州としてもアメリカ有数の大物、B級珍名所の数でもアメリカ有数であるのがテキサス。とにかく大きくて、たくさんあるのが大好きというお国柄なのはご存じのとおり。テキサス随一の観光名所、名高いアラモの戦いの舞台となった砦があるサンアントニオのダウンタウンに、なんともキッチュで楽しい寄り道スポットがある。『ザ・バックホーン・サルーン&ミュージアム』は創業1881年という、サンアントニオきっての歴史を誇る「居酒屋兼博物館」。アルバート・フリードリックなる人物が最初に年に店を開いたのだが、客集めのために「仕留めたシカの角を持ってきたら、ビールかウィスキーが1杯タダ!」と宣伝したところ、あれよというまにものすごい量の角が集まってしまった。

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Back in the ROADSIDE USA 10 Bedrock City, Custer

アメリカの地図のやや左上、つまり中北部にどっしり控えるノース&サウスダコタ両州。ノースダコタはアメリカにおける「ど田舎」の代名詞的存在だが、南半分のサウスダコタのほうは東端のスーフォールズ、西端のラピッドシティを中心に、けっこう見所が少なくない。それでも州の面積が全米で17番目なのに、人口は46番目と、すばらしくスカスカな土地ではあるのだが。ラピッドシティ周辺の西側には、全米屈指の観光スポットであるマウントラシュモア(あの大統領4人の顔が、岩山に彫ってあるやつ)をはじめ、バッドランズ国立公園など有名どころがひしめいてる。「白人の聖地」であるマウントラシュモアをいだく町カスターには、「ベッドロック・シティ」という楽しいレクリエーション・パークがある。名前でわかってしまうひともいるかと思うが、ここはあの『原始家族フリントストーン』をテーマにした観光スポットであり、キャンプ場でもある。

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Back in the ROADSIDE USA 12 UFO Museum & Research Center, Roswell

アラスカ、テキサス、カリフォルニア、モンタナに次いで全米5番目の広さを誇るニューメキシコは、北のコロラドから、リオグランデ河を挟んで南のメキシコまで、大ざっぱに言えば北から南に向かってなだらかに下っていく長方形の州。4000mを越える高山から砂漠まで、たいへん変化に富む自然が楽しめる。サンタフェやタオスで、土着のアドービ(土煉瓦)を使った建築を観賞したり、プエブロ、ナバホ、アパッチ族などの生活に触れたり、アウトドア・スポーツに挑戦したりと、いろんな遊び方があるわけだが、観光地だからこそ、ヘンなロードサイド・アトラクションも選り取りみどり。中でも「UFOで町おこし」をはかるロズウェルは、マニアにとっては聖地とも言える存在だ。

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Back in the ROADSIDE USA 13 The Oasis Bordello Museum, Wallace

東海岸のボストンから西海岸のシアトルまでをノンストップで結ぶ、90号線という州間高速道路がある。1990年代初めまで、このスーパーハイウェイにたったひとつだけ信号があった。アイダホ州ウォレスという鉱山町に。いまでこそ時代に取り残されてしまったような小さな町だが、ウォレスはかつて世界最大の銀山を擁する、活気に満ちた鉱山町だった。人口1万人以上、もちろんそのほとんどがヤマで働く男たちで、最盛期には男対女の割合が200対1に達したという。そこで、売春宿の登場となる。町の一角にかつては5軒の売春宿が並び、華やかなネオンサインを競っていたが、当然ながらいまは存在しない。とはいえ最後まで営業を続けていた『オアシス・ルーム』がその扉を閉じたのは、意外にも1988年のこと。つい最近ではないか。

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Back in the ROADSIDE USA 14 The Enchanted Highway, Regent, ND

ダコタ・・「ど田舎」の代名詞のように使われる単語である。アメリカの地図を広げてみてほしい。真ん中からちょっと西側の、いちばん北にあるふたつの大きな四角。それがノース・ダコタとサウス・ダコタだ。1889年にノースとサウスに分かれたダコタ。ノースのほうは日本の約半分という広い土地に、たった65万人しか住んでいない。200万頭いるという牛のほうが、ずっと多いくらい。そういう、はっきり言って見所の多くないノース・ダコタで、いまや特選名所となっているのが『エンチャンテッド・ハイウェイ』。日本語にすれば「魅惑の道」という感じだろうか。どこまでも広がる草原を突っ切って走る舗装路の、数キロおきに現れる巨大な彫刻群。それは馬にまたがるルーズベルト大統領であったり、ブリキの家族であったり、バッタであったり、モチーフはさまざまだが、どれも共通しているのはとてつもないサイズだということ。

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死刑囚の絵展@宮城・にしぴりかの美術館

すでに何度か本メルマガで取り上げた宮城県黒川郡大和町の『にしぴりかの美術館』で、11月21日から死刑囚の絵展が開催されている。死刑囚の絵画作品については、もう何度も紹介してきた。今年の春から夏にかけては広島県福山市のクシノテラスで、また来年夏には『神は局部に宿る』の渋谷アツコバルーでも大規模な展覧会が予定されていて、これまでの死刑廃止運動の一環としての展示とは、また別の角度から光を当てる企画が増えているのは、すごく有意義な流れだと思う。『命みつめて ~描かずにいられない』と題された本展には、これまでどおり「FORUM90/死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」によってコレクションされてきた、2005年から15年までの作品から80点を選んで展示されている。キュレーションを担当したのは、こちらも本メルマガで連続掲載した高尾・平川病院〈造形教室〉の運営にあたる宇野学さん。これまでの死刑囚の絵展が、参加したすべての作家によるコレクションの全容を見せようとしてきたのに対して、今回は数人の作家に特に力点を置いた展示になっていて、そのアプローチも興味深い。

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オレサマ商店建築:ヘアサロン・アスカ

単行本に未収録の取材記事を紹介する、久しぶりの「アーカイブ」は、覚醒剤のニュースで思いついたわけではないけれど・・・知る人ぞ知る新宿のギャングスタ・バーバー「アスカ」。外観はごく普通の床屋ながら、内部は超絶のブラックミュージック・ミュージアム状態。椅子は一脚のみ! 潔すぎる侠気職人の世界をじっくりご覧いただきたい。

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Back in the ROADSIDE USA 16 The Last Train to Nowhere, Solomon, AK

ようやく東京も本格的な冬模様なので、というわけではないけれど、今週と来週の2回は北の大地アラスカからお送りします!――ベーリング海に突き出たスワード半島にあるノーム。冬の最低気温がマイナス50度を超すこともあるという、準北極圏の小さな町だ。1893年、偶然ノームにたどり着いた3人のスウェーデン人によって金鉱が発見され、ノームはアラスカ屈指のゴールドラッシュの舞台になった。ジョン・ウェインの『アラスカ魂』にそのありさまが描かれているが、最盛期には人口が2万人にまでふくれあがり、酒場だけで100軒を越えていた。1911年までに採掘された金の量は、総額6000万ドルに達するという。

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Back in the ROADSIDE USA 16 Samovar Café, Nikolaevsk, AK

先週に続いてのアラスカは、奥地に隠れたロシア村。今年3月の連載『旅のあはれ』でも少しだけ触れたけれど、たくさんの写真とともにもういちどお楽しみいただきたい。ロシアの皇帝からアメリカがアラスカを購入したのが1867年。当時は「巨大な保冷庫を買っただけ」とバカにされたが、金鉱が発見されて結果的に史上最高のバーゲンセールとなったのはご存知のとおり。アラスカはたった150年ほど前までロシアの一部だったのだ。深い森の中にロシア人たちの隠れ里があると聞いて、行ってみることにした。アンカレッジから約370キロ、キーナイ半島の突端にあるホーマーという港町から、さらに20キロほど離れたニコラエフスク。「ロシアン・ヴィレッジ」と呼ばれるこの村は、ロシア正教徒のうちでも厳格な、いわば原理主義的な一派であるオールドビリーバーが移り住む場所である。

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Back in the ROADSIDE USA 18 Sioux Empire Medical Museum, Sioux Falls, SD

1803年ジェファーソン大統領は、欧州戦争での戦費調達に苦しんでいたナポレオンから、ミシシッピ河以西、ロッキー山脈にいたる134万平方キロの広大な植民地を、わずか1500万ドルで買い取った。世に名高い「ルイジアナ購入」である。これによってアメリカ合衆国の領土は一挙に倍増したわけだが、同時に「未知の地」だった内陸部を探査し、東と西海岸をつなぐルートを早急に確立する必要に迫られることになった。

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Back in the ROADSIDE USA 19 George S. Eccles Dinosaur Garden, Ogden, UT

迫害を受けたモルモン教徒たちが苦難の道程を経て、ユタ州に移民してきたのは1847年のこと。日本では江戸末期、黒船が現れる直前という時代で、それから現在まで、たった170年ほどしか経っていない。純白の大地が見渡すかぎり広がるグレート・ソルトレイクの奇観から、パークシティに代表される全米最良のスキーリゾート、南部の広大な国立公園群まで、これほどバラエティに富んだ自然を抱く州は、他に例を見ないだろう。農業、鉱業、それに航空・軍需産業が伝統的に盛んだったユタ州だが、いまや観光ビジネスがトップに躍り出る勢い。アメリカ屈指の人気観光スポットなのだ。

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Back in the ROADSIDE USA 25 Myrtle Beach National Wax Museum, Myrtle Beach, SC

先週のKKKミュージアムに続いて、サウスカロライナ州きってのビザール観光スポットをもうひとつご紹介。マートルビーチの『ナショナル・ワックス・ミュージアム』であります。サウスカロライナ最大、というより北部の大都市からフロリダにかけての東海岸で最大のビーチリゾートであるマートルビーチは、フロリダ州デイトナビーチと並んで、アメリカの大学生のスプリングブレイク(春休み)でも有名。スプリングブレイクはただの春休みではなくて、とにかく酒とナンパに明け暮れるクレイジー・バケーションとして映画などでもおなじみ。数十キロに及ぶ砂浜の海岸線に面して、ずらりとホテルやコンドミニアムが並ぶさまは、イーストコーストの熱海というか。ワイキキを10倍大きくして、100倍下品にした感じといえば、雰囲気がわかってもらえるだろうか。

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渋イケメン集合!

2015年12月23日号で取り上げた写真家・三井昌志の展覧会『渋イケメンの国』が今週13日から1週間、銀座キャノンギャラリーで開催される。1年前に発表された写真集『渋イケメンの国――無駄にかっこいい男たち』の、まずタイトルにやられ、写されたまさしく「無駄にかっこいい男たち」の存在感にやられたひとは、僕以外にもたくさんいるだろう。記事の中で三井さんをこんなふうに紹介した――

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『羽永光利一〇〇〇』刊行記念展

去年8月17日号で紹介した写真家・羽永光利の作品集『羽永光利一〇〇〇』がついに完成、そのお披露目を兼ねた展覧会が恵比寿ナディッフで開催される。戦中世代である羽永は文化学院卒業後、アート・フォトグラフィーを目指しつつ、フリーランス・カメラマンとして前衛アーティストたちの記録を雑誌などで発表するようになる。1981年からは新潮社の写真雑誌『フォーカス』の立ち上げに参加。その後、国内外の写真展に参加したり個展を開いていたが、1999年に死去。2014年になって、AOYAMA | MEGUROTOとぎゃらり壷中天によって、あらたな紹介が始まった。つまり死後15年も経ってから「再発見」された写真家だ。

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Back in the ROADSIDE USA 32 Sanfilippo Cress Funeral Service, Madison, WI

ウィスコンシンと聞いて「あー、あそこね」と、明確なイメージが浮かぶ人は少ないだろう。チーズの生産高が全米一位という酪農州で、ビールやソーセージも有名だし、アメリカン・フットボールではグリーンベイ・パッカーズがNFLのトップチームなのだが・・・。しかし! ウィスコンシンは実のところ、珍観光名所においては質・量ともに全米有数の豊富さを誇る、超実力州だ。なにしろウィスコンシンはエド・ゲインとジェフリー・ダーマーという、アメリカ最強の連続殺人鬼を生んだ州だし、自分の名前を「エルヴィス・プレスリー」にかえた人間がふたりもいる州でもある。1972年からずっと毎日、ビッグマックを食い続けている男がいる州でもある(すでに1万5000個を突破―2001年現在)。ハーレー・ダヴィッドソンとヘアー・ドライヤーを生み、マスタードとハンバーガーと天使と蜂蜜とチーズの殿堂がある州でもある。

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Back in the ROADSIDE USA 33 Cermak Plaza, Berwyn, IL

ミシガン湖を吹き抜ける強風から「ウインディシティ」の別名を持つシカゴについては、いくつでも記事ができそうだが、アート方面でよく知られているのが、全米三大美術館に数えられるシカゴ美術館・・もそうだけど、ここで紹介したいのが、シカゴ郊外のバーウィンにある、いささかくたびれた感じのショッピングモール。ショッピングモールと現代美術というのはかなり奇妙な組み合わせに聞こえるが、サーマック・プラザはおそらくシカゴでいちばん有名な屋外インスタレーション・アートが観賞できる現代美術ギャラリーでもある。

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シリアルキラー、ふたたび!

昨年6月に銀座ヴァニラ画廊で開催された『シリアルキラー展』は予想以上の観客を集め、アメリカのシリアルキラーが日本でこんなに人気とは!と驚かされたが、同じヴァニラで今年も第2回目の『シリアルキラー展』が、それも今回は前後期にわけて2ヶ月におよぶ展覧会となって還ってきた。タイトルにあるように、今回展示される作品群も日本国内の収集家「HN」氏によるコレクションである。

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福田尚代『海のプロセス――言葉をめぐる地図』

本メルマガ2015年5月20日号『銀河の中に仮名の歓喜』で紹介した、現代美術作家であり驚異の回文作家でもある福田尚代さん。いま、上野の東京都美術館で開催中のグループ展『海のプロセス――言葉をめぐる地』に、4人のアーティストのひとりとして参加しています。『エンドロール』と名づけられたその作品。ずっと以前に都美術館で使われていたという木枠の古風なショーケースを覗き込んでみると、内部には幾層にも重なる、極小の点が打たれた紙が。福田さんによればそれらは、亡くなってしまった大切なひとたちの手紙やメール、日誌などに記された言葉を書き写していったものだそう。

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Back in the ROADSIDE USA 38 Cadillac Ranch, Amarillo, TX

おそらくテキサスでいちばん有名な観光名所である『キャデラック・ランチ』は、かつてのルート66に並行して走るインターステート・ハイウェイ40号線の脇に、西を向いて陽を浴びている。地元の億万長者であり、現代美術のパトロンとしても名高いスタンリー・マーシュ3世が、サンフランシスコのアーティスト・グループ、アント・ファームをアマリロに招いたのが1974年のこと。所有する広大な麦畑を見せたところ、「風にそよぐ麦穂を見ているうちに、まずフィン(ひれ)が思い浮かんだ。たなびく麦の海にジャンプするイルカのひれを。それから自動車のフィンに連想が広がった」。

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Back in the ROADSIDE USA 41 Unclaimed Baggage Center, Scottsboro, AL

唐突だけど、ハードディスクがいつかはクラッシュするように、空港で預けた荷物はいつかなくなる日が来る・・・。飛行機は無事に着陸したけれど、いくら待っても荷物が出てこない・・ロスト・バゲッジの恐怖は、旅行慣れした人ならいちどは経験する悪夢だ。ほとんどの場合は当日か翌日に見つかるけれど、中には持主不明のまま空港の片隅に取り残される、哀れな荷物もある。そんなスーツケースやもろもろの携行品が、最後にたどり着くのがここ、アラバマ州北東部の小さな町スコッツボロにあるアンクレイムド・バゲッジ・センター(UBC)だ。

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極限芸術~死刑囚は描く~@アツコバルー

先日はオリエント工業40周年記念展で話題を集めた渋谷アツコバルーが、ラブドールに続いて開催する展覧会が『極限芸術~死刑囚は描く~』。昨年、広島県福山市クシノテラスで開かれた展示の東京バージョンで、作品の選択はアツコバルーのスタッフによる独自のものになるそう。しかしラブドールから死刑囚の絵・・・「生と死」ならぬ「性と死」、振り切ってるなあ。死刑囚の絵について、このメルマガで最初に取り上げたのは2012年、広島のアピエルトという小さな劇場で開かれた展示の紹介だった。いま、日本には125人の死刑囚がいるのだが(2017年7月現在)、その中には数十年も獄中で「その日」が来るのを待っているひともいれば、死刑確定から数年のうちに執行されてしまうひともいる。

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Back in the ROADSIDE USA 44 Witch Dungeon Museum, Salem, MA

東京がニューヨークなら、京都にあたるのがボストン。アメリカでもっとも古い都市を有するのがマサチューセッツ州だ。ボストンから北に約1時間、セイラムは大西洋に面する古都。『緋文字』で有名なナサニエル・ホーソンの出身地でもあるが、セイラムの名を全米に知らしめているのが『セイラム魔女裁判』である。イギリスからの移民が1626年に開いたセイラムは、アメリカで最も古い歴史を誇る町のひとつ。セイラムといえばもっと有名なのがセイラム魔女裁判と呼ばれる、1692年に起こった奇怪な事件。当時セイラムに暮らしていた女の子たちがある日突然、集団ヒステリーを起こした。のたうちまわり、絶叫し、四つん這いになって走り回りながら、少女は自分たちが魔女に取り憑かれていると主張し、魔女の名前を次々と口にするようになる。それはいずれも少女たちの身近にいる村人であった。そして13ヶ月にわたる裁判という名の魔女狩りで、156人が投獄され、19人と2匹の犬(!)が縛り首となり、ひとりが拷問のため圧死した。という、アメリカ史上に残る暗黒の出来事だ。

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Back in the ROADSIDE USA 50 Museum of York County, York, SC

ノースキャロライナ州境に近い、ヨークという小さな町。3分もあれば通りすぎてしまうサイズの、なんの変哲もないカントリータウンだが、町はずれにあるヨーク郡の博物館に、実は世界でも有数のアフリカ哺乳類コレクションが眠っている。地元のサファリ愛好家が、何度もアフリカに通っては撃ち殺した動物たちが、みんな剥製になって地味な博物館を埋め尽くしているさまは壮観。キリン、アフリカゾウ、ライオン・・・とにかく数えきれない剥製動物たちが、ガラス玉の眼をきらりと光らせながら、薄暗い照明の中にたたずんでいる。書き割りジオラマの平板さとあいまって、見ようによってはかなり現代美術的でもあり。杉本博司さんに撮影してほしい・・・。

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Back in the ROADSIDE USA 54 Big is beautiful

今週のロードサイドUSA再訪はちょっと趣向を変えて、アメリカの路傍に「でかいもの」を探してみた。9月20日号ではサウスキャロライナ・ギャフニーの「ピーチョイド」=桃型給水塔を紹介した。巨大人間、巨大生物、巨大記念碑・・・ハイウェイを降りて町に乗り入れるとき、まず目に入るのが「巨大なるなにか」であることがよくある。それは町のランドマークであったり、商業施設の広告塔であったり、モチーフも目的もさまざまだが、共通しているのは事物が極端に拡大されることから生まれる、シュールな存在感だ。今回お目にかけるのは、7年間に及んだアメリカ裏街道の旅路で見つけた「無駄にでかいもの」の、ほんの一部にすぎない。

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Back in the ROADSIDE USA 55 Don Q Inn, Dodgeville, WI

アメリカにも「ハネムーン用」と名づけられたラブホテルがある。「テーマホテル」と呼ぶこともある。日本のラブホのようにポピュラーな存在でも、あからさまでもないが、考えることはやっぱり同じ。ウィスコンシン州ドッジヴィルのハイウェイそばにある『ドンQイン』は、ホテルの前に置かれた目印がわりの巨大な飛行機と、全室異なるオモシロ・インテリアで一部のマニアに知られた存在だ。

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Back in the ROADSIDE USA 56 F.A.S.T. Corporation, Sparta, WI

ウィスコンシン州スパルタという力強そうな町のはずれにある、小さな工場。ここはファイバーグラスで巨大な人形や動物を作る技術で、全米最大のシェアを誇る会社だ。F.A.S.T.は「ファイバーグラス・アニマルズ・シェイプス&トレイドマークス」の略。工場前の広い芝生には、出荷を待つ製品が並べられていて、ロードサイド・ミュージアムの趣。裏の敷地には、成型に使われてすでに用済みになった型が打ち捨てられているのだが、これまた独特な雰囲気である。胴体が半分に割られたゾウとか、頭だけの巨人とか、なんだか滅亡した古代ローマの遺跡の現代版とでもいうべき、不思議な無常感が草原にただよって物悲しい。そして見方によっては、かなり現代美術っぽくもある。

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自作大腸カメラからチンコ看板まで――「絶滅サイト」連載終了記念対談

約2年間にわたって続いた連載『絶滅サイト』が先々週号で終了した。Webサイトのホームページをひたすら羅列した、見かけこそ地味にも感じられる記事だったが、個人的には他に類例のない貴重なアーカイブだったと思う。今回は連載終了を記念して、著者のハマザキカクさんと連載を振り返り語り合ってみた。あわせてハマザキさんによる現時点での「特選絶滅サイト」もご紹介するので、その絶滅・放置ぶりをお楽しみいただきたい!

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Back in the ROADSIDE USA 62 Mueseum of Religious Arts, Logan IA

ミズーリ河を挟んだ2大都市カウンシルブラフスとネブラスカ州オマハに近い、アイオワ州ローガンの町はずれ(人口1454人/2016年)。見渡すかぎりのトウモロコシ畑の中に、真新しい倉庫風の建物がある。これが1995年にオープンしたミュージアム・オヴ・レリジャス・アーツ。その名のとおり、キリスト教にまつわるさまざまな収集品を展示する、私設の宗教美術館だ。ミュージアムを設立したのはローガンの住人、ポール・ローヴェル。敬虔なカトリックだったローヴェルは、アイオワやネブラスカの古いカトリック教会が次々と姿を消していくのを惜しみ、私財を投じてこのミュージアムを設立した。

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Back in the ROADSIDE USA 63 Hobo Museum, Britt, IA

2017年7月5日号で紹介した驚異の宗教空間『グロット・オブ・リデンプション』があるアイオワ州ウェストベンドから30分足らず、ハイウェイ18号線沿いに現れ消える小さな町のひとつがブリット。2、3分で走りすぎてしまうようなサイズだが、年にいちど開かれる『ナショナル・ホーボー・コンベンション』の開催地として知られている。なにしろはじめて開催されたのが1974年というから、かなりの歴史を誇るイベントだ。貨物列車に只乗りしてアメリカを北に南に、東へ西へと流れつづけたホーボーは、アメリカ人にとってある種のロマンチシズムを喚起させる存在だった。

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Back in the ROADSIDE USA 64 Loony Lagoon, Bath, ME

アメリカ最大の造船基地として名を馳せたメイン州バース。ヨーロッパのような古い町並みを訪れる観光客でにぎわっているが、高速道路の裏手にひっそり花咲く、通称ルーニー・ラグーンまで足を伸ばす人は少ない。道路脇の窪地にある池の周囲に、あたかも路傍の花のように点々と配された立体作品。メイン州名物のロブスター、ヘラジカ、木の枝に吊された飛行機。池に釣り糸を垂れる男。すべてがフィリップ・デイという老人ひとりの手によって生み出されたものだ。

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Back in the ROADSIDE USA 68 Spam Museum, Austin, MN

アイオワとの州境に近いミネソタ州オースティンの町に本拠を構えるのが、世界有数の食品会社ホーメル。あのスパム(Spam)を作ってる会社だ。沖縄料理好きにはおなじみのスパム。ハワイで「スパム・スシ」に出会ってびっくりした人もいるだろう。ホーメル社が設立されたのは1892年だが、スパムが世の中に登場したのは1937年のこと。スパムとは「spiced ham」の略。スパイシーなハムというわけではないが。2002年には通算60億缶目が出荷された(!)という、たぶん世界でいちばんポピュラーな缶詰である。

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Back in the ROADSIDE USA 70 Nun Doll Museum, Indian River, MI

ミシガン中部の町インディアンリヴァー。州間高速75号線を降りてすぐ、木立に隠れるように『クロス・イン・ザ・ウッズ』と呼ばれる教会がある。高さ55フィート、16mあまりの巨大な十字架(キリスト付き)で有名な教会だが、もうひとつ名物なのが礼拝堂地下に展示されている『ナン・ドール・ミュージアム』。その名のとおり尼さんの人形ばかりを525体も集めた、珍しいコレクションだ。40年ほども前のこと、サリー・ロガルスキーという女性が感謝祭のおりに、家にあった人形に尼僧の服を着せてみたのが、その始まり。サリーは結婚してからも尼さん人形を趣味で作りつづけ、できた人形をクロス・イン・ザ・ウッズに寄付するようになった。

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Back in the ROADSIDE USA 72 National Firearms Museum, Fairfax, VA

かつてはマイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』で、いまはトランプ大統領の最有力後援団体として、日本でもすっかり名前が知られるようになったNRA(全米ライフル協会)。アメリカ銃文化の総本山であるNRAは、ワシントンDCからポトマック河を渡り、ペンタゴンを過ぎた先にある郊外の町フェアファックスに本部を構えている。大企業の本社みたいな建物の1階には『ナショナル・ファイアアームズ・ミュージアム』が、数千丁のピストルやライフルを取りそろえて、マニアのお越しを待っている。銃砲の領域では世界最大のコレクションだそう。

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Back in the ROADSIDE USA 75 Outsider Art Town, Lucas, KS 1/2

カンザス州の小さな町、しかしアメリカが誇るアウトサイダー・アート・タウンであるルーカスを訪れたのは2006年のこと。充実したその取材の成果を、今回は前半後半の2週に分けて振り返る。――人口わずか436人、カンザス州北西部にあるルーカスは、車なら数分で走りすぎてしまう小さな町だ。“アメリカ的”なる壺中天のごときスモール・タウンが実は全米、というか世界有数のアウトサイダー・アートの震源地であることを、僕はうかつにも最近まで知らなかった。世にもまれなアート・タウンとしてのルーカスの歴史は、サミュエル・ペリー・ディンズムアというひとりの男とともに始まる。1843年オハイオ州に生まれたディンズムアは、教師、農夫などの職業を経て1907年、農地を売った金でルーカスの町の四つ角に面した土地を買い、風変わりな家と庭園を造りはじめた。

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Back in the ROADSIDE USA 76 Outsider Art Town, Lucas, KS 2/2

カンザス州の小さな町、しかしアメリカが誇るアウトサイダー・アート・タウンであるルーカスを訪れたのは2006年のこと。充実したその取材の成果の、今週は後編をお送りする!

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迷子のお知らせ――平くんのパンツ

2017年19月11日号『どうでもいいものの輝き――平原当麻の写真を見る』で紹介した、ラブホテルのある郊外風景写真。その平原当麻(たいら・はらとうま)は今年3月、新宿REDフォトギャラリーでの『おんなのアルバム キャバレーベラミの踊り子たち』展をオーガナイズしてくれたが、こんどは平当麻(たいら・たぎま)と、またややこしい名前に改名して、奇妙な写真展を開くというお知らせをもらった。『迷子のお知らせ』というタイトルの展覧会では、ランジェリーショップで買い集めたパンツを、ディスプレー用の電飾マネキンに履かせて撮影した、これもそこはかとなくサバービア感覚漂うイメージの集積である。

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Back in the ROADSIDE USA 83 Blaine Kern’s Mardi Gras World, New Orleans, LA

日本人が沖縄に感じるエキゾチックな印象を、もしかしたらアメリカ人はルイジアナに感じるのかもしれない。人生でいちどは行ってみたい場所を聞くと、多くのアメリカ人はニューヨークでもロサンジェルスでもなく、ニューオリンズとサンフランシスコとアラスカを挙げるという。もともとフランスやスペインの植民地として栄えたルイジアナ。史跡や観光名所に不足はない。全米から観光客が押し寄せるニューオリンズをはじめとして、州都バトンルージュ、北部の中心都市シュリーヴポートまで、見所充実の重要州である。なかでもニューオリンズといえば、まずはマルディグラ、魚介類を中心としたクレオール料理に、毎晩夜更けまで盛り上がるバーボン・ストリートのジャズ・シーンということになろうか。

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Back in the ROADSIDE USA 86 Voodoo Spiritual Temple/New Orleans Historic Voodoo Museum, New Orleans, LA

先週はニューオリンズらしい墓地めぐりにお連れしたが、死とともにニューオリンズに独特の陰影を与えているのがヴードゥー。奴隷がもたらしたアフリカの民俗信仰が、カトリックの教義と混交して生まれた、神秘的な教えである。かつて奴隷たちが唯一、日曜日に集まって歌い踊り、祈ることを許された(ゆえにジャズ発祥の地とも言われる)コンゴ・スクウェアと道を隔てて向かい合うのが、ヴードゥー・スピリチュアル・テンプル。女司祭ミリアムに案内されるまま店の奥深く進んでいくと、そこには簡素な外観からは想像もできない、濃密な祭儀空間となっている。仄暗い部屋に腰をおろし、彼女の説く現実と霊の世界に浸れば、ひととき遠い世界へと連れて行ってもらえるだろう。

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篠原愛・近藤智美 2人展

2017年1月18日号『「媚び」の構造』で特集したアーティスト・近藤智美(こんどう・さとみ)。羅漢の足下にマンバギャルが戯れる『萬婆羅漢図』の異様な図像と、自身が「もともとマンバで、引退後はキャバ嬢から軟禁経験などを経て独学で展覧会を開くようになった」という異色すぎる経歴に、衝撃を受けた読者も多いのでは。その近藤さんと一見作風もたたずまいも対極にある、なのに親友だという篠原愛(しのはら・あい)、ふたりの画家による初のコラボレーション展『よい子?わるい子?自己主張?』が間もなくオープンする。「今回はヒールを演じきります!」という興味深い文面とともに近藤さんからお知らせをいただいたので、さっそく告知させていただく。

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Back in the ROADSIDE USA 88 Yogi Bear Graveyard, Halifax, NC

ノースカロライナ北部、州間高速95号線脇の古びたトラック・ストップ。ディーゼルの給油機が並ぶ奥に、あぶらぎったカフェテリアがある。駐車エリアの端を見ると、往年のアメリカ漫画の主人公ヨギ・ベアが芝生の上に立っている。長年の風雨ですっかり塗装が剥げ落ち、そこはかとない哀愁を周囲に漂わせている。裏の草地を歩いてみたら、かつては駐車場を飾っていたであろうキャラクターたちが、無造作に放り出されていた。

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art

ステイ・ロウ、ステイ・ベーシック――オールドスクール・タトゥーの教え(写真:モーリシー・ゴムリッキ)

行きたい展覧会が多すぎる。これが国内なら思い立って新幹線に飛び乗ればいいけれど、海外だとさすがに、いきなりパスポート握って羽田に直行、カウンターで正規料金チケット購入というわけにはいかない・・・メルマガ購読者があと千人くらい増えればなあ(涙)。ポーランド・ワルシャワのザヘンタ国立美術館では今週末(10月28日)まで、モーリシー・ゴムリッキによる写真展『DZIARY』を開催中である。DZIARYとはポーランド語でタトゥー/入れ墨のこと。ずっと前にメキシコで知り合ったゴムリッキくんは、メキシコシティに住むアーティストで、ポップ・カルチャーやアイコンの収集を得意とし、それをまた自分の作品に活かしてもいる。本メルマガでは2012年11月21日号『テキーラ飲んでゾンビになろう!』で、メキシコシティのゾンビ・ウォークをレポートしてもらった。

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book

2千体のソフビ宇宙!

2017年11月1日号『ソフビになったホームレス』で特集したソフビ作家デハラユキノリの初作品集『DEHARA』が今年7月末に発行された。たいへん紹介が遅くなってしまったが、内容の抜粋をいただいたので、ここでご覧いただく。デハラユキノリは1974年高知市生まれ、フィギュアイラストレーターとしてデビューしたあと、ソフビを手がけるようになってもう20年近く。コンスタントに年間300体ほどをつくっているというので、これまで生み出したフィギュアの総計が約6,000体! 初作品集となる『DEHARA』にはそのうち約2,000体のフィギュアとソフビが、オールカラー312ページに詰め込まれた渾身の大作。これだけの数が集まると、もはやソフビの肌を持つ新種の生きもの図鑑のようにも見えてくる。

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art

マイ・バッドアート展、一夜かぎりの開催!

11月21日号で大特集した『バッドアート美術館展』、展示場所となっている東京ドームシティ内Gallery AaMoは、現代美術の展覧会ではありえない、笑い声の絶えない空間になっているようです。今週土曜日(15日)には、お知らせしているとおりトークも開催。ずっと前に訪れた本家ボストンのバッドアート・ミュージアムのことなど、いろいろお話しするつもりですが、せっかくの機会なので! ひそかに(でもないが)収集を続けてきた、ささやかなマイ・バッドアートをトークの夜だけお見せすることになりました! 自分の写真展すらめったにないのに、こんなに妙なコレクションの展示なんてまずありえないので、これを逃すと次にお見せできる機会はないかも・・・。よろしければぜひ、見物に来てください! 日本のバッドアート、アメリカにもぜんぜん負けてないので!

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Back in the ROADSIDE USA 91 American Dime Museum, Baltimore, Maryland

大西洋から深く切れ込んだチェサピーク湾に面するメリーランド。全米50州のうち42番目の小さなステートだが、隣接するワシントンDCと主要都市ボルティモア(州都はアナポリス)を結ぶ巨大な経済圏は、全米有数の豊かな消費市場でもある。というような公式見解は置いといて、メリーランドは実に奥行き深いおもしろステート。とりわけボルティモアは、あのジョン・ウォーターズ監督のホームタウン。女装の怪人ディヴァインを起用した『ピンク・フラミンゴ』をはじめとする、米国B級ポップ・カルチャーの歴史に残る傑作を生みだした、キッチュ&トラッシュ・マニアの聖地なのだ。

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art

ズベ公・チンピラ・タトゥーと熟女@新宿ビームス!

入墨師、漫画・劇画家、小説家、映画演劇俳優、演歌歌手、紙芝居屋、テキヤ、右翼団体顧問・・・1960年代から2008年に亡くなるまで、凡天太郎はとんでもなく広範なフィールドで、しかしどこにもどっぷり属することなく、というよりどこでも異端児として、ひとりだけの暗黒宇宙を形成してきた。79歳で亡くなってからも忠実なファンたちによる発掘作業や再評価が進み、昨年夏には中野タコシェで「混血児リカ 原画展」が開かれたばかりだが、今月18日からは新宿ビームス4階トーキョーカルチャートで「昭和のアヴァンギャルド・凡天太郎『ズベ公・チンピラ・タトゥー』展」がスタートする。ズベ公ともチンピラともタトゥーとも、一見もっとも縁遠そうなビームスというオシャレ空間に開陳される戦後昭和の特濃アンダーワールド美学、いったいどんなスパイシーな異臭が立ちこめるだろうか。

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photography

消され者たちの歌

「垢BAN」という言葉にビクッと反応してしまったら、それはSNSのヘヴィユーザーである証だ。垢BAN=アカウントban(禁止)、すなわち投稿内容が運営会社の規約に抵触して、警告、投稿削除、そしてアカウント凍結とペナルティが課せられることを意味する。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどそれぞれ基準は微妙にちがえど、SNSを舞台に主張や作品を発信しているユーザーにとっては、当然ながらかなりの打撃となる。実は本メルマガもかつてフェイスブックの投稿が削除されたり、メルマガそのものに(おそらく)不穏当な単語が含まれるといった理由で購読者の手元に届かないといったトラブルを経験しているが、性的な表現を追求するアーティストにとってはいまや、日々が垢BANとの闘いともいえる。今月11日から神田のギャラリーCORSOで開催される『私たちは消された展 ―凍結削除警告センシティブな内容を含みます―』は、垢BANを食らった写真家9人と画家1人、計10人のアーティストによるユニークなグループ展なのだ。

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art

藤倉麻子@PHENOMENON: RGB

2018年8月22日号「デジタルな虹の彼方に」で紹介した映像作家・藤倉麻子。彼女が参加するグループ展『PHENOMENON: RGB』が3月11日までラフォーレ原宿で開催中だ。ファッションやグラフィック・デザインなど、現代美術の枠組みの外側を活動場所にする表現者も含め、「RGB」をテーマに作品を展開する。藤倉さんは「旧作と新作をつないだ作品」だそう。

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music

旅する少女歌劇団を探して

「日本少女歌劇団」あるいは「日本少女歌劇座」と銘打たれた謎の元祖アイドルに魅せられた鵜飼さんの長い探索は、2016年2月に奈良県大和郡山で開催された『日本少女歌劇座展』に結実し、そのいきさつは本メルマガの同年2月24日号「旅する少女歌劇団」に寄稿していただいた。 見世物小屋や大衆演劇の研究家である鵜飼さんの少女歌劇団調査はその後も続けられて、今月19日から宮崎市で新たな展覧会『旅する少女歌劇団 日本少女歌劇座展』が開催される。なぜ宮崎かといえば、大正10年に生まれた「日本少女歌劇(団)」が昭和11年に宮崎市内に劇場を開場し、戦前から戦後の昭和30年代初めまで、宮崎ではお正月の風物詩としておなじみの存在であったからだ。 少女歌劇(団)が誕生した大正10年から、全国巡演の時代とトップスターの出現、さらに少女歌劇の生みの親にして、戦前戦後の政治裏面史にも顔を出す謎多き人物・島幹雄のプロフィールまで、これまでほとんど知られることのないままでいた「旅する少女歌劇団」を振り返る、本展は貴重な機会になるはずである。

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Back in the ROADSIDE USA 101 Old West Miniature Village, Cody / Elkhorn Arch, Afton, WY

イエローストーン国立公園の西側からの入口として訪れる人の多いコーディ。画家のジャクソン・ポロックの出身地でもあり、町の中心部には年間20万人以上が訪れるというバッファロー・ビル・ヒストリカル・センターが世界最大、最良のウェスタン・コレクションを誇っている。コーディという町の名前自体、この地の開発に力を尽くしたウィリアム・“バッファロー・ビル”・コーディの名をとったものだ。

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Back in the ROADSIDE USA 103 Shoe Tree, Beaver, AR/Milltown, IN

オザークと呼ばれるアーカンソー州北西部の山林地帯。紅葉が美しい森の中を抜ける快適なドライブの最中、突然あらわれた不思議な大木。これがアメリカのみに生息する非常に珍しい樹木、シューツリーだ。路肩に車を停めて、じっくり観察してみよう。オークとおぼしき大木の枝に、靴ひもを結んだ数百足のスニーカーや革靴が、見事な(?)花を咲かせている、というか実をつけている。「南部には黒人がなる(吊される)木がある」と唄ったのはビリー・ホリディだったが、こちらアーカンソーの「奇妙な果実」は、ユーモラスなアメリカン・ライフの象徴だ。言い伝えによれば昔々、ある男が妻と喧嘩したあげく家から叩き出され、悔しまぎれに自分の履いていた靴を脱いで、木の上に放り投げたのが始まりという。

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photography

なにげなく愛おしい街で――オカダキサラ新作写真集

2015年12月16日号「日々、常に」で特集したオカダキサラ。1988年生まれ、東京南葛西の団地に住み、美大と写真専門学校で学んだあと、不動産の写真を撮る会社に勤めながら、一眼レフに50ミリの標準レンズをつけて、東京中を歩きまわってはストリート・スナップを撮ってきた。2016年に最初の写真集『©TOKYO 全てのドアが開きます』を発表してから、3年ぶりとなる2冊目の自費出版写真集『©TOKYOはなぞのぶらりずむ』が4月にリリースされた。

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Back in the ROADSIDE USA 105 アメリカ音楽に呼ばれて・前編

ちょっと間が空いてしまった「Back in the ROADSIDE USA」、ひっそり終わったわけではありません! というわけでいよいよ夏休みシーズンに突入した今週は、旅の途中で立ち寄った「アメリカ音楽ゆかりのスポット」シリーズを2週にわたって一挙掲載! この企画、実は2014年に湯浅学さんの文章で、チャック・ベリーの生家があるミズーリ州セントルイスのグッド・アヴェニューと(この通りの名前から名曲『ジョニー・B・グッド』が生まれた、2014年3月19日号)、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・オールマンがバイク事故で亡くなったジョージア州メイコンの交差点(2014年4月23日号)を掲載したけれど、残念ながらそのあとが続かないまま時が経ってしまったので、ここでまとめてご覧いただくことにした。

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lifestyle

DOMMUNEスナック芸術丸、2019年度前半プログラム、リリース開始!

日曜日に高松の特設スタジオから「リアルスナック芸術丸」を生配信したばかりのDOMMUNE。宇川くんのご厚意により、今年前半にお送りした3本のスナック芸術丸プログラムを、ロードサイダーズ購読者限定で公開してもらえる準備が整いました! これから3週にわたって、一本ずつご覧いただけるようにします。まずは1月23日に、伝説の初代編集長・比嘉健二さんを迎えてお送りした第53夜「青森のBOROと暴走レディース・ナイト」。連載では伝えきれなかった、現場を体験した人間のみが語れる暴走レディースたちのナマの生きざま! 後半も3時間たっぷりの「四つ打ち地獄」! 沖縄電子少女、かっこいいです! 見逃したかたも、ぜひこの機会にご視聴ください。

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lifestyle

DOMMUNEスナック芸術丸・再配信「ビル景のかなたに with 大竹伸朗」!

先週に続いて今年前半にお送りした3本のスナック芸術丸プログラムを、ロードサイダーズ購読者限定で公開してもらうDOMMUNEからのプレゼント! 今週は4月1日に、大竹伸朗氏を迎えてお送りした「ビル景」スペシャル! 2時間たっぷり、ふたりで語り合います。展覧会のことから、おたがい持ち寄ったレコード披露まで、ご堪能あれ!

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photography

失われた京都を求めて

「ニュイ・ブランシュ」は毎年10月初めの週末にパリで開催される「徹夜のアート・イベント」。こういうのはほんとうにパリが羨ましいところだよなあ・・・・・・と思っていたら、パリと姉妹都市である京都でも「ニュイ・ブランシュ京都」が京都市とアンスティチュ・フランセ関西(昔は「日仏学院」でしたね)が共同開催されるようになって、今年は10月5日の土曜夕方から、京都市各所で開催される。その関連企画のひとつとして、なんと二条城で開催されるのが甲斐扶佐義初回顧展『京都詩情』。このメルマガでも何度か登場している甲斐さんは元「ほんやら洞」店主、いまは木屋町でいちばん汚いとされる(誉めてるつもり!)「Bar八文字屋」の店主であります。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 109 Closers' Zoo with IQ / Alligator Farm, Hot Springs, AR

先々週「ジョセフィン・タッソーロウ人形館」にお連れしたアーカンソー州ホットスプリングス。アメリカで最初に国立公園に指定された景勝地であり、由緒正しきリゾートである。しかし、かつては上流階級の紳士淑女や、禁酒法時代には有名なギャングたちで賑わったメインストリートも、いまはかなり庶民的な雰囲気。ちょっと前の熱海といった感じが、意外に心地よかったりする。Tシャツ屋やお土産屋、アンティーク・ショップなどが軒を連ねる一角に店を開くのが『ズー・ウィズ・IQ』。「頭のいい動物たち」を集めた、私設屋内動物園だ。

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art

酔っ払いの蝶々と僕

2017年04月19/26日号「アリス・イン・フューチャーランド」で特集し、なにかとヤミカワイイ系こじらせ女子(誉めてる!)の動向を教えてくれている画家・サイトウケイスケの、4年ぶりになる個展が今週金曜日から6日間だけ歌舞伎町・新宿眼科画廊で開催される。

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design

隙ある風景と山ぐるみ

本メルマガに登場してくれている作家たちの展覧会を、ふたつまとめて紹介させていただく。まずはもうおなじみ、『隙ある風景』のケイタタ写真展。こちらは大阪のビジュアルアーツギャラリーで、すでに始まっている(1月12日まで)。そしてもうひとつは2016年11月16日号「手芸のアナザーサイド」で紹介した、山さきあさ彦による「山ぐるみ」の東京展。

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book

カストリ雑誌、吉原へ!

東京吉原のど真ん中に店舗を構える遊郭専門書店「カストリ書房」の店主である遊郭家・渡辺豪さん。本メルマガ連載中の「赤線酒場×ヤミ市酒場 ~盛り場のROADSIDERS~」のファンもたくさんいらっしゃるだろう。その渡辺さんが2018年に出版した奇書『カストリ雑誌 創刊号表紙コレクション』と、そのコレクターである西潟浩平さんのことは、西潟さんを新潟県十日町に訪ねての「焼け跡の白日夢――カストリ雑誌コレクション探訪記」(2018年06月27日号)でも詳しく紹介した。カストリ雑誌収集30年あまり、膨大なコレクションを誇る西潟さんから、去年春先になって「そろそろ終活を考えるようになったので、コレクションを譲りたい」と渡辺さんのもとに連絡が入り、いまそのコレクションは吉原のカストリ書房に落ち着いて、データベース化が進められているという! 先日、吉原でひと汗流しがてら(ウソ)、渡辺さんにその経緯を伺いにお邪魔した。

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lifestyle

SHANGHAI STYLE 当世上海住宅事情 case 12(最終回)

上海市内を蛇行しながら東と西に二分する黄埔江(こうほこう)。もともとの中心は西側(浦西)にあって、東側(浦東)は発展が遅れた地域だったが、いまでは浦東新区と呼ばれる超高層ビル街となり(上海を象徴する東方明珠電視塔などもこちら)、新旧入り乱れる楽しい地域でもある。彼女が住むのは昔ながらの団地の1階。地下鉄駅まで徒歩15分という微妙なロケーションだが、フリーの編集者で毎日出勤する必要がないのと、なんといってもここが20年間にわたって両親が住んできた部屋だから。

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photography

オカダキサラと2020年の日常写真

2015年12月16日号「日々、常に――オカダキサラの日常写真」で紹介したスナップ・フォトグラファー、オカダキサラの3年ぶりになる個展が、「許曉薇(シュウ・ショウウェイ) 花之器」に続いて馬喰町KKAGで4月8日からスタートする。ストリート・スナップといえば富士フイルム+鈴木達朗のCMが大炎上、公開後数時間で削除されるという情けない事件があったばかり。僕が写真を好きになったころは「キャンディド・フォト」なんて便利な言葉があったものだが、「出会い頭に勝手に撮る」という行為は、いまやなかなか難しい時代になってきた。僕自身も無許可撮影になってしまうことが少なくないので、今回の炎上は他人事ではない。相手が嫌がってるのに無言で逃げるというのはナシでしょ、というのが素直な感想だが、このジャンルにはニューヨークの悪名高いスナップシューター、ブルース・ギルデン(Bruce Gilden)という先人がいるので、イラつきたいひとは検索してみてください。

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music

クラフトワークに出会ったころ

クラフトワークのフローリアン・シュナイダー死去というニュースに、胸を痛めた音楽ファンも多かったろう。発表されたのは5月6日だったが、死去したのは4月21日。享年73歳、死因は癌だった。乏しい小遣いで初めてシングル盤を買い始めたのが中学生のころ、それからずっとレコードと本がいつもいちばん大切で、20代には壁一面のコレクションになったが、引越を繰り返すうちにどんどん減っていって、いま手元に残してあるのは100枚もない。別にいつも聴くとかではないのに、なぜか「捨てられないレコード」となっている一枚が、クラフトワークを結成したフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターによる「ラルフ&フローリアン」。

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travel

ヨモギの精霊ヨモダンちゃん降臨祭!

いまはほぼ消滅した秘宝館を惜しがるひとは多いけれど、「なければ自分で作ればいいでしょ!」と、自宅を秘宝館にしてしまった怪人・兵頭喜貴の「八潮秘宝館」。すでにロードサイダーズではおなじみのミステリー・スポットであります。で、そろそろ外出規制緩和というタイミングで「初夏の臨時開館」のお知らせが館長より届きました。テーマは「ヨモギの精霊ヨモダンちゃん降臨祭」。なんとハルクみたいな緑色の、異色肌のラブドールをフィーチャーした特別展です!

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fashion

ドレス・コード?東京展、開幕前の会場から

昨年8月に京都国立近代美術館でスタート、秋に熊本市現代美術館に巡回したまではよかったけれど、4月から初台オペラシティ・アートギャラリーで開催されるはずだった東京展は、新型コロナウィルス直撃であえなく延期……しかしめでたく7月4日からのスタートが決定しました。中止じゃなくてよかった! オープンまではまだ2週間以上あるのですが、「これからなんかあったら大変なので!」という担当学芸員の切ない気合いで、先日早々と設置作業に立ち会ってきました。京都では展示室の左右の壁にわけて、熊本ではL字型にプリントを並べましたが、オペラシティでは最終コーナーというか、主展示室から出口に向かう廊下をまるごと使えることになって、高さ2.4メートル、長さがなんと約26メートルという、巨大な壁面写真が登場します!

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book

怪甲斐ワンダーランド!

新型コロナウィルスによって全国でたくさんの夜の場所がなくなったり、なくなりそうになったりしているけれど、コロナが出現するずっと前から「もうダメかも!」と店主みずから悲鳴のようなメッセージをSNSに連投し続け、常連たちの気を揉ませてきた店。といいつつしぶとく生き延び、長い夜にだれも来なくても、天井が抜けて上階から激しく水漏れしたのに大家が修理してくれなくても、夜が明けて日が暮れればまたなんとなくカウンターに灯がともり、うずたかい本やレコードの山、破れかけのポスターのほこりを隠してくれて、客より先に店主が酔っ払ったりしている店。昔からのなじみの店が全部なくなってしまい、いまや僕にとって京都でただ一軒、なんの気も遣わずに飲んだくれられる店。それが三条木屋町の「八文字屋」だ。

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music

DOMMUNEスナック芸術丸・特別追悼番組「虹の彼方の弘田三枝子」購読者限定アーカイブ!

ライブでご視聴いただいたかたもいらっしゃるかと思いますが、先週木曜、8月13日にはDOMMUNEスナック芸術丸の特別追悼番組「虹の彼方の弘田三枝子」を全7時間、渋谷のスタジオから生配信しました(実はいろいろ延びたり、トークあとも曲を流したりしたので、ぜんぶで約9時間!)。「こんなにすごい歌手だったんだ!」とポジティブな反応をたくさんいただき、なかには最初から最後までお付き合いしてくれたビュワーもいたそうで、ほんとうにありがたかったです。 タイトルの「虹の彼方の弘田三枝子」というのは、なんとなくあの歌を思い浮かべながら、イベントの数日前に急いで付けたのですが、当日東京は夕方ににわか雨があり、渋谷の駅前でもきれいな虹が! こんな状況なのにスタジオ観覧してくれた参加者(しかも最後までいてくれた!)が、「いま、外で虹が出てましたよ!」とスマホの画面を見せてくれました(下がいただいた虹の画像)。番組スタートが迫ってバタバタ準備中だったので、まさかこんなタイミングで虹が出現したとは露知らず・・・・・・「ミコさんはちゃんと見てくれてるんだ!」と一同ウルウル。最高に勇気づけられて、無事に7時間以上のプログラムを完走できました。ミコさんも喜んでくれたらいいな・・・・・・。

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food & drink

Neverland Diner 総集編 LAST!(文:臼井悠 [アーバンのママ])

連載開始は2017年12月、それから3年弱を経て「Neverland Diner 二度と行けないあの店で」がついに完結しました。都築編集長から始まって大竹伸朗さんで終了するという個人的に胸アツな構成に図らずしもなりましたが、総勢100名の二度と行けないあの店の話、毎週楽しみにしてくださった方も多いと思います、ご愛読ありがとうございました。連載はこれから編集作業に入り、来年の頭には書籍として発売します。連載開始時には思い描かなかったコロナウイルスの出現で、世の中のネバーランド・ダイナー化は加速していきそうです。いまある風景は必ず変わるということがひしひしとリアルになっていく感じがしますが、きっとこの先には新しくて楽しいことがめちゃくちゃあるはず! ネバダイは決して哀愁たっぷりの思い出語りではありません。なぜか忘れられない、どうでもいいことかもしれないけど自分のなかに残って消せないもの。この連載が皆さんそれぞれのネバダイを、たまに思い出すきっかけになったら嬉しいです。それでは最後の総集編、お気に入りの記事をぜひ見つけて下さい!

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art

工房集「問いかけるアート」展、開催!

先週の告知で短くお伝えしたように、埼玉県の障害者支援施設・工房集が主催する大規模なグループ展「問いかけるアート」が今月22日から27日まで、浦和の埼玉会館で開催される。もともとはこの3月末から開催される予定だったのが、コロナ禍で延期。関係者の努力によって、ようやく開催されることになった。障害者施設という、三密回避などのウィルス感染対策がとりわけ難しい環境を運営維持しながらの展覧会準備、さぞかし大変だったかと思う。 「問いかけるアート」は工房集が属するみぬま福祉会に入所・通所する78名以上の作家が参加。ひとつの福祉団体でこれだけのアーティストを抱えるのも珍しいだろうし、それがこんなふうに一同にまとまって展示されるのも、見る側にとって貴重な機会になるはずだ。

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art

吉岡里奈のマル秘・茶封筒!

作家と作品のギャップに驚くことは珍しくないけれど、それにしてもこれほど!とだれもが驚く筆頭格が吉岡里奈。ご存じ昭和のお色気宇宙を描いて、いま人気沸騰中のアーティストである。 その吉岡さんの、毎年恒例となった吉原カストリ書房での個展が10月31日からスタートする。前回は「民芸と風俗」という意表を突いたテーマだったが、今回はなんと「かつての繁華街や温泉場の路地裏でこっそり売買された怪しい茶封筒エロ写真」! 茶封筒エロ写真って・・・・・・僕ですらリアルタイムでは知らない、戦後場末風俗のあだ花なのに。もちろん、吉岡さんのお色気ムードには完璧にフィットしているけれど、それにしてもどうしてこんなに渋いテーマを選んだんだろう。さっそくお話を聞いてみた――。

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book

カタリココが語ること

長い友人のひとりに大竹昭子さんがいる。小説家、写真評論家、エッセイスト、写真家・・・・・・ヒトコトでとてもくくれない活動を長く続けていて、たとえば森山大道や荒木経惟から知ったというひと、須賀敦子から入ったというひと、いろんな間口を持つ作家である。 大竹さんは毎回ゲストを招いてトークと、自作を朗読してもらう「カタリココ」というイベントを2007年から、都内4つの古書店を会場にず~~~っと続けている。その持続力に頭が下がるばかりだが、2年ほど前からは「カタリココ文庫」という自費出版プロジェクトも始めてしまった。

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movie

DOMMUNE 「都築響一のスナック芸術丸」購読者限定アーカイブ!

去る2月25日に渋谷PARCOのスタジオから生配信されたスナック芸術丸。今回は『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』『IDOL STYLE』刊行記念の5時間ぶっとおし特番!でしたが、さっそくメルマガ購読者限定のアーカイブ・リンクをいただきました。宇川くん、ありがとう! たくさんのゲストも登場、いろんな話題で5時間たっぷりお楽しみいただけると思うので! 当日見ていただいたかたも、見逃してしまったかたも、お付き合いいただけたらうれしいです。

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travel

Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 18 石川県1

日本海を見つめ、なに思う竜のアタマとスフィンクス―― 今年2月17日配信号・山梨県2「富士のふもとのジュエリー・フォレスト」で取り上げた「河口湖宝石の森」。宝石と観光という思いがけないミックスで庶民を驚かせた甲府市の英雅堂グループが、1991年に開館させたのが能登の「七福神センター」だった。 巨龍とピラミッドという外観からして異様な七福神の森は、2010年12月28日をもって残念ながら閉館。その後廃墟化されて一部のマニアを喜ばせてきたが、2015年に解体。現在は更地となっているようだ。

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柴犬のルーツは島根県益田市にあった! ――石号の里・巡礼記

先週号で紹介した「ファッション イン ジャパン」の取材で島根県益田市の石見美術館を訪れたときのこと。たいてい美術館にはロビーの脇とかに他の美術展のポスターが貼られたりフライヤーが置かれていて、それがけっこう有益な情報源だったりするが、美術館が入るグラントワは複合文化施設ということで、美術展のほかに島根県および石見エリアの観光案内パンフレットを集めたコーナーがあった。 『珍日本紀行』で全国を巡っていたころはインターネットというものが存在しなかったので、そういう観光チラシがもっとも重要な情報源だったが、いまだにチラシ・コーナーは欠かさずチェックする習慣がついている。で、温泉案内とかグルメ・ガイドをチラ見していくうち、ちょっと異質のオーラを放つ三つ折りチラシが目に入った。 ここは 柴犬の聖地 「石号の里」 ん? 石号ってなに? 益田市って、柴犬の聖地だったの?

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travel

Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 21 兵庫1

淡路の海にニラミをきかすタワーリング・ブッダ――「淡路島の世界平和大観音、6月から解体開始」というニュースを先週見て、ついに……とシミジミした珍スポット・ファンもいらっしゃるだろう。こんなものが(といっては悪いが)思いのほか大きく取り上げられたことに、僕もちょっと驚いた。『珍日本紀行』で世界平和大観音を取材したのは1994年のこと。当時はまだけっこう観光客で賑わっていた記憶がある。大阪のビル経営企業オクウチグループの創業者、奥内豊吉氏が生まれ故郷の淡路島に私財を投じて1977年に建立したのが世界平和大観音。大阪湾を一望する絶好の立地にそびえ立つ「世界最大の像」(当時)は、あまりのスケールに平和というより周囲から浮きまくる異様な存在感が際立っていたが、1988年に奥内豊吉氏が死去。遺志を継いだ奥様も2006年に死去したのを機に閉館。遺族が相続を放棄したため、ゆっくりと廃墟化していった。

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art

「ドラマチック!」吉岡里奈個展@VINYLE GALLERY

もはやメルマガではおなじみ、寝苦しい夜のお色気ムンムンといえばこのひとしか!という吉岡里奈さん。馬飼野元宏さんの新刊『にっぽんセクシー歌謡史』表紙画も評判ですが(近々メルマガで特集予定!)、来週からは東京駅構内のVINYLE GALLERYで個展が始まります。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 23 大阪1

ジャマイカは遠いけど、大阪なら近いぞ――かつて釜ヶ崎あいりん地区、新世界エリアと並んで大阪市内の「足を踏み入れてはいけない場所」と言われていた天王寺公園。1980年代からホームレスたちのブルーシートや段ボールハウスが並びはじめ、90年代にはカラオケ機材を持ち込んだ「青空カラオケ屋台」が週末ごとにずらりと店を出すようになった。最初の青空カラオケが出現したのは1967年と言われているが、爆発的に増加したのは90年代後半のこと。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 25 大阪2  ヤキメシ食べてユッフォ(UFO)体験、下町のメシアに宇宙真理を学ぶ

大阪中心部、梅田と京橋のあいだというロケーションにありながら、昔ながらの下町の空気感を色濃く残す天神橋商店街。天神橋から天神橋筋七丁目まで、全長約2.6キロにわたって伸びる、日本一長い商店街と言われている。その一角で異様なオーラを放ち、地元マスコミにもたびたび登場していた『食堂・宇宙家族』。「下町のメシア=メシヤ」を自称する店主・福田泰昌さんのただならぬ存在感に惹かれて、『珍日本紀行』では1997年に初取材。そのあと月刊『サイゾー』誌に連載していた『珍日本紳士録』であらためて取材したのが2004年だった(文庫版『珍日本超老伝』筑摩書房刊に収録)。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 32 香川2  純金トイレでウンをつけよう

瀬戸大橋を岡山側から渡った四国側のゲートウェイが宇多津(うたづ)町。言わずと知れた(?)ゴールドタワーのそびえ立つ地だ。 ある意味、もっともバブルらしいモニュメントのひとつ、ゴールドタワーには珍日本紀行で1994年に、そのあと『バブルの肖像』のために2008年に再取材に訪れている。 そもそもゴールドタワーが瀬戸内海を望む宇多津の地に降臨したのは1993年のこと。1988年の瀬戸大橋全面開通にやや遅れての開業だった。ゴールドタワーを建てたのは愛媛に本店を置くユニチャーム。生理用品、紙おむつなど衛生用品でアジア1位のシェアを誇る大手企業である。なのでゴールドタワーに隣接して「チャーム・ステーション 世界のトイレ館」という、たいへんユニークな便器のミュージアムをつくったのだった。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 34 徳島1 巨大ウナギからデンキウナギまで、ヌメリものならおまかせ!

高知県との県境に近い徳島県南東部の海部町(かいふちょう 現・海陽町)にあった「大ウナギ水族館 イーランド」。天然記念物のオオウナギをフィーチャーした、世にも珍しいウナギ専門水族館だった。ちなみにオオウナギは蒲焼きにして食べてるウナギとは別種、種名なので大ウナギではなく「オオウナギ」と書くのが正しいそう。 開館は1989年だが年々来館者が減少、赤字運営が続いて、ついに2005年に閉館となった。閉館時の累積赤字が5613万円だったという……。「全国水族館ガイド」という水族館を網羅したサイトには、こんなヒトコトも―― 展示規模を考えると、入館料の割り高感はいなめない。それを解消するためには、ぜひ、ウナギつかみを試したい。自由につかめるコーナーがあって、初めての体験だとしたらけっこう興奮する。 イーランドの名物としては「日本一のオオウナギ・うな太郎」がいて、なんと体長2メートル、体重27キロの巨体を誇ったが、2003年4月に死去(というのか)。それから2年ほどで閉館となったわけで、うな太郎を失ったのが致命傷だったのかもしれない。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 36 高知1  街の魚屋の店頭ギャラリー

安芸市で偶然見つけた西沢鮮魚店も、いまは探しても見つからないので、おそらく閉業されたのだろう。あの見事な流木オブジェはどこに行ったのだろうか。なお、平成8(1996)年には地元の熱心な誘致運動が実を結んで『男はつらいよ』第49作、『寅次郎花へんろ』の高知ロケが決まっていたが、渥美清の死によって映画はまぼろしに。しかし寅さんの偉業をたたえてつくられた「寅さん地蔵」が、伊尾木洞のすぐ近くに現存している。フーテン人生に憧れる諸氏は、いちど拝みに行くといいかも。

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photography

追悼:ラブドール写真家・SAKITANを偲んで

去年12月19日に101歳で亡くなったダダカン師のことをこのあいだ書いたけれど、11月29日に大阪のラブドール写真家SAKITANが亡くなっていたのを先週、関係者のかたのツイートで知った。1980年生まれだから、まだ40歳になってすこししか経っていない。ダダカンのように有名だったわけでも、朝日新聞に死亡記事が出たわけでもない、写真愛好家にすらほぼまったく知られていなかったと思うけれど、これほどラブドールにまっすぐな愛を込めて写真に写しとるひとはいない、僕にとっては大事な写真家だった。2019年、京都国立近代美術館からスタートした巡回展「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」でも、SAKITANさんの写真を数点、展示に使わせていただいている。

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ラブソングみたいなデザイン ――真舘嘉浩レトロスペクティブ

ROADSIDERS' weeklyによるPDF電子書籍シリーズ第6弾『BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙』刊行を記念して、東京駅前新丸ビル9階・現バーで2019年11月にスタート……したものの2020年に入って新型コロナウィルスにより途中終了してしまった悲運のレコード・ジャケット展が「ノーチェ・デ・マルノウチ めくるめくお色気レコジャケ・コレクション」だった。 そのグラフィック・デザインを担当してくれたのが真舘嘉浩(まだち・よしひろ)さん。お色気レコジャケ・コレクションを提供してくれた山口'Gucci'佳宏さんの盟友でもある。

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art

不断ノ表現展@にしぴりかの美術館

先週号の告知でお伝えしたように、いま宮城県のにしぴりかの美術館で、「不断ノ表現」展が開催中だ。7月6日号で特集したばかりの「心のアート展」の、運営の中心となっている八王子・平川病院の〈造形教室〉で長く活動を続ける作家のなかから江中裕子、島崎敏司、長谷川亮介の3人をフィーチャーした展覧会である。仙台市中心部から1時間ほど、黒川郡大和町にあるにしぴりかの美術館は、これまで本メルマガで何度も紹介してきたが、平川病院の〈造形教室〉で活動するアーティストたちの展示を連続して開いていて、なんだかサテライト・ギャラリーのようでもある。ふだん、なかなかまとめて実作を見ることができないノン・プロフェッショナルのアーティストたちによる作品を、こうして展示し続けてくれるのはほんとうにありがたい。

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ストリップ小屋に愛をこめて

最近ストリップに女性ファンが増えているのをご存じのかたも多いと思う。ストリップが日本で始まったのは終戦直後の昭和22(1947)年なので、もう70年以上の歴史ということになる。1986年には全国に174館のストリップ劇場があったそうだが、現在も営業を続けるのは16館あまり。そういう絶滅間近のタイミングで女性ファンが増えているという現象もすごく興味深い。 ストリップが「踊りながら裸を見せる」芸能から、女性器オープンという新たな段階に突入したのが1970年代。そして80年代には舞台上で観客と性交する「まな板ショー」をはじめ、レズビアン、SM、獣姦(!)と過激路線がヒートアップしていき、その傾向は1985年の風営法改正まで続くことになる。その、見方によってはきわめてアンダーグラウンドな舞台劇であったストリップの熟成期に、プロデューサーとして活躍したのが写真家でもある川上讓治(ジョウジ川上)さんだ。

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BABU個展「TRASH IMPROV」@銀座蔦屋書店

最近は本屋だかアートギャラリーだかよくわからなくなってる観のある銀座蔦屋書店。もともと松坂屋デパートがあった銀座中央通り沿いにできたGINZA SIXはヨーロッパのハイブランドがずらりと並ぶ複合商業施設。能楽堂まで入っているし、6階の蔦屋書店もいまどきのポップなアーティストの作品や、高価な大型豪華作品集がずらずら。その一角にあるFOAM CONTEMPORARYで、ロードサイダーズではおなじみ小倉のスケーター&彫師&グラフィティライター&アーティストのBABUによる個展「TRASH IMPROV」が始まった。まさか銀座でBABUの展覧会が実現するとは!

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吉岡里奈『カストリ名所十景』@吉原カストリ書房

すでに熱心なファンはチェック済みだろう、いま吉原のカストリ書房で吉岡里奈の個展『カストリ名所十景』が開催中だ(7月16日まで)。そして今回の展覧会が、カストリ書房の現店舗での最後の展示となる。 カストリ書房はもともと店主の渡辺豪さんが(ロードサイダーズではフリート横田さんとの連載「赤線酒場x闇市酒場」でもおなじみ)、かつて国内全域に偏在した娼街(遊廓、赤線など)の歴史取材で得た成果を発表するべく設立された個人出版社。

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妄想芸術劇場 #04 TOSHI

「ぴんから体操」「クッピィ」に続いてお送りする投稿イラスト・シリーズは、「TOSHI」をお送りする。 やはり創刊当初の1990年代初期からの常連投稿者であるTOSHI。ぴんから体操やクッピィほど投稿量は多くないが、しかしコンスタントに質の高い作品を、現在にいたるまで送りつづけてくれている。 最初期の数年はフラットな漫画ふうのタッチだったが、90年代なかごろから急に、めきめきとTOSHIは絵画的な技術を上達させてきたようだ。さまざまな責めに耐え、苦痛に涙する巨乳少女たちのクリアーな表情と、ぼかされた背景。それはソフトフォーカスの美人画を見るようでもある。

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妄想芸術劇場 #08 るのわーる

投稿作品の数こそ他の常連投稿者のように多くはないのだが、その特異な画風でニャン2創刊当時から知られてきたのが「るのわーる」。1990年のニャン2倶楽部創刊年から投稿が掲載されているので、そのキャリアは20年以上に及んできた。 読んで字のごとく、という比喩がこれほどぴったり当てはまる投稿作家もいないだろう。るのわーる氏の描くのは、つねに豊満な女性である。その多くに登場するヒロインは「L(エルちゃん」、または年増の「ババLちゃん」である。

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妄想芸術劇場 #09 強金長交

ニャン2倶楽部最初期から、コンスタントに投稿を続けてきた常連のひとり「強金長交」。しかも彼の作品こそは、ふだんのニャン2の誌面を眺めているだけでは真価を推し量ることができない、秘密兵器的な存在として歴代担当編集者に知られてきた。 ほとんどが葉書サイズほどの、比較的小さなサイズに描きこまれた繊細な線画。淡い色彩とあいまって、それは画面だけ見ていてもおもしろいのだが、実は強金長交のほとんどの投稿の裏面には、小さな文字でびっしりと絵柄の解説が書き込まれている。ときにそのバランスは、「挿絵のついた短編エロ小説」と呼びたいほどになっていて、彼の投稿作品は絵と文章が一体となって、はじめてその真価を発揮できることを実感する。

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妄想芸術劇場 11 カツ丼小僧

ニャン2倶楽部の歴代常連投稿者のうちで、もっとも多作なアーティストのひとりだったのが「カツ丼小僧」である。 ニャン2のウェブマガジンVOBOでの連載を始めるにあたって、僕にはふたつの思いがあった。ひとつは、それまで月ごとにバラバラに見ているだけだった投稿作品を、アーティストごとにまとめて見直してみたかったこと。それからもうひとつ、このような作品を、それも数年から20年あまりにわたって、しかも返却されないまま投稿しつづけるとは、いったいどんなひとたちなのか、できるならば作者に会い、そのパーソナリティに触れてみたいという強烈な思いだった。 投稿作品のウェブ上での再掲載は、どの投稿作家もこころよく承諾してくれたが、インタビューのほうは予想外に難しかった。

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妄想芸術劇場 12 かずゆき

ニャン2創刊期の投稿イラスト・ぺージに頻繁に登場しながら、その後ぱったり投稿が途切れてしまった常連投稿作家が『かずゆき』。ニャン2創刊以前の1980年代後期に白夜書房から創刊された『Crash』にも、ずいぶん作品が送られていたようだが、いまはいったいどうしているのだろう。どこかほかに発表の舞台を見つけたのだろうか。それとも、イラスト投稿を卒業してしまったのだろうか。

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妄想芸術劇場 13 恥丘人

「恥丘人」と書いて、「ちきゅうじん」と読ませるのだろう。彼もまた、ニャン2読者にはおなじみの投稿アーティストのひとりである。 誌面では掲載される作品のサイズが小さいために、なかなかその”味”が伝わりにくいのだが、きちんと輪郭を描いて彩色され、時に文字をプリントアウトして貼ってあるその画面を、こうしてあらためてじっくり見てみると、その丹念な仕事ぶりがきわだってくる。 丹念に仕上げられた恥丘人の作品を貫くもの、それが極端にアナクロな画風であることにすぐさま気がつく。

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妄想芸術劇場 16 山本一夫

山本一夫はオムツ・マニアである。『おむつ倶楽部』のような専門誌ならともかく、『ニャン2』のようにノーマルな(?)エロ投稿誌では、稀少な投稿者だ。 山本一夫が一貫して描くのは、オムツを当てられた女性。それもバレリーナ、フィギュアスケーター、新体操選手、花嫁など、若く可憐な娘たちが、舞台で、スケートリンクで、結婚式場でと、ありえない空間でオムツ姿をさらし、おもらしを目撃されるというシチュエーションに、激しくこだわりつづけてきた。

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死刑囚表現展 2023

毎年定例のお知らせとなっている「死刑囚表現展」が今年も11月3日から5日までの3日間、東京・入船の松本治一郎記念館で開催される。 このメルマガで最初に死刑囚の絵画作品を紹介したのは、広島市カフェ・テアトロ・アピエルトで開催された小さな展示を取材した2012年10月17日配信号「死刑囚の絵展リポート」。それから何度も誌上で紹介する機会があり、2022年にはパリのアウトサイダー/ロウブロウ・アートに特化した美術館アル・サンピエールでの展示もお伝えできた。僕が出会ってからでも10年以上、いまだ美術メディアで正当な扱いを受けているとはまったく言いがたいが、手作り感あふれる展示会場は毎年たくさんのひとで賑わっている。

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妄想芸術劇場 19  リッキー

ベテランのニャン2ファンにはおなじみの投稿者だったリッキー。彼の絵を見るたびに「このひと、いったいいくつなんだろう」と思わずにいられない。いま手元にあるもっとも古い作品の消印は昭和62年! ニャン2創刊前の『熱烈投稿』時代にさかのぼる。そうとう年季が入った投稿職人であることはまちがいないだろう。

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妄想芸術劇場 24  夢男

ニャン2倶楽部、ニャン2Z倶楽部のベテラン名物投稿者「夢男」。ニャン2が誕生する以前から、その前身である『クラッシュ』を主な投稿の場としてきた。ここに紹介するのはいずれもいまから30年以上前の投稿作品である。 日本のSM雑誌が全盛期を迎えたのは1970年代末期から80年代初期かと思うが、夢男の画風にはそんな時代を思わせる、なんとも言えない渋みが漂っている。SMだけど、いまのサーカスみたいにハードなSMじゃない。苦痛よりも羞恥を尊ぶ、古き良きSM道がそこにあると見えてしまうのは、読み過ぎだろうか。

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根本敬+濱口健 二人展「カラトリヲ」

昨年9月には「蛭子能収 最後の展覧会」(9/13)のディレクションでも話題になって、あいかわらず飛ばしている根本敬が、14歳下のアーティスト濱口健と組んだ、ビザールなコラボレーション展「カラトリヲ」が1月20日から東京・北区田端のWISH LESS gallery で開催される。 東京のアート好きには「え、田端?」と訝るひともいるかと思うが、田端は戦前に「池袋モンパルナス」に対抗する「田端モンマルトル」と称された時代があり、明治の終わりに陶芸家・板谷波山がこの地に窯を作ったり、小杉放庵(画家)が移り住んだのをきっかけに、多くの芸術家が集まるようになった。

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妄想芸術劇場 28 最終回  散歩人

多くの読者の当惑と、ごく一部の熱烈支持のもと去年6月から続けてきた「妄想芸術劇場」、最終回を飾るのが「散歩人」。長いニャン2の歴史で、創刊当時からの最長不倒投稿者のひとりであるのに加え、もっとも多作のひとりでもあった。 ご覧いただければ一目瞭然、散歩人の筆力にはシロウト離れしたレベルが見てとれるので、もしかしたらイラストを仕事にするひとなのかもしれない。そしてもうひとつ驚くのが、20年余の長い投稿の歴史で、まったく作品のクオリティに変化がないという、恐るべき安定感だ。それでいて、その時々の時事ネタが盛り込まれてみたり、意図を超えて?シュールな味が滲み出たり・・・・・・。

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おかんたちのヴァナキュラー・アート

少し前になるが、3月末に『ヴァナキュラー・アートの民俗学』という本が出版された。編者の東京大学東洋文化研究所教授・菅豊をはじめとする7人の研究成果を収めた分厚い一冊で、刊行元は東京大学出版会、税込み6,820円というアカデミックな出版物なので、どれくらいのひとに見ていただけたか・・・・・・。僕はカバーになった帽子おじさん宮間英次郎さんの写真と、帯の文章を寄せただけだが、書中には連載「アウトサイダー・キュレーター日記」の櫛野展正くん、2021年9月8日号で紹介した展覧会「戦後京都の「色」はアメリカにあった! カラー写真が描く<オキュパイド・ジャパン>」の共同キュレーターだった佐藤洋一さん、そしてなにより2022年に東京都渋谷公園通りギャラリーでの「MoMA ニッポン国おかんアート村」を共同キュレーションしてくれた神戸の山下香さんも参加している。町の書店で平積みされるような本でもないので、ここでじっくり紹介しておきたい。

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ニーナ・シモンが噛んだガムのこと

『ニーナ・シモンのガム』という奇妙な題名の本を送っていただいた。「失われたものと見つかったものをめぐる回想」と副題がついている。著者のウォーレン・エリスはオーストラリア人のミュージシャンで、ニック・ケイヴと長く一緒に音楽をつくってきたことでも知られている。訳者の佐藤澄子さんは古い友人で、昔は超売れっ子コピーライターとしてスタイリッシュなコピーをつくっていたが、60歳を期に名古屋でひとり出版社「2ndLap」を立ち上げ、去年の1月に『スマック シリアからのレシピと物語』という大判の美しい料理本を出した。スマックというのはシリア料理でもっとも大切なスパイスで、これはおそらく日本初のシリア家庭料理に特化したレシピとエッセイの本だった。

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楽園の森口裕二

現代美術とはずいぶん離れたフィールドで活動しながら、国内外で人気の高い画家・森口裕二の豪華画集『楽園』が2年あまりの制作期間を経てようやく完成。今月中には発売となり、あわせて刊行記念個展が新御徒町mograg galleryで開催される。発行元の青林工藝舎の『アックス』ではこれまで幾度か巻頭特集が組まれているので、すでにおなじみの熱心なファンもいるはず。僕は不勉強で最近になって森口さんを知るようになったのだが、画集に解説文を依頼されたこともあり、刊行と展示を間近に控えたタイミングで紹介しておきたい。

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ROADSIDE RADIO 渋谷毅ピアノ・ソロ

10月20日、冷たい雨の夜にぴったりのピアノ・ソロをロードサイド・ラジオではお送りしました。日本のジャズ・ピアノ界を代表する渋谷毅さんのライブです。この番組でストレートなジャズを選んだことはなかったので、珍しいチョイスではありましたが、1939(昭和14)年生まれという渋谷さんは、もうすぐ74歳という大ベテラン。ゴリゴリのコンテンポラリー・ジャズとは一味も二味もちがう、さまざまな要素をさらりと融合させた、しっとりと静かで、さらりと豊かな音楽を奏でてくれます。

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music

電子たくあんの夜

このメルマガが始まって間もない、2012年4月4日号で初めて紹介した、福岡県大牟田市のノイズバンド「電子たくあん」を覚えてらっしゃるだろうか。当時、高校2年生だった驚異のドラマー・村里杏をフィーチャーした電子たくあんは、そのあとも幾度か記事に取り上げたり、DOMMUNEスナック芸術丸にも出演してもらった。あれからもう4年、現在も電子たくあんは活動継続中だ。村里杏ちゃんは他にもさまざまなユニットに参加したり、ソロ・ライブもやったりと、相変わらずエネルギッシュなプレイを続けている。

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art

DOMMIUNEスナック芸術丸「セルフィー・レボリューション」、読者限定再配信!

DOMMUNEの開局以来、もう6年半にわたって続けさせてもらってるご長寿番組『スナック芸術丸』。5月12日に生配信したばかりの「第三十七夜~セルフィー・レボリューション」を、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、早くも再配信してもらえることになりました。宇川くん、ありがとう!当夜ご覧いただいたみなさまはすでにご存じでしょうが、このところメルマガで集中的に紹介してきた、自撮りアマチュア・フォトグラファーの奥深き世界を、一挙紹介した異例のプログラム。2月10日号のホタテビキニの主・田岡まきえ(現在はマキエマキと改名・・・ホタテビキニ持参!)、4月13日号の露光零の二大巨頭がそろい踏み。さらに87歳の西本喜美子さんを紹介してくれた、福山市クシノテラスの櫛野展正さんも新発見の自撮り作品を携えて遠路参加という豪華版...

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travel

Back in the ROADSIDE USA 04 Goldwell Open Air Museum, Rhyolite

ラスヴェガスから北上すること約200キロ、有名なデスヴァレーの玄関口にあたる374号線から奥に入ったあたりに、ライオライトというゴーストタウンがある(ライオライトとは流紋岩の意)。ライオライトの町に入る砂利道をそろそろ進んでいくと、入口前の荒地に不思議な物体があるのに驚かない人はいないだろう。『ゴーストバスターズ』に出てきそうな、シーツを被ったお化けのような『最後の晩餐』、ピンクのボディがなまめかしい、巨大なレゴを重ねたふうの女体(身長8m近い)、そしてやはり巨大な鉄製の男と、脇にはかわいいペンギン・・・。

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book

Kindle版写真集『CALCUTTA』に寄せて

「カルカッタの朝は静かに明ける。フグリー川に立ちこめる靄が、ハウラー橋をモノクローム写真のように見せていた。古ぼけた植民地時代の建物が、この街の辿ってきた歴史をあらわしている。」 英語で書かれた序文の出だしを適当に訳させていただいたのは、芦沢武仁のKindle版写真集『CALCUTTA』。9月18日にリリースされたばかりの新刊だ。芦沢武仁(あしざわ・たけひと)の写真はこのメルマガでも2014年末から15年初めに、3回に分けて紹介した。『CALCUTTA』は芦沢さんにとって初めての写真集になる――。

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photography

ロック・スターズ・イン・ジャパン!

『ミュージックライフ』といえばオールド・ロック・ファンは涙なしに語れない、ロック創成期から続いてきた音楽誌。1951年にスタートして1998年の休刊にいたるまで、一時は日本最大の洋楽専門誌だった。そのミュージックライフ誌の専属カメラマンを長く勤めた長谷部宏さんによる、ロック史をいろどるアーティストたちの貴重な「来日ショット」ばかりを一同に展示した楽しい写真展、『ROCK STARS WILL ALWAYS LOVE JAPAN ~日本を愛したロックスター~』が開催中だ。本メルマガでは2015年1月14日号で新宿ビームスBギャラリーでの展覧会を紹介していて(偶然にも、そのとき一緒に取り上げたのが沼田学写真展『界面をなぞる』だった)、ちょうど2年ぶりの告知となる。

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photography

サンフランシスコの裏側で

2015年4月8日号で弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)という写真家を紹介した(『テンダーロインをレアで』)。サンフランシスコのアンダーグラウンドの最底辺まで、広島県福山市出身の若者が降りていったことがまず驚きだったし、そのハードエッジな画面にみなぎる「ITバブル」以前のサンフランシスコの空気感が、懐かしくもうれしくもあった。その弓場井宜嗣が2年ぶりに新宿の写真ギャラリー「PLACE M」で、『SAN FRANCISCO #2』と題した個展を開催、同時に写真集もリリースする。

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アンドロイドとスケーター

今月から来月にかけてロードサイダーズにはおなじみの顔ぶれによる展覧会が続けて開催されるので、ここでまとめて紹介させていただく。先週土曜日(5月20日)から渋谷アツコバルーで始まったのが、『オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」』。僕は初日が開館してすぐの時間に寄ったのだけど、すでに大盛況。初日でこれだから、会期末が近づいてきたらいったいどれだけ混雑するのか・・・くれぐれも早めのご来場をオススメします。去年の『神は局部に宿る』展でもおなじみの会場には、1982年製の「面影」から2010年代のシリコン製新作までの新旧ラブドールが勢揃いして壮観。知っているひとがみればそれは「ラブドール」だけど、知らないひとにとっては異様な趣の現代彫刻展覧会に見えるかもしれない。

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『BABU展覧会 愛』、無事開幕!

先週告知した新宿ビームスギャラリーでの『BABU展覧会 愛』、先週金曜日に無事開幕、日曜日には僕とのトークもあり、おかげさまで満員の盛況でした。本メルマガ読者ならとうにおなじみでしょうが、BABUは北九州小倉をベースに活動するストリートアーティスト/スケーター/彫り師。東京ではスケーター仲間など、一部のひとにしか知られていないのではと思いましたが、展覧会場は終始たくさんのお客さんで賑わい、うれしい驚きでした。BEAMSという東京有数のお洒落スポットに、こんなキナ臭い空間ができてしまったというのが、なんたって最高ですよね。

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Back in the ROADSIDE USA 43 Cross Garden, Prattville, GA

アラバマの2大都市モンゴメリーとバーミングハムを結ぶ、州間高速65号線に面した小さな町プラットヴィル。町はずれの丘に『クロス・ガーデン』と呼ばれるアウトサイダー・アート空間がある。今年で74歳になるW・C・ライスが1976年以来ずっと書き続け、作り続けてきた数百の十字架と、洗濯機やエアコンの廃品を使った「メッセージ・ボード」が、剥き出しの地面に林立する、なんとも過激な「作品」だ。「ユー・ウィル・ダイ!」「ヘル・イズ・ホット・ホット・ホット!」などと、素晴らしく簡潔な言葉が大地に、頭上に踊るさまは立体の現代詩のよう。

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Back in the ROADSIDE USA 52 Pinball Hall of Fame, Las Vegas, NV

今週号を書いているいま月曜の午後、点けっぱなしのテレビからラスヴェガス銃乱射事件のニュースが流れてきた。アメリカでいちばん好きな場所のひとつで、こんなにも残虐な事件が・・・。これまでこの連載ではラスヴェガス・エリアでネオン・ミュージアムや、砂漠の彫刻庭園ゴールドウェルを紹介してきた。今週は別の州のスポットを取り上げるつもりだったけれど、喪に服すラスヴェガスに哀悼の意を表して、これもラスヴェガスらしいストレンジ・ミュージアムをご覧いただきたい。紅白歌合戦の美川憲一のような奇抜すぎる衣裳とパフォーマンスで一世を風靡し、キッチュ好きのあいだでは名高い「ミスター・ラスヴェガス」とでも呼ぶべきリベラーチェのミュージアムは、ヴェガスの意外な名所である。カジノ・ホテル街を離れた住宅街であるエリアに足を伸ばし、リベラーチェ・ミュージアムを訪れる観光客は少なくないが、そのそばのショッピング・センターの一角にある『ピンボール・ホール・オヴ・フェイム』にまで足を伸ばそうという物好きはそれほど多くない。

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Back in the ROADSIDE USA 53 Enchanted Castle Studios/Natural Bridge, VA

18世紀、19世紀にはヨーロッパ人にとって、新大陸の2大名勝といえばナイアガラ瀑布とナチュラルブリッジという時代があったという。そんな老舗観光地ではあるが、ナチュラルブリッジも近年はもっと派手な後発観光地にすっかり客を取られ、寂れるいっぽうというありがちな末路を辿っていた。そこに登場したのが若きエンターテイナー兼ファイバーグラス・アーティストという珍しい肩書きを持つ男、マーク・クラインである。高校を卒業後、職も住処もなくうろついていたところをファイバーグラス工房に拾われたのが縁で、この世界に入ったというクラインは、ナチュラルブリッジに『エンチャンテッド・キャッスル』と名づけた工房を開き、アメリカ各地の遊園地やミニゴルフ場、その他さまざまな顧客のために怪獣に猛獣、ドラキュラからスーパーマンまで、ありとあらゆる立体作品をファイバーグラスで作ってきた。工房は一般に公開され、だれでも制作のプロセスを見学できるようになっていた。

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幼児に還るお正月@八潮秘宝館

秘宝館の絶滅を嘆くひとは多いけれど、「なら自分でつくればいいじゃん!」という単純明快な真理に則って、自宅を秘宝館にしてしまった兵頭喜貴の『八潮秘宝館』。すでに本メルマガではおなじみだが、その「第5回一般公開」が年明け1月1日元旦!より約1ヶ月間(仕事が休みの日のみ)、にわたって開催されることが決定した。今回のテーマは『幼児プレイルーム・未熟園再稼働』・・・かつて高円寺でひっそり営業していた伝説の幼児プレイルームを、「独自解釈で再現し、再稼働させる」という、これまでに増してビザールな試みとなる。ロードサイダーズ読者に「幼児プレイ」をどう説明したらいいのか・・・僕自身よくわかってないので、プレイルーム「未熟園」営業時に見学の経験を持ち、その閉店にも立ち会った兵頭館長に、僕ら初心者のための解説をお願いした――。

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DOMMUNEスナック芸術丸・キャバレー特集、購読者限定配信!

去年12月13日に配信したばかりのDOMMUNEスナック芸術丸、ベルリンから伝説のバーレスク・ダンサー、エロチカ・バンブーさんを迎えてお送りした『Life was a Cabaret ニッポンにキャバレーがあったころ』が、さっそくロードサイダーズ購読者限定でご覧いただけることになりました。宇川くん、どうもありがとう! 電子書籍になった北九州若松「ベラミ」のお話はもちろん、バンブーさん秘蔵の写真や楽屋裏話などもご披露。後半のDJタイムとあわせて、5時間以上のプログラムです。たっぷりお楽しみください!

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Back in the ROADSIDE USA 66 Zimmerman Lawn Ornaments, Langworthy, IA

イリノイとの州境に近いアイオワ州東部。ジョーンズ郡の郡庁所在地アナモサからハイウェイ151号線を北上すると、まもなくあらわれるのがラングワーシー。町といっても数ブロックの商店や住宅が集まっている程度だが、町はずれのハイウェイ沿いに突然、スカイブルーのゾウが鼻を振り上げていている。庭の飾りにつかう、大小さまざまのセメント製の彫像や装飾を製造販売するジンマーマン・ローン・オーナメンツだ。

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ROADSIDE PHUNOM PENH 電線都市プノンペン

いつもの「ロードサイドUSA」をお休みして、今週は特別編の「ロードサイド・プノンペン」!プノンペンの街を歩き始めて、だれしもまず気づくのが頭上に蜘蛛の巣のごとく張り巡らされた、おびただしい電線の束だ。「I sing the body electric」と詠ったのはウォルト・ホイットマンの『草の葉』だったが、これはもう「プノンペン・シングス・ボディ・エレクトリック!」と言いたい、一種芸術的な「電線都市」の姿であろう。電線を地中に埋めるインフラ整備がまったく進んでいないだけのことだが、何十本もの電線がからみあい、まとまりほぐれつつ建物と建物をつなぎ、空を横切るさまは、なんだかプノンペンという巨大生物の黒い血管のようにも見えてくる。

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キャバレー現代の思い出

先週末、新宿RED Photo Galleryで開催中の『おんなのアルバム キャバレーベラミの踊り子たち』展会場でトークイベントを開いたのだが、スタート間際になって突然、ずっと昔『珍日本紀行』で日本の隅っこを巡っていたころ、伝説的なキャバレーを北海道の小樽で取材したことを思い出した。1995年に撮影したその店『キャバレー現代』のフィルムを引っ張り出し、急いでスキャンしてトーク会場に持参。来てくれたお客さんに楽しんでもらった。いまは文庫版になっている『珍日本紀行 東日本編』には小さく載っているが、せっかくなので、スキャンし直した写真をここでご覧いただきたい。キャバレー現代の話を初めて耳にしたのは、1995年に取材する少し前だったと思う。小樽に「おばあさんホステスがいるキャバレー」じゃなくて、「おばあさんホステスしかいないキャバレー」があると聞いて、それは行かねば!とさっそく足を運んでみたところが、運悪く定休日。

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ぼろを撮る

昨秋から何度か青森県をめぐって写真を撮っていた。その仕事がようやく形になって、これから1年間の展示が始まる。浅草・浅草寺二天門脇にあるアミューズミュージアムの開館10周年特別展『BORO 美しいぼろ布展 ~都築響一が見たBORO~』と題された写真展。アミューズミュージアムが収集する「ぼろ」の展示にあわせて、僕が撮影した青森を中心とした北の風景、それに青森の人間にまとってもらった「ぼろ」のポートレートで壁や床を埋める展覧会――というと大げさなので、「ぼろ」展示の装飾ぐらいに思ってもらえたらうれしい。

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Back in the ROADSIDE USA 71 M.T. Liggett’s Roadside Sculptures, Mullinville, KS

西部劇で有名なカンザス州ダッジシティから遠くない、マリンヴィルという農村を通り過ぎると、国道400号線沿いにいきなりあらわれる奇妙な彫刻というか、トーテムポールのような作品群。1930年にこの地で生まれ、一家の所有する農場で育ったM.T.リゲットは、空軍に長く従軍したあと、1987年に退役して生まれ故郷に戻ってきた。農作業の合間にコツコツ作っては自分の農地の柵沿いに並べ立てて、ドライバーたちを当惑させたり楽しませたりして、すっかり地元の名物だ。

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渋谷残酷劇場、開演!

すでに告知してきたとおり、今週土曜日(4月14日)から渋谷アツコバルーで『都築響一presents 渋谷残酷劇場』がスタートする。2016年に開催した『神は局部に宿る 都築響一presents エロトピア・ジャパン展』からちょうど2年。その続編(?)として、エロの次はグロにフォーカスした、展覧会なのか見世物小屋なのかお化け屋敷なのかわからない・・・かなりビザールな展覧会になることは間違いないので、18歳以上のみなさまは覚悟の上でご参加いただきたい!

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創作仮面館クラウドファンディング始動!

もう長期連載になった『アウトサイダー・キュレーター日記』の第1回、2015年6月3日だからちょうど3年前に紹介した、那須塩原の創作仮面館がいま危機を迎えているという連絡を、櫛野展正くんからもらった。「ストレンジナイト」を名乗り、他人に素顔を見せることなくマスクマンとして生きてきた館主がつくりあげた創作仮面館は「年中休業中」。櫛野くんによって紹介されるまで、その活動はほとんど謎に包まれたままだったが、最近では展覧会にも参加するようになり、今年11月にはスイス・ローザンヌのアール・ブリュット・コレクションで開催される『JAPAN: ANOTHER LOOK』展への出展も決まったが、その矢先での病気発覚。

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俺のエロ 2018

先週告知で小さくお知らせした写真展「俺のエロ 2018」が、土曜日から始まります。POPEYE、BRUTUSの時代から組んできて、とりわけ音楽畑では知らぬもののないライブ・フォトグラファーである三浦憲治さん。カップヌードル「hungry?」などの撮影で知られるコマーシャル・ムービーカメラマン瀬野敏さん。御大ふたりとも長年の飲み仲間で、酒の席の勢いで一昨年『俺のエロ』という、冗談みたいなグループ展を六本木のギャラリーで開催。それが「そろそろまたやんない?」という、またも酒の席の勢いで、ふたたび開催することになってしまいました。

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江中裕子・長谷川亮介2人展@にしぴりかの美術館

仙台から東北自動車道経由で1時間ほど、黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、いま江中裕子・長谷川亮介による2人展が開催中である。障害者支援のグループホーム内に設けられたプライベート・ミュージアムでありながら、宮城県で唯一のアウトサイダー・アート/アールブリュット展示空間として、本メルマガではすでに何度か展覧会を紹介している「にしぴりか」。今回は2015年に『詩にいたる病――安彦講平と平川病院の作家たち』と題した連続記事のなかで紹介した、江中裕子(えなか・ゆうこ)と長谷川亮介(はせがわ・りょうすけ)というふたりのエネルギッシュな作家による、注目の展覧会だ。

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ホテルニューマキエの、おピンク・クリスマス!

田岡まきえ(現・マキエマキ)の写真を本メルマガで初めて紹介したのが2016年2月10日号(「自撮りのおんな」)。そのときマキエさんは50歳の誕生日を迎えたばかりで、セクシー自撮りを始めてから1年も経っていなかった(前年10月末のグループ展が初お披露目)。それがいまや! あっという間にツイッターのフォロワーは15,000を超え、その作品の過激さにしばしばアカウント停止をくらう「インスタ垢バンクイーン」として熟女シーンに君臨する存在に。これまで主な発表の舞台は自身のSNSや、展示にあわせてリリースされる自費出版の冊子やポストカードだったが、年明けには初写真集の商業出版も予定されている。そういう、いろんな意味でホットなマキエさんの個展『ホテルニューマキエ ♥マキエクリスマス♥』が、おなじみ板橋のカフェ百日紅で29日からスタートする。

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DOMMUNEスナック芸術丸「アウトサイド・ジャパン」購読者限定アーカイブ公開!

10月16日にDOMMUNEスタジオから生配信したばかりの「スナック芸術丸/第五十一夜 アウトサイド・ジャパン」が、メルマガ購読者限定でアーカイブ公開になりました。以下からご視聴いただけます。メインゲストに本メルマガの連載でもおなじみ、アウトサイダー・キュレーター櫛野展正を迎え、新著『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』刊行を記念した特別番組。総勢135名の「アウトサイダー・アーティスト大辞典」ともいえるコレクションのなかから、スペシャルゲストとして遠藤文裕、けうけげんの両名をスタジオに向かえてのパフォーマンスも完全収録! かなりの神回になったプログラムです。

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photography

菊地智子「The River」とプリピクテジャパンアワード

不定期連載「菊地智子が歩くチャイニーズ・ワイルドサイド」で、重慶のドラァグクイーンや錯綜するセクシュアリティなど、いまこの瞬間にある中国のリアリティを伝えてくれてきた写真家・菊地智子さん。代官山ヒルサイドフォーラムで開催中のグループ展『プリピクテジャパンアワード2015―2017』に参加しています。聞き慣れない名前かもしれないけれど、プリピクテとはスイスの超名門プライベートバンク、ピクテ銀行が設立した写真賞。プリピクテジャパンアワードは――「地球の持続可能性(サステナビリティ)の問題に対して強いメッセージを投げかけている、優れた若手日本人写真家を支援することを目的にしています」(公式サイトより)ということで、2015年以来2名の受賞者を出しています。菊地さんはその第1回目(2015年受賞)、2回目が2017年の志賀理江子さん。

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lifestyle

DOMMUNEスナック芸術丸、アーカイブ2本4時間同時公開!

恵比寿で1枚だけのアナログレコードをカットしてくれるスタジオ「CUT BY 1977 RECORDS」を運営する「ロディオ」くんと、本メルマガではおなじみのグッチ山口さんをゲストに迎えて2時間たっぷりお送りした、2018年7月10日のスナック芸術丸・第四十八夜「宇宙で一枚だけのレコード」。メルマガ購読者限定特典として、アーカイブへのリンクが準備できました。恵比寿のスタジオから、DOMMUNEにカッティングマシンを持ち込んで、生配信中のライブ・カッティングにも挑戦! 後半3時間超のDJタイムとあわせて、たっぷりお楽しみください!

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lifestyle

DOMMUNE スナック芸術丸「レディース・ナイト」、購読者限定アーカイブ!

1月23日に生配信したばかりのDOMMUNE スナック芸術丸「青森のBOROと暴走レディース・ナイト」、いつものようにメルマガ購読者限定の再視聴リンクをいただきました。宇川くん、ありがとう! 伝説のレディース専門誌『ティーンズロード』初代編集長・比嘉健二さんをお迎えしての2時間。予想外の反響を巻き起こしたプログラムを、ぜひじっくり味わい直してください!

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photography

イギリスの出口はどこに

ニュースを読むたびに不可解さが増すばかりのブレグジット問題。いつまでも先送りしておくわけにもいかないだろうし、どうなるんでしょうか。長い友人である写真家・金玖美(Koomi Kim)さんは、いまやファッションやポートレートで大人気ですが、いまから20年ちょっと前にマガジンハウスで働きはじめ、POPEYEやan・anの写真を撮っていたころ知り合いました。当時から仕事のかたわら、バンコクに通ってキックボクシングのジムに入り浸ったり、変わった作品を撮影してましたが、2004年には忙しい出版社生活を終わりにしてロンドンに移住。4年間滞在したあと帰国して、フリーランス・フォトグラファーとして活躍中です。そんな金さんがこつこつ通って撮りためたイギリスの、ふつうの場所のふつうのひとたちが一冊の写真集にまとまって、今月末に発刊。あわせて写真展が開催され、僕との公開対談も予定されてます。当初は「ブレグジットの期限にあわせてリリース!」というつもりだったらしいのが、こんな混迷状態に突入するとは……笑。

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art

柿本英雄展@東京銀座!

今年の最初を飾る1月2日号「座禅と写経とフレディ・マーキュリーから生まれた絵」で特集、東京ドームシティでの「バッドアート展」都築響一コレクション・コーナーでも観客を震撼させた、名古屋のバッドアート・キング柿本英雄さん。なんと昨日(3月26日)から銀座・長谷川画廊にて初の東京展を開催中です! 会期、わずか6日間。これは万難を排して観に行っていただかないと!

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Back in the ROADSIDE USA 102 RV/MH Hall of Fame, Elkhart, IN

アメリカ中西部の中心に位置するインディアナ州。人口600万人あまり、シカゴから飛行機で1時間、車でも州都インディアナポリスまで3時間ほどと、近所の田舎という感じだ。全米最大のカー・レース『インディ500』あり、レジー・ミラーやジャーメイン・オニールを擁するバスケットボールの最強チームのひとつ、インディアナ・ペイサーズありと、アメリカン・スポーツ・ファンにはよく知られた存在。でも行く人は少ない。インディアナの公式なキャッチフレーズは「アメリカの十字路」。1937年にこの呼称が定められた当時、アメリカでもっとも人口が多かったことと、いまでもアメリカのどの州よりもハイウェイが集中・交差している州であることによるが、アメリカ人がインディアナ州民を呼ぶ一般的な呼称は「フージャー(Hoosier)」。

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photography

国ではない国を歩く――星野藍と未承認国家アブハジア

こちらは2018年11月7日号「夢は廃墟をかけめぐる」で特集した写真家・星野藍の写真展『未承認国家の肖像・アブハジア』が今週土曜からスタートする。「考えるよりも先に、足が動くタイプかもしれません。恐らく酷い放浪癖があります」と自称する彼女の、前回は共産圏の廃墟をまとめた写真展『共産主義が見た夢の痕』を紹介したが、今回フィーチャーされるのは「未承認国家」。ナゴルノ=カラバフ共和国、沿ドニエステル共和国といった、国際社会からいまだ独立国として承認されていない地域のことで、廃墟とともに星野さんが長く取り組んできたテーマである。

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movie

手描き映画ポスターのモダン・タイムス2

日曜日に大阪でシカク8周年記念イベント「天才の祭典8」に参加して、本来は月曜朝に急いで東京に帰ってメルマガを仕上げなくてはならないところだが、先週告知した立命館大学で始まった『手描き映画ポスターと看板の世界II』をどうしても見たくて途中下車。地下鉄とバスを乗り継いで駆け込んだ展覧会は、去年の第1回と同じく小さめの空間に、いまから80~90年前の貴重な手描き映画ポスターがびっしり並んで壮観だった。先週の告知で書いたように展示されている手描きポスターは、キュレーションを担当した映像学部教授・竹田章作さんの祖父である竹田耕清(猪八郎)が創設した、京都の映画看板製作所「タケマツ画房」に残された貴重なコレクションである。

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Back in the ROADSIDE USA 106 アメリカ音楽に呼ばれて・後編

先週に続いて、旅の途中で立ち寄った「アメリカ音楽ゆかりのスポット」シリーズを2週にわたって一挙掲載する「アメリカ音楽に呼ばれて」、今週は後編を! 1005 St. Peter Street, New Oreans, LA――1991年4月23日、ニューオリンズ中心部のセントピーターハウス・ホテル(St. Peter House Hotel)37号室で、元ニューヨーク・ドールズのジョニー・サンダースが死亡しているのが発見された。死因はヘロインの過剰摂取。その月の初めに日本公演を終えたばかりのジョニーは、まだ38歳の若さだった。ホテルは現在も営業中、37号室はパンクロック・ファンの聖地として、いまも人気の一室である。

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fashion

花はどこへ行ったのか

毎週メルマガを書いているというのに、どうしてもこぼれてしまったり閉幕直前になってしまう展覧会やイベントがたくさんあって、ほんとうに申し訳ない。今週日曜(9月1日)まで神戸ファッション美術館で開かれている『Flowers 』も、ずっと気にかかっていたものの訪れる時間がないまま、気がついてみれば終了間近になってしまった。いつものファッション美術館の展示と同様、あまり一般には知られていないかもしれないけれど、予想を超えた充実の展覧会だったこと、そしてもしかしたらこの週末に京都国立近代美術館で開催中の『ドレス・コード?』展に行く予定のひとがいたら、神戸にも足を伸ばしてくれるかもというわずかな期待を込めて、急いで記事をつくらせてもらった。これを書いているいまは配信前夜の23時、間に合うか!

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lifestyle

DOMMUNEスナック芸術丸・再配信「BONE MUSIC」5時間スペシャル!

今年前半にお送りした3本のスナック芸術丸プログラムを、ロードサイダーズ購読者限定で公開してもらうDOMMUNEからのプレゼント! 最終回の今回は、原宿での展覧会にあわせて4月27日に特別配信された、「BONE MUSIC」5時間スペシャル! ソヴィエト冷戦時代、レントゲン写真に音を刻んだ奇跡と感動の音楽秘話。ロンドンから展覧会のキュレーションを担当したスティーヴン・コーツとポール・ハートフィールド、さらにBird、Seiho、そしてオープンリール・アンサンブルの和田永各氏によるライブ演奏を、その場でレントゲンフィルムにカッティングする実演もあり! DJ Licaxxxによる、ボーン・レコードによるDJプレイまであり! 丸々5時間ノンストップ・・・・・・ボーン・レコードに関して、これだけ充実のプログラムは世界のどこを探しても、他にないはず。気合い入れて、じっくりお楽しみください!

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おもしろうてやがてかなしき済州島紀行8 石のいろいろ

10年前に取材したものの、発表する機会がなかった珍スポット開陳シリーズ、済州島オマケ誌上旅行の最終回となる第3回は、「石関係」の観光施設を3つご紹介。済州島は韓国最大の島であり、火山島でもある。島の中心に存在する漢拏山(ハルラサン)は標高1950m、韓国最高峰の名山で、数多くの小火山が主峰を取り巻いている。というわけで済州島には石の文化が古くから伝わってきた。今回ご紹介する「済州彫刻公園」「済州石村公園」「耽羅木石苑」(現在は済州石文化公園に改称)とも3ヶ所とも現在まで営業中のようなので、コロナが終息したぜひ早めの来島を!

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NEW WAVE COSMOS 2021展!

ロードサイダーズのみなさまにはもうおなじみ、お色気ナレーション・レコードをはじめとする特殊レコード・コレクターであり、「日本でいちばん展覧会を観る男」でもある山口‘Gucci’佳宏氏がオーガナイズする、パンク・ニューウェーヴのレコジャケとアート展「NEW WAVE COSMOS 2021 ~ニューウェーヴの宇宙~」がオンラインで始まっています。 グッチさん秘蔵のパンクとニューウェイブ・レコジャケ特選コレクションと、それらの音源にインスパイアされた現代のアーティストたちによる作品を並列展示するという、アート・ファンにもパンク&ニューウェイブ・ファンにもうれしい企画。当初は東京田端のWISH LESS galleryで開催される予定でしたが、まん延防止等重点措置~緊急事態宣言のおかげでリアル開催が難しく、まずはオンラインでアーティスト作品をご披露。もしも東京の緊急事態宣言が予定どおり11日で解除されたら、13日から16日までギャラリー会場に展示されるそうです。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 19 石川県2

総大理石の宮殿は朝市通りのオアシスだった――能登半島の突端近く、奥能登と呼ばれる地域の核である輪島。高級漆器の代名詞・輪島塗で知られ、朝市通りと呼ばれる商店街で毎朝開かれる朝市は平安時代から続く歴史を持ち、千葉県勝浦市の勝浦朝市、岐阜県高山市の宮川朝市と並ぶ、日本三大朝市に数えられるそう。 その朝市通りに異様なオーラを放つ白亜の宮殿(だった)、イナチュウ・コスモポリタン。創業・昭和4年の老舗である輪島塗大手生産者・稲忠が1992年、つまりバブル末期に開館させた美術館だ。白亜のバロック建築はヴェルサイユ宮殿を模したものという。

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Paradise Lost 二度と行けない珍日本紀行 20 石川県3

仏教テーマパークで心も体もリフレッシュ――北陸きっての珍スポットとして長く親しまれた?「ユートピア加賀の郷(さと)」。日本中がバブル祭に踊り始めた1987年に開園、「仏教テーマパーク」というハイブリッドすぎるコンセプトが斬新だったが、年々入場者が減っていき、親会社の関西土地建物も経営不振に陥り1998年に破産宣告。翌99年に遊園地部分のユートピアランドが閉園したのを皮切りに、順次閉鎖されていく。そこまでなら普通(?)のバブル遺産として忘れられるはずだったが、ユートピア加賀の郷には劇的な第二章が待っていた。

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「障害者らしいアート」ってなんだろう――埼玉県障害者アート企画展 Coming Art 2022

本メルマガではもうおなじみ、埼玉県川口市の障害者支援施設・工房集が参加する「第13回埼玉県障害者アート企画展 Coming Art 2022」が12月7日(本日!)から11日までの5日間、埼玉県立近代美術館で開催される。2019年の12月に開催された「第10回埼玉県障害者アート企画展 knock art 10 ―芸術は無差別級―」を2020年1月1日号で紹介しているが、今年も「埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±〇(タマップ・プラマイゼロ)に参画する県内各地の30以上の福祉施設から、111名の作家による600点を超える作品が集められた。

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暇と創造の宮殿、UPPALACE

大阪市の最南東に位置する平野区。静かな住宅地の奥にあるアトリエひこは、知的障害を持つメンバーたちが集う自主運営アトリエ。ロードサイダーズではおなじみのアーティスト、松本国三が長く通い、制作を続けてきた場所でもあり、僕も何度も遊びに行かせてもらってきた。 アトリエひこは平野の長屋を拠点に1994年から、もう29年間も続いてきたが、突然立ち退きの危機が訪れる。アトリエを運営する石崎史子さんに経緯を伺うと――「2020年に代替りした大家さんから、アトリエひこ含め四軒長屋すべての立ち退きもしくは買取りの話がきました。障害福祉サービスの事業所ではなく、自主運営の零細アトリエなので、資金もマンパワーもなく、ひこくん(大江正彦)にとっては家の前のあの場所でないと通えないという、背に腹はかえられない事情もありました。そこで、ひこくんの弟さんの英明さんが「ぼくがなんとかする」と、四軒とも買ってくれたのでした。とりあえず立ち退き危機は免れましたが、この先のことはなにも決まっていません。

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妄想芸術劇場 #03 クッピイ

1990年の『ニャン2倶楽部』、そして93年の『ニャン2倶楽部Z』創刊当初から設けられてきた投稿イラスト・ページ。先週まで前後編で紹介した「ぴんから体操」をはじめとして、これまで数々の名物投稿者を生み出してきた。そのなかでも「クッピイ」氏は1990年のニャン2創刊時から投稿を開始し、現在は追い切れていないけれど2010年代前半までは確実に継続していた常連投稿者である。20年以上にわたって、ほとんど途切れることなく毎月複数枚の作品を送りつづけてきたという、その驚異的な継続性と投稿量。「伝説」と呼ぶに、これほどふさわしい投稿アーティストがいるだろうか。

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妄想芸術劇場 #10 アポロ

アポロがニャン2倶楽部の誌面に初登場するのは1993年。掲載された作品は単色のラフなスケッチだったが、それから数年のうちにめきめきと腕を上げ、通算20年間以上投稿を続けてきた大ベテラン投稿者である。 アポロの作品の楽しさは、ひとコマ漫画ふうのテイストにある。一枚の中にツッコミからオチまでが組み込まれたその作風は、夕刊紙か実話雑誌のページが似合いそうな独特の雰囲気だ。そして題材がほとんどテレビ番組やタレントであることから、かなりのテレビっ子であることが察せられるし、それはまた彼のライフスタイルを暗示するものでもあろう(投稿の裏に「実は、障害者でもあって…」とある)。

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妄想芸術劇場 14 伊藤魔耶

悪魔がいる、貴婦人がいる、両性具有がいる・・・・・・伊藤魔耶の描く世界は、ほとんど文学的と言えるほどに、ストーリー性に満ちている。画面の中で生け贄になるのはむろん女性(あるいは巨大な男根を持った両性具有)だが、それは彼女たちが一方的に肉欲の犠牲となり、男たち(あるいは悪魔たち)に蹂躙されているわけではない。むしろ、彼ら、彼女らはそれぞれの役割を守りながら、無言の、エロスに満ちた演劇の舞台を演じているように見える。1960年代末の日本映画界に、毒々しい花を咲かせた石井輝男の、一連の異常性愛路線映画のように。

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DOMMUNE スナック芸術丸・大竹伸朗回アーカイブ!

先日、富山県美術館で巡回を終えた大竹伸朗展。スナック芸術丸では出発点となった東京国立近代美術館での展示にあわせて、2022年11月12日に「大竹伸朗展・特番」をお送りしましたが、その録画アーカイブをロードサイダーズ・ウィークリー読者限定でいただいたので、さっそくお届けします。宇川くん、ありがとう! 後半の「DJ景」を含め、全5時間半以上を一気に公開! まあとにかく大竹くんのDJプレイを動画で観られるのもたぶんここだけだと思うので! たっぷりお楽しみください。 そしてDOMMUNEを率いる宇川くんはいま「D.O. & 練マザファッカーのお膝元」(本人談)練馬区立美術館で展覧会「宇川直宏展|FINAL MEDIA THERAPIST @DOMMUNE」を開催中。もうとっくに行ったし!というかたもいらっしゃるでしょう。

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妄想芸術劇場 17  ぷりりん

投稿の数こそ多くないが、「ぷりりん」の画面には不思議な魅力がある。漫画的でフラットな画面。ところが、スキャンされた画像では判別できないが、原画をよく見ると、そこに微妙な凹凸があることに気がつく。実は塗り込められた背景の上に、丹念に切り抜かれた主人公=全裸女性を貼り重ねて、ぷりりんの絵はつくられているのだ。

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妄想芸術劇場 21 西田ひろし

2000年代に入ってからの新世代投稿者のひとり、西田ひろし。投稿作品の数こそ少ないが、非常に特徴的な画風で気になっていたアーティストのひとりだった。画のテーマというか、設定のシュールさ、ギャグっぽさも入れ込まれ、しかもタッチがときとしてかなり絵画的。そのアンバランスさが奇妙な魅力を醸し出している。 しかもこの西田ひろしは多くの場合、官製葉書の裏にこんな画を直接描いて、編集部にそのまま送ってくるのだから気合いが入っているというか、男らしいというか・・・・・・。

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妄想芸術劇場 23 蘭裸乱

ニャン2のベテラン投稿イラスト職人である「蘭裸乱」。「蘭裸♡乱」と書かれることもあるが、いずれにしても「らんららん」と読ませるのだろう。 蘭裸乱のおもしろさは、オヤジ・ギャグ的な艶笑ストーリーと、色鉛筆で塗りつぶされた素朴な画風、そしてときにかなり長いテキストの楽しいマッチングにある。ふだんのニャン2本誌投稿コーナーでは、掲載されることのなかったテキストとあわせて、今回は蘭裸乱のおもしろエロ・ワールドをお楽しみいただきたい。

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photography

KARAOKENATION @ゴールデン街ナグネ

最近はすっかりインバウンド観光客の、夜のナンバーワン・フェバリットスポットと化した感のある新宿ゴールデン街。写真ファンや関係者が集まる店としても知られるnagune ナグネでは開店20周年を迎えるのを記念して、「13の光」と題した展覧会シリーズが去年7月からスタートしています。ひとり/組1ヶ月、1年間かけて13の展示が続くなか、僕も呼んでもらえて1月8日から「KARAOKENATION」を開催中。もともとは2017年11月に新宿御苑前のRED Photo Galleryで1週間だけ開いた展示をもとにした、新プリントによる展示です。 KARAOKENATIONとはもちろん「カラオケ民族」のこと! もう十数年間、スナックでカラオケに興じるひとたちを、発売されたばかりのフルサイズ・デジタル一眼レフに20ミリの超広角レンズをつけて、ぐぐっと寄って撮影させてもらったシリーズ。そういえば「近寄りすぎ!」ってずいぶん嫌がられた思い出が……涙。

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妄想芸術劇場 27  KUROノリオ

本連載「妄想芸術劇場」も、いよいよ大団円に近づいてきた。今週お送りするのは「散歩人」「カツ丼小僧」「ぴんから体操」などと並んで、ニャン2最初期からの超ベテラン投稿者である「KUROノリオ」である。 イラストレーターというよりは、本職のアニメーターのように、しばしば透明なセルに描かれた作品群。すばらしく明るく、クリアーな色彩で、よく見ればものすごく猟奇的なモチーフが描かれている、その奇妙すぎるアンバランス。

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art

私たちは消された展2024

2019年の第1回から毎年開催を続けている「私たちは消された展」。6回目となる今年も2月12日から1週間の日程で開催されます! SNSで消されてきた表現者の作品展示。そして来場者は展示された作品を撮影することが許され、しかし「かならず“#私たちは消された”を付けSNSへ投稿することで、来場者の投稿も削除、警告を受けてしまう」という……期せずして削除、警告体験まで味わえる粋な展覧会。今年も「これはまあ消されてもしかたないかも……」と納得のツワモノ・アーティストたちが集まってます。

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travel

Back in the ROADSIDE USA 07 Rock City Gardens, Lookout Mountain

テネシー州南東部、ジョージア州境に近いチャタヌガ。19世紀から南部の主要工業都市だったこの都市は、名前こそエキゾチックだが、1970年あたりには全米でもっとも大気汚染のひどい都市という、ありがたくないお墨付きをもらうほどに汚れきっていた。ダウンタウンでは、昼間でも自動車のヘッドライトをつけないとならない日が年間150日以上。呼吸器系の病気発症率はアメリカ平均の3倍以上だったというから、事態は非常に深刻だったのだ。それから30年あまり、現在のチャタヌガは美しく再開発された模範都市として、全米から観光客を集めている。チャタヌガといえばグレン・ミラーの『チャタヌガ・チューチュー』を思い出す人が多いだろうが、実はチャタヌガでいちばん、というよりテネシーでいちばん、というより南部一帯でいちばんの観光名所として全米にその名を轟かせてきたのが、ルックアウト・マウンテンにある『ロック・シティ』。音楽じゃなくて岩のほうのロックです。

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ピコ太郎とバースジャパン

今年、全世界でいちばん流行った曲は・・・ジャスティン・ビーバーでもなければテイラー・スウィフトでもなく、ピコ太郎の『PPAP』だったことはご存じのはず。あの「パイナッポー」が脳内永遠リピートで情緒不安に陥ったひともいるだろうし、いまごろは全国各地の忘年会で、何万人が余興で踊らされてることかと・・・涙。先週末、仕事の合間に愛読誌『実話ナックルズ』を読んでいたら、本メルマガではおなじみのアウトロー・ライター上野友行くんが「ピコ太郎の衣装を生み出した新潟のバースジャパン訪問記」という記事を書いていて(このあと週刊新潮にも載るそう)、やっぱりそうか!と深く頷いたのでした・・・わかるの、遅すぎ? 2011年のあいだの半年と少し、ふつうのファッション誌があまりに画一化しておもしろくないと思っていた僕は、高級メンズファッション誌『SENSE』で『ROADSIDE FASHION』という変わったファッション連載をしていて、それはファッション誌にはまったく出ないけれど、街場ではよく見る、ほんとうに日本の男たちが着ている服を見せたかったのだけれど、残念ながら高級ファッション誌に広告を出すクライアントたちのお気に召さず、1年持たずに終了してしまいました。

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Back in the ROADSIDE USA 35 Gene Cockerel’s Yard Art, Canadian, TX

ルート66上に位置するテキサス州マクリーン。人口2000人ほどの小さな町のはずれにジーン・コクレルと彼の家族が住む家がある。庭にはイエス・キリストやバッファローや宇宙人や、ダラスカウボーイズのチアガールが立っている。ジーン・コクレルが「コンクリートの彫刻」を作りはじめたのは7、8年前のこと。「毎日ハンティングやフィッシングにでかけるわけにもいかないんで」、なんとなくコンクリートで作りはじめたのが、いまでは20体以上。さらにハイウェイ沿いの丘の上には、巨大な恐竜まで設置されている。いずれも素朴なタッチと表情が楽しい。

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天幕の見世物小屋、サーカスの時間

『サーカスの時間』という写真集をご存じだろうか(河出書房新社刊)。1980年にオリジナルが発表され、2013年に再刊された本橋成一による貴重な昭和の旅芸人たちの記録を、本メルマガでは2013年に詳しく紹介した。ご存じのように本橋さんは写真家・映画監督であり、東中野ポレポレ坐のオーナーでもある。そのポレポレ坐で今月14日(きょう!)から25日まで、『天幕の見世物小屋、サーカスの時間』が開催される。

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妄想芸術劇場 15 セーラーマン

1990年から92年あたりのニャン2初期に、独特なタッチの投稿を繰りかえしていたイラスト職人のひとりが「セーラーマン」である。 一見しておわかりのようにセーラーマンの画風には当時、そして現在でも主流を占める漫画ふうのタッチとは正反対の、正統的なデッサンを思わせる描線や、「挿画」と呼びたい古風な雅味が認められる。フラットな画面、どろどろな陵辱シーンとは無縁のユーモアあふれたモチーフ。そして特に単純な背景の前でポーズを取る全裸女性たちに見られる、ただただ描くことの純粋な悦び。

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妄想芸術劇場 18  五月セブン

今週ご紹介するのは「五月セブン」・・よく見ると不思議な名前だ。1997年に初登場した五月セブンは、長くコンスタントな投稿を続けたベテランである。その画風は一見、淡いタッチでありながら、内容のほうはなかなかハード。しかもしばしば画中に書き入れられる文章が、またユーモラス。見れば見るほど年齢不詳な感覚に惑わされるようだ。

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妄想芸術劇場 20  ショーボート

この連載で取り上げたイラスト職人はベテラン勢が多かったが、今週紹介する「ショーボート」は、2000年代になってからニャン2に投稿を開始した新世代である。 作品はすべて葉書サイズ。それも、人物を別の紙に描いたものを切り抜いて葉書サイズの背景に貼りつけ、さらに全体をパウチッコするという念の入りよう。人物が浮き上がり、ピカピカのレリーフのようになって送られてくる作品は、そのたたずまいからしてポップだ。

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art

妄想芸術劇場 22 ぼん正月

手元にはたった8枚の作品しかない。でも、その作風が非常に気になる投稿作家、それが「ぼん正月」である(ボン・ショーゲツと読ませるらしい)。 漫画的でありながら、躍動感あふれるその画面。ユーモアに満ちたモチーフ。ぼん正月の魅力はいろいろ挙げられるけれど、個人的にいちばんユニークだと思うのは、その画角だ。投稿イラストでは、カメラで言えば標準から望遠レンズで場面を覗く距離感がほとんどなのだが、ぼん正月の画は超広角レンズで被写体に迫っている感じがすごく強い。どこから出てくるのだろう、その特異な画面構成の感覚は。

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art

さっぽろ雪まつり2024!

この記事を書いている2月5日、月曜夜は関東地方をはじめとする各地に大雪警報発令。場所によってはかなりの混乱が起きているようですが、ここ北海道札幌市では……ただいま恒例の「雪まつり」が始まったばかり! しかも第74回となる今年はコロナ禍を挟んで4年ぶりの全面開催! 雪が迷惑なところもあれば、雪がおまつりになっちゃう場所もあるんですねえ。

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art

根本敬 presents お前は黙ってろ!

2023年の「根本敬 presents 蛭子能収『最後の展覧会』」に続いて、青山のAkio Nagasawa Galleryではふたたび根本敬がpresentsする奇妙な展覧会『お前は黙ってろ!』が開催されている。 ――諸事情からザックリ〈住民票がない人々〉の作品群と東京都、神奈川県などに〈住民票のある人々〉によるアート対決。対決とはいうものの勝敗はない。否、ある意味〈住民票がある〉時点で後者たちは前者の方々に負けているのかもしれない。猛暑のさなか思考も止まる朦朧とした幻の様な展覧会です。 尚、「お前は黙ってろ!」とは根本敬著「人生解毒波止場」電波喫茶の美人ママの項に出てくるちょっと怖いひと言にちなみます。 (展覧会ステートメント)

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movie

神戸で桃色映画に浸る3日間!

2018~19年の連載「桃色の罠――日本成人映画再考」から文庫化、先日は大道芸術館で刊行記念イベントも開催した鈴木義昭さんが、「ピンク映画に興味あるけど観る機会がない!」という声に応えて8月30日から9月1日までの3日間、神戸市長田区の神戸映画資料館で特別上映プログラム「桃色映画・パンデミック‼ 2024夏 失われた映画、失われつつある映画、失われるかもしれない映画の3日間」を開催する!

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BOOKS

ROADSIDE LIBRARY
天野裕氏 写真集『わたしたちがいたところ』
(PDFフォーマット)

ロードサイダーズではおなじみの写真家・天野裕氏による初の電子書籍。というか印刷版を含めて初めて一般に販売される作品集です。

本書は、定価10万円(税込み11万円)というかなり高価な一冊です。そして『わたしたちがいたところ』は完成された書籍ではなく、開かれた電子書籍です。購入していただいたあと、いまも旅を続けながら写真を撮り続ける天野裕氏のもとに新作が貯まった時点で、それを「2024年度の追加作品集」のようなかたちで、ご指定のメールアドレスまで送らせていただきます。

旅するごとに、だれかと出会いシャッターを押すごとに、読者のみなさんと一緒に拡がりつづける時間と空間の痕跡、残香、傷痕……そんなふうに『わたしたちがいたところ』とお付き合いいただけたらと願っています。

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ROADSIDE LIBRARY vol.006
BED SIDE MUSIC――めくるめくお色気レコジャケ宇宙(PDFフォーマット)

稀代のレコード・コレクターでもある山口‘Gucci’佳宏氏が長年収集してきた、「お色気たっぷりのレコードジャケットに収められた和製インストルメンタル・ミュージック」という、キワモノ中のキワモノ・コレクション。

1960年代から70年代初期にかけて各レコード会社から無数にリリースされ、いつのまにか跡形もなく消えてしまった、「夜のムードを高める」ためのインスト・レコードという音楽ジャンルがあった。アルバム、シングル盤あわせて855枚! その表ジャケットはもちろん、裏ジャケ、表裏見開き(けっこうダブルジャケット仕様が多かった)、さらには歌詞・解説カードにオマケポスターまで、とにかくあるものすべてを撮影。画像数2660カットという、印刷本ではぜったいに不可能なコンプリート・アーカイブです!

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ROADSIDE LIBRARY vol.005
渋谷残酷劇場(PDFフォーマット)

プロのアーティストではなく、シロウトの手になる、だからこそ純粋な思いがこめられた血みどろの彫刻群。

これまでのロードサイド・ライブラリーと同じくPDF形式で全289ページ(833MB)。展覧会ではコラージュした壁画として展示した、もとの写真280点以上を高解像度で収録。もちろんコピープロテクトなし! そして同じく会場で常時上映中の日本、台湾、タイの動画3本も完全収録しています。DVD-R版については、最近ではもはや家にDVDスロットつきのパソコンがない!というかたもいらっしゃると思うので、パッケージ内には全内容をダウンロードできるQRコードも入れてます。

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ROADSIDE LIBRARY vol.004
TOKYO STYLE(PDFフォーマット)

書籍版では掲載できなかった別カットもほとんどすべて収録してあるので、これは我が家のフィルム収納箱そのものと言ってもいい

電子書籍版『TOKYO STYLE』の最大の特徴は「拡大」にある。キーボードで、あるいは指先でズームアップしてもらえれば、机の上のカセットテープの曲目リストや、本棚に詰め込まれた本の題名もかなりの確度で読み取ることができる。他人の生活を覗き見する楽しみが『TOKYO STYLE』の本質だとすれば、電書版の「拡大」とはその密やかな楽しみを倍加させる「覗き込み」の快感なのだ――どんなに高価で精巧な印刷でも、本のかたちではけっして得ることのできない。

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ROADSIDE LIBRARY vol.003
おんなのアルバム キャバレー・ベラミの踊り子たち(PDFフォーマット)

伝説のグランドキャバレー・ベラミ・・・そのステージを飾った踊り子、芸人たちの写真コレクション・アルバムがついに完成!

かつて日本一の石炭積み出し港だった北九州市若松で、華やかな夜を演出したグランドキャバレー・ベラミ。元従業員寮から発掘された営業用写真、およそ1400枚をすべて高解像度スキャンして掲載しました。データサイズ・約2ギガバイト! メガ・ボリュームのダウンロード版/USB版デジタル写真集です。
ベラミ30年間の歴史をたどる調査資料も完全掲載。さらに写真と共に発掘された当時の8ミリ映像が、動画ファイルとしてご覧いただけます。昭和のキャバレー世界をビジュアルで体感できる、これ以上の画像資料はどこにもないはず! マンボ、ジャズ、ボサノバ、サイケデリック・ロック・・・お好きな音楽をBGMに流しながら、たっぷりお楽しみください。

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ROADSIDE LIBRARY vol.002
LOVE HOTEL(PDFフォーマット)

――ラブホの夢は夜ひらく

新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。
円形ベッド、鏡張りの壁や天井、虹色のシャギー・カーペット・・・日本人の血と吐息を桃色に染めあげる、禁断のインテリアデザイン・エレメントのほとんどすべてが、ここにある!

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ROADSIDE LIBRARY vol.001
秘宝館(PDFフォーマット)

――秘宝よ永遠に

1993年から2015年まで、20年間以上にわたって取材してきた秘宝館。北海道から九州嬉野まで11館の写真を網羅し、書籍版では未収録のカットを大幅に加えた全777ページ、オールカラーの巨大画像資料集。
すべてのカットが拡大に耐えられるよう、777ページページで全1.8ギガのメガ・サイズ電書! 通常の電子書籍よりもはるかに高解像度のデータで、気になるディテールもクローズアップ可能です。
1990年代の撮影はフィルムだったため、今回は掲載するすべてのカットをスキャンし直した「オリジナルからのデジタル・リマスター」。これより詳しい秘宝館の本は存在しません!

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捨てられないTシャツ

70枚のTシャツと、70とおりの物語。
あなたにも〈捨てられないTシャツ〉ありませんか? あるある! と思い浮かんだあなたも、あるかなあと思ったあなたにも読んでほしい。読めば誰もが心に思い当たる「なんだか捨てられないTシャツ」を70枚集めました。そのTシャツと写真に持ち主のエピソードを添えた、今一番おシャレでイケてる(?)“Tシャツ・カタログ"であるとともに、Tシャツという現代の〈戦闘服〉をめぐる“ファッション・ノンフィクション"でもある最強の1冊。 70名それぞれのTシャツにまつわるエピソードは、時に爆笑あり、涙あり、ものすんごーい共感あり……読み出したら止まらない面白さです。

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圏外編集者

編集に「術」なんてない。
珍スポット、独居老人、地方発ヒップホップ、路傍の現代詩、カラオケスナック……。ほかのメディアとはまったく違う視点から、「なんだかわからないけど、気になってしょうがないもの」を追い続ける都築響一が、なぜ、どうやって取材し、本を作ってきたのか。人の忠告なんて聞かず、自分の好奇心だけで道なき道を歩んできた編集者の言葉。
多数決で負ける子たちが、「オトナ」になれないオトナたちが、周回遅れのトップランナーたちが、僕に本をつくらせる。
編集を入り口に、「新しいことをしたい」すべてのひとの心を撃つ一冊。

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書評2006-2014

こころがかゆいときに読んでください
「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。
このなかの1冊でも2冊でも、みなさんの「こころの奥のかゆみ」をスッとさせてくれたら本望である。

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独居老人スタイル

あえて独居老人でいること。それは老いていくこの国で生きのびるための、きわめて有効なスタイルかもしれない。16人の魅力的な独居老人たちを取材・紹介する。
たとえば20代の読者にとって、50年後の人生は想像しにくいかもしれないけれど、あるのかないのかわからない「老後」のために、いまやりたいことを我慢するほどバカらしいことはない――「年取った若者たち」から、そういうスピリットのカケラだけでも受け取ってもらえたら、なによりうれしい。

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ヒップホップの詩人たち

いちばん刺激的な音楽は路上に落ちている――。
咆哮する現代詩人の肖像。その音楽はストリートに生まれ、東京のメディアを遠く離れた場所から、先鋭的で豊かな世界を作り続けている。さあ出かけよう、日常を抜け出して、魂の叫びに耳を澄ませて――。パイオニアからアンダーグラウンド、気鋭の若手まで、ロングインタビュー&多数のリリックを収録。孤高の言葉を刻むラッパー15人のすべて。

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東京右半分

2012年、東京右傾化宣言!
この都市の、クリエイティブなパワー・バランスは、いま確実に東=右半分に移動しつつある。右曲がりの東京見聞録!
576ページ、図版点数1300点、取材箇所108ヶ所!

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東京スナック飲みある記
ママさんボトル入ります!

東京がひとつの宇宙だとすれば、スナック街はひとつの銀河系だ。
酒がこぼれ、歌が流れ、今夜もたくさんの人生がはじけるだろう、場末のミルキーウェイ。 東京23区に、23のスナック街を見つけて飲み歩く旅。 チドリ足でお付き合いください!

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