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都築 響一

fashion

Wasabi~裏長屋の変身アトリエ

上野と浅草のちょうど中間にある台東区松が谷。日本一の調理道具街・合羽橋があることで知られる松が谷は、その便利なロケーションにもかかわらず、地下鉄の最寄り駅(銀座線稲荷町/田原町)から徒歩十数分という

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design

建築家って、いったいなにさま?

つい先日ネットのデザイン関係ニュースで大きく取り上げられていたのが、ソウルの高層ビル(ツインタワー)が、ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだところに酷似しているという報道。

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上海スタイル

ニューヨークを抜いて、いまや世界でいちばん日本人がたくさん住む外国の都市になった上海。でも僕らは、こんなに日本に近いメガ・シティの、ほんとうの暮らしを、ほんとうの居心地良さを、まったく知らなかった。

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art

周回遅れのトップランナー 田上允克 [前編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。現代美術ではなく、かといって日展のような伝統(?)美術でもない。自分だけの絵を、自分だけで描きつづけて数十年・・・

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travel

圏外の街角から

日本全国に蔓延する慢性の疫病がある・・・シャッター商店街という名の病だ。かつての賑わいの痕跡を残しながらも、ゆっくりと死んでいくのを待つだけに見えるストリート。廃墟ではないのに、シャッターの内側にはだれかが住んでいるはずなのに。

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畜生道

犬は拾うかもらうもの、エサは家族の残り物、飼うのは庭の犬小屋で、名前はポチかチビか、シロかクロ。そういうふうに日本人は犬とつきあい、共存してきた。何百年も。 犬業界では絶滅危惧犬種というのが問題になっているけれど、ほんとうにいま絶滅の危機に瀕しているのは、昔ながらの“畜生道”に則って飼われてきた「ポチ」のほうだ。

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photography

「大阪式」に生きるということ

いまからもう10年以上前のこと、大阪の小さな写真専門学校でトークに招かれ、そこは写真館の跡継ぎ養成みたいな地味な学校だった。学生寮があるというので、「寮の中を撮影させてくれるなら」という交換条件で引き受けたトークを終えたあと、生徒たちの緊張感のないポートフォリオを見せられて、そのなかでひとりだけ、きわだってヘンテコで輝いていたのが梅佳代だった。

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art

周回遅れのトップランナー 田上允克 [後編]

時流に媚びない、のではなく媚びられないひとがいる。業界に身を置かない、のではなく置いてもらえないひとがいる。 孤高と言うより孤独。天才と言うより異才。これはどこかの地方の、どこかの片隅で、きょうも黙ってひとりだけの作品世界を産みつづけるアーティストたちの物語である。

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ほめられもせず、苦にもされず・・・タイの地域犬

バンコクに着いた旅行者がまず驚くのは人の多さ・・じゃなくて犬の多さかもしれない。 ほんとうは広いはずのメインストリートに屋台がびっしり並んで、ただでさえ狭くなっている上に、歩道の真ん中に大きな犬がのっそり寝ていたりする。気をつけないと踏みつけそうだが、だれもが平然と、またいだりよけたり。犬もまた通行人なんか気にしないで寝ころんだり、腹をかいたりしてる。死んでるんじゃないかと思う犬もいるが、近寄ってみると息をしているから、きっと安眠してるだけなのだろう。

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interview

烈伝・ニッポンの奇婦人たち 1 旅館『西の雅・常盤』女将 宮川高美 前編

テレビの旅行番組やバラエティなどでもおなじみの『女将劇場』。番組で観たことある、という方もいるだろう。温泉に入るよりも、これを見たさにわざわざ湯田温泉に来る客も大勢いる、いまや当地きっての名物だ。そして有名になればなるほど、地元の人間からは「イロモノ」として一歩引かれた視線を浴びつづける、孤高の存在でもある。

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book

『アメリカは歌う。 ― 歌に秘められたアメリカの謎』 東理夫・著

アメリカ人が車を運転するとき、4人にひとりはカントリー・ミュージックを聴いているという。数年前に『ROADSIDE USA』のためにアメリカの片田舎をさまよっていたとき、ものすごくヘヴィローテーションで、何度も聞くうちに歌詞もすっかりわかってしまった曲があった。

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ギルバート&ジョージからメイプルソープまで、おもしろうてやがて哀しき・・・

いま東京・池袋のセゾン美術館ではギルバート&ジョージの大回顧展が開催中である。デビュー以来、彼らが一貫して掲げてきたモットーを引いて『ART for ALL 1971-1996』と題されたこの展覧会は、1970年代以降の現代美術シーンでもっとも重要な作家のひとり(ひと組)でありながら、いままで日本ではほとんど接することのできなかった・・・

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interview

烈伝・ニッポンの奇婦人たち 1 旅館『西の雅・常盤』女将 宮川高美 後編

365日休みなし、毎晩8時45分からたっぷり1時間半にわたって繰り広げられる女将劇場。先週はそのステージの様子をお伝えしたが、今週は女将劇場の演出家であり、舞台監督であり、主役でもある大女将・宮川高美さんのインタビューをお送りしよう。老舗旅館の娘に生まれながら、これでもかというぐらいの、苦労と試練の連続。

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archive

そして夜のオプションは『スナック来夢来人』で!

『西の雅 常盤』のすぐ裏には、おそらく湯田温泉でも最強のスナック『来夢来人』があります。2008年から2010年にかけて、『アサヒカメラ』誌上で『今夜も来夢来人で』という連載をしていたのですが、それは「全国各地の、来夢来人という名前のスナックを訪ね歩く」という、すばらしくおいしい(笑)お仕事でした。

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photography

佐藤信太郎 『東京 I 天空樹 Risen in the East』

『東京 I 天空樹』には2008年12月、まだ更地だった段階から、2011年8月、すっかり完成した姿が隅田川の花火と並んで見えた夜まで、52景のスカイツリーが記録されている。そこに、ありがちな「真下から仰ぎ見るスカイツリーの威容」なんてカットは1枚もない。あるときは近くから、あるときはすごく遠くから撮影されているのは、「風景の中のスカイツリー」だ。

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travel

福岡郊外に隠された匠の理想宮・・ 鏝絵美術館探訪記

「鏝絵」・・・「ウナギ絵」じゃありません、これで「こて絵」と読む。「鏝」とは左官屋さんが漆喰を塗るのに使う、あのコテ。したがって「こて絵」とは漆喰を素材にして、こてで描かれたレリーフ様の半立体美術作品である。 こて絵といえばまっさきに名前が挙がるのが、「伊豆の長八」こと入江長八。幕末から明治にかけて活躍した稀代のこて絵師であり、伊豆松崎には石山修武の設計になる『伊豆の長八美術館』があるので、訪れた経験のある方も多かろう。

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art

石子順造的世界:府中市美術館にて開催中

1970年代に『ガロ』を読みふけった世代にはおなじみ、石子順造は『キッチュ論』、『コミック論』などで知られた美術評論家であり漫画評論家。漫画にアングラ芸術、街場のデザインなど、当時見向きもされなかったストリート・レベルのアートの価値を積極的に評価した、先駆的な存在でした。昭和52(1977)年に、わずか49歳で亡くなっているので、もちろんお会いしたことはないけれど、業績を見てみれば僕の大師匠というか・・・。

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archive

見本市だよ人生は:レジャー&サービス産業展2007

露出度満点のキャンギャル(キャンペーン・ガール)とカメコ(カメラ小僧)は、愛憎半ばする結合双生児として、見本市会場に華(?)を添える存在である。師も走る12月のある平日、東京有明のビッグサイトでは、キャンギャル軍団はこれでもかと魅力を振りまいているのに、カメコがひとりもいない、異例の光景が展開していた。あー、もったいないというか、ちょっと寂しい。

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interview

烈伝・ニッポンの奇婦人たち 2 切腹アーティスト 早乙女宏美 [前編]

早乙女宏美はおそらく日本でただひとりの「切腹パフォーマンス・アーティスト」である。そしてピンク映画からSMビデオまで、数々の映像で男たちを魅了してきた伝説の女優であり、SMショーの花形であり、作家でもある。業界では知らぬもののない存在でありながら、一般のメディアからは不当に過小評価されつづけてきた、アンダーグラウンドのミューズ。その劇的な半生をこれから2週にわたってご紹介する。

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design

昭和のレコードデザイン集

レコードがCDになって音質はよくなったし、A面とB面をひっくりかえす必要もなくなったが、かわりに失われたものがある――ジャケットの魅力だ。あの、プラスチックのCDケースに封入された12センチ角のブックレットが、いかにお洒落にデザインされようと、30センチ角のLPジャケットや、シングル盤のビニール袋に入れられたペラのカバーにすら、とうていかないはしない。そして在りし日のLPを縮小した紙ジャケCDは、さらにもの悲しい。

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photography

石川真生『港町エレジー』

ここにあるのは『日の丸を視る目』のような明確な社会派メッセージではなく、おのれの肉体にすべてをかけて生きる男たちの圧倒的な存在感に、目を見張る女性写真家のまなざしです。撮影されたのはいまから20年以上前ということになりますが、これが50年前でも、いまでもたぶん変わらないであろう、フリチンの生き様。モノクロームの画面から匂い立つような、男臭さ。

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interview

烈伝・ニッポンの奇婦人たち 2 切腹アーティスト 早乙女宏美 [後編]

1983(昭和58)年、新宿東口の伝説的“ポルノデパート”ファイブ・ドアーズで働きはじめた早乙女宏美、ちょうど20歳になったころだった。ノーパン喫茶ふうのラウンジにテレフォンセックス、ポラロイド撮影など「5つのコーナー」にわかれていたファイブ・ドアーズは、ビニ本やピンク映画に女優さんを供給するプロダクション部門も持っていて、早乙女さんはそこに所属、本格的に雑誌モデルの仕事を始めるようになっていた。

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food & drink

電気の街の、わくわくうさぎランド

新・秋葉原の中心部に2月10日オープンしたばかりなのが『CANDY FRUIT うさぎの館』。その名のとおり、うさぎがいっぱいいる館なんです・・しかも動物のうさぎと、人間のうさぎが。猫カフェというのはよく聞くけれど、うさぎですか・・と絶句したら、連れてってくれた友達によると、すでに東京だけで10店以上、なぜか横浜にはさらに多くの「うさぎカフェ」が盛業中だとか。

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book

あいかわらず無茶なTRASH-UP 11号!

「出版界は構造不況で・・」とか、高給もらいながら能書き垂れてる大手出版社のオヤジたちに、正座して読んでほしいのが『トラッシュアップ』。「日本で唯一のトラッシュ・カルチャー・マガジン」と銘打たれてますが、たぶん世界でいちばん豪華な(笑)トラッシュ・カルチャー・マガジンじゃないでしょうか。だってA4の大判で300ページ超のボリューム。ちゃんとカラーページもあって、おまけに広告は(たぶん)表3と表4(裏表紙)だけ! いったいどうやったらこんなの成立するんだろうという、ミステリアスすぎる雑誌であります。

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photography

刺青村長!

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで今月28日から開催されるのが、片山恵悟さんの『刺青村長』。「刺青村長、変態村の住人たちの、歌と踊りのしつこい饗宴!」というキャッチコピーもイカレてますが、写真もすごい・・見ておわかりのとおり。片山さんは本業が雑誌編集者。それも『実話マッドマックス』『劇画マッドマックス』両誌の編集長という、なかなかスリリングな誌面の責任編集を長く続けているので、その人脈と度胸とエネルギーは大したもの。東京の、いちばんディープなアンダーグラウンド・シーンに案内してくれます。

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travel

いちばん近くて遠い街 釜山逍遙 前編

それまでも急ぎ旅の途中で立ち寄ることはあったけれど、初めてきちんと釜山を体験することができたのは2006年の春だった。芸術新潮誌の韓国特集のために、福岡からフェリーで釜山入り、帰りは飛行機で成田に帰ってくるというルートで、1週間ほど滞在、ひとりでひたすら街を歩き回った。当時使いはじめたばかりのデジカメと、木製の大型カメラを改造した手づくり針穴写真機を背負って。

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music & DVD review

田原総一郎 x 三上寛 ドキュメンタリーの原初的衝動

田原総一郎・・といえば「朝ナマで声張り上げてるオジサン」と思ってる方が、いまではほとんどかもしれないけれど、彼は1964(昭和39)年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に入社、77年にフリーランスになるまで、すばらしく過激なドキュメンタリー番組を作りつづけた敏腕、というか異能のディレクターでした。

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archive

素晴らしくバカげたアイデア

「人生には、ものすごくバカげて、でも魅力的なことが目の前にあらわれる瞬間がある」と彼は書いている。大多数の人間はそれを、単なる思いつきとして頭の中からふるい落としていくのだが、中にはそのバカげたアイデアに飛び込んでしまう人間がいる。その結果は最高だったり最低だったりするが、とりあえず飛び込んでしまえる人間は、ある意味ハッピーだ。自分もそういうハッピーな人間でありたいと、トニーはついに冷蔵庫を買い、アイルランド一周ヒッチハイクに旅立ってしまうのだ。

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art

周回遅れのトップランナー:仲村寿幸

2008年春、渋谷のポスターハリス・ギャラリーという小さな画廊から来た展覧会案内には驚かされた。展覧会のタイトルは『擬似的ダリの風景』。仲村寿幸というアーティスト名にはまったく聞き覚えがなく、時代感覚を超越したような、ばりばりのシュールな絵にも興味がわいたし、「初個展―苦節30年、積年の思念が遂に成就」というサブタイトルにも惹かれたが、それよりもなによりも、葉書に刷られた「作品管理者求む、全作品寄贈します!」という一行に度肝を抜かれたのだった。

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travel

いちばん近くて遠い街 釜山逍遙 後編

昔懐かしいムードのジャングル風呂で、童心に帰って全裸で遊ぶもよし、水着を借りて露天風呂でくつろぐのもよろしいが、忘れてならないのが広いパークのいちばん奥にある「地獄めぐり」。なぜに温泉と地獄がいっしょになってるのか、わかるようでわからないが、とにかくここにはゆるやかな坂道に沿って、地獄のさまざまなシーンが等身大の彫刻で再現されている。

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archive

上海スタイル

現地の出版社に勤務する吉井忍さんが、やはり出版社につとめる編集者の夫とふたりで暮らす新婚の部屋は、フランス租界の中心部にあった。戦前に中国人のビジネスマンが、フランス人ではなく中国人のために建てた共同住宅で、革命後に彼は家族とともに香港へ逃げてしまったものの、「最近里帰りして、ここを訪ねてきた」のだそう。いったい、どんな思いが亡命老人のこころに去来しただろうか。

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art

ワタノハスマイルが気づかせてくれたもの

大震災で壊滅的な被害にあった宮城県石巻市の小学校で、山積みにされたガレキをつかって、子供たちがこんなにおもしろい作品をつくっていて、それがもう日本中を巡回していることを、僕はうかつにもまったく知らなかった。 その小学校の名前を取って「ワタノハスマイル」と呼ばれるプロジェクトは、今週25日からイタリアに渡って展覧会を開催する。僕にとってはヴェニス・ビエンナーレとかより、はるかに興味深いその展覧会のために、石巻の子供たちを連れて渡航する準備で忙しい主催者の犬飼ともさんから、お話を聞くことができた。

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art

人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記

オープニングの夜だったか、トークショーのときだったか、いろんなお客さんに写真とラブドールの説明をしていたときに、じっとドールを見つめている、というか睨めまわしているひとりの男性が目に止まった。さっそく近づいていって、「これがオリエント工業という会社の最高級ラブドールで、お値段70万円・・」と得意になって説明しようとしたら、「知ってます、持ってますから」と返されてギャフン。それが「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴さんとの出会いだった。

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book

『東京右半分』ついに完成!

このメルマガの前に書いていた、ブログ時代からの読者諸君にはおなじみかもしれません、2009年9月から2011年10月まで丸2年間、全96話にわたって筑摩書房のウェブマガジンで続けてきた連載『東京右半分』が、やっと単行本になりました。すでにアマゾンなどでは予約が始まっていますし、書店にも23日ごろから並びます――。 (中略)2年間で歩き回った右半分を網羅して、撮った写真もぜんぶ見直して、できあがったのがこれ、576ページのハードカバー! はっきり言って重いです・・

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travel

南国地獄をあとにして・・・

地獄はおのれの内にある・・のかもしれないが、外にもあるんだな! というわけで先週日曜の深夜、浅草キッド(水道橋博士・玉袋筋太郎)のおふたりと、江口ともみさん(つまみ枝豆夫人でもありますね)という豪華メンバーとともに、タイの地獄寺&特選珍スポットを巡った『別冊アサ秘ジャーナル』、ご覧いただけたでしょうか。深夜とはいえ、あの内容で90分とは・・プロデューサーも賭けに出ましたねえ。あれ全部、2泊3日の弾丸ツアーで撮影しちゃったのだから、テレビってほんとに大変です。

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art

刑務所博物館で身もこころもヒンヤリ

Corrections Museum 廊下に沿った舎房を覗いてみると・・そこにはとんでもない拷問を受けている受刑者たち(のマネキン・・もちろん!)がいた。籐で編んだ巨大なボール(セパタクローで使うような)に囚人を入れ(しかもボールの内部には無数の釘が突き出している)、それを象に蹴らせる! なんてイマジネーション豊かすぎる拷問器具が、マネキン込みで展示されていて、迫力満点。こうした拷問は政令によって1934年に廃止されるまで行われていたというから・・恐ろしいですねえ。

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ログズ・ギャラリーの「農民車ショー」

ログズ・ギャラリーから久しぶりに届いた新しいプロジェクトのニュース、それが「農民車ショー」です。3月16日から25日まで、大阪市内で開かれた展覧会には残念ながら参加できなかったのですが、東京展への期待を込めて、ここにプロジェクトの紹介をさせてもらいます。 「農民車」という言葉は、僕も知りませんでしたが、淡路島の一部の地域でだけ使用されている、独特な手作り車両のこと。

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travel

圏外の街角から:福岡県大牟田市

長らく扉を閉ざしていた『富士』を改装して、ライブスペース『大牟田ふじ』として甦らせたのが、ディレクターを務める竹永省吾さんだ。僕は去年の秋に大牟田を訪れて知り合ったばかりなのだが、こんな寂れた街にライブハウス! という驚き以上に、オープン当初から灰野敬二、渋谷慶一郎、さらには海外からバリバリのハードコア、ノイズ系アーティストを呼んで、地元のバンドとカップリングさせるという無謀というか、東京でもなかなかない先鋭的なブッキングに度肝を抜かれたのだった。

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travel

伝説の生き河童・鯉とりまあしゃん

九州一の河川である筑後川流域の田主丸から吉井あたりは、昔から河童伝説が盛んに伝えられてきた土地。『珍日本紀行』でも田主丸の「カッパ駅」、吉井の「カッパ公園」を紹介しましたが、今回道草していただきたいのは田主丸町内、国道210号線沿いに店を構える『鯉の巣本店』だ。その名のとおり鯉料理とウナギを食べさせるこの店、なぜにわざわざ寄り道する意味があるのかと言えば・・創業者が「鯉とりまあしゃん」と呼ばれる、伝説の人物だから。

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art

妄想芸術劇場・ぴんから体操展、開催決定!

毎回告知欄でもお伝えしている「VOBO 妄想芸術劇場」を読んでいただいている方にはおなじみかと思いますが、我が国最強(最狂?)の素人露出投稿雑誌『ニャン2倶楽部』および『ニャン2倶楽部Z』の投稿イラストページで、創刊当初の1990年ごろから、もう20年以上も作品を発表しつづけてきた伝説の投稿職人「ぴんから体操」の展覧会を、ついに開催できることになりました。

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art

周回遅れのトップランナー 川上四郎

冬の陽が明るい畳敷きの一室で、目の前にずらりと絵画作品と写真プリントを並べて、ニコニコしている小柄な老人。絵も写真もずっとアマチュアでやってきた彼の作品を、名前を知るひとはいないだろう。でもいま、こうやって畳に座ってお茶を飲みながら見せてもらってる絵にも、写真にもオリジナルとしか言いようのない感覚があふれていて、画用紙やプリントをめくる手が止められない。だれも知らない場所で、だれも知らないひとが紡ぎ出す、だれも見たことのない世界・・・。

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art

『バッタもんのバッタもん』でバッタバタ

この展覧会のことを取り上げたのは、企画自体がおもしろいこともあるんですが、2010年神戸での展示がルイ・ヴィトン社の抗議にあって中止になったように、今回も参加作品の一部にギャラリー側からクレームがつき・・・結果として「ブラックボックス」と岡本さんが名づけた、モザイクをかけたように見える箱の中に展示することになったという、「またかよ!」な顛末を聞いたから。 その、問題の作品とは「アンパンもん」と「せんともん」。

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あの三角のとこ

京都に住んでいたころ、安売り屋で買ったママチャリをキコキコ漕いで、本屋やレコード屋や観光客の来ないお寺を巡るのが楽しい日課だった。疲れるとお菓子屋(これが京都には異常にたくさんある)かたこ焼き屋に寄って、包んでもらったのをその辺の公園か川沿いの土手で食べる。そのうち買い食いシーンにはかなり詳しくなったが、わかったのは「どこでなにを買うか」ではなく、「どこで食うか」がいちばん大事なポイントだということだった。味覚に訴えるのは食物そのものだけど、五感を満足させてくれるのは食べる環境なのだ。

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travel

マイ・フェバリット・オールド・バンコク 1

先月はこのメルマガで、タイの田舎の地獄庭園や個性的なミュージアムをご紹介した。タイ好きな方ならご存じだろうが、いまバンコクは、かつての東京のような激変の最中にある。というわけで古き良き東南アジアの都市風景を形成してきた「バンコクらしいバンコク」がどんどん消えていくいま、ショッピングやグルメやエステはちょっと置いといて、フィフティーズからセヴンティーズあたりの風情を残す、貴重な現存スポットを歩いてみてはいかがだろうか。

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music

ROADSIDE SONGS vol. 01 湯浅学&チプルソ 報告

記念すべき第1回に出演してくれたのは、音楽評論家でもある湯浅学、そして先月の『夜露死苦現代詩2.0』で取り上げた大阪のラッパー「チプルソ」。自主制作によるファースト・アルバム『一人宇宙』を出したばかりのニュー・アーティストですが、すでに新潮のサイト で、名曲『I LOVE ME』を聴いて涙したひともいるのでは。ふだんは大阪をベースに活動しているので、東京でライブを体験できる貴重なチャンスでした。

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travel

鬼と田我流――ヒップホップの最注目新譜2枚登場!

いままでに『夜露死苦現代詩2.0』に登場してくれた、ふたりの素晴らしいラッパーの新譜が、立て続けに発売されます。ひとりめは田我流。山梨県一宮をベースに地道な活動を続けてきましたが、昨年になって映画『サウダーヂ』の主役をつとめ、一気にその名(と読み方)を全国に知らしめました。 そしてもうひとりが「鬼」。そう、あの名曲『小名浜』で全国のワルたちをむせび泣かせた、福島県小名浜出身のラッパー。無頼と抒情が交錯するその世界観は、なんだか立原あゆみの『本気!』や『仁義』の世界に通じるものがあります。

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art

妄想芸術劇場:ぴんから体操展に寄せて

僕らが考えるプロフェッショナルなアーティストとは180度異なる創作の世界に生きる表現者が、それもメディアの最底辺にこれだけ存在していること。それをいままでほとんどだれも認識せず、もちろん現代美術界からも、アウトサイダー・アート業界からも完全に無視され、投稿写真マニアからさえ「自分たちより変態なやつら」と蔑視されながら、いまも生きつづけ、描きつづけていること。妄想芸術劇場とは、そうした暗夜の孤独な長距離走者を追いかける試みである。そして、そんな報われることのない長距離走の、もっとも伝説的なランナーをひとり挙げるとすれば、「ぴんから体操」であることに異議を唱える愛読者はいないだろう。

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travel

マイ・フェバリット・オールド・バンコク 2

いよいよゴールデンウィークも間近。運良くバンコク行きのチケットを買えたひとにはとっておきの情報を、行けないひとにもせめて旅情のお裾分けを・・というわけで、先週に続いてお送りする古き良き、そしていつなくなってしまうかわからないオールド・バンコクをめぐる旅。今回はバンコクへの旅行者にとって、おそらくいちばんなじみ深いであろうサイアム周辺の超老舗スポット2軒をご紹介する。サイアムあたりはバンコク観光ガイドでも最重要エリアとして扱われているが、今回ご紹介するのは、そういうガイドにはぜったい載らないであろう、でも僕が愛してやまないレトロ・デザイン・スポット。

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らせん階段一代記

関西には天下一品があって、名古屋にはスガキヤがあって、東京には富士そばがある。24時間営業、いつでも熱いそばが食べられて、シンプルなかけそばからコロッケ、春菊天までトッピングもバラエティ豊かなメニュー。忙しいさなかの昼飯から、酔っぱらったあとの夜食まで、あらゆるニーズに対応してくれる富士そばは、山手線内の東京都心部を中心に現在66店舗を展開中。実はかなり「東京の味」を代表する存在なのだ。

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interview

コラアゲンはいごうまんの夜

このメルマガで、お笑いを取り上げることはほとんどありません。つまり、僕自身はそれほど現在のお笑いシーンに興味がないのですが、久しぶりに、このひとはすごい! と脱帽する才能にめぐりあいました。それが「コラアゲンはいごうまん」という、奇妙な芸名のコメディアンです。ご存じの方もいると思いますが、コラアゲンはワハハ本舗所属の「体験型ドキュメンタリー芸人」です。

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art

三上正泰の、なんでもボールペン

昨年11月から今年2月まで、花巻の「るんぴにい美術館」という、小さなアウトサイダー・アート・ギャラリーのグループ展に参加しました。場所が岩手県なので、ご覧になれた方は多くないでしょうが、参加アーティストの中には初めて作品を見ることができた地元の作家もいて、僕としては興味津々。なかでも三上正泰さんの作品には目が釘付けになり、急いで模造紙を買ってきて、写真撮らせてもらいました。

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演歌歌手のオン・ザ・ロード

もともと彼女を取材した初めての機会は「カラオケファン」という月刊誌で、そのあとエスクァイア誌のために、営業の旅を追いかけて再取材、さらに去年出版した『演歌よ今夜も有難う』(平凡社刊)でも後書きに書き足しました。そして今回、写真をいっぱい足してもういちど・・しつこいけど・・それだけすごいひとが、ぜんぜん知名度ないままにがんばってるってことで、コラアゲンさんとペアで読んでいただけたらうれしいです。こういうひとたちが、ほんとは地球を回してるんだと信じつつ--。

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travel

圏外の街角から:神戸市稲荷市場

三ノ宮からJR神戸線の下り電車に乗ると、数分で着いてしまうのが神戸駅。名前が示唆するように、東海道線の終点駅であり、山陽本線の始点駅である神戸駅は、かつて神戸の鉄道網の中心だった。しかし時は過ぎ・・神戸駅を南下したあたりにあった兵庫港から、神戸港に物流の中心が移ったのと同じく、ひとの流れが三ノ宮側に傾いてしまった現在、東京駅や大阪駅のような感覚で神戸駅に初めて降り立つものは、だれしもが「ここが神戸の中心!?」と絶句するはずだ。

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ついでに新開地にも足をのばしてみれば

かつては神戸随一の繁華街として栄えた湊川新開地商店街。昼間からシャッターを閉める商店が目立つ中で、歩道まで商品をあふれさせているのが松野文具店だ。 名前こそ文房具屋だが、店先にはカレンダーや扇子といった少々毛色のちがう商品ばかりが、商店というより屋台が壁に埋まった趣の極小空間にびっしり詰め込まれ、その真ん中にからだを丸めて座っているのが、ご主人の松野宏三さん。

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lifestyle

ウグイス谷のゴム人間

深夜3時、日付が変わって5月6日になった鶯谷の「東京キネマ倶楽部」。舞台を埋めつくすのはピーコックのように、レインボーのようにカラフルなゴムの衣裳を着込み、というより全身に被せて、思い思いのポーズを決める60人近くの「ラバーフェチ」。そしてその足元に群がる、さらに多くのカメラマン、というよりカメラ小僧。なんでラバーなのかって? それは5月6日が「ゴムの日」だから。そしてここが月にいちどの『デパートメントH』だから!

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art

おとなしい顔の魔界都市:広島県福山市アウトサイダー・アート紀行

「占」「占」「占」「占」「ピタリ当たる」「神界」「大天国」「的あたーれ」・・・独特の丸文字と原色の描き文字看板で、初めて見るひとをギョッとさせ、見慣れたひとの目を伏せさせずにはおかない、あまりにインパクト充分な木造モルタル家屋が、サウナとパチンコ屋のあいだに挟まって、きょうも精一杯の自己主張を繰り広げている。ここが福山きっての裏名物『占い天界』(正式名称・新マサキ占術鑑定所)だ。

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travel

街は千の目を持つ:鏡の国の路地裏紀行

江戸時代から明治・大正・昭和の建物が自然なかたちで混在する街並みは、景観保存条例などによって無菌培養のように残された街とはまたちがった、おだやかに時間が止まっている感覚がある。宮崎駿が2005年にこの街の一軒家を2ヶ月間借り切って滞在、そこで育んだ構想が『崖の上のポニョ』に結実したこともよく知られている。

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archive

ニッポンの「性」を変えた目黒エンペラー

日本におけるモーテル第一号といわれる『モテル北陸』が、石川県加賀市にオープンしたのは1963年のこと。68年にはそれまでの簡素な造りから、贅沢な設備とインテリアをウリにした『モテル京浜』が開業、モーテルからラブホテル時代への架け橋となったが(いまも横浜新道脇にホテルニュー京浜として営業中)、それまでの暗いイメージを払拭する決定打となったのが、1973年に開業した『目黒エンペラー』である。

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book

春の書評特集

身軽になりたい、モノに埋もれたくないと思っても、いつのまにか溜まってしまう本や雑誌。なかなか新聞や雑誌では紹介されない、でもみんなに知ってほしい新刊を、これから「書評特集」として、年に何度かまとめてレビューしたいと思います。だいたい500字とか1000字とかしかくれない新聞や雑誌の新刊紹介で、気に入った本のちゃんとした紹介なんてできるわけないし! というわけで、今回は4冊の写真集を選んでみました。

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art

鞆の浦おかんアート紀行

今回の展覧会では、先週ご紹介した福山のアウトサイダー・ルポルタージュのほかに、鞆の浦で出会ったカリスマ・おかんアーティストたちとその作品群も展示される。アート・ギャラリーで「おかんアート」が、ファインアートに混じって展示されるのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。規模は小さいが、実家の茶の間やスナックのカウンターとかではなく、ギャラリーという展示空間でどう見えるのか、僕としても興味津々だ。

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オレサマ商店建築:ホストクラブ愛

いまだに電飾ギラギラ、そこだけエレクトリック・サーカスのごとく激しい夜のオーラを放っているのが、愛田武社長ひきいる愛田観光グループ。現存最古の老舗ホストクラブ『愛』本店を中心に『ニュー愛』、パブ『カサノバ』、おなべBAR『マリリン』など数店舗を歌舞伎町の一角に集中経営する愛田社長は、この町でもっとも知られた顔である。

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interview

突撃! 隣の変態さん 1 チェリスQ

都内某所、私鉄沿線の駅を降りて商店街を抜けた先に「チェリスQ」の基地がある。屋根裏部屋を使った、立つどころか四つん這いでないと入ることも動くこともできない、その超高密度空間に案内されて、僕はしばし言葉を失った・・。 チェリスさんは「美少女系ドーラーコスプレイヤー&美脚着ぐるみパフォーマー」だ。大型美少女仮面を頭からかぶり、からだにはコスチュームをまとって、イベントに出没したりパフォーマンスを展開する「着ぐるみマニアさん」のなかでも、知らぬもののないベテランのひとりである。

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海と魚とゴミの天国・走島

諸般の事情から展覧会では作品タイトルが『ゴミ福山産』とされたが、淀テクのおふたりによれば、走島は「ものすごくきれいな海と浜とゴミがあって、ナンバープレートのない原チャリや軽トラが爆走する島です!」という、たいへんにおもしろそうな島だったので、翌朝鞆の浦港からフェリーに乗って、半日観光を楽しんできた。今回はその「離島ちい散歩」をお送りする。

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Between C & D

カネはないが元気だけはありあまってる、そういうアーティストがおもに住んでいたのが、ニューヨークではダウンタウン・マンハッタンの東側、ロウアー・イーストサイドと呼ばれる地域だった。ご承知のようにマンハッタンは東から縦に1、2,3と順番にアヴェニューが走っているが、ロウアー・イーストサイドにはファースト・アヴェニューのさらに東側にアヴェニューA、B、C、Dという短いアヴェニューがある。

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art

ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 1

今週、来週の2回にわたって、そのドクメンタの「理想と現実」、「コンセプトとリアリティ」を、僕なりに考えながらリポートさせていただく。その1回目は、56の国・地域から約190人/組が参加したなかで、唯一の日本人アーティストとなった大竹伸朗の作品『モンシェリ:スクラップ小屋としての自画像』を、作家本人の言葉を交えながらたっぷりご紹介しよう。

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photography

地霊:多田裕美子と山谷の男たち

仕事にあぶれた男たちが道ばたにうずくまる山谷の通りを、まるで山谷っぽくない、若い女の子がカメラを提げて歩いて行く。後ろに続くのは重そうなカメラバッグや三脚や、背景布を担いだ、いかにも山谷の男たち。ちょっと変わった一行は、山谷の中心である玉姫公園に到着すると、慣れた手つきで黒い背景布を広げ、カメラをセットし、植え込みの一角に板を立てる。その板にはこんな文句が書かれていた――

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ダンスに捧げた人生――『まだ踊る Still dancing』

『まだ踊る Still dancing』と名づけられたそれは、黒沢輝夫・下田栄子・黒沢美香の3人による舞台だ。ダンス・ファンなら黒沢美香さんの名前を知るひとは多いと思うが、黒沢輝夫さんと下田栄子さんは美香さんのご両親であり、黒沢さんが84歳、下田さんが80歳の現役舞踊家。しかもプログラムの最後は、おふたりに縁の深い日本モダンダンスの先駆者である石井漠(いしい・ばく=自由が丘の名付け親でもある)が1921(大正10)年に初演した『山を登る』の歴史的再演でもある。

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ドクメンタ・リポート:裸の王様たちの国 2

先週に続いてお送りする「ドクメンタ13」リポート。今週は広大な会場を歩き回りながら(これから訪れるひとには自転車レンタルを強くおすすめしておく)、なにを見て、なにを考えたのかをなぞってみようと思う。

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特別集中連載:カッセルでの日々 3 (写真・文 大竹伸朗)

滞在場所であるアパートとドクメンタ本部、森の設置場所の位置関係もきちんと把握できないまま毎朝チャリ発進の日々が始まった。日本とくらべると真冬に近い気候の中、時にロンドンの遠い日々を時に別海での忘却の彼方が頭をよぎり樫の巨木元とにかく終わりの見えない作業に突入した。「小屋作品」の最終形はここカッセルで何を拾うかにすべてがかかっている。

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interview

突撃! 隣の変態さん 2 サエボーグ

デパートメントH・ゴムの日特集でも、とりわけ異様に目立っていたラバー・パフォーマーがサエボーグさんと友人たちだった。なにせ空気で膨らませたラバー製の農婦(サエノーフ)、そのうしろには雌牛が出てきて搾乳、そのあとはメンドリが出てきてタマゴを産む! という驚愕のステージが展開されたのだから。

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明暗分かれるケルンのふたつのミュージアム

ベルリンにお株を奪われるまでは、ドイツ現代美術シーンの中心だったケルン。いまケルンを訪れる美術、建築ファンが真っ先に向かうのは、完成まで600年かかった奇跡のケルン大聖堂・・・じゃなくて、そのすぐそばに2008年に完成した通称「コロンバ」―― 聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館だろう。

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うれし恥ずかし駅前彫刻

ある日、友人から届いた封書には「都築くんならこういうの好きかと思って・・」というメッセージとともに、小さな手づくり雑誌が2冊入っていた。『駅前彫刻』と『駅前彫刻2』と題されたそれは、名前のとおり駅前や公園や道端に、だれにも気にされないままひっそりたたずむ、ブロンズや石の彫刻作品を撮影した写真集だった。

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book

発禁本から世界が見える

先週は用事で大学を3つほど訪れた。最初に行った江古田の日大芸術学部は、門でいきなりガードマンに止められる。来訪者はすべて記名、訪問者カードを首から下げさせられた。そのあと慶応大学日吉キャンパスと、明治大学駿河台キャンパスに行ったら、こちらはまるで出入り自由。なんだか大学のランクとキャンパスの開放度って、相関関係にあるみたいだ。

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ゴシックホラー喫茶・伴天連

広島県東広島市西条。県道32号線から「広島カントリークラブ西条コース」の指示看板を頼りに脇道に入り、コース内を通り抜けて裏山へと登っていく。人家も途絶え、こんなところに・・と不安が募るころ、カーブした道の先に「伴天連」と大書された柱が。ああ、やっと見つかった。これが広島エリアで名高い「ゴシックホラー喫茶」伴天連(バテレン)なのだ。いままでテレビ番組などで何度も取り上げられた、ある意味地元きっての有名店である。

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突撃! 隣の変態さん 3 ラバーマン

フェティッシュ・イベント「デパートメントH ゴムの日スペシャル」で、スレンダーな肢体にぴたぴたのラバーをまとう美男美女がステージを埋める中、際だって異彩を放っていたのがこのひと、「ラバーマン」だった。 フェティッシュ、ビザールというファッショナブルな言葉よりも、「異形」という漢字がいちばんよく似合う、それはただひとり異界に君臨する孤独な王の風情だった。台車の玉座と、ガスマスクの王冠と、ラバーの王衣にくるまれた・・・。

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反抗者としてのガリ版画家

福井良之助の孔版画は、そのガリ版による版画です。ガリ版といえば、ラフなタッチが良くも悪くも特徴なのに、彼の作品は「これがガリ版!」と声を上げずにいられない、すばらしく精緻な版画に仕上がっています。僕も最初に見たときは「ガリ版」というのが信じられず、孔版という言葉をまちがって覚えていたのかと焦りました。

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70歳のマダムが支えつづけるロック・スピリット

歌舞伎町から大ガードをくぐって西口側に出る靖国通りと、いまは大江戸線が地下を走る小滝橋通りの交差点から、北側に広がる新宿7丁目あたり。“新宿”という語感からはちょっとはずれた地味なエリアである。ここが超のつくレア盤からブートレッグ(海賊版)まで網羅した店が一時は50軒以上も林立した、世界一密度の濃いレコードCD屋街でありつづけていることは、一部の音楽ファン以外にあまり知られていない。そういうマニアックなエリアの中で、日本はもとより世界のロック・ファンにとって聖地として輝くのが、新宿レコードである。

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art

日本でいちばん展覧会を見る男

日本でいちばん展覧会に行ってるひとって、だれだろう。僕はこのひとだと思う――山口“Gucci”佳宏、通称「グッチ」さん。でも、彼は美術評論家でもなければ学芸員でも画商でも、美術運送業者でもない。グッチさんはレゲエ・ミュージックに長く関わってきた、生粋の音楽業界人なのだ。グッチさんが行った展覧会を数えると、ここ5年間でこういう数字になる・・2007年 539、2008年 724、2009年 1106、2010年 585、2011年 677

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photography

大阪式とベルギー式

四ッ谷3丁目のギャラリー・シュハリで開催中の『大阪式 コノハナ/24区』。以前にこのメルマガでも紹介した、大阪出身の写真家・谷本恵さんの、4回目となる『大阪式』です(以前の記事は1月18日号参照)。今回は天王寺エリアを離れ、これまたディープな大阪湾に面した此花区に遠征。いつものように、なんとも言えないリアル・ナニワ・スタイルをキャッチしていて、見てるだけで大阪下町世界にワープさせられる気分です。添えられたテキストも、渋い人情味満点で、ホロリとなりますよ~。

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archive

タイガーバーム・ガーデンズ(ハウパー・ヴィラ/虎豹別墅)

胡文虎(Aw Boon How 1882-1954)と胡文豹(Aw Boo Par 1888~1944)の兄弟が築いた万能軟膏タイガーバーム帝国。ミャンマー(ビルマ)のヤンゴンで華僑の漢方薬屋に生まれたふたりの兄弟が、タイガーバーム(萬金油)の発明で億万長者にのし上がったのはすでに戦前のことだった。1926年には拠点をシンガポールに移し、32年に香港進出。豊富な資金をもとに「伝統的な中国の神話や道教の教えを説く,啓蒙の場所」として35年にタイガーバーム・ガーデン香港を開き、2年後の37年にはシンガポールにも同様のガーデンをオープンさせた。

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fashion

池袋のラバー女神たち

5月6日=「ゴムの日」にちなんだ、フェティッシュ・イベント「デパートメントH ラバーマニア大集合」編リポートを、5月9日配信号でお届けしたが、そのステージで大フィーチャーされたのが池袋に拠点を置くラバー・ファッション工房『KURAGE』。この2月にはNHKの「東京★カワイイTV」でも特集されたので、番組で見た!という方も多いのでは。そのKURAGEが新店舗開設を記念して、いま東新宿軍艦ビル内のワンルーム・ギャラリー『どっきん実験室』にて、初の展覧会を開催中だ(7月28日まで)。

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movie

ズレの神様 ―― 灰野敬二と大竹伸朗

先週から渋谷の映画館で『ドキュメンタリー灰野敬二』が始まっている。ツイッターやブログなどでもずいぶん話題になっているので、このメルマガ読者の方々でも、すでに観たひと、これから観るつもりのひとがいらっしゃるだろう。灰野敬二は1952(昭和27)年生まれ。今年還暦にして、もう40年間にわたって「轟きわたる静寂 優しすぎる轟音」(映画コピーより)という唯一無二の音楽をつくってきたアーティストだし、監督の白尾一博は『美代子阿佐ヶ谷気分』や、僕の好きな『ヨコハマメリー』のプロデューサー兼編集を担当している注目の映像作家なので、おもしろくないわけがない。

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新連載:スナックショット(平田順一)

もうずいぶん前に、平田順一という青年と知り合った。彼は工場で働く日々を過ごしながら、お菓子のブリキ缶などを並べて叩きながら自作の歌を歌うノイズ・フォークみたいな音楽活動を続け、さらには休みを利用して地方のスナック街を歩き回り、看板などを撮影しているという。後日、その写真アルバムを見せてもらったら、フットワークがすごいし、なにより視点がおもしろい。それに、僕が撮影したスナックとずいぶんかぶってる!

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photography

サードライフにようこそ

古くからの友人でノーバート・ショルナーという写真家/映像作家がいます。ドイツ出身、1989年にロンドンにやってきて、当時最先端だった『FACE』や『i-D』誌で、いきなり活躍しはじめました。僕が知り合ったのもそのちょっと後ぐらいですが、ヴォーグをはじめとする世界中のハイファッション誌で、シャネルにプラダ、マックイーンまでトップデザイナーのファッションを撮影するような超売れっ子でありながら、いつも画面にはちょいブラックで悪戯っぽいテイストが見え隠れしていて、すごく好きなフォトグラファーでした。

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女性のようにオシッコできたら―― 岡田快適生活研究所の孤独な挑戦

松山空港に着いて外に出てみると、空気が煙って見えるほどの豪雨だった。とりあえずタクシーに乗り込み、グーグルの地図を見せると、ほんの10分ほどで指定された住所に着いたのだが・・そこは田んぼが広がる中の一軒家。ここがほんとにそうなの? タクシーの運転手さんも、「確かめるまで待っててあげましょうか」と心配顔だ。岡田快適生活研究所――いま性同一障害のひとや、女装子さんたちの注目を集める「ペニストッキング」をはじめとする、素晴らしく独創的なラインナップのスーパー特殊下着を次々に開発・販売しているメーカーが、東京でも大阪でもなく、松山の市中ですらなく、失礼ながらこんな場所にあって、こんなに普通の家から日本全国に送り出されているとは、だれが想像できようか・・。

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photography

アメリカの『ねじ式』

以前このメルマガで『ヤング・ポートフォリオ』という企画展を紹介した清里フォトアートミュージアムで、いま『Flash! Flash! Flash! エジャートン博士、O.ウィンストン・リンク、ERICの写真』という、なかなか変化球の展覧会が開催中だ(12月24日まで)。この3人の名前だけでピンと来るひとはかなりの写真通だろう。ハロルド・エジャートン博士は、ストロボの発明者として有名。撮影に25年間を費やしたという「ミルククラウン」や、リンゴを突き抜ける弾丸の写真は、いちどは見たことあるひとも多いはずだ。

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archive

人に見られたくない我が故郷

今週のアーカイブは2005年にミリオン出版から一瞬だけ出版された『実話ブルース銀ちゃん』って・・これ、ほんとに雑誌名なんですから。いかにも3号雑誌っぽいネーミングだけど、実際はたしか1号で終わってしまったのでは(ちがったらごめんなさい!)。この雑誌で連載(といっても1回だけ・・涙)したのが、「帰りたくない故郷に、むりやり帰省してもらい、なんにもない町を案内してもらう」という無茶な企画。もしかして長期連載にでもなってたら、いったいどうなったんでしょう・・。しかしいまや、この池田町でさえ、2006年に合併して町名消失、三好市になっちゃいました・・。

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みちのく路の特殊美術喫茶・ブルボン

福島県いわき市・・県内最大の都市であり、東北全体でも仙台に次いで第2の人口を誇っているが、いかんせん知名度の低さはいなめない。先週号の編集後記でも触れたように、去年の大震災では死者310名、家屋の全半壊が数万軒にのぼる甚大な被害を出しながら、石巻などのようにマスコミに取り上げられる機会もほとんどないまま。福島第一、第二原発から30~70キロ圏内にあることで、なかなか観光客も戻ってこない。スパリゾートハワイアンズも、ようやく2月に全面再開したのに。 そのように地味なイメージを払拭できないいわき市ではあるが、珍スポット・ハンターたちには広く知られた名所がある。市内中心部、平(たいら)1丁目交差点近くにある『喫茶ブルボン』だ。

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夭折の天才少年画家・沼祐一

会場は老若男女の山下清ファンで、オープン早々にもかかわらず驚くほど混み合っていた。『山下清とその仲間たち』と題されているように、本展は山下清を中心に、八幡学園で育った子供たちの作品が展示されているのだが、もちろん多くの入館者のお目当ては山下清。でも僕としては山下清はもちろん大好きだけれど(容姿も似てるし)、なかなか原画を見る機会のない他の入園児童たち、なかでも「沼祐一」という名の少年にすごく興味があった。以前に本の図版で見ただけで、原画はいちども見たことがなかったが、そのクオリティの高さには衝撃を受けていたので・・。

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連載:スナックショット 02 北海道 前編(平田順一)

どうも前回都築編集長からご紹介賜っております、得体の知れないノイズフォークシンガーの平田です。今回は夏の北海道、次から徐々に南へ進んでいこうかと思います。新幹線と高速道路が延びて地方空港の整備がすすんでも、気候と地理的条件は簡単に変えられないもので、炎天下の東京にいると、夏の北海道が天国のように眩しくみえる。2006年8月、求職中だった私は都内でJRに乗っていて、44000円で5日間北海道のJR乗り放題「ぐるり北海道フリー切符」のポスターを発見。金銭的にはやや苦しいが、応募中の仕事が進展していないので、盆休みをずらした夏の北海道に行くチャンスである。

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スナックの灯よ 闇夜を照らせ

3月11日から3ヶ月近く経った6月になっても、仙台塩釜港にほど近い多賀城市の飲み屋街は、がれきだらけだった。『さざん花』『ハニー』『酔族館』・・ぐちゃぐちゃになったドアや看板の先に、ひとつだけ灯りがついた飲食雑居ビルが見えた。がれきが積み上げられたエントランスを抜け、止まったままのエレベーターの脇の非常階段を2階まで上がってみると、一軒のスナックから楽しそうなカラオケの音が漏れている。そっとドアを開けてみると、若いママさんと、さらに若い女の子たちと、お客さんたちで店内はほぼ満員。いい感じに盛り上がってる! 少しずつ詰めてもらって空いた席に座って、とりあえずウーロンハイをぐびり。被災地を歩き回ってカチカチになっていたこころのしこりが、なんだか一気に溶けていくような気がした・・。

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バンコク猟盤日記

来週はお盆! 夏休み! メルマガに休みはないけど・・・。というわけで、来週はタイで夏休みを過ごそうというひともいるでしょう。羨ましい・・・。 ご飯にショッピングにエステ、いろんな計画を立てているみなさまに、今回はタイのレコード屋めぐりをおすすめする「バンコク猟盤日記」。タイ語が読めなくても、タイの音楽にまったくなじみがなくても、ジャケットを見ているだけでうっとりしてしまう、タイ製アナログ盤の魅力をご紹介しよう。僕がタイに通いはじめたのは、いまから10年ぐらい前。そして2004年から数年間は、年に何回もバンコクに通う「ハマリ状態」に。

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夜露死苦現代詩2.0 最終回 レイトのアートワーク

文芸誌『新潮』で去年初めから連載してきた、日本語ラップの詩人たちを訪ね歩く旅「夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち」が、昨日発売の第15回で最終回を迎えました。これから単行本化の作業に入りますので、お楽しみにお待ちください。THA BLUE HERBにはじまって、B.I.G. JOE、鬼、田我流、RUMI、TwiGy、ANARCHY、TOKONA-X、小林勝行、チプルソ、ERA、志人、NORIKIYO、ZONE THE DARKNESSと、個性的なラッパーたちをたくさん紹介してきましたが、最終回を飾ってくれた「レイト」も、これまでの14人に負けず劣らずの超個性派。いままで登場したなかでもっとも詩的な感性にあふれたリリックを書くひとりです――。

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連載:スナックショット 03 北海道 後編(平田順一)

北海道には過去3回行っている。1回目は1990年で札幌と函館に行ったが、これは団体旅行のため自由行動皆無である。2回目は1998年で、この時も5日間乗り放題の「北海道フリー切符」を使用して稚内・網走・根室まで行ったが、JRの乗車距離を稼ぐあまり全部車中泊となってしまった。3回目は2003年で、往復千歳空港・札幌市内泊の格安ツアーパックを利用している。今回は4回目だが、過去3回は函館と札幌以外、ほとんど街を歩いていない。これを補完する意味で、徹底して街を歩くつもりで来ており実際に初日で7都市を歩いた。旭川のホテルでゆっくり考えようと思ったが、ビール3缶飲んだら眠ってしまった。

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國華という奇跡

現代美術がどれだけわかりにくいか、どこまで低俗に、グロテスクに堕ちられるかを競うゲームのようになりつつあるいっぽうで、いま古典美術に新鮮な関心を向ける人が増えている。記録的な成功を収めた若冲大回顧展でも、京都国立博物館を取り巻いて長い列を作ったのは、旧来の美術愛好家とはずいぶんちがう雰囲気の人たちが多かった。考えてみれば東京や京都の博物館にしても、名品を伝える寺社にしても、ずっと昔からそこにあったわけで、単にこちらの足が向かなかっただけのこと。「遠くの現代より近くの古典」、というのは少々おかしな言い方だが、すぐそばにありすぎて気がつかなかった「美」が、急に霧が晴れるように姿をあらわす、そんなときがあるようだ。

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圏外の街角から:鳥取市若桜通り

鳥取駅から県庁に向かって北に真っ直ぐのびる本通り(若桜通りとも)が、鳥取市のメインストリート。その両側と、左右にのびる商店街が、かつては鳥取市の買い物需要を一手に引き受けていた。本通りあたりの街並みは、実は近現代建築史の分野ではよく知られた存在なのだという。鳥取市は太平洋戦争最中の1943年に、死者1210人を出した大地震と、戦後間もない1952年の「鳥取火災」と呼ばれる、市内全世帯の約半数を焼失した大惨事によって、市内中心部の歴史的な街並みをほとんど失ってしまった。

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海景と死者の町

1時間かそこら走って、車窓の左側に大山の雄大な景観が見えてくるころ、JR山陰本線・赤崎駅への曲がり角がある。もともとの名前を赤崎町、2004年からは町村合併で琴浦町と呼ばれるようになった、あっというまに走りすぎてしまうような小さな漁村。どんな観光ガイドブックにも載らないこの地味な町に、これまた観光ガイドには載らない、とびきりの奇景が隠されている。ふつうの観光名所のように、道路標識はない。カーナビにも表示されない。「道の駅・ポート赤崎」を過ぎて、赤崎駅入口の交差点に差し掛かったら、その信号を海側に右折すれば、そこが赤崎の町。そしてさらに海側を走る細い道を見つけたら、それを右に折れてみよう。すると左の海側に・・すぐ見つかるはずだ、巨大な墓地が。

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連載:スナックショット 04 青森(平田順一)

どうも流浪のノイズフォークシンガー平田です。 2010年に開通した新幹線で、東京から3時間10分で着くようになった青森市ですが、ちょっとスピードと時間が実際の距離感覚に追いつかないというか、便利なのは良いですが小奇麗になりすぎて、演歌の似合いそうなスナックが急に淘汰されるんじゃないかとも思います。その新幹線の開通前、2007年と2009年に歩いた青森県下の記録です。

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記憶の島

川崎の生田緑地にある岡本太郎美術館で、いま『記憶の島――岡本太郎と宮本常一が撮った日本』という展覧会が開催中です(10月8日まで)。宮本常一(みやもと・つねいち)は偉大な民俗学者であり、僕のこころの師匠でもあるというか・・『土佐源氏』のような物語を、死ぬまでにひとつでいいから書いてみたいというのが夢でもあり。宮本常一は1907(明治40)年、岡本太郎は1911(明治44)年生まれ。ふたりは同時代人でもありました。そして岡本が華々しく活躍しながら、美術業界からは常に一歩引いた目で見られてきたように、宮本もまた民俗学の本流であった柳田国男派から長らく、徹底的に冷ややかな目で見られてきた、アウトサイダー的な存在でもありました。

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軽金属の娼婦たち

いっとき、日本でだれよりもよく知られたイラストレーターで、いまはほとんど雑誌でも広告でも作品を見ることのなくなってしまったひと、それが空山基(そらやま・はじめ)である。「ソラヤマ」の名前を知らない世代でも、あのメタリックなアンドロイド美女のイメージは、どこかでいちどは見たことがあるだろう。空山さんはいま、商業イラストレーションではなく、オリジナルのドローイングを国内・海外のギャラリーで展示販売する、画家としての活動に集中している。

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旅のついでに展覧会めぐり

まだまだ猛暑のただ中ではありますが、先週から各地でちょっとストレンジ・テイストな展覧会がスタートしたり、もうすぐ始まったりします。もう夏休み終わっちゃった! という方も多いでしょうが、ここでまとめてご紹介しておきます。場所は広島、山口、滋賀、東京・・どれかひとつでも、どこかで巡り会えますように。まずは以前、僕もオープニングのグループ展『リサイクルリサイタル』に参加した、広島県福山市の鞆の津ミュージアムでは、先週土曜日から『万国モナリザ大博覧会』なる展覧会を開催中。ちょうど空山基さんのハードコアなモナリザをお見せしたばかりですが――

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紫峰人形美術館

秋祭りの華ともいうべき菊人形。色とりどりの菊花を全身に挿した等身大の人形が、民話や歌舞伎の名場面を演じ出す伝統的な見世物だ。名古屋中心部から電車でも車でも1時間足らず、愛知県三河地方の高浜市吉浜は、いまでこそトヨタ関連の工場群と郊外型住宅が混在するサバービア・タウンだが、実はいまでも全国の祭りを飾る菊人形を制作する職人の7割を出している人形の町でもある。

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突撃! 隣の変態さん 4 円奴

男に生まれて、ゲイになって、女装子になって、ついに本物の女になったひと。グラフィックデザイナー、イラストレーター、キャラクターデザイナーで、パフォーマーでありダンサーで、女装サロン・オーナーで、そうしていまは画廊経営者でもあるひと。こんな経歴の持主って、ものすごく複雑で、ものすごく純粋なのにちがいない。このメルマガでも以前に紹介した歌舞伎町職安通り・軍艦ビル内のギャラリー「どっきん実験室」を運営する円奴(まるやっこ)は、そんなふうにユニークな存在だ。

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オリンピックの芸術競技

オリンピック開催ごとにトリビア・クイズなんかに出てくるが、かつてオリンッピックには「芸術競技」という部門があったのをご存じだろうか。 近代オリンピックの父・クーベルタン男爵の提唱で始まった初期のオリンピック規約には、「スポーツと芸術の部門で競技を行わなくてはならない」と定められていたそうだ。もともとスポーツを文化、芸術、さらには信仰の発露としてとらえた古代ギリシア人の精神に則って再興された近代オリンピックだから、芸術競技が設けられたのもおかしくない。

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連載:スナックショット 05 秋田(平田順一)

どうもスナック昼の部担当の平田です。先日、岡本太郎美術館で開催されている写真展『記憶の島――岡本太郎と宮本常一が撮った日本』に行ってきました。思わず惹きつけられずにはいられない強い眼光の岡本太郎に対して、風景と人々に溶け込むような宮本常一の柔和な眼差しが印象的でした。写真を撮る以前に、あの視線とスタンスを心掛けたいと思いつつ、今回は2002~2007年に敢行したスナックショット秋田篇です。

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須坂の夜は、やっぱりスナック来夢来人!

信州中野生まれの小林千枝子ママは、須坂の会社で事務員として働いたあと、何軒かのスナック勤めを経て、平成元年に自分の店を出した。「主婦しながらだったので、朝は主人と子供たちを送り出して、昼はパート、夜にいちど家に帰って、ご飯作ったりしたあと、夜11時から朝2時ぐらいまでスナックで働いてましたからねえ、よくからだが持ったもんです」と当時を思い出して笑っているが、子育てと夜の仕事の両立は、さぞや大変だったろう。

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夏の終わりの絶叫体験

まだバブルの酔いから日本中が覚めきらなかった1992(平成4)年、後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ)で『ルナパーク』というイベントが始まった。そのルナパーク内で異彩を放っていたのが、お化け屋敷だった。『麿赤児のパノラマ 怪奇館』と名づけられたそのお化け屋敷は、それまで常識だった場面ごと、部屋ごとに怖がらせるスタイルではなく、屋敷全体にひとつのストーリーを設定し、そのストーリーにお客さんが能動的に関わっていくという、考えてみればかなり現代演劇的なアプローチで、すごく新鮮だった記憶がある。

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photography

鳥取の店構え

こないだ鳥取の図書館で、鳥取市内の繁華街の写真を探していたときのこと。地元史の棚で、ペーパーバックの地味な写真集が目にとまった。『池本喜巳写真集 近世店屋考』――なにげなく手にとってパラパラしてみたら、それは鳥取県内の昔ながらの商店をモノクロームで撮影した記録だった。床屋、米屋、金物屋、時計屋、荒物屋、酒屋、駄菓子屋・・・大型カメラでじっくりきっちり、構図を固めて写し取られた空間と人物たち。1983年から2005年というから、20年間以上にわたって収集された鳥取の商店は、どれも数十年の歴史を経てきたものばかりだ。それは昭和そのものにも見えるし、いまでも地方の旧道を走っていると、カーブを曲がった先にひょっと現れそうでもある。

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平田一式飾:山陰のアルチンボルドたち

島根県平田市・・・ああ、あそこねとうなずく人は少ないだろう。出雲大社からクルマで30分ほど。シジミで有名な宍道湖そばにある小さな町である。毎年7月19日から3日間、平田天満宮の祭礼にあわせて、市内の数ヶ所に不思議なオブジェが出現する。陶器や仏具をはじめとするさまざまな日用品を組み合わせて作られる、「一式飾」(いっしきかざり)と呼ばれる飾り物である。陶器なら陶器だけ、仏具なら仏具だけと、1種類の素材だけを使って組み上げられることから「一式飾」と名がついたこの行事、江戸時代は寛政5年(1793)年に平田町の住人であった表具師・桔梗屋十兵衛が、茶器一式で大黒天像を造って天満宮に奉納したのを始まりとする。すでに210年以上の歴史を持つ伝統行事なのだ。

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food & drink

ロボットレストランというお祭り空間

新宿歌舞伎町の中心部、区役所裏の超一等地に、ロボットレストランがいきなり姿をあらわしたのがこの7月のこと。大通りを走り回るロボット・カーに度肝を抜かれ、道端で配られたティッシュの「オープン迄にかかった総費用・総額100億円」の文言に二度ビックリ。で、ロボットレストランというから、ロボットがサービスしてくれる、未来型ハイテク・レストランかと思いきや、肌もあらわなセクシー美女たちが踊ってくれる「ロボット&ダンスショー」が楽しめる、シアター形式の店だという・・・。ほとんどワケのわからないまま、この夏の東京の、夜の話題を独占した感のあるロボットレストラン。

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夢見る愛玩人形家具たち

本メルマガ読者の方々なら、すでにご存じの方も多かろう、上野御徒町に本拠を置くオリエント工業。『東京右半分』でも大きく紹介した、世界最高級のラブドール・メーカーである。そのオリエント工業が創業35周年を記念して発表した、とんでもない新プロジェクトがこれ、「愛玩人形家具=ラブドールファニチャー」だ。女体家具と言えば「家畜人ヤプー」を想起するひともいるだろうし、60年代ブリティッシュ・ポップの代表格アレン・ジョーンズの女体家具彫刻を思い出すひともいるだろう。

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travel

連載:スナックショット 06 岩手(平田順一)

スナックショットの旅行に出るまえに鉄道時刻表と、中学の社会科で使っていた地図帳を参照している。中学の地図帳は30年も前で情報は古いが見慣れている。最近の地図を使うと市町村合併が進みすぎて、古くからの中心市街の見当がつきづらい。また県庁所在地やそれに準ずる規模の都市には確実ににぎやかな歓楽街があるが、人口が5万人くらいの都市だとあるところもないところもある。これも最近の市町村合併で、人口の多さを基準にできなくっているので、30年間の地図を参考にするとわかりやすい。

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コラアゲンはいごうまん、ついに初DVD発売!

本メルマガ読者にはすでにおなじみ、旅するドキュメンタリー漫談芸人「コラアゲンはいごうまん」が、このほど初めてのDVDをリリースしました。コラアゲンはいごうまんについては、すでに5月2日号で『コラアゲンはいごうまんの夜』という長編インタビューを掲載していますし、購読者特典として5月11日に開催された『コラアゲンはいごうまんx都築響一 トーク&ライブ』から、特選ネタ『走れ、ピンクランナー!』がご覧いただけるようになっています。

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photography

海女の群像

写真って、どう撮るかよりも、撮らせてもらえるまでにどう持っていくかの勝負なのかも、と思うことがよくある。親しくなって、いい顔をしてもらうとかじゃない。カメラを持った他人がその場にいることが、だれの気にもならなくなって、気配を消せるところまで持っていけたら、それはもう撮影の大半を終えたも同然、ということがよくある。このほど10年ぶりに再刊されたという『海女の群像』という写真集を見た。撮影者の岩瀬禎之さんは1904(明治37)年生まれ。すでに2001(平成13)年に97歳で亡くなられているが、千葉・御宿の地で江戸時代から続く地酒「岩の井」蔵元として酒造りに励みながら、長く地元の海女たちを写真に収めてきた。

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渋谷のスカンジナビアン・ナイト

昼間もひどいけど、夜ともなればさらに騒々しい若者に占拠され、オトナにはなかなか近寄りがたい最近の渋谷界隈。駅から青山方向に宮益坂をあがったすぐ裏手に、古びたスナック・ビルが隠れていることを知るひとは少ない。そのビルの3階、正確に言えば3階と4階のあいだの踊り場に入口がある、まこと知る人ぞ知る存在の店、それが『パブ・スコーネ』である。「SKÅNE」と書いて「スコーネ」と読ませるこの店は、スウェーデン直送のチーズをつまみに、スウェーデンを代表する蒸留酒であるアクアヴィットを飲む、スウェーデンのスコーネ地方そのままの店。しかも店内のインテリアは完璧に北欧デザイン。しかもお酒を注いだり、チーズを削ってくれるのは北欧美人。しかも営業スタイルはカラオケ・スナック! 渋谷でスウェーデンでカラオケで、というワケのわからないミックスが、異様に居心地いい隠れ名店だ。

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art

黄昏どきの路上幻視者(ROADSIDE SENDAIから)

(前略)ここ数年、ようやく日本ならではのグラフィティの進化形が出てきたように思える(僕が不勉強だっただけかもしれないが)。たとえば北の国・札幌からザ・ブルーハーブが、まったく新しい日本語のラップを突きつけたように、ほかのどこにもないようなストリート・アートのかたちを提示する作家のひとり。それが仙台のSYUNOVEN=朱乃べんだ。道端の廃屋や、小屋の壁に描かれたSYUNOVENの絵を見て、「グラフィティ!」と思うひとは、もしかしたら少ないかもしれない。それほど彼の描く形象はユニークで、アメリカン・グラフィティとはかけ離れたテイストで、描かれた場の持つ雰囲気と呼応した土着のパワーを湛えている。

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art

おかんアートの陰影(ROADSIDE SENDAIから)

このメールマガジンでも、これまでたびたび取り上げてきた「おかんアート」。最近はいろいろな町に行くたびに、その土地のカリスマ・おかんアーティストを探すのがお約束のようになってしまっている。すでに何度か書いたが、おかんアートとは―― メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、もうひとつ、もしかしたら正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォームがある。それが「おかんアート」。その名のとおり、「おかあさんがつくるアート」のことだ。

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連載:スナックショット 07 山形・宮城(平田順一)

どうもROADSIDERSの箸休め、平田です。折しも「せんだいマチナカアート2012」が開催、杜のみやこに都築編集長のROADSIDE SENDAIがやってきますよ! 北から順番に連載をすすめて今回は山形県と宮城県です。前回の岩手編におなじく能天気に写真を撮っているだけの自分が恥ずかしくもあり、それでもまだ探訪したいという思いもあります。庄内から置賜、仙北から仙南へとかなり広範に及びますがよろしく!

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art

湘南ミュージアム・トリップ

横なぐりに近い大雨の日曜日、横須賀線を降りて鎌倉駅に降り立つと、傘を握りしめた勇敢な観光客がひしめきあっていた。人力車の兄ちゃんも、びしょびしょになりながら客引きに声を嗄らしている。こんな日に人力車に乗るひとなんて、いるのだろうか。おばあちゃんの、とは言わないまでも、おばちゃんの原宿みたいな土産物屋街を抜けて、鶴岡八幡宮の脇を歩くこと約15分。まず右手に神奈川県立近代美術館・鎌倉館が見えて、それを過ぎてもう少し歩くと、反対側に鎌倉別館という小ぶりな建物に辿り着く。

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food & drink

日曜日のゾンビーナ

うららかな秋日和のサンデー・アフタヌーン。六本木ミッドタウンの前は、お洒落な犬を連れたお洒落なカップルや、高そうな乳母車を押す高そうな外国人カップルが、ほがらかに行き交ってる。ミッドタウンの正面にはメルセデスベンツのショールーム。そのおとなり、飲食ビルの2階の、とある店。ほがらかな気分でドアを押し開けると・・・いきなりゾンビが襲ってきた! 「いらっしゃい~~」とくぐもった声を出しながら、ぶらぶら腕を伸ばして迫ってくる・・・ああ気持ち悪い! 知る人ぞ知る六本木の隠れフェティッシュバー「CROW」を舞台に、毎月最終日曜日に開かれているのが「ソンビバー」だ――。

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art

伊達政宗歴史館と仙台武家屋敷(ROADSIDE SENDAIから)

今回ご紹介するのは「みちのく伊達政宗歴史館」と「仙台武家屋敷」という、なかなかレアな観光教育施設。伊達政宗歴史館は仙台のお隣、松島の美しい海岸沿いにあるのですが、津波の被害を受けて1階部分が泥で埋まってしまい、スタッフやボランティアの懸命の努力により、震災から1ヶ月半ほどで再開にこぎ着けたという蝋人形館。いっぽう仙台武家屋敷&人間教育館のほうは、かなり前に『BQ』という民放デジタル放送番組で1年以上放映された、映像版『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』でも取材・放映した、仙台きっての隠れB級スポットだったのですが、それがそのあとも脚光を浴びるケースはほぼなく・・・こちらも震災による地震で甚大な被害を受け、無期限休館中。

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上海スタイル:丁沛華&左君

上海市中心部から、地下鉄で15分ほど。外国人観光客ゼロの、四角いアパートが並ぶ住宅街に新居を構えているのが、丁沛華(Ding Shihua=ディン・ペイフォア)と左君(Zuo Jun=ズオ・ジュン)のふたり。おたがい26歳、2年前に結婚したばかりで、いまだにハネムーンの雰囲気がむっちり立ちこめる、ラブリーな住空間だ。夫のディンは広告会社でグラフィック・デザイナーとして働き、妻のズオはイラストレーター兼漫画家。ある経済雑誌に連載中の、むかし懐かし中国製品のイラスト・エッセイは、たとえばもともと日本人が作った企業だったのが、革命以降に中国のブランドになった永久印の自転車とか、中国人ならだれしもホロリとくるチョイスで、人気ページなのだとか。

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photography

センター街のロードムービー

印画紙の上にあらわれ消える男女たち。それはいまから数年前、日本でいちばんスリリングな夜があった時代の渋谷センター街に、生きていた男の子と女の子たちだ。焦点の合った主人公と、その向こうのぼやけた街並み。鮮やかで、しかもしっとりしたカラー(それはウォン・カーウェイの撮影監督だったクリストファー・ドイルや、ベンダースやジム・ジャームッシュのロビー・ミューラーのような色彩感覚)。1枚1枚のプリントに閉じ込められた、なんとも言えない、あの時代の空気感。そしてこの素晴らしい写真を撮った鈴木信彦さんは、プロの写真家ではなく、仕事をしながら週末渋谷に通うだけのアマチュア・カメラマンなのだという・・。

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art

死刑囚の絵展リポート

執行日はだれにも――肉親にも、本人にすら――事前に明かされることはなく、その日の朝に声をかけられて(朝食後だという)、初めて「きょう死ぬんだ」とわかる仕組みになっている。毎日、毎日、ときには何十年も・・・そうやって自分が死ぬ日を待つ日々。死刑には賛成派も反対派もいるだろうけれど、これを精神的な拷問と言わずして、なんと言うのだろうか。そういう極限の状態に置かれている日本の死刑囚たちがつくりだす、極限の芸術作品。それを集めた小さな展覧会が広島で開かれたというニュースを、今月初めのメルマガでお伝えした。幸運にも展覧会に駆けつけることができたので、今回はその模様をリポートしたい。

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連載:スナックショット 08 福島・栃木(平田順一)

どうも街の遊撃手、平田です。前回の山形・宮城篇から南へ下って、今回は福島県と栃木県です。 会津地方と郡山、宇都宮と小山が去年の3・11以降の写真で、それ以外は2004年から2007年の撮影、少々画像が荒くなっております。広い福島県のごく一部と、栃木県のごく一部で、まだまだ精進が足りませんがよろしくお付き合いください!

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夜をひらく 女の市場

ハリウッド映画のはずなのに、なぜかエンディングで日本の歌手の“テーマソング”が流れたり、ストーリーとなんの関係もない「挿入歌」がドラマを盛り下げたり。最近の広告代理店主導の映画やテレビ・ドラマと歌の関係って、すごく不純だ。その昔、「歌謡映画」というジャンルがあった。だいたいまず曲が大流行して、それにあわせて急造されたB級映画ではあるが、なにより曲の歌詞と映画のストーリーがちゃんと連動していたし、歌手本人が映画にも登場して、キャバレーのシーンとかで歌っていた。いま見直せば、あたかも1時間30分のミュージック・ビデオのように、それは音楽と映像の幸福な結合だった。

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アートと地獄とメイドとクソゲー:福岡辺境不思議旅

「妄想のパラダイス」とサブタイトルがついた不思議博物館を、ひと言であらわすのは難しい。「館長」と呼ばれる造形作家・角孝政(すみ・たかまさ)さんの立体作品とコレクションを集めたミュージアムであり、同時に「不思議子ちゃん」と名づけられた女の子たちが迎えてくれる、メイドカフェでもある。「日本一有名なクソゲー」を、特製巨大コントローラーで遊べる場所でもある。とりあえずは、公式ウェブサイトに記された館長本人による説明と、全貌図解をご覧いただきたい。

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art

めくるめく70年代の記憶と再生

1956年に生まれた僕は、1970年に中学3年生だった。その年、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンがドラッグで命を落とし、三島由紀夫が割腹自殺し、赤軍派は日本航空のよど号を乗っ取って、あしたのジョーになろうと北朝鮮に向かった。その年に大阪のはずれでは「人類の進歩と調和」をうたった万国博覧会が開催され、6400万人以上の入場者を集めていた。いま北浦和の埼玉県立近代美術館で『日本の70年代 1968-1982』という展覧会が開かれている(11月11日まで)。

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建築家の首まわり

板前に鉢巻きがあるように、消防士に銀色の防火服があるように、建築家にはスタンドカラーのシャツがある。ちょっぴりソフトめの黒いスーツに、白のスタンドカラー・シャツ。この奇妙な組み合わせが、日本における建築家の定番ファッションとなってから久しい。実際スタンドカラーのシャツなんて、いまや建築家のほかは牧師とピーター・バラカン以外に、愛好者を見つけるのは難しいだろう。

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札幌迷走紀行・前編 ある秘宝館の最後

北海道秘宝館が危ないらしいと聞いたのは、もう数年前のこと。毎日開館していたのが、いつのまにか週末だけになり、動いていた展示物は、メンテナンスがまったくされないために徐々に動きを止めて、そのうちに冬期は閉館、ほかの季節も「基本は週末開館だが、行ってみないとわからない(ウェブサイトもなし)」という状態に陥っていった。館を任されていた女館長さんは、札幌市内のスナックのママも兼ねていて、そっちのほうが忙しくて秘宝館まで手が回らない、という状態でもあった。そしてこの秋。久しぶりに札幌を訪れてみると、「秘宝館が廃墟になってしまっている」という悲しい情報が。

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book

紙の束になったモンシェリ ――ドクメンタの大竹伸朗と、エディション・ノルトの仕事

『モンシェリ』の全貌を伝える記録集が、新潟県浦佐のedition.nord(エディション・ノルト)から刊行された。ただし、全部で5段階になるという出版プロジェクトのうち、今回リリースされたのは第1弾から第3弾まで。これから年末~来年にかけて、さらにふたつの刊行物が用意されるという。5種類の記録集。それがすべて東京の大出版社ではなく、新潟県の片隅で、夫婦ふたりで営むデザイン・スタジオ兼出版社から、完全に自費出版のかたちで制作販売される。しかも通常の印刷プロセスを省き、全ページをレーザー出力し、そのコピー紙の束をそのまま封筒に詰めたり、製本したという・・・。これも『モンシェリ』本体に負けず劣らずの、素敵に無謀なプロジェクトだろう。

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art

ドクメンタ(13)カッセル後始末記(大竹伸朗)

今回ドクメンタでは、設置場所や制作プロセス等自分自身初めて経験することが多く、またそれに伴う不安も大きかったので現地でのそんなダイレクトな人々の反応は心に染むものがあった。多くの観光客でごった返していたカッセルの街も、ドクメンタ展の終了と同時、見事に人足がパタッとなくなり再びオープン前の普通の田舎街にもどった光景も忘れられない。今回は6月の短期連載「カッセル制作日記」に引き続き、続編「カッセル後始末記」として読んでいただけると幸いです。

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スナックショット 09 茨城(平田順一)

今回のスナックショットは茨城篇、茨城といえば全国的には梅の水戸偕楽園が有名ですが、アートの好きな人には水戸芸術館の意欲的な企画展が知れ渡っていると思います。だいぶ前にエレキギターの父、寺内タケシ氏が全国の高校を回って高校生を相手に「60年ギターを弾いてひとつだけわかった、ギターは弾かなきゃ音が出ない」と語っているのをテレビで見て感銘を受けたのですが、この言葉を思い出して「とにかく歩かなきゃ出会えない、撮らなきゃ写らない」と今年の秋に茨城の写真を撮ってまわりました。今年行けなかった日立市のほかに、雰囲気が良いので数年前の写真を選んだところもありますが、現在進行形のスナックショットをご覧ください!

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photography

痛車賛歌――坂口トモユキのデジタル細密画

「いたしゃ」と言われて「イタ車」を連想するのか、「痛車」を連想するのか、君はどちらのタイプだろうか。痛車とは、ご存じ車体にアニメやゲームのキャラのイラストを貼りつけた、ヲタク活動の一環。以前は週末の秋葉原名物だったりしたが、最近では全国各地の街角で見かけることが少なくない。その痛車の名作群を2009年から撮影しつづけている、坂口トモユキさんの写真集『痛車Z』が12月6日に発売され、併せて中野ブロードウェイ内のギャラリーで写真展も今月末から開かれる。坂口トモユキさんは1969年生まれの写真家。東京近郊の住宅地を深夜に撮影して回った『HOME』を2008年に発表する。僕が坂口さんの名前を知ったのも、その年の木村伊兵衛賞審査会場で写真集を見たときだった。

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札幌迷走紀行・後編 郊外聖地――サバービア・ホーリーランドをゆく

札幌市中心部から、国道453号線を一路南下すること約40分、真駒内地区にある広大な国営公園・滝野すずらん丘陵公園に隣接する、これまた広大な滝野霊園。ちくま文庫版の『珍日本紀行・東日本編』のカバーにも登場してもらったし、珍スポットファンにはもはやおなじみの道内最重要ポイントであろう。滝野霊園は総面積約1.8平方キロ。皇居の面積が約1.4平方キロだから、皇居より大きく、約0.5平方キロの東京ディズニーランドにいたっては、なんと3倍以上。むろん日本最大級の霊園だ。しかもそのうち墓所部分は約27万平米、公園緑地が110万平米ということで、霊園のうち四分の三が公園ということになる。そしてその北海道的、としか形容しようのない広大な公園に点在するのが・・・ご存じイースター島のモアイやストーンヘンジなど、あまりに意表を突く巨大石彫群だ。

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われらのクラシカル・エレガンス――JUN&ROPÉの'70年代CF

このあいだ歌舞伎町ロボットレストランについて書いた『ヌメロ・トーキョー』誌の、いま発売している号で、1970年代のJUNグループのコマーシャルについて書かせてもらっている――。テレビがおもしろくない、とみんなが言う。そのとおりだ。でも、もっとおもしろくないのはテレビのコマーシャルだ。売れてるタレントが商品名を連呼するだけのコマーシャル。外国人俳優にバカな役を振って遊んでる(と思ってる)、リスペクトのカケラもないコマーシャル。芸人の15秒一発ネタみたいなコマーシャル。そこには美しさも、品位も、世界でいちばん短い映像作品をつくってやるという気概も、なにもない。

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金いろの夜――別府湯けむりアート紀行

いつまでも若くはいられない。老いた都市から都市へと旅していると、人間の歳のとりかたにいろいろあるように、町の老いかたにもいろいろあるのだと実感する。たとえば温泉町で、僕が知るかぎりいちばん往生際が悪いのは熱海で、いちばんさっぱり枯れているのが別府だ。別府というのはつくづく不思議な町だ。日本有数の温泉地で、観光客も国内外からそうとう訪れているはずなのに、駅前から海に向かって延びるメインストリートは人影まばら。お土産屋は20年も30年も前の品物を平気で並べているし、商店街は見事なまでのシャッター通りと化している。一歩裏道に入れば、住宅と飲食店と風俗店がぐちゃぐちゃに混じり合い、ゾーニングという概念が存在しないかのようだ。

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スナックショット 10 群馬 (平田順一)

どうもほろ酔いセットで泥酔する男、平田です。今回のスナックショットは群馬県、歴代総理大臣にネギにこんにゃく、ボウイやバクチクといった80’Sロックバンドの産地としても知られています(かなり興味が偏っていますが)。上州のかかあ天下とからっ風はスナックにとっての追い風なのか、酒場を探して路地をうろついても、実に良い雰囲気を醸し出しているところが多く興味は尽きません。さて実際に群馬県を探訪しようとすると、交通アクセスは県庁所在地の前橋市よりも高崎市が格段に優れており、駅前も賑わっているしだるま弁当など駅弁の種類も豊富にある。

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テキーラ飲んでゾンビになろう!

10月10日配信の038号で、東京のゾンビ・シーンをお送りしましたが、11月3日にはメキシコシティで恒例の「ゾンビ・ウォーク」が開催されたというニュースが到来。写真を送ってくれた友人のアーティスト、モーリシー・ゴムリッキ君によれば(ワルシャワ生まれ、メキシコシティ在住のアーティスト)、これはメキシコシティの革命記念塔からソカロ広場までを練り歩く、というかゾンビ・ウォークする人気イベントで、なんと去年は参加者9806名! で、ギネスの公式世界記録に認定されたそう。当日はだいたい朝10時ごろから広場にひとが集まりはじめ、記念写真撮りあって遊んだり、だれでも無料でやってもらえるゾンビ・メイクを試したりしているうちに雰囲気が盛り上がり、午後3時ごろからウォークの開始。スタートまでのだらだら感が、メキシコっぽい!

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金いろのエキゾチカ――芸術と芸能のミッシングリンク

「まあ、金粉ショーがやりたくて、混浴ゴールデンナイトを企画したぐらいですから!」と笑う佐東さんは、京都を拠点とする暗黒舞踏グループの雄・白虎社に創立時から解散まで在籍したコア・メンバー。同じ白虎社仲間の水野立子さんとともに、今回のショーの構成や、ダンサーの演技指導を手がけた。「いまではほかに見れる場所もないし、僕と水野で20年ぶりぐらいに、思い出そうと思って踊ってみたら、完璧に全部、からだが覚えてたんですよね!」という佐東さん。公的機関の助成金や企業のメセナ活動がほとんど存在していなかった1970~80年代には、白虎社のような舞踏カンパニーにとって、公演費用やカンパニーの維持経費のために、金粉やセミヌードのショーを仕立てて、日本各地の温泉場やクラブ、キャバレーを「営業」して回るのが、ごくふつうのことだったのだ。

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大竹伸朗展速報

先週号でお伝えしたように、この24日から韓国ソウルで『大竹伸朗展』が開幕した。場所はアートソンジェ・センター。東京で言えば表参道と原宿をいっしょにしたような、ファッショナブルな街・三清洞にあるアートスペースの、1階から3階まで、全館を使った大規模な個展だ。2010年に光州ビエンナーレに参加して以来、韓国では2度目の展覧会になる大竹伸朗。しかし意外にも、海外での個展は1985年にロンドンICAで開いて以来、なんと27年ぶりの2回目。そして今回は、以前のロンドン展とは比較にならない、スケールアップしたボリュームのソロ・エクジビションである。本メルマガでは先週の、アーティスト本人による『ソウル日日』に続いて、今週は展覧会のリポート、そして来週にはふたたび本人による第2弾リポートを、動画を交えながらお送りする予定だ。

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[新連載]畸人研究学会報告 01

知ってるひとは知っている、畸人研究学会。黒崎犀彦・今柊ニ・海老名ベテルギウス則雄の3名により、1995年から手づくりミニコミ『畸人研究』を主な舞台に、日本全国の輝ける畸人たちを発掘・紹介しつづけてきた、市井の偉大なフィールドワーカーである。僕自身も彼らのリサーチにこれまでどれほど助けられ、勇気づけられてきたかわからない。畸人研究学会はこれまで『定本・畸人研究』や『畸人さんといっしょ』、『しみったれ家族 平成新貧乏の正体』など、数冊の単行本を発表しているが、『畸人研究』誌のほうは、しばらくお休みになっていた。で、そのあいだにも倦まず続けられている発掘作業を紹介すべく、これから不定期の連載というかたちで、本メルマガにて出張版・畸人研究をリリースしていただくことになった。今回はその第1弾、海老名ベテルギウス則雄さんによる、青森紀行をお送りする。

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捨てる神と拾う神――森田一朗すてかんコレクション

捨てられてしまうもの、忘れられてしまうものを集め、記録するようになってずいぶんたつが、その道の大先輩であるひとりが森田一朗さんだ。森田さんはフリー・カメラマンとして自分の写真を撮るとともに、昔の写真や絵葉書など、明治から昭和にかけてのヴィジュアル・ヒストリーの収集でも知られている。ずいぶん前に(調べてみたら1998年だった)、筑摩書房の『明治フラッシュバック』というシリーズで『サーカス』『ホテル』『遊郭』『働く人びと』という4冊の貴重な資料集を出していて(いずれも絶版)、そのテーマの選び方からも森田さんの、街とひとを見つめる目線が伝わってくる。

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タコス食ってゴスになろう!

先々週のメルマガではメキシコシティのゾンビ・ウォークを紹介した。今週はゾンビと並んでメキシコシティのヤングに人気(?)の「メキシカン・ゴス・ストリート」をご案内しよう。太陽サンサンのメキシコと、黒革にモヒカンに化粧のゴスはあまり相性いいように思えないが、こちらメキシコシティのダウンタウンの一角、「エル・チョポ」(El Chopo)と呼びならわされるエリアは、毎週土曜日になるとゴス&ヘヴィメタル関連のフリーマーケットが立ち並び、「メタルの竹下通り」的な様相を呈する。

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連載:スナックショット 11 新潟(平田順一)

どうも下町のナポレオン、平田です。北海道から東北を経て関東地方の連載を続けましたが、今回は紅葉前線に逆行して新潟篇です。ひとむかし前は「チャッラーン! 越後生まれのこんぺーでえーす!」とNTV系「笑点」の挨拶で怪気炎を上げる林家こん平師匠、そのまえはコンピューター付ブルドーザー田中角栄氏の姿が良くも悪くも越後を印象付けるものとして記憶に残ってますが、こっちは坂口安吾のように、酒場の壁やネオンサインに美を求めて歩き回りました!

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失われたドキュメンタリー

気持ちよくなる音楽はたくさんあるけれど、深く考え込ませてくれる音にはなかなか出会わない。最近復刻された『ドキュメント日本の放浪芸』という、全4箱CD22枚組の「音のドキュメンタリー」が、いま目の前にある。もともと1970年から77年にかけてLPレコード・シリーズとして発売されたもので、俳優の小沢昭一氏が訪ね歩いた日本各地の大道・門付けの諸芸能を記録した貴重な録音である。当時中学から高校生活を送っていた僕は、高価なLPセットに手が出ず、万引きするにも箱が大きすぎて、悔しい思いをしていた。いま30年近くたって復刻される奇跡に、驚喜一括購入したことは言うまでもない。

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石巻のグレイトフルデッド

3.11をめぐる報道で、もっとも頻繁に取り上げられた土地のひとつが宮城県石巻だろう。石巻を「いしまき」と読んでしまうひとも、これでいなくなったにちがいない。石巻湾に面し、旧北上川の河口に沿って広がる石巻市が、地震と津波で壊滅的な被害を受けたのはご承知のとおり。宮城県復興庁のデータによれば死者3486人、行方不明者462人、住宅・建物の全半壊は3万3378戸。ひとつの市で、3000人以上が命を落とし、3万もの建物が壊れてしまったことになる・・すぐ北隣に位置する女川原発が無事だったのが、信じられないくらいだ。そして震災から1年9ヶ月がたった現在、石巻がどうなったかといえば、いまだに被害の惨状は生々しいまま。道路や空き地のガレキはさすがに片付けられたけれど、それは集積所に集められただけのことだ。街を歩けばあいかわらず崩れたまま、空き地のままの地所が目立つ。

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ウィークエンド・ハードコア

11月7日配信の041号で告知した、新雑誌『実話レイジ』でスタートした連載『Weekend Hardcore ― 週末ハードコア』。仕事を持ちながらハードコア・バンドを続けている「永遠のロック少年少女」たちを訪ね歩く企画でしたが・・・なんと『レイジ』が1号で休刊決定! 昔は「三号雑誌」という、その名のとおり3冊で消えてしまう雑誌のことを揶揄する言葉でしたが、最近はたった1冊で休刊なんですねえ・・・世知辛すぎ。僕が創刊まもないPOPEYE編集部で働き出したころ、編集長から聞いたのは、「いまは売れなくてもいいから、思いっきりやればいいんだ、社長も『1年は待つから』と言ってくれてる」と、僕ら若手編集者を思い思いの方向に突っ走らせてくれたものでした。

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畸人研究学会報告 02 大飢饉という極限状態と表現(海老名ベテルギウス則雄)

東北旅行の楽しみの一つがグルメであることはいうまでもない。今回私は野辺地の自転車オブジェ以外に八戸、そして盛岡を廻ったが、どのガイドブックを見ても八戸、盛岡ともにグルメ情報満載である。まず今年2012年のB-1グランプリを獲得したのは八戸せんべい汁だし、また八戸は日本有数の漁港であり、有名な朝市を始め美味しい魚介類が食べられる店が目白押しである。一方盛岡もわんこそば、盛岡冷麺、じゃじゃ麺などの麺類や前沢牛など、やはり美味しそうなお店情報いっぱいだ!だいたい東北は米どころであり酒どころでもある。観光ガイドブックの誘惑に素直に従った旅行をすれば体重が数キロ増えて帰宅すること請け合いである。

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たまたま少数派vsぬるま湯少数派

僕はしがない編集者だ。現代美術やデザインの本を作っているが、どれも初版2000部、3000部という侘びしいスケールで、印税生活など夢のまた夢。渡辺淳一のような高額納税者になる確率など、一生ゼロのままだろう。そういう事実からすれば、僕はたしかに「少数派」ということになる。でも、正直に言ってしまうと、少数派なんてキライだ。っていうか、別に好きで少数派やってるわけじゃない。メジャーになりたいけど、残念ながら本がそこまで売れない、ただそれだけのことだ。

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8トラックのエロ 前編

民放FMでなにがきらいかって、いまだにはびこるバイリンガル臭いアナウンサー(と言えばいいのに、ナビゲイターとか自称したり)。でも、もっときらいなのが、あのラジオドラマ仕立てのコマーシャルだ。長くて、気取ってて、くだらなくて、中途半端で、構成作家のしたり顔がうかんできて思わず運転中に暴れたくなるような。いま、『肉の悶え』という世にも不思議なCDを聴きながら、僕はラジオドラマの黄金時代のことを思い出す。映像のともなわない、音声だけのドラマ。声とBGMがつむぎだす、ゆたかな世界のことを。そういえばかつて聞き書きに通った稀代の性豪「安田老人」も、「(性行為を記録した)ビデオより、カセットテープのほうがずっと刺激的です」と言い切っていたっけ。

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圏外の街角から:大洲

かつて松山から宇和島方面に南下するには、宇和島街道と呼ばれる国道56号線を使うのが一般的だった。松山市街を抜け、のどかな田園地帯と山並みを抜けて、伊予吉田あたりのトンネルを抜けると突然、宇和海が目の前に広がる。その景色がすごく好きだった。そして街道沿いに現れ消える内子、大洲といった古い街にクルマを停め、歩き回る時間も。高速道路の松山自動車道が宇和島まで延びてから、すべてが変わってしまった。運転時間は短縮されたけれど、宇和島まで海はひとつも見えないし、わざわざ高速を途中で降りて、街を散策しようというひとだって、ずいぶん減ったにちがいない。高速道路も新幹線も、いざ誘致してみたら街は寂れるばかり・・というのが、いま日本中で起きている「取り返しのつかない勘違い」だ。

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スナックショット 12 長野1

メリークリスマス! どうも平田です。今回のスナックショットは長野県ですが、ひとえに長野県といっても東西南北に広く、幾つもの山々に阻まれて地域ごとに文化も異なるのでまず今回は東信地方、ほかの地域は次回以降にご紹介する予定です。長野県東部、東信地方の中核となるのは上田市で、ここから盆地を西に10キロ向かったところに信州の鎌倉と称される古刹安楽寺と別所温泉があり、上田電鉄のローカル電車が結んでいる。沿線にある青木という集落が東急グループの創始者である五島慶太の出身地で、この上田電鉄も東急グループ傘下にある。

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旅館は君なんか泊めたくないのだ――日本温泉旅館七不思議

温泉旅館、と一語にされても困る。「温泉」と「旅館」。この二者はまったく別物である。少なくとも僕にとっては。何年間も職業として日本全国を旅してきた立場から言わせてもらえば、温泉とはまことによいものだが、旅館とはしばしば嫌悪すべきものにほかならない。なぜかといえば、1 予約なしのひとり旅では、まず泊めてもらえない。2 メシがまずい。あるいはよけいな皿が多すぎたり、時間が早すぎる。3 高すぎる。旅なんてのは、本来ひとりで、予定など決めずに行くものだろう。気に入ったところがあればそこに泊まり、なければ車や電車で先へ行く。旅館とはその晩、からだとこころを休める場であるはずだ。「名旅館に泊まる楽しみ」みたいのもあるだろうが、それは例外的な趣味であって、旅館そのものが目的になってしまうのは、ちょっと本末転倒な気がする。

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8トラックのエロ 後編

『ヒゲの未亡人』なる不思議なユニットを岸野雄一さんと展開するミュージシャン、ゲイリー芦屋さんが甦らせた8トラック・エロテープの奥ヒダ世界を、先週はご紹介した。すでに100本以上のテープを収集してきたゲイリーさんの手元には、手づくりCD-R『肉の悶え』には収録されていないものの、そのジャケット(というかボックス)・デザインだけで溜息連発の、珠玉のコレクションが秘蔵されている。Macもアドービもなかった手描き時代の、無名のデザイン美学を今回はいきなり、たっぷりお見せしよう。ゲイリーさんのご厚意によって先週号にアップしたCD-Rの冒頭部分を、もういちど載せておくので、なるべく大きな音量でプレイしながらの鑑賞をおすすめする!

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新宿にゾンビ来襲! @新宿秘宝館

すでに告知しているとおり、先週土曜日からギャラリー新宿座において、『新宿秘宝館』が開催されています。土曜日の初日には、あいにくの雨模様にもかかわらず、100人以上のお客さまが来てくれました。どうもありがとう! 新宿秘宝館:みんな嘘っぱちばかりの世界だった 甲州行きの終列車が頭の上を走ってゆく 百貨店の屋上のように寥々とした全生活を振り捨てて 私は木賃宿の蒲団に静脈を延ばしている――かつて旭町と呼ばれた新宿4丁目の木賃宿で、林芙美子は放浪記にこう書いた。JRとタカシマヤの澄まし顔に、道の向かいから思いきり毒づいているような、すえた昭和の匂いがいまだ漂う一角。そんな場所で、昭和の秘宝をいま開陳できる幸せを思う。

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未来の油彩画展――あるホームレス画家の心象風景

年末もおしつまった今月28日から31日のカウントダウンまで、たった3日間だけ開かれる、小さな展覧会をお知らせする(30日は休廊)。展覧会の主は横浜で『ビッグ・イッシュー』を売って生計を立てている路上生活者、ピエトロ-L-キクタ画伯である。キクタさんのことを教えてくれたのは、日本近代美術思想史を専門にする研究者の宮田徹也さんだった。横浜のなかでもっとも昭和の匂いを残し、暗闇の似合う街でもある野毛の名物酒場・旧バラ荘で、宮田さんはピエトロ-L-キクタ展を2011年に企画。今回の展覧会はキクタ画伯にとって2度目の、ホームグラウンド横浜での展示となる。

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食の無限天国「聚楽ホテル」で煩悩全開!

夕食はバイキングでお腹いっぱい。ひと風呂浴びて、小腹が空いたら餅つき大会のお餅をパクリ。カラオケ絶唱の後は締めの生ビールとラーメンをペロリ。巨大観光温泉ホテルで煩悩を解き放つ! 旅館の廊下を芸者衆が忙しげに行き交い、浴衣姿に下駄をカランコロンさせて外に出れば、いい匂いの女の人たちが袖を引き・・・飯坂温泉はかつて、東北屈指のオヤジ天国だった。東北新幹線が開通して、東京駅から2時間弱、ものすごく便利になった現在はといえば・・・はっきり言って、かなり寂れた温泉街であります。

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ロードサイド台湾1:八卦山南天宮

日本の地方を回りはじめたのは『週刊SPA!』誌で1993年から1998年まで続いた連載『珍日本紀行』がきっかけだった。その連載では正月、ゴールデンウイーク、夏休みなどの連休シーズンにあわせて『珍世界紀行』という特別版を発表していて、それが2004年には『珍世界紀行 ヨーロッパ編』として一冊にまとまり(2009年文庫化・筑摩書房)、同時にSPA!の連載が終わってまもなくの2000年からは『月刊TITLE』誌(文藝春秋・・すでに廃刊)で『珍世界紀行 アメリカ編』が始まって、2007年まで続いたこの連載は2010年に分厚い単行本になった(アスペクト刊)。同時にSPA!誌の海外特別編でいくつか取り上げたアジアの珍名所探訪は、2006年から07年にかけて『月刊パパラッチ』(双葉社刊)の連載に引き継がれたが、こちらもあえなく休刊・・涙。

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ブローニュの森の貴婦人たち――中田柾志の写真世界1

深い緑の森の夜、フラッシュに浮かび上がる挑発的な女。ビニールの花のごとく地面を覆う使用済みのコンドーム・・・。パリ、ブローニュの森にあらわれる娼婦たちの生態である。パリ市街の西側に広がるブローニュの森。凱旋門賞のロンシャン競馬場や、全仏オープンのロランギャロスも含むこの広大な森林公園が、昔から娼婦や男娼の巣窟としても有名だったことを知るひとも少なくないだろう。そういえばあの佐川一政が、死姦し食べ残した遺体を捨てようとしたのも、この森のなかだった。陽と陰がひとつの場所に、こんなふうに混在するのがまた、いかにもパリらしいというか。

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石巻だより――ワタノハスマイル新作展

昨年の3月21日配信号で大きな反響を呼んだ「ワタノハスマイル」の主宰者・犬飼ともさんから、うれしいお知らせが届いた。ワタノハのメンバーたちによる新作がもう120点あまりもたまって、来週から新作展ツアーが始まるというのだ。前の記事を読んでいただいた方はご存じかと思うが(未読の方はバックナンバー・ページからぜひ!)、「ワタノハスマイル」とは2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の、渡波(わたのは)小学校で避難所生活を強いられていた子供たちが、校庭に山積みされた廃材を使って作りだした作品群を発表するプロジェクト。

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連載:スナックショット 13 長野2(平田順一)

寒中お見舞い申し上げます、どうも平田です。今年もぐっと胸にくるような街角、時空を超越したような酒場を求めて歩き回りますので、よろしくお付き合い願います。今回のスナックショットは長野県北信地方、15年前冬季オリンピックの舞台となった長野県の北部です。長野県は首都圏から割と近いわりに気候・風土が関東平野と異なるので、夏は避暑、冬はスキーやスノーボードで活況を呈しており、そのどちらにも縁がない自分も足繁く訪れている。

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追悼・浅草のチェリーさん

浅草を歩くと、いつもそのひとがいた。六区のマクドナルドあたりに、小さなからだを独特のセンスの服で包んで、ふらふらと立っていたり、道端に座り込んでいたり。チェリーさんとも、さくらさんとも、あるいはただ「おねえさん」とも呼ばれてきたそのひとは、道行く男たちに声をかけ、からだを売る、いわゆる「立ちんぼ」だった。だれかに声をかけたり、かけられたりしているところを見たことは、いちどもなかったけれど。ほとんど浅草の街の風景の一部と化していた彼女が、亡くなったらしいと聞いたのは去年の年末のことだった。

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ROADSIDE台湾2:麻豆代天府

先週の彰化・八卦山南天宮に続いて、今週は台湾屈指とだれもが認めるキング・オブ・ビザール・テンプル、麻豆代天府にお連れしよう。台北から新幹線で南下すること1時間半あまり、台南エリアの要所、台南市からクルマで1時間足らずの麻豆(マードウ)は、文旦(ザボン)の産地として名高い、静かな町である。台湾の古寺旧跡は、台北のある北部よりも、早くから中国文明が流入した南部にずっと多く残っている。台南郊外には南鯤鯓代天府という台湾有数の大寺院があるが、麻豆代天府は南昆身に次ぐ規模を誇る、明朝末期建立の古刹だ

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阿片とオヤジと制服たち――中田柾志の写真世界2

先週に続いてお送りする写真家・中田柾志のストレンジ・ドキュメンタリー・ワールド。今週はラオス、キューバ、タイの3ヶ所でまとめられたシリーズをご紹介しよう。アルバイトで生活費を稼ぎながら、テーマを熟考しては旅に出る生活を繰り返してきた、43歳の知られざる写真家。そのエネルギッシュな視覚の冒険をお楽しみいただきたい。 なお、本稿は先週書いたように前後編にわけてお送りするはずだったが、あまりにも紹介したい作品が多いので! 次週もまた別のシリーズをお見せする予定、お楽しみに。

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隣人。―― 北朝鮮への旅

去年末、北朝鮮を撮影した写真集が出版された。タイトルは『隣人。――38度線の北』。撮影したのは初沢亜利(はつざわ・あり)という日本人のカメラマンだ。北朝鮮の写真と言われただけで、思い浮かぶイメージはいろいろあると思う。でもこの本の中にはボロボロの孤児も、こちらをにらみつける兵士も、胸をそらした金ファミリーの姿もない。 そもそも隠し撮りではなく、真っ正面から撮影されたイメージは、遊園地でデートする若いカップルであったり、卓球に興じる少年であったり、ファストフード店で働く女性や、海水浴場でバーベキューを楽しんだり、波間に寄り添う中年夫婦だったりする。言ってみればごくふつうの国の、ごくふつうの日常があるだけで、でもそれが他のあらゆる国でなく、「北朝鮮」という特別な国家のなかで撮影されたというだけで、この本は特別な重みをたたえている。

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可愛くて、やがて恐ろしき堕落部屋

今週あたり全国の書店に行き渡っているだろう、話題の写真集がある。先行販売している一部書店やネットでは、すでにかなり盛り上がっているその一冊は『堕落部屋』という。デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集だ。実はこの本、僕がオビを書かせてもらっている。ほかの文筆業の方々はどうなのかわからないが、僕にとって他人の本のオビを書くというのは、けっこうプレッシャーのかかる仕事で、ごく親しいひとの本以外はなるべく受けたくない。だから自分の本のオビも、かならず自分で書く。でも、この川本史織という若い写真家の作品集は、ゲラを見せてもらった時点で、なんとかキャッチーなオビを書いてあげたい、という気持ちになった。

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共犯者をさがして ―― 中田柾志の写真世界3

2週にわたってお送りしてきた中田柾志のビザール・ドキュメンタリー。最後になる今週は、2006年から現在まで続行中のプロジェクト「モデルします」をご紹介する。素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを、中田さんはすでに数十名撮影してきた。その写真プリントと、応募してきた彼女たちの自己評価というか、自己アピールをセットにした作品群。プロのモデルのように美形でもなければ、スタイルも並みか、並み以下。そんな女の子たちが、自分を撮影モデルとして、会ったこともない人間にみずから売り込むという、それ自体がきわめて異常なシチュエーション。

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スナックショット 14 長野3+山梨(平田順一)

どうもオッサンの面を被ったカメラ女子、平田です。今回も地域ごとに撮った写真をまとめていく過程で、ここもあそこも外せないと選択に迷いました。というわけでもう1回長野県から中信地方・諏訪・伊那、中央本線と国道20号に沿って山梨県からお送りします。古くから日本海側と太平洋側を繋ぐ街道の交錯するところで、伝統的な宿場町・門前町の風情を留めつつ、街角や店の背後に上高地や八ヶ岳の山々を望む2004年から2011年にかけての記録ですが、撮影時期の新旧にかかわらず現況がどうなっているか気になります。

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グラフィティがかき乱す台北のランドスケープ

昨年10月3日号で、仙台在住のグラフィティ・アーティスト「SYUNOVEN=朱乃べん」を紹介した。彼の作品はアメリカ発のグラフィティという表現が、ようやく日本独自の進化を遂げつつあることの優れた一例だった。この正月に台北で出会ったグラフィティ・アーティスト「CANDY BIRD」の活動もまた、台湾の風土にあわせて独自の進化を遂げつつある、新たなエネルギーをいきなり突きつけられるようで、すごく興味深い。中国本土(台湾ふうに言えば大陸)でも台湾でも、現代美術の世界では基本的にコンセプチュアルな作家、作品が大多数で、キャンディ・バードのようなストリート・レベルのアーティストが、いまどれくらい増えてきているのか、僕はまだ調査不足でわからない。でも、なにかが起こっている感触は、確実にある。それはこれから長い時間をかけて探っていくことになるだろうが、まずはそのイントロダクションとして、キャンディ・バードの作品世界をご覧いただきたい。

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ケンケンという唄

去年の秋ごろ、新宿ゴールデン街で飲んでいたときのこと。筑摩書房のウェブで連載している『独居老人スタイル』の人探しに苦労しているという話をしていたら、「それならぴったりの独居老人でシャンソン歌手というのを知ってる!」と店主に言われて大喜び。日を改めて店に来てもらったら、どうもようすがおかしい。「あの・・失礼ですけど、いまおいくつですか?」「え、51ですけど」。えーっっ、僕より若いじゃないですか。これはいくらなんでも、「独居老人」呼ばわりするには無理がある。す、すいません・・と謝りつつ、「ぜんぜん老人じゃないじゃない!」と店主をにらんだら、「そんなに若いの、ケンケン! もっと老けてみえるし~~」と言われて、当人もがっくり。「そうなの、昔から(年より)上に見られちゃうんですよねぇ」と苦笑い。それが歌手・ケンケンさんとの出会いだった。

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サーカスが街にいたころ

昨年12月5日配信号の『捨てる神と拾う神――森田一朗すてかんコレクション』をご記憶だろうか。それは昭和の時代の、無名の作者たちによる優れたストリート・デザインだったが、コレクションの主である森田一朗さんは、市井の人間を長く撮りつづけてきたドキュメンタリー・フォトグラファーである。品川区にある森田さんのご自宅には、ほんの少し前に過ぎ去ってしまった時代の日本人と、その生活の記憶が、膨大なネガとプリントになって保存されている。これから数回にわたって、その貴重なストックの一端を見せていただこうと思う。まず今週、来週はサーカスのお話から。

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焼きつけられた記憶――大竹伸朗『焼憶』展

焼きものの町・常滑が生み出したもっとも有名な製品は土管(陶製土管)で、一時は全国の上下水道のかなりの部分に常滑製の土管が使用されていたという。セントレア開業に伴って周辺地域は大規模な再開発が進んだが、常滑の中心部は陶業華やかなりしころの面影、街並みがかなり昔のままに残っていて、最近は日帰りお出かけスポットとして若い層にも人気を博しているようだ。常滑の陶業を代表する企業がLIXIL(元INAX)。そのLIXILが常滑市内に開いている「INAXライブミュージアム」で、今週土曜日から6月9日まで、大竹伸朗による『焼憶(やきおく)』展が開催される。今週はいち早くその展示紹介と、常滑の町めぐりをお送りしたい。まずは大竹伸朗本人による、本メルマガのための書き下ろしテキストをお読みいただきたい――。

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常滑、時間をさかのぼる旅

海上に浮かぶセントレアはともかくとしても、現在の常滑駅から海側の競艇場や市役所があるあたりでさえ、たった数十年前までは海だったという。常滑駅前には今年で廃業という木造3階建ての重厚な「丸久旅館」があって、見せていただいた昔の写真には、部屋からすぐ先の海浜を眺めるお客さんが写っていて、びっくりした。それほど急速に開発が進んだ町でありながら、駅の南東部に広がる旧市街と呼びたくなる常滑の中心部は、小高い丘を取り巻くように、見事なまでに昔ながらのたたずまいが残っている。それも、歴史遺産として「保全」されているのではなく、地元のひとびとがふつうに働き、住み暮らす場として。

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サーカスが街にいたころ 2

先週に続いてお送りするドキュメンタリー・フォトグラファー、森田一朗さんのサーカス・コレクション。ご自宅に眠る膨大なコレクションから、先週紹介できなかったぶんを、森田さんご自身が『藝能東西』誌に寄稿した文章とあわせてご覧いただく。春になるとサーカスが街にやってきていた時代があった。モノクロームの画面から滲み出る、興奮と哀愁と自由の空気を胸いっぱいに吸い込んでいただきたい。

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スナックショット 15 神奈川(平田順一)

どうもスナック馬鹿一代、平田です。好きなトラベルエッセイの本はいくつもあってたびたび読み返しているんですが、全国各地・世界各国を旅した人の本でも、東京やその周辺について触れた文章が少なからず存在しています。わざわざ遠くへ行かなくても、東京周辺にも面白い場所はいっぱいあるよ、といった文面を追ってみると、日常の観察眼が優れているからトラベルエッセイも面白いのか、逆に旅先での体験が日常にフィードバックして東京周辺も面白くなるのか? 多分その両方の要因が混ざっているとは思いますが、足元がしっかり据わっていて、なおかつどこでも好奇心をもち続けるのは、トラベル関係なしに通常のエッセイでも成立するなと気付きました。

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ノリに巻かれた寿司宇宙

「デコ弁」が流行っているらしい。僕がもし小学生で、母親が忙しくて白飯にハンバーグ乗せただけ、みたいな弁当しか作ってくれなかったら、恥ずかしくてみんなの前でフタ開けられないくらいに・・・いまのお母さんは大変だ。雑誌やネットで見るデコ弁は、たしかにものすごく凝った出来で、芸術的とさえ言えるものもある。下手したら「これもクール・ジャパン」とか文科省が売り物にしちゃいそうな。パンにピーナツバター塗るか、ハム挟んだサンドイッチをジップロックに入れただけ、みたいなランチで親も子も満足してる外国人にとっては、はるか想像の彼方にある東洋の新たな神秘、それがデコ弁なのだろう。

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追悼・嶋本昭三

今週金曜日(2月15日)からニューヨークのグッゲンハイム美術館で、大規模な具体展が始まる。『GUTAI: SPLENDID PLAYGROUND』というタイトルそのままに、破天荒なエネルギーが炸裂した具体美術協会の全貌が、アメリカのハイアート・シーンにどう受け取られるのか、興味津々だ。考えてみればいまからもう30年あまり前、僕がBRUTUS誌で具体の特集を作ったころ、資料を集めるのはほんとうに大変だった。おそらく戦後の日本美術で唯一、国際的な評価を受けたムーヴメントであったのに、当時の東京の現代美術業界で具体は「関西ローカルで、ずっと前に終わったもの」として、ひどく不当な扱いしかされていなかったことを思い出す。

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根本敬のいない場所

東京都中央区勝どき橋。かつては下町の風情と倉庫街が入り混じる、東京湾岸埋め立て地らしい景観が広がっていたが、いまは地下鉄の延伸と高層マンション建設ラッシュで、大きく様変わりしつつある「ウォーターフロント」地区でもある。その勝どき橋エリアに残る倉庫の、2フロアをギャラリー空間にした「@btf」で、今月1日からスタートしたのが蛭子能収と根本敬による二人展『自由自在(蛭子能収)と臨機応変(根本敬)の勝敗なき勝負』。いまどき珍しいほど徹底したおしゃれ空間で、もっとも異質で浮きまくるふたりの奇才がぶちかます、渾身のアート・コラボレーションとは――

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畸人研究学会報告 03 奇書居くべし、醤油鯛の濃厚な世界

昨年末、新宿にあるミニコミ専門書店の模索舎で、私は奇妙な本を見つけた。『醤油鯛』と題されたその本は、よくお弁当についている、醤油が入った鯛をかたどったプラスチック製の小さな入れものについて研究した書物であった。『よくお弁当についている醤油入れのことだよな、それにしてもこんなものまで研究している人がいるんだ』と思い、本を手にとってみて驚いた。醤油鯛の本の中身はこれまで蒐集された醤油鯛を6科21属76種に分類するなど、様々な醤油を入れる魚型のプラスチック製容器の“生物図鑑”のような構成になっていたのだ。例えばナミショウユダイ科コガシラショウユダイ属薩摩醤油鯛などという、分類名がつけられている。

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六畳間のスクラップ宇宙

数か月にいちど、岐阜県内の消印を押した分厚い封筒がうちに届く。中にはいつも近況を書いた短い手紙と、写真の束が入っている。サービスサイズのプリントに写っているのは、風景でも人物でもない。数十枚のスクラップブックのページを複写したものだ。山腰くんがこんな手紙を送ってくれるようになってから、もう何年たつだろう。岐阜市に住むこの青年はアルバイトの毎日を送りながら、ひっそりと、膨大な量のスクラップブックを作り続けて倦むことがない。どこにも発表することのないまま。ずっと前から見てみたかった彼の生活空間とスクラップ制作の現場を、ようやく見せてもらうことができた。そして招き入れられた小さな空間と、しまい込まれたスクラップブックのボリュームは、僕の想像をはるかに超える密度の、いわば切り抜かれた女体のブラックホールだった。

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刺青の陰影 1

先月から今月にかけて、052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。今週と来週はその続編として、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。森田さんが刺青を撮りはじめたのは1960年代。サーカスについて回り始めるより前のことだった――。“僕はね、ひとにどんどん近づいてって、話を聞くのが好きなんですよ。それであるとき、風呂屋に行って、隣にいたひとをぱっと見たら、素晴らし彫りものをしていてね。それで思わず「これ、水滸伝じゃないですか」って聞いたんです。『張順の浪切り』っていう図柄だったんだけど、本人はそれを知らなかったのね。それで「あんた詳しいな」ってことになって、仲良くなって家に遊びに行かせてもらったりしてたんです。

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スナックショット 16 千葉・埼玉(平田順一)

今夜すべてのバーで・・・どうも平田です。今回も欲望渦巻く首都・東京の周縁からお送りします。ここ数年、格安航空会社が参入して新規路線を就航されるたびに話題を呼んでいますが、多少アクセスが改善されても縮まらないのが新東京国際空港・成田への距離と交通費。格安チケットを入手したところで、まず成田へ行くこと自体が小旅行です。もともとが明治神宮に次ぐ初詣客を誇る成田山新勝寺の門前町で、京成電鉄もこの参拝客輸送を目的に敷設されたものでした。今風に解釈すればパワースポットへのアクセス路線か? 参道には老舗の鰻屋、和菓子屋、土産物店、すこし路地に入ると老舗の酒場も散見されます。

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刺青の陰影 2

052~053号で紹介した森田一朗・写真コレクション『サーカスが街にいたころ』。その続編として先週に引き続き、森田さんの刺青写真コレクションをお見せする。1966(昭和41)年に発表された写真集『刺青』(図譜新社刊、英語解説ドナルド・リチー)に掲載された写真群と、江戸下町の粋を体現するような、刺青愛好家の聞き書きをあわせてお楽しみいただきたい。今回ご紹介するのは、浮世絵摺師の北島ひで松さん。浅草生まれの浅草育ちで、日本一の浮世絵摺師と言われた人物だ。森田一朗さんは、北島ひで松さんのことをこんなふうに紹介している――

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グラフィティの進化系――KaToPeの幻想世界

北千住駅を西口に降りる。駅前の居酒屋街やキャバレー・ハリウッドの看板にこころ引かれつつも商店街を直進、宿場通りを右に折れてずーっと歩いていくと、小さな立ち飲み屋が見つかるはずだ。地下鉄の乗り入れや大学の進出で、このところ急に若者系の店が目立つようになった北千住の、新しい空気を象徴するようなこの店、『八古屋』と書いて「やこや」と読ませる。もともとは古着屋だったが、2010年に立ち飲み屋になった。「ものすごく狭いけど、ものすごく安くて、築地から仕入れてくる突き出しとかものすごく美味しくて、お客さんも地元のラッパーとかいろいろで、ものすごくおもしろい絵も飾ってあるんです」という、若い友人からの断りようのないお誘いを受けて、ある晩うかがってみると・・・そこに飾られていたのがKaToPeの作品だった。

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天沼のランボオ

イースタンユースが今年で結成25年を迎えるという。すごい、ほんとうに・・・。読者の方々にもイースタンのファンは多いと思うが、1988年に札幌で結成されてから吉野寿(ギター、ボイス)、二宮友和(ベース)、田森篤哉(ドラムス)のスリーピース、最小編成にいささかのブレもないまま、ここまで走ってきたそのエネルギーと持続力には、ただ頭がさがるのみ。(中略)そのイースタンユースでギターとボイス(ボーカルでなく、こう表記する)を担当する吉野寿が、この1月に発表した『天沼メガネ節』は、もうお読みになっただろうか。

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ROADSIDE FASHION x eastern youth

せっかくイースタンユースのことを書いたので、今回のアーカイヴは2011年に『SENSE』というメンズファッション誌に掲載したお話を。この雑誌では半年ほど『ROADSIDE FASHION』という連載をしていて、「うちのブランドイメージにふさわしくない」とスポンサーすじに怒られて辞めるまで、7回の記事をつくったのだけれど、そのひとつがこれ。ただの古着をとんでもない値段で売る、おしゃれ古着屋は大嫌いだ。でも、ほとんどすべての商品が数百円という、ほんとうの意味での古着屋に、それも東京都内で出会って大興奮。スタイリストにお願いして山ほどの衣装を買いまくり(借りるまでもないし)、イースタンユースの3人にモデルになってもらった、珍しいファッション・ページです。お世話になった古着屋『ヴァンベール』はいまも健在、盛業中なので、東京右半分にお出での際はぜひお立ち寄りを。

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シャム双生児の夢

ヒトの頭をした犬がいる。水頭症の子供がいる。シャム双生児がいる・・・鵜飼容子の描く画面、立体の造形は、現代美術画廊のホワイトキューブ空間に、どこかの時代からいきなりワープしてきた見世物小屋のようだ。場末の奇形博物館のようだ。そしてそれらは確かに不気味だけれど、同時にどこか神々しくもある。かつてさまざまな文明で、奇形や不具の人間が「神に愛でられた存在」であったように。鵜飼容子は1966(昭和41)年生まれ、46歳の画家だ。生まれ育った鎌倉の地で、週の半分は通いの仕事で生活を支えながら、静かに絵を描いて暮らしている。

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海辺にて――デレク・ジャーマンへの旅

来週月曜(11日)まで、そのタカシマヤ美術画廊で開催されているのが『高橋恭司 “ブルーブルー” ―デレク・ジャーマンの庭―』という写真展だ。亡くなったのが1994年だから、もうすぐ没後20年になるデレク・ジャーマン。「映画監督・舞台デザイナー・作家・園芸家」などとウィキには書かれているが、みなさんにとってデレク・ジャーマンとは、どんな存在だったのだろう。最初から最後まで画面が青一色だった、あまりに異色な遺作『ブルー』を思い出すひともいるだろうし、かつて日本でも彼の庭園を紹介する本の翻訳版が出たことから、おしゃれな園芸家として知っているひともいるだろう。

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連載:スナックショット 17 静岡(平田順一)

旅ぃゆけぇばー、駿河のぉ国にぃ、茶のぉ香り、どうも平田です。今回のスナックショットは浜松市・静岡市と政令指定都市が2つありながら新幹線のぞみの停まらない静岡県の、新幹線の駅もない街を中心に各駅停車でお送りします。関東と関西の中間に位置して海と山に恵まれ気候も温暖、商工業ともにバランスが良く新商品のテスト販売地域として知られる静岡県ですが、少し前まではコンビニの新規出店が厳しく住民騒動になったりしました。自分の関心でいえば静岡県のパチンコ店の条例で投機性の高い一発台が禁じられており、古い一般台が多く残るパチンコ店の佇まいが印象に残っています。

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今和次郎のこと、広島のこと

ちょっと前の告知コーナーでお伝えしたように、いま広島市現代美術館では『路上と観察をめぐる表現史――考現学以後』というグループ展が開催中です。「考現学」という言葉は今和次郎が吉田謙吉らと1920年代なかばに提唱、研究を始めたジャンル。今回の展覧会は今和次郎の考現学から、戦後の赤瀬川原平や藤森照信らによる「路上観察学会」など、ふつうのひとびとの暮らしを見つめてきたアーティストや研究者たちの、観察記録を集めたユニークなグループ展です。そのなかに僕の「珍日本紀行」や大竹伸朗の作品群も含まれているのですが・・・。2月16日に美術館で開催された公開対談でもお話したように、大竹くんや僕が見てきた「路上」と、学問(あるいは学問ふう)の視線で観察されてきた「路上」にはずいぶん隔たりがあります。

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ワタノハスマイルふたたび

去年の3月21日に配信した『ワタノハスマイル』を、覚えていらっしゃるだろうか。まだ読んでいないかたは、ぜひサイトのバックナンバー・ページからご一読いただきたい。3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、避難所となった宮城県石巻市の渡波小学校で、子どもたちが瓦礫から拾い上げたゴミでつくりあげた、それは魔法のようなアートが誕生した瞬間だった。「ワタノハスマイル」のオーガナイザーとなった、山形県出身の絵本作家・犬飼ともさんは、思いがけず全国からイタリアまでを回ることになった展覧会に際して、こんなふうに書いていた――。

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負け組音楽映画の真実――『シュガーマン』と『ジンギス・ブルース』

今週末からいよいよ『シュガーマン』の上映が始まる。正式タイトルは『シュガーマン 奇跡に愛された男』だが、『サーチング・フォア・シュガーマン』という原題のほうがずっといいなあ・・・などと思っていたら、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞してしまった。今年は作品賞も実話をもとにした『アルゴ』だったし、「なんとか2」とか「3」とかばかりに巨費を投じるハリウッドの制作スタイルが、すでに限界に達していることを示しているのかもしれない。もうテレビでも新聞雑誌でもずいぶん紹介しているので、いまさらここで書く必要もないと思うが、『シュガーマン』はロドリゲスという実在のミュージシャンをめぐる、数奇としか言いようのないドラマを映像化した作品だ。

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畸人研究学会報告 04 夢の王国の荒々しさと優しさ、そして郷愁 (海老名ベテルギウス則雄)

兵庫県の三田市で醤油鯛の取材を終えた後、私は次にどこへ行ってみようかと考えてしまった。お恥ずかしながら今回の取材で訪れるまで、三田市はただ漠然と大阪とか神戸の近くだと思っていて、どのあたりにあるのかをきちんと把握していなかった。しかし実際に行ってみると宝塚の先で、結構大阪や神戸から距離がある。取材後は大阪か神戸あたりに行ってみようと考えていた私に迷いが生まれた。そこで近くに面白そうな場所が無いか、醤油鯛の取材をした後の沢田さんに聞いてみることにした。「そうですね、確かに三田って結構兵庫の奥なんですよね。ここまで来たら大阪や神戸に行くのも良いですが、反対側の日本海側に向かうのも面白いと思いますよ。近くには丹波篠山なんかもありますし」。

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祈りの言葉が絵になるとき

メールマガジンで楽しいのは、小さな記事がときには思わぬ発見に結びついて、それをすぐにまた掲載できるところだ。担当編集者との打ち合わせとか、会議とか、そういうのをぜんぶすっ飛ばして。今年の2月6日号で、小さな展覧会の告知記事を掲載した。『アートリンク:奈良県障害者芸術祭』というそれは、障害者とアーティストが手を組んで作品をつくる、ユニークな試みだった。その参加作家である黒瀬正剛さんからある日、薄いパンフレットが届いた。黒瀬さんが企画を手伝った、地元のアマチュア・アーティストの展覧会カタログだそうで、表紙には穏やかな表情の仏画と、「伊東龍宗 Tatsumune Ito」という作家名だけが記されている。

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水もしたたるイイ女

その円奴から久しぶりに電話がかかってきたのだけど、なんだか声が震えてる。どうしたの?って聞くと、「うちが水害にあっちゃって!」と、しんみり。え、そこ新大久保でしょ? 円奴の部屋はアパートの1階なのだが、数日前に大家さんが住む2階から水漏れ・・・なんてレベルじゃなく、天井から雨のように水が・・・という大事件が発生。めちゃくちゃになった部屋を少しずつ片付けながら、いまは近くのウィークリーマンションで避難生活なのだという。笑っちゃいけないけど、よりによってこんなにあふれんばかりのブツが詰め込まれた部屋にかぎって、こんな被害に遭うなんて。隣の部屋はぜんぜん無事だったというし。「悔しいから、写真撮りに来て!」と言われて、喜んで駆けつけました。

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連載:スナックショット 18 愛知、三重、岐阜(平田順一)

いらんモノはコメ兵へ売ろう!どうも平田です。1993年公開の「ミスター・ベースボール」は野球に大して興味のない自分にも面白い映画で、何度かテレビ放映もされました。トム・セレックが演じる元メジャーリーガーの助っ人外人が、カルチャーギャップに悩みながらもチームメイトや監督から友情と信頼を得るという痛快なスポーツコメディであり、ユニバーサルピクチャーズ配給の洋画なのに舞台となるのは名古屋、つまり中日ドラゴンズの助っ人選手です。言葉も風習もわからない島国に連れてこられて、名古屋というローカルな環境で戸惑いつつも、東京の人気球団に対抗心を燃やすというひねった設定にリアリティーがありました。今回のスナックショットはその名古屋にも対抗心を燃やしているかもしれない、愛知・岐阜・三重の周縁部からお送りします。

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『つくることが生きること』の空虚

先週のメルマガで特集したワタノハスマイルの新作が展示されている、神田3331の東日本大震災復興支援『つくることが生きること』東京展に行ってきた。もともと錬成中学校という千代田区の公立中学校だった建物の、1階展示室の主なエリアを使った広い展示空間に、大震災で肉親を失った畠山直哉さんや、建築写真で知られる宮本隆司さんをはじめとする多数のアーティスト、研究者が参加した合同展である『つくることが生きること』。大きな期待を持って会場に足を踏み入れ、最初に感じたのは――静かすぎ! という抑えきれない苛立ちだった。

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石巻のラスタファライ――ちだ原人半生記

石巻ミュージック・シーンの立役者というか、ムードメイカーというか、伝説的存在というか、とにかく石巻の象徴のような存在、それがレゲエ・シンガーである「ちだ原人」だ。そして彼もまた、3.11ですべてを失った被災者のひとりである。これからお送りするのは、この稀有なアーティストの、おそらく初めての包括的なライフ・ヒストリーだ。ものすごくメガ盛りなドレッドヘア、ものすごく日焼けした顔と、うるんだような優しい瞳、夏は半裸体、厳冬期でも足元は素足にゴムゾーリという、いちど見たら忘れられないインパクトを放つ「ちだ原人」は、1958(昭和33)年に石巻市で生まれた。いまも残る生家は日和山(ひよりやま)という小高い丘の麓にあって、周囲を役所の出張所や公民館、学校などに囲まれた、中心部ながら静かな文教地区である。

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石巻のパラダイス・ガラージ――パールシネマ潜入記

ちだ原人のインタビューにも協力いただいた石巻のデッドヘッズカフェ『ROOTS』を紹介した去年12月12日配信号で、ちらっとお見せしたのが石巻商店街にある宮城県内唯一の成人映画館『日活パールシネマ』だった――。もともとは石巻で酒蔵を始めた、現在のオーナー清野太兵衛さんの先代が、大正15年に石巻歌舞伎座といいう芝居小屋を建立。芝居の合間に日活の活動写真を上映するようになり、昭和26年に現在の劇場を建て、しばらくダンスホールとして営業したのち、昭和30年から映画館としての営業を始めたという。

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今夜も来夢来人で ~宮城県岩手山編

2年ほど前に『アサヒカメラ』で連載していた、全国各地の「来夢来人」という名前のスナックをめぐるという・・・趣味全開の連載。案の定、全国47都道府県を制覇する前に連載終了になってしまいましたが・・・涙。今回はちょうどいいので、宮城県岩手山のスナック来夢来人をご紹介します。岩手山は、仙台と石巻とちょうど正三角形の角になる山側の小さな町。駅の周囲は寒々としてるけど、店の中は貫禄ママさんと可愛いホステスさんと、いっぱいの常連さんで、とびきり暖かい居心地でした!

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死刑囚の表現・展

すでにツイッターやFacebookでご存知の方もいらっしゃるだろうが(そして美術メディアは例によって完全無視だが)、今月20日から6月までの2ヶ月間、広島県福山市の鞆の津ミュージアムで、『極限芸術 ― 死刑囚の表現 ―』と題された展覧会が開催される。鞆の津ミュージアムは、去年僕も展覧会やトークで参加させてもらった、アウトサイダー・アートを専門に扱う新しいミュージアム。そしてこの展覧会は、個人的に今年いちばん重要な美術展になるはずだ。タイトルどおり、この展覧会はいま日本国内に130余名いる死刑確定者や、すでに刑を執行された受刑者による絵画展だ。ロードサイダーズ・ウィークリーでは去年の10月17日配信号で同じ広島県内、広島市郊外のカフェ・テアトロ・アビエルトで開催された『死刑囚の絵展』をリポート、予想以上に大きな反響をいただいた。そのとき展示された作品は40数点だったが、今回鞆の津ミュージアムに展示される作品は総数300点以上になるという。同種の展覧会でも最大規模であることは間違いない。

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銀座6丁目のフェティッシュ宇宙

このメルマガではすでにおなじみの銀座ヴァニラ画廊。現代とか古典とか、プロとかアマとか関係なく、とにかく「フェティッシュ」という一点に絞ってアーティストを選び、展示を続けている珍しいギャラリーだ。そのヴァニラ画廊が昨年、初の公募展を開催。その受賞者展が今月1日から13日まで開催中である。美術評論家・美術史家の宮田徹也さん、ギャラリー・オーナーの内藤巽さんと共に、僕も審査にあたったこの公募展。最初は告知コーナーで触れるくらいにしておこうと思ったが、さすがにヴァニラらしいビザールな作品が集まったので、ここでちらりと紹介してみたい。第一次審査を通過した33作品の中から、今回は大賞1名、審査員それぞれの賞が1名ずつ計3名、さらに奨励賞が3名選ばれた。今回の受賞者展では各賞の受賞作品と、第一次審査通過作品も併せて展示されるという。

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連載:スナックショット 19 石川、福井(平田順一)

どうも平田です。卒業に就職に人事異動に契約更改、年度が替わって落ち着かない4月の1回目は開店祝いの花輪を巡る旅です。十数年まえに富山県で廃線の危機にある鉄道に乗って探索していたところ、沿線の街のスナックの佇まいに惹かれ、観光ガイドに載らないような街の風景を求めて全国各地を記録して歩くようになりました。これをスナックショットの第1回に書きましたが、厳しい気候風土のなかで培われた北陸地方の街並みはとりたてて魅力的に映ります。しかし時期によっては、ビル全体を埋め尽くすくらいに花輪を飾ってあるのは何故でしょうか?

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今夜も来夢来人で ~ 敦賀編

読むたびに激しく旅情をかきたててくれる、平田順一さんの連載『スナックショット』。今回は石川、福井編だったので、アーカイブ・コーナーも福井県敦賀市で取材したスナック来夢来人を再録してみました。もともとは『アサヒカメラ』誌で2008年から2010年にかけて連載されたこのシリーズ、敦賀編が記念すべき第1回目だったので、イントロ付きでお送りします! しかし読み返して感慨深かったけど、この連載を始めたきっかけのひとつが、ニコンからD3という高感度に強いフルサイズ・デジカメが発売されたから。それからたった5年弱で、D3はとっくに時代遅れ・・・まだ愛用してるけど! フィルムカメラは古くてもヴィンテージになるけれど、デジカメはコンピュータと同じ、ただの時代遅れになるだけなんですねえ・・・涙。

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つくりもののまこと――『日本映画 スチル写真の美学』展によせて

「ハリスさんも死んだ、鶴さんも死んだ、今度はわたしの番なんだ・・」と絶唱するのはご存知『お吉物語』だが、先月末でシネパトスが死んで、5月末でテアトルシネマが死んで、銀座の映画館もどうなっちゃうんだろう・・・涙。そのテアトルシネマから首都高の下をくぐってすぐ、京橋のフィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター)は、銀座エリアに残された数少ない映画ファンの聖地である。過去の名作や埋もれた作品の上映はもちろん、展覧会もなかなかおもしろいフィルムセンター。先月末まで開催していた『西部劇(ウェスタン)の世界 ポスターで見る映画史 Part1』も楽しかったが、今月16日からは『映画より映画的! 日本映画 スチル写真の美学』と題された非常に珍しい、そして個人的に思い入れの深い展覧会がスタートする――。

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極楽行きのディスコバス

このメルマガや、前身のブログ「ロードサイド・ダイアリーズ」読者のみなさまは、僕がどれだけタイ好きか、よくわかっていただけていると思う。なので「タイに行ったらこんなおもしろいのありました」という報告をもらっても、たいていは驚いたりしないのだが、先日イベントで出会った男性から、「タイのディスコバス、いいですよね~」と話しかけられたときには、久しぶりに驚いたし、悔しかった。(中略)音楽を満載して、とびきりのサウンドシステムと、とびきり過剰なエレクトリック・ドレスアップを施して、田舎のハイウェイに君臨する「走るディスコ」! それはつかのま乗客たちをトリップさせてくれる、極楽行きのマジック・カーペットであるにちがいない。バンコクのおしゃれキッズもまだ知らない、タイの最下層から生まれた最上級のクリエイション。初めてのタイ旅行をきっかけにハマってしまい、タイ語もできないままシーンに飛び込んでしまった渡邉さんのリポートをどうぞ!

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原色の寝室――タイの日式ラブホテルめぐり 1

渡邊智昭さんのディスコバスの写真を見ていて思い出したのが、ラブホテルのこと。日本に限らず世界中に「おもにセックスのためのホテル」は存在するが、それらはあくまで「カップル向けのロマンティックな宿泊施設」であったり、「娼婦と短時間過ごすためのヤリ部屋」だったりする。そのように味気ない限定目的空間を、これほどまでの特殊な美的空間デザインに昇華させたのは、日本が世界に誇るべき美意識だと思うのだが・・・あるんですねえ、タイにも。実は日本そっくりのラブホテルが。明らかに日本のラブホの影響にあるというかモロ・コピーでありながら、「家族やお友達とのパーティにも」などとうたってあるところがまたタイらしい、南国的快楽空間。数年前に3ヶ所の存在を確認、取材も済ませていたが未発表のままだったので、今回のディスコバスにあわせて2週間にわたってご紹介します。今週はまず、チェンライのレッドローズ・ホテルから。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」田我流、そしてこんどの日曜日はイースタンユース!

先週日曜日から始まった「都築響一 ROADSIDE RADIO」。聴いていただけたでしょうか。インターFMという東京ローカル局、しかも日曜深夜12時半から1時半までという時間帯にもかかわらず、圏外からもRADIKOやLISMO WAVEといったアプリで聴いたというメッセージをたくさんいただきました。どうもありがとう! 記念すべき第1回めの放送は、3月2日に渋谷クアトロで開催された「極東最前線」から、田我流のステージを時間いっぱい、たっぷりお送りしました。『ヒップホップの詩人たち』にも登場してもらった日本語ラップの新鋭ですが、そのステージの熱さに、びっくりされた方も多いかと。

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拳闘家と写真家――ふたりのファイターによせて

梅小路公園には去年、京都水族館がオープン。これまで京都市民には場末扱いされてきた下京区への、ひとの流れの変化を呼び起こしているが、先週土曜日にはこの京都水族館のすぐおとなりに、小さなギャラリーがひっそりオープンした。『trace』という名の、三角屋根の古い倉庫を改造したギャラリーは、写真家であり美術作家でもある山口和也が開いたもの。そのこけら落とし企画として5月12日までのほぼ1ヶ月間、山口さんが6年間にわたって撮影し続けてきたプロボクサー小松則幸の写真展を開催している。

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原色の寝室――タイの日式ラブホテルめぐり 2

タイ各地の「日式」ラブホテルをめぐる旅。先週はタイ最北部チェンライの『レッドローズ・ホテル』を紹介したが、今週はチェンマイの『アドヴェンチャー・ホテル』、バンコク郊外の『サイアムソサエティ・ホテル』の2軒にお連れしよう。まずはバンコクに次いで、旅行先としても人気の高いチェンマイ。言うまでもなく、タイ北部最大の都市である。バンコクと異なり、歩いて回れるチェンマイの旧市街はいかにもオールド・タイの風情にあふれているが、アドヴェンチャー・ホテルがあるのは旧市街から外に出た、チェンマイ空港からクルマで5分という大通りの交差点。なのでラブホテルとしてだけでなく、家族連れや団体客などの旅行客にとっても便利なロケーションにある。

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つくりもののまこと――伝説のスチルマン井本俊康さんに聞く

これまでほとんどまったく脚光を浴びることのなかったスチルマンをフィーチャーした、貴重な機会となる今回の展覧会。『Frozen Beauties 日本映画黄金時代のスティル・フォトグラフィ』(2000年、Asupect刊)に掲載した、僕のロビーカード・コレクションも展示されているが、今週は全盛期の日活で活躍したスチルマン・井本俊康(いもと・としやす)さんのお話を伺ってみよう。東京品川区の静かな住宅街に奥様とふたりで暮らす井本さんは、日活時代に石原裕次郎の作品だけで33本、吉永小百合を24本、会社を離れてフリーになり、引退するまで実に380本もの映画スチルを手がけた、伝説のカメラマンである――。

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連載:スナックショット 20 滋賀(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは古戦場や史跡の多い滋賀県、自分の拙い写真にも歴史の重さが滲み出ているはずです。2010年まで上野から高崎線・上越線経由で金沢へ向かう夜行列車が出ており、これをよく利用して出かけていました。「東京発金沢行」の切符ではなく、金沢→福井→米原→東京と帰ってくる「東京発東京行」の切符をJRの窓口で作成すると、乗車券・急行券などを合わせて2万円くらい、新幹線で名古屋まで往復するのと同額ですが、名古屋に行くなら夜行列車で金沢を経由しても、滋賀・岐阜・愛知・静岡には途中下車ができ、米原から切符を買い足せば京都へも安く行けて、振れ幅が大きい旅行になります。かような経緯で前回の石川・福井篇や愛知・岐阜篇と同じ時期に、上野発の夜行列車で滋賀にも行きました。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」、イースタンユース熱演!

先々週日曜日から始まった「都築響一 ROADSIDE RADIO」。先週は渋谷クアトロ「極東最前線」から、イースタンユースのライブをたっぷりお送りしました。聴いていただけたでしょうか。インターFMという東京ローカル局、しかも日曜深夜12時半から1時半までという時間帯にもかかわらず、圏外からもRADIKOやLISMO WAVEといったアプリで聴いたというメッセージをたくさんいただきました。どうもありがとう! イースタンユースは1988年、札幌で結成。ということは今年が25周年なんですよね・・すごい。デビュー・アルバムの『EAST END LAND』を発表したのが1989年。そして最新作が2012年9月、15枚目の『叙景ゼロ番地』。そのあいだ吉野寿(帯広出身・ギター、ボイス)、二宮友和(宇和島出身・ベース)、田森篤哉(礼文島出身・ドラムス)のスリーピース、最小編成にいささかのブレもないまま、ここまで走ってきたそのエネルギーと持続力には、ただ頭がさがるのみです。

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長距離ロッカーの孤独

この3月、札幌の小さな映画館で、あるドキュメンタリー映画が1週間だけ公開された。主人公は札幌在住の、まったく売れない中年ミュージシャン。監督はこれが映画初挑戦という、美容院とスープカレー屋の経営者。いったいこれ以上、地味な組み合わせがあるだろうか・・・。しかしこの映画『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』は、公開直後からなんと連日満員の大盛況。今月30日からは映画館「蠍座」の開館以来、17年間で初めてのアンコール上映が行われるのだという。映画にはほんのときたま、こういう奇跡が起きる。だから信じられるのだけれど、それにしても・・・。『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』とは、こんな映画だ――。

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梅佳代展オープン!

先週土曜日から初台の東京オペラシティ・アートギャラリーで始まった『UMEKAYO 梅佳代展』。すでにチェックしたというひともいるでしょう。これまでの彼女の展覧会の中でも最大規模の、そして現代日本のポップ・カルチャーにおける写真表現の最前線をあらわにする、絶対注目の大規模展覧会です――こんなこと言うと、生真面目なアート・フォトグラフィ信奉者に怒られそうですが。梅佳代についてはもう説明の必要がないと思うので、ここでは書きません。1981年に石川県で生まれ、2002年に大阪の日本写真映像専門学校を卒業。2006年に初写真集『うめめ』を発表して一躍注目を集め、翌年には木村伊兵衛写真賞を受賞(このときは僕が審査員でした)。それからの活躍はご存知のとおりです。

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渋谷で混浴

先々週のメルマガで告知していた『混浴ゴールデンナイトin東京』、4月12日に大盛況のうちに終了しました。渋谷のサラヴァ東京で夜6時半からと9時半からの2回公演だったのですが、両方とも満員御礼という・・・ぜひ定例化してほしいですね。昨秋に別府のアートイベント『混浴温泉世界』で披露され、大反響を巻き起こした「金粉ショー」を含む『混浴ゴールデンナイト』の、東京での一夜限りの特別興行。別府からやってきた混浴温泉世界の女性スタッフ3人のユニット「なみなみガールズ」による微笑ましいイントロで開幕。あとは立て続けにフラメンコの吉田久美子、人間ドッグ・オーケストラ、大人ディスコあけみの吟子(withソワレ、多田葉子、北園優)、そしてトリの「TheNOBEBO」による金粉ショーと、パフォーマンス・アートとエンターテイメントの境界線上を行きつ戻りつする刺激的なステージが堪能できました。

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Inter FM「ROADSIDE RADIO」、蓄音機で爆クラ!

ヒップホップの田我流、ロックのイースタンユースと続いてきたインターFM『ROADSIDE RADIO』のフィールドレコーディング・シリーズ。21日深夜の第3回では趣向、というかジャンル一転、クラシックの世界をお送りしました。『蓄音機に溺レテ、ハマれ』――2011年から六本木のライブスペース「音楽実験室・新世界」を舞台に、もう2年間も満員御礼を続けている人気イベント『爆クラ』の、今月9日に開催されたばかりの第21夜です。爆クラ、とはその名のとおり爆音クラシック。コンサートホールではなくライブハウスで、クラブ仕様のサウンドシステムでクラシックの名曲を堪能しようという、すばらしくマニアックな人気イベントです。

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一夜漬けの死体――川本健司の「よっぱらい天国」

新宿でも、渋谷でも池袋でもどこでもいい。東京の夜の街を初めて歩く外国人がいきなり度肝を抜かれるもの――それは道端に倒れている人間たちだ。あっちにもこっちにも、街路樹の根本にもビルの入口にも、ぐったりとからだを横たえて動かないひとたちがいる。それは人体というより、薄暗がりのなかの小さな障害物だ。ニューヨークだってロンドンだってパリだって、バンコクだってマニラだって道に倒れている人間はいっぱいいるが、東京の場合はそれがスーツ姿のサラリーマンだったり、ミニスカートの女子だったりする。で、事情を知らない外国人は「東京はなんてタフな場所だ!」と驚いたり、「死んでるんじゃないの?」とオロオロしたりするのだが、「いや、酔っぱらってるだけだよ」と聞かされて二度びっくり。「財布やカバンを盗られないのか!」「レイプされないのか!」と、こんどは「東京って、なんて安全な場所なんだ」と感心したりする。

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連載:スナックショット 21 京都・兵庫(平田順一)

どうも平田です。京都・大阪・神戸と大都市が近接しながら、それぞれに独自の文化を培ってきた関西地方の街並みは大好きなんですが、コテコテとかベタベタといった形容詞の関西レポートは避けるべく、今回のスナックショットは京都府の中丹地方と兵庫県の播州地方からお送りします。京都府が海に面している事は小学校の社会科で学習するものの、山に囲まれた京都の盆地からは海がイメージできません。一方で古くから海軍の拠点だった舞鶴市を歩いてみると、逆にここが京都の洛中とおなじ自治体にあるのが遠く感じられ、京都共栄銀行や京都北都信用金庫の店舗があるので、あらためてここも京都だったと認識させられます。

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ROADSIDE RADIO ギャーテーズ降臨!

ロードサイド・ラジオ、先週日曜日にはその前の『爆音クラシック=爆クラ』から180度路線変更、フリー・インプロビゼーション・バンドの雄「ギャーテーズ」のライブをお送りしました。ギャーテーズの音楽がラジオで放送されること自体、ものすごく異例だと思いますが、1時間まるごとライブの実況は・・・奇跡じゃないかと、自分で言うのもなんですが・・・。ギャーテーズは10人前後の編成によるバンドですが、そのフロントをつとめるふたりのボーカルと、ライブではそのすぐ後ろで縦笛を吹きつづける3人が障害者。そのバックを手練のプロ・ミュージシャンが固めるという、なかなか他に類を見ないユニークなバンドです。

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ヌケないハダカ

篠山ヌードとは、ヌケないヌードである。ま、そんなことない!と言い張る諸君もたくさんいるでしょうが。当代一の人気ポルノ・アクトレス、夏目ナナが丸坊主で仁王立ちになって、こっちを睨んでいる。すごいからだだな、とは思うけれど、ぜんぜん欲情しない。ホームグラウンドであるDVDでは『「超」ヤリまくり!イキまくり! 24時間!!』『Gカップ美人巨乳秘書 10連発!野獣中出し』なんて作品をリリースしまくり、「チンポおいしい! もっとチンポちょうだい! ナナに精子かけて!」などと大阪弁で絶叫しまくり、「ほぼすべての出演AVでイッてる」と公言するセックス・クイーンであった彼女。その全身からしみ出すスケベ汁を、篠山さんのカメラはきれいに拭いとってしまっている。

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民謡酒場のマスター・オブ・セレモニー

浅草、吉原、向島・・・いま都内に3軒ほどしか残っていない「民謡酒場」という存在を教えてくれたのは、山村基毅さんの『民謡酒場という青春―高度経済成長を支えた唄たち―』(ヤマハミュージックメディア)という一冊の本だった。山村さんによれば、昭和30年代からの高度成長期に東京、それもいまはソープ街として知らぬもののない吉原を中心に、数十軒の民謡酒場が盛業していたのだという。わずかに残っている数軒を、僕は山村さんに案内をお願いして訪ね歩き、それは単行本『東京右半分』に収められたが、そのうち亀戸の『斎太郎』はすでに閉店してしまっている。この記事の最後に東京右半分・民謡酒場探訪記の前説を再録しておくが、山村さんとはしごした店でいちばん興味深かったのは、民謡歌手やお客さんたちよりも、司会者の存在だった。

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ウグイス谷のラバー・ソウル

去年のちょうどいまごろ、5月9日配信号に掲載した『ウグイス谷のゴム人間』。イラストレーターのゴッホ今泉さんが主宰してすでに20年間以上、通算200回以上は開かれている毎月第1土曜日の『デパートメントH』。日本でいちばん古くて、いちばん大規模でフレンドリーなフェティッシュ・パーティで、毎年5月6日の「ゴムの日」にあわせて開催されるのが『大ゴム祭』だ。あれから早1年。「今年も新作がいっぱい出ます!」と教えていただいて、いそいそと会場の鶯谷・東京キネマ倶楽部に行ってきた。例によって舞台に群がり乗り出し、激写・熱写に夢中のカメコ諸君に混じって、美しくもビザールなラバー・ファッションの粋を撮影してきたので、じっくりご覧いただきたい。

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ROADSIDE RADIO 2週連続で三上寛!

インターFM史上で早くも、もっともビザールなプログラムとなりつつある「ROADSIDE RADIO」。先週の障害者ツインボーカル・インプロビゼーション・バンド「ギャーテーズ」に続いて、さきおとといの日曜は三上寛のライブをお送りしました。しかも番組内で話したとおり、こんどの日曜日も続けて三上寛! しかも通常のオリジナル曲を歌うライブではなく、演歌のカラオケ・ライブ! こんなこと許されるのでしょうか・・・いつまでも(笑)。自分でもやっててドキドキしてます。

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ガラパゴス・シティ、大阪

昔は憧れて京都に住んでみたこともあるけれど、いまは仕事に行くにも、遊びで行くにも、京都より大阪のほうが百倍好きだったりする。一見、なんの変哲もない、なんの風情もない大阪の街を歩いていて、突然に出くわす人々や風景。そこには同じ日本でありながら、明らかに東京とも、京都とも、ほかのどこともちがう、大阪っぽいとしか言いようのないノリというか、グルーヴというか、そういう異質な空気感が確実にある。だから僕にとっての大阪のイメージは、ここだけがどこか別な方向への進化を辿っているとしか思えない、ガラパゴス的な印象の場所でもある。そういう大阪の空気をすごくうまく捉えている、若い写真家が谷本恵さんだ。

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ガラクタ山の魔法使い

隅田川に近い浅草橋の裏のビル。階段を上がった先の奥の部屋。展覧会なのに、カメラのISO感度を6400ぐらいに上げないと撮れなそうな暗い部屋の中で、もじゃもじゃの髪ともじゃもじゃのヒゲの男が、机にかがみこんで作業に没頭していた。ここ、展覧会場ですよね・・・。「マンタム」という不思議な名前を持つ彼は、古物商=古道具屋でありながら、自分のもとに集まってくるガラクタを素材に、なんともユニークな立体作品をつくりあげるアーティストでもある。そしてシュールで、魔術的でもある彼のオブジェが詰まった展示空間に足を踏み入れること、それはまるでヤン・シュヴァンクマイエルかブラザース・クェイのアニメの中にワープしてしまうような、不思議な体験でもある。

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スナックショット 22 岡山(平田順一)

どうも平田です。旅先で酒場の街並みを撮っていると「ちょっとあんた、何を写しているの?」と問いかけられる時があります。またこの一連の行動に対して「そこに何かあるの?」「こういうのが面白いの?」と問われる時もあり、「この雰囲気が良いんですよ」「何があって面白いかは、いろんな町に行って歩いてみないとわからないんですよ」などと答えながら、つくづく説明の下手な自分に嫌気がさすのですが、今回の岡山県は半分が倉敷市水島地区の写真になります。こういう所の写真を撮って伝えたいという気分が顕著に表れているので見てください!

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ROADSIDE RADIO 三上寛、カラオケを唄う!

5日に続いて、12日の「ROADSIDE RADIO」では三上寛特集。それも三上さんが好きな演歌を選んでカラオケで歌い、そのあいまに僕が三上さんにいろいろ話を聞くという、奇跡的なプログラムをお送りしました。日曜深夜とはいえ、FM局で1時間、カラオケで番組をつくっちゃうなんて、放送史上でもマレなんじゃないでしょうか。舞台となったのは西荻窪のファンキーでサイケデリックなバー『ゼン・プッシー』。その店名でイカレ度がすでに察せられますが、三上さんはこの店でもう何十回もライブを開いてきた、常連スター。しかしさすがにカラオケでステージを務めるのは初めてでしょうし、お客さんの手拍子に乗って歌うのも初めてだったかも! 笑

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スナック・ビルの人生迷路 前編

街にはスナックがあり、スナック街があり、スナック・ビルもある。上から下までずらりと店が詰まった飲食ビルは、どこの飲み屋街にも見受けられるが、たとえば新橋駅前ビルのように、上階はふつうのオフィスなり住居でありながら、階下に降りるといきなりフロア丸ごと飲み屋街、ということになると、ちょっと珍しくてウキウキしてくる。品川区五反田。駅西口を降りてすぐ、JRと東急池上線、それに目黒川がかたちづくる小さな三角形に、ロイヤルオークというビジネスホテルが建っている。外から見ればふつうの駅前ビジネスホテルだが・・・ここ、実は地下1階、1階、2階の3フロアがすべてスナック、キャバクラ、居酒屋という強力なインドア飲食街。

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笑う流れ者――アンダーグラウンド・フォトグラファー木股忠明の世界

仙台、新宿ゴールデン街、神奈川県綱島・・・同時多発的に小さな写真展が、ひっそりと開かれている。『笑う流れ者木股忠明の思いで』――ひっそりすぎて、そんな展覧会があることすら知らないひとがほとんどだろうし、木股忠明という写真家の名前も、よほど詳しいひとでないと聞いたことがないだろう。写真に詳しいひとですらなく、アンダーグラウンド・ミュージック・ワールドによほど詳しいひとでないかぎり。1970年代末期から80年代にかけて、日本の音楽業界がインディーズ・ブームというものに(ニューウェーブと呼ばれるようにもなったが)浮き立っていたころ、それとは一線を画した場所で、ずーっと小さくて暗い片隅で、ふつふつとうごめくエネルギーがあった。

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永遠のニューサザエ

TimeOut TokyoのWeb連載『東京観光案内所』で紹介した『ニューサザエ』。5月1日号の告知でお知らせしましたが、見ていただけたでしょうか。新宿2丁目最古の現役老舗店という重要スポットでありながら、マスターの紫苑(シオン)さんにお聞きした、あまりに激動の半生が、TimeOut Tokyoでは字数の関係でまったく書けなかったので、ここであらためてお送りしたいと。文字数1万8000字オーバー、じっくりお読みください! いまや「ni-chome」という言葉が世界語になるほど、国内外で認知されるようになった世界屈指のゲイタウン・新宿2丁目。東西南北数ブロックのエリアに、数百のゲイバーやレズバーがひしめく不夜城である。閉店(開店ではなくて)が昼過ぎ、なんて店がざらにある、歌舞伎町と並んで日本でいちばん「眠らない街」でもある。

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スナック・ビルの人生迷路 後編

先週は五反田駅そばの「スナック・ビル」、ロイヤルオーク・ホテルをご紹介した。終戦直後の闇市が発展した五反田新開地の再開発に伴って、新築ホテルの地下1階から地上2階まで3フロアを、新開地から移転してきたスナックと居酒屋が占める、それは異様な空間だったが、同じくらい特異なスナック・ビルとして、ぜひいっしょにご紹介しておきたいのがここ「都橋商店街」である。「東京スナック飲みある記」と題していながら申し訳ないが、場所は横浜。日ノ出町と桜木町の、ふたつの駅のあいだにある都橋商店街は、大岡川の緩やかなカーブにぴったり寄り添うように、2階建ての建物自体が緩やかな弧を描いて印象的。「ハーモニカ横丁」という別名が、いかにも納得のデザインである。

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ROADSIDE RADIO 大阪のラッパーと高知のブルースマン

5月20日の「ロードサイド・ラジオ」では大阪のラッパー、チプルソのライブをお送りしました。『ヒップホップの詩人たち』でも取り上げた新進気鋭の、そしてかなり異質なラッパーです。記事のためにインタビューしたときはまだアルバムが、それも自主制作で1枚あっただけでしたが、今回は2枚目のアルバム・リリースを記念しての「リリパ」――去る4月5日に大阪心斎橋・アメ村のクラブ・クラッパーで行われたばかりのステージを録音してきました。

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高知のデルタ、本山のミシシッピ――藤島晃一・絵と音楽と、女と旅の物語 前編

四国の真ん中をほぼまっすぐ南北に貫いて、高知市と香川県高松市を結ぶ国道32号。高知市内から北に向かい、すぐにのどかな田園地帯に、さらに緑深い山沿いのワインディングロードに入って約1時間。大豊という小さな町から土佐街道に左折し、おどろくほど深い色の吉野川に沿って走って行くと、本山町をすぎたあたりのカーブを曲がったとたん、ものすごくカラフルに塗りこまれた一軒家が視界に飛び込んでくる。かわいらしいシャレコウベの看板脇に書かれている店名は『CAFE MISSY SIPPY』。もちろんアメリカのミシシッピ州と、「ちびちび飲るお姐さん」みたいな英語をかけて、これがアメリカのどこかのカレッジタウンにあればニヤリとするような名前だけど、高知の山中ではちょっと浮いている感じもする。でもとにかく、やっと来れた・・・ここが絵描きで、写真家で、スライドギターの名手でもあるブルースマン・藤島晃一のホームベースなのだ。

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新連載:CURIOUS MONKEY ~見たい、聞きたい、話したい~ 01――サドゥーになった日本人(文・渡邊智昭 写真・酒井翔太)

今週から始まる新しいシリーズ『キュリアス・モンキー』。「見ざる・言わざる・聞かざる」の真逆を行こうという、気鋭のライター渡邊智昭さんによる不定期連載です。本メルマガでもすでに今年4月9日配信号で、驚愕のディスコ・バスのお話をタイからリポートしてくれた渡邊さん。今週はインドでサドゥーの世界に入り込んでしまった日本人青年を紹介してくれます。ご存じの方も多いと思いますが、サドゥーとはヒンズー教の修行者のこと。すべての所有を放棄し、決まった住居も家族も、極端な場合は衣服すら持たず、俗界を捨て、みずから定めた行を通して解脱を求める者たち。観光地でよく見かける「観光サドゥー」はともかく、初めてのインド行で、それもひょんなきっかけで、神秘的なサドゥーの世界に招き入れられてしまった若者の体験談を、じっくりお聞きください。※ 記事中、一部にショッキングな画像が含まれています。ご留意のうえ御覧ください。

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スナックショット 23 鳥取(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは日本で一番人口が少ない鳥取県です。ROADSIDERS' weeklyでは昨年8/15配信号(vol.31・圏外の街角から)で取り上げられました。鳥取は距離もさることながら、なにか用事があるとか近くへ寄ったついでとか、そういった要素も派生しづらい縁の遠さがあります。県全体の人口(60万人弱)も東京の江戸川区や足立区と同じくらい、面積や密度を比べると酷ですが国会議員の定数問題ではないので純粋に鳥取県内のスナックのある風景を追ってまいります。

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高知のデルタ、本山のミシシッピ――藤島晃一・絵と音楽と、女と旅の物語 後編

先週に続いて高知県本山町からお送りする、絵描きで、写真家で、スライドギターの名手でもあるブルースマン・藤島晃一さんを訪ねる旅。今週の後編では、『CAFE MISSY SIPPY』から道を挟んだ向かいの川沿いにある『Mojoyama Mississippi』で、4月27日に開催されたライブの模様を写真で紹介しながら、稀有なブルースマンの絵と音楽と女の、冒険の旅路をさらに辿ってみよう。高知市内の飲み屋で働くうちに仲良くなったアメリカ人女性にすすめられて、アメリカに渡ることになった藤島さん。彼女のホームグラウンドであるミネアポリスから、高知で帰りを待つ新しい彼女の実家があるオクラホマシティ、さらにはウィスコンシンと巡るうちに、本格的に絵と向かい合う気持ちが固まってきて、「お金貯めて、また絵を描きに戻って来る」ために、とりあえずいちど高知に帰ることになった。

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蛍光色の夢精――『女根』と女木島をめぐる旅

3年にいちど開かれる瀬戸内国際芸術祭。その夏会期が7月20日から始まる(9月1日まで)。すでに夏休みを利用しての、芸術祭ツアー計画を立てている方も多いだろう。前回の2010年から、さらに拡大した規模で拡大される今回の芸術祭。よほど緻密に計画を立てないと、短時間でいくつもの会場を回るのは不可能だし、そもそもいくつもの島をフェリーで巡らなくてはならず、会場によっては入場制限もあったり、なかなか事前の予定どおりにスケジュールを消化することは難しい。これから行こうという方には、なるべく余裕を持ったスケジュールで、「ここだけは!」という展示を数カ所選んで回ることをおすすめする。

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ROADSIDE RADIO 渋さ知らズで2週間、仏恥義理!

毎回毎回、僕が好きなミュージシャンのライブを1時間もオンエアするという、ありがたい贅沢をさせてもらってるロードサイド・ラジオですが、出演してもらうミュージシャンを選ぶ基準というのは、「知られてないけど、こんなすごいひとがいる」というレア感よりも、むしろ「こんなにみんな好きなのに、どうしてラジオやテレビで聴けないんだろう」という疑問というか、焦燥感をまず基準にしています。僕らが聴きたい音楽と、業界が僕らに聴かせたい音楽がものすごくちがってしまっているところに、今日の音楽業界の根本的な問題があるわけですが(それは音楽に限らないけれど)、そういう意味で日本のみならず、世界的なレベルでものすごく人気があるのに、めったにマスメディアに乗ってこない音楽。その代表が「渋さ知らズ・オーケストラ」ではないでしょうか。

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少女の深海――高松和樹のハイブリッド・ペインティング

探査船の強いライトに照らされて、闇の中で白く浮かび上がる生命体のように、濃紺の深海にたゆたう少女たち。高松和樹がたった2色で描き出す緻密な仮想現実は、見たこともない世界と、ひどく親しげな既知感を同時に抱え込んで、見るもののこころをざわつかせる。どこか懐かしい未来の風景のように。通常のキャンバスではなく、運動会のテントなどに使われるターポリンという防水加工された白布をベースに、3DCGで制作されたイメージを野外用顔料でプリントし、その上からアクリル絵具で筆描きを重ねていくという、デジタルとアナログのハイブリッドのような特殊な技法で生み出される画面。それは少女や物体など描かれたモチーフと、画面に目を近づけてみるとベロアのようにザラリとして見えるマチエールのニュアンスが呼応することで、平面でありながら深い奥行きに、僕らを誘い込んでいく。

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駅という名の広場があった――新宿駅と上野駅の写真集をめぐって

1969年、僕は中学生だった。テレビでは東大安田講堂の攻防戦がニュースで流れ、海の向こうではウッドストックに数十万人の若者が集い、19歳の永山則夫が米軍基地から盗んだピストルで4人を殺し、アームストロング船長たちが月面を散歩し、映画館には『真夜中のカウボーイ』や『イージーライダー』を観る列ができて、パチンコ屋からは『夜明けのスキャット』や『ブルー・ライト・ヨコハマ』や『人形の家』が流れていた年。そして1969年は駅が「広場」であることをやめ、「通路」になってしまった年でもあった。1969年の半年間ほど、毎週土曜夜の新宿駅西口地下は、数千人に及ぶ若者たちが集まって、身動きがとれないほどだった。ギターを抱えてフォークソングを歌う者たち。ヘルメットに拡声器で反戦と大学解体を叫ぶ者たち。ジグザグデモをくりかえす者たち。そこはまさに、毎週末に出現する祝祭空間であり、緊張と怒りに満ちた磁場でもあった。

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連載:スナックショット 24 鳥取、島根(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは前回に続いて鳥取県の西、境港市と島根県松江市・出雲市のスナックを巡ります。妖怪の町から神話の町まで、よろしくお付き合い願います。県庁所在地の鳥取市よりも交通の便が良くて賑やかな米子駅、この0番線ホームに境港行のディーゼルカーが停まっている。これが水木しげる先生が描くラッピング塗装の「鬼太郎列車」であり、終点の境港駅からは水木しげるロードを経て、水木しげる記念館に通じている。

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ROADSIDE RADIO 倉地久美夫@高円寺円盤

6月16日深夜のROADSIDE RADIOでは、福岡県甘木(現・朝倉市)在住の倉地久美夫さんのライブをお送りしました。録音させてもらったのは6月8日、高円寺のレコード/CDショップ円盤でのステージ。いかに「録って出し」か、おわかりかと・・・汗。2週間続けて渋さ知らズ・オーケストラの熱いライブのあとの、うってかわってアコースティックな世界。倉地久美夫さんはギターを持った吟遊詩人と形容したい、なんともユニークなミュージシャンです。一昨年、『庭にお願い』という倉地久美夫さんを追ったドキュメンタリー映画が公開されたので、ライブは見たことなくても名前は知ってる、という方も多いかもしれません。倉地久美夫さんは1964年、福岡県の甘木市で生まれて、いまも市内に住んで活動しています。

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photography

GABOMIという名の「そのまま」写真

長崎、広島、高松・・・路面電車の走っている街とは、たいてい気が合う。先々週のメルマガで紹介した、女木島の『女根』を取材に行ったときのこと。島から高松港に帰ってきて、市内をぶらぶらしてみようと、高松の路面電車「ことでん」の駅に歩いて行ったら、切符売り場の壁に異様なポスターが貼ってあった。仏生山温泉というらしい、檜造りの気持ちよさそうな大浴場に、ことでんの運転手さん、車掌さんたちが制服を着て、制帽もかぶって、白い手袋はめて、裸足で、風呂に浸かって遊んでいる。服をびしょびしょにして、湯けむりのなかで、気持ちよさそうに。

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海辺の村のコンクリ絵巻

台北から新幹線で40分弱、新竹といえばまずビーフンだろう。しかし最近は「台湾のシリコンバレー」と言われるぐらいIT産業が集中していて、いまや台北をスキップして新竹に向かう出張族も多いと聞く。新竹から今度はローカル線に乗り換えて(新幹線とは駅が離れているので注意)、のんびり車窓風景を楽しむこと約30分、新埔(シンプー)という駅にたどり着く。1922(大正11)年にできたこの路線の、当時そのままをとどめているらしい木造建築。眠たげな駅員。駅から外に出ても商店どころか、民家が1軒あるだけ。そして畑の向こうに見え隠れする海(台湾海峡)・・・。「鄙びた」という以外の形容詞が思いつかない新埔駅ではあるが、ここから徒歩わずか数分の距離に、実は台湾屈指のアウトサイダー・コンクリート彫刻庭園『秋茂園』が潜んでいる。

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ROADSIDE RADIO フィールド・レコーディング特集

いつもはレコーダー片手に、ライブハウスやクラブで録ってきた音源を紹介しているロードサイド・ラジオですが、今回は珍しくスタジオからお送りしました。しかしその内容は、「フィールド・レコーディングの極北」とでもいうべき、ビザールなアウトサイダー・ミュージックのセレクション。楽しんでいただけたでしょうか。放送した曲目は:『トランジスタ・レイディオ』 ボンゴ・ジョー/『イン・ドア・ウェイ』 ムーン・ドッグ/『製糸小唄』 里 国隆/『トゥン・クイン・サンライズ』 タイ・エレファント・オーケストラ/『ジーザス・ブラッド・ネヴァー・フェイルド・ミー』 ギャヴィン・ブライアース

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food & drink

ゼン・プッシーが閉じた夜

西荻窪――というより「西荻」という街には、独特の臭みがある。それは新宿とも下北沢とも、高円寺とも吉祥寺ともちがう臭みで、僕は長いこと、それにあまりなじめないでいた。そういう西荻で一軒だけ、ここなら安心して泥酔して気も失えるくらい好きだった店が南口の商店街を抜けた奥にあって、それは『ZEN PUSSY』という、名前からして異常な店だった。屋台みたいな駅前飲み屋街から、住宅街のおしゃれなレストランまで、ありとあらゆるタイプの飲食店がそろう西荻で、ゼン・プッシーはほかのどのタイプにも属さない店だったし、お客さんもほかのどこにも属さないタイプのひとたちだったと思う。

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スナックショット 25 山口(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは本州の西の端、山口県で2006年と2007年に行って写真を撮りました。自分は行ったことのない街にどういう酒場があるのかという興味だけで動いており、数多い名所旧跡を素通りするので街の人やほかの旅行者に説明しづらいのですが、まずは現在廃止されている九州行の寝台列車に乗って、夜が明けた柳井市からスタートしました。

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archive

ベスト・ジュークボックス・イン・タウン

どんなに高性能のMP3プレイヤーと、ダイナミックレンジの広いヘッドフォンを組み合わせても、絶対に出せない音がある。ジュークボックスの音だ。酔っぱらった男と女の肉声に、グラスや氷がぶつる音、ドアが開くたびに流れ込んでくる通りの雑音があわさってぐちゃぐちゃになった音場を、あるときは突き刺すように、あるときは足先からじわっと包み込むように流れる、あの音。極端に重い針圧のせいで、すぐにノイズだらけになってしまうシングル盤の、あの音。そしていま東京で最高の選曲を誇るジュークボックスは、六本木の小さなバーにある。

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ROADSIDE RADIO アーティスツ・チョイス特集

6月30日深夜のロードサイド・ラジオは、『アーティスツ・チョイス』という変わったシリーズのCDをまとめて紹介しました。文藝春秋が社が2000年に発刊した月刊誌『TITLE』のために、僕はその創刊号から2007年まで丸7年間にわたって、『珍世界紀行 アメリカ裏街道を行く』という長期連載をやりました。終わったあと、間もなく雑誌も休刊となってしまい・・・僕のせいじゃないと思いたいです(笑)。のちにそれは『ROADSIDE USA』という分厚い単行本になったものの、連載時にものすごい経費を負担したにもかかわらず、版元は文藝春秋でなくASPECTだった・・・というところに、文藝春秋のこの企画への複雑な思いが反映されてるのかも(笑)。

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photography

写狂仙人の教え――福田満穂コレクション

先週木曜日には渋谷のギャラリー「アツコ・バルー」、そして日曜に山口湯田温泉からDOMMUNE「女将劇場生配信」で、偶然にも続けて山口県の知られざるアーティストの紹介をすることができた。渋谷で展示中の画家・田上允克、萩の仲村寿幸など、すでに本メルマガでインタビューを掲載したアーティストたちと並んで、特に反応が強かったのが、山口市在住のアマチュア・フォトグラファー福田満穂さん。あくまでストレートでありながら、どこかファニー、しかもビザール。見れば見るほど不思議な作風は、笑いの裏にひそむ乱調の美を感じさせてやまない。

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interview

CURIOUS MONKEY ~見たい、聞きたい、話したい~ 02 「足りない女」に魅せられた男(渡邊智昭)

世の中には色んな性癖を持った人がいる、なんてことは都築さんのファンなら誰でも知っていることだろう。今回紹介するのは何かが「足りない」女性に取り憑かれた写真家&映像作家、sguts(すがっつ)氏だ。sguts氏はネット上で「瓶底眼鏡っ娘」「歯列矯正娘」、身体欠損の女性をモデルにした「Muse Style」という3サイトを運営し、オンラインと通販で動画や写真を販売。顧客は国内と海外(主にドイツ!)が半々で、現在はその収入だけで生活しているのだという。しかし一言に「瓶底眼鏡マニア」「身体欠損マニア」とは言っても、何をやっているのかイマイチわからない……。そこでまず、実際の撮影現場にお邪魔した。

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畸人研究学会報告 05 不夢不無曼荼羅は田園の中 芸術家東山嘉事の夢世界(海老名ベテルギウス則雄)

皆さんは東山嘉事(ひがしやま・かじ1934-2006)という芸術家をご存知だろうか? 私は神戸市内の山あいにある知的障害者施設で生活しながら、段ボールに赤鉛筆で独特の絵画を描き続けてきたアウトサイダーアーティストの小幡正雄さんを発掘した人物として、その名を知っていた。今年の初め、兵庫県篠山市で出会った大杉幸生さん(2013年3月13日配信号)から、「東山嘉事さんは私の師匠に当たる人物で、ひとことでは言い表せない大変な芸術家だった」という話を聞いた。そして今回、大杉さんの紹介で、東山嘉事さんのアトリエであった建物の見学をさせていただけることになった。

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ROADSIDE RADIO こだま和文 with DJ YABBY

7月7日のロードサイド・ラジオは、スタジオからライブハウスのフロアに戻って、六本木「音楽実験室・新世界」におけるライブ「こだま和文 from DUB STATION@新世界 vol.8 6.29 MU-SICな日」と題された、6月29日のステージをお送りしました。7日の七夕は、その前にDOMMUNE女将劇場があったので、続けて両方視聴してくれた方もたくさんいらっしゃったそう。長時間のお付き合い、ありがとうございました! ちなみに「MU-SICな日」とは、「6(ム)月29(ジ・ク)日」だから・・・。

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雄弁な沈黙――戦争を語りつぐ場所・しょうけい館

夢を見ました 倅(せがれ)の夢を 肩をたたいて くれました 骨になっても 母を忘れぬその優しさに その優しさに 月がふるえる 九段坂(『靖国の母』二葉百合子 作詞・横井弘) 九段といえば靖国神社。その靖国神社に今年も「みたままつり」がやってきた。先週末の13日から16日まで。冬の新宿酉の市と並んで、東京都内では「見世物小屋」が出る唯一の夏祭りということで、毎年楽しみにしているマニアの方も多かろう。日本歌手協会の超ベテラン歌手たちによる、能楽堂での「奉納特別公演」というフリーコンサートが、僕にはいちばんの楽しみだ。

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追悼・東健次と『虹の泉』

東健次さんに初めて会ったのは2003年のことだった。三重県山中に『虹の泉』と名づけた、とてつもない彫刻庭園を独力で築いている作家がいると聞き、当時連載していた美術雑誌『PRINTS 21』のために取材に伺ったのだった。翌年、今度は珍日本紀行の特選名所をハイビジョン・ムービーで撮り下ろす民放BSの深夜番組『BQ』のために再訪。まったく落ちないペースと、変わらぬエネルギーに驚嘆したものだったが・・・それから約10年。あれからどうなったろう、と進行具合を気にしながらも、なかなか訪問できずにいるうちに、つい先ごろ、東さんをずっと支えてきた奥様から「完成直前に東健次が亡くなりました」とのお知らせをいただいた。この5月22日に、74歳の生涯を閉じられたのだという。

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連載:スナックショット 26 香川・愛媛(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは四国に渡って、大竹伸朗ファンには馴染み深い香川県と愛媛県です。高松は古くから国鉄の宇高連絡船を介した四国の玄関口で、深夜とも早朝ともつかない時間帯にも列車と連絡船の発着があり、神戸・大阪とのフェリーも終夜発着していたので一地方都市とはいえ侮れない、不夜城の輝きがあります。

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ROADSIDE RADIO コラアゲンはいごうまん・ラジオ独演会!

お聞きいただいた方も多いでしょうが、14日深夜の「都築響一 ROADSIDE RADIO」は、コラアゲンはいごうまんのひとりドキュメンタリー漫談を1時間! お送りしました。それも7月6日に開催した本メルマガ・オフ会で披露したばかりのネタを、その場で録音、録って出しで放送。NHKの落語名人会とかはともかく、民放FMで芸人のトークを、ぜんぜん音楽もかけずに1時間流すなんて、アリでしょうか・・・笑。最初で最後、にならないといいですが・・・。これだけリスキーな企画、コラアゲンさんにとっても公共放送でこんなに長時間フィーチャーされるのは初めてだろうから、最初は定番ネタで、とも考えましたが、ふたりで打ち合わせたときに、どうせなら新ネタでやろうと決定。今回の岡山ネタふたつ

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瀬戸の花婿――女木島・高松・丸亀「大竹伸朗祭」

いよいよ夏会期が20日からスタートした瀬戸内国際芸術祭2013。夏休みに向けて全島制覇に意欲を燃やしつつ、フェリーの時刻表とにらめっこでスケジュールを熟慮している方も多いのではないか。本メルマガではすでに芸術祭の春会期に合わせて女木島の『女根』を6月12日号でリポートした。その記事末でも触れ、すでに多くのアート・メディアで取り上げられているように、先週からは女木島の『女根』に加え、芸術祭夏会期とタイミングをあわせて高松市美術館では『憶速 OKUSOKU / VELOCITY OF MEMORY』、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では『ニューニュー NEWNEW』と、3つの展覧会が同時オープン、常設展示である直島の『直島銭湯 I♥湯』と『家プロジェクト・はいしゃ』をあわせれば、ほとんど「瀬戸内・夏の大竹祭り」状態となっている。

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新連載! 高松アンダーグラウンド 1(GABOMI)

瀬戸内芸術祭をめぐるとき、ベースとなるのは高松市だ。しかしそのベースキャンプたる高松市については、意外に情報が少ない。観光地といっても、有名なのは栗林公園や玉藻公園(高松城跡)、四国村くらい。うどん県といっても、朝昼晩3食うどんを食べたいわけじゃないし、だいいちほんとにコアなうどん屋は市内中心部ではなく、むしろ郊外にある。昼間のうちはアートを見てればいいかもしれないけれど、夜や、せっかく来たのだからアート以外のなにかを見たかったら、いったいどこに行けばいいのだろう。

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ROADSIDE RADIO FREEDOMMUNE サウンド・ドキュメンタリー!

先週日曜のロードサイド・ラジオでは、前週7月13日に幕張メッセで開催されたばかりの「FREEDOMMUNE ZERO 2013」の模様を、ドキュメンタリー仕立てでお送りしました。もうDOMMUNEについて説明する必要はないでしょうが、スタートした2010年の翌夏、東日本大震災の復興支援イベントとして第1回が予定されていましたが(そういえば地震のあった3月11日は、僕の『スナック芸術丸』が配信予定だったのでした・・)、会場の川崎・東扇島東公園がとてつもない集中豪雨に襲われて急遽中止。翌2012年には幕張メッセに場所を移して無事に開催。僕も『スナック芸術丸・特別編』として、映画監督・大根仁さんをお招きして深夜のトークをやらせてもらいました。

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ひとりきりの極楽浄土

鞆の津ミュージアムが今月17日から、またもやいっぷう変わったグループ展『ようこそ鞆へ! 遊ぼうよパラダイス』という、タイトルだけではまったく内容のわからない展覧会を開催する。狭い意味でのアウトサイダー・アートを踏み越える意欲的な企画が続く鞆の津ミュージアム。特定の美術館ばかり優遇しているようで恐縮だが、どんな公立美術館よりも「攻めてる」んだからしょうがない。今週はこの展覧会のコンテンツを、オープンに先駆けてたっぷりご紹介しよう。

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高松アンダーグラウンド 2:ホテルエンペラー(GABOMI)

連載の2回目がやってきました! 写真家GABOMIです。今回は実用的なディープ情報ですよ。この夏、瀬戸内国際芸術祭だの、うどんだの、出張だの、放浪だの、移住だの、なんだかんだで香川にお越しになるかもしれないロードサイザーズ読者の皆様に、おすすめホテルをご紹介! 先週、高松市中心部、商店街の裏をウロウロしていました。ある建築物の壁画を撮影したくてアングルを探していたのです。壁画の全貌を撮るには下からじゃ無理で、すこし離れた建物の上から撮る必要があった。振り返るとそこに「ホテルエンペラー」。

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スナックショット 27 徳島・高知(平田順一)

どうも平田です。今回も遍路さながらに四国のスナックを巡りますので、よろしくお付き合い願います。最近新潮社から出た大竹伸朗さんのエッセイ集「ビ」を読んでいますが、伝統と権威を誇る美術展と宇和島のカラオケスナックを俎上に並べて美意識を考察する「スナック『日展』」の一文は、スナック街に惹かれて写真を撮っている自分の、うまく説明できない思いが文章化されているみたいで嬉しかったです。2001年夏、自分は信号メーカーの技術部で働いており、社内には全国の鉄道会社に納品した信号設備の資料があったのですが、仕事とは直接関係のないケーブルカーやロープウェイが趣味的に面白くて、これを追い求めて旅に出てはコンパクトカメラで記録していました。

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ROADSIDE RADIO 2週連続、友川カズキ!

ROADSIDE RADIOでは7月28日と8月4日の2回にわたって、友川カズキさんのステージをお届けしました。7月8日に高円寺ショーボートで行われたソロ・ライブ、14日に碑文谷アピア40で開催された、こちらは永畑雅人さんのピアノ、アコーディオンと、石塚俊明さんのドラムスを加えたバンドセット。ふたつのワンマンライブを、2枚組のLPのように構成してみました。今夜が1枚めのA面、B面、来週が2枚目のA面、B面だと思っていただければよろしいかと・・。

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路上の神様 ――石倉徳弘のポートレイト・フォトグラフィ

たとえばダイアン・アーバスがフリーキーな被写体を通して、フリーキーな自分自身を撮影していたように、鬼海弘雄が浅草の人間模様のなかに自分のかけらを見つけようとしているように、優れたポートレイトは被写体を通して撮影者を浮かび上がらせずにおかない。そうでなければ、ポートレイトはただの顔かたちのサンプル集になってしまう。不思議なポートレイトのシリーズを見る機会があった。写っているのは似合わないスーツや改造制服に身を固めた少年だったり、見るからにオヤジでしかない女装家だったり、売れてなさそうなミュージシャンだったり、変な入れ墨の変な外人だったり、ホームレスだったり。

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プリミティブであること、ノマドであること ――チャラパルタの教え

どうやって演奏するのか、どんな音が出るのか、見当もつかない楽器に出会うと、すごく興奮する。オーストラリアで初めてディジリドゥを見たとき。楽器屋の片隅で口琴を見つけたり、アフリカ音楽のアルバムで親指ピアノを初めて聴いたとき。ニューエイジ系の飲み屋で、中華鍋をふたつくっつけたようにしか見えないハングドラムを叩いてみたとき。しかしこのチャラパルタというのは・・・。材木をてきとうに切って並べた作業台らしきものを前に、ふたりの男が立っている。太鼓のバチみたいな棒を両手に持って、ひとりが台の材木をポン、と叩く(というか棒を材木の上に落とす)。

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ROADSIDE RADIO ちあきなおみ特集・前編

2週にわたった友川カズキのライブに続いて、先週日曜日のロードサイド・ラジオでは、ちあきなおみを特集しました。この番組はなるべくライブにでかけ、その録音をお届けしたいので、すでに歌うことを止めて20年以上がたち、いまや伝説と化した彼女の新しいコンサートは存在しません。やむをえずCDやレコードでお送りしましたが、いざ構成してみるとあまりに紹介したい曲が多く! 前半・後半にわけてこんどの日曜日も「ちあきなおみ特集・後編」をお送りする予定です。

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モンマルトルのアウトサイダー

パリでいちばん高い丘。その頂上にサクレクール寺院がそびえるモンマルトル。ピカソやモジリアーニが住んだ安アパート洗濯船、ルノワール、ユトリロ、ロートレック・・・そうそうたるアーティストたちが青春を過ごしたモンマルトルは、パリ有数の観光地であるとともに、そのふもとにあたるマルシェ・サンピエール地区はパリ随一の生地問屋街。ファッション関係者にはとりわけよく知られる、まあパリの日暮里というか・・・。 カラフルな生地が店先からあふれ出す商店街の奥にあるのが、ミュゼ・アル・サンピエール。パリきってのアウトサイダー・アート専門美術館だ。

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優雅なファッションが最高の復讐である――ダニエル・タマーニとコンゴのサプール

イタリア人の写真家であるダニエル・タマーニは、もともと美術史を専攻していたが、数年前から写真の世界に身を投じ、当時住んでいたロンドンや、パリのアフリカ人コミュニティにとりわけ興味をもつようになった。2006年、もとはフランスが宗主国だったコンゴ共和国を旅した彼は、首都ブラザヴィルで、異様なまでにスタイリッシュに着飾った男たちと出会う。それはフランス語で「サプール(sapeur)」と呼ばれる、ヨーロッパ的なダンディズムを中央アフリカの地で体現した、ダニエルにとってまったく未知のグループだった。

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ROADSIDE RADIO ちあきなおみ特集・後編

2週にわたる、いわば「もうひとつのちあきなおみ」特集。先週は1977年に友川カズキがちあきなおみのために書いた名曲『夜へ急ぐ人』から始まって、ジャズやロックやシャンソンやファドを歌い、そうして88年にリリースした演歌の新曲『紅とんぼ』で、11年ぶりに紅白歌合戦に出場するまでをお送りしました。先週の放送後は思いがけず、たくさんのツイートをいただいたのですが、そのなかで「喝采はかけないのか」という悲鳴のようなコメントがけっこうあって・・今週の放送はちあきなおみ特集後編をお送りする前に、まずは彼女の代表曲中の代表曲「喝采」を聴いてもらうことにしました。

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連載:スナックショット 28 佐賀+佐世保(平田順一)

どうも平田です。北から南へ東から西へスナック街を記録して、今回から九州を巡ります。九州といえば福岡・中洲の繁華街、南に向かえばヤシの繁るマリンリゾート、西に向かえば異国の玄関口として機能した長崎の情緒ある街並み、さらには阿蘇や別府の雄大な火山や温泉をイメージしますが、今回はどれにも該当しない佐賀県と長崎県佐世保市を練り歩きます。「キサン、何ばしょっとね?」「スナックショットば、しょっとです・・・」というわけでよろしくおつきあい願います!

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design

欲望をデザインする職人芸  ――佐々木景のグラフィック・ワーク 前編

いまから10年以上前、『珍日本紀行』の文庫版をつくっているときに、僕は佐々木景という若いデザイナーに初めて会った。「東日本編」「西日本編」の2冊合わせて1100ページを超える膨大なデザイン作業を、数人の若いデザイナーにチームを組んでもらって進めたのだが、そのひとりが彼だった。ひょろっとしたからだに優しい笑みを浮かべて、でも会うたびにタトゥーが増えてシャツから透けて見えていて、人間的にも非常に興味深かった景くんは、それからずっと現在に至るまで「自分のビジュアルアート」と「ハードコア・パンク(バンドのグラフィック)」と「AVパッケージ」という3本の柱を軸に活動を続けてきた。

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高松アンダーグラウンド 3:オーディオいちむら(GABOMI)

どうも写真家GABOMIです。今回の原稿は苦戦です・・・3週間かけ5回取材して、膨れに膨れました。「全部書いていいです」と言ってくれたのでやたらカットもできず・・・もう正直に全部書くしかない! なので覚悟して読んで下さい。出会いは突然に! というか、高松の中心で「あち~」を叫びながら汗ダグで徘徊していた私は、新たなネタを探していた。突如、目に飛び込んできた『オーディオいちむら』と書かれたお店。

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music

ROADSIDE RADIO:早川義夫ソロ・ライブ

先週のロードサイド・ラジオは、7月28日に神田の試聴室という小さなライブ・スペースで開かれたばかりの、早川義夫さんのソロ・ライブをお送りしました。ピアノ1台の弾き語り、休憩を挟んでアンコールまで22曲が披露されたうち、14曲を放送することができました。早川さんはジャックスの時代から現在のソロ活動まで、僕がもっとも尊敬するミュージシャンのひとりなので、この番組で取り上げられることはすごくうれしいというか、光栄です。

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レアグルーヴのリアリティ――佐々木景のグラフィック・ワーク 後編

2008年だから、いまからもう5年前になる。現地で撮影した写真で展覧会を、というグループ展に誘われて、インドネシアのジャカルタを初めて訪れた。短期間のうちに何度か通って撮影した写真は、展覧会以外にこれまで発表の機会がなかったので、近いうちに見せられたらと思っているが、「インドネシアといえば、バリ」みたいな薄っぺらい予備知識しかなかった僕にとって、そのころよく通っていたタイのバンコク以上に清濁併せ呑むというか、ブライトサイドとダークサイドが混沌となって交じり合うジャカルタの空気は、ものすごく刺激的だった。

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book

幻視者としての小松崎茂――ウルトラマン紙芝居ボックスによせて

かつてあまりに身近にあったために、紙芝居という優れたビジュアル・エンターテイメント・メディアが、実は日本の発明であることを僕らは忘れがちだ。絵解き物語や絵巻物の伝統が生んだものかは定かでないが、ひとつの物語を十数枚の絵で構成して、その1枚ずつの解説をいちばん後ろになる絵の裏側に記し、説明し終わった絵を順繰りに送っていくことで、「紙芝居のおじさん」が物語を絵と語りによって進めていけるという独創的なシステムは、1930年代に誕生して以来、日本人の感性に深く浸透してきた。

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photography

新連載! 隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 01(ケイタタ)

日下慶太さんという若い大阪人と会えたのは、偶然見たブログがきっかけだった。ちょうど大阪出張があったので、すぐに連絡を取って通天閣下で待ち合わせ。新世界市場というシャッター商店街にある、彼と友人たちのアジトでおしゃべりしているうちに、こんな連載を始めてもらうことになった。 彼のブログには、こんな自己紹介が載っている――大阪生まれ 大阪在住。 ロシアでスパイ容疑で拘束、アフガニスタンでタリバーンと自転車を二人乗りなど、世界をフラフラとしながら広告代理店に入社。コピーライターとして 勤務する傍ら、写真家、執筆家、セルフ祭顧問として活動をしている。

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スナックショット 29 長崎(平田順一)

どうも平田です。今回のスナックショットは長崎県。長崎はご存知のように江戸末期まで国内に唯一開かれていた異国文化の街ですが、長崎県内は入り組んだ海岸線に合わせるように、複雑な歴史をはらんだ街が点在しています。壱岐・対馬・平戸・五島列島のスナック事情までは及びませんが、前回の佐賀~佐世保から連続して長崎県内のスナック街を巡ってまいります。

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ROADSIDE RADIO 緊急特集 追悼・藤圭子

9月1日のロードサイドラジオでは、予定を変更して藤圭子の特集をお送りしました。御存知のとおり先週8月22日に、藤圭子さんが亡くなりました。62歳、これからまだまだという年齢でした。死亡のニュースが流れた直後から、テレビでも新聞でも雑誌でも、こころない報道がめちゃくちゃに垂れ流されています。飛び降りた場所の、コンクリートの地面をアップで撮ったり、ベランダの図解をしてみたり、いっしょにだれがいたとか、娘が葬儀に姿を見せたとか見せなかったとか・・そんなことにいったいなんの意味があるんでしょうか。

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music

モッシュピットシティ・ジャカルタ 1

先週はグラフィック・デザイナー佐々木景の作品や、ジャカルタのレトロポップ・スペース「カフェ・モンド」の活動を通して、インドネシアのポップ・カルチャーの片鱗をご紹介した。ちょうど一時帰国中だったカフェ・モンドの泉本さんや景くんから、インドネシアの音楽シーンを教えてもらっていたときのこと、「実はインドネシアって、パンクがすごいんですよ!」と聞いて、びっくりというか耳を疑った。熱帯のインドネシアとパンクス・・・これほど違和感に満ちた組み合わせがあるだろうか。去年12月5日号で紹介した、メキシコシティのゴスをはるかに超えた、それは解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の出会いのようにシュールなミスマッチに思えた。

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殺戮の造形  ――モザンビークの武器彫刻

駅から歩く距離を考えると(特に炎天下)気持ちが萎えるが、それでもときどきは行っておきたい大阪万博公園内の国立民族学博物館。常設展示を見て回るだけでも、丸一日かけられる規模のコレクションだが、ここはまた時々すごく興味深い企画展を開催していて、しかも東京にいるとそれがなかなか伝わってこなくて、つい見逃してしまうことが少なくない。その民博で現在開催中なのが『武器をアートに』(11月5日まで)。「モザンビークにおける平和構築」という、いかめしいサブタイトルがついているが、これは長く内戦が続いてきたモザンビークでの、武器を使ったアート(立体作品)の展覧会。展示の規模は小さいが、非常に見応えのあるコレクションだ。

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ROADSIDE RADIO:B.I.G. JOE

先週8日深夜のROADSIDE RADIOでは、8月9日に中野のライブハウスHEAVYSICK ZEROで開催された、B.I.G. JOEのライブをお送りしました。東京のハードコア関係には絶大な支持を得てきたヘヴィシックの、11周年アニバーサリーを兼ねて開かれたこのライブは、今年3月に発表された4枚目のソロアルバム『HEARTBEAT』をひっさげた、長期全国ツアーの一環でもあります。THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOとともに、北海道のヒップホップ・シーンの立役者として長く知られてきたB.I.G. JOEは1975(昭和50)年、札幌に生まれました。

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モッシュピットシティ・ジャカルタ 2

パンクミュージックによって人生を導かれてきた、フォトジャーナリストの中西あゆみさん。2005年、ひょんなきっかけからジャカルタのパンク・シーンと出会う。運命を悟った彼女は約3年にわたって困難を極めながら、いちおうの取材を終了。しかし「まだ先になにかある」という直感に導かれ、インドネシア最大のパンク・バンドであり、パンク・コミューンでもある「マージナル」の核心に踏み込んでいく。2007年、いまから6年前のことだった。あゆみさんのインドネシア・パンクをめぐる旅の後編は、南ジャカルタにあるマージナルのアジト「タリンバビ」に招かれた日から始まる。

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裸女の溜まり場――よでん圭子のアナクロ・ヌード・ペインティング

今年の春、銀座ヴァニラ画廊の公募展審査をしていたときのこと(2013年4月2日配信号に掲載)。いかにもフェティッシュな若い作家たちの絵画や立体が並ぶ中で、ひとつだけ異彩を放つ、不思議に古風なヌードの油絵が目に留まった。「よでん圭子」さんという女性画家の作品で、くすんだグレーの肌の裸女たちが、画面上にのびやかに配置されている。古典的な構成と技法と、ぜんぜん古典的じゃない風合いを兼ね備えた、それはなんとも評価しがたい絵だった。フェチやSM系に特化した専門画廊(!)であるヴァニラに、こういう作品を送ってくるとは、いったい本気なのだろうか、意図的に狙ってるのだろうか、それとも・・・。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 02(ケイタタ)

おっ、打ち切りにならずにすんだぜ『隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス』。これで読み切りじゃなくて正々堂々「連載」と言えるやん。第2回はつい先日が敬老の日だったということで老人特集でお送りします。

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スナックショット 30 大分(平田順一)

どうも平田です。自分はもともと路面電車やローカル私鉄を追い求めて沿線の街を歩いており、全国のスナック街を巡る以前に九州では長崎・熊本・鹿児島の路面電車に乗って土地の風物に触れていたのですが、今回のスナックショットで取り上げる大分県は路面電車も私鉄もなく、特に行く目的もないだろうなあと看過していました。ところが2005年に河出書房新社から出た小林キユウ著「路地裏温泉へ行こう!」を読んで別府へ行きたくなり、スタンプラリーのように別府の共同浴場を巡って歩くうちに、日本一の湧出量を誇る温泉から大量の観光客を受け入れる歓楽街を生み、さらにはお色気スポットや珍スポットも生み出した温泉街の懐にはまっていきます。

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ROADSIDE RADIO:yumbo+北村大沢楽隊

15日のROADSIDE RADIOは仙台のyumboと、石巻の北村大沢楽隊という、ビザールで楽しいカップリングをお送りしました。どちらも30分弱だったので、正直聴き足りない! という思いのリスナーも多かったでしょうが、まあふたつとも公共放送ではほとんどかかることのありえないバンドなので、ご容赦ください。yumboは8月16日に代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」における、パスカルズとのライブからの録音を。北村大沢楽隊のほうは、実はこの番組で取り上げたいとずっと思っていたのですが、後述する理由で録音ができず、1枚だけリリースされたCDから選んでオンエアしました。

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ふぐりのうた――妄想詩集『エロ写植』

「おりゃあ」「おおおおお」「つああああ」「べむっ」「ひぐっ」「いやあああああ」・・・喘ぎなのか絶叫なのか、絶頂なのか。言葉にならない言葉がページをびっしり埋めている。別のページを開いてみると、そこには「餞別ってこの刀のことだったのね!」「20本も咥えてきたんだーー」「なんであたしと同じなのよ」「これはまさしく俺好みのシチュエーション!!」「あなた本当はやさしい人だって」・・・わけのわからない自動筆記現代詩のような文章が、ずらりと並んでいる。このページだけを見せられて、これがいったいなんなのか、瞬時に理解できるひとがどれくらいいるだろう。

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大竹伸朗・秋の陣

高松市美術館の『憶速』が9月1日で無事終了し、しかし丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での『ニューニュー』はまだまだ続行中(11月4日まで)、ヴェニス・ビエンナーレも続行中(11月24日まで)、瀬戸内国際芸術祭での女木島インスタレーション『女根』は、10月5日からの秋会期が迫るなか、さらにパワーアップ中。そして東京のタケニナガワ・ギャラリーではあらたな展覧会が9月8日にスタートしたばかり(10月26日まで)・・・。2013年の大竹伸朗祭りは、まだまだ大団円を迎えそうにない。

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新連載! 案山子X(ai7n)

2010年に広島市現代美術館で、『HEAVEN 都築響一とめぐる、社会の窓から見た未ニッポン』という展覧会を開いたときのこと。ギャラリートークかなにかの折に、すご~く内気そうな女の子が、「あの・・・こんなの作ってるんです」と、おずおずと一冊の小冊子を僕に差し出した。『広島非日常ガイドブック』と小さく表紙に書かれたその冊子は、純喫茶伴天連から豊栄ヘソまつりまで、広島周辺の裏スポットをたったひとりで探索・記録し続けた、すばらしい努力の結晶だった。それまで美術館のスタッフにいくら聞いても、ロクな珍名所に出会わなかった僕にとって、それは天啓ともいうべき授かりものだった。

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高松アンダーグラウンド 4:彫師・高松彫藤(GABOMI)

ある朝、サササとサラダをつくってくれた、「簡単でごめんよ」。彫藤(ほりふじ)さんはひとり暮らし。だいたい6時起き。愛犬の散歩で2時間しっかり歩いた後、仏壇の水を替え、一昨年この世を去った奥様に手を合わせる。「もう5~6年前にタバコはやめたんや」と言いながら、煙たそうに火をつけ仏壇にタバコをあげた。ヘビースモーカーだった奥様へお線香代わりらしい。奥様が好きだった胡蝶蘭の横で、わたしも手を合わせた。その間、彼はテキパキ朝食をつくる。

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ROADSIDE RADIO:EGO-WRAPPIN'

9月22日のインターFM・ROADSIDE RADIOは、8月11日に大阪城野外音楽堂で開催されたエゴラッピンの単独ライブ「EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXによる夏の野外ワンマン“Dance, Dance, Dance ~あなたとマリアージュ~”」をお送りしました。毎夏、東京日比谷野音でのライブが恒例になっているエゴラッピン。今年からホームグランドである大阪でも、リクエストに応えて「夏野外」を開くようになったということです。これまで半年あまりにわたってお送りしてきたロードサイド・ラジオの番組でも、もしかしたらいちばんメジャーかもしれないエゴラッピン。

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百年の孤独――101歳の現役アマチュア画家・江上茂雄の画業

その名前も知らなければ、作品も知らない。でも、たまたま見た一枚の作品写真が妙に気になって、頭の隅にこびりついて、そのもやもやがだんだん大きくなって、どうしようもなくなる――そういう出会いが、ときどきある。だれかがネットに上げた江上茂雄さんの絵が、僕にとって久しぶりのそんなもやもやだった。江上茂雄さんは熊本県荒尾市に住む、なんと101歳の現役画家、それもアマチュア画家だ。荒尾に隣接する大牟田市と、田川市で小さな展覧会が開かれていて、さらに10月からは福岡県立美術館で、アマチュア画家には異例の大規模な個展が開かれるという。

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天使の誘惑――10歳の似顔絵師・モンド画伯の冒険

101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんに荒尾でお会いした翌日、福岡市に戻ってもうひとり、ずっとお会いしたかったアマチュア画家にお目にかかることができた。モンド画伯・・・こちらは10歳のアーティストである。モンド画伯――本名・奥村門土くん――は福岡の小学4年生、先月10歳になったばかりだ。3人兄弟の長男である門土くんのお父さんは、福岡の音楽シーンでは知らぬもののないミュージシャンであり、イベントオーガナイザーでもある「ボギー」さん。公式サイトの自己紹介によれば――

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スナックショット 31 宮崎(平田順一)

どうも平田です。全国のスナック街の写真を撮って歩いてる人間です、と紹介されたり自分で話したりすることがあり、ここの地方はスナックの写真は撮りましたか? と関心を持たれることがあって嬉しいのですが、行っていない地方については返答に窮することになります。今回取り上げます宮崎県は昨年の連載開始時には未踏の場所で、宮崎をどげんかせんといかん! と今年2月に奮起して行ってきました。大都市圏以外でのタレント首長の誕生で、驚きをもって迎えられた東国原知事の就任が2007年1月。

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photography

隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 03 寝てる人 初秋編(ケイタタ)

今回は「寝てる人 初秋編」。このテーマ、実は連載のきっかけとなったものなのである。今夏に行なわれたFREEDOMMUNEに行った私は、自身のブログ「隙ある風景」で明け方に踊り疲れてあちこちで寝ている人の写真をアップしたところ(https://keitata.blogspot.jp/2013/07/blog-post_3409.html)、同じくFREEDOMMUNEに出演していた都築氏の目にとまることとなり「一度会いませんか」とTwitterにメッセージが来たのであった。「寝てる人」は都築さんのリクエストでもあった。さあ、満を持してお送りしよう。「寝てる人 初秋編」。コレクションは大量にあるので、初秋に撮ったものに限ってセレクトした。

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music

ROADSIDE RADIO:コージー大内&W.C.カラス

先週日曜日のインターFM・ロードサイドラジオでは、コージー大内とW.C.カラスという、ふたりのブルース・シンガーを取り上げました。実は最近、ブルース・ファンのあいだで「弁ブルース」という言葉が広まっているのですが、これはいろいろな地方に住むミュージシャンたちが、自分たちの地方の言葉で歌おうという動きで、もちろんそのおおもとは憂歌団などの関西ブルースマンたちにあるのですけれど、いまではさまざまな場所で、さまざまな言葉で、日本のブルースが歌われれるようになってきました。

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photography

『張り込み日記』

「事実は小説より奇なり」という、言い古された格言の英語は「Truth is stranger than fiction」だが、ときとしてそれが「事実のほうがフィクションよりストレンジ」というより、「事実のほうがフィクションよりフィクシャス=フィクションっぽい」という意味ではないかと、思いたくなってしまうことがある。とりわけ、超一級のドキュメンタリー写真を眼にしたときには。『張り込み日記』という作品集は中年と若手、ふたりの男たちが街を歩きまわる写真で、すべてのページが構成されている。このふたりは刑事なのだ。

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反逆のタイムカプセル――暴走族ミュージアム訪問記(上野友行)

「暴走族グッズのすごい収集家がいるんで、取材してくださいよ」ヤンキー取材を長く続けていると、こうした話は珍しくない。一般的にはあまり知られていないものの、暴走族グッズやヤクザグッズを集めているマニアは少なからず存在するのだ。ところが、その日その場所に足を踏み入れた私は言葉を失ってしまった。ステッカー、特攻服、なめ猫、改造プラモ、写真集、カレンダー、ドキュメンタリービデオ――。

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lifestyle

追悼・濡木痴夢男

すでに数々のツイートやブログなどで書かれているように、濡木痴夢男さんが亡くなった。8月中旬に呼吸困難で倒れ、9月9日に永眠。故人の強い希望ということで、お身内だけで葬儀を済ませたあと、こちらにもようやく知らせが回ってきたのが、9月中旬のことだった。1930年のお生まれなので、83年の生涯ということになろうか。濡木痴夢男(ぬれきちむお/本名・飯田豊一)はご存じの方も多いだろう、SM小説家、縛り師として、日本のSM美学をここまで完成させた、最大の功労者のひとりである。

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travel

新連載! フィールドノオト

2011年の震災のすぐあとぐらいに、これも常連の大竹伸朗さんから「油絵の具と録音機をもらったんです、それで自分にとっては、写真を撮るのと、音を録るのが同じ気がして」、ドキュメンタリーとして身近なモノ音のレコーディングを開始。大竹さんとは2012年にサウンドユニット「2」を結成して、インスタレーション作品の音響に制作協力するようになり、同時に自分でも各地に旅してはカメラとマイクでの記録を始めました。

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music

ROADSIDE RADIO:アシッド・マザーズ・テンプル

10月6日のインターFM・ロードサイドラジオは、アシッド・マザーズ・テンプルの、8月24日に秋葉原グッドマンで開催されたライブをお届けしました。熱狂の1時間、聴いていただけたでしょうか。アシッド・マザーズ・テンプル、略称AMTは、日本では知る人ぞ知るという感じかもしれないですが、ヨーロッパ、アメリカでは数多くの熱狂的なファンに支えられてきた、ほんとうにビッグな老舗サイケデリック・ロックバンドです。

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travel

電音三太子、世界を行く!

ものすごくギラギラで、ものすごく大きな被り物をかぶって、ものすごくチープなテクノ・ミュージックに乗って、祭りの爆竹スモークのなかを踊りまくる「電音三太子」。こころある台湾知識人の眉をひそめさせ、祭りに酔う子どもたちを熱狂させる、現代台湾が生んだひとつのカルチャー・アイコンだ。台湾南部・麻豆の地にそびえる珍寺・麻豆代天府を紹介した今年1月16日号のメルマガ後記で、電音三太子を僕はこんなふうに書いた――。

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art

死刑囚の絵 2013

告知でお知らせしてきたとおり、先週土曜日(10月12日)、新宿区四谷区民ホールで『響かせあおう 死刑廃止の声 2013』が開催された。世界死刑廃止デーである10月10日にあわせ、死刑廃止運動を続ける「FORUM 90」が毎年主催している集会で、今年で9回目になるという。午後1時に始まった集会は、田口ランディさんによる「死刑囚からの手紙」朗読、元冤罪死刑囚・免田栄さんのお話などに続いて、「シンポジウム・死刑囚の表現をめぐって」が開かれた。これは本メルマガで紹介してきた死刑囚の絵画を含む、小説、短歌、俳句など死刑囚自身による表現活動を世に出してきた大道寺幸子基金によるもので、7名の選考委員によって選ばれた2013年度の優秀作品が発表・講評される、年にいちどの貴重な機会である。

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スナックショット 32 鹿児島、熊本、大牟田(平田順一)

どうも平田です。いままで北海道から九州までスナック街を巡って写真を公開してきましたが、いくつか抜けているところがあります。和歌山や奈良ではまとまった数の写真が撮れず、東京・京都・大阪など大都会のスナックはあえて避けてきました。歓楽街として知られすぎていることと、たとえば銀座や歌舞伎町で雰囲気のあるスナックの写真を撮ったら、半径500メートルくらいで完結してしまいそうで、好奇心が広がっていかないと思ったからです。中州、すすきの、仙台の国分町なども同様の理由で敬遠していたのですが、旅先は解放感があり好奇心も湧きます。今回は有名といえば有名、ローカルといえばローカルな鹿児島の天文館、熊本の下通、福岡県大牟田市の記録です。

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fashion

隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 04 食べる人、読む人(ケイタタ)

バンコクのような暑さと臭さの大阪もいよいよ涼しくなってきました。われわれ、熱帯ではなく温帯に住んでいたのですね。基本、ぶっかけうどんかアイスしか食べていなかったぼくも、食欲がわいてきました。「食欲の秋・読書の秋」ですね。ということで今回は「食欲の隙・読書の隙」。「食べる人」と「読む人」をテーマにお送りします。それでは「読書の隙」から。

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music

ROADSIDE RADIO あらかじめ決められた恋人たちへ

10月13日のロードサイド・ラジオは「叙情派轟音インスト・ダブ・ユニット」あらかじめ決められた恋人たちへ(通称「あら恋」)のライブを、1時間ノンストップでお送りしました! 9月11日に発売されたニューアルバム『DOCUMENT』の先行リリース・ライブとして、9月4日に下北沢シェルターで開催された、人数限定の轟音ライブ。人気絶頂の「あら恋」としては小さすぎるキャパのライブハウスという感じなので、もちろん超満員のお客さんたちの熱狂ぶりは、それはすさまじいいものがありました。

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凍った音楽――東京タワー蝋人形館閉館によせて

今年で開業55周年を迎える東京タワー。5月にはタワー足元にいた南極犬タロ・ジロなど15頭の像を、事もあろうに「東京オリンピックの招致を目指して花壇でシンボルマークをつくるために(新聞報道)」撤去して、抗議が殺到。さらに9月17日にはエレベーターのガラスが鉄板の直撃を受けて割れ、子供が怪我をするという、開業以来初めての深刻な事故が起きて、高さ250メートルにある特別展望台はいまも閉鎖中と冴えない話題が続いている。(中略)そしてなにより3階にあった「東京タワー蝋(ろう)人形館」! 哀愁スポット・マニアで東京タワーを嫌いなひとはいないと思うが、去る9月1日に蝋人形館が43年の歴史に幕を下ろし閉館――というニュースに、ひときわ衝撃を受けた方も多いのではないか。

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鳥取発・昭和行き――池本喜巳、ふたつの写真展

1944年に鳥取市で生まれた池本さんは、大阪の写真学校で学んだあと、帰郷して写真の仕事に従事するかたわら、故・植田正治のアシスタントを20年間にわたって勤めてきた。今年が生誕100年となる植田正治の、写真家としての素顔をもっともよく知る人物のひとりでもある。この10月下旬から11月初めにかけて東京で、池本喜巳さんによるふたつの小さな写真展が開催される。ひとつは自身のシリーズ『そでふれあうも』(@元赤坂Niiyama's Gallery)、もうひとつは植田正治のポートレートを集めた『素顔の植田正治』(@下目黒Gallery Cosmos)。

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倉地久美夫@東京キネマ倶楽部

今年4月から毎週お送りしてきたインターFM・ROADSIDE RADIOが、10月いっぱいで終了してしまうのにかわって、これからは本メルマガをプラットフォームに、なかなかマスメディアに乗りにくい良質の音楽を、写真とテキストと音声ファイルという形で配信していくことにしました。9月18日号で告知した東京の音楽イベント「サウンド・ライブ・トーキョー」。すでに原宿VACANTにおける「松崎順一+嶺川貴子 ラジカセ・メロトロン化計画」のサワリをご覧いただきましたが、今週はその第一弾として、10月4日に鶯谷・東京キネマ倶楽部で行われた「倉地久美夫+マヘル・シャラル・ハシュ・バズ」から、倉地久美夫さんのステージを約50分間の音声ファイルでお届けします!

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案山子X 02 古山のかかし祭り(栃木)/上下かかしまつり(広島)(by ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は、栃木県下野市の「古山のかかし祭り」と、案山子X第1回で紹介した「上下かかしまつり」の今年の模様を紹介します。まずは栃木県下野市下古山の「古山のかかし祭り」を紹介します。栃木県下野市(しもつけし)は栃木県の中南部に位置し、かんぴょうの生産日本一の街です。かんぴょうフェスティバルが開催されたり、「カンピくん」というかんぴょうをモチーフにしたマスコットキャラクターもいます。

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フィールドノオト 02 女木島(by 畠中勝)

大竹伸朗作品『女根』に音響を設置するため女木島へやってきた。自然環境が豊かな島で多くの植物が密生する。中でも島の所々でみられる巨大な椰子は、植物園でもお目にかかれないほどの存在感があった。『女根』を取り巻く環境を知るため、空き時間を見つけては、周辺を探索していった。

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ROADSIDE RADIO 渋谷毅ピアノ・ソロ

10月20日、冷たい雨の夜にぴったりのピアノ・ソロをロードサイド・ラジオではお送りしました。日本のジャズ・ピアノ界を代表する渋谷毅さんのライブです。この番組でストレートなジャズを選んだことはなかったので、珍しいチョイスではありましたが、1939(昭和14)年生まれという渋谷さんは、もうすぐ74歳という大ベテラン。ゴリゴリのコンテンポラリー・ジャズとは一味も二味もちがう、さまざまな要素をさらりと融合させた、しっとりと静かで、さらりと豊かな音楽を奏でてくれます。

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閉じかけた世界のなかへ

だれかがFacebookでシェアしてくれた1枚の画像があまりに美しかったので、写真集を探してAmazonには見つからなかったけれど、写真家本人のサイトで直販しているのを見つけ、すぐに注文のメールを書いてPayPalで代金を送金。そのまま出張に出かけ、数日後に帰宅したらもう、カリフォルニアから大きな包みが玄関に届いていた。『ECHOLILIA』(エコリリア)というその大判の写真集は、サンフランシスコ在住の写真家ティモシー・アーチボールドが、自閉症である息子イライジャーと向きあい、写真という手段でその閉ざされたこころとつながりあおうと試みた、果敢な挑戦と、ほとんどスピリチュアルな表現の記録である。

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つつましさの美学――チェコの映画ポスター展

今年4月から8月まで開催された『日本映画スチル写真の美学』に続いて、東京・京橋のフィルムセンターでは現在、『チェコの映画ポスター』展が開催中だ(12月1日まで)。コアな映画ファン以外はなかなか足を運ばない場所で、展示されているポスターも82点ほどだが、これがいま僕らが目にする「映画ポスター」と名乗るシロモノとはケタ違いの芸術性と完成度を誇る作品ばかり。ひとりでも多くの方に見ていただきたく、今週はたっぷりスペースを取って紹介してみたい。

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スナックショット 最終回 沖縄(平田順一)

どうも平田です。最終回となります今回は沖縄本島のスナック街を巡ります。かつては独立した貿易国であり、つねに近隣諸国の政治と経済に翻弄される沖縄。基地問題や高い失業率や経済格差などなど、複雑な県民感情を抱えつつも美しい自然環境や個性的な文化から本土の沖縄フリーク、「沖縄病」と呼ばれる移住者を大量に呼び寄せることになります。スナックという切り口から沖縄を見ると、やはり米軍や基地関係者のガス抜きという一面を少なからず意識しますが、強い直射日光や台風に耐えて存在する看板や建物自体が魅力的に映りました。

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隙ある風景 ロードサイダーズ・リミックス 05 ファッション(ケイタタ)

前回は「読書の秋・食欲の秋」がテーマでしたが、おっと何かを忘れていたじゃないか、そうだ、ファッションの秋だ、ということで今回は「ファッション」をテーマにお送りしよう。

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下品な装いが最高の復讐である――会津若松のオールドスクール・ヒップホップ・コレクション

いまやFUKUSHIMAは世界共通語になってしまったが、福島県自体は太平洋側の「浜通り」、郡山や福島市がある「中通り」、そして西側の「会津」の3地域にわかれ、それぞれずいぶん異なる風土と歴史を持っている。今年は大河ドラマ『八重の桜』で久々に注目を浴びた、会津地方の中心地・会津若松市。「白虎隊」とか「鶴ケ城」とか「東山温泉」とか、観光要素には事欠かないものの、東北新幹線のルートから外れていることもあって、土地っ子が「若松」と呼び習わす会津若松市の中心部は、驚くほど寂しい雰囲気が漂っている。「大河ドラマが終わったら、どうなっちゃうんだろう」と思いつつシャッター商店街を歩いて行くと、しかしじきに君はもういちど驚くことになる。商店街の裏手はどこも、やたらに飲食店が多い。それもスナックからキャバクラ、風俗店まで、おびただしい数の「夜の店」が密集しているのだ。

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高松アンダーグラウンド:国分寺町リポート1 盆栽(GABOMI)

高松アンダーグラウンドのGABOMIです! おひさしぶりです。9月ごろ高松市の「国分寺町」という町を彷徨い歩いていました。高松の中心部から車で30分、国道沿いの郊外、三方を山に囲まれ、池が三百個もあったりする。まずは地図を頼りに、町の境界線ギリギリを探索して取材していった。隅の隅から攻めちゃおうというわけである。ここでそもそもの話をすると、その翌月の10月19日に都築さんとGABOMIのローカル対談がこの国分寺町で予定されていて、そのためのネタ探しなのであった。とはいえ今までの高松アングラの記事だけでも十分すぎるほど話すネタはあり、わざわざ新たに探す必要は無いといえば無かったけれど、開催場所が国分寺町にある国分寺ホールだし! というそれだけの理由で、国分寺町も取材することにした。

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フィールドノオト 03 新宿(畠中勝)

音を残そうと考えた時、それは楽器で作り上げる音楽だったり、自然豊かな場所での川のせせらぎの収録などを思い出す。今回は僕の身の回りの音だけを集めてみた。日々暮らし慣れ親しんでいる新宿のフィールドレコーディングだ。多国籍で無国籍なカラーがミックスする街の風貌もさることながら、新宿はいろんな音が絡み合う場所だと感じたからだ。

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ROADSIDE MUSIC:初音階段/非常階段・完全版配信!

10月30日のお知らせに書いたように、インターFM・ROADSIDE RADIOが終了してしまったので、新たな音楽リポートのプラットフォームとして、ROADSIDE MUSICという連載を始めました。すでにその第1回として088号で倉地久美夫さんの新録音・音源をお届けしましたが、そうした新ネタとともに、ラジオのために録音させてもらった音源を、アーティストの許可をいただけたものから再配信することにしました。ラジオでは1時間の枠に収めるためにカットを余儀なくされましたが(ナレーションなどあるので音楽は50分そこそこ)、今回はノーカットの完全版! ナレーションは入りませんが、いっしょにリポートのテキストと写真をご覧いただけたら、いっそう臨場感が高まるかと。

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時代遅れの歌姫に――渚ようこDVDと記念リサイタル

歌謡曲が好きで渚ようこの名前を知らないひとはいないと思うが、彼女の歌をどう位置づけたらいいのか、よくわからないでいるひとも少なくない気がする。年齢不詳の歌謡曲歌手で、ゴールデン街のバーのママ。その醸しだすムードも、歌の世界もいまから40年以上前の歌謡曲全盛期、というか歌謡曲がダメになっていく直前の爛熟期を、意図的に再現したものばかり。『愛の化石』時代の浅丘ルリ子からちあきなおみ、GSまで、彼女はひたすら時の流れをむりやり遡っているようだ。クレイジーケンバンドや大西ユカリのような、「過去のスタイルを武器にした現代の音」を生み出そうなどという気が、彼女にはハナからないんじゃないかという気すらしてくる――もちろん僕だけの思い込みだろうが。

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ライフ・イズ・ジルバ!――驚愕のスーパースナック探訪記

「またひとつ、大物を見つけちゃいました!」――このメルマガでもたびたび登場してきた広島県福山市・鞆の津ミュージアムで『極限芸術 死刑囚の絵展』などを企画してきた櫛野くんから、興奮気味のメールが飛び込んできたのがいまから2ヶ月ほど前のこと。ちょうど香川県高松でトークの予定があったので、「ま、瀬戸内海の反対側だし」と無理矢理気味に寄り道。福山駅で櫛野くんのクルマに拾ってもらい向かった先は・・・福山市中心部から北上すること約30分、ものすごくのどかな郊外の、そのまた外れにぽつんとたたずむ倉庫・・・じゃなくて「ジルバ」という名前のスナックだった。

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高松アンダーグラウンド:国分寺町リポート2 山下さん(GABOMI)

どうもGABOMIです(珍しく連投です)。都築さんの国分寺町対談のネタのために、イロイロと町を調べてウロウロしていたころのお話のつづき。「国分寺町はカラオケ天国ですよ!」と、ある町民からの情報を入手した私は、カラオケ文化について取材を開始。カラオケ喫茶、カラオケ教室、カラオケ大会、カラオケ地蔵…などなどを経て、ついに、国分寺町カラオケ文化のルーツを突き止める!それは町外れの山の下にある「山下自動車」の整備工場であった! まさかの工場!

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 06 寝てる人 晩秋編(ケイタタ)

今週は『寝てる人 晩秋編』。10月2日配信のvol.085にて『寝てる人 初秋篇』を書いたのだが、今回は『晩秋編』である。寝てる人の写真がたくさんありすぎて「秋1つ」では収まり切らないボリュームだったのである。正直に言おう、ネタ切れが怖いので2つに分けておきたかったという事情もないことはなかった。まあ能書きはこれぐらいにして『隙ある風景 晩秋編』。49枚寝ている人だけ。見ている間にあなたも眠ってしまうはず。

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ROADSIDE MUSIC:あらかじめ決められた恋人たちへ・リミックス完全版!

インターFM・ROADSIDE RADIOの終了にともなってスタートした、新たな音楽ドキュメンタリーのプラットフォーム ROADSIDE MUSIC。先週は初音階段/非常階段を62分30秒のノーカット完全版でお届けしましたが、今週聴いていただくのは、10月13日にラジオ放送したばかりの「あらかじめ決められた恋人たちへ」。ニューアルバム『DOCUMENT』の先行リリース・ライブとして、9月4日に下北沢シェルターで開催された人数限定の轟音ライブを、アンコールまで含めて1時間23分のノーカット完全版で。

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ODO YAKUZA TOKYO――アントン・クスターズの歌舞伎町アンダーワールド

自費出版だというその写真集の噂を聞いたのは、2012年の初めごろだったと思う。Amazonなどの通販サイトには出まわらず、本人のウェブサイトから直接注文するしかないと知り、ベルギーの振込先にPayPalで送金、数週間後に届いたのが『ODO YAKUZA TOKYO』という大判の写真集だった。「ODO」とは「王道」のこと。そして「YAKUZA」と「TOKYO」はもちろん・・・これはベルギー人の若き写真家アントン・クスターズが新宿歌舞伎町で活動する、ある組の日常を撮影した写真集なのだ。「YAKUZA」という、とりわけ外国人にとってはもっともミステリアスな日本文化の一側面に深く寄り添いながら、あくまで客観的にその姿を捉えることに成功した、きわめて稀な作品である。

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案山子X 3:堀之内かかし芙蓉まつり(長野)/稲倉棚田かかしまつりコンテスト(長野)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。 今回は長野県の「堀之内かかし芙蓉まつり」と「稲倉棚田かかしまつりコンテスト」を紹介します。まずは長野県北安曇郡池田町堀之内地区の「堀之内かかし芙蓉まつり」を紹介します。今年で4回目を迎える「堀之内かかし芙蓉まつり」は、人間そっくりなリアル案山子で「かかし村」を作っている、とてもユニークなお祭りです。

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フィールドノオト04  岩手県~青森県(畠中勝)

「あまちゃん」で沸く久慈に通りかかった。町は見事に人の活気であふれていた。その後、十和田湖へ。どちらも本来の目的地ではなかったのだが、車窓から眺めた三陸海岸に、この数年、震災以降の個人的な想いが巡った。

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ROADSIDE MUSIC:イースタンユース、極東最前線89・完全版!

インターFM・ROADSIDE RADIOの終了にともなってスタートした、新たな音楽ドキュメンタリーのプラットフォーム ROADSIDE MUSIC。先週は「あらかじめ決められた恋人たちへ」をお届けしましたが、今週は今年3月2日に渋谷クアトロで開催された『極東最前線89~mockingbird wish me luck~』から、イースタンユースのライブをノーカット完全版でお送りします! 当日のゲスト・ライブだった田我流も、まもなくお届けできるはず。お楽しみにお待ちください。

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世界を桃色に染めて――本宮映画劇場ポスター・コレクション1

去年8月、筑摩書房のウェブマガジン連載『独居老人スタイル』(12月19日単行本発売!)で取り上げた福島県本宮市の、奇跡の映画館・本宮映画劇場と、館主の田村修司さんの物語を、本メルマガ読者のみなさんはお読みいただけただろうか――。取材時に田村さんから見せてもらった秘蔵ポスター&チラシ・コレクションは記事中でたっぷり紹介したが、今年9月に開催された『アサコレ ASAKUSA COLLECTION』で、さらなる秘蔵コレクションの一部が公開された。「まだこんなにあったんだ!」と衝撃を受けた僕は、取るものもとりあえず本宮を再訪。去年の取材では見ることのできなかった、ウルトラディープなポスター・コレクションに対面し、しばし言葉を失いつつ、汗みどろで複写に没頭した。

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昭和という故郷――本橋成一と小沢昭一の写真集

先月末から今月にかけて、昭和の空気を捉えた見事な写真集が2冊、重なるように刊行された。ひとつはこのメルマガでも今年6月19日号で紹介した『上野駅の幕間』の著者・本橋成一による『サーカスの時間』(河出書房新社)、もう一冊は昨年(2012年)12月に亡くなった小沢昭一の『昭和の肖像<町>』(筑摩書房)である。本橋さんの『サーカスの時間』は、『上野駅の幕間』に続く再刊プロジェクト。旧版は1980年に出ているから33年ぶりの再刊ということになるが、「旧版から写真を大幅に差し替え、増補再構成した決定版!」とのこと。大判で200ページを越える、ずっしり重量級の造本で、モノクロームの印刷も深みをたたえて美しい。さらに巻末には小沢昭一さんと、サーカス曲芸師のヘンリー・安松さんの対談も収められている。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 07 サラリーマン(ケイタタ)

今回のテーマは「サラリーマン」。日常の仕事の中で、そして、通勤途中でサラリーマンを見るたびに、サラリーマンというのはどこか違う生物のように感じてきました。それは街中でホームレスの人々を見たときに自分とは違う種族の人間だと思うような感覚と近いもの。今日はその隙あるサラリーマンの姿を写真と言葉で表現していきたいと思います。

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ROADSIDE MUSIC:DJ CASIN「ヒップホップの詩人たち」ミックス!

ヒップホップのミックスCDが好きなひとなら、DJ CASINの名前をご存知だろうか。DJ CASINは仙台をベースに、コンスタントなペースで独自のミックスCDを発信し続けるDJであり、ビートメイカーである。そのDJ CASINと初めて会ったのは、今年2月のこと。『ヒップホップの詩人たち』発売を記念して、仙台のクラブ・パンゲアで開かれたトーク&ライブ・イベントで、書籍で取り上げたラッパー15人の音源だけを使用したDJプレイを、1時間にわたって繰り広げてくれたのだ。

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 1

ヴェネツィアはとてもむずかしい街だ、とりわけカメラマンにとっては。だれが、どこを、どう撮っても美しく、同じになってしまう。飲み込まれてしまうのは簡単で、飲み込むのはとてつもなく困難だ。20代からいままでイタリアには数え切れないほど行ってきたが、ヴェネツィアだけは敬して遠ざける、みたいなところがあって、この11月に会期終了直前のビエンナーレを訪れたのが、実は人生初のヴェネツィア体験だった。現代美術は好きだけれど、どんどん難解になっていくハイ・アートの世界観と、大物キュレイターとギャラリストのパワーゲームみたいな巨大イベントには興味が持てなくて、これまでヴェネツイア・ビエンナーレを筆頭とする有名な国際的美術展には、ほとんど食指が動かないままだった。

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世界を桃色に染めて――本宮映画劇場ポスター・コレクション2

先週に続いてお送りする、『独居老人スタイル』(12月19日単行本発売!)で取り上げた福島県本宮市の奇跡の映画館・本宮映画劇場館主・田村修司さんが、ひそかにコレクションしてきたピンク映画を中心とするポスター・ライブラリー。先週説明したように、ピンクとは基本的に独立系成人映画――つまり日活、東映、大映、東宝、松竹というメジャー5社に属さない小規模な制作配給会社によってつくられた、いわばインディーズのポルノ映画を指す業界用語だ。そのなかでも、これほどインディーズなプロダクション(当時は「エロダクション」とも呼ばれた)は・・・と驚かされた、内外フィルムの傑作ポスター群を先週は一挙掲載したが、今週はほかのエロダクションが残した異形のグラフィックを、たっぷりご紹介する。

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フィールドノオト05 恐山(畠中勝)

恐山へいってきた。下北駅からの道中、地元のタクシー運転手が話をしてくれた。「霊場には小さな石がたくさん積んであるんだけんども、それは地元の人間が先祖代々ひとつひとつ毎年積んできた石なんですよ。その石の山は台風が来ても地震がきても崩れたことがない。本当に不思議ですよね」。この霊場が持つ信仰を鵜呑みにするには僕自身まだまだ学が足りない。しかし多くの人を引き寄せてきたこの山自体の奇妙な“磁場”に一層興味を惹かれていった。

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ROADSIDE MUSIC チプルソ降臨!

今年5月20日のインターFM・ロードサイドラジオで放送した、2枚目のアルバム・リリースを記念しての「リリパ」――去る4月5日に大阪心斎橋・アメ村のクラブ・クラッパーで行われたステージ。1時間の放送ではカットしなければならなかったぶんを、今回はノーカット完全版。フリースタイル・マイクリレーとなったアンコールまでの1時間10分にわたるステージを、まるごと聴いていただきます。数々のマイクバトルでも圧倒的な実力を披露してきたチプルソの、CDとはまたちがう、ナマの息づかいがダイレクトに伝わってくるロングセットのライブ。たっぷりお楽しみください!

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ヴェネツィア・アート・クラビング:ビエンナーレ報告 2

先週に続いてお送りするヴェネツィア・ビエンナーレ報告・後編。ビエンナーレ史上最年少ディレクターとなったマッシミリアーノ・ジオーニによる企画展示『The Encyclopedic Palace = 百科事典としての宮殿』の、ふたつの会場のうち、先週はジャルディーニの作品群をピックアップして紹介した。今週はもうひとつのメイン会場となった、元国立造船所アルセナーレでの展示から、本展の特徴であるアウトサイダー・アーティストたちの作品を中心にお見せする。ちなみに13世紀に建造されたアルセナーレは、長さ300メートルという巨大な縦長の建造物である。

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世界を桃色に染めて  ――本宮映画劇場ポスター・コレクション3

これまで2週にわたってお送りしてきた、福島県本宮市の奇跡の映画館・本宮映画劇場館主・田村修司さんのポスター・ライブラリー。先週まではピンク=独立系成人映画――日活、東映、大映、東宝、松竹というメジャー5社に属さない小規模な制作配給会社によってつくられた、インディーズのポルノ映画――を紹介してきたが、最終回となる今週は、ちょっとテイストの異なるふたつのジャンルをお見せする。すなわち、怪談と女湯!

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 08 2013年を振り返って(ケイタタ)

いよいよ年の瀬となりました。今年9月より始まった『隙ある風景』もみなさんのおかげで無事年を越せそうです。今回は、今年最後の記事ということで2013年を「隙」とともに振り返って行こうと思います。

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ROADSIDE MUSIC:アシッド・マザーズ・テンプル

先週土曜日(12月15日)は僕が大好きなバンド「アシッド・マザーズ・テンプル(AMT)」のファンにとって楽しみな、年にいちどの恒例「AMT祭り」が名古屋のライブハウス得三で開催され、僕も行く気マンマンだったのに、どうしても時間が空かずに涙のリタイア。屈辱の土曜日になってしまいました。そのかわりと言ってはなんですが、今週のロードサイド・ミュージックでは、去る10月6日にインターFM・ロードサイドラジオで放送したばかりの、8月24日に秋葉原グッドマンで開催されたAMTのライブをお届けします。1時間のラジオ番組では3曲、それも最後はフェイドアウトを余儀なくされましたが、今回は2回のアンコールを含めた全2時間35の熱演を、ノーカットでお送りします! 2時間半でもぜんぶで7曲ですが・・・。

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神の9つの眼――ジョン・ラフマンの『The Nine Eyes of Google Street View』

今年もいろいろな写真集を紹介してきた。影響をうけるのがイヤだから、現役の写真家の本はなるべく買いたくないけれど、写真家でも編集者でもある身としては、どうしても手にとってしまう本もある。その中で、実は今年いちばんショックを受けた写真集を、今年最後のメルマガで紹介したい。発売は2011年なので、もうご存じの方もいらっしゃるだろうが、ジョン・ラフマン(Jon Rafman)というカナダのアーティストによる『The Nine Eyes of Google Street View』だ(Jean Boîte Éditions, 2011)。

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立体写経――荒井美波のトレース・オブ・ライティング

美大の学生や卒業生以外にはあまり知られていないと思うが、「三菱化学ジュニアデザイナーアワード」という公募展がある。現在の協賛企業である三菱化学、三菱ケミカルホールディングスの前に、タバコのラッキーストライクが協賛していた時代から数えれば、すでに十数年になるのだが、その審査員のひとりを、もうずっと務めさせてもらっている。デザイン関連の専門学校、大学、大学院の卒業制作を対象としたこのアワードは、大賞、佳作、それに審査員それぞれの特別賞を、数百点の応募作品のなかから選んで表彰するもので、僕も「都築響一賞」なんてのを毎年ひとりずつ選ばせてもらっている。

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案山子X 4:円野町かかし祭り(山梨)/長崎のかかし祭り(山梨)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今年最後となる4回目は、山梨県の「円野町かかし祭り」と「長崎のかかし祭り」を紹介します。最初に山梨県韮崎市円野町下円井の「円野町かかし祭り」を紹介します。「円野町かかし祭り」は今年で20回目を迎えたお祭りで、8月12日~9月8日の4週間に渡って開催されました。つぶら野会館付近の市道円野5号線沿い約200メートルに115体(24タイトル)の案山子が展示され、案山子の人気投票も開催されていました。町おこしとして始まり、現在は町民が気楽に楽しみながら地域の主張を発信するお祭りとなっているそうです。

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フィールドノオト06 茨城県(畠中勝)

レンタカーを走らせること40時間、1泊2日の東北取材の旅。肉体的にはこたえたが生涯忘れない旅ともなった。道中、茨城県を通過。とても美しい沼を発見した。鏡のような空色の水面には存在感たっぷりの元うなぎ店が映りこむ。その姿はまるで沼を守り続けてきた巨神のように静かに朽ち果てていた。こういった美しい場所と荒廃したものが混ざり合って生まれた新風景には、ビジュアル的な表現だけに収まりきれない、ただならぬ気配を感じさせられる。実際のところそれが音なのか匂いなのかは分からないが、不明なその何かを日本の原風景として音としても記録することにした。

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ROADSIDE MUSIC:コージー大内&W.C.カラス

今年最後のロードサイド・ミュージックは、クリスマスにふさわしく(?)、日本語ブルースの2本立てをお送りします。登場いただくのはコージー大内とW.C.カラスという、ふたりのブルース・シンガー。今年9月29日のインターFMロードサイド・ラジオで放送した音源の、ノーカット完全版です。10月2日号のメルマガで配信した記事に、最新情報など書き足したものを以下につけておきますので、よかったら記事を読みつつ、バーボンロックも飲みつつ、ぜんぶで1時間8分強、どろどろに濃い弁ブルースの世界を、大掃除なんて忘れてどっぷりお楽しみください!

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仮装の告白

まさかこんなのは日本で出ないだろうと、海外旅行先で買い求めた分厚い本が、ある日突然、翻訳されて書店の店頭に並んでびっくり、ということが最近増えてきた。制作経費のかさむ作品集を出版するにあたって、何カ国かの出版社と前もって出版契約を結ぶケースが増えてきたせいかと思うが、つい先ごろ青幻舎から日本語版が出た『ワイルドマン(Wilder Mann)』も、「まさかこんな本が!」と驚かされた一冊。シャルル・フレジェ(Charles Freger)という若手フランス人写真家の作品集で、原本はドイツ語版、英語版とも2012年に発表されている。

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独居老人の教え

先月発売された『独居老人スタイル』、書店店頭でご覧になったかたもいらっしゃるだろうか。すでにいくつか紹介原稿も書いているが、本メルマガではまだきちんと取り上げていなかったので、いま紀伊國屋書店の広報誌『scripta』に掲載されているテキストに加筆、画像や動画を含めて、ここであらためて紹介させていただく。『独居老人スタイル』とは読んで字の如し、この数年間で出会った独居老人16人の生きざまを、350ページ近くにわたって語り尽くしたものだ。もともと筑摩書房のウェブマガジンで去年から今年にかけて連載していた記事に、さらに取材を加えてぎりぎり2013年が終わる前に間に合った。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 09 寝てる人 冬(ケイタタ)

さてさてあけましておめでとうございます。2014年一発目の今回は、正月休み明けでぼーっとしている読者のみなさんの心のコンディションにあわせて、ぼんやりとした写真をご用意。『寝てる人 冬』どうぞよろしくお願いします。

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ROADSIDE MUSIC 友川カズキの夜

2014年最初のロードサイド・ミュージックは友川カズキをお送りします! 去年7月28日と8月4日の2週にわたって、インターFM・ロードサイドラジオで放送した録音のうち、7月14日に碑文谷アピア40で開催された永畑雅人さんのピアノ、アコーディオンと、石塚俊明さんのドラムスを加えたバンドセットのステージを、今回はノンストップ完全版でお届けします。休憩を挟んで2時間15分あまり、ライブ盤ではなかなか味わえないトークの妙とあわせ、存分にお楽しみください。

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挟む女

いつまでたっても好きになれないセレブな街・広尾の通りに面して、新しくできた小さなギャラリー。ショウアン(Gallery Show-an)というその場所は、ガラスドアを開けるとなぜか、ぎょっとするほど大きなカリントウや、おいしそうなあんず大福を並べた和菓子屋で、壁の向こうがギャラリー空間。そのギャラリーで昨年末の6日間だけ、大福を買いに来たセレブ奥様が卒倒しそうな展覧会が開かれた。『ハサマレル男達』は、文字どおり「挟まれた男たち」。肌もあらわな太ももに顔をギューッと挟まれて、ぐちゃっと変形したところをアップで撮られた、もだえ顔の写真展なのだ。

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暴走の原点――『スペクター1974―1978』

ピンパブさすらいびとの比嘉健二さんは、暴走族文化を語る上で外すことのできないキーパースンでもある。『ナックルズ』をはじめとする若者系実話誌を生み出し、それ以前に僕も毎号欠かさず愛読していたレディース雑誌『ティーンズロード』の生みの親でもあった。その比嘉さんが10年以上の時間をかけて、昨年10月にようやく世に出した写真集がある。一般書店にはほとんど並んでいないので、知る人は少ないかもしれない。箱入り・上製本でずっしり重いその写真集は、『スペクター1974―1978』と名づけられている。言うまでもなく、日本暴走族文化の原点ともいうべき伝説のグループ「スペクター」を捉えた、奇跡的な写真集だ。

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フィールドノオト07 福島県(畠中勝)

転々と寄り道を重ね、車を走らせること15時間。ようやく目的地である福島県に到着した。その晩、郡山の酒場で居合わせたお客さんの明るい話は印象的だった。「津波でいろんなものが流されてしまって、牛とか犬とか野生化してたって知ってるでしょ。飼われていたダチョウもそうなの。野良ダチョウ。牛、犬は分かるけど、いきなり目の前にダチョウが飛び出てくると、ホントびっくりするんだから」。そりゃそうだ。郡山は食事もおいしく楽しい人でいっぱいだった。その後、訪れた直接的な被災地とは何もかもが違って見えるほどに。

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踏まれるの待っていたライムが肩に手を回したろ?――「三島a.k.a.潮フェッショナル」というリアル

少し前にNHKの短歌番組に、歌人の斉藤斎藤さんが呼んでくれた。番組で紹介したいラップの曲があればということで、『銀舎利』を前もって推薦。そうしたら担当ディレクターから電話がかかってきて、「三島の赤潮さんから放送の許可をもらえました!」と言われ、しばし絶句・・・もちろんそれは『銀舎利』のラッパー「三島a.k.a.潮フェッショナル」のことだった。「三島」という名前だけではエゴ・サーチしてもなかなか出てこない、インパクトのある芸名をと考えたときに、「潮吹かせるのが得意だから」潮フェッショナルとみずから名づけたという三島a.k.a.潮フェッショナル。2013年7月にリリースされたデビュー・アルバム『ナリモノイリ』で、おそらく去年もっとも話題になったラッパーでありながら、その人となりはクラブに足繁く通うひと握りのファン以外に、まだあまり知られていない。

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案山子X 05 コスモス・案山子祭り(岡山)/大草野案山子祭り(佐賀)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。は岡山県の「コスモス・案山子祭り」と佐賀県の「大草野案山子祭り」を紹介します。最初に岡山県赤磐市周匝(すさい)の「コスモス・案山子祭り」を紹介します。岡山県赤磐市周匝には、吉井川の堤防沿い2キロ以上に渡って約200万本のコスモスが咲き乱れる「コスモス街道」があります。周匝橋ができた事をきっかけに、地元の方がコスモスを大事に育て続けているのだそうです。毎年コスモスの花が満開になる10月上旬に案山子祭りが開催され、コスモス街道に案山子が立ち並びます。2013年には約40体の案山子が立ち並びました。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 10 ノマド(ケイタタ)

今回のテーマは「ノマド」。そう、いま流行のノマドスタイルです。オフィスという場所に縛られずnomad=遊牧民のように自由に働く様をぜひご覧ください。

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ROADSIDE MUSIC 高知のブルースマン・藤島晃一!

昨年5月26日のインターFM「ロードサイド・ラジオ」でライブを放送、本メルマガでも6月5日号と12日号の2週にわたって、本拠地である高知県本山町の訪問記をお届けした、高知のブルースマン・藤島晃一。1月22日というから、ちょうどきょう! なんとP-VINEから初のベスト盤『通り過ぎれば風の詩』がリリースされることになった。これまでのアルバムはすべて自主制作だったため、入手が難しいものもあったが、とりあえずベスト盤に収録される14曲については、ずっと聴きやすくなるはず。本メルマガで紹介したアーティストで、自主制作からP-VINEでの再発になったものとしては、富山のブルースマン・W.C.カラスに続く快挙。こういうふうに地方で地道な活動を続ける、日本語でブルースを歌うシンガーたちが、全国的なレベルで脚光を浴びるようになるのは、いちファンとしてもすごくうれしい。

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マジカル・ベトナム・ツアー

正月休みを利用してベトナムに行ってきた。南北に細長いベトナム、国土面積から言うと、九州を除いた日本とほぼ同じということで、短い旅行で北から南まで旅するのは難しい。今回は数年ぶりになるサイゴン(ホーチミンシティ)と、世界遺産にもなっている中部の古都ホイアンをさらっとめぐって骨休め・・・と思いきや、やっぱり珍スポットやらアウトサイダーやらを探す日々になってしまい・・・さもしくもあわただしい取材旅行になってしまったのはいつものとおり。というわけで、ビーチだのエステだの、エスニック料理だの可愛い雑貨だのじゃないベトナムはないんか! という好き者のみなさまのために、今回はロードサイダーズ風ベトナム・トラベローグをお届けしよう。

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フィールドノオト08 福島県(畠中勝)

大津波、原発事故、放射能問題、またそれらによって引き起こされた新たな災害によって、いまだ被災地の復興は未終息だ。訪れた相馬市で、特に心が苦しくなった光景がいくつかある。ひとつは山積みになった汚染土の袋に囲まれた民家。傍らには一家の洗濯物が干してある。向かいの畑では、家族が食すであろう野菜を大事そうに収穫していくお婆さんの姿があった。津波の被害があった南相馬市では、廃屋に囲まれた馬小屋で、馬の世話をしている男性を発見した。その小屋から数キロ先は海なのだが、海からその小屋まで、見渡す限り、何も残ってはいなかった。あるのは裏返ったままの車や流されてきた漁船、そして家屋の残骸。だが、今は、そこに確かに人がいる。何もかもをなくなってしまった荒野だが、人が、馬が、そこで生きている。そんな彼らの息遣いをフィールド録音として未来に残したいと思った。

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ROADSIDE MUSIC 浜田真理子 ライブ@渋谷WWW

もともとこの「ロードサイド・ミュージック」は、去年インターFMで持っていた番組「ロードサイド・ラジオ」のために録音した音源を聴いてもらうために始めたのでしたが、メルマガ100号となる今週は記念として、このコーナーのための新録音! 昨年11月20日に渋谷WWWで開催された、浜田真理子の『Touch My Piano with 浜田真理子』から、コンサートの前半をノーカットでお送りできることになりました。当日の演奏は今年の5月ごろにライブアルバムとして発表される予定なので、今回お届けするのは僕が客席の隅で録音したものではありますが、CD発売前の特別公開ということになります。浜田さんはじめ、関係者の皆様のご理解とご協力に深く感謝します。

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21世紀の傾奇者

2014年1月12日の朝、北九州市の中心である小倉の、北九州メディアドーム前は異様な熱気に包まれていた。パンチパーマと並んで(!)小倉が発祥地である競輪用のレーストラックを備えたこの多目的ドームで、きょうは2014年度の成人式が開催されるのだ。毎年、成人の日が近づくと「どこの成人式は荒れる」とか「暴走族が騒いだ」とか、お決まりの話題がマスコミを賑わすが、小倉の成人式はその絢爛豪華にして独創的な衣裳で、ここ数年かなりの注目を集めるようになってきた。式典開始の午前10時前から、ドーム前の広場は人、人、人、色、色、色で埋め尽くされる。カラフルという言葉ではとうてい追いつかない、彩度マックスの色見本がぶちまけられた、巨大なパレット状態だ。

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はだかの領分――大崎映晋写真展

東京日本橋の裏通りに、書画用の特殊な和紙・大濱紙(おおはまし)を製造販売する小さな店『かみ屋』がある。その地下にあるギャラリー『KAMIYA ART』でひっそり開催されているのが『美しき海女――大崎映晋写真展』だ。大崎映晋(おおさき・えいしん)という名前に、どれくらいのひとがピンと来るだろうか。大崎さんは「水中写真家・水中考古学者・海女文化研究家」という肩書を持つ、日本における水中写真のパイオニア。1920(大正9)年生まれというから現在93歳という年齢で、いまも元気に活動を続けている。そして今回の写真展は、大崎さんがその生涯をかけて記録してきた海女たちの、いまではもう見ることのできない、裸の肌で海に生きてきた姿である。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 11 外国人(ケイタタ)

今回のテーマは「外国人」。ぼくもよく海外を旅するので、外国人には親切にしてあげたいと思うもの。でも、やっぱり、見てておもしろいことが多々あるのです。そんなときついついカメラを向けてしまう。ぼくがどこかの国の路地で不様な姿を晒してたら撮っていいから許してね。それではお楽しみください。

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夜をスキャンせよ

レコード棚の前、ベッドの上、仕事場のMacに向かって・・・さまざまな場所で寛ぐ、よく見ると目だけが真っ白のひとびと。いや、よく見なくてもいきなり白目に目が行ってしまうのは、「目は口ほどに物を言う」からなのだろうか。そういえば前に会った歌舞伎町のデジタル写真館のオーナーは、ホストを撮るうえで最大のポイントは「目ぢから」だと言ってたっけ。そういう職業写真作法に対する、これは皮肉たっぷりのツッコミなのか・・・などと妄想をふくらませてしまうのが、1月15日配信号の後記で紹介した沼田学の写真展『界面をなぞる2』だった(~1月22日まで@新宿眼科画廊)。

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シャンパンコールで夜は更けて

ホストたちの晴れ姿をたっぷり見ていただいたところで、ほんとに偶然だけど、最高のタイミングでTBSラジオにて歌舞伎町ホストの至芸「シャンパンコール」実況録音放送をお知らせ! 来る2月15日(土)夜7~8時、『7 ears in Tokyo』という特別番組が放送されます。どんな番組かといいうと――

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残像・命ギリギリ芸――小沢昭一写真集『昭和の肖像<芸>』

去年12月4日配信号『昭和という故郷』で紹介した、小沢昭一の写真集『昭和の肖像<町>』に続く待望の続編『昭和の肖像<芸>』が先週あたりから書店に並んでいる。近代日本大衆文化、またフィールドレコーディングに関心のある者にとっても最重要な記録音源『日本の放浪芸』(復刻版CDボックス4セット、全22枚!)でもわかるように、失われ滅びゆく芸能を訪ね歩き、記録する作業は、小沢昭一にとって単なる趣味でもなければ、学問的な興味でもなかったろう。

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フィールドノオト09 石川県~福井県(畠中勝)

病気をしても簡単には通院できない職業柄、年に数度、湯治へは行くことにしている。北陸地方を訪れたのはこの正月が初めてだ。普段、あらゆる行為が監視カメラで記録される大きな繁華街に住んでいるせいか、人気のない地域や場所に足を踏み入れると、とても開放的な気分になる。しかし一方で、記録されていない自分が、何かを必死になって記録している行為そのものは滑稽にも思える。

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DOMMUNE 弘田三枝子特集、ノーカットで再配信!

先週2月5日のDOMMUNEスナック芸術丸『めくるめく弘田三枝子的宇宙』、ご視聴いただけたでしょうか。僕にとっては長年の憧れのアーティストを、自分の番組に迎えられるというだけで至上の喜びでした。弘田三枝子さんにとっても、ふだんは長年のファンたちに囲まれた小さなサークルの中で活動しているだけに、これまでとはまったく異質のメディアでの2時間にわたるアピアランスが、ミコさんを知らない世代にその存在と実力を知らしめる、いい機会になったのではと思います。

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ハダカの純心――あるストリッパーと医者の恋物語

いまは一時更新を休んでしまっているが、うちにあふれる本を、探しているひとに直接届けたいという思いから、「e-hondana」という自前のネット古書店を開業して、もう数年になる(近々メルマガのサイトに統合する予定なので、乞うご期待)。そこに出品していた成人映画の資料集を欲しいと連絡してくれたひとがあり、「亡き妻が成人映画に出ていたので、その資料を探しています」と言うので、本を届けがてらお話を聞かせていただくことになったのが、いまから2ヶ月ほど前のこと。行きつけだという、伝説のストリッパー浅草駒太夫の店『喫茶ベル』のカウンターでお会いした...

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ROADSIDE MUSIC 醤油味のファンクネス――OLH(元・面影ラッキーホール)ライブを2セット配信!

「好きな男の名前腕にコンパスの針で書いた」「あたしゆうべHしないで寝ちゃってごめんね」「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた・・・夏」「ラブホチェックアウト後の朝マック」・・・曲名を並べてみるだけで、サバービア・フレイバーの邦画を見ている気にさせてくれる、それがOLH(元・面影ラッキーホール)の音楽だ。それは紡木たく(ホットロード)の叙情でもなければ、真鍋昌平(闇金ウシジマくん)の絶望でもない。酎ハイの甘さと涙の塩味の混じった、どうしようもなく下らなくて、愛おしくてリアルな人生のカケラだ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 12 冬(ケイタタ)

大阪でも珍しく雪が積もりました。いやあ、寒いです。というわけで今回のテーマは「冬」です。寒い風景が多いので、体を温かくしてご覧ください。

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案山子X 6:嘉瀬かかしまつり(佐賀)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は佐賀県の「嘉瀬かかしまつり」を紹介します。毎年秋に佐賀県佐賀市嘉瀬町の嘉瀬川防災ステーションで「嘉瀬かかしまつり」は開催されます。2013年に4回目の開催となり、会場には100体以上のかかしが立ち並びました。嘉瀬町では毎年秋に「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」が開催され、その期間に合わせてかかし祭りも開催されます。バルーンフェスタは嘉瀬川河川敷をメイン会場に開催される熱気球の競技大会で、大会期間中の来場者数は80万人を超える巨大フェスティバルです。地元で開催されているバルーンフェスタを盛り上げようと、嘉瀬町の住民が中心となってかかし祭りが始まりました。

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ハダカの純心――あるストリッパーと医者の恋物語2

先週の前編に続いて送る医師と、偶然出会ったストリッパー・芦原しのぶ(通称カメ)の、オトナの恋の物語。北の漁港のキャバレーでふたりは知り合い、東京で再会。お互いに惹かれあって、彼女の小さなアパートで『神田川』の歌詞そのままの同棲生活が始まった。そのとき永山さんは26歳、芦原さん30歳。しかし1960年代の東京で、医師とストリッパーという若いふたりの前には、さまざまな困難が待ち受けていた・・・。

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芸術はいまも爆発しているか――岡本太郎現代芸術賞展

岡本太郎美術館では現在、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞展」を開催中(~4月6日まで)。今年が17回目、780点の応募作品が集まったというこの公募展は、「芸術は爆発である!」精神を大事にしてます、と学芸員が強調するように、ふつうの現代美術館の公募展とは、ちょっと毛色の異なる作品が集まるので見ていて楽しい。今年は、本メルマガでも2012年6月20日配信号「突撃! 隣の変態さん」で紹介したラバー・アーティスト「サエボーグ/saeborg」が、グランプリである岡本太郎賞の次点にあたる岡本敏子賞を獲得したというので、軽い気持ちで出かけてみたら、ほかのアーティストたちの作品もすごくおもしろかったので、展示されている入賞作品20点のうちから、いくつか選んで紹介してみよう。

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ぴんから体操新作展に寄せて

先週の告知でお知らせしたとおり3月3日(雛祭り!)から銀座ヴァニラ画廊で、『ぴんから体操展 妄想芸術劇場2』と『兵頭喜貴写真展 模造人体シリーズ第5弾 「さらば金剛寺ハルナとその姉妹―愛の玩具たち』という、ふたつのきわめてビザールな展覧会が同時開催される。本メルマガでもすでに2012年3月21日号で特集した兵頭喜貴の(「人形愛に溺れて・・妖しのドールハウス訪問記」)、2年ぶりとなる新作インスタレーション展については、前回の展覧会のあと突如として難病や数々の難問に直面し、厳しい日々を送ってきた作家の復活展でもあり、僕も公開対談に参加させてもらう予定。同時にこちらも2年ぶりとなる伝説の投稿イラスト職人「ぴんから体操」原画展も、久方ぶりに原画と向き合える貴重なチャンスであり、とりわけアウトサイダー・アート・ファンには見逃せない企画になるはずだ。

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フィールドノオト10 新宿(畠中勝)

昨年の暮れから元旦にかけての新宿の音景。通りの店や町の催しは大して代わり栄えはしないが、新宿という場所柄、「そこにいる人」の入れ替えは多いように思う。キャッチの若者やオジサン、飲み屋の女の子、居酒屋前にたむろう学生、いつも決まった場所にいたようなそうでないような浮浪者たち、朝帰りのサラリーマン、そして、そんないろんな中のひとりでもある僕自身。みんなどこからやってきてどこへいくのだろう。通りすがりに録音した音源も二度ない風景画のように思えてくる。

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ショッピングバッグ・ダディ――BOOKS & PRINTS 紙袋展

かつての繁華街の一角に、築50年以上という古ぼけたビルが建っている。KAGIYA=かぎやビルと呼ばれるその建物は、2012年に地元の不動産会社がオーナーとなって、ギャラリーやセレクトショップの入るトレンディな場所として再生。その2階に入っているのが『BOOKS AND PRINTS』。浜松出身の写真家・若木信吾さんが経営する、ハイエンドなセレクトブック・ショップだ。いかにも昭和らしいビルの階段を上った2階にある店は、建物の躯体を露わにしたクールな内装に、かなりセレクトされた写真集や画集が並べられて、地元には失礼ながら代官山か表参道にありそうな雰囲気。そこで何冊か気になる本を買って、袋に入れてもらったら、白地の紙袋にチャーミングな手描きのイラストが描かれていた。

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ZINGという挑戦

立体迷路のようなかぎやビル内には、BOOKS & PRINTSのほかにもいろいろなショップやギャラリーが入居しているが、「ここはおもしろいですよ!」と教えられたのが、かぎやビルの並びにあった『ZING』。空き店舗を利用したZINE(ジン)の制作工房だ。自主制作雑誌、小冊子を日本でも「ジン」と呼ぶようになったのは、いつごろからだろう。たぶんここ数年かと思うが、『ZING』はさまざまな用紙やコピー機、プリンター、シルクスクリーン機材に小型活版印刷機まで備え、わずかな料金でだれでもジンを作ることができる、いわばレンタル印刷製本所だ。

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追悼――101歳のアマチュア画家・江上茂雄

先週2月27日の西日本新聞の夕刊に、小さな死亡記事が掲載された。本メルマガの去年10月2日号で特集したばかりの、熊本県荒尾市に住む101歳のアマチュア画家・江上茂雄さんの死亡記事だった。「26日午前9字14分、老衰のため福岡市東区の老人ホームで死去、101歳」――地元以外で、どれくらいのひとがこのニュースを知っただろうか。江上茂雄さんは生涯アマチュアを通した、生粋の「日曜画家」だった。ほとんど注目されることもなく、自分だけの絵を描きつづけ、最晩年の去年、101歳にして福岡県立美術館で大回顧展を開催。その取材で秋に荒尾にうかがったときはまだお元気で、家族が同居をすすめても「絵を描くのにはひとりのほうがいいですから」と独居を貫き、ひとりでご飯を食べて絵を描く日々を過ごしていた。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 13 2014年2月(ケイタタ)

今回は原稿のスタイルを改めました。理由は正直に言います、ネタが少なくなってきたからです。今まで12回、テーマを変えてお送りしてきましたが、ネタのストックがなくなってきたのです。このままでは1年も経たずに連載終了となってしまう! そうなる前に手をうちました。えっ、ネタないのなら連載やめろ? そこをなんとかお願いします。というわけで、今回は「2月」の隙ある風景です。去ったばかりの2月をいつも自身のブログで書いているスタイルでも書いてみました。ぜひともご覧くださいませ。

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music

ROADSIDE MUSIC 友川カズキ@小岩BUSHBASH

今週のROADSIDE MUSICは友川カズキのライブをお届けします。先週、2月28日に小岩BUSHBASHで行われたばかりのステージの前半後半を、今週と来週にわけてお送りする特別配信です。このコーナーで友川さんを取り上げるのは今年1月8日配信号に続いて2度目になります。3年ぶりになるニューアルバム『復讐バーボン』を1月30日にリリースして以来、各地でライブを続行中の友川さん。共演ミュージシャンがあったり、バンド編成であったり、そのときどきでいろいろなセットが組まれていますが、今回の小岩ではまったくのソロ。ギターだけを相手に、前半後半あわせて2時間以上の熱演を披露してくれました。

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photography

『そこへゆけ』――ストリートスケープのねじれ

2013年10月9日配信号で紹介した渡部雄吉の『張り込み日記』は、去年紹介したうちで、もっとも反響の大きかった写真集のひとつだった。発行元となったROSHIN BOOKSは斉藤篤という写真好きの青年によって、「この本を世に出したいために」設立されたマイクロ・パブリッシャーだったが、幸いにも『張り込み日記』は噂が噂を呼んで程なく完売――悔し涙にくれたひとも多いかと思うが、この4月1日に第2版が発売されるそう! 急いで予約すべし。そのROSHIN BOOKSが満を持して2月に発表したばかりの2冊めのプロジェクトが『そこへゆけ』。『張り込み日記』の渡部雄吉は大正生まれ、1993年に亡くなっている歴史上の写真家だが、『そこへゆけ』の作者・佐久間元(さくま・げん)はまだ34歳という若手。これが初の写真集という、意表を突いた展開である。

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lifestyle

かなりピンボケ 2――涙のジャーニー 湯島歌合戦(比嘉健二)

おそらくこのメルマガの大多数のファンはフィリピンパブというところが、実はどんなこところなのか知らないだろう。というか、日本国民のいったい何%の人間が実態を知っているというのか? もちろん統計などあるわけないが、100人に聞いても、おそらく正解は10人もいないだろう。もっとも知らなくてもなんら生活に支障はないけど・・・。いや、むしろ知らない方が人としては間違ってはいないだろう。そして、おそらくこう想像する人も多いだろう。色の黒いやけに肌が露出した、口説けば即股を開くだらしないフィリピン女と、日本人にまったくモテない寂しいおやじたちが、傷をなめ合う場だと。日本人にモテないはほぼ正解だが、こんな想像がガッカリするくらい、実はやたら健全な空間なのだ。

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フィールドノオト11 福岡県飯塚市(畠中勝)

昭和10年、父、敏雪は、5人兄弟の長男として、炭鉱で賑わっていた飯塚で生を受ける。村の名は「氷屋」と呼ばれていた。地元の名山である三郡山の山裾の一端で、まれに夏でも凍えるほどの寒さを感じることからこの地名が付けられたと聞く。小学校を出るやいなや炭鉱で働き始めた父。終戦とともに鉱山が閉鎖されると、その後は長距離トラックの運転手として定年を迎えた。実母の葬式にも顔を出さないほどの働き者で、勤めていた会社から皆勤賞をもらうほどだった。僕はその父と実は長年会ってはいないのだが、小学生時代の「うちの家族」といった作文以来、改めて父を書こうと、良いところをあげるなら、ひとつだけ思い出すことがある。それは父の風貌である。

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music

ROADSIDE MUSIC 友川カズキ@小岩BUSHBASH 後半

先週にひきつづいて、今週のROADSIDE MUSICは2月28日に小岩BUSHBASHで行われた友川カズキのライブ後半をお届けします。3年ぶりになるニューアルバム『復讐バーボン』を1月30日にリリースして以来、各地でライブを続行中の友川さん。後半では新譜のタイトル曲からステージが始まり、いつものように・・・と思いきや、「今年はすすめられて、若いころにつくった曲を積極的にやっていこうかと」というトークに場内騒然! その言葉どおり、長く友川カズキを聴き続けているファンからも「オオッ」という声がしばしばあがる選曲で、素晴らしく熱のこもったパフォーマンスになりました。

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art

琵琶湖のほとりのアウトサイダー・アート・フェス

京都駅から東海道本線新快速でわずか35分、琵琶湖東岸に面した滋賀県近江八幡(おうみはちまん)。国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)に指定された美しい街並みで知られる、県内屈指の観光地だ。メンタームを生んだ近江兄弟社の創立者であり、日本における近代西洋建築の立役者のひとりでもある、ウィリアム・メレル・ヴォーリズがこよなく愛した土地としても有名。そして近江八幡はまた、アウトサイダー・アートのファンにとっては京都よりはるかに重要な地でもある。

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art

絵という鏡――岩瀬哲夫の絵画

すでにいまから1年前になるが、2013年4月3日号(061)で銀座ヴァニラ画廊の公募展「第1回ヴァニラ大賞」の記事を配信、そこで入賞した愛知県在住の画家・よでん圭子さんについては、9月18日号(083)で詳しく紹介した。今年も「第2回ヴァニラ大賞展」が今月17日から開催中(29日まで)。前回に負けず劣らずのエクストリームな作品群が顔を揃えているので、銀座におでかけの際はぜひ立ち寄っていただきたいが、そのなかで特にこころ惹かれ、「都築響一賞」に選ばせてもらったのが岩瀬哲夫さん。若いアーティストがほとんどのなかで、64歳というベテランで、聞けば画家が本業でもないという・・・。

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fashion

新宿が生きていたころ――昭和40年代新宿写真展

新宿という地名に、地元以外のひとはなにをイメージするだろう。歌舞伎町や新宿3丁目の喧騒とも、西新宿の高層ビル街ともちがう、静かな住宅街が広がる三栄町。靖国通りを挟んで防衛省と向き合うこの一角に、新宿歴史博物館がある。本館のほかに林芙美子記念館、佐伯祐三アトリエ記念館、中村彝(つね)アトリエ記念館などを併せ持つ区立の文化施設なのだが、どれくらいの方がご存知だろうか。その新宿歴史博物館でいま開催中なのが『新宿・昭和40年代 ―熱き時代の新宿風景―』と題された写真展。いまやすっかり毒気を抜かれてしまった感のある新宿が、たぶん日本でいちばんエネルギッシュだった街だったころを振り返る、興味深い展覧会だ。

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新連載! 音楽に呼ばれて(湯浅学)

いまはもう存在しない文藝春秋社の月刊誌『TITLE』で、2000年の創刊号から2007年まで連載した『珍世界紀行 アメリカ裏街道を行く』は、2010年に『ROADSIDE USA』という分厚い単行本にまとめることができたが(TITLEのほうは連載終了後ほどなく休刊・・・自分のせいじゃないと信じたい)、丸7年間にわたってアメリカの隅々、というか隅っこばかりを走り回りながら、ときどき寄り道してはブルースやロックの記念碑的なスポットを探してみるのが、密かな楽しみのひとつだった。そこで撮った写真は連載記事にも、単行本にも収められることなく、単行本宣伝用ツイッター・アカウントで一瞬発表したのみ。いつかなんとかしようと思うまま時が過ぎてしまったが、このたび敬愛する音楽評論家&ミュージシャンの湯浅学さんがテキストを書いてくれることになった。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 14 撮る人(ケイタタ)

9日の日曜日は大阪オフ会でした。いやあ、濃かったです。翌日、もうへろへろで有給休暇とってしまいましたもの。とはいえ読者の方々の生な感想をいただき元気になりました。「ネタ切れにもめげずがんばってね」とのありがたいエール。というわけで、がんばっていきましょう。今回は『撮る人』です。

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movie

デジタル紙芝居としての『燃える仏像人間』

京都駅からJR奈良線で30分足らず、お茶で有名な宇治市の住宅街。ナビを頼りに迷路のような新興住宅地をタクシーで走り、一軒の家の前で停まると、まだ大学生と言っても通るような青年が玄関を開けてくれた。それが去年、アニメ映画界の話題をさらった『燃える仏像人間』の監督・宇治茶さんだった。昨年末には第17回文化庁メディア芸術祭のエンターテイメント部門で、優秀賞を受賞した『燃える仏像人間』については、すでに多くの紹介記事が出ているし、全国の上映イベントで作品を観たひとも少なくないだろう。いわゆる「劇メーション」の手法で制作された、非常に特殊なアニメ作品だ。

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巻き寿司アートの陰日向

玉ちゃん(玉袋筋太郎)ではなく、たまちゃん。2013年2月13日配信号「ノリに巻かれた寿司宇宙」で紹介した「巻き寿司アーティスト」だ――。あれから1年、あいかわらずというか、たまちゃんの暴走は加速している気もするが(行きつけのバーが一緒なので、よく会うんです)、ついに彼女の暴走につきあおうという出版社が出現、このほど『Smiling Sushi Roll /スマイリング・スシ・ロール』として世に出ることになった(3月28日発売)。ノルウェー観光局のコンペ『世界一長い「叫び」プロジェクト』で、全世界からの応募のうち2位を受賞、オスロに招かれムンク美術館でも巻いてきたという、『叫び』が表紙になっているこの一冊。

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案山子X 7:上津川かかしむら かかし祭り(大分)(ai7n)

今回は大分県佐伯市本匠大字上津川地区で開催される「上津川かかしむら かかし祭り」を紹介します。大分県の南東端に位置する佐伯市(さいきし)は九州の中で最大の面積を持つ地域で、海側にはリアス式海岸地帯が広がり内陸部には深い山々が連なる、豊かな自然に恵まれた地域です。「上津川かかしむら かかし祭り」の会場がある本匠大字上津川地区は佐伯市の中心から北西に位置し、上津川に沿って点在する小さな集落の中の一つでかかし祭りが開催されます。毎年10月中旬の稲刈が終わった頃から40日ほどかかしの展示をされるそうで、3回目を迎える2013年には約250体のかかしが田畑や民家等に立ち並びました。

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ROADSIDE MUSIC 日本語でも英語でも、神様は泣いていた!

このメルマガの読者で、みどり◯みきさんを知らない方はすでにいらっしゃらないだろう。ライブのお知らせ、トークでのフィーチャーなど、ことあるごとに見てもらっている、インディーズ演歌歌手の女王である。告知コーナーで紹介してきたように、今年に入ってから2月と3月の2回、みどりさんのステージを見ることができた。2月2日にはみどりさんの地元である足立区の、北千住で開催されたイベント『千住ミュージックホール 第3回 サンローゼ・魅惑の駅前歌謡ショー』。そして今月3月6日、なかのの小さなホールにインディーズ演歌歌手たちが集った『2014 FM茶笛歌謡寄席』。

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世界に取り憑くこと――宇川直宏と根本敬の憑依芸術

今年1月から3月頭にかけて、ふたつの展覧会が開かれた。そのふたつは場所の空気も、観客のテイストも微妙に異なるものだけれど、僕にとってはかなり共時感覚を持って眺めることができたので、ここにまとめて報告したい。そのふたつとは『宇川直宏 2 NECROMANCYS』(@白金・山本現代)と、『根本敬 レコードジャケット展』(@両国・RRR)である。DOMMUNEと因果鉄道、その両者を結ぶものは「憑依」だった・・・。

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さよなら嬉野観光秘宝館

2014年3月31日、世の中的には『笑っていいとも!』が終わった日だったが、その同じ日に佐賀県の片隅でもうひとつ、ひっそり幕を閉じたものがあった。嬉野観光秘宝館である。『笑っていいとも!』は1982(昭和57)年に開始されたそうだが、嬉野に秘宝館が開館したのは1983(昭和58)年。ほぼ同い年で、あちらは日本最大級の長寿番組だったが、こちらは日本最大級の秘宝館だった。いまから5年前の2009年春、『秘宝館』という写真集を出したとき、あとがきをこんなふうに書いた――

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フィールドノオト12 佐賀県 嬉野観光秘宝館(畠中勝)

昭和のアミューズメント施設に興味がある。温泉街にある秘宝館もそのひとつだ。子どもの頃はできなかったが、箱型の受付小屋にいるオバサマに入館料を支払い、館内へとおずおず足を踏み入れる。すると瞬く間に、これまで経験しなかった、もしくは体験することもないであろう、すごいエロが待っていた。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 15 寝てる人 春(ケイタタ)

暖かくなってきましたね。寝てる人を多く見かけるようになってきましたね、というわけで今週は『寝てる人 春』。消費税8%アップとともに枚数も8%アップ!? 100枚ならぬ108枚のてんこ盛りでございます。

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奇跡の農民楽隊 1

去年インターFMで「ROADSIDE RADIO」という深夜番組をやっていたときに、いちばん取り上げてみたかったのが「北村大沢楽隊」という宮城県石巻のブラスバンドだった。創立が大正14年(89年前!)、その時点で5人のメンバーの平均年齢が80歳近いという、日本最古にして最強の農民ブラバンだった。2005年にリリースされた唯一のCD『疾風怒濤』で、とてつもないサウンドに衝撃を受けた方もいらっしゃるだろう。カウントもなければ出だしもバラバラ、チューニングも合ってない。おもな活動の舞台は演奏会のステージではなく運動会の、徒競走の伴走。そんな農民楽隊がぶっ放す、おそるべき土着のグルーヴ。それは「ブラスバンドのシャグズ」とでも言うべき破壊力で、僕もCDを一聴、いきなりトリコになった。

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高校生ラップ選手権の衝撃

いまから少し前、『ヒップホップの詩人たち』を書くために集中的に日本語ラップを聴いていたころ。たくさんのラッパーの作品をチェックしているうちに、だんだんとスキルやテクニックや楽曲の完成度よりも、「これを言わずには生きていけない!」というような初期衝動のほとばしりに惹きつけられるようになっていった。胸の奥の黒いカタマリや、どうしようもない自己顕示欲や、妄想や悲しみや喜びや、そういうすべての感情がぶつかり合う場としてのステージに、『高校生ラップ選手権』があるのをご存知だろうか。

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ROADISIDE MUSIC パスカルズ・ライブ@CAY

今週のロードサイド・ミュージックは3月19日に開催されたばかりの、パスカルズのステージをお送りする。前半、後半、アンコールまで含めて2時間以上の長いステージから、パスカルズ自身によって選ばれた8曲、50分弱の演奏をたっぷりお楽しみいただきたい。

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フィールドノオト13 静岡県・熱海秘宝館(畠中勝)

「熱海秘宝館」は昭和55年から続く数少ない秘宝館のひとつ。収録日は全展示室に客がいるほど館内は賑わっていた。しかも来客しているのは20代と思しき女性たちばかり。これには少し驚かされた。世の中で性に対する様々な認知や許容が広がる中、古来、“秘宝”と呼ばれてきた“聖なる異物”にも、女性たちの高い関心が広まっているようだ。

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奇跡の農民楽隊 2(撮影・録音・文 奥中康人)

先週に続いて静岡文化芸術大学・文化政策学部准教授の奥中康人さんによる、北村大沢楽隊のフィールドワーク後編をお届けする。昨年8月30日に逝去された楽隊長・渡辺喜一さんへの貴重なインタビューも含む貴重なリサーチ。じっくりお楽しみいただきたい。

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PUNK NOT DEAD――ジャカルタ・パンク来襲!

昨年9月11日号、18日号の2週にわたってお届けした『モッシュピットシティ・ジャカルタ』は、中西あゆみというひとりの日本人ジャーナリストが、文字どおり人生を賭けて追い求めるインドネシア・ジャカルタのパンク・シーンを伝える、熱いリポートだった。若いころにパンク・キッズだったであろう何人もの読者から、「あれ読んで泣いちゃった」と言われて、僕も感無量だった。あのときたった2日間上映された中西さんのドキュメンタリー映画『マージナル=ジャカルタ・パンク』が、さらにアップデートされて、この5~6月にかけてついに渋谷アップリンクで上映決定。

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ROADSIDE MUSIC 石橋英子 バンド+ソロ、2本立て!

今週のロードサイダーズ・ミュージックは石橋英子のライブをお届けします。ジム・オルーク(元Sonic Youth)などと組んだバンド「石橋英子 with もう死んだ人たち」による去年11月22日、六本木SuperDeluxでの演奏から6曲(約47分)。そして今年2月26日に渋谷WWWで開かれた「Touch My Piano vol.05 高木正勝/石橋英子」から、68分あまりのピアノ・ソロ・ライブを丸ごとという、豪華2本立てです!

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 16 桜(ケイタタ)

さあ、旬のものをいきましょう。今週のテーマは『桜』です。この時期、ぼくは「花見」ではなく「花見見」で忙しい。つまり、花見をしている人を見るのである。桜の下の人間は隙だらけ。みなさんがこれを読む頃には大阪はすでに葉桜ですが、散りゆく桜を忍んでまいりましょう。

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ヤンキーの教え

去年『極限芸術~死刑囚の表現』展で話題を呼んだ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。もともとアウトサイダー・アート専門の小さな美術館として開館したが、アウトサイダー・アート=障害者の芸術、というステレオタイプの思い込みを嘲笑うように、美術館という枠のギリギリを綱渡りする挑戦的な企画を連発。小規模ながら、いま日本でもっとも攻撃的な美術館のひとつだ。今週土曜日(4月26日)から鞆の津ミュージアムでは『ヤンキー人類学』というタイトルの、一大ヤンキー絵巻が展開される。「日本人はヤンキーとファンシーでできている」と言われるように、すでに絶滅危惧種だとされながら、エクザイルや氣志團を見てもわかるように、我らがこころのうちに根深く取りつく「ヤンキー的なるもの」。それをさまざまな角度から掘り起こそうという、挑発精神に満ちた企画だ――。

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ワルというダンディズム

『ヤンキー人類学』に出展する新潟県南魚沼郡の『BIRTH JAPAN』は、「極ジャー(極道ジャージ)」、「悪羅悪羅(オラオラ)」などと通称される不良ファッションの人気ショップである。2011年のあいだの半年と少し、ふつうのファッション誌があまりに画一化しておもしろくないと思っていた僕は、『SENSE』という高級メンズファッション誌で『ROADSIDE FASHION』という変わったファッション連載をしていた。ファッション誌にはよく出てきて、街場ではほとんど見かけない高級商品ではなくて、ファッション誌にはまったく出ないけれど、街場ではよく見る、ほんとうに日本の男たちが着ている服を見せたくて、その連載を始めたのだったが、残念ながら高級ファッション誌に広告を出すクライアントたちのお気に召さず、1年持たずに終了してしまった。ハイブランドは、いつだってストリートからアイデアを盗んできたくせに。

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ホットロード ~十代の光と影~

ヤンキーといえば、ほとんど聖書といえるのが漫画『ホットロード』。これまでの販売累計700万部なのだそうだが、このほど完全実写化され、しかも和希役が能年玲奈というニュースに、ひそかに震えたひとも多いのでは(映画は8月公開)。今週のヤンキー特集に華を添えるべく! 2011年に書いた短い書評があったのを思い出したので、それも再録しておきます。映画の出来はわからないけれど、漫画原作版はいまでは電書でも読めるので便利。しかし通勤途中にキンドルで読んだりして、号泣しないように。

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フィールドノオト14 京都1(畠中勝)

日本からオオカミが絶滅し100余年。山に住むヒトの敵はその後、大繁殖した鹿、猿、猪となった。増えすぎたのはヒトなのか、それともそれら動物たちなのか。とはいえ、この地域住民を苦しめる畑荒らしの犯人を駆除すべく、京都の山中で長年猟をやってこられた猟師、増山賢一氏に同行させていただき、鹿猟の全貌を見学させてもらった。

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音楽に呼ばれて vol.2 Corner of Hillcrest Avenue & Bartlett Street, Macon, Georgia(湯浅学)

世界最強のギターバンド、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・"スカイドッグ“・オールマンは、傑作アルバム『アット・フィルモア・イースト』を発表した直後の1971年10月29日、ジョージア州メイコン郊外の交差点でバイク事故により亡くなった。ヒルクレスト・アヴェニューとバートレット・ストリートの交差点で、目の前で曲がろうとしたトラックをよけきれず、彼の愛車ハーレー・ダヴィッドソン・スポーツスターはクラッシュ。デュアンは即死だった。もうすぐ25歳の誕生日を迎えるという日の、あまりに悲劇的な死だった。その翌年の19972年11月11日には、その交差点からわずか3ブロックしか離れていない交差点で、今度はベースギターのベリー・オークリーもバイク事故で亡くなってしまう。いま、デュアンが命を落とした交差点には、碑銘のひとつすら残されていない。

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私をデートにつれてって――櫻井龍太と陽性のエロ

オフ会当日に櫻井くんを紹介されたとき、説明されたのが「この子、オッパイ写真家やから」。なんでも友達や恋人のオッパイをいろんな場所で撮影したシリーズが秀逸だそうで、それは見たいじゃないですか! というわけでケイタタさんは急いで写真展を企画、僕はメルマガでインタビューさせてもらった。1983年生まれ、5月29日で31歳になるという櫻井龍太は、「10代のころから女性の裸を撮りつづけてきた」という、筋金入りのヌード・フォトグラファーだった。

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グロテスクのちから アニー・オーブと甲斐庄楠音

今週は僕自身も少しだけ関係のある、東京と京都のふたつのアートスペースで開かれている展覧会をご紹介する。ひとつめは、先週号の告知でも少しだけ書いたように、上野稲荷町ガレリア・デ・ムエルテで開催中の『ザ・ディープ・ダーク・ウッズ/アニー・オーブ展』。ハードコア、ブラックメタルなど、異端の音楽に特化したレコード、CDショップと、そうしたテイストのジンやTシャツなどのグッズ、さらには展示スペースを併せ持つ、この小さな店については、『東京右半分』で読んでいただけたかたもいらっしゃるかもしれない。

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かなりピンボケ 3――フィリピーナは休みの日に何をしているのか? 哀愁のシーフードヌードルと地獄の教会編(比嘉健二)

フィリピンパブで夜働いているフィリピーナはオフタイム、休みの日にいったいどういう過ごし方をしているのか? おそらく常識ある一般人の方はまったく想像がつかないであろうし、そんなことを知りたいとも思わないだろう。ただ、あえて今回このテーマにしたのは、フィリピンパブという空間に常識人も突然ハマる、もしくは転落する可能性がけっこうあるからだ。そうなってしまった時、このコーナーはおそらく偉人の啓蒙書のように感じられることだろう。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 17 子ども(ケイタタ)

今週号のテーマは『子ども』。そうです、もうすぐ子どもの日。疲れた大人が見せる隙とは違った、元気があり余る故に現れる子どもの隙をぜひご覧ください。

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ロッキン・ジェリービーンの下腹部直撃画

(前略)ディスコじゃなくてクラブ。小箱じゃなくて大箱。それもダンス・ミュージックじゃなくてロック。でもライブハウスじゃなくて、居心地よく爆音を楽しめる店! という場所がほしくて、MILKには「ロッククラブ」という肩書をつけたが、店名の「みるく」はもちろん精液のことだったし、ロゴもコンドームを想起させる、要するにロック・ミュージックの持つセクシーさを強調したい気持ちを、たっぷり込めたつもりだった。そのMILKで一時期、こちらの気分にずっぽりハマるグラフィックをつくっていてくれたのが、ロッキン・ジェリービーンである。

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案山子X 8:菜の花とかかし祭り(兵庫)(ai7n)

今回は兵庫県淡路市久野々の「菜の花とかかし祭り」を紹介します。「菜の花とかかし祭り」が開催される淡路市久野々(くのの)は淡路島の北側に位置し、常隆寺山の高台にある人口60名程の集落です。(中略)「菜の花とかかし祭り」は毎年菜の花の咲く4月上旬に開催され、1000人以上のお客さんが訪れる大きなお祭りです。久野々の人々(実行委員会)が中心となり地域おこしの為に始めたお祭りで、2014年に7回目の開催となりました。4月の第一日曜をはさんだ1週間、地元の方・学校・企業や老人ホーム等の人々が制作した450体程のかかしが菜の花畑の中に展示されました。

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フィールドノオト15 京都2(畠中勝)

猟師、増山賢一氏による鹿猟二日目。猟でもパートナーを務める氏の奥さんとともに、今回は子どもたちも山へやってきた。もちろん猟をするわけではない。麓で猟犬の世話をアシストする心強い味方なのだ。猟を終え、獲物を捕らえた父のもとに子どもたちが駆け寄ってきた。子どもたちは生まれた頃から、父の獲った肉を食べ、それらの肉が好物にもなっている。成功を喜び合う親子。

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ペルソナのいる役所

ここは京都府庁広報課。パソコンに集中するスタッフを見おろすように、じっと動かない女性の上半身。彼女(マネキンのほう)の名前は人見知子(ひとみ・しりこ)。亀岡市に住む32歳の主婦。性格は協調性があるが人見知り。趣味はガーデニング、オークション・・なんだか不条理演劇の舞台みたいだが、これ、実は本気(マジ)。よりよい広報活動のための、新しい取り組みだ。もともとは職員のひとりが「自治体のウェブサイトを使いやすくするためのセミナー」に参加。そこで講師から紹介されたのが、「ペルソナ手法」という聞き慣れない単語だった。

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秘宝館の女

今年の3月、銀座ヴァニラ画廊で兵頭喜貴さんとギャラリー・トークをしたときのこと。「おもしろい女を連れて行きますから」と兵頭さんが言うので楽しみにしていたら、着物姿で、背中に見覚えのある秘宝館のチンマン・マークを背負った女性が現れた・・・「都築さん、これが北海道秘宝館のロウ人形を買った女ですよ」「えっ!」「奥村と申します、よろしくお願いしますぅ(微笑)」「こ、こちらこそ・・・」。奥村瑞恵(みずえ)さん、36歳。パートナーの菊地雄太さんとふたりで「特殊造形製作」という特殊な職業に従事しながら、秘宝館好きが嵩じて、ついに閉館した北海道秘宝館のロウ人形その他を買い取り。現在は自宅に安置、修復に励んでいるという恐ろしい情熱の持主である。ぜんぜん、そんなふうに見えないのに・・・。

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ROADSIDE MUSIC 三村京子

すごく不思議にブルージーな歌詞を、すごく深いブルージーな声で、すごくしっかりしたフォーク・ブルージーなギターに乗せて歌う、ぜんぜんブルージーじゃなくて可愛らしい容姿の女性アーティスト、三村京子。今週のロードサイド・ミュージックはここ4年近く活動を休止していた彼女が、友人の穂高亜希子とジョイントで4月1日に高円寺・円盤で開催したばかりのライブ音源をお届けする。早稲田大学在学中の2005年にファーストアルバム『三毛猫色の煙を吐いてあなたは暮らすけど 私は真夜中過ぎの月の青さのような味の珈琲を一杯』を発表、三村さんはいきなり注目を集め、2008年には『東京では少女歌手なんて』、2010年に3枚目の『みんなを屋根に』を発表後、活動を休止していた。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 18 プレイする人(ケイタタ)

今号のテーマは「プレイする人」。プレイといえどいろんなプレイがあるけれども、これはゲームをプレイする人です。それではご覧くださいませ。

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シャッター通りのポスター・ギャラリー 前編

シャッター商店街でアート・イベントを開いたり、若者を招いて「祭り」をやったりすれば、それはその期間だけはひとが集まるだろうが、終わればまた元のまま。それでは意味がないだろうと痛感したケイタタさんは、実は気鋭の広告マンでもある。そこで社内の若手たちに声をかけて、有志でプロジェクトを立ち上げたところ、予想を上回るリアクションを得て、現在も拡大続行中だ。そこでロードサイダーズ・ウィークリーでは今週・来週の2回にわけて、その楽しくも挑戦的なプロジェクトの全貌を、ケイタタさん本人から報告していただくことにした。

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移動祝祭車  ――沈昭良の『SINGERS & STAGES』

台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)の『STAGE』シリーズを最初に見たのは、2006年新宿のPLACE Mギャラリーだったと思う。1968年台南市生まれ、新聞社で働いたあとフリーの写真家となり、日本工学院で学んだ経歴もあって日本語は完璧。そして本人いわく「時代遅れのドキュメンタリー・フォトグラファー」である沈昭良は、台湾各地の庶民の暮らしに密着した写真を長いあいだ撮りつづけてきた。冠婚葬祭や催し物の場所で、荷台が開けばステージに変身する、「ステージ・トラック」を舞台として繰り広げられる移動ショー劇団。それを台湾では「台湾綜芸団(タイワニーズ・キャバレー)」と呼ぶそうだが、2010年ニコンサロンでの展覧会に続いて、2011年末に出版された彼の写真集『STAGE』については、本メルマガの2012年5月23日号(020)でも紹介している。

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情色情――タイワニーズ・エロチカ

沈昭良に続いて、今週はもうひとつ台湾から写真の話題をお伝えしたい。台北に親しんでいる旅行者なら、華山1914文創園区という場所をご存知だろうか。「台北の秋葉原」と呼ばれる光華商圏のそばにある華山1914文創園区は、もともと1914(大正3)年、日本の台湾統治時代に建設された清酒工場「芳醸社」が、戦後台湾の専売公社として清酒、梅酒の製造を行ってきたあと、1987年に閉鎖。長らく廃墟化していたところに、アーティストや演劇人たちが注目するようになって、活動場所として活用されるようになった。

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フィールドノオト16 伊豆熱海(畠中勝)

熱海へは数年ぶりにやってきた。夜明けに新宿を出発、そして今は10時過ぎ。今回は秘宝館の取材のためでデートでもなんでもないが、成り行き上、車内には自分を含め男が三人いる。徹夜の仕事だったことから、我々はとりあえず喫煙休憩を兼ね、僕の行きつけである日帰り温泉宿へ向かった。閑散とした熱海の中心街、そのさらに外れにあるこの宿は、より人気も少なく休憩所は無料で広々。入浴料も安いことから昔から定宿に指定している。湯に浸かりながらゆったり予定を考え、休憩所にあがってくると、ちょうど老人たちが一杯やりながら会話をしていた。というより江戸っ子らしき人物が一方的に喋っている。畳部屋に響くその声は妙な清涼感があった。

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シャッター通りのポスター・ギャラリー 後編

先週の誌上ポスター展「新世界市場編」に続いて、今週は「文の里商店街編」をお送りする。文の里商店街があるのは大阪市阿倍野区。最近は「あべのハルカス」の開業でちょっとだけ話題になったが、そのにぎわいはここ文の里商店街までは届いてこない、新世界市場に負けず劣らずの寂しい商店街だ。2013年秋、日下さんたちがこの文の里商店街を舞台に繰り広げたポスター・プロジェクトが、ネットはもちろんテレビ、新聞を始めとするさまざまなメディアに取り上げられて、本人たちの予想をはるかに超えるリアクションが広がった。日下さん自身も書いているように、「制作したポスターの23%が広告賞を受賞、キャンペーン全体も2つの賞を獲得、ぼくも佐治敬三賞という今年関西でもっとも活躍した広告マンに与えられるとても立派な賞をいただきました」という評価を得て、プロジェクトはいま全国のシャッター通りに広がろうとしている。今週はその全貌を、52店舗201作品におよぶ全作品とともに紹介しよう!

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紅包場――哀愁の歌謡空間を探して

「台北の原宿」として観光客にもおなじみの西門町(シーメンティン)をぶらぶら歩いていると、やたらケバい顔写真を壁一面に貼り込めた店頭に出くわすことがある。「紅包場(ホンバオツァン)」と呼ばれる台湾ならでは、いや台北ならではのユニークな娯楽施設だ。もともと西門町は日本統治時代初期に、浅草のような日本人向け繁華街としてつくられたエリアだった。ランドマークになっている赤レンガの西門紅楼は、当時の商店街だった建物である。それが第二次大戦後、蒋介石の中華民国・南京国民政府軍の台湾上陸とともに、こんどは大陸からやってきたひとびと(いわゆる外省人)のためのエンターテイメント・タウンになった。そこで地元台湾の歌ではなく、中国大陸の流行歌を聴きながら、外省人たちが故郷を懐かしむ場として生まれたのが、紅包場である。

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抗体――アントワーヌ・ダガタ

最初に見た瞬間――多くのひとがそう思うだろうが――これってカメラで描いたフランシス・ベーコンじゃないか!と僕も思った。ブレというのは写真家にとっていつも魅力的な要素だが、これだけシャープにブレをエネルギーの表現につなげている写真家って、いまいるだろうか。いま渋谷で開催されている『アントワーヌ・ダガタ 抗体(Anticorps)』は、今年もっとも重要な写真展のひとつになるはずだが、それにしてはメディアの無関心さが目立つ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 19 春(ケイタタ)

商店街ポスター展の記事、ちょっとマジメすぎたかも・・・熱が入りすぎてついつい長くなってしまいました。今回はケイタタに戻りまして「隙ある風景 ROADSIDERS’ remix」今回のテーマは「春」。さくらは春らしいのだけれども、以前の書いたものだからさくら以外の春の風景を。どうぞリラックスしてお楽しみください。

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案山子X 9:やまくにかかしワールド(大分)前編(ai7n)

2013年秋に7回目を迎えた「やまくにかかしワールド」という名称のかかし祭りは、大分県中津市山国町で開催されています。10月27日から約1ヶ月間、山国町の観光スポットや道の駅等16ヶ所の会場に、それぞれテーマの決まったかかしが展示されました。16ヶ所の会場は広範囲に散らばっており、撮影しながら原付で急いで見て回ったのですが全ての会場を回るのに5時間位かかりました。街中いたる所にいるかかしはざっと数えただけでも1200体以上!「かかしワールド」の名前に相応しい、国内最大級のかかし祭りです。

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極彩色のアーバン・パラダイス――台中に虹の村を訪ねて

台湾中部の台中は台北、高雄に続く台湾第3の都市。台北からも高雄からも高速鉄道で1時間足らず、人口百万人規模の大都市でありながら、どこかリラックスした雰囲気が漂い、一説によると台湾人が住みたい都市ナンバーワン。パイナップルケーキ、タピオカティー、泡沫紅茶など、観光客におなじみの台湾フレイバーも台中起源だというし、アジア最大規模の国立台湾美術館も、台北ではなくこちらにある。急ぎの台湾観光では北部の台北、南部の高雄・台南のあいだで飛ばされてしまいがちだが、台中は観光するにも、のんびりするにも最適。おすすめしたい場所はいろいろあるが・・・そのなかでまあ異色と言ったら、『虹爺爺の村』ほどカラフルに異色なスポットもほかにないだろう。

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fashion

祭りの街に生まれて

このメルマガで以前、山谷の男たちの肖像写真を発表してくれた(2012年6月13日号)「浅草&山谷のオフィシャル・カメラマン」多田裕美子さんが、今年は久しぶりに自分も半纏を着て祭りの写真を撮りに行ったというので、さっそく見せてもらった。毎年、あらゆるニュースに三社祭の映像は溢れかえるが、そのほとんどすべては、たくさんの神輿とたくさんの人間を撮っただけの、単なるスナップに過ぎない。でもさすがにこの地で生まれ育った彼女の眼とレンズは、外から来た報道カメラマン、アマチュア写真家とはまるで異なる、ずっと深くて親密で、ときに近寄りがたい場所を、表情をまっすぐ見ていて、背筋をシャンとさせられる思いだった。今週のロードサイダーズ・ウィークリーでは、2014年度の三社祭りを撮影した多田裕美子さんの写真を、彼女自身による文章とともにお送りする。

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フィールドノオト17『思い出の抜け道』(新宿)(畠中勝)

歌舞伎町の暗がりに無数に伸びる裏路地。その中のひとつに四畳半にも満たないバラック屋台やスナックが立ち並んだ通りがある。かつて中国人マフィアによる青龍刀事件でも知られたこの一帯は、数年前までは誰もが気軽に足を踏み入れることはできないような空気感があったが、その後、石原都知事が行った歌舞伎町浄化作戦によって、今ではカフェ風の店が増え、近隣のゴールデン街と同様、観光客も安心して入れるようになった。そんな知る人ぞ知る新宿の裏通りで、古くから赤提灯を灯してきたのがスナック『竹千代』。若い頃は、銀座の高級スナック店に勤務、ミスコンへも出場経験があるという女装ママ、竹千代さんが営んでいる。現在66歳。とてもそんな年齢には見えない美貌の持ち主だが、彼女がいうのできっとそうなのだろう。そして彼女の店を渾身にサポートをしているのが、今回、歌を披露してくれた将(まさる)さんだ。

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案山子X 10:やまくにかかしワールド(大分) 後編(ai7n)

2013年に大分県中津市山国町で開催された国内最大級のかかし祭り「やまくにかかしワールド」の後編をお送りします。今回は9~16までのポケット村、コアわらべ村、あかとんぼ広場、やすらぎ村、駅の直販村、犬王丸パーク、つや姫村、中摩殿の8ヶ所のかかしを紹介します。

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travel

花咲く男根の森

ソウル市のバスターミナルから、激走する高速バスに揺られること3時間半。ひなびた町の、ひなびたターミナルにバスは到着した。「三陟」と書いてサムチョクと読む。ソウル―プサンを結ぶ高速鉄道エリアから遠く外れた、朝鮮半島東側に位置する江原道(カンウォンド)の小さな町である。(中略)男根彫刻公園・・・これほど、このメルマガにふさわしい場所があるだろうか!(笑)美しい海岸線を見おろすシンナムの丘に、数百本もの大小さまざまな男根がニョキニョキしてるのは、この地に古くから伝わる奇妙な伝説のおかげだ・・・。

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fashion

新連載 ハダカのこころ、ハダカの眼

去年の夏、「アサクサ・コレクション」という一風変わった手作りの展覧会に参加した時のこと。『東京右半分』のプリントを壁に貼っていたら、となりのブースでモノクロのプリントを床にたくさん並べて、その真ん中にしゃがんでいたのが牧瀬茜さんだった。牧瀬茜(まきせ・あかね)は「1998年に船橋の若松劇場で初舞台を踏み、以降、日本各地に点在するストリップ劇場を10日ずつめぐりながら、行く先々のステージで踊り、そして裸で表現するという日々を送ってきました」(ブログより)というように、ストリップ・ファンなら知らぬもののないベテランであり、2012年に劇場から離れるまで、不動の人気を誇った舞姫でもあった。

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lifestyle

かなりピンボケ 04 さよならパーティー おやじの涙とフィリーピーナの涙、その意味はまるで違う(比嘉健二)

フィリピンパブのせつなくて滑稽なイベントとして、1)自分の誕生日、2)クリスマスパーティー、3)さよならパーティー、この3大イベントがあげられるが、なかでも「さよならパーティー」のおかしさ、悲しさ、むなしさはそこらへんの恋愛小説やドラマよりはるかに面白く、奥深い。ただ、残念ながらこの「さよならパーティー」は今ではあまりみられなくなってしまった。というのも2005年にタレントビザの規制が強化され、フィリピンからそれまで大量に来日していた、タレントの来日が厳しくなってしまったのだ。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 20 会話(ケイタタ)

今号のテーマは「会話」。会話自体がおもしろかったもの、会話の関係性がおもしろかったものを集めました。長い会話も中にはあるのですが、なかなか奇妙なのでぜひともおつきあいください。それではいってみましょう。

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カーブサイドの誘惑

「なかなかない珍しいもの」よりも、「ありすぎて見えないもの」や「ありふれてバカにされているもの」に目を向けていきたいという思いが高まったのは、いまから十数年前のことで、それはやはり珍日本紀行で日本の田舎を何年間も走り回った影響だったのかもしれないが、その思いが募って出版にこぎつけたのが『ストリート・デザイン・ファイル』という、全20巻のデザイン・ブックだった。20巻の中にはラブホテル、大阪万博、暴走族の単車、デコトラ、メキシコのプロレス仮面、中国の文革グッズなど、世界各地でバカにされていた日常のデザインが詰め込まれていたが、そのなかでもひときわ、現地のインテリに徹頭徹尾バカにされていて、個人的には大好きな一冊に仕上がったのが『The German Soul 小人の国』という、ドイツの庶民に絶大な人気を持つ焼物の小人たち――白雪姫と七人の小人の、あの森の小人――を探し歩いた写真集だった。

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場末の楼閣  ――ソウル風物市場に遊ぶ

先週は三陟(サムチョク)の男根彫刻公園を紹介したが、今週はその帰りに一日遊んだソウルでのお話を。ソウルとはもともと8つの門を持つ城郭都市だったそうだが、そのうち南大門と東大門は観光客にもよく知られた存在だろう。東大門には2007年まで東大門運動場という古びたスタジアムがあって、周囲を屋台がごちゃごちゃと囲んでいた。そのうらぶれた雰囲気が好きで歩き回った日々が懐かしいが、取り壊された東大門運動場の跡地は見るからにクリーンな「東大門歴史文化公園」に生まれ変わり、中心にそびえる未来的な建築「東大門デザインプラザ(DDP)」を設計したのが、いま国立競技場問題で話題のザハ・ハディドだ。東大門運動場にはサッカー場と野球場があったが、取り壊しまでの数年間、駐車場になっていたサッカー場では「風物蚤の市」なる、巨大なフリーマーケットが店開きしていた。

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ROADSIDE MUSIC tamamix

気合いを込めて、というよりも肩の力の抜けた演奏のほうが似合う楽器、というのは世の中にあまりなくて、ウクレレはそういう珍しい楽器だ。そこが歌うことに似ていたりもする。ジェイク・シマブクロみたいな超絶技巧もいいけれど、リラックスしたウクレレと、リラックスした歌。これほど相性のいいマッチングって、なかなかない。そういうリラックスの境地に遊べるひとは、自分の生活もリラックスできてるんだろうな~と思わせるイメージがあって、目の前のステージでウクレレをポロンポロンしながら「おれのあん娘はタバコが好きで いつもプカプカプカ~」なんて気持ちよさそうに歌ってる彼女は、まさしくそんな良性の脱力感を全身から漂わせているのだが、しかし曲と曲間のトークでは「とんでもない年上男との恋」とか、「悲惨なバイト生活」とか「野良犬との山小屋生活」とか「不倫で奥さんに乗り込まれ」とか、とうていリラックスできない逸話がさらりと披露されて、彼女の奏でる音楽と、見た目と、語られる人生のあまりのギャップに引きずり込まれて・・・気がつけばトリコになっている。tamamix(タマミックス)とはそういう、可愛らしい顔した魔性のミュージシャンだ。

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フィールドノオト 18 佐世保(畠中勝)

修学旅行や家族旅行で何度か連れられてきた長崎。大人になって来るのはこれが初めてだ。滞在中はいろんな場面で地元の方々に親切にしてもらった。貿易史で重要な役割を果たした長崎港。その国際的な文化交流の歴史は、やってくる観光客たちに対しての寛容さを生み出し、住民たちの心に余裕を育んだのかもしれない。とにかく魅力的な街だった。ところで、この旅は五島列島にある離島が目的地になっている。本数の少ないフェリーを乗り継ぐ必要があるため、まずは佐世保に滞在した。離島での収録音は、次回に続き、まずはいくつか収録した佐世保のフィールドレコーディングを紹介したいと思う。佐世保駅前に横切る35号線を登り、その路地裏を散策。偶然、通りかかった幼稚園や市場近くの神社、佐世保港、旅の帰りに立ち寄った小値賀島ののどかな漁村などだ。

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ケチャップとカレー粉の海に溺れて――ベルリン・カリーブルスト食い倒れ旅

まだベルリンが東西に分断されていたあの時代、廃墟のようなクロイツベルクの片隅で、ドラム缶を叩き壊すようなインダストリアル・ミュージックを奏でていたアインシュトゥルツェンデ・ノイバウテン。寒さに凍えながら、ビートに浸っていた黒革の男たち、女たち。深夜の街を、だれもがスーパーのビニール袋にわずかな持ち物を入れて、どこまでも歩いて行くのだったが、そういう夜にからだを温めてくれたオアシスが「インビス」と呼ばれる屋台で、そこではコーラを飲みながら(屋台には酒の販売許可がなかったので)、輪切りにしたソーセージをケチャップとカレー粉をまぜたソースに浸して食べた。「カリーブルスト」との、それが最初の出会いだった。

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時をかけるアーティスト

滋賀県近江八幡に残る昭和初期の町家をそのまま使ったアウトサイダー・アート・ミュージアムNO-MA(正式名称はボーダレス・アートミュージアムNO-MA)。本メルマガでも前回の『アール・ブリュット☆アート☆日本』を含め何度か紹介しているが、2004年の開館以来、今年が10周年にあたるという。日本におけるアウトサイダー・アート展示施設として、草分けのミュージアムである。そのNO-MAで今月27日まで開催されているのが、『Timeless 感覚は時を越えて』と題されたグループ展。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 21 モノ(ケイタタ)

今回のテーマは『モノ』です。人だけでなくただのモノでも人の手が加わるとやはりそこには隙が生じる。そんな人の手で隙ができてしまったモノたちをどうぞご覧ください。

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ROADSIDE BOOKS――書評2006-2014

ちょうど今週から書店に『ROADSIDEBOOKS』が並ぶ。昨年末の『独居老人スタイル』に続く、2014年最初の新刊である。「書評2006-2014」というサブタイトルのとおり、これは僕にとって『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』(2008年)に続く、2冊めの書評集。ほぼ80冊分の書評というか、リポートが収められていて、巻末にはこれまで出してきた自分の本の(編集を担当した作品集などは除く)、ごく短い解題もつけてみた。装丁を見てピンとくる方もいらっしゃるだろうが、今年3月5日配信号で紹介した浜松のBOOKS&PRINTSで、独自の手描きショッピングバッグをつくっている若木欣也さんの作品を、カバーに使わせてもらっている。

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ゴミの果てへの旅――村崎百郎館を訪ねて

村崎百郎が亡くなってもうすぐ4年になる。ファンだったという青年に刺殺されたのが2010年7月23日。そして長い準備期間を経て先月末、伊豆高原の『怪しい秘密基地 まぼろし博覧会』内に『村崎百郎館』がようやくオープンした。手がけたのは生前、公私にわたるパートナーだった漫画家の森園みるくと、本メルマガ2013年5月15日号で紹介したユニークな古物商/アーティストであるマンタム、そして多くの友人、ボランティアたちである。2011年の開館以来、珍スポット・ファンにはすでにおなじみとなっている『まぼろし博覧会』。もともとは『伊豆グリーンパーク』という熱帯植物園で、2001年ごろに閉館、放置されていたのを、出版社データハウスの総帥・鵜野義嗣が買い取って、コレクションを展示する場としてオープンさせた巨大施設だ。

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捨てられしもの、捨てられしひと

すでに何度もNHKで番組が再放送されて、いまやその名もすっかり全国区になった広島市の「清掃員画家・ガタロ」。このメルマガでも2013年8月7日号で特集、大きな反響をいただいた。ほんの1年ちょっと前までは、団地の商店街を毎朝掃除しているだけの、だれにも見えない老人だったのが、あっというまにこれほどひとびとのこころを動かすことになるとは、当の本人がいちばん驚いていることだろう。(中略)ガタロさんには『素描集 清掃の具』という自費出版画集があり、これは長らく入手困難だったのが現在は再版されているが、6月末にNHK出版から『ガタロ 捨てられしものを描き続けて』と題した、初の本格的な画集がリリースされた。著者はガタロさんの「発見者」とも言える、当時NHK広島放送局勤務だったディレクターの中間英敏さん。僕も短い文章を巻頭に寄せさせてもらっている。

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案山子X 11:筑前町ど~んとかがし祭(福岡)/道の駅うきは かかしコンクール(福岡)(ai7n)

こんにちは。ai7n(アイン)です。今回は福岡県朝倉郡筑前町の「筑前町ど~んとかがし祭」と、福岡県うきは市浮羽町「道の駅うきは かかしコンクール」を紹介します。「筑前町ど~んとかがし祭」が開催される筑前町は福岡県の中南部にあり、福岡市の南東約25km、久留米市の北東約20kmの場所に位置します。2005年に旧三輪町と旧夜須町の合併により筑前町が誕生し、旧三輪町の"どんと祭り"と旧夜須町の"かがし祭り"がひとつになった一大イベントが、この「ど~んとかがし祭り」です。会場である安の里公園はコスモスの名所として知られ、公園の周りに100万本のコスモスが咲き乱れる中祭りが開催されました。

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フィールドノオト 19 野崎島(畠中勝)

長崎に広がる東シナ海。ここには大小合わせ1000近くもの島々があり、有人島はわずか73島。江戸中期に幕府の弾圧から逃れてきたキリシタンの村や教会が、今もひっそりと点在する。これらの島は当時からの信仰の聖地であったため、現在でもこの海域を行き交いするフェリーのデッキでは、島に向かって合掌する人々の姿が見られる。産業化していく四国の島々とは対照的に、ここでは地域の文化的理由で手つかずの島も多いようだ。中には廃村した島もある。そこでは、野生の動植物が群生し、放棄された家屋も、もはや自然に還るかのように草木や苔に飲まれ始めていた。

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ROADSIDE MUSIC こだま和文

去年7月にインターFM『ROADSIDE RADIO』で放送、メルマガでも紹介した日本ダブ界の最重鎮・こだま和文。今年が「ダブ生活30周年」!だそうで、記念のロングインタビュー集『いつの日かダブトランぺッターと呼ばれるようになった』が刊行されることになりました。こだまさんは音楽もさることながら、エッセイもすごく独特な味があって、さらりとしているようで熱くもあり、脱力しているようで硬派でもあり、音楽と同じく重層的な魅力があります。新刊発売を記念して、今週は去年7月7日にラジオで放送したライブの、前半後半あわせて2時間にわたるステージを、ノーカット完全版で配信します! メルマガでの解説も再掲載しておきますので、爆音で和風ダブの音塊に浸りながら、読んでいただけたらうれしいです!

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踊る東北御殿――股旅舞踊全国大会・見聞記

海があり、港があり、カモメが飛んで、霧笛が響く・・・船と港が外国に直結する唯一の場所だったころ、日本人のこころを捉えたのが「マドロス」というロマンチシズムだった。マドロス=オランダ語で「船乗り」を意味する言葉が、『憧れのハワイ航路』から『玄海ブルース』、『ひばりのマドロスさん』まで、無数の「マドロス歌謡」を生んで、消えていった。義理と人情の板挟みになりながら、道中合羽と三度笠に憂いを隠し、旅人(たびにん)として流れ流れて・・・「股旅」というキャラクターもまた、戦前から戦後にかけて日本人のこころを激しく揺さぶった、時期もメンタリティもマドロスと奇妙に重なるロマンチシズムのあらわれである。そして股旅は氷川きよしという稀有な歌手によって、この時代に奇跡的に甦ったものの、歌手本人の魅力を超えて「股旅」というロマンが復活したかといえば、そうではない。

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オリンピック・デザイン・バトル

書きたい!という思いと、いろいろめんどくさいな~という躊躇で迷っていた新国立競技場問題について、今週は書かせていただく。ツイッターやFacebookのおびただしい書き込みからも察せられるように、この問題については賛成・反対、いろいろな考えのひとがいるだろう。あくまでも僕個人の心情、というていどに受け取っていただけたらうれしい。2020年の東京オリンピックに向けて、国立競技場の建て替えが決定し、デザイン・コンクールで優勝したイギリスの建築家ザハ・ハディドの案が公表されると、槇文彦、伊東豊雄など国内の建築家を中心に激しい反論が提起され、そこに建て替え反対の市民運動も加わって、ザハ案発表から1年半以上たったいまも、波乱含みの様相を呈しているのは、東京在住のみなさまならご存知だろう(しかし東京以外の地方ではどれくらい話題になっているのだろうか)。

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ニューヨーク80年代を新潟で!

夏・・・野外フェスの季節だ。第1回フジロック・フェスが開催された1997年もいまや遠い昔。数えきれないほどの野外フェスが開かれ、「高い洋服は買わないけど、アウトドア用品にはカネを惜しまない」若者がこれほど増えると、当時だれが予測しえたろうか。今年もこのメルマガで紹介したいフェスはいろいろありすぎて困ってしまうが、個人的に推したいのが新潟県津南で今月19~21日の3日間にわたって開かれる『rural 2014』。国内外から多数のミュージシャンが参加予定だが、中でも注目すべきが『IKE YARD / BLACK RAIN』という、メンバーの重なるふたつのユニットである。

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新宿2丁目にカッサドールがあったころ

会期終了直前のお知らせになって恐縮だが、西新宿でいま開催中の小さな写真展について、どうしても書いておきたい。『 ‘Cazador’ KURAMATA Shiro / TAKAMATSU Jiro Photographed by FUJITSUKA Mitsumasa』と題されたこの展覧会は、新宿2丁目にかつて存在していたサパークラブ『Cazador カッサドール』を記録した写真展である。カッサドールはデザインを倉俣史朗、壁画を高松次郎が手がけ、今回展示されるプロセスと竣工写真は藤塚光政によって撮影された。

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濾過された記憶――ヨコハマトリエンナーレ2014と大竹伸朗

『ヨコハマトリエンナーレ2014』がいよいよ8月1日からスタートする。「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」と題された今回の「横トリ」は、アーティスティック・ディレクターに森村泰昌を迎え、65組の作家が参加するという。すでに週末の予定に組み込んでいるひともいらっしゃるだろう。横トリの第1回で、僕は鳥羽秘宝館の一部を再現展示したのだったが、あれが2001年だから、すでに13年前・・・。今回は今年5月21日配信号の記事『移動祝祭車』で紹介した、やなぎみわによる台湾製ステージ・トレーラーなど、本メルマガ好み(笑)の作品がいろいろ見れそうで楽しみだが、まずは直前レビューとして、参加作家のひとりである大竹伸朗の新作『網膜屋/記憶濾過小屋(Retinamnesia Filtration shed)』を紹介しよう。

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岐阜の小京都にニッポンの安心感を見た!――全日本食品サンプルあーとグランプリin郡上

そろそろ夏休み本番が近づき、準備に余念のないみなさま、いまだノー・アイデアのみなさま、まったく休みの取れないみなさま・・・悲喜こもごもの日々でありましょうか。今週は夏休みに向けた旅特集。しかし北海道だの沖縄だの国内メジャー・デスティネーションの陰で、ほとんど候補に上らないと思われる(失礼!)、中部地区の岐阜県郡上市、関市、愛知県蒲郡市という3地点を取り上げる。こんな夏休み特集、このメルマガだけだろうなあ・・・。それではまず、岐阜県中部の小京都・郡上八幡から。

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ツチノコも口裂け女も、みんな岐阜から生まれた!――『奇なるものへの挑戦』@岐阜県博物館

名古屋と郡上八幡のちょうど中間あたりにあるのが関市。「関の孫六」の名を知るひとも多かろう、鎌倉時代に遡る700余年の歴史を持つ、日本どころか世界有数の刃物生産地である。が、しかし! 郡上よりもずっと名古屋に近いにもかかわらず、自動車以外ではかなり不便なアクセス。その不便な関市のさらに町はずれの広大な岐阜百年公園内という、おそらく全国有数のアクセス難易度を誇る県立博物館、それが岐阜県博物館である。ちなみに公共交通機関を使って名古屋から行こうとすると、名古屋駅からJR岐阜駅まで約20分、そこから岐阜バスで小屋名まで38分。さらに徒歩15分で百年公園北口に到着、さらに徒歩7分でようやく博物館に辿り着く。

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私のアタマは貝の殻・・・――復活! 竹島ファンタジー館

郡上八幡、関と岐阜の要注目イベントふたつを紹介してきたが、県外からの多くの訪問者にとって、旅の起点は名古屋になると思われる。名古屋にはもちろん夜を含めて重点スポットが数多いが、今回はあえて尾張名古屋を素通り、一路南下して三河蒲郡に足を伸ばしていただきたい。長らく珍スポット・マニアたちに愛されながら、2010年秋から長期休館していた蒲郡ファンタジー館が、なんと「竹島ファンタジー館」となって再開、この8月2日にグランドオープンを迎えたのだ。ちなみに竹島とは、蒲郡の本土と橋で結ばれた、三河湾に浮かぶ小さな島。島全体が国の天然記念物であり、対岸の竹島水族館とともに、渋好みツーリストに親しまれてきた観光地である。

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隙ある風景 ROADSIDERS' remix 23 フランス 後編(ケイタタ)

前回に続き、今回もフランス篇です。前回同様長いのですがおつきあいくださいませ。それではいってみましょう。Aller!隙アレ!

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フィールドノオト21 あきる野市(畠中勝)

都心から一時間ほど電車を乗り継ぐと、都内有数の水田地帯、秋留台地へたどり着く。田園風景は地方に浮かべるイメージのひとつだが、実際は、地方においても都市化の影に、こういった風景も珍しくなっている。田舎っぽい田舎、日本らしい日本、そういったイメージは、この国では歴史とともに様変わりしていく。水田は横田基地に近いため、低空飛行していく軍用機を五分おきに見た。静寂な夜の田んぼに地鳴りのように轟く重低音は、自然愛好家が聴き惚れる、心安らぐサウンドイメージとはほど遠いものがあるだろう。囀るものを掻き消す風景、異質なものによって作られていく未知の風景。これらはまぎれもない今の日本の風景であり、サウンドスケープでもある。

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超老花壇

去年春の『極限芸術~死刑囚の表現~』展、今年春の『ヤンキー人類学』でもおなじみ、広島県福山市の鞆の津ミュージアム。そもそも地元福山で、知的障害者のための施設を運営する団体が2012年に開いたアウトサイダー・アート・ミュージアムだが、最近ではこのミュージアム自体が美術業界のアウトサイダー・アート化している気が・・・。というわけで他の美術メディアはいざしらず、本メルマガでは何度も取り上げている鞆の津ミュージアムで、今週土曜日(16日)から始まる、またもエクストリームな展覧会が『花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~』。読んで字のごとく(笑)、己の信ずるままに孤独な創作活動を続けてきた老人たちを集めた、いわばアウトサイダー・アート界のお達者クラブ・ミーティングだ。最年少(!)の蛭子能収(67歳)から、最年長のダダカン(94歳)まで、12人の有名・無名作家たちが選ばれ、それぞれ辿り着いた極点を僕らに見せてくれる。

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5000人の花嫁花婿――統一教会・合同結婚式写真集

「統一教会」という言葉に、みなさんはどんなイメージを想起するだろう。原理研究会、霊感商法、マインドコントロール・・・いかがわしい新宗教の代表的存在、という受け止め方がほとんどではないか。1992年に桜田淳子が合同結婚式に参加したことから、一時はかなりマスコミを賑わわせたが、このところほとんど目にすることはなかった。おととし2012年には教祖の文鮮明が亡くなっているのだが、それもたいして報道されずに終わった気がする。そのいっぽうで最近、書店には並ばないかたちで2冊の「統一教会写真集」が、実は東京の出版社から発行されているのをご存知だろうか。ひとつは2012年9月15日に執り行われた文鮮明の葬儀の模様を収めた『慟哭』(写真:酒井透、大洋図書刊、2013年)であり、今回紹介するもう一冊がこの7月に出版されたばかりの『WORLD WIDE WEDDING』。こちらは今年2月に挙行された合同結婚式の模様を、ふたりのカメラマンが捉えたA4版上製本の豪華写真集だ。

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直島の超絶スクラップ・アーティスト!

単行本に未収録の原稿をサルベージする「アーカイブ」コーナー。前にやったのはいつだったか忘れちゃうぐらい久しぶりですが、夏休み直前ということで今週は、2009年8月にこのメルマガの前に書いていたブログで紹介した、直島の小さな文房具屋の話をお送りします。ご主人の村尾さんは、2009年ですでに80歳だったので、いまごろはもうすぐ85歳になるはず。しばらくお会いしていないので、お元気だといいのですが。この休みに直島行きを計画している方は、ぜひ覗いてみてください。フェリー乗り場からも、『直島銭湯 I♥湯』からも歩いてすぐですから!

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art

鎮魂の光束――池田亮司『SPECTRA LONDON』

開戦百周年となる今年はヨーロッパ各地で無数のイベントが開かれている。イギリスでは開戦時の外務大臣だったエドワード・グレイ子爵の有名な言葉――「灯火がいま、ヨーロッパのあらゆる場所で消えようとしている。我らの生あるうちに、その灯火をふたたび見ることはかなわないであろう」――をもとに、イギリス全土で8月4日の夜10時から11時までの1時間、家やオフィスや店の明かりをひとつだけ残してすべて消そうという『LIGHTS OUT』なるプロジェクトがあり、それにあわせて4人のアーティストがロンドンでインスタレーションを展開。そのなかでもっとも話題を集めたのが、池田亮司による『SPECTRA』だった。

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fashion

百年の時装――世界のファッション展@神戸ファッション美術館

久しぶりに会った神戸の友人に、「きのうファッション美術館に行って・・」と話したら、「へ?」と怪訝そうなので、「ほら、六甲アイランドの」と言うと、「あ~、埋立地んとこにあるやつでしょ、遠いよ~」。遠くねえよ! 三宮から20分かそこらだよ。でも、神戸のおしゃれピープルたちは行かない。ナニワのファッショニスタ(笑)たちも、カフェめぐりで忙しくて行かない。CNNで「世界の十大ファッション・ミュージアム」に選ばれたほどなのに。間違いなく、日本最強のファッション・ミュージアムなのに。そういう不遇な神戸ファッション美術館でいま、『世界のファッション―100年前の写真と衣装は語る―』という、タイトルは地味だが要注目の展覧会が開催中だ(10月7日まで)。

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art

異形の王国――開封! 安田興行社大見世物展

絶滅危惧というよりも、もはや臨終の瞬間を迎えつつある、しかもこれまでほとんど語られることのなかった昭和のストリート・カルチャー、それが見世物芸だ。そしてきのう(8月26日)からわずか12日間だけ、かつて祭りの場に輝いた見世物小屋の、息苦しくも妖しく美しい世界のカケラが銀座の地下空間に甦っている。ヴァニラ画廊でスタートしたばかりの『開封! 安田興行社大見世物展』である。「最後の見世物芸人」と言われる安田里美を追い続け、唯一の評伝である『見世物稼業――安田里美一代記』(新宿書房刊、2000年)の著者でもある鵜飼正樹さんによって、この展覧会は監修され、僕も少しだけお手伝いさせてもらった。

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lifestyle

老遊女 02 3億円の宝くじ当選を夢見る、恋する老遊女 前編(文:中山美里 写真:谷口雅彦)

「ちょっと、この話、聞いてもらえます? ペナルティが20万円、発生しちゃったんですよ……」前回の記事を書くにあたって、最年長AV女優の黒崎さんにインタビューを申し込んだ。その際、プロダクションのマネージャーから、ある女性をインタビューしてくれないかと逆にお願いをされた。その女性は沢村みきさん。昭和23年生まれ、65歳の女性である。沢村さんに、とあるAVメーカーから仕事の依頼が入ったのだが、撮影日の当日、現場に向かう途中の道端で具合が悪くなって、沢村さんが倒れてしまったのだという。

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art

コンセプトの海の彼方に――大竹伸朗と歩いたヨコハマトリエンナーレ

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が8月1日から開催中だ(11月3日まで)。本メルマガではオープン直前の7月23日配信号で、大竹伸朗の新作を中心に紹介した。すでに会場でご覧になったかたもいらっしゃるだろう。(中略)トリエンナーレ開始直後、レコーダー片手に大竹くんとふたりで会場を回ったウォーキングツアー・リポートを今週はお伝えしてみたい。当然ながら客観的なガイドではないし、僕らが思うベストなんとか、ですらない。ぶらぶらと歩き回りながら目に留まった作品、こころに引っかかった作家についての雑談の記録にすぎない。はなはだ不完全なガイドではあるけれど、僕らふたりと一緒に会場を歩いているような気分になってもらえたら、そして展覧会に行きたくなってムズムズしてくれたら、それだけでうれしい。

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photography

新宿砂漠

渡辺眸(わたなべ・ひとみ)という写真家をご存知だろうか。1942年東京生まれ。70年代からインド、ネパールへの度重なる旅を記録した、数冊の写真集で知られるようになったベテラン・フォトジャーナリストだが、ちょっとちがうジャンルで脚光を浴びたのが2007年に新潮社から発売された『東大全共闘1968-1969』だった。あの安田講堂がバリケード封鎖されていたとき、たまたま友達の彼が東大全共闘代表の山本義隆だったことで、着替えを届けに行く彼女についていき、そのままバリケード内に籠城。外側からの報道写真ではなくバリケードの中から、闘争の内側からの唯一の記録が、渡辺さんによって撮影されることになった。その渡辺眸さんが当時撮影した、こちらは新宿の街頭の記録『1968新宿』がこのほど発売(街から舎刊)、いま新宿ニコンサロンで展覧会を開催中だ(8日まで、このあと大阪に巡回)。

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art

ハッシュタグが広げるアートスケープ——#BCTIONの廃ビル・アート・プロジェクト

2012年10月3日号『黄昏どきの路上幻視者』で紹介して以来、折にふれて連絡を取り合っている仙台のグラフィティ・アーティストSYUNOVENから、久しぶりにメールが来た——「先週東京に行ってて、麹町のビルの中に絵を描いてたんですよ」。ふーん、いいじゃない・・・って、ええーっ! 麹町って、僕が住んでるとこなんですけど。で、詳しく場所を聞いたら、家から歩いて2、3分のとこなんですけど。(中略)BCTION(ビクション)と名づけられたそのプロジェクトは、取り壊しを待つ9階建てのオフィスビル全館を使って、およそ80組のアーティストが自由にペインティングやインスタレーションを展開する、期間限定のアート・イベントだ。各フロア約116坪というたっぷりしたスペースに、さまざまなアートワークが展開し、観客はエレベーターや階段でフロアからフロアへと自由に歩き回り、作品を鑑賞できる。

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design

空飛ぶ絨毯の絵師

子供のころは分厚い時刻表の鉄道地図を見るのが大好きで、オトナになると道路地図を見ながらクルマでさまよう生活になって、それがいつのまにかカーナビやグーグルマップにすっかり頼り切りになって、地図を見るという機会すら失われつつ今日このごろ。名古屋駅に貼ってあったチラシにひかれて、時間潰しのつもりで立ち寄った名古屋市博物館の特別展『NIPPONパノラマ紀行〜吉田初三郎のえがいた大正・昭和〜』には、ひさしぶりにウズウズさせられた。名古屋エリアには美術館もいくつかあるけれど、尾張の歴史資料を展示する名古屋市博物館は、その性格からしても、地下鉄桜山駅という中心部からちょっと離れたロケーションからしても、かなり地味な印象のミュージアム。地元ですら、学校の課外授業ぐらいでしか行ったことないというひとが多いかもしれない。その目立たないミュージアムで、目立たないまま7月末から展示が始まり、今月15日(月・祝)に終わってしまう今回の展覧会。実は大変興味深い「ジャパン・オリジナル」のグラフィック・デザイン展である。

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photography

モノクロームの伝説

日本海に面した鳥取県の小さな町・赤崎(現・琴浦町)。8月20日配信号の編集後記で、海に面して約2万の墓が並ぶ花見潟墓地の幻想的なお盆の風景を紹介したばかり。その赤崎を訪れた目的が、今年4月末に開館した『塩谷定好写真記念館』だった。鳥取で写真、となると自動的に植田正治の名前が出てくる。植田正治はすでに米子近くの伯耆町に立派な美術館があり、訪れたことのあるひとも多いだろう。一般にはあまり馴染みのない名前かもしれないが、塩谷定好(しおたに・ていこう)は「植田正治の先輩」として山陰の写真界では古くから知られてきた、伝説のアマチュア写真家である。

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book

失われたドイツを探して

もう十数年前に、たぶん彼女が東北大学に留学して日本美術史を学んでいたころだったと思うが、ミヒャエラ・フィーザーというドイツ人が訪ねてきたことがあった。珍日本ネタで話が盛り上がり、彼女からはドイツのロードサイド・スポットをいろいろ教えてもらい仲良くなって、そのうち彼女は九州のお寺で1年間を過ごすことになり、帰国してからその体験を『ブッダとお茶を——日本の寺院で過ごした1年』という本にまとめて、それはドイツでベストセラーになった。この春、ベルリンで久しぶりにミヒャエラと会ったら、「最近こういう本を出したの」と、立派なハードカバーの写真集を渡された。『ALTES HANDWERK』——英語だと「OLD HANDCRAFT」ということになる、これは失われた手仕事、仕事場、職業の姿を捉えた写真集なのだ。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む —— ナジャの教え 01

尼崎・塚口に関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかも旧来の気取ったフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがう、「とんでもなくすごい店」があると聞いたのは、つい最近のことだった。なんの変哲もない、目印は「となりがコンビニ」というくらいの、地味なロケーション。すぐ向かいの女子大の学生たちもただ通り過ぎるだけ、派手なオーラのひとつもない店構え。しかしここは夜毎、大阪の中心で新感覚のワインバーを持つ若手ソムリエやシェフから、東京から「ここで飲み食いするために」わざわざ足を運ぶ熱心なファンまでが足を運び、深夜まで椅子の空くことがない。といっても店内の半分はうずたかく積まれたワインのケースで占められてしまって、満席でも20人くらいしか入れないのだが。その店の名は「Nadja(ナジャ)」。シュールレアリスト、アンドレ・ブルトンの記念碑的な小説から名前をとった、その店のオーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米澤伸介さんだ。

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art

AKITA HEART MOTHER——東北おかんアート・オデッセイ

告知でもお知らせしてきたように、ただいま「大館・北秋田芸術祭2014」の一環として、鷹巣駅前の空家を使っておかんアート写真&作品展を開催中だ(11月3日まで)。しかし最寄りの大館能代空港は、ANA便が毎日2本のみの競争ゼロ・高値安定。しかも大館〜北秋田間の数カ所に散らばる展示は鉄道、バスなどの公共機関が限られているため、レンタカー以外で短時間で周回するのがかなり困難。というわけでアクセスに難ありで諦めかけているかたも多いと思われるので、今週は誌上展覧会を街歩きスナップとともにお届けしたい。

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travel

だれもいないミュージアム

現代美術業界で最大の商談会であるアート・バーゼルに呼ばれることは一生ないだろうけど、「CULTURE SCAPES」という毎年ひとつの国をテーマにして展覧会やイベントをしているプロジェクトがバーゼルでは開催されていて、今年は「TOKIO」。文楽あり、和太鼓あり、茶の湯・生花あり、チェルフィッチュや池田亮司という、むしろ海外で活躍が目立つ日本人アーティストあり。そういうなかで、なぜか声がかかって写真展を開くことになった。ウクライナ人のキュレイターが選んだのは、ラブホテルにホストクラブ、着倒れ方丈記、インディーズ演歌歌手・・・と、かなりスイスっぽくない(笑)イメージ。100年前に建てられた銀行を改造し、カフェやシェアオフィス、スタジオとして機能する「mitte」という場所の、広々としたカフェ空間の天井から20枚以上の大きなプリントが、ものすごい違和感とともにぶら下がることになった。

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music

歌うマトリョーシカ——マンダリン・エレクトロンの挑戦

何百、何千の市民がラッパを吹きまくりながら街なかを行進する「浜松まつり」を、今年7月のロードサイダーズ・ウィークリーでは2週にわたって紹介した。「音楽のまち」をウリにしながら、行政からは完全に無視されつつ、しかしストリートでは異様な盛り上がりを見せるそのありさまに、音楽の持つちからをあらためて実感させられたが、浜松にはもうひとつ、以前から取り上げてみたかった音楽シーンがあった。日本に数少ないテルミン奏者・竹内正実ひきいる「マンダリン・エレクトロン」である。

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lifestyle

酒と注射針と精液の街で

「セックス、ドラッグ&ロックンロール」という言葉がいまだ有効であるならば、それが世界でもっとも似合う場所はニューヨークでもLAでもロンドンでもなく、ハンブルクであるにちがいない。ベルリンに次ぐドイツ第2の都市であり、ドイツ最大の港を持ち、『ツァイト』『シュピーゲル』『シュテルン』なども本社を構えるメディアの中心であり、人口あたりの資産家の割合がいちばん高い、ドイツでもっとも裕福な都市であるハンブルク。そして市内ザンクトパウリ地区にあるレーパーバーンは、ヨーロッパ最大の歓楽街でもある。歌舞伎町を3倍ぐらいに引き伸ばして、もっとあからさまな売春と、庶民の暮らしをぐちゃぐちゃに混ぜ込んだ、他にほとんど類を見ない、朝から翌朝まで酔っ払ってる街。それがレーパーバーンだ。

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photography

ポルノ映画館の片隅で——エンヴァー・ハーシュのレーパーバーン

今年6月18日配信号で、『カーブサイドの誘惑』と題した記事をお送りした。それはバンコクの路上で見つけた、壊れてパイプだけになった椅子とか、ビールケースに棒を挿しただけの「駐車禁止」サインとか、「美」や「伝統」のカケラもない、しかしある種の美しさにあふれたオブジェのコレクションだった。それを撮ったのがハンブルク在住のエンヴァー・ハーシュという写真家だ。1969年ハンブルク生まれ、イギリスのアートスクールで学んだあと、ずっとハンブルクを拠点に活動を続けている、生粋のハンブルクっ子であるエンヴァーは、学生のころからもちろんレーパーバーンに出入りしていて、「クラブとかライブハウスとか、ビール飲んだりとか・・・とにかくよく来てたよ」。

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photography

浅草スモーキン・ブギ

先月末から2回にわたって「浅草サンバカーニバル」をリポートしてくれた、浅草のオフィシャル・フォトグラファー多田裕美子さん。本場リオとはまたちがう、ガラパゴス的進化を遂げつつあるカーニバルの実態に、びっくりしたひとも多いのでは。その多田さんが、「タバコを吸うひと」をテーマに撮りためた写真展を、やっぱり浅草で開くことになった。僕の住んでいる東京千代田区では、もう路上でタバコを吸っただけで罰せられるようになったくらい、いまや喫煙者は社会の害悪あつかいだ。そう考えるとタバコを吸うひとたちもまた、いつか消えゆくマイノリティなのかもしれない。タバコの煙のように・・・。

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lifestyle

レーパーバーンで『カンパイ』2

「ヨーロッパの歌舞伎町」ハンブルク・レーパーバーンで今夜も、酔っぱらいドイツ人相手に店を開く寿司屋「KAMPAI」。こころ優しき大将・榎本五郎(通称「エノさん」)のドイツ人生劇場、今週は疾風怒濤編! お待たせしました!

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photography

金子山の風景

大手出版社が軒並み出展する東京国際ブックフェアが年々先細りで、自費出版・ジンが中心の東京アートブックフェアが年々拡大中という、わかりやすい変化のただ中にある日本の出版界。僕のところにも毎月いろいろな自費出版のお知らせが来て、うれしくもあり焦りもしという状態だ。今週は対照的な、でもどちらも熱い2冊の手作り写真集を紹介する。まずお見せするのは「金子山」という、いちど聞いたら忘れられないヘンな名前の写真家が発表した『喰寝』——これで「くっちゃね」と読ませる。サイズは文庫版、しかし548ページ! 厚さ5センチ近くという、僕の文庫よりヘヴィで(笑)、しかもオールカラー。初版500部で、価格3500円・・・売り切れても赤字なのでは? 完全に収支計算間違ってる気がする。

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浴槽というモノリス

ご承知のとおり僕はよくトークをやるけれど、それはなにも人前で話すのが好きとかではなくて(ほんとに!)、トークの場でいろんなひとと知り合えるから。終わったあとに「うちのそばにもこんな場所がある、こんなひとがいる」と教えてくれたり、「こんな絵を描いてるんです、写真を撮ってるんです」と作品を見せてもらえることがたくさんあり、それはネットよりもずっと貴重な情報やアドバイスになってくれる。牧ヒデアキという写真家とも、そうやって知り合った。牧さんは1971年生まれ。三河湾に面した愛知県西尾市で、建築設計の仕事をしながら、ずっと写真を撮っている。あるトークのあとで分厚いアルバムを見せてもらったのだが、そこには路傍に打ち捨てられたポリやステンレスの浴槽ばかりが写っていた。

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ちり積もらせ宇宙となす——大竹伸朗展@パラソル・ユニット

日本語を話すときはどうとでもつくろえるけれど、外国語を話すときって、そのひとの人柄がすごく出るような気がする。僕はよく「日本語も英語も同じように話してる」と言われて、それは流暢とかではぜんぜんなく、だらだらと抑揚なく言葉を垂れ流しているというだけのこと。大竹くんの英語は、いつもちょっと考えながら、短いセンテンスがブツッブツッと積み重なっていく感じで、それがなんだかスクラップブックや大きなキャンバスにいろんなブツを次から次へと貼り重ねていく感じにすごく似ていて、ひとりで納得したりするのだが、そんな変なことを考えているは僕だけだろう。すでにお読みいただいているように、いまロンドンのパラソル・ユニットで大竹伸朗展が開催中だ。

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photography

リリックとしてのポートレート——石川竜一写真展のために

絵や写真を見てくれ、と訪ねてきてくれるひとはずいぶんいる。いい、悪いなんて決められないし、大したアドバイスもできない。「がんばって続けてください」ぐらいしか言えることはないけれど、ただひとつ確かなのは「ものすごくたくさん持ってくるひとに、おもしろくないのはない」という経験則だ。ある日、沖縄から来たという青年が戸口に立っていた。すらっとした長身、端正な顔立ち。赤い革ジャンにシベリアに行くみたいな帽子を被って、露出計付きのいかついハッセルブラッドを首から下げて、ものすごく大きなリュックを背負っている。招き入れると席につくまもなく、テーブルにどさどさと分厚いポートフォリオを積み上げて、「見てください」とつぶやき、あとは黙ってこっちをじっと見ていた。

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art

ヘタウマの現在形

パリについでフランス第2の座をリヨンと争う重要な都市であり、地中海で最大の貿易港でもあるマルセイユ。告知でお伝えしてきたように、そのマルセイユと、同じ南仏のセットの2会場で『MANGARO』『HETA-UMA』と名づけられた、日本のサブカルチャーをまとめる、というよりもリミックスする重要な展覧会が開催中だ。フランスに日本の漫画好きが多いことはよく知られているが、この展覧会の舞台にパリではなく、かつて日本人にとって「初めてのヨーロッパ」だったマルセイユが選ばれたことも、出展作家のひとりである根本敬の言う「因果」のひとめぐりだろうか。

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老ファイターの城

『MANGARO』『HETA-UMA』展の準備中、マルセイユに滞在していた僕に、デルニエ・クリのスタッフたちがひとつプレゼントを用意していてくれた。「キョーイチはきっとこういうのが好きだろう」と、この地方でもっとも有名なアウトサイダー・アーティストの家に連れて行ってくれたのだ。マルセイユ市街から車で1時間足らず、オーバーニュという小さな町の、そのまた外れの小さな村に、ただ一軒だけ、とてつもなくカラフルで過剰な装飾に覆われた家がある。村の交差点に面して、見落としようのない外観・・・それがダニエル・ジャキ(Danielle Jacqui)の住む家だった。

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fashion

ベイビーたちのマッド・ティーパーティ

『下妻物語』でフィーチャーされたロリータ・ファッション・ブランドが「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト」。いまは亡き『流行通信』の連載『着倒れ方丈記』で取材させてもらったのも2004年だったので、あれからやっぱり10年。そのあいだにベイビーは全国各地に20数店舗を展開、パリ店、サンフランシスコ店に続いて、今年はニューヨークにも店舗をオープンさせている。世間的に話題に上ることは少なくなっても、世界的なレベルでは「ゴスロリ・ネバー・ダイ!」なのだ。そのベイビーが10月19日、新装なった東京ステーションホテルで「お茶会」を開催した。参加費用1万7000円(ただしフルコースの食事にたくさんのお土産つき)、120名の席が予約開始10分間で完売。このお茶会に出席するために、外国から来日したファンもいたという。

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われらの内なるサドへ——オルセー・サド展へのイントロダクション

SMといえば長く秘められた欲望であったはずだが、いつごろから「わたし、ドMなの」なんて、日常会話でさらっと言われちゃう時代になったのだろう。「SM=サディズム/マゾヒズム」という概念を生み出したといってもいいサド侯爵(マルキ・ド・サド)の、今年は没後200周年にあたる。サドは1740年にパリで生まれ、1814年にパリ郊外のシャラントン精神病院で亡くなった——「我が名が世人の記憶から永遠に消し去られることを望む」という有名な遺言とともに。サドの生きた18世紀後半はフランス革命、アメリカ独立戦争、そして産業革命が進行した激動の時代だった。そうした時代に、人生の3分の1を監獄や精神病院に幽閉されながら書き残された数々の傑作は、後の世に計り知れない影響を与えたわけだが、その没後200周年にあたっていま、パリのオルセー美術館で大規模なサド展『サド——太陽を攻撃する』が開催中である(2015年1月25日まで)。

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東京のマルコビッチの穴

不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。木原悠介は1977(昭和52)年生まれ、36歳の新しい写真家だ。中野区新井薬師の、潰れた写真屋を改造した「スタジオ35分」という小さなギャラリーで、今年8月末から9月初めの9日間だけ開かれた『DUST FOCUS』が、人生初めての個展だった。

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瞬間芸の彼方に——ドキドキクラブと写真のテロル

いまから1年かもう少し前、たしか中野のタコシェで見つけたのが、『非エロ本』といういかにも自主制作らしいペラペラの作品集だった。ペラペラなのに、発行者が六本木のおしゃれな写真画廊のゼン・フォトギャラリーだったのにも驚いたが、雑誌から引き破いたセクシー・グラビア写真に落書きという、あまりに子供っぽい、あまりにパンクで、あまりにスカムな、そしてへなへなと笑い出さずにいられない、ローファイなクオリティにすっかりやられたのだった。今年9月、東京アートブックフェアにそのドキドキクラブが出店すると聞いて会いに出かけたら、「クラブ」と名乗ってはいても実はひとりで、それもすごくシャイな青年で、作品とのギャップにまた驚かされた。

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lifestyle

日展という魔界

やっぱりいまだに泰西名画が強いんだな〜、としみじみ思うが、そういうなかでいまだに別格、最強クラス、しかし現代美術ファンにも、欧米古典美術ファンにもほとんど見向きもされない「日本最大の公募美術展」がある——そう、日展だ。去年10月30日に朝日新聞がスクープした、書道部門での入選事前配分という不正行為に端を発した日展スキャンダル報道を、興味深く読んだかたもいるだろう。一般的にはほとんど話題に上ることのない、過去の遺物的な印象しかない展覧会が、いまだにそれほど力を持っていたというか、パワーゲームの舞台になっていたことに、驚いたひとも多いのではないか。

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夜のコンクリート・ジャングル

公園の遊具にこころ惹かれるオトナはけっこういる。「タコ公園」とか「クジラ公園」とか、遊具の名前で通称される公園も少なくない。平日の午後、あるいは深夜に酔って帰る道すがら、ふと目にする、ひと気のない公園にうずくまるコンクリートの巨大な物体。かすかな哀愁と不気味さを漂わせながら、ただそこにあるなにか。それをずっと撮り続けているのが木藤富士夫(きとう・ふじお)だ。木藤さんの写真を最初に見たのは、けっこう前だったと思うが、それは絶滅危惧種となりつつあるデパートなどの屋上遊園地を撮影したシリーズだった。小さな自費出版の写真集に収められたそれらは、よくある廃墟写真とはちがって、まだ営業中なのにもかかわらず、ごく近い将来の廃園を予感させるような諦観が漂っていた。単なる昭和ノスタルジーとはひと味違う、明るいディストピアのようなニュアンスが画面に滲んでいた。

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新連載! エノさんの「ドイツ落語」01(文:榎本五郎)

今年10月15日号から3週にわたって配信、多くの読者を驚かせたハンブルク・レーパーバーンの寿司屋「KAMPAI」。1965年というから東京オリンピックの翌年、いまからほぼ半世紀前にリュックひとつ担いで、シベリア鉄道でヨーロッパに渡り、波瀾万丈の年月の末に「ヨーロッパの歌舞伎町」レーパーバーンで、10人かそこらで満席の小さな小さな寿司屋を営んでいるのが名物大将・榎本五郎=通称「エノさん」だ。「エノさん一代記」を書いてくれたドイツ在住ジャーナリスト・坪井由美子さんの文章にあったように、エノさんの店には『ドイツ落語』と題された、手製本の文集が置いてある。ご本人によれば「ドイツで出会ったひとたちを主人公にした落語のようなもの」というこの一冊、僕も読ませてもらったけれど、もうとにかくおもしろい! びっくりもして、ホロリともする! でも「出版の予定なんかありません」というから、ハンブルクのKAMPAIに足を運んで、エノさんに気に入られないと、読むことすらできない。もったいなさすぎ!・・・というわけで無理やりお願いして、『ドイツ落語』全30編のなかから数話を、本メルマガで掲載させていただくことになった。

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photography

からだとからだと写真の関係

(前略)偏狭なこころの病気がこの国の一部をむしばみつつあるいっぽうで、いまアート・ワールドでは若い中国人アーティストたちの勢いが止まらない。現代美術の最前線でもそうだし、写真の世界でもそれは同じだ。以前にもちょっと触れた東京のアートブック・フェアで、刺青にボディピアスばりばりの女性がひとりで座っているブースがあった。聞けば台湾からの参加だという彼女が、ずらりと並べたアート・ジンのなかで、これはすごいですよと教えてくれたのが、『SON AND BITCH』と題された箱入りの写真集だった。中を開いてみると、日本のアートっぽい写真どころではないハードコアなポートレートが満載。そして作者の任航(Ren Hang=レン・ハン)はここ数年、世界各地のグループ展でその作品をよく目にする、注目の若手写真家なのだった。

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movie

地上波で秘宝館が見られる日

今月いっぱいで鬼怒川秘宝殿が閉館し、ついに現役の秘宝館が熱海ひとつだけになってしまうこともあって、にわかにいろんなメディアで秘宝館の話題が見受けられる・・・遅いよ! とはいえ、ついに地上波でも(深夜枠とはいえ)秘宝館のドキュメンタリーが、それも1時間番組で放映されると聞くと、ちょっと感慨深いものもある。秘宝館と同じくらい、いまや絶滅危惧種になってしまった民放の硬派ドキュメンタリー番組のなかで、貴重な生き残り組であるフジテレビの「NONFIX」。水曜深夜2時半〜3時半(26:30〜27:30)という、ラッパーのライブみたいな時間帯ではあるものの、シリアスからサブカルまで、だれもが起きてる時間には決して放映されない種類のプログラムで、ファンのかたもけっこういらっしゃるのではないか。

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生きて痛んで微笑みがえし——小松葉月のパーソナル・アート・ワールド

今年2月26日号で紹介した、川崎市岡本太郎美術館が主催する岡本太郎現代芸術賞。よくある現代美術コンペとは一味違う、コンセプトよりもエモーショナルな感性が評価された作家が多く選ばれていたが、そのなかに特別賞を受賞した小松葉月さんの『果たし状』という大作があった。一見、学校の教室のようなインスタレーション。壁には習字やお絵かきの作品が貼り込まれ、大きな黒板、それに中央に据えられた巨大な台座(玉座?)には、学校用の勉強机と椅子が据えられて、そのありとあらゆる表面に小さなニコニコマークがびっしり描き込まれている。そして机にはセーラー服に防空頭巾をかぶった作家本人が座り、開館時間のあいだじゅうずっと、机上に広げたノートや教科書に、これもびっしり、本人が「ニコちゃん」と呼ぶ、ニコニコマークを描きつづけていた。

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酒を聴き、音を飲む—— ナジャの教え 02

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎。とびきりのガラの悪さと居心地良さが渾然一体となった、ぬる〜い空気感に包まれたこの地の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかも旧来の気取ったフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがうその店の、オーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米沢伸介さんだ。独自のセレクションのワイン、料理、そして音楽の三味一体がつくりあげる、これまで経験したことのない至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニーによる『ナジャの教え』。第2夜となる今回は、「大地のエロス、海のエロス、野生のエロス」と題した、真冬の夜の官能あふれるハーモニーをお聞かせする。

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裸眼の挑戦——若生友見とragan books

この秋に開かれた東京アートブックフェア。ドキドキクラブや公園遊具の木藤富士夫など最近のメルマガで紹介した写真家、アーティストに何人も出会うことができたが、たくさんのブースのなかで、びっくりするほどシャープというか、クレバーなデザインのジンを並べているテーブルがあった。テーマは日本だけど、扱うセンスはむしろ欧米のクールな感性が漂っていて、もしかしたら東京在住の外国人デザイナーなのかも・・・とか思いつつ、店番をしていた若い女の子に尋ねてみたら、「これ、私が作ったんです」と言われてびっくり。それも東京ですらなく「仙台でやってます」というので、「仙台市ならよく行きます、デザイン事務所とか?」と聞くと、「いえ、仙台市じゃなくて七里ヶ浜・・・知らないですよね」。「えーっ、そこでデザインのお仕事を?」「いえ、学習塾で教えながら、これ作ってるんです」と言われて絶句。それが宮城県七里ヶ浜町在住の若きグラフィック・デザイナー、若生友見(わこう・ともみ)さんなのだった。

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写ルンです革命

先月紹介して好評を得た、木原悠介によるダクト内部写真。あれがすべて「写ルンです」で撮影されたことを、ご記憶だろうか。1986年に富士フィルムが発売した「写ルンです」は、誕生からもうすぐ30年。デジカメ、携帯全盛期の現在でも富士をはじめ、いくつかのメーカーから「レンズ付きフィルム」として販売されている。いまから30年後のデジカメがどうなってるかなんて、想像できるだろうか。USBもSDカードもそのころにはとうに消滅して、常に新しい媒体に移し続けないかぎり、30年前(つまり現在)の写真は見ることすらできないはずだ。レンズ付きフィルムはまた、世界でいちばんタフなカメラでもある。電池も充電も必要としない。モーターのような駆動系も電子回路も組み込まれていないから、どんな場所でもとにかくシャッターを押せば「写ルンです」。

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パッシングスルー・タウン——ターミナル駅のとなり町 01 小田急線南新宿駅

都心の廃墟には、人里離れた場所の廃墟とは微妙に異なる空気感がある。どろりと粘着質のなにか。だれにも望まれないのではなく、だれからも望まれているのに、ほとんどすべての場合に複雑な権利関係がからんでいるためにーーようするにカネへの執着がからみあって、身動き取れないまま年月を重ねている、欲望の醜いカタマリとしての廃墟。それが僕らのこころをざわつかせる。

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昭和の終わりの新宿で

せっかく南新宿のことを書いたので、新宿の話題をもうひとつ。去年3月19日号で、『新宿が生きていたころ——昭和40年代新宿写真展』という展覧会の紹介記事を掲載した。新宿歴史博物館で開かれたこの写真展は、新宿がたぶんいちばんエネルギッシュだった時代を、豊富な写真コレクションでたどる、地味だけれど貴重な企画だった。その新宿歴史館でいま、前回の続編となる『写真展 新宿50−60年代<昭和>の終わりの新宿風景』と題された展覧会が開催中だ(2月22日まで)。

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ROADSIDE MUSIC 外道

久しぶりにお送りするロードサイド・ミュージックは日本の誇るロックンロール&ブルースバンド、外道! 今月7日(本日!)発売になるニューアルバム『Rocking THE BLUES』を記念して、昨年(2014)8月28日に渋谷クロコダイルでのライブ、前半後半からアンコールまで1時間58分のステージを、まるごと聴いていただく! 往年のロックファンなら知らぬもののない外道は、1973年結成。翌74年にファースト・アルバム『外道』を発表以来、解散と再結成を繰り返しながら、すでに活動42年目に突入。日本屈指の現役ロック・バンドだ。

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ホノルル旅日記 1:愛と哀しみの理想郷

ワイキキの喧騒を通り過ぎ、ダイヤモンドヘッドを周回する道路に沿って裏側に回ると、そこはブラックポイントと呼ばれるハワイ屈指の超高級住宅街だ。どこにも人影はなく、しかしどこかで見ている監視カメラはたくさんあるにちがいない、曲がりくねった道を辿って海に向かって突き当りまで進む。大きな鉄製のドアがこちらの車のナンバープレートを確認して、音もなく開いた。まるでジャングルに開けたトンネルのように豊かな緑のアプローチを抜けると、そこにシンプルな、落ち着いた白い建物があった。ドリス・デュークの「シャングリ・ラ」だ。テレビで見るような「ハワイの豪邸」とはワケがちがう。かつて「世界一リッチな少女」と呼ばれたドリス・デュークが、この土地に惚れ込み、世界各地で収集した貴重な美術品を持ち込んで住まいにした、ここは桁違いの贅を尽くした、それでいて見事に抑制の効いた、洗練の極みにある空間だ。

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新宿でロックと白目の写真展!

いま新宿でふたつの楽しい写真展が開催中だ。まずひとつめは新宿ビームス6階のBギャラリーで開かれている、『MUSIC LIFE PHOTO EXHIBITION〜長谷部宏の写真で綴る洋楽ロックの肖像〜』展。『ミュージックライフ』といえばオールド・ロック・ファンは涙なしに語れない、ロック創成期から続いてきた音楽誌。1951年にスタートして、惜しくも1998年に休刊してしまったが、2011年からは『MUSIC LIFE plus』というKindle版の電子雑誌として復活。値段の200円ちょっととお手頃なので、興味あるかたはAmazonのサイトで「ミュージックライフ」と検索してみてほしい。で、今回の写真展は、そのミュージックライフ誌の専属カメラマンを長く勤めた長谷部宏さんによる、ロック史をいろどる貴重なショットを一同に展示したもの

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food & drink

ほんやら洞のこと

先週金曜(1月16日)未明に出火、全焼した京都の喫茶店・ほんやら洞については、ツイッターやFacebookなどはもちろん、テレビ、新聞など大手のメディアにも取り上げられて、ちょっと驚いた。開店から42年目の古ぼけた喫茶店の火事、というだけのニュースがこれほど拡散したのは、どのメディアにもほんやら洞ファンがいたのかもしれない。これまで京都には2回住んできたが、最初に引っ越した1980年代末は、雑誌の仕事を離れて一息ついたところで、京都大学の聴講生に申し込んで日本美術史や建築史の授業を取り、そのまま自転車で授業に出てきた寺院を見に行ったりしていた。いまから考えると夢のような日々だったが、通学路にほんやら洞があって、昼飯やコーヒーに寄るようになった。

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湯けむり秘宝と西部劇——追想の鬼怒川秘宝殿とウェスタン村

失われた場所といえば、昨年末に閉館となった鬼怒川秘宝殿も、マスコミでやけに大きく取り上げられてびっくりさせられた。それまで秘宝館なんて、見向きもしなかったくせに。ご承知のように、日本に秘宝館が誕生したのは1972年、三重県伊勢市の元祖国際秘宝館だった。いきなり大成功を収めた元祖国際秘宝館に続けと、それから各地に秘宝館が生まれていくのだが、鬼怒川秘宝殿がオープンしたのは1981年のこと。80〜81年は北海道秘宝館、熱海秘宝館、鳥羽SF未来館、元祖国際秘宝館石和館と次々にオープンした、秘宝館ラッシュの時期だった。

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大竹伸朗展 ニューニュー:カタログ発表記念、プレゼント企画!

2013年7月から11月まで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された『大竹伸朗展 ニューニュー』。そのカタログが、なんと展覧会から1年以上たった今月、ようやく完成! デザイン・制作はもちろん、新潟・浦佐をベースにユニークなマイクロ・パブリッシング活動を続けるエディション・ノルトによるものだ。エディション・ノルトに関しては本メルマガの2012年11月7日号で詳しく紹介したが、端正なデザインと手づくり感覚をミックスさせた、独自の美学が際立つエディトリアルデザイン・スタジオである。今回のカタログも、さすがにノルトらしく、いくつかのサイズの紙束を二つ折りにして重ねたような、軽い印象でありながら、中を開いていくたびに驚きがあらわれる、これまで見たことのないような構造になっている。

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ホノルル旅日記2:ロングスのひとたち

化粧品でも着替えでも、ポテチでもビールでもいい、ハワイで日用品が必要なとき、どこへ行ったら・・・「ABCストアがあるでしょ」と言うのはワイキキから一歩も出ない観光客のしるし。ハワイ人にとっては「ロングスがあるでしょ」となるのが正解だ。ロングス・ドラッグスはハワイ最大のドラッグストア・チェーン。一般薬品に処方せん医薬品、化粧品、袋菓子、下着に文房具、ビール、ワイン・・・生鮮食料品以外すべての日用品を扱っている。そして基本的に24時間営業。日本のコンビニよりもはるかに大きくて、スーパーマーケットとはまたちがう。言ってみればマツキヨを巨大にして、ドンキホーテを薄めたみたいな存在だ。

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ウルトラの星のしたで

『ウルトラQ』から『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』など、特撮変身ヒーローの生みの親であるアーティスト/デザイナー、成田亨の画期的な回顧展『成田亨 美術/特撮/怪獣』が、いま福岡市美術館で開催中だ(2月11日まで)。昨年夏に富山県立近代美術館で始まった本展は福岡のあと、成田亨のデザイン原画を所蔵する青森県立美術館に巡回する(4月11日〜6月7日)。東京での展示はなし。福岡の会期に間に合わないと、展示作品数700点に及ぶこの回顧展を体験するには青森に行くしかない。成田亨は1929(昭和4)年、神戸で生まれた。1歳になる前に、父母の出身地であった青森県に転居。そこで囲炉裏の炭をつかんでしまい左手を火傷、生涯癒えることのない傷を負い、「右手だけで描ける」絵がこころの拠り所となったという。

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小山田二郎という奇跡

先月なかばの日曜日、府中で取材があった僕は撮影を終えて、京王線府中駅にいた。ふと駅構内のポスターを見ると、府中市美術館で「生誕100年 小山田二郎」展開催中とあるではないか! 同行編集者にむにゃむにゃ言い訳して急いでバスに乗って、無事に展覧会を鑑賞することができた。危ない・・・こうやってどれだけ、知らないうちに重要な展覧会を見逃しているのだろう。本メルマガを始めて間もなく、2012年2月8日配信号で、府中市美術館で開催していた『石子順造的世界』展について書いたのだが、そのときに同時開催されていた小山田二郎展にも少しだけ触れたことがあった。1914年に中国安東県(現遼寧省丹東市)で生まれた小山田二郎は、去年が生誕100年にあたっていて、この展覧会も去年11月8日にスタート。

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ホノルル旅日記3:ハワイ古寺巡礼

オアフ島ホノルルの東側、ウィンドウォード(風上)と呼ばれるカイルア地区は、ハワイ屈指の美しいビーチやウィンドサーフィンのメッカとしてよく知られている。ホノルルからカイルアに向かってパリ・ハイウェイに乗ると間もなく、車窓左側に立派な三重塔が見えてきて、びっくりするひとも多いはず。ホノルル・メモリアル・パークと呼ばれる霊園に建つ、奈良・南法華寺を模した三重塔だ。ずいぶん前に村上春樹、吉本由美さんと3人で「東京するめクラブ」というユニットを結成し、ちょっと変わった旅行記事をつくっていたことがある。そこで訪れたハワイで、この三重塔を含むホノルルと周辺の寺社仏閣巡りをしたことがあった。あれは2002年だったから、もう13年前! いまもあいかわらず不思議な存在感を漂わせる三重塔を見て、もういちどホノルル古寺巡礼をしてみたくなった。

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シンパシー・フォア・ザ・デッド——倉谷卓の写真について

先月(1月21日号)に倉谷卓写真展『Ghost’s Drive』の告知記事を掲載したのを、気づいていただけたろうか。会場となった日本橋茅場町の森岡書店は小さな展示スペースだったが、山形県内のユーモラスなお盆の風習を記録したシリーズはすごく興味深かった。『Ghost’s Drive』展とほぼ同時期に京橋の72ギャラリーでも、『カーテンを開けて』と題された別の写真展が開かれていることを知って、そちらにも足を伸ばし、本人とお話することができた(1月21日〜2月1日まで開催)。

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ガイコツさんのシャレオツ

新幹線に乗って新大阪で降りたら、在来線に乗り換え尼崎経由で30分ほど。飛行機で大阪空港に降りれば、そこがもう伊丹。大阪空港のお膝元である伊丹市は、かつて伊丹城を擁した歴史遺産に恵まれる地だが、どことなくサバービア感が漂う茫漠とした雰囲気。関西人にとって伊丹とは、どんなイメージの町なのだろう。かつて酒造で知られていた町らしく、白壁の蔵のようなデザインの伊丹市立美術館。オノレ・ドーミエのコレクションなど、風刺やユーモアをテーマにした欧米・国内のコレクションを核とするユニークな美術館だが、現在開催中なのが『シャレにしてオツなり——宮武外骨・没後60周年記念』という、小規模だが見逃せない展覧会だ(3月1日まで)。

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ホノルル旅日記4:なにはともあれジェリーズに

ハワイには長年にわたるヒッピー文化が根づいていて、それはコミューンというかたちを取ったり、サーフィンと融け合ったり、音楽に反映されたり、現代のハワイアン・カルチャーに静かに浸透している気がする。そういうレイドバックした雰囲気が漂う場所が、ハワイの中でも僕の大好きなところ。今回ご紹介する『Jelly’s』はハワイに行くたびにかならず寄ってしまう、いちばん大切な店のひとつだ。ガイドブックには、めったに紹介されていないと思うけど。『Jelly’s』はユーズド・レコード、CD、DVD、ブック、コミックの専門店。ホノルルのはずれとパールシティの2店舗を、オアフ島に持っている。

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特別公開・友川カズキの酔眼レコメンリスト

1月27日、渋谷タワーレコードにて『友川カズキ独白録—生きてみるって言ってみろ—』発刊記念のトーク&ライブで、友川さんとトークをさせてもらいました。来てくれたみなさん、どうもありがとう! どれくらい来るのか・・・とスタッフも心配顔でしたが、蓋を開けてみれば立ち見ありの満員御礼。仕事を急いで終えて駆けつけてくれたひともいたでしょう、ご参加感謝します。イベントの場で参加特典として配布されたのが、「友川カズキの酔眼レコメンリスト」という4つ折りのリーフレット。片面が「私を“犯した”15冊の書籍」、もう片面が「私を“冒した”15枚の音盤」というわけで、15の本とレコードをコメントとともに掲載した、すごく読み応えのあるリストでした。

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パッシングスルー・タウン——ターミナル駅のとなり町 02 東武東上線北池袋駅

急行や準急に駆け込む善男善女を横目に、空席の目立つ普通電車にゆったり着席するはぐれもの、しかしゆったりする間もなく池袋駅を出発してわずか1分! 150円で着いてしまうのが東武東上線・北池袋駅だ。これほど乗り甲斐のない電車旅があろうか。新宿、渋谷と肩を並べる東京屈指のメガタウンでありながら、「トレンディ」という言葉にひとかけらの縁もない池袋。東口に西武、西口に東武という、東京初心者を惑わせる配置。JRに地下鉄に私鉄と全部で8路線が乗り入れ、一日の利用者が250万人以上というカオスそのものの駅構内。『池袋ウエストゲートパーク』から最近の池袋チャイナタウン・マフィア伝説、脱法ハーブ事故まで、「東京一怖い街」というイメージがすっかり定着。新宿ゴールデン街や2丁目のようなカルチャー・ゾーンも皆無。

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food & drink

新連載 くいだおれニューヨーク・アンダーグラウンド 01 PUNJABI GROCERY & DELI(写真・文 アキコ・サーナー)

美大卒のデザイナーだったはずなのに、いつのまにか料理の世界に足を踏み入れて、いつのまにかニューヨークに移住したと思ったら、ユニークなケイタリングのプロジェクトを始めたり、ロウアーイーストサイドにレストランを開いたり。すっかりプロの料理人になっていて、こないだ久しぶりに会ったら、「ニューヨークはレストラン高いし、混んでるし最低! でも地元民しか知らない、気楽ないい店もまだあるんだよ」と言われて、じゃあ教えて!というわけで始まるのがこの新連載。不定期ではあるけれど、オシャレな雑誌やWebのニューヨーク特集にはぜったい登場しない、安くて美味しくてファンキーな(これが大事!)、取っておきの店にお連れします。さあ、きょうはなに食べさせてくれるんだろう!

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カウガール・ラプソディ

明治・大正期の洋風建築、それに漫画ファンには石ノ森章太郎と大友克洋の出身地としても知られる登米の旧市街から、北上川沿いに走ったはずれにある集落が津山町。人口3000人ほどの小さな町だ。クルマで数分も走れば通りすぎてしまう町の、静かな住宅の離れに建つアトリエで、山形牧子さんが待っていてくれた。山形さんのことを教えてくれたのは仙台の友人だった――「河北新報(仙台の地元紙)に、すごく不思議な絵が載ってました、牛と女のひとが宴会してるんです!」 津山町で主婦として暮らしながら、牛と女の絵ばかり描いている、彼女は奇妙なアマチュア・ペインターなのだった。

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我らいまだ非現実の王国に

いまからちょうど8年前になる。ヘンリー・ダーガーの部屋の写真を相次いで見る機会があって、どうしても本にしたくて、友人の小出由紀子さんとインペリアルプレスという、ふたりだけの極小出版社を設立、『HENRY DARGER’S ROOM ― 851 WEBSTER』という写真集を自費出版した。「851WEBSTER」というのは、ダーガーが住んでいたシカゴのアパートの住所だった。その後のインペリアルプレスは、お互い忙しさにかまけているうちに新刊を出すこともないまま、ついに昨年末で会社を清算、いまは手元に残った在庫を細々と売っている状態で・・・溜息。その『HENRY DARGER’S ROOM』に写真を提供していただいた北島敬三さんの写真展『ヘンリー・ダーガーの部屋』が先週末から、西新宿のエプサイト・ギャラリーで開催中だ(3月12日まで)。

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近江八幡の乱――『アール・ブリュット☆アート☆日本2』観覧記

先週の告知で少しだけお知らせしたが、日本のアウトサイダー・アートの聖地とも言うべき滋賀県近江八幡市でいま、『アール・ブリュット☆アート☆日本2』が開催中である。日本で最初のアウトサイダー・アート専門展示施設「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を中心に、市街6ヶ所の町家や美術館、資料館、さらに商店のウインドウや店内にまで拡張した展覧会は、出展作家70数名、作品数1200点以上という大規模なもの。「2」とついているのは、「1」が昨年開催されたからで、その模様は本メルマガ2014年3月19日号で詳細にリポートした。初回に劣らず、アウトサイダー・アート/アール・ブリュット・ファンなら必見の充実した内容なので、今年もぜひ見逃すことなく、ゆっくり時間を取って訪れていただきたい。

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灰色の壁の少女

日本においてもグラフィティはれっきとした犯罪だ。軽犯罪法1条33号にある「工作物等汚わい罪」がそれで、「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者」に対して、拘束または科料の支払いが規定されている。また、地方自治体が独自の落書き禁止条例をもうけている場合も多い。だから、これまでこのメルマガで何人かのグラフィティ・アーティストを取り上げてきたが、本名や顔写真を出せないこともあった。今回紹介する福岡のKYNE(キネ)もそうした厳しい環境の中で、アクティブであり続けようとしている若いアーティストだ。

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頭上ビックバン!――帽子おじさん宮間英次郎 80歳記念大展覧会

本メルマガ読者にはもう説明の必要がない「帽子おじさん」宮間英次郎。その波乱に満ちた生涯は、宮間さんの発見者ともいうべき畸人研究学会の海老名ベテルギウス則雄さんの筆により、昨年9月に3回にわたって集中連載した。1934年生まれ、つまり去年80歳を迎えてますます元気いっぱいな宮間さんの、満を持した個展が今月21日から恵比寿NADiffで開催される。展覧会にあわせて畸人研究学会は久々の自主制作新刊『畸人研究30号 特集:宮間英次郎さん傘寿記念』を刊行。これは去年メルマガで連載した内容を、さらにボリュームアップした決定版になるはずだ。展覧会を畸人研究学会と一緒に構成させてもらう僕にとっても、去年5月の『独居老人スタイル展』に続いての、NADiffお達者くらぶ展シリーズ(笑)。クールなアートブックショップには申し訳ないが、老いてますます盛んな現役アウトサイダー・アーティストのほとばしるエネルギーを、過密な展示空間で体感していただけたら幸いである。

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自然が超自然になるとき――遠藤湖舟写真展によせて

身近に見つけた美しい自然の表情、動植物や天体、そして作品集の帯文は平山郁夫・・・このメルマガともっとも相性が悪い(笑)写真の数々が、目の前に開かれている。今月末から日本橋高島屋で写真展を開く、遠藤湖舟の作品だ。いわゆる「美しい風景」にこころ惹かれないのはなぜだろうと、ときどき考える。写真としてだけではなく、その場に立つことを含めて。夕陽に輝く富士山を眺めても、夜のグランドキャニオンで星々に包まれても、オレゴンの森深くで緑の濃さに窒息しそうになっても、ハワイの海にぷかぷか浮きながらコバルトブルーの空を眺めても。あ〜きれいだな〜とは思うけれど、5分で飽きてしまう。カメラを向けることも、ほとんどない。

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クラブハイツ最後の夜

もはやその存在すら本メルマガ内で忘れられつつある、単行本未収録原稿墓場「アーカイブ」。久しぶりにいきます! 今回お送りするのは2009年に『エスクァイア』誌のために書いた、『クラブハイツ最後の夜』。いまからちょうど6年前の出来事だけど、あれから文中にある札幌クラブハイツもすでに閉店してしまったし、「歌舞伎町ルネッサンス」は順調に進行中。コマ劇場跡はもう来月となる2015年4月に、都内最大級のシネコン「TOHOシネマズ新宿」とホテルグレイスリー新宿に生まれ変わって開業予定だ。そんなもん、歌舞伎町じゃなきゃいけないのか! クラブハイツでなじみだったホステスさんたちは、蒲田あたりのキャバレーに流れたりしていったが、もう営業電話もかかってこない。この6年間で銀座がすっかりダメになっていったように、これから東京オリンピックまでの5年間で、歌舞伎町もすっかり去勢されていくのだろうか・・・。

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圏外の街角から:宮城県白石市

仙台には年に数回は行っているが、東北新幹線でひとつ手前の駅、白石蔵王駅にはいちども降りたことがなかった。東京駅からちょうど2時間。あと15分で仙台に着いてしまう。白石(しろいし)市は宮城蔵王のふもとに広がる、福島県に隣接した宮城県最南端の市。蔵王エリアへの観光拠点であり、いくつか温泉もあるが・・・現在の白石市の人口は約3万5000人。新幹線の白石蔵王駅の利用者は一日数百人という寂しさ。しかも町なかにある東北本線・白石駅までは1時間に1本ほどしかないバスを利用するか、徒歩20分という微妙な距離。温泉場に旅館はいろいろあるけれど、白石の市内には駅前ビジネスホテルがひとつだけ。そしてここでも見事なまでのシャッター商店街が、しなびた血管のように街をくるんでいた。

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たまにはアートフェアも

いまさら説明するまでもないが、展覧会とアートフェアのちがいは、展覧会がアートを展示する場所であるのに対して、フェアはアートの「見本市」、つまりアートを売り買いする場所ということ。アートを鑑賞するのではなくて、売ったり買ったりできるひとが集まるのがアートフェアだ。その最大のものであるスイスのアート・バーゼルなどは、いまやマイアミや香港でもフェアを開催。世界中からお金持ちと、お金持ちを探すお金持ち画廊が集結する。日本でも「アートフェア東京」という美術見本市が2005年から開かれていて、今年が10回目。好き嫌いとかではないけれど、売り買いの場という性格から、これまで本メルマガでは取り上げないでいたが、今年はメルマガでも紹介したアーティストの作品がいくつか出品されるので、この機会にさらりと紹介させていただく。

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非現実の映像王国で

「とにかくすごいんです!」と、本メルマガで『案山子X』を連載してくれているai7nさんから伊勢田監督のことを聞いたのは、もう2年ほど前のことだった。アウトサイダーにも絵画とか文学とか建築とか、いろいろな分野があるけれど、「アウトサイダー映像作家」というのは、初めて聞くジャンルでもあった。いつかはお会いしたいと思いながら果たせないでいるうち、この4月に伊勢田監督が「PVデビュー」を飾ることになったと知った。それもプロデュースが、やはり本メルマガで『隙ある風景』をずっと連載してくれて、最近では「商店街ポスター展」でも注目されるケイタタ=日下慶太さん。そしてPVのアーティストは、なんと中田ヤスタカがPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅに続いてデビューさせる期待の新人・三戸なつめだという・・・信じられない。業界的にはかなりのプロジェクトのはずが、こんなふうに決まっちゃっていいんだろうか!(笑)

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光彩のスクラッチ――Liquidbiupilのアナログ・ライティング・アート

1960年代から70年代に最盛期を迎えた「リキッド・ライティング」を甦らせている若いライティング・アーティストがいると聞いて、耳を疑ったのが数年前のこと。ただ、そのころはライティングどころか、暗すぎて写真も撮れないようなヒップホップのライブにばかり行っていたので、なかなか巡りあうことができず、ようやく一昨年アシッド・マザーズ・テンプルのライブ会場で会えたのが、「Liquidbiupil」(リキッドビウピル)というライティングのチームだった。「Liquid」を裏返してつなげたという風変わりな名前を持つLiquidbiupilは佐藤朗と清水美雪、ふたりのライティング・アーティストによるユニットである。往年そのままに複数台のオーバーヘッドプロジェクターを駆使し、あたかも光と色をスクラッチするように、ライブハウスにサイケデリックな光の空間をつくりあげるスタイルは、アシッド・マザーズ・テンプルのようなバンドからノイズ、さらに演劇の舞台にまで起用され、注目を集めている。

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ニセモノの本気――大ニセモノ博覧会@歴史民俗博物館

東京から成田空港に向かってすぐ手前にある千葉県佐倉市。ミュージアム好きには国立歴史民俗博物館とDIC川村美術館という、ふたつのビッグ・ミュージアムがあることでおなじみ。その歴史民博ではいま『大ニセモノ博覧会―贋造と模倣の文化史―』という、かなり野心的な展覧会を、わりとひっそり開催中だ。「ニセモノ」とか「パクリ」とか言うと、最近では自動的に中国を連想してしまうひとが多いだろうが、ちょっと前までパクリと買いまくりにかけては元祖エコノミック・アニマル=日本人の代名詞だったことを忘れてはならない・・・というような歴史エピソードはともかく、真似ること、コピーすることは、かならずしも「やっちゃいけない悪いこと」で済まされるわけでもない。音楽にしろ美術にしろ、映画にしろ建築にしろ、つねに模倣はオリジナリティの重要な源泉であった。模倣によって磨かれた技術は数限りないし、模倣によって発見された真実もたくさんある。今回の展覧会ではそうした「本物」と「ニセモノ」のあいだのからみ合いから生まれてきた文化を、膨大な館蔵品を中心によって紐解いてみようというもの。考古学から古美術、骨董、見世物まで、時代もジュラ紀から現代まで!と思いきり幅広い展開。

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猫塊の衝撃

新宿から京王線で約30分、稲城は多摩ニュータウンの東端に位置する、静かなベッドタウンだ。改札口で僕を待っていてくれたのが、先日の「ヴァニラ画廊大賞 2014」で大賞を獲得したアーティスト・横倉裕司さんだった。いかにもニュータウンらしい駅前を抜けて鶴川街道を渡ると、景色は突然、のどかな田舎ふうになってくる。代々続いているらしい農家や、放し飼いのニワトリが地面を突ついてる果樹園のあいだを抜けて歩いた先に、空き地に適当に建てられたような、家屋とも倉庫とも言いがたい平屋の建物が数軒かたまっている。そのひとつが、横倉さんが友人とシェアしているアトリエだった。

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photography

テンダーロインをレアで

あれは鞆の津ミュージアムが開館したときだったから2012年、いまから3年前のことだ。展覧会に参加した縁でトークに招かれて、終わった後に参加してくれたひとたちとおしゃべりしていたとき、ちょっと・・・ではなくて、いかにも一癖ありそうな革ジャン姿の青年が近寄ってきて、僕に聞いた――「都築さん、サンフランシスコのリサーチって知ってますか」? リサーチ=『RE/Search』は1980年代から90年代にかけてサンフランシスコで発行されてきた、元祖オルタナティブ・マガジンで、その後のZINEをはじめとする世界のオルタナ系出版に決定的な影響を与えた、最重要雑誌である。もちろん、僕も含めて。その『RE/Search』という名前が、こんな場所で、こんな若い日本人の口から出るなんて・・・一瞬、30年前にぐいっと引き戻されたような、目眩に近い感覚に襲われた。弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)は鞆津のある福山に暮らす若い写真家。

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史上最大のデザイン・レイヴ

1970年、僕は中学2年生だった。修学旅行は京都大阪で、そのハイライトが大阪万博見学だった。「万国博覧会」というものが輝ける存在だった、もしかしたらあれが最後の晴れ舞台だったのかもしれない。大阪万博は6ヶ月で6421万8770人の観客を集め、これはいまだに日本のイベント史上破られていない記録だが、2015年のいま、「エキスポ見物のために旅行」しようという人間が、どれくらいいることか(5月1日から「食」をテーマにしたミラノ万博が始まるの、知ってました?―日本館は建築が北川原温、特別大使がハローキティ・・・)。世界のひとびとの多くが「人類の進歩と調和」を信じていられた、あの時代のあの場所は、いま振り返ってみればクレイジーでポジティブな、アートとデザインの壮大な実験場だと見えなくもない。

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fashion

華やかな女豹たちの国

いまからちょうど10年前の2005年に僕は週刊朝日で『バブルの肖像』という連載をしていて、それはいまからちょうど25年前(四半世紀!)のバブル期をうれし恥ずかしく振りかえるシリーズだった(2006年に単行本化)。いまもたまに飲み話に出たりするけれど、あのとき日本に、いったいなにが起こったんだろう。株価が2万円に乗るかどうかぐらいで大騒ぎしている2015年のいまから考えると、それは「不可思議」としか言いようのない時代だった――

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緊急報告:レトロスペース・坂会館、存亡の危機!?

レトロスペースが揺れている。北海道屈指のビザール・ロードサイド・アトラクションとして名高い、札幌のレトロスペース・坂会館。珍スポット・ファンはすでにお聞き及びかもしれないが、今月なかばあたりから「レトロスペースが4月末で閉館か!」とTwitterなどで噂が拡散。レトロスペースや母体となる坂ビスケット本社にも、問い合わせが相次いでいるという。『珍日本紀行』の取材で初めてレトロスペースを訪れたのが1999年。もう15年以上のお付き合いになる。館長・坂一敬(さか・かずたか)さんには、ご自身の半生を『巡礼/珍日本超老伝』でも語っていただいた。北海道秘宝館がすでに閉館し、去年は札幌市民の憩いの場・喫茶サンローゼすすきの店も閉店。このうえレトロスペースまでなくなってしまったら、いったい札幌でどこに遊びに行けばいいのだろう。

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book

フランス書院文庫の30年

駅のホームで新幹線を待ちながら、なにげなくキオスクの書棚を眺める。『未亡人兄嫁・三十四歳』『隣の独身美母』『服従教室 女教師姉妹と教育実習生』・・・きょうも健気にフランス書院文庫の、黒い背に黄色のタイトルが光ってる。「なぜ駅でエロ本が!」と憤るムキもあるようだが、キオスクに『東スポ』とフランス書院文庫がなくなったら、それはもう日本のキオスクじゃないと思うのは僕だけだろうか。Amazon Kindleストアでは『フランス書院文庫オールタイム・ベスト100』という電子書籍を、4月1日から無料で(!)配信開始している。「未来に残したい官能小説100作品」を精選、書影(カバー)、タイトル、著者などのデータとともに、中味の引用も数ページ添えられ、気になったらそこからワンクリックでKindleストアに飛べるようになっている。

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近世店屋考、ふたたび

いまから3年ほど前、鳥取市の図書館で僕は『近世店屋考』というモノクロームの写真集に出会い、その一冊が池本喜巳(いけもと・よしみ)さんへと導いてくれた。本メルマガの2012年9月12日号で特集した『近世店屋考』は、山陰地方の片隅に隠れるように生きてきた昔ながらの商店を撮影した、派手さのかけらもない写真集だったが、予想外の反響をもらい、スタートからまだ半年ちょっとだったメルマガ制作に大きな励ましを得た。それから鳥取に行くたびに池本さんは僕にこの、日本有数に地味な、でも日本有数に暮らしやすい地方のことを教えてくれた。「店屋考はまだ撮ってるんだよ」と会うたびに言いながら、池本さんはなかなかその成果を見せてくれなかったのだったが、今月20日から銀座ニコンサロン、そのあと大阪ニコンサロンで、その『近世店屋考』の新成果が披露される。

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photography

サラの魔法

1970年代、写真界のスターといえば、それはいまのようなアート・フォトグラファーではなく、疑いもなくファッション・フォトグラファーだった。デザイン界のスターがファッション・デザイナーであり、グラフィック界のスターがアーティストでなくイラストレーターで、メディア界のスターがファッション・マガジンであったのと同じように。そういうキラ星のようなファッション・フォトグラファーのなかで、アヴェドンやヘルムート・ニュートンのような評価を、少なくとも80年代後半以降の日本では受けることがなかったが、70年代当時にコアなファッション業界人からオシャレ少年少女まで、もっとも熱狂的な人気を誇ったのは、実はサラ・ムーンだったのではないか。

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music

結成20周年、ギャーテーズ東大五月祭に降臨!

2014年はいちどしかライブを開かなかったギャーテーズが、今年初めてのライブを今週日曜日(5月17日)、東大五月祭で披露する。大編成のバンドであること、メンバーが施設に暮らしたり、別の仕事をしながら音楽活動をしていたりと、めったにライブの機会がないギャーテーズだけに、今回のライブは「知る人ぞ知る」存在だった奇跡のバンドを生で体験できる、貴重な場となる。今回は2013年に放送したライブ音源をたっぷりお聴きいただくとともに、ギャーテーズの活動にずっと寄り添い、記録を続けてきたAV監督・菅原養史さんに、ギャーテーズという稀有なバンドと、そのリーダーである大龍さんの波瀾万丈の歴史をひもとく文章を書き下ろしていただいた。

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art

銀河の中に仮名の歓喜  ――福田尚代の美術と回文

ヘンリー・ダーガーの部屋を撮影した写真を集めたマニアックな資料集『HENRY DARGER’S ROOM』や、青森のボロ布を集めた『BORO』を僕と一緒に出版した小出由紀子さんは、東京神田に残る典雅な戦前建築・丸石ビル内に「YUKIKO KOIDE PRESENTS」という、他に日本でほとんど例のないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリーを運営している。その画廊から去年の冬、『福田尚代作品集 2001-2013』という小さな作品集が出版されて、出版記念展も開かれた。美術界ではすでに高い評価を得ながら、これが最初の単独作品集という、もっともっと知られるべきアーティストであり、同時に奇跡的な回文作家でもあるという、多面的な制作活動に長く静かに従事してきた福田尚代さん。今週は埼玉県内のご自宅を訪問してうかがったお話に加えて、公式サイトに掲載されている興味深い年譜や、ツイッター上でのメッセージなどもミックスしながら、彼女の制作の軌跡を辿ってみたい。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む ―― ナジャの教え 03

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎。ぬる~い空気感に包まれたこの地の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。関西一円から東京のワイン通、料理好きまでが通いつめる、しかし旧来のフランス料理店や高級ワインバーとはまったくテイストのちがうその店の、オーナー/シェフ/ソムリエ/DJが米沢伸介さんだ。独自のセレクションのワイン、料理、音楽の三味一体がつくりあげる至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニーによる『ナジャの教え』。第3夜となる今回は華やぐ春の宵に、かすかな狂気の香りをブレンドしてくれた。

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art

プラスチックの壺中天

すでにご存知のかたも、コンプリートしたくて何千円も散財したかたもいらっしゃるだろう、大竹伸朗のガチャガチャ=「ガチャ景」が先月発売され、直島銭湯や各地のアートブックショップに販売機が設置されている。全6種類、各500円。計3000円でコンプリートできればラッキーだが、なかなかそうはいかなかったりして、ずっとむかしのゲームセンターで味わったような「悔しいから取れるまでぶっこむ」感を、ひさびさに思い出させてくれる。6種類それぞれの「作品」には解説がつけられているのだが、今回は僕がそれを書かせてもらった。あらためてじっくり、ひとつずつの作品についての思い出を聞いて、それを文章に起こしてある。

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photography

雑種のしあわせ――佐々木まことの動物写真

『ジワジワ来る関西奇行』で毎回、「こんな関西もありか!」と驚かせてくれる吉村智樹さん。ずいぶん前からの知り合いだが、連載をお願いすることになって久しぶりに話しているうちに出てきた名前が「佐々木まこと」という動物写真家だった。佐々木さんは写真集『ぼく、となりのわんこ。』を、吉村さんが編集を担当して2005年に発表しているのだが、いまは古本を探すしかないし、早く2冊めをつくりたいけれど、「なかなか進まないんですよ~」と苦笑。最近は写真集も難しいしねと相槌を打ったら、「そうじゃなくて、粗選びして渡してくれと佐々木さんに言ってるんですが、ぜんぜん送ってこなくて」という。訳を聞いてみたら、「犬猫写真だけで100万カット以上あるので、そこから100枚とかチョイスするのが大変すぎるらしくて」と言われて絶句。1万枚に1枚か・・・(笑)。いったいどんな写真家なんだろうと、堺市のご自宅を訪ねてみた。

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archive

畜生道

佐々木まことさんの写真を見て、お話を聞いて、すごく腑に落ちた。そこらへんの犬も猫もだいたいは雑種だし、そこらへんで生きている人間もだいたいは雑種だ。佐々木さんも、僕も。けれど雑種の犬猫がペットショップで何十万円という高値で売られることはないし、『アニマルプラネット』で特集されることもまずない。そこらへんで生きている人間が、めったにメディアに取り上げられないように。2008年にBRUTUS誌が犬特集をしたときに、ふたつの記事をつくった。『畜生道』と『タイの地域犬』という話で、それは日本とタイで見た「雑種犬の生きざま」だった。ふたつとも本メルマガが始まってすぐの2012年1月にアーカイブとして再録したけれど、佐々木さんのお話を補完するような内容だと思うので、ここにもういちど掲載させてもらう。併せて読んでいただけたら幸いである。

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art

夜をかける少女

函館湾に面して、函館市の西隣にある北斗市。来年3月にはここに北海道新幹線の新函館北斗駅が開業予定(当面、北海道側のターミナル駅)・・・という情報が信じられないほど、眠るように静かな住宅地と田畑が交じり合うランドスケープが広がっている。観光地としてはトラピスト修道院があり、三橋美智也や『フランシーヌの場合』の新谷のり子の出身地でもあるのだが。2006年の町村合併で北斗市になる前は上磯町(かみいそちょう)と呼ばれていた、函館から20キロほどのベッドタウン。いかにも漁村らしい風情を残した海辺の集落の、浜からほんの数メートルという家屋の前に、強い浜風に飛ばされそうな風情で、高誠二(たか・せいじ)さんが待っていてくれた。

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photography

北京銀山

いま発売中の写真雑誌『IMA』では「ドキュメンタリーの新境地」という特集が組まれているが、その中で僕も北京在住のフランス人、トーマス・サルヴィンの作品群を紹介してる。といってもサルヴィンは写真家ではなく、リサーチャーでありコレクターでもある。彼があるとき、北京で行き当たった膨大なネガの山から発掘されたイメージの集成、それがサルヴィンの写真集『Beijing Silvermine=北京銀山』なのだ。いつもなら告知コーナーでお知らせするのだが、サルヴィンが掬い上げたイメージがとても興味深いので、ここで記事としてほんの一部分を、文章の抜粋とともに紹介したい。興味を持ってくれたら、『IMA』にはもっと多くの図版が掲載されているので、ぜひご一読を。

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fashion

雨のなかの涙――山口小夜子展をめぐって

すでに4月11日から始まっていて、今月28日には終わってしまう東京都現代美術館の『山口小夜子  未来を着る人』展。とっくに訪れたかたも多いだろう。なぜこのメールマガジンで取り上げないのか、不審に思っていたかたもいらっしゃるかもしれない。1949年生まれの山口小夜子は1972年にパリ・コレクションに初参加、翌73年には資生堂の専属モデルになった。ちょうどそのころ資生堂のCMやポスターや『『花椿』』誌で存在を知り、70年代末から編集者として外国取材に頻繁に出かけるようになってからは、トレンディな日本人の代表として行く先々でそのイメージに出会ってきた小夜子さんは、僕にとって10代後半から30代までのさまざまな体験と強烈にリンクする存在だった。おまけに2000年代に入ってからは、仕事こそご一緒できなかったものの、数回お会いして、そのいつまでたっても神秘的なルックスと裏腹な、すごくオープンマインドで積極的に若いアーティストたちと関わっていく姿に感銘を受けもした。

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photography

湯けむりの彼岸に――『雲隠れ温泉行』と村上仁一の写真

温泉が好きで、日本はもとより外国の温泉にもずいぶん入ってきたが、日本の田舎の、どうってことない温泉場に漂う独特の「彼岸感」は、ほかの国にはなかなか見つからない。いくらおしゃれな建築にしようが高級エステや豪華料理を入れようが、そんなことで真の「非日常」を演出できはしない。非日常はすぐそこに、日常のすぐ裏側にびたっとくっついているものだから。・・・そんなことを思い浮かべながら村上仁一の『雲隠れ温泉行』を2007年に初めて見て、最初はそれが現代の、若手写真家による作品とは信じられなかった。荒れたモノクロの画面は1960年代のコンポラ写真のようでもあり、ときに戦前のアマチュア写真家の作品のようでもあり、しかしそれが弱冠30歳の写真家であるという事実。それは本人の、というよりも日本の温泉が、どんなに近代化されようが拭い落とすことのできない、時代を超越した「彼岸感」にまみれたままであることを、確信させてくれるのでもあった。

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art

ラバーの炎にくるまれて

先週号の告知でお知らせしたラバー造形作家サエボーグの『HISSS』。2014年の岡本太郎現代芸術賞における岡本敏子賞・受賞展として、今週末まで青山の岡本太郎記念館で展覧会を開催中。日曜の会期末まで、これから毎日2回、着ぐるみならぬ「火ぐるみ」がインスタレーション内をうごめく予定だという。僕も先週見学に行ってみたら、予想以上にビザールかつパワフルな作品に仕上がっていたので、写真だけでもお見せしたく、もういちど紹介させていただく。

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travel

みほとけのテーマパーク

いまから10年くらい前、アジアの珍寺めぐりにハマっていた時期があった。もともと『週刊SPA!』で「珍日本紀行」を連載していたころ、夏休みやGWなどにあわせて「珍世界紀行」もやりたくなって、最初はヨーロッパを中心に回っていたのが、次第に東南アジアにも足が向いていったのが発端だった。当時はネット情報がほとんど存在しなかったので、アジアにどんな珍寺があるのか、事前にはまるでわからなかったが、バンコクで雑誌をぱらぱら見ているうちに、地獄庭園の小さな写真が目に留まり、そこからタイの珍寺めぐりが始まって、しだいにベトナム、ラオス、ミャンマー、中国本土、韓国、そして台湾へと足が向いていったのだった。

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book

元祖ブロガーとしての植草甚一

「雑学」という言葉を最初に使ったのは、とまではいかなくても世に広めたのは植草甚一だったのではないか。『ぼくは散歩と雑学がすき』が晶文社から出たのが1970年。3年後にはのちに『宝島』となる『ワンダーランド』が出て、当時中学から高校生になる僕は当然ながら計り知れない影響を受けたのだったが、それから40数年が経ち、晶文社は自社で文芸書をつくることをほとんど放棄するにいたり、宝島はポーチをくるむ包装紙としてのファッション誌製造メーカーになってしまうとは、いったいだれが想像できたろう。そして「雑学」という単語は、それにあたる英語の単語がない。「トリビア」とよく書かれるが、トリビアは「瑣末な知識」、雑学には「系統立ってはいないが、それぞれは深い知識」というニュアンスがある。それで「雑学」が日本的な知へのアプローチなどという気はないが、きわめて「植草甚一的」ではある。「互いに関連性を持たないまま深化していく知の集積」という、アカデミックでもなければ在野の碩学とも言えない、ふわふわと一か所に落ち着かない大きな脳みそのありようが、植草甚一という存在だったのかもしれない、といまになって思う。

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music

浪曲DOMMUNE、購読者限定再配信!

さる6月1日にDOMMUNEで生配信された「めくるめく浪曲の世界 ~ 黄泉がえれ、肉声の黄金郷」。おそらくDOMMUNEで初めての伝統邦楽、おそらく平均年齢最年長のゲスト、と異例ずくめの内容でしたが、思いがけない反響が開始直後からツイートラインを埋め、関係者一同驚愕・歓喜でした。「見逃して涙」「再配信熱望!」などというコメントをずいぶんいただきましたが、DOMMUNEのご厚意により、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、当日の番組をいち早く、フルで再配信いたします。宇川さん、どうもありがとう!

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art

雪より出でよ蓮の花――金谷真のロータス・ペインティング

メールマガジンを始めてからFacebookでこまめに投稿を書いたり、いろんなひとの投稿を読むようになって(なにしろ個人アカウントの友達が5000人の上限に達してるくらいなので)、そうするとFacebookはTwitterとちがって実名だから、「ネット上での思わぬ再会」というようなことが、わりとよく起きたりする。いまから2ヶ月くらい前、「秋田で絵の展覧会やります」というお知らせ投稿に、ふと目が止まった。そこには大きなキャンバスに蓮の絵を描いている画家の写真が添えられていて、彼は蓮の絵だけをずーっと描いているらしいのだが、どうも「金谷真」という名前に見覚えがある。なんだか気になってプロフィールをチェックしたら、「1977年、雑誌POPEYE創刊と同時に専属イラストレーターになる」という一行があって・・・ええ~っ、それは僕がPOPEYE編集部にいたころ、いつも顔を合わせていたイラストレーターの金谷さんなのだった。

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art

おかんアートという時限爆弾

先週のメルマガで告知したように、21日の日曜から神戸ギャラリー4で待望の『おかんアート展』がスタート。今週土曜(27日)には僕もトークをやらせていただく。ご存知のように毎週、メルマガを配信したあと、「今週はこんな記事があります」というようなお知らせをFacebookページで掲載するのだが、6月17日にアップした「おかんアート展」情報は、なんといままでのリーチ数(読んだひとの数)が2万872人! これだけの人数がメルマガ購読してくれたら、どんだけ楽かと思うと・・・涙。でも、ここまで多くの興味がおかんアートに寄せられているというのは、書いているほうとしても完全に予想外。現代美術が行き詰まっているせいなのか、世の中が行き詰まっているせいなのか。ひたすら明るくハッピーなおかんアートは、もしかしたら思いもかけぬ起爆剤になってくれるのかもしれない。

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art

春画展、東京の前に福岡で!

来る9月19日から東京・目白台の永青文庫で開かれる展覧会『世界が、先におどろいた。春画 Shunga』のニュースを、すでに耳にしたひとも少なくないだろう。ふりかえれば2013年10月から翌1月までロンドン大英博物館で開催された『Shunga sex and pleasure in Japanese art』が、約9万人の来場者を集める大ヒットとなりながら、肝心の日本への巡回(というか里帰り)がかなわず、恥ずかしい思いをしていた多くの美術ファンにとって、永青文庫での展覧会開催はうれしいニュース。大英博物館の展覧会の巡回ではなく、おもに国内のコレクションによる永青文庫独自の展覧会になるようだが、すでに記者会見も開かれ、「日本初の春画展」として話題を集めている。しかし永青文庫の展覧会の1ヶ月以上前に、実は日本で初めて公立美術館で多数の春画が系統だって展示される、画期的な展覧会が開催されることは、あまり話題になっていない。それが福岡市美術館で8月8日から開かれる『肉筆浮世絵の世界 ―美人画、風俗画、そして春画―』である。

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food & drink

サナトリウムで一服

福岡市美術館の常設展『彫刻/人形』に作品を提供していた地元・福岡のアーティスト/造形師・角孝政。毎週末に福岡郊外の『不思議博物館』館長として君臨していることはすでにご報告済みだが(2012年10月24日号)、その不思議博物館がまさかの分室『喫茶/ギャラリー サナトリウム』を6月1日にオープン! しかも場所は天神の駅から徒歩1分! 市美術館を訪れたその足で、さっそく表敬訪問してきた。天神駅を出て、ほんとにすぐ。飲食店や風俗店がごちゃごちゃかたまり、ビルの壁はグラフィティだらけ。猥雑な街の、1階がパチンコの景品交換所、2階は長年潰れたままのキャバクラという猥雑なビルの3階に、そのサナトリウムはあった・・・。

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art

家族という作品

ハルカス、ミオ、ルシアス、フープ、キューズ、ベルタ・・・これ、何語かおわかりだろうか。実はどこの国でもない、大阪の下町・阿倍野のゲートウェイである天王寺駅周辺に林立する商業ビルの名前である。いつのまに、こんなことに・・・。天王寺駅からチンチン電車(阪堺電車)の軌道に添って一路南下、阪神高速松原線が上空を通る阿倍野交差点を過ぎると、やっと昔ながらの、いかにも大阪の下町らしい風景が広がって、ほっと一息つけるようだ。「このあたりまでは、まだ再開発の波が押し寄せてきてないんです」と教えてくれたのが、高橋静香さん。彼女が代表をつとめる、築70年の長屋を改造したというアートスペース「あべのま」で今開催中なのが、『あべのま1周年記念展 祖父と祖母と父と母と姉と妹といつものこと』という、長いタイトルの展覧会だ。

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travel

圏外の街角から:北海道夕張市

ギリシャの財政危機が連日、ニュースになっている。国が倒産する、ということが現実的にいったいどういう事態を招くのか、いまひとつ実感できないけれど、日本にはその見本というか先達というか、先輩がいる。日本で唯一、「財政再建団体」の指定を受けた破綻都市・夕張だ。札幌に出張した翌日、夕方の飛行機までの空いた時間に、久しぶりに夕張の町を巡ってみた。北海道の玄関口である新千歳空港から夕張までは約40キロ、札幌からは約70キロ。しかし交通の便からして、すでに最悪。札幌から1時間40分ほどかかる直通バスが、一日わずか数本。JRも札幌、新千歳どちらからも直通便がなく、乗り換えが必要。特急を使っても2時間以上かかってしまい、けっきょくレンタカーに頼ることになる。

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art

84歳の新人アーティスト

教えてくれるひとがあって、ト・オン・カフェの前に立ち寄ったのがギャラリー犬養という場所。こちらはなんと築100年以上という民家をそのままカフェとギャラリーに改造。4年前にオープンしたばかりにはとうてい見えない、ビルの谷間の路地裏に隠れた、そこだけ時間の止まったような場所だった。オーナーであるアーティストの犬養康太さんの一族ゆかりの家というギャラリー犬養。和洋折衷の2階建て木造家屋の各部屋が、極力オリジナルの風合いを残しながらカフェや展示空間に当てられている。ゆったりお茶や酒を楽しむだけでも快適だろうが、今回の目的は開催中だった『山本英子展』を見るため。

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fashion

新連載! 捨てられないTシャツ 01 パチもんのアイラブニューヨーク

むかしむかし、スーツやドレスが、Tシャツにジーンズよりエラい時代があった。いま、ひとはTシャツを使い分けることを覚えた。無地は部屋着、お気に入りの柄Tを勝負着に、というふうに。そして捨てられないレコードや本のように、捨てられないTシャツがだれにもある。穴が開いて、ところどころ黄ばんで、丸首はよれよれで、奥にしまいこまれて・・・なのに「燃えるゴミ」には出せない、そういうTシャツが。それは燃やしてしまうことのできない、「T」のかたちをした思い出だから。

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photography

踊る水中花

池谷友秀という写真家がいる。「水中写真家」ではないけれど、人間のからだと水を組み合わせた、というより溶け合わせた写真をずっと撮っていて、その最新写真展がいま銀座ヴァニラ画廊で開催中だ(7月18日まで)。もちろん、その作品はバンコクのゲイお魚ショーなんかよりはるかに美しい。こんな書き出しをして申し訳なかったが、水というのは不思議な視覚効果があって、人間を地上とはまた別の生きものとして見せてくれる気がする。水中で光が屈折するように、常識にとらわれていた僕たちの見方をも、水は微妙に屈折させてくれるようなのだ。今回展示されている「BREATH」「MOON」というふたつのシリーズは、いずれも水中や水面上で撮影された、おもに裸の人体である。モデルは美少女だったり暗黒舞踏家だったり、身体障害者だったりするのだが、地上で見ればほとんどまったく異質なはずの人間たちが、水中で浮遊したり泡に包まれているうちに、深い部分でひとつに結ばれた存在であるように見えてくる。

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book

ヨッちゃんの教え

たまに家にインタビューに来るひとが、そこらじゅうに置いてある絵とかを見て「すごいコレクションですね~」などと言われることがある。自分に収集癖はないので、「集めてるんじゃなくて、取材してるうちに集まっちゃっただけです」というと、「そうですか」となるが、眼は納得していない。いつもいろんな作品や人物を取り上げていて、「どうやってネタを選ぶんですか」と聞かれることもあるけれど、その基準は簡単。「自腹で買いたいかどうか」に尽きる。ふつう、雑誌で記事を作るときは、まず部内のゴーサインを得て、それから取材に行く。作品や商品の写真が必要なら、借りてきて撮影する。でも僕は多くの場合、まず買ってしまう。それが取材対象に「こいつは真剣なんだ」とわからせてくれるし、なによりも「自分で買ってもいいほど記事にしたい」のか、「タダで貸してくれるなら記事にしたい」のかを見抜く、自分自身へのテストになるからだ。

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fashion

捨てられないTシャツ 02

東京都出身。いつも図鑑を持ち歩くオタク的少年時代を過ごしたのち、早稲田大学法学部を卒業。司法試験合格を目指すが、いろいろな事情で諦め家業をつぐ。家業は祖父の代から受け継ぐ自社ビルの管理。お気楽な仕事と思われがちだが、壁が剥がれたといえばペンキを塗り、雪が降れば雪かき、エアコンが壊れれば電気屋を呼ぶという便利屋(自称、代表戸締り役)として、せこせこ(?)働く日々。

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music

めくるめくお色気レコジャケ宇宙

ずっと昔に連載していたというだけで、いまも毎週送ってくれる週刊『SPA!』で、みうらじゅん&リリー・フランキーさんの「グラビアン魂」を眺めながら、ふと思う・・どうして自分はこういうグラビアアイドルに惹かれないのだろうと。それはたぶん、「幸薄く見えない」からだ。見事な身体に、見事な顔面。極小水着を食い込ませようが、縄で縛られようが、彼女たちはすべてのカットで自信にあふれ、鼻息荒くページをめくる男性読者を上から見下ろす。その行く手に、とりあえずこれから数年は立ちふさがるなにものもない(ように見える)グラビアアイドルたちに、不幸な陰はひとかけらもない。それが僕を萎えさせる。「爆音カラオケ」でおなじみの西麻布・新世界を会場に、今年5月13日に『目眩くナレーション・レコードの世界』というマニアックなイベントを開催した。いったい何人来てくれるのだろうと心配だったが、ロードサイダーズ読者も何人か参加していただき、意外なほどの盛り上がり。予想以上に楽しいイベントだったので調子に乗って(!)、来たる7月29日に早くも第2回めを開催することに決定。

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photography

写真の寝場所

早稲田大学キャンパスを取り巻く牛込から西早稲田周辺には、東京都心部のエアポケット的な空気感がある。たいした再開発が進行中なわけでもなく、昔からの家並みや入り組んだ細い道が残っていて、都心部なのに交通の便がそれほどよくないことも関係しているのだろうが、やや取り残された感が漂う。それが独特の居心地良さにつながっている。路地の奥、迷路のような住宅街のなかに、2階建ての銭湯がある。松の湯、昔から早稲田の学生に愛されてきた銭湯だ。1階はいまも盛業中だが、2階はすでに営業終了、銭湯の造作を残したまま、ギャラリー・スペースとして活用されている。そこで6月の1週間、開催されていたのが大阪の写真家・赤鹿麻耶による『ぴょんぴょんプロジェクト vo.1「Did you sleep well?」』という奇妙なタイトルの、奇妙な展覧会だった。

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fashion

捨てられないTシャツ 03

THE CARS/30歳女性(小説家)/東京都出身。標本と図鑑と天文が好きな少女時代を過ごし、高校2年生で大江健三郎とスーザン・ソンタグに出会い、文章を読むことに興味を持つ。大学では鶴屋南北の怪異について研究、その後小説家に。いまは3匹の猫を愛でながら、長編小説に取り組んでいる。

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archive

ザ・ワン・アンド・オンリー・レコードショップ――演歌の殿堂「MSダン」

先週号で野村義男=ヨッちゃんのギター・コレクションを網羅した新刊書籍『野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション』を紹介したところ、思いがけないほどの反響をいただいた。内容を紹介したFacebookの告知メッセージだけで、すでに1万3000以上のリーチ! やっぱりみんな音楽が好きなんだ、書いてても楽しいし。というわけで久しぶりのアーカイブは2008年に、いまはなきエスクァイア誌の連載『東京秘宝』で紹介した、東京屈指の演歌専門レコードショップ訪問記をお届けする。日本はもちろん、世界的に見ても東京のレコードショップはその数も質もすごいけど、廃れつつある演歌という日本固有のジャンルで「MSダン」のような、音楽魂のカタマリのような店が生き残っているのは、うれしいかぎり。取材からすでに6年以上が経過しているが、もちろん現在も盛業中。音楽はこんなふうに、僕らと一緒にいてくれるものなのだ。

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lifestyle

アナーキーゲイシャ・キス・キス!――エロチカ・バンブーの踊り子半生記 前編(写真:多田裕美子、都築響一)

ラブホテルと外人売春婦と熟女風俗・・・東京でいちばん魑魅魍魎が跋扈する街のひとつである鶯谷に降り立つ。駅から徒歩1分、1969年にできたグランドキャバレー・ワールドは、いまでは東京キネマ倶楽部という名のライブハウスになっているが、5月16日の今夜だけはグランドキャバレーの残り香が、ほんの少し帰ってくる。バーレスクやピンナップ・カルチャーを発信するウェブサイト「BAPS JAPON」5周年イベントとして、人気バーレスク・ダンサーたちが集結する『バーレスク・オー・フューチャラマ(Burlesk-O-Futurama)』が開催されるのだ。

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travel

バーレスクの歴史遺産を訪ねて

エロチカ・バンブーの記事で触れたように、バーレスクの発祥地であるアメリカには、その歴史を紐解く上でいくつか重要な場所がある。そのうち2ヶ所を『ROADSIDE USA』で訪ねているので、ここに再録しておく。いずれも写真集に収録済みだが、画像など大幅に増やしているので、本をお持ちの方もよかったらご覧いただきたい。ただし、最初に紹介する『エキゾチック・ワールド』は2007年からラスヴェガスにに移転、現在は『バーレスク・ホール・オヴ・フェイム』と名を変えて継続している。バンブーさんが話していたディクシー・エヴァンスは2013年に死去。かつてのヘレンデールの建物は、すでに廃墟になっているという。

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photography

林忠彦の戦後

林忠彦といえば、瞬間的に頭に浮かぶのは銀座の酒場でご機嫌の太宰治だったり、汚部屋で原稿用紙に向かう坂口安吾だったりする。その林忠彦が1955年にアメリカを訪れ、大量のスナップ写真を残していたことを、今回初めて知った。7月31日に出版されたばかりの写真集『AMERICA 1955』がそれで、品川のキャノンギャラリーではそのプリントと、林忠彦の代表作のひとつである『カストリ時代』のシリーズを並置した、興味深い構成の展覧会が開催中だ。

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fashion

捨てられないTシャツ 04

プーケットのダイビングショップTシャツ/年齢秘密女性(義足モデル兼ブラジリアンワックス店経営)/目立ちたがりやだけど、恥ずかしがりやな少女時代。昔を知ってる友達はたぶん、静かな子って言うと思う。14歳のときに骨肉腫を患い、右足を大腿部から切断。そこから義足生活が始まった。5年ほど前にアングラ専門のキャスティング会社と出会い、義足モデルとして活動開始。モデル活動が1年を過ぎたころ、もうすこし自分の売りを作ろうとブラジリアンワックスの資格を取り、2カ月後に開業。現在も二足のわらじで楽しく暮らしている。

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art

精液と糞尿のスペース・オデッセイ  ――三条友美「少女裁判」によせて

「百日紅」はふつう「さるすべり」と読むが、この店は「ひゃくじつこう」。見かけも、ドアを開けても一見ふつうの喫茶店だが、展示のラインナップは耽美、フェティッシュ、グロテスク、そしてエロチカに特化した、きわめてビザールかつ「喫茶店らしくない」メニューだ。今年4月末から5月にかけては伝説のエロ劇画家ダーティ・松本の個展が開催され、上品なインテリアと着物姿のママさんと、ハーブティーの香りと(この店はハーブティーが売り!)、股縄バレリーナのようなどエロ展示作品とのミスマッチに絶句させられた。そのカフェ百日紅で8月20日から2週間だけ開催されるのが、ダーティ・松本展以上にどエロでグロテスクで、ミスマッチ感にあふれること確実なハードコア・エクジビション『三条友美 処女個展 少女裁判』である。劇画家・三条友美のことを、どう説明したらいいだろう。知っているひとはずっと静かに愛読してきたろうし、知らないひとは一生知らないままで終わるはずの、まさしく孤高の漫画家にして、エログロ官能劇画のダークスター。すでにキャリア40年近くにおよぶ大御所でありながら、本名も年齢も顔写真も非公開、インタビューすらめったにないというミステリアスな存在。

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lifestyle

アナーキーゲイシャ・キス・キス!  ――エロチカ・バンブーの踊り子半生記 後編

先週号でフィーチャーしたベテラン・バーレスクダンサー、エロチカ・バンブー。現在はベルリンを拠点に、ヨーロッパ、アメリカ、日本の舞台から舞台へと飛び回っている。白虎社の舞踏を通じて肉体表現に目覚めていった、若き日の彼女。舞踏団の資金を稼ぐために日本各地のステージでフロア・ダンサーとして踊り、旅する生活が始まった。93年に白虎社が解散した後は東京に移住。そのあたりから「旅する踊り子生活」が本格的に始まっている。ダンサーの地方巡業がちゃんと商売になっていたのは、80年代なかばから90年代初めごろまで。エロチカ・バンブーが巡業生活を始めたころには、すでにキャバレーも、フロア・ダンスも衰退の一途をたどっていたが、それでもまだ、いまよりはるかにダンサーが踊れる場所が日本の隅々に残っていた。2000年前後に彼女は『踊り子日記』という、各地で踊っていた時代の記録を残している。今週はフロッピーディスクを復元した原稿から抜粋した、「ステージから眺めた日本の夜の風景」をご紹介しよう。なお、ところどころ添えた店舗写真は、いくつかのグランドキャバレーを僕が過去に撮影したもの。文章と対応しているものではないことを、あらかじめお断りしておく。

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fashion

捨てられないTシャツ 05

ボアダムス/40歳男性(フリーライター、編集者)/奈良県出身、高校で男子校に進学するが、運動部が強い進学校のノリについていけず、寺山修司と出会ったことによりアングラの世界にハマる。女子と一言も話さない3年間に不安を覚え、あえて1浪。予備校近くにあるレコード屋に通うようになるうち、大阪アンダーグラウンド・シーンにどっぷりと。大学卒業後、東京のレコード会社に就職するも、東京に馴染めず1年で退職。その後、インディーズのレコード会社、編プロを経てフリーに。いまは猫2匹と都内に暮らし、カレーの食べ歩きが唯一の楽しみ。

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art

詩にいたる病  ――安彦講平と平川病院の作家たち

薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された数枚の絵。それは白地の大きな画面に、Tシャツやズボンなどの洋服が黒い縁取りを伴う白ヌキの平面として浮かび上がる図柄なのだったが、一見エアブラシかパソコンの切り抜き処理のように思えるその画面は、よく見ればすべて鉛筆で洋服の周囲を塗りこめた「切り抜きふう手描き絵画」だった。杉本たまえさんという、その作家に出会ったのは今年3月、近江八幡NO-MAが主催した大規模な展覧会『アール・ブリュット☆アート☆日本』の会場だった。たくさんの出品作家のうちでも、彼女のことが強くこころにひっかかって、東京に帰ってから調べてみると、2009年に第1回展を開催以来、1~2年に一度開かれる『心のアート展』という展覧会に何度も出品していて、ちょうど今年も6月17日から5日間、池袋の東京芸術劇場で開かれることがわかった。

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するめクラブ熊本編・写真日記

すでに告知したように、いま発売中の『CREA』誌(文藝春秋刊)の巻頭特集『本とおでかけ』に、『村上春樹 熊本旅行記』が掲載されている。24ページの特別寄稿、すでにお読みいただけたろうか。9月7日には次の号が出てしまうので、古書店で探す羽目にならないよう、ご注意されたし!今回の企画は2004年に単行本が出た『東京するめクラブ』の、11年目の特別リユニオン編として実現したもの。当時は村上さん、吉本由美さん、僕の3人で世界と日本の辺境、ではなくツウがばかにする場所をさまよい、3人で分担して原稿を書いたけれど、今度のリユニオンは村上さんがすべての原稿を執筆、僕が写真、地元在住の吉本さんが案内人、という役割で、のんびり熊本エリアを旅してきたのは、先週の告知でお伝えしたとおり。今回はCREA本誌でお見せできなかった膨大な写真を再構成した、「するめクラブ熊本編・写真日記」をお届けする。

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キャバレー白馬と八代亜紀の夜

前記事の「するめクラブ熊本編・写真日記」で触れたように、八代(やつしろ)には『キャバレー白馬』という由緒正しきグランドキャバレーが、いまも生き延びている。シャッター商店街が続く八代中心部の一角に、こんな昭和遺産が現存していたとは。『商店建築』誌の連載取材で『キャバレー白馬』を初めて訪れたのは2009年のことだった。そして今年2015年、「するめ旅」の途中で寄ってみた八代で、まだ白馬がいまもそのままあるのを、この目で確かめることができた。キャバレー白馬はまた、地元出身の大歌手・八代亜紀を生んだ場所でもある。以前『アサヒ芸能』誌でインタビューした記事から、そのストーリーを引用してみよう。

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捨てられないTシャツ 06

シャネルN°5/36歳女性(フリーライター)/佐賀市出身。海外ペンパルとの文通に勤しむ中高時代を経て、東京外国語大学に進学、ロンドンに留学。しかし間もなく家賃が払えなくなり、半年先の帰国までをバックパッカーで過ごす。卒業後はかねてより憧れていたコレクション取材記者となり、29歳で妊娠が発覚するまで世界を飛び回る。現在はフリーランスのライターとして、主にファッション&ビューティ分野でだらだら執筆中。

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ライブ・アット・ニュージンジャーミュージアム

栃木県、というと餃子の宇都宮だったり東照宮の日光だったり、観光スポットはいろいろあるが、宇都宮、小山につぐ第3の都市・栃木市はなんとなく影が薄い。市街中心部には蔵造りの家屋がずらりと並び、なかなか風情もあるのだが・・。そんな栃木市でいま、にわかに注目を集める新観光スポット、それが『岩下の新生姜ミュージアム』。今年6月20日にグランドオープンを迎えたばかりだが、すでにテレビや新聞・雑誌でご覧になったかたも多いのでは。「都築さんにとっては秘宝館みたいなもんでしょ?」とニヤニヤしながら迎えてくれたのが、岩下食品社長兼ミュージアム館長の岩下和了(いわした・かずのり)さん。1966年生まれ、今年49歳の社長さんだ。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 01 名倉要造

先週お送りした安彦講平さんと平川病院の作家たちの物語、いかがだったろうか。今週からは予告のとおり、ひとりずつ作家たちの人生と作品を紹介していく。そのトップバッターが名倉要造。1946年生まれ、今年69歳。安彦さんとはもう40年以上、作家の中でもいちばん長い付き合いだという。2004年に発行された『名倉要造作品集』(夜光表現双書、行人舎刊――この双書は安彦さんらが立ち上げた自費出版プロジェクト)のなかで、安彦さんはこんなふうに名倉さんのことを紹介してる――。

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fashion

捨てられないTシャツ 07

マクドナルド/33歳女性(エッセイスト・タレント)/東大阪で生まれ、7歳で兵庫へ。もともとマンガは好きだったが、小学校6年生のときに出会った『幽遊白書』をきっかけにドハマり、漫画家を夢見るようになる。その後、14歳で宮城へ引っ越し。中高は女子校でさえない感じ。サブカル好きだったが、オタクと思われるのが嫌で、自分が「萌え」の感情を持つマンガはこっそり読んでいた。同時に高2からギャルに憧れ、ラブボートやアルバローザを着るように。

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art

ずぼらなノンケの中年人形

今年4月8日配信号で「猫塊の衝撃」として紹介した、巨大な猫の球をロウ人形で作った横倉裕司さんは、2014年のヴァニラ大賞・大賞受賞者だった。「エロティック、フェティッシュ、サブカルチャーのアートに特化した」銀座ヴァニラ画廊の公募展には、かなり風変わりな作品が集まってくる。美術評論家の南嶌宏、美術史研究家の宮田徹也両氏とともに審査員をつとめる僕にとっても、毎年楽しみな仕事だが、来週8月31日から1週間だけ開催されるのが、『第三回ヴァニラ画廊大賞・審査員賞受賞者展』。今回は南嶌宏賞の松本潤一さん、宮田徹也賞のT.HAMAさん、ヴァニラ症の田村幸久さん、それに都築響一賞の柴田高志さんの4名による合同展覧会だ。

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詩にいたる病――平川病院の作家たち 02 江中裕子

東京八王子の精神科病院・平川病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の名倉要造に続いて、今週は江中裕子の作品を見ていただく。〈造形教室〉を取材した8月19日号の記事『詩にいたる病』で、トップに置いた夏目漱石のコラージュ肖像画、その作者が江中裕子さんだ。安彦さんによれば、平川病院の入院中に出会った江中さんは、小さいころから家庭内の葛藤に巻き込まれ、小学生時代からいじめにも遭い、就職した会社の過酷な仕事環境によって精神に変調をきたし、入院こそしていないものの、いまだに通院が欠かせない状態だという。

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捨てられないTシャツ 08

アバークロンビー/38歳男性(アパレル会社勤務)/岩手県出身、小学校低学年のころリカちゃん人形を裸にして遊んでいたら、それを見た家族からヤバいと思われ、家族会議の結果すべて取り上げられる。しょうがないので、それ以降は自分で少女漫画を描き出す。岩手出身ということもあり、憧れは池野恋。高学年で自分に才能がないことを自覚し、漫画の参考に買っていたファッション雑誌から洋服に興味を持つ。当時のブームはアイビー系とストリート系、藤原ヒロシの影響が大きい。

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エロパイプのけむり(写真・文:{さや鼻})

UFOおじさん景山八郎から神霊歌手・青樹亜依、宇川直宏まで異常なミックスのグループ展『スピリチュアルからこんにちは』にあわせて、7月19日に福山・鞆の津ミュージアムでトークをやらせてもらった。ずいぶんたくさんのかたに参加していただき感謝感激だったが、トークから少したってそのうちのひとりから、「あのあと尾道に寄って、おもしろいおっちゃんと遭遇しました!」と報告をいただいた。レポートの主である{さや鼻}さんは大阪在住。Facebookのメッセージに続いて更新されたブログを読ませてもらうと、めちゃくちゃおもしろい! 鞆の津ミュージアムのスタッフに見せると、「隣町みたいなものなのに、全然知らなかった!」と唖然。

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art

開催中&まもなく開催の展覧会、一挙紹介

9月になると展覧会が集中するのは、やっぱり「芸術の秋」だからなのか・・こっちは「食欲」だけど。本メルマガで紹介してきた作家たちを中心に、今週は3本の展覧会をまとめて紹介します!/村上仁一『雲隠れ温泉行』@ガーディアン・ガーデン/三条友美 処女個展 少女裁判@カフェ百日紅/横倉裕司展「輪郭を描く」@ヴァニラ画廊

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movie

ヴィヴィアン・マイヤーを探して

この数年でもっとも話題になりながら、なぜか日本ではいちども展覧会が開かれず、輸入された写真集は大人気でありながら日本版が出版されることもない、知る人ぞ知る存在だった写真家、それがヴィヴィアン・マイヤーだ。メールマガジンでもずいぶん前から紹介したかったのだが、種々の理由でなかなか実現できないでいた。すでに各メディアで告知記事を読まれた方も多いと思うが、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門(第87回、今年2月開催)にもノミネートされた映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』が、10月10日からの渋谷シアター・イメージフォーラムを皮切りに、各地で公開される。まさに待望!のリリースだろう。

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book

穴があればハメてきた――「顔ハメ看板ハマり道」

旅はひとりに限る――とは思うが、ひとりで旅するのが哀しくなるときもある。顔ハメを撮りたくて、「シャッター押してください」と頼めるひとが通りかかるのを、じっと待っている時間だ。日本の、世界の片隅で、これまでどれほど、そんな情けない時間を過ごしてきたろうか・・・。「顔ハメ看板ニスト」の肩書を持つ塩谷朋之(しおや・ともゆき)さんは、おそらく日本でいちばん「顔ハメにハマった男」だ。これまでハマった穴が2千枚以上! 感動的でありつつ、だれもが絶賛はしないかもしれない、その成果の集大成が8月末に発売された『顔ハメ看板ハマり道』である(自由国民社刊)。

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fashion

捨てられないTシャツ 09

デュランデュラン/33歳女性(ゲーム会社勤務)/アニメのセーラームーンをきっかけにオタクの世界に足を突っ込み、その後、幽☆遊☆白書でどっぷり。小学校後半からは隣駅のアニメイトに毎日自転車で通う。アニメイト各店には交流の場としてノートが置いてあり、そこで同じようなアニメが好きな、学校とは別の友達が増えた。中学に入ると今度は雑誌『QUICK JAPAN』を読み出し、音楽が好きに。最初はオザケン、コーネリアス、電気グルーヴ。そこからテレビの歌番組を見るようになり、ビジュアル系にハマる。

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art

詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 03 石原峯明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載、先週の江中裕子に続いて、今週は石原峯明の作品を見ていただく(先週までは「平川病院の」と連載タイトルをつけていたが、これから東京足立病院でおもに制作する作家も紹介していく予定なので、今週から変更させていただいた)。まず、予備知識なしにこの絵を見ていただきたい。鮮やかな色彩と、ピカソやホアン・ミロを思わせるような画想が、100号(162x130センチ)の大画面に踊っている。これが76年間の人生のうち、のべ40年近くを精神病院で暮らした男の、死の4年前、72歳で描いた作品だと、だれが想像できようか。

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photography

佐世保の夜の女と男――松尾修『誰かのアイドル』

見るだけで行った気になる写真と、見てるうちに行きたくてたまらなくなる写真がある。この6月に発表されたばかりの写真集『誰かのアイドル』をAmazon経由で手に入れて(自主制作なのでウェブか限られた書店でしか手に入らない)、僕は眼を見張るというより腰が浮く思いで、ウズウズを抑えかねた。『誰かのアイドル』は佐世保出身の写真家・松尾修が個人で進める「サセボプロジェクト」の、2冊めとなる出版物。去年(2014)11月には『坂道とクレーン』と名づけられたタブロイド式の写真集を、1冊めに発表している。

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art

組み立て式の女――植野康幸『現代女子図絵』

神田駅前に広がる混沌空間を抜けた先にある丸石ビルは1931(昭和6)年竣工、有形文化財に指定されている美しい西洋風建築。その3階にある日本に数少ないアウトサイダー・アート/アール・ブリュットに特化したギャラリー「YUKIKO KOIDE PRESENTS」では、いま『植野康幸 現代女子図絵展』を開催中だ(25日まで)。植野康幸(うえの・やすゆき)は1973年生まれ。1歳になっても言葉を発せず、重度の自閉症と診断される。大阪市立難波特別支援学校を卒業し、アトリエ・コーナスに通うようになった。

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fashion

捨てられないTシャツ 10

トニーそば/46歳男性(アパレル会社勤務)/ちょうどバブルの終焉と共に大阪芸大を卒業、就職活動をいっさいしていなかったため、そのまま無職に。その後、大阪の有名なソウルバーで働き始める。そこから服飾販売、運動靴の企画販売を経て、現在はジーンズアパレル会社で企画を担当。

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book

オブジェクト・レッスンズ:科学の墓場から

指名手配の容疑者を探すのに使われるモンタージュ。街頭でよく見かけるあれには写真と似顔絵があるが、実は写真よりも似顔絵のほうが容疑者を見つけやすい、と聞いたことがある。生物図鑑の図版も、いまだに絵のほうが写真より使いやすかったりする。創作活動ではなく、完全に実用的な絵画。それはある意味で視覚的な取捨選択をあらかじめ行うことで、見るものの意識をいくつかの特徴にフォーカスさせる効能があるのだろう。写真のようにすべての部分を等価に写すのではなく、「この部分を注視すべき」と画家が選ぶことによって。『珍世界紀行』などで、これまでヨーロッパの医学標本を何度か紹介してきた。ずっと以前にアートランダム・クラシックスというシリーズで、人体解剖図の画家として有名なジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティの画集を編集したこともある。見てくれたひとはどれくらいいるだろうか。

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art

詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 04 保護室の壁画

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今週は1980年代に安彦さんによって記録された、貴重な作品をご覧いただく。この連載を始めるにあたって参考にさせてもらった著書『“癒し”としての自己表現』(2001年、エイブル・アート・ジャパン)の中で、とりわけ印象的だった箇所がある。それは閉鎖病棟の保護室に収容された重症患者が、差し入れられた絵の具を使って部屋中を絵で埋め尽くしたという、ちょっとした「事件」だった。病院側からすれば、それは困惑せざるを得ないエピソードだったろうが、彼(書中では「Iさん」と呼ばれている)の作品を見た安彦さんは、エネルギーの迸りに驚愕、その場で申し出て写真とビデオによる撮影記録を残すことになった。

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fashion

捨てられないTシャツ 11

カーミット・クライン/32歳男性(オルタナティブ建築家)/東京生まれ、10歳で親元を離れ、箱根で寮生活を行う。3年後に新宿へ舞い戻り、映像と音をコラージュしたノイズ作品の制作を始めた。当初は女性用スクール水着を着用し、肛門にホースを刺し脱糞する等の過激なパフォーマンスに明け暮れていたが、23歳のころにバンドを結成。以後、奇行に走っていた全エネルギーをバンドに注ぐようになる。

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travel

タナベ昭和館のこと

羽田から松山行きの飛行機に乗って、空港からバスでJR松山駅へ。そこから特急宇和海に乗って1時間ちょっと過ぎたころ、トンネルを抜けた先にいきなり海が広がる。また宇和島に来れたな、としみじみ思う。大竹伸朗くんのアトリエがあるので、宇和島には1年か2年にいちどは訪れるが、全国的に宇和島はどれくらい知られているのだろうか。「フェリーで行くんですか?」と、宇和島を島だと思ってるひとにも、これまでずいぶん会ってきた。人口9万人近い宇和島には「伊達十万石の城下町」というキャッチフレーズがついているが、例によって駅前商店街の疲弊ははなはだしい。

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food & drink

酒を聴き、音を飲む ―― ナジャの教え 04

地元の人間がさまざまな感情を込めて「尼」と呼び習わす兵庫県尼崎の周縁部・塚口にひっそり店を開く驚異のワインバー・ナジャ。独自のセレクションのワイン、料理、音楽の三味一体がつくりあげる至福感。喉と胃と耳の幸福な乱交パーティの、寡黙なマスター・オブ・セレモニー、米沢伸介さんによる『ナジャの教え』。第4夜となる今回はおだやかな秋の宵に、かすかに不穏な空気感をブレンドするミックスを披露してくれた。

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art

モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・前編

すでに告知でお知らせしてきたように、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会が開かれている(来年3月13日まで)。昨年秋の南仏における『MANGARO』『HETA-UMA』展に続き、見世物小屋の絵看板コレクションで僕も参加しているこの展覧会は、パリで発行されているアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年に第1回が開催され、2013年の第2回展は本メルマガの2013年8月21日号で紹介している。その記事の中で『モンマルトルのアウトサイダーたち』と題して、こんなふうにアル・サンピエールと『HEY!』のことを書いた――

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fashion

捨てられないTシャツ 12

レイ・ミステリオ/36歳男性(音楽プロデューサー/ベーシスト/漫画家)/田んぼに囲まれたのどかな田舎に生まれる。小学生のころから足が早く、中学校では陸上部に入る。種目は3,000メートル。部活以外することがなかったので練習に打ち込むが、そこまで真面目でもないし、途中で膝も悪くなったため、陸上では目が出ないと徐々に諦めの気持ちに。中学生のときは尾崎豊など聴いていたが、高校生になるとブランキー・ジェット・シティやミッシェル・ガン・エレファント、洋楽ではNIRVANA、GREEN DAY、OFFSPRINGなどロック系を聴くようになった。友達とバンドを組むが、ギターはやりたいひとが多くやらせてもらえなかったので、ベースを始める。

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art

詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 05 本木健

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。教室の参加者たちによる展覧会で、毎回ひときわ暗い色調の大きな画面で壁を埋める、本木健(もとき・たけし)の作品を研修は紹介する。水道の蛇口を止めたはずなのに、灰皿の吸い殻を捨ててはずなのに、ドアの鍵を締めたはずなのに、また確認せずにはいられない。だれにも多少はそういう経験があるかと思うが、本木さんはその不安と恐怖が日常生活に支障をきたすほど悪化した、重度の強迫性障害に長年苦しんできた。

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モンマルトルのベガーズ・バンケット――『HEY! ACT III』誌上展・後編

先週に続いて、9月18日からパリのアウトサイダー・アート専門美術館アル・サンピエールで『HEY! Modern Art & Pop Culture / ACT III』と題された興味深い展覧会のリポート後編をお送りする。パリで発のアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門誌『HEY!』がキュレーションするグループ展。2011年の第1回、2013年の第2回展に続く、本展が第3回。もとは市場だったという大きな建築の2フロアに、60名以上の作家によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている。今週は2階フロアに展示されている作家のうちから、個人的に気になった作品を紹介してみる。展覧会は3月まで続くので、機会があればぜひ会場に足を運んでいただきたい。先週書いたように、アートを金持ちのおもちゃではなく、ほんとうに生あるものにしたいと願う人間たちが、いまこんな最前線にいるのだということを体感していただきたいから。

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music

旅姿浪曲娘――港家小柳一代記

先週告知した「浪曲DOMMUNE vol.2」は、いよいよ本日(10月14日)配信! そして6月の第1回と同じく当夜のトリを勤めていただく、今年が芸歴70周年(!)の港家小柳師匠を追ったドキュメンタリー『港家小柳 IN-TUNE』は、来週19日から渋谷アップリンクで上映開始。ベテラン浪曲ファンはもちろん、先のDOMMUNEで「明治が生んだ最強のハードコア・ストリートラップ」ともいえる浪曲の魅力に打ちのめされた初心者ファンも、今月はあらためて小柳師匠の、88歳とはとうてい信じられない、恐ろしいほどエネルギッシュな芸に酔いしれていただきたい。70年におよぶ芸歴を誇りながら、港家小柳の浪曲はかつて、それほど東京や大阪の浪曲ファンになじみのあるものではなかった。ドキュメンタリーが撮影された去年の浅草木馬亭における舞台が、「芸歴69年にして初の独演会」だったという事実が、それを如実に示している。

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fashion

捨てられないTシャツ 13

白川郷/26歳男性(ベーシスト)/江戸川区生まれ。ゲームよりも外で遊ぶのが好きで、缶蹴りや鬼ごっこのようなスポーツ以外の遊びに熱中する子供だった。小学校高学年になると、「モーニング娘。」と「19」にハマり、楽器を演奏するように。最初はブルースハープのようなハーモニカ、その後おじいちゃんの家においてあったアコギを手に取るように。地元の中学校に進学し、軟式テニス部に入部。ハタチくらいのお兄さんたちが駅前で弾き語りをしているのを見て、19の影響もあり、僕らもやってみようと友人と二人で弾き語りを始める。オリジナル曲もあったが、その地元のお兄さんや学校の先生がくれた曲なども演奏していた。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 06 奥村欣央

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はそのなかでも異色の作家、奥村欣央(おくむら・よしお)の作品を紹介する。奥村欣央は1965年生まれ、東京都立芸術高校の日本画科を卒業した、つまり専門のトレーニングを積んだアーティストである。そして実は、安彦さんの〈造形教室〉のメンバーでもない。足立区が主催する、区内の精神科病院や障害者施設を紹介する催しでの作品展示コーナーで安彦さんと奥村さんは1997年に出会い、それからは毎年の『“癒やし”としての自己表現展』での常連参加アーティストとなっている。

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機械仕掛けの見世物小屋――ジルベール・ペールのアトリエから

先週まで2週にわたって、パリのアル・サンピエールで開催中の展覧会『HEY! ACT III』についてお伝えしてきた(『モンマルトルのベガーズ・バンケット 前・後編』)。60名以上によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている中で、ひときわ奇妙なユーモアを漂わせ、動きのある作品を出展していた数少ない作家がジルベール・ペール。1947年生まれ、みずからを「エレクトロメカノマニアック=電気機械マニア」と呼ぶ、風変わりなフランス人アーティストである。現代美術でもあるけれど、機械による演劇でもあり、スペクタクル=見世物でもある彼の作品に、これまで日本ではほとんど接するチャンスがなかった。今週はパリ郊外のアトリエを訪ね、インタビューを交えながら過去20年以上にわたる作品群を紹介してみたい。

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東京駅のアリスたち(写真:山田薫)

1988年に誕生し、1997~98年ごろからロリータ・ファッションに専念するようになった「ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト」は、いまや全国各地に20数店舗を展開、パリ店、サンフランシスコ店、ニューヨーク店と、海外にも影響力を広げている。毎回のお茶会にも海外からファンが参加するようになったし、パリから上海まで、海外のファンによる現地お茶会も増えている。日本のハイファッション・メディアが取り上げることはないけれど、「ロリータ」「ゴシック・ロリータ」はすでに日本発の世界的なトレンドとして、しっかり根付きつつあるのだ。コアなファンが「本部お茶会」と呼ぶ、ベイビーのお茶会の第6回目が、9月21日に前回と同じく東京ステーションホテルで開催された。今回のテーマは『BABY仕掛けの♡Fairy tale♡ ~pop-up Labyrinth~へようこそ』。ポップアップとは「飛び出す絵本」のことで、それは一冊の絵本を開くことから始まる物語という設定の、お茶と食事とファッションショー、そして幸運にも参加できた120名のファン同士の交流を深められる濃密な時間だった。

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movie

浅草が発情した日――SODプレミアム・イベント密着記(写真:多田裕美子)

9月11日、浅草で『SODプレミアムフォトラリー』『SODプレミアムナイトin浅草』という2つのイベントが開催された。SOD(ソフト・オン・デマンド)は言わずと知れた老舗AVメーカー。正統派美女をフィーチャーしたものから、時にはシュールですらある実験的作品まで、時代をリードするコンテンツを制作・販売してきて、今年がちょうど創立20周年にあたる。今回のイベントはSODのDVD作品を購入し、ポイントを貯めた上位1000人を招待して、浅草の遊園地花やしきを一夜貸し切り、女優120人とともに大パーティを開こうというクレイジーな企画。さらに昼間は浅草のさまざまな店舗に人気女優を配置。参加者は自由に写真撮影を楽しめ、同時にスタンプを集め、それが規定数に達した先着50名が、花やしきのパーティに参加資格を得るという・・・浅草が鼻息荒い男子たちに占領された一日だった。

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捨てられないTシャツ 14

乱一世/44歳女性(喫茶店経営)/浅草でホットケーキが美味しい店として知られる小さな喫茶店「珈琲 天国」をひとりで切り盛りする店主。もともと文化服装学院からアクセサリーの会社に入ったが、ほどなく神保町のマニアックなCD&DVD屋に転職。20代でカフェ・ブームを体験し、「いつかは自分でも」と思いながら10年が過ぎたころ、ついに開業を決意。「ホットケーキが似合う街」を探して人形町か浅草に的を絞るものの、人形町では物件に巡り合わず、浅草を歩くうちに現在の店の前を通りかかり、「貸店舗」の札を見て即決。今年6月で10周年を迎えた。Tシャツは往年の人気深夜テレビ番組『トゥナイト2』で人気絶頂、しかし「トイレはCMの間に」発言でどん底に叩き落された乱一世のTシャツ。20代中頃、渋谷のTシャツ・ショップで購入したもの。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 07 島崎敏司

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は島崎敏司(しまざき・さとし)の作品を紹介する。島崎敏司は1957年、八王子生まれ。1988年に丘の上病院に入院したというから、31歳のときだったろうか。しかし4年にわたる入院期間のうちに、「絵を描こう」とは思いもしなかった。初めて画用紙に向かうことになったのは、退院後にデイケアに通うようになって2年近くたってからのこと。いったい彼の内面に、そのときどんな衝動が生まれたのだろう。

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単眼少女たちのいるところ

この夏のもっとも暑かったころ、ろくに冷房の効かない幕張メッセのワンフェス会場に充満する甘酸っぱいオタク臭に意識を失いかけながら、まるで知らないアニメのフィギュアが何百と並ぶ展示に辟易としはじめたころ、ひとつのブース前で動けなくなった。だれもいないテーブルの上に、美少女の被り物が置いてあるのだが、それは巨大な一つ目の美少女なのだ。そこだけひんやりとした空気が流れるようでもある、一つ目小僧ならぬ一つ目小娘に見とれていると、ブースの主の仲間らしき男子が、「いまいないんですけど、こんなのもあります」と薄手の写真集を見せてくれた。『chimode』というタイトルのそれを購入して帰ったものの、表紙からしてあまりのインパクトに「だれがこんなのつくってるんだろう!」と会ってみたい気が抑えられなくなって、連絡をとってみた。作者の小沢団子(おざわ・だんご)さんは、被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい女の子だった。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 08 杉本たまえ

8月にこの短期集中連載を始めたときに、そのきっかけとなった作品との出会いのことを書いた。それは近江八幡NO-MAが主催した『アール・ブリュット☆アート☆日本』展の、会場のひとつとなった薄暗い民家の奥座敷に、浮かび上がるように展示された杉本たまえの作品だった。東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回はその杉本たまえの作品を紹介する。

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捨てられないTシャツ 15

九州芸工大準硬式野球部/52歳女性(不動産管理)/福岡県出身。博多のど真ん中で生まれ育ち、九州芸術工科大学(現在の九州大学芸術工学部)に進む。女性ながらメカ好きで、専攻は工業設計。卒業後は自動車メーカーに7年間勤務、そのあと京都のギャラリーに7年間勤め、現在は実家の保有する不動産管理を担当している。「どんな楽な仕事かと思って(博多に)帰ってきたら、もう大変で・・・水漏れとか鍵の紛失とか、細かすぎる対応にせこせこ働きまくる毎日です」。

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写真のマジック・リアリズム――『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を見て

フライヤーを壁に貼っておいても、グーグルカレンダーに書き込んでおいても、なかなか気になる展覧会ぜんぶには行ききれない。この11月8日で終わってしまうクリスティーナ・デ・ミデルの写真展『ブッシュ・オブ・ゴースツ』も、ほんとうはもっと早い時期に紹介しておきたかったが果たせず、ぎりぎりのタイミングでのお知らせになってしまった。クリスティーナ・デ・ミデルは1975年スペイン生まれ、メキシコ在住の写真家である。彼女の作品に出会ったのは数年前になるのだが、それは『The Afronauts』と名づけられた奇妙なシリーズだった。「アフロノーツ」は「アフリカ」と「アストロノーツ」を混ぜあわせた造語。

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明るさも暗さも底なしの国で――BEAUTÉ CONGO展@パリ・カルティエ財団

先週、ふたつの展覧会を観に、パリに行ってきた。今週、来週とその紹介をしたいのだが、今週はまずカルティエ財団で開催中の『BEAUTÉ CONGO 1926-2015 CONGO KITOKO』にお連れする。アフリカというと、どうしてもプリミティブ・アートに偏った紹介になりがちだが、本展はタイトルどおりコンゴの近代美術を体系的に展示する、画期的な展覧会である。ちなみにタイトルにある「KITOKO」とはコンゴの言葉(リンガラ語)で「美しい」「きれい」などを広くあらわす表現。「かわいい」や「おいしい」にも使えるそうなので、覚えておくといつか役に立つかも。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 09 佐藤由幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は佐藤由幸の作品を紹介する。平川病院の〈造形教室〉を初めて訪れたとき、すらっとした青年が大きなスケッチブックを、はにかみながら見せてくれた。柔らかな物腰と、紙の上に描かれている激しい感情の表出。そのギャップの大きさに驚いた。それが佐藤由幸さんだった。佐藤由幸、1973年生まれというから42歳になるはずだが、とてもそんな歳には見えない、若々しいルックスである。

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捨てられないTシャツ 16

GAP/67歳女性(著述業)/熊本県生まれ。子どものころから映画が大好き。「悲しみよこんにちは」のジーン・セバーグや、オードリー・ヘップバーンのボーイッシュなスタイルなど、映画に出てくるファッションにすごく憧れたものの、地元にはそんな洋服を売っているお店がないので、母親に頼んで作ってもらったりしていた。高校を卒業したら早く家から出たいと思っていたが、まったく勉強していなかったので大学は諦め、試験のなかったセツ・モードセミナーに入学。

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路地裏のビンテージ・エロ――フランス最後の成人映画館ル・ビヴァリー潜入記

メトロのボンヌ・ヌーヴェル駅を降りると、目の前にアールデコ様式の巨大な映画館がそびえている。「Le Grand Rex(グラン・レックス)」は1932年に開館、収容人数2700~2800人を誇るパリ最大の映画館だ。そのレックスから徒歩30秒、カフェ脇の小路を入った先に客席数90、サイズから言えばレックスの1/10どころか1/100くらいの「ル・ビヴァリー(Le Beverley)」がある。こちらはフランスで唯一、1970年代から80年代にかけてのフランス製ポルノ映画を、いまも35ミリ・フィルムで上映し続けている「成人映画館」。フランスではすでに1990年代に35ミリ・ポルノ映画最後の配給会社が消滅したというから、ここはヴィンテージ・フレンチ・ポルノを銀幕で、オリジナルの状態で鑑賞できる、唯一の重要な上映館なのだ。

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花咲く娼婦たちのかげに――オルセー美術館『華麗と悲惨:売春のイメージ』展

先月2回にわたって紹介したアウトサイダー/ロウブロウ・アートの展覧会『HEY!』に、見世物小屋絵看板コレクションで参加した折り、ちょうどオープニングがあるというので楽しみにしていたのが、オルセー美術館の『Splendeurs et misères, Images de la prostitution 1850-1910』という展覧会だった。ご承知のとおりオルセー美術館はセーヌ河畔近くの、もともと駅舎兼ホテルだった巨大な建物を改造した、19世紀美術に特化した美術館。正確には二月革命の1848年から第一次大戦勃発の1914年までの期間を扱い、それ以前はルーブル、以降はポンピドゥ・センターという区分になっている。特に印象派のコレクションが有名で、パリ有数の観光名所として日本からの観光客にもおなじみ。本メルマガではちょうど1年前の2014年11月19日配信号で『サド展』を紹介したが、それに続く意欲的というか、挑戦的な企画展が今回の『Splendeurs et misères』だ。

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秘密の小部屋とエロティック・プリント

オルセー美術館で古き良き時代のフレンチ・エロに浸ったあとは、ぜひ立ち寄っていただきたい店がある。いや、娼館じゃなくて。ラーメン屋に安居酒屋(安くないが)、焼肉屋が軒を連ね、なんだか日本のどこかの駅前飲み屋街の様相を呈しつつあるパリ・オペラ座かいわい。その裏手のシャバネ通り(rue Chabanais)に店を構えるのが『Au Bonheur du Jeur(オウ・ボヌール・ドゥ・ジュール)』だ。ここは19世紀から20世紀前半の、エロティックなビンテージ写真プリントや素描、版画を専門に扱う画廊であり、またそうしたコレクションを書籍として発表する出版社でもある。

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捨てられないTシャツ 17

スヌーピー/40歳女性(翻訳、tassel boyの制作・広報など全ての業務)/生まれたのは新宿だが、八王子に近いほうの相模原に中学のときに引っ越す。自分のおおらかな性格はそこで培ったと思う。中学校は都内のはずれで、学校帰りに遊んでいたのは渋谷や町田。ほとんど校則がない自由な校風で、大学まで同じ学校に通うことに。学生時代は「自分で責任を取るかぎりは好きなことをしていい」と言われていた。お母さんが自由なひとだったので、その影響が大きい。大学生になると車に乗り始めて、親からは「あなたは4年間で東京の裏道をかなり覚えたね」と言われるほどに。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 10 石澤孝幸

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。今回は石澤孝幸の作品を紹介する。今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』を取材させてもらったのが、この連載のきっかけになったことは前に書いたが、そのときに石澤さんの作品も見て、そのあと八王子の平川病院を訪れてみると、〈造形教室〉の片隅に立てたイーゼルの前で、展覧会で見たのとそっくりな絵に向かっている石澤さんがいた。不思議に思ってスタッフの方に聞いてみると、それはそっくりな新作ではなくて、展覧会に出した作品に、さらに手を入れているのだという。

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フランス式グラフィティの教え

この原稿を書いている最中にパリの同時多発テロ第一報が、つけっぱなしのテレビから流れてきた。土曜日早朝、CNNのライブ・ニュースで、しばらく画面に釘付けになるしかなかったが、そのあと日本の地上波を見てみて、あまりの軽い扱いように、ふたたびのけぞった。現場に突っ込んでいく取材力がないのと(土曜日で支局員はお休み?笑)、掘り下げていけば当然ながら、集団的自衛権が抱え込む危険に言及しなくてはならないからだろうけれど。こんなタイミングで、パリの街のガイドのような記事を書くのはどうかとも思ったが、こんなときだからこそ書くべきかとも思い、そのまま進めることにした。日本ではいまだ「落書き」扱いのグラフィティだが、それがきわめて先鋭的なメッセージを発信するメディアとなり得ることを、記事から読み取っていただけたらうれしい。文中でも触れるが、いまごろパリの街角では、テロの犠牲者たちに捧げるグラフィティが、爆発的なスピードで生まれているはず。都市の生命力とは、そういうエネルギーのことを言うのだろう。高層ビルの数とか、巨大店舗の売上高とかではなくて。

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捨てられないTシャツ 18

座頭市/51歳女性(主婦)/大阪出身。中高時代は部活(バスケット)に明け暮れていたが、短大卒業後、某コピー機器会社に入社し、上京する。その時期からブラックミュージックにハマって、夜の部活に明け暮れるように。東京の生活に疲れ、大阪に戻ってきてからも、酒好きが嵩じて西道頓堀にあったソウルバー『マービン』の常連客になり(近所には系列店の焼肉ハウス『セックスマシーン』もありました)、そこで知り合ったのが今の旦那。

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「和服」の誕生――日本衣装絵巻展を見る

「着物」と言い、「和服」と言う。でも店は「呉服屋」。外国圏では「KIMONO」で通るだろうが、欧米で着ているものは「アパレル」だったり「ウェア」だったりして、「ウェスタン・アパレル」なんて言いはしない。着物という存在のありようは、そのまま重層的な日本文化のありようなのかもしれない。現存するいちばん古い着物って、なんだろう。正倉院に残っている布はいまから1200年以上前のものだけれど、それはあくまでも「裂(きれ)」、断片であって、身につけるまるごとの着物というのは、だいたい江戸、いちばん古くて桃山ぐらいではないだろうか。それは掛け軸や屏風や刀剣や焼き物とちがい、着物を美術品として見ることが一般的ではなかったことなのかもしれないし、素材がそんなに長期間、完全な状態で保存できなかったからかもしれない。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 11 松本作和子

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。大詰めが近づいた今回は11人目の作家・松本作和子の作品を紹介する。松本さんの作品に出会ったのは、先週の石澤孝幸と同じく、今年6月に池袋の東京芸術劇場で開催された『第5回 心のアート展』だったが、「このひとはプロのイラストレーターか漫画家だったのが、たまたまこころを病んでここにいるのではないか?」と思わせてしまうような、達者な筆使いだった。

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八潮秘宝館、開張!

告知でお知らせしたように11月13~15日の3日間、稀代のラブドール・コレクターであり、ご本人によれば「写真家兼模造人体愛好家」である兵頭喜貴(ひょうどう・よしたか)が、「自宅秘宝館」として『八潮秘宝館』を一般公開。全国から50人以上のマニアが拝観に訪れたという。兵頭さんが初めて本メルマガに登場してくれたのは2012年3月21日配信号。『人形愛に溺れて』と題したその記事は、葛飾区内の古びたアパートの一室に構築された、驚異の変態人形空間訪問記だった。

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詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち 12 堀井正明

東京八王子の精神科病院・平川病院と、足立区竹塚の東京足立病院で安彦講平さんが主宰する〈造形教室〉から生まれた作家たちを紹介する短期集中連載。最終回となる今回は12人目の作家・堀井正明の作品を紹介する。最初にお断りしておくと、堀井正明は〈造形教室〉に属する作家ではなかった。しかし僕が〈造形教室〉の活動を知るきっかけとなった、今年6月の『第5回 心のアート展』で特集コーナーが設けられ、それは前年の作家本人の急逝を受けてであること。そして『心のアート展』実行委員である平川病院〈造形教室〉のスタッフが、残された膨大な作品群の整理・保管に関わるようになったこと。さらにこの連載1回目で紹介した名倉要造の展覧会が9月まで開催されていた宮城県黒川郡大和町の「にしぴりかの美術館」で、彼の全作品を保管することになり、そのお披露目展覧会『堀井正明回顧展 昇華する魂~絵が生きる事のすべてだった~』が、いま始まったばかりであること。そうした経緯を踏まえ、8月末から3ヶ月間にわたった連載の最後を、堀井正明と開催中の回顧展紹介で締めさせていただくことにした。

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fashion

捨てられないTシャツ 19

ジョーイ・ラモーン/42歳女性(バー経営)/神奈川県生まれ、中2で夜遊びを覚える。高校時代はバンドブームど真ん中だったため、迷わずバンギャの道へ。そしてそのまま売り子になる。わらしべ長者のように様々な繋がりが生まれ、演劇映画現代美術の裏方に。DJだったりもした。その後、とあるお偉いさんの理不尽さに啖呵を切り、裏方仕事を干される。サブカル系本屋店員・雑貨屋店員・こども電話相談室の中の人を経て、新宿御苑近くの小さなバーの2代目ママとなって、現在4年目。

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travel

ブルゴーニュのタイムマシン

中世の城、といってもフランスでは珍しくないし、現代に復元された中世の城なんて、さらに珍しくない。でもそれが完全に中世の工法で、当時と同じ素材だけを使用して、もう20年近くもかけて建設中となると、ちょっと話が違ってくる。パリから南下すること200キロ弱。ワインで有名なブルゴーニュ地方でただいま進行中の「ゲドゥロン(Guédelon)」は、中世の城を中世のやりかたで建てる(プロセスを見学する)テーマパークであり、この時代にエコロジーの観点から建築を見直す試みでもある、奇抜にして壮大なプロジェクトだ。

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movie

孤高の伊勢田監督・新作発表会!

夜ともなれば『ミナミの帝王』の主題歌『欲望の街』(by RIKI)が聞こえてきそうな大阪ミナミ・宗右衛門町あたり。しかし昼間は歌舞伎町以上に前夜の疲れを漂わせる、肌荒れムードの街景が広がっている。その宗右衛門町の11月14日、土曜日午後1時。雑居ビルのなかにあるロフトプラスワンウエストで、『伊勢田勝行監督作品・新作上映会 ~いせださんとつくってあそぼ~』が開催された。流行には敏感だが、流行を超えたものには鈍感な大阪だけに、残念ながら満員にはほど遠い集客だったが、それでも十数名の選ばれし者たちが暖かく見守る中、伊勢田監督はゲストの日下慶太、ai7n両氏(どちらもメルマガではすでにおなじみ)を相手に、新作上映、お客さんとのコラボ撮影、コスプレワークショップなど、多彩なプログラムをエネルギッシュにこなしてくれた。

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fashion

捨てられないTシャツ 20

テーブルクロス/36歳女性(通販会社勤務)/生まれも育ちも、現在もずっと神戸に住んでいる。子供の頃は習い事ばかり。母親に言われるがまま、小中時代はピアノ、フルート、声楽、水泳、書道、塾をいくつも掛け持ち。夕飯はいつもひとりで外食。小学校では卓球部と小大連(あらゆるスポーツを片っ端からやるクラブ)にも所属。それだけやっていたのに中学受験に失敗、不本意ながら公立の学校に進む。中学時代も忙しく、バトミントン部、生徒会と、引き続き習い事。よくよく考えたらぜんぜん友達と遊ぶヒマのない、多忙な子供時代だった。

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book

『圏外編集者』発売!

このメールマガジンも年が明ければ5年目。書いた記事もすでに600以上。始めたころは、どんどん記事を作っているうちに「これ、本にまとめましょう」と言ってくれる出版社がいくつも出てくると期待していたのが・・・なんと、いまだにオファー、ゼロ! 憮然とせざるを得ない状況のなかで、去年の『ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014』に続く新刊が、今年も終わりそうないま、ようやくできました。『圏外編集者』――文字どおり業界の圏外、電波マークが1本も立ってない場所で編集稼業を続けている自分を、立ち止まって振り返ってみた本です。発売は12月5日予定。今週末までには書店に並ぶはずです。書きおろし、じゃなくて「語りおろし」。これまでこういう内容の本も、こういう作り方の本も、あえてやらないようにしてきたのですが・・・

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fashion

捨てられないTシャツ 特別編 捨てられないハイレグ/44歳男性(不動産賃貸業)

1980年代後半から90年代前半に青春、というか青臭い時期を送った人間(つまり現在の中年)にとって、「ハイレグ」とはバブル時代を象徴する単語のひとつだろう。レースクイーンのハイレグ、飯島直子のハイレグ、岡本夏生のハイレグ・・・。どんな体型の女性でも、それなりに足を長く、ウエストをスリムに見せる、それはほとんど「魔法のデザイン」だったが、ハイレグが世の中から消滅して、もうずいぶん時がたつ。バブル経済がダウンしたあとも過激度をアップしていったハイレグ水着が、セクシーさのピークを迎えたのは1999年と一説に言われているが、その反動でレースクイーンの衣装規制が実施されたあたりを境に、ハイレグは急速に水着売り場から姿を消していく。

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music

いまのブルース――三村京子、5年ぶりの新譜を聴く

北京の空のように息苦しいライブハウスで2時間立ちっぱなしが辛い年齢になっても、やっぱりライブ通いをやめられないのは、CDや配信の音源だけではとうていつかめない、生音の吸引力がそこにあるからだ。今週、来週と2回にわけて、いますごく気になっている、そしてぜひライブを体験してもらいたいアーティストを紹介したい。偶然だけど、ふたりとも独自の歌とギター・ワークが沁み入る女性歌手/ギタリストである。今週はまず、三村京子さんから。

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art

“癒し”としての自己表現展・報告

8月18日号から11月25日号まで短期集中連載した『詩にいたる病――平川病院と東京足立病院の作家たち』。先に告知したとおり、その締めくくりともいえる展覧会『第22回“癒し”としての自己表現展』が、先週2日から6日までの5日間、八王子市芸術文化会館いちょうホールで開催された。これまで紹介してきた平川病院の〈造形教室〉の作家たちが多数参加したこの展覧会を、今週は駆け足で振り返ってみたい。『“癒し”としての自己表現展』では毎回、簡素な冊子が準備されているが、その中に収められている各作家自身によるテキストがいつも非常に興味深いので、そちらも併せて紹介させていただく。

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大竹伸朗の壷中天

展覧会は作品が勝負である。広告費の大小は関係ない――と言うのは正論かもしれないが、半分しか正しくない。作品をつくるのはアーティストだが、作品を広めるのはキュレーターやスタッフたちの役目だ。予算の多い少ないとは別の次元で、「ひとりでも多くのひとに見てほしい!」という運営側のエモーションが、展覧会の成否を左右した例をこれまでたくさん見てきた。そして貧弱な広報が、せっかくの作品を暗闇に追いやってしまった例も、あまりにたくさん見てきた。三田の慶應義塾大学アート・センターではいま、『SHOW-CASE project No. 3 大竹伸朗 時憶/フィードバック Time Memory/Feedback』と題された展覧会が開催中である(2016年1月29日まで)。

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photography

日々、常に――オカダキサラの日常写真

東京都心部でもっとも東に位置する街のひとつ、南葛西。旧江戸川を隔てた対岸はディズニーランドのある浦安・舞浜という、トーキョー・イーストエンドである。1980年代に建設された戸数900近い巨大団地にオカダキサラは生まれ、いまも住んでいる。1988年生まれ、27歳の写真家だ。

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捨てられないTシャツ 21

退職祝い/27歳女性(写真家)/オカダキサラさんのお宅で雑談していたときのこと、「私も捨てられないTシャツ持ってます!」ということで提供いただいた秘蔵Tを、今週はご紹介。学校に通いながら、葛西臨海公園の水族園の中にあるレストランでバイトしていた時期があった。退職したのが3月で、ちょうど同じタイミングで卒業や就職が決まって辞めるひとがけっこう多く、バイト仲間で合同退職祝いの打ち上げ宴会を企画してもらった。

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music

UNO――たったひとつの音楽に向かって

ロックやブルースを何十年も聴いているオヤジたちが、いまいちばん熱くなっているのが22歳のアーティスト、Rei(レイ)だろう。目を閉じて聴いたら熟練のエレクトリック・ブルースマンにしか思えない華やかな、しかも強烈なアタックのギターを弾くRei。歌に耳を澄ませば、完璧な日本語をしゃべるアメリカ人のような、英語と日本語、ふたつのネイティブ・ランゲージを自然に組み合わせたリリックを書いて、歌うRei。まだ2枚のミニアルバムしか発表していないのに、これだけみんなをゾワゾワさせているRei。なんなんだろう、この子!?

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アイドルというパンクス――おやすみホログラム@新宿ロフト観戦記

西新宿にオープンしたのが1976年。99年に歌舞伎町に移転して、来年で40周年を迎える新宿ロフト。東京を代表するロック系ライブハウスであることは言うまでもないが、その新宿ロフトでいま、いちばん頻繁に出演しているのがハードコアパンクバンドの・・・ではなくてアイドルユニットの「おやすみホログラム」であることを、ご存知だろうか。先月の告知で紹介したとおり、雑誌『EX大衆』の連載「IDOL SYLE」で、この二人組ユニットのひとり・望月かなみるちゃんを取り上げたので、見てくれたかたもいらっしゃるだろう(もうひとりは八月ちゃん)。

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上野都美館でプロ・アマ美術散歩

なにか展覧会を見に行って、そのまま帰ればいいのに、ふらふら常設展示コーナーに足を踏み入れて、そこで思わぬ作品と出会うことがよくある。サイトウケイスケという若い画家に教えられて先週、東京都美術館に行った。彼が参加する『東北画は可能か?』というグループ展が、2週間だけ開かれているという。東京都美術館=都美館は企画展と同時に、いつも大小たくさんの公募展や貸しギャラリー展が開催されている、言ってみれば東京最大級の貸し画廊でもある。久しぶりに上野公園を横切って都美館に着いてみたら、平日の午前中なのにものすごい人混みで驚いたが、それは東北画じゃなくてモネ展を見に来たひとたちだった。ついこのあいだ、印象派と娼婦の関係に焦点を当てたオルセー美術館の展覧会を記事にしたばかりなので、ちょっと好奇心が湧く。入場を待つ列に並んでいる善男善女は、どんなモネを期待しているのだろう。モネ展の雑踏をぐっと回りこみ、地下3階まで降りたギャラリーBで『東北画は可能か?』は静かに開いていた。

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渋イケメンの国から

美しさに絶句する写真集もあれば、刺激的な内容に絶句する写真集もある。でも、「なぜこれが一冊の本に!」と存在自体に絶句する写真集にはなかなか出会わない。そんな驚きで、久しぶりにフラフラな気持ちにさせてくれたのが『渋イケメンの国――無駄にかっこいい男たち』だった。著者である三井昌志はもう十数年間、アジアを中心に長い旅を続けて、その道程で撮影した写真を本にまとめたり、CDーROMにして自分のサイトで販売して生計を立てている「旅の写真家」である。2010年にはバングラデシュで購入したリキシャ(三輪自転車タクシー)に乗って、日本一周6600kmを走破するプロジェクトも達成している。過去の作品には『アジアの瞳』『美少女の輝き』『スマイルプラネット』など7冊の写真集があり、その幾冊かは旅行本を専門にする書店などで見た覚えがあるが、「渋イケメン」にフォーカスした写真集はさすがに初めて。おそらく類書もゼロだろう。

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シカの惑星

『渋イケメン』と同じく、こちらも誤解されがちなタイトルと裏腹にシャープな視点を持った写真集『しかしか』をご紹介する。「ねこ派? いぬ派? しか派! フシギでカワイイしかの魅力に迫る」なんていう女子っぽい帯文にだまされないように。タイトルどおり、シカを撮った写真集ではあるけれど、ここにあるのはかなりシュールでダークな光景だ。見方によっては『猿の惑星』ならぬ『シカの惑星』という映画のスチル写真集のようでもあるし、ここにいるシカたちは「バンビ」のイメージとはまるで別種の、人間と野生の境界線を自由に行き来する、しぶとく不可解な生物にも見えてくる。みずからを「シカ写真家」と名乗る著者の石井陽子さんは1962年生まれ。53歳でのこれが初写真集だ。

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捨てられないTシャツ 22

手描きのエログロ/34歳女性(案山子家、漫画家)/広島県出身。子どもの頃からグロテスクなものに興味があり、小学生のころは父親にレンタルビデオ屋に連れて行ってもらい、たくさん並べられたホラー映画のビデオパッケージを見るのが楽しみだった。ねだってもなかなかホラービデオを借りてくれなかった親が、やっと1本借りるのを許可してくれ、自分で選んだホラー映画『ヘルレイザー』を見たが、あまりの怖さにショックを受けトラウマに。以降ホラーやグロテスクが苦手になり、そういったものとはあまり縁の無い生活を送っていた。

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えびすリアリズムの奇跡

もっとも新春にふさわしくないというべきか、ふさわしいというべきか、判断に迷う展覧会が元旦(!)1月1日から渋谷パルコで開催される。『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』――そう、蛭子能収の絵画作品展だ。いまや「バスに乗って(大した感動もないまま)旅行するひと」「使い勝手のいい変人おやじ」というテレビ的イメージが完全に定着してしまった蛭子さんだが、つい先日のNHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史II」でも力説したように、私見では1970~80年代ヘタウマ・カルチャーを体現する最重要アーティストのひとりである。当時、『地獄に堕ちた教師ども』(1981年)を代表とする初期の蛭子漫画に計り知れない影響を受けた若者が、(僕を含め)どれほどいたろうか。

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修羅の果ての島で――焼き絵師・元心作品展

ハンダゴテのような電熱ペンを使って、板を焦がすことで絵柄を描いていくウッドバーニングというクラフトがある。古くから世界中で親しまれてきた技法だが、その電熱ペンを使って木片ではなく皮革に絵を描く「焼き絵作家」が、元心(げんしん)である。すでに本メールマガジン購読者にはおなじみのカフェバー浅草・鈴楼で、その作品展『LEATHER ART GENSHIN』が昨年末から開催中だ。ヌメ革独特の肌に描かれるのは浮世絵の美人や役者絵、相撲取りといった伝統的図柄から、虎、犬、猫、昆虫など、身の回りの生き物たちまでさまざま。中には春画を題材にしたものもある。作品の多くは色紙大くらいだが、2メートルを超える一枚革に観音や仙人を焼き描いた大作にも挑戦している。

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捨てられないTシャツ 23

2匹の猫/34歳女性(通販会社勤務、現在産休中)/神戸市出身。幼少期を思い出すと、生肉が異常に好きな子供だった。お菓子屋さんで売ってないから、スーパーでこっそり鳥のモモ肉を買ってきて、親に見つからないよう、布団の中で醤油をかけて食べたこともある。部活は小学校からずっと水泳。スイミングクラブでは選手コースに選ばれ、毎夜練習で土日は試合。種目はバタフライ、兵庫県で一番になったほどだが、小学校卒業のときに、いちど水泳も卒業。

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焼き芋とストリート・アート

とてつもないデコトラならぬデコ・セダンが真冬の、東京の夜をクルーズしている。トヨタの誇る社長車センチュリーの屋根にド派手なデコレーションを光らせ、後部に伸びた竹ヤリから白煙をモクモク吹き出しながら・・・。秋葉原で、原宿で、代官山で、その勇姿を見て呆然としたひとも、思わず駆け寄ったひともいるだろう。デコ・セダンの名は「金時」、大阪のアーティスト・ユニット「yotta(ヨタ)」が仕掛ける「アートとしての焼き芋屋活動」である。すでに多くのメディアにも取り上げられているyottaは、木崎公隆と山脇弘道によるユニット。2010年に移動焼き芋屋・金時をスタートさせて以来、今年も3月末の焼き芋シーズン終了まで、東京の街なかで夜ごと焼き芋を売り歩いている。

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捨てられないTシャツ 24

剣道/30歳女性(ショップ販売員)/福岡のショップで販売員をしているが、生まれは岩手県久慈市、「あまちゃん」のロケ地として有名になった普代村堀内。父が自衛隊だった関係で、11歳の夏まで青森県三沢市で育つ。米軍基地があったので、アメリカ人の子供と遊んだり、基地でハロウィンとか、外国文化が意外に身近だった。

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「えびすリアリズム」対談報告!

昨年末のメルマガでお知らせしたように、ただいま渋谷パルコで『新春 えびすリアリズム 蛭子さんの展覧会』が開催中だ(18日まで)。いまや「バスに乗って旅行してるおじさん」という認識しかない人たちも少なくない蛭子能収の、実はきわめてシュールでポップなアーティストとしての側面を垣間見ることができる、これは貴重な東京初の展覧会である。1月2日には僕がお相手させてもらったトークもあって、満員御礼の盛況だった。予約開始から2日たたずに定員に達してしまい、「行きたかったのに予約できず!涙」という連絡をたくさんいただいたので、今週は展覧会を紹介しがてら、対談の模様を要約して誌上再現してみたい。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行1 古都の哀愁蝋人形館

朝9時を過ぎても薄暗い街。凍りつく路面を足早に歩く人たちがいる。さらさらとふりかかる雪は、文字どおりパウダーのように服や靴の表面を滑って消え、すでに店を開けているレストランでは半袖シャツのスタッフがテーブルを整え、ビルの壁の電光表示はいまの気温がマイナス20度だと告げていた。サンクトペテルブルク、1月10日。ロシアではクリスマスにあたるというその週に、成田からモスクワを経て僕は、ここにいる。

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捨てられないTシャツ 25

デヴィッド・リンチ/40歳男性(テレビ局勤務)/生まれは東京築地だが、父親の仕事の関係で都内を転々。3歳のときにアメリカ・ニュージャージーに引っ越す。最初から地元の学校に通い、土曜だけ日本語を忘れないために日本人学校で補足授業を受けていた。超引っ込み思案な性格のため、家でひとりレゴ遊びばかり。子供のころから音楽が好きだったので、唯一仲が良かったユダヤ人の男の子と、6歳のころからブルース・スプリングスティーンのテープを一緒に聴いていた。

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フィールド・オブ・案山子ドリームス

11月に福岡に行ったとき、案山子による「24時間ソフトボール大会」があると聞いて、僕も見学に駆けつけた。車を出してくれた友人夫婦と3人で興奮して写真を撮っていると、ひとりの中年男性がぶらぶら歩いてきて、おもむろにiPadを出すと撮影開始。話しかけてみると「今朝テレビでやってたから見に来た」という近在の方で、「ここもいいけど、こっから30分ぐらい行ったところに、もっとすごいのがあるから」と親切に教えてくれた。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行2 「ロシアのバスティーユ」で豪華版・見世物小屋めぐり

先週に続いてお送りするロシア冬紀行・第2話、今回訪れるのはエルミタージュ美術館とネヴァ川を挟んで向かい合う、ペトロパヴロフスク要塞である。サンクトペテルブルク観光でも重要な場所であるペトロパヴロフスク要塞。どのガイドブックを見てもかならず「バスチョン」と呼ばれる収容所内部や聖堂が解説されているが、しかし! そういう歴史的に重要な施設の周囲を、数々のB級観光スポットというか、ほとんど見世物小屋のノリに近い常設・仮設展示施設がいくつも取り巻いていることは、まったく語られていない。チープな歴史蝋人形館のほかは、ガイドブックどころかウェブサイトでもほとんど記述が見つからないので、今週はこの「知られざるサンクトペテルブルク最重要B級スポット」を徹底紹介する。

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軽金属のマリリン

長年のファンにとっては空山基の「新境地」とも言える作品群は、これまでたびたび個展や、イラストレーター団体の展覧会などで発表されてきたが、意外にも「初めての全点描きおろし」という個展が今週土曜(1月30日)から、渋谷のNANZUKA(ナンヅカ)で開催される。『女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。』という奇妙なタイトルの展覧会は、マリリン・モンローをモデルにした新作ドローイング15点に、SORAYAMAの名を世界に知らしめた「セクシーロボット」シリーズの立体作品を加えたもの。

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捨てられないTシャツ 26

WWFのパンダ/68歳男性(イラストレーター)/・・・というか、今回はせっかくなので空山基さんに「捨てられないTシャツ」を提供していただくことにした。1947(昭和22)年、愛媛県今治市生まれ。父は大工、母は裁縫という家庭で、自分でおもちゃを作ってしまうような、手を動かすのが好きな子どもだった。漁師になるか土建屋になるかヤクザになるかしかないような町で、学校をサボって映画館に通ったり、「静かな不良生活」を送る。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行3 折れた骨の音楽

見たこともない「ビートルズ・ラブソングス」と書かれたアルバムが最前列に陳列してある。片言の英語で店主は「これ、ルーマニアでプレスされたレア盤だから」と教えてくれ、値段も手頃だったので購入。代金を払いながら「ボーン・レコードもある?」と聞くと「ん?」 しかたないので自分の胸のあたりを指さしながら「エックスレイ」と言ってみると、「お~、あるある」とペナペナのソノシートふうの数枚を、奥から引っ張り出してくれた。あぁよかった。これを探しに、真冬のロシアに来たのだから。

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捨てられないTシャツ 27

豚/34歳男性(設計事務所社長)/3人兄弟の末っ子として神戸市に生まれる。やりたいと言ったことはとりあえずやらせてくれる家風で、小学生のころからやたら習い事をしていた。英会話、ピアノ、声楽、公文、習字、サッカー、学習塾・・・、放課後はほとんど予定が入っていたから、宿題の日記には「毎日忙しい」と書いていた。ピアノだけいちばん長く中2まで続いたが、他は中1のとき、阪神大震災をきっかけにほとんど辞める(震災の思い出は、みんなが喜ぶと思って、小学校に来ていた自衛隊の避難所用のお風呂に、家から入浴剤を持って行って勝手に入れたら、こっぴどく怒られたこと)。

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自撮りのおんな

「セルフィー」という英語すら普通に通用する時代になって、世にはさまざまな自撮り写真があふれているが、先週出会った「自撮り写真家」田岡まきえには、ひさびさに興奮させられた(いろんな意味で)。トークに来てくれた田岡さんは慎ましやかで可愛らしい奥様、という雰囲気を漂わせていたが、抱えていたポートフォリオを見せてもらうと、そこにはスケスケ・セーラー服やホタテビキニ!を着用したり、なにも着用していなかったりする田岡さんが、手にカメラのリモコンを持った「自撮り熟女グラビアモデル」になっているのだった。田岡まきえは1966年大阪生まれ。今週ちょうど50歳になったところだという。

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ホワイトライト・ホワイトヒート ロシア冬紀行4 コイン式タイムマシン

ロシアの冬を駆け足で巡る最終回はロシア版・懐かしゲームセンターにお連れする。パソコンや携帯ゲームには、これまでほとんど興味を持てないままできた。ギャンブルにもハマらなかった(この仕事がすでにギャンブルだし)。でも、往年のアーケードゲーム(家庭用ではなくてゲームセンターの機械)は、その特異な造形美がすごく気になって、「ストリート・デザイン・ファイル」の一冊として『Techno Sculpture ゲームセンター美術館』という本を2001年につくったことがある(もう15年前!)。

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捨てられないTシャツ 28

モスクワ地下鉄マップ/41歳男性(映像作家)/幼少期から現在に至るまで、特に目立たない、明るすぎず暗すぎず、いたって平凡な男子。欲がないとよく言われる。自分では自己顕示欲が強いほうだと思っているが、まわりに個性の強い面々が多いため、彼らに比べたら弱いらしい。中学校時代に通っていた塾で、ひとりの先生(当時ICUの男子大学生、画家、詩人、のちに主夫、やくざ、現在は肉体労働)と仲よくなり、音楽、芸術、その他もろもろ文化や思想をプライベートで教示してもらう。

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皮膚という衣装のために――八島良子の映像をめぐって

先週、東京六本木の国立新美術館では「文化庁メディア芸術祭」受賞作品展が開催されていた(2月3~14日)。1997年の設立以来、今年が19回目になるメディア芸術祭は、その名のとおり文化庁が主催する「アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル」(公式サイトより)。国内最大級のアート・デザイン系コンペであることは間違いない。しかし今年の芸術祭アート部門で、審査委員会推薦作品に選ばれながら、展示されなかった作品があった。八島良子の映像インスタレーション『Limitations』である。

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ツギハギの光と影

本メルマガではもうおなじみの神戸ファッション美術館で、1月末から『BOROの美学――野良着と現代ファッション』と題された展覧会が開催中だ(4月10日まで)。「BORO」で関西、となれば『大阪で生まれた女』・・・ではもちろんなくて、「襤褸(ぼろ)」=文字どおりボロボロになった端切れなどを繋ぎ重ねて衣服や実用の布類に仕立てた、貧しい人間たちの生活の知恵であり、サバイバル・デザインである。

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捨てられないTシャツ 29

ヘインズV/43歳男性(ウェブ制作会社経営)/石川県出身。戦中生まれの父親はもともと金沢の大学病院に勤務していたが、安保闘争で学生側に立ったため、目をつけられ居づらくなり、地方の病院を転々とすることに。ゆえに生まれは舞鶴、その次は富山と、毎年のように引っ越しを繰り返す。ようやく破門が解かれ石川県に戻れたが、金沢ではなく七尾市の、できたばかりの小さな病院に勤務することになった。七尾に引っ越したのは3歳のとき。真面目なキリスト教徒の園長がやっている、小さな幼稚園に通ったあと、地元の公立小学校に進学。本が好きで、性格も理屈っぽかったらしい。

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月夜の浜の少女時代

本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で、今週月曜日から『沈黙する聖少女。宮トオル遺作展』が開催中である。「宮トオル」という名前を聞いて、「ああ、あの作家ね」とうなづく美術ファンが、どれくらいいるだろうか。僕も不勉強で、初めて聞く名前だった。イラストレーターから画家に転身し、亡くなるまでずっとひとりの、というか同じ顔の少女を宮トオルは描きつづけた。徳之島という南の島に生まれ育った彼の画面には、奄美大島でだれにも評価されない絵を描きつづけた田中一村の光と闇が見える気もするし、飽くことなく描いた少女の表情には、斎藤真一が描いた瞽女の静謐さが滲み出ているようにも見える。そして宮トオルの絵はだれにも似ていないし、どんなトレンドにも流派にも属していない。そういう、ひとりだけの絵を描いて彼は生き、死に、忘れられた。

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fashion

捨てられないTシャツ 30

ウィングス/50歳男性(レコード会社勤務)/福島県小名浜出身、父親がゼネコン系の建設会社の社員だったため、原発関係の港湾工事で小名浜・福島・東海村と引っ越しを繰り返す。いちばん長く過ごしたのは福島県。小学校高学年から高校を出るまで、いわき市の近郊だったが、震災の10キロ圏内にあり、いまはもう入れない。小学校のころからカルチャー体質というか。母親が同じ転勤族のお母さんたちと買い物に行くと、子供たちは映画館にぶち込まれていた。都合よく子供向けの映画がやっているわけではないので、『小さな恋のメロディ』から『ベンジー』まで、時間がちょうど合うものはなんでも。

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圏外の街角から:広島駅前地下広場

ものすごく久しぶりにお送りする「圏外の街角から」。全国に散らばるシャッター商店街を歩く連載だが、今回はちょっと趣向を変えて広島駅前の地下広場にご案内したい。中国地方最大の都市であ広島市。JR広島駅は北口が新幹線口、在来線が南口となっている。南口駅前は現在、大規模再開発が進行中。まことに味気ない広場になっているが、この一帯はもともと原爆で壊滅的な被害を受けたあと、終戦直後から闇市が出現。しだいにいくつかの市場を形成するようになって、「荒神市場」と呼ばれていた。いまも駅を出て左側に歩いて行くと「愛友市場」という名の、当時の面影をそのまま留めた市場が残っている。

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バロン吉元の脈脈脈

いまから50年前に小学生だったころは(涙)、少年マガジンやサンデーにどっぷり浸っていたのが、そういう少年誌を卒業する中学~高校生になると、漫画アクションやビッグコミックのような青年漫画誌にハマるのが、僕らの時代の男子定番コースだった。当時の漫画アクションには『ルパン三世』『子連れ狼』『博多っ子純情』など、年の離れた兄貴が教えてくれるオトナの味、みたいな名作が揃っていたが、その中でも印象深かったのがバロン吉元の『柔侠伝』。連載の始まった1970年に割腹自殺を遂げた三島由紀夫の楯の会の人たちも、連合赤軍の人たちもみんな大好きで読んでいたという(鈴木邦男さんのブログより)。「我々はあしたのジョーである」と言い残して日航機をハイジャック、北朝鮮に去った赤軍派の言葉を引用するまでもなく、当時の漫画、とりわけ青年誌の劇画群は、単なるエンターテイメントであることをはるかに超えた、リアルな「若者の声」だった。

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fashion

捨てられないTシャツ 31

ミッキーマウス/36歳男性(出版社勤務)/神奈川県横浜市に生まれる。父親は公務員、母親は専業主婦の一般的な家庭に弟とともに育ち、つい最近まで一緒に住んでいた。当時はまだまだ野球の人気が高く、大洋ホエールズのお膝下だったこともあり、近所の子たちと少年野球チームに入り夢中でボールを追いかける日々。中学校に入りそのまま野球にまっしぐらと思いきや、当時始まったJリーグもあってか、坊主頭で野球をやっていることへ疑問を感じ始める。人並みに多感な思春期に、父親のレコード棚にあったビートルズやサイモン&ガーファンクルなどの親世代のベタなチョイスにコロっとやられてしまい、「バンド」という何やら恰好良さげな活動に惹かれるようになり、気づけばバットはギターに代わっていた。

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photography

GABOMIの光

高松の路面電車「ことでん」や、香川のロードサイドをめぐる『高松アンダーグラウンド』の連載で、本メルマガでもおなじみの写真家GABOMI。ここ数年はドキュメンタリー・スナップと平行して、実験的な作品制作にも意欲的だった彼女が、きょう(3月2日)から銀座・資生堂ギャラリーで個展を開く。「shiseido art egg」と名づけられた、新進アーティストをピックアップする公募連続企画の一環として開催される今回の展覧会。

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music

辺境のグルーヴ、共産テクノ!

本業は硬派の出版社で編集者を勤めつつ、「珍書プロデューサー」としてもマニアックな書籍をリリースしてきたハマザキさんは、みずから自費出版社「パブリブ」も立ち上げていて、すでにその第一弾として昨年『デスメタル・アフリカ』を刊行しているが、そのパブリブから「今月(2016年3月)に出版する新刊がこれです!」と手渡されたのが『共産テクノ ソ連編』。アフリカのデスメタルの次は、ソ連(ロシアですらなく)のテクノ・・・どれだけケモノ道に分け入っていくつもりだろう。著者の四方宏明(しかた・ひろあき)は序文で「共産テクノ」というものを、「冷戦時代にソ連を中心とした共産主義陣営で作られていたテクノポップ~ニューウェイブ系の音楽」と定義しているが、これはもちろん四方さん自身による造語。日本や欧米の占有物というイメージが圧倒的に強いテクノポップ~ニューウェイブが、共産主義陣営にも存在したという事実すら、これまでほとんど知られてこなかったし、海外を含めてそれらが書籍としてまとめられたこともかつてなかったそう。つまりこれもまた「類書なし」の孤独なトップランナーなのだった。

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fashion

捨てられないTシャツ 32

ドルチェ&ガッバーナ/50歳男性(建築家)/1965年生まれ、東京都出身。父親は競馬評論家で、各地の競馬場を渡り歩いていたから、あまり家にいることがなく、周囲からは母子家庭と思われていたことも。いつも白いスーツに短いパンチパーマ、グラデのサングラスというスタイルだったし、喧嘩っぱやいしで、子供ごころにもかなり違和感があった。小学校に上がるころから、すでに建築をやろうと思っていた。その当時から小遣いを貯めて『モダンリビング』とか『住宅設計実例集』を買ったり、誕生日には椅子が欲しいとか言ったり。銀座松屋のグッドデザインコーナーにも、せがんでよく連れて行ってもらった。設計、デザインの本がほんとうに好きで、中学に上がるころには建築家になると完全に決めていた。いま思うと、おままごとが好きだった影響もあるかも(笑)。

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lifestyle

25年目のTOKYO STYLE

あれから四半世紀のうちに、僕にもいろいろあったし、部屋主のひとりひとりにもいろいろあったろう。撮影させてもらった人の多くは、あとがきに書いたように付き合いがなくなってしまったり、音信不通だったりしたのだが、このところFacebookなどのSNSや各地のトーク会場、打ち上げの場などで「再会」する機会が増えてきた。お互いの無事を喜び、思い出を懐かしみながら、「四半世紀たったいま、みんなはどういう暮らしをしているのだろう」と気になって、覗き見したくてたまらなくなった。ちょうど25年前に、みんなの暮らしを覗き見したくてたまらなくて、カメラを買いに走ったように。これから毎週、というわけにはいかないけれど、なるべく頻繁に、かつて撮影させてくれたひとたちを訪ねて、いまの暮らしを見せていただこうと思う。「25年目のTOKYO STYLE」がどんなふうになっているのか、ご覧いただきたい。四半世紀を隔てた彼らの昔と今。それは僕ら自身の25年間でもあるはずだから。

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art

本歌の判らぬ本歌取り――根本敬のブラック アンド ブルー

かつて本メルマガでも展覧会として紹介した、根本敬による歴史的名盤レコード・ジャケットの再解釈ともいうべき作品群が、ようやく作品集として発表される。『ブラック アンド ブルー』と題される本書には、2013年のスタートからすでに東京、大阪で6回にわたって開催されている連続展示で発表された、約170枚にのぼる作品が収められている。そのほとんどがだれでも知っている名盤である「原盤」が、根本敬的としか言いようのないスタイルで徹底的に再解釈され、時には本歌の判らぬ本歌取りのごとき新たなオリジナリティを持って、僕らの感覚を混乱させる。

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fashion

捨てられないTシャツ 33

ドーバーストリートマーケット/54歳男性(マーチャンダイザー)/宮城県仙台市出身。もともと伊達家に仕えていた家系ということで、酒屋・菓子・染め物など親戚には商売人が多い。祖父は日本画家、父親だけ堅実的でサラリーマンになっていた。小学校のころは、一回も習ったことはないけれど、ダンサーになりたいと思っていた。気がついたらずっとソファーの上で踊ってるような子どもで、ダンスの定位置だった鏡の前の床が抜け落ちて、すごく怒られたたこともある。いまでも会社の余興やスナックでのカラオケなど、なんだかんだで踊る機会が多い。

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movie

キューバの映画ポスター展

終了間際の紹介になってしまい恐縮だが、いま東京・京橋の近代美術館フィルムセンターで『キューバの映画ポスター』展が開催中だ(3月27日まで)。フィルムセンターは映画ポスターの展示にずいぶん力を入れていて、ほとんど毎年一回は世界各国の映画ポスターの展覧会を開いている。そこには映画史やグラフィック・デザインへの興味もあるだろうが、それ以上に本来は宣伝広報の媒体にすぎないはずのポスターが、ときにその国や時代の映画人たちの、映画にかける思いを体現するメディアとなっているからでもあるのだろう。

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photography

ストレンジ&ファミリアー――外国人が見た英国式日常

アート・ファンのみならずクラシック音楽ファンにも、演劇ファンにもおなじみのロンドン・バービカンセンター。地味な高層住宅群に囲まれた地味な建築に、初めて訪れるひとはいささか拍子抜けするかもしれないが、1982年の完成以来、現在でもヨーロッパ最大級の複合文化施設である。バービカンのアートギャラリーで先週スタートしたばかりの展覧会が『Strange and Familiar』。「Britain as Revealed by International Photographers =世界各国の写真家によってあらわにされた英国」と付けられた副題のとおり、イギリス人ではない写真家たちによって捉えられたイギリス、という興味深いテーマ設定。そのキュレーションを担当したのがストレンジ・フォトの元祖であり、「カスハガ」をはじめとする珍物収集狂でもあるマーティン・パーとなれば、さらに興味が湧くはずだ。

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art

もうひとつの『リリーのすべて』

最近忙しすぎて映画館にちっとも行けてないと愚痴をこぼしたら、「60歳になったんだから安くなるじゃない!」と教えられ、「シニア割」という言葉が生まれて初めて現実的に・・・しかしほんとに安い! ロードショーの通常大人料金が1800円なのに、シニアは1100円だから。で、さっそく行ってきたのが『リリーのすべて』。先週末に上映開始したばかりで、本年度アカデミー賞4部門にノミネート、アリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞(実質的には主演だが)を獲得した話題の新作だ。もう観たかたもいらっしゃるだろうか。『リリーのすべて』は性同一障害に苦しみ、世界最初期の性転換手術(性別適合手術)を受けて、男性画家アイナー・ヴェイナーから「リリー・エルベ」という女性になった主人公と、その妻でやはり画家だったゲルダの半生をめぐる物語である。

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fashion

捨てられないTシャツ 34

ルーパス/47歳女性(校正者)/1968年、東京都下生まれ。小3の夏、埼玉県の新興住宅地に転居する。体育・運動全般が大の苦手なのと、日曜は都内の書道教室に通いたいので運動部でなく文化系の部に入りたいと思ったが、小学校、中学校とも新設校で、選択肢は合唱部と美術部だけ。合唱部は仮入部で「こりゃムリだ」と感じ、美術部に入部する。その時中学3年生だった部長(創設から2代目)の「斉藤先輩」に知らないうちに片想いしはじめ、これが自分の“初恋”だったと思う。中学のほぼ3年間、さらに高校1年の年度前半ぐらいまで、この片想いが続いた。

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art

箱の中のアート・オペレッタ

パリ左岸、オデオンからセーヌ河にかけての界隈には、大小さまざまな画廊が集まっている。それも現代美術ばかりではなく、古典から特異なテイストで珍品を集めるギャラリーまでいろいろで、外から覗いて歩くだけで楽しい。そのなかでも比較的新顔ながら、いっぷう変わったテイストで、パリの変人たちの収集癖をうずかせているのが「Galerie Da-end」。パリ在住のファッション写真家として知られる七種諭(さいくさ・さとし)とパートナーのディエム・クインが、2010年から開いているギャラリーだ。ちなみに「Da-end」は日本語の「楕円」から採ったそう。画廊の常識である「ホワイトキューブ」の真逆を行く暗く塗った壁に、小さな開口部。画廊というよりも、どこかの国の驚異の部屋=キャビネット・オブ・キュリオシティーのような、秘密めいた雰囲気の空間で、「奇態」と「エロティシズム」と「グロテスク」の香りを漂わせる作品ばかりを展示している。

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「流しの写真屋」の見た新宿

竹橋の東京国立近代美術館ではいま『安田靫彦展』が開催中だが、同時に所蔵作品展として『MOMATコレクション 特集「春らんまんの日本画まつり』も開催中。これが「日本画まつり」というタイトルとはうらはらに、佐伯祐三からパウル・クレーにいたる油絵あり、高村光太郎やロダンの彫刻あり、戦争画あり、岡本太郎やピカソもあり・・・と、ぜんぜん「春らんまん」らしくないラインナップで充実。その展示の一室にあてられているのが、『渡辺克巳「流しの写真屋」の見た新宿』だ。ご承知の方もすでに多いだろう、渡辺克巳は近年、急速に再評価が進んでいる昭和のストリート・フォトグラファー。1941年に岩手県盛岡市に生まれ、高校卒業後いちどは国鉄に就職するが、20歳で上京。写真館で技術を学んだのち、1965年から新宿で「1ポーズ3枚200円」で写真を撮って翌日プリントを渡す「流しの写真屋」を始める。

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浅草暗黒大陸

広島県福山市の若き写真家・弓場井宜嗣(ゆばい・よしつぐ)が、2000年代のサンフランシスコ・アンダーグラウンド・シーンを撮影した写真展『SAN FRANCISCO』を、2015年4月8日号で紹介した(『テンダーロインをレアで』)。その展覧会と同じ新宿のギャラリーPLACE Mで今月11日から、こんどは「浅草」をテーマにした写真展が開催される。弓場井さんは1980年広島県生まれ。2003年から2008年までサンフランシスコの元祖オルタナティブ・マガジン『RE/Search』編集部で住み込みインターンとして生活。そのとき撮影された作品が去年の展覧会だったわけだが、サンフランシスコから帰国後は東京・浅草に居を移し、ホッピー通りにある煮込み屋で働きながら、「いつもポケットにコンパクトカメラを忍ばせて、仕事までの道すがら、休憩中、そして仕事中に撮影した」のが今回の作品群。

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fashion

捨てられないTシャツ 35

ライナス/カート・コバーン 53歳(アパレル会社執行役員)/神奈川県出身。横浜というものの、山のほうのガラが悪い田舎で生まれ育つ。子供のころから、根は暗いものの社交性はあり。当時は野球ブームの最盛期、みんな草野球チームを作って野球ばかりしてた。巨人・大鵬・卵焼きをひきずる世代で、水島新司の野球漫画が好きな阪神世代でもある。『ベースボール・マガジン』も購読し、どちらかというと昔から雑学に詳しくなるタイプだった。小学校高学年になるとカルチャーに触れだす。映画館で映画を観るのが一大アミューズメントとなった。『タワーリングインフェルノ』、『ポセイドン・アドベンチャー』、『大脱走』、『荒野の七人』・・・映画雑誌『スクリーン』や『ロードショー』で映画をチェック。

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美脚の自撮り宇宙

去年9月、恒例の「東京アートブックフェア」がちょうどフランス出張と重なって、行けずに悔しがっていたら、「こんなおもしろいの見つけました」と持ってきてくれたひとがいた。『巨大娘』と『美脚星人』という2冊の写真集である。『美脚星人』から見てみると、いきなり表紙がピンヒール姿の美脚。しかも下半身だけで、上半身がない! それがコラージュかフォトショップ加工かと思いきや、上半身を絶妙の角度に曲げて、それを三脚に据えたカメラを使って自撮りしてるという!(写真集の最後にも「これらの写真は修正して上半身を消したのではありません。ポーズや角度を試行錯誤して撮りました」と、ちゃんと記されている)そして『巨大娘』のほうは、自分の足によって踏みつぶされそうな風景や「小人」を、なんと自撮り棒とスマホを使って撮影したシリーズ。そう、例の自撮り棒を頭上ではなく、地面すれすれに下げて撮影するという、こちらも意表を突いたスタイルなのだ。

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捨てられないTシャツ 36

ベルリン/60歳(コーディネーター/コンサルタント)/埼玉県出身、もう人生の半分以上を過ごしているニューヨークに在住。エンジニアのまじめな父親と、元幼稚園の先生のまじめな母親の長女として生まれる。父親の父、おじいちゃんはプロテスタントの牧師、父母の両方の親戚もみなクリスチャンという家柄だった。アルバムを見ると、黒いタートルネックに黒いタイツで、とっても楽しそうに踊っている3歳くらいの自分がいる。どなたかのおうちでレコードにあわせながら、スピーカーの前でくるくると、それはうれしそうに踊っている私。子どものころから踊るのが大好きだった。

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破壊せよ、と動画は叫ぶ――冠木佐和子のアニメーション・サイケデリア

昨年はアウトサイダー映像作家・伊勢田勝行監督のアニメに打ちのめされたが、またひとり、僕らがふつうに思う「アニメ」のイメージを激しく逸脱する、オリジナリティのかたまりのような作品を生み出す作家に出会うことができた。冠木佐和子(かぶき・さわこ)――1990年生まれ、まだ25歳の若手映像作家である。冠木さんがどんなひとなのか紹介する前に、とにかくまずはこの一本を見てほしい。『肛門的重苦 Ketsujiru Juke』、2013年に多摩美術大学の卒業制作として発表された、2分56秒の作品だ。

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捨てられないTシャツ 37

ばあちゃん/33歳女性(デザイナー)/福島県生まれ、小学2年生までを福島で過ごし、埼玉県に夜逃げに近いかたちで引っ越し、中学1年生で再び福島に戻る。学校というものにまともに行ったのは小学校まで。中学は不登校、高校は寝ていた記憶しかない。校門まで行くが、180度回転して友達の家へ。あとは友達のうちで寝ているか、酒を飲んでいるか、たばこを吸っていた。髪の色はピンク、緑、白、青、いろいろ試した。髪が緑色で、机に寝伏せってばかりいるので、先生に「芝生」と呼ばれていた。

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music

DOMMUNE「スナック芸術丸」、過去3回分を読者限定公開!

いまや番組配信だけにとどまらず、高速・光インターネットサービスまでも開始、3000番組/5000時間/100テラバイトにおよぶ番組アーカイブの開放に着手したDOMMUNE。開局時の5年半前から「スナック芸術丸」も、そのささやかな一画で遊ばせてもらってるわけですが、今回はロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、過去3回のプログラムを限定公開してくれました。宇川くん、ありがとう!

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ブルジョワジーの豊かな愉しみ――写真展「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」

これまで何度も展覧会が開かれて、日本でも人気の高いジャック=アンリ・ラルティーグの写真展が埼玉県立近代美術館で開催中だ(5月22日まで)。プロフェッショナルとは「レベルの高い写真を撮るひと」、アマチュアとは「そこまでいかないひと」と思われるようになったのは、19世紀にさかのぼる写真の歴史の上で、実はここ数十年のことにすぎない。日本でも東京や関西、鳥取など各地の裕福な趣味人が「芸術写真」を戦前に育んできたように、かつてプロとは依頼されて人物や風景を撮る「写真師」であり、高価なカメラ機材を購入して「好きなものを好きなように撮る」のはアマチュアの特権だった。

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捨てられないTシャツ 38

シャム猫/33歳男性 小説家/母親の実家がある東京の離島で生まれ、その後埼玉へ転居して西武線沿線で育った。子どもの頃は野球少年。チームにも入っていたが、土日が練習でつぶれるのと体育会系のノリがいやで五年生の時にやめる。中学でも体育会系を避けて理科部に入部。理科室で遊んだりしゃべったりして、飽きたら帰る。運動部を脱落した連中と不良の吹きだまりのような部で、実験など一回もしなかった。

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『針工場』――豊島に大竹伸朗の新作を訪ねて

今年は瀬戸内国際芸術祭の開催年だ。2010年、2013年に続く3回目。4月17日までの春会期にいち早く訪れたかたもいらっしゃるだろう。直島、小豆島と並んで多くの作品が集まる豊島(てしま)には大竹伸朗の新作『針工場』が完成。直島の『直島銭湯I♥湯』『はいしゃ/舌上夢/ポッコン覗』女木島『女根/めこん』に次ぐ4つめのプロジェクトとなった。

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fashion

捨てられないTシャツ 39

デストロイヤー/49歳男性(アートディレクター)/母親の実家のある岡山県倉敷市に生まれる。父親の仕事の関係で滋賀県野洲市(当時は町)で幼少期を過ごす。地元では「近江富士」と呼ばれる三上山のふもと、田んぼが広がるのどかな場所。住まいは父親の会社の社宅で、裏手に保育園、道を挟んで向かいに小学校という、通園通学には非常に便利な場所だったが、極度の人見知りから最初の1年間は登園拒否児童となり、昼間はずっと家で母親と過ごしていた。

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ストレンジャー・ザン・ミュージアム――5月の特殊展覧会ガイド

連休中に、といってもすでに後半戦だけど、ゆっくり展覧会を巡ってみようと考えてるひともいらっしゃるだろう。先週のメルマガでは埼玉県立近代美術館の『ジャック=アンリ・ラルティーグ展』という、とびきりエレガントな写真展を紹介したが、今週はがらりと趣を変えて! エロだったりグロだったりファンキーだったり、とにかくふつうの美術館ではぜったい扱わないような、ビザールな展覧会を3つまとめてご紹介する。銀座のフェティッシュ専門ギャラリー、新宿二丁目のバー、京都の古書店・・・場所もさまざま、展示内容もさまざま。

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死刑台のギャラリー――極限芸術2~死刑囚は描く~

広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」を、これまで本メルマガでは何回も紹介してきた。全国各地に続々と誕生しつつあるアウトサイダー・アート/アールブリュット関連展示施設のうちで、ほとんど唯一「障害者」という枠組みをあえて逸脱しようとする姿勢が際立つ、本来的なアウトサイダー精神に深く共感したからだった。ヤンキーにスピリチュアル系、ただ単に「我が道を行く」変人表現者まで――福祉施設を母体に持ちながら、それはどんな公立美術館も手をつけない、ひりつくリアリティに満ちた企画で、だからこそ全国から熱心な来館者たちを集めていたのだが、そのキュレーションの中心にいたのが櫛野展正だった。本メルマガでも「アウトサイダー・キュレーター日記」を連載している櫛野くんが、昨年末で鞆の津ミュージアムを離れ、同じ福山市内に開いたのが「クシノテラス」。その第1回目の本格的な展示として、『極限芸術2~死刑囚は描く~』が先月末から開催中だ(8月29日まで)。

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捨てられないTシャツ 40

ネクタイ/37歳男性(通販会社勤務)/田んぼに囲まれた山形の町に生まれた。喘息、アトピー、アレルギー持ちとなかなか病弱な子供だったようだが、いつの間にか全部治った。通っていた保育園で、納豆ごはん・卵かけご飯・納豆卵かけご飯を毎昼ローテーションで食べさせられたのがよかったのか。幼稚園では非常にもてた。卒園式の日、保育士の先生からひとりだけこっそりと超合金のおもちゃをプレゼントされた。こんな異常な状態は今だけだろうな、と幼心に予感していた。見事に当たった。

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太陽と大地と人形の国――ネック・チャンドのロックガーデン訪問記

コルビジェのキャピトル・コンプレックスに隣接する広大な彫刻庭園が「ネック・チャンドのロックガーデン」である。ル・コルビュジエではなくて、実はこのロックガーデンが見たくて、僕はここまで来たのだった。アウトサイダーアート/アールブリュット・ファンにとって、生涯でいちどは訪れなくてはならない場所が、2カ所ある。そのひとつはフランス・オートリーヴの「郵便配達夫シュヴァルのパレ・イデアル(理想宮)」、そしてもうひとつがネック・チャンドのロックガーデンだ。

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fashion

捨てられないTシャツ 41

ユニコーン/40歳女性(アパレルPR)/母親の実家・広島で生まれ、幼稚園までは西明石、そのあと小学校まで神戸で暮らす。小1の終わりごろ、大学病院で働いていた父親が留学することになり、テキサス州ダラスに家族で引っ越した。平日は現地の小学校、土曜は日本人学校に通うが、とにかくカルチャーショックが凄くて。アイスクリームは学校で売ってるし、トイレに行ってる間に同級生が机からなにか盗もうとしてるし!

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photography

昭和の終わりの新宿で

新宿区三栄町、といっても地元の人間以外にはイメージが浮かばないだろう。JR.四ッ谷駅から徒歩約10分、市ヶ谷の防衛省方面に下る坂道の途中にある、静かな住宅街にあるのが新宿歴史博物館。本メルマガではすでに2014年3月19日号で『新宿・昭和40年代 ―熱き時代の新宿風景―』、2015年1月7日号で『新宿・昭和50―60年代 <昭和>の終わりの新宿風景』と、ふたつの新宿風景写真展を紹介してきた。新宿歴博では2010年から新宿の風景写真展を連続開催してきたそうだが、その総まとめとして、太平洋戦争終戦から昭和の終わりまでの変遷を写し取った、約100枚のプリントによる『戦後昭和の新宿風景 1945―1989』を開催中だ(6月12日まで)。

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海辺の町のロウ人形館

南インド・ケララ州のコーチン(コチ)は、アラビア海に面した大都市。観光のメインとなる旧市街フォートコーチンと川を隔てた、新市街にある「ケララ州で2番目に大きいショッピングモール」というオベロンモールの3階に『スニルズ・セレブリティ・ワックス・ミュージアム(Sunil's Celebrity Wax Museum)』があった。旧市街の美しいポルトガル建築や、『地獄の黙示録』気分に浸れるバックウォーター・クルーズとかを取材しとけばいいものを、なぜに南インドまで来てロウ人形館を・・・と思わなくもないが、ロードサイダーズなんだからしょうがないです!

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travel

昼下がりのインディアン・コーヒーハウス

インドを旅するひとの多くが抱く不安、それが「腹具合」であることは、インド通にも異論がないだろう。体温以上の気温のなか、ふだん食べ慣れないスパイシーなインド料理を毎日食べていれば、どんなに丈夫な胃腸でも疲れが溜まるはず。ディスカバリーチャンネルで世界中の庶民の料理を食べ歩く人気番組『アンソニー世界を喰らう』を、もう10年以上も続けているシェフ兼作家のアンソニー・ボーデインによれば、「スタッフのなかでいちばん食あたりになりやすいのは、屋台料理や地元料理におじけづくタイプ、そういうやつに限ってホテルの朝食バイキングで腹を壊す」らしい。ま、そうは言っても、ベテラン旅人ですら「下痢の洗礼」をいちども受けずに長期間、インドを旅することは難しいはず。数日間のパック旅行ならともかく、ある程度の期間インドを旅する場合、否応なくヘビーローテーションすることになる店がある。それが「インディアン・コーヒーハウス」だ。

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fashion

捨てられないTシャツ 42

PR-y/40歳男性(キュレーター)/広島県生まれ。家の裏はヤクザの事務所で、周囲は飲み屋や風俗街が並ぶ環境で育つ。家の前はポルノ映画館で、小さい頃から常に女性の裸の写真を目にしてきたため、エロに対する免疫力が薄れ、あまり興味関心を持てないでいた。少年時代は野球チームに所属し活躍。通っていた体操教室ではバク転をこなすなど、人前にスポーツもやっていたが、集団行動が苦手で次第に「週刊少年ジャンプ」の漫画を読み漁ったり、ファミコンゲームに熱中したりするインドアな子どもになっていった。

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music

電子たくあんの夜

このメルマガが始まって間もない、2012年4月4日号で初めて紹介した、福岡県大牟田市のノイズバンド「電子たくあん」を覚えてらっしゃるだろうか。当時、高校2年生だった驚異のドラマー・村里杏をフィーチャーした電子たくあんは、そのあとも幾度か記事に取り上げたり、DOMMUNEスナック芸術丸にも出演してもらった。あれからもう4年、現在も電子たくあんは活動継続中だ。村里杏ちゃんは他にもさまざまなユニットに参加したり、ソロ・ライブもやったりと、相変わらずエネルギッシュなプレイを続けている。

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lifestyle

25年目のTOKYO STYLE 02 湯浅学

『TOKYO STYLE』が最初の大判写真集として世に出たのが1993年。実際に撮影で東京都内を原チャリで走り回っていたのが1991年あたりだったから、今年はあれからちょうど25年というタイミングで、当時の部屋主たちを再訪する新連載。第1回からちょっと間が空いてしまった第2回は、前回の部屋主・根本敬と共に「名盤解放同盟」を支えてきた盟友でもある音楽評論家・湯浅学宅からお送りする。西麻布・新世界で続けてきた連続企画『爆音カラオケ』でも毎回ゲスト役を務めてくれた湯浅くんは1957年生まれ、いま59歳。来年還暦を迎えることになる。新刊『アナログ穴太郎音盤記』(音楽出版社刊)を出版したばかりの5月半ばの週末、「この日なら家族が揃うから」という文京区・護国寺に近い静かな住宅街の一軒家を訪ねた。

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ロンドンの地下鉄書体

その都市をもっともよくあらわす書体、というのがあるのかもしれない。たとえばパリの地下鉄の、アールヌーボー・スタイルの駅名表示。ロサンジェルスのハリウッド・サインなんかもそうだろうか。それがロンドンでは「地下鉄書体」と呼ばれる、あの地下鉄の駅にある文字であることに、異を唱えるひとはいないだろう。世界初の地下鉄がロンドンに生まれたのが1863年(ちなみに日本最初の地下鉄・東京の銀座線開通は1927年)。アメリカや日本のように「サブウェイ」ではなく、「アンダーグラウンド」あるいは「チューブ」と呼ばれているのはご存じのとおり。

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fashion

捨てられないTシャツ 43

目黒寄生虫博物館/28歳女性(ミュージシャン/スナックホステス)/兵庫県出身、子供の頃から飲んべえの母親に、スナックやホテルのバーに連れ回されていた。歌謡曲ってなんだかいいなと思いつつ、恥ずかしくてカラオケには手を出せなかった。小学校4年生の時、阪神大震災をきっかけに東京に引っ越す。パソコンクラブに所属するような地味で内向的な子どもだったが、その反面、大好きだったシノラーの格好をして通学、さらに関西弁だったことが悪目立ちして、女の子たちから仲間はずれにされる。それを過干渉な母親が心配して「もう学校に行かなくていい!」ということになり、小学校5年生から中学受験まで学校には登校せず、塾や家庭教師で勉強。

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photography

雑種のしあわせ、ふたたび――佐々木まことの動物写真2016

ちょうど1年前の2015年5月27日号で、大阪の動物写真家・佐々木まことの紹介記事『雑種のしあわせ』を掲載した。本メルマガで『ジワジワ来る関西奇行』を連載してくれている吉村智樹さんの編集で、2005年に発売された小さな写真集『ぼく、となりのわんこ。』を見たのがきっかけだったが、その佐々木さんが毎年参加している『大阪写真月間』と、同時期開催の『日本猫写真協会展』に、今年も選りすぐりの犬猫写真を出品するとのお知らせをいただいた。

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music

森山直太朗『嗚呼』

ふだんは取材する相手も、お仕事いただく相手もインディーズというか地下というか、日の当たりにくい場所で活動するひとばかりだけれど、珍しくメジャーな企画に参加しました。森山直太朗の1年半ぶりになるオリジナルアルバム『嗚呼』のジャケットとリーフレット撮影です。森山さんの曲は好きだし、スナックでもよく聴くけれど、声かけてもらえたのにはびっくり。で、最近撮っている写真をいくつかお見せしたら、「これで行きたいです」と即決したのが、なんと「おかんアート」! 本気か・・・笑。

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DOMMIUNEスナック芸術丸「セルフィー・レボリューション」、読者限定再配信!

DOMMUNEの開局以来、もう6年半にわたって続けさせてもらってるご長寿番組『スナック芸術丸』。5月12日に生配信したばかりの「第三十七夜~セルフィー・レボリューション」を、ロードサイダーズ・ウィークリー購読者限定で、早くも再配信してもらえることになりました。宇川くん、ありがとう!当夜ご覧いただいたみなさまはすでにご存じでしょうが、このところメルマガで集中的に紹介してきた、自撮りアマチュア・フォトグラファーの奥深き世界を、一挙紹介した異例のプログラム。2月10日号のホタテビキニの主・田岡まきえ(現在はマキエマキと改名・・・ホタテビキニ持参!)、4月13日号の露光零の二大巨頭がそろい踏み。さらに87歳の西本喜美子さんを紹介してくれた、福山市クシノテラスの櫛野展正さんも新発見の自撮り作品を携えて遠路参加という豪華版...

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神は局部に宿る!

日本を訪れる外国人観光客は、氾濫する性的イメージにいきなり圧倒される。通りにはみ出す風俗看板に、路傍でチラシを配るメイド少女に、DVD屋のすだれの奥に、コンビニの成人コーナーにあふれ匂い立つセックス。そしてハイウェイ沿いに建つラブホテルの群。この息づまる性臭に、暴走する妄想に、アートを、建築を、デザインを語る人々はつねに顔を背けてきた。超高級外資系ホテルや貸切離れの高級旅館は存在すら知らなくても、地元のラブホテルを知らないひとはいないだろうに。現代美術館の「ビデオアート」には一生縁がなくても、AVを一本も観たことのない日本人はいないだろうに。そして発情する日本のストリートは、「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」だらけなのに。

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fashion

捨てられないTシャツ 44

SUMICHAN OKAERI!!!/32歳男性(会社員)/神戸生まれ。3人兄弟の長男で、妹がふたり。初めて住んだ場所は山口組本部のすぐ近くで、組の抗争による銃撃戦もあったらしいが、覚えていない。ちなみに桂文珍も近くに住んでいた。3歳の時に、現在の実家がある別の区に引っ越す。最初に住んだ環境が関係したわけではないと思うが、幼いころは癇癪持ちで、気に入らないことがあると、柱に頭突きをゴツゴツかまし続けたり、グオンとのけぞって後頭部を床に叩きつけようとする奇行に走るので、いつもオカンとおばあちゃんが座布団を持って動いていた。

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狂気の先にあるなにか――シリアルキラー展によせて

5月11日配信号では福山クシノテラスで開催中の死刑囚の絵画展を紹介したが、今週ご紹介するのはアメリカ・イギリスのシリアルキラーの作品ばかりを集めたという、恐ろしくも貴重な展覧会。本メルマガではおなじみの銀座ヴァニラ画廊で6月9日にスタートする。セルフポートレートから手紙、資料など、200点以上が展示予定だという。『ROADSIDE USA』の取材でアメリカを走りはじめた1999~2000年ごろ、サンディエゴからハリウッドの片隅に移って間もない『ミュージアム・オブ・デス』に偶然出会った。ギロチンから電気椅子にいたる処刑道具や拷問道具、手術器具、事故の現場写真やビデオ・・といった「死」の匂いにまみれた展示物の中で、チャールズ・マンソンをはじめとする、アメリカのシリアルキラーたちの作品に対面したのが、僕にとっての「シリアルキラー作品体験」の初めだった。当時はスマホなんて便利なモノはなかったので、彼らがどんな大罪を犯したのか、ごく有名な数人をのぞいて、その場で知ることはできなかった。けれど、展示されている絵画が秘めた狂気の痕跡に――とりわけジョン・ゲイシーのピエロに――心臓がギュッとなったのをよく覚えている。

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photography

映画館からフィルムが消える日に

京橋の近代美術館フィルムセンターでは、『写真展 映画館――映写技師/写真家 中馬聰の仕事』を開催中である。この展覧会についてはきちんと紹介したいと思っていて、そろそろというタイミングで、イギリスでやはり消えゆくフィルム上映の映画館と映写技師を撮影してきたリチャード・ニコルソンの作品を知ることができた。まったくの偶然だが洋の東西で同じく、「フィルム」という映画のよろこびのオーラをまとったメディア――その終焉を見据えるふたりの写真家を今回は同時に紹介する。ひとつのテーマが、視点によってこんなふうに異なる作品に結実する、というおもしろさとあわせ、ご覧いただけたら幸いである。

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追憶のほんやら洞

2015年1月21日号で、火事で焼失した京都「ほんやら洞」のことを書いた。店主の甲斐扶佐義(かい・ふさよし)はあれから、もう一軒の店である木屋町の八文字屋で毎晩がんばりながら、大きな怪我も乗り越えながら、積極的に新刊を発表していて、こう言うとナンだが火事の前よりアクティブなようでもある。火事からほどなくして去年は『ほんやら洞日乗』という分厚い記録集を出したが(657ページ!)、それから一年たった今月には『追憶のほんやら洞』と題された、こちらは在りし日のほんやら洞を愛した人々による追憶の記録集。そして今月19日からは新宿イレギュラーリズムアサイラムで、出版記念写真展も開催される。

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捨てられないTシャツ 45

骸骨アトム/33歳女性(不動産証券会社勤務)/母親の実家の山形で生まれ、父親の仕事の関係で板橋に引っ越し、幼稚園から父親の実家である川越で暮らす。父親は公務員で、母親は専業主婦。外で遊ぶことも多かったけれど、人形遊びのほうが好きな子どもだった。小学校は学校のバトン部に入りつつ、1つ上の親戚のお姉さんに誘われて地域のバレーボールクラブにも所属。幼稚園からピアノも習っていたが、バレーボールが楽しすぎて、もうピアノは諦めたいと母親に言ったら「覚悟してやりなさい」と釘を刺される。

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どこまでいくのかマキエマキ

今年2月10日号で『自撮りのおんな』として紹介した「50歳人妻セルフポートレートフォトグラファー」、マキエマキ(田岡まきえ)さんが、いま新作写真展を東京・入谷のバーで開催中だ(18日=今週土曜日まで!)。バー「Lucky Dragon えん」でマキエさんが個展を開くのは2回目。去年の展覧会タイトルは「J'ai 50ans」(私は50歳)だったけど、今年のタイトルは「Ju suis toute chaude」。マキエさん本人の和訳によれば「アタシ、もう、熱いのよ~ん♡」ということで、その急速なレベルアップぶりがタイトルからも見て取れるというもの。

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夜のアートブックス

きょうは日曜日、グッチ山口さんは、いつものスクーター「グッチモービル」を駆って、いつものように展覧会巡りをしているだろうか。2012年7月11日号で紹介した、毎年1000本以上の展覧会を訪れる「日本でいちばん展覧会を見る男」――山口‘Gucci'佳宏と、音楽業界では最大手印刷所である金羊社が手を組んで、今年初めにスタートさせたZINE形式のアーティストブック・プロジェクトが「ミッドナイト・ライブラリー」だ。2014年から銀座ヴァニラ画廊で個展を続けている波磨茜也香(はま・あやか)を1月に出したのを手始めに、吉岡里奈、写真家のオカダキサラ、長谷川雅子、そして5月には冠木佐和子と、ロードサイダーズでもおなじみの作家たちが含まれたラインナップで、毎月25日に一冊ずつという驚異的なペースで刊行を始めている。

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メイド・イン・プリズン

毎年5月になるころ、立派な封筒に入った手紙が届く。裏には「法務省」とあって一瞬どきっとするが、6月初めに竹橋の科学技術館で開催される「全国刑務所作業製品展示即売会(全国矯正展)」のお知らせだ。いまから10年近く前、新宿駅西口地下広場とか、いろんな場所でバザーのように開かれている刑務所製品即売会に興味を抱くようになって、即売会のハシゴをしているうちに元締めの矯正協会ともお話できるようになった。そこで刑務所作業製品をデザインとして眺めて、一冊の本にできないかと思い始め、意外にもその突飛なアイデアを協会が受け入れてくれて、現場、つまり刑務所の内部にも取材に入れることになった。それはいろんな意味でスリリングな体験だったが、その結果は2008年の『刑務所良品』(アスペクト刊)という本にまとめることができた。

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捨てられないTシャツ 46

moog/39歳女性(編集プロダクション勤務)/昨年末、荷物を大幅に整理する必要があったので、たくさん持っていたはずのTシャツもほとんど処分してしまった。残ったのはこれを含めて4~5枚ぐらい。別にやむを得ず、という感じでもなく、数年前からTシャツ選びの基準が完全に変わってしまったので、タイミングがよかったともいえる。埼玉のほうがよっぽど都会、という東京郊外に生まれて25歳までそこで暮らす。きちんと両親に愛されて育った自覚はあるものの、持ち前のじめっとした性格のせいか小さな頃からどうにも卑屈さが常にあった。

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美青年の園で(文:ドキドキクラブ)

東京都心部から30分ほど、私鉄沿線の静かな郊外駅に、織部佳積さんが待ってくれていた。織部さんを僕に引き合わせてくれたのは、本メルマガ2014年11月26日号『瞬間芸の彼方に』で紹介したドキドキクラブくんだった。取材以来、仲良くしてもらっているので「くん」づけで呼ばせてもらうが、ドキドキくんはもうずいぶん前に、アート系のイベントで織部さんと知り合い、ひそかにその制作活動に注目してきたのだという。「こんな絵を描いてるひとなんですよ」と、携帯で見せてくれた作品の不思議さに心惹かれて、きょうは織部さんが住むアパートまで連れてきてもらったのだった。

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東京の穴ふたたび

2014年11月26日号『東京のマルコビッチの穴』で紹介した「ダクト・フォトグラファー」木原悠介のの写真展が、東京中目黒ポエティックスケープで始まっている(8月6日まで)。木原さんの写真に出会ってから、まだ2年にもならないけれど、最初からそのミステリアスな画面には強く引き込まれるなにかがあった。記事のなかで、僕は木原さんをこんなふうに紹介させてもらった――不思議な写真を見た。息づまる、というより、ほんとうに息が詰まるような狭苦しい空間が、ずっと先まで伸びていて、それはどこに続くのか、それともどこにも着かないのか・・・。見るものすべてを閉所恐怖症に追い込むような、それでいて難解なSF映画のように異様な美しさが滲み出るそれは、ビルの内部を走るダクトの内部を撮影したものだという。

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昭和の夜の匂いにむせて

渋谷アツコバルーで開催中の展覧会『神は局部に宿る』は、おかげさまで連日盛況が続いているが、来てくれるひとの約8割が女性客。ラブホに秘宝館、イメクラにラブドールという内容なのに。入口でコンドームを渡され、カウンターではピンクローターとか売ってるのに。昭和をまったく知らない世代にとっての「昭和のエロ」「昭和のお色気」が、いかに「カワイイ」ものに見えるのかを今回は思い知らされた。当時を知るものにとって、それは「イカガワシイ」ものであったり、「下品」なものであったりしたのだが、世代がめぐるうちに、「品」も微妙な変化を遂げるのかもしれない。酸っぱいワインが、いつのまにか芳醇な香りを放つように。先週の記事『ミッドナイト・ライブラリー』でも紹介したが、新進イラストレーター・吉岡里奈の個展『食と女と女と夜と』が、渋谷HMVで始まっている(7月11日まで)。

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捨てられないTシャツ 47

PPFM/40歳男性(特殊呼び屋/会社員)/1976年に北海道帯広市で生まれる。父親の仕事の関係で、北海道内の足寄町、標茶町、中標津町、幕別町、帯広市などを転々とした。小学校入学前から帯広に定住することになり、高校卒業まで暮らす。小学校の頃、毎朝欠かさずにやっていたのはワイドショウをじっくり観ること。学校から帰ってきたら、母親と一緒にまたワイドショウを観てから、夕方のドラマ再放送を観ていた。田宮二郎版『白い巨塔』『特捜最前線』、天知茂『江戸川乱歩の美女シリーズ』や、『花柳幻舟獄中記』などの再放送を楽しみにしていた。ちょうど小学校に入った頃に『ロス疑惑』、その後は『豊田商事事件』『岡田有希子自殺』もあって、取材報道が過熱していた時代。他の子供が観ている様なアニメとかウルトラマンや戦隊モノはほぼ関心なしだった。

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ROADSIDE LIBRARY 誕生!

ようやくこれをお知らせできる日が来ました。ロードサイダーズ・ウィークリーでは独自の電子書籍シリーズ「ロードサイド・ライブラリー」を今月からスタート。その第一弾として、『秘宝館』をリリースします。特設サイトで今日から予約開始、来週にはお手元に配信できる予定です。『ROADSIDE LIBRARY』は週刊メールマガジン『ROADSIDERS' weekly』から生まれた新しいプロジェクトです。2012年から続いているメールマガジンの記事や、その編集を手がける都築響一の過去の著作など、「本になるべきなのに、だれもしようとしなかったもの」や、品切れのまま古書で不当に高い値段がついているものを中心に、電子書籍化を進めていきます。電子書籍といってもROADSIDE LIBRARYは、Kindle、kobo、iBooksなどの電子書籍用の専用デバイスや読書用アプリケーションに縛られない、PDF形式でのダウンロード提供になります。なのでパソコン、タブレット、スマートフォン、どんなデバイスでも特別なアプリを必要とせずに読んでいただけます。コピープロテクトもかけないので、お手持ちのデバイス間で自由にコピーしていただくことも可能です。

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北国のシュールレアリスト――「上原木呂2016」展によせて

上原木呂(うえはら・きろ)という、変わった名前を目にしたのは、『独居老人スタイル』で仙台のダダカンの取材をしていたころだった。ダダカンさんと長く親交を結び、2008年には東京で開催された『鬼放展――ダダカン 2008・糸井寛二の人と作品』を企画制作するいっぽう、自身もアーティストとしてマックス・エルンストやヤン・シュヴァンクマイエルと合同展を開き、おまけに新潟の老舗蔵元として日本酒の醸造や、地ビール第一号であるエチゴビールの生みの親でもあるという。しかも経歴は蔵元の跡取りなのに芸大に進学。すぐに中退してチンドン屋に入り、そこからイタリア・ローマに渡って古典仮面劇の道化役者として活躍。フェリーニの知遇を得たり、マカロニ・カンフー・アクション映画に多数出演したり!という日々を送った後に帰国。蔵元の五代目社長として家業を盛りたてつつ、コラージュや水墨画などの制作にも熱心に取り組み続け、社長業を退いた数年前からはツイッターで毎日、水墨画の仏画をアップ。「朝と晩と1時間ぐらいで、毎日30枚くらいは描きますかねえ・・・あと水彩とかいろいろ、大小あわせれば年に3万点くらいは作ってます」という、68歳にして恐るべき創作意欲の持ち主なのだ。

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越前浜で昭和歌謡にむせび泣く!

上原木呂さんが住む新潟県・旧巻町からちょっと走れば、そこは日本海に面した越前浜。海水浴場にスイカ栽培、それにワイン通のみなさまには最近、カーブドッチなどの国産ワイナリーが続々誕生中のエリアとしても知られている。が・・・ワインやスパは楽しんでも、越前浜の一画にある『遠藤実記念館・実唱館』で、過ぎし日の歌謡曲に浸ろうという趣味人は残念ながら多くない。その名のとおり、「実唱館」は昭和の偉大な作曲家・遠藤実の業績を広く知ってもらおうと、1994(平成6)年にオープンした施設。貴重な資料や映像を通して、遠藤実が体現した昭和の歌謡世界をタイムトンネルのように振り返ることができる。

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捨てられないTシャツ 48

ヴィヴィアン・ウエストウッド/43歳女性(写真家)/京都府北部、港町の舞鶴出身。一般的には『岸壁の母』の港だが、マッチがその昔、漁港で『ギンギラギンにさりげなく』を歌って、ザ・ベストテンで中継されたこともある。育った町がヤンキーも多かった場所なので、赤いミキハウスのトレーナーにボンタンのケミカルジーンズを履いていた過去もあるが、中学生になったころからイギリスに憧れを抱くように。セックスピストルズやクラッシュなど、パンク系の音楽とファッションに惹かれたのがきっかけ。地元にはなにもなかったので、14歳の時に初めてRED or DEAD の厚底ラバーソールを買って、京都市内のロンドンナイトに出かけた。しかし若かりし頃憧れていたパンクスの実態は、NO DRUG、NO ALCOHOL、ONLY SEX と、いたって健全だった。

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ラバー・ソウルふたたび

毎年5月6日の「ゴムの日」にあわせて開催される、デパートメントH『大ゴム祭』。言わずと知れた日本でいちばん古くて、いちばん大規模でフレンドリーなフェティッシュ・パーティの、いちばん人気のイベントのひとつだ。本メルマガでも2012年5月9日号、2013年5月8日号と紹介してきたが、ここ2年ほどは開催日に東京にいられなくて取材断念。なので今年のゴム祭(6月4日開催)をまたここで報告できて、ほんとうにうれしい。ちなみにデパHの「大ゴム祭」は今年がすでに7年目。デパH自体、すでに20年以上続いているパーティである。オーガナイザーのゴッホ今泉さんをはじめとする、デパHクルーの献身的な努力には、つくづく頭が下がる。今年のデパHゴム祭も、恒例の全国から集結した「ラバリスト」たちのお披露目、海外公演で大成功を収めたラバー工房・池袋KURAGEのファッションショー、そして今年の目玉はやはり本メルマガでも以前紹介したラバー・アーティスト・サエボーグの大がかりな新作『Pigpen』(豚小屋)。

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劇的都市・新宿

早稲田大学の演劇博物館でいま、『あゝ新宿 スペクタクルとしての都市展』が開かれている(8月7日まで)。早大生でなくとも演劇博物館を訪れたことのあるひとは少なくないだろう。16世紀イギリスにあったフォーチュン座を模してつくられたというクラシカルな演博の建物と、ふんどし姿の唐十郎が新宿駅西口広場に立つイメージは異質に感じられるかもしれないが、早稲田があるのもまた新宿区なのだ。本メルマガではこれまで、新宿歴史博物館でシリーズ開催された昭和の新宿を振り返る企画を紹介してきたが、今回の展覧会では1960年代中頃から70年代までの――それはほとんど昭和40年代ということでもある――新宿という都市がもっとも混沌として、エネルギッシュであった時代をフィーチャーして、小規模ながら充実した資料展になっている。

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捨てられないTシャツ 49

もっさん/40歳男性(自営業)/千葉県の真ん中あたりの東京湾側、工業地帯近くのところで生まれる。3人兄弟の末っ子で、放牧というか奔放に育つ。小さい頃からテレビっ子だったようで、原体験としての映像は、お風呂の中からおでんの具が出てきて「ぎゃ~」と叫ぶ、ホラーをパロディにしたようなものだった。アレは何の番組だろう。誰か教えて欲しい。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.1 「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」――廣田恵介とセンチメンタル・プラモ・ロマンス

たくさんの本が僕の前を通り過ぎていく。全部読むことはとてもできない。川の流れに掌を入れるように、そのほんの少しを掬い取ることしか。このところ気になる本のなかに、度を越して(もちろん、いい意味で)マニアックなテーマの本が目立つようになってきた。度を越してない、当たり障りない本がもう、目に入らなくなってしまっただけかもしれない。なので今週から数回、最近発売された「マニア本」の著者にお話を伺い、その情熱のお裾分けをいただくことにした。その第1回は廣田恵介さんの『我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか』をご紹介する。美少女フィギュアならまだしも、「美少女プラモ」というようなジャンルが、この世に存在することすら知らないひとが、僕を含めて大多数ではないだろうか。その美少女プラモの「下半身にパンツが彫りこまれた瞬間」――美少女プラモを知らぬ人間にとっては、あまりにどうでもいい「事態」が、ひとりのプラモ好き少年にどれほど決定的な影響を与えたのか。これは単なるプラモデルオタ、アニメオタのコレクションブックのかたちをとった、実はきわめて今日的なビルトゥングスロマン=成長物語なのだった。

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浜松の演歌王・佐伯一郎物語[前編]

始まりは『ドントパスミーバイ』というラジオ番組だった。根本敬x湯浅学という、商業放送にはあまりに危険な組み合わせによる、めちゃくちゃな(ほんとうに!)番組が2010年の3ヶ月間だけインターFMで放送されていた(もちろん1クールで終了)。そのゲストに呼ばれたときに、スタジオに入っていったらかかっていたのが、「用心棒」という謎の3人組スキンヘッド親父が歌う『MAMA・・・』。それは「都築さんならこの曲だと思って」と説明された曲だったが、どう見ても聴いても、ルックスが似てること以外に共通点はない気がした。それから月日が経ち・・・本メルマガでこれまで浜松祭りのラッパや、宮城の北村大沢楽隊について書いてくれた、静岡文化芸術大学の奥中康人さんと話していたときのこと。「浜松にはこんな演歌の先生がいて、歌謡塾も開いてるんです・・」と、侠気あふれるシングル盤を目の前に積み上げてくれて、そこには「佐伯一郎」という名前が大書されていたのだが、その中になんと「用心棒」のCDシングルも混じっていた。そうか、これも「音楽都市」浜松が生んだ歌だったのか!

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.2 「デスメタルインドネシア」――小笠原和生と悪魔の音楽パラダイス

最近発売された「マニア本」の著者にお話を伺い、その情熱のお裾分けをいただくシリーズ第2弾は、『デスメタルインドネシア』! 実は「世界第2位のブルータルデスメタル大国」であるらしいインドネシアのシーンを362ページにわたって、それもA5版のサイズに極小文字で情報を詰め込んだ、造りからしてブルータルな、もちろん日本で初めてのインドネシア・デスメタル紹介本である。発行元の「パブリブ」は、今年3月9日号で紹介した『共産テクノ』の版元であり、本メルマガ連載「絶滅サイト」の著者ハマザキカクさんの個人出版プロジェクト。これまで『デスメタルアフリカ』や、『童貞の世界史 セックスをした事がない偉人達』といった書籍を発売しているが、このあと8月上旬発売予定の新刊が『ヒップホップコリア 韓国語ラップ読本』・・・どこまでマニアックなラインナップなんだろう。

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捨てられないTシャツ 50

色川武大/阿佐田哲也 [38歳男性(印刷工/写真家)] 幼少の頃から小学校6年まで2、3年ごとに転勤を繰り返す。最初の記憶は幼稚園の大阪時代。なんでもやりっ放しのため、先生に「パナシくん」と呼ばれた。外でよく遊んだが、タコ糸にチクワの輪切りを付けザリガニ釣りをしていたら、針も無いのにチクワを飲み込みフナが釣れた。その時の興奮と衝撃は強烈で、少年時代もっともアドレナリンが出た瞬間だと思う。以来魚や釣りが好きになる。小学校は3回転校。ちんこを出したりバカなことをすれば、直ぐに仲よくなれることを自然と学ぶ。

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浜松の演歌王・佐伯一郎物語[後編]

浜松が生んだ偉大な「歌う作曲家」、佐伯一郎。苦難に満ちた少年時代から紆余曲折を経て、1973年にデビューアルバム『逢いたかったぜ』を吹き込み、大ヒットとなったのが36歳のときだった。しかしそこで東京に活動の舞台を移さず、あえて故郷・浜松で音楽活動を続けることを選ぶ。それが浜松ローカルの「歌う作曲家」、佐伯一郎の本格的な始まりとなったまでを先週はお話しした。『逢いたかったぜ』のヒットに先立つ1965年、佐伯さんは市内元浜町に「佐伯一郎音楽事務所」を設立。多くの門弟を育てつつ、オリジナル曲も数多く生み出していく。この時期、名盤解放同盟ファンにはおなじみのマリア四郎にも楽曲を提供しているが、やはり特筆すべきはまず『情熱の波止場』『男ブルース/女ブルース』など、青山ミチに提供した曲が挙げられる。

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捨てられないTシャツ 51

JAWS2/48歳女性(編集者)/1968年、東京都葛飾区立石で生まれる。その後、吹きっさらし感全開の千葉の新興住宅地に移転。きょうだいは2歳下の弟と8歳下の妹の3人。家の隣はピーナツ畑だった。エアラインに勤めていた父が出張で成田空港を使うことが多いから、ここに建てたと親は言っていたが、経済的な理由も大きかったと思う。父は北海道の滝川の、訳ありで貧しい家の出身で、気合いと努力だけで東京に出てきた人。50歳過ぎまで奨学金を返済していた、と大人になってから聞いた。父は体が大きな人で、野性味と洗練と人間味がぐちゃぐちゃに混じった、なんともいえないチャームがあった。アクアスキュータムのトレンチコートがよく似合っていた。

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中村キース・ヘリング美術館/目黒エンペラー

数えてみればもう1年ぶりになる「アーカイブ」。これまでいろんな雑誌に書いてきて、単行本に未収録の記事を読んでもらうコーナーです。今回は久しぶりのアーカイブで、しかも2本立て! 特にセットにする意味はないのですが・・・渋谷アツコバルーの「神は局部に宿る」展覧会会場で、ラブホテルについてよく聞かれるのと、物販コーナーでTENGAのキース・ヘリング・シリーズを買っていくお客さんがけっこういるのを見て、そういえばこんな記事つくったな~~と、思い出した次第。目黒エンペラーの記事はいまから4年前、2012年5月16日号で再録してあるけれど、日本におけるラブホテルの成立について、少し詳しく書いたので、これから展覧会場でラブホテル・インテリアのシリーズをご覧いただく上で役立つかと、もういちど掲載させていただく。よかったら2本立てトリビア予備知識としてご覧のうえ、展覧会を楽しんでください!

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ストリート・オブ・クエイ

東京都心部から約1時間、逗子駅に降り立つとすでにバス乗り場に並ぶ長い列ができている。ふだんは静かなビーチタウンが、この時期になると週末平日を問わず大混雑。「濡れた水着のままで乗車しないでください」「カバー無しでモリはは持ち込まないように」などと注意書きが貼られた超満員のバスに揺られ、ようやくほとんどの乗客が降りたあと、美術館前のバス停で下車。海の家の楽しげな音が風に乗って聞こえる神奈川県立近代美術館・葉山では『クエイ兄弟――ファントム・ミュージアム』が開催中だ(10月10日まで)。ここに来るのは一日がかりになってしまうのだが、これほど重要な展覧会を本メルマガ読者には見逃してもらいたくなくて、夏休みが明けて葉山の混雑がなくなるのを待てず、いち早くご紹介することにした。

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[新連載]Back in the ROADSIDE USA 01 Mütter Museum / Insectarium, Philadelphia

世界がいま壊れはじめてる、と思わない(思えない)ひとはどれくらいいるのだろうか。ひとを救うはずの宗教が殺し合うことを教え、日々の暮らしを豊かにするはずの原子力が何万人もを故郷から追い出し、世界の80人の大富豪が、残りの地球の全人口の半分にあたる35億人と等しい冨を所有するほどに貧富の差は拡大し、僕らは「飢饉できょうも子供が死んでいきます」というメッセージをテレビで見ながら、食べ過ぎのゲップを吐いている。そうやって世界のあちこちがほころびかけているなかで、とりわけアメリカ合衆国の壊れかたにはこころが痛むし、恐ろしくもある。ご承知のかたもいらっしゃるだろうが、2010年に『ROADSIDE USA』という本を出した。25センチ角の大判で528ページ、厚さにして4センチ! 値段も1万2000円(税別)という・・売れるはずもない巨大写真集だった。

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捨てられないTシャツ 52

Kiss ME qUIck/32歳男性(建築家)/母方のおじいちゃんが住む東京の杉並区で生まれ、すぐに神戸の御影という山側の景色がいい場所に戻って、そこで小2まで過ごす。父親は理系のエンジニアで寡黙な人間。母親は文系でピアノや歌をうたうことが好きな明るい性格。兄弟は4人、姉貴と弟がふたり。生まれ育った御影は、わりとハイブリッドな郊外住宅地で、降りればそれなりに街、裏はすぐ山という環境。空き地で焚き火をして、むっちゃ怒られたりした。その後、明石から2駅の田舎町(いまは開発されているが、そのころは畑ばかり)に戸建てを建てて引っ越す。しかし、お母さんも「なんでこんなとこに・・・」と絶句した田舎。言葉も全然ちがって、カルチャーショックだった。

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羽永光利アーカイブ展――ある写真家の時代遺産

もっと早く紹介するつもりが、会期終了直前にずれ込んでしまったけれど、いま東京目黒区祐天寺のギャラリーAOYAMA | MEGUROでは、『羽永光利アーカイブ展』を開催中だ。羽永光利、という写真家をどれだけのひとが知っているだろう。本メルマガではおなじみ、『独居老人スタイル』でもフィーチャーした仙台のダダカンの、若き日の「殺すな」とかかれた書を持って歩く姿を撮った写真家が、羽永光利である。1933年生まれということは、戦争まっただ中に少年時代を送った羽永光利は、戦後しばらくたった1956年になって文化学院に入学。卒業後はアート・フォトグラフィを目指すが、1962年からは作品制作と平行して、フリーランス・カメラマンとして前衛アーティストたちの記録を雑誌などで発表するようになる。1981年からは新潮社の写真雑誌『フォーカス』の立ち上げに参加。その後、国内外の写真展に参加したり個展を開いていたが、1999年に死去。2014年になって、AOYAMA | MEGUROTOとぎゃらり壷中天によって、あらたな紹介が始まった。つまり死後15年も経ってから、いわば「再発見」された写真家、それが羽永光利なのだ。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.3 「ヤクザライフ」――上野友行のヤクザたらし交際術

ヤクザ系実話誌、というジャンルがあって、僕も嫌いではないのだが、いったいだれが読んでいるのだろうといつも思う。暴力団排除条例ができて、締め付けが厳しくなるいっぽうなのに、そういう雑誌はなくならない。書かれてる当のヤクザが主力読者というわけでもないだろうから、一般の人間が大組織の親分同士の杯外交とか、昔ながらの任侠道でシャブは御法度、みたいな話を読んで、どれだけおもしろがれるのか、よくわからない。それはある種の歴史ファンタジーか、RPGゲームを楽しむような感覚だろうか。そういう伝説というか、実話誌が描くフィクションに近いヤクザ世界とちがって、すぐそこにいるヤクザや地下格闘技や暴走族のことを、ずっと教えてくれている貴重な友人が上野友行くんだ。上野くんはフリー編集者として「週刊実話ザ・タブー」や「ナックルズ」など、さまざまな雑誌に記事を書くかたわら、これまで『デキるヤクザの人たらし交際術』『「隠れ不良」からわが身を守る生活防衛術』という、実際役に立つかどうかはともかく、タイトルからして楽しくてしょうがない本を出していて、さらに人気絶頂の漫画『闇金ウシジマくん』の「闇社会コンサルティング」も務めている。そのウシジマくんの作者・真鍋昌平が表紙画を担当した、装幀からして危険な匂いが漂う新刊が『ヤクザライフ』(双葉社刊)だ。

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捨てられないTシャツ 53

ALOHA HAWAII/50歳女性(編集者)/1966年、岩手県北上市で生まれる。お育ちのよい母とお育ちのあまりよくない父を持つ。母は華道と茶道の師範で服装にもうるさかったが(華美はダメ、でもきちんと)、さすがに 70代になってからは「楽なのね」とTシャツを着はじめた。いっぽう父には、家でも襟付きを着ることを強要している。定年を迎えて母のプレッシャーから逃れたいのか、狂ったようにひとりで海外旅行に行っている父が、エジプト旅行土産に買ってきた象形文字入りのTシャツを、母は捨てようとした。

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Back in the ROADSIDE USA 02 The Heidelberg Project, Detroit

先週号から始まった、僕らにとっていちばん近くて遠い国でもあるアメリカを見直すために、『ROADSIDE USA』の特選物件を、本には載せられなかった写真を大幅に加えて紹介し直す新連載。2回目の今週はミシガン州デトロイトから。自動車産業の不振から長く不況に苦しみ、おかげでドナルド・トランプ候補への支持者が増えてもいる「モーターシティ」(「モータウン」のレーベル名もここから由来)。その荒廃した住宅街に花開く、原色のアウトサイダー・アート環境にお連れする! アメリカの大都市では、ダウンタウンの裏側にいつも貧困層の住宅街が広がっている。崩れかけた家屋と、雑草だらけの空き地と、錆びついた車と、なにをするでもなくたむろする黒人の男たちだけが目につくアーバン・ゲットーである。GMやフォードの高層ビルがそびえるデトロイトのダウンタウンの東側、荒れ果てた住宅街のただ中に、鮮やかな色彩とオブジェの堆積が異様なパワーを放射する、わずか1ブロックの別天地がある。名高いハイデルバーグ・プロジェクトだ。

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Campus Star ―― 制服から透けて見えるなにか

中田柾志の写真と出会ったのは2012年ごろ。最初に見たのは、パリ・ブローニュの森の奥で客を引く娼婦たちを撮影したポートレートだった。木立の陰に潜んだ獣のように生命力に満ちた、ときに高貴にすら見えるその姿に魅了され、本人に会ってみると、ほかにもさまざまなシリーズを手がけていることが分かり、本メルマガでは2013年の1月に、3週連続で紹介させてもらった。その中にはフランクフルトの娼館街「エロスセンター」の、娼婦たちの部屋を撮ったシリーズがあったし、素人女性が応募してくるモデル募集サイトで探した女性たちを撮影した「モデルします」、世界でいちばんセクシーな学生服といわれるタイの女子大生のぴちぴち制服シリーズなど、エロと社会性が絶妙の割合で配合された膨大な作品がたくさんあって、どうしてこれほど興味深い写真が一冊の写真集にも、写真雑誌の特集にすらなっていないのか、僕には理解できなかった。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.4 「ハプバー入門/探訪」編――元鞘と肉欲のジャムセッション

「元鞘」(もとさや)という妙なハンドルネームの女の子に出会ったのは、まだ3ヶ月ほど前のことだった。ある食事会で隣に座った彼女は、23歳という若さの巨乳美少女なのに、からだじゅうから隠しきれないセクシーなエネルギーを放っていて、漫画家だというので「どんなの描いてるんですか」と聞いたら、渡された一冊の同人誌が『元ハプニングバー店員による、独断と偏見のハプバー入門』・・・。雑誌のルポかなにかの仕事かと思ったら、「いえいえ、自分がハプバーを好きすぎて、一時は店員として働いてたくらいなので、ハプバーの良さを知ってもらいたくて作ったんです!」という。「それで、これは『入門編』なんですけど、もうすぐ実践的な『探訪編』も出します!」というので、初対面のその場でいきなり取材をお願いしてしまった。これまで本メルマガではさまざまな性にまつわる話題を紹介してきたけれど、ハプニングバーについての記事は今回が初めてかもしれない。

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捨てられないTシャツ 54

河井克夫/28歳女性(出版社勤務)/山形で3番目の街、新庄市で生まれる。父親はコンサルタントをしていて、単身赴任であちこちの会社を行ったり来たりで、週末だけ実家に帰ってくるような生活だった。母親はいまは専業主婦だが、昔は薬局の調剤師をしていた。父も母もとても真面目なひと。兄弟は兄と妹がいる。小学校のころは、男の子と取っ組み合いをして、怪我をさせては親が謝りに行くような子どもだった。プレステ第一世代だったが、外で遊ぶほうが好きで、川でドジョウを捕まえたり、蛙の卵をたくさんとってきたり。ほんとうはリカちゃん人形とかバービーが欲しかった・・・けど、父が特に厳しくて、嗜好品みたいなものは絶対に買ってもらえなかった。できたばかりのマクドナルドにも、絶対に連れてってもらえなかった。

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女子部屋――川本史織と女の子たち

ずっと昔、こんなふうに中国が開ける前の北京に通っていた時期があった。そのころ北京でいちばん大きな書店に行くと、一冊の本に群がる男たちを仏頂面の店員がにらんでいて、いったいなにを見てるのかと思ったら、それはデッサン用の「人体ポーズ集」だった。なぜそれが?と手に取ってみると、小汚い白黒印刷のページには、ちょっとくたびれた全裸の白人モデルがいろんなポーズを取っていて、ようするに北京の男たちはそれをエロ本(というものは存在しなかったから)に代わる貴重なネタとして凝視していたのだった。2013年1月に川本史織の『堕落部屋』という写真集を紹介したことがある。「デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり・・・さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集」と書かせてもらったが、その川本さんの第二弾写真集が『作画資料写真集 女子部屋』というので、もう20年以上も前の北京の思い出が甦ったのだった。

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Back in the ROADSIDE USA 03 Dinosaur Gardens, Ossineke

『Dinosaur Gardens(ダイナソー・ガーデンズ』=その名のとおり「恐竜庭園」。実はアメリカ各地で恐竜は昔から人気者で、たくさんの恐竜庭園がある。博物館が監修した学術的に信頼できるものから、正確さより楽しさのほうが先に立つインディーズ系まで、もうさまざま。僕としては当然ながら、インディーズ系のほうに興味が惹かれるわけで、東海岸から西海岸までオススメの「恐竜環境」がいろいろあるけれど、こちらオシネクの恐竜庭園も、その渋~いたたずまいでかなりの好感度。しかもこちらの恐竜庭園は、ポール・ドンケというひとりの恐竜好きが、1930年代から60年代までかかって造りあげた、生粋のインディーズ・ダイナソー・パークなのだ。

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短期集中連載:マニア本の著者に聞く vol.5 ポルノ・ムービーの映像美学――長澤均の欲望博物学

ピンク映画やAVに関する本はいくらでもあるし、本メルマガでも大須蔵人さんに「はぐれAV劇場」を連載してもらっている。でも、まさかこんな本が出るとは思わなかった。『ポルノ・ムービーの映像美学』は、19世紀末の映画草創期から現代まで、約100年間にわたるエロティック映画の歴史を総写真点数534点、38万字を超えるテキストによってひもとく、432ページの超大作だ。これで定価3000円(+税)というのは、どう考えても安すぎる。

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捨てられないTシャツ 55

毎回「ひとに歴史あり!」を実感させてくれる『捨てられないTシャツ』ですが、今回はあまりに波瀾万丈、紆余曲折! アンダーグラウンド版・大河ドラマのごとき大長編になるため、連載始まって以来の前後編、2週にわたってお送りします。実はTシャツもリバーシブルだし!――ア・ベイジング・エイプ(前編)/48歳女性(求職中)/東京都港区表参道で生まれ育つ。生まれてすぐに父母が離婚、母に引き取られて母子家庭の一人っ子だったが中学2年で母が再婚し、2番目のお父さんができた。母は公務員として働いていたので、典型的なカギっ子。小学校低学年のころは、学校が終わったらそのまま児童館で学童保育を受けていた。

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Back in the ROADSIDE USA 03 Amargosa Opera House, Death Valley Junction

ネヴァダ州ラスヴェガスから北上すること約3時間、州境からほんの10キロかそこらカリフォルニアに入った荒野に、デスヴァレー・ジャンクションがある。住人はいまや20人以下、その独特な景観で名高いデスヴァレーへの入口にあたる、信号もない小さな集落だ。1980年代までは電話局も手差し交換機で、外部からはまず局に電話して、つないでもらわないとならなかったという。夏には気温50度を記録し、冬は雪が積もることも珍しくない過酷な気候の中を走っていくと、ジャンクションという名のとおり、373号線と190号線がまじわる交差点のすぐそばに、平屋建ての地味なモーテルが見つかるだろう。コの字型をした建物の北端に、ほかより少しだけ大ぶりな一角がある。近づいてみると、強い日差しに照らされた白壁に、「アマルゴサ・オペラハウス」と書かれている。オペラハウス! デスヴァレーに? アマルゴサ・オペラハウスは、たぶん世界でいちばん奇抜な場所にある、奇妙な、そして美しい誕生秘話に彩られた手作りのオペラハウスだ。

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京都マネキン慕情

京都近美で企画展と平行して、常設展エリアである「コレクション・ギャラリー」で今週日曜まで開催中なのが「キュレトリアル・スタディズ11:七彩に集った作家たち」。このままだとあまり知られないまま終わってしまいそう。でも個人的にはとても興味深い企画だったので、遅ればせながら紹介させていただく。「七彩」とは京都に本社を置くマネキンの会社である。創業者が彫刻家の向井良吉(洋画家の向井潤吉は兄)ということもあって、かなり芸術的な気風にあふれた会社であり、多くのアーティストが集まってマネキン制作に協力したり、顧客への贈呈品を手がけたりしていた。この小さな展覧会はそんな、いかにも京都らしい七彩という会社の歩みとアーティストたちの関わりを見せるとともに、美術館のあちこちに七彩のマネキンを配置して、知らずにやってきた観覧者を驚かせるという変化球的な楽しみを併せ持った、ユニークな企画だ。

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ペルソナのいる役所

「マネキン」と「京都」で思い出さないわけにいかなかったのが、ずいぶん前に取材した京都府庁の「ペルソナ」。もともと週刊誌のために2010年に取材して、本メルマガでも2014年5月7日号で再録した。なのでロードサイダーズのウェブサイトからアーカイブを辿っていただければ読めるけれど、せっかくなのでオマケとしてここにつけておく。しかしあれ、いまはどうなってるんだろう? 府庁の職員さんたちは、いまもマネキンに見つめられながらお仕事に励んでるんだろうか?

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捨てられないTシャツ 55

毎回「ひとに歴史あり!」を実感させてくれる『捨てられないTシャツ』。あまりに波瀾万丈、紆余曲折! アンダーグラウンド版・大河ドラマのごとき大長編になるため、連載始まって以来の前後編、2週にわたってお送りする、今回は後編。Tシャツも前回のリバーシブルです!――ア・ベイジング・エイプ(後編)/48歳女性(求職中)/レンタルビデオ屋で知り合った彼氏と5年近く同居生活を送ったあと、原宿で知り合った男と仲良くなって2ヶ月後には結婚。それまでの生活をあっけなく捨てて。25歳のときだった。

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Back in the ROADSIDE USA 04 Goldwell Open Air Museum, Rhyolite

ラスヴェガスから北上すること約200キロ、有名なデスヴァレーの玄関口にあたる374号線から奥に入ったあたりに、ライオライトというゴーストタウンがある(ライオライトとは流紋岩の意)。ライオライトの町に入る砂利道をそろそろ進んでいくと、入口前の荒地に不思議な物体があるのに驚かない人はいないだろう。『ゴーストバスターズ』に出てきそうな、シーツを被ったお化けのような『最後の晩餐』、ピンクのボディがなまめかしい、巨大なレゴを重ねたふうの女体(身長8m近い)、そしてやはり巨大な鉄製の男と、脇にはかわいいペンギン・・・。

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パリのビート・ジェネレーション

ジャック・ケルアックの『路上』が発表されたのは1957年だから、今年が60周年になる。訳者の青山南さん(※新訳『オン・ザ・ロード』訳者)によれば、ビート・ジェネレーションとは「だまされてふんだくられて精神的肉体的に消耗している世代」と訳されるそうだが、公式にビート・ジェネレーションが生まれたのは1944年、アレン・ギンズバーグとウィリアム・バロウズとジャック・ケルアックがニューヨークのコロンビア大学で知り合ったときとされている。そして2016年のいま、パリのポンピドゥ・センターでは『ビート・ジェネレーション ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ』展が開催中だ(10月3日まで)。どうしても行きたかったけれど時間がやりくりできず、かわりに本メルマガに寄稿してくれているパリ在住の飛幡祐規さんに見てきてもらった。

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捨てられないTシャツ 56/アイオワ/33歳男性(編集者)

アイオワ/33歳男性(編集者)/大分県大分市の山のふもと、ど田舎で生まれ育つ。中心部までは車で20分ぐらいとはいえ、公共手段でいうと最寄りのバス停まで徒歩20分、最寄り駅まで徒歩1時間半ぐらい。父親がそこの生まれで、母親は同じ大分でも港町のほう出身。共働きだったので、ほとんど婆ちゃんに育てられた。幼稚園に入るまでは、人間の友達がいなかった。本を読んだり、婆ちゃんのレコード(『釜山港に帰れ』とか。ちなみに『釜山港に帰れ』は完璧に耳コピして、3歳のときに親戚の宴会で熱唱したら神童扱いされた)を聞いたり。あとは裏山で木に登ったり、探検したり。

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Back in the ROADSIDE USA 05 Bible Walk, Morgantown

ジョン・デンヴァー最大のヒット『カントリー・ロード』の歌い出しは、「オーモスト・ヘヴン ウェストヴァージニア」だった。ウェストヴァージニアは州の8割が森林という、アメリカでも有数の自然に恵まれた州だ。愛称だって「マウンテン・ステート」だし。州丸ごとがアパラチア山脈に沿ったかたちになっているので、よく言えば美しく起伏に富んでいて、物流の厳しさから産業が発達しにくかった側面もある。ワシントンDCの西側に位置し、歴史的にはもともとヴァージニア州の一部だったのだが、南北戦争の際に合衆国から離脱を宣言して南軍側に加わったヴァージニアに反対した州西部の郡が、まとまって新しい州を作ったのがウェストヴァージニア。なのでおとなりヴァージニアとは、いまでも微妙に温度差があるような気もする。

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僕的九州遺産 My private Kyushu

すでに告知などでご存じの方もいらっしゃると思うが、今週土曜日(10月1日)から福岡天神アルティアムで、『僕的九州遺産 My private Kyushu』が開催される。会期は月末まで1ヶ月間あるので、もし機会があればご覧いただきたい。「ここがどこだか、道路でわかる。こんな道はほかのどこにもない」というのはリヴァー・フェニックスの『マイ・プライベート・アイダホ』に出てくる台詞だった。僕のオン・ザ・ロードはあんなふうに痛切でも絶望的でもないけれど、それでも山の中の道を走ったり、海辺の町の路地にたたずんでいるとき、「こんな道はほかのどこにもない」感覚を、九州という大きな島は僕にじわりと染みこませてくれる。

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捨てられないTシャツ 57

グラフィティ/27歳男性(グラフィックデザイナー兼絵描き)/東京都世田谷区出身。4人兄弟の末っ子で、上の兄姉がみんなちゃんとしてただけに、自分はグレた(笑)。親が共働きで、おばあちゃんが半分親代わりだった。親父がずっとサッカーをやっていた影響で、小学生からサッカーを始める。すごく楽しかったので、サッカーは真面目にやっていたけれど、ヤンチャなところもあって、学校帰りに禁止されてたコンビニでモナ王を買い食いしたり、小学校5年のときに初めて友達とチューハイを買ったり、塀を蹴り壊したり、可愛い犬がいると勝手に餌をあげたり、チョコレートを万引きしたりしていた。

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Back in the ROADSIDE USA 06 Mel Gould's Sculpture Garden, Cheyenne

ネイティブアメリカンの言葉で「大平原」を意味するというワイオミング。アメリカでいちばん人口の少ない州で、鳥取県とほぼ同じなのだとか・・・。ロッキー山脈に抱かれた雄大な風景は、イエローストーンやグランドティトンといった国立公園でも有名だ。そろそろ夕方、きょう泊まるモーテルを探しながら、州都シャイアンからネブラスカに抜ける州間高速80号線を走っていると、北側に突然現れた奇妙な屋外彫刻群。巨大な風車が名物の強風に勢いよく回っている横では、スプリング製の台座に乗った人形がぶらんぶらん揺れている。思わず次の出口で高速を降りて、脇道を戻ってみると「ビジターズ・ウェルカム」の心強いサイン。ほっとしてクルマを乗り入れると、いきなり元気いい犬3匹に飛びかかられ、そのあとから自家製ゴルフカートみたいな乗物にまたがったおやじが出てきた。

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見世物に魅せられて――見世物大博覧会@国立民族学博物館

大阪モノレールを万博記念公園駅で下車。ずいぶん汚れてしまった太陽の塔を横目で見ながら公園をずずっと奥に進むと、国立民族学博物館の大きな建物が見えてくる。通称「ミンパク」ではいま注目の展覧会『見世物大博覧会』を開催中(11月29日まで)。英語のタイトルが「アメイジング・ショウ・テンツ・イン・ジャパン」とされていることからも明らかなように、この珍しい、そして画期的な展覧会は、ショウ・テント=仮設の小屋で営まれてきた見世物の歴史を、江戸時代から平成の現在まで200年あまりにわたって振り返るという、ある意味、国立博物館らしからぬ(?)企画展だ。

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『僕的九州遺産』開幕!

先週、誌上プレビューした福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産 My private Kyushu』、先週土曜日になんとか無事、開幕できました! 福岡という展覧会は初めての場所で、どれだけのひとが来てくれるかと心配でしたが、おかげさまで10月1日のオープニングは大盛況。一時は入場制限がかかるほど、たくさんのお客様が来てくれました。ほんとうにありがとう! 展示内容については先週号で詳しく紹介したので、もう繰り返しませんが、今週は会場をご案内します。

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捨てられないTシャツ 58

エミリーテンプルキュート/24歳女性(アーティストの経理・プロジェクトマネージャー)/出身は広島県広島市。ずっとひとりで、家の中でいくらでも遊べる子どもだった。人形遊びが好きで、リカちゃん、ジェニーちゃんから指人形までなんでも。両親は共に武蔵野美術大学出身、日曜美術館を毎週観るような家庭だった。母親は専業主婦で、父親はサラリーマン。4つ上の兄と2つ上の姉がいる。小学生になっても性格は変わらなかったが、わりと優等生タイプでもあったので、たとえばだれも立候補しないのがイラッとなって、しかたなくみずから学級委員になったり。

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ROADSIDE LIBRARY 002『LOVE HOTEL』、ついにリリース!

先日からお伝えしてきた電子書籍シリーズ「ロードサイド・ライブラリー」の第2弾『LOVE HOTEL』が、ついに完成! ダウンロード版の配信を開始しました。USB版も1週間以内に準備完了、すでにサイトからご予約いただけます。新風営法などでいま絶滅の危機に瀕しつつある、遊びごころあふれるラブホテルのインテリアを探し歩き、関東・関西エリア全28軒で撮影した73室! これは「エロの昭和スタイル」だ。もはや存在しないホテル、部屋も数多く収められた貴重なデザイン遺産資料。『秘宝館』と同じく、書籍版よりも大幅にカット数を増やし、オリジナルのフィルム版をデジタル・リマスターした高解像度データで、ディテールの拡大もお楽しみください。

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Kindle版写真集『CALCUTTA』に寄せて

「カルカッタの朝は静かに明ける。フグリー川に立ちこめる靄が、ハウラー橋をモノクローム写真のように見せていた。古ぼけた植民地時代の建物が、この街の辿ってきた歴史をあらわしている。」 英語で書かれた序文の出だしを適当に訳させていただいたのは、芦沢武仁のKindle版写真集『CALCUTTA』。9月18日にリリースされたばかりの新刊だ。芦沢武仁(あしざわ・たけひと)の写真はこのメルマガでも2014年末から15年初めに、3回に分けて紹介した。『CALCUTTA』は芦沢さんにとって初めての写真集になる――。

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Back in the ROADSIDE USA 07 Rock City Gardens, Lookout Mountain

テネシー州南東部、ジョージア州境に近いチャタヌガ。19世紀から南部の主要工業都市だったこの都市は、名前こそエキゾチックだが、1970年あたりには全米でもっとも大気汚染のひどい都市という、ありがたくないお墨付きをもらうほどに汚れきっていた。ダウンタウンでは、昼間でも自動車のヘッドライトをつけないとならない日が年間150日以上。呼吸器系の病気発症率はアメリカ平均の3倍以上だったというから、事態は非常に深刻だったのだ。それから30年あまり、現在のチャタヌガは美しく再開発された模範都市として、全米から観光客を集めている。チャタヌガといえばグレン・ミラーの『チャタヌガ・チューチュー』を思い出す人が多いだろうが、実はチャタヌガでいちばん、というよりテネシーでいちばん、というより南部一帯でいちばんの観光名所として全米にその名を轟かせてきたのが、ルックアウト・マウンテンにある『ロック・シティ』。音楽じゃなくて岩のほうのロックです。

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Y氏とめぐる、福岡マジカルミステリーツアー

おかげさまで好評開催中の『僕的九州遺産』展。これから観に行こうというかたもいらっしゃるかと思う。オープニング翌日の10月2日にはバスツアーも開催されたが、そこでツアーコンダクターとして活躍していただいたのが、通称「Y氏」こと山田孝之さん。本業はウェブ関連の会社を運営しながら、これまで福岡を中心とする九州の「B面」の楽しさを紹介する、最強のガイドとして発信を続けてきた。主戦場であるブログ「Y氏は暇人」で2013年からさまざまな調査の成果を発表するとともに、冊子『福岡のB面』『福岡ふしぎ旅』『福岡レトロ旅』などを次々に刊行。昨年末には単行本『福岡路上遺産』(海鳥社刊)も出版しているので、福岡の書店で見つけたひともいるのでは。今回はY氏にお願いして、これまでブログで紹介されたスポットの中から、これから展覧会に来ていただくみなさまのために「福岡に来たなら、これは行っとかないと!」という場所を選び、特選・福岡B面ガイドとして紹介させていただくことにした。

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ハロー・マイ・ビッグ・ビッグ・ハニー!

いまから10年以上前に、バンコクの書店で見つけた本があった。『ハロー・マイ・ビッグ・ビッグ・ハニー!』というその一冊は、バンコクの売春婦にハマった欧米人のラブレターを集めた楽しい奇書で、2006年に紀伊國屋書店の広報誌で書評を書いたあと、書評集『ROADSIDE BOOKS』にも収められたが、なにせ版元がラストギャスプというサンフランシスコのサブカル系出版社なこともあって、なかなか日本では手に取る機会もないかと思っていたら・・・なんと最近、Kindleの電子版が出ていることをTwitterで教えていただいた。

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捨てられないTシャツ 59

タケオキクチ/35歳男性(フリーランス)/生まれは千葉県市川市。夢を見て上京した人たちが最後にしがみつく東京である小岩と、中流のための高級住宅地である船橋に挟まれた、夢破れた漂流者を中流にたどり着かせないためのフィルターみたいな街だった。安保闘争や学生運動に挫折した店主の古本屋なんかもけっこうあって、いつも世界同時革命とか言ってたり、生計を立てるためのエロ本を店主に向かって右側、古典やら現代思想やらを左側に陳列していたのが、やっぱりこだわりなんだろうか?と思ったのを覚えている。

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Back in the ROADSIDE USA 08 Shenandoah Caverns, Shenandoah

「ヴァージニアで唯一エレベーターで降りていけて、階段の昇り降りがいらない」のが売りというシェナンドー・キャヴァーンズは、1922年から公開されている観光洞窟として老舗中の老舗である。そのシェナンドー洞窟の持主であるハーグローヴ社の本業が、実はパレード用のフロート製作。アメリカ人は、もしかしたら世界でいちばんパレード好きな人種かもしれないと思うのだが、野球チームの優勝パレード、フットボールのパレード、政党の大会のパレード、大統領就任式のパレード・・・ディズニーランドで毎日見られるようなパレードが、なにかにつけてはきょうもアメリカのどこかのメインストリートで、にぎやかに繰り広げられてるわけだ。パレードの華であるフロートは、日本語では山車となるんだろうが、そこはアメリカだけにサイズがスーパー。ひとつのフロートが、大きいもので長さ30m以上。だいたいどれも25mプールぐらいはあると言ったら、そのボリューム感を想像していただけるだろうか。

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レペゼン小倉のストリート・アーティスト、BABU

今月末の会期終了まで10日あまりとなった福岡天神アルティアムでの『僕的九州遺産』展。1990年代に『珍日本紀行』で日本中を巡っていた時代から、つい最近までの九州ネタをぎゅうぎゅうに詰め込んである中でもっとも新しい、というか最近の出会いだったのが、会場奥に設けた奇妙なスケートボード作品群。暴走族単車に畳、果ては琴まで(!)、なんにでもホイールをつけてスケートボードにしてしまう、恐るべき改造マニアによる作品だが、そのアーティストが「BABU(バブ)」。小倉を拠点に活動するストリート・アーティストであり、スケートボーダーであり、彫師でもある。そしてそのアトリエは偶然にも、見世物小屋絵看板の伝説的な絵師だった志村静峯の「大衆芸術社」があったのと同じ、小倉の中島本町にある。

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東京・東と西のロウブロウ

高級割烹の職人が遊びで牛丼作っても似合わないように、ハイエンド・オーディオショップの試聴室でゴリゴリのラップをかけても気持ちよくないように(ちがうか?)、ロウブロウ・アートには銀座や表参道の高級アートギャラリーよりも、やっぱり得体の知れない(失礼!)場末のスペースがしっくりくる。ちょうどいま、これまで本メルマガで紹介してきたアーティストの小さな展覧会が、東京の東側と西側で開催中。急いでハシゴしてきたので、急いでご報告する!

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捨てられないTシャツ 60

K.P.M./38歳男性(編集者)/鳥取県の中部地方、倉吉に生まれる。「人口が最も少ない県」第3の市は良く言えば鳥取における名古屋だけれど、人口は5万人、つまり東京ドームに全員が入ってしまう。4回勝てば甲子園の「水と緑と文化の都市」は、当時「トイレ」で町おこしをしていた。打吹天女の物語から採った「天女の忘れもの」というウ○コ型のおまんじゅう、今も販売してるのだろうか。

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移動キャバレーの誘惑――沈昭良写真展『STAGE』

これまでも本メルマガで何度か取り上げた台湾の写真家・沈昭良(シェン・ジャオリャン)によるステージ・トラックの写真展『STAGE』が、いま東京虎ノ門の台湾文化センターで開催中だ(10月28日まで)。台湾式ステージ・トラックの再解釈とも言える、やなぎみわのステージ・トレーラー・プロジェクトをご存じのかたもいらっしゃると思うが、今回展示されるステージ・トラックは、2006年から2014年までに撮影されたものだという。

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Back in the ROADSIDE USA 09 The Buckhorn Saloon & Museum, San Antonio

州としてもアメリカ有数の大物、B級珍名所の数でもアメリカ有数であるのがテキサス。とにかく大きくて、たくさんあるのが大好きというお国柄なのはご存じのとおり。テキサス随一の観光名所、名高いアラモの戦いの舞台となった砦があるサンアントニオのダウンタウンに、なんともキッチュで楽しい寄り道スポットがある。『ザ・バックホーン・サルーン&ミュージアム』は創業1881年という、サンアントニオきっての歴史を誇る「居酒屋兼博物館」。アルバート・フリードリックなる人物が最初に年に店を開いたのだが、客集めのために「仕留めたシカの角を持ってきたら、ビールかウィスキーが1杯タダ!」と宣伝したところ、あれよというまにものすごい量の角が集まってしまった。

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軽金属の妖精たち

最初に見たときはCGかと思った。それも初歩的な。緑の木々や、夜景に浮かぶメタリックなかたまり。球形や円錐やカプセルを組み合わせてつくられた、アニメのロボットのような、生き物のような。それがCGではなくて金属による立体作品だと知ってまず驚き、それがまだほとんど知られていない若い女性作家によるものだと知って、さらに驚いた。服部美樹は1983年生まれ、33歳のアーティストである。「作品はほとんど自宅にあります」というので、さっそくお邪魔した東京都心に近い、こんな場所にこんな家屋が!と目を疑う一軒家が、服部さんのアトリエ兼住居だった。聞けば築70年というから、終戦直後に建てられたそのままで、ビルの谷間に生き延びてきたことになる。

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捨てられないTシャツ 61

軽井沢骨折T/44歳男性(メルマガ運営)/滋賀県出身。両親ともに地方公務員、共産党員の家庭で育つ。小学生のころ、人がいっぱいいて楽しかった祭りの記憶は、今思うとメーデーの集会だった。赤旗新聞の集金をすると小遣いがもらえた。中学生では選挙前にはビラ折りのノルマがあったし、高校生になると駅前で拡声器で喋ってる父を発見した。このころ父は市役所を辞めて近所にできた左翼系診療所の事務長に転職し、活動がパワーアップしていたんだと思う。ちょうど今の自分と同じ年齢くらいかと思う。

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Back in the ROADSIDE USA 10 Bedrock City, Custer

アメリカの地図のやや左上、つまり中北部にどっしり控えるノース&サウスダコタ両州。ノースダコタはアメリカにおける「ど田舎」の代名詞的存在だが、南半分のサウスダコタのほうは東端のスーフォールズ、西端のラピッドシティを中心に、けっこう見所が少なくない。それでも州の面積が全米で17番目なのに、人口は46番目と、すばらしくスカスカな土地ではあるのだが。ラピッドシティ周辺の西側には、全米屈指の観光スポットであるマウントラシュモア(あの大統領4人の顔が、岩山に彫ってあるやつ)をはじめ、バッドランズ国立公園など有名どころがひしめいてる。「白人の聖地」であるマウントラシュモアをいだく町カスターには、「ベッドロック・シティ」という楽しいレクリエーション・パークがある。名前でわかってしまうひともいるかと思うが、ここはあの『原始家族フリントストーン』をテーマにした観光スポットであり、キャンプ場でもある。

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fashion

捨てられないTシャツ 62

ネズミ講/31歳男性(半野宿会社員)/佐賀県出身。中学生の頃、校内で乱闘騒ぎがあり、暇だったので傍観していた。「見ているだけでもイジメです」との理由で反省文を書かされた。『人間社会の成り立ちは闘争の歴史であり、戦争行為も法律で規定されているということは、人間の本質的な因子の中に暴力は組み込まれており、そこに勝者と敗者が介在するのはイジメる遺伝子を持つ人間とイジメられる遺伝子を持つ人間がいるからであり、抜本的にイジメを根絶するためには道徳ではなく、人類全体の遺伝子治療が必要だ』という旨をしたためて提出した。

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photography

トーキョー・ハロウィーン

10月30日深夜、福岡空港から地下鉄に乗って天神駅で降りようとしたら、ナース・コスチュームのゾンビがひとりで、ぽつんとホームに立っていた。きょうは31日。いまごろ渋谷の交差点は大変な賑わいになっているのだろうか。「バカやってるいまどきの若者たち」を探して、マスコミがぎらついた眼(とレンズ)で走り回ってるのだろうか。キリスト教徒でもなんでもない日本の子供(